(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ブレーキ装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16D 65/22 20060101AFI20240718BHJP
F16D 51/12 20060101ALI20240718BHJP
F16D 67/02 20060101ALI20240718BHJP
F16B 11/00 20060101ALI20240718BHJP
B23K 26/22 20060101ALI20240718BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20240718BHJP
B23K 26/28 20140101ALI20240718BHJP
F16D 121/14 20120101ALN20240718BHJP
F16D 125/36 20120101ALN20240718BHJP
【FI】
F16D65/22
F16D51/12
F16D67/02 K
F16B11/00 D
B23K26/22
B23K26/21 N
B23K26/28
F16D121:14
F16D125:36
(21)【出願番号】P 2020068167
(22)【出願日】2020-04-06
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【氏名又は名称】小川 啓輔
(74)【代理人】
【識別番号】100144624
【氏名又は名称】稲垣 達也
(72)【発明者】
【氏名】香取 孝宜
(72)【発明者】
【氏名】中野 雅司
(72)【発明者】
【氏名】手塚 尚和
(72)【発明者】
【氏名】橋本 誉史
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-184784(JP,A)
【文献】特開2015-144095(JP,A)
【文献】特開平03-066485(JP,A)
【文献】国際公開第2015/079742(WO,A1)
【文献】特開2017-045610(JP,A)
【文献】特開平11-192567(JP,A)
【文献】特開2016-023130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
F16B 9/00-11/00
F16D 49/00-71/04
F16D 121/14
F16D 125/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の内周面と、前記内周面の軸方向を向いた側面とを有するリングと、
第1面と、前記第1面とは反対側の第2面とを有するプレートとを備える装置であり、前記プレートの前記第1面に前記リングの前記側面がレーザ溶接により固定された装置の製造方法であって、
前記リングの前記側面と前記第1面とを接触させた状態で、前記リングを前記プレートに位置決めする位置決め工程と、
前記第2面における、前記軸方向から見て前記リングと重なる位置に、前記内周面の周方向に等角度間隔で離れた6箇所
の位置にレーザを照射して点状にレーザ溶接し、前記リングを前記プレートに仮固定する第1溶接工程と、
前記第2面における、前記軸方向から見て前記リングと重なる位置に、前記周方向に沿ってレーザを連続的に照射して円形にレーザ溶接し、前記リングを前記プレートに本固定する第2溶接工程と、を有し、
前記第1溶接工程において、前記内周面の周方向に等間隔に離れた3箇所の位置にレーザを点状に照射してレーザ溶接した後、当該3箇所の点状の溶接箇所の間の3箇所の位置にレーザを点状に照射してレーザ溶接をすることを特徴とする装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートのハイトアジャスト機構などに使用されるブレーキ装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用シートのハイトアジャスト機構には、入力側に設けられた上下に揺動させるレバーの操作によって出力軸が回転するが、シートおよび乗員の重みによってシートが下がろうとする力が出力軸に掛かっても、出力軸が回転しないように構成されたブレーキ装置が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1のブレーキ装置は、円筒状の内周面を有する外輪と、この内周面に対向する複数のブレーキシューと、ブレーキシューの内側に配置された出力側回転部材とを備えている。そして、出力側回転部材に回転力が入力された場合には、出力側回転部材によってブレーキシューが外輪の内周面に押し付けられることで内周面とブレーキシューの間に摩擦力が発生して、出力側回転部材とブレーキシューが回転することができないようになっている。一方、回転方向でブレーキシューと係合する入力側回転部材に回転力が入力された場合には、ブレーキシューと出力側回転部材を回転させることが可能となっている。
そして、外輪は、取付板にレーザ溶接によって固定されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、レーザ溶接により取付板に外輪を固定する場合に、溶接時の熱により外輪に歪みが発生する。そして、特許文献1のようなブレーキ装置においては、外輪の内周面の真円度が悪いと、ブレーキ力が正しく発揮できないおそれがある。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑みてなされたものであり、リングの内周面の歪みが小さく、かつ、リングがしっかりとプレートに固定されたブレーキ装置を提供することを目的とする。
また、プレートにリングをレーザ溶接で固定した装置の製造方法において、リングの円筒状の内周面の歪みが小さい状態で、リングをプレートにしっかりと固定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記した目的を達成するための本発明のブレーキ装置は、円筒状の内周面と、内周面の軸方向を向いた側面とを有するリングと、リングの側面がレーザ溶接により固定された第1面と、第1面とは反対側の第2面とを有するプレートと、内周面の内側に配置されたシャフトと、シャフトがリングに対して回転しないブレーキ状態と、回転する解除状態とを形成可能なブレーキ機構とを備えたブレーキ装置である。
プレートは、第2面における、軸方向から見てリングと重なる位置に、内周面の周方向に等角度間隔で離れた点状の第1溶接痕と、周方向に沿う円形の第2溶接痕とを有し、第1溶接痕は4つ以上であることを特徴とする。
【0008】
このようなブレーキ装置においては、4つ以上の点状の第1溶接痕によって、熱が溜まらない状態でリングとプレートが固定されている上、円形の第2溶接痕によりしっかりとリングとプレートが固定されている。このため、リングの円筒状の内周面の歪みが小さく、かつ、リングがしっかりとプレートに固定されたブレーキ装置を提供することができる。
【0009】
前記したブレーキ装置において、第1溶接痕は6つ以上であることが望ましい。
【0010】
前記した目的を達成するための本発明の装置の製造方法は、円筒状の内周面と、内周面の軸方向を向いた側面とを有するリングと、第1面と、第1面とは反対側の第2面とを有するプレートとを備える装置であり、プレートの第1面にリングの側面がレーザ溶接により固定された装置の製造方法である。
この製造方法は、リングの側面と第1面とを接触させた状態で、リングをプレートに位置決めする位置決め工程と、第2面における、軸方向から見てリングと重なる位置に、内周面の周方向に等角度間隔で離れた4箇所以上の位置にレーザを照射して点状にレーザ溶接し、リングをプレートに仮固定する第1溶接工程と、第2面における、軸方向から見てリングと重なる位置に、周方向に沿ってレーザを連続的に照射して円形にレーザ溶接し、リングをプレートに本固定する第2溶接工程と、を有する。
【0011】
このような装置の製造方法によれば、第1溶接工程において、内周面の周方向に等角度間隔で離れた4箇所以上の位置にレーザを照射して点状にレーザ溶接するので、リングとプレートは、熱が溜まらない状態で仮固定される。この仮固定の後、第2溶接工程により、リングとプレートを円形にレーザ溶接するので、リングの内周面の歪みが小さい状態でリングをプレートにしっかりと固定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のブレーキ装置によれば、リングの円筒状の内周面の歪みを小さくすることができる。
