(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-16
(45)【発行日】2024-07-24
(54)【発明の名称】ラチェット型クラッチ装置及び車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
F16D 41/12 20060101AFI20240717BHJP
【FI】
F16D41/12 A
(21)【出願番号】P 2024075957
(22)【出願日】2024-05-08
【審査請求日】2024-06-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102784
【氏名又は名称】NSKワーナー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 偉吹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 伸治
【審査官】鈴木 貴晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-016209(JP,A)
【文献】特開2022-190947(JP,A)
【文献】特開2022-108425(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0016616(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 41/00-47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能な外輪と内輪を有し、
前記内輪の外周面には、周方向に歯部と溝が交互に形成され、
前記外輪は、
前記溝に入り込んで第1回転方向から前記歯部に噛み合う複数の第1爪部材と、
前記溝に入り込んで第2回転方向から前記歯部に噛み合う複数の第2爪部材と、
を有し、
前記内輪は、
前記歯部と前記溝が形成された内輪本体と、
前記内輪本体と同軸上に配置され、前記内輪本体に対し相対回転可能なシャッタープレートと、
前記シャッタープレートを回転方向に付勢する弾性部材と、
を有し、
前記シャッタープレートの外周面には、前記歯部と等間隔で配置された複数の規制歯部が形成され、
前記外輪の回転軸と平行な方向を軸方向とし、
前記軸方向から視て、前記歯部に対し前記規制歯部が前記第1回転方向にずれ、前記規制歯部が前記溝の一部に重なっている状態を前記シャッタープレートの閉状態とし、
前記軸方向から視て、前記歯部に対し前記規制歯部の全てが重なっている状態を前記シャッタープレートの開状態とし、
前記弾性部材は、前記開状態から前記閉状態となるように前記シャッタープレートを付勢し、
前記第1爪部材は、前記閉状態のときに前記溝に入り込み可能に形成され、
前記第2爪部材は、前記開状態のときに前記溝に入り込み可能に形成され、かつ重心が前記第2爪部材の回動中心よりの先端部寄りに配置され、所定値以上の遠心力が作用すると、前記溝から離脱する
ラチェット型クラッチ装置。
【請求項2】
前記規制歯部は、
径方向外側を向く外径面と、
前記第1回転方向を向く側面と、
前記外径面と前記側面とが交わる角部と、
を有し、
前記角部は、前記第1回転方向に向かうにつれて径方向内側に位置する斜面となっている
請求項1に記載のラチェット型クラッチ装置。
【請求項3】
モータで生成されたトルクを、減速機構、中間ギヤ、リングギヤ及びディファレンシャルギヤを介して一対の車軸に伝達する車両用駆動装置であって、
前記モータから前記車軸までのトルク伝達経路上に、請求項1又は請求項2に記載のラチェット型クラッチ装置が設けられ、
前記内輪は、前記トルク伝達経路の上流側の部品と連結し、
前記外輪は、前記トルク伝達経路の下流側の部品と連結する
車両用駆動装置。
【請求項4】
前記減速機構は、
第1ギヤと、
前記第1ギヤに噛み合い、かつ前記第1ギヤよりも大径な第2ギヤと、
前記第1ギヤに連結する連結軸と、
を有し、
前記トルク伝達経路の上流側の部品は、前記モータの出力軸であり、
前記トルク伝達経路の下流側の部品は、前記連結軸である
請求項3に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記減速機構は、
第1ギヤと、
前記第1ギヤに噛み合い、かつ前記第1ギヤよりも大径な第2ギヤと、
前記第2ギヤに連結する中間軸と、
を有し、
前記中間ギヤは、第2中間軸に連結し、
前記トルク伝達経路の上流側の部品は、前記中間軸であり、
前記トルク伝達経路の下流側の部品は、前記第2中間軸である
請求項3に記載の車両用駆動装置。
【請求項6】
前記リングギヤは、リングギヤ用軸に連結し、
前記トルク伝達経路の上流側の部品は、前記リングギヤ用軸であり、
前記トルク伝達経路の下流側の部品は、前記ディファレンシャルギヤのデフケースである
請求項3に記載の車両用駆動装置。
【請求項7】
前記ディファレンシャルギヤは、
デフケースと、
前記デフケースと一体回転するピニオンシャフトと、
前記ピニオンシャフトに回転自在に支持された一対のピニオンと、
一対の前記ピニオンと噛み合う一対のサイドギヤと、
を有し、
一対の前記サイドギヤは、伝達軸と、一対の前記車軸のうち一方の車軸と、に連結し、
前記トルク伝達経路の上流側の部品は、前記伝達軸であり、
前記トルク伝達経路の下流側の部品は、一対の前記車軸のうち他方の車軸である
請求項3に記載の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ラチェット型クラッチ装置及び車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献のラチェット型クラッチ装置は、一組の第1爪部材と第2爪部材を備えている。第1爪部材は、外輪に対し内輪が一方向に相対回転すると、歯部に噛み合う。また、第2爪部材は、外輪に対し内輪が反対方向に相対回転すると、歯部に噛み合う。以下、第1爪部のみが歯部に噛み合い可能な状態をワンウェイクラッチモードと称する。第1爪部及び第2爪部材が歯部に噛み合い可能な状態をロックモードと称する。
