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  • 特許-ガラス組成物及び封着材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ガラス組成物及び封着材料
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/12 20060101AFI20240718BHJP
   C03C 3/16 20060101ALI20240718BHJP
   C03C 3/17 20060101ALI20240718BHJP
   C03C 8/24 20060101ALI20240718BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20240718BHJP
   H01L 23/10 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C03C3/12
C03C3/16
C03C3/17
C03C8/24
H01L23/12 G
H01L23/10 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020085891
(22)【出願日】2020-05-15
(65)【公開番号】P2021130602
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-04-06
(31)【優先権主張番号】P 2020025022
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐野 翔一
【審査官】安積 高靖
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-259262(JP,A)
【文献】国際公開第2012/020694(WO,A1)
【文献】特開平03-218943(JP,A)
【文献】特開2020-011851(JP,A)
【文献】特開2019-202921(JP,A)
【文献】特開2019-142725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 3/12
C03C 3/16
C03C 3/17
C03C 8/24
H01L 23/12
H01L 23/10
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 1~30%、TeO 30~80%、MoO 5~30%、Li O+Na O+K O 1~30%を含有し、Li O/K Oのモル比は0.3~5であることを特徴とするガラス組成物。
【請求項2】
モル%で、LiO 1~30%を含有することを特徴とする請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
モル比で、BaO 1~30%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス組成物。
【請求項4】
さらに、モル%で、TiO+Al 0~10%を含有することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項5】
さらに、モル%で、Al 1~10%を含有することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項6】
さらに、モル%で、CuO 0~30%、WO 0~20%、P 0~10%を含有することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項7】
さらに、モル%で、CuO 1~30%を含有することを特徴とする請求項1~のいずれかに記載のガラス組成物。
【請求項8】
請求項1~のいずれかに記載のガラス組成物からなるガラス粉末 40~100体積%と、耐火性フィラー粉末 0~60体積%とを含有することを特徴とする封着材料。
【請求項9】
耐火性フィラー粉末がZrWO(POを含有することを特徴とする請求項に記載の封着材料。
【請求項10】
耐火性フィラー粉末が略球状であることを特徴とする請求項又はに記載の封着材料。
【請求項11】
水晶振動子パッケージに使用されることを特徴とする請求項10のいずれかに記載の封着材料。
【請求項12】
請求項11のいずれかに記載の封着材料とビークルとを含有することを特徴とする封着材料ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害な鉛を含有することなく、耐候性を有しつつ、低温焼成で気密封着することが可能なガラス組成物と、それを用いた封着材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路、水晶振動子、金属部材、平面表示装置やLED用ガラス端子等には、封着材料が使用される。
【0003】
上記の封着材料には、化学的耐久性および耐熱性が要求されるため、樹脂系の接着剤ではなくガラス系封着材料が用いられている。封着材料には、さらに機械的強度、流動性、耐候性等の特性が要求されるが、熱に弱い素子を搭載する電子部品の封着には、封着温度をできる限り低くすることが要求される。具体的には、400℃以下での封着が好ましい。それゆえ、上記特性を満足するガラスとして、軟化点を下げる効果が極めて大きいPbOを多量に含有する鉛硼酸系ガラスが広く用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭63-315536号公報