また、本発明の装置の製造方法によれば、リングの円筒状の内周面の歪みが小さい状態で、リングをプレートにしっかりと固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】外輪と取付板を軸方向における出力側から見た図である。
【
図5】ブレーキシューの内側面付近の拡大図(a)と、出力側回転部材の対向面付近の拡大図(b)である。
【
図6】クラッチユニットの、
図4のZ-Z断面図(a)と、
図4のY-Y断面図(b)である。
【
図9】クラッチユニットをカバー部材側から見た斜視図である。
【
図10】(a)ラチェット装置の横断面図と、(b)突出部の拡大図である。
【
図11】ラチェット装置の動作を説明する図であり、操作入力部材を時計回りに回転させた場合を示す。
【
図12】ラチェット装置の動作を説明する図であり、操作入力部材を反時計回りに戻した場合を示す。
【
図13】ブレーキ装置の動作を説明する図であり、出力側回転部材に時計回りの回転トルクを与えた場合を示す。
【
図14】ブレーキ装置の動作を説明する図であり、
図13の状態から、入力側回転部材に反時計回りの回転トルクを与えた場合を示す。
【
図15】ブレーキ装置の動作を説明する図であり、
図13の状態から、入力側回転部材に時計回りの回転トルクを与えた場合を示す。
【
図16】ブレーキ装置の動作を説明する図であり、
図15の状態から、入力側回転部材を時計回りにさらに回転させた状態を示す。
【
図17】ブレーキ装置の動作を説明する図であり、出力側回転部材に時計回り方向の過大な回転トルクを与えた状態を示す。
【
図19】レーザ溶接機に外輪と取付板を固定した状態を示す平面図(a)と断面図(b)である。
【
図20】比較例および実施例における溶接前後の内周面の真円度の変化量を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、本発明のブレーキ装置を備える一実施形態のクラッチユニット1は、乗物用シートの一例としての車両用シートSのシートクッションS1の高さを調整するための公知のハイトアジャスト機構に適用されるものである。クラッチユニット1は、操作入力部材50にレバー75が取り付けられ、レバー75の操作により、後述する出力側回転部材30を回転させてハイトアジャスト機構を駆動してシートクッションS1の高さを調整可能である。具体的には、レバー75を中立位置Nから上げると、シートクッションS1が所定量上がり、レバー75を中立位置Nから下げると、シートクッションS1が所定量下がるようになっている。なお、レバー75を、上または下の位置から中立位置Nに戻すときには、出力側回転部材30が回転しないようになっている。
【0015】
図2に示すように、クラッチユニット1は、筐体100に各部材が収納されて構成されている。なお、筐体100は、リングの一例としての外輪10、プレートの一例としての取付板85およびカバー部材60の組合せにより構成されている。また、以下の説明では、カバー部材60および操作入力部材50が配置される
図2の左側を「入力側」と称し、出力側回転部材30が配置される
図2の右側を「出力側」と称する。
【0016】
クラッチユニット1は、入力側に設けられ、操作入力部材50の揺動動作による入力トルクを伝達・遮断するラチェット装置2と、出力側に設けられ、ラチェット装置2からの入力トルクを出力側回転部材30の出力ギヤ35に伝達するとともに、出力ギヤ35からの逆入力トルクを遮断するブレーキ装置3とを備えてなる。
【0017】
ラチェット装置2とブレーキ装置3の構成部品の概略を説明すると、ラチェット装置2は、操作入力部材50と、規制部材71と、ローラ72と、第1リターンスプリング73と、第2リターンスプリング74と、レバー75と、抜け止め板77とを備えてなる。また、ブレーキ装置3は、外輪10と、ブレーキシュー20と、シャフトの一例としての出力側回転部材30と、入力側回転部材40と、可動片の一例としてのローラ81と、スプリング82と、間隔保持部材の一例としての摩擦部材90と、ワッシャ76とを備えてなる。なお、入力側回転部材40は、ラチェット装置2の出力部材であるとともに、ブレーキ装置3の入力部材であり、ラチェット装置2とブレーキ装置3のいずれの部品ともいうことができる。ブレーキ装置3のうち、ブレーキシュー20およびローラ81は、出力側回転部材30が外輪10に対して回転しないブレーキ状態と、回転する解除状態とを形成可能なブレーキ機構を構成する部材の一例である。
【0018】
次に、ブレーキ装置3およびラチェット装置2の構成の詳細を説明する。
まず、ブレーキ装置3の構成について説明する。
外輪10は、所定肉厚のリングからなり、円筒状の内周面11と、円筒状の外周面12と、内周面11と外周面12を繋ぐ一対の側面13,14とを有している。一対の側面13,14は、内周面11よりも外輪10の径方向外側に位置し、内周面11の軸線に対し直交する平面となっている。つまり、一対の側面13,14は、内周面11の軸方向を向いている。なお、ブレーキ装置3の説明において、径方向および周方向は、外輪10の内周面11を基準とする。
【0019】
外輪10とともに筐体100の一部を構成する取付板85は、ブレーキ装置3を支持するための板金部材である。取付板85は、シートクッションS1のフレームなどにブレーキ装置3を取り付けるための取付孔85Bが2つ形成されている。また、取付板85は、中央に出力側回転部材30を通すための貫通孔85Aが形成されている。
取付板85は、外輪10の側面14がレーザ溶接により固定された第1面851と、第1面とは反対側の第2面852とを有する。さらに、取付板85の下部には、入力側に向けて延出するスプリング保持部85Cが設けられている。外輪10は、取付板85と固定されていることで、クラッチユニット1は、いろいろな装置に取り付けることが可能である。
【0020】
図3に示すように、内周面11の軸方向から見て、取付板85は、第2面852における外輪10と重なる位置に、点状の第1溶接痕Wn(W1~W6)と、円形の第2溶接痕WCとを有する。
第1溶接痕Wnは、内周面11の周方向に互いに等角度間隔で離れて複数配置されている。第1溶接痕Wnは、4つ以上であることが望ましく、本実施形態では、取付板85は、一例として6つの第1溶接痕Wnを有している。6つの第1溶接痕Wnは、内周面11と同じ中心の一の円周上に位置している。
第2溶接痕WCは、内周面11の周方向に沿う円形の溶接痕である。第2溶接痕WCは、内周面11と同じ中心の一の円周上に位置している。
図3においては、第1溶接痕Wnは、第2溶接痕WCと重なった位置に配置された例を示しているが、第1溶接痕Wnは、第2溶接痕WCの外側または内側にずれて配置されていても構わない。
【0021】
図2に戻り、ブレーキシュー20は、外輪10との間でブレーキ力を発生する部材であり、外輪10の径方向内側に周方向に等間隔で並ぶように3つ配置されている。ブレーキシュー20は、周方向に延びる本体部20Aと、本体部20Aの外周において径方向外側に突出する突出部20Bおよび突起20Cとを有して構成されている。
【0022】
突出部20Bは、本体部20Aの外周の周方向両端部に1つずつ設けられている。各突出部20Bは、径方向外側の先端に、外輪10の内周面11に対向して当該内周面11と接触可能なブレーキ面21を有している。このブレーキ面21は、外輪10の内周面11と略同じ曲率であり、
図4に示すように、ブレーキ面21のうち、周方向の外側付近(各ブレーキシュー20を基準とする周方向外側)で外輪10の内周面11に接触するように配置されている。これにより、ブレーキシュー20が径方向外側に付勢されたときには、ブレーキ面21の周方向外側付近の接触部が外輪10の内周面11に押し付けられるようになっている。
【0023】
