(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】高弾性のリン酸カルシウム系注入型骨移植材組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 27/12 20060101AFI20240717BHJP
A61L 27/24 20060101ALI20240717BHJP
A61L 27/20 20060101ALI20240717BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20240717BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20240717BHJP
A61L 27/46 20060101ALI20240717BHJP
A61L 27/54 20060101ALI20240717BHJP
【FI】
A61L27/12
A61L27/24
A61L27/20
A61L27/18
A61L27/44
A61L27/46
A61L27/54
(21)【出願番号】P 2023519566
(86)(22)【出願日】2021-01-27
(86)【国際出願番号】 KR2021001110
(87)【国際公開番号】W WO2022071636
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-28
(31)【優先権主張番号】10-2020-0127278
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515207651
【氏名又は名称】シージー バイオ カンパニー,リミテッド
【住所又は居所原語表記】244 Galmachi-ro,Jungwon-gu,Seongnam-si,Gyeonggi-do 13211 Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】リュ、ヒョンスン
(72)【発明者】
【氏名】ソ、ジュン-ヒョク
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ヒョチョル
(72)【発明者】
【氏名】リュ、ミヨン
(72)【発明者】
【氏名】イ、ジ-ヘ
(72)【発明者】
【氏名】パク、ヒョンジュン
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-542347(JP,A)
【文献】特表2015-519134(JP,A)
【文献】特表2010-502318(JP,A)
【文献】特表2005-538757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00-27/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
55重量%超80重量%以下のリン酸カルシウム化合物
の粒子と、
20重量%以上45重量%未満の生分解性
のヒドロゲルとを含
み、
前記リン酸カルシウム化合物の粒子は、平均直径45~100μm及び200~6000μmのサイズを有する多孔性粒子の混合物である、注入可能な骨移植材組成物。
【請求項2】
前記リン酸カルシウム化合物は、ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(tricalcium phosphate; TCP, Ca
3(PO
4)
2)、リン酸四カルシウム(tetracalcium phosphate, Ca
4(PO
4)
2O)、ブラッシャイト(brushite, CaHPO
4・2H
2O)、リン酸二カルシウム(dicalcium diphosphate, Ca
2P
2O
7)、トリポリリン酸カルシウム(calcium tripolyphosphate, Ca
5(P
3O
10)
2)、Mg含有アパタイト、Mg含有TCP、Sr含有アパタイト及びフルオロアパタイト(fluorapatite)からなる群から選択されるいずれか又は2つ以上の組み合わせである、請求項1に記載の
骨移植材組成物。
【請求項3】
前記多孔性粒子は、60体積%以上の気孔率を有する、請求項
1に記載の
骨移植材組成物。
【請求項4】
前記ヒドロゲルは、ポロキサマー、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン、PEG/PPG/PEGブロック共重合体、セルロースからなる群から選択される少なくとも1つを含有するものである、請求項1に記載の
骨移植材組成物。
【請求項5】
前記ヒドロゲルは、非架橋構造(non-crosslinked structure)を有する物質であり、水分吸収力(swelling property)のない物質である、請求項
4に記載の
骨移植材組成物。
【請求項6】
