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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】列車識別システム
(51)【国際特許分類】
   B61L 25/02 20060101AFI20240718BHJP
   G01S 17/88 20060101ALI20240718BHJP
   G06K 7/10 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B61L25/02 C
G01S17/88
G06K7/10 148
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021048730
(22)【出願日】2021-03-23
(65)【公開番号】P2022147475
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】501428545
【氏名又は名称】株式会社デンソーウェーブ
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(72)【発明者】
【氏名】松田 直丈
【審査官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/129750(WO,A1)
【文献】特開2014-061797(JP,A)
【文献】特開平05-231858(JP,A)
【文献】特開2011-251672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 25/02
G06K 7/10
G01S 17/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象線路を走行する列車を識別する列車識別システムであって、
列車に取り付けられ、受信した電波のエネルギに基づいて列車の識別情報を送信するICタグと、
前記対象線路を走行する列車が通る所定位置に向けて前記電波を送信し、前記ICタグにより送信された前記識別情報を受信して読み取る読取部と、
前記所定位置に向けて前記電波と異なる電磁波を照射し、物体により反射された前記電磁波に基づいて自身から前記物体までの距離を測定する測距部と、
前記測距部により測定された前記距離に基づいて前記所定位置に列車が存在していると判定し、且つ前記読取部により前記識別情報が読み取られたことを条件として、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別する識別部と、
を備え
前記識別部には、前記所定位置に到着する列車の到着予定時刻及び識別情報を含む運行情報、並びに前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着するか否かが入力され、
前記識別部は、前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着すると入力された場合に、入力された前記運行情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別し、前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着しないと入力された場合に、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別する、列車識別システム。
【請求項2】
前記識別部は、前記測距部により測定された前記距離に基づいて前記所定位置に列車が存在していると判定したことを条件として、前記読取部により前記電波を送信させて前記識別情報を読み取らせ、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別する、請求項1に記載の列車識別システム。
【請求項3】
対象線路を走行する列車を識別する列車識別システムであって、
列車に取り付けられ、受信した電波のエネルギに基づいて列車の識別情報を送信するICタグと、
前記対象線路を走行する列車が通る所定位置に向けて前記電波を送信し、前記ICタグにより送信された前記識別情報を受信して読み取る読取部と、
前記所定位置に向けて前記電波と異なる電磁波を照射し、物体により反射された前記電磁波に基づいて自身から前記物体までの距離を測定する測距部と、
前記測距部により測定された前記距離に基づいて前記所定位置に列車が存在していると判定したことを条件として、前記読取部により前記電波を送信させて前記識別情報を読み取らせ、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別する識別部と、
を備え
前記識別部には、前記所定位置に到着する列車の到着予定時刻及び識別情報を含む運行情報、並びに前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着するか否かが入力され、
前記識別部は、前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着すると入力された場合に、入力された前記運行情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別し、前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着しないと入力された場合に、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別する、列車識別システム。
