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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】4輪駆動車の走行駆動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60K 23/08 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
B60K23/08 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023549301
(86)(22)【出願日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2021035392
(87)【国際公開番号】W WO2023047586
(87)【国際公開日】2023-03-30
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】下西 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】後田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】松尾 俊輔
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/129693(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/129692(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の左右一対の前輪及び後輪のうち、いずれか一方を駆動源に接続して駆動する主駆動輪とし、他方をクラッチトルクを調整可能な第1のクラッチを介して前記駆動源に接続して駆動する副駆動輪とし、左右の前記副駆動輪は、デファレンシャルを介して前記駆動源から動力が伝達される4輪駆動車に備えられた走行駆動制御装置であって、
前記車両は、前記デファレンシャルと前記左右の前記副駆動輪のうちいずれか一方との間の動力の伝達路に第2のクラッチを備え、
前記走行駆動制御装置は、
前記車両の運転状態に基づいて前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチの切り換えを判定するクラッチ作動判定部と、前記クラッチ作動判定部の判定に基づいて、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを制御するクラッチ制御部と、前記第2のクラッチでの現状の回転速度差を検出する回転速度差検出部と、を備え、
前記クラッチ制御部は、前記車両の走行中において、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチが切断した状態から少なくとも前記第2のクラッチを接続する際に、前記第1のクラッチを接続して、前記第2のクラッチにおける回転速度差を減少させ、前記第2のクラッチの結合時点では前記第1のクラッチを切断し、
前記クラッチ制御部は、前記クラッチ作動判定部により前記第2のクラッチの接続が判定された際に、前記第1のクラッチのクラッチトルクを第1の所定値印加し、所定の勾配値で前記第1の所定値から0に減少させるまでの必要時間を演算するとともに、現状の前記第2のクラッチの回転速度差を微分して前記必要時間経過後の前記第2のクラッチの回転速度差を演算し、前記必要時間経過後の前記第2のクラッチの回転速度差が第2の所定値以下となった時点で、前記第1のクラッチのクラッチトルクを前記所定の勾配値で減少開始させることを特徴とする4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【請求項2】
前記クラッチ作動判定部は、前記車両の運転状態に基づいて、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを切断する2輪駆動モードと、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを接続する4輪駆動モードと、前記第1のクラッチを切断し前記第2のクラッチを接続する4輪駆動待機モードと、のいずれかに切り替えるか判定し、
前記クラッチ制御部は、前記クラッチ作動判定部において前記車両の走行中に、前記2輪駆動モードから前記4輪駆動モードに切り換えることを判定した際に、前記第2のクラッチの結合時点では前記第1のクラッチを切断することを特徴とする請求項に記載の4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【請求項3】
