(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】木質系材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B27N 3/04 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
B27N3/04 Z
(21)【出願番号】P 2022204779
(22)【出願日】2022-12-21
(62)【分割の表示】P 2019520259の分割
【原出願日】2018-05-22
【審査請求日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2017103483
(32)【優先日】2017-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018043121
(32)【優先日】2018-03-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】515223075
【氏名又は名称】株式会社パームホルツ
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000615
【氏名又は名称】弁理士法人Vesta国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福山 昌男
(72)【発明者】
【氏名】月東 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】古田 裕三
(72)【発明者】
【氏名】宮藤 久士
(72)【発明者】
【氏名】梶田 煕
(72)【発明者】
【氏名】三好 由華
(72)【発明者】
【氏名】神代 圭輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴文
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-225547(JP,A)
【文献】特開2005-280030(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B27N 1/00- 9/00
B27J 1/00
D01B 1/00- 1/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アブラヤシ材を構成する維管束と柔細胞のうち、柔細胞を離脱した状態
にあり外周にシリカの結晶が付着した維管束を使用し、
当該維管束を複数組み合わせた構造材と、これらの維管束を結合する樹脂材料とから構成されてなることを特徴とする木質系材料。
【請求項2】
前記構造材は、前記維管束が互いに交差する2軸以上の方向に配向してなることを特徴とする請求項1に記載の木質系材料。
【請求項3】
前記構造材は、所定の長さに切断した前記維管束を無配向に構成してなることを特徴とする請求項1に記載の木質系材料。
【請求項4】
前記構造材は、前記樹脂材料を付与した状態で成形されており、
成形後の気乾密度の値が0.3~1.5(g/cm
3)の範囲内にあることを特徴とする請求項1~3のいずれか1つに記載の木質系材料。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つに記載の木質系材料を製造する方法であって、
ヤシ材を維管束と柔細胞とに分離する分離工程と、
前記維管束に樹脂材料を付与する付与工程と、
前記樹脂材料により前記維管束の間を結合する結合工程とからなり、
前記付与工程において、
前記樹脂材料としてフェノール樹脂を使用し、前記維管束に2~50質量%濃度のフェノール樹脂水溶液を含浸させ、
前記結合工程において、
前記フェノール樹脂水溶液を含浸した前記維管束を乾燥後、温度140~220℃の高圧プレス装置で成形することを特徴とする木質系材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質資源として利用されることなく廃棄されているヤシ材の利用方法として、ヤシ材の樹幹部や茎葉部を維管束と柔細胞とに分離し、分離した維管束と柔細胞とをそれぞれ別の目的に利用するヤシ材の利用方法、並びに、木質系材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヤシ(椰子)は、単子葉植物ヤシ目ヤシ科に属する植物の総称であり、熱帯地方を中心に亜熱帯から温帯にかけて広く分布する植物である。これらヤシ科に属する植物は、熱帯地域の資源植物として重要であり、古来より多くの種がさまざまな方法で利用されている。例えば、ココヤシは、ヤシ油をとって食用に利用したり、果実の中心にある透明な液を飲料としたりする。また、アブラヤシ(油椰子)の実から採取するパーム油は、重要な食用、工業用の材料である。
【0003】
このように、ヤシは有用な植物資源ではあるが、主に利用されるのは果肉や種子だけである。樹幹などの木質部分は実用強度が低く、木材としての利用価値がなく、ほとんど利用されずに放置されている。例えば、アブラヤシ(以下「オイルパーム」という)は、商業作物としてマレーシア、インドネシアを中心に大規模に栽培されている。このオイルパームの栽培は、油脂の採取を目的としており、果肉と種子だけが利用されている。
【0004】
オイルパームは、植え付け後25~30年で果実の収穫量が減少して経済寿命を終え、約25年毎に再植林されている。この再植林の際に生じる大量のオイルパーム幹材は、木材用途としては狂いが大きく製材化には適さないとされている。そこで、伐採されたオイルパーム幹材は、有効に利用されることなく、産業廃棄物として廃棄処分或いはオイルパーム農園にそのまま放置されている。
【0005】
そこで、このオイルパーム幹材を資源として有効に利用すべく、種々の試みがなされている。近年においては、バイオマス資源としてカーボンニュートラルな燃料の原料として
検討されている。例えば、下記特許文献1において、「バイオエタノールの原料としてのオイルパーム材の利用」が提案されている。
【0006】
伐採したオイルパーム幹材には、他の樹種と異なり、セルロース、ヘミセルロース以外に多くの遊離糖が含有されている。これらの遊離糖は、主にショ糖、グルコース、フルクトースなどからなり幹材の約10%も含有される。更に、オイルパーム幹材は、デンプンを約25%も含有すると言われている(下記非特許文献1)。
【0007】
そこで、下記特許文献1においては、オイルパーム幹材を圧搾して遊離糖を含む圧搾液と絞り粕(圧搾粕)とに分離する。更に、この圧搾粕を酵素処理(アミラーゼ処理)して単糖を含む処理液とし、この処理液と圧搾液とを混合したものを発酵処理してエタノールを得るというものである。
【0008】
また、下記特許文献2においては、オイルパーム幹材を分解するのではなく、これを原料とする「吸水性素材」が提案されている。この吸水性素材は、オイルパーム幹材から得られる柔組織(デンプンなどを貯蔵する「柔細胞」と思われる)を主成分とする高吸水性素材である。
【0009】
更に、下記特許文献3においては、オイルパーム幹材を本来の木質系材料として使用する「合板、パーム合板、合板製造方法、およびパーム合板製造方法」が提案されている。このパーム合板は、オイルパーム幹材から得られた単板を接着剤で接着したものであり、上述した一般の合板の製造法において、オイルパーム幹材を薄く剥いだ単板を複数枚積層し、これらの間に接着剤を塗布して接着し、1枚の板材(合板)としたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009ー112246号公報
【文献】特開2011ー224479号公報
【文献】特開2011ー068015号公報
【文献】松田敏誉,富村洋一;熱帯林業, No.24(1992)37-46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上記特許文献1のバイオエタノールの原料としての利用は、カーボンニュートラルな燃料の製造として素晴らしいものであるが、オイルパーム幹材を圧搾し、酵素処理し、更に発酵処理する必要があり、複雑な工程と大掛かりな設備を必要とする。更に、圧搾粕の大部分を占める維管束を有効に利用することができず、新たな産業廃棄物を生み出すことになる。
【0012】
また、上記特許文献2の吸水性素材は、産業資材としての利用であるが、圧搾、固形残渣の乾燥、粉砕、篩分による柔組織と維管束との分離などの複雑な工程が必要である。また、吸水性素材となる柔組織は、圧搾による固形残渣の約50~60%であり、圧搾液や不必要な固形分である維管束の処分など、新たな産業廃棄物を生み出すことになる。
【0013】
一方、上記特許文献3のパーム合板としての利用は、オイルパーム幹材をカツラ剥きし乾燥して得られた単板をそのまま利用することができる。従って、オイルパーム幹材の多くの部分を利用することができるので、新たな産業廃棄物を生み出すこともない。
【0014】
しかし、オイルパーム幹材から得られる単板は、合板に従来使用されているラワンなどの単板と異なり、密度が低く、そのことから強度が弱く、合板としたときにもその物性の点で問題となり、硬質木材にも代わりえる広い用途に使用することができなかった。
【0015】
そこで、本発明は、以上のようなことに対処して、これまで利用されることなく放置されていたオイルパーム材などのヤシ材を維管束と柔細胞とに効率よく分離し、分離した維管束を利用して従来の木材と同様又はそれ以上の物性を有して実用的に建材などの用途に利用可能な木質系材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題の解決にあたり、本発明者らは、鋭意研究の結果、オイルパーム材に粉砕、圧搾、爆砕、水流高圧噴射等の手段を用いて、維管束と柔細胞とをほぼ完全に分離して本発明の完成に至った。また、分離した維管束を構造材として利用することにより本発明の完成に至った。
【0017】
即ち、本発明に係る木質系材料は、請求項1の記載によると、
ヤシ材を構成する維管束と柔細胞のうち、柔細胞を離脱した状態の維管束を使用し、
