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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ロータ用ガイド、ロータおよび推進体
(51)【国際特許分類】
   F04D 29/54 20060101AFI20240718BHJP
   F03D 1/06 20060101ALI20240718BHJP
   F03D 1/04 20060101ALI20240718BHJP
   B64C 27/32 20060101ALN20240718BHJP
   B64C 27/20 20230101ALN20240718BHJP
【FI】
F04D29/54 C
F03D1/06 A
F03D1/04 B
B64C27/32
B64C27/20
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020030285
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021134696
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002712
【氏名又は名称】弁理士法人みなみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 篤志
(72)【発明者】
【氏名】川口 清司
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 直哉
【審査官】丹治 和幸
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-071921(JP,U)
【文献】特開2016-109112(JP,A)
【文献】特開2007-218240(JP,A)
【文献】特開2018-144539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 1/00-13/16、
17/00-19/02、
21/00-25/16、
29/00-35/00
B64C 27/20、27/32
F03D 1/04、 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータ本体の周囲に設置されるロータ用ガイドであって、
前記ロータ本体の回転軸方向から見て前記ロータ本体を囲む環状のものであり、
前記ロータ本体を囲む帯状の面であって前記ロータ本体の回転軸に直交しかつ前記ロータ本体の吸込側を向いた面である底面部と、前記底面部の外縁の全周から前記ロータ本体の吸込側に向けて延びる帯状の面であって前記ロータ本体の内周側を向いた面である側面部を有するものであり、
前記底面部の、前記ロータ本体の回転軸方向の位置が、前記ロータ本体の回転軸方向の厚さの範囲内に位置するように配置されており、
前記ロータ本体に吸い込まれる流体が前記側面部の吸込側から前記底面部の内周側を通り、前記底面部の吸込側かつ前記側面部の内周側の領域に流れの剥離領域が発生するようにガイドすることを特徴とする前記ロータ本体により推進する推進体用のロータ用ガイド。
【請求項2】
前記側面部が前記底面部に直交するものであることを特徴とする請求項1記載の推進体用のロータ用ガイド。
【請求項3】
ロータ本体と、請求項1または2記載のロータ用ガイドを備える推進体用のロータ。
【請求項4】
請求項3記載のロータを備える推進体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータの推力を向上させるためのロータ用ガイド、そのロータ用ガイドを備えるロータおよびそのロータを備える推進体に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータ(回転翼、プロペラ、スクリューともいう)は、飛行機、ヘリコプター、ドローン、船舶、潜水艦などの推進体の動力として用いられるものや、空冷、吸気や換気などを目的とした送風機あるいは発電のための風車として用いられるものなど、様々な場面で利用されている。
【0003】
特に、推進体の動力として用いる場合、ロータの推力が向上すれば、推進体の輸送能力が向上する。そこで従来、ロータの推力を向上させるための種々の方法が存在する。その方法は、大別すると、ロータの設計自体を見直す方法と、使用者が調整する方法に分けられる。前者としては、ロータの直径の大型化や、翼型や翼弦長の最適化などが挙げられる。後者としては、回転数や翼のピッチ角の調整が挙げられる。これらの方法は、何れも流体力学に基づく理論が確立しているものであるが、実験や数値シミュレーションによって翼型やピッチ角の最適値を導出するためには、多大な労力と時間を要していた。また、回転数を高めれば推力は向上するが、その分エネルギ消費量も増加して稼働時間が短くなってしまう。さらに、ロータの設計自体を見直す方法は、当然に既存のロータの推力向上に適用することができなかった。
