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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】多孔質材料への固体の導入方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 11/00 20060101AFI20240718BHJP
   A61L 27/38 20060101ALN20240718BHJP
   A61L 27/56 20060101ALN20240718BHJP
   A61L 27/42 20060101ALN20240718BHJP
   A61L 27/44 20060101ALN20240718BHJP
   C12N 5/071 20100101ALN20240718BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
C12N11/00
A61L27/38
A61L27/56
A61L27/42
A61L27/44
C12N5/071
C12M3/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020094285
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2020195373
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2023-01-17
(31)【優先権主張番号】P 2019100085
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名 BioJapan/再生医療JAPAN 2019 開催日 2019年10月9日から2019年10月11日 集会名 BioJapan/再生医療JAPAN 2019 出展者プレゼンテーション 開催日 2019年10月9日 配布場所 BioJapan/再生医療JAPAN 2019 配布日 2019年10月9日から2019年10月11日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物 化学工業 2020年5月号(VOL.71 No.5) 発行日 2020年5月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 刊行物 日経産業新聞 2019年8月29日 発行日 2019年8月29日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載アドレス http://kokuhoken.net/jsbm/event/hokuriku_2019.html 掲載日 2019年11月 刊行物 第8回日本バイオマテリアル学会北陸信越ブロック 若手研究発表会要旨集 配布日 2019年12月6日 集会名 第8回日本バイオマテリアル学会北陸信越ブロック 若手研究発表会 開催日 2019年12月6日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載アドレス http://jsbm2019.org/index.php http://jsbm2019.org/contents/program.php 掲載日 2019年10月1日 掲載アドレス http://jsbm2019.org/index.php 掲載日 2019年11月15日 集会名 第41回日本バイオマテリアル学会大会 開催日 2019年11月24日から2019年11月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 提出先 公益財団法人双葉電子記念財団 提出日 2019年5月30日 掲載アドレス https://shingi.jst.go.jp/index.html https://shingi.jst.go.jp/list/shinshu-u/2019_shinshu-u.html 掲載日 2019年6月
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名 信州大学 新技術説明会 開催日 2019年8月6日 配布場所 信州大学 新技術説明会 配布日 2019年8月6日 掲載アドレス https://shingi.jst.go.jp/list/shinshu-u/2019_shinshu-u.html 掲載日 2019年8月 掲載アドレス https://www.youtube.com/watch?v=NDX7tKR100s 掲載日 2019年8月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 提出先 公益財団法人住友電工グループ社会貢献基金 提出日 2020年4月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】根岸 淳
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 宏太朗
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-254704(JP,A)
【文献】特開2011-160797(JP,A)
【文献】特開2013-059287(JP,A)