当該維管束を複数組み合わせた構造材と、これらの維管束を結合する樹脂材料とから構成されてなることを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、請求項2の記載によると、請求項1に記載の木質系材料であって、
前記構造材は、前記維管束が互いに交差する2軸以上の方向に配向してなることを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、請求項3の記載によると、請求項1に記載の木質系材料であって、前記構造材は、所定の長さに切断した前記維管束を無配向に構成してなることを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、請求項4の記載によると、請求項1~3のいずれか1つに記載の木質系材料であって、
前記構造材は、前記樹脂材料を付与した状態で成形されており、
成形後の気乾密度の値が0.3~1.5(g/cm3)の範囲内にあることを特徴とする。
【0021】
また、本発明に係る木質系材料の製造方法は、請求項5の記載によると、
請求項1~4のいずれか1つに記載の木質系材料を製造する方法であって、
ヤシ材を維管束と柔細胞とに分離する分離工程と、
前記維管束に樹脂材料を付与する付与工程と、
前記樹脂材料により前記維管束の間を結合する結合工程とからなり、
前記付与工程において、
前記樹脂材料としてフェノール樹脂を使用し、前記維管束に2~50質量%濃度のフェノール樹脂水溶液を含浸させ、
前記結合工程において、
前記フェノール樹脂水溶液を含浸した前記維管束を乾燥後、温度140~220℃の高圧プレス装置で成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
上記構成によれば、分離した維管束は、樹脂材料を付与した後に成形して、木質系材料の構造材として利用することができる。また、木質系材料の構造材は、維管束が互いに交差する2軸以上の方向に配向するようにしてもよく、或いは、所定の長さに切断した維管束を無配向に構成するようにしてもよい。
【0023】
また、上記構成によれば、木質系材料は、成形後の気乾密度の値が0.3~1.5(g/cm3)の範囲内にしてもよい。このことにより、木質系材料の物性が向上し、従来の
硬質木材にも代わりえる広い用途に利用可能な木質系材料を提供することができる。
【0024】
また、上記構成によれば、木質系材料の製造方法は、ヤシ材を維管束と柔細胞とに分離する分離工程と、維管束に樹脂材料を付与する付与工程と、樹脂材料により維管束の間を結合する結合工程とからなる。付与工程においては、樹脂材料としてフェノール樹脂を使用し、維管束に2~50質量%濃度のフェノール樹脂水溶液を含浸させるようにしてもよい。次に、結合工程においては、フェノール樹脂水溶液を含浸した維管束を乾燥後、温度140~220℃の高圧プレス装置で成形するようにしてもよい。このことにより、木質系材料の物性が向上し、上記効果をより具体的に発揮できる木質系材料の製造方法を提供することができる。
【0025】
以上のことから、本発明によれば、これまで利用されることなく放置されていたオイルパーム材などのヤシ材を維管束と柔細胞とに効率よく分離し、分離した維管束を利用して従来の木材と同様又はそれ以上の物性を有して実用的に建材などの用途に利用可能な木質系材料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】オイルパーム材を例にした利用方法のフロー図である。
【
図2】オイルパーム幹材の維管束と柔細胞とを示す電子顕微鏡写真である。
【
図3】第1実施形態で使用したゼファー化装置を示す写真である。
【
図4】
図3のゼファー化装置において、2本の金属ロールの溝が互いの山部と谷部とで咬合した状態を示す写真である。
【
図5】ゼファー化装置にオイルパーム樹幹から調製した単板を挿入する状態を示す写真である。
【
図6】ゼファー化装置から維管束と柔細胞が分離されて出てくる状態を示す写真である。
【
図7】ゼファー化装置で分離された維管束を示す写真である。
【
図8】ゼファー化装置で分離された柔細胞を示す写真である。
【
図9】ゼファー化装置で分離された維管束の表面を拡大した電子顕微鏡写真である。
【
図10】
図9の維管束の表面を更に拡大した電子顕微鏡写真である。
【
図11】第1実施形態において積層成形前の3層のマットの構成を示す概略図である。
【
図12】第3実施形態において積層成形前の5層のマットの構成を示す概略図である。
【
図13】第3実施形態において使用する圧密化装置の概要を示す断面図である。
【
図14】第3実施形態において木質系材料を圧密化する工程の概要を示す工程図である。
【
図15】第5実施形態において使用するオイルパーム単板、ハンマークラッシャー及び粉砕物を示す写真である。
【
図16】第5実施形態において気乾状態のオイルパーム幹材を各条件で粉砕した粉砕物を示す写真である。
【
図17】第5実施形態において飽水状態のオイルパーム幹材を各条件で粉砕した粉砕物を示す写真である。
【
図18】第5実施形態において粉砕後の粉砕物を維管束部分と柔細胞部分とに篩分した状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明において、ヤシ(椰子)とは、上述のように、単子葉植物ヤシ目ヤシ科に属する植物の全てをいうものとする。なお、本発明において工業用材料や農林水産用資源として大規模に利用する意味から、熱帯地域の資源植物として広く栽培されているココヤシやアブラヤシ(オイルパーム)が特に重要である。本発明においては、オイルパームを例とし
て本発明を以下に説明する。
【0028】
オイルパームとは、アブラヤシ(油椰子)ともいわれ、西アフリカ原産のヤシ科アブラヤシ属に分類される単子葉植物の総称であって、油脂の採取を目的とする商業作物としてマレーシア、インドネシアを中心に大規模に栽培されている。成木は単一の幹からなり、高さ20mに達する。葉は羽状で長さ3~5mほどのものが、毎年20~30枚新しく生える。
【0029】
また、上述のように、オイルパームは、植え付け後25~30年で果実の収穫量が減少して経済寿命を終え、約25年毎に再植林されている。オイルパームの栽培は油脂の採取を目的として果肉と種子だけが利用されるので、その幹材はこれまで有効に利用されることなく、産業廃棄物として廃棄処分或いはオイルパーム農園にそのまま放置されている。
【0030】
オイルパーム幹材の断面には、視認できる直径0.4~1.2mm程度の維管束とその周りにデンプンなどを貯蔵する柔細胞などが存在する。なお、維管束は、樹幹の長さ方向に平行に長尺で存在している。これらの細胞壁は、セルロース、ヘミセルロース、及び、リグニン等の樹脂成分で形成され、その他、幹材には約10%の遊離糖(主にショ糖、グルコース、フルクトースなど)や約25%のデンプンが含有されている(上記非特許文献1)。
【0031】
以下、本発明に係るヤシ材の利用方法について、オイルパーム材を例として各実施形態において説明する。まず、第1~第5実施形態においては、オイルパーム材から分離した維管束の利用方法の一つである木質系材料及びその製造方法について説明する。次に、第1参考例においては、オイルパーム材から分離した柔細胞の利用方法の一つである家畜用飼料について説明する。また、第2参考例においては、オイルパーム材から分離した柔細胞の利用方法の一つであるバイオエタノール原料について説明する。
【0032】
なお、本発明は、下記に示す各実施形態にのみ限定されるものではない。また、各実施形態においては、ヤシ材として主にオイルパーム幹材を使用するが、これに限るものではなく、オイルパームの樹皮、茎葉などの部分、或いは、他のヤシ材の樹幹、樹皮、茎葉などの部分を利用するようにしてもよい。
【0033】
第1実施形態:
本第1実施形態は、オイルパーム幹材を分離して、その維管束を木質系材料の構成要素として利用するものである。また、本第1実施形態は、本発明に係る木質系材料として、分離した維管束を固定化した積層板を製造する。以下、その製造方法を説明する。本第1実施形態に係る積層板の製造方法は、分離工程と付与工程と結合工程とからなる。以下、各工程に従って説明する。
【0034】
1.分離工程
本第1実施形態に係る分離工程は、オイルパーム材を維管束と柔細胞とに分離する。
図1は、本発明者らが考えるオイルパーム材を例にした利用方法のフロー図である。
図1において、まず、オイルパーム幹材を粉砕(本発明においては破砕を含む)、圧搾、爆砕、水流高圧噴射等の手段(以下「分離手段」ともいう)を用いて維管束と柔細胞とに分離する。
【0035】
そこで、本発明者らは、オイルパーム幹材の断面を観察した。
図2は、オイルパーム幹材の維管束と柔細胞とを示す電子顕微鏡写真である。
図2において、維管束(維管束鞘と表示)とこれを取り囲む柔細胞(柔組織と表示)が明瞭に区別できる。また、これらの組織の構造強度が異なることから、分離手段により維管束と柔細胞とに容易に分離すること
ができる。なお、維管束の外郭部には柔細胞が固着しているが、分離手段の種類と操作工程を制御することにより、分離後の維管束に残留する柔細胞の比率を調整することができる。
【0036】
オイルパーム幹材を維管束と柔細胞とに分離する分離手段の装置は、特に限定するものではない。例えば、粉砕装置(破砕装置も含む)としては、ハンマーミル、スパイラルミル、振動ボールミル、震動ロッドミル、ウィーリーミルなどの各種ミル、ハンマークラッシャーなどのクラッシャー、チッパーやシュレッダーなどが挙げられる。また、圧搾装置としては、ゼファー化装置などを挙げることができる。また、水蒸気爆砕などの装置も使用することができる。更に、分散流体を100~250MPaで高圧噴射する装置等も使用することができる。
【0037】
これらの装置を使用する際の処理条件、例えば、出力・回数・時間・ロール間隔などを調整することにより、上述のように、維管束と柔細胞との分離比率及び処理物の大きさ、並びに、維管束に残留する柔細胞の比率を調整することができる。上記特許文献2によれば、オイルパーム幹材の木質部の約50~60質量%が柔細胞であるといわれている。しかし、処理条件を弱くすれば、柔細胞が多く残存保持された維管束と、脱離した柔細胞に分離される。逆に、処理条件を強くすれば、柔細胞が殆ど脱離した維管束と、脱離した柔細胞と破壊された維管束との混合物に分離される。