生理活性物質をさらに含む、請求項1に記載の
骨移植材組成物。
【請求項7】
前記生理活性物質は、骨形成タンパク質、骨形成ペプチド、細胞外基質タンパク質及び組織成長因子からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項
6に記載の
骨移植材組成物。
【請求項8】
骨移植術、上顎洞底挙上術、脊椎椎体間固定術、頸椎椎体間固定術又は上下肢骨折固定術に用いられるものである、請求項1に記載の
骨移植材組成物。
【請求項9】
パテ剤形(putty formulation)である、請求項1に記載の
骨移植材組成物。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載の骨移植材組成物と、注入道具とを含む骨移植用キット。
【請求項11】
前記注入道具は、混合注射器又はバイアル輸送装置を含む、請求項
10に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨移植材組成物及びその製造方法に関し、特にリン酸カルシウム化合物粒子とヒドロゲルを混合したパテ剤形で提供され、物性に優れ、注入が容易で、移植後の生体内環境においても構造を保持することにより、それに担持された薬物を徐放させることのできる骨移植材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨移植用生体材料は、開発初期には生体内で不活性を有する特徴に依存していたが、手術後の周囲組織の感染及び炎症反応により使用に多くの制約があった。その後、金属、セラミック、高分子を用いた生体材料技術の急速な発達と共に、生体不活性(bioinert)ではなく、生体適合性(biocompatible)を有する材料が設計及び開発され、使用部位及び目的に応じて様々な種類の骨組織再生用生体活性支持体が開発されるようになった。このような骨組織再生用生体活性支持体は、移植される位置によって用いられる物理的性質が異なり、周囲組織に対する毒性反応があってはならず、他の人工臓器に比べて比較的高い機械的物性が要求される。このような骨組織再生用生体活性支持体は、その原材料の特性と使用目的に応じて様々な生体材料として市販及び開発されている。
【0003】
人体に移植される全ての材料、特に骨組織再生のための高分子材料は、加工性及び成形性が良好でなければならず、傷口によく合うように現場重合(in-situ polymerization)が良好でなければならない。細胞の接着、成長及び分化のための好適な環境を提供するものでなければならず、それらの分解による付加生成物も生体適合性を有するものでなければならない。特に、骨移植用材料において、圧縮強度や降伏値が低すぎると、骨移植材の注入又は緻密充填後の縫合やインプラント植立段階で位置固定能力や外形保持特性を維持することが困難になる。また、骨移植用材料の付着性が高すぎると、手術の際に手術道具に付着するので骨欠損部に充填することが困難になり、作業性が劣るという欠点がある。
【0004】
よって、骨欠損部への移植に適した生体適合性及び物性を有し、移植後の所定期間中は剤形保持性を有する骨移植材組成物の開発が求められている。
【0005】
一方、リン酸カルシウム系セラミックであるヒドロキシアパタイトは、歯や骨に見出される成分であり、生体適合性に優れ、損傷した骨を代替するフィラーや人工インプラントなどの体内挿入のための移植体の素材として注目されているが、ヒドロキシアパタイト自体はセラミック粒子状の剤形を有するので、成形することができず、狭い部位に適用することが困難であり、脊椎椎体間固定術に用いる特殊材質のケージ(cage)に充填することが困難であるという欠点がある。
【0006】
本出願人も先行特許(特許文献1)においてリン酸カルシウム化合物を含む体内注入可能な形態の骨移植材組成物を提供しようとしたが、当該組成物は血流が存在する生体内環境において構造が容易に崩壊するので、それに担持された薬物や生理活性物質などを短時間で全て放出してしまい、持続的な効果は期待できない。
【0007】
よって、本発明者らは、前述した従来のリン酸カルシウム化合物を含む骨移植材組成物の欠点が改善された剤形を見出すべく鋭意研究を重ねた結果、それに用いられるリン酸カルシウム化合物の含有量を増加させると共に用いられる粒径分布を調節することにより、生体内に類似した流体に接触する環境においても構造を保持し、担持された生理活性物質又は薬物を徐放させることができることを確認し、本発明を完成するに至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】韓国登録特許第10-1443814号公報
