(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】難燃性織物
(51)【国際特許分類】
D03D 15/513 20210101AFI20240718BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20240718BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20240718BHJP
D03D 15/527 20210101ALI20240718BHJP
【FI】
D03D15/513
D02G3/04
D03D15/47
D03D15/527
(21)【出願番号】P 2020060567
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北阪 大輔
(72)【発明者】
【氏名】吉田 耕二
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113725(JP,A)
【文献】特表2008-517181(JP,A)
【文献】特開2018-162543(JP,A)
【文献】特開2010-174414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D、D02G、D02J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難燃性合成繊維とセルロース系繊維とを含有する紡績糸を含む織物であって、
前記紡績糸の番手が10~45番手であり、
前記織物における紡績糸の混用率が80質量%以上、かつ、難燃性合成繊維の混用率が50~90質量%であり、
前記織物は2本以上で引き揃えられた経糸と、2本以上で引き揃えられた緯糸とが交差している部分が1か所/2.54cm×2.54cm以上存在し、
かつ、ブッチャー組織またはリップストップ組織であり、表面に
シリコーン系撥水剤層又はフッ素系撥水剤層が積層されることによる撥水加工が施されて
おり、JIS L1096 A-1法(荷重4.45N、研磨紙としてP800-Cwを使用)に従って測定される平面摩耗強度が200回以上である、難燃性織物。
【請求項2】
JIS L 1091 E法に従って測定されるLOI値(限界酸素指数)が25以上である、請求項1に記載の難燃性織物。
【請求項3】
下記の測定方法にて測定される保水率が50%以下である、請求項1または2に記載の難燃性織物。
25cm×25cmの試験片の質量(W
0)を測定する。その後、試料を蒸留水中に10分間浸漬した後、試料の四隅の一端を吊り上げ、10分間そのままの状態で静止し、その後、質量(W
1)を測定する。下記式にて保水率を算出する。
保水率(%)=〔(W
1-W
0)/W
0〕×100
【請求項4】
下記の測定方法にて測定される拡散乾燥速度が40分以下である、請求項1~3の何れか1項に記載の難燃性織物。
10cm×10cmの試験片の質量(W)を測定する。次いで、試験片の裏側に0.6mlの水を滴下し、質量(W0)を測定する。そして、水を滴下した後の試験片に対し、標準状態(温度20℃、湿度65%)において質量(Wt)を測定する。そして、試験片を秤に載せたままで、質量(Wt)が、以下の算出式により求められる残留水分率(%)が10%以下となるまでの時間を計測し、この時間を拡散乾燥速度とする。
残留水分率(%)={(Wt-W)/(W0-W)}×100
【請求項5】
JIS L 1091 A-1法により区分される燃焼性試験において、燃焼性区分が3以上である、請求項1~4の何れか1項に記載の難燃性織物。
【請求項6】
サーモラボII型試験機(カトーテック株式会社製)を用い、温度20℃、湿度65%の環境で測定された消費熱量が、15W/(m
2・℃)以下である、請求項1~
5の何れか1項に記載の難燃性織物。
【請求項7】
前記難燃性合成繊維が難燃性ビニロン繊維である、請求項1~
6の何れか1項に記載の難燃性織物。
【請求項8】
前記難燃性合成繊維と前記セルロース系繊維との質量比率が、(難燃性合成繊維):(セルロース系繊維)=90:10~60:40である、請求項1~
7の何れか1項に記載の難燃性織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、難燃性を有する布帛が数多く提案されており、産業資材、衣料等の用途で幅広く使用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
