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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】異材接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/20 20060101AFI20240718BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20240718BHJP
   B21J 15/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B23K11/20
B23K11/11 540
B21J15/00 U
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022088558
(22)【出願日】2022-05-31
(65)【公開番号】P2023176327
(43)【公開日】2023-12-13
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(73)【特許権者】
【識別番号】390038069
【氏名又は名称】株式会社青山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近野 佑太郎
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 一輝
(72)【発明者】
【氏名】北島 男
(72)【発明者】
【氏名】古賀 一博
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-042417(JP,A)
【文献】特開2022-039534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/20
B23K 11/11
B21J 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部と、前記頭部の一方の面から中心軸方向に沿って略円柱状に延出し外周面に径方向に沿う複数の突出部及び複数の窪み部を有する中軸部と、を備えるリベットを、第1部材に対して打ち込んで、前記リベットの前記突出部及び前記窪み部を前記第1部材と嵌合させると共に、前記リベットの前記中軸部を前記第1部材に挿通させ、
前記第1部材に挿通された前記リベットの前記中軸部を前記第1部材とは異なる材料からなる第2部材に接触させるプレス工程と
前記リベットの前記頭部と前記第2部材との間を加圧しながら通電して、前記リベットと前記第2部材とを溶接して異材接合体を形成する溶接工程と、を含み、
前記中軸部は、
前記中心軸方向について前記頭部側に設けられ、前記突出部及び前記窪み部を有する第1中軸部と、
前記中心軸方向について前記頭部と反対側に設けられ、前記突出部及び前記窪み部を有しない第2中軸部と、を含んでおり、
前記第1中軸部の軸径は、前記第2中軸部の軸径に比べて大きく、
前記プレス工程において、前記第1中軸部の前記突出部及び前記窪み部が前記第1部材に食い込んで前記第1部材が塑性変形されることで、前記第1中軸部と前記第1部材とが嵌合され、
前記溶接工程において、前記第1部材は、前記第1中軸部の前記突出部及び前記窪み部との隙間を埋めるように流動する異材接合体の製造方法。
【請求項2】
前記突出部及び前記窪み部は、前記中軸部の前記外周面において周方向全体に亘って設けられている請求項1に記載の異材接合体の製造方法。
【請求項3】
前記突出部及び前記窪み部は、等間隔に設けられている請求項1に記載の異材接合体の製造方法。
【請求項4】
前記溶接工程において、前記頭部の前記一方の面のうち前記中軸部と平面に視て重ならない部分は、前記第1部材の主面との間に隙間が生じており、前記主面と接触していない請求項1に記載の異材接合体の製造方法。
【請求項5】
前記リベットと前記第2部材との加圧通電時において、前記リベットの前記中軸部に流れる電流密度は397MA/m2以上597MA/m2以下であり、前記リベットの前記中軸部に印加される面圧は119MPa以上279MPa未満であり、
溶接後に凝固された前記異材接合体は、前記リベットと前記第2部材とが金属結合された鋳造組織である溶接ナゲットを有しており、
前記溶接ナゲットの前記中軸部の軸方向に沿う高さは、前記異材接合体全体に比して0.34以上0.8未満であり、
前記溶接ナゲットの前記中軸部の径方向に沿う長さを、前記高さで割った値は、1.7以上5.4未満である請求項1に記載の異材接合体の製造方法。
【請求項6】
前記突出部は、各々が三角柱状に突出する請求項1に記載の異材接合体の製造方法。
【請求項7】
