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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】熱処理方法および熱処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   C21D 11/00 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
C21D11/00 104
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020018591
(22)【出願日】2020-02-06
(65)【公開番号】P2021123758
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100169225
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 明
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】園部 勝
【審査官】山本 佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-239043(JP,A)
【文献】特開平05-214451(JP,A)
【文献】特開平11-202903(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056582(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/099457(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 11/00
C21D 1/00
C21D 9/00 - 9/44
G06N 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄装置および熱処理装置を含んで構成される熱処理システムを用いた熱処理方法であって、
前記洗浄装置および前記熱処理装置を制御するプログラマブルロジックコントローラが、
前記洗浄装置内の洗浄媒体にワークを浸漬させた際の前記洗浄媒体の初期状態から定常状態までの温度を示すアナログ信号を取得するステップと、
前記アナログ信号を、前記初期状態から前記定常状態までの区間における前記温度の時系列であるデジタル信号に変換するステップと、
前記初期状態から前記定常状態までの温度差を温度変化量と定義し、前記初期状態から前記定常状態までの時間差を所要時間と定義するとき、前記所要時間で規格化された経過時間である規格化時間と、前記温度変化量で規格化された温度である規格化温度との関係を示す加熱・冷却曲線を、2つの関数パラメータを含むベータ関数を用いて近似することにより近似曲線を生成するステップと、
前記加熱・冷却曲線前記近似曲線との残差平方和を算出するステップと、
前記温度変化量と、前記所要時間と、前記温度変化量を前記所要時間で除した予熱昇温速度とのうちのいずれか2つの値、および前記残差平方和を入力とし、前記熱処理装置における予熱温度、均熱所要時間、初期ガス量または油冷所要時間である制御値を出力とする学習済みのニューラルネットワークを用いて推論処理を行うステップと、
前記熱処理装置により前記ワークの熱処理が施される前に、前記推論処理を通じて得られた前記制御値を前記熱処理装置に出力するステップと、
を実行することを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
前記ニューラルネットワークの入力には、前記2つの関数パラメータがさらに含まれることを特徴とする請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項3】
洗浄装置および熱処理装置を含んで構成される熱処理システムを用いた熱処理方法であって、
前記洗浄装置および前記熱処理装置を制御するプログラマブルロジックコントローラに、
前記洗浄装置内の洗浄媒体にワークを浸漬させた際の前記洗浄媒体の初期状態から定常状態までの温度を示すアナログ信号を取得するステップと、
前記アナログ信号を、前記初期状態から前記定常状態までの区間における前記温度の時系列であるデジタル信号に変換するステップと、
前記初期状態から前記定常状態までの温度差を温度変化量と定義し、前記初期状態から前記定常状態までの時間差を所要時間と定義するとき、前記所要時間で規格化された経過時間である規格化時間と、前記温度変化量で規格化された温度である規格化温度との関係を示す加熱・冷却曲線を、2つの関数パラメータを含むベータ関数を用いて近似することにより近似曲線を生成するステップと、
前記加熱・冷却曲線と前記近似曲線との残差平方和を算出するステップと、