【0038】
また、オイルパーム幹材を維管束と柔細胞とに分離する際に、気乾状態(含水率15質量%の乾燥状態)で分離する場合と生材状態で分離する場合とで、維管束と柔細胞との分離比率及び処理物の大きさ、並びに、維管束に残留する柔細胞の比率を調整することができる。なお、オイルパーム農園で伐採されたオイルパーム幹材をその場で処理する場合には、生材状態で分離することが好ましい。いずれにしても、分離された各材料の用途により、装置の種類、処理条件及びオイルパーム幹材の含水率を適宜設定すればよい。
【0039】
本第1実施形態においては、分離手段として圧搾装置の一種であるゼファー化装置を使用した。ゼファー化装置は、従来から竹ゼファーやゼファーボードなどを作製する際に使用されている。しかし、オイルパーム幹材の処理にゼファー化装置が使用されたことはなく、また、その使用が提案された事実もない。また、木質材の組織の分離にも使用されたことはない。本発明者らは、ゼファー化装置の構造と作用を検討し、長尺の維管束を過度に切断することなく分離する手段としてゼファー化装置の使用が適切であるとの判断を得た。以下、その理由について説明する。
【0040】
ゼファー化装置は、基本的には以下のような構造を有する。まず、2本の円筒状の金属ロールを使用する。なお、2本を1対として複数対を連続して使用するようにしてもよい。各金属ロールは、その表面に円周方向に沿って平行して設けられた複数の溝を有する。この溝は、山部と谷部とからなる凹凸状に形成されている。なお、本発明においては、通常のゼファー化装置とは異なり、分離される維管束の用途に合わせて、V字状、その他の形状の溝構造を採用するようにしてもよい。また、V字状、凹凸状、その他の形状の溝構造に加え、2本の金属ロールの間隔や溝間距離(ピッチ)も調整するようにしてもよい。
【0041】
このような1対の金属ロールは、互いの円筒軸方向を平行にして、互いの山部と谷部とが咬合した状態で逆方向に回転する。このようにして回転する2本の金属ロールの咬合部に、オイルパーム幹材から調製した板片を挿入する。ここで、オイルパームの板片における維管束の状態について説明する。上述のように、維管束は、オイルパームの樹幹の長さ方向に平行に長尺で存在している。従って、オイルパーム幹材から樹幹の長さ方向の板材を調製すれば、維管束が平行に並んだ柾目状の板材を得ることができる。本第1実施形態においては、オイルパーム幹材から板材を調整する際に、ロータリーレースなどで単板に
したものを使用した。この単板においては、維管束が平行に並んでいる。
【0042】
このような単板を回転する2本の金属ロールの咬合部に挿入する方向を変化させることにより、得られる維管束の状態が異なる。例えば、維管束の長さ方向を金属ロールの溝と平行に挿入した場合には、維管束を過度に切断することなく長尺の状態で分離することができる。一方、維管束の長さ方向を金属ロールの溝と直交する方向に挿入した場合には、維管束を短く切断された状態で分離することができる。
【0043】
ここで、本第1実施形態において、従来のゼファー化装置を使用してオイルパーム幹材を維管束と柔細胞とに分離する作業について説明する。
図3は、本第1実施形態で使用したゼファー化装置を示す写真である。また、
図4は、ゼファー化装置の2本の金属ロールの溝(本第1実施形態では凹凸状)が互いの山部と谷部とで咬合した状態を示す写真である。なお、使用したゼファー化装置には、2本を1対として複数対(使用した装置は5対)の金属ロールが装着されている。
【0044】
本第1実施形態においては、ロータリーレースを使用してオイルパーム樹幹から単板を調製し、これを乾燥したものを使用した。従って、単板には維管束が平行に並んだ状態で含まれている。
図5は、ゼファー化装置にオイルパーム樹幹から調整した単板を挿入する状態を示す写真である。なお、本第1実施形態においては、維管束の長さ方向を金属ロールの溝と平行にして単板を挿入した。
【0045】
図6は、ゼファー化装置から維管束と柔細胞が分離されて出てくる状態を示す写真である。また、
図7は、ゼファー化装置で分離された維管束を示す写真である。
図7において、得られた維管束は、過度に切断されることなく長尺の状態で分離されていることが分かる。また、
図8は、ゼファー化装置で分離された柔細胞を示す写真である。
図8において、得られた柔細胞は、細断された維管束片が混入することなく微細な粉末の状態で分離されていることが分かる。
【0046】
なお、従来のゼファー化装置は、本発明のように維管束と柔細胞とを分離することを目的としていない。本第1実施形態においては、約34kgのオイルパーム樹幹の単板から、26.2kg(77.1%)の維管束と3.1kg(9.1%)の柔細胞を回収した。全体の回収率は、86.1%であった。このように回収率が低いのは、従来のゼファー化装置を使用した場合には、分離した柔細胞が飛散してしまい効率よく回収することができないからと考えられる。
【0047】
そこで、本発明において使用するゼファー化装置、或いはこれに類似する装置においては、分離した柔細胞を効率よく回収することのできる集塵機を使用するようにしてもよい。本発明に使用する集塵機の方式や種類は、特に限定するものではない。例えば、サイクロンなどの遠心式集塵機やバグフィルタなどの濾過式集塵機等を挙げることができる。
【0048】
次に、ゼファー化装置で分離された維管束の状態を観察した。
図9は、ゼファー化装置で分離された維管束の表面を拡大した電子顕微鏡写真である。また、
図10は、維管束の表面を更に拡大した電子顕微鏡写真である。
図9及び
図10において、維管束の表面には大きな傷が無くゼファー化装置の処理において維管束がダメージを受けておらず、構造材として有効であることが分かる。また、維管束の外周にはシリカの結晶と思われるものが付着していることが分かる。
【0049】
ここで、オイルパーム材の維管束と柔細胞の構成成分について比較する。表1は、公知文献(H.Abe,et.al.BioResources,8(2),1573-1581(2013))で公表されたオイルパーム材の維管束と柔細胞の構成成分の比率を示
す表である。なお、本第1実施形態で分離した維管束と柔細胞の構成成分の実際の比率は未分析である。
【0050】
【0051】
表1において、αセルロースの比率及びデンプンの比率が、維管束と柔細胞とで大きく異なっていることが分かる。また、上記非特許文献1で公表されているオイルパーム幹材のデンプンの比率(約25%)とは若干異なっている。いずれも公知文献の資料であるが、個体差、地域差、季節変動などの影響が考えられる。
【0052】
いずれにしても、αセルロースの比率が高い維管束を木質系材料の構造材として利用することが有効であることが分かる。また、デンプンの比率が高い柔細胞を家畜用飼料やバイオエタノールの原料、又はキノコ栽培の菌床として利用することが有効であることが分かる。
【0053】
一方、本第1実施形態で得られたオイルパーム材の維管束の物性について確認した。まず、オイルパーム材の維管束の密度は、公知文献(Nor Hafizab Ab Wahab,et.al.Journal of Adhesion,90(3),210-229(2014))によれば、0.62g/cm3とされている。一方、本第1実施形態で分離した維管束の見かけの密度は、アルキメデスの原理を利用して石油エーテル中での浸漬により測定したところ、実測値で0.7~0.8g/cm3であった。
【0054】
次に、本第1実施形態で分離した維管束の引張強度を測定した。測定には、荷重速度を3.0mm/minとして精密万能試験機オートグラフ(登録商標;株式会社島津製作所製)で測定した。引張強度の計算には、維管束を円柱であると仮定して破断部分の直径を2方向から測定し、その平均値を使用して算出した。本第1実施形態で分離した維管束の引張強度は、実測値で146.8MPaであった。この値は、公知文献(木材研究,第30号,P.32-39(1994))による、ジュート:550MPa、広葉樹:130MPa、針葉樹:140MPa、竹:300MPa、Lint:480MPa、ポリエステル:520MPaに比較しても非常に良好な強度である。よって、引張強度の高い維管束を木質系材料の構造材として利用することが有効であることが分かる。
【0055】
次に、分離工程で得られた維管束を用いて、これを構造材として利用する積層板の製造について説明する。本第1実施形態においては、分離された長尺の維管束を長尺のまま使用して、これらを直交する2方向に配向させた積層板を製造した。
【0056】
2.付与工程
まず、維管束への樹脂材料の付与工程について説明する。本第1実施形態に係る積層板は、分離した維管束に樹脂材料を含浸して維管束どうしを結合したものである。本発明にいう樹脂材料とは、維管束どうしを接着して結合する材料、維管束どうしの間に充填してこれら結合する材料、或いは、維管束の内部に一部浸透して維管束を構成するセルロースその他の物質と反応してこれらを結合する材料などを含む広い概念であって、最終的に維管束どうしが結合された状態を形成する材料であればよい。従って、付与工程で維管束に
付与する段階では、ポリマー、プレポリマー、オリゴマー、及びモノマーのいずれであってもよい。
【0057】
具体的には、ポリマー或いはプレポリマーとしては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、フラン樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの合成樹脂、又は、シェラックなどの天然樹脂を挙げることができる。また、フェノール樹脂やメラミン樹脂の場合には、オリゴマー或いは更に分子量の小さな1量体、2量体などであってもよい。更には、セルロースなどと反応する多官能の架橋剤であってもよい。架橋剤としては、例えば、多官能イソシアネート、多官能エポキシ、多官能アルデヒド、多官能カルボン酸などであってもよい。
【0058】
