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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】全二重無線通信システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/10 20060101AFI20240718BHJP
   H04W 88/08 20090101ALI20240718BHJP
【FI】
H04B1/10 W
H04B1/10 H
H04W88/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020057669
(22)【出願日】2020-03-27
(65)【公開番号】P2021158557
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-02-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】児島 史秀
(72)【発明者】
【氏名】趙 欧
(72)【発明者】
【氏名】廖 偉舜
(72)【発明者】
【氏名】李 可人
(72)【発明者】
【氏名】松村 武
【審査官】後澤 瑞征
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-152723(JP,A)
【文献】特表2006-520115(JP,A)
【文献】特開2019-208256(JP,A)
【文献】特開2007-221525(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/10
H04W 88/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線端末と基地局との間で無線信号を全二重通信する全二重無線通信システムにおいて、
上記基地局は、無線通信の上記各無線端末との各通信状況の類似性を判別する類似性判別手段と、当該基地局から発信された無線信号に基づく自己干渉を除去するための自己干渉除去手段とを有し、
上記自己干渉除去手段は、自己干渉の除去方法に応じた複数種別の組み合わせで構成されるとともに、その1種別以上については2以上の自己干渉除去パターンが予め設定され、上記類似性判別手段による類似性の判別結果に基づいて、2以上の自己干渉除去パターンが予め設定された種別のうち少なくとも1種別については、上記複数の無線端末間において互いに共通する自己干渉除去パターンを使用すること
を特徴とする全二重無線通信システム。
【請求項2】
上記類似性判別手段は、通信状況の種類間で類似性の度合を比較し、
上記自己干渉除去手段は、上記類似性判別手段により比較された類似性の度合がより高い通信状況の種類に応じた種別をより優先させて上記自己干渉除去パターンを共通して使用すること
を特徴とする請求項1記載の全二重無線通信システム。
【請求項3】
上記基地局は、通信状況を示す識別子が付与された無線信号を上記各無線端末から受信し、
上記類似性判別手段は、上記無線信号に付与された識別子に基づいて、上記各無線端末間の通信状況の類似性を判別すること
を特徴とする請求項1又は2記載の全二重無線通信システム。
【請求項4】
上記類似性判別手段は、上記無線端末との通信状況を新たに判別した場合には、当該無線端末に対してその通信状況に応じた識別子を付与し、
上記無線端末は、当該識別子を付与した無線信号を上記基地局に対して送信すること
を特徴とする請求項3記載の全二重無線通信システム。
【請求項5】
上記自己干渉除去手段は、自己干渉除去パターンを共通して使用する種別の候補の中から選択した種別について、上記自己干渉除去パターンを共通して使用し、
更に上記候補として挙げられる周期を上記種別間において異ならせること
を特徴とする請求項1記載の全二重無線通信システム。
【請求項6】
複数の無線端末と基地局との間で無線信号を全二重通信する全二重無線通信方法において、
無線通信の上記各無線端末との各通信状況の類似性を判別する類似性判別ステップと、
上記基地局から発信された無線信号に基づく自己干渉を除去するための自己干渉除去ステップとを有し、
上記自己干渉除去ステップでは、自己干渉の除去方法に応じた複数種別の組み合わせで構成されるとともに、その1種別以上については2以上の自己干渉除去パターンが予め設定された自己干渉除去手段を予め取得しておき、上記類似性判別ステップによる類似性の判別結果に基づいて、上記自己干渉除去手段における2以上の自己干渉除去パターンが予め設定された種別のうち少なくとも1種別については、上記複数の無線端末間において互いに共通する自己干渉除去パターンを使用すること