【0004】
既存のロータの推力を向上させようとする場合、ロータ本体の周囲に何らかの追加部品を付与することが考えられる。そのような追加部品を設けた例として、たとえば特許文献1に示すように、ロータ本体の周囲にリング状の部品を設けたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-227016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このリング状の部品は、ロータ本体が他の構造物などに接触しないように保護するためのものであり、推力の向上を図ったものではなかった。
【0007】
本発明は、このような事情を鑑みたものであり、ロータ本体に追加部品として付与できるものであって、簡易な構造であり、かつエネルギ消費量を増加させることなく推力を向上させられるロータ用ガイド、そのロータ用ガイドを備えるロータおよびそのロータを備える推進体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のロータ用ガイドは、ロータ本体の周囲に設置されるロータ用ガイドであって、前記ロータ本体の回転軸方向から見て前記ロータ本体を囲む環状のものであり、前記ロータ本体を囲む帯状の面であって前記ロータ本体の回転軸に直交しかつ前記ロータ本体の吸込側を向いた面である底面部と、前記底面部の外縁の全周から前記ロータ本体の吸込側に向けて延びる帯状の面であって前記ロータ本体の内周側を向いた面である側面部を有するものであり、前記底面部の、前記ロータ本体の回転軸方向の位置が、前記ロータ本体の回転軸方向の厚さの範囲内に位置するように配置されており、前記ロータ本体に吸い込まれる流体が前記側面部の吸込側から前記底面部の内周側を通り、前記底面部の吸込側かつ前記側面部の内周側の領域に流れの剥離領域が発生するようにガイドすることを特徴とする。なお、ロータ用ガイドは、ロータ本体が取り付けられた構造体(たとえば推進体の胴体など)に固定されるものである
【0009】
また、本発明のロータ用ガイドは、前記側面部が前記底面部に直交するものであってもよい。
【0010】
本発明のロータは、ロータ本体と、上記のロータ用ガイドを備えるものである。
【0011】
さらに、本発明の推進体は、上記のロータを備えるものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のロータ用ガイドおよびロータによれば、ロータ本体の回転により周囲の流体が吸い込まれるのに伴って、ロータ用ガイドの底面部と側面部の間の領域(底面部の吸込側かつ側面部の内周側の領域)に流れの剥離領域が発生し、すなわち当該領域が大気圧である周囲に対して負圧となる。よって、ロータ用ガイドに吸込側向きの力が発生し、この力がロータ本体により生じる推力に加わるので、ロータ全体として推力が向上する。また、ロータ用ガイドの底面部の回転軸方向の位置がロータ本体の回転軸方向の厚さの範囲内に位置することにより、ロータ用ガイドの底面部の表裏の圧力差が生じやすいので、特に推力が向上する。
【0014】
そして、このロータを備える推進体は、ロータの推力が向上した分だけ輸送能力が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明のロータの斜視図である。
図2】(a)はロータの平面図、(b)はロータの中心軸断面図である。
図3】ロータ本体が回転したときの流体の流れの説明図であり、(a)はロータ用ガイドがない場合、(b)はロータ用ガイドがある場合を示す。
図4】ロータの作用効果を確認するための装置の模式図である。
図5】ロータ用ガイドの底板(底面部)の幅を変化させた場合の推力の変化を示すグラフである。
図6】ロータ用ガイドの側周板(側面部)の高さを変化させた場合の推力の変化を示すグラフである。
図7】ロータ用ガイドの底板の上下面の差圧を示すグラフである。
図8】ロータ用ガイドの自重を考慮した場合の推力増加率を示すグラフである。
図9】(a)、(b)はロータの別実施例の中心軸断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のロータ用ガイド(以下、単にガイドという)を備えるロータの具体的な内容について説明する。図1および図2に示すように、このロータは、ロータ本体1と、ロータ本体1の回転軸方向から見てロータ本体1を囲む環状のガイド2を備えるものである。なお、ここではロータ本体1の回転軸が垂直向きであって、上側が吸込側、下側が吐出側であるものとする。よって、回転軸方向は上下方向である。また、この実施例は空気中で用いられることを前提とするものである。
【0017】
