(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】設計装置、設計方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B05B 15/68 20180101AFI20240718BHJP
B05B 12/00 20180101ALI20240718BHJP
G06F 30/10 20200101ALI20240718BHJP
B25J 9/22 20060101ALI20240718BHJP
G05B 19/42 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B05B15/68
B05B12/00 A
G06F30/10
B25J9/22 A
G05B19/42 H
(21)【出願番号】P 2019215492
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000117009
【氏名又は名称】旭サナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136180
【氏名又は名称】羽立 章二
(72)【発明者】
【氏名】中妻 啓
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 一平
(72)【発明者】
【氏名】道内 大貴
(72)【発明者】
【氏名】小林 義典
(72)【発明者】
【氏名】宮地 計二
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-001381(JP,A)
【文献】特開平08-057372(JP,A)
【文献】特開平11-333339(JP,A)
【文献】特開2003-330511(JP,A)
【文献】特開2018-144007(JP,A)
【文献】特開2018-167252(JP,A)
【文献】特開平11-179687(JP,A)
【文献】特開2015-077661(JP,A)
【文献】特開平08-147022(JP,A)
【文献】特開平06-262564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 12/00-16/80
B05D 1/00-7/26
G06F 30/00-30/398
G05B 19/18-19/416
19/42-19/46
B25J 1/00-21/02
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装装置の動作軌跡を設計する設計装置であって、
平面形状に塗布するための前記塗装装置の動作軌跡を定める塗布条件を記憶する塗布条件記憶部と、
塗布対象の曲面形状を特定する曲面形状特定情報を記憶する曲面形状記憶部と、
前記曲面形状に対して塗布するために前記曲面形状の上に規定される軌跡を計算する動作軌跡規定部を備え、
前記塗布条件が定める動作軌跡は、前記塗装装置を一定間隔の平行線上を移動させて塗布することを含み、
前記曲面形状の上に規定される軌跡は、第1軌跡と、第i軌跡(2以上の自然数nに対して、iは1からn-1までの自然数)の後に位置する第i+1軌跡を含み、
前記動作軌跡規定部は、
曲面上の領域からの測地線距離が等しい等値線を求める手法に従い、各iに対して第i軌跡から
の前記曲面形状上の測地線距離が等しい等値線を第i+1軌跡
とするものであ
り、
第i軌跡
と第i+1軌跡の前記曲面形状
上の測地線距離
は、前記塗布条件における前記一定間隔と同等の距離
であ
る、設計装置。
【請求項2】
前記曲面形状に対して塗布するための軌跡の初期位置である塗布開始線を記憶する初期位置記憶部を備え、
第1軌跡は、前記塗布開始線であり、
前記動作軌跡規定部は、前記塗布開始線からの前記曲面形状の上での
測地線距離が前記塗布条件における前記一定間隔と同等の距離にある第2軌跡を計算する、請求項
1記載の設計装置。
【請求項3】
前記動作軌跡規定部は、利用者により前記初期位置記憶部に記憶された前記塗布開始線が変更されたならば、変更された前記塗布開始線からの前記曲面形状の上での
測地線距離が前記塗布条件における前記一定間隔と同等の距離にある第2軌跡を再計算する、請求項
2記載の設計装置。
【請求項4】
前記塗装装置は、前記曲面形状に塗布して塗膜を作製するものであり、
前記塗布条件は、前記一定間隔を特定するピッチと、前記塗装装置の移動速度を含み、