【0003】
下記特許文献のラチェット型クラッチ装置では、ロックモードからワンウェイクラッチモードに切り替えるため、アクチュエータと、アクチュエータにより軸方向に移動するカム部材と、を備えている。カム部材は、爪部材を持ち上げて歯部との噛み合いを解除する。カム部材による軸方向の移動量が小さいと、カム部材は第2爪部材のみを持ち上げ、ロックモードからワンウェイクラッチモードに切り替わる。また、カム部材の移動量が大きいと、カム部材は第1爪部材及び第2爪部材の両方を持ち上げる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1のラチェット型クラッチ装置は、アクチュエータとカム部材を有し、大型化している。よって、小型化を図りつつ、ロックモードからワンウェイクラッチモードに切り替え可能なラチェット型クラッチ装置が望まれている。
【0006】
本開示は、上記課題に鑑みてなされたものであり、小型化を図りつつ、ロックモードからワンウェイクラッチモードに切り替え可能なラチェット型クラッチ装置を提供することを目的とする。併せて、ラチェット型クラッチ装置を備えた車両用駆動装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るラチェット型クラッチ装置は、相対回転可能な外輪と内輪を有する。前記内輪の外周面には、周方向に歯部と溝が交互に形成される。前記外輪は、複数の第1爪部材と複数の第2爪部材を有する。第1爪部材は、前記溝に入り込んで第1回転方向から前記歯部に噛み合う。第2爪部材は、前記溝に入り込んで第2回転方向から前記歯部に噛み合う。前記内輪は、内輪本体とシャッタープレートと弾性部材を有する。内輪本体には、前記歯部と前記溝が形成されている。シャッタープレートは、前記内輪本体と同軸上に配置され、前記内輪本体に対し相対回転可能となっている。弾性部材は、前記シャッタープレートを回転方向に付勢する。前記シャッタープレートの外周面には、前記歯部と等間隔で配置された複数の規制歯部が形成されている。前記外輪の回転軸と平行な方向を軸方向とする。前記軸方向から視て、前記歯部に対し前記規制歯部が前記第1回転方向にずれ、前記規制歯部が前記溝の一部に重なっている状態を前記シャッタープレートの閉状態とする。前記軸方向から視て、前記歯部に対し前記規制歯部の全てが重なっている状態を前記シャッタープレートの開状態とする。前記弾性部材は、前記開状態から前記閉状態となるように前記シャッタープレートを付勢する。前記第1爪部材は、前記閉状態のときに前記溝に入り込み可能に形成される。前記第2爪部材は、前記開状態のときに前記溝に入り込み可能に形成され、かつ重心が前記第2爪部材の回動中心よりの先端部寄りに配置され、所定値以上の遠心力が作用すると、前記溝から離脱する。
【0008】
また、上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係る車両用駆動装置は、モータで生成されたトルクを、減速機構、中間ギヤ、リングギヤ及びディファレンシャルギヤを介して一対の車軸に伝達する。前記モータから前記車軸までのトルク伝達経路上に、上記したラチェット型クラッチ装置が設けられている。前記内輪は、前記トルク伝達経路の上流側の部品と連結する。前記外輪は、前記トルク伝達経路の下流側の部品と連結する。
【発明の効果】
【0009】
本開示では、外輪に対し内輪が第1回転方向に相対回転すると、第1爪部材が溝に入る。そして、第1爪部材は、シャッタープレートの回転を規制する。これにより、内輪本体のみが第1回転方向に回転し、規制歯部と歯部が重なる。よって、シャッタープレートが開状態となり、第2爪部材が溝に入り込む(ロックモードになる)。また、内輪及び外輪の回転速度が大きくなると、第2爪部材は遠心力により溝から離脱する(ワンウェイクラッチモードになる)。この状態で内輪に対し外輪が第1回転方向に相対回転すると、第1爪部材と規制歯部との接触が解除され、シャッタープレートが閉状態となる。よって、ワンウェイクラッチモードが維持される。以上、本開示によれば、アクチュエータ等が不要となり、小型化する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態1のラチェット型クラッチ装置を第1方向から視た状態を模式的に示した模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態1の内輪を軸方向に切った断面図であり、詳細には
図5のII-II線の矢視断面図である。
【
図3】
図3は、
図1の一組の第1爪部材と第2爪部材を拡大した拡大図である。
【
図4】
図4は、実施形態1のラチェット型クラッチ装置を第1方向から視た状態を模式的に示した模式図である。
【
図5】
図5は、実施形態1のラチェット型クラッチ装置を第1方向から視た状態を模式的に示した模式図である。
【
図7】
図7は、実施形態1において、外輪に対し内輪が第2回転方向に相対回転したときの状態を示す模式図である。
【
図8】
図8は、実施形態1において、外輪に対し内輪が第1回転方向に相対回転し始めた状態を示す模式図である。
【
図9】
図9は、
図8の状態から、さらに外輪に対し内輪が第1回転方向に相対回転した状態を示す模式図である。
【
図10】
図10は、
図9の状態から、内輪及び外輪の回転速度が大きくなった状態を示す模式図である。
【
図11】
図11は、
図10の状態から、内輪に対し外輪が第1回転方向に相対回転し始めた状態を示す模式図である。
【
図12】
図12は、実施形態1の車両用駆動装置の構成を示す図である。
【
図13】
図13は、実施形態1の車両用駆動装置のタイムチャートを示した図である。
【
図14】
図14は、変形例1の車両用駆動装置の構成を示す図である。
【
図15】