難燃性布帛において、吸水性が高過ぎると、汗または降雨等の水分を吸収して重くなってしまい、作業性等が低下する場合がある。そのため、高過ぎない適度な吸水性、吸湿性を有し、速乾性に優れる難燃性布帛が求められている。例えば、特許文献1においては、適度な吸水性、吸湿性、速乾性の機能を付与するために、布帛表面に撥水加工を施しているが、撥水加工を施した布帛においては摩耗強度が不十分である場合があり、いっそうの改善の余地が残されている。
【0005】
本発明の課題は、上記のような従来技術の課題を解消するものであり、難燃性、速乾性に優れ、適度な吸水性、吸湿性を有し、撥水加工が施されていても、摩耗強度に優れる難燃性織物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、難燃性合成繊維とセルロース系繊維とを含有する紡績糸を含み、特定の織組織からなる織物とすることで、難燃性、速乾性に優れるとともに、適度な吸水性、吸湿性を有し、撥水加工が施されていても、摩耗強度に優れる織物が得られることを知見し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下の(1)~(8)を要旨とする。
(1)難燃性合成繊維とセルロース系繊維とを含有する紡績糸を含む織物であって、
前記紡績糸の番手が10~45番手であり、
前記織物における紡績糸の混用率が80質量%以上、かつ、難燃性合成繊維の混用率が50~90質量%であり、
前記織物は2本以上で引き揃えられた経糸と、2本以上で引き揃えられた緯糸とが交差している部分が1か所/2.54cm×2.54cm以上存在し、
かつ、ブッチャー組織またはリップストップ組織であり、表面にシリコーン系撥水剤層又はフッ素系撥水剤層が積層されることによる撥水加工が施されており、JIS L1096 A-1法(荷重4.45N、研磨紙としてP800-Cwを使用)に従って測定される平面摩耗強度が200回以上である、難燃性織物。
(2)JIS L 1091 E法に従って測定されるLOI値(限界酸素指数)が25以上である、(1)に記載の難燃性織物。
(3)下記の測定方法にて測定される保水率が50%以下である、(1)または(2)に記載の難燃性織物。
25cm×25cmの試験片の質量(W0)を測定する。その後、試料を蒸留水中に10分間浸漬した後、試料の四隅の一端を吊り上げ、10分間そのままの状態で静止し、その後、質量(W1)を測定する。下記式にて保水率を算出する。
保水率(%)=〔(W1-W0)/W0〕×100
(4)下記の測定方法にて測定される拡散乾燥速度が40分以下である、(1)~(3)の何れか1項に記載の難燃性織物。
10cm×10cmの試験片の質量(W)を測定する。次いで、試験片の裏側に0.6mlの水を滴下し、質量(W0)を測定する。そして、水を滴下した後の試験片に対し、標準状態(温度20℃、湿度65%)において質量(Wt)を測定する。そして、試験片を秤に載せたままで、質量(Wt)が、以下の算出式により求められる残留水分率(%)が10%以下となるまでの時間を計測し、この時間を拡散乾燥速度とする。
残留水分率(%)={(Wt-W)/(W0-W)}×100
(5)JIS L 1091 A-1法により区分される燃焼性試験において、燃焼性区分が3以上である、(1)~(4)の何れか1項に記載の難燃性織物。
(6)サーモラボII型試験機(カトーテック株式会社製)を用い、温度20℃、湿度65%の環境で測定された消費熱量が、15W/(m2・℃)以下である、(1)~(5)の何れか1項に記載の難燃性織物。
(7)前記難燃性合成繊維が難燃性ビニロン繊維である、(1)~(6)の何れか1項に記載の難燃性織物。
(8)前記難燃性合成繊維と前記セルロース系繊維との質量比率が、(難燃性合成繊維):(セルロース系繊維)=90:10~60:40である、(1)~(7)の何れか1項に記載の難燃性織物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難燃性合成繊維とセルロース系繊維とを含有する紡績糸を含み、特定の織組織からなる織物とすることで、難燃性、速乾性に優れるとともに、適度な吸水性、吸湿性を有し、撥水加工が施されていても、摩耗強度に優れる難燃性織物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1にて得られた難燃性織物の織組織(ブッチャー組織)を示す模式図である。
【
図2】実施例2にて得られた難燃性織物の織組織(リップ組織)を示す模式図である。
【
図3】比較例3にて得られた難燃性織物の織組織(綾組織)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の難燃性織物は、難燃性合成繊維とセルロース系繊維とを含有する紡績糸を含むものである。このような紡績糸を含むことで、難燃性に優れ、適度な吸水性、吸湿性を有する織物となる。