【文献】韓国登録特許第10-0401941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、55重量%超80重量%以下のリン酸カルシウム化合物粒子と、20重量%以上45重量%未満の生分解性ヒドロゲルとを含む、注入可能な骨移植材組成物を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、前記骨移植材組成物と、注入道具とを含む骨移植用キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明で開示される各説明及び実施形態はそれぞれ他の説明及び実施形態にも適用される。すなわち、本発明で開示される様々な要素のあらゆる組み合わせが本発明に含まれる。また、以下の具体的な記述に本発明が制限されるものではない。
【0012】
また、当該技術分野における通常の知識を有する者であれば、通常の実験のみを用いて本発明に記載された本発明の特定の態様の多くの等価物を認識し、確認することができるであろう。さらに、その等価物も本発明に含まれることが意図されている。
【0013】
さらに、本発明の明細書全体において、ある部分がある構成要素を「含む」という場合、これは特に断らない限り、他の構成要素を除外するのではなく、他の構成要素をさらに含んでもよいことを意味する。
【0014】
以下、本発明をより詳細に説明する。
【0015】
本発明は、55重量%超80重量%以下のリン酸カルシウム化合物粒子と、20重量%以上45重量%未満の生分解性ヒドロゲルとを含む、注入可能な骨移植材組成物を提供する。
【0016】
本発明の組成物は、所定の流動性を有するので、不定形の欠損部位への注入に有利であり、優れた物性を有し、移植後の生体内環境においてその微細構造を保持するので、骨移植材として有用である。
【0017】
特に、リン酸カルシウム化合物粒子と生分解性ヒドロゲルを混合して組成物を準備する際に、それに含まれるリン酸カルシウム化合物としてミクロ粒子とマクロ粒子を混合して用いることにより、その含有量が70%以上という高い比率まで上昇するので、強度が大幅に向上した移植材を提供することができる。
【0018】
また、生分解性高分子を含有するヒドロゲルを含むので、移植後の時間経過に応じて生分解され、所定含有量のポロキサマーとHPMCの組み合わせを含むヒドロゲルを用いることにより、圧縮強度と降伏値が高く、骨移植後の体温領域における体積保持性に優れる骨移植材組成物を提供することができる。さらに、ヒドロゲルとリン酸カルシウム化合物粒子を適正配合率で含むので、ヒドロゲルとリン酸カルシウム化合物粒子が凝集してペースト状の剤形となり、それと共に付着性が低く、手術の際に手術道具に付着しないので、骨欠損部に充填する際に手術道具に付着して離脱することがなく、作業性に優れるという利点を有する。
【0019】
特に、ヒドロゲルにリン酸カルシウム化合物としてβ-TCP微粒子(又はミクロスフェア)のみ含有する従来の組成物においては、所定の範囲を超えてβ-TCP微粒子(又はミクロスフェア)含有量が増加すると、剤形を形成すること自体が困難になり、剤形を形成することのできる最大含有量で作製した組成物では、所望の強度を達成することができず、骨欠損部に移植した際に生体内環境で構造を保持することができないという問題がある。
【0020】
本発明における「骨移植材組成物」とは、骨欠損部に移植されてそれを充填する材料、すなわち骨欠損部補充材として用いられる組成物を意味する。具体的には、本発明における骨移植材組成物とは、リン酸カルシウム化合物に基づく合成骨移植材(Alloplastic, Synthetic bone graft materials)組成物を意味する。
【0021】
本発明の骨移植材組成物は、大別してリン酸カルシウム化合物粒子とヒドロゲルの2つの構成要素からなる。
【0022】
まず、リン酸カルシウム化合物粒子は、天然の骨に類似した成分であり、骨が伝導されて育つように導く成分である。
【0023】
本発明における「リン酸カルシウム化合物」とは、リン酸と、カルシウムを含んでなる化合物を意味する。具体的には、前記リン酸カルシウム化合物は、ヒドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム(tricalcium phosphate; TCP, Ca3(PO4)2)、リン酸四カルシウム(tetracalcium phosphate, Ca4(PO4)2O)、ブラッシャイト(brushite, CaHPO4・2H2O)、リン酸二カルシウム(dicalcium diphosphate, Ca2P2O7)、トリポリリン酸カルシウム(calcium tripolyphosphate, Ca5(P3O10)2)、Mg含有アパタイト、Mg含有TCP、Sr含有アパタイト及びフルオロアパタイト(fluorapatite)からなる群から選択されるいずれか又は2つ以上の組み合わせであってもよい。より具体的には、リン酸三カルシウム、例えばβ-TCPとヒドロキシアパタイトを混合して用いることができるが、これに限定されるものではない。
【0024】