図15は、変形例2の車両用駆動装置の構成を示す図である。
【
図16】
図16は、変形例3の車両用駆動装置の構成を示す図である。
【
図17】
図17は、変形例4のラチェット型クラッチ装置のうち第1爪部材とその近傍を拡大した拡大図である。
【
図18】
図18は、変形例4において、短い第1爪部材が溝に入り込んだ状態を示した図である。
【
図19】
図19は、変形例4において、長い第1爪部材が斜面に当接した状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示を実施するための形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明で記載した内容により本開示が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0012】
(実施形態1)
最初にラチェット型クラッチ装置100を説明し、その後、ラチェット型クラッチ装置100を備えた車両用駆動装置200を説明する。
【0013】
図1は、実施形態1のラチェット型クラッチ装置100を第1方向X1から視た状態を模式的に示した模式図である。
図2は、実施形態1の内輪2を軸方向に切った断面図であり、詳細には
図5のII-II線の矢視断面図である。また、
図1では、内輪本体3を見え易くするため、内輪本体3に対し第1方向X1に配置されたシャッタープレート50、弾性部材60、及びケース70を取り外した状態を図示している。
【0014】
図1に示すように、ラチェット型クラッチ装置100は、環状の外輪1と、外輪1の内側に配置された内輪2と、を有している。外輪1と内輪2は、同軸上に配置されている。また、外輪1と内輪2は、中心軸Xを中心に相対回転可能に配置されている。以下、中心軸Xと平行な方向を軸方向と称する。中心軸Xと直交する方向を径方向と称する。
【0015】
図2に示すように、内輪2は、内輪本体3と、シャッタープレート50と、弾性部材60と、ケース70と、を有している。以下、軸方向のうち、内輪本体3から視てシャッタープレート50が配置される方向を第1方向X1とし、反対方向を第2方向X2と称する。
【0016】
内輪本体3は、第1方向X1を向く側面3aを有している。側面3aには、第1方向X1に突出する軸部3bが形成されている。
図1に示すように、軸部3bは、中心軸Xを中心に円柱状に形成されている。よって、軸部3bの外周面3cは、円形状となっている。また、側面3aには、固定穴3dが形成されている。なお、実施形態1では、内輪本体3と軸部3bが一体に形成されているが、本開示は、環状の内輪本体3に棒状の軸部3bが嵌合したものであってもよい。
【0017】
図1に示すように、内輪本体3の外周面には、周方向に歯部4と溝5が交互に形成されている。歯部4の周方向の長さはW1となっている。溝5は、歯部4同士の間に形成された空間であり、径方向外側に開口している。また、溝5の周方向の幅はW2となっている。
【0018】
歯部4は、周方向の一方を向く一側面6と、周方向の他方を向く他側面7と、を有している。以下、中心軸Xを中心とする回転方向(周方向)に関し、一側面6が向く方向を第1回転方向L1と称し、他側面7が向く方向を第2回転方向L2と称する。なお、シャッタープレート50、弾性部材60、及びケース70の説明は後述する。
【0019】
外輪1は、環状の外輪本体10と、外輪本体10の内周側に配置された環状の保持器11と、複数の第1爪部材30と、複数の第2爪部材40と、を有している。
【0020】
外輪本体10の内周面は、中心軸Xを中心に円形となっている。外輪本体10の内周面には、径方向外側に窪む被嵌合部12が形成されている。保持器11は、外輪本体10の内周面に沿って延在する保持器本体13と、外輪本体10の被嵌合部12に嵌合する嵌合部14と、を有している。
【0021】
図3は、
図1の一組の第1爪部材30と第2爪部材40を拡大した拡大図である。
図3に示すように、保持器本体13と嵌合部14の間には、第1爪部材30又は第2爪部材40の一部を保持器11の径方向内側に配置するための開口部15が形成されている。また、外輪本体10と保持器11との間であり、かつ開口部15に隣接する部位に、軸部収容部16が形成されている。さらに、軸部収容部16のうち、第1爪部材30が収容される軸部収容部16の第1回転方向L1には、拡張収容部17が形成されている。
【0022】
第1爪部材30は、軸部収容部16に収容される第1軸部31と、第1軸部31から突出する第1爪部32と、拡張収容部17に配置されるトルク伝達部33と、を有している。
【0023】
第1軸部31は、外輪本体10と保持器11により挟まれ、回動中心O31を中心に回動自在となっている。第1爪部32は、開口部15を通過し、保持器11の内周側に配置されている。
【0024】
第1爪部32は、径方向内側を向く内面32aを有している。内面32aには、径方向内側に最も突出する突出点32bが形成されている。そして、内面32aは、突出点32bに近づくにつれて径方向内側に位置するように傾斜している。第1爪部32の先端面32cから突出点32bまでの長さは、H1となっている。以下、第1爪部32のうち先端面32cから長さH1以下の範囲を第1先端部32dと称する。
【0025】
第1先端部32dの長さH1は、溝5の幅W2よりも小さい。よって、第1爪部32の第1先端部32dは、溝5に入り込み、歯部4の一側面6と接触可能となっている。つまり、第1爪部材30は、第1回転方向L1から歯部4に噛み合う爪部材である。
【0026】
トルク伝達部33は、拡張収容部17の対向面17aと対向している。第1爪部材30の第1爪部32が歯部4に接触すると、トルク伝達部33が対向面17aを押圧し、外輪本体10にトルクが伝達される。
【0027】
本実施形態の第1爪部材30の重心G30は、トルク伝達部33に配置されている。よって、第1爪部材30に遠心力が作用すると、トルク伝達部33が径方向外側に移動する(
図3の矢印A1参照)。このため、第1爪部32は、径方向内側に移動する(