【請求項4】
前記測距部は、さらに前記物体の大きさを測定し、
前記識別部は、前記測距部により測定された前記距離及び前記大きさに基づいて、前記所定位置に列車が存在しているか否か判定する、請求項1~3のいずれか1項に記載の列車識別システム。
【請求項5】
前記ICタグは、前記列車の複数の車両にそれぞれ取り付けられ、
前記識別部は、前記読取部により読み取られた複数の前記ICタグの前記識別情報に基づいて、前記対象線路を走行する列車を識別する、請求項1~のいずれか1項に記載の列車識別システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象線路を走行する列車を識別するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、列車を編成する各車両に搭載され、当該車両の個別識別情報が記憶されたRFIDタグと、列車が走行する線路近傍に設置されたアンテナを介して前記RFIDタグとの間で無線通信媒体により信号を送受信し、前記RFIDタグから送信された信号から当該車両の個別識別情報を読み取るリーダと、を備えるシステムがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-251672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、対象線路を走行する列車を識別する際に、対象線路を高速(例えば100km/h)で走行する列車を識別可能とするためには、リーダの読み取り可能範囲をある程度広く設定する必要がある。その場合、対象線路の隣の線路までリーダの読み取り可能範囲に含まれ、対象線路の隣の線路を走行する列車を、対象線路を走行する列車であると誤判定するおそれがある。
【0005】
本発明は、こうした課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、列車識別システムにおいて、対象線路の隣の線路を走行する列車を、対象線路を走行する列車であると誤判定することを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の手段は、
対象線路を走行する列車を識別する列車識別システムであって、
列車に取り付けられ、受信した電波のエネルギに基づいて列車の識別情報を送信するICタグと、
前記対象線路を走行する列車が通る所定位置に向けて前記電波を送信し、前記ICタグにより送信された前記識別情報を受信して読み取る読取部と、
前記所定位置に向けて前記電波と異なる電磁波を照射し、物体により反射された前記電磁波に基づいて自身から前記物体までの距離を測定する測距部と、
前記測距部により測定された前記距離に基づいて前記所定位置に列車が存在していると判定し、且つ前記読取部により前記識別情報が読み取られたことを条件として、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別する識別部と、
を備える。
【0007】
上記構成によれば、ICタグは、列車に取り付けられ、受信した電波のエネルギに基づいて列車の識別情報を送信する。読取部は、前記対象線路を走行する列車(以下、「対象列車」という)が通る所定位置に向けて前記電波を送信し、前記ICタグにより送信された前記識別情報を受信して読み取る。このため、対象線路の所定位置を列車が通った場合は、対象列車のICタグが列車の識別情報を送信し、読取部が識別情報を読み取る。一方、対象線路の隣の線路(以下、「隣線路」という)を列車が通った場合も、隣線路を走行する列車(以下、「隣列車」という)のICタグが列車の識別情報を送信し、読取部が識別情報を読み取るおそれがある。
【0008】
ここで、測距部は、前記所定位置に向けて前記電波と異なる電磁波を照射し、物体により反射された前記電磁波に基づいて自身から前記物体までの距離を測定する。このため、対象線路を列車が走行している場合は、測距部は測距部から対象列車までの距離を測定する。一方、隣線路を列車が走行している場合は、測距部は測距部から隣列車までの距離、すなわち測距部から対象列車までの距離とは異なる距離を測定する。このため、前記測距部により測定された前記距離に基づいて、所定位置に列車が存在しているか否か判定することができる。
【0009】
そして、識別部は、前記測距部により測定された前記距離に基づいて前記所定位置に列車が存在していると判定し、且つ前記読取部により前記識別情報が読み取られたことを条件として、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別する。すなわち、識別部は、前記測距部により測定された前記距離に基づいて前記所定位置に列車が存在していると判定していない場合は、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別することを実行しない。また、識別部は、前記読取部により前記識別情報が読み取られていない場合も、前記対象線路を走行する列車を識別しない。このため、隣線路を列車が走行している場合は、識別部は、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別することを実行しないようにすることができる。したがって、列車識別システムにおいて、隣線路を走行する列車を、対象線路を走行する列車であると誤判定することを抑制することができる。一方、対象線路を列車が走行している場合は、識別部は、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別することができる。