ロータ本体1は、上下方向に延びるシャフト10の先端(上端)に取り付けられたものであって、シャフト10に固定されたボス11と、ボス11から外周側へ向けて延びる2枚の翼12を有する。2枚の翼12は、シャフト10周りに180度反対方向に延びている。シャフト10は、モータなどの駆動装置(図示省略)に接続されていて回転するものであって、シャフト10の中心軸がロータ本体1の回転軸となるものであり、シャフト10を中心としてボス11および2枚の翼12が上下方向軸周りに回転する。そして、ロータ本体1の回転により、周囲の流体(気体)がロータ本体1の上側から吸い込まれて下側へと吐き出され、ロータ本体1には上側(吸込側)向きの力が発生する。
【0018】
ガイド2は、ロータ本体1の回転軸に直交する板状の底板21と、底板21に直交する側周板22からなるものである。底板21は、円板からなり、中央に円形の孔が形成されている環状のものであって、その中心がロータ本体1の回転軸と一致している。底板21の孔の直径は、ロータ本体1の直径よりも僅かに大きいものである。また、底板21の上下位置は、ロータ本体1の翼12の厚さの上下中心と一致しており、底板21の内縁部と翼12の先端の間に僅かな隙間がある。この隙間は、ロータ本体1の回転時に翼12の先端が底板21に接触しないためのチップクリアランスとして確保されたものである。そして、この底板21の上面が、底面部3である。上記の構成により、底面部3は、上側から見てロータ本体1を囲む帯状の面であって、ロータ本体1の回転軸に直交しかつ上側(ロータ本体1の吸込側)を向いた面である。また、底面部3の上下位置(回転軸方向の位置)が、ロータ本体1の位置と略一致している。側周板22は、底板21の上面に設けられたものであり、円筒状のものであって、その中心軸がロータ本体1の回転軸と一致している。また、側周板22の外径は、底板21の直径と同じである。そして、この側周板22の内周面が、側面部4である。上記の構成により、側面部4は、底面部3の外縁の全周から上側(ロータ本体1の吸込側)に向けて延びる帯状の面であって、ロータ本体1の内周側を向いた面である。
【0019】
なお、このガイド2は、ロータ本体1とは離隔しているが、ロータ本体1が駆動装置などを介して取り付けられた構造体(たとえば推進体の胴体など)に固定されるものである。
【0020】
次に、このように構成したロータにおいて、ロータ本体1を回転させた際の作用について説明する。ロータ本体1を回転させると、周囲の気体がロータ本体1の上側から吸い込まれて、下側へと吐き出される。この際、ガイド2がない場合、図3(a)に示すように、気体がロータ本体1の上側の広い範囲から流入する。すなわち、気体はロータ本体1の直上部分のみならず、その周辺部分からも流入する。一方、ガイド2がある場合、図3(b)に示すように、気体はガイド2の上側から内周側を通るようにして流れ、ガイド2の底面部3と側面部4の間の領域(底面部3の上側かつ側面部4の内周側の領域)に、流れの剥離領域Pが発生する。すなわち、当該領域が大気圧である周囲に対して負圧となる。よって、ガイド2の底板21の下面より上面の圧力が低くなるので、ガイド2に上向きの力が発生し、この力がロータ本体1により生じる推力に加わるので、ロータ全体として推力が向上する。なお、この際、ガイド2の側周板22の外周面より内周面の圧力が低くなるので、ガイド2には内周側向きの力も発生することになるが、その力はガイド2の全周にわたって発生するので、打ち消されることになる。
【0021】
次に、本発明のロータの作用効果について、実験により確認した結果を示す。実験は、図4に示す構成の装置により行った。この装置は、ロータ本体1がシャフト10を介してDCモータ5に接続されており、シャフト10(回転軸)が垂直向きとなりDCモータ5の上側にロータ本体1が位置している。DCモータ5は、地表効果の影響を避けるために、高さ150mmのアクリル製の支柱6の上端に固定されており、支柱6の下端が、三分力計7に固定されている。そして、ロータ本体1の周囲に、ガイド2が設けられている。ガイド2は、底板21の上下位置が、ロータ本体1の翼12の厚さの上下中心と一致するように配置されている。また、ガイド2は支柱6に固定されている(固定のための部材は図示省略)。この装置において、ロータ本体1を回転させると上向きの推力が発生し、この推力が支柱6を介して三分力計7により測定される。
【0022】