【0011】
難燃性合成繊維としては、特に限定されるものではなく、例えば難燃性を付与したビニロン繊維、難燃性を付与したレーヨン、難燃性を付与したアクリル繊維、難燃性を付与したポリエステル繊維、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、炭素繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ポリ塩化ビニル繊維、モダアクリル繊維、メラミン繊維、フッ素繊維等が挙げられる。中でも難燃性、摩耗強度に優れるとともに、より吸水性、吸湿性に優れ、さらに燃焼ガスの安全性、コストの観点から、難燃性を付与したビニロン繊維(本発明においては、難燃性ビニロン繊維という場合がある)が好ましい。
【0012】
難燃性合成繊維は、難燃性の指標である、JIS L1091 E法によって測定されるLOI値(限界酸素指数)が25以上であることが好ましく、26以上であることがより好ましい。
【0013】
難燃性合成繊維の単糸繊度は、特に限定されるものではないが、紡績性、強度等の観点から、0.5~3dtexが好ましい。0.5dtex未満であると強度に劣る場合があり、3dtexを超えると、紡績に使用できるワタの本数が減少し、紡績性に不具合が生じる場合がある。また難燃性合成繊維の繊維長は、特に限定されるものではないが、紡績性の観点から20~100mmであることが好ましい。20mm未満であると、絡み合う糸条の長さが十分ではなく紡績性が不十分となる場合がある。一方、100mmを超えると、延伸等を施し難くなり、却って紡績性が不十分になる場合がある。
【0014】
セルロース系繊維は、特に限定されるものではなく、例えば、綿、麻等の天然セルロース繊維、ビスコースレーヨン、溶剤紡糸セルロース繊維等の再生セルロース繊維が挙げられる。中でも、難燃性合成繊維として難燃性ビニロン繊維を用いる場合は、難燃性の相性がよいことから、綿が好ましい。
【0015】
綿としては、例えば、米綿、オーストラリア綿、ブラジル綿、インド綿、エジプト綿、中国綿、ギリシャ綿等が挙げられる。こうした綿は2種類以上混合されて用いられてもよい。
【0016】
セルロース系繊維の単糸繊度は、特に限定されるものではないが、紡績性、強度等の観点から、0.5~3.0dtexが好ましい。0.5dtex未満であると強度に劣る場合があり、3.0dtexを超えると、紡績に使用できるワタの本数が減少し、紡績性に不具合が生じる場合がある。またセルロース系繊維の繊維長は、特に限定されるものではないが、紡績性の観点から20~100mmであることが好ましい。20mm未満であると、絡み合う糸条の長さが不十分となるために紡績性が不十分となる場合があり、100mmを超えると、延伸等を施し難くなり、却って紡績性が不十分になる場合がある。
【0017】
難燃性合成繊維とセルロース系繊維とを含む紡績糸の番手は、10~45番手であり、15~45番手が好ましく、20~40番手がより好ましい。10番手未満であると織物とした際に分厚くなり過ぎ、風合いが損なわれて品位に劣る。45番手を超えると織物とした際に薄くなり過ぎ、摩耗強度に劣るものとなり、さらに燃焼性区分が低いものとなる。
【0018】
難燃性合成繊維とセルロース系繊維とを含む紡績糸において、難燃性合成繊維とセルロース系繊維との質量比率は、(難燃性合成繊維):(セルロース系繊維)=90:10~60:40であることが好ましく、80:20~65:35であることがより好ましい。上記範囲とすることで、難燃性と、吸水性、吸湿性といった快適性とのバランスに優れるとともに、強度をより向上させることができる。
【0019】
紡績糸としては、双糸であってもよいし、単糸であってもよい。
【0020】
本発明の難燃性織物における、上記の紡績糸の混用率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であることがさらに好ましい。
【0021】
本発明の難燃性織物における、難燃性合成繊維の混用率は50~90質量%であることが好ましく、60~85質量%であることがより好ましい。50質量%未満であると、難燃性または強度が低下する場合がある。一方、90質量%を超えると、吸水性、吸湿性、風合いが低下する場合がある。
【0022】
本発明の難燃性織物における、セルロース系繊維の混用率は、10~50質量%であることが好ましく、15~40質量%であることがより好ましい。10質量%未満であると、吸水性、吸湿性が低下し快適性が低下する場合があり、一方、50質量%を超えると難燃性が不十分となる場合がある。
【0023】