前記第1のクラッチは、電子制御カップリングであって、
前記第2のクラッチは、結合及び切断を切り替えるドグクラッチである
ことを特徴とする請求項1またはに記載の4輪駆動車の走行駆動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2輪駆動と4輪駆動とを切り替え可能な4輪駆動車の走行駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン等の動力駆動源に車両の前輪及び後輪のうちのいずれか一方が接続され、他方がクラッチを介して接続された4輪駆動車が知られている。このような車両は、クラッチを接続することで4輪駆動車となり、クラッチを切断することで2輪駆動車となる。
特許文献1には、後輪駆動車ベースの4輪駆動車が開示されている。この4輪駆動車は、2輪駆動と4輪駆動とを切り替える手段として電制カップリング(摩擦クラッチ)を備えるとともに、2輪駆動時には従動輪側である左右の前輪間を切断するドグクラッチ(噛み合いクラッチ)を備えている。
【0003】
そして、電制カップリング及びドグクラッチを接続する4輪駆動モード(コネクト4輪駆動モード)、電制カップリング及びドグクラッチを切断する2輪駆動モード(ディスコネクト2輪駆動モード)、電制カップリングを切断しドグクラッチを接続する4輪駆動待機モード(スタンバイ2輪駆動モード)が選択的に可能になっており、車速やアクセル開度に基づいて自動的に切り替えるように構成されている。
【0004】
更に、特許文献1では、2輪駆動モードから4輪駆動モードに移行する場合のように、電制カップリング及びドグクラッチを接続する際には、ドグクラッチの接続完了タイミングに合わせて電制カップリングの接続を制御することで、切り換え時間を短縮させることが可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6303822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1のように摩擦クラッチと噛み合いクラッチを備えた4輪駆動車において、例えば2輪駆動モードから4輪駆動モードに移行する場合のように噛み合いクラッチを接続するときに、回転速度差が大きい状態で噛み合いクラッチを接続すると、接続時に車体に作用するトルクが急激に変化して、所謂トルクショックが発生する可能性がある。そこで、噛み合いクラッチを接続する前に、あるいは特許文献1のように噛み合いクラッチの接続に合わせて、摩擦クラッチを制御して噛み合いクラッチにおける回転速度差を解消して、噛み合いクラッチを接続することが考えられる。
【0007】
しかしながら、例え噛み合いクラッチにおいて回転速度差が生じていないとしても、車両走行中に噛み合いクラッチを接続すると、車両の走行に伴い車輪とともに回転する駆動系の慣性が急激に増加するので、車両の走行に影響を及ぼす可能性がある。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、噛み合いクラッチを接続するときの駆動系の慣性の変化に伴う車両の走行への影響を低減させる4輪駆動車の走行駆動制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る4輪駆動車の走行駆動制御装置は、車両の左右一対の前輪及び後輪のうち、いずれか一方を駆動源に接続して駆動する主駆動輪とし、他方をクラッチトルクを調整可能な第1のクラッチを介して前記駆動源に接続して駆動する副駆動輪とし、左右の前記副駆動輪は、デファレンシャルを介して前記駆動源から動力が伝達される4輪駆動車に備えられた走行駆動制御装置であって、前記車両は、前記デファレンシャルと前記左右の前記副駆動輪のうちいずれか一方との間の動力の伝達路に第2のクラッチを備え、前記走行駆動制御装置は、前記車両の運転状態に基づいて前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチの切り換えを判定するクラッチ作動判定部と、前記クラッチ作動判定部の判定に基づいて、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを制御するクラッチ制御部と、前記第2のクラッチでの現状の回転速度差を検出する回転速度差検出部と、を備え、前記クラッチ制御部は、前記車両の走行中において、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチが切断した状態から少なくとも前記第2のクラッチを接続する際に、前記第1のクラッチを接続して、前記第2のクラッチにおける回転速度差を減少させ、前記第2のクラッチの結合時点では前記第1のクラッチを切断し、前記クラッチ制御部は、前記クラッチ作動判定部により前記第2のクラッチの接続が判定された際に、前記第1のクラッチのクラッチトルクを第1の所定値印加し、所定の勾配値で前記第1の所定値から0に減少させるまでの必要時間を演算するとともに、現状の前記第2のクラッチの回転速度差を微分して前記必要時間経過後の前記第2のクラッチの回転速度差を演算し、前記必要時間経過後の前記第2のクラッチの回転速度差が第2の所定値以下となった時点で、前記第1のクラッチのクラッチトルクを前記所定の勾配値で減少開始させることを特徴とする。
