(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】塩化ビニル系ポリマー粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/16 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
C08J3/16 CEV
(21)【出願番号】P 2022026669
(22)【出願日】2022-02-24
【審査請求日】2023-03-13
(31)【優先権主張番号】P 2021029942
(32)【優先日】2021-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591202155
【氏名又は名称】熊本県
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】永岡 昭二
(72)【発明者】
【氏名】河口 勉
(72)【発明者】
【氏名】城崎 智洋
(72)【発明者】
【氏名】堀川 真希
(72)【発明者】
【氏名】龍 直哉
(72)【発明者】
【氏名】高藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】伊原 博隆
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-096871(JP,A)
【文献】特開2014-034616(JP,A)
【文献】特開2019-172979(JP,A)
【文献】特開2002-020269(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ビニル系ポリマーを入れたハロゲン化アルキル系の疎水性溶媒と、水系溶媒とを混合した分散液を撹拌して、前記水系溶媒中に前記塩化ビニル系ポリマーを含む疎水性溶媒の液滴を形成し、
前記分散液を加熱して、前記液滴から前記疎水性溶媒を蒸発させ、
前記塩化ビニル系ポリマーで形成された塩化ビニル系ポリマー粒子を得る
塩化ビニル系ポリマー粒子の製造方法であって、
前記疎水性溶媒中において前記塩化ビニル系ポリマーを半溶解状態にする
ことを特徴とする塩化ビニル系ポリマー粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、塩化ビニル系ポリマー粒子の製造方法、複合粒子の製造方法および複合粒子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、充填材、スペーサー、研磨剤などとして、様々な分野における機能性材料として、マイクロサイズのポリマー粒子が求められている。このようなポリマー粒子の作製方法としては、例えば、モノマーと溶媒の水とを機械的に撹拌して懸濁させたもとで、モノマーを重合させてポリマー粒子を得る懸濁重合法が一般的である。
【0003】
セルロース繊維を極限まで解繊したセルロースナノファイバー(CNF)は、高弾性、高強度、低膨張、安全性などからさまざまな分野への活用が試みられている。高い潜在能力を有するCNFであるが、そのナノコンポジット化には大きな課題がある。植物は高度な階層構造により構成されており、セルロースの分子集合体であるCNFが複雑且つ強固に配置されており、分子間の強い水素結合は解繊および樹脂との複合において、大きな障害となる。CNFはセルロース分子由来の多数のOH基を持つため、親水性が高く、解繊を進めるに伴い、比表面積が大きくなるため、水素結合の効果が増幅される。従って、CNFをそのまま、疎水性の樹脂にナノ分散化させて、その添加効果を十分に発揮させることは極めて、困難である。
【0004】
例えば特許文献1には、水性溶媒中において、重合性モノマーの集合体の表面に、セルロース繊維により構成される被覆層を形成し、被覆層が形成される集合体において、重合性モノマーを重合することで、セルロース繊維により構成される被覆層と、被覆層により覆われるポリマーとからなる複合粒子を製造することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法は、水性溶媒中で重合性モノマーを重合してポリマーを得る懸濁重合法で重合可能なポリマーにしか適用できない。例えば、モノマーが常温下で気体であるポリ塩化ビニルなどは、特許文献1の方法で、形がよいポリマー粒子や複合粒子を得ることがとても難しい。
【0007】
本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、形がよい塩化ビニル系ポリマー粒子を簡単に得ることができる塩化ビニル系ポリマー粒子の製造方法、塩化ビニル系ポリマー粒子およびナノ多糖を含む複合粒子の製造方法、塩化ビニル系ポリマー粒子およびナノ多糖を含む複合粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る塩化ビニル系ポリマー粒子の製造方法は、
塩化ビニル系ポリマーを入れたハロゲン化アルキル系の疎水性溶媒と、水系溶媒とを混合した分散液を撹拌して、前記水系溶媒中に前記塩化ビニル系ポリマーを含む疎水性溶媒の液滴を形成し、
前記分散液を加熱して、前記液滴から前記疎水性溶媒を蒸発させ、
前記塩化ビニル系ポリマーで形成された塩化ビニル系ポリマー粒子を得ることを要旨とする。
【0009】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る複合粒子の製造方法は、
塩化ビニル系ポリマーを入れたハロゲン化アルキル系の疎水性溶媒と、ナノ多糖を入れた分散媒と、を混合した混合液を調製し、
前記混合液と水系溶媒とを混合した分散液を撹拌して、前記水系溶媒中に前記塩化ビニル系ポリマーおよび前記ナノ多糖を含む混合液の液滴を形成し、
前記分散液を加熱して、前記液滴から前記疎水性溶媒を蒸発させ、
前記塩化ビニル系ポリマーで形成された塩化ビニル系ポリマー粒子と、前記塩化ビニル系ポリマー粒子に配置された前記ナノ多糖と、を有する複合粒子を得ることを要旨とする。
【0010】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明に係る複合粒子は、
塩化ビニル系ポリマー粒子と、
前記塩化ビニル系ポリマー粒子の少なくとも内側に配置されたナノ多糖と、を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る塩化ビニル系ポリマー粒子の製造方法によれば、常温懸濁重合では得ることができないポリマーにも適用して、形がよい塩化ビニル系ポリマー粒子を簡単に得ることができる。
本発明に係る複合粒子の製造方法によれば、常温懸濁重合では得ることができない塩化ビニル系ポリマーにも適用して、形がよい塩化ビニル系ポリマー粒子にナノ多糖が配置された複合粒子を簡単に得ることできる。
本発明に係る複合粒子によれば、塩化ビニル系ポリマー粒子に配置されたナノ多糖と、塩化ビニル系ポリマー粒子との複合した機能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の塩化ビニル系ポリマー粒子の製造工程の一例を示す説明図である。
【
図2】本発明の塩化ビニル系ポリマー粒子の製造工程の一例を示す説明図である。
【
図3】本発明の複合粒子の製造工程の一例を示す説明図である。
【
図4】本発明の複合粒子の製造工程の一例を示す説明図である。
【
図5】本発明の複合粒子の製造工程の一例を示す説明図である。
【
図6】本発明の複合粒子の形成過程を模式的に示す説明図であり、ナノ多糖が塩化ビニル系ポリマー粒子の内側に配置される場合である。
【
図7】本発明の複合粒子の形成過程を模式的に示す説明図であり、ナノ多糖が塩化ビニル系ポリマー粒子の表面に配置される場合である。
【
図8】本発明の複合粒子を示す模式図である。(a)はナノ多糖が塩化ビニル系ポリマーの表面に配置されており、(b)はナノ多糖が塩化ビニル系ポリマーの内側に配置されており、(c)はナノ多糖が塩化ビニル系ポリマーの表面から内側にかけて配置されている。
【
図10】塩化メチレン中でPVCが半溶解状態にあることを示す写真である。
【
図11】実施例1の塩化ビニル系ポリマー粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が400倍である。
【
図12】実施例1の塩化ビニル系ポリマー粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が10000倍である。
【