【文献】特開2017-212972(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0342377(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0171732(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012211390(DE,A1)
【文献】PNAS,2006年,Vol.103, No.19,pp.7426-7431
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料を密閉容器に封入して減圧し、該減圧した密閉容器中に、細胞を含む分散液を注入して一定時間接触させることを特徴とする、多孔質材料への細胞導入方法(ただし、前記多孔質材料を液体に浸した上で、個々の孔内に含まれる空気を脱気する工程を含む方法を除く)
【請求項2】
前記減圧した密閉容器中で一定時間接触させた前記多孔質材料及び前記分散液の混合物を該密閉容器で、または、当該混合物を別の密閉容器に封入して別の加圧容器で加圧する操作を加える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多孔質材料が、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ゼラチン、コラーゲン、チタン又はチタン酸化物及びハイドロキシアパタイトからなる群より選択される少なくとも一種から構成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
多孔質材料を密閉容器に封入して減圧し、該減圧した密閉容器中に、細胞を含む分散液を注入して一定時間接触させることにより、前記細胞を多孔質材料に導入してなる、前記細胞及び該多孔質材料を含む複合体の製造方法(ただし、前記多孔質材料を液体に浸した上で、個々の孔内に含まれる空気を脱気する工程を含む方法を除く)
【請求項5】
多孔質材料を密閉容器に封入して減圧し、該減圧した密閉容器中に、細胞を含む分散液を注入して一定時間接触させ、前記減圧した密閉容器中で一定時間接触させた前記多孔質材料及び前記分散液の混合物を該密閉容器で、または、当該混合物を別の密閉容器に封入して別の加圧容器で加圧する操作を加えることにより、前記細胞を多孔質材料に導入してなる、前記細胞及び該多孔質材料を含む複合体の製造方法(ただし、前記多孔質材料を液体に浸した上で、個々の孔内に含まれる空気を脱気する工程を含む方法を除く)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質材料への固体の導入方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質材料は、細孔を多数有する形状に起因して、稠密な材料と比較してかさ密度が小さくなること、用いる素材の選択により用途に応じてそのかたさ等を調整できること等から、非常に多くの分野で利用されている。
特に、近年、再生医療分野において、細胞移植あるいは人工組織移植の足場材料として注目されているが、再生医療分野においては、多孔質材料の生体適合性と共に、目的の細胞等を損傷、失活させずに、且つ、組織再生に十分な量を導入することが求められる。
【0003】
このような背景の下、再生医療分野において、各種の多孔質材料に減圧下、加圧下またはそれを繰り返して細胞等を播種あるいは導入する方法、装置あるいは細胞等を播種、導入した多孔質材料が提案されている。
例えば、減圧下に播種する方法として、注射器のシリンダに解放気孔型基材を充填し、ピストンで引圧すると同時に流動性の骨誘導物質等を吸入して解放気孔型基材に吸い込ませる骨代用材料の製造方法(特許文献1)、多孔性骨代替材料と骨誘導物質等を含む含浸剤をチャンバーに封じ込め、該チャンバーを部分的に排気して減圧下に含浸剤を浸透させる方法(特許文献2)等、加圧下に播種する方法として、例えば、遠心管に肝細胞懸濁液と多孔性材料を入れて遠心操作で肝細胞を播種し、該骨髄細胞を培養してなる人工骨材(特許文献3)、多孔性足場材料に側面に吐出口を設けたニードルを穿刺し、細胞液を充填したシリンジで細胞液を加圧注入する方法(特許文献4)、肝細胞と多孔性生体親和性材料の混合物を遠心することにより肝細胞を播種する方法(特許文献5)等、減圧下と加圧下を繰り返して播種する方法として、密閉チャンバー内に多孔質材料及び細胞液等を入れ、チャンバーの圧力を変化させて播種する方法(特許文献6)、減圧と加圧を繰り返して(具体的操作不明)細胞を播種する方法(特許文献3)などが報告されている。
しかしながら、これらの方法で製造したものは、導入又は播種された細胞等の量が不十分で、そのまま使用に供するには不適なものであった。例えば、発明方法で骨髄細胞を播種した後、適当な培養方法で約2週間培養した後、使用に供し(特許文献3)、また、発明方法(3回の遠心操作)で肝細胞を播種した後、更に6時間培養した後、使用に供している(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2004-505747
【文献】特許第4607762号
【文献】特許第5007476号
【文献】特許第6115842号
【文献】特開2005-40060
【文献】特開2006-254704
【非特許文献】
【0005】