図3の矢印A2参照)。この結果、第1爪部32と歯部4の接触面積が増加し、第1爪部32と歯部4の噛み合いが安定する。なお、実施形態1では、第1爪部材30の重心G30がトルク伝達部33に配置されているが、本開示は、重心G30は第1軸部31に配置されてもよい。
【0028】
図3に示すように、第2爪部材40は、軸部収容部16に収容される第2軸部41と、第2軸部41から突出する第2爪部42と、を有している。
【0029】
第2軸部41は、外輪本体10と保持器11により挟まれ、回動中心O41を中心に回動自在となっている。第2爪部42は、開口部15を通過し、保持器11の内周側に配置されている。
【0030】
第2爪部42は、径方向内側を向く内面42aを有している。内面42aには、径方向内側に最も突出する突出点42bが形成されている。そして、内面42aは、突出点42bに近づくにつれて径方向内側に位置するように傾斜している。第2爪部42の先端面42cから突出点42bまでの長さは、H2となっている。以下、第2爪部42のうち先端面42cから長さH2以下の範囲を第2先端部42dと称する。
【0031】
第2先端部42dの長さH2は、溝5の幅W2よりも小さい。よって、第2爪部42の第2先端部42dは、溝5に入り込み、歯部4の他側面7と接触可能となっている。つまり、第2爪部材40は、第2回転方向L2から歯部4に噛み合う爪部材である。また、第2先端部42dの長さH2は、第1先端部32dの長さH1よりも大きい(H2>H1)。
【0032】
嵌合部14には、第1爪部32及び第2爪部42を径方向内側に付勢する第1ばね35及び第2ばね45が設けられている。また、第2爪部材40の重心G40は、第2爪部42に配置されている。つまり、第2爪部材40の重心G40は、第2爪部材40の回動中心O41よりも先端面42c寄りとなっている。このため、外輪1が回転し、第2爪部材40に所定値以上の遠心力が作用すると、第2ばね45に抗って第2爪部42が径方向外側に移動する。
【0033】
図4は、実施形態1のラチェット型クラッチ装置100を第1方向X1から視た状態を模式的に示した模式図である。なお、
図4では、シャッタープレート50を見え易くするため、弾性部材60とケース70を取り外した状態を図示している。また、
図4以降のシャッタープレート50にはドットを付している。
【0034】
シャッタープレート50は、中心軸Xを中心とする環状の部品である。シャッタープレート50の内周面51は、円形に形成されている。シャッタープレート50の内周面51は、軸部3bの外周面3cに摺動可能に嵌合している。よって、シャッタープレート50は、内輪本体3に対し、相対回転可能となっている。
【0035】
シャッタープレート50の外周面には、規制歯部52と規制溝53とが周方向に交互に形成されている。規制歯部52は、歯部4と等間隔で周方向に配置されている。規制歯部52の周方向の長さW3は、歯部4の長さW1(
図1参照)と同じである。規制溝53は、規制歯部52同士の間に形成された空間であり、径方向外側に開口している。規制溝53の周方向の幅W4は、溝5の幅W2(
図1参照)と同じである。
【0036】
なお、本実施形態では、規制歯部52の長さW3が歯部4の長さW1と同じであり、規制溝53の幅W4が溝5の幅W2と同じとなっているが、本開示はこれに限定されない。例えば、規制歯部52の長さW3は歯部4の長さW1よりも小さく、一方、規制溝53の幅W4は溝5の幅W2よりも大きくなっていてもよい。
【0037】
シャッタープレート50には、軸方向に貫通する円弧状の円弧穴55が形成されている。以下、円弧穴55の内周面のうち、第1回転方向L1の端部に位置する面を係止面56と称し、第2回転方向L2の端部に位置する面を位置決め面57と称する。
【0038】
図5は、実施形態1のラチェット型クラッチ装置100を第1方向X1から視た状態を模式的に示した模式図である。ケース70は、環状の部品である。ケース70の内周面71は、円形に形成されている。ケース70の内周面71は、内輪本体3の軸部3bに嵌合している。
図2に示すように、ケース70の外周面には、径方向内側に窪み、かつ周方向に延在する収容溝72が形成されている。
【0039】
弾性部材60は、C字状の本体部61と、回動規制部62(
図6参照)と、係止部63(
図6参照)と、を有している。
図2に示すように、本体部61は、ケース70の収容溝72に収容されている。よって、弾性部材60は、第1方向X1に脱落しないようにケース70に支持されている。また、本体部61は、収容溝72の底面73から離隔している。よって、本体部61は、変形(縮径)可能に支持されている。
【0040】
図6は、
図5のVI-VI線の矢視断面図である。
図6に示すように、回動規制部62は、本体部61の第1回転方向L1の端部から第2方向X2に延在している。また、回動規制部62は、円弧穴55を通過し、内輪本体3の固定穴3dに挿入されている。よって、回動規制部62は、内輪本体3に固定されている。
【0041】
係止部63は、本体部61の第2回転方向L2の端部から第2方向X2に延在している。また、係止部63は、シャッタープレート50の円弧穴55に挿入されている。係止部63は、円弧穴55の第1回転方向L1の端部に配置され、円弧穴55の係止面56に当接している。
【0042】
また、弾性部材60は、本体部61が縮径した状態で、内輪本体3及びシャッタープレート50に組み付けられている。つまり、回動規制部62と係止部63の間の距離W10(
図6参照)は、組付け後よりも組付け前の方が大きい。このため、係止部63は、係止面56を第1回転方向L1に常に押圧している(
図6の矢印A3参照)。よって、シャッタープレート50は、第1回転方向L1に回転するように付勢され(
図6の矢印A4参照)、位置決め面57が回動規制部62に当接している。
【0043】