なお、ロータ本体1には、ドローン用として市販されている直径8in(=203.2mm)のものを用いた。また、DCモータ5にはDC電源51が接続されており、DCモータ5への印加電圧を変えることで回転数を調整可能とした。ロータ本体1の回転数は、非接触式のタコメータ(図示省略)により測定した。さらに、三分力計7に、アンプ71(フィルタを兼ねるものである)、A/D変換器72およびコンピュータ(PC)73が接続されており、三分力計7により測定される上向きの力(ロータの推力)を測定してコンピュータ73に取り込んだ。そして、ガイド2は、厚さ1mmのポリ塩化ビニル(PVC)の板を用いて製作した。また、ガイド2の底板21の内径は210mmとした。なお、これによりロータ本体1の翼12の先端とガイド2の底板21の内縁部との間隔は3mm程度となるが、これはロータ本体1の回転時に翼12の先端が底板21に接触しないようにチップクリアランスが確保されたものであり、この間隔は、チップクリアランスを確保した上でできるだけ狭いほうが望ましい。
【0023】
このような装置により、ガイド2の形状を様々に変化させて、それぞれの場合について測定を行った。まず、ガイド2の側周板22(側面部4)の高さHg=100mmに固定して、底板21(底面部3)の外径Dgを変化させた場合について測定した。なお、底板21の外径Dgを変化させるということは、すなわち底板21の内外周方向の幅Wgを変化させるということである。測定は、ロータ本体1の回転数を2000rpmと3000rpmとして、それぞれガイド2がある場合とない場合について行った。
【0024】
図5に示すのは、ガイド2の底板21の外径Dgごとの測定結果を示すものである。ロータ本体1の回転数が2000rpmと3000rpmの何れの場合においても、ガイド2を取り付けることで推力が向上していることがわかる。そして、ガイド2の底板21(底面部3)の外径Dg(幅Wg)を大きくすると、外径Dg=260mm(幅Wg=25mm)までは推力が向上するが、それ以上は大きくしても推力が横ばいになることがわかる。よって、ここで用いたロータ本体1に対しては、ガイド2の底板21(底面部3)の外径Dg=260mm、すなわちロータ本体1の直径の1.3倍程度とするのが最適といえる。
【0025】
続いて、ガイド2の底板21(底面部3)の外径Dg=260mm(幅Wg=25mm)に固定して、側周板22(側面部4)の高さHgを変化させた場合について測定した。測定は、ロータ本体1の回転数を3000rpmとして、ガイド2がある場合とない場合について行った。
【0026】
図6に示すのは、ガイド2の側周板22の高さHgごとの測定結果を示すものである。ガイド2を取り付けることで推力が向上していることがわかる。そして、ガイド2の側周板22(側面部4)の高さHgを大きくすると、高さHg=25mmまでは推力が向上するが、それ以上は大きくしても推力が横ばいになることがわかる。また、Hg=0mmの場合、すなわちガイド2が側周板22を有さず底板21のみからなる構造の場合、全く推力を向上させる効果がないことがわかる。よって、ここで用いたロータ本体1に対しては、ガイド2の側周板22(側面部4)の高さHg=25mm、すなわちロータ本体1の直径の0.12倍程度とするのが最適といえる。
【0027】
また、図4に示す装置において、ロータ本体1の回転時におけるガイド2の底板21の上面および下面の圧力を測定した。具体的には、ガイド2の底板21に直径1mmの孔を開け、デジタルマノメータを用いて、底板21の上面と下面の圧力をそれぞれ測定した。測定は、底板21の直径に当たる直線上の複数の点で行った。以下に示す測定位置xgは、底板21の内縁部を原点Oとして、外周側方向を正方向としたものである。なお、ガイド2の底板21の幅Wg=25mm、側周板の高さHg=25mmとし、ロータ本体1の回転数を3000rpmとした。
【0028】
測定の結果、ガイド2の底板21の下面の圧力は、略大気圧であった。一方、底板21の上面の圧力は、大気圧に対して負圧であった。図7に示すのは、底板21の上面の各測定位置xgにおける測定結果を、大気圧に対する差圧で示したものである。測定位置xgによらず、ガイド2の底板21の上下面で、約5Paの差圧が発生しており、この差圧により、ロータの推力が向上していることがわかる。
【0029】
上記のとおり、本発明のロータにより推力が向上することは確認されたが、推力の向上分が、追加部品であるガイド2に作用する重力を上回っていなければ、実質的な効果はないことになる。そこで、下記の式(1)で表される推力増加率に基づき、その点を検証する。
【数1】
ただし、F0[N]はガイド2がない場合の推力、Fg[N]はガイド2がある場合の推力、Mg[kg]はガイド2の自重、g[m/s2]は重力加速度である。この推力増加率は、ガイド2により向上した推力からガイド2に作用する重力を差し引いたものが、ガイド2がない場合の推力に対してどれだけの値であるかを百分率で表したものである。ここでは、図6に示したガイド2の側周板22の高さHgを変化させた場合(底板21の幅Wg=25mm)の測定結果を用いて、式(1)により推力増加率を計算した。ただし、上記の測定はロータ本体1の回転数を3000rpmとして行われたものであるが、ここでは実際のドローンを想定して、9000rpmでの推定値を用いた。推定値は、一般にロータの推力が回転数の二乗に比例することに基づき、測定値を9(=(9000/3000)2)倍した値である。また、上記の測定において用いられたガイド2は厚さ1mmのポリ塩化ビニル(PVC、比重:1.35~1.45)の板を用いて製作されたものであったが、それ以外に、厚さ0.5mmのPVCの板で製作された場合、さらに厚さ1mmと0.5mmのポリエチレン(PE、比重:0.91~0.965)の板で製作された場合も想定して、計4つの場合の推力増加率を計算した。