を特徴とする全二重無線通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の無線端末と基地局との間で無線信号を全二重通信する全二重無線通信システム及び方法に関し、特に基地局から発信された無線信号に基づく自己干渉を効果的に除去する上で好適な全二重無線通信システム及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年において同一周波数帯域において同時にデータの送受信が可能な全二重無線通信が注目されている。全二重無線通信では、送信と受信を同時に行うことができるため、1対1の通信では通信容量を2倍にすることができ、原理上周波数の利用効率を2倍にすることができる(例えば、非特許文献1参照。)。このため、全二重無線通信の、IoTシステムを含む5G/B5Gの無線通信システムへの応用も期待されている。
【0003】
ところで、この全二重無線通信を、複数の無線端末が混在するネットワークに適用することを想定したとき、基地局と各無線端末間との通信状況や、基地局の周囲の通信状況を考慮した上で、通信タイミングを端末間で時分割で調整する必要がある。これに加えて、でも基地局から無線端末に向けて発信された無線信号が、基地局の受信アンテナに回り込む自己干渉を雑音レベルにまで減衰させる自己干渉除去を行う必要がある。かかる場合において、基地局と各無線端末間において生じる通信状況に基づいて、より最適な自己干渉除去を施す必要がある。
【0004】
基地局と各無線端末間において生じる通信状況は多様であり、この多様な通信状況に対して最適な自己干渉除去を都度施す必要が出てくる。このためには、基地局と各無線端末との間で行われる全二重無線通信の通信状況の多様性に対応できるようにするため、多岐に亘る自己干渉除去のパターンを予め準備しておく必要がある。これらの自己干渉除去のパターンを基地局側に全て実装することになれば、自己干渉時除去の処理効率が低下してしまう。従って、通信状況の多様性に対応可能な自己干渉除去のパターンを可能な限り共用することで、処理効率の低下を防止し、基地局側における動作の負担を軽減させる必要がある。しかしながら、このような基地局と各無線端末間において生じる通信状況に応じた最適な自己干渉除去を、より処理効率を向上させつつ実現する技術は未だ提案されていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Bharadia,E.McMilin,and S.Katti,”Full duplex radios” In Proceedings of the ACM SIGCOMM 2013 conference on SIGCOMM,SIGCOMM’13,pages 375-386,NewYork,NY,USA,2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、複数の無線端末と基地局との間で無線信号を全二重通信する全二重無線通信システム及び方法において、基地局から無線端末に向けて発信された無線信号が、基地局の受信アンテナに回り込む自己干渉を、基地局と各無線端末間において生じる通信状況に応じた最適な自己干渉除去をより処理効率を向上させつつ実現することが可能な全二重無線通信システム及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述した課題を解決するために、基地局の受信アンテナに回り込む自己干渉を、基地局と各無線端末間において生じる通信状況に応じた最適な自己干渉除去をより処理効率を向上させる技術を鋭意した。その結果、通信状況の多様性に対応可能な自己干渉除去のパターンを可能な限り共用するべく、基地局側において自己干渉除去手段を実装し、その自己干渉除去手段は、自己干渉の除去方法に応じた複数種別で構成されるとともに、その1種別以上については、2以上の自己干渉除去パターンが予め設定され、上記類似性判別手段による類似性の判別結果に基づいて、2以上の自己干渉除去パターンが予め設定された種別のうち少なくとも1種別については、上記複数の無線端末間において互いに共通する自己干渉除去パターンを使用可能な全二重無線通信システム及び方法を発明した。
【0008】