【0010】
第2の手段では、前記識別部は、前記測距部により測定された前記距離に基づいて前記所定位置に列車が存在していると判定したことを条件として、前記読取部により前記電波を送信させて前記識別情報を読み取らせ、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別する。
【0011】
第3の手段は、
対象線路を走行する列車を識別する列車識別システムであって、
列車に取り付けられ、受信した電波のエネルギに基づいて列車の識別情報を送信するICタグと、
前記対象線路を走行する列車が通る所定位置に向けて前記電波を送信し、前記ICタグにより送信された前記識別情報を受信して読み取る読取部と、
前記所定位置に向けて前記電波と異なる電磁波を照射し、物体により反射された前記電磁波に基づいて自身から前記物体までの距離を測定する測距部と、
前記測距部により測定された前記距離に基づいて前記所定位置に列車が存在していると判定したことを条件として、前記読取部により前記電波を送信させて前記識別情報を読み取らせ、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別する識別部と、
を備える。
【0012】
上記構成によれば、前記識別部は、前記測距部により測定された前記距離に基づいて前記所定位置に列車が存在していると判定したことを条件として、前記読取部により前記電波を送信させて前記識別情報を読み取らせる。すなわち、前記識別部は、前記測距部により測定された前記距離に基づいて前記所定位置に列車が存在していると判定していない場合は、前記読取部により前記電波を送信させて前記識別情報を読み取らせることを実行しない。このため、隣線路を列車が走行しており、対象線路を列車が走行していない場合は、識別部は、前記読取部により前記電波を送信させて前記識別情報を読み取らせることを実行しないようにすることができる。したがって、隣列車のICタグが識別情報を送信することを抑制することができ、読取部が隣列車の識別情報を読み取ることを抑制することができる。
【0013】
一方、前記識別部は、前記測距部により測定された前記距離に基づいて前記所定位置に列車が存在していると判定した場合は、前記読取部により前記電波を送信させて前記識別情報を読み取らせる。この場合、所定位置に存在する列車により隣列車へ向かう電波が遮られるため、隣列車に電波が照射されることを抑制することができ、ひいては隣線路を走行する列車を、対象線路を走行する列車であると誤判定することを抑制することができる。そして、読取部は、所定位置に存在する列車に向けて前記電波を送信し、前記ICタグにより送信された前記識別情報を受信して読み取ることができる。したがって識別部は、対象線路を走行している列車を識別することができる。
【0014】
第4の手段では、前記測距部は、さらに前記物体の大きさを測定し、前記識別部は、前記測距部により測定された前記距離及び前記大きさに基づいて、前記所定位置に列車が存在しているか否か判定する。こうした構成によれば、物体により反射された前記電磁波に基づいて測距部から前記物体までの距離が測定された場合に、識別部は、物体が列車であるか列車以外の障害物であるかを、測距部により測定された物体の大きさに基づいて判定することができる。したがって、列車以外の障害物等により測距部から照射された電磁波が反射された場合に、所定位置に列車が存在すると誤判定することを抑制することができる。
【0015】
第5の手段では、前記識別部には、前記所定位置に到着する列車の到着予定時刻及び識別情報を含む運行情報、並びに前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着するか否かが入力され、前記識別部は、前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着すると入力された場合に、入力された前記運行情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別し、前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着しないと入力された場合に、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別する。
【0016】
上記構成によれば、前記識別部には、前記所定位置に到着する列車の到着予定時刻及び識別情報を含む運行情報、並びに前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着するか否かが入力される。このため、識別部は、前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着するか否かを把握することができる。
【0017】