図13】実施例1の塩化ビニル系ポリマー粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が20000倍である。
【
図14】実施例1の塩化ビニル系ポリマー粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が400倍である。
【
図15】実施例1の塩化ビニル系ポリマー粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が50倍である。
【
図16】実施例1の塩化ビニル系ポリマー粒子で用いたポリ塩化ビニル原料粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が50倍である。
【
図17】実施例1の塩化ビニル系ポリマー粒子と、実施例1の塩化ビニル系ポリマー粒子で用いたポリ塩化ビニル原料粒子と対比して示す電子顕微鏡写真である。
【
図18】実施例2の複合粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が400倍である。
【
図19】実施例2の複合粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が10000倍である。
【
図20】実施例2の複合粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が20000倍である。
【
図21】実施例2の複合粒子の断面を示す電子顕微鏡写真である。なお、倍率が400倍である。
【
図22】実施例3の複合粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が400倍である。
【
図23】実施例3の複合粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が10000倍である。
【
図24】実施例3の複合粒子の断面を示す電子顕微鏡写真である。なお、倍率が400倍である。
【
図25】実施例3の複合粒子の断面を示す電子顕微鏡写真である。なお、倍率が10000倍である。
【
図26】実施例1、実施例2および実施例3の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【
図29】実施例1~3のフィルムの引っ張り強度を示す図である。
【
図31】実施例6の複合粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が200倍である。
【
図32】実施例6の複合粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が800倍である。
【
図33】実施例6の複合粒子の電子顕微鏡写真である。なお、倍率が20000倍である。
【
図34】実施例6の複合粒子の断面を示す電子顕微鏡写真である。なお、倍率が500倍である。
【
図35】実施例6の複合粒子の断面を示す電子顕微鏡写真である。なお、
図34の四角囲み部分を拡大して示し、倍率が3000倍である。
【
図36】実施例6の複合粒子の断面を示す電子顕微鏡写真である。なお、
図35の四角囲み部分を拡大して示し、倍率が50000倍である。
【
図37】液体クロマトグラムの結果を示す図である。
【
図38】実施例6の複合粒子の形成メカニズムを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(塩化ビニル系ポリマー粒子)
本発明に係る塩化ビニル系ポリマー粒子(以下、単にPVC系粒子と略す。)は、平均粒径を1mm以下のマイクロサイズの微粒子にすることができる。具体的には、PVC系粒子は、その平均粒径が5μm~800μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは、10μm~500μmの範囲である。PVC系粒子は、前述した平均粒径であることで、他の材料へ添加する際に都合がよい。なお、本開示における平均粒径は、フロー方式画像解析法および走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した場合である。
【0014】
(塩化ビニル系ポリマー)
塩化ビニル系ポリマー粒子の塩化ビニル系ポリマー(以下、単に塩ビ系ポリマーと略す。)は、塩化ビニルモノマーを単独で重合させたもの、または塩化ビニルモノマーおよび塩化ビニルモノマーと共重合可能なモノマー(以下、共重合モノマーと略すことがある。)を共重合させたものである。塩ビ系ポリマーは、単独のモノマーによる重合体または共重合体で単独で構成されていても、単独のモノマーによる重合体および/または共重合体を複数組み合わせて構成されていても、何れであってもよい。
【0015】
共重合モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプタン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4.4-ジメチル-1-ヘキセン、4.4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン等などのα-オレフィンモノマー;スチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族系モノマー;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸プロピル、メタアクリル酸メチル、メタアクリル酸エチル、メタアクリル酸ブチル、メタアクリル酸プロピル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジ-n-ブチル、マレイン酸ジイソブチル、マレイン酸ジ-n-ペンチル、マレイン酸ジ-n-ヘキシル、マレイン酸ジ-2-エチルヘキシル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジ-n-ブチル、フマル酸ジイソブチル、フマル酸ジ-n-ペンチル、フマル酸ジ-n-ヘキシル、フマル酸ジ-2-エチルヘキシル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジプロピル、イタコン酸ジ-n-ブチル、イタコン酸ジイソブチル、イタコン酸ジ-n-ペンチル、イタコン酸ジ-n-ヘキシル、イタコン酸ジ-2-エチルヘキシル、シトラコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、シトラコン酸ジプロピル、シトラコン酸ジ-n-ブチル、シトラコン酸ジイソブチル、シトラコン酸ジ-n-ペンチル、シトラコン酸ジ-n-ヘキシル、シトラコン酸ジ-2-エチルヘキシル、メサコン酸ジメチル、メサコン酸ジエチル、メサコン酸ジプロピル、メサコン酸ジ-n-ブチル、メサコン酸ジイソブチル、メサコン酸ジ-n-ペンチル、メサコン酸ジ-n-ヘキシル、メサコン酸ジ-2-エチルヘキシル、グルタコン酸ジメチル、グルタコン酸ジエチル、グルタコン酸ジプロピル、グルタコン酸ジ-n-ブチル、グルタコン酸ジイソブチル、グルタコン酸ジ-n-ペンチル、グルタコン酸ジ-n-ヘキシル、グルタコン酸ジ-2-エチルヘキシル、アリルマロン酸ジメチル、アリルマロン酸ジエチル、アリルマロン酸ジプロピル、アリルマロン酸ジ-n-ブチル、アリルマロン酸ジイソブチル、アリルマロン酸ジ-n-ペンチル、アリルマロン酸ジ-n-ヘキシル、アリルマロン酸ジ-2-エチルヘキシル、テラコン酸ジメチル、テラコン酸ジエチル、テラコン酸ジプロピル、テラコン酸ジ-n-ブチル、テラコン酸ジイソブチル、テラコン酸ジ-n-ペンチル、テラコン酸ジ-n-ヘキシル、テラコン酸ジ-2-エチルヘキシルなどのエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステルモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミドなどのα,β-エチレン性不飽和モノカルボン酸アミド;ビニルメチルエーテル、ビニルセチルエーテルなどのビニルエーテルモノマー;塩化ビニリデンなどのビニリデン化合物等を挙げることができる。
【0016】
塩ビ系ポリマーの具体例としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニルとポリ塩化ビニリデンとの複合体であるポリ塩化ビニル-ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル-エチレン共重合体、アクリロニトリル-塩化ビニレン共重合体などが挙げられる。