前記温度変化量と、前記所要時間と、前記温度変化量を前記所要時間で除した予熱昇温速度とのうちのいずれか2つの値、および前記残差平方和を入力とし、前記熱処理装置における予熱温度、均熱所要時間、初期ガス量または油冷所要時間である制御値を出力とする学習済みのニューラルネットワークを用いて推論処理を行うステップと、
前記熱処理装置により前記ワークの熱処理が施される前に、前記推論処理を通じて得られた前記制御値を前記熱処理装置に出力するステップと、
を実行させることを特徴とする熱処理プログラム。
【請求項4】
前記ニューラルネットワークの入力には、前記2つの関数パラメータがさらに含まれることを特徴とする請求項3に記載の熱処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理技術に関し、より詳細には、浸漬加熱および乾燥機能を有する洗浄装置を備えた熱処理システムにおいて、人工知能(AI:Artificial Intelligence)の処理を用いて加熱および冷却を行う熱処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱処理における加熱、均熱および冷却時間は、どのような重量および表面積のワークでも対応できるように十分な安全を考えて、作業者による冗長な時間設定がなされていた。このため、熱処理の作業工程(サイクルタイム)が長めに設定されることになり、生産性を向上させることが難しかった。そこで、加熱、均熱および冷却の処理時間を短縮するための技術が求められている。
【0003】
このような技術の例として、例えば特許文献1には、熱処理装置において、被処理体を加熱手段(載置台)上に載置して所定温度に加熱した後、被処理体を加熱手段の上方位置に移動して、冷却温度調整体によって被処理体を所定温度に冷却することが開示されている。これにより、被処理体の加熱および冷却処理時間の短縮を図ることができるとされている。
【0004】
また、例えば特許文献2には、真空加熱室、つまり高周波加熱誘導装置にてワークを予め加熱した後に水素加熱室でワークを加熱する熱処理装置が開示されている。これにより、短時間でワークを昇温させることができるとともに、ワークの温度を容易に適切な温度に昇温および保持することができるので、熱処理時間を短縮することができるとされている。
【0005】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示されている熱処理装置は、1つのワークの重量および表面積、二以上のワークを積み重ねた荷姿(行、列、段数)などの入力値が数値化されておらず、その評価方法も数値で評価されにくい。このため、処理時間の短縮にさらなる検討の余地がある。
【0006】
ここで、3D画像解析によってワークの表面積を求め、AIを用いて、アナログ/デジタル変換器を備えた産業用設備等のフィードバック制御の処理を行えば、多量のデータ(ビッグデータ)を分離・分析して入力値を数値化することが可能となる。
【0007】
また、近年は、様々な生産現場において、プログラマブルロジックコントローラ(PLC:Programmable Logic Controller)などの制御装置の内部でAI処理を行う技術が普及されつつある。
【0008】
このような技術の例として、例えば特許文献3には、時系列データの収集および格納の機能を搭載した制御装置において、制御装置が管理する1または複数の観測値から特徴量を生成し、その生成した特徴量を統計処理した上で、学習データとして保持して、何らかの新たな観測値が入力されると、当該入力された観測値が学習データからどの程度外れているのかを示す度合いを算出するとともに、その算出された外れの度合いに基づいて、異常の有無や劣化傾向を判断するAI処理が実施されることが開示されている。これにより、制御対象の製造装置や設備に生じる異常や劣化傾向を実質的にリアルタイムに検出できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平8-162405号公報
【文献】特開2008-180487号公報
【文献】特開2018-151917号公報
【文献】特開2017-187850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献3に開示されている制御装置は、制御対象の製造装置や設備などに応じて任意に構成することができる制御演算機能を有していることが記載されているが、スケーリングや平滑化(ノイズ除去)などの具体的なAI処理の演算方法に関しては開示されていない。