【文献】特開2019-202921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鉛硼酸系ガラスに含まれるPbOに対して環境上の問題が指摘されており、鉛硼酸系ガラスからPbOを含まないガラスに置き換えることが望まれている。そのため、鉛硼酸系ガラスの代替品として、様々な低軟化点ガラスが開発されている。しかし、一般的に、ガラスの軟化点が低くなるにともない、ガラスの耐候性は悪化する傾向があるため、この両立が技術課題である。特許文献2に記載されているCuO-TeO-MoO系ガラスは、鉛硼酸系ガラスの代替候補として期待されていたが、耐候性を有するものの、前述の素子の耐熱性を考慮すると、更なる封着温度の低温化が求められていた。
【0006】
以上に鑑み、本発明は、耐候性を有しつつ、低温焼成で封着可能なガラス組成物と、それを用いた封着材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のガラス組成物は、モル%で、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 1~30%、TeO 30~80%、MoO 5~30%を含有することを特徴とする。ここで、「MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO」とは、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合量を意味する。
【0008】
本発明のガラス組成物は、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの合量を1%以上にすることにより、ガラスの耐候性を有しつつ、低軟化点を達成している。なお、一般に、ガラスの軟化点が低くなると、ガラス化が困難であったり、分相が生じて均質なガラスが得られにくい傾向にあるが、本発明では、TeOの含有量を30%以上、MoOの含有量を5%以上に規定しているため、ガラスが安定化し、均質なガラスを得ることが出来る。
【0009】
更に、本発明のガラス組成物は、モル%で、LiO+NaO+KO 1~30%を含有することが好ましい。ここで、「LiO+NaO+KO」とは、LiO、NaO及びKOの合量を意味する。
【0010】
更に、本発明のガラス組成物は、モル%で、BaOが1~30%であることが好ましい。
【0011】
更に、本発明のガラス組成物は、モル%で、TiO+Al 0~10%を含有することが好ましい。ここで、「TiO+Al」とは、TiO及びAlの合量を意味する。
【0012】
更に、本発明のガラス組成物は、モル%で、Al 1~10%を含有することが好ましい。
【0013】
更に、本発明のガラス組成物は、モル%で、CuO 0~30%、WO 0~20%、P 0~10%を含有することが好ましい。
【0014】
更に、本発明のガラス組成物は、モル%で、CuO 1~30%を含有することが好ましい。
【0015】
本発明の封着材料は、上記のガラス組成物からなるガラス粉末 40~100体積%と、耐火性フィラー粉末 0~60体積%とを含有することを特徴とする。
【0016】
本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末がZrWO(POを含有することが好ましい。
【0017】
本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末が略球状であることが好ましい。
【0018】
本発明の封着材料は、水晶振動子のパッケージに使用されることが好ましい。
【0019】
本発明の封着材料ペーストは、上記の封着材料とビークルとを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、環境に有害な鉛を含有させることなく、低温焼成で封着可能なガラス組成物と、それを用いた封着材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】マクロ型示差熱分析装置により得られる測定曲線を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のガラス組成物は、モル%で、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnO 1~30%、TeO 30~80%、MoO 5~30%を含有する。ガラス組成を上記のように限定した理由を以下に示す。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0023】
MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOは、ガラス化範囲を広げ、ガラスの耐候性を改善する成分である。MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOは、1~30%、好ましくは3~25%、より好ましくは5~20%、更に好ましくは8~18%、特に好ましくは10~15%である。MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOが少な過ぎると、ガラス化が困難になる。またガラスの耐候性が悪化すると共に、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。一方、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOが多過ぎても、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0024】
なお、MgO、CaO、SrO、BaO及びZnOの含有量の好ましい範囲は以下の通りである。
【0025】
MgOは、ガラス化範囲を広げ、ガラスの軟化点の過度な上昇を抑えつつ、ガラスの耐候性を改善する成分である。MgOの含有量は、1~30%、好ましくは3~25%、より好ましくは5~20%、更に好ましくは8~18%、特に好ましくは10~15%である。MgOの含有量が少なすぎると、ガラス化が困難になり、ガラスの耐候性が悪化すると共に、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。一方、MgOの含有量が多すぎても、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0026】