ここで、前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着する場合は、運行情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を容易に識別することができる。一方、前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着しない場合は、所定位置に到着した列車が運行情報に基づき識別される列車と異なるおそれがあるため、運行情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別することができない。
【0018】
この点、前記識別部は、前記所定位置に前記到着予定時刻に列車が到着しないと入力された場合に、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別する。したがって、運行情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別することができない場合であっても、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて対象線路を走行する列車を識別することができる。
【0019】
第6の手段では、前記識別部は、前記測距部により自身から前記対象線路を走行する列車までの距離が測定された時から所定時間経過後に、前記読取部により前記電波を送信させて前記識別情報を読み取らせ、前記読取部により読み取られた前記識別情報に基づいて前記対象線路を走行する列車を識別する。こうした構成によれば、前記測距部により自身から前記対象線路を走行する列車までの距離が測定された時、すなわち測距部の読み取り可能範囲に対象線路を走行する列車の先頭が入った時から所定時間経過後に、前記読取部により前記電波を送信させて前記識別情報を読み取らせることができる。したがって、対象列車により隣線路及び隣列車へ向かう電波が遮られた状態で識別情報を読み取らせやすくなり、隣線路を走行する列車を、対象線路を走行する列車であると誤判定することを抑制することができる。
【0020】
第7の手段では、前記識別部は、前記対象線路を走行する列車の速度に基づいて、前記所定時間を設定する。こうした構成によれば、対象線路を走行する列車の速度に応じて、前記読取部により前記電波を送信させて前記識別情報を読み取らせるタイミングを適切に設定することができる。
【0021】
第8の手段では、前記ICタグは、前記列車の複数の車両にそれぞれ取り付けられ、前記識別部は、前記読取部により読み取られた複数の前記ICタグの前記識別情報に基づいて、前記対象線路を走行する列車を識別する。こうした構成によれば、読み取られた複数の前記ICタグの前記識別情報に基づいて、対象線路を走行する列車をより慎重に識別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】列車識別システムの模式図。
図2】リーダが電波を送信する態様を示す模式図。
図3】隣列車のIDを誤って読み取る態様を示す模式図。
図4】列車識別の手順を示すフローチャート。
図5】列車識別システムの変更例を示す模式図。
図6】隣列車のIDを誤って読み取る他の態様を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、一実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、駅のホームにおいて列車を識別する列車識別システムとして具現化している。
【0024】
図1に示すように、線路11(対象線路)を列車13が走行する。駅では線路11に隣接してホーム12が設けられている。ホーム12は、線路11から規定距離に設けられている。
【0025】
列車識別システム20は、タグ31,32、リーダ21、エリアセンサ22、制御部23等を備えている。
【0026】
タグ31,32(ICタグ)は、アンテナ、IC、メモリ等を備えるパッシブ型のRF(Radio Frequency)タグである。タグ31,32は、リーダ21から受信した電波を動力源(エネルギ)として動作する。タグ31,32は、列車13に取り付けられ、リーダ21から電波を受信すると、メモリに記憶された列車13のID(識別情報)を含む電波を送信する。IDは、各列車に固有の番号である。タグ31(第1ICタグ)は、列車13の右側部(右部)に取り付けられている。タグ32(第2ICタグ)は、列車13の左側部(左部)に取り付けられている。なお、タグ31,32のうちリーダ21の反対側に位置するタグ32は、リーダ21が送信する電波が列車13自体により遮られるため、受信した電波のエネルギに基づくIDの送信をしにくい状態となる。
【0027】
リーダ21(読取部)は、アンテナ、送信部、受信部、制御部等を備えるRFID(Radio Frequency IDentification)リーダである。リーダ21は、タグ31,32に電波を送信し、タグ31,32から返信(送信)されるIDを含む電波を受信してIDを読み取る。図2に示すように、リーダ21は、線路11を走行する列車13が通る所定位置Pに向けて電波を送信する。所定位置Pは、ホーム12の後端寄りの部分に対面し、線路11の上方で列車13の高さよりも低い位置である。リーダ21は制御部23により制御され、リーダ21による読取結果は制御部23に入力される。
【0028】
リーダ21は、タグ31が送信するIDを、列車13が停止するまでに読み取る必要がある。また、ホーム12に停止しない列車13では、高速で通過する列車13のタグ31のIDを読み取る必要がある。このため、リーダ21の読み取り可能範囲は、ある程度広く設定されている。例えば、時速100kmで走行する列車13のタグ31のIDを正しく読み取るためには、読み取り可能範囲の半径を10~12[m]に設定する必要がある。
