(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】電気刺激装置
(51)【国際特許分類】
A61N 1/36 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
A61N1/36
(21)【出願番号】P 2018169446
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-09-02
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】516043742
【氏名又は名称】エーアイシルク株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100131026
【氏名又は名称】藤木 博
(74)【代理人】
【識別番号】100194124
【氏名又は名称】吉川 まゆみ
(72)【発明者】
【氏名】岡野 秀生
(72)【発明者】
【氏名】目黒 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】田川 武弘
(72)【発明者】
【氏名】草野 拳
【合議体】
【審判長】佐々木 正章
【審判官】近藤 利充
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-38514(JP,A)
【文献】特開2015-37696(JP,A)
【文献】特開2003-19216(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4つ以上の電極を有する電極群と、
この電極群のうち1つの電極を第1極性、残りの電極を第2極性とし、第1極性とする電極を順番に切り替えて前記電極群にエネルギーを与える駆動手段と
、
前記電極群が所定の位置に配置された衣類と
を備え、
前記各電極は、繊維よりなる基材に導電性高分子が付着された導電体により構成され、
前記電極群は、少なくとも、右側腹直筋に対応して配置される第1電極と、左側腹直筋に対応して配置される第2電極と、右側腹斜筋に対応して配置される第3電極と、左側腹斜筋に対応して配置される第4電極とを有し、
前記駆動手段は、第1極性とする電極を第1電極、第4電極、第2電極、第3電極の順に切り替える
ことを特徴とする電気刺激装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3つ以上の電極を有する電極群を用いて身体に電気的刺激を与える電気刺激装置及び電気刺激方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、身体の所定位置に電極を接触させて身体に電気的刺激を与え、筋肉のトレーニング等を行う電気刺激装置が知られている。このような電気刺激装置としては、例えば、特定の対となる電極にエネルギーを与え、それらの電極間に電気的刺激を与えるものがある。例えば、特許文献1には、患者の身体の腰下部に適用される第1の電極と、患者の身体の対向する脇腹に各々適用される第2及び第3の電極と、第2電極と第3電極との間に流れる筋肉刺激電流パルスの第1群と、第1の電極と第2及び第3の電極との間に流れる筋肉刺激電流パルスの第2群とを与えるように、電極にエネルギーを与えるために準備された駆動回路とを含む装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の装置では、第2電極と第3電極との間に流れる筋肉刺激電流パルスと、第1の電極と第2及び第3の電極との間に流れる筋肉刺激電流パルスとを与えるように電極にエネルギーを与えているので、電気的刺激を与える方向の広がりが小さく、広い範囲に電気的刺激を与えることが難しいという問題があった。広い範囲に電気的刺激を与える方法としては、電極を大きくすることが考えられるが、電極を大きくすると、広い面積に連続して電気的刺激が与えられるので、弛緩動作が不十分となり、筋肉疲労や、利用者が不快な感覚を受けてしまう場合があるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、広い範囲に電気的刺激を与えることができる電気刺激装置及び電気刺激方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の電気刺激装置は、3つ以上の電極を有する電極群と、この電極群のうち1つの電極を第1極性、残りの電極を第2極性とし、第1極性とする電極を順番に切り替えて電極群にエネルギーを与える駆動手段とを備えたものである。
【0007】