【0017】
(塩化ビニル系ポリマー粒子の製造方法)
次に、PVC系粒子の製造方法について説明する。疎水性溶媒に塩ビ系ポリマーを入れたPVC溶液を調製する(
図1(a)参照)。ここで、PVC溶液において、塩ビ系ポリマーが疎水性溶媒に全体的に溶けた溶解状態であってもよいが、塩ビ系ポリマーが半溶解状態であってもよい。ここで、「半溶解状態」とは、塩ビ系ポリマーが疎水性溶媒において微細な粒子として分散している状態(コロイド)になっていることを指す。すなわち、本開示のPVC系粒子の製造方法によれば、塩ビ系ポリマーが疎水性溶媒に完全に溶けていない半溶解状態であっても、PVC系粒子を形成することができる。そもそも有機溶媒に溶け難い塩ビ系ポリマーから、PVC系粒子を簡単に形成することができる。なお、塩ビ系ポリマーは、比較的細かい粒状や塊状であることが、疎水性溶媒に溶解させるのに好ましく、例えば、数mm程度に砕いた破砕物などを用いることができる。
【0018】
PVC溶液と、水系溶媒と、を混合し、分散液を調製する。例えば、塩ビ系ポリマーが半溶解または溶解したPVC溶液を、水系溶媒に入れるとよい(
図1(a)参照)。分散液は、必要に応じて増粘剤を含んでいてもよく、この場合、例えば水系溶媒に増粘剤を加えて、増粘剤によって分散液の粘度を向上させる。次に、分散液を撹拌することで(
図1(b)参照)、分散液に入れたPVC溶液を液滴化する(
図1(c)参照)。このとき形成される液滴は、疎水性溶媒ドメインに塩ビ系ポリマーが分散された状態になっている。
【0019】
次に、分散液を加熱することで、液滴化したPVC溶液(液滴)から疎水性溶媒を蒸発させる(
図2(a)参照)。このとき、分散液を継続して撹拌している。液滴から疎水性溶媒が蒸発することで、残った塩ビ系ポリマーが粒子状に固化して、PVC系粒子が得られる(
図2(b)参照)。そして、ろ過や洗浄等の必要な処理を行って、PVC系粒子を回収する。なお、PVC系粒子を分級して、更に粒径を揃えてもよい。
【0020】
(疎水性溶媒)
疎水性溶媒としては、塩ビ系ポリマーを溶解(半溶解)可能で、水(水系分散媒)と混ざり難いものを用いることができる。また、疎水性溶媒は、水(水系分散媒)よりも沸点が低い所謂低沸点疎水性溶媒を用いるとよい。疎水性溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、二塩化エタンなどの、ハロゲン化アルキル系の疎水性有機溶媒を用いるとよい。
【0021】
(疎水性溶媒とPVCとの割合)
PVC溶液は、塩ビ系ポリマーが0.5wt%~50wt%の範囲になるように調製することが好ましく、より好ましくは、2wt%~20wt%の範囲である。PVC溶液における塩ビ系ポリマーの割合が前記範囲にあると、適度な粘度にすることができる。これにより、分散液中においてPVC溶液から形成される液滴を安定化させることができる。なお、PVC溶液における塩ビ系ポリマーの割合が低くなると、PVC溶液の粘度が低下し、液滴が不安定になり、PVC溶液における塩ビ系ポリマーの割合が高くなると、PVC溶液の粘度が高くなって取り扱いが難しくなる傾向がある。
【0022】
(水系溶媒)
水系溶媒としては、純水であっても、純水に添加物を加えたものであっても、何れであてもよい。添加物としては、例えば、PVC溶液(液滴)の分散を補助する増粘剤を添加することができる。増粘剤としては、ポリビニルアルコール、でんぷん、ゼラチン、キトサン-酸、ポリエチレングリコール、ポリア(メタ)クリル酸、ポリアクリルアミドもしくはその誘導体、カルボキシセルロースナトリウムもしくはその塩など、のような水の粘性を上げることができる水溶性ポリマーを用いることができる。水系分散媒における水溶性ポリマーの濃度は、0.01wt%~50wt%の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.1wt~20wt%の範囲である。水系分散媒における水溶性ポリマーの濃度が前記範囲であると、液滴を形成し易くできると共に、形成した液滴を安定化させることができる。なお、水系分散媒における水溶性ポリマーの濃度が低くなるほど、液滴が不安定になり易く、水系分散媒における水溶性ポリマーの濃度が高くなるほど、かき混ぜ時に液滴が形成され難くなる傾向がある。なお、無機系の増粘剤としては、硫酸ナトリウムのような塩や、シリカ、タルク、炭酸カルシウムや、炭酸カリウムなどを用いてもよい。
【0023】
(分散液の粘度)
分散液は、その粘度を2.52mPa・s~725mPa・s(分散液が25℃にある場合)の範囲にすることが好ましい。分散液の粘度が前記範囲にあると、液滴を効率よく形成できると共に形成した液滴を安定化させることができる。なお、分散液の粘度が低いと、液滴が不安定になり、分散液の粘度が高いと、疎水性遊技溶媒と水系溶媒との相分離を阻害して、液滴が形成され難くなる傾向がある。また、分散液の粘度を高くするほど、液滴が微細化し、得られるPVC系粒子の粒径を小さくすることができ、分散液の粘度を低くするほど、液滴が大型化し、得られるPVC系粒子の粒径を大きくすることができる。このように、分散液の粘度を調節するだけの簡単な操作で、得られる複合粒子の粒径を制御できる。
【0024】
(PVC溶液と水系溶媒との比率)
PVC溶液と水系溶媒との比率は、0.004:1~1:1の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.02:1~0.25:1の範囲である。PVC溶液と水系溶媒との比率が前記範囲にあると、分散液中に液滴を効率的に形成することができ、PVC系粒子の回収率を向上することができる。なお、水系溶媒に対するPVC溶液の割合が少なくなると、PVC系粒子の回収率が低下し、水系溶媒に対するPVC溶液の割合が多くなると、海(水系溶媒ドメイン)-島(PVC溶液ドメイン)構造が形成され難くなる傾向がある。
【0025】
(分散液のかき混ぜ速度)
PVC溶液からなる液滴の形成は、撹拌羽根によるかき混ぜ、例えば、超音波による撹拌、自転-公転撹拌機によって、分散液をかき混ぜることで行うことができ、その他の液滴ができる方法であれば、これらの方法に限定されない。例えば、撹拌羽根によるかき混ぜの場合、かき混ぜ速度を10rpm~20000rpmの範囲に設定することが好ましく、より好ましくは、50rpm~3000rpmの範囲である。ここで、かき混ぜ速度が高速になるほど、液滴が微細化し、得られるPVC系粒子の粒径を小さくすることができ、かき混ぜ速度が低速になるほど、液滴が大型化し、得られるPVC系粒子の粒径を大きくすることができる。このように、かき混ぜ速度を調節するだけの簡単な操作で、得られるPVC系粒子の粒径を制御できる。
【0026】
(分散液のかき混ぜ時間)
分散液のかき混ぜ時間は、液滴を形成度合いで調節すればよい。例えば、撹拌羽根によるかき混ぜの場合、かき混ぜ時間を3時間~24時間の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは、6時間~10時間の範囲である。ここで、かき混ぜ時間が長くなるほど、液滴が微細化し、得られるPVC系粒子の粒径を小さくすることができ、かき混ぜ時間が短くなるほど、液滴が大型化し、得られるPVC系粒子の粒径を大きくすることができる。このように、かき混ぜ時間を調節するだけの簡単な操作で、得られるPVC系粒子の粒径を制御できる。
【0027】
(分散液の加熱条件)
分散液の加熱は、PVC溶液の液滴から疎水性溶媒を蒸発できれば特に限定されないが、例えば常圧であれば、疎水性溶媒の沸点-30℃~疎水性溶媒の沸点+10℃の範囲で、水の沸点以下が好ましい。なお、PVC溶液の液滴が著しく沸騰すると、液滴が破裂したり、得られる粒子の形状が悪化する傾向があるので、分散液の加熱を疎水性溶媒の沸点よりも低くすることが好ましい。また、分散液の加熱は、減圧しつつ行うなど、圧力が常圧であることに限定されない。分散液の加熱条件を整えることで、液滴から疎水性溶媒を効果的に蒸発させることができ、PVC系粒子を効率よく得ることができる。
【0028】
ポリ塩化ビニル粒子や不飽和ビニル共重合体粒子は、塩化ビニルモノマーと溶媒の水とを機械的に撹拌しつつ重合させる懸濁重合法によって作成することが一般的である(例えば、特開平1-65160号公報参照)。塩化ビニルモノマーは常温でガス状であるため、密封したオートクレーブ型反応器の中で調製する必要がある。また、ガス状の塩化ビニルモノマーの消失による圧力低下を確認しながら、重合反応終点を定めて、ポリ塩化ビニル粒子を得ることから、要求される設備レベルが高く、しかも操作が煩雑である。