【0029】
上記事情により、読み取り可能範囲はある程度広く設定されているため、図3に示すように線路11に並行する線路15がある場合には、以下の問題が生じる。すなわち、リーダ21が送信した電波が、線路15を走行する列車17のタグ36に到達し、タグ36が列車17のIDを返信するおそれがある。この場合、リーダ21は、タグ36が送信したIDに対応する列車を、線路11の所定位置Pを走行する列車として誤って識別するおそれがある。なお、線路15に隣接するホーム16に設置されたリーダ25がタグ35のIDを読み取る場合においても、同様の問題が生じ得る。
【0030】
そこで、図1,2に示すように、列車識別システム20は、エリアセンサ22を備えている。エリアセンサ22(測距部)は、予め設定したエリアA内に侵入した物体を検知する。エリアAは、上記所定位置Pの物体を検知可能であり、隣の線路15を走行する列車17を検知しないように設定することが望ましい。エリアセンサ22は、例えばレーザ光(電磁波)を水平に所定角度毎に照射し、物体により反射されて戻るまでの時間に基づいて自身から物体までの距離を測定(物体を検知)し、レーザ光の照射角度(照射方向)に基づいて物体の方向を特定する。さらに、エリアセンサ22は、自身から物体までの距離及び物体の方向に基づいて、物体の位置及び大きさを測定する。エリアセンサ22は、制御部23により制御され、エリアセンサ22による測定結果は制御部23に入力される。
【0031】
制御部23(識別部)は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェース等を備えるマイコンにより構成されている。制御部23は、エリアセンサ22により測定された距離に基づいて所定位置Pに列車が存在していると判定し、且つリーダ21によりIDが読み取られたことを条件として、リーダ21により読み取られたIDに基づいて線路11を走行する列車を識別する。
【0032】
図4は、列車識別の手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、制御部23により実行される。
【0033】
まず、エリアセンサ22が物体を検知したか否か判定する(S10)。この判定において、エリアセンサ22が物体を検知していないと判定した場合(S10:NO)、S10の処理から再度実行する。
【0034】
一方、S10の判定において、エリアセンサ22が物体を検知したと判定した場合(S10:YES)、物体の位置と大きさが列車13として正しいか否か判定する(S11)。具体的には、測定された物体の位置(物体までの距離)と大きさが、所定位置Pを通過する列車13に相当する位置と大きさである場合に、物体の位置と大きさが列車13として正しいと判定する。一方、測定された物体の位置が所定位置Pから大きくずれている場合(例えば測定された物体の位置が隣の線路15を走行する列車の位置に相当する場合)等に、測定された物体の大きさが列車13よりも明らかに小さい場合(例えば鳥が横切った場合)等に、物体の位置と大きさが列車13として正しくないと判定する。この判定において、物体の位置と大きさが列車13として正しくないと判定した場合(S11:NO)、S10の処理から再度実行する。
【0035】
一方、物体の位置と大きさが列車13として正しいと判定した場合(S11:YES)、リーダ21によるIDの読み取りを開始させる(S12)。具体的には、リーダ21により所定位置Pに向けて電波の送信を開始させ、IDを含む電波を受信した場合にIDを読み取らせる。すなわち、エリアセンサ22により測定された距離に基づいて所定位置Pに列車が存在していると判定したことを条件として、リーダ21により電波を送信させてIDを読み取らせる。そして、読み取ったIDから列車を識別する(S13)。具体的には、現在の時刻において線路11の所定位置Pを走行している列車は、読み取ったIDに対応する列車であると識別する。
【0036】
続いて、エリアセンサ22が物体を検知していない、又は列車の停止信号を検知した、又はホーム12からの列車の出線を検知したか否か判定する(S14)。この判定において、いずれも否定判定された場合(S14:NO)、S13の処理から再度実行する。
【0037】
一方、S14の判定において、いずれかが肯定判定された場合(S14:YES)、リーダ21によるIDの読み取りを終了させる(S15)。具体的には、リーダ21による所定位置Pに向けた電波の送信を終了させる。すなわち、列車がホーム12に停止したか、ホーム12から列車が出線した場合は、列車を識別する期間が終了したとして、リーダ21によるIDの読み取りを終了させる。その後、この一連の処理を終了する(END)。
【0038】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0039】
・エリアセンサ22は、所定位置Pに向けてリーダ21が照射する電波と異なるレーザ光を照射し、物体により反射されたレーザ光に基づいて自身から物体までの距離を測定する。このため、線路11を列車13が走行している場合は、エリアセンサ22はエリアセンサ22から列車13までの距離を測定する。一方、線路15を列車17が走行している場合は、エリアセンサ22はエリアセンサ22から列車17までの距離、すなわちエリアセンサ22から列車13までの距離とは異なる距離を測定する。このため、エリアセンサ22により測定された距離に基づいて、所定位置Pに列車13が存在しているか否か判定することができる。