突起20Cは、本体部20Aの外周の周方向中央部に設けられている。突起20Cの径方向外側の先端には、外輪10の内周面11に当接可能な支持面26が設けられている。別の言い方をすれば、支持面26は、一対のブレーキ面21の間における中央に設けられている。この支持面26は、外輪10の内周面11と略同じ曲率であり、外輪10の内周面11に沿った円筒面形状を有している。支持面26は、ブレーキシュー20および出力側回転部材30に負荷が掛かっていない状態において、外輪10の内周面11から離間している。
【0024】
ブレーキシュー20は、一対のブレーキ面21の一方と支持面26との間、および、一対のブレーキ面21の他方と支持面26との間に、ブレーキ面21より小径の円筒面状の外周面22を有している。また、ブレーキシュー20は、径方向内側を向く内側面23を有している。そして、ブレーキシュー20は、周方向の端部に内側面23の両端部と2つのブレーキ面21の端部21Eとを繋ぐ端面24を有している。また、ブレーキシュー20は、ブレーキ面21と外周面22との間の段差に、周方向を向く回転力入力面25が形成されている。
【0025】
内側面23は、それぞれ、出力側回転部材30の後述する対向面36に対向する3つの面を有している。詳しくは、
図5(a)に示すように、内側面23は、第1接触面23Aと、第1接触面23Aに対して図の反時計回り側に配置された第1傾斜面23Bと、第1接触面23Aに対して図の時計回り側に配置された第1傾斜面23Cとを有している。第1接触面23Aは、ローラ81と接触可能であるととともに、一対のブレーキ面21の周方向の両方の端部21E同士を繋いだ直線L1(
図4参照)に沿った方向(
図5(a)に矢印で示した接続方向)に平行な平面となっている。第1傾斜面23B,23Cは、これらの間にある第1接触面23Aから離れるにつれて対向面36(図の下側)に近づくように第1接触面23Aに対して傾斜した平面となっている。
【0026】
図2に示すように、出力側回転部材30は、軸状の作用部31と、この作用部31の出力側に形成されたフランジ32と、作用部31から入力側に突出し、作用部31と同軸で小径の支持軸部33と、フランジ32の出力側に突出して形成された出力ギヤ35とを備えて構成されている。出力側回転部材30は、内周面11の内側に配置されている。また、出力側回転部材30は、各ブレーキシュー20の径方向内側に配置されている。出力ギヤ35は、取付板85の貫通孔85Aを通して出力側に突出している。
【0027】
図4に示すように、作用部31は、その外周に、ブレーキシュー20の内側面23に対向する対向面36と、曲面部38とを有している。対向面36は、各ブレーキシュー20の内側面23に対応して作用部31の外周に3つ設けられている。各内側面23と各対向面36の間には、一対のローラ81が配置されている。また、曲面部38は、各ブレーキシュー20に対応した各対向面36を繋ぐ部分であり、作用部31の外周の周方向に隣り合う一対の対向面36の間に1つずつ、合計で3つ設けられている。曲面部38は、出力側回転部材30の回転中心を中心とする断面視円弧形状の曲面として形成されている。
【0028】
図5(b)に示すように、対向面36は、当該対向面36における周方向の外側の両端部に1つずつ配置された第2接触面36A,36Bと、両端部の各第2接触面36A,36Bを繋ぐ接続面部36Cとを有している。第2接触面36Aは、接続面部36Cに対して図の反時計回り側に配置され、第2接触面36Bは、接続面部36Cに対して図の時計回り側に配置されている。
【0029】
第2接触面36A,36Bは、ブレーキシュー20に負荷が掛かっていない状態において、ローラ81と接触可能であるとともに、第1接触面23Aに対して傾斜した傾斜部361と、傾斜部361の外側に連続して配置された、曲面部362とを有している。傾斜部361は、外輪10の内周面11の中心11Cを通り、第1接触面23Aに直交する基準平面PLから離れるほど第1接触面23A(図の上側)に近づくように傾斜している。また、曲面部362は、出力側回転部材30の軸方向に沿って見て、ブレーキシュー20に向けて凸となる凸形状であり、基準平面PLから離れるほど曲率半径が小さくなる曲面となっている。このような第2接触面36A,36Bを有することで、対向面36は、ブレーキシュー20の内側面23の一部である第1接触面23Aに対して非平行な部分を含んでいる。
【0030】
図5(b)に示すように、接続面部36Cは、周方向の中央部に設けられた平面部36Dと、周方向の両端部に設けられた傾斜部36Eとを有している。平面部36Dは、ブレーキシュー20および出力側回転部材30に荷重が入力されていない状態において、基準平面PLに対して直交する平面となっている。これにより、平面部36Dは、ブレーキシュー20および出力側回転部材30に荷重が入力されていない状態において、第1接触面23Aと平行に配置される。傾斜部36Eは、基準平面PLから離れるほど、言い換えれば、平面部36Dの端から第2接触面36A,36Bの周方向内側の端に向けて、第1接触面23Aから離れるように傾斜している。これにより、対向面36は、各第2接触面36A,36Bと接続面部36Cとの接続部分に、第2接触面36A,36Bの周方向内側の端部と傾斜部36Eとによって形成される凹部36Fを有している。なお、ブレーキシュー20および出力側回転部材30に荷重が入力されていない状態において、第1接触面23Aと接続面部36C(平面部36D)の間隔は、ローラ81の直径よりも小さくなっている。もっとも、第1接触面23Aと接続面部36Cの間隔は、ローラ81の直径以上であってもよい。
【0031】
図4に示すように、ローラ81は、各ブレーキシュー20の内側面23と出力側回転部材30の各対向面36の間に一対ずつ配置されている。ここでは、各内側面23と各対向面36の間に配置された一対のローラのうち、
図4の反時計回り側に配置された方をローラ81Aとし、時計回り側に配置された方をローラ81Bとする。ブレーキシュー20および出力側回転部材30に負荷が掛かっていない状態において、ローラ81Aは、第1接触面23Aと第2接触面36Aに挟まれた状態でこれらに接触し、ローラ81Bは、第1接触面23Aと第2接触面36Bに挟まれた状態でこれらに接触している。このように、内側面23と対向面36の間にローラ81が配置されることで、ブレーキ装置3では、内側面23と対向面36との間で、ローラ81を介して荷重が伝達される。
【0032】
スプリング82は、圧縮コイルバネであり、一対のローラ81A,81Bの間に1つずつ設けられている。スプリング82は、一対のローラ81A,81Bを互いに周方向に離間させて、内側面23と対向面36の間に形成される空間の狭い側に付勢している。
【0033】
内側面23および対向面36は、入力側回転部材40によりブレーキシュー20に回転トルクを与えるとローラ81を介して内側面23が対向面36を押して出力側回転部材30が回転する一方、出力側回転部材30に回転トルクを与えても、ローラ81を介して対向面36が内側面23を押してブレーキ面21が外輪10の内周面11に押し付けられることでブレーキシュー20が回転しないように構成されている。すなわち、そのように機能するように、第1接触面23Aおよび第2接触面36A,36Bの傾斜角や位置などが調整されている。
【0034】
図2に示す入力側回転部材40は、外輪10および出力側回転部材30などの軸周りに回転可能であり、ラチェット装置2の回転出力を受け、ブレーキ装置3のブレーキシュー20に周方向で当接してブレーキシュー20に回転トルクを与えることが可能な部材である。入力側回転部材40は、円筒状の受圧リング部41と、受圧リング部41から出力側に向けて突出した複数の係合脚42と、受圧リング部41の軸方向の中央付近から径方向内側へ向かって延びる板状部43と、板状部43の出力側の面から出力側回転部材30の軸方向における出力側へ向かって突出した保持部44(
図7参照)と、板状部43の中央に形成された貫通孔45を備えて構成されている。受圧リング部41の内周面41Aは、荷重入力面の一例であり、円形断面を有している。
【0035】
係合脚42は、各ブレーキシュー20に対応して等間隔で3対設けられており、外輪10の内周面11とブレーキシュー20の外周面22との間に配置されている。一対の係合脚42は、
図4に示すように、突起20Cと
図4の反時計回り側の突出部20Bの間に配置される係合脚42Aと、突起20Cと