なお、本第1実施形態においては、フェノール樹脂を使用した。維管束に含浸するフェノール樹脂としては、レゾール型のフェノール樹脂を使用することが好ましい。これらのフェノール樹脂としては、数平均分子量が約400以下の低分子量フェノール樹脂(充填型樹脂)、又は、それよりも分子量の大きなオリゴマー型フェノール樹脂(接着型樹脂)のいずれであってもよい。また、フェノール樹脂は、単独で使用してもよく或いは触媒等を併用するようにしてもよい。なお、本第1実施形態においては、数平均分子量:Mn=272、重量平均分子量:Mw=408の低分子量フェノール樹脂(充填型樹脂)を使用した。
【0059】
フェノール樹脂の維管束への含浸は、まず、フェノール樹脂を水に溶解させて、2~50質量%濃度、より好ましくは10~30質量%濃度、更に好ましくは20~30質量%濃度のフェノール樹脂水溶液を調製する。フェノール樹脂水溶液の濃度が2質量%未満であれば、維管束への含浸量が不十分になり積層板の物性が低下することが考えられる。一方、フェノール樹脂水溶液の濃度が50質量%を超えると、積層板が脆くなると共に製造コストが上昇することが考えられる。
【0060】
次に、調製したフェノール樹脂水溶液に常温下で維管束を0.2~24時間浸漬して、維管束にフェノール樹脂を含浸する。このとき、必要により減圧・加圧などの含浸方法を採用するようにしてもよい。なお、本第1実施形態においては、常温・常圧下で0.5時間浸漬した。このときの含浸率は、134.6%であった。次に、フェノール樹脂水溶液を含浸した維管束を風乾した後に50℃~105℃程度の温度条件下で10分~12時間程度かけて乾燥する。本第1実施形態においては、フェノール樹脂水溶液を含浸した維管束を約12時間風乾した後、80℃で3時間乾燥した。この操作で得られた樹脂含有維管束の樹脂固形分含有量は、約30質量%であった。
【0061】
次に、これらのフェノール樹脂を含浸し乾燥した維管束を長尺方向に配向させた3層のマットを作製した。マットとは、パーティクルボードなどで使用される用語であって、圧締する前の繊維やパーティクル(本第1実施形態においては維管束)を散布堆積した各層をいう。
図11は、積層成形前の3層のマットの構成を示す概略図である。各マットW1~W3は、それぞれを構成する維管束を長尺方向に配向させた状態で成形されている。また、各マットW1~W3は、配向方向を交互に直交させて構成されている。
図11において、マットW1及びW3は、その維管束を同一方向(図示右上方向)に配向させ、これらに直交する方向(図示横方向)にマットW2が配置されている。このことにより、これらを積層した積層板の物性が向上すると共に、使用されている維管束が長尺であることにより更に物性が向上する。
【0062】
3.結合工程
次に、各マットW1~W3に使用された配向した各維管束の結合、及び、各マットW1~W3相互の結合を行う結合工程について説明する。なお、本第1実施形態においては、
結合工程において基本的に圧密化を行わず、各維管束の充填密度を向上させた。よって、成形後の積層板の目標密度を上述の維管束の実測密度に合わせることとした。
【0063】
まず、準備したマットW1~W3を
図11のように構成して結合前の積層板を準備する。この積層板を熱プレス機にセットして上下熱板により加温し、加温された積層板に対して、厚み方向から上下熱板に所定の圧締圧力を加えて圧縮する。更に、この圧締圧力を維持した状態で、更に昇温して所定温度下で所定時間維持した後、温度を降下させて結合し固定化を完了する。
【0064】
固定化条件として、所定温度とは、使用する樹脂材料の種類にもよるが、一般に140~220℃の温度範囲内であり、好ましくは、160~200℃の温度範囲内である。また、この温度範囲を維持する時間は、固定化する対象により適宜選定するものであるが、例えば、10分~120分の範囲内であり、好ましくは、10分~60分の範囲内である。一方、厚み方向から加える圧締圧力は、固定化する対象により適宜選定するものであるが、例えば、1~10MPaの範囲内であることが好ましい。なお、本第1実施形態においては、マットW1~W3を積層した積層板(圧締前の厚さ:約10cm)に対して、180℃の温度と1.5MPaの圧締圧力で15分間処理して厚さ約12mmの積層板を固定した。
【0065】
このようにして得られた積層板の固定化後の気乾密度の値は、上述の維管束の実測密度(0.7~0.8g/cm3)と同等或いは若干低い、0.55~0.71g/cm3であった。なお、本第1実施形態においては、1.5MPaの圧締圧力による成形を行ったが、圧締圧力の程度を変化させ、或いは、更に圧密化することにより、成形後の気乾密度の値が0.3~1.5g/cm3の範囲内とすることが好ましい。成形後の気乾密度の値が0.3~1.5g/cm3の範囲内にあれば、固定化された積層板の剛性(曲げヤング係数)などの物性が良好なものとなる。
【0066】
ここで、固定化された積層板について、その物性値を確認した。本第1実施形態において行った物性試験項目は、曲げ試験、吸水厚さ膨張率試験、木ねじ保持力試験、表面硬さ(ブリネル硬さ)試験の各項目である。それぞれの試験方法及び結果について以下に説明する。
【0067】
<曲げ試験>
曲げ試験は、JIS A 5908:2008(パーティクルボード)に準じて行った。また、本第1実施形態においては、常態の試験片での測定に加え、煮沸2時間後の湿潤時の試験片での測定(B法)の両方の測定を行った。なお、本第1実施形態の積層板は3層からなるため、縦方向のみの試験片で測定した。ここで、試験片の縦方向とは、
図11のマットW1及びW3の2層のマットにおいて、維管束の配向する方向に長さ方向を合わせた試験片を示している。
【0068】
測定には、まず、厚さ12mm、幅50mm、長さ230mmの試験片を準備した。次に、3点荷重方式により平均荷重速度10mm/minで測定した。測定項目は、曲げ強度(MPa)、曲げヤング係数(GPa)、曲げ仕事量(J)の各項目とした。本第1実施形態に係る固定化された積層板に関する測定結果を表2に示す。なお、表2の密度とは、作製した試験片(測定前)の気乾状態の密度をいう。
【0069】
【0070】
上述のJIS A 5908:2008(パーティクルボード)の基準によれば、曲げ強度:17.5MPa以上(湿潤時10.5MPa以上)、曲げヤング係数:3.0GPa以上であり、表2の結果は、いずれも良好なものであった。
【0071】
<吸水厚さ膨張率試験>
吸水厚さ膨張率試験は、JIS A 5908:2008(パーティクルボード)に準じて行った。まず、幅50mm、長さ50mmの試験片を準備し、その中央部の厚さと重量を測定した。次に、試験片を20℃の水中に水面下30mmに水平に置き、24時間浸漬した。その後、試験片の中央部の厚さと重量を測定し、吸水厚さ膨張率及び吸水率を算出した。なお、参考値として試験片の幅と長さの寸法変化も測定した。更に、20℃24時間浸漬に代えて、煮沸2時間浸漬についても同様にして測定した。本第1実施形態に係る固定化された積層板に関する測定結果を表3に示す。なお、表3の密度とは、作製した試験片(測定前)の気乾状態の密度をいう。
【0072】
【0073】
上述のJIS A 5908:2008(パーティクルボード)の基準によれば、厚さ12.7mm以下の試料の吸水厚さ膨張率は25%以下であり、表3の結果は、この基準を大幅に上回るものであった。
【0074】
<木ねじ保持力試験>
木ねじ保持力試験は、JIS A 5908:2008(パーティクルボード)に準じて行った。まず、幅50mm、長さ50mmの試験片を準備し、その中央部に径2.7mm、長さ16mmの木ねじを垂直にねじ部(約11mm)までねじ込んだ。次に、試験片を固定して木ねじを垂直に引き抜き、それに要する最大荷重を精密万能試験機オートグラフ(登録商標;株式会社島津製作所製)で測定した。本第1実施形態に係る固定化された積層板に関する測定結果を表4に示す。なお、表4の密度とは、作製した試験片(測定前)の気乾状態の密度をいう。
【0075】
【0076】
上述のJIS A 5908:2008(パーティクルボード)の基準によれば、木ねじ保持力は500N以上であるが、表4の結果は、ほぼこの水準を維持するものであった。
【0077】
<表面硬さ(ブリネル硬さ)試験>
表面硬さ(ブリネル硬さ)試験は、JIS Z 2101:2009(木材の試験方法)に準じて行った。まず、先端が半径5mmの半球状のプランジャーを0.5mm/minの一定速度で、試験片の表面に深さ1/π(約0.32mm)まで圧入し、その深さに達したときの荷重を測定した。次に、測定した荷重を10(圧入面の表面積が10mm2であることによる)で除してブリネル硬さとする。本第1実施形態に係る固定化された積層板に関する測定結果を表5に示す。なお、表5の密度とは、作製した試験片(測定前)の気乾状態の密度をいう。
【0078】
【0079】
この試験法において、試験片の表面硬さが10MPa以上であることにより、キズが付き難く物性的に優れた積層板を提供できるものと考えられている。表4の結果は、この水準を上回って15MPaに近い値を示しており、更に用途が広がるものと考えられる。
【0080】
以上のことから、本第1実施形態によれば、これまで利用されることなく放置されていたオイルパーム材などのヤシ材を維管束と柔細胞とに効率よく分離し、分離した維管束を利用して従来の木材と同様又はそれ以上の物性を有して実用的に建材などの用途に利用可能な木質系材料及びその製造方法を提供することができる。
【0081】
第2実施形態:
本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様に、本発明に係る木質系材料として、分離した維管束を固定化した積層板を製造する。その製造方法を説明する。本第2実施形態に係る積層板の製造方法は、上記第1実施形態と同様に分離工程と付与工程と結合工程とからなる。以下、各工程に従って説明する。
【0082】
1.分離工程
本第2実施形態においても、上記第1実施形態と同様にゼファー化装置を使用した。ま
た、ゼファー化装置に投入するオイルパームの板片として上記第1実施形態と同様のロータリーレースによる単板を使用した。
【0083】
次に、分離工程で得られた維管束を用いて、これを構造材として利用する積層板の製造について説明する。本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様に分離された長尺の維管束を長尺のまま使用して、これらを直交する2方向に配向させた圧密積層板を製造する。
【0084】
2.付与工程