【0040】
・制御部23は、エリアセンサ22により測定された距離に基づいて所定位置Pに列車13が存在していると判定し、且つリーダ21によりIDが読み取られたことを条件として、リーダ21により読み取られたIDに基づいて線路11を走行する列車を識別する。すなわち、制御部23は、エリアセンサ22により測定された距離に基づいて所定位置Pに列車が存在していると判定していない場合は、リーダ21により読み取られたIDに基づいて線路11を走行する列車を識別することを実行しない。このため、線路15を列車17が走行している場合は、制御部23は、リーダ21により読み取られたIDに基づいて線路11を走行する列車13を識別することを実行しないようにすることができる。したがって、列車13識別システムにおいて、線路15を走行する列車17を、線路11を走行する列車13であると誤判定することを抑制することができる。一方、線路11を列車が走行している場合は、制御部23は、リーダ21により読み取られたIDに基づいて線路11を走行する列車13を識別することができる。
【0041】
・制御部23は、エリアセンサ22により測定された距離に基づいて所定位置Pに列車が存在していると判定したことを条件として、リーダ21により電波を送信させてIDを読み取らせる。すなわち、制御部23は、エリアセンサ22により測定された距離に基づいて所定位置Pに列車が存在していると判定していない場合は、リーダ21により電波を送信させてIDを読み取らせることを実行しない。このため、線路15を列車17が走行しており、線路11を列車13が走行していない場合は、制御部23は、リーダ21により電波を送信させてIDを読み取らせることを実行しないようにすることができる。したがって、列車17のタグ36がIDを送信することを抑制することができ、リーダ21が列車17のIDを読み取ることを抑制することができる。
【0042】
・制御部23は、エリアセンサ22により測定された距離に基づいて所定位置Pに列車が存在していると判定した場合は、リーダ21により電波を送信させてIDを読み取らせる。この場合、所定位置Pに存在する列車により列車17へ向かう電波が遮られるため、列車17に電波が照射されることを抑制することができ、ひいては線路15を走行する列車17を、線路11を走行する列車13であると誤判定することを抑制することができる。そして、リーダ21は、所定位置Pに存在する列車に向けて電波を送信し、タグ31により送信されたIDを受信して読み取ることができる。したがって制御部23は、線路11を走行している列車13を識別することができる。
【0043】
・エリアセンサ22は、さらに物体の大きさを測定し、制御部23は、エリアセンサ22により測定された位置(距離)及び大きさに基づいて、所定位置Pに列車13が存在しているか否か判定する。こうした構成によれば、物体により反射されたレーザ光に基づいてエリアセンサ22から物体までの距離が測定された場合に、制御部23は、物体が列車であるか列車以外の障害物であるかを、エリアセンサ22により測定された物体の大きさに基づいて判定することができる。したがって、列車以外の障害物等によりエリアセンサ22から照射されたレーザ光が反射された場合に、所定位置Pに列車が存在すると誤判定することを抑制することができる。
【0044】
・リーダ21が列車の上方から電波を送信して、タグのIDを読み取る構成も考えられる。しかし、列車の上方にリーダ21を支持する構造物が存在しないため、列車の上方にリーダ21を設置することは困難である。また、列車の上方には電線が配置され、列車の上部にはパンタグラフが設けられていることが多いため、これらも列車の上方にリーダ21を設置することを困難にしている。したがって、ホーム12等、列車の側方にリーダ21を設置せざるを得ず、その場合に生じる列車の誤識別を抑制することができる点で、本実施形態は有意義である。
【0045】
・線路上に立ち入る人を検知するために、ホーム12に予めエリアセンサが設置されていることが多い。したがって、列車識別システム20は、予めホームに設定されたエリアセンサを利用して、所定位置Pに列車が存在しているか否か判定することもできる。
【0046】
なお、上記実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。上記実施形態と同一の部分については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0047】
図4のフローチャートにおいて、S10~S12の処理の順序を変更してもよい。その場合であっても、エリアセンサ22が物体を検知し、且つ検知された物体の位置と大きさが列車13として正しいことを条件として、すなわち所定位置Pに列車が存在していると判定したことを条件として、制御部23は、リーダ21により読み取られたIDに基づいて線路11を走行する列車を識別することとなる。
【0048】
・エリアセンサ22は、レーザ光に限らず、ミリ波等(電磁波)を照射するものであってもよい。
【0049】
・一般に、制御部23には、所定位置Pに到着する列車13の到着予定時刻及びIDを含む運行情報、並びに所定位置Pに到着予定時刻に列車13が到着するか否かが入力される。そして、制御部23は、所定位置Pに到着予定時刻に列車13が到着すると入力された場合に、入力された運行情報に基づいて線路11を走行する列車13を識別し、所定位置Pに到着予定時刻に列車13が到着しないと入力された場合に、上記実施形態と同様にリーダ21により読み取られたIDに基づいて線路11を走行する列車13を識別してもよい。