【0010】
これにより、車両走行中において、第2のクラッチの結合時点で第1のクラッチを切断することで、第2のクラッチの結合時において副駆動輪とともに回転する駆動系の慣性の増加を抑え、車両走行への影響を抑制することができる。
【0012】
また、第2のクラッチの接続の際に、第2のクラッチにおける回転速度差を減少させて、接続時のトルク変動を抑制することができる。
【0014】
また、第2のクラッチを接続する際に、第1のクラッチのクラッチトルクを印加することで、第2のクラッチにおける回転速度差を減少させ、第1のクラッチのクラッチトルクを所定の勾配値で減少させることで、第1のクラッチのクラッチトルクの変化を一定にしつつ、第1のクラッチのクラッチトルクが0になる時点と、第2のクラッチの回転速度差が第2の所定値以下となる時点を一致させることができる。
【0015】
したがって、第2のクラッチを接続する際に第1のクラッチを接続することによる、第2のクラッチにおける回転速度差の減少と、第2のクラッチの結合時点で第1のクラッチのクラッチトルクを0にする制御を同時に短時間で終了させることができる。
【0016】
好ましくは、前記クラッチ作動判定部は、前記車両の運転状態に基づいて、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを切断する2輪駆動モードと、前記第1のクラッチ及び前記第2のクラッチを接続する4輪駆動モードと、前記第1のクラッチを切断し前記第2のクラッチを接続する4輪駆動待機モードと、のいずれかに切り替えるか判定し、前記クラッチ制御部は、前記クラッチ作動判定部において前記車両の走行中に、前記2輪駆動モードから前記4輪駆動モードに切り換えることを判定した際に、前記第2のクラッチの結合時点では前記第1のクラッチを切断するとよい。
【0017】
これにより、2輪駆動モードから4輪駆動モードに切り換える際での、第2のクラッチの接続時における駆動系の慣性の増加を抑え、車両走行への影響を抑制することができる。
【0018】
好ましくは、前記第1のクラッチは、電子制御カップリングであって、前記第2のクラッチは、結合及び切断を切り替えるドグクラッチであるとよい。
【0019】
これによりドグクラッチの接続時に電子制御カップリングを切断することで、ドグクラッチの結合時における駆動系の慣性の増加を抑え、車両走行への影響を抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る4輪駆動車の走行駆動制御装置によれば、車両走行中において、第2のクラッチの結合時点で第1のクラッチを切断することで、第2のクラッチの結合時における駆動系の慣性の増加を抑え、車両走行への影響を抑制することができる。これにより、車両走行中における乗員の違和感を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係る4輪駆動車の走行駆動系の構成図である。
図2】本実施形態の駆動モード切替え制御系の構成図である。
図3】本実施形態におけるドグクラッチの接続時での電制カップリングの制御手順を示すフローチャートである。
図4】本実施形態におけるドグクラッチの接続時でのドグクラッチの制御手順を示すフローチャートである。
図5】ドグクラッチの接続時での、ドグクラッチ及び電制カップリングのクラッチトルクの制御量の推移の一例を示すタイムチャートである。
図6】ドグクラッチの接続時での、ドグクラッチの回転速度差の加速度の推移を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る4輪駆動車の走行駆動系の構成図である。図2は、本実施形態の駆動モード切替え制御系の構成図である。
【0024】
図1に示すように、本発明を採用した車両1は、後輪駆動ベースの4輪駆動車である。
【0025】