本第2実施形態においては、上記第1実施形態に対して付与工程で維管束に付与する樹脂材料を変更した。本第2実施形態においては、樹脂材料としてセルロースなどと反応する架橋剤である多官能イソシアネートを使用した。具体的には、2官能のジフェニルメタンジイソシアネート(以下「MDI」という)を使用した。本第2実施形態においては、維管束に10質量%のMDIを付与し、気乾状態で約2時間静置した。次に、上記第1実施形態と同様にしてMDIを付与した維管束を長尺方向に配向させた3層のマットを作製した(
図11参照)。
【0085】
3.結合工程
本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様に、結合工程において基本的に圧密化を行わず、各維管束の充填密度を向上させた。よって、成形後の積層板の目標密度を上述の維管束の実測密度に合わせることとした。
【0086】
まず、準備したマットW1~W3を
図11のように構成して結合前の積層板を準備する。この積層板を熱プレス機にセットして上下熱板により加温し、加温された積層板に対して、厚み方向から上下熱板に所定の圧締圧力を加えて圧縮する。更に、この圧締圧力を維持した状態で、更に昇温して所定温度下で所定時間維持した後、温度を降下させて結合し固定化を完了する。
【0087】
本第2実施形態においては、固定化条件として、上記第1実施形態に対応した条件を採用した。具体的には、本第2実施形態においても、マットW1~W3を積層した積層板(圧締前の厚さ:約10cm)に対して、180℃の温度と1.5MPaの圧締圧力で15分間処理して厚さ約12mmの積層板を固定した。
【0088】
このようにして得られた積層板の固定化後の気乾密度の値は、上述の維管束の実測密度(0.7~0.8g/cm3)と同等或いは若干低い、0.63~0.72g/cm3であった。なお、本第2実施形態においては、1.5MPaの圧締圧力による成形を行ったが、圧締圧力の程度を変化させ、或いは、更に圧密化することにより、成形後の気乾密度の値が0.3~1.5g/cm3の範囲内とすることが好ましい。成形後の気乾密度の値が0.3~1.5g/cm3の範囲内にあれば、固定化された積層板の剛性(曲げヤング係数)などの物性が良好なものとなる。
【0089】
ここで、固定化された積層板について、その物性値を確認した。本第2実施形態において行った物性試験項目は、曲げ試験、及び、吸水厚さ膨張率試験の各項目である。それぞれの試験方法及び結果について以下に説明する。
【0090】
<曲げ試験>
本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様に、JIS A 5908:2008(パーティクルボード)に準じて、常態の試験片での測定に加え、煮沸2時間後の湿潤時の試験片での測定(B法)の両方の測定を行った。なお、本第2実施形態の積層板は3層からなるため、縦方向のみの試験片で測定した。ここで、試験片の縦方向とは、
図1
1のマットW1及びW3の2層のマットにおいて、維管束の配向する方向に長さ方向を合わせた試験片を示している。
【0091】
測定には、まず、上記第1実施形態と同様にして厚さ12mm、幅50mm、長さ230mmの試験片を準備した。次に、3点荷重方式により平均荷重速度10mm/minで測定した。測定項目は、曲げ強度(MPa)、曲げヤング係数(GPa)、曲げ仕事量(J)の各項目とした。本第2実施形態に係る固定化された積層板に関する測定結果を表6に示す。なお、表6の密度とは、作製した試験片(測定前)の気乾状態の密度をいう。
【0092】
【0093】
上述のJIS A 5908:2008(パーティクルボード)の基準によれば、曲げ強度:17.5MPa以上(湿潤時10.5MPa以上)、曲げヤング係数:3.0GPa以上であり、表6の結果は、いずれも良好なものであった。
【0094】
<吸水厚さ膨張率試験>
本第2実施形態においては、上記第1実施形態と同様に、JIS A 5908:2008(パーティクルボード)に準じて行った。まず、幅50mm、長さ50mmの試験片を準備し、その中央部の厚さと重量を測定した。次に、試験片を20℃の水中に水面下30mmに水平に置き、24時間浸漬した。その後、試験片の中央部の厚さと重量を測定し、吸水厚さ膨張率及び吸水率を算出した。なお、参考値として試験片の幅と長さの寸法変化も測定した。更に、20℃24時間浸漬に代えて、煮沸2時間浸漬についても同様にして測定した。本第2実施形態に係る固定化された積層板に関する測定結果を表7に示す。なお、表7の密度とは、作製した試験片(測定前)の気乾状態の密度をいう。
【0095】
【0096】
上述のJIS A 5908:2008(パーティクルボード)の基準によれば、厚さ12.7mm以下の試料の吸水厚さ膨張率は25%以下であり、表7の結果は、この基準を大幅に上回るものであった。
【0097】
以上のことから、本第2実施形態によれば、これまで利用されることなく放置されていたオイルパーム材などのヤシ材を維管束と柔細胞とに効率よく分離し、分離した維管束を利用して従来の木材と同様又はそれ以上の物性を有して実用的に建材などの用途に利用可能な木質系材料及びその製造方法を提供することができる。
【0098】
第3実施形態:
本第3実施形態においては、本発明に係る木質系材料として、分離した維管束を圧密固定化した圧密積層板を製造する。以下、その製造方法を説明する。本第3実施形態に係る圧密積層板の製造方法は、上記第1実施形態と同様に分離工程と付与工程と結合工程とからなる。以下、各工程に従って説明する。
【0099】
1.分離工程
本第3実施形態においても、上記第1実施形態と同様にゼファー化装置を使用した。また、ゼファー化装置に投入するオイルパームの板片として上記第1実施形態と同様のロータリーレースによる単板を使用した。
【0100】
次に、分離工程で得られた維管束を用いて、これを構造材として利用する圧密積層板の製造について説明する。本第3実施形態においては、分離された長尺の維管束を長尺のまま使用して、これらを直交する2方向に配向させた圧密積層板を製造する。
【0101】
2.付与工程
本第3実施形態においても、上記第1実施形態と同様に維管束に含浸する樹脂材料として、数平均分子量が400以下の低分子量フェノール樹脂(充填型樹脂)を使用した。また、維管束へのフェノール樹脂の付与方法及び付与量も上記第1実施形態と同様にした。よって、ここでは詳細を省略する。
【0102】
次に、これらのフェノール樹脂を含浸し乾燥した維管束を長尺方向に配向させた5層のマットを作製した。
図12は、積層成形前の5層のマットの構成を示す概略図である。各マットW11~W15は、それぞれを構成する維管束を長尺方向に配向させた状態で成形されている。また、各マットW11~W15は、1層ずつ配向方向を交互に直交させて構成されている。
図12において、マットW11、W13、W15は、その維管束を同一方向(図示右上方向)に配向させ、これに直交してマットW12、W14は、その維管束を同一方向(図示横方向)に配向させている。このことにより、これらを積層した圧密積層板の物性が向上すると共に、使用されている維管束が長尺であることにより更に物性が向上する。
【0103】
3.結合工程
次に、各マットW11~W15に使用された配向した各維管束の結合、及び、各マットW11~W15相互の結合を行う結合工程について説明する。本第3実施形態においては、上記第1実施形態とは異なり、結合工程は圧密化による固定を行う。
【0104】
ここで、木質系材料の圧密化(圧密固定化)について説明する。本発明者らは、これまで、木材の圧密固定化及び木材の塑性加工について検討してきた。その経緯から、木材の圧密固定化方法(特許第4787432号)及び塑性加工木材(特許第5138080号)など複数の特許が成立している。そこで、本発明者らは、これらの技術的知見及び装置を活用して、分離した維管束を構造材として利用する圧密化された木質系材料を開発した。
【0105】
まず、上記付与工程でフェノール樹脂水溶液を含浸した維管束から構成されたマットW11~W15を積層した状態で、50℃~105℃程度の温度条件下で10分~12時間程度かけて乾燥する。このようにして、圧密化前の積層板を準備する。
【0106】
次に、上述のようにして準備した圧密化前の積層板を加温し、この加温された圧密化前の積層板に対して、厚み方向から所定の圧締圧力を加えて圧縮する。更に、この圧締圧力を維持した状態で、更に昇温して所定温度下で所定時間維持した後、温度を降下させて冷却し圧密固定化を完了する。
【0107】
なお、本第3実施形態における圧密固定化条件として、まず、所定温度とは、140~220℃の温度範囲内であり、好ましくは、160~200℃の温度範囲内である。また、この温度範囲を維持する時間は、圧密固定化する対象により適宜選定するものであるが、例えば、10分~120分の範囲内であり、好ましくは、20分~60分の範囲内である。一方、厚み方向から加える圧締圧力は、圧密固定化する対象により適宜選定するものであるが、例えば、1~10MPaの範囲内であることが好ましい。
【0108】
ここで、本第3実施形態において木質系材料を圧密化する圧密化装置MCについて説明する。
図13は、本第3実施形態において使用する圧密化装置MCの概要を示す断面図である。
図13において、圧密化装置MCは、上下に2分割されるプレス盤10(上プレス盤10A及び下プレス盤10B)から構成される。
【0109】
上プレス盤10Aと下プレス盤10Bとは、上下に分割されることにより、内部空間IS及び位置決め孔18を形成する。位置決め孔18は、圧密化前の積層板PW1の位置を定め規制するものであって、その周縁部10bを上プレス盤10Aの周縁部10aに対向するようにして下プレス盤10Bに形成されている。上プレス盤10Aの周縁部10aには、プレス盤10の上下動の範囲で内部空間IS及び位置決め孔18を密閉状態とするためのシール部材11が形成されている。
【0110】
また、上プレス盤10Aには、その上面側から内部空間IS内に連通され、内部空間IS及び位置決め孔18内に蒸気を供給するための配管口12aを有する配管12が設けられている。この配管12には、その下流側にバルブV4が設けられている。一方、下プレス盤10Bには、その側面側から内部空間IS及び位置決め孔18内に連通され、内部空間IS内から水蒸気を排出するための配管口13aを有する配管13が設けられている。この配管13には、その内部の蒸気圧を検出する圧力計P2と、その下流側のバルブV5と、バルブV5に接続されたドレン配管14が設けられている。