【0050】
上記構成によれば、制御部23には、所定位置Pに到着する列車13の到着予定時刻及びIDを含む運行情報、並びに所定位置Pに到着予定時刻に列車13が到着するか否かが入力される。このため、制御部23は、所定位置Pに到着予定時刻に列車13が到着するか否かを把握することができる。
【0051】
ここで、所定位置Pに到着予定時刻に列車13が到着する場合は、運行情報に基づいて線路11を走行する列車13を容易に識別することができる。一方、所定位置Pに到着予定時刻に列車13が到着しない場合は、所定位置Pに到着した列車13が運行情報に基づき識別される列車13と異なるおそれがあるため、運行情報に基づいて線路11を走行する列車13を識別することができない。
【0052】
この点、制御部23は、所定位置Pに到着予定時刻に列車13が到着しないと入力された場合に、リーダ21により読み取られたIDに基づいて線路11を走行する列車を識別する。したがって、運行情報に基づいて線路11を走行する列車を識別することができない場合であっても、リーダ21により読み取られたIDに基づいて線路11を走行する列車を識別することができる。
【0053】
なお、所定位置Pに到着予定時刻に列車13が到着する場合に、運行情報に基づいて線路11を走行する列車を識別することと、リーダ21により読み取られたIDに基づいて線路11を走行する列車を識別することとを、併せて実行してもよい。そして、それらの識別結果が一致したことを条件として、識別結果を確定してもよい。あるいは、それらの識別結果が一致しない場合に、一方の識別結果を優先させてもよい。
【0054】
・車両の進行方向において、エリアセンサ22をリーダ21よりも所定距離手前に設置することもできる。この場合、制御部23は、エリアセンサ22により自身から線路11を走行する列車までの距離が測定された時から所定時間経過後に、リーダ21により電波の送信を開始させて(電波を送信させて)IDを読み取らせ、リーダ21により読み取られたIDに基づいて線路11を走行する列車を識別してもよい。
【0055】
こうした構成によれば、エリアセンサ22により自身から線路11を走行する列車までの距離が測定された時、すなわちエリアセンサ22の読み取り可能範囲に線路11を走行する列車の先頭が入った時から所定時間経過後に、リーダ21により電波の送信を開始させて(電波を送信させて)IDを読み取らせることができる。所定時間は、上記所定距離と列車13の標準的な速度とに基づいて設定されている。したがって、列車13により列車17へ向かう電波が遮られた状態でIDを読み取らせやすくなり、線路15を走行する列車17を、線路11を走行する列車13であると誤判定することを抑制することができる。なお、上記構成においては、図5に示すように、エリアセンサ22に代えてラインセンサ122を採用することもできる。ラインセンサ122は、例えば線路11を走行する列車13が通る位置に向けてレーザ光を照射し、物体により反射された反射光に基づいて物体までの距離を測定する。
【0056】
さらに、制御部23は、線路11を走行する列車13から速度を入力し、又は速度センサにより速度を検出し、その速度に基づいて、上記所定時間を設定してもよい。こうした構成によれば、線路11を走行する列車の速度に応じて、リーダ21により電波の送信を開始させて(電波を送信させて)IDを読み取らせるタイミングを適切に設定することができる。
【0057】
・タグ31,32を、列車13の複数の車両にそれぞれ取り付けてもよい。そして、制御部23は、リーダ21により読み取られた複数の車両のタグ31,32のIDに基づいて、線路11を走行する列車を識別してもよい。こうした構成によれば、読み取られた複数の車両のタグ31,32のIDに基づいて、線路11を走行する列車をより慎重に識別することができる。
【0058】
図6に示すように、線路111に対してホーム112が常に一方側に設けられている場合がある。この場合、列車113の一方の側部のみにタグ131を取り付ければ、リーダ21により列車113のタグ131のIDを読み取ることができる。しかし、この場合も、切換線114を利用して列車がスイッチバックを実行すると、隣の線路115を走行する列車117のタグ135のIDを、リーダ21が誤って読み取るおそれがある。したがって、制御部23は、エリアセンサ22により測定された距離に基づいて所定位置Pに列車13が存在していると判定し、且つリーダ21によりIDが読み取られたことを条件として、リーダ21により読み取られたIDに基づいて線路11を走行する列車を識別することが有効である。なお、タグ131を列車の左右方向において中央に取り付けることもできる。
【符号の説明】
【0059】
11…線路、13…列車、15…線路、17…列車、20…列車識別システム、21…リーダ(読取部)、22…エリアセンサ(測距部)、23…制御部(識別部)、25…リーダ(読取部)、31…タグ(ICタグ)、32…タグ(ICタグ)、35…タグ(ICタグ)、36…タグ(ICタグ)、111…線路、113…列車、115…線路、117…列車、122…ラインセンサ(測距部)、131…タグ(ICタグ)、135…タグ(ICタグ)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6