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、アナログ制御系のAI処理に適した簡便な符号化方式を提供することで加熱および冷却等の処理時間を最適化することによりそれらの処理時間を短縮し、生産性の向上、省エネルギー化、品質安定化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る熱処理方法は、洗浄装置から洗浄媒体の温度変化量のアナログ信号を取得するステップと、アナログ信号をデジタル信号に変換するステップと、変換されたデジタル信号の温度変化量を、ベータ関数を用いて近似することにより符号化するステップと、温度変化量と近似に用いたベータ関数との残差平方和を算出するステップと、昇温時間、温度変化量および残差平方和をAI処理の入力因子として入力するステップと、を含むことができる。
【0013】
また、本発明に係る熱処理方法は、洗浄装置から洗浄媒体の温度変化量のアナログ信号を取得するステップと、アナログ信号をデジタル信号に変換するステップと、変換されたデジタル信号の温度変化量を、ベータ関数を用いて近似することにより符号化するステップと、経時変化の実測値と近似に用いたベータ関数との残差平方和を算出するステップと、昇温時間、温度変化量および残差平方和をAI処理の教育用因子として入力するステップと、を含むことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る熱処理方法によれば、アナログ制御系のAI処理に適した簡便な符号化方式を提供することで加熱および冷却等の処理時間を最適化することによりそれらの処理時間を短縮し、生産性の向上、省エネルギー化、品質安定化を実現することができる。なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本技術中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る熱処理システムの構成例を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る演算処理装置の詳細な構成例を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係るニューラルネットワークの例を説明する模式図である。
図4A】本発明の一実施形態に係る演算処理装置による情報処理の流れの例を示すフローチャートである。
図4B】本発明の一実施形態に係る演算処理装置による情報処理の流れの例を示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施例を説明するための観測値と時間との関係を表すグラフである。
図6】本発明の一実施例を説明するためのベータ累積分布関数を表すグラフである。
図7】ベータ関数を表す式である。
図8】各ノードに入力される合計値を表す式である。
図9】AI処理部の学習機能を表す式である。
図10】荷姿による液浸放熱曲線を表すグラフである。
図11】荷姿による輻射放熱曲線を表すグラフである。
図12】荷姿の違いによるM.A.Aronovの大気炉における均熱時間の目安を定式化したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。また、各実施形態は、いずれも組み合わせることが可能である。
【0017】
まず、本発明の一実施形態に係る熱処理システムについて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る熱処理システム10の構成例を示す模式図である。
【0018】
図1に示すように、熱処理システム10は、一例として、洗浄装置11と、洗浄装置11に通信接続された演算処理装置12と、演算処理装置12に通信接続された熱処理炉13と、を備えている。なお、洗浄装置11および熱処理炉13の台数は、本実施形態に限らず、何台設置していてもよい。また、熱処理システム10は、一または二以上のワークMの荷姿を撮像する撮像装置であるカメラ14と、洗浄装置11および演算処理装置12の間に洗浄装置11内の洗浄媒体である洗浄液LにワークMを浸漬させた際の洗浄液Lの温度変化量Cを計測する温度センサ15と、を備えている。
【0019】
演算処理装置12は、画像取得部21と、フーリエ変換部22と、A/D変換部23と、β関数変換部24と、記憶部25と、AI処理部26と、を備える。演算処理装置12は、カメラ14で撮像したワークMの画像情報および温度センサ15で計測した洗浄液Lの温度変化量Cの情報を取得し、必要な処理を行ってから、熱処理炉13へ出力する。また、演算処理装置12は、熱処理炉13から送られてきたアナログ信号を取得し、取得したアナログ信号をデジタル信号に変換して必要な処理を行ってから、洗浄装置11へ出力するフィードバック制御も行うことができる。
【0020】
なお、演算処理装置12は、様々な産業機器に適用することができ、本実施形態のような産業機器の一例である洗浄装置11および熱処理炉13の他に、産業用ロボット等にも適用することができる。
【0021】