前記動作軌跡規定部は、前記塗布条件を用いて、前記曲面形状に塗布するための前記軌跡に従って移動させる前記塗装装置の移動速度、塗布対象面との距離及び塗布対象面に対する姿勢を計算する、請求項1から
3のいずれかに記載の設計装置。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれかに記載の設計装置において計算された軌跡に対して、その上を移動しつつ塗液を噴出する塗液放出部を備える塗装用スプレーガン。
【請求項6】
塗装装置の動作軌跡を設計する設計方法であって、
塗布条件記憶部及び曲面形状記憶部が、それぞれ、平面形状に塗布するための前記塗装装置の動作軌跡を定める塗布条件及び塗布対象の曲面形状を特定する曲面形状特定情報を記憶する記憶ステップと、
動作軌跡規定部が、前記曲面形状に対して塗布するために前記曲面形状の上に規定される軌跡を計算する動作軌跡規定ステップを含み、
前記塗布条件が定める動作軌跡は、前記塗装装置を一定間隔の平行線上を移動させて塗布することを含み、
前記曲面形状の上に規定される軌跡は、第1軌跡と、第i軌跡(2以上の自然数nに対して、iは1からn-1までの自然数)の後に位置する第i+1軌跡を含み、
前記動作軌跡規定部は、
曲面上の領域からの測地線距離が等しい等値線を求める手法に従い、各iに対して第i軌跡から
の前記曲面形状上の測地線距離が等しい等値線を第i+1軌跡
とするものであ
り、
第i軌跡
と第i+1軌跡の前記曲面形状
上の測地線距離
は、前記塗布条件における前記一定間隔と同等の距離
であ
る、設計方法。
【請求項7】
コンピュータを、塗布条件記憶部が記憶する塗布条件により定められる平面形状に塗布するための塗装装置の動作軌跡を用いて、曲面形状記憶部が記憶する曲面形状特定情報により特定される塗布対象の曲面形状に対して塗布するために前記曲面形状の上に規定される軌跡を計算する動作軌跡規定部として機能させるためのプログラムであって、
前記塗布条件が定める動作軌跡は、前記塗装装置を一定間隔の平行線上を移動させて塗布することを含み、
前記曲面形状の上に規定される軌跡は、第1軌跡と、第i軌跡(2以上の自然数nに対して、iは1からn-1までの自然数)の後に位置する第i+1軌跡を含み、
前記動作軌跡規定部は、
曲面上の領域からの測地線距離が等しい等値線を求める手法に従い、各iに対して第i軌跡から
の前記曲面形状上の測地線距離が等しい等値線を第i+1軌跡
とするものであ
り、
第i軌跡
と第i+1軌跡の前記曲面形状
上の測地線距離
は、前記塗布条件における前記一定間隔と同等の距離
であ
る、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、設計装置、設計方法及びプログラムに関し、特に、塗装装置の動作軌跡を設計する等に関する。
【背景技術】
【0002】
スプレー塗装技術は、色付け工程だけでなくセンサーや液晶などの機能性塗膜を製造する工程にも利用されている。こうした工程では性能の均一性や再現性を担保するため色付け塗装以上に膜厚や膜質の制御が求められる。発明者は、スプレー塗布により圧電膜を作製(ゾルゲルスプレー法)し、例えばロボット表面にこれを取り付けて皮膚センサーとして利用することなどを研究している(特許文献1参照)。発明者は、これまでの研究により、平面に塗布する際に、高い再現性を有する均一膜塗布が可能であることを実証している。
【0003】
曲面を対象とした塗布軌跡の自動ティーチング技術について、ほとんどが、自動車など特定の対象を想定しており、主として対象形状を平面等の設計容易な形状に近似する手法が提案されている。特許文献2及び非特許文献1は、機械学習ベースではなく、入力形状に対応した軌跡をアルゴリズム的に生成する手法を提案する。特許文献1は、曲面上に適当な間隔で点を複数設置しそれらを線分で結ぶことで塗布軌跡を生成する。非特許文献1は、曲面をいくつかに分割した領域に対して塗布軌跡を生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-089621号公報
【文献】特開2011-005612号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】浅川直紀,外1名、“ロボットを用いた塗装作業の自動化”,日本機械学会論文集C編63.610 (1997):2167-2172.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2及び非特許文献1に記載の技術は、どちらも、曲面上で近似的に塗布曲線を生成するものであり、精密コーティングには不向きである。