【0030】
図8に示すのは、ガイド2の厚さおよび素材ごとに、側周板22の高さHgによる推力増加率の変化を示したものである。何れの場合においても、推力増加率は正の値となっており、ガイド2の自重を考慮した上で推力が向上していることがわかる。また、上記のとおり側周板22の高さHgを25mmより大きくしても推力は横ばいであったことから、推力増加率もHg=25mm程度の場合が最も大きくなっている。そして、特に比重の小さいPEの厚さ0.5mmの板でガイド2を製作した場合、ガイド2の自重を考慮した上で推力が10%以上向上しており、非常に高い効果が得られることが確認された。
【0031】
このように構成した本発明のロータ用ガイドおよびロータによれば、上記のとおりロータ本体1の回転によりガイド2の底板21(底面部3)の上面が負圧になることで、ガイド2に上向きの力が発生し、ロータ全体として推力が向上する。この際、ガイド2の底板21(底面部3)の上下位置(回転軸方向の位置)が、ロータ本体1の位置と略一致しており、ガイド2の底板21(底面部3)の表裏(上面と下面)の圧力差が生じやすいので、特に推力が向上する。そして、ガイド2は単純な形状のものであるから、安価に製作可能である。また、ガイド2はロータ本体1の周囲の適切な位置に配置するだけで効果を発揮するものであり、エネルギ供給は必要なく、効率的に推力を向上させられる。そして、既存のロータ本体1に対して、ガイド2を後付けすることもできる。さらに、ガイド2はロータ本体1の周囲を囲む形状であるから、ガイド2によりロータ本体1の翼12が他の構造物などに接触することを防ぐことができるものであり、ロータの安全性および耐久性も向上する。
【0032】
なお、上記の実施例は垂直方向に推力が発生するものであったが、回転軸の向きを水平向きにして、水平方向に推力が発生するものとしてもよい。また、上記の実施例は空気中で用いられることを前提としたものであったが、ロータの周囲の流体が気体であっても液体であっても原理的には同様なので、本発明のロータ用ガイドおよびロータは水中においても効果が得られるものである。
【0033】
本発明の推進体は、1つまたは複数の上記のロータを備えるものである。ロータのガイドは、当初から専用品としてロータ本体とともに設けられたものであってもよいし、既存のロータ本体に後付けされたものであってもよい。この推進体は、空気中で用いられるものや、水上・水中で用いられるものなど、どのようなものであってもよい。空気中で用いられるものとしては、飛行機、ヘリコプター、ドローン、飛行船やホバークラフトなどが挙げられる。また、水上・水中で用いられるものとしては、船舶、潜水艦、水中用ドローンや水中スクータなどが挙げられる。そして、本発明のロータを備える推進体は、ロータの推力が向上した分だけ輸送能力が向上する。
【0034】
本発明は、上記の実施形態に限定されない。ガイドは吸込側を向いた底面部と内周側を向いた側面部を有するものであればよく、上記のような板状の底板と側周板からなるものに限られない。たとえば、図9(a)に示すように、トーラス状(ドーナツ状)の部材の上部内周側(断面で1/4円の範囲)を切り欠いて、底面部3と側面部4が形成されたものであってもよい。さらに、図9(b)に示すように、このトーラス状の部材が中空構造であってもよい。また、底面部に対して側面部が直交するものに限られず、両面が直角以外の角度で交わっていてもよい。さらに、底面部の幅や側面部の高さは、適宜変更できる。また、ガイドはロータ本体の回転軸方向から見て円形のものに限られず、多角形のものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、ロータにより発生する推力を利用する機器全般に適用可能である。特に、ロータによる動力飛行を行う飛行体の推力向上および安全性向上のために用いることが想定され、その際の飛行体の具体例としてはドローンが挙げられる。中でも、小型ドローンの多くはロータのピッチ角を動的に制御する機構を持っておらず、回転数を高める以外に推力を向上させる手段がなかったところ、ガイドを後付けして本発明のロータとすれば、推力を向上させることができるので非常に有効である。
【符号の説明】
【0036】
1 ロータ本体
2 ガイド(ロータ用ガイド)
3 底面部
4 側面部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9