【0029】
図9に示すように、懸濁重合では、開始剤が塩化ビニルモノマーとは別に重合系に添加され、モノマーの液滴と開始剤の液滴との合一および再分散の繰返しによって、開始剤がモノマーの液滴と混合される。重合の進行に伴い、液滴は増粘して凝集し易くなる。さらに重合率が上がると、粒子が硬くなり、形がいびつな粒子として回収される。PVCが重合する時は、一本の分子が丸まりながら成長し、最終的に20Å~30Åの粒子となる。重合の初期に電子顕微鏡で見ることができる最小単位は、20Å~30Åの粒子が多数結合していると思われる数百Åのものである。4%~6%程度の低重合率の重合体には、0.1μm程度の粒子の存在が認められており、重合の進行と共に0.1μm程度の粒子が成長して、1μm~3μm程度の粒子となる。そして、得られるポリ塩化ビニル粒子は、1μm~3μm程度の一次粒子が複数凝集した凝集体となるため、いびつな形となる。このように、懸濁重合によってポリ塩化ビニル粒子を造粒すると、塩化ビニルモノマーの重合中に生じる重合度の異なるポリ塩化ビニルが不均一な混合体(凝集体)となって、粒子の大きさのばらつきが生じ易く、形状がいびつになり易いという難点がある。そして、ポリ塩化ビニル粒子が不揃いであると、ポリ塩化ビニル粒子から成形体にしたときに、成形体の強度のばらつきが大きくなったり、成形体に欠陥が生じ易くなってしまう。
【0030】
本開示に係るPVC系粒子の製造方法によれば、固体である塩ビ系ポリマーからPVC系粒子を作成するので、密封したオートクレーブ型反応器などのガス状の塩化ビニルモノマーに対応した設備が不要となり、製造設備を簡易にすることができる。また、重合反応を伴わないので、反応制御などの手間がかからず、製造にかかる手間を大幅に削減することができる。そして、得られるPVC系粒子の形状を球状に揃えることができ、また、粒径が揃った粒子を得ることができる。このように、得られるPVC系粒子の形状が揃っているので、PVC系粒子から成形体にしたときに、成形体の強度を均一にすることができ、成形体に欠陥などの不良が生じ難くすることができる。また、得られたPVC系粒子を塗料に配合した場合、塗りむらの発生を抑えることができる。また、原料となる塩ビ系ポリマーとして、塩ビ系ポリマーの端材や廃棄物などを用いることができ、塩ビ系ポリマーを再生して新たなPVC系粒子を製造することができ、塩ビ系ポリマーの再資源化に貢献できる。
【0031】
(複合粒子)
本発明に係る複合粒子は、塩化ビニル系ポリマー粒子(PVC系粒子)と、塩化ビニル系ポリマー粒子に配置されたナノ多糖とを含んでいる。複合粒子では、PVC系粒子の塩化ビニル系ポリマー(塩ビ系ポリマー)の塩素原子と、ナノ多糖と、がハロゲン結合していると考えられ、ナノ多糖が塩ビ系ポリマーに強固に保持されている。複合粒子は、PVC系粒子に配置されたナノ多糖が、ナノファイバーであればその繊維形状を保っており、ナノクリスタルであればその針状結晶形状を保っている。また、複合粒子は、多数のナノ多糖が互いに絡み合ったり、重なり合ったりなどして、PVC系粒子に配置されている。複合粒子は、球状または球状に近い形にすることができる。
【0032】
(複合粒子の平均粒径)
複合粒子は、後述するように粒径を任意に調節可能であるが、平均粒径が1mm以下のマイクロサイズの微粒子であることが好ましい。具体的には、複合粒子は、その平均粒径が5μm~800μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは、10μm~500μmの範囲である。複合粒子は、前述した平均粒径であることで、他の材料へ添加する際に都合がよい。なお、本開示における平均粒径は、フロー方式画像解析法および走査型電子顕微鏡(SEM)で測定した場合である。
【0033】
(複合粒子におけるポリマー粒子とナノ多糖との割合)
PVC系粒子に対するナノ多糖の割合は、0.0001wt%~20wt%の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.01wt%~5wt%の範囲である。PVC系粒子に対するナノ多糖の割合が前記範囲であると、得られる複合粒子においてナノ多糖を均一に配置することができると共に、ナノ多糖の機能を適切に発揮することができる。PVC系粒子に対するナノ多糖の割合が少なくなるほど、複合粒子においてナノ多糖特有の機能が発現し難くなり、ポリマー粒子に対するナノ多糖の割合が多くなるほど、ポリマー粒子の表面においてナノ多糖が均一になり難くなる傾向がある。
【0034】
(塩化ビニル系ポリマー粒子)
複合粒子を構成するPVC系粒子として、前述した塩ビ系ポリマーからなるPVC系粒子と同じであってもよい。前述したようにガス状の塩化ビニルモノマーは、常温(常圧)で懸濁重合することができず、本開示のPVC系粒子を構成するポリマーとして、常温(常圧)懸濁重合で重合不能なポリマーを用いることができる。なお、「常温(常圧)懸濁重合で重合不能」とは、複合粒子を構成するPVC系粒子のポリマーが30℃以下(大気圧)において懸濁重合できないものであることを意味し、そのポリマーの重合方法の選択枝として、一般的(工業的)に常温(常圧)懸濁重合以外の方法になることをいう。本開示のPVC系粒子に当て嵌めると、常温懸濁重合以外の重合方法、例えば、バルク重合、溶液重合、固相重合、高温(高圧)懸濁重合、乳化重合、塊状重合等で得たポリマーを粒子化している。なお、後述する製造方法において、常温(常圧)懸濁重合で得られたポリマーを原料として用いることを排除するものではない。
【0035】
(PVC系粒子の平均粒径)
PVC系粒子は、後述するように粒径を任意に調節可能であるが、平均粒径がマイクロサイズの微粒子であることが好ましい。複合粒子は、ポリマー粒子と比べてナノ多糖が小さいので、ポリマー粒子の大きさによって複合粒子の大きさがほぼ決まる。PVC系粒子は、その平均粒径が5μm~800μmの範囲にあることが好ましく、より好ましくは、10μm~500μmの範囲である。PVC系粒子は、前述した平均粒径であることで、ナノ多糖を保持する基材とする際に都合がよい。
【0036】
(PVC系粒子の特性)
PVC系粒子を構成する塩ビ系ポリマーは、疎水性有機溶媒に溶解するものが好ましい。このような、疎水性有機溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、二塩化エタンなどの、ハロゲン化アルキル系の疎水性有機溶媒が挙げられる。
【0037】
(ナノ多糖)
ナノ多糖としては、例えば、セルロース、TEMPO酸化セルロース、キチン、キトサン、カルボキシメチルセルロース、硫酸化セルロースなどのナノファイバーあるいはナノクリスタルが挙げられる。なお、1種類のナノ多糖であっても、複数種類のナノ多糖を組み合わせて用いても、何れであってもよい。
【0038】
(ナノ多糖の大きさ)
ナノ多糖は、繊維径が4~100nmの範囲で、繊維の長さが5~30μmの範囲にあるナノファイバーや、結晶の径が10~50nmの範囲で、結晶の長さが100~500nmの範囲にあるナノクリスタルを用いることができる。
【0039】
(複合粒子の製造方法)
本発明に係る複合粒子は、以下のように製造することができる。疎水性溶媒に塩化ビニル系ポリマーを入れたポリマー溶液を調製する(
図3(a)参照)。ここで、ポリマー溶液において、ポリマーが疎水性溶媒に全体的に溶けた溶解状態であってもよいが、ポリマーが半溶解状態であってもよい。ここで、「半溶解状態」とは、塩ビ系ポリマーが疎水性溶媒において微細な粒子として分散している状態(コロイド)になっていることを指す。すなわち、本開示の複合粒子の製造方法によれば、塩ビ系ポリマーが疎水性溶媒に完全に溶けていない半溶解状態であっても、複合粒子を形成することができる。そもそも有機溶媒に溶け難い塩ビ系ポリマーから、複合粒子を簡単に形成することができる。ポリマーは、比較的細かい粒状や塊状であることが、疎水性溶媒に溶解させるのに好ましく、例えば、数mm程度に砕いた破砕物などを用いることができる。
【0040】
分散媒にナノ多糖を入れて、この分散媒とポリマー溶液とを混合した混合液を調製する(
図3(a)参照)。混合液と、水系溶媒とを混合して、分散液を調製する(