CaOは、ガラス化範囲を広げ、ガラスの軟化点の過度な上昇を抑えつつ、ガラスの耐候性を改善する成分である。CaOの含有量は、1~30%、好ましくは3~25%、より好ましくは5~20%、更に好ましくは8~18%、特に好ましくは10~15%である。CaOの含有量が少なすぎると、ガラス化が困難になり、ガラスの耐候性が悪化すると共に、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。一方、CaOの含有量が多すぎても、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0027】
SrOは、ガラス化範囲を広げ、ガラスの軟化点の過度な上昇を抑えつつ、ガラスの耐候性を改善する成分である。SrOの含有量は、1~30%、好ましくは3~25%、より好ましくは5~20%、更に好ましくは8~18%、特に好ましくは10~15%である。SrOの含有量が少なすぎると、ガラス化が困難になり、ガラスの耐候性が悪化すると共に、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。一方、SrOの含有量が多すぎても、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0028】
BaOは、MgO、CaO、SrO及びZnOに比べ、ガラス化範囲を顕著に広げ、ガラスの軟化点を顕著に下げ、また、ガラスの耐候性を顕著に向上させる成分である。BaOの含有量は、1~30%、好ましくは3~25%、より好ましくは5~20%、更に好ましくは8~18%、特に好ましくは10~15%である。BaOの含有量が少なすぎると、ガラス化が困難になり、軟化点が下がらないことにより低温封着が困難になると共に、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。また、ガラスの耐候性の維持が困難になる。一方、BaOの含有量が多すぎても、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0029】
ZnOは、ガラス化範囲を広げ、ガラスの軟化点の過度な上昇を抑えつつ、ガラスの耐候性を改善する成分である。ZnOの含有量は、1~30%、好ましくは3~25%、より好ましくは5~20%、更に好ましくは8~18%、特に好ましくは10~15%である。ZnOの含有量が少なすぎると、ガラス化が困難になり、ガラスの耐候性が悪化すると共に、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。一方、ZnOの含有量が多すぎても、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0030】
TeOは、ガラスネットワークを形成すると共に、耐候性を向上させる成分である。TeOの含有量は30~80%であり、好ましくは35~75%、より好ましくは40~70%、更に好ましくは45~65%、特に好ましくは50~60%である。TeOの含有量が少な過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなると共に、耐候性が低下し易くなる。一方、TeOの含有量が多過ぎると、ガラスの粘性(軟化点等)が高くなり、低温封着が困難になると共に、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。また、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎる傾向にある。
【0031】
MoOは、ガラスネットワークを形成すると共に、耐候性を向上させる成分である。MoOの含有量は5~30%であり、好ましくは7~27%、より好ましくは10~25%、更に好ましくは12~22%、特に好ましくは15~20%である。MoOの含有量が少な過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなると共に、ガラスの粘性(軟化点等)が高くなり、低温封着が困難になる。一方、MoOの含有量が多過ぎると、ガラス化しにくくなる。またガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなると共に、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎる傾向にある。
【0032】
本発明のガラス組成物は、上記成分以外にも、ガラス組成中に下記の成分を含有してもよい。
【0033】
LiO、NaO及びKOは、ガラスの粘性(軟化点等)を低下させる成分である。LiO+NaO+KOは、好ましくは1~30%、より好ましくは2~25%、更に好ましくは5~20%、特に好ましくは8~15%である。LiO+NaO+KOが少な過ぎると、ガラスの粘性(軟化点等)が高くなり、低温封着が困難になると共に、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。一方、LiO+NaO+KOが多過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0034】
LiOは、NaO及びKOに比べ、ガラスの粘性(軟化点等)を顕著に低下させる成分である。LiOの含有量は、好ましくは1~30%、より好ましくは2~25%、更に好ましくは3~20%、特に好ましくは5~18%である。LiOの含有量が少な過ぎると、ガラスの粘性(軟化点等)が高くなり、低温封着が困難になる。一方、LiOの含有量が多過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0035】