車両1の後輪駆動系は、走行駆動源であるエンジン2及び変速機3、副変速機4、リアプロペラシャフト5、リアデファレンシャル6、左後輪ドライブシャフト7、右後輪ドライブシャフト8、左後輪9、右後輪10を備えている。変速機3は、自動変速機(AT)であり、副変速機4は例えば手動によりハイ、ローの2段切り換えが可能である。エンジン2による駆動力は、変速機3、副変速機4、リアプロペラシャフト5、リアデファレンシャル6を介して、左後輪ドライブシャフト7及び右後輪ドライブシャフト8に伝達し、主駆動輪である左後輪9及び右後輪10を駆動する。左後輪9と右後輪10とは、リアデファレンシャル6によって差動が許容される。
【0026】
車両1の前輪駆動系は、電制カップリング20(電子制御カップリング、第1のクラッチ)、フロントプロペラシャフト21、フロントデファレンシャル22、左前輪ドライブシャフト23、右前輪ドライブシャフト24、左前輪25、右前輪26を備えている。
【0027】
電制カップリング20は、伝達トルク(クラッチトルク)を調整可能な電子制御クラッチであり、副変速機4とフロントプロペラシャフト21との間に介装されている。電制カップリング20は、副変速機4とフロントプロペラシャフト21との間の伝達トルクを0にすることで、動力伝達を切断可能である。電制カップリング20を接続することで、エンジン2による駆動力は、変速機3、副変速機4、電制カップリング20、フロントプロペラシャフト21、フロントデファレンシャル22を介して、左前輪ドライブシャフト23及び右前輪ドライブシャフト24に伝達し、副駆動輪である左前輪25及び右前輪26を駆動する。左前輪25と右前輪26とは、フロントデファレンシャル22によって差動が許容される。
【0028】
更に、車両1の前輪駆動系には、ドグクラッチ30(第2のクラッチ)が備えられている。ドグクラッチ30は、フロントデファレンシャル22と右前輪26との間の動力伝達路である右前輪ドライブシャフト24に介装され、結合(接続)及び切断を切り換え可能である。ドグクラッチ30を接続することでフロントデファレンシャル22と右前輪26との間で動力が伝達可能となる。ドグクラッチ30を切断することで、フロントデファレンシャル22と右前輪26との間で動力伝達不能となる。
【0029】
図2に示すように、電制カップリング20及びドグクラッチ30は、車両1に搭載された走行駆動コントロールユニット40(走行駆動制御装置)によって、車両1の走行状態及び運転者による運転操作に基づいて作動制御される。
【0030】
走行駆動コントロールユニット40は、入出力装置、記憶部(ROM、RAM、不揮発性RAM等)及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成されている。
【0031】
走行駆動コントロールユニット40には、例えば車速、エンジントルク情報、車両前後加速度、変速段といった各種車両の運転状態を入力するとともに、車両1に設けられた回転速度差センサ60(回転速度差検出部)よりドグクラッチ30の左右の回転速度差を入力する。
【0032】
走行駆動コントロールユニット40は、駆動モード判定部61(クラッチ作動判定部)、クラッチ制御部45を備えている。
【0033】
駆動モード判定部61は、車両の運転状態、例えば車速、エンジントルク情報、車両前後加速度、変速段に基づいて、コネクト4WDモード(4輪駆動モード)、ディスコネクト2WDモード(2輪駆動モード)、スタンバイ4WDモード(4輪駆動待機モード)の3種類の駆動モードのいずれかに判定する。
【0034】
コネクト4WDモード、ディスコネクト2WDモード、スタンバイ4WDモードの3種類の駆動モードは、電制カップリング20及びドグクラッチ30の作動制御によって切り替えられる。
【0035】
コネクト4WDモードは、電制カップリング20及びドグクラッチ30を接続した状態である。コネクト4WDモードでは、エンジン2等の走行駆動源から後輪駆動系によって右後輪10及び左後輪9を駆動するとともに、走行駆動源から前輪駆動系によって右前輪26及び左前輪25を駆動する。
【0036】
ディスコネクト2WDモードは、電制カップリング20及びドグクラッチ30を切断した状態である。ディスコネクト2WDモードでは、走行駆動源から後輪駆動系によって右後輪10及び左後輪9を駆動する一方、電制カップリング20が切断していることで右前輪26及び左前輪25は駆動されない。なお、ドグクラッチ30が切断していることで、右前輪26とフロントデファレンシャル22とが切断され、走行中に前輪25、26の回転に伴って回転する前輪駆動系の部位を減らして、フリクション損失やオイル攪拌損失を低減させることにより、燃費を向上させることができる。
【0037】