【0111】
また、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bには、その内部に高温の水蒸気を通すことにより所定の温度に昇温するための配管路15、16が形成されており、これら配管路15、16には蒸気供給側の配管ST1から分岐された配管ST2、ST3、蒸気排出側の配管ET1、ET2がそれぞれ接続されている。これらの蒸気供給側の配管ST1,ST2、ST3の途中にはバルブV1、V2、V3、配管ST1内の蒸気圧を検出する圧力計P1が配設されており、蒸気排出側の配管ET1、ET2は、バルブV6を介してドレン配管14に接続されている。
【0112】
なお、
図13においては、配管ST1に水蒸気を供給するボイラ装置、また、プレス盤10の固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを上昇/下降させ加圧するための油圧機構を含むプレス昇降装置は省略する。
【0113】
更に、上プレス盤10A及び下プレス盤10B内に形成された配管路15、16に水蒸気に換えて低温の冷却水を通すことによって所望の温度に冷却する冷却水供給側の配管ST11から分岐された配管ST12、ST13が、上記配管ST2、ST3にそれぞれ接続されている。また、冷却水供給側の配管ST11、ST12、ST13の途中にはバルブV11、V12、V13が配設されている。なお、
図13においては、配管ST11に冷却水を供給する冷却水供給装置は省略する。
【0114】
次に、このように構成された圧密化装置MCを用いて、圧密化された圧密積層板PW2を製造する製造工程について
図14の各工程に沿って説明する。まず、
図14(a)において、圧密化装置MCにおける固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aが上昇し、予め所定の条件に乾燥させた圧密化前の積層板PW1を、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで形成される内部空間IS及び位置決め孔18内に載置する。
【0115】
ここで、本第3実施形態において、圧密化前の積層板PW1は、所定の寸法(厚さ・幅・長さ)に形成されたものであり、その上下面を上プレス盤10A及び下プレス盤10Bの各プレス面に対向させ、下プレス盤10Bの位置決め孔18に載置する。
【0116】
次に、
図14(b)において、固定側の下プレス盤10Bの位置決め孔18上に載置した圧密化前の積層板PW1に対して上プレス盤10Aを下降させて圧密化前の積層板PW1の上面に対して垂直方向に当接させる。この状態において、上プレス盤10Aの配管路15及び下プレス盤10Bの配管路16に所定温度(例えば、110℃~180℃)の水蒸気を通して、内部空間IS及び位置決め孔18内を所定温度(例えば、110℃~180℃)に昇温する。この状態においては、内部空間IS及び位置決め孔18で構成される空間は、未だ密閉されていない。
【0117】
次に、固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aの圧締圧力を所定圧力(例えば、1~10MPa)に設定し、圧密化前の積層板PW1を上プレス盤10A及び下プレス盤10Bにて所定時間(例えば、5分~40分)加熱圧縮する。なお、このときの圧締圧力は、割れを防止するために、圧密化前の積層板PW1の温度上昇、即ち、圧密化前の積層板PW1の熱伝導(内部の温度上昇)の状態に応じて徐々に昇温することが望ましく、加熱圧縮の時間も熱伝導に要する時間を考慮して設定することが好ましい。この状態においては、内部空間IS及び位置決め孔18で構成される空間は、未だ密閉されていない。
【0118】
次に、
図14(c)において、上プレス盤10Aの周縁部10aが下プレス盤10Bの周縁部10bに当接すると上プレス盤10Aの周縁部10aに配設されたシール部材11によって、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bにて形成される内部空間IS及び位置決め孔18が密閉状態となる。この状態において、内部空間IS及び位置決め孔18の密閉状態が維持されると共に、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによる圧締圧力が維持された状態で、所定温度(例えば、150~210℃)まで昇温する。
【0119】
なお、本第3実施形態において、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによって形成される内部空間IS及び位置決め孔18がシール部材11を介して密閉状態となったときにおける内部空間IS及び位置決め孔18の上下方向の寸法間隔は、圧密化後の気乾密度の値が予め設定された値になるように厚さ方向の仕上がり寸法(圧縮率)に設定しておく。このため、圧密化前の積層板PW1の厚さ全体の圧縮率、即ち、圧密化前の積層板PW1の圧縮による板厚の変化は、上プレス盤10Aの周縁部10aが下プレス盤10Bの周縁部10bに当接することで決まることとなる。
【0120】
この状態において、
図14(c)に示す内部空間IS及び位置決め孔18の密閉状態で、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bの圧締圧力が維持され、且つ、内部空間IS及び位置決め孔18が所定温度(例えば、150~210℃)に維持されたまま、所定時間(例えば、30分~120分)保持され、この後の冷却圧縮を解除したときに、戻り(膨張)のない圧密積層板PW2を形成するための加熱処理が行われる。このとき、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bで密閉状態とされている内部空間IS及び位置決め孔18を介して、圧密化前の積層板PW1の周囲面とその内部とでは高温高圧の蒸気圧が出入り
自在となっている。
【0121】
なお、このように、本第3実施形態においては、圧密化前の積層板PW1の表裏面に上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが面接触し、密閉状態の内部空間IS及び位置決め孔18に保持されるため、圧密化前の積層板PW1は、厚さ全体が十分に加熱され、効率よく圧縮変形されることになる。
【0122】
次に、
図14(d)において、内部空間IS及び位置決め孔18の密閉状態で加熱圧縮処理が行われているときに、蒸気圧制御処理として圧力計P2で内部空間IS及び位置決め孔18の蒸気圧が検出され、バルブV5が適宜、開閉される。これにより、配管口13a、配管13を通って内部空間IS及び位置決め孔18からドレン配管14側に高温高圧の水蒸気が排出されることで、特に、圧密化前の積層板PW1の外層部分の含水率に基づく余分な内部空間IS及び位置決め孔18内の水分が除去され、内部空間IS及び位置決め孔18内が所定の蒸気圧となるように調節される。
【0123】
また、必要に応じて、バルブV4に接続された配管12、配管口12a(
図13)を介して内部空間ISに所定の蒸気圧を供給することができる。これらにより、圧密積層板の加熱圧縮処理の定着、所謂、圧密積層板の固定化がより促進されることとなる。
【0124】
更に、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bによる加熱圧縮から冷却圧縮へと移行する直前に、蒸気圧制御処理としてバルブV5が開状態とされることで配管口13a、配管13を通って内部空間IS及び位置決め孔18からドレン配管14側に高温高圧の水蒸気が排出される。
【0125】
次に、
図14(e)において、上プレス盤10Aの配管路15及び下プレス盤10Bの配管路16に常温の冷却水が通されることによって、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが常温前後まで冷却され、材料によって異なる所定時間(例えば、10分~120分)保持される。なお、このときの固定側の下プレス盤10Bに対する上プレス盤10Aの圧締圧力は、加熱圧縮の際の圧力と同じ所定圧力(例えば、1~10MPa)に保持されたまま、上プレス盤10A及び下プレス盤10Bが冷却される。
【0126】
最後に、
図14(f)において、固定側の下プレス盤10Bに対して上プレス盤10Aを上昇させ、内部空間IS及び位置決め孔18から仕上がり品である圧密積層板PW2が取出されることで一連の処理工程が終了する。
【0127】
上述のようにして製造した圧密積層板PW2は、圧密化後の気乾密度の値が約1.0g/cm3であった。なお、本第3実施形態においては、圧密化による成形を行ったが、圧密化の程度を変化させ、或いは、圧密化することなく、成形後の気乾密度の値が0.3~1.5g/cm3の範囲内とすることが好ましい。成形後の気乾密度の値が0.3~1.5g/cm3の範囲内にあれば、圧密積層板PW2の剛性(曲げヤング係数)などの物性が良好なものとなる。
【0128】
第4実施形態:
本第4実施形態においては、本発明に係る木質系材料として、無配向の維管束を構造材とする圧密板を製造する。以下、その製造方法を説明する。本第4実施形態に係る圧密板の製造方法は、上記第1実施形態と同様に分離工程と付与工程と結合工程とからなる。以下、各工程について説明する。
【0129】
1.分離工程
本第4実施形態においても、上記第1実施形態と同様にゼファー化装置を使用した。ま
た、ゼファー化装置に投入するオイルパームの板片として上記第1実施形態と同様のロータリーレースによる単板を使用した。なお、本第4実施形態においては、上記第1実施形態で得られた長尺の維管束を所定の長さに切断して構造材とした。長尺の維管束を使用することにより、構造材の長さを任意に調整することができると共に、長さの異なる維管束を組み合わせて構造材の物性の向上を図ることもできる。本第4実施形態においては、上記第1実施形態で得られた長尺の維管束を5mm~8mmの長さに切断して使用した。