図5に示すように、位置決め面57が回動規制部62に当接しているとき、シャッタープレート50の位相は、歯部4に対し規制歯部52が第1回転方向L1にずれている。つまり、軸方向から視た場合、規制歯部52は溝5の一部と重なっている。この状態では、溝5に対し進入可能な爪部材の大きさがW5に制限される。以下、位置決め面57が回動規制部62に当接している(規制歯部52が溝5の一部と重なっている)状態をシャッタープレート50の閉状態(若しくは単に「閉状態」)と称する。
【0044】
また、閉状態のシャッタープレート50は、内輪本体3に対し、第2回転方向L2に相対回転することができる。言い換えると、内輪本体3は、シャッタープレート50に対し、第1回転方向L1に相対回転することができる。そして、内輪本体3が第1回転方向L1に相対回転すると、規制歯部52と歯部4が軸方向に重なる(
図9、
図10を参照)。よって、溝5に進入可能な爪部材の大きさはW2(
図1参照)に戻る。以下、軸方向から視て規制歯部52の全てが歯部4と重なっている状態をシャッタープレート50の開状態(若しくは単に「開状態」)と称する。
【0045】
次にラチェット型クラッチ装置100の動作例を説明する。本説明で説明する最初の状態は、
図5に示す閉状態(溝5に進入可能な大きさがW5)である。また、第1爪部材30及び第2爪部材40が歯部4と噛み合っていない状態とする。
【0046】
図7は、実施形態1において、外輪1に対し内輪2が第2回転方向L2に相対回転したときの状態を示す模式図である。なお、
図7以降の図においては、弾性部材60の本体部61とケース70の図示を省略する。
図5に示す状態から、外輪1に対し内輪2が第2回転方向L2に相対回転した場合、第2爪部材40の第2先端部42dは、溝5に入り込まない。よって、第2爪部材40は歯部4と噛み合わない。また、第1爪部材30の第1先端部32dは、溝5に入り込むものの、歯部4に噛み合わない。よって、第1爪部材30の第1先端部32dは、溝5に入ったり、歯部4に乗り上げたりして揺動する(
図7の矢印B1参照)。
【0047】
図8は、実施形態1において、外輪1に対し内輪2が第1回転方向L1に相対回転し始めた状態を示す模式図である。一方、
図5に示す状態から、外輪1に対し内輪2が第1回転方向L1に相対回転し始めた時点では、
図8に示すように、溝5に進入可能な大きさがW5となっている。よって、第2爪部材40の第2先端部42dは、溝5に入り込むことができない。他方で、第1爪部材30の第1先端部32dは、溝5に入り込み、規制歯部52に接触する。この結果、シャッタープレート50の第1回転方向L1への回転が規制される。よって、内輪本体3のみが第1回転方向L1に回転する。
【0048】
図9は、
図8の状態から、さらに外輪1に対し内輪2が第1回転方向に相対回転した状態を示す模式図である。そして、内輪本体3のみが第1回転方向L1に回転すると、
図9に示すように、内輪本体3の歯部4は、第1爪部材30の第1先端部32dに接触する。つまり、第1爪部材30と歯部4が噛み合った状態となる。これにより、第1爪部材30を介して、第1回転方向L1のトルクが外輪本体10に伝達され(
図9の矢印B2を参照)、外輪1が内輪2と同じ速度で第1回転方向L1に回転する。
【0049】
また、
図9に示す状態は、規制歯部52と歯部4の両方が第1先端部32dに当接した状態となる。つまり、内輪本体3とシャッタープレート50の位相が一致し、シャッタープレート50が開状態となる。よって、第2爪部材40の第2先端部42dは、溝5に入り込み(
図9の矢印B3を参照)、歯部4を噛み合い可能な状態となる。これによれば、外輪1と内輪2は、相対回転が規制されたロックモードとなる。
【0050】
図10は、
図9の状態から、外輪1及び内輪2の回転速度が大きくなった状態を示す模式図である。
図9に示す状態から、外輪1及び内輪2による第1回転方向L1への回転速度が大きくなると、第2爪部材40に作用する遠心力も大きくなる。このため、第2先端部42dは、第2ばね45の付勢力に逆らって径方向外側に移動する。つまり、第2爪部材40の第2先端部42dは溝5から離脱する。これにより、内輪2に対し外輪1が第1回転方向L1に相対回転可能なワンウェイクラッチモードに切り替わる。
【0051】
図11は、
図10の状態から、内輪2に対し外輪1が第1回転方向L1に相対回転し始めた状態を示す模式図である。そして、
図11に示すように、外輪1と連結する連結部材(不図示)の回転が加速し、外輪1の回転数が上がることで、第1回転方向L1への回転速度が、内輪2よりも外輪1の方が大きくなる。これにより、内輪2に対し外輪1が第1回転方向L1に相対回転する。また、この時、第1爪部材30は揺動する(
図11の矢印B5参照)。
【0052】
以上から、実施形態1のラチェット型クラッチ装置100によれば、アクチュエータとカム部材を用いることなく、ロックモードからワンウェイクラッチモードに切り替えることができる。よって、ラチェット型クラッチ装置100の小型化を図れる。
【0053】
図12は、実施形態1の車両用駆動装置200の構成を示す図である。次に車両用駆動装置200を説明する。
図12に示すように、車両用駆動装置200は、車両300に搭載される。そして、車両用駆動装置200は、駆動輪である車輪101L、101Rを駆動させる。なお、車両300は、エンジン等の主動力を生成する主駆動源を有し、車輪101L、101R以外の車輪を駆動させることで走行している。よって、車両用駆動装置200による車輪101L、101Rの駆動は、車両300の走行の補助的役割となる。
【0054】
車両用駆動装置200は、モータ110と、減速ギヤ120と、中間ギヤ124と、リングギヤ130と、ディファレンシャルギヤ140と、車軸150L、150Rと、ラチェット型クラッチ装置100と、を備えている。本実施形態において、ラチェット型クラッチ装置100は、モータ110と減速ギヤ120の間に介在している。
【0055】
モータ110の出力軸111は、ラチェット型クラッチ装置100の内輪本体3(
図1参照)に連結している。また、ラチェット型クラッチ装置100の外輪本体10(