第1発明に係る全二重無線通信システムは、複数の無線端末と基地局との間で無線信号を全二重通信する全二重無線通信システムにおいて、上記基地局は、無線通信の上記各無線端末との各通信状況の類似性を判別する類似性判別手段と、当該基地局から発信された無線信号に基づく自己干渉を除去するための自己干渉除去手段とを有し、上記自己干渉除去手段は、自己干渉の除去方法に応じた複数種別の組み合わせで構成されるとともに、その1種別以上については2以上の自己干渉除去パターンが予め設定され、上記類似性判別手段による類似性の判別結果に基づいて、2以上の自己干渉除去パターンが予め設定された種別のうち少なくとも1種別については、上記複数の無線端末間において互いに共通する自己干渉除去パターンを使用することを特徴とする。
【0009】
第2発明に係る全二重無線通信システムは、第1発明において、上記類似性判別手段は、通信状況の種類間で類似性の度合を比較し、上記自己干渉除去手段は、上記類似性判別手段により比較された類似性の度合がより高い通信状況の種類に応じた種別をより優先させて上記自己干渉除去パターンを共通して使用することを特徴とする。
【0010】
第3発明に係る全二重無線通信システムは、第1発明又は第2発明において、上記基地局は、通信状況を示す識別子が付与された無線信号を上記各無線端末から受信し、上記類似性判別手段は、上記無線信号に付与された識別子に基づいて、上記各無線端末間の通信状況の類似性を判別することを特徴とする。
【0011】
第4発明に係る全二重無線通信システムは、第3発明において、上記類似性判別手段は、上記無線端末との通信状況を新たに判別した場合には、当該無線端末に対してその通信状況に応じた識別子を付与し、上記無線端末は、当該識別子を付与した無線信号を上記基地局に対して送信することを特徴とする。
【0012】
第5発明に係る全二重無線通信システムは、第1発明において、上記自己干渉除去手段は、自己干渉除去パターンを共通して使用する種別の候補の中から選択した種別について、上記自己干渉除去パターンを共通して使用し、更に上記候補として挙げられる周期を上記種別間において異ならせることを特徴とする。
【0013】
第6発明に係る全二重無線通信方法は、複数の無線端末と基地局との間で無線信号を全二重通信する全二重無線通信方法において、無線通信の上記各無線端末との各通信状況の類似性を判別する類似性判別ステップと、上記基地局から発信された無線信号に基づく自己干渉を除去するための自己干渉除去ステップとを有し、上記自己干渉除去ステップでは、自己干渉の除去方法に応じた複数種別の組み合わせで構成されるとともに、その1種別以上については2以上の自己干渉除去パターンが予め設定された自己干渉除去手段を予め取得しておき、上記類似性判別ステップによる類似性の判別結果に基づいて、上記自己干渉除去手段における2以上の自己干渉除去パターンが予め設定された種別のうち少なくとも1種別については、上記複数の無線端末間において互いに共通する自己干渉除去パターンを使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上述した構成からなる本発明によれば、類似する通信状況に応じて、自己干渉除去モジュールのいかなる種別については、共通するパターンを利用するかを判別する。即ち、類似性判別部により判別された類似性の高い通信状況に基づいて、共通して使用する自己干渉除去パターン並びにそれが設定された種別を選択する。このため、本発明によれば、自己干渉を、基地局と各無線端末間において生じる通信状況に応じた最適な自己干渉除去を実現でき、しかも互いに共通する自己干渉除去モジュールを利用することができることで、より処理効率を向上させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明を適用した全二重無線通信システムの構成例を示す図である。
図2図2は、本発明を適用した全二重無線通信システムに適用される基地局のブロック構成図である。
図3図3は、本発明を適用した全二重無線通信システムにおいて、無線端末と基地局との間で情報を送受信する形態について示す図である。
図4図4は、本発明を適用した全二重無線通信システムにおいて、無線端末と基地局との間で情報を送受信する形態について示す図である。
図5図5は、無線端末と基地局との間で全二重無線通信を行う他の例について説明するための図である。
図6図6は、アンテナのビームパターンの制御の第1列目の種別について、共通のアンテナを一つ実装し、ビームパターンに応じた制御をそれぞれ実行する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明を適用した全二重無線通信システム1の構成例を示している。この全二重無線通信システム1は、複数の無線端末2a、2b、・・と、これら複数の無線端末2a、2b、・・との間で情報を送受信する基地局3とを備えている。
【0017】