【0130】
2.付与工程
本第4実施形態においても、上記第1実施形態と同様に維管束に含浸する樹脂材料として、数平均分子量が400以下の低分子量フェノール樹脂(充填型樹脂)を使用した。また、維管束へのフェノール樹脂の付与方法及び付与量も上記第1実施形態と同様にした。よって、ここでは詳細を省略する。
【0131】
次に、フェノール樹脂を含浸した維管束から構造材を作製する。本第4実施形態においては、構造材は積層板ではなく厚みのある1層の板状体として成形した。この成形前の板状体の内部には、短いが長さが均一の維管束が無配向に存在している。
【0132】
3.結合工程
次に、準備した成形前の板状体の各維管束の結合を行う。本第4実施形態においても、上記第3実施形態と同様の圧密化装置(
図13及び14参照)を使用した。圧密化装置の構造及び操作は、上記第3実施形態と同様にして行った。
【0133】
このようにして製造した圧密板は、圧密化後の気乾密度の値が約1.2g/cm3 であった。なお、本第4実施形態においては、圧密化による成形を行ったが、圧密化の程度を変化させ、或いは、圧密化することなく、成形後の気乾密度の値が0.3~1.5g/cm3の範囲内とすることが好ましい。成形後の気乾密度の値が0.3~1.5g/cm3の範囲内にあれば、圧密積層板PW2の剛性(曲げヤング係数)などの物性が良好なものとなる。
【0134】
第5実施形態:
本第5実施形態においては、上記第1~第4実施形態と同様に、オイルパーム幹材を分離して、その維管束を木質系材料の構成要素として利用するものである。本第5実施形態に係る積層板の製造方法は、分離工程と付与工程と結合工程とからなる。但し、本第5実施形態においては、上記第1~第4実施形態と異なり、分離工程においてオイルパーム幹材を維管束と柔細胞とに分離する分離手段が異なっている。以下、各工程に従って説明する。
【0135】
1.分離工程
本第5実施形態においては、分離手段として粉砕装置の一種であるハンマークラッシャーを用いて、気乾状態及び飽水状態(生材状態を想定)のオイルパーム幹材を粉砕等して維管束と柔細胞とに分離した。
図15は、本第5実施形態において使用するオイルパーム単板、ハンマークラッシャー及び粉砕物を示す写真である。分離前のオイルパーム単板は、オイルパーム幹材をロータリーレースで単板にした気乾状態の単板を100g使用した。分離装置は、ハンマークラッシャーNH-50S(株式会社三庄インダストリー製)、200V、3.7kW、外筒の内径290mmをハンマーの回転数3,450rpmで使用した。
図3の粉砕物は、維管束と柔細胞との混合物であって、ハンマークラッシャーの粉砕物放出口に取り付けた多孔篩(孔径15mm)を通過したものである。
【0136】
図16は、本第5実施形態において気乾状態のオイルパーム幹材を各条件で粉砕した粉砕物を示す写真である。一方、
図17は、本第5実施形態において生材状態を想定して、
気乾状態のオイルパーム材に水を含浸して飽水状態にした幹材を各条件で粉砕した粉砕物を示す写真である。
図16及び
図17においては、ハンマークラッシャーで1回~3回処理した場合の粉砕物の状態を示している。また、ハンマークラッシャーの粉砕物放出口に多孔篩(孔径15mm又は7mm)を取り付けた場合と取付けなかった場合の粉砕物の状態を示している。各条件において、維管束の軸径及び軸長が変化していることが分かる。
【0137】
表8に、気乾状態のオイルパーム単板を各条件で粉砕した粉砕物の収量、及び維管束と柔細胞との質量比を示す。なお、粉砕回数2回とは、粉砕回数1回の粉砕物(多孔篩を通過したもの)を再度ハンマークラッシャーで粉砕したものである。同様に、粉砕回数3回とは、粉砕回数2回の粉砕物(多孔篩を通過したもの)を再度ハンマークラッシャーで粉砕したものである。
【0138】
【0139】
表8から分かるように、粉砕回数が多くなるにしたがって、維管束の質量比が低下し柔細胞の質量比が増加している。また、多孔篩の孔径が小さくなれば、柔細胞の質量比が増加している。なお、上述のように、オイルパーム幹材の木質部の約50~60質量%が柔細胞であるといわれている。従って、本第5実施形態で粉砕された維管束には、未だ相当の柔細胞が残存保持されており、柔細胞が多く残存保持された維管束と、脱離した柔細胞とに分離されていることが分かる。
【0140】
次に、上述のようにして分離した粉砕物(維管束と柔細胞との混合物)から維管束を取り出し、これを構成要素として利用する圧密化された木質系材料の製造について説明する。
図18は、本第5実施形態において粉砕後の粉砕物を維管束と柔細胞とに篩分した状態を示す写真である。
図18においては、粉砕回数1回で孔径15mmの多孔篩を通過した粉砕物を目開き750μmの篩分器で篩い分けた後の維管束と柔細胞とを示している。本第5実施形態においては、
図18に示す維管束を使用した。
【0141】
2.付与工程
本第5実施形態においても、上記第1、第3~第5実施形態と同様に維管束に含浸する樹脂材料として、数平均分子量が400以下の低分子量フェノール樹脂(充填型樹脂)を使用した。また、維管束へのフェノール樹脂の付与方法及び付与量も上記第1実施形態と同様にした。よって、ここでは詳細を省略する。
【0142】
次に、フェノール樹脂を含浸した維管束から構造材を作製する。本第5実施形態におい
ては、上記第4実施形態と同様に構造材は積層板ではなく厚みのある1層の板状体として成形した。この成形前の板状体の内部には、短いが長さが均一の維管束が無配向に存在している。
【0143】
3.結合工程
次に、準備した成形前の板状体の各維管束の結合を行う。本第5実施形態においても、上記第3~第5実施形態と同様の圧密化装置(
図13及び14参照)を使用した。圧密化装置の構造及び操作は、上記第3実施形態と同様にして行った。
【0144】
このようにして製造した圧密板は、圧密化後の気乾密度の値が約1.0g/cm3であった。なお、本第5実施形態においては、圧密化による成形を行ったが、圧密化の程度を変化させ、或いは、圧密化することなく、成形後の気乾密度の値が0.3~1.5g/cm3の範囲内とすることが好ましい。成形後の気乾密度の値が0.3~1.5g/cm3の範囲内にあれば、圧密積層板PW2の剛性(曲げヤング係数)などの物性が良好なものとなる。
【0145】
参考例1:
参考例1は、オイルパーム幹材を分離して、その柔細胞を家畜用飼料として利用するものである。上述のように、オイルパーム幹材には、約10%の遊離糖(主にショ糖、グルコース、フルクトースなど)や約25%のデンプンが含有されている。また、柔細胞は、デンプンなどを貯蔵する部分であり、リグノセルロースを主成分とする維管束と異なり、オイルパーム幹材に含まれるデンプンや遊離糖の大部分は、柔細胞に含まれるものと考えられる。
【0146】
本参考例1においては、これらの栄養価の高い柔細胞を家畜用飼料或いは家畜用飼料の配合物として利用する。なお、本参考例1においては、上記第1実施形態においてゼファー化装置で分離した柔細胞を使用した。ゼファー化装置で分離したことにより、分離後の柔細胞には維管束の断片の混入が少なく、家畜用飼料として適切であった。
【0147】
また、ゼファー化装置の分離操作を制御して、使用する用途に合わせて維管束の断片である繊維質の混合比率をコントロールするようにしてもよい。更に、上記第4実施形態においてハンマークラッシャーで分離した粉砕物を任意の目開きの篩分器(例えば、750μm)で篩い分けた後の柔細胞を使用するようにしてもよい。
【0148】
オイルパーム幹材から分離した柔細胞は、そのままの状態で栄養価値も高く畜産専門家から高い評価を受けている。なお、オイルパーム幹材から分離した柔細胞は、そのままの状態で使用するのみではなく、発酵飼料としてサイレージの材料などにも利用することができる。このように、上記第1実施形態で使用した維管束を除く残渣である柔細胞を家畜用飼料として使用することにより、新たな産業廃棄物を生み出すことのないヤシ材の利用方法を提供することができる。
【0149】
参考例2:
本参考例2は、オイルパーム幹材を分離して、その柔細胞をバイオエタノールの原料として利用するものである。上述のように、オイルパーム幹材には、約10%の遊離糖(主にショ糖、グルコース、フルクトースなど)や約25%のデンプンが含有されている。また、柔細胞は、デンプンなどを貯蔵する部分であり、リグノセルロースを主成分とする維管束と異なり、オイルパーム幹材に含まれるデンプンや遊離糖の大部分は、柔細胞に含まれるものと考えられる。
【0150】
本参考例2においては、これらの単糖類や多糖類(デンプンや遊離糖)を多く含む柔細胞をバイオエタノール原料として利用することができる。特に、糖化が難しいセルロースの含有比率が非常に低く、糖化が容易なデンプンの含有比率が非常に高い。このことから、オイルパーム幹材から分離した柔細胞は、高純度のバイオエタノール原料として利用できる。なお、本参考例2においても、上記参考例1と同様に上記第1実施形態においてゼファー化装置で分離した柔細胞を使用した。なお、この場合にも上記第4実施形態においてハンマークラッシャーで分離した粉砕物を任意の目開きの篩分器(例えば、750μm)で篩い分けた後の柔細胞を使用するようにしてもよい。
【0151】
これらの単糖類や多糖類からエタノールを製造する方法については、既存の酵素を利用した方法を採用することができる。例えば、上記特許文献1の方法を利用することができる。この方法は、デンプン分解酵素のアミラーゼなどを利用するものであり、デンプン含有比率の高い柔細胞には適する方法の一つである。なお、柔細胞からエタノールを製造する方法については、ここでは省略する。このように、上記第1実施形態で使用した維管束を除く残渣である柔細胞をバイオエタノール原料として使用することにより、新たな産業廃棄物を生み出すことのないヤシ材の利用方法を提供することができる。
【0152】
参考例3:
本参考例3は、オイルパーム幹材を分離して、その柔細胞をキノコの菌床栽培に使用する培地として利用するものである。
【0153】
一般に、キノコの菌床栽培に使用する菌床は、オガクズなどの木質基材に米糠などの栄養源を混ぜた人工の培地であって、ヒラタケ、エノキタケ、マイタケ、その他のキノコに広く使用されており、収穫量を安定させ年間を通じ流通させることが可能である。
【0154】