スタンバイ4WDモードは、電制カップリング20を切断し、ドグクラッチ30を接続した状態である。スタンバイ4WDモードでは、電制カップリング20が切断していることから前輪25、26は駆動されずに後輪駆動であるが、ドグクラッチ30を接続していることから、電制カップリング20を接続することで、直ぐにコネクト4WDモードに移行できる。したがって、ディスコネクト2WDモードからコネクト4WDモードに移行する前にスタンバイ4WDモードを経由することで、即ち2輪駆動から4輪駆動に切り換える際に、電制カップリング20を完全に接続する前にあらかじめドグクラッチ30を接続しておき、電制カップリング20を接続することで2輪駆動から4輪駆動への速やかな切り換えが可能になる。
【0038】
クラッチ制御部45は、駆動モード判定部61において判定した駆動モードに基づいて、電制カップリング20及びドグクラッチ30を作動制御する。
【0039】
本実施形態のクラッチ制御部45は、車両走行中において、例えばディスコネクト2WDモードからコネクト4WDモードに移行する場合のように、ドグクラッチ30を接続する際に、電制カップリング20の制御によりフロントプロペラシャフト21の回転をコントロールし、ドグクラッチ30における回転速度差を低減させる制御を行う。
【0040】
図3は、ドグクラッチ30の接続時での電制カップリング20の制御手順を示すフローチャートである。図4は、ドグクラッチ30の接続時でのドグクラッチ30の制御手順を示すフローチャートである。図5は、ドグクラッチ30の接続時での、ドグクラッチ30の回転速度差及び電制カップリング20のクラッチトルクの制御量の推移の一例を示すタイムチャートである。図6は、ドグクラッチ30の接続時での、ドグクラッチ30の回転速度差ΔNの加速度の推移を示すタイムチャートである。
【0041】
ドグクラッチ30が切断状態であるときに、図3図4に示すルーチンが並行して開始される。
【0042】
始めにステップS10では、駆動モードに基づきドグクラッチ30の結合指示があるか否かを判別する。ドグクラッチ30の結合指示がある場合には、ステップS20に進む。ドグクラッチ30の結合指示がない場合には、ステップS10を繰り返す。
【0043】
ステップS20では、電制カップリング20において、適宜設定された第1の所定値T1のクラッチトルクの印加を開始する。そしてステップS30に進む。
【0044】
ステップS30では、電制カップリング20の第1の所定値T1のクラッチトルクを一定の勾配制限値a(所定の勾配値)で低下させて0に到達するまでの必要時間tを算出する(t=T1/a)。勾配制限値aは時間当たりのクラッチトルクの低下量の制限値であり、車両の走行に影響を与えない範囲で大きく設定するとよい。そして、ステップS40に進む。
【0045】
ステップS40では、回転速度差センサ60より現状のドグクラッチ30の回転速度差ΔNを入力して、当該回転速度差ΔNを微分し、回転速度差ΔNの変化量d(ΔN)/dtを演算する。そして、この回転速度差ΔNの変化量によって上記の必要時間t後における予想回転速度差ΔNtを算出する。即ち図6に示すように必要時間t後における予想回転速度差ΔNtは、回転速度差ΔNの微分値と経過時間とのグラフで示す三角形(ハッチング部分)の面積分の回転速度差を現状の回転速度差ΔNから減少させた値となる。そして、ステップS50に進む。
【0046】
ステップS50では、ステップS40で演算した必要時間t後の予想回転速度差ΔNtが、結合可能閾値ΔN1(第2の所定値)以下であるか否かを判別する。結合可能閾値ΔN1は、ドグクラッチ30の結合時のトルク変動が許容範囲内となる閾値であり、0に近い値である。結合可能閾値ΔN1以下である場合には、ステップS60に進む。結合可能閾値ΔN1以下でない場合には、ステップS20に戻る。
【0047】
ステップS60では、電制カップリング20のクラッチトルクを勾配制限値aで一定に0まで低下させる。なお、勾配制限値aは、図5においてクラッチトルクが低下する区間での傾斜に相当する。そして、本ルーチンを終了する。
【0048】
また、図4に示すように、上記のステップS10において、ドグクラッチ30の結合指示がある場合には、並行してステップS70に進む。
【0049】
ステップS70では、現状のドグクラッチ30の回転速度差ΔNを微分し、線形近似にて結合可能閾値ΔN1になるまでの時間tbを算出する。そして、ステップS80に進む。
【0050】
ステップS80では、ステップS70で演算した結合可能閾値ΔN1になるまでの時間tbが、ドグクラッチ30の作動応答時間、即ちドグクラッチ30に結合指示を送信してからの作動応答時間より短いか否かを判別する。結合可能閾値ΔN1になるまでの時間tbが作動応答時間より短い場合にはステップS90に進む。時間tbが作動応答時間以上である場合にはステップS70に戻る。