NaOは、KOに比べ、ガラスの粘性(軟化点等)を低下させる成分である。NaOの含有量は、好ましくは1~20%、より好ましくは2~15%、更に好ましくは3~12%、特に好ましくは5~10%である。NaOの含有量が少な過ぎると、ガラスの粘性(軟化点等)が高くなり、低温封着が困難になる。一方、NaOの含有量が多過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0036】
Oは、ガラスの粘性(軟化点等)を低下させる成分である。KOの含有量は、好ましくは1~30%、より好ましくは2~25%、更に好ましくは3~20%、特に好ましくは5~18%である。KOの含有量が少な過ぎると、ガラスの粘性(軟化点等)が高くなり、低温封着が困難になる。一方、KOの含有量が多過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0037】
更に、アルカリ混合効果によりガラスの軟化点を低下すべく、LiO/KOのモル比は、好ましくは0.3~5、より好ましくは0.4~4、0.5~3、更に好ましくは0.6~2、特に好ましくは0.7~1.5である。LiO/KOが小さ過ぎると、ガラスの粘性(軟化点等)が高くなり、低温封着が困難になると共に、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。一方、LiO/KOが大き過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0038】
TiO及びAlは、耐候性を向上させる成分である。TiO+Alは、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~8%、更に好ましくは1~6%、特に好ましくは2~5%である。TiO+Alが多過ぎると、ガラスの粘性(軟化点等)が高くなり、低温封着が困難になると共に、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0039】
なお、TiO及びAlの含有量の好ましい範囲は以下の通りである。
【0040】
TiOの含有量は、好ましくは0~8%、より好ましくは0.1~6%、更に好ましくは1~5%、特に好ましくは2~4%である。Alの含有量は、好ましくは0~8%、より好ましくは0.1~5%、更に好ましくは0.5~3%、特に好ましくは1~2%である。
【0041】
CuOは、ガラスの粘性(軟化点等)を低下させると共に、ガラスの熱膨張係数を低下させる成分である。また、金属を封着する場合、ガラスと金属の接着強度を向上させる成分である。このメカニズムの詳細は現時点では不明であるが、Cu原子は拡散性が高いため、金属の表層から内部に向かってCu原子が拡散することで、ガラスと金属が一体化し易くなるためだと考える。なお、封着対象物である金属の種類に特に制限はないが、例として、鉄、鉄合金、ニッケル、ニッケル合金、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。CuOの含有量は、0~30%、0~10%、0.1~5%、0.5~3%、特に1~2%であることが好ましい。また金属を封着する場合のCuOの含有量は、好ましくは1~30%、より好ましくは1~20%、更に好ましくは3~15%、特に好ましくは5~10%である。CuOの含有量が多過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、封着工程において、ガラス表面から金属Cuが析出し、封着性や電気特性に悪影響を与える虞がある。また、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0042】
WOは、ガラスの熱膨張係数を低下させる成分である。WOの含有量は0~20%、0.1~10%、特に1~5%である。WOの含有量が多過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなると共に、ガラスの粘性(軟化点等)が高くなり、低温封着が困難になる。
【0043】
は、ガラスネットワークを形成すると共に、ガラスを熱的に安定化させる成分である。Pの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~5%、更に好ましくは0.2~2%、特に好ましくは0.5~1%である。Pの含有量が多過ぎると、ガラスの粘性(軟化点等)が高くなり、低温封着が困難になると共に耐候性が低下し易くなる。
【0044】
AgOは、ガラスの粘性(軟化点等)を低下させる成分である。AgOの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~5%、更に好ましくは0.2~3%、特に好ましくは0.5~2%である。AgOの含有量が多過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。また、焼成雰囲気により、ガラス中から金属Agが析出する虞がある。
【0045】
AgIは、ガラスの粘性(軟化点等)を低下させる成分である。AgIの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~5%、更に好ましくは0.2~2%、特に好ましくは0.5~1%である。AgIの含有量が多過ぎると、ガラスの熱膨張係数が高くなり過ぎる傾向にある。
【0046】
Nbは、ガラスを熱的に安定化させると共に、耐候性を向上させる成分である。Nbの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~5%、更に好ましくは0.2~2%、特に好ましくは0.5~1%である。Nbの含有量が多過ぎると、ガラスの粘性(軟化点等)が高くなり、低温封着が困難になり易い。
【0047】
は、ガラスネットワークを形成すると共に、ガラスの粘性(軟化点等)を低下させる成分である。Vの含有量は、好ましくは0~10%、より好ましくは0.1~5%、更に好ましくは0.2~3%、更に好ましくは1~2%である。Vの含有量が多過ぎると、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなると共に、耐候性が低下し易くなる。