【文献】(Kawamoto, Tadafumi, and Komei Kawamoto. "Preparation of thin frozen sections from nonfixed and undecalcified hard tissues using Kawamot’s film method (2012)." Skeletal development and repair. Humana Press, Totowa, NJ, 2014. 149-164.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、目的の固体を多孔質材料に導入するための新たな方法を提供することである。特に、再生医療において有用な、生体適合性多孔質材料に目的の細胞等を、損傷、失活させずに、且つ、組織再生に十分な量を導入できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
再生医療分野における、多孔質材料へ細胞等を播種あるいは導入する方法あるいはその装置としてこれまで、減圧下、加圧下またはそれを繰り返して多孔質材料に細胞等を播種あるいは導入する方法又は装置が幾つか提案されている(例えば特許文献1~6)。
しかしながら、これらの方法で細胞等を播種、導入した多孔質材料は、導入又は播種された細胞等の量が不十分で、そのまま使用に供するには不適なものであった。
【0008】
上記状況の下、本発明者らは、多孔質材料に、目的の固体(細胞等)を、固体(細胞等)を損傷、失活させることなく、且つ、更なる操作(培養等)を要することなく、使用(組織再生等)するに十分な量を導入できる方法を開発すべく検討を行った。
これまでの方法は、細胞または細胞分散液に応力(減圧、加圧、遠心)をかけて多孔質材料に播種、導入する方法であるため、細胞等に与える物理的影響が大きく、また、導入率も十分ではなかった。
【0009】
そこで、できるだけ細胞等に応力を掛けることなく多孔質材料に導入できる方法を見出すべく検討を行った結果、木材やセラミック等の固体に液体を含浸させる作業、例えば、鋳造品のピンホールをアクリル樹脂で含浸・封孔する作業、あるいは、木材に薬液等を浸透させる作業等において行われている、真空含浸法または真空加圧含浸法を応用することにより、当該課題が解決できると考え鋭意検討を行った。
これらの方法は、樹脂や薬液のような液状の化学物質等を含浸させることに用いられているが、固体、特に本発明の目的とする細胞等を含浸できるかは全く未知であった。
また、細胞等の生体物質を樹脂や薬液等と同じように含浸できるか、さらに、細胞等が真空、加圧等の物理的な応力に耐えられるかについても全く不明であった。
【0010】
本発明者らは、これらの点を解明すべく鋭意検討した結果、多孔質材料を密閉容器に封入して減圧した上で、当該密閉容器中に、目的の固体を含む分散液を注入して一定時間接触させることにより、固体を含む分散液に直接応力を掛けることなく、従って、細胞等が死滅せず、増殖能にも影響を与えることなく、且つ、効率的に、多孔質材料に導入できることを見出した。
さらに、所望に応じて前記減圧した密閉容器中で一定時間接触させた前記多孔質材料及び前記分散液の混合物を該密閉容器で、または、該混合物を別の密閉容器に封入して別の加圧容器で加圧する操作を加えることにより、さらに高導入率で、細胞等を多孔質材料に導入できることを見出した。
【0011】
本発明はかかる新規の知見に基づくものである。すなわち、本発明は、以下の項を提供する:
項1.多孔質材料を密閉容器に封入して減圧し、該減圧した密閉容器中に、目的の固体を含む分散液を注入して一定時間接触させることを特徴とする、多孔質材料への固体導入方法。
【0012】
項2.前記減圧した密閉容器中で一定時間接触させた前記多孔質材料及び前記分散液の混合物を該密閉容器で、または、該混合物を別の密閉容器に封入して別の加圧容器で加圧する操作を加える、項1に記載の方法。
【0013】
項3.前記目的の固体が細胞である、項1又は2に記載の方法。
【0014】
項4.前記多孔質材料が、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ゼラチン、コラーゲン、チタン又はチタン酸化物及びハイドロキシアパタイトからなる群より選択される少なくとも一種から構成される、項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0015】
項5.多孔質材料を密閉容器に封入して減圧し、該減圧した密閉容器中に、目的の固体を含む分散液を注入して一定時間接触させることにより、目的の固体を多孔質材料に導入してなる、該固体及び該多孔質材料からなる複合体の製造方法。
【0016】
項6.多孔質材料を密閉容器に封入して減圧し、該減圧した密閉容器中に、目的の固体を含む分散液を注入して一定時間接触させ、該減圧した密閉容器中で一定時間接触させた該多孔質材料及び該分散液の混合物を該密閉容器で、または、該混合物を別の密閉容器に封入して別の加圧容器で加圧する操作を加えることにより、目的の固体を多孔質材料に導入してなる、該固体及び該多孔質材料からなる複合体の製造方法。
【0017】
項7.項1~6のいずれか一項に記載の方法により得られる、固体及び多孔質材料からなる複合体。
【0018】
項8.目的の固体を多孔質材料に導入するためのキットであって、多孔質材料及び該多孔質材料を封入して、0.001~800mbarの圧力に減圧でき、且つ、当該固体を含む分散液を注入することができる密閉容器を備える、キット。
【0019】
項9.該多孔質材料と該分散液の混合物を0.1~100MPaの圧力に加圧することができる手段をさらに備える、項8に記載のキット。
【0020】
項10.前記密閉容器が、該多孔質材料と該密閉容器の内側面との間に空隙がある態様を備えたものである、項8又は9に記載のキット。
【0021】
項11.前記密閉容器が、該密閉容器の中間部または底部に多孔質材料を保持できる態様を備えたものである、項8~10のいずれか一項に記載のキット。