図4の時計回り側の突出部20Bの間に配置される係合脚42Bからなる。突出部20Bおよび突起20Cと、係合脚42A,42Bとの間には、回転方向(周方向)に遊びができるように、突出部20B、突起20Cおよび係合脚42A,42Bの大きさが設定されている。各係合脚42A,42Bは、略同じ形状で形成されている。入力側回転部材40(係合脚42A,42B)に対するブレーキシュー20の回転方向(周方向)の遊びは、例えば、4°である。
【0036】
保持部44は、内側面23と対向面36の間からローラ81が脱落するのを抑制する部分であり、周方向においてローラ81の間に配置されている。具体的には、各ブレーキシュー20に対応する一対のローラ81A,81Bの周方向の両側に隣接して配置され、全部で3つ設けられている。
【0037】
保持部44は、入力側回転部材40および出力側回転部材30に荷重が入力されていない状態において、ローラ81から離間して配置されている。より詳細には、保持部44は、出力側回転部材30に通常使用範囲の回転トルクが入力されている状態において、当該回転トルクの回転方向の上流側に隣接するローラ81、本実施形態ではローラ81Bに対し非接触であるように配置されている。
【0038】
また、保持部44は、出力側回転部材30に回転トルクが入力されている状態から、入力側回転部材40を出力側回転部材30の回転トルクと同じ回転方向に回転させてブレーキシュー20に周方向で当接させた時点において、当該回転方向の下流側に隣接するローラ81、本実施形態ではローラ81Aに対し非接触であるように配置されている。
【0039】
また、保持部44は、入力側回転部材40がブレーキシュー20に周方向で当接してブレーキシュー20を回転させている状態において、保持部44の回転方向下流側に隣接するローラ81に対し接触するように配置されている。もっとも、保持部44は、入力側回転部材40によりブレーキシュー20を回転させている状態において、ローラ81に対し非接触であってもよい。
【0040】
図7に示すように、貫通孔45は、出力側回転部材30の作用部31が挿通可能であり、その内周に、作用部31の曲面部38に沿った3つの円周面部46と、各円周面部46の間に配置され、円周面部46に対し、径方向内側に突出した3つの凸面部47とを有する。各凸面部47は、最も径方向内側に突出した頂部47Aと、頂部47Aに対して
図7の時計回り側(
図4では反時計回り側)に隣接した解除面47Bと、
図7の反時計回り側(
図4では時計回り側)に隣接した逃げ面47Cとを有する。
【0041】
解除面47Bは、対向面36と対向して配置され、車両用シートSに座った乗員の重みによる
図4の時計回り方向の回転トルクが出力側回転部材30に入力されている状態から、入力側回転部材40を当該回転トルクと逆の回転方向(
図4の反時計回り方向)に回転させてブレーキシュー20に周方向で当接させた時点において、略同時に対向面36に当該逆の回転方向の回転トルクを伝達可能な形状を有している。
【0042】
逃げ面47Cは、入力側回転部材40および出力側回転部材30に外部から荷重が入力されていない状態において、対向面36の平面部36D(
図5参照)に対する角度の大きさが、解除面47Bの平面部36Dに対する角度の大きさよりも大きく形成されている。そして、逃げ面47Cは、入力側回転部材40を
図4の時計回り方向に回転させてブレーキシュー20に周方向で当接させた時点において平面部36Dに当接しない形状となっている。もっとも、逃げ面47Cは、平面部36Dに対する角度の大きさが解除面47Bの平面部36Dに対する角度の大きさと同じであって、
図4における入力側回転部材40の時計回り方向について、解除面47Bと同様の機能を有していてもよい。
【0043】
図2に示すように、摩擦部材90は、ブレーキ装置3のブレーキ力が切れた瞬間に急激に出力側回転部材30の動作が開始するのを抑制するための補助ブレーキ力を発生する部材である。
図8に示すように、摩擦部材90は、第1リング部91と、第2リング部92と、第1リング部91と第2リング部92とを連結する連結部93と、第2リング部92から突出した、圧接部および係合部の一例としての複数の突出部94と、第1リング部91から突出した間隔保持部95とを有している。
【0044】
間隔保持部95は、
図4に示すように、周方向において、各ブレーキシュー20の間に配置されてブレーキシュー20の回転方向の間隔を保持する部分であり、ブレーキシュー20の数に合わせて複数、ここでは3つ設けられている。各間隔保持部95は周方向に隣接する2つのブレーキシュー20と、保持部44とに囲まれた、略三角形の空間に配置されている。すなわち、2つのブレーキシュー20と保持部44との間の空間を有効利用して間隔保持部95を配置しているので、ブレーキ装置3の大型化を抑制することができる。
【0045】
図8に示すように、第1リング部91は、複数の間隔保持部95を連結して間隔保持部95を一体に回転可能に保持する部分である。第1リング部91は、作用部31の断面の輪郭と同じ形状の嵌合穴91Aを有し、作用部31と嵌合穴91Aが嵌合することで出力側回転部材30に対して相対的に回転しないようになっている。
第2リング部92は、複数の突出部94を一体に回転可能に保持する部分であり、第1リング部91よりも径方向外側に配置されている。
【0046】
突出部94は、外輪10の径方向外側および出力側回転部材30の軸方向における入力側に突出している。突出部94は、径方向外側の面が外輪10の内周面11に圧接される圧接面94Aとなっている。圧接面94Aは、その直径が内周面11の内径よりも僅かに大きく形成されている。一方、第2リング部92の突出部94以外の外周面92Aは、その直径が外輪10の内周面11の内径よりも小さくなっている。このため、摩擦部材90を外輪10に対して組み合わせたときには、圧接面94Aのみが内周面11に圧接され、外周面92Aは内周面11から離間している。
【0047】
また、突出部94は、第2リング部92から軸方向に突出した部分が、ブレーキシュー20に対して周方向で係合する。
図4に示すように、突出部94は、1つのブレーキシュー20における一対の突出部20Bの間に配置されている。より具体的には、突出部94は、第1突出部94Xと第2突出部94Yとを含む。第1突出部94Xは、ブレーキシュー20の突起20Cと、この突起20Cに対して
図4の時計回り側に配置された突出部20Bとの間に配置される。第2突出部94Yは、ブレーキシュー20の突起20Cと、この突起20Cに対して
図4の反時計回り側に配置された突出部20Bとの間に配置される。
図8に示すように、第1突出部94Xは、
図8の時計回り方向の端部に第1係合面94Bを有し、第2突出部94Yは、
図8の反時計回り方向の端部に第2係合面94Cを有する。
図4に示すように、第1係合面94Bおよび第2係合面94Cは、入力側回転部材40に荷重が入力されていない状態において、ともに、ブレーキシュー20の突出部20Bの回転力入力面25から離間している。
【0048】
図8に示すように、連結部93は、曲がりくねった蛇行形状の連結部93A,93Bと、板形状の連結部93Cとを含む。連結部93Aは、図の時計回り方向に開口するU字形状で3つ設けられ、連結部93Bは、連結部93Aの時計回り方向に隣接して配置され、反時計回り方向に開口するU字形状で3つ設けられている。板形状の連結部93Cは、連結部93Bに対して時計回り側に隣接する連結部93Aとの間に配置されている。
連結部93A,93Bは、撓み変形可能な細い形状を有し、連結部93Cは、連結部93A,93Bよりは撓み変形しにくい、幅広の板形状を有している。
このように、第1リング部91と第2リング部92は、全体が一体の板状に形成されるのではなく、複数の連結部93で連結されていることで、第1リング部91と第2リング部92の一方に回転トルクが入力されたときに、連結部93が多少撓むことができる。このため、摩擦部材90が、補助ブレーキ力を発生する機能と、複数のブレーキシュー20の周方向の位置のバランスを取る機能とを両立させやすい。
【0049】
摩擦部材90を構成する材料は特に限定されないが、摩擦部材90は、例えば、樹脂からなっている。
【0050】
図2に示すように、摩擦部材90は、ブレーキシュー20の出力側に配置されている。そして、摩擦部材90は、外輪10の内側に圧入され、各突出部94は、ブレーキシュー20の突出部20Bと突起20Cの間に配置される。また、各突出部94は、回転方向において係合脚42A,42Bとほぼ同じ範囲に形成されている。このため、各突出部94に対するブレーキシュー20の回転方向(周方向)の遊びは、例えば4°である。