ここで、前記リン酸カルシウム化合物粒子としては、平均直径45~100μm及び200~6000μmのサイズを有する多孔性粒子の混合物を用いてもよい。通常、粒子のサイズは単一のサイズで定義されるのではなく、統計的に所定の分布を有する粒子の直径を平均して表すことに鑑みると、直径45~6000μmのサイズを有する粒子の混合物と言えるが、これに限定されるものではない。
【0025】
例えば、本発明の具体的な実施例においては、ミクロスフェア形態のβ-TCPとヒドロキシアパタイトのマクロ粒子を混合して用いた。
【0026】
ここで、β-TCPは、ミクロスフェア形態であるが、これに限定されるものではない。例えば、前記β-TCPは、β-TCP粉末を噴霧乾燥させ、その後1050~1250℃で焼結させ、次いで45~75μmの範囲に分級することにより得られる。より具体的には、前記β-TCPは、β-TCP粉末を噴霧乾燥させる過程で球形になり、その球形のβ-TCP粉末を1050~1250℃で焼結させる過程で気孔率が高くなる。また、より均質な骨移植材組成物を得るために、焼結したβ-TCP粉末を45~75μmの範囲に分級して用いてもよい。ここで、前記焼結は、1~3時間かけて行い、最も好ましくは2時間かけて行う。
【0027】
最終的には、前述したように得られたβ-TCPの最終粒子は、45~75μmの直径を有するミクロスフェア形態の粒子であってもよい。また、β-TCPの最終粒子は、前述した噴霧乾燥及び焼結過程で気孔率が60%以上になるようにしてもよい。
【0028】
一方、前記ヒドロキシアパタイトは、数十μm~数mmの広い範囲のサイズ分布を有する顆粒であるが、これに限定されるものではない。
【0029】
また、前記リン酸カルシウム化合物粒子は、90%以上の3次元的気孔連結性及び/又は60%以上の気孔率を有する多孔性粒子であってもよい。例えば、多孔性リン酸カルシウム化合物粒子を用いて、必要に応じてその気孔に薬物及び/又は骨形成タンパク質などを担持させることにより、同時に2つ以上の効果を発揮することができ、シナジー的な治療効果が得られる。さらに、前記多孔性構造は、新たに形成される新生組織の侵入を容易にするので、組織再生を促進することができる。
【0030】
本発明の骨移植材組成物の2つ目の構成要素であるヒドロゲルは、ゾル-ゲル転移特性を有する高分子が水(water)中に分散して形成されたゲルであり、前記リン酸カルシウム化合物粒子を凝集して骨移植に適した剤形を形成するために用いる。
【0031】
前記ヒドロゲルは、ポロキサマー、コラーゲン、ヒアルロン酸、ゼラチン、PEG/PPG/PEGブロック共重合体、セルロースからなる群から選択される少なくとも1つを含有するものであってもよい。前記ヒドロゲルは、非架橋構造(non-crosslinked structure)を有する物質であり、水分吸収力(swelling property)のない物質であってもよく、また数カ月以内に分解される物質であってもよい。ここで、前記ヒドロゲルは、上記成分を15~35重量%の濃度で含有するが、これに限定されるものではない。ヒドロゲルの濃度が15重量%未満であると、十分な強度が得られず、35重量%を超えると、付着性が高くなるので、それを作製及び/又は保管する容器や移動及び/又は注入のための道具に残留する量が多くなる。
【0032】
本発明において、前記ヒドロゲルは、ヒドロゲル100重量部を基準に0.5~2重量部のヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxyprolyl methylcellulose; HPMC)をさらに含んでもよい。
【0033】
本発明においては、生体適合性に優れ、移植後の剤形保持性に優れる骨移植材組成物を提供するために、生分解性を有すると共に体温より低いゾル-ゲル転移温度を有し、体温領域ではゲル形態を良好に保持する高分子として、ポロキサマーとヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を用いるようにしてもよい。
【0034】
本発明における「ポロキサマー」とは、ポリプロピレングリコール(PPG)の中心鎖に2つのポリエチレングリコール(PEG)鎖が結合された形態の三元ブロック共重合体(PEO-PPO-PEO)を意味する。一般に、ポロキサマー内のPEG/PPGの比は1:9~8:2と様々である。ポロキサマーの分子量は、1,100~14,000g/moleの広い範囲である。ポロキサマーは温度感応性高分子である。本発明におけるポロキサマーは、骨移植材の注入性と成形性を付与する役割を果たすだけでなく、骨欠損部に充填されると、迅速に分解されてリン酸カルシウム系骨移植材の成分のみ残留させる。常温領域における注入容易性及び成形性並びに室温の流通過程における製剤安定性を維持するためには、ゾル-ゲル転移温度が相対的に低く、粘度が高い高分子量のポロキサマーが適当である。本発明におけるポロキサマーは、体温領域である37℃付近でゲル形態を保持するように、ゾル-ゲル転移温度が4~35℃のものを用いることができる。特に、本発明においては、体温領域である37℃付近でゲル形態保持性に優れるポロキサマー407が最も好ましい。