次に、図2を用いて、本実施形態に係る演算処理装置の詳細な構成例について説明する。図2は、本実施形態に係る演算処理装置12の詳細な構成例を示すブロック図である。
【0022】
図2に示すように、演算処理装置12は、画像取得部21、フーリエ変換部22、A/D変換部23、β関数変換部24、記憶部25およびAI処理部26の他、信号取得部27と、符号化部28と、復号部29と、出力部30と、を備えている。
【0023】
画像取得部21は、カメラ14で撮像したワークMの荷姿(行、列、段数)の画像情報を取得して、その画像情報をフーリエ変換部22へ送信する。フーリエ変換部22は、受信した画像情報をフーリエ変換し、1/1、1/2、1/3、・・・、1/20周期の荷姿の縦(行)、横(列)、高さ(段数)の情報として記憶部25へ送信する。
【0024】
信号取得部27は、洗浄装置11内の洗浄液LにワークMを浸漬させた際に温度センサ15で測定した洗浄液Lの温度変化量Cの情報や、洗浄装置11または熱処理炉13からのアナログ信号を取得して、それらをA/D変換部23へ送信する。
【0025】
A/D変換部23は、アナログ/デジタル変換器(A/D変換器)等を用いて、洗浄装置11および温度センサ15等から送られてきたアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0026】
符号化部28は、A/D変換部23で変換された洗浄液Lの温度変化量Cの情報等を、図7の式(B)で表されるベータ関数を用いて近似することにより符号化して、その符号化したデータをβ関数変換部24へ送信する。また、符号化部28は、A/D変換部23で変換されたデジタル信号の初期値から目標値までの経時変化を、図7の式(B)で表されるベータ関数を用いて近似することにより符号化して、その符号化したデータをβ関数変換部24へ送信することもできる。ここで、式(B)のαおよびβは、ベータ関数の自由度を表す定数である。
【0027】
β関数変換部24は、A/D変換部23で変換された洗浄液Lの温度変化量Cと、その温度変化量Cを符号化するための近似に用いたベータ関数(β関数)の自由度を表す定数α、βと、昇温速度(熱交換速度)tと、ワークMの潜熱(体積×比熱)の絶対値xと、温度変化量Cおよび近似に用いたベータ関数から算出した残差平方和σと、を記憶部25へ送信する。また、β関数変換部24は、A/D変換部23で変換されたデジタル信号の初期値から目標値までの経時変化の実測値と、その経時変化を符号化するための近似に用いたベータ関数と、の残差平方和を算出して記憶部25へ送信することもできる。
【0028】
ベータ関数は、2つの因子で曲線の偏りと凸度を表すので、初期値と最終値(目的値)、規格化した経過時間とベータ関数の高さを与え、どのベータ関数が一番アナログ信号に近いかを判断することで、どのような経路を通ったかを大雑把に把握することができる。アナログ信号にはいろいろな雑音(ノイズ)が含まれているが、実際の制御系ではノイズを評価するよりも目的値にどのようにして到達したかのほうがより重要である場合が多く、データ量削減のためにベータ関数を用いた。
【0029】
記憶部25は、フーリエ変換部22で変換された情報、A/D変換部23で変換されたデジタル信号またはβ関数変換部24で変換された情報を一時保存する。記憶部25に記憶された情報は、必要に応じて復号部29へ送信される。
【0030】
復号部29は、洗浄装置11の予熱昇温速度t、初期状態から定常状態までの温度変化量C、およびβ関数変換部24で算出された残差平方和σを記憶部25から取得して復号する。また、復号部29は、A/D変換部23で変換されたデジタル信号の初期値、目標値、および初期値から目標値までの経過時間と、符号化部28で符号化された経時変化の因子と、β関数変換部24で算出された残差平方和と、を記憶部25から取得して復号することもできる。復号部29は、復号した情報をAI処理部26へ送信する。
【0031】
AI処理部26は、復号部29から、洗浄装置11の予熱昇温速度t、初期状態から定常状態までの温度変化量C、およびβ関数変換部24で算出された残差平方和σをAI処理の入力因子として取得する。また、AI処理部26は、復号部29から、初期値、目標値、初期値から目標値までの経過時間、符号化された経時変化の因子、および残差平方和をAI処理の入力因子として取得することもできる。このように、AI処理部26は、記憶部25からデジタル信号を取得して熱処理炉13が最適に作業を行えるように情報処理を行う。
【0032】
さらに、AI処理部26は、復号部29から、洗浄装置11の予熱昇温速度t、初期状態から定常状態までの温度変化量C、およびβ関数変換部24で算出された残差平方和σをAI処理の教育用因子として取得することもできる。また、AI処理部26は、復号部29から、初期値、目標値、初期値から目標値までの経過時間、符号化された経時変化の因子、および残差平方和をAI処理の教育用因子として取得することもできる。