本発明の電気刺激方法は、3つ以上の電極を有する電極群を用いて身体に電気的刺激を与えるものであって、電極群のうち1つの電極を第1極性、残りの電極を第2極性とし、第1極性とする電極を順番に切り替えて電極群にエネルギーを与えるものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電極群のうち1つの電極を第1極性、残りの電極を第2極性とし、電極群において第1極性とする電極を順番に切り替えるようにしたので、第1極性とされた1つの電極と、第2極性とされた他の電極との間に、複数の方向に広がりを持って電気刺激を与えることができる。よって、第1極性の電極を順番に切り替えることにより、電極群を配置した範囲全体に電気刺激を与えることができる。また、同一の箇所に連続して電気刺激が与えられることを抑制することができ、弛緩動作を可能とすることができる。従って、早期の筋肉疲労や、利用者が不快な感覚を受けることを抑制することができる。
【0009】
また、少なくとも、第1電極を右側腹直筋に対応して配置し、第2電極を左側腹直筋に対応して配置し、第3電極を右側腹斜筋に対応して配置し、第4電極を左側腹斜筋に対応して配置し、第1電極と第2電極とが連続して第1極性とならないように第1極性とする電極を順番に切り替えるようにすれば、近くに配置される第1電極と第2電極との近傍の筋肉に連続して電気的刺激が与えられて弛緩動作が不十分となることを抑制することができる。よって、電極群を配置した範囲全体において、より効果的に弛緩動作を可能とすることができ、早期の筋肉疲労や、利用者が不快な感覚を受けることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る電気刺激装置の構成を表す図である。
【
図2】
図1に示した駆動手段の回路構成を表す図である。
【
図3】
図1に示した駆動手段により電極群にエネルギーを与える際の第1電極の順番を表す図である。
【
図4】本発明の第2の実施の形態に係る電気刺激装置の構成を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る電気刺激装置1の構成を表すものである。
図2は、電気刺激装置1の回路構成を表すものである。この電気刺激装置1は、例えば、利用者に電気的刺激を与えるものであり、4つ以上の電極を有する電極群10と、この電極群10にエネルギーを与える駆動手段20と、電極群10が所定の位置に配置された衣類30と、駆動手段20を制御する制御手段40とを備えている。
【0013】
電極群10は、例えば、利用者の身体に接触して所定の位置に配置される。本実施の形態では、電極群10は、胴体、具体的には腹部に配置され、少なくとも、右側腹直筋に対応して配置される第1電極11と、左側腹直筋に対応して配置される第2電極12と、右側腹斜筋に対応して配置される第3電極13と、左側腹斜筋に対応して配置される第4電極14とを有している。
【0014】
駆動手段20は、電極群10のうち1つの電極を第1極性、残りの電極を第2極性とし、第1極性とする電極を順番に切り替えて電極群10にエネルギーを与えるように構成されている。これにより、第1極性とされた1つの電極から第2極性とされた他の複数の電極の方向に広がりを持って電気刺激を与えることができると共に、同一の箇所に連続して電気刺激が与えられることを抑制し、弛緩動作を可能とすることができるようになっている。なお、第1極性と第2極性は異なる極性であり、例えば、第1極性は正極、第2極性は負極、又は、第1極性は負極、第2極性は正極である。
【0015】
また、駆動手段20は、第1極性とする電極の切り替えにおいて、第1電極11と第2電極12とが連続して第1極性とならない順番とするように構成されていることが好ましい。腹直筋に対応して配置される第1電極11と第2電極12とは物理的に近い位置にあるので、連続して第1極性とすると、第1電極11及び第2電極12の近傍の筋肉は短い間隔で連続して電気的刺激を受けることになり、弛緩動作が不十分となり、早期の筋肉疲労や、利用者が不快な感覚を受けてしまうからである。これに対して、腹斜筋に対応して配置される第3電極13及び第4電極14は物理的に離れた位置関係になり、また、第1電極11及び第2電極12との距離も離れているので、このような問題がない。
【0016】
例えば、駆動手段20は、
図3に示したように、第1極性とする電極を第1電極11、第4電極14、第2電極12、第3電極13の順に繰り返して切り替えるように構成されていることが好ましい。なお、
図3では、第1極性とする電極を網掛けで表し、第2極性とする電極を梨地で表している。
【0017】
駆動手段20は、例えば、衣類30に対して配設されている。駆動手段20の回路構成としては、例えば、図示しない電源に接続され、高圧の直流電圧を生成する高圧生成回路21と、この高圧生成回路21に接続され、波形を整形する高圧整形回路22と、この高圧整形回路22及び電極群10の各電極に接続され、電極群10の各電極に刺激波形を出力する刺激波形出力回路23とを有している。
【0018】