本発明の難燃性織物には、本発明の効果を損なわない範囲において、上記の紡績糸以外の糸条が含まれていてもよい。こうした糸条としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維等の合成繊維からなるマルチフィラメント、セルロース系繊維以外の天然繊維からなる紡績糸等が挙げられる。上記の紡績糸以外の糸条の混用率としては、例えば20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、0質量%であることがさらに好ましい。
【0024】
本発明の難燃性織物の厚みは、0.3~1.0mmであることが好ましく、0.4~0.8mmであることが好ましい。厚みが0.3mm未満であると、難燃性が低下する場合、または燃焼時に穴あきが発生しやすくなる場合がある。一方、1.0mmを超えると、風合いが損なわれて品位に劣る場合がある。
【0025】
本発明の難燃性織物においては、2本以上で引き揃えられた経糸と、2本以上で引き揃えられた緯糸とが交差している部分が、1か所/2.54cm×2.54cm以上存在するものであり、4か所/2.54cm×2.54cm以上存在することが好ましく、10か所/2.54cm×2.54cm以上存在することがより好ましく、50か所/2.54cm×2.54cm以上存在することがさらに好ましい。当該交差している部分が存在することで摩耗時に破損し難くなり、撥水加工が施されていても、摩耗強度を向上させることができる。当該交差している部分は、
図1、
図2における符号1で示す部分である。
【0026】
本発明の難燃性織物の表面は、撥水加工が施されていることが必要である。撥水加工が施されていることにより、後述する保水率、拡散乾燥速度を好ましい範囲とすることができ、吸水し過ぎることなく、速乾性に優れるものとなる。なお、撥水加工を施すと、織物表面の摩耗強度は低下する傾向にあるが、本発明においては、上記のような織組織を採用していることから、摩耗強度を向上させることができる。撥水加工を施す方法としては、特に限定されるものではないが、撥水剤を公知の手法で難燃性織物の表面に付与する方法が挙げられる。
【0027】
撥水剤としては、例えば、シリコーン系撥水剤、フッ素系撥水剤等が挙げられる。中でも撥水性の観点からは、フッ素系撥水剤が好ましい。フッ素系撥水剤としては、例えば、炭素数が6以下のフルオロアルキルアクリレート基を有するフッ素系撥水剤が挙げられる。中でも、フッ素原子と炭素原子4~6個が結びついたC4~6有機フッ素化合物(C4~C6)を主成分とするフッ素系撥水剤が好ましく、パーフルオロヘキサン酸(C6)系撥水剤がより好ましい。さらに、フッ素系撥水剤は、環境面の観点から、PFOA(パーフルオロオクタン酸)を実質的に含有しないことが好ましい。PFOA(パーフルオロオクタン酸)を実質的に含有しないフッ素系撥水剤としては、例えば、アサヒガードEシリーズ(旭硝子社製)、NKガードSシリーズ(日華化学社製)、ユニダインマルチシリーズ(ダイキン工業社製)等が挙げられる。
【0028】
撥水剤を織物の表面に付与する手法としては、例えば撥水剤を含む水溶液に織物を含浸し、熱処理する手法が挙げられる。また、撥水剤を含む水溶液には、速乾性の洗濯耐久性をよりいっそう優れたものとする観点から、架橋剤を含有させることが好ましい。また、撥水剤を含む水溶液には界面活性剤、柔軟剤、抗菌剤等の各種添加剤を含有させることもできる。撥水剤を含む水溶液に対して織物を含浸させる方法としては、例えば、通常のパッドドライ法等を用いればよい。
【0029】
難燃性織物における撥水剤の付着量は、紡績糸100質量%に対し、例えば、50~150質量%であることが好ましい。50質量%未満であると、撥水性が発揮し難い場合があり、150質量%を超えると、樹脂等の汚れが付着し易くなる場合がある。
【0030】
本発明の難燃性織物は難燃性に優れるものであり、JIS L 1091 E法に従って測定されるLOI値(限界酸素指数)が25以上であることが好ましく、26以上であることがより好ましく、27以上であることがさらに好ましい。LOI値を上記範囲とするために、例えば、用いる難燃性合成繊維のLOI値、およびその混用率を好ましい範囲とすることができる。
【0031】
本発明の難燃性織物は高過ぎない適度な吸水性、吸湿性を有するものであり、保水率が50%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましい。保水率が上記範囲であると、濡れた際に重くなりにくく、作業時の動きが阻害されにくくなる。本発明においては、織物の表面に撥水加工を施すことにより、保水率を上記範囲とすることができる。また保水率をより好ましい範囲とするために、例えばセルロース系繊維の混用率を特定の範囲とすることができる。保水率の測定方法は実施例において詳述する。