【0022】
項12.項8~11のいずれか一項に記載のキットであって、項1~6のいずれか一項に記載の方法に用いるための、キット。
【0023】
項13.固体を含む分散液を注入するための手段をさらに含む、項8~12のいずれか一項に記載のキット。
【発明の効果】
【0024】
本発明の方法は、多孔質材料を密閉容器に封入して減圧し、該減圧した密閉容器中に、目的の固体を含む分散液を注入して一定時間接触させるものである。
本発明によれば、目的の固体を、固体への物理的影響を抑え、目的の機能を発揮するに十分な量を、且つ、更なる操作を加えることなく多孔質材料に導入できる画期的な方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】参考例1におけるマウス線維芽細胞 (L929) へのVPIの影響評価の実験外略図を示す。
図2】参考例1の実験結果を示す。図2左のグラフにVPI処理した細胞数及びVPI処理していない細胞数を示す。図2右の写真は、VPI処理した試験における1日後の試料の顕微鏡写真である。
図3】実施例におけるVPI処理の概略を示す。
図4】実施例1の結果(各試験区における細胞懸濁液導入率)を示す。
図5】実施例2のHE染色の結果を示す。
図6】実施例4の結果(各試験区における細胞懸濁液導入率)を示す。
図7】実施例5の結果(各試験区における細胞懸濁液導入率)を示す。
図8】実施例6の結果(HE染色の結果)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の方法は、上記のとおり、多孔質材料を密閉容器に封入して減圧し、該減圧した密閉容器中に、目的の固体を含む分散液を注入して一定時間接触させる方法である。すなわち、応力(減圧)を固体分散液に掛けず、多孔質材料に掛けるため、固体に与える物理的影響が極めて弱い。さらに、多孔質材料全体が減圧されていることから、該多孔質材料の周囲、少なくとも上面又は下面及び側面の複数方向から当該分散液が導入される。
【0027】
すなわち、従来法(例えば、特許文献1~6)のように、細胞等または分散液に応力(減圧、加圧又は遠心等)を掛けて、細胞等を強制的に導入するのではなく、減圧状態の多孔質材料の細孔に、該多孔質材料の周囲にある固体分散液を自動的に流入させる方法であることから、固体そのものへ応力がかからず、固体に対する物理的影響が少なく、しかも、該多孔質材料の周囲から固体分散液が流入することから、固体(分散液)の導入率が高い方法である。
【0028】
さらに、本発明の方法は、前記減圧した密閉容器中で一定時間接触させた前記多孔質材料及び前記分散液の混合物を該密閉容器で、または、該混合物を別の密閉容器に封入して別の加圧容器で加圧する操作を加えるものである。
すなわち、本発明方法の加圧操作は、従来法(例えば特許文献3、4、5)のような、細胞等に応力を掛けて強制的に導入するためではなく、減圧・接触操作で固体分散液を導入した多孔質材料と固体分散液の混合物全体に圧力をかけて多孔質材料の中心部まで該分散液を浸透させると同時に、該分散液を追加導入するものである。この加圧操作を加えることにより、固体の導入量をより多く、しかも多孔質材料の中心部まで当該固体を導入することができる。また、加圧の応力が当該多孔質材料及び当該分散液の混合物にかかる為、固体そのものに対する物理的影響が少ないものである。
【0029】
本明細書においては、当該減圧・接触操作に加圧操作を加える処理をVPIまたはVPI処理と称する。
本発明方法のVPI処理による固体(細胞等)に与える影響が極めて少ないことについては、例えば、マウス線維芽細胞(L929)を用いて試験を行い、1日後の生細胞数及び培養皿への接着において、VPI処理による細胞数減少は認められず、培養皿への接着にも変化は認められないことを確認している(参考例1)。
【0030】
本発明の方法は、減圧または加圧の応力が固体そのものではなく、多孔質材料または多孔質材料及び固体分散液の混合物にかかる為、固体そのものに対する物理的影響が少ないものである。また、多孔質材料を構成する一方向の面のみ(例えば、上面のみ、下面のみ等)からではなく、複数方向の面(例えば、上面または下面及び側面若しくは全面)から固体分散液が浸透するため、より効率的に多孔質材料に固体を導入することができるものであり、固体が細胞等の場合の導入方法として極めて好適な方法である。
以下に、本発明の内容をさらに詳細に説明する。
【0031】
1.目的の固体を多孔質材料に導入するための方法
本発明は、多孔質材料を密閉容器に封入して減圧した上で、該密閉容器中に、目的の固体を含む分散液を注入して一定時間接触させ、所望に応じ、該減圧した密閉容器中で一定時間接触させた該多孔質材料及び該分散液の混合物を該密閉容器で、または、該混合物を別の密閉容器に封入して別の加圧容器で加圧する操作を加えることにより、目的の固体を効率的に、しかも、固体への物理的影響を抑え、且つ、目的の機能を発揮するに十分な量を、多孔質材料に導入するための方法を提供する。
【0032】