高圧生成回路21は、生成する電圧値が一定に定められていてもよいが、制御手段40により、生成する電圧値を変更できるように構成されていることが好ましい。高圧整形回路22は、整形後の波形が一定に定められていてもよいが、制御手段40により、波形を変更できるように構成されていることが好ましい。刺激波形出力回路23は、例えば、電極群10のうち1つの電極を第1極性、残りの電極を第2極性とし、第1極性とする電極を順番に切り替えて各電極間に電圧を印加するように構成されており、第1電極とする電極を切り替える順番は、例えば、上述したように設定されている。
【0019】
駆動手段20は、また、例えば、電極群10の各電極が利用者の身体から離れたことを検出する電極剥離検知手段24を有していることが好ましい。電極剥離検知手段24は、例えば、電極群10の各電極及び制御手段40と接続されており、電極の剥離を検出すると、制御手段40に剥離信号を出力するように構成されている。
【0020】
衣類30は、身に着けるものであればどのようなものでもよい。例えば、
図1に示したようなランニングシャツやTシャツのように胴体を覆うものでもよいが、腹部に巻き付ける帯状またはベルト状とされていてもよい。なお、
図1では袖なしのものを示したが、袖を有していてもよく、また、上半身のみでなく、下半身を覆う部分を有していてもよい。また、衣類30は、伸縮性を有する材料により構成されることが好ましい。電極群10を身体に密着させることができるからである。
【0021】
制御手段40は、例えば、衣類30に配設されずに、手元に置いて制御できるように構成されている。制御手段40と駆動手段20とは、有線により接続されていてもよく、無線により接続されていてもよい。制御手段40には、また、例えば、駆動手段20に駆動及び停止を指示するスイッチが設けられていることが好ましい。
【0022】
なお、電極群10の各電極は、例えば、基材に導電性高分子が付着された導電体により構成することができる。基材を構成する材料はどのようなものでもよいが、繊維が好ましく、例えば、シルク及び木綿等の天然繊維、及び、合成繊維等の化学繊維からなるうちの少なくとも1種を含むものが好ましい。導電性高分子としては、例えば、ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)が好ましく挙げられる。導電体は、例えば、基材に付着させた導電性高分子の単量体を酸化剤により重合させることにより得ることができる。その際、導電性高分子の単量体と共に、導電性高分子に導電性を発現させるためのドーパント、又は、増粘剤を基材に付着させてもよい。
【0023】
酸化剤としては、例えば、鉄塩が好ましく挙げられる。ドーパントとしては、例えば、p-トルエンスルホン酸が好ましく挙げられ、p-トルエンスルホン酸の鉄塩(pTS)を用いるようにすれば、酸化剤及びドーパントとして機能させることができるのでより好ましい。ドーパントとしては、他にも、アセトニトリルやトリフルオロ酢酸などが挙げられる。増粘剤は、導電性高分子のにじみを小さくすると共に、単量体の重合反応を促進させるためのものである。増粘剤としては、導電性高分子の重合反応に反応しないものが好ましく、例えば、グルセロール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、又は、多糖類が好ましく挙げられる。
【0024】
電極群10の各電極は、例えば、衣類30を構成する繊維を基材とし、導電性高分子を印刷等により付着させて、衣類30に直接形成してもよく、また、衣類30とは別に用意した基材に導電性高分子を付着させて形成した導電体を衣類30に貼り付けたり縫い付けたりすることにより配設するようにしてもよい。電極群10の各電極と駆動手段20とを接続する導線15についても、電極群10と同様に構成することができる。
【0025】
この電気刺激装置1は、次のようにして用いられる。まず、利用者は衣類30を身に着けることにより、電極群10の各電極を身体の所定の位置に配置する。次いで、制御手段40により駆動手段20に駆動を指示する。駆動手段20では、例えば、電極群10のうち1つの電極を第1極性、残りの電極を第2極性とし、第1極性とする電極を順番に切り替えて電極群10にエネルギーを与える。これにより、第1極性とされた1つの電極から第2極性とされた他の複数の電極の方向に広がりを持って電気刺激が与えられる。
【0026】
また、第1電極とする電極を切り替える順番は、例えば、第1電極11と第2電極12とが連続して第1極性とならないようにし、具体的には、第1電極11、第4電極14、第2電極12、第3電極13の順に切り替えることが好ましい(
図3参照)。これにより、物理的に近い位置にある第1電極11と第2電極12との近傍にある筋肉に短い間隔で連続して電気的刺激が与えられることがなく、弛緩動作を十分に行うことができる。
【0027】