図1参照)には、連結軸112が連結している。なお、車両300の前進時、ラチェット型クラッチ装置100の内輪本体3に入力されるトルクの向きは、第1回転方向L1である。一方で、車両300の後退時、ラチェット型クラッチ装置100の内輪本体3に入力されるトルクの向きは、第2回転方向L2である。
【0056】
減速ギヤ120は、第1ギヤ121と、第1ギヤ121に噛み合う第2ギヤ122と、を有している。第2ギヤ122は、第1ギヤ121よりも大径である。よって、第1ギヤ121から第2ギヤ122にトルクが伝達されるとトルクが減速する。第1ギヤ121は、連結軸112と連結している。第2ギヤ122は、中間軸123に連結している。また、中間軸123は、中間ギヤ124に連結している。
【0057】
中間ギヤ124は、リングギヤ130と噛み合っている。リングギヤ130は、中間ギヤ124よりも大径であり、トルクが減速される。また、リングギヤ130は、ディファレンシャルギヤ140のデフケース(不図示)に連結している。
【0058】
ディファレンシャルギヤ140は、車輪101L、101Rの回転差を吸収する装置である。ディファレンシャルギヤ140は、デフケース(不図示)と、デフケースと一体回転するピニオンシャフト(不図示)と、ピニオンシャフトに回転自在に支持された一対のピニオン(不図示)と、一対のピニオンと噛み合う一対のサイドギヤ(不図示)と、を備えている。一対のサイドギヤのうち一方のサイドギヤに車軸150Lが連結し、他方のサイドギヤに車軸150Rが連結している。
【0059】
よって、モータ110で生成されたトルクが車軸150L、150Rに伝達されるまでのトルク伝達経路は、上流側から順にラチェット型クラッチ装置100、減速ギヤ120、中間ギヤ124、リングギヤ130、ディファレンシャルギヤ140となる。なお、トルク伝達経路の上流側とは、モータ110の方であり、下流側は車輪101L、101Rの方である。
【0060】
図13は、実施形態1の車両用駆動装置のタイムチャートを示した図である。次に車両用駆動装置200の動作について説明する。
図13に示すように、時刻T0時点で、車両300が停止している。この場合、ラチェット型クラッチ装置100は、第1爪部材30及び第2爪部材40の両方が溝5に入り込み、歯部4と噛み合い可能な状態(ロックモード。
図9参照)となっている。
【0061】
時刻T1に車両300が前進すると、モータ110が駆動する。これにより、ラチェット型クラッチ装置100の内輪本体3に第1回転方向L1のトルクが入力される。そして、第1爪部材30と歯部4が噛み合い、外輪本体10にトルクが伝達される(
図9参照。特に
図9の矢印B2を参照)。よって、外輪1は、内輪2と等速で第1回転方向L1に回転する。そして、外輪1のトルクは、減速ギヤ120、中間ギヤ124、リングギヤ130、ディファレンシャルギヤ140、及び車軸150の順に伝達され、車輪101L、101Rが駆動する。
【0062】
ここで、車両300の速度が大きくなり、外輪1及び内輪2の回転速度も大きくなる。そして、第2爪部材40に作用する遠心力も大きくなる。本実施形態では、車両300の速度が100km/hを超えたとき(時刻T2)、遠心力により第2爪部材40の第2先端部42dは、第2ばね45の付勢力に抗って径方向外側に移動する(
図10参照。特に
図10の矢印B4を参照)。これにより、第2爪部材40の第2先端部42dが溝5から離脱する。つまり、時刻T2からワンウェイクラッチモードになる(
図10参照)。
【0063】
なお、本実施形態では、車両300の速度が100km/hを超えた場合、第2爪部材40の第2先端部42dが径方向外側に移動するようになっているが、本開示はこれに限定されない。第2爪部材40の第2先端部42dが径方向外側に移動するときの外輪1の回転速度に関し、特に制限はなく、適宜設定してよい。
【0064】
時刻T3時点で、車両300の速度がさらに大きくなり、車輪101L、101Rへのアシストが不要となる。よって、車両用駆動装置200は、モータ110の駆動を停止し、内輪本体3の回転も停止する。一方、車輪101L、101Rは、路面を転動しているため、車軸150L、150Rは、継続して同じ方向に回転し続ける。そして、車輪101L、101Rから車軸150L、150Rに伝達したトルクは、ディファレンシャルギヤ140、リングギヤ130、中間ギヤ124、減速ギヤ120、外輪1の順に伝達する。つまり、モータ110の駆動の停止後も、外輪1には、第1回転方向L1のトルクが伝達する。
【0065】
ここで、時刻T2時点で、ワンウェイクラッチモード(
図10参照)となっている。よって、内輪2に対し、外輪1は第1回転方向L1に相対回転する。このとき、第1爪部材30が揺動する(
図11の矢印B5を参照)。また、第1爪部材30と規制歯部52との噛み合いが解除され、シャッタープレート50は閉状態となる。
【0066】
車両300の速度が小さくなると、第2爪部材40の第2先端部42dに作用する遠心力も小さくなる。時刻T4の時点で、第2爪部材40の第2先端部42dに作用する遠心力は、第2ばね45の付勢力よりも小さくなり、第2爪部材40の第2先端部42dが径方向内側に移動する。しかしながら、シャッタープレート50が閉状態であり、第2爪部材40の第2先端部42dは溝5に入らない(
図7参照)。よって、ワンウェイクラッチモードが維持される。
【0067】
時刻T5時点で、モータ110が駆動する。また、モータ110は、外輪1の回転速度よりも内輪2の回転速度が大きくなるようにトルクを生成する。これにより、外輪1に対し内輪2が第1回転方向L1に相対回転する。そして、第1爪部材30の第1先端部32dは、溝5に入り込み、規制歯部52に接触する(
図8参照)。この結果、規制歯部52と歯部4が同位相となり、シャッタープレート50が開状態となる。そして、第2爪部材40の第2先端部42dが溝5に入り込み、ロックモードとなる(
図9参照)。
【0068】