本発明の方法においては、まず多孔質材料を密閉容器に封入し、該密閉容器を減圧する。目的の固体を導入するための多孔質材料の素材としては、特に限定されず、有機化合物であっても、無機化合物であっても、これらを組み合わせたものであってもよい。有機化合物としては、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ゼラチン、コラーゲン、ヒアルロン酸、ポリ乳酸・ グリコール酸共重合体(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、コンドロイチン硫酸、キチン、キトサン、セルロース、アルギン酸、フィブロネクチン、ラミニン、ポリエチレン等の高分子化合物等、脱細胞化生体組織や架橋生体組織が挙げられる。また、無機化合物としては、例えば、チタン、金、銀、ニッケル、ニッケルークロム合金、ステンレス等の金属;これらの金属の酸化物;ハイドロキシアパタイト、ジルコニア、アルミナ、リン酸カルシウム等が挙げられる。目的の固体として細胞を用いる場合等には、多孔質材料の素材として生体適合性材料を用いることが好ましい。多孔質材料の形状は特に限定されず、例えば、板状、ブロック、ボルト、チューブ等のものを使用することができる。板状の場合、略円形、多角形、扇形等のものを使用することができる。寸法も特に限定されないが、略円形の場合、長径方向の径が、例えば、0.1~100cm、好ましくは0.3~50cm、より好ましくは0.5~10cmのものを使用できる。厚みとしては、例えば、0.1~20cm、好ましくは0.1~10cm、より好ましくは0.1~1cmのものを使用できる。多孔質の細孔の平均孔径は、例えば、5~500μm、好ましくは10~250μm、より好ましくは15~100μmのものを使用できる。平均孔径は、走査型電子顕微鏡による測長や水銀圧入法とガス吸着法により測定することができる。
【0033】
多孔質材料を封入する密閉容器としては特に限定されず、バイアル瓶、真空容器、金属容器等を用いることができる。バイアル瓶等の瓶を用いる場合、その寸法は特に限定されないが、例えば、容量が0.1~500ml、好ましくは0.5~100ml、より好ましくは1~6mlのものを用いることができる。
【0034】
当該減圧操作における圧力としては特に限定されないが、例えば、0.001~800mbar、好ましくは0.005~600mbar、より好ましくは0.01~500mbarの範囲で適宜設定できる。減圧操作における温度は特に限定されず、例えば、0~50℃、好ましくは4~30℃、より好ましくは10~25℃の範囲で適宜設定できる。減圧操作の時間も特に限定されないが、減圧開始から減圧操作を終了するまでの時間として、例えば、1~100分間、好ましくは2~50分間、より好ましくは3~30分間の間で適宜設定できる。
【0035】
本発明の方法においては、密閉容器を減圧した後、該減圧した密閉容器中に、目的の固体を含む分散液を注入して一定時間接触させる操作を行う。
【0036】
目的の固体としては、特に限定されないが、例えば、細胞、金属粒子、セラミックス粒子、不溶性タンパク質等が挙げられる。これらの中でも細胞、特に生きた細胞が好ましい。目的の固体として細胞を用いる場合、多孔質材料への導入を、多孔質材料への細胞浸潤と言い換えることもできる。細胞としては、特に限定されないが、例えば、体細胞(例えば、骨芽細胞、骨細胞、筋肉細胞、神経細胞、軟骨細胞、肝細胞等)等が挙げられる。また、使用しうる細胞としては、分化又は未分化の幹細胞(間葉系幹細胞、造血系幹細胞、iPS細胞、ES細胞、神経幹細胞、精子幹細胞等)等を用いることもできる。これらの細胞としては、哺乳動物、鳥類等に由来するものが挙げられる。哺乳動物としては、ヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ハムスター、ブタ等が挙げられ、好ましくはヒトである。
【0037】
目的の固体を分散するための液体としては特に限定されないが、水、有機溶媒、油、緩衝溶液、これらの混合液等を挙げることができる。また、これらの液体にタンパク質、血清、抗生物質等を添加した溶液を用いてもよい。目的の固体として細胞を用いる場合、当該細胞を培養するための培地を液体として用いることができる。また、培地には、細胞培養養分の他に細胞増殖因子等を加えてもよい。培地としては特に限定されないが、例えば、液体培地、寒天培地、コラーゲン含有培地等を挙げることができる。特に細胞を分散する実施形態においては、培地等の溶液のpHは、多孔質材料に細胞を導入した後の培養の観点から、例えば、2~11、好ましくは3~10、より好ましくは5~9の範囲で適宜設定できる。
【0038】
分散液中の固体の添加量は特に限定されないが、例えば、分散液質量に対し、固体を、0.001~50質量%、好ましくは0.01~25質量%、より好ましくは0.1~10質量%添加することができる。目的の固体として細胞を用いる場合、分散液中の細胞の添加量は特に限定されないが、例えば、1.0×101~1.0×1010cells/mL、好ましくは1.0×102~1.0×109cells/mL、より好ましくは1.0×103~1.0×108cells/mL添加することができる。
【0039】
接触操作における温度は特に限定されないが、例えば、分散液の凝固点から25℃、好ましくは0~90℃、より好ましくは4~40℃の範囲で適宜設定できる。目的の固体として細胞を用いる場合、細胞を生育しうる範囲であれば特に限定されないが、例えば、好ましくは0~50℃、より好ましくは4~37℃の範囲で適宜設定できる。多孔質材料に分散液を接触させる時間も特に限定されないが、例えば、0.1~60分間、好ましくは0.5~30分間、より好ましくは1~10分間の間で適宜設定できる。減圧した多孔質材料に分散液を接触させることにより、多孔質材料の細孔中に分散液(分散液に含まれる固体)を効率的に導入することができる。本発明の方法によれば、細胞を生きたまま多孔質材料中に導入することができるため好ましい。本発明において細胞を生きたまま多孔質材料中に導入できる理由としては、細胞が懸濁液の状態で減圧下に置かれるため、細胞内の水分が蒸発する等の減圧下の悪影響を受けにくいためと考えられる。また、従来法のような、応力(減圧、加圧又は遠心等)で強制的に固体(細胞等)を導入するのではなく、減圧状態の多孔質材料の細孔に、多孔質材料の周囲にある固体分散液が、複数方向の流路から自動的に流入するものであることから固体そのものに対する物理的影響が少ないためと考えられる。