前記第1部材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の異材接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、異材接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、材質の異なる2つの部材を接合して異材接合体を製造する方法が知られており、その一例が特許文献1に記載されている。特許文献1には、鋼材とアルミニウム合金材を接合するために、アルミニウム合金材に対して鋼製の異材接合用のリベットを打ち込んでかしめ固定し、リベットと鋼材とを1対の電極で挟んで通電することで、リベットと鋼材とをスポット溶接する製造方法が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載のリベットは、リベットの頭部の下面(アルミニウム合金材に重なる面)に溝が形成されており、アルミニウム合金材に対してリベットを打ち込んだ際に、この溝内にアルミニウム合金材が塑性変形して進入する。これにより、リベットがかしめ固定されるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-207898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のようにリベットの頭部の下面に溝を設けると、リベットと鋼材とをスポット溶接する際に、溶解されたアルミニウム合金材が溝内に十分流入しないことがある。これにより、接合強度が低下したり、個体によって接合強度がバラついてしまう。また、溝を形成したことで、スポット溶接時に分流が発生し、接合したい部分に電流が集中して流れなくなってしまうことがある。これによっても、接合強度の低下、及び不安定化を招いてしまうのが実情である。
【0006】
本技術は上記のような実情に基づいて完成されたものであって、異材接合体の接合強度を増大し、安定化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<1>頭部と、略円柱状をなし外周面に複数の突出部及び窪み部を有する中軸部と、を備えるリベットを、第1部材に対して打ち込んで、前記リベットの前記突出部及び前記窪み部を前記第1部材と嵌合させると共に、前記リベットの前記中軸部を前記第1部材に挿通させ、前記第1部材に挿通された前記リベットの前記中軸部を前記第1部材とは異なる材料からなる前記第2部材に接触させ、前記リベットの前記頭部と前記第2部材との間を加圧しながら通電して、前記リベットと前記第2部材とを溶接して異材接合体を形成する異材接合体の製造方法。
【0008】
<2>前記突出部及び前記窪み部は、前記中軸部の前記外周面において周方向全体に亘って設けられている上記<1>に記載の異材接合体の製造方法。
【0009】
<3>前記突出部及び前記窪み部は、等間隔に設けられている上記<1>または<2>に記載の異材接合体の製造方法。
【0010】
<4>前記中軸部は、前記突出部及び前記窪み部を有する第1中軸部と、前記突出部及び前記窪み部を有しない第2中軸部と、を含んでおり、前記第1中軸部の軸径は、前記第2中軸部の軸径に比べて大きい上記<1>から<3>のいずれかに記載の異材接合体の製造方法。
【0011】
<5>前記リベットと前記第2部材との加圧通電時において、前記リベットの前記中軸部に流れる電流密度は397MA/m2以上597MA/m2以下であり、前記リベットの前記中軸部に印加される面圧は119MPa以上279MPa未満であり、溶接後に凝固された前記異材接合体は、前記リベットと前記第2部材とが金属結合された鋳造組織である溶接ナゲットを有しており、前記溶接ナゲットの前記中軸部の軸方向に沿う高さは、前記異材接合体全体に比して0.34以上0.8未満であり、前記溶接ナゲットの前記中軸部の径方向に沿う長さを、前記高さで割った値は、1.7以上5.4未満である上記<1>から<4>のいずれかに記載の異材接合体の製造方法。
【0012】
<6>前記突出部は、各々が三角柱状に突出する上記<1>から<5>のいずれかに記載の異材接合体の製造方法。
【0013】
<7>前記第1部材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる上記<1>から<6>のいずれかに記載の異材接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本技術によれば、異材接合体の接合強度を増大し、安定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態1に係る異材接合体のリベット付近を拡大した断面図
図2】リベットの斜視図
図3】リベットの平面図
図4】リベットの側面図
図5】プレス工程を示す断面図
図6】リベットが第1部材に打ち込まれた状態を示す断面図
図7】溶接工程を示す断面図
図8】リベットと第2部材とが加圧通電された状態を示す断面図
図9】比較例1に係るリベットの斜視図
図10図9のA-A線断面図
図11】比較例1に係るリベットと第2部材とがかしめ固定された状態を示す断面図
図12】実施例1に係る異材接合体の評価結果を示す表
図13】比較例1に係る異材接合体の評価結果を示す表
図14】実施例2に係る異材接合体の評価結果を示す表
図15】比較例2に係る異材接合体の評価結果を示す表