図3(b)参照)。分散液は、必要に応じて増粘剤を含んでいてもよく、この場合、例えば水系溶媒に増粘剤を加えて、増粘剤によって分散液の粘度を向上させる。なお、分散媒を、ナノ多糖分散媒といい、ナノ多糖を含む分散媒をナノ多糖分散液という場合もある。
【0041】
分散液を撹拌することで、塩ビ系ポリマーおよびナノ多糖を含む混合液を水系溶媒中で液滴化する(
図4参照)。分散液を加熱することで、混合液からなる液滴より疎水性溶媒を蒸発させる(
図5(a)参照)。塩ビ系ポリマーおよびナノ多糖を含む液滴から疎水性溶媒が蒸発することで、残った塩ビ系ポリマーが粒子状のまま固化する。これにより、塩ビ系ポリマーから形成されたPVC系粒子と、このPVC系粒子に配置されたナノ多糖と、を有する複合粒子が得られる(
図5(b)参照)。
【0042】
複合粒子を造粒した後、ナノ多糖の分散媒の種類に応じて洗浄を行えばよい。例えば、分散媒として両親媒性有機化合物やその他の有機化合物を用いた場合、有機化合物を溶解可能な水あるいは温水で洗浄すればよい。なお、温水の温度は、複合粒子のコアであるPVC系粒子の融点以下で洗うことが必要である。そして、ろ過等の必要な処理を行って、複合粒子を回収する。なお、複合粒子を分級して、粒径を揃えてもよい。
【0043】
複合粒子の製造に際して、疎水性溶媒と分散媒と水系溶媒との親和性の関係によって、液滴中におけるナノ多糖の配置を制御して、得られる複合粒子においてナノ多糖の配置をコントロールすることができる。
図6に示すように、例えば、ナノ多糖の分散媒として水を用いて、疎水性溶媒として水との親和性が低い塩化メチレンを用いた場合、ナノ多糖を含む分散媒が塩ビ系ポリマーを含む疎水性溶媒ドメイン中で相分離を起こし、液滴の中でW/Oドメイン構造を形成することにより、分散液中において水系溶媒とW/Oドメイン構造の液滴とがW/O/W型のドメイン構造となるため、PVC系粒子の表面にナノ多糖が出現せず、ナノ多糖がPVC系粒子の内側に配置された複合粒子が得られる(
図8(a)参照)。これに対して、
図7に示すように、ナノ多糖の分散媒として両親媒性有機化合物であるアセトンを用いて、疎水性溶媒としてアセトンとの親和性が比較的よい塩化メチレンを用いた場合、ナノ多糖を含む分散媒が塩ビ系ポリマーを含む疎水性溶媒ドメイン中で相分離を起こさないため、液滴の中でW/Oドメイン構造を形成しない。その結果、液滴中においてナノ多糖が内側から外側へ移動し、液滴の表面にナノ多糖が偏在し、ナノ多糖がPVC系粒子の表面に配置された複合粒子が得られる(
図8(b)参照)。また、ナノ多糖の分散媒として、アセトンよりも水への溶解度が低いジエチルエーテルを用いた場合、液滴の表面から内側にかけてナノ多糖が分散し、その結果として、PVC系粒子の表側から内側にかけてナノ多糖が配置された複合粒子が得られる(
図8(c)参照)。
【0044】
(疎水性溶媒)
疎水性溶媒としては、塩ビ系ポリマーを溶解(半溶解)可能で、水(水系分散媒)と混ざり難いものを用いることができる。また、疎水性溶媒は、水(水系溶媒)よりも沸点が低い所謂低沸点疎水性溶媒を用いるとよい。疎水性溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、二塩化エタンなどの、ハロゲン化アルキル系の疎水性有機溶媒を用いるとよい。
【0045】
(疎水性溶媒とPVCとの割合)
PVC溶液は、塩ビ系ポリマーが0.5wt%~50wt%の範囲になるように調製することが好ましく、より好ましくは、2wt%~20wt%の範囲である。PVC溶液における塩ビ系ポリマーの割合が前記範囲にあると、適度な粘度にすることができる。これにより、分散液中においてPVC溶液から形成される液滴を安定化させることができる。なお、PVC溶液における塩ビ系ポリマーの割合が低くなると、PVC溶液の粘度が低下し、液滴が不安定になり、PVC溶液における塩ビ系ポリマーの割合が高くなると、PVC溶液の粘度が高くなって取り扱いが難しくなる傾向がある。
【0046】
(分散媒)
ナノ多糖を分散する分散媒は、PVC系粒子に対するナノ多糖の配置に応じて、疎水性溶媒および水系溶媒との関係で選択すればよい。なお、分散媒は、1種類を単独で用いても、複数種類を混合して用いてもよい。
【0047】
(分散媒:ナノ多糖-内包配置)
ナノ多糖をPVC系粒子の内側に偏在させたい場合は、疎水性溶媒と親和性が低い水や水系の分散媒を選択すればよい。ナノ多糖を分散する分散媒として、水系溶媒に混和する又は溶けるもので、かつ塩ビ系ポリマーを分散する疎水性溶媒と相分離するものを用いると、ナノ多糖がPVC系粒子の内側に配置された複合粒子が得られる。水系の分散媒としては、例えば、水にメタノールなどのアルコール類などの親水性媒体を混合したものが挙げられ、この場合、親水性媒体の混合量が多くなると、疎水性溶媒と相分離しなくなる。例えば、水-メタノール混合分散媒の場合、メタノール10に対する水の割合が3.75以下(疎水性溶媒(塩化メチレン)10:メタノール10:水3.75)に設定することが好ましい。また、水より極性が高い塩水溶液、酸水溶液、アルカリ水溶液を分散媒として用いても、ナノ多糖をPVC系粒子の内側に偏在させることができる。
【0048】
(分散媒:ナノ多糖-表面配置)
ナノ多糖をPVC系粒子の表面に偏在させたい場合は、疎水性溶媒および水系溶媒の両方と親和性が高い両親媒性有機化合物を選択すればよい。ナノ多糖を分散する分散媒として、水系溶媒に混和する又は溶けるもので、かつ塩ビ系ポリマーを分散する疎水性溶媒と混和するものを用いると、ナノ多糖がPVC系粒子の表面に配置された複合粒子が得られる。
【0049】
(両親媒性有機化合物)
両親媒性有機化合物は、ナノ多糖に親和し、水(水系分散媒)およびポリマーに溶解すると共に、疎水性有機溶媒に親和する溶媒を用いることができる。両親媒性有機化合物としては、水100mlへの溶解度が、8.3gより大きい有機溶媒であることが好ましい。具体的に両親媒性有機化合物としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン、1-プロピルアルコール、2-プロピルアルコール、2-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール、2-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等のエチレングリコール鎖を有するエチレングリコール類、プロピレングリコール、グリセリン、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、アセトニトリル、メチルエチルケトン、糖アルコール、フェノール類、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アミン類などを挙げることができる。両親媒性有機化合物は、単独で用いてもよく、複数種類を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
(分散媒:ナノ多糖-表面から内側配置)
ナノ多糖をPVC系粒子の内側から表側に分散して配置したい場合は、疎水性溶媒と親和性が、前述した水系の分散媒と両親媒性化合物の分散媒との中間にあるものを選択すればよい。ナノ多糖を分散する分散媒として、水系溶媒に溶けるものの溶解度が比較的低いもので、かつ塩ビ系ポリマーを分散する疎水性溶媒と混和するものを用いると、ナノ多糖がPVC系粒子の表側から内側にかけて配置された複合粒子が得られる。具体的には、分散媒における水100mlへの溶解度が8.3g以下の分散媒であることが好ましい。このような分散媒としては、例えば、酢酸エチル、1-ブタノール、ジエチルエーテル、プロピオン酸メチル、プロピレン酸エチルなどが挙げられる。
【0051】
(分散媒とナノ多糖との割合)
分散媒にナノ多糖を分散したナノ多糖分散液は、ナノ多糖が、0.1wt~20wt%の範囲になるように調製することが好ましく、より好ましくは、1.0wt%~10wt%の範囲である。ナノ多糖分散液においてナノ多糖の割合が前記範囲にあると、ナノ多糖を液滴に適切に留めることができると共に、ナノ多糖の凝集を防止してPVC系粒子の表面に適切に分散させることができる。なお、ナノ多糖分散液においてナノ多糖の割合が低くなると、液滴におけるナノ多糖の拡散速度が速くなってPVC系粒子にナノ多糖を留めることが難しくなり、ナノ多糖分散液においてナノ多糖の割合が高くなると、ナノ多糖が凝集し易くなってPVC系粒子の表面にナノ多糖を均一に分散させ難くなる。
【0052】
(ポリマー溶液に対するナノ多糖分散液の割合)