【0051】
図6(a)に示すように、ワッシャ76は、出力側回転部材30の支持軸部33の外径よりも僅かに小さい直径の孔76Aを有し、この孔76Aが支持軸部33に圧入されている。ワッシャ76の外径は、後述するカバー部材60の支持孔64より大きく、ワッシャ76により出力側回転部材30が出力側に抜けないようになっている。
【0052】
次に、ラチェット装置2の構成について説明する。
図2に示すように、操作入力部材50は、レバー75と係合してレバー75とともに中立位置から所定角度範囲で揺動操作可能である。操作入力部材50は、ローラ72を介して入力側回転部材40と一体に動くようになることで、入力側回転部材40にレバー75からの回転トルクをローラ72を介して伝達する部材である。このため、操作入力部材50は、カム板部51と、このカム板部51から入力側に延出した、レバー75の取付部としての2つのレバー係合部52とを備えてなる。
【0053】
図10(a)に示すように、カム板部51は、外周面に3つの円弧状の小径部53と、小径部53から周方向に連続して延び、小径部53よりも徐々に直径が大きくなる作用面55とを有している。そして、カム板部51は、作用面55から荷重入力面である受圧リング部41の内周面41Aに近づくように突出した3つの突出部54を有する。小径部53と突出部54とは、周方向に交互に配置され、作用面55は、周方向で各突出部54と各小径部53の間の計6箇所に配置されている。なお、ラチェット装置2の説明においては、径方向および周方向を荷重入力面、ここでは、内周面41Aを基準にして用いる。
【0054】
作用面55は、内周面41Aに対して径方向で対向している。また、作用面55は、内周面41Aと非平行であり、突出部54に近づくほど、内周面41Aとの間隔が狭くなるように形成されている。
また、カム板部51の中心には、出力側回転部材30が通る孔56が形成されている。
【0055】
各作用面55と受圧リング部41の内周面41Aとの間には、それぞれ、ローラ72が配置されている。ローラ72は、後述する動作説明で分かるように、操作入力部材50および入力側回転部材40に対し係合・離脱することで入力トルクの伝達・遮断を行うものである。ローラ72は、各作用面55に対応して計6つ配置されている。
【0056】
図10(b)に示すように、突出部54は、作用面55から内周面41Aに近づくように延びる段差面54Aと、段差面54Aの内周面41Aに近い端部から入力側回転部材40の回転方向に延びる頂面54Bと、段差面54Aと頂面54Bを繋ぐ角部54Cとを有する。段差面54Aは、径方向外側に行くほどローラ72から離れるように作用面55に対して傾斜している。そして、本実施形態において、突出部54の突出量は比較的小さく、突出部54は、ローラ72と角部54Cで接触する形状を有する。具体的には、突出部54は、径方向において、ローラ72の中心72Aよりも作用面55に近い位置で可動片と接触する形状を有している。なお、角部54Cは、製造上必要な大きさの丸みを有している形状を含む。
【0057】
ここで、
図2に戻り、規制部材71について説明すると、規制部材71は、ローラ72の位置を規制する部材であり、複数のローラ72に対し、操作入力部材50の回動軸線方向の一方側である出力側に配置された側壁部71Aと、側壁部71Aの外周縁から入力側に向けて延出した3つの規制部71Bとを備えて構成されている。規制部71Bは、ローラ72の軸方向の長さよりも長く、その先端がカバー部材60の嵌合穴66に圧入嵌合している。また、規制部材71は、中心に、出力側回転部材30が通る孔71Cを有している。
【0058】
図10(a)に示すように、規制部71Bは、レバー75を操作していない非作動時において突出部54の径方向外側で同じ回転位置に配置されており、作用面55と受圧リング部41の間にあるローラ72の周方向についての移動を規制している。隣接する規制部71Bの間に配置された2つのローラ72の間には、圧縮コイルバネからなる第1リターンスプリング73がそれぞれ初期荷重を与えられて配置されている。このため、
図10(a)の非作動時において、各ローラ72は規制部71Bに接している。ここで、規制部71Bは、外輪10の径方向において、ローラ72の中心が位置するところを含むように配置され、ローラ72の、周方向に最も出っ張っているところに接している。これにより、規制部71Bは、ローラ72を安定して支持することができる。なお、
図10(a)においては、ローラ72を、規制部71Bに接した状態で表しているが、ローラ72は、作用面55と内周面41Aに挟持されることで、規制部71Bから僅かに離れていてもよい。
【0059】
図2に示すように、レバー係合部52は、円弧状の断面でカム板部51から出力側回転部材30の軸方向に突出している。各レバー係合部52は、軸方向の端面にネジ穴52Aを有している。また、各レバー係合部52は、軸方向から見て扇形をなし、径方向に延びる側面52Bを有している(
図10(a)参照)。
【0060】
カバー部材60は、円板状の側壁部61と、側壁部61の外周縁から出力側回転部材30の軸方向における出力側に延出した外周部62とを備えてなる。
側壁部61は、出力側回転部材30の軸方向に交差する向きを有し、本実施形態では、軸方向に直交する向きを有している。
図6(a)に示すように、外周部62は、側壁部61から延出する小径部62Aと、小径部62Aの出力側の端部から径方向に広がるフランジ部62Bと、フランジ部62Bの外周縁から出力側に延出する大径部62Cとを有する。そして、大径部62Cは、外輪10の外周面12の外側に嵌合して外輪10にレーザ溶接により固定されている。
外周部62は、第1リターンスプリング73と第2リターンスプリング74との間に配置されることで、第1リターンスプリング73と第2リターンスプリング74の干渉を抑制する。
【0061】
図2に示すように、側壁部61には、その中心に円形の支持孔64と、支持孔64の周囲で円弧形状に延びる2つの円弧孔65と、円弧孔65よりも径方向外側に位置し、周方向に3つ等間隔で配置された嵌合穴66と、筐体100内へ向けて突出する凸部67が形成されている。
支持孔64は、出力側回転部材30の支持軸部33と嵌合し、出力側回転部材30を軸支する部分である。
円弧孔65は、操作入力部材50のレバー係合部52に対応して設けられ、レバー係合部52よりも広い角度範囲で円弧状に形成されている。これにより、円弧孔65は、レバー係合部52を受け入れるとともに、レバー係合部52が円弧孔65の中において所定角度範囲で移動することが可能となっている。
凸部67は、
図6(b)に示すように、操作入力部材50に向けて突出した第1凸部67Aと、入力側回転部材40の受圧リング部41に向けて突出した第2凸部67Bとを含む。凸部67は、これらの筐体100内の部品と摺動可能であり、筐体100内の部品の軸方向の遊びを抑制する。
【0062】
嵌合穴66は、規制部材71の3つの規制部71Bに対応して3つ設けられた貫通孔であり(
図2も参照)、規制部材71がカバー部材60に対し相対回転しないように、カバー部材60と嵌合されている。規制部材71とカバー部材60とは、複数箇所で嵌合していることで、規制部材71の回転の規制をしっかりと行うことができる。
【0063】
クラッチユニット1の製造時において、カバー部材60を外輪10と組む際には、まず、外周部62のうち、大径部62Cを外輪10の外周面12の外側に嵌合させる。そして、側壁部61を出力側回転部材30の軸方向における出力側に所定荷重で押して凸部67を筐体内の部品(入力側回転部材40)に接触させながら、カバー部材60を外輪10にレーザ溶接により固定する。具体的には、カバー部材60の大径部62Cの外周面にレーザを照射することで、溶接部WSを形成して固定する。
なお、第1凸部67Aは、規制部材71の側壁部71Aとカバー部材60の側壁部61の間で操作入力部材50が軸方向に遊ぶのを抑制する。このため、規制部71Bを嵌合穴66に圧入する際には、第1凸部67Aと操作入力部材50が軽く接触する程度となるような荷重で圧入する。
【0064】
図2に戻り、第2リターンスプリング74は、コイル部74Aと、コイル部74Aの一端から径方向外側に延出した第1アーム74Bと、コイル部74Aの他端から径方向外側に延出した第2アーム74Cとを有してなるトーションバネである。コイル部74Aは、カバー部材60の外周部62の径方向外側に配置されている。