【0048】
Gaは、ガラスを熱的に安定化させると共に、耐候性を向上させる成分であるが、非常に高価であることから、その含有量は0.01%未満、特に含有しないことが好ましい。
【0049】
SiO、GeO、Fe、NiO、CeO、B、Sb、ZrOはガラスを熱的に安定化させて、失透を抑制する成分であり、各々2%未満まで添加可能である。これらの含有量が多すぎると、ガラスが熱的に不安定になり、溶融時又は焼成時にガラスが失透し易くなる。
【0050】
本発明のガラス組成物は、環境上の理由から、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1%以下の場合を指す。
【0051】
本発明の封着材料は、上記のガラス組成物からなるガラス粉末を含有する。本発明の封着材料は、機械的強度を向上、或いは熱膨張係数を調整するために、耐火性フィラー粉末を含有してもよい。その混合割合は、好ましくはガラス粉末40~100体積%、耐火性フィラー粉末0~60体積%であり、より好ましくはガラス粉末50~99体積%、耐火性フィラー粉末1~50体積%であり、更に好ましくはガラス粉末60~95体積%、耐火性フィラー粉末5~40体積%であり、特に好ましくはガラス粉末70~90体積%、耐火性フィラー粉末10~30体積%である。耐火性フィラー粉末の含有量が多過ぎると、相対的にガラス粉末の割合が少なくなるため、所望の流動性を確保し難くなる。
【0052】
耐火性フィラー粉末は、ZrWO(POを含有することが好ましい。ZrWO(POは上記のガラス粉末と反応し難く、効率的に封着材料の熱膨張係数を低下することが可能である。
【0053】
また本発明の封着材料は、耐火性フィラー粉末として、ZrWO(PO以外の耐火性フィラー粉末を使用することもできる。その他の耐火性フィラー粉末としては、NbZr(PO、ZrMoO(PO、HfWO(PO、HfMoO(PO、リン酸ジルコニウム、ジルコン、ジルコニア、酸化錫、チタン酸アルミニウム、石英、β-スポジュメン、ムライト、チタニア、石英ガラス、β-ユークリプタイト、β-石英、ウィレマイト、コーディエライト、Sr0.5Zr(PO等からなる粉末を、単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0054】
耐火性フィラー粉末は、略球状であることが好ましい。このようにすれば、ガラス粉末が軟化する際に、ガラス粉末の流動性が耐火性フィラー粉末によって阻害され難くなり、結果として、封着材料の流動性が向上する。また、平滑なグレーズ層を得やすくなる。さらに、仮にグレーズ層の表面に耐火性フィラー粉末の一部が露出しても、耐火性フィラー粉末が略球状であるため、この部分の応力が分散され、更には封着に際し、被封着物をグレーズ層に当接しても、被封着物に不当な応力がかかり難く、結果として気密性を確保し易くなる。なお、本発明でいう「略球状」とは、真球のみに限定されるものではなく、耐火性フィラー粉末において、耐火性フィラー粉末の重心を通る最も短い径を最も長い径で割った値が0.5以上、好ましくは0.7以上のものを指す。
【0055】
なお、耐火性フィラー粉末の粒径は、平均粒子径D50が0.2~20μm程度のものを使用することが好ましい。
【0056】
本発明の封着材料の軟化点は、好ましくは350℃以下、特に好ましくは340℃以下である。軟化点が高過ぎると、ガラスの粘性が高くなるため、所定の流動性を満たすために封着温度が上昇し、封着時の熱により素子を劣化させる虞がある。なお、軟化点の下限は特に限定されないが、現実的には180℃以上である。ここで、「軟化点」とは、平均粒子径D50が0.5~20μmの封着材料を測定試料として、マクロ型示差熱分析装置で測定した値を指す。測定条件としては、室温から測定を開始し、昇温速度は10℃/分とする。なお、マクロ型示差熱分析装置で測定した軟化点は、図1に示す測定曲線における第四屈曲点の温度(Ts)を指す。
【0057】
本発明の封着材料の熱膨張係数(30~150℃)は、好ましくは20×10-7/℃~200×10-7/℃、より好ましくは30×10-7/℃~160×10-7/℃、更に好ましくは40×10-7/℃~140×10-7/℃、特に好ましくは50×10-7/℃~120×10-7/℃である。熱膨張係数が低すぎても高すぎても、被封着材料との熱膨張差により、封着時や封着後に封着部が破損し易くなる。
【0058】
上記の特性を有する本発明の封着材料は、特に低温での封着が要求される水晶振動子のパッケージに好適である。
【0059】
次に本発明のガラス組成物を用いたガラス粉末の製造方法、及び本発明のガラス組成物を封着材料として使用する方法の一例について説明する。
【0060】
まず、上記組成となるように調合した原料粉末を800~1000℃で1~2時間、均質なガラスが得られるまで溶融する。次いで、溶融ガラスをフィルム状等に成形した後、粉砕し、分級することにより、本発明のガラス組成物からなるガラス粉末を作製する。なお、ガラス粉末の平均粒子径D50は1~20μm程度であることが好ましい。必要に応じて、ガラス粉末に各種耐火性フィラー粉末を添加した封着材料とする。
【0061】
次いでガラス粉末(あるいは封着材料)にビークルを添加して混練することによりガラスペースト(あるいは封着材料ペースト)を調製する。ビークルは、主に有機溶剤と樹脂とからなり、樹脂はペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。
【0062】