ポリマー溶液に対するナノ多糖分散液の割合は、1.0vol%~50vol%の範囲であることが好ましく、より好ましくは、5.0vol%~30vol%の範囲である。ポリマー溶液に対するナノ多糖分散液の割合が前記範囲にあると、複合粒子におけるナノ多糖の適度な担持量を確保できると共に、ポリマー溶液でのポリマーの析出を防止できる。なお、ポリマー溶液に対するナノ多糖分散液の割合が低くなるほど、得られる複合粒子におけるナノ多糖の担持量が少なくなり、ポリマー溶液に対するナノ多糖分散液の割合が多くなるほど、ポリマー溶液においてポリマーが析出し易くなる傾向がある。
【0053】
(塩ビ系ポリマーに対するナノ多糖の配合量)
塩ビ系ポリマーに対するナノ多糖の配合量は、0.0001wt%~20wt%の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.01wt%~5wt%の範囲である。塩ビ系ポリマーに対するナノ多糖の配合量が前記範囲であると、得られる複合粒子においてナノ多糖を均一に配置することができると共に、ナノ多糖の機能を適切に発揮することができる。塩ビ系ポリマーに対するナノ多糖の配合量が少なくなるほど、得られる複合粒子においてナノ多糖特有の機能が発現し難くなり、塩ビ系ポリマーに対するナノ多糖の配合量が多くなるほど、塩ビ系ポリマー中でナノ多糖が不均一な凝集を生じ易くなる傾向がある。
【0054】
(水系溶媒)
水系溶媒としては、純水であっても、純水に添加物を加えたものであっても、何れであてもよい。添加物としては、例えば、混合液(液滴)の分散を補助する増粘剤を添加することができる。増粘剤としては、ポリビニルアルコール、でんぷん、ゼラチン、キトサン-酸、ポリエチレングリコール、ポリア(メタ)クリル酸、ポリアクリルアミドもしくはその誘導体、カルボキシセルロースナトリウムもしくはその塩など、のような水の粘性を上げることができる水溶性ポリマーを用いることができる。水系分散媒における水溶性ポリマーの濃度は、0.01wt%~50wt%の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.1wt~20wt%の範囲である。水系分散媒における水溶性ポリマーの濃度が前記範囲であると、液滴を形成し易くできると共に、形成した液滴を安定化させることができる。なお、水系分散媒における水溶性ポリマーの濃度が低くなるほど、液滴が不安定になり易く、水系分散媒における水溶性ポリマーの濃度が高くなるほど、かき混ぜ時に液滴が形成され難くなる傾向がある。なお、無機系の増粘剤としては、硫酸ナトリウムのような塩や、シリカ、タルク、炭酸カルシウムや、炭酸カリウムなどを用いてもよい。
【0055】
(分散液の粘度)
分散液は、その粘度を2.5mPa・s~725mPa・s(分散液が25℃にある場合)の範囲にすることが好ましい。分散液の粘度が前記範囲にあると、液滴を効率よく形成できると共に形成した液滴を安定化させることができる。なお、分散液の粘度が低いと、液滴が不安定になり、分散液の粘度が高いと、疎水性溶媒と水系溶媒との相分離を阻害して、液滴が形成され難くなる傾向がある。また、分散液の粘度を高くするほど、液滴が微細化し、得られるPVC系粒子の粒径を小さくすることができ、分散液の粘度を低くするほど、液滴が大型化し、得られるPVC系粒子の粒径を大きくすることができる。このように、分散液の粘度を調節するだけの簡単な操作で、得られる複合粒子の粒径を制御できる。
【0056】
(混合液と水系溶媒との比率)
混合液と水系溶媒との比率は、0.004:1~1:1の範囲であることが好ましく、より好ましくは、0.02:1~0.25:1の範囲である。混合液と水系溶媒との比率が前記範囲にあると、分散液中に液滴を効率的に形成することができ、PVC系粒子の回収率を向上することができる。なお、水系溶媒に対する混合液の割合が少なくなると、PVC系粒子の回収率が低下し、水系溶媒に対する混合液の割合が多くなると、海(水系溶媒ドメイン)-島(PVC溶液ドメイン)構造が形成され難くなる傾向がある。
【0057】
(分散液のかき混ぜ速度)
混合液からなる液滴の形成は、撹拌羽根によるかき混ぜ、例えば、超音波による撹拌、自転-公転撹拌機によって、分散液をかき混ぜることで行うことができ、その他の液滴ができる方法であれば、これらの方法に限定されない。例えば、撹拌羽根によるかき混ぜの場合、かき混ぜ速度を10rpm~20000rpmの範囲に設定することが好ましく、より好ましくは、50rpm~3000rpmの範囲である。ここで、かき混ぜ速度が高速になるほど、液滴が微細化し、得られるPVC系粒子の粒径を小さくすることができ、かき混ぜ速度が低速になるほど、液滴が大型化し、得られるPVC系粒子の粒径を大きくすることができる。このように、かき混ぜ速度を調節するだけの簡単な操作で、得られる複合粒子の粒径を制御できる。
【0058】
(分散液のかき混ぜ時間)
分散液のかき混ぜ時間は、液滴を形成度合いで調節すればよい。例えば、撹拌羽根によるかき混ぜの場合、かき混ぜ時間を3時間~24時間の範囲に設定することが好ましく、より好ましくは、6時間~10時間の範囲である。ここで、かき混ぜ時間が長くなるほど、液滴が微細化し、得られるPVC系粒子の粒径を小さくすることができ、かき混ぜ時間が短くなるほど、液滴が大型化し、得られるPVC系粒子の粒径を大きくすることができる。このように、かき混ぜ時間を調節するだけの簡単な操作で、得られる複合粒子の粒径を制御できる。
【0059】
(分散液の加熱条件)
分散液の加熱は、混合液(PVC溶液+ナノ多糖分散液)の液滴から疎水性溶媒を蒸発できれば特に限定されないが、例えば常圧であれば、疎水性溶媒の沸点-30℃~疎水性溶媒の沸点+10℃の範囲で、水の沸点以下が好ましい。なお、混合液の液滴が著しく沸騰すると、液滴が破裂したり、得られる粒子の形状が悪化する傾向があるので、分散液の加熱を疎水性溶媒の沸点よりも低くすることが好ましい。また、分散液の加熱は、減圧しつつ行うなど、圧力が常圧であることに限定されない。分散液の加熱条件を整えることで、液滴から疎水性溶媒を効果的に蒸発させることができ、複合粒子を効率よく得ることができる。
【0060】
複合粒子は、PVC系粒子にナノ多糖を配置することにより、PVC系粒子およびナノ多糖に由来する複合した機能が得られる。ナノ多糖をPVC系粒子の表面に配置した場合、例えば、キトサンナノファイバーであると、カチオン機能が複合粒子に発現し、TEMPO酸化セルロースナノファイバー、カルボキシメチルセルロースナノファイバーや硫酸化セルロースナノファイバーのようなアニオン性セルロースナノファイバーであれば、アニオン機能が複合粒子に付加される。また、ナノ多糖をPVC系粒子の内側に配置した場合、ナノ多糖の官能基等の特性に基づく影響が複合粒子に発現することを抑えることができる。そして、複合粒子を用いて成形体にしたとき、均一にナノ多糖が分散した成形体を得ることができ、ナノ多糖の補強効果による強度の上昇作用をむらなく発現させることができる。
【0061】
本発明の複合粒子の製造方法によれば、常温(常圧)懸濁重合では得ることができない塩化ビニル系ポリマーにも適用して、塩化ビニル系ポリマー粒子の表面にナノ多糖が付いた複合粒子を簡単に得ることできる。そして、得られる複合粒子の形状を球状に揃えることができ、また、粒径が揃った粒子を得ることができる。このように、得られる複合粒子の形状が揃っているので、複合粒子から成形体にしたときに、成形体の強度を均一にすることができ、成形体に欠陥などの不良が生じ難くすることができる。また、得られた複合粒子を塗料に配合した場合、塗りむらの発生を抑えることができる。
【0062】
本発明の複合粒子は、例えば、化粧品担体や生化学担体、吸着担体、およびプラスチック補強フィラーなどとして適用可能である。
【0063】
次に、本発明に係る複合粒子およびその製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。
【実施例】
【0064】
表1に示す実施例のPVC系粒子、および表1に示す実施例の複合粒子を以下のように作成した。表2に示す比較例の複合粒子を以下のように作成した。
【0065】
(実施例1-PVC系粒子)
懸濁重合法により得られたポリ塩化ビニル(PVC)原料粒子を用意した(信越化学製:TK―1000)。ポリ塩化ビニル(PVC)が6.0wt%になるように、PVC-塩化メチレン溶液(ポリマー溶液)を調製した。このとき、