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施形態1>
実施形態1に係る異材接合体10、および異材接合体10の製造方法を図1から図15を参照して説明する。一部の図には、X軸、Y軸、及びZ軸を示しており、各軸方向が各図で共通した方向となるように描かれている。また、Z軸方向を上下方向とするが、上記方向は便宜的に定めたものに過ぎず、限定的に解釈すべきものではない。
【0017】
異材接合体10は、図1に示すように、第1部材20と、第1部材20とは異なる材料からなる第2部材30と、第1部材20と第2部材30とを接合するためのリベット(鋲)40と、を備える。異材接合体10は、例えば車両のパネル構造体に用いられるが、用途は限定されない。リベット40は、後述するように異材接合体10を製造する過程で変形するが、図1では、製造後の異材接合体10に含まれる変形後のリベット40が図示されている。
【0018】
第1部材20は、軽量材料、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属材料からなる。第2部材30は、第1部材20に比べて重量、及び強度が大きい金属材料、例えば車両のパネル構造体に汎用される鋼からなる。第1部材20と第2部材30とを重ね合わせて異材接合体10とすることで、第2部材30によって強度を確保しつつ、第1部材20によって軽量化が可能となる。また、第1部材20にアルミニウムを主成分とする材料を用いることでリサイクルが容易になる。本実施形態において、第1部材20及び第2部材は板材であるが、形状は板材に限られない。第1部材20及び第2部材の少なくとも一部が重ね合わせ可能な形状を有していればよく、例えば中空円筒状であっても構わない。
【0019】
一般に、異なる材質からなる第1部材20と第2部材30とを単に重ね合わせてスポット溶接すると、第1部材20と第2部材30との界面には脆い化合物が生成され、適切に接合することができない。そこで、異材接合体10は、第1部材20と第2部材30とを接合するためにリベット40を備えている。リベット40は、第2部材30を構成する金属材料と同一材料(例えば鋼)、または第2部材30を構成する金属材料と主成分が同一の金属材料(例えば鉄)からなる。リベット40と第2部材30との界面には、後述するように、溶接によって高強度に金属接合された鋳造組織(後述する溶接ナゲット60)を形成可能となる。
【0020】
リベット40は、図2から図4に示すように、円板状の頭部41と、頭部41の一方の面(第1面)41Aから略円柱状に延出する中軸部42と、を備える。リベット40は、全体として断面T字状をなしており、各部が一体的に形成されている。中軸部42は、中心軸Cが頭部41と同一であり、外径が頭部41に比べて小さい。中軸部42は、頭部41側(延出元側)の第1中軸部43と、頭部41と反対側(延出端側)の第2中軸部44と、からなる。中軸部42の中心軸Cに沿う長さ(Z方向の長さ)は、第1部材20の厚さ(Z方向の長さ)以上に形成されており、これにより後述するように、中軸部42は第1部材20を挿通可能となっている。
【0021】
第1中軸部43は、図2から図4に示すように、頭部41と第2中軸部44との間の部分であって、外周側面43Aが凹凸形状をなしている。第1中軸部43は、外周側面43Aにおいて周方向全体に亘って複数の突出部43Bを備える。突出部43Bは、複数(本実施形態では16つ)が等間隔に設けられており、それぞれが径方向(中心軸Cと交わる方向)に沿って外周側面43Aから三角柱状に突出している。等間隔に設けられた隣り合う突出部43Bの間は、谷状に窪んでおり、これにより窪み部43Cが等間隔に形成されている。第1中軸部43の軸径(外径寸法)は、窪み部43Cを含む部分が最小値Φ1であり、突出部43Bを含む部分が最大値Φ2である。
【0022】
第2中軸部44は、図2から図4に示すように、第1中軸部43から頭部41と反対側に延出している。第2中軸部44の外周側面44Aは、第1中軸部43と異なり凹凸形状を有していない。第2中軸部44の軸径の最大値Φ3は、上記した第1中軸部43の外形の最小値Φ1よりも小さく形成されている。第2中軸部44の先端(延出端)44Bは、軸径Φ4の円形面となっている。第2中軸部44の外周側面44Aから先端44Bに至る角部は、丸みを帯びてなだらかに傾斜している。先端44Bは緩やかに先細となっており、第2中軸部44の先端44Bの軸径Φ4は、第2中軸部44の本体の軸径Φ3より小さい。
【0023】
次に、異材接合体10の製造方法について説明する。製造方法は、プレス工程と、プレス工程後に行われる溶接工程とを含んでいる。プレス工程では、図5から図6に示すように、支持体であるパンチ81と、加圧手段であるダイス82と、を備えるプレス機が用いられる。パンチ81は、上面に凹部81Aを有し、凹部81Aはリベット40の頭部41に倣う形状及び大きさに形成されている。また、ダイス82には、リベット40の第2中軸部44が挿入可能な開口82Aが形成されている。プレス工程ではまず、図5に示すように、パンチ81の凹部81Aにリベット40の頭部41を載置する。そして、リベット40の第2中軸部44とダイス82との間に第1部材20を挟み(図5)、挟んだ状態でダイス82を加圧する(図6)。このようにしてリベット40を第1部材20に対して打ち込む。なお、プレス工程で生じた第1部材20の破片は、図6では取り除かれているものとする。