【0033】
出力部30は、AI処理部26で処理した情報を取得して、その情報を熱処理炉13または洗浄装置11へ送信する。
【0034】
次に、図3を用いて、本実施形態に係る演算処理装置12を用いたAI処理の例について説明する。図3は、本実施形態に係るAI処理に用いるニューラルネットワークの例を説明する模式図である。なお、ニューラルネットワークについては各種の文献に説明が記載されており、以下の説明は、例えば特許文献4を参照して記載した。
【0035】
始めに、機械学習について簡単に説明する。機械学習のプロセスは、学習フェーズと認識フェーズの2つを有している。学習フェーズでは、演算処理装置に認識させたい情報を学習させる処理であり、識別器を作成する処理を行う。認識フェーズでは、演算処理装置が識別器を用いて識別対象の情報から認識対象を認識する処理を行う。
【0036】
次に、ニューラルネットワークの例について説明する。図3に示すように、AI処理部26に、入力された学習用データV1、V2およびV3は、入力層31、中間層32~34、出力層35の順に流れていく。本実施形態では、一例として、3層の中間層32~34を有する多層型のニューラルネットワークを用いている。図3では、一例として、層の数が5個、入力層31のノード301-1~301-3の数が3個、第1中間層32のノード302-1~302-3の数が3個、第2中間層33のノード303-1~303-4の数が4個、第3中間層34のノード304-1~304-3の数が3個、出力層35のノード305-1~305-4の数が4個である。
【0037】
また、本実施形態のニューラルネットワークは、一例として、第2中間層33に教師データを送る第1教育層36と、出力層35に教師データを送る第2教育層37と、を有している。図3では、一例として、第1教育層36のノード306-1~306-4の数が4個で、第2教育層37のノード307-1~307-4の数が4個である。第1教育層36のノード306-1~306-4および第2教育層37のノード307-1~307-4は、それぞれ第2中間層33のノード303-1~303-4および出力層35のノード305-1~305-4の各ノードに対応している。なお、本実施形態では、一例として、教師関数のベースを以下の図12で説明するM.A.Aronovの曲線の式を用いる。
【0038】
入力層31に入力されたデータVjは初期設定が与えられている重み値Wjと乗算され、次の層の各ノードに入力される。
【0039】
例えば、第1中間層32のノード302-1~302-3のそれぞれへ入力される値(合計値)は図8の式(1)のようになる。式(1)のL1は入力層のノードの数、jは入力層の各ノードである。
【0040】
このように、各ノードには、直前の層の全てのノードへの入力と重み値の乗算の合計値が入力される。各ノードはこの合計値を活性化関数に代入して次の層の各ノードに出力する。活性化関数は、合計値に対しノードが発火(後段の層にデータを伝えるかどうか)するかどうかを決定する関数である。活性化関数としては、例えば、シグモイド関数(出力は0~1)やtanh関数(出力は-1~+1)等が使用されるが、これらに限られない。活性化関数により合計値が閾値未満では0(又は-1)が、閾値以上では1が出力される。したがって、合計値が0に変換される場合は後段の層にデータが伝えられない。
【0041】
ここで、認識フェーズでは、出力層35までデータが伝わると出力層35の各ノード305-1~305-4が同様に活性化関数による値を出力する。出力層35は、分類の数と同じ数のノードを有する。分類は、例えば、洗浄装置および熱処理装置を用いて熱処理を用いる場合、予熱温度、均熱所要時間、初期ガス量および油冷所要時間、などであり、出力層35の各ノード305-1~305-4がこれらのうちのいずれかに対応する。
【0042】
一方、学習フェーズでは、入力されたデータが予熱温度であれば、「予熱温度」に対応するノードが1を出力する可能性が高くなるように学習される。このような正しい分類をAI処理部26の認識機能部が行えるように、学習用のオリジナルの情報は教師データとして分類を有する。AI処理部26の学習機能部は、予熱温度、均熱所要時間、初期ガス量および油冷所要時間、という分類がある学習用のオリジナルの情報に教師データとして"1"を与え、そうでない情報に教師データとして("0"(又は-1))を与える。出力層35のノードの出力と教師データの1又は0との差が誤差であるため、学習部45は図9の式(2)および式(3)に示す誤差逆伝播法で入力層31から出力層35に至るまでの重み値を修正する。誤差逆伝播法では修正後の重み値は以下のように算出される。本実施形態では、教師データは、焼入れ装置である熱処理炉13における焼入れ後の油温上昇(昇温速度t)のベータ関数を用いている。
【0043】