【0035】
本発明における「ヒドロキシプロピルメチルセルロース(hydroxypropyl methylcellulose, HPMC)」とは、ヒプロメロース(hypromellose)とも呼ばれる半合成の不活性粘弾性高分子を意味する。本発明におけるHPMCは、ヒドロゲルの弾性を補完する役割を果たす。特に、ヒドロゲルの粘弾性が増加するにつれて、骨欠損部に充填する際の移植材の位置固定能力が向上し、外部への流出を最小限に抑えることができるという利点がある。
【0036】
前記HPMCの粘度は、1,000~100,000cpsであることが好ましく、100,000cpsであることが最も好ましい。HPMCは、高粘度、高弾性を得るために微量添加する物質であり、粘度が高いほど骨移植材の位置固定能力と充填の緻密度が高くなり、手術道具や手袋などへの付着を最小限に抑えることができる。よって、微量添加する際の最も高い粘度である100,000cpsが最も好ましい。
【0037】
本発明の組成物は、所定含有量のポロキサマーに加えてHPMCを含むヒドロゲルを用いることにより、ポロキサマー単独のヒドロゲルや前記含有量の範囲外のヒドロゲルに比べて圧縮強度、降伏値及び付着性の面でさらに優れた骨移植材組成物を提供することができる。
【0038】
特に、本発明の骨移植材組成物は、降伏値が1500~4000g/cm2の範囲であってもよい。本発明は、上記範囲の降伏値を有するので、優れた粘弾性を示し、移植の際に骨欠損部に良好に充填することができ、移植材として用いるのに適した物性を示す。
【0039】
本発明における「圧縮強度」とは、「強度」と混用されるものであり、外圧により骨移植材組成物の外形が変化するときの強度を意味する。「降伏値」とは完成品の弾性に関する物理的特性値であり、外部の圧力により変形するまでの最大強度を意味する。よって、圧縮強度や降伏値が高いほど、骨移植材の注入又は緻密充填後の縫合やインプラント植立段階で位置固定能力や外形保持特性を維持することができる。
【0040】
本発明における「付着性」とは、ステンレススチールに付着する特性を意味する。圧縮強度とは逆方向に作用する力であり、(-)は方向のみを意味する。絶対値が大きいほど、ステンレススチールに付着した骨移植材組成物剤形を離脱させるのに大きな力が必要であることを意味し、これは、骨移植材組成物剤形がステンレススチール素材の手術道具だけでなく、樹脂素材の手袋に付着する程度も併せて意味する。
【0041】
本発明において測定する物理的強度である圧縮強度、降伏値及び付着性は、一般的なレオメータ及び/又はUTM(universal testing machine)装置を用いて測定することができる。
【0042】
本発明の骨移植材組成物は、密集したリン酸カルシウム化合物粒子間にヒドロゲルが充填されたものであり、骨欠損部に移植されると、ヒドロゲルが分解されて排出されると共に、リン酸カルシウム化合物粒子が密集した形態のまま保持され、ヒドロゲルが排出された後のリン酸カルシウム化合物粒子間の空間に入るように骨が育つ。よって、所定の期間その形態を保持する能力を有する必要がある。
【0043】
本発明の骨移植材組成物は、生理活性物質をさらに含んでもよい。前記生理活性物質は、前記組成物に含まれる多孔性リン酸カルシウム化合物粒子の気孔に担持されるようにしてもよい。前記生理活性物質は、骨形成タンパク質(bone morphogenic protein, BMP)、骨形成ペプチド、細胞外基質タンパク質及び組織成長因子からなる群から選択される少なくとも1つであってもよい。
【0044】
例えば、前記骨形成タンパク質は、BMP-2、BMP-3、BMP-3b、BMP-4、BMP-5、BMP-6、BMP-7、BMP-8、BMP-9、BMP-10、BMP-11、BMP-12、BMP-13、BMP-14、BMP-15、BMP-16、BMP-17、BMP-18又はその組み合わせであるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
例えば、前記組織成長因子は、VEGF、FGF-2、IGF-1、TGF-βなどであるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
例えば、本発明の骨移植材組成物は、骨移植術、上顎洞底挙上術、脊椎椎体間固定術、頸椎椎体間固定術又は上下肢骨折固定術に用いられるが、これらに限定されるものではない。例えば、側方腰椎椎体間固定術(Lateral Lumbar Interbody Fusion; LLIF)、斜め腰椎椎体間固定術(Oblique Lumbar Interbody Fusion; OLIF)又は前方腰椎椎体間固定術(Anterior Lumbar Interbody Fusion; ALIF)に用いられるが、これらに限定されるものではない。特に、本発明の骨移植材組成物は、パテ剤形であるので、移植する部位の形態に関係なく注入することができ、優れた強度を有するので、不特定の形態の骨損傷部位に有効に適用される。