【0024】
リベット40は、図6に示すように、プレス工程によって中軸部42(第1中軸部43及び第2中軸部44)が第1部材20に打ち込まれ、第2中軸部44の先端44Bは第1部材20内を挿通する。第1部材20の材質の強度(剛性)はリベット40に比べて小さいため、第1部材20は、打ち込まれた中軸部42によって塑性変形する。打ち込みによって第2中軸部44の突出部43B及び窪み部43Cは、第1部材20に食い込んで嵌合し、第1部材20にかしめ固定される。突出部43Bの各々は三角柱状に突出し、突出端が鋭角に尖っているため、第1部材20に容易に嵌合される。また、突出部43B及び窪み部43Cは、外周側面43Aの周方向全体に亘って等間隔に形成されているため、第1板材20に対して周方向全体に亘って均等にかしめ固定される。
【0025】
プレス工程によってリベット40を第1部材20に打ち込んでかしめ固定した後、図7に示すように、溶接工程を行う。溶接工程では、第2部材30の上に、リベット40が打ち込まれた第1部材20を載置し、リベット40の第2中軸部44の先端44Bを、第2部材30の第1主面30A(第1部材20側の主面)に接触させる。そして、リベット40、第1部材20、及び第2部材30を一対の電極90間に挟んで電圧を印加し、リベット40の頭部41と第2部材30との間を加圧しながら通電する。これにより、電極90間には加圧力Pが加わると共に、Z方向に沿う上下方向に電流Iが流れる。その結果、リベット40と第2部材30との接触部分である、リベット40の先端44Bと第2部材30の第1主面30Aの界面には抵抗発熱が発生する。これにより図8に示すように、当該界面は溶融され、スポット溶接(抵抗溶接)によって接合される。リベット40の第2中軸部44の先端44Bは、加圧通電による溶融によって変形し、第2部材30に押しつぶされたように、第1主面30A上に幅広に広がる形状となる。また、リベット40と第2部材30との接触部分には、金属接合された鋳造組織である溶接ナゲット60が形成される。溶接後に凝固された異材接合体10は、図1に示すように、高さ(中心軸C方向に沿う長さ)H60、及び外径R60(中心軸Cに交わる径方向に沿う長さ)の溶接ナゲット60を有するものとなる。
【0026】
第1部材20は、加圧通電によって溶融されると、リベット40の突出部43B及び窪み部43Cとの隙間を埋めるように流動する。突出部43B及び窪み部43Cは、外周側面43Aの周方向全体に亘って等間隔に形成されているため、第1部材20は、周方向全体に亘って当該隙間を埋めるように流動する。これにより、第1部材20はリベット40の溝である窪み部43Cに容易に流入し、第1部材20とリベット40との隙間が埋められ、接合強度を向上できるようになる。
【0027】
また、加圧通電によってリベット40の中軸部42が溶融して押しつぶされると、リベット40の頭部41のうち中軸部42と接続されている部分は、僅かに第1部材20側(下方)に沈み込む。これにより、頭部41の外周部分は、図8に示すように、僅かに上方に浮き上がり、頭部41の第1面41Aと、第1部材20の主面20B(主面20A、20Bのうち第2部材30と反対側の主面20B)との間に、僅かな隙間が生じる。その結果、電極90間に流れる電流が、リベット40の中軸部42に集中して流れやすくなり、スポット溶接したいリベット40の先端44Bと第2部材30の第1主面30Aとの接触部分に集中的に電流を流すことができる。仮に、頭部41の第1面41Aと第1部材20の主面20Bとが接触している場合、接触部分に電極90間を流れる電流の一部が分流しやすくなる。その結果、リベット40の先端44Bと第2部材30の第1主面30Aとの間に流れる電流が減少し、抵抗発熱、ひいては溶融が不十分となって、接合強度の低下及び不安定化を招いてしまう懸念がある。本実施形態によれば、このような分流による溶解不良を抑制し、異材接合体10の接合強度の向上及び安定化を図ることができる。
【0028】
なお、スポット溶接時に電極90間に流れる電流Iは、リベット40及び第2部材30の材質等によって適宜調整される。電流Iが小さすぎると、抵抗発熱が不十分となり、溶接ナゲット60が形成されないことがある。逆に、電流Iが大きすぎると、いわゆる中散りが発生して異材接合体10の品質低下を招くことがある。電極90間に流れる電流Iの電流密度Jは、例えば430(MA/m2)以上517(MA/m2)以下の範囲が好ましい。
【0029】
<比較実験1>
上記した異材接合体10の性能を評価するため、比較実験1を行った。比較実験1では、実施例1から2、及び比較例1から2に係る異材接合体を製造して、それぞれについて評価を行った。実施例1から2は、上記した異材接合体10の評価サンプルであり、比較例1から2は、形状の異なるリベット940を用いて異材接合体10と同じ方法で製造された異材接合体910の評価サンプルである。