有機溶剤は、沸点が低く(例えば、沸点が300℃以下)、且つ焼成後の残渣が少ないことに加えて、ガラスを変質させないものが好ましく、その含有量は10~40質量%であることが好ましい。有機溶剤としては、プロピレンカーボネート、トルエン、N,N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、炭酸ジメチル、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、酢酸イソアミル、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン等を使用することが好ましい。また、有機溶剤として、高級アルコールを使用することがさらに好ましい。高級アルコールは、それ自身が粘性を有しているために、ビークルに樹脂を添加しなくても、ペースト化することができる。また、ペンタンジオールとその誘導体、具体的にはジエチルペンタンジオール(C20)も粘性に優れるため、溶剤に使用することができる。
【0063】
樹脂は、分解温度が低く、焼成後の残渣が少ないことに加えて、ガラスを変質させ難いものが好ましく、その含有量は0.1~20質量%であることが好ましい。樹脂として、ニトロセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ポリエチレンカーボネート、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)等を使用することが好ましい。
【0064】
次いで、ガラスペースト(封着材料ペースト)を金属、セラミック、または、ガラスからなる被封着物の封着箇所にディスペンサーやスクリーン印刷機等の塗布機を用いて塗布し、乾燥させ、300~350℃でグレーズ処理する。その後、被封着物を接触させて、350~400℃で熱処理することにより、ガラス粉末が軟化流動して両者が封着される。
【0065】
本発明のガラス組成物は、封着用途以外にも被覆、充填等の目的で使用できる。また、ペースト以外の形態、具体的には粉末、グリーンシート、タブレット(粉末の焼結体であるプレスフリット)等の状態で使用することもできる。
【実施例
【0066】
実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。表1及び2は、本発明の実施例(試料No.1~17)及び比較例(試料No.18~21)を示している。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】

【0069】
まず、表中に示したガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等のガラス原料を調合し、ガラスバッチを準備した後、このガラスバッチを白金坩堝に入れ、大気中にて800~1000℃で1~2時間溶融した。その後、溶融ガラスを水冷ローラーでフィルム状に成形し、フィルム状のガラスをボールミルで粉砕した後、目開き75μmの篩を通過させて、平均粒子径D50が約10μmのガラス粉末を得た。
【0070】
その後、表中に示した通りに、得られたガラス粉末と耐火性フィラー粉末を混合し、混合粉末を得た。
【0071】
耐火性フィラー粉末には、略球状のZrWO(PO(表中ではZWPと表記)、NbZr(PO(表中ではNZPと表記)を用いた。なお、耐火性フィラー粉末の平均粒子径D50は約10μmであった。
【0072】
No.1~21の試料について、ガラス転移点、熱膨張係数、軟化点、流動性、失透の有無、耐候性、金属との接着性を評価した。
【0073】
ガラス転移点及び熱膨張係数(30~150℃)は、次のようにして評価した。混合粉末試料を、棒状の金型に入れプレス成型した後に、離型剤を塗ったアルミナ基板上で380℃にて10分間焼成した。その後、焼成体を所定の形状に加工し、TMA装置により測定した。
【0074】
軟化点は、マクロ型示差熱分析装置により測定し、第四変局点を以て軟化点とした。なお、測定雰囲気は大気中、昇温速度は10℃/分とし、室温から測定を開始した。
【0075】
流動性は次のようにして評価した。混合粉末試料の合成密度分の重量を、直径20mmの金型に入れプレス成型した後に、ガラス基板上で380℃にて10分間焼成した。焼成体の流動径が19mm以上であるものを「○」、19mm未満のものを「×」とした。
【0076】
失透の有無は次のようにして評価した。目視で、上記で作製した焼成体表面を観察し、ガラス光沢がないものを失透「あり」、それ以外を失透「なし」とした。
【0077】
耐候性は、PCT(Pressure Cooker Test)による加速劣化試験で評価した。具体的には、上記で作製した焼成体を、121℃、2気圧、相対湿度100%の環境下で24時間保持した後、目視観察で、焼成体表面から析出物がないものを「〇」、それ以外を「×」とした。
【0078】
金属との接着性は次のようにして評価した。ガラス粉末試料の密度分の重量を、直径20mmの金型に入れプレス成型した後に、ステンレスSUS304基板上で380℃にて10分間、窒素雰囲気中で焼成を行った。焼成後、SUS304の焼成体が封着されている面とは反対側の面を、地平線に垂直な壁に密着するように貼り付け、その後、24時間経過しても、焼成体が自重により、SUS304基板から剥離しないものを「○」、剥離し落下したものを「×」とした。
【0079】
表から明らかなように、本発明の実施例であるNo.1~17の試料は、軟化点が低いため流動性に優れていた。また、耐候性に優れていた。一方、比較例であるNo.18の試料は、MgO+CaO+SrO+BaO+ZnOが所定量を超過していたため、焼成の際にガラスが失透し、流動性が不良だった。比較例であるNo.19の試料は、MoOの含有量が所定量を超過していたため、ガラス化しなかった。比較例であるNo.20、21の試料は、MgO、CaO、SrO、BaO、ZnOを含有していなかったため、耐候性が不良だった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のガラス組成物は、半導体集積回路、水晶振動子、平面表示装置、LED用ガラス端子や窒化アルミニウム基板の封着に好適である。また金属の封着材料としても使用可能である。
図1