【0065】
レバー75は、
図2において左右に延びる本体部75Aと、本体部75Aの下端部から出力側に延出したバネ係合部75Bと、本体部75Aの上端部から出力側に延出したカバー部75Cとを有する。本体部75Aは、第2リターンスプリング74のコイル部74Aに対して入力側に位置する。バネ係合部75Bは、第2リターンスプリング74の第1アーム74Bおよび第2アーム74Cが係合する。
本体部75Aには、出力側回転部材30の支持軸部33を通過させる円形の貫通孔75Dと、操作入力部材50の2つのレバー係合部52が係合する2つの係合穴75Eとが繋がった状態で形成されている。
図10(a)に示すように、係合穴75Eは、径方向に延びる縁部75Fを有している。レバー係合部52は、係合穴75Eの縁部75Fが、レバー係合部52を操作入力部材50の回転方向で挟持するように係合穴75Eに圧入されている。つまり、この圧入により、縁部75Fと、レバー係合部52の側面52Bとが常時圧接した状態となり、レバー75が操作入力部材50に対し回転方向に遊ばないようになっている。これにより、レバー75の操作感を向上させることができる。
【0066】
図9に示すように、バネ係合部75Bは、周方向において取付板85のスプリング保持部85Cと同じ大きさを有している。そして、バネ係合部75Bは、周方向においてスプリング保持部85Cに対応した位置で、スプリング保持部85Cの径方向外側に配置されている。また、バネ係合部75Bおよびカバー部75Cは、第2リターンスプリング74のコイル部74Aの径方向外側に位置して、コイル部74Aが外れるのを抑制している。
【0067】
第2リターンスプリング74の第1アーム74Bおよび第2アーム74Cは、取付板85のスプリング保持部85Cとレバー75のバネ係合部75Bに回転方向で係合している。レバー75を操作していない状態において、第1アーム74Bと第2アーム74Cは互いに近づく方向に付勢され、スプリング保持部85Cとバネ係合部75Bを挟持している。すなわち、レバー75は、第2リターンスプリング74によって、常時、
図9に示す中立位置に向けて付勢されている。
【0068】
抜け止め板77は、ネジ穴52Aに対応した2つの穴77Aと、レバー75の貫通孔75Dに対応した中心穴77Bを有している。中心穴77Bは、ワッシャ76(
図2参照)が抜け止め板77に干渉するのを抑制する。
そして、抜け止め板77は、2つのボルト78がそれぞれ穴77Aを通り、ネジ穴52Aに締結されることで操作入力部材50に固定される。これにより、レバー75が操作入力部材50から外れることが抑制される。
【0069】
次に、以上のように構成されたクラッチユニット1の動作について説明する。
まず、ラチェット装置2の動作について説明する。
図10(a)に示す中立位置において、ローラ72は、入力側回転部材40の内周面41Aと操作入力部材50の作用面55の間に位置するが、これらの間には僅かな隙間があり、これらに挟持されてはいない。ローラ72は、圧縮コイルばねからなる第1リターンスプリング73により規制部71Bに向けて付勢されている。これにより、第1リターンスプリング73は、操作入力部材50の姿勢を中立位置に付勢している。また、第2リターンスプリング74は、第1アーム74Bと第2アーム74Cとでバネ係合部75Bとスプリング保持部85Cを挟持している。この挟持力により、バネ係合部75Bの回動方向の位置は、スプリング保持部85Cと揃う。つまり、第2リターンスプリング74は、レバー75および操作入力部材50の姿勢を中立位置に付勢している。
【0070】
入力側回転部材40に掛かる負荷が所定未満である場合において、レバー75を中立位置から下に下げて操作入力部材50を時計回り方向に少し揺動させると、作用面55が時計回りに回動してローラ72に接し、内周面41Aと作用面55の間でローラ72が挟持される。これにより、操作入力部材50の揺動操作に応じて操作入力部材50と入力側回転部材40は一体に回転できるようになる。
そのため、
図11に示すように、操作入力部材50を時計回りに回していけば、入力側回転部材40と操作入力部材50とが一体になったまま、時計回りに回動する。すなわち、操作入力部材50を回動させた入力トルクが入力側回転部材40に伝達される。
【0071】
このとき、レバー75のバネ係合部75Bは、第2リターンスプリング74の付勢力に抗して第2アーム74Cを時計回り方向に移動させる。逆に言うと、第2アーム74Cは、バネ係合部75Bを反時計回り方向に付勢する。
【0072】
図11の状態からレバー75を反時計回りに揺動させて下の位置から中立位置に戻すときには、ローラ72から作用面55が反時計回りに逃げていき、
図12に示すように、入力側回転部材40が静止したまま、操作入力部材50が中立位置に向けて回動する。すなわち、操作入力部材50を戻すときの入力トルクは入力側回転部材40には伝達されず、遮断される。操作入力部材50は、第1リターンスプリング73および第2リターンスプリング74の付勢力により中立位置に向けて操作するのが補助されるとともに、中立位置に維持される。
【0073】
レバー75を中立位置から上に上げ、また、上の位置から中立位置に戻すときの動作は、上述の下への揺動の場合と同様であるので説明を省略する。
【0074】
次に、ブレーキ装置3の動作について説明する。
図13に示すように、車両用シートSに座った乗員の重みにより出力側回転部材30に、図における時計回り方向の回転トルク、つまり、通常使用範囲の回転トルクを与えると、出力側回転部材30が時計回りに少し回転し、第2接触面36A(一の対向面36の一対の第2接触面36A,36Bのうち反時計回り側の1つ)と第1接触面23Aの間隔が狭くなることで、ローラ81A(一のブレーキシュー20に対応する一対のローラ81のうち反時計回り側の1つ)と第2接触面36Aおよび第1接触面23Aの圧力が高まる。なお、出力側回転部材30に荷重が入力されていない状態において、ローラ81Aが第1傾斜面23Bに接していた場合には、ローラ81Aは、対向面36と内側面23の間を転がって、第1接触面23Aに接する位置まで移動したところで第2接触面36Aおよび第1接触面23Aとの間の圧力が充分に高まって対向面36および内側面23に対して止まる。一方、出力側回転部材30が時計回りに回転するにつれ、第2接触面36B(一の対向面36の一対の第2接触面36A,36Bのうち時計回り側の1つ)と第1接触面23Aの間隔が広くなるため、ローラ81B(一のブレーキシュー20に対応する一対のローラ81のうち時計回り側の1つ)は、第2接触面36Bと第1接触面23Aの間で強く挟まれることなく転がることができる。
【0075】
このとき、第2接触面36Aは、ローラ81Aを力F1で押し、ローラ81Aは、第1接触面23Aを力F2で押す。これにより、ブレーキシュー20は、一対のブレーキ面21が外輪10の内周面11に力F3で押し付けられる。その結果、ブレーキ面21と内周面11の間で摩擦力が発生するので、出力側回転部材30が回転しない。すなわち、車両用シートSが下がるのを阻止するブレーキ力が発生する。そして、このような、出力側回転部材30に通常使用範囲の回転トルクを与えた状態においては、支持面26は、外輪10の内周面11から離間している。
【0076】
また、このとき、ローラ81Bは、出力側回転部材30の回転方向、つまり、時計回り方向に隣接する保持部44から僅かに離間している。そのため、ローラ81Aが対向面36と内側面23に挟まれているだけでなく、スプリング82の付勢力によりローラ81Bも対向面36と内側面23に挟まれた状態を維持することができる。これにより、その後、ブレーキシュー20をいずれの方向に回転しても、ブレーキシュー20と外輪10の間の摩擦力を維持できるので、予期せぬブレーキ力の解除を抑制することができる。
【0077】
図13のブレーキ状態から、車両用シートSの高さを上げるためにレバー75を操作して入力側回転部材40を反時計回りに回転させると、