【0032】
本発明の難燃性織物は乾燥性に優れるものであり、拡散乾燥速度が40分以下であることが好ましく、35分以下であることがより好ましく、30分以下であることがさらに好ましい。拡散乾燥速度が上記範囲であると、濡れた後に乾きやすく、作業の際の動きが阻害される時間、または肌に接触した際に不快に感じる時間が短くなる。本発明においては、織物の表面に撥水加工を施すことにより、拡散乾燥速度を上記範囲とすることができる。拡散乾燥速度の測定方法は、実施例において詳述する。
【0033】
本発明の難燃性織物は、JIS L 1091 A-1法により区分される燃焼性試験において、燃焼性区分が3以上であることが好ましい。燃焼性区分を上記範囲とするために、例えば、難燃性ビニロン繊維の混用率、または紡績糸の番手を特定範囲とすることができる。
【0034】
本発明の難燃性織物は摩耗強度に優れるものであり、JIS L1096 A-1法(荷重4.45N、研磨紙としてP800-Cwを使用)に従って測定される平面摩耗強度が200回以上であることが好ましく、210回以上であることがより好ましく、220回以上であることがさらに好ましい。織物の組織として、上記のように2本以上で引き揃えられた経糸と、2本以上で引き揃えられた緯糸とが交差している部分が1か所/2.54cm×2.54cm以上存在する組織を採用し、紡績糸の番手を特定の範囲とすることで、平面摩耗強度を上記範囲とすることができる。平面摩耗強度の測定方法については、実施例にて詳述する。
【0035】
本発明の難燃性織物は、消費熱量が15W/(m2・℃)以下であることが好ましく、13W/(m2・℃)以下であることがより好ましく、11W/(m2・℃)以下であることがさらに好ましい。消費熱量が上記範囲であることは、難燃性織物が濡れた状態で肌に接触した際に、体温が奪われにくいことの指標である。織物の表面に撥水加工を施すことにより、消費熱量を上記範囲とすることができる。消費熱量の測定方法については、実施例にて詳述する。
【0036】
本発明の難燃性織物は、難燃性に優れるとともに、適度な吸水性、吸湿性を有し、速乾性、摩耗強度に優れることから、産業資材、一般衣料などの様々な用途に用いることができる。その用途としては、例えば、防護服、防炎防護服、作業服、手袋、エプロン、ユニフォーム、アウトドア用品、またはインテリア用品等が挙げられる。中でも、降雨時に用いられる用途、または水に濡れることが想定される用途に特に好適である。
【実施例】
【0037】
以下に実施例および比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
なお、それぞれの物性の測定方法または評価方法は以下の通りである。
【0038】
<2本以上で引き揃えられた経糸と、2本以上で引き揃えられた緯糸とが交差している部分の個数>
2.54cm×2.54cmの試験片を、株式会社キーエンス社製 デジタルマイクロスコープ VHX-900を用いて表面写真を撮影し、個数をカウントした。
【0039】
<LOI値(限界酸素指数)>
JIS L1091のE法に従って測定した。
<保水率>
25cm×25cmの試験片の質量(W0)を測定し、その後、試験片を蒸留水中に10分間浸漬した。浸漬後、試験片の四隅の一端を吊り上げ、10分間そのままの状態で静止し、その後、質量(W1)を測定した。そして、下記式にて保水率を算出した。
保水率(%)=〔(W1-W0)/W0〕×100
【0040】
<拡散乾燥速度>
10cm×10cmの試験片の質量(W)を測定した。次いで、試験片の裏側に0.6mlの水を滴下し、質量(W0)を測定した。水を滴下した後の試験片に対し、標準状態(温度20℃,湿度65%)において質量(Wt)を測定した。その後、試験片を秤に載せたままで、質量(Wt)が、以下の算出式により求められる残留水分率(%)が10%以下となるまでの時間を計測し、この時間を拡散乾燥速度とした。
残留水分率(%)={(Wt-W)/(W0-W)}×100
【0041】
<燃焼性区分>
JIS L1091のA-1法による区分に従って、評価した。
【0042】
<平面摩耗強度>
JIS L0196 A-1法(平面法)に従って測定した。ただし荷重を4.45Nとし、研磨紙として、日本研磨紙社製「P800-CW」を用いた。
【0043】
<消費熱量>
サーモラボII型試験機(カトーテック株式会社製)を用いて測定した。なお、測定環境としては温度20℃、湿度65%とした。
【0044】
(実施例1)
LOI値35の難燃性ビニロン繊維(ユニチカトレーディング株式会社製、商品名ミューロンFR)(単糸繊度:1.5dtex、繊維長:38mm)のスライバーと綿繊維(単糸繊度:1.42dtex、繊維長:32mm)のスライバーとを用意した。