無線端末2は、例えばノート型のパーソナルコンピュータ(PC)、携帯端末、スマートフォン、タブレット型端末、ウェアラブル端末等の無線通信可能な無線端末で構成されている。このような無線端末2は、基地局3との間でデータを無線通信により送受信する。
【0018】
基地局3は、全二重無線通信システム1内の無線端末2との間において無線アクセスポイントとしての役割を果たし、インターネット等を始めとした公衆通信網との間においてインタフェースとしての役割を果たすものである。即ち、基地局3は、これを介して無線端末2がインターネット等を始めとした公衆通信網との間でデータの送受信を行うことを可能とするための中継手段を担うものである。
【0019】
このような各無線端末2a、2b・・・と、基地局3は、図1に示すように互いに全二重無線通信を行う。つまり、各無線端末2a、2b・・・と、基地局3は、互いにフレームの送受信を同時に行う。これにより、通信容量を2倍にすることができ、原理上周波数の利用効率を2倍にすることができる。但し、このような全二重無線通信を行う場合において、基地局3側からは、無線端末2に向けて発信された無線信号が、当該基地局3の受信アンテナに回り込む自己干渉を低減させる観点から、本発明においては、以下の図2に示すような基地局3のブロック構成を採用している。
【0020】
即ち、この基地局3は、大きく分類して自己干渉除去モジュール5と、この自己干渉除去モジュール5に接続された受信処理部6と、自己干渉除去モジュール5及び受信処理部6に接続された類似性判別部7とを備えている。
【0021】
自己干渉除去モジュール5は、図2に示すように、大きく分類して種別とパターンで構成され、その一例として自己干渉除去モジュール5を、種別とパターンで構成される配列で表示するようにしてもよい。即ち、この自己干渉除去モジュール5の表示例としては、配列の縦軸を種別で分類し、配列の横軸をパターンで分類している。
【0022】
ここでいう種別とは、実際に自己干渉除去を行う方法の種別を示すものであり、例えばアンテナのビームパターンや、フィルタ(透過器)の設定等である。ここで第1列目の種別をアンテナのビームパターンを制御することで自己干渉除去を行うモジュールで構成されているものとする。アンテナのビームパターンに応じて、除去することができる自己干渉は異なる。本発明においては、逆にこれを利用し、アンテナのビームパターンを予め複数パターン準備しておき、実際に無線通信する無線端末2a、2bに応じた最適なアンテナのビームパターンを選択することで自己干渉除去を行う。予め準備するアンテナのビームパターンはm個としたとき、アンテナのビームパターンの制御の第1列目の種別は、パターン1-1、1-2、・・・1-mで表されるものとする。
【0023】
第2列目の種別は、フィルタ(透過器)の設定を制御することで自己干渉除去を行うモジュールで構成されているものとする。フィルタ(透過器)の設定のパターンに応じて、除去することができる自己干渉は異なる。本発明においては、逆にこれを利用し、フィルタ(透過器)の設定のパターンを予め複数パターン準備しておき、実際に無線通信する無線端末2a、2bに応じた最適なフィルタ(透過器)の設定のパターンを選択することで自己干渉除去を行う。予め準備するフィルタ(透過器)の設定のパターンはn個としたとき、フィルタ(透過器)の設定制御の第2列目の種別は、パターン2-1、2-2、・・・2-nで表されるものとする。
【0024】
このようにして、配列の縦軸を種別は、自己干渉除去を行う方法の種類に応じてk個分を予め準備しておく。但し、この縦軸の種別の数は、少なくともk=2、即ち2段以上で構成されていてればよい。
【0025】
また、各種別について予め設定されたパターンの数m、n、・・・、pについては、それぞれ複数で構成されていることを前提としているが、これに限定されるものでは無い。少なくとも1種別について、パターンの数が複数であれば、他の種別に関してはパターンの数は1つであってもよい。言い換えれば、自己干渉除去モジュール5の1種別以上については、2以上の自己干渉除去パターンが予め設定されている必要がある。
【0026】
受信処理部6は、実際に無線端末2から受信された信号の受信処理を行うユニットである。この受信処理部6は、無線端末2から受信した信号が、上述した自己干渉除去モジュール5を通過してくることで、基地局3の受信アンテナに回り込む自己干渉を低減させられた信号が送られてくる。受信処理部6は、この送られてきた信号について、各種受信処理を行う。ここでいう各種受信処理は、誤り訂正符号化及び復号化、変復調処理、受信データの読み出し等の処理を行う。
【0027】