【0051】
ステップS90では、ドグクラッチ30を結合するように作動制御する。そして、ステップS100に進む。
【0052】
ステップS100では、ドグクラッチ30が結合完了したことを例えばドグクラッチ結合センサにより検出したらドグクラッチ30の作動を終了して、本ルーチンを終了する。
【0053】
以上のように、本実施形態では、ドグクラッチ30を接続する際には、電制カップリング20によりクラッチトルクを印加して、フロントプロペラシャフト21の回転速度を変化させ、ドグクラッチ30の左右の回転速度差ΔNを結合可能閾値ΔN1にする。そして、回転速度差ΔNが0に近い結合可能閾値ΔN1以下になったときに、ドグクラッチ30を結合する。これにより、車両走行中にドグクラッチ30を結合したときのトルク変動を抑えることができる。
【0054】
更に、本実施形態では、ドグクラッチ30を結合する前(結合より必要時間t前)から電制カップリング20のクラッチトルクを減少させて、ドグクラッチ30を結合する時点では電制カップリング20のクラッチトルクを0にしている。
【0055】
これにより、ドグクラッチ30を接続したときに前輪25、26につながる駆動系を電制カップリング20までに止めることができ、慣性の増加を抑制することができる。したがって、車両走行中における駆動系の慣性の増加による走行への影響を抑制して、車両走行中での乗員の違和感を抑制することができる。
【0056】
また、駆動モード判定部61によりドグクラッチ30の接続が判定された際に、電制カップリング20のクラッチトルクを第1の所定値T1印加し、所定の勾配制限値aで第1の所定値T1から0に減少させるまでの必要時間tを演算するとともに、現状のドグクラッチ30の回転速度差ΔNを微分して必要時間t経過後のドグクラッチ30の予想回転速度差ΔNtを演算し、必要時間t経過後のドグクラッチ30の予想回転速度差ΔNtが結合可能閾値ΔN1以下となった時点で、電制カップリング20のクラッチトルクを所定の勾配制限値aで減少開始させるようにしている。
【0057】
これにより、ドグクラッチ30を接続する際に、電制カップリング20のクラッチトルクを印加して、ドグクラッチ30の第2のクラッチにおける回転速度差を結合可能閾値ΔN1以下に減少させることで、第2のクラッチの接続時でのトルク変動を抑制することができる。
【0058】
また、ドグクラッチ30を接続する際に、電制カップリング20のクラッチトルクを第1の所定値T1印加してから、所定の勾配制限値aで減少させて0にすることで、電制カップリング20のクラッチトルクを一定に変化させる。そして、電制カップリング20のクラッチトルクが0になる時点と、ドグクラッチ30の回転速度差が結合可能閾値ΔN1以下となる時点を一致させている。
【0059】
したがって、ドグクラッチ30を接続する際に電制カップリング20を接続することによる、ドグクラッチ30における回転速度差の減少と、ドグクラッチ30の結合時点で電制カップリング20のクラッチトルクを0にする制御を短時間で終了させることができる。
【0060】
なお、本発明は上記実施形態に限定するものではない。例えば上記実施形態では、ディスコネクト2WDモードからコネクト4WDモードに移行する場合でのドグクラッチ30の接続の際に本発明を適用しているが、他の場合であっても車両走行中にドグクラッチ30を接続する際に本発明を適用できる。
【0061】
また、例えば上記実施形態では、後輪駆動車をベースとした、即ち後輪9、10を主駆動輪とし前輪25、26を副駆動輪とした4輪駆動車に本発明を適用しているが、前輪駆動車をベースとした、即ち前輪25、26を主駆動輪とし後輪9、10を副駆動輪とした4輪駆動車に本発明を適用してもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、走行駆動源がエンジン2である車両1に本発明を適用しているが、モータを走行駆動源とする電気自動車、走行駆動源をエンジン及びモータとするハイブリッド車やプラグインハイブリッド車に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 車両
2 エンジン(駆動源)
9 左後輪(後輪、主駆動輪)
10 右後輪(後輪、主駆動輪)
20 電制カップリング(第1のクラッチ)
22 フロントデファレンシャル(デファレンシャル)
25 左前輪(前輪、副駆動輪)
26 右前輪(前輪、副駆動輪)
30 ドグクラッチ(第2のクラッチ)
40 走行駆動コントロールユニット(走行駆動制御装置)
61 駆動モード判定部(クラッチ作動判定部)
45 クラッチ制御部
60 回転速度差センサ(回転速度差検出部)

図1
図2
図3
図4
図5
図6