【0047】
本発明の組成物は、パテ剤形(putty formulation)で提供することができる。
【0048】
本発明の他の態様は、前記骨移植材組成物と、注入道具とを含む骨移植用キットを提供する。
【0049】
本発明のキットは、パテ剤形(putty formulation)の骨移植材を提供することができる。前記パテ剤形の移植材は、注射器、又はチューブなどの注入道具に入れ、所望の位置に注入することができる。注入後に製品の粘弾性特性により欠損部に緻密に充填されるように、手術道具で固めて入れることができる。
【0050】
そのために、本発明のキットは、注入道具をさらに含み、前記注入道具は、混合注射器又はバイアル輸送装置を含むが、これらに限定されるものではない。
【0051】
前述したように、本発明の骨移植用キットは、骨移植術、上顎洞底挙上術、脊椎椎体間固定術、頸椎椎体間固定術、上下肢骨折固定術、例えば側方経路腰椎椎体間固定術(LLIF)、斜め腰椎椎体間固定術(OLIF)、前方腰椎椎体間固定術(ALIF)などに用いられるが、これらに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0052】
本発明の組成物は、ミクロ粒子形態のリン酸カルシウム系化合物を用いることにより、その含有量増加による物性向上が困難な従来の剤形の欠点を補完すべく考案されたものであり、リン酸カルシウム系化合物とヒドロゲルを混合して骨移植材を作製する際に、リン酸カルシウム系化合物としてミクロ粒子とマクロ粒子の混合物を用いることにより、組成物全体の70%以上までリン酸カルシウム系化合物の含有量を増加させ、生体内類似条件において長時間その形態を保持し、それに担持された薬物を徐放させることができるので、骨形成タンパク質などの生理活性物質を担持させ、損傷した骨組織を再生する移植材として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】様々なサイズのリン酸カルシウム系化合物粒子の実物の形態を示す図である。
【
図2】様々なサイズのリン酸カルシウム系化合物を所定の割合でヒドロゲルと混合して作製した組成物の形態を示す図である。
【
図3】本発明の一実施例による組成物の剤形例を示す図である。左は歯科で用いるパテ用注射器に充填した例であり、右は脊椎固定術に用いるケージに充填した例である。
【
図4】本発明の一実施例による組成物の弾性及び/又は質感を示す図である。
【
図5】様々なサイズのリン酸カルシウム系化合物を所定の割合でヒドロゲルと混合して作製した組成物からなる骨移植材の生体内類似条件での形態保持能を示す図である。
【
図6】様々なサイズのリン酸カルシウム系化合物を所定の割合でヒドロゲルと混合して作製した組成物からなる骨移植材の生体内類似条件での薬物徐放能を示す図である。
【
図7】本発明の一実施例により準備した骨移植材の流体環境での剪断応力(shear stress)に対する剪断変形率(shear strain)を示す図である(黒の実線)。対照群(青の実線)として比較例6の骨移植材組成物を用いた。
【
図8】本発明の一実施例により準備した骨移植材のリン酸カルシウム化合物の粒子サイズによる圧縮強度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明の構成及び効果についてより具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を例示するものにすぎず、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
作製例1:リン酸カルシウム化合物粒子粉末の作製1
純粋なβ-TCP粉末((株)セレクトロン,韓国)を噴霧乾燥して球形にした。次に、その球形のβ-TCP粉末を1050℃で焼結し、その後その焼結した粒子を45~75μmの範囲に分級した。
【0056】
作製例2:リン酸カルシウム化合物粒子粉末の作製2
特許文献2に開示されている方法を参照して、200~6000μmの範囲の分布を有するリン酸カルシウム化合物粒子を準備した。
【実施例1】
【0057】
高弾性リン酸カルシウム系骨移植材の作製
まず、高速真空ミキサーを用いて、HPMCとポロキサマー407を混合してヒドロゲルを形成し、その後それに作製例1で準備したβ-TCP粉末を均一に混合してヒドロゲル複合体を得た。
【0058】
次に、前述したように準備したヒドロゲル複合体と、作製例2で準備した0.6~6mmのサイズのヒドロキシアパタイトセラミック顆粒を混合することにより、パテ剤形の骨移植材を製造した。前述した混合は、ヒドロキシアパタイト顆粒を粉末化することができるように、特殊な混合シリンジを用いて行った。