類似性判別部7は、基地局3と各無線端末2a、2b・・・間との通信状況の類似性を判別するユニットである。仮に、基地局3との間で無線通信を行うのが、無線端末2a、2bの2種類である場合、基地局3と無線端末2aとの通信状況と、基地局3と無線端末2bとの通信状況を互いに比較する。そして、これら基地局3と各無線端末2a、2b間との間で比較した通信状況の比較結果に基づき、これらの類似性を判別する。
【0028】
ここでいう通信状況とは、基地局3に対する無線端末2a、2b・・間の距離、基地局3に対する無線端末2a、2b・・間の伝搬路の状況、各通信サービスの品質等、あらゆる通信環境に基づくファクターが含まれる。仮に基地局3に対して無線端末2a、2b、2cが全二重無線通信を行う場合において、仮に無線端末2a、2bから受信する信号のみが、他から同様の干渉を受けている場合には、これら無線端末2a、2bと基地局3との通信状況は類似しているものと判断することができる。
【0029】
類似性判別部7は、このような通信状況の類似性を、無線端末2a、2b・・から受信した信号に基づいて判別することになる。かかる場合には、先ず無線端末2から信号を受信する自己干渉除去モジュール5のアンテナから、受信信号を取得し、信号強度や干渉の有無、通信サービスの品質等を識別するようにしてもよい。これらの類似性を比較する場合には、その比較対象の一つである無線端末2aから受信した信号に基づき、通信状況を取得してこれを記憶しておく。次に、他の比較対象である無線端末2bから受信した信号に基づき、通信状況を取得してこれを記憶しておく。そして、これらの記憶した各通信状況を比較することで、その類似性を判別するようにしてもよい。
【0030】
また類似性判別部7は、これらの類似性の判別を、無線通信の通信状況を示す識別子に基づいて行うようにしてもよい。この識別子は、基地局3に対して全二重無線通信を行う可能性のある各無線端末2a、2b、・・・の通信状況毎に付与されている。例えば、基地局3に対する無線端末2a、2b間の距離が類似であれば、その距離に基づく通信状況を示す識別子も類似のものとなり、類似性判別部7は、これら付与された識別子を読み取ることで互いの通信状況を容易に識別することができる。また、無線端末2側において通信サービスの品質に応じた識別子を予め割り当てておくことで、当該無線端末2から信号を受信した際に、その識別子から通信サービスの類似性を容易に判別することができる。
【0031】
ちなみに、このような識別子は、無線端末2から基地局3に送る信号のパケットデータに含めておくことで、当該パケットデータを受信した基地局3、ひいては類似性判別部7がこれを読み取ることにより、通信状況の類似性を判別することが可能となる。
【0032】
次に、本発明を適用した全二重無線通信システム1の動作について説明をする。
【0033】
図3、4は、本発明を適用した全二重無線通信システム1において、複数の無線端末2a、2bとの基地局3との間で情報を送受信する例を示している。そのうち図3は、無線端末2aと基地局3との間で情報を送受信する例であり、図4は、無線端末2bと基地局3との間で情報を送受信する例である。
【0034】
図3に示すように、無線端末2aから信号を受信した基地局3は、受信した信号に基づいて類似性判別部7により類似性を判別する。このとき、無線端末2aについて付与されている識別子から、アンテナのビームパターンの制御の第1列目の種別はパターン1-2により自己干渉除去を行い、また、フィルタ(透過器)の設定制御の第2列目の種別は、パターン2-2により自己干渉除去を行うことで、基地局3から発信した信号が回り込むことによる自己干渉を好適に除去することができるものとする。
【0035】
このような無線端末2aと基地局3との間で全二重無線通信を行う以外に、新たに無線端末2bと基地局3との間で全二重無線通信を行う場合、無線端末2bから受信した信号に基づいて類似性判別部7により類似性を判別する。即ち、類似性判別部7は、全二重無線通信を既に行っていた基地局3と無線端末2aとの通信状況に加え、基地局3と無線端末2bとの通信状況を互いに比較する。そして、類似性判別部7は、これら基地局3と各無線端末2a、2b間との間で比較した通信状況の比較結果に基づき、これらの類似性を判別する。このとき、類似性判別部7は、識別子が付与された無線信号を各無線端末2から受信した場合、これらの識別子を介してこれらの通信状況を比較することで、かかる類似性を判別するようにしてもよい。
【0036】
その結果、図4に示すように、アンテナのビームパターンの制御の第1列目の種別はパターン1-mにより自己干渉除去を行うが、フィルタ(透過器)の設定制御の第2列目の種別は、パターン2-2により自己干渉除去を行っている。即ち、類似性判別部7により、基地局3と各無線端末2a、2b間との間で通信状況を比較した結果、フィルタ(透過器)の設定制御の第2列目の種別については、各無線端末2a、2b間において互いに共通するパターン2-2を使用することで、好適に自己干渉除去が行えるものと判断した結果である。