上述のように、オイルパーム幹材には、約10%の遊離糖(主にショ糖、グルコース、フルクトースなど)や約25%のデンプンが含有されている。また、柔細胞は、デンプンなどを貯蔵する部分であり、オイルパーム幹材に含まれるデンプンや遊離糖の大部分は、柔細胞に含まれるものと考えられる。
【0155】
本参考例3においては、これらの栄養価の高い柔細胞をキノコの菌床栽培に使用する培地或いは培地の配合物として利用する。なお、本参考例3においては、上記第1実施形態においてゼファー化装置で分離した柔細胞を使用した。ゼファー化装置で分離したことにより、分離後の柔細胞には維管束の断片の混入が少なく、菌床栽培に使用する培地として適切である。
【0156】
また、ゼファー化装置の分離操作を制御して、使用する用途に合わせて維管束の断片である繊維質の混合比率をコントロールするようにしてもよい。更に、上記第4実施形態においてハンマークラッシャーで分離した粉砕物を任意の目開きの篩分器(例えば、750μm)で篩い分けた後の柔細胞を使用するようにしてもよい。
【0157】
オイルパーム幹材から分離した柔細胞は、そのままの状態で栄養価値も高くキノコ栽培の専門家から高い期待を寄せられている。このように、上記第1実施形態で使用した維管束を除く残渣である柔細胞をキノコの菌床栽培に使用する培地として使用することにより、新たな産業廃棄物を生み出すことのないヤシ材の利用方法を提供することができる。
【0158】
上記参考例のヤシ材の利用方法は、
ヤシ材を粉砕、圧搾、爆砕、水流高圧噴射等の手段を用いて維管束と柔細胞とに分離し、
分離された維管束と柔細胞とをそれぞれ工業用材料、又は、農林水産用資源として有効利用することを特徴とする。
【0159】
また、上記参考例のヤシ材の利用方法は、
ヤシ材を維管束と柔細胞とに分離する方法において、
円筒の表面に円周方向に沿って平行して設けられた、山部と谷部とからなるV字状又は凹凸状の複数の溝を有する2本の金属ロールを具備する圧搾装置を使用し、
これらの金属ロールが互いの円筒軸方向を平行にして、互いの山部と谷部とが咬合した状態で逆方向に回転し、
ヤシ材の板片を咬合して回転する2本の金属ロールの間に、その維管束の長さ方向を咬合する複数の溝に平行、又は交差するように挿入することにより、
維管束と柔細胞とに効率よく分離することを特徴とする。
【0160】
また、上記参考例のヤシ材の利用方法は、
ヤシ材を維管束と柔細胞とに分離する方法において、
粉砕装置を使用する粉砕操作と、粉砕操作後の粉砕物を篩分器により維管束と柔細胞とに分離する篩分操作とからなり、
粉砕操作において、粉砕装置の放出口に設けた多孔篩の目開きと、篩分操作に使用する篩分器の目開きとを変化させることにより、
分離した維管束の軸径及び軸長、並びに、当該維管束に残留する柔細胞の比率を変化させることを特徴とする。
【0161】
また、上記参考例のヤシ材の利用方法は、
多孔篩の目開きは、孔径5mm~20mmであって、
多孔篩を通過した維管束及び柔細胞を利用することを特徴とする。
【0162】
また、上記参考例のヤシ材の利用方法は、
ヤシ材を伐採後、含水率15質量%以下に乾燥した後に、維管束と柔細胞とに分離
することを特徴とする。
【0163】
また、上記参考例のヤシ材の利用方法は、
ヤシ材を伐採後、乾燥することなく維管束と柔細胞とに分離することを特徴とする。
【0164】
また、上記参考例のヤシ材の利用方法は、
分離した柔細胞を使用し、柔細胞を家畜用飼料として利用することを特徴とする。
【0165】
また、上記参考例のヤシ材の利用方法は、
分離した柔細胞を使用し、柔細胞をバイオエタノールの原料として利用することを特徴とする。
【0166】
また、上記参考例のヤシ材の利用方法は、
分離した柔細胞を使用し、
柔細胞をキノコの菌床栽培に使用する培地として利用することを特徴とする。
【0167】
上記参考例のヤシ材の利用方法は、まず、ヤシ材を維管束と柔細胞とに分離する。分離の方法は、粉砕、圧搾、爆砕、水流高圧噴射等の手段を用いることができる。分離した各部分のうち維管束は、木質系材料の構造材などの工業用材料として有効利用することができる。一方、柔細胞は、バイオエタノール原料などの工業用材料や、家畜用飼料、キノコの菌床栽培の培地などの農林水産用資源として有効利用することができる。このことにより、これまで利用されることなく放置されていたヤシ材を有効に利用できると共に、新たな産業廃棄物を生み出すことがない。
【0168】
また、ヤシ材を維管束と柔細胞とに分離する方法において、2本の金属ロールを具備する圧搾装置を使用するようにしてもよい。この2本の金属ロールには、それぞれ円筒の表面に円周方向に沿って平行して設けられた複数の溝がある。これらの溝は、山部と谷部とからなるV字状又は凹凸状の形状を有している。また、これらの金属ロールは、互いの円筒軸方向を平行にして、互いの山部と谷部とが咬合した状態で逆方向に回転する。
【0169】
このような状態において、ヤシ材の板片を咬合して回転する2本の金属ロールの間に挿入する。なお、ヤシ材の板片は、その維管束の長さ方向を咬合する複数の溝に平行、又は交差するように挿入する。このことにより、主として維管束と柔細胞とからなるヤシ材は、維管束と柔細胞とに明瞭に分離される。このことにより、金属ロールの山部と谷部の形状とピッチ並びに2本の金属ロールの間隔及び回転数を制御することにより、維管束と柔細胞との分離比率及び維管束に残留する柔細胞の比率を調整することができる。
【0170】
また、ヤシ材を維管束と柔細胞とに分離する方法において、粉砕装置を使用する粉砕操作と、当該粉砕操作後の粉砕物を篩分器により維管束と柔細胞とに分離する篩分操作とを組み合わせるようにしてもよい。このことにより、粉砕装置の放出口に設けた多孔篩の目開きと、篩分操作に使用する篩分器の目開きとを変化させて、分離した維管束の軸径及び軸長、並びに、当該維管束に残留する柔細胞の比率を変化させることができる。
【0171】
また、粉砕装置の放出口に設けた多孔篩の目開きは、孔径5mm~20mmとするようにしてもよい。このことにより、維管束と柔細胞との分離比率及び維管束に残留する柔細胞の比率を調整することができる。
【0172】
また、ヤシ材を維管束と柔細胞とに分離する際には、ヤシ材を伐採後、含水率15質量%以下に乾燥した後に分離するようにしてもよく、或いは、ヤシ材を伐採後、乾燥することなく分離するようにしてもよい。このように、分離する前のヤシ材の水分率を適宜変化させることによって、維管束と柔細胞との分離比率及び維管束に残留する柔細胞の比率を調整することができるので、分離された維管束と柔細胞とのより広い利用を図ることができる。
【0173】
以上のことから、本発明によれば、これまで利用されることなく放置されていたオイルパーム材などのヤシ材を維管束と柔細胞とに効率よく分離し、その維管束と柔細胞とをそれぞれ有効に利用するヤシ材の利用方法を提供することができる。また、本発明によれば、分離した維管束を利用して従来の木材と同様又はそれ以上の物性を有して実用的に建材などの用途に利用可能な木質系材料及びその製造方法を提供することができる。
【0174】
なお、本発明の実施にあたり、上記各実施形態に限らず次のような種々の変形例が挙げられる。
(1)上記各実施形態においては、オイルパーム材を使用して説明するものであるが、これに限るものではなく、ココヤシなど他のヤシ材を使用するようにしてもよい。
(2)上記各実施形態においては、分離工程の分離手段としてゼファー化装置、又は、ハンマークラッシャーを使用するが、これらに限るものではなく、他の分離手段を使用するようにしてもよい。他の分離手段としては、ハンマーミル、スパイラルミル、振動ボールミル、震動ロッドミル、ウィーリーミル、チッパー、シュレッダー、水蒸気爆砕装置、高圧噴射装置などを挙げることができる。
(3)上記各実施形態においては、木質系材料の製造に使用する樹脂材料として、低分子量フェノール樹脂(充填型樹脂)、又は、イソシアネート架橋剤を使用するが、これに限るものではなく、維管束どうしを接着して結合する材料、維管束どうしの間に充填してこれら結合する材料、或いは、維管束の内部に一部浸透して維管束を構成するセルロースその他の物質と反応してこれらを結合する材料などを含む広い意味の樹脂材料を使用してもよい。
(4)上記第1~第3実施形態においては、3層又は5層のマットを積層して積層板又は圧密積層板を製造するものであるが、これに限るものではなく、2層、4層、或いは6層以上を積層するようにしてもよい。
(5)上記第1~第3実施形態においては、維管束を配向させたマットのみを積層して積層板又は圧密積層板を製造するものであるが、これに限るものではなく、表面の化粧板として他の木材板を積層するようにしてもよい。
(6)上記第3~第5実施形態においては、圧密化に特殊な圧密化装置を使用するが、これに限るものではなく、通常のホットプレス機を使用するようにしてもよい。
(7)上記各実施形態においては、オイルパーム材から分離した維管束を木質系材料の構造材として利用するが、これに限るものではなく、維管束を木粉・プラスチック複合材(混練型WPC)の充填材として使用するようにしてもよい。
(8)上記第4実施形態においては、粉砕回数1回で孔径15mmの多孔篩を通過した粉砕物を目開き750μmの篩分器で篩い分けた後の維管束を使用した。しかし、これに限るものではなく、粉砕回数と多孔篩の孔径、及び篩分器の目開きを適宜選定することにより、目的に合わせた大きさの材料を使用するようにしてもよい。
(9)上記第1~第5実施形態においては、オイルパーム材から分離した維管束を木質系材料の構造材として利用するが、これに限るものではなく、維管束をその他の工業用材料や農林水産用資源として使用するようにしてもよい。
(10)上記第1~第3参考例においては、オイルパーム材から分離した柔細胞を家畜用飼料、バイオエタノールの原料、及び、キノコの菌床として利用するが、これに限るものではなく、柔細胞をその他の工業用材料や農林水産用資源として使用するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0175】
W1~W5…マット、PW1…圧密化前の積層板、PW2…圧密積層板、
MC…圧密化装置、10…プレス盤、10A…上プレス盤、10B…下プレス盤、
IS…内部空間、18…位置決め孔。