【0007】
そこで、本願発明は、精密コーティングを実現することに適した、塗装装置の動作軌跡を設計する設計装置等を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の第1の観点は、塗装装置の動作軌跡を設計する設計装置であって、平面形状に塗布するための塗布条件を記憶する塗布条件記憶部と、曲面形状を特定する曲面形状特定情報を記憶する曲面形状記憶部と、前記曲面形状において前記塗布条件を用いて前記動作軌跡を計算する動作軌跡規定部を備える。
【0009】
本願発明の第2の観点は、第1の観点の設計装置であって、前記曲面形状において前記動作軌跡の初期位置を記憶する初期位置記憶部を備え、前記動作軌跡規定部は、前記曲面形状において、前記初期位置記憶部が記憶する初期位置から、前記塗布条件を用いて前記動作軌跡を計算する。
【0010】
本願発明の第3の観点は、第2の観点の設計装置であって、前記動作軌跡規定部は、前記曲面形状において、前記初期位置記憶部が記憶する初期位置から、前記塗布条件を用いて等値線計算により前記動作軌跡を計算し、利用者により前記初期位置記憶部に記憶された前記動作軌跡の初期位置が変更されたならば、前記動作軌跡規定部は、変更された初期位置から、前記塗布条件を用いて等値線計算により前記動作軌跡を再計算する。
【0011】
本願発明の第4の観点は、第1から第3のいずれかの観点の設計装置であって、前記塗装装置は、前記曲面形状に塗布して塗膜を作製するものであり、前記塗布条件は、平面形状に対して塗装装置を一定間隔で直線的に移動させるものであり、一定間隔を特定するピッチと、塗装装置の移動速度を含む。
【0012】
本願発明の第5の観点は、塗装装置の動作軌跡を設計する設計方法であって、塗布条件記憶部及び曲面形状記憶部が、それぞれ、平面形状に塗布して塗膜を作製するための塗布条件及び曲面形状を特定する曲面形状特定情報を記憶する記憶ステップと、動作軌跡規定部が、前記曲面形状において前記塗布条件を用いて前記動作軌跡を計算する動作軌跡規定ステップを含む。
【0013】
本願発明の第6の観点は、コンピュータにおいて、請求項1から4のいずれかに記載の設計装置を実現するためのプログラムである。
【0014】
なお、本願発明を、第6の観点のプログラムを記録するコンピュータ読み取り可能な記録媒体としてとらえてもよい。また、塗膜は、例えば、機能性塗膜でもよく、色付け塗装による塗膜でもよい。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の各観点によれば、動作軌跡規定部が、平面形状を対象として確立した塗布条件を利用して、これを曲面形状において再現するように動作軌跡を計算するため、どんな形状やサイズであっても、精密コーティングを実現することができる。
【0016】
さらに、曲面形状(3次元形状)からの完全自動軌跡生成は難問題である。難易度を上げる要因の一つは、塗布の開始及び終了の最適位置の決定である。本願発明の第2の観点によれば、塗布の開始位置は、利用者などによって指定されたものを使用する。これにより、軌跡生成の初期位置(初期塗布線)が定まるため、この後の計算のみで軌跡が規定される。
【0017】
さらに、本願発明の第3の観点によれば、動作軌跡規定部は等値線計算により動作軌跡を計算する。さらに、利用者が初期位置を調整して、容易に、効率や塗膜の状態の最適化などを調査することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】(a)本願発明の実施の形態に係る設計システム1の構成の一例を示すブロック図、(b)設計システム1の動作を示すフロー図、並びに、(c)~(f)具体的な処理の一例を示す図である。
【
図2】
図1の塗装装置3及び塗布対象5の一例を示す図である。
【
図3】
図1の塗布条件記憶部17が記憶する塗布条件を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、図面を参照して、本願発明の実施例について説明する。なお、本願発明は、この実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