【0037】
類似性判別部7において、通信状況の類似性を判別した結果、通信距離に関しては無線端末2a、2b間において互いに類似性はなく、非類似であるものと判断し、特にアンテナのビームパターンの制御の第1列目の種別は、互いに異なるパターン1-2、1-mをそれぞれ選択している。一方、通信状況の類似性を判別した結果、無線端末2a、2b間において同様の干渉を受けていることを判別し、これに応じて類似性判別部7には、干渉除去のフィルタを共通化させることで、同様の干渉を除去することを試みている。
【0038】
このように類似性判別部7は、類似する通信状況に応じて、自己干渉除去モジュール5のいかなる種別については、共通するパターンを利用するかを判別する。即ち、類似性判別部7により判別された通信状況の類似性に基づいて、共通して使用する自己干渉除去パターン並びにそれが設定された種別を選択する。このため、本発明によれば、自己干渉を、基地局3と各無線端末2間において生じる通信状況に応じた最適な自己干渉除去を実現でき、しかも互いに共通する自己干渉除去モジュール5を利用することができることで、より処理効率を向上させることも可能となる。
【0039】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものでは無く、例えば図5に示す例では、無線端末2aと基地局3との間で全二重無線通信を行う以外に、新たに無線端末2cと基地局3との間で全二重無線通信を行う場合の例を示している。無線端末2cから受信した信号に基づいて類似性判別部7により類似性を判別する。即ち、類似性判別部7は、全二重無線通信を既に行っていた基地局3と無線端末2aとの通信状況に加え、基地局3と無線端末2cとの通信状況を互いに比較する。そして、類似性判別部7は、これら基地局3と各無線端末2a、2c間との間で比較した通信状況の比較結果に基づき、これらの類似性を判別する。
【0040】
その結果、図5に示すように、アンテナのビームパターンの制御の第1列目の種別はパターン1-2により自己干渉除去を行うが、フィルタ(透過器)の設定制御の第2列目の種別は、パターン2-1により自己干渉除去を行っている。即ち、類似性判別部7により、基地局3と各無線端末2a、2c間との間で通信状況を比較した結果、アンテナのビームパターンの制御の第1列目の種別については、各無線端末2a、2b間において互いに共通するパターン1-2を使用することで、好適に自己干渉除去が行えるものと判断した結果である。
【0041】
類似性判別部7において、通信状況の類似性を判別した結果、通信距離に関しては無線端末2a、2b間において互いに類似性が有るものと判断し、アンテナのビームパターンの制御の第1列目の種別について共通化させることで、自己干渉除去を試みている。一方、通信状況の類似性を判別した結果、無線端末2a、2b間において互いに異なる干渉を受けていることを判別し、これに応じて類似性判別部7には、互いに異なるパターン2-1、2-2をそれぞれ割り当てることで干渉を除去している。
【0042】
かかる場合も同様に、自己干渉を、基地局3と各無線端末2間において生じる通信状況に応じた最適な自己干渉除去を実現でき、しかも互いに共通する自己干渉除去モジュール5を利用することができることで、より処理効率を向上させることも可能となる。
【0043】
即ち、本発明によれば、2以上の自己干渉除去パターンが予め設定された種別のうち少なくとも1種別について、複数の無線端末2a、2b、・・・間において互いに共通する自己干渉除去パターンを使用することでこのような処理効率の向上を図ることができる。
【0044】
このとき、上述した類似性判別部7による類似性の判別する際において、類似か、非類似かの閾値は、通信状況毎に予め設定されていてもよい。また、類似性判別部7による類似性の判別は、通信状況の種類(例えば、通信距離や、干渉)間において、相対的に比較した上で類似度のランクを付けるようにしてもよい。例えば、複数の無線端末2a、2b間の通信距離については、過去のデータを統計分析し、平均値に対する乖離度や偏差値等でその類似度合を規格化するようにしてもよい。同様に複数の無線端末2a、2b間の干渉度合についても過去のデータを統計分析し、平均値に対する乖離度や偏差値等でその類似度合を規格化するようにしてもよい。そして、通信状況の種類(通信距離、干渉)間において、その規格化された類似度合を比較することで、何れの通信状況の種類において類似度が高いかを判別する。その結果、通信距離の類似性が、干渉の類似性よりも高い場合には、通信距離の類似性が高い場合において、アンテナのビームパターンの制御の第1列目の種別において、何れかの自己干渉除去パターンを共通化させる。これに対して、干渉の類似性が、通信距離の類似性よりも高い場合には、通信距離の類似性が高い場合において、アンテナのビームパターンの制御の第1列目の種別において、何れかの自己干渉除去パターンを共通化させる。