図9の式(3)のEは誤差の大きさであり、tjは出力層35のj番目の教師データであり、yjはj番目のノードの出力値である。したがって、教師データと出力層35のノードの差の二乗を出力層35のノードで合計した値が誤差Eである。式(2)はこの誤差Eがゼロに近づくように重み値wを更新することを意味する。なお、εは正の微小値である。
【0044】
図9の式(4)と式(5)は重み値の具体的な算出方法を示す。まず、出力層35では、式(4)を用いて、出力層35の各ノードの出力値 yjN と教師データtjとの誤差からΔjN を計算する。また、中間層32~34では、式(5)を使って誤差信号Δjn (n <N ) を計算する。式(5)のΔjn+1の初期値がΔjNである。なお、Ln+1は後段の層のノードの数であり、Δjn+1は後段の層の誤差信号であり、値wk,jn+1,nは第n層のj番目のノードと第n+1層のk番目のノードの間の重み値である。第n層のj番目のノードと第n-1層のi番目のノードの間の重み値の修正量は図9の式(6)で表される。
【0045】
次に、図4Aおよび図4Bを用いて、本実施形態に係る演算処理装置によるフィードバック制御の情報処理の流れについて説明する。図4Aおよび図4Bは、演算処理装置12による情報処理の流れの例を示すフローチャートである。本実施形態の情報処理は、例えば、洗浄装置11を洗浄装置とし熱処理炉13を熱処理装置とする熱処理における情報処理に用いることができる。
【0046】
まず初めに、カメラ14で一または二以上のワークMの荷姿(行、列、段数)を撮像し、その後、ワークMを洗浄装置11内の洗浄液Lに浸漬させ、温度センサ15で洗浄液Lの温度変化量Cを計測する。演算処理装置12では、画像取得部21が、カメラ14で撮像したワークMの荷姿(行、列、段数)の画像情報を取得して、その画像情報をフーリエ変換部22へ送信する。フーリエ変換部22は、受信した画像情報をフーリエ変換し、1/1、1/2、1/3、・・・、1/20周期の荷姿の縦(行)、横(列)、高さ(段数)の情報として記憶部25へ送信する。上記処理以降に、以下の処理を開始する。
【0047】
S101において、信号取得部27は、温度センサ15から送られてきた昇温速度(熱交換速度)t、ワークMの潜熱(体積×比熱)の絶対値x、初期状態から定常状態までの洗浄液Lの温度変化量C等のアナログ信号を取得する。上記の他、アナログ信号としては、例えば、計測した給液時間、算出したワークの体積、算出したワークの重量、推定したワークの総比熱、計測した復温時間、および計測した温度下降量、などが挙げられる。
【0048】
S102において、A/D変換部23は、信号取得部27で取得したアナログ信号をデジタル信号に変換する。変換されたデジタル信号は、符号化部28に送信されるか、または記憶部25に一時保存される。
【0049】
S103において、符号化部28は、A/D変換部23で変換された洗浄液Lの温度変化量Cの情報を、あらかじめ用意したベータ関数または逐次計算により求めたベータ関数と整合させる。
【0050】
S104において、符号化部28は、ステップS103で整合させたベータ関数のうち、最も適した最適ベータ関数を選定する。
【0051】
S105において、符号化部28は、ステップS104で選定した最適ベータ関数を用いて近似することにより、A/D変換部23で変換された洗浄液Lの温度変化量Cの情報を符号化する。符号化した温度変化量Cの値は、記憶部25に一時保存される。ここで、機械制御において、デジタル信号が制御信号である場合は、アナログ信号から変換された制御信号の制御開始から目標到達までの経時変化を、ベータ関数を用いて近似することにより符号化する。
【0052】
S106において、β関数変換部24は、A/D変換部23で変換された洗浄液Lの温度変化量Cの情報と、その温度変化量Cの情報を符号化するための近似に用いた最適ベータ関数と、の残差平方和σを算出する。算出した残差平方和の値は、記憶部25に一時保存される。
【0053】
S107において、復号部29は、洗浄装置11の予熱昇温時間、初期状態から定常状態までの温度変化量C、およびβ関数変換部24で算出されたの残差平方和σ、を記憶部25から取得して復号する。
【0054】
S108において、AI処理部26は、復号部29で復号された各データをAI処理部26内のニューラルネットワークの入力層31に入力する。
【0055】
S109において、AI処理部26は、入力層31に入力されたデータを第1中間層32へ伝播させる。
【0056】
S110において、AI処理部26は、第1中間層32に入力されたデータを第2中間層33へ伝播させる。
【0057】
演算処理装置12は、第2中間層33へ伝播させたデータを出力部30から熱処理炉13へ出力する。
【0058】
次に、S111において、AI処理部26は、熱処理炉13から取得した教師データ1を、ステップS101からS107と同様の処理を行って第1教育層36へ教育用因子として入力する。