【0059】
比較例1~4:様々なサイズのリン酸カルシウム系化合物粒子
比較例1~4の試料として、それぞれ100μm未満、600~1,000μm未満、1,000~3,000μm未満、及び3,000~6,000μmの範囲のサイズを有する粒子形態のリン酸カルシウム系化合物を準備した。
【0060】
比較例5~7:調節した含有量でミクロリン酸カルシウム系化合物粒子と、ヒドロゲルとを含む骨移植材組成物
100μm未満のサイズのリン酸カルシウム系化合物粒子とヒドロゲルをそれぞれ30:70、50:50及び70:30の重量比で混合することにより、比較例5~7の骨移植材組成物を準備した。
【0061】
比較例8:調節した含有量でマクロリン酸カルシウム系化合物粒子と、ヒドロゲルとを含む骨移植材組成物
1,000~3,000μm未満のサイズのリン酸カルシウム系化合物粒子とヒドロゲルを50:50の重量比で混合することにより、比較例8の骨移植材組成物を準備した。
【0062】
実験例1:骨移植材組成物の形態及び物性
比較例1~4のリン酸カルシウム系化合物粒子の形態を肉眼で観察した。撮影した写真を
図1に示す。
図1に示すように、リン酸カルシウム系化合物は、単独で使用する場合、粒子で形成されているので所望の形状への加工が困難であり、骨移植材としての使用は非常に制限的であった。
【0063】
また、比較例5~8及び実施例1の骨移植材組成物の形態と特徴を
図2に示す。
図2に示すように、100μm未満のサイズのリン酸カルシウム系化合物粒子と、ヒドロゲルとからなる骨移植材組成物において、これらの成分の組成比による形態的な差異は、肉眼で確認できるレベルであった。リン酸カルシウム系化合物の含有量が30%と低い場合(比較例5)、粒子搭載量が不足し、相対的にヒドロゲルに近い物性を維持するが、リン酸カルシウム系化合物の含有量が50%の場合(比較例6,エクセロスインジェクト)、肉眼で確認される形態上は、実施例1と同様に、粒子がヒドロゲルと良好に凝集して紙粘土のような形状を形成及び保持する。一方、1,000~3,000μm未満のサイズのリン酸カルシウム系化合物粒子とヒドロゲルを50:50の重量比で混合して準備した組成物の場合(比較例8)、凝集して1つの塊りにはなったが、個別粒子により粗い表面を有する構造物が形成された。さらに、実施例1の組成物と同様に、リン酸カルシウム系化合物の含有量を70%に向上させた場合(比較例7)、100μm未満のサイズのミクロ粒子だけでは、粒子搭載量が多すぎ、凝集して1つの塊りにならず、崩壊した。一方、比較例7と同様に、リン酸カルシウム系化合物の含有量が70%と高くても、100μm未満のサイズのリン酸カルシウム系化合物ミクロ粒子に200μm以上のサイズのマクロ粒子をさらに含む場合、比較例6と同様に、ヒドロゲルと凝集して1つの塊りになることが確認された。これは、ミクロ粒子とマクロ粒子を混合して用いることにより、リン酸カルシウム化合物をさらに高含有量で含む骨移植材組成物を提供できることを示唆するものである。
【0064】
このように70%の高含有量でリン酸カルシウム系化合物を含むように準備した実施例1の骨移植材組成物を様々な形態に剤形化し、臨床への適用可能性をテストした。テスト結果を
図3及び
図4に示す。
図3に示すように、実施例1の骨移植材組成物は、歯科で用いるパテ用注射器により注入することができ、脊椎固定術に用いるケージにも容易に充填することができた。さらに、
図4に示すように、手で押して形態を変形させることにより容易に所望の形態にすることができるだけでなく、手に付着しないので、扱いやすく、損失の恐れもない。このように、本発明の骨移植材組成物は、注射器で注入できる程度の流動性を有するので、形状を実現することが困難な損傷部位に直接注入できるだけでなく、手で又は所定の枠を用いて所望の形態を容易に形成することができ、当該形態を保持することができ、骨再生に有用である。
【0065】
実験例2:生体内類似条件での形態保持能及び薬物徐放能
生体内類似条件での骨移植材の性質を確認するために、比較例4~8及び実施例1の組成物をそれぞれケージに入れ、それを37℃の生理食塩水に浸漬し、5分及び24時間経過後に、外形が保持されるか否かを確認した。その結果を
図5に示す。さらに、これらの骨移植材に薬物を担持させた場合の放出パターンを確認するために、肉眼で確認できるように上記各試料に薬物の代わりに赤色の染料を担持させて同様に処理し、浸漬前と5分経過後の溶液の色を確認した。その結果を
図6に示す。
【0066】