時刻T6時点で、車両300が減速し始め、これに対応してモータ110が停止する。そして、時刻T7に車両300が停止する。ここで、時刻T5から時刻T7までの間、車両300の速度は100km/hを超えていない。つまり、遠心力により第2爪部材40の第2先端部42dが溝5から離脱する、ということが発生していない。よって、ロックモードが維持された状態で、車両300が停止している。なお、このような理由から時刻T0においてもロックモードとなっている。
【0069】
時刻T8に、車両300が後退し、モータ110が駆動する。なお、この時のモータ110が生成するトルクの向きは、車両300の前進時と反対方向(第2回転方向L2)となる。よって、第2爪部材40の第2先端部42dが歯部4と噛み合い、外輪本体10にトルクが伝達される。そして、外輪1は、内輪2と等速で第2回転方向L2に回転する。これにより車輪101L、101Rは、車両用駆動装置200からトルクが伝達され、車両300の前進時と反対方向に回転する。
【0070】
以上、実施形態1の車両用駆動装置200によれば、車両300の走行中であり、モータ110の停止時(時刻T3から時刻T5の間)、ワンウェイクラッチモードとなる。つまり、ラチェット型クラッチ装置100により、トルク伝達経路が切断される。よって、モータ110の出力軸111と内輪2が回転しないため、モータ110に対して車輪101L、101Rからの逆入力の回転が伝達されず、車両300の走行中の負荷が軽減される。
【0071】
以上、実施形態1について説明した。次に、車両用駆動装置200のトルク伝達経路上に配置されるラチェット型クラッチ装置の位置を変更した変形例について説明する。各変形例では、実施形態1との相違点に絞って説明する。
【0072】
(変形例1)
図14は、変形例1の車両用駆動装置200Aの構成を示す図である。
図14に示すように、変形例1の車両用駆動装置200Aは、ラチェット型クラッチ装置100が中間軸123と中間ギヤ124との間に介在している点で、実施形態1と相違する。よって、変形例1においては、モータ110の出力軸111は、第1ギヤ121に連結している。中間軸123は、ラチェット型クラッチ装置100の内輪本体3(
図1参照)に連結している。また、ラチェット型クラッチ装置100の外輪本体10(
図1参照)には、第2中間軸125が連結している。第2中間軸125には、中間ギヤ124が連結している。
【0073】
以上、変形例1の車両用駆動装置200Aによれば、車両300の走行中であり、かつモータ110の停止時(
図13の時刻T3から時刻T5の間を参照)、モータ110の出力軸111、減速ギヤ120及び内輪2が回転しないため、モータ110に対して車輪101L、101Rからの逆入力の回転が伝達されず、車両300の走行中の負荷が軽減される。
【0074】
(変形例2)
図15は、変形例2の車両用駆動装置200Bの構成を示す図である。
図15に示すように、変形例1の車両用駆動装置200Bは、ラチェット型クラッチ装置100がリングギヤ130とディファレンシャルギヤ140との間に介在している点で実施形態1と相違する。よって、変形例2においては、リングギヤ130は、リングギヤ用軸131が連結している。リングギヤ用軸131は、ラチェット型クラッチ装置100の内輪本体3(
図1参照)に連結している。また、ラチェット型クラッチ装置100の外輪本体10(
図1参照)は、ディファレンシャルギヤ140のデフケースと連結している。
【0075】
変形例2の車両用駆動装置200Bによれば、車両300の走行中であり、かつモータ110の停止時(
図13の時刻T3から時刻T5の間を参照)、モータ110の出力軸111、減速ギヤ120、中間ギヤ124、リングギヤ130及び内輪2が回転しないため、モータ110に対して車輪101L、101Rからの逆入力の回転が伝達されず、車両300の走行中の負荷が軽減される。
【0076】
(変形例3)
図16は、変形例3の車両用駆動装置200Cの構成を示す図である。
図16に示すように、変形例3の車両用駆動装置200Cは、ラチェット型クラッチ装置100がディファレンシャルギヤ140と車輪101Rとの間に介在している点で、実施形態1と相違する。よって、変形例3のディファレンシャルギヤ140において、一対のサイドギヤ(不図示)のうち一方のサイドギヤに伝達軸141が連結している。この伝達軸141は、ラチェット型クラッチ装置100の内輪本体3(
図1参照)に連結している。ラチェット型クラッチ装置100の外輪1(
図1参照)には、車軸150Rが連結している。
【0077】
変形例3において、車両300の走行中であり、かつモータ110の停止時(
図13の時刻T3から時刻T5の間を参照)、車両用駆動装置200Cはワンウェイクラッチモードである。よって、車軸150Rと連結する外輪1は、第1回転方向L1に回転する。また、外輪1のトルクは内輪2に伝達しない。
【0078】
さらに、車軸150Lの回転方向は、車軸150Rと同じ第1回転方向L1である。ここで、モータ110の停止時により、デフケース(不図示)の回転が停止している。よって、車軸150Rと連結するサイドギヤと、伝達軸141が連結するサイドギヤは、互いに反対方向に回転する。つまり、伝達軸141は、第2回転方向L2に回転する。よって、内輪2は、外輪1と反対方向の第2回転方向L2に回転する。ワンウェイクラッチモードであるため、内輪2のトルクは、外輪1に伝達しない。
【0079】
以上から、変形例3によれば、車両300の走行中であり、かつモータ110の停止時(
図13の時刻T3から時刻T5の間を参照)、減速ギヤ120と中間ギヤ124とリングギヤ130とディファレンシャルギヤ140のデフケース(不図示)が回転しないため、モータ110に対して車輪101L、101Rからの逆入力の回転が伝達されず、車両300の走行中の負荷が軽減される。
【0080】
以上、車両用駆動装置200の変形例を説明した。次に、ラチェット型クラッチ装置100の変形例を説明する。
【0081】
(変形例4)