【0045】
このように通信状況の種類間で類似性の度合を比較し、この類似性の度合が高い通信状況の種類に応じた種別をより優先させて、自己干渉除去パターンを共通化させるようにしてもよい。
【0046】
上述した実施の形態においては、アンテナのビームパターンを制御する第1列目の種別と、フィルタ(透過器)の設定を制御する第2列目の種別からなる合計2種別で自己干渉除去モジュール5を構成する場合を例にとり説明をしたが、これを3種別以上で構成する場合も同様である。
【0047】
なお、図6の例では、アンテナのビームパターンの制御の第1列目の種別について、各パターン1-1、1-2、・・・、1-mについてそれぞれアンテナを設けることで代わりに、共通のアンテナ21を一つ実装し、ビームパターンに応じた制御を各パターン1-1、1-2、・・・、1-m内において実行するようにしてもよい。
【0048】
また、上述した類似性判別部7は、基地局3に対する無線端末2の通信状況を新たに判別した場合には、その無線端末2に対してその通信状況に応じた識別子を付与するようにしてもよい。識別子が付与された各無線端末2は、事後的に基地局3に対してパケットデータを送信する際に、その識別子を重畳させた無線信号を送信することで、類似性判別部7は、無線端末2がいかなる識別子が付与されたのかを識別することができる。共通する識別子、或いは類似する識別子であれば、通信状況自体も類似することから、類似性判別部7は、その識別子同士を比較することにより類似度を判別することができる。そして、識別した類似度の内容に基づき、その通信状況に適した自己干渉除去パターンの選択を行うことも可能となる。
【0049】
更に本発明によれば、自己干渉除去パターンを共通化する種別を選択する上で、選択対象候補として挙げられた種別の中から選択をするようにしてもよい。例えば図2の例の場合、種別は、種別1(パターン1-1、1-2、・・、1-m)と、種別2(パターン2-1、2-2、・・、2-n)と、種別K(パターンK-1、K-2、・・・、K-p)の3つの種別があるものとする。このとき、選択対象候補として、種別1、2、Kの何れも入りえるが、種別1は、毎回選択対象候補に入るものの、種別2は2回に1度、種別Kは3回に一度のみ、選択対象候補に入るものとする。
【0050】
以下の表1において、各回において選択対象候補として挙げられる種別を示す。ここでいう回は、類似度を判定する回であってもよいし、互いに同一の時間間隔で規定されるものであってもよい。
【0051】
例えば、1回目は、種別1~種別Kが全て選択対象候補として挙げられている。かかる場合には、識別した類似度に応じて、自己干渉除去パターンを共通化する種別を種別1~種別Kの中から選択する。これに対して、2回目は、種別1のみが選択対象候補として挙げられている。かかる場合には、識別した類似度に応じて、自己干渉除去パターンを共通化する種別を種別1から選択する。3回目は種別1、種別2が選択対象候補として挙げられている。かかる場合には、識別した類似度に応じて、自己干渉除去パターンを共通化する種別を種別1、種別2の中から選択する。このような動作を繰り返し実行する。
【0052】
【表1】
【0053】
このように自己干渉除去パターンを共通化する種別を選択する上で、自己干渉除去パターンを共通して使用する種別の候補からなる選択対象候補として挙げられた種別の中から選択し、しかも選択対象候補として挙げられる周期を種別間において異ならせることで、毎回毎に全ての種別につき選択対象候補とすることなく、一部の種別のみを選択対象候補とすることができ、また他の一部の種別は休止させることができる。これにより、自己干渉除去パターンを共通化する一部の種別のみ起動させ、他の種別を休止させることで、使用電力を低減させることも可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1 全二重無線通信システム
2 無線端末
3 基地局
5 自己干渉除去モジュール
6 受信処理部
7 類似性判別部
21 アンテナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6