図5に示すように、マクロ粒子型リン酸カルシウム系化合物を単独で用いた場合(比較例4)、体温と同程度の生理食塩水に浸漬して24時間経過しても、肉眼で確認される形態変化は何もなかった。リン酸カルシウム系化合物の含有量が30%と低い場合(比較例5)、生理食塩水に浸漬して5分経過後まではある程度形態を保持したが、24時間経過後には完全に分解されて形態を確認することができなかった。これは、リン酸カルシウム系化合物粒子とヒドロゲル間に強固な物理的結合が形成されていないことを示すものである。リン酸カルシウム系化合物の含有量が50%の場合(比較例6,エクセロスインジェクト)、生理食塩水に浸漬して5分経過後までは概して正常な形態を保持したが、24時間経過後にはほとんど分解され、一部のみ残留した。これは、生体内類似条件に耐え得る程度の強固な結合が依然として形成されていないことを示すものである。一方、リン酸カルシウム系化合物の含有量が70%と高い場合(比較例7)、実験例1で確認されたように、それ自体が十分に結合することができず、所望の形態が得られなかったので、さらなる実験は行えなかった。さらに、リン酸カルシウム系化合物マクロ粒子を50%含有する組成物の場合(比較例8)、ミクロ粒子を同一含有量で含むように作製した比較例6の組成物よりは優れた形態保持能を示したが、依然として相当部分分解されることが確認された。しかし、ミクロ粒子とマクロ粒子の両方を含み、70%に増加させた含有量で含むように作製した実施例1の組成物の場合、24時間経過後も、構造的に崩壊することなく、元の形状を保持した。これは、実施例1の組成物からなる移植材が実際の骨移植術及び/又は脊椎固定術などの手術環境でもその構造を保持し、骨移植材への使用に適した素材であることを示唆するものである。
【0067】
図6に示すように、実験が行えなかった比較例7を除き、比較例4~6及び8の移植材は、生理食塩水に浸漬した直後から、肉眼で明確に確認できる程度に染料が放出され始め、5分経過後にはほとんどの染料が放出された。具体的には、リン酸カルシウム系化合物粒子を単独で用いた比較例4に比べて、所定のヒドロゲルを含有する場合、その程度は多少減少し、特にヒドロゲルを70%の高い割合で含有する比較例5の場合、初期放出が大きく阻害された。これは、ヒドロゲルにより染料の拡散が物理的に阻害されることを示すものである。それに対して、実施例1の移植材は、染料が若干放出されたが、その程度は微々たるものであり、他の比較例に比べて著しく少ない量であった。これらの結果は、
図5の移植材の色が薄くなったことからも確認される。まとめると、実施例1の組成物においては、ヒドロゲル含有量が30%と多少低くなるにもかかわらず、全般的に染料の放出が阻害された。これは、実施例1の組成物に薬物を担持させると、それを徐放させることができることを示唆するものである。
【0068】
実験例3:流体中での降伏応力(yield stress)の比較
流量計(rheometer)を用いて、従来の市販製品である比較例6の組成物からなる移植材、及びそれにリン酸カルシウム系化合物マクロ粒子をさらに含ませて含有量を増加させた実施例1の組成物からなる移植材に、同じ力(shear stress)を加え、その際に現れる各剤形の変形(shear strain)を測定した。その結果を
図7に示す。
図7に示すように、同じ力を加えると、実施例1の試料に比べて、対照群の変形が相対的に大きいことが確認された。これは、実施例1の剤形が体内移植された環境で水分又は血流に接触しても、すなわち物理的な力が加わっても、構造が崩壊することなく、形状を保持するので、それに担持された薬物、例えばBMP-2を徐放させることができることを示すものである。
【0069】
実験例4:リン酸カルシウム化合物の粒子サイズによる強度の比較
リン酸カルシウム系化合物ミクロ粒子にマクロ粒子をさらに含ませてリン酸カルシウム系化合物の含有量を増加させた実施例1の組成物の強度変化を確認するために、ミクロ粒子とマクロ粒子の両方を含み、70%までリン酸カルシウム系化合物の含有量を増加させた実施例1の組成物、ミクロ粒子のみ含む含有量50%の比較例6の組成物、及びマクロ粒子のみ含む含有量50%の比較例8の組成物の圧縮強度を測定した。その結果を
図8に示す。具体的には、各組成物を用いて8mm×10mmのサイズの試料を準備し、
図8の上段に示すように圧縮しながら変形を測定した。
図8に示すように、比較例6と比較例8を比較すると、同一含有量の組成物の場合、含まれる粒子のサイズが大きい比較例8の強度が大幅に向上した。一方、ミクロ粒子とマクロ粒子の両方を含む実施例1の組成物においては、ミクロ粒子を含むにもかかわらず、マクロ粒子と混合してさらに増加した含有量の効果により、比較例8よりもさらに強度が向上した。
【0070】
以上の説明から、本発明の属する技術分野の当業者であれば、本発明がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。なお、上記実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本発明には、明細書ではなく請求の範囲の意味及び範囲とその等価概念から導かれるあらゆる変更や変形された形態が含まれるものと解釈すべきである。