図14に示すように、入力側回転部材40の係合脚42Aが反時計回り側の端部でブレーキシュー20の回転力入力面25に周方向で当接する。この時点において、略同時に入力側回転部材40の解除面47Bが対向面36の平面部36Dに接して反時計回り方向の回転トルクを出力側回転部材30に伝達可能となる。これにより、ブレーキシュー20のブレーキ面21が外輪10の内周面11に強く押し付けられていた場合においても、ブレーキ力を解除して、入力側回転部材40を回して車両用シートSを上げ始めるときの引っかかり感を抑制することができる。
【0078】
そして、さらに入力側回転部材40を反時計回りに回転させると、係合脚42Aが回転力入力面25を力F11で押すことでブレーキシュー20が反時計回り方向に回転し、第1接触面23Aがローラ81Aを力F12で押し、ローラ81Aが第2接触面36Aを力F13で押す。この力F13により、出力側回転部材30が図の反時計回りに回転する。このときも、支持面26は、外輪10の内周面11から離間している。
【0079】
また、
図13のブレーキ状態から、車両用シートSの高さを下げるためにレバー75を操作して入力側回転部材40を時計回りに回転させると、
図15に示すように、入力側回転部材40の係合脚42Bが時計回り側の端部でブレーキシュー20の回転力入力面25に周方向で当接する。このとき、保持部44は、回転方向下流側(時計回り方向側)に隣接するローラ81Aに対して非接触である。そして、さらに入力側回転部材40を時計回りに回転させると、係合脚42Bが回転力入力面25を力F21で押し、ブレーキシュー20が時計回り方向に回転し始める。
【0080】
ブレーキシュー20が
図15の状態から時計回り方向に回転すると、ブレーキシュー20と出力側回転部材30は、
図13において出力側回転部材30を時計回り方向に回転させた場合と相対的に逆の動作をする。すなわち、
図16に示すように、ブレーキシュー20が時計回りに少し回転し、第1接触面23Aと第2接触面36B(一の対向面36の一対の第2接触面36A,36Bのうち時計回り側の1つ)の間隔が狭くなることで、ローラ81B(一のブレーキシュー20に対応する一対のローラ81のうち時計回り側の1つ)と第1接触面23Aおよび第2接触面36Bの圧力が高まる。なお、ローラ81Bが第1傾斜面23Cに接していた場合でも、ローラ81Bは、対向面36と内側面23の間を転がって、第1接触面23Aに接する位置まで移動したところで第2接触面36Bおよび第1接触面23Aとの間の圧力が充分に高まって対向面36および内側面23に対して止まる。一方、ブレーキシュー20が時計回りに回転するにつれ、第1接触面23Aと第2接触面36A(一の対向面36の一対の第2接触面36A,36Bのうち反時計回り側の1つ)の間隔が広くなるため、ローラ81A(一のブレーキシュー20に対応する一対のローラ81のうち反時計回り側の1つ)は、第1接触面23Aと第2接触面36Aの間でこれらとの圧力が徐々に下がっていきながら転がることができる。そして、
図16の状態では、保持部44は、回転方向下流側に隣接するローラ81Aに接触して、ローラ81Aを時計回り方向に押している。
【0081】
また、
図15の状態から
図16の状態にブレーキシュー20が回転する過程において、ブレーキシュー20の突出部20Bと摩擦部材90の第2突出部94Yの隙間がつまり、突出部20Bが第2突出部94Yと係合して時計回り方向に押す。これにより、摩擦部材90がブレーキシュー20に引きずられるようにして時計回りに回転する。このとき、摩擦部材90は、突出部94において外輪10の内周面11に圧接されているので、ブレーキシュー20の回転に抵抗(補助ブレーキ力)を与える。このため、第1接触面23Aと第2接触面36Bの間でローラ81Bが充分な力で挟まれる前に、第1接触面23Aと第2接触面36Aの間でローラ81Aを挟む力が弱まったとしても、乗員の重みでブレーキシュー20が急激に時計回りに回転することが抑制される。
【0082】
また、
図15の状態では、保持部44がローラ81Aに対して非接触であることで、第1接触面23Aと第2接触面36Bの間でローラ81Bが充分な力で挟まれる前には、ブレーキ力を発生していたローラ81Aが保持部44に押されないので予期せずブレーキ力が弱まることが抑制される。
【0083】
一方、
図16に示すように、ローラ81Bが第1接触面23Aと第2接触面36Bに充分な力で挟まれた後は、保持部44がローラ81Aに接触するので、仮に、ローラ81Aが内側面23と対向面36の間で何らかの事態により固着したような場合であっても、ローラ81Aを内側面23と対向面36の間から離してブレーキ力を解除し、安定した動作を実現することができる。
【0084】
そして、
図16に示すように、係合脚42Bが回転力入力面25を力F21で押し、第1接触面23Aがローラ81Bを力F22で押し、ローラ81Bが第2接触面36Bを力F23で押す。この力F23により、出力側回転部材30が図の時計回りに回転する。このときも、支持面26は、外輪10の内周面11から離間している。
【0085】
一方、出力側回転部材30に、通常使用範囲より大きい過大な時計回り方向の回転トルクが入力された場合、
図17に示すように、通常使用範囲の回転トルクを与えた場合よりも、出力側回転部材30が時計回りに大きく回転し、第2接触面36Aと第1接触面23Aの間隔がより狭くなることで、ローラ81Aと第2接触面36Aおよび第1接触面23Aの圧力がより高まる。このとき、第2接触面36Aは、ローラ81Aを大きな力F31で押し、ローラ81Aは、第1接触面23Aを大きな力F32で押す。これにより、ブレーキシュー20は、本体部20Aが径方向外側に撓むように変形し、支持面26が外輪10の内周面11に当接する。その結果、ブレーキシュー20は、支持面26が外輪10によって支持されることになり、それ以上の変形が抑制されるため、当該ブレーキシュー20に掛かる負荷を低減することができる。
【0086】
また、過大な時計回り方向の回転トルクが入力されて出力側回転部材30が時計回りに大きく回転した場合には、第2接触面36Bと第1接触面23Aとの間が広がってローラ81Bがこれらの間で遊ぶことがある。このような場合、ローラ81Bは、回転方向下流側、ここでは時計回り方向に隣接する保持部44に当接する。これにより、保持部44がローラ81Bを支持するので、内側面23と対向面36の間からローラ81Bが脱落することが抑制される。
【0087】
以上においては、出力側回転部材30に時計回り方向の回転トルクが入力されてブレーキ力が発生した後、入力側回転部材40を時計回り方向または反時計回り方向に回転させた場合について説明した。クラッチユニット1を車両用シートSに適用した場合には、出力側回転部材30には、時計回り方向の回転トルクしか入力されないので、上述のようにしか動作しないが、仮に、出力側回転部材30に反時計回り方向の回転トルクが入力されてブレーキ力が発生した後、入力側回転部材40を時計回り方向または反時計回り方向に回転させた場合は、ブレーキシュー20および出力側回転部材30は、略鏡像対称(
図4で線対称)に構成されているので、上述と回転方向が異なるだけで、略同様の動作が実現される。
【0088】
次に、外輪10と取付板85の固定に関する製造方法と、製造方法の違いによる外輪10の内周面11の真円度の違いについて説明する。
外輪10と取付板85の固定には、
図18および
図19に示すような溶接治具200とレーザ照射器250を使用する。溶接治具200は、固定ステージ210と、ボルト220とを備える。
【0089】
固定ステージ210は、クランプ台211と、位置決め治具210Aとを有する。クランプ台211は、取付板85を載せる、固定ステージ210の本体から上方に突出した部分で、取付板85の取付孔85Bに対応して3つ設けられている。
位置決め治具210Aは、取付板位置決め部212と、内周チャック部215と、リング台座部216とを有する。位置決め治具210Aは、ボルト219により固定ステージ210の本体に固定されている。
取付板位置決め部212は、取付板85の貫通孔85Aと嵌合して取付板85の位置を決める部分である。
内周チャック部215は、外輪10の内側の内周面11に嵌合する略正三角形の部材であり、外輪10の内周面11を内側から3点で位置決めする。
リング台座部216は、外輪10を下から支持する部分である。
【0090】
レーザ照射器250は、レーザ溶接のためのレーザを照射する装置であり、レーザの出力および向きを変えられるように制御される。
【0091】
溶接治具200を使ってレーザ溶接をする場合、