図17は、変形例4のラチェット型クラッチ装置100Dのうち第1爪部材30とその近傍を拡大した拡大図である。
図17に示すように、変形例4のラチェット型クラッチ装置100Dは、シャッタープレート50の規制歯部52に斜面80が形成されている点で、実施形態1と相違する。
【0082】
規制歯部52は、第1回転方向L1を向く側面52aと、径方向外側を向く外径面52bと、を有している。なお、側面52aは、第1爪部材30の第1先端部32dと接触する面である(
図8参照)。斜面80は、側面52aと外径面52bとが交わる角部に配置されている。斜面80は、第1回転方向L1に向かうにつれて径方向内側に位置するように傾斜している。次に変形例4のラチェット型クラッチ装置100Dの効果を説明する。
【0083】
図18は、変形例4において、短い第1爪部材30が溝5に入り込んだ状態を示した図である。
図19は、変形例4において、長い第1爪部材30が斜面80に当接した状態を示した図である。
【0084】
第1爪部材30は、製造過程で長手方向の長さのばらつき(公差)が生じる。よって、複数の第1爪部材30には、長手方向の長さが小さい(以下、単に「短い」と称する)第1爪部材30(
図18参照)と、長手方向の長さが大きい(以下、単に「長い」と称する)第1爪部材30(
図19参照)と、が含まれる。
【0085】
外輪1に対し内輪2が第1回転方向L1に相対回転している場合、複数の第1爪部材30のうち短い第1爪部材30は、
図18に示すように、第1先端部32dが溝5に入り込む。そして、先端面32cが側面52aと接触する。
【0086】
一方、短い第1爪部材30が規制歯部52と接触した時点で、長い第1爪部材30は、側面52aまでの距離が短く、溝5に入り込むことができない。よって、
図19に示すように、第1爪部材30の第1先端部32dは、斜面80に当接した状態となる。詳細には、第1爪部32のうち、内面32aと先端面32cが交わる角部32eが規制歯部52の斜面80に当接した状態となる。なお、第1爪部32は、第1ばね35(
図3等を参照)により径方向内側に付勢されている。よって、角部32eが斜面80に当接した状態が維持される。
【0087】
以上から、シャッタープレート50の回転は、長い第1爪部材30ではなく、短い第1爪部材30により規制される。そして、内輪本体3のみが第1回転方向L1にさらに回転すると、
図18に示すように、歯部4の一側面6は、第1回転方向L1の方に移動する(
図18の矢印D1参照)。そして、歯部4の一側面6は、第1爪部材30の第1先端部32dと接触し、短い第1爪部材30と歯部4が噛み合う。
【0088】
同様に、
図19に示すように、歯部4の一側面6は、第1回転方向L1の方に移動すると(
図19の矢印D2参照)、斜面80に当接する角部32eにも接触する。これにより、長い第1爪部材30と歯部4が噛み合う。
【0089】
よって、変形例4によれば、長い第1爪部材30が規制歯部52の角部に接触して径方向外側に弾かれる、ということが回避される。このため、実施形態1よりも歯部4に噛み合う第1爪部材30の本数が増加する。そして、複数の第1爪部材30のうち一部の第1爪部材30のみ負荷がかかる、ということが回避される。
【0090】
そのほか、
図17に示すように、第1爪部材30の角部32eと、第1爪部材30の回動中心O31と、を結ぶ直線を仮想線M1と称する。また、斜面80に沿って引いた直線を仮想線M2と称する。仮想線M1と仮想線M2とが交わる角度θは、90°以上であることが好ましい。これによれば、斜面80が長くなり、規制歯部52の斜面80に当接する第1爪部材30が、言い換えると、歯部4に噛み合う第1爪部材30が増加する。
【0091】
以上、実施形態と変形例について説明したが、本開示は、実施形態で説明した例に限定されない。例えば、実施形態の内輪2は、弾性部材60を支持するためのケース70を有しているが、内輪本体3やシャッタープレート50で弾性部材60を支持できれば、ケース70を有していなくてもよい。また、弾性部材60の形状についても、実施形態で説明した形状に限定されない。
【符号の説明】
【0092】
1 外輪
2 内輪
3 内輪本体
4 歯部
5 溝
10 外輪本体
11 保持器
12 被嵌合部
14 嵌合部
15 開口部
16 軸部収容部
17 拡張収容部
30 第1爪部材
32 第1爪部
32d 第1先端部
40 第2爪部材
42 第2爪部
42d 第2先端部
50 シャッタープレート
52 規制歯部
53 規制溝
55 円弧穴
56 係止面
57 位置決め面
60 弾性部材
61 本体部
62 回動規制部
63 係止部
70 ケース
80 斜面
100、100D ラチェット型クラッチ装置
101L、101R 車輪
110 モータ
111 出力軸
120 減速ギヤ
121 第1ギヤ
122 第2ギヤ
123 中間軸
124 中間ギヤ
130 リングギヤ
140 ディファレンシャルギヤ
150L、150R 車軸
200、200A、200B、200C 車両用駆動装置
300 車両
【要約】
【課題】小型化を図り、ロックモードからワンウェイクラッチモードに切り替え可能なラチェット型クラッチ装置及び車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】ラチェット型クラッチ装置の内輪の外周面には、歯部と溝が交互に形成される。内輪は、内輪本体とシャッタープレートを有する。シャッタープレートの外周面に複数の規制歯部が形成される。軸方向から視て、歯部に対し規制歯部が第1回転方向にずれ、規制歯部が溝の一部に重なっている状態を前記シャッタープレートの閉状態とし、歯部に対し規制歯部の全てが重なっている状態をシャッタープレートの開状態とする。弾性部材は、開状態から閉状態となるようにシャッタープレートを付勢する。第1爪部材は、閉状態のときに溝に入り込み可能に形成され、第2爪部材は、開状態のときに溝に入り込み可能に形成され、かつ重心が第2爪部材の回動中心よりの先端部寄りに配置される。
【選択図】
図4