図1は、(a)本願発明の実施の形態に係る設計システム1の構成の一例を示すブロック図、(b)設計システム1の動作を示すフロー図、並びに、(c)~(f)具体的な処理の一例を示す図である。
【0021】
設計システム1は、塗装装置3が塗布対象5に塗布するために、塗装装置3の動作軌跡を設計するものである。
図2は、
図1の塗装装置3及び塗布対象5の一例を示す。塗装装置3は、例えば、スプレー塗布するための塗装用スプレーガンと、この塗装用スプレーガンを取り付けられたロボットアームを含む。ロボットアームを制御して設計された動作軌跡に従って塗装用スプレーガンを移動することにより、塗装装置3は、塗布対象5を、設計された動作軌跡に従って移動しつつ塗布処理を行うことができる。以下では、塗装用スプレーガンから塗液を塗布して、圧電膜を作製する場合を例に説明する。
【0022】
設計システム1は、設計装置7(本願請求項の「設計装置」の一例)と、情報端末9を備える。
【0023】
設計装置7は、曲面形状記憶部11(本願請求項の「曲面形状記憶部」の一例)と、塗布領域記憶部13と、初期位置記憶部15(本願請求項の「初期位置記憶部」の一例)と、塗布条件記憶部17(本願請求項の「塗布条件記憶部」の一例)と、動作軌跡規定部19(本願請求項の「動作軌跡規定部」の一例)と、動作検証部21と、実機制御部23を備える。
【0024】
情報端末9は、入力部31と、表示部33を備える。
【0025】
図1(c)~(f)を具体例として、
図1(b)を参照しつつ
図1(a)の設計システム1の動作の一例を説明する。
【0026】
利用者は、入力部31より塗布対象5の3次元形状を特定する3Dモデルを入力する(ステップST1)。曲面形状記憶部11は、入力された3Dモデル(本願発明の「曲面形状特定情報」の一例)を記憶する。
図1(c)は、塗布対象5の3次元形状の一例を示す。本実施例では、3次元形状は、3Dプリンターなどで一般的に利用されるSTL形式により特定する。STL形式では、曲面形状は三角形のメッシュの集合として表現される。
【0027】
利用者は、入力部31より、塗布対象5において塗布すると塗布領域を選択する(ステップST2)。塗布領域記憶部13は、入力された塗布領域を記憶する。
図1(d)は、選択された塗布領域A
1の一例を示す。
【0028】
利用者は、塗布条件を入力する(ステップST3)。塗布条件記憶部17は、入力された塗布条件を記憶する。塗布条件は、塗液を、平面形状に塗布するときの条件である。
図3を参照して、塗布条件を説明する。
【0029】
図3は、塗布条件を説明するための図である。塗布条件は、ピッチ、移動速度、及び、塗布対象面と塗装用スプレーガンの距離を含む。スプレーガンから放出される塗液の霧は、空間的広がりを持つ。そのため、スプレーガンの動作軌跡を設計するときには、広がって塗着する塗液の塗り重ねに留意する必要がある。平面形状へ塗布するとき(以下、「平面塗布」ともいう。)の動作軌跡は、
図3(a)に示すように、スプレーガンを直線的に移動させて、往復させるものである。スプレーガンの動作軌跡は、直線を平行に一定間隔(ピッチ)で並べたものになる。塗布条件のピッチは、スプレーガンの直線移動の間隔である。塗布条件の移動速度は、スプレーガンが直線的に移動するときの速度である。
図3(b)に示すように、塗布条件の塗布対象面と塗装用スプレーガンの距離は、塗布するときの平面形状の塗布対象部51とスプレーガンの塗液放出部53との距離である。
【0030】
利用者は、塗布開始線を選択する(ステップST4)。初期位置記憶部15は、入力された塗布開始線を記憶する。
図1(e)の線L
1は、選択された塗布開始線の一例を示す。
【0031】
動作軌跡規定部19は、塗布領域記憶部13に記憶された塗布領域に対して、初期位置記憶部15に記憶された塗布開始線から、塗布条件記憶部17に記憶された塗布条件を用いて塗装装置3の動作軌跡を計算する(ステップST5)。曲面形状記憶部11に記憶される3Dモデルは、STL形式を用いている。STL形式では、曲面形状は三角形のメッシュの集合として表現される。動作軌跡規定部19は、メッシュの頂点をたどる軌跡を計算する動作軌跡生成アルゴリズムを用いる。このとき、曲面上に平行線を規定する必要がある。これは、例えば、Fast Marching法のように、メッシュの転換接続を表現する行列(ラプラシアン行列)が熱拡散方程式に登場するラプラス作用素と同形式であることを利用して曲面上の任意の領域からの距離が等しい等値線を求める手法に従い、実装することができる。動作開始線L