図10に示すように、塩化メチレン中で半溶解状態になったPVCによって、ポリマー溶液が不透明になっている。ポリマー溶液150mlを、水系分散媒としての1.5wt%ポリビニルアルコール水溶液450mlに投与して分散液を調製した。分散液の粘度は、2.74mPa・s(分散液が40℃の場合、分散液が25℃の場合は3.93mPa・s)であった。そして、ポリ
ビニルアルコール水溶液にポリマー溶液を分散した分散液を、室温から40℃まで、20分間かけて、昇温し、40℃に保ったまま、ホモジナイザー((株)エスエムテー Process Homogenizer PH91)により300rpmでかき混ぜながら、20時間かけて粒子化を行い、ポリ塩化ビニルのみからなる実施例1のPVC系粒子を得た。なお、実施例および比較例において、ホモジナイザーは同じものを用いている。
【0066】
実施例1のPVC系粒子の電子顕微鏡写真を、
図11~
図15に示す。また、実施例1で用いたPVC原料粒子の電子顕微鏡写真を
図16に示す。
図11、
図14および
図15に示すように、球状に近い形で実施例1のPVC系粒子が形成されていることが判り、
図16のPVC原料粒子と比べても、円に近く比較的粒径が揃っていることが判る。
【0067】
(円形度)
実施例1のPVC系粒子と、実施例1で用いたPVC原料粒子とで、円形度を比較した。円形度は、粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長を、粒子を撮像した画像の周囲長で除した値である。なお、円形度は、真円が「1」で、粒子の形状が複雑になるほど小さい値になる。
円形度=「粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長」/「粒子を撮像した画像の周囲長」
【0068】
図17に示すように、実施例1で用いたPVC原料粒子の形がいびつで大きさが揃っていないのに対して、実施例1のPVC系粒子は、その形状が球形状に近く、大きさが比較的揃っていることが判る。また、実施例1のPVC系粒子が、円形度が0.998でほぼ真円に近く、PVC原料粒子の円形度0.924よりも大幅に改善されていることが判る。
【0069】
(実施例2)
10.0wt%のCNF水分散液(中越パルプ工業(株)製、商品名:nanoforest、C解繊、竹由来セルロースナノファイバー分散液)10mlに、アセトン20mlを添加し、10分間遠心分離(回転速度5000rpm)を行うことで、CNFを沈降させ、上澄みを除去した。得られた沈降物にアセトンを30ml添加し、再度、分散させて先と同様に遠心分離を行い、上澄みを除去した。この操作を3回繰り返し、アセトンを留去することで、CNFが所定濃度になるように調製したCNF-アセトン分散液を得た。なお、セルロースナノファイバーを、「CNF」と表記する場合がある。
【0070】
懸濁重合法により得られたポリ塩化ビニル(PVC)原料粒子を用意した(信越化学製:TK―1000)。ポリ塩化ビニル(PVC)が6.0wt%になるように調製したPVC-塩化メチレン溶液150mlに、CNFを15wt%含む前記CNF-アセトン分散液32mlを混合し、ホモジナイザーにより5000rpmで2分間かき混ぜて、CNF-ポリマー溶液を調製した。なお、ポリマーとしてのポリ塩化ビニルと、ナノ多糖としてのCNFとの重量仕込み比が、100:3である。CNF-ポリマー溶液を、水系分散媒としての1.5wt%ポリビニルアルコール水溶液450mlに投与した。分散液の粘度は、2.74mPa・s(40℃)(3.93mPa・s(25℃))であった。そして、ポリビニルアルコール水溶液にCNF-ポリマー溶液を分散した分散液を、室温から40℃まで、20分間かけて、昇温し、40℃に保ったまま、前記ホモジナイザーにより300rpmでかき混ぜながら、20時間かけて粒子化を行い、ポリ塩化ビニル粒子の表面にCNFが担持された実施例2の複合粒子を得た。実施例2の複合粒子は、元素分析によって、2.36wt%のCNFを含んでいることが判った。
【0071】
実施例2の複合粒子の電子顕微鏡写真を、
図18~
図21に示す。
図18~
図21に示すように、実施例2の複合粒子におけるPVC系粒子の表面が繊維状のCNFで覆われており、PVC系粒子の内側にCNFが配置されていないことが判る。
【0072】
相互作用を、wB97XD/6-31G(d)(*)の計算機化学により、算出したところ、セルロースとアセトンとの相互作用が、3.51Kcal/molであるのに対し、ポリ塩化ビニルとセルロースとの相互作用が、9.40Kcal/molと高い値を示した。従って、ポリ塩化ビニルとセルロースとが特異的な相互作用により、吸着することが確認されている。また、セルロースからなる微粒子をカラムに充填し、塩素系化合物を注入し、その保持を検討した結果、塩素原子の数が多くなるほど、保持が大きくなった。これは塩素原子とセルロースのハロゲン結合に起因していると考えられる。
【0073】
(実施例3)
ポリ塩化ビニル(PVC(信越化学製:TK―1000))が2.5wt%になるように調製したPVC-塩化メチレン溶液250mlに、前記CNFを0.6wt%含むCNF-水分散液42.7mlを混合し、ホモジナイザーにより5000rpmで2分間かき混ぜて、CNF-ポリマー溶液を調製した。なお、ポリマーとしてのポリ塩化ビニルと、ナノ多糖としてのCNFとの重量仕込み比が、100:3である。CNF-ポリマー溶液を、水系分散媒としての1.5wt%ポリビニルアルコール水溶液450mlに投与した。分散液の粘度は、2.74mPa・s(40℃)(3.93mPa・s(25℃))であった。そして、ポリビニルアルコール水溶液にCNF-ポリマー溶液を分散した分散液を、室温から40℃まで、20分間かけて、昇温し、40℃に保ったまま、前記ホモジナイザーにより300rpmでかき混ぜながら、20時間かけて粒子化を行い、実施例3の複合粒子を得た。実施例3の複合粒子は、元素分析によって、3.0wt%のCNFを含んでいることが判った。
【0074】
実施例3の複合粒子の電子顕微鏡写真を、
図22~
図25に示す。
図22~
図25に示すように、実施例3の複合粒子のPVC系粒子の内側に繊維状のCNFが配置されていることが判る。
【0075】
(実施例4、実施例5)
実施例4および実施例5は、配合が表1の通りであり、操作手順および操作条件が表1に記載したほかは実施例2と同じである。
実施例4は、ナノ多糖分散媒として、2-プロパノール(イソプロピルアルコール)を用い、実施例5は、ナノ多糖分散媒として、2-ブタノールを用いている。
【0076】
実施例4は、水に混和すると共に塩化メチレンに混和する2-プロパノールをナノ多糖分散媒として用いることで、PVC系粒子の表面にナノ多糖が配置した複合粒子が得られることが判った。実施例5は、水に溶解すると共に塩化メチレンに混和する2-ブタノールをナノ多糖分散媒として用いることで、PVC系粒子の表面にナノ多糖が配置した複合粒子が得られることが判った。
【0077】
【0078】
(比較例)
比較例1~比較例6は、ポリマーとして塩ビ系ポリマー以外のものを用いるほかは、配合が表2の通りであり、操作手順および操作条件が表2に記載したほかは実施例2と同じである。
比較例1は、ポリマーとして、ポリスチレン(PS)を用いている。
比較例2は、ポリマーとして、ポリカーボネート(PC)を用いている。
比較例3は、ポリマーとして、ポリ酢酸ビニル(PVAM)とポリエチレン(PE)との共重合体を用いている。
比較例4は、ポリマーとして、ポリ酢酸ビニル(PVAM)を用いている。
比較例5は、ポリマーとして、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)を用いている。
比較例6は、ポリマーとして、ポリアクリル酸メチル(PMA)を用いている。
【0079】
(比較例7)
ポリ塩化ビニル(PVC)が6.0wt%になるように調製したPVC-塩化メチレン溶液90mlに、CNFを5wt%含む前記CNF-アセトン分散液4.7mlを混合し、室温においてホモジナイザー((株)エスエムテー Process Homogenizer PH91)により300rpmでかき混ぜて、バルクポリマーを得た。得られたバルクポリマーを高速ミリング装置で粉砕し、比較例3のPVC/CNF複合不定形破砕物を得た。比較例7のPVC/CNF複合不定形破砕物複合粒子は、元素分析によって、2.36wt%のCNFを含んでいることが判った。なお、表3のナノ多糖配置における「ランダム」とは、ナノ多糖がポリマーの内側および表側にランダムにあることを示している。
【0080】
【0081】
比較例1~比較例6では、CNFがポリマーから排斥されてポリマーにCNFを配置することができず、複合粒子とならなかった。