【0040】
さらに、本発明によれば、減圧された多孔質材料の内部に、多孔質材料の周囲、少なくとも上面又は下面及び側面の複数方向から該分散液を導入させるものであることから、目的の固体(細胞等)を、短時間で大量導入できると同時に、多孔質材料の表面だけでなく、その中心付近まで移行させることができるため、非常に有用である。
【0041】
本発明方法の典型的実施形態においては、図3の「真空密栓」及び「細胞懸濁液注入」に示すように、当該接触操作において当該多孔質材料全体が分散液に浸漬できるように、上記密閉容器の内側面と上記多孔質材料との間に空隙があることが好ましい。例えば、同図3の「真空密栓」及び「細胞懸濁液注入」に示すような、密閉容器における空洞部の底面上に多孔質材料を置いた状態で、あるいは、多孔質材料を籠状の容器に入れて密閉容器の中間部に保持した状態で、多孔質材料全体を分散液に浸漬して、目的の固体を含む分散液への接触操作が行われる。従って、当該実施形態においては、多孔質材料を構成する一方向の面のみ(例えば、上面のみ、下面のみ等)からではなく、複数方向の面(例えば、上面又は下面及び側面あるいは全面)から分散液が浸透するため、より効率的に多孔質材料中に固体を導入することができる。
【0042】
本発明の方法においては、上記減圧操作及び接触操作の後、所望に応じ、前記減圧した密閉容器中で一定時間接触させた該多孔質材料及び該分散液の混合物を、該密閉容器中で、または、別の密閉容器に封入して加圧容器中で加圧する操作を加える。
該加圧操作は減圧・接触操作と同じ容器中で行ってもよいし、減圧・接触操作とは別の加圧に適した容器(例えば、封のできる樹脂性の袋状容器(ユニパック(登録商標)等))に移しかえた後、別の加圧容器でおこなってもよい。本発明において、「多孔質材料及び分散液の混合物」には、図3の「材料と細胞懸濁液を封入」に示すように、分散液中に多孔質材料が浸漬しているものも包含される。
【0043】
当該加圧操作における圧力としては特に限定されないが、例えば、0.1~100MPa、好ましくは0.1~10MPa、より好ましくは0.3~1.5MPaの範囲で適宜設定できる。加圧操作における温度は特に限定されず、例えば、0~90℃、好ましくは0~50℃、より好ましくは4~37℃の範囲で適宜設定できる。加圧操作の時間も特に限定されないが、加圧開始から加圧操作を終了するまでの時間として、例えば、0.1~60分間、好ましくは0.5~30分間、より好ましくは1~10分間の間で適宜設定できる。
【0044】
また本発明の好ましい実施形態においては、該加圧操作において、図3の「加圧処理」に示すように、該多孔質材料と該分散液混合物全体に圧力がかかるように、該密閉容器の内側面と該多孔質材料との間に空隙があることが好ましい。本発明方法の加圧操作においては、多孔質材料及び分散液の混合物を減圧・接触操作の密閉容器でそのまま、または、該混合物を別の密閉容器に封入して別の加圧容器で加圧が行われるが、該混合物を別の密閉容器に封入して別の加圧容器で加圧する方が好ましい。
該加圧操作は、上記のとおり、従来法(例えば特許文献3、4、5)のような、細胞等を多孔質材料に、遠心等による応力で強制的に導入するためのものではなく、減圧・接触操作で固体分散液を導入した該多孔質材料と該固体分散液の混合物全体に圧力をかけて多孔質材料の中心部まで該分散液を浸透させると同時に、該分散液を追加導入するためのものである。
【0045】
従って、本発明の方法は、多孔質材料を構成する一方向の面のみ(例えば、上面のみ、下面のみ等)ではなく、全面から加圧することで、より効率的に、且つ、多孔質材料の中心部まで固体を導入することができると同時に、加圧の応力が固体そのものではなく、当該多孔質材料及び当該分散液の混合物にかかる為、固体そのものに対する物理的影響を軽減することができる。
【0046】
本発明の方法により、多孔質材料を密閉容器に封入して減圧した上で、減圧した多孔質材料に対し目的の固体を含む分散液を接触させること、任意選択でさらに加圧操作を加えることにより、該分散液を多孔質材料中に浸透させることができ、それにより目的の固体を多孔質材料の内部に導入することができる。
【0047】
本発明の方法においては、減圧・接触操作だけでも十分な導入が得られるが、加圧操作を加えることでさらに良好な導入を得ることができる。なお、減圧・接触操作及び加圧操作を行う場合、それぞれ1回ずつ行えば十分である。
また、本発明の方法は、上記減圧・接触操作、及び任意選択の加圧操作の後、分散液を浸透させた多孔質材料を容器から回収する操作を含んでもよい。
【0048】
2.多孔質材料に目的の固体を導入してなる、複合体及びその製法
本発明は、多孔質材料を密閉容器に封入して減圧した上で、当該密閉容器中に、目的の固体を含む分散液を注入して一定時間接触させることにより、また、所望に応じ、前記減圧した密閉容器中で一定時間接触させた前記多孔質材料及び前記分散液の混合物を該密閉容器で、または、当該混合物を別の密閉容器に封入して別の加圧容器で加圧する操作を加えることにより、目的の固体を多孔質材料に導入してなる、該固体及び該多孔質材料からなる複合体を製造するための方法を提供する。また別の実施形態において本発明は、多孔質材料に目的の固体を導入してなる、複合体を提供する。