図18に示すように、内周チャック部215に外輪10を嵌め、リング台座部216に載せる。そして、
図19(a),(b)に示すように、取付板位置決め部212に取付板85の貫通孔85Aを嵌合させて取付板85を外輪10の上に配置し、ボルト220により取付板85を外輪10に固定する。すなわち、外輪10の側面14と第1面851とを接触させた状態で、外輪10を取付板85に位置決めする(位置決め工程)。
【0092】
そして、レーザ照射器250によって、第2面852における、軸方向から見て外輪10と重なる位置に、点状にレーザを照射して溶接し、これにより、外輪10を取付板85に仮固定する(第1溶接工程)。点状の溶接位置(
図3の第1溶接痕Wn(W1~W6)参照)は、内周面11の周方向に等角度間隔で離れた4箇所以上とする。
【0093】
次に、レーザ照射器250によって、第2面852における、軸方向から見て外輪10と重なる位置に、周方向に沿ってレーザを連続的に照射して円形にレーザ溶接する。これにより、外輪10を取付板85に本固定する(第2溶接工程)。
【0094】
このようにして外輪10を取付板85に固定する際、外輪10および取付板85のレーザを照射した部分に熱が溜まり、部材の一部が膨張することにより外輪10および取付板85が僅かに歪む。これにより、外輪10の内周面11の真円度が溶接前に比較して低下する。
【0095】
図20は、出願人が、複数の方法で外輪10を取付板85にレーザ溶接して固定し、その際の固定前の内周面11の真円度と、固定後の内周面11の真円度の変化を調べた結果である。各方法において、実験数は3(N=3)とした。
【0096】
比較例1のように、第1溶接工程を行わずに、第2溶接工程のみで溶接した場合、溶接前後における真円度の変化量(悪化量)はD1であった。この変化量D1を基準値とする。
【0097】
比較例2においては、点状にレーザ溶接して仮固定した後、第2溶接工程で連続的に溶接するが、仮固定の溶接位置は3箇所のみとした。仮固定の溶接位置は、内周面11の周方向において、破線で示した内周チャック部215によるチャック位置の中間に相当する位置とした。なお、図において、溶接位置に付した数字は、溶接をした順序を示す。
この場合には、溶接前後における真円度の変化量はD2であった。D2は、D1と略同じ値であり、内周面11の形状精度に改善は見られなかった。3箇所のみの仮固定では、第2溶接工程における外輪10および取付板85が変形しようとする力を抑えきれなかったものと考えられる。
【0098】
実施例1においては、第1溶接工程として6箇所の溶接位置で仮固定をした。6箇所の溶接位置は、内周面11の周方向において内周チャック部215によるチャック位置と、チャック位置の中間位置に相当する位置である。図の一番上の溶接位置から順に反時計回りに順に溶接した。なお、実施例1,2において、第1溶接工程と第2溶接工程は、間を空けることなく行い、第1溶接工程の点状の各レーザ溶接も、間を空けずに、装置が可能な範囲で速やかに行った。
この場合には、溶接前後における真円度の変化量はD3であった。変化量の改善率は、D3/D1-1=-50[%]であり、内周面11の形状精度に改善が見られた。
【0099】
実施例2においては、第1溶接工程として6箇所の溶接位置で仮固定をした。6箇所の溶接位置は、実施例1と同じである。仮固定は、周方向に並ぶ複数の溶接位置で溶接し、周方向に隣接する少なくとも1つの溶接位置を飛ばしながら、周方向に順に溶接した。具体的には、図の一番上の溶接位置から順に反時計回りに1つおきに順に溶接した(1番、2番、3番の溶接位置参照)。この後、3番の溶接位置に対して周方向に180°反対の4番の溶接位置から、順に反時計回りに1つおきに順に溶接した(4番、5番、6番の溶接位置参照)。
この場合には、溶接前後における真円度の変化量はD4であった。変化量の改善率は、D4/D1-1=-80[%]であり、内周面11の形状精度に大きな改善が見られた。
【0100】
溶接のテストにおいては、6箇所以上の仮固定により、十分な形状精度を実現することができたが、3箇所より多い、4箇所または5箇所の場合にも、内周面11の形状精度に改善を期待できると考えられる。
【0101】
以上に説明した本実施形態のクラッチユニット1に適用されたブレーキ装置3によれば、4つ以上の点状の第1溶接痕Wnによって、熱が溜まらない状態で外輪10と取付板85が固定されている上、円形の第2溶接痕WCによりしっかりと外輪10と取付板85が固定されている。このため、外輪10の内周面11の歪みが小さく、かつ、外輪10がしっかりと取付板85に固定される。
【0102】
また、本実施形態の製造方法によれば、第1溶接工程において、内周面11の周方向に等角度間隔で離れた4箇所以上の位置にレーザを照射して点状にレーザ溶接するので、外輪10と取付板85は、熱が溜まらない状態で仮固定される。この仮固定の後、第2溶接工程により、外輪10と取付板85を円形にレーザ溶接するので、外輪10の内周面11の歪みが小さい状態で外輪10を取付板85にしっかりと固定することができる。
【0103】
以上に本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、前記実施形態に限定されることなく適宜変形して実施することができる。
例えば、前記実施形態においては、ブレーキ装置3の外輪10と取付板85を溶接する場合の、外輪10の内周面11の形状精度を向上させた。しかし、外輪以外のリングや、取付板以外のプレートを有するブレーキ装置において、そのリングおよびプレートをレーザ溶接する場合においても、本発明を適用することができる。また、ブレーキ装置以外の装置におけるリングやプレートのレーザ溶接による固定においても本発明を適用することができる。
【0104】
また、ブレーキ装置において、ブレーキ力を発生する機構は、前記した実施形態には限られない。
【0105】
また、前記実施形態においては、出力側回転部材30に回転トルクを与えた場合に、その回転方向が時計回り方向および反時計回り方向のいずれであってもブレーキシュー20が回転しないように構成されていたが、いずれか一方の回転についてブレーキシュー20が回転しないように構成され、他方については、ブレーキシュー20が回転するように構成されていてもよい。
【0106】
また、前記実施形態においては、出力側回転部材30に荷重が入力されていない状態や、通常使用範囲の回転トルクが出力側回転部材30に与えられている状態(
図13~
図16参照)において、支持面26が外輪10の内周面11から離間していたが、これに限定されるものではない。例えば、ブレーキシューが回転するときの動作を妨げないのであれば、出力側回転部材に通常使用範囲の回転トルクが与えられている状態において、支持面が内周面に接していても構わない。また、支持面は、外輪の内周面に沿った形状でなくても構わない。
【0107】
前記実施形態においては、可動片としてローラ81を例示したが、可動片は、球や多角柱、楕円断面の柱状であっても構わない。
【0108】
前記実施形態においては、ブレーキシュー20は3つ設けられていたが、ブレーキシューは、2つでもよく、4つ以上であってもよい。
【0109】
前記実施形態においては、ブレーキシュー20が一対のブレーキ面21の間に支持面26を有していたが、ブレーキシューは、支持面や、当該支持面が設けられる突起を備えない構成であっても構わない。
【0110】
前記実施形態においては、操作入力部材50の径方向外側に入力側回転部材40の受圧リング部41が配置されていたが、これを逆にして、操作入力部材50が、内周面を有し、入力側回転部材40が荷重入力面としての外周面を有し、これらの内周面と外周面の間にローラ等の可動片を配置してもよい。
【0111】
また、ブレーキ装置3、ラチェット装置2およびクラッチユニット1は、車両用シートSのハイトアジャスト機構に用いられるだけでなく、他の装置に任意に適用することができる。
【0112】
また、前記した実施形態および変形例で説明した各要素を、任意に組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0113】
3 ブレーキ装置
10 外輪
11 内周面
14 側面
20 ブレーキシュー
30 出力側回転部材
85 取付板
851 第1面
852 第2面
Wn 第1溶接痕
WC 第2溶接痕