【0059】
S112において、AI処理部26は、第1教育層36に入力された教師データ1を第2中間層33へ逆伝播させる。
【0060】
S113において、AI処理部26は、教師データ1により学習した学習済みデータ1を第2中間層33から第1中間層32へ逆伝播させる。
【0061】
S114において、AI処理部26は、学習済みデータ1を第1中間層32から入力層31へ逆伝播させる。
【0062】
演算処理装置12が、入力層31へ逆伝播させた学習済みデータ1を出力部30から洗浄装置11へ送信して情報処理を終了する。
【0063】
一方、S201において、AI処理部26は、第2中間層33に入力されたデータを第3中間層34へ伝播させる。
【0064】
S202において、AI処理部26は、第3中間層34に入力されたデータを出力層35へ伝播させる。
【0065】
S203において、演算処理装置12は、出力層35から設定値を出力部30へ送信し出力部30から熱処理炉13へ出力する。
【0066】
次に、S204において、AI処理部26は、熱処理炉13から取得した教師データ2を、ステップS101からS107と同様の処理を行って第2教育層37へ教育用因子として入力する。
【0067】
S205において、AI処理部26は、第2教育層37に入力された教師データ2を出力層35へ逆伝播させる。
【0068】
S206において、AI処理部26は、教師データ2により学習した学習済みデータ2を出力層35から第3中間層34へ逆伝播させる。
【0069】
第3中間層34へ逆伝播させた学習済みデータ2を出力部30から洗浄装置11へ送信して情報処理を終了する。
【0070】
ここで、上記処理による効果の確認は、加熱電流の長さおよび積分値を用いて行う。また、教師データには、焼入れ後の油温上昇等の油温の変化、定常状態になるまでの時間とベータ関数を用いることができる。
【0071】
上記情報処理は、本実施形態に係る演算処理装置12の情報処理方法を実現する情報処理プログラムを演算処理装置12等のコンピュータに実行させることによって行うことができる。
【0072】
以上より、本実施形態に係る熱処理方法によれば、情報を取得した後でビッグデータとして処理するのではなく、IOT機器等の産業機器側でベータ関数を用いて入力層31に入力する入力因子を符号化することにより入力因子の数を数種類に減らしているため、入力層31のノードを激減させることができる。これにより、AI処理を行う場合に専用のハードおよびソフトを必要とせず、汎用のPLCで対応が可能となるので、PLCによるビッグデータの演算を容易にし、かつ、アナログ制御系のAI処理に適した簡便な符号化方式を提供することができる。
【0073】
本実施形態に係る熱処理システムによれば、現在値に対する目標値のあるアナログ制御システムにおいて、制御経路をその特徴を保持したままで非常に少ないデータ量に圧縮することができる。また、本実施形態に係る熱処理システムでは、加熱・冷却に対する有効比表面積を1つの数量ではなく、5つの数量で数値化すること、および加熱・冷却を代表的な2種類に分離している。
【0074】
また、機械制御におけるアナログ信号は、上述したようにベータ関数を用いて符号化することで、現在値に対する目標値とそれにかかった時間、およびその経路という信号に圧縮し、どれだけ近いかという残差を加えることで厳密ではないものの非常に効率的に圧縮することができる。
【0075】
また、IOT機器に複雑な演算機能を持たせるとIOT機器のプログラムが困難になるため、あらかじめ用意しておいた複数のβ関数の値を準備しておき、それらに対する残差が少ないβ関数を選択して返すというプログラムにすることで、IOT機器側の負担を減らし、かつ、その後のAI処理に必要十分な情報量を伝達することが可能となる。なお、IOT機器の演算時間および演算能力に余裕がある場合は、IOT機器側でガウスニュートン法等を用いてβ関数の最適化を実施することもできる。
【0076】
<実施例>
以下に、図5および図6を用いて、本実施形態に係る情報処理方法を用いた実施例について説明する。本実施例では、一例として、熱処理におけるフィードバック制御の情報処理について説明する。図5は、観測値と時間との関係を表すグラフである。図6は、経時変化を符号化するための近似に用いるベータ累積分布関数を表すグラフである。
【0077】
図5に示すように、熱処理炉の温度制御の様に開始時tsにおける観測値Osから所望の目標値Oeに向かってヒーターなどの制御機器を使用するフィードバック制御において、目標値Oeに達した時点teまたはあらかじめ想定しておいた観測打ち切り時間teまでの観測値O(t)の経時変化をバッファメモリに蓄積する。
【0078】
次に、図6に示すように、目標値に達した時点またはあらかじめ設定した制御打ち切り時間に到達した時点で、バッファメモリ内のデータを経過時間ΔTと開始時の観測地Osと目標値Oeの差ΔOで規格化(符号化)する。