【0049】
これらの実施形態における各種材料の種類、量、各操作の条件等は、「1.目的の固体を多孔質材料に導入するための方法」において前述した通りである。
【0050】
3.目的の固体を多孔質材料に導入するためのキット
本発明は、目的の固体を多孔質材料に導入するためのキットであって、多孔質材料及び当該多孔質材料を封入して減圧でき、且つ、目的の固体を含む分散液を注入することができる密閉容器を備える、キットも提供する。さらに本発明は、当該密閉容器が、当該多孔質材料と当該分散液の混合物を加圧することができる態様を備えたものであるキット、当該密閉容器が、当該多孔質材料と当該密閉容器の内側面との間に空隙がある態様を備えたキット、密閉容器が、当該密閉容器の中間部または底部に多孔質材料を保持できる態様を備えたものであるキットも提供する。当該実施形態における各種材料の種類、量、各操作の条件等は、「1.目的の固体を多孔質材料に導入するための方法」において前述した通りである。本発明の好ましい実施形態において、密閉容器は、「1.目的の固体を多孔質材料に導入するための方法」に記載の減圧度で減圧操作をする工程及び同記載の加圧操作をする工程を該密閉容器内に対し行う場合に用いられる。当該実施形態においては、密閉容器は、上記減圧・接触操作での減圧度に耐え得るものであり、また加圧操作を行う場合、当該加圧操作での加圧度に耐え得るものであれば特に限定されない。また、密閉容器は上記減圧操作及び/又は加圧操作を行うことができる減圧装置及び/又は加圧装置を備えていてもよい。別の実施形態においては、本発明のキットは、密閉容器とは別に、これらの減圧装置及び/又は加圧装置を含んでいてもよい。減圧装置としては、「1.目的の固体を多孔質材料に導入するための方法」に記載の減圧度で減圧できるものであれば特に限定されず、本発明の属する技術分野において通常使用される減圧装置であればどのようなものでも用いることができる。加圧装置としても、「1.目的の固体を多孔質材料に導入するための方法」に記載の加圧度で加圧できるものであれば特に限定されず、本発明の属する技術分野において通常使用される加圧装置であればどのようなものでも用いることができる。加圧装置としては、ポンプ、シリンジ等が挙げられる。また、シリンジを用いる場合、本発明のキットは、加圧の際に密閉容器内の圧力でプランジャーが押しもどされることを防ぐ手段(例えば、密閉容器に取り付け可能なプランジャー戻り防止用器具等の器具(例えば、密閉容器に取り付け用部材、ボルト、ナット状の部材を含む器具)等)等をさらに備えてもよい。このような手段を用いることによって、より確実な加圧可能になるため、多孔質材料と当該分散液の混合物を所定の圧力(例えば、前述した圧力)に加圧することができる。また、本発明のキットは、密閉容器に加え、目的の固体を含む分散液を注入するための手段を備えていてもよい。固体を含む分散液を注入するための手段としては、シリンジ等が挙げられる。
【0051】
本発明のキットにおいて、当該多孔質材料は、密閉容器に封入されていてもよい。本発明のキットは、さらに、目的の固体の分散液を密閉容器に注入するための注射器、目的の固体を多孔質材料に導入するための方法又は前記複合体を製造するための方法が記載された指示書等をさらに備えていても良い。
【実施例
【0052】
製造例1. PLA材料の作製
PLA材料は、凍結抽出法を使用して作製した。まず、PLAを1,4-ジオキサンに溶解させ、フィルター濾過を行ってユニパックに封入し、-20℃の99.5%エタノール中で一晩凍結させた。続いて1,4-ジオキサンを除去するために99.5%エタノールにユニパックから取り出した凍結PLA溶液を浸漬し、-20℃で24時間静置し、最後に風乾させPLA材料とした。得られたPLA材料の形状は、円柱状(直径約1cm、高さ約1cm)であった。PLAを1,4-ジオキサンに溶解させる際に5.0w/v%、7.5 w/v%、10 w/v%、15w/v%の4つの濃度のPLA溶液を使用した。
【0053】
作製したPLA材料をSEM (信州大学機器分析支援部門上田分室施設) で観察することにより、多孔性の確認と孔径の測定を行った。より具体的には、走査型電子顕微鏡(JSM-6010LA:日本電子(株)社製)により、当該多孔質材料の5箇所の画像を測定し、当該走査型電子顕微鏡の付属ソフトを用いて1個の画像に対し20個の細孔(合計100個の細孔)の口径を測定し、その平均値を算出した。このようにして求めた平均孔径は、約15μmであった。
【0054】
製造例2. ゼラチン材料の作製
ゼラチンを60℃の蒸留水で溶解し、5%ゼラチン溶液を作製した。5%ゼラチン溶液をモールド内で冷却、0.25%グルタルアルデヒドに浸漬した。固定後、ゼラチンを凍結乾燥してゼラチン多孔質材料を作製した。当該ゼラチン多孔質材料の平均孔径は、約30μmであった。
【0055】
参考例1. マウス線維芽細胞 (L929) へのVPIの影響評価
本研究におけるVPIの圧力条件は、真空処理が11 Paで2分間、加圧処理が1.45 MPaで5分間とした。最初に、この圧力条件が細胞の生死・増殖に影響するか検証した。
【0056】
図1に実験の概略図を示す。まず、凍結乾燥機で空の凍結乾燥瓶(5ml容量)の内部を真空にし、ここに18 Gの針を付けたシリンジでL929懸濁液 (1.0×106cells/mL) を約3ml流し込み、シリンジを刺したまま5分間放置して真空処理とした。続いて真空処理を行った細胞懸濁液をユニパックに移し替え、シーリングにより密閉した後に耐圧水槽を用いて室温で1.45 MPa、5分間の加圧処理を行った。
【0057】