このように本実施の形態によれば、電極群10のうち1つの電極を第1極性、残りの電極を第2極性とし、電極群10において第1極性とする電極を順番に切り替えるようにしたので、第1極性とされた1つの電極と、第2極性とされた他の電極との間に、複数の方向に広がりを持って電気刺激を与えることができる。よって、第1極性の電極を順番に切り替えることにより、電極群10を配置した範囲全体に電気刺激を与えることができる。また、同一の箇所に連続して電気刺激が与えられることを抑制することができ、弛緩動作を可能とすることができる。従って、早期の筋肉疲労や、利用者が不快な感覚を受けることを抑制することができる。
【0028】
また、少なくとも、第1電極11を右側腹直筋に対応して配置し、第2電極12を左側腹直筋に対応して配置し、第3電極13を右側腹斜筋に対応して配置し、第4電極14を左側腹斜筋に対応して配置し、第1電極11と第2電極12とが連続して第1極性とならないように第1極性とする電極を順番に切り替えるようにすれば、近くに配置される第1電極11と第2電極12との近傍の筋肉に連続して電気的刺激が与えられて弛緩動作が不十分となることを抑制することができる。よって、電極群を配置した範囲全体において、より効果的に弛緩動作を可能とすることができ、早期の筋肉疲労や、利用者が不快な感覚を受けることを抑制することができる。
【0029】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る電気刺激装置2の構成を表すものである。この電気刺激装置2は、電極群210が3つの電極を有するものである。電極群210は、例えば、利用者の身体に接触して所定の位置に配置される。本実施の形態では、胴体、具体的には腹部に配置され、電極群210は、腹直筋に対応して配置される第1電極211と、右側腹斜筋に対応して配置される第2電極212と、左側腹斜筋に対応して配置される第3電極213とを有している。
【0030】
駆動手段220は、第1の実施の形態と同様に、電極群210のうち1つの電極を第1極性、残りの電極を第2極性とし、第1極性とする電極を順番に切り替えて電極群210にエネルギーを与えるように構成されている。第1極性とする電極の切り替える順番は、例えば、第1電極211、第2電極212、第3電極213の順に繰り返すようにしてもよく、第1電極211、第3電極213、第2電極212の順に繰り返すようにしてもよく、第1電極211、第2電極212、第1電極211、第3電極213の順に繰り返すようにしてもよい。
【0031】
他は、第1の実施の形態と同様の構成を有している。よって、本実施の形態によっても、第1極性の電極を順番に切り替えることにより、電極群210を配置した範囲全体に電気刺激を与えることができる。また、同一の箇所に連続して電気刺激が与えられることを抑制することができ、弛緩動作を可能とすることができる。
【0032】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、各構成要素についても具体的に説明したが、全ての構成要素を備えていなくてもよく、他の構成要素を備えていてもよい。
【0033】
また、上記実施の形態では、電極群10,210が4つ又は3つの電極を有する場合について具体的に説明したが、本願発明は少なくとも3つの電極を有する場合について適用することができ、電極群10の電極の数は5つ以上でも同様の効果を得ることができる。更に、上記実施の形態では、各電極について具体的に説明したが、これらの少なくとも一部に加えて、又は、これらの少なくとも一部に変えて、他の電極を有していてもよい。
【0034】
加えて、上記実施の形態では、電極群10を衣類30に対して配設する場合について説明したが、電極群10の各電極を個別に身体に直接配設するようにしてもよく、また、電極群10を身体の所定の位置に配置できるようにまとめて配設部材に対して配設し、配設部材を身体に対して固定することにより、電極群10をまとめて身体の所定の位置に配置するようにしてもよい。
【0035】
更にまた、上記実施の形態では、電極を腹部において右側腹直筋、左側腹直筋、右側腹斜筋、左側腹斜筋に対応して設ける場合について説明したが、本願発明は電極の配置位置に関係なく、適用することができる。例えば、電極を腹部の他の位置に配置してもよく、また、腹部に限らず、背面に配置してもよく、背面と腹部に配置してもよい。更に、胴体に限らず、腕、又は、大腿部等の脚に配置してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…電気刺激装置、10…電極群、11…第1電極、12…第2電極、13…第3電極、14…第4電極、15…導線、20…駆動手段、21…高圧生成回路、22…高圧整形回路、23…刺激波形出力回路、24…電極剥離検知手段、30…衣類、40…制御手段、2…電気刺激装置、210…電極群、211…第1電極、212…第2電極、213…第3電極、220…駆動手段