【0079】
そして、規格化された信号をあらかじめ用意しておいたまたは逐次計算により求めたベータ累積分布関数と比較し、残差の平方和を計算する。このとき、比較するベータ累積分布関数は、所望の経路分類と計算負荷等に合わせて選択される。
【0080】
本実施例の情報処理方法によれば、例えば、熱処理炉の加熱の場合、5種類程度の入力因子を用意するだけでも、AI処理を活用しない場合に比べて、その後の工程管理を効率的に行うことが可能となる。
【0081】
また、実際の制御においても、人間の感覚のような、ワークが重い、軽い、中ぐらいという程度であっても、まったく制御していないよりははるかに制御性因子としては細分化されるようになる。さらに、機械制御において、「いつもとちがう」というのは予防保全において重要な要素であり、よく見られるベータ関数をあらかじめ用意しておくというのは大事な要素になる。例えば、ノイズが入ったとか、いつもと違う(異常な、想定外の)データの時には残差が大きくなるので、異常と判定することができる。
【0082】
ここで、図10から図12を用いて、熱処理を行うワークの荷姿と熱量との関係性について説明する。図10は、荷姿による液浸放熱曲線を表すグラフである。図11は、荷姿による輻射放熱曲線を表すグラフである。
図12は、荷姿の違いによるM.A.Aronovの大気炉における均熱時間の目安を定式化したグラフである。
【0083】
本実施形態では、加熱および冷却等の処理時間を最適化することによりそれらの処理時間を短縮するため、様々なワークの大きさや重量、荷姿に対する加熱と冷却のしやすさを2つの接触(液浸)加熱・冷却と輻射加熱・冷却に分けて有効比表面積で数値化している。
【0084】
製品は必ず表面を通じて熱の授受を行う。授受の量(絶対値)は体積(×比熱)に依存し、同一ワーク(熱処理の場合:鉄)の比熱が一定であることから、2種類の加熱・冷却方法に対して、有効比表面積という数値を定義することで、加熱・冷却にしやすさが数値化できる。
【0085】
図10に示すように、液(気体)に接触する面積が多いほど早く、液浸(気化)比表面積は洗浄装置とリファイニング(ガス冷)、焼き戻し炉の保持時間を決めるのに重要であることがわかる。
【0086】
図11に示すように、シールド効果が出るので、物の数が多いほど遅く、輻射比表面積は真空加熱炉の均熱時間を決めるのに重要であることがわかる。
【0087】
したがって、接触(液浸)加熱・冷却時と放射加熱・冷却時のそれぞれ加熱・冷却曲線は、製品の大きさ、表面積に依存しており、加熱・冷却曲線を有効比表面積という数値にすればよい。現在値から目標値までの経路をベータ関数と最小二乗近似で一番近い数値としている。最終的に、加熱・冷却曲線は、時間、温度差、ベータ因子1、ベータ因子2、ベータ因子高さ、の5ワードに圧縮される。
【0088】
図12(a)は隙間なくワークを積み込んだ荷姿の場合、図12(b)は隙間を空けてワークを積み込んだ荷姿の場合、図12(c)は軸物を立てた荷姿の場合、図12(d)は歯車を横向きに積んだ荷姿の場合、の均熱時間の目安を表している。ここで、Tab:均熱時間(分)、N:段数(列数)、D:製品径(mm)、T:厚さ(mm)としている。
【0089】
本実施形態に係る熱処理方法は、洗浄装置11から熱処理装置13へ熱処理に必要な荷姿(重量、比表面積)に関する情報を送る方法である。上記熱処理方法によれば、熱処理システムにおける、加熱を要する熱処理などの後工程において、加熱温度および表面処理時の必要なガス量を低減し、加熱時間を短縮することができる。これにより、アナログ制御系のAI処理に適した簡便な符号化方式を提供することで加熱および冷却等の処理時間を最適化することによりそれらの処理時間を短縮し、生産性の向上、省エネルギー化、品質安定化を実現することができる。
【0090】
さらに、本実施形態に係る熱処理方法を制御用のPLCに適用するだけでなく、温度調節計に適用することにより、PLCの処理負担を減らし、より一般化することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明は、産業機器の制御装置等でAI処理を活用し、後工程の処理サイクルを削減する技術分野に関するものであり、産業上の利用可能性を有するものである。
【符号の説明】
【0092】
10 熱処理システム
11 洗浄装置
12 演算処理装置
13 熱処理炉
14 カメラ
15 温度センサ
21 画像取得部
22 フーリエ変換部
23 A/D変換部
24 β関数変換部
25 記憶部
26 AI処理部
27 信号取得部
28 符号化部
29 復号部
30 出力部
31 入力層
32~34 中間層
35 出力層
36、37 教育層
M ワーク
L 洗浄液
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12