【0045】
両スライバーを練条、粗紡し、上記難燃性ビニロン繊維と上記綿繊維とからなる粗糸とした。次いで、この粗糸をリング精紡機に導入して精紡し、撚り係数3.8にて30番手(英式綿番手)の紡績糸を得た。得られた紡績糸中の難燃性ビニロン繊維の混率は70質量%であり、綿繊維の混率は30質量%であった。
【0046】
次いで、この紡績糸を2本合撚し15番手の双糸を得た。得られた双糸を用い、エアージェット織機(株式会社石川製作所製)を用いて、経糸75本/2.54cm、かつ緯糸56本/2.54cmの織物を製織した。織組織としては、
図1に示すように、経糸および緯糸がランダムで2本ずつ並んで織られている組織(ブッチャー組織)とした。この組織において、2本以上で引き揃えられた経糸と、2本以上で引き揃えられた緯糸とが交差している部分は、96か所/2.54cm×2.54cmで存在していた。
【0047】
得られた織物に対して、通常の糊抜き精練、漂白、シルケットを行い、その後、スレン染料を用い連続染色方により染色を施し、カーキ色の織物を得た。上記染色した織物を下記処方1の水溶液に浸漬した。その後、浸漬した織物を取り出し、マングルにて絞り、130℃×2分の条件で熱処理をおこない、実施例1の難燃性織物を得た。
<処方1>
アサヒガードLSE-009(明成化学工業株式会社製、フッ素系撥水剤):140g/l
NKアシストV(日華化学工業株式会社製、イソシアネート系架橋剤):30g/l
リケンレジンMM-35(三木理研工業株式会社製、メラミン樹脂):3.5g/l
リケンレジンMS-150(三木理研工業株式会社製、グリオキザール系樹脂):50g/l
ハイソフターK15(明成化学工業株式会社製、シリコーン系柔軟剤):30g/l
マイネックスSO(明成化学工業株式会社製、浸透剤):2g/l
【0048】
(実施例2)
織組織を
図2に示したリップ組織とした以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2の難燃性織物を得た。この組織において、2本以上で引き揃えられた経糸と、2本以上で引き揃えられた緯糸とが交差している部分は、4か所/2.54cm×2.54cmで存在していた。
【0049】
(比較例1)
使用する紡績糸を、綿繊維(単糸繊度:1.42dtex、繊維長:32mm)を100質量%で用いて得られた紡績糸に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、比較例1の難燃性織物を得た。
【0050】
(比較例2)
使用する紡績糸を、50番手の単糸に変更した以外は、実施例1と同様の方法により、比較例2の難燃性織物を得た。
【0051】
(比較例3)
織組織を
図3に示した2/1綾組織とした以外は、実施例1と同様の方法により、比較例3の難燃性織物を得た。この組織において、2本以上で引き揃えられた経糸と、2本以上で引き揃えられた緯糸とが交差している部分は存在していなかった。
【0052】
(比較例4)
仕上げ処方を、処方1に代えて、撥水剤を含有しない下記処方2とした以外は、実施例1と同様の方法により、比較例4の難燃性織物を得た。
<処方2>
リケンレジンMM-35(三木理研工業株式会社製、メラミン樹脂):3.5g/l
リケンレジンMS-150(三木理研工業株式会社製、グリオキザール系樹脂):50g/l
ハイソフターK15(明成化学工業株式会社製、シリコーン系柔軟剤):30g/l
【0053】
実施例および比較例の評価結果を、表1に示す。
【0054】
【0055】
(考察)
実施例1~2にて得られた本発明の難燃性織物は、難燃性、速乾性に優れるとともに、適度な吸水性、吸湿性を有し、さらには摩耗強度にも優れるものであった。
【0056】
比較例1にて得られた織物は、難燃性ビニロン繊維を用いていないために、難燃性に劣るものであった。
比較例2にて得られた織物は、紡績糸として、50番手の単糸という細番手のものを用いたために、摩耗強度にも劣るものであった。さらに、燃焼性区分が低いものとなった。
比較例3にて得られた織物は、綾組織で構成されたものであり、2本以上で引き揃えられた経糸と、2本以上で引き揃えられた緯糸とが交差している部分が存在しなかったために、摩耗強度に劣るものであった。
比較例4にて得られた織物は、撥水加工が施されていなかったために、吸水性、吸湿性が高過ぎるとともに、速乾性に劣り、さらに消費熱量が高く、濡れた状態で肌に接触した際に体温を奪いやすいものであった。
【符号の説明】
【0057】
1 2本以上で引き揃えられた経糸と、2本以上で引き揃えられた緯糸とが交差している部分