【0030】
比較例1から2に係る異材接合体910のリベット940は、図9から図10に示すように、円板状の頭部941と、頭部941の第1面941Aから略円柱状に延出する中軸部942と、を備える。中軸部942は、実施形態1に係るリベット40と異なり、外周側面が凹凸形状の第1中軸部43を有していない。リベット940は、頭部941の第1面941Aの外周部分941Bが中心軸Cに沿って下方に突出している。外周部分941Bと中軸部942との間には、円環状の溝941Cが形成されている。
【0031】
リベット940が第1部材20に対して打ち込まれると、図11に示すように、溝941Cに第1部材20が塑性変形して進入し、リベット940が第2部材30にかしめ固定される。その後、加圧通電によって溶接を行うと、第1部材20が溝941C内に流入する。ただし、この流入は、既述した本実施形態に係るリベット40のように容易ではなく、第1部材20とリベット940との隙間が十分に埋められないことがある。また、中軸部942が溶融して押しつぶされて、僅かに第1部材20側(下方)に沈み込んだ場合であっても、外周部分941Bは、下方に突出しているため、第1部材20の主面20Bに接触したままとなり、この接触部分に分流が発生しやすい状況となる。
【0032】
<条件>
・第1部材20:アルミニウム板
・第1部材20の厚さ:1.2(mm)
・第2部材30:鋼板(実施例1及び比較例1はJIS規格SPCC270、実施例2及び比較例2はJIS規格SPCC440)
・第2部材30の厚さ:実施例1及び比較例1は0.8(mm)、実施例2および比較例2は1.4(mm)
・リベット40、及びリベット940の材質:鋼
・リベット40の軸径Φ3、及びリベット940の中軸部942の軸径:4(mm)
・加圧力P:1.5(kN)または3.5(kN)
・電流I:実施例1から2は5(kA)以上12.5(kA)以下の範囲、比較例1から2は5(kA)以上10(kA)以下の範囲
【0033】
<評価方法>
実施例1から2及び比較例1から2について、引っ張りせん断試験、不具合確認(界面剥離、リベット潰れ、ブローホール発生等)、並びに溶接ナゲット60の形成確認及び大きさ測定を行った。引っ張りせん断試験では、各異材接合体の第1部材20と第2部材30を中心軸Cに交わる方向に沿って反対方向に引っ張り、せん断が生じた際の引っ張り荷重値を測定した。引っ張り荷重値が大きいほど、接合強度が大きいと評価できる。不具合確認では各異材接合体の外観を観察して、界面剥離、リベット潰れ、ブローホール発生等の不具合を確認し、不具合が発生しているものをYES、発生していないものをNOとした。溶接ナゲット60の形成確認及び大きさ測定は、各異材接合体をピクリン酸にて腐食して研磨し、露出した中心軸Cを含む断面をマイクロスコープによって観察することで行った。溶接ナゲット60が形成されているものは、スポット溶接が良好に行われたと評価できる。また、溶接ナゲット60が形成されている場合、溶接ナゲット60の高さH60及び外径R60(図1)の測定を行い、これらの比(R60/H60)、及び異材接合体全体の高さH10に対する比(H60/H10)を算出した。そして、上記した引っ張りせん断試験、不具合確認、並びに溶接ナゲット60の形成状態の結果を総合的に評価し、A(良い)、B(可)、C(不可)の3段階に分類した。
【0034】
<評価結果>
比較実験1の評価結果を図12から図15の各表に示す。実施例1から2は、比較例1から2に比べて、溶接に適用可能な電流I及び加圧力Pの範囲が広く、接合強度の向上及び安定化を図れることが確認された。また、実施例1から実施例2のうち、リベット40の中軸部42に流れる電流密度Jが397(MA/m2)以上597(MA/m2)以下の範囲、かつ、リベット40の中軸部42の断面積を加圧力Pで割ることで得られる面圧が119MPa以上279MPa未満の範囲において、溶接ナゲット60が良好に形成されることが確認された。具体的には、溶接ナゲット60は、H60/H10が0.34以上0.8未満の範囲であり、R60/H60は1.7以上5.4未満が良好な形成状態とされる。
【0035】
<他の実施形態>
本技術は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本技術の技術的範囲に含まれる。
【0036】
(1)リベット40の突出部43B及び窪み部43Cの形状、大きさ、間隔は、図示に限られず、適宜変更可能である。
【0037】
(2)リベット40の突出部43B及び窪み部43Cは、外周側面43Aの周方向全体に亘って設けられていなくても構わない。
【0038】
(3)第1部材20は、金属材料に限られず、炭素繊維強化プラスチック等の軽量材料であっても構わない。
【符号の説明】
【0039】
10…異材接合体、20…第1部材、30…第2部材、40…リベット、41…頭部、42…中軸部、43…第1中軸部、44…第2中軸部、43A…外周側面(外周面)、43B…突出部、43C…窪み部、60…溶接ナゲット
図1
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