【0082】
(ナノ多糖分散媒)
ナノ多糖分散媒を代えて、複合粒子を作成した結果を表3に示す。表3の例は、ナノ多糖分散媒を表3のように代えて用いているほかは、操作手順や操作条件が実施例2と同じ
である。
【0083】
【0084】
表3に示すように、ナノ多糖を分散する分散媒として、水系溶媒に混和する又は溶けるもので、かつ塩ビ系ポリマーを分散する疎水性溶媒と相分離するものを用いると、ナノ多糖がPVC系粒子の内側に配置された複合粒子が得られることが判る。また、ナノ多糖を分散する分散媒として、水系溶媒に混和する又は溶けるもので、かつ塩ビ系ポリマーを分散する疎水性溶媒と混和するものを用いると、ナノ多糖がPVC系粒子の表面に配置された複合粒子が得られることが判る。ナノ多糖を分散する分散媒として、水系溶媒に溶けるものの溶解度が比較的低いもの(水100mlへの溶解度が8.3g以下)で、かつ塩ビ
系ポリマーを分散する疎水性溶媒と混和するものを用いると、ナノ多糖がPVC系粒子の表側から内側にかけて配置された複合粒子が得られることが判る。
【0085】
図26は、実施例1、実施例2および実施例3の赤外分光法による赤外吸収スペクトルの測定結果を示す。実施例2の複合粒子は、波数3600cm
-1~3200cm
-1においてCNF由来の吸光度の上昇を示し、PVC系粒子の表面にCNFが付いていることが判る。
【0086】
(圧縮成形によるフィルムの作成)
実施例1~2の粒子および比較例7の粒子を用いて、
図27に示すようにフィルムを作成した。
【0087】
(フィルム例1)
ポリイミドシートの上にステンレス板(厚み:510μm~520μm、外寸:10cm×10cm角、枠の大きさ:5cm×5cm)を設置し、実施例1のPVC系粒子2.0gを枠の中に設置し、その上にもう一枚のポリイミドシートを置いて、75℃、20Mpaで5分間プレスを行った。いったん、圧力を常圧に下げた後、温度を180℃に昇温した後、再度、圧力を20Mpaに昇圧し、3分間圧力を維持し、フィルム例1のフィルムを成形した。
【0088】
(フィルム例2)
ポリイミドシートの上にステンレス板(厚み:510μm~520μm、外寸:10cm×10cm角、枠の大きさ:5cm×5cm)を設置し、実施例2の複合粒子2.0gを枠の中に設置し、その上にもう一枚のポリイミドシートを置いて、75℃、20Mpaで5分間プレスを行った。いったん、圧力を常圧に下げた後、温度を180℃に昇温した後、再度、圧力を20Mpaに昇圧し、3分間圧力を維持し、フィルム例2のフィルムを成形した。
【0089】
(フィルム例3)
ポリイミドシートの上にステンレス板(厚み:510μm~520μm、外寸:10cm×10cm角、枠の大きさ:5cm×5cm)を設置し、比較例7のPVC/CNF複合不定形破砕物2.0gを枠の中に設置し、その上にもう一枚のポリイミドシートを置いて、75℃、20Mpaで5分間プレスを行った。いったん、圧力を常圧に下げた後、温度を180℃に昇温した後、再度、圧力を20Mpaに昇圧し、3分間圧力を維持し、フィルム例3のフィルムを成形した。
【0090】
(曇価)
フィルム例1~3のフィルムについて、曇価を測定した。曇価は、スガ試験機(ヘーズメーターHZ-2P)を用いて、光源(D65)を利用して測定した。その結果を
図28に示す。
図28に示すように、CNFを配合することで、光を通し難くなることが判った。
【0091】
(引っ張り強度)
フィルム例1~3のフィルムについて、引っ張り強度を測定した。JIS規格8号の型を用い、ダンベルを作成した。両端を10mmずつ固定し、ストロークが一定となるように、条件(フィルムを1分間に10mm伸ばす条件:ひずみ10mm/min)を設定し、オートフラフ(島津製作所製:小型卓上試験機EZ-LX)を用いて応力-ひずみ曲線を得た。
【0092】
図29に示すように、CNF/PVC系粒子の複合粒子を用いた方が、複合不定形破砕物よりも、引張り強度が高いことがわかる。
図30に示すような、微粒子が整然と並び、CNFが編み目構造化に配向していることに起因して、引張り強度が向上すると考えられる。
【0093】
(実施例6)
実施例6は、CNFを分散する分散媒として、塩化メチレンを用いている。10.0wt%のCNF水分散液(中越パルプ工業(株)製、商品名:nanoforest、C解繊、竹由来セルロースナノファイバー分散液)10mlに、塩化メチレン20mlを添加し、10分間遠心分離(回転速度5000rpm)を行うことで、CNFを沈降させ、上澄みを除去した。得られた沈降物に塩化メチレンを30ml添加し、再度、分散させて先と同様に遠心分離を行い、上澄みを除去した。この操作を3回繰り返し、塩化メチレンを留去することで、CNFが所定濃度になるように調製したCNF-塩化メチレン分散液を得た。
【0094】
懸濁重合法により得られたポリ塩化ビニル(PVC)原料粒子を用意した(信越化学製:TK―1000)。実施例6は、PVC原料粒子3.41gを塩化メチレン100mlに入れて、ポリ塩化ビニル(PVC)が2.5wt%になるように、PVC-塩化メチレン溶液を調製した。PVC-塩化メチレン溶液150mlに、CNFを0.33wt%含む前記CNF-塩化メチレン分散液23.5mlを混合し、ホモジナイザーにより5000rpmで2分間かき混ぜて、CNF-ポリマー溶液を調製した。なお、ポリマーとしてのポリ塩化ビニルと、ナノ多糖としてのCNFとの重量仕込み比が、100:3である。CNF-ポリマー溶液を、水系分散媒としての1.5wt%ポリビニルアルコール水溶液300mlに投与した。分散液の粘度は、2.74mPa・s(40℃)(3.93mPa・s(25℃))であった。そして、ポリビニルアルコール水溶液にCNF-ポリマー溶液を分散した分散液を、室温から40℃まで、20分間かけて、昇温し、40℃に保ったまま、前記ホモジナイザーにより300rpmでかき混ぜながら、20時間かけて粒子化を行い、ポリ塩化ビニル粒子の表面から内側にCNFが分散した実施例6の複合粒子を得た。
【0095】
【0096】
実施例6の複合粒子は、平均粒径32μm~106μmの範囲にあるものの収量が1.836g(収率53.7%)であり、平均粒径106μmより大きいものの収量が0.919g(収率28.6%)であった。また、実施例6の複合粒子は、元素分析によって、2.65wt%のCNFを含んでいることが判った。
【0097】
実施例6の複合粒子の電子顕微鏡写真を、
図31~
図36に示す。
図31~
図33に示すように、実施例6の複合粒子におけるPVC系粒子の表面が繊維状のCNFで覆われていることが判る。また、
図34~
図36に示す実施例6の複合粒子の断面によれば、PVC系粒子の内側にCNFが存在していることが判る。なお、
図34において、他の部分よりも白く見える部分がCNFである。
【0098】
図31に示すように、実施例6の複合粒子は、その形状が球形状に近く、大きさが比較的揃っていることが判る。なお、実施例6の複合粒子の円形度は、0.98であった。
【0099】
液体クロマトグラムによって、CNFと塩素化合物との相互作用の有無を調べた。平均粒径30μmのCNF粒子をカラム(30cm×8mmI.D.)に充填し、移動相として、エタノールを用いた。塩素化合物であるクロロホルム、ジクロロメタンおよびジクロロエタンと、クロロ基を有していない分岐鎖アルカンである3-メチルペンタンとのそれぞれを、カラム温度25℃、セルロース充填カラムの中に20マイクロリットル注入した。
図37に示すように、塩素化合物であるクロロホルム、ジクロロメタンおよびジクロロエタンであると、ピークの保持時間が増大し、テーリング現象が生じていることから、CNFと塩素化合物との間に相互作用が生じていると考えられる。一方、3-メチルペンタンの場合、ピークの保持時間の増大や、テーリング現象の発生が認められなかった。
【0100】
図38に示すように、実施例6を例示して説明すると、CNF-塩化メチレン分散液において、CNFと塩化メチレンとの間に弱い相互作用が生じている。そして、CNF-ポリマー溶液において、PVCとCNFとの間にも弱い相互作用があるので、CNFがCNF-ポリマー溶液中でPVCと均一に混合される。CNF-ポリマー溶液を、水系分散媒に投与して粒子化すると、ドメインが安定して、真球に近く、均一にCNFが複合された複合粒子が得られたと考えられる。このように、塩素化合物を分散媒として用いることで、ナノ多糖がPVC系粒子の表側から内側にかけて配置された複合粒子を得ることができる。この場合、得られた複合粒子を、真球により近づけることができるメリットがある。