1に対して、塗布条件のピッチと実質的に同一のピッチとなるように等値線を求めることにより軌跡L
2を計算し、同様に、軌跡L
2、L
3及びL
4から、それぞれ、軌跡L
3、L
4及びL
5を計算している。
図1(f)は、軌跡L
1、L
2、L
3、L
4及びL
5を示す。塗装装置3の動作軌跡は、例えば、塗布対象面に対する塗装用スプレーガンの面直姿勢での距離を塗布条件の塗布対象面と塗装用スプレーガンの距離として塗布対象5から離して(すなわち、塗装用スプレーガンの塗液噴出部を塗布対象面に対して垂直に位置させて、塗装用スプレーガンの塗液噴出部と塗布対象面との距離が塗布条件の塗布対象面と塗装用スプレーガンの距離となるようにして)、軌跡L
1、L
2、L
3、L
4及びL
5に従って、塗布条件の移動速度により移動させるものである。
【0032】
曲面形状を対象とする場合には、なるべく平面と同等な塗布条件となるようスプレーの動作軌跡を設計する必要がある。スプレーガンから放出される塗液の霧は空間的広がりを持つため、設計の際には広がって塗着する塗液の塗り重ねに留意しつつ曲面上の各点とスプレーガンの関係が平面で塗布する場合と同等としなくてはならない。こうした軌跡設計は、ロボットの手動ティーチングで実施することは困難であり、再現性や効率も低下する。
【0033】
さらに、3次元形状からの完全自動軌跡生成は、難問題である。難易度を上げる要因の一つは、塗布の開始及び終了の最適位置の決定である。本実施例では、利用者が、塗布の開始位置(動作開始線)を指定する。これにより、軌跡生成の初期位置(動作開始線)が定まるため、この後の等値線計算のみで軌跡を規定することができる。
【0034】
動作検証部21は、利用者に対して、動作軌跡規定部19が規定した動作軌跡を提示する。利用者は、提示された動作軌跡を参照して、表示された動作軌跡を用いて塗布処理を行うか否かを入力する(ステップST6)。動作検証部21は、例えば、動作軌跡規定部19が規定した動作軌跡を用いてシミュレーション処理を行い、表示部33にシミュレーション結果を表示することにより、動作軌跡を提示してもよい。また、動作検証部21は、例えば、動作軌跡規定部19が規定した動作軌跡を用いて実機(実機制御部23及び塗装装置3)を動作させて、実際の動作を提示してもよい。
【0035】
動作検証部21は、利用者が入力したものが塗布処理を行うことか否かを判定する(ステップST7)。塗布処理を行うことが入力されたならば、実機制御部23は、塗装装置3を制御して、動作軌跡規定部19により規定された動作軌跡に従って塗装装置3を制御して、塗布対象5に塗液を塗布する(ステップST8)。動作軌跡を修正するならば、ステップST4に戻り、利用者は動作開始線を修正し、動作軌跡規定部19は、修正された動作開始線を利用して動作軌跡を再計算する。利用者は、動作開始線を調整することにより、効率や塗膜の状態の最適化などを容易に調査することができる。
【0036】
本実施例によれば、平面形状で定めた塗布条件を曲面上に厳密に再現することができ、精密コーティングに適したものである。
【0037】
また、本実施例では、Fast Marching法を用いて、曲面上の平行線を再現している。曲面上に平行線を引いたり曲面上の2点間最短距離(測地線距離)を求めたりするアルゴリズムは、コンピューターグラフィック技術で、自由形状(非可展面)を扱う数学理論をバックグラウンドとして効率的な実装方法などの研究がなされている。例えば、自由形状のCGオブジェクト上に縞模様をレンダリングするための技術として曲面上のある点や線・領域から一定の距離にある線(等値線)を求めるアルゴリズムが提案されている。
【0038】
このように、本実施例は、曲面を対象とした精密塗装を行うためのロボット自動ティーチングシステムを提案した。本実施例では、平面形状に塗布する際の塗布条件(移動速度、塗り重ねピッチなど)を利用して、塗装対象の3次元形状(CADデータ等)において、ロボットによりスプレーガンの動作軌跡をアルゴリズムにより計算する。ただし、塗装開始点(線)は、アルゴリズムのみで対応が困難と予測される。そのため、利用者が、塗装開始点(線)を指定する。
【符号の説明】
【0039】
1 設計システム、3 塗装装置、5 塗布対象、7 設計装置、9 情報端末、11 曲面形状記憶部、13 塗布領域記憶部、15 初期位置記憶部、17 塗布条件記憶部、19 動作軌跡規定部、21 動作検証部、23 実機制御部、31 入力部、33 表示部