未処理、VPI、真空処理、加圧処理の4つの群の細胞懸濁液を96ウェルプレートに播種し、1日、3日、7日後に生細胞数をCell Counting Kit-8試薬を用いて定量した。
結果を図2に示す。図2左のグラフの左(VPI○)はVPI処理した試験における1日後の生細胞数を示す。図2左のグラフ、右(VPIX)は、VPI処理していない試験における1日後の生細胞数を示す。図2に示すように、VPI処理による細胞数減少は認められず、培養皿への接着にも変化は認められなかった。
【0058】
実施例1. L929の多孔質材料への導入と培養
製造例1で作製したPLA材料の内、PLA溶液濃度7.5w/v%、10w/v%、15w/v%の材料について、参考例1と同様の条件で細胞懸濁液の導入を行った。概略図を図3に示す。細胞懸濁液の導入前後のPLA材料の重量を測定し、重量増加から細胞懸濁液の導入率を算出した。結果を図4に示す(VPI)。減圧及び加圧処理を両方行うことに代えて減圧処理のみ行った結果をvacuumと、加圧処理のみ行った結果をpressureと、減圧も加圧も行なわず細胞懸濁液を多孔質材料に接触のみさせた結果をimmersingと示す。図4に示すように、すべての孔径でVPIとvacuumの導入率が高く、pressureはimmersingよりは導入率が高かったが、VPIとvacuumよりは導入率が低かった。
【0059】
実施例2. ヘマトキシリン・エオジン (HE) 染色
上記実施例1の試験を行なった各多孔質材料について、材料内の細胞の分布を確認するため、凍結切片のHE染色を行った。凍結包埋ブロック作製及び切片作製には川本法を使用した。4℃の包埋剤に-80℃の試料を浸漬し、-78℃の条件で凍結させ、凍結包埋ブロックを作製した。次にクライオスタット(庫内温度 -30℃)で凍結包埋ブロックの面出しを行い、試料断面に切片作製用フィルムを張り付けて切削することで10 μmの切片を得た。切片を99.5%エタノールに浸漬後、4%パラホルムアルデヒド溶液で固定し、ヘマトキシリン、エオジンにより染色した。その後、染色切片を顕微鏡で観察した。結果を図5に示す。
図5に示すようにVPIにより、細胞懸濁液がPLAに導入された。また、図5右に、VPI処理したサンプル断面のHE染色写真を示す。図5右に示すように、約15分の処理で、材料内部まで細胞浸潤していた。
【0060】
実施例3. DNA定量
DNA定量を行い、細胞導入後の材料内の細胞量を解析した。細胞導入1日、3日、7日後のPLA材料を凍結乾燥し、500 μLのLysis buffer、50 μLのProteinase Kを加えて破砕した。次にフェノール/クロロホルム/イソアミルアルコール(25:24:1) を加えて転倒混和し、PLA材料の溶解を確認してから4℃、12000 rpmで5分間遠心した。遠心後、500 μLの上清を回収し、1000 μLの99.5%エタノールと50 μLの5.0 M NaClを添加、転倒混和し、-80℃で10分間静置した。最後に4℃、15000 rpmで遠心して上清をデカンテーションにより除去、70%エタノールで洗浄してDNAを得た。抽出DNAをTEに溶解し、PicoGreen(登録商標)試薬を用いた蛍光強度測定を行い、DNA量を定量した。
【0061】
実施例4
PLAの多孔質に代えて、製造例2で得られたゼラチン材料の多孔質を用いる以外、実施例1と同様にして、細胞懸濁液の導入率の測定を行った。結果を図6に示す。図中、*はP値が0.05未満を、**はP値が0.01未満を示す。図6に示すように、VPI処理、減圧処理、加圧処理、浸漬処理の順に細胞懸濁液が高く、それぞれの群の導入率には有意差があった。
【0062】
実施例5
コラーゲン多孔質材料への導入と培養
市販のコラーゲン多孔質材料に対して、参考例1と同様の条件で細胞懸濁液の導入を行った。細胞懸濁液の導入前後のコラーゲン多孔質材料の重量を測定し、重量増加から細胞懸濁液の導入率を算出した。結果を図7に示す。図7に示すように、すべての孔径でVPIとvacuumの導入率が高く、pressureはimmersingよりは導入率が高かったが、VPIとvacuumよりは導入率が低かった。
【0063】
実施例6
4. rADSC含有コラーゲン材料のラット皮下埋植試験
細胞コラーゲン材料の生体内挙動評価として、ラット皮下埋植試験を行った。具体的には、まず、コラーゲン材料としては、コラーゲンスポンジ マイティー(高研社製)を使用した(形状:円柱状、直径約0.5cm、高さ約0.5cm)。得られたコラーゲン材料及びラット脂肪由来幹細胞(rat adipose derived stem cell: rADSC)の懸濁液(2.0×105 cells/mL)を用い、実施例1と同様にして、コラーゲン材料にrADSCを導入した。細胞導入後、3日後のコラーゲン材料をラット皮下埋植した(「rADSC含有コラーゲン材料」群)。同様に、rADSCを導入していないコラーゲン材料もラット皮下埋植した(「コラーゲン材料」群)。
埋植14日目の組織学的染色評価の結果を図8に示す。組織学的染色評価において、コラーゲン材料の端部には細胞が認められ、中央部には細胞が認められなかった。一方、rADSC含有コラーゲン材料では、端部と中央部ともに細胞が認められ、コラーゲン材料以外の細胞外マトリックスが観察された。以上から、rADSC含有により、細胞浸潤や組織再生が促進された可能性が示唆された。コラーゲン材料内部のrADSCが直接またはレシピエント細胞の遊走を促進したことで、組織再生が早期に生じたと推察される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8