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特許7522478超臨界・亜臨界流体装置、溶媒抽出分離方法及び製品の製造方法
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  • 特許-超臨界・亜臨界流体装置、溶媒抽出分離方法及び製品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】超臨界・亜臨界流体装置、溶媒抽出分離方法及び製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 11/00 20060101AFI20240718BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B01D11/00
G01N30/02 N
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022198740
(22)【出願日】2022-12-13
(65)【公開番号】P2024084458
(43)【公開日】2024-06-25
【審査請求日】2024-03-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】大田 昌樹
(72)【発明者】
【氏名】猪股 宏
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0200774(US,A1)
【文献】特開2007-330964(JP,A)
【文献】特開昭61-210044(JP,A)
【文献】国際公開第2019/053887(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D11/00-12/00
G01N30/02-30/88
B01J3/00-3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分離抽出用カラムと、
前記分離抽出用カラムの下部に第一の流路を介して接続され、超臨界流体となる移動相を供給する第一の送液部と、
前記分離抽出用カラムの上部に第二の流路を介して接続され、分離対象物を供給する第二の送液部と、
前記分離抽出用カラムの下部に第三の流路を介して接続され、前記分離抽出用カラム内を、前記移動相を超臨界流体状態に保つ第一の加圧状態とする第一の背圧調整機構と、
前記分離抽出用カラムの上部に第四の流路を介して接続され、前記分離抽出用カラム内を、前記移動相を超臨界流体状態に保つ第二の加圧状態とする第二の背圧調整機構と、
前記第一の背圧調整機構及び前記第二の背圧調整機構を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記第一の加圧状態に対し、前記第二の加圧状態を所定の圧力差で低下させるように、前記第一の背圧調整機構及び前記第二の背圧調整機構を制御することを特徴とする、超臨界・亜臨界流体装置。
【請求項2】
前記第三の流路は、前記第一の背圧調整機構の分離抽出用カラム側に接続された流路の断面積よりも、前記第一の背圧調整機構の下流の流路の断面積が大きいことを特徴とする、請求項1に記載の超臨界・亜臨界流体装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第一の加圧状態に対し、前記第二の加圧状態が0.05MPa~0.15MPaの範囲で低い圧力となるように、前記第一の背圧調整機構及び前記第二の背圧調整機構を制御することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の超臨界・亜臨界流体装置。
【請求項4】
前記制御部は、
(i)前記第一の背圧調整機構を閉塞した状態で、前記第二の背圧調整機構を第一の所定時間開放して、第一の所定量の抜き出しを行うことで、前記第一の加圧状態に対して、前記第二の加圧状態を減圧し、
(ii)前記第二の背圧調整機構を閉塞した状態で、前記第一の背圧調整機構を第二の所定時間開放して、第二の所定量の抜き出しを行い、
(iii)前記(i)及び前記(ii)の操作を繰り返して、前記第一の加圧状態に対して、前記第二の加圧状態を、前記所定の圧力差で低い圧力となるように制御を行うことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の超臨界・亜臨界流体装置。
【請求項5】
前記分離対象物がスラリー状の目的物質を含むことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の超臨界・亜臨界流体装置。
【請求項6】
前記制御部は、さらに、前記第二の背圧調整機構を閉鎖するとともに、前記第一の背圧調整機構を開放することにより、前記分離対象物に含まれる前記スラリー状の目的物質を含有した抽出物を採取するように制御を行うことを特徴とする、請求項5に記載の超臨界・亜臨界流体装置。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の超臨界・亜臨界流体装置を用いて、前記分離抽出用カラム内において、前記超臨界流体となる前記移動相と前記分離対象物とを向流接触させ、前記分離対象物から溶媒を抽出して分離することにより、前記分離対象物から目的物質を分離回収する、溶媒抽出分離方法。
【請求項8】
請求項1又は請求項2に記載の超臨界・亜臨界流体装置を用いて、前記分離対象物から目的物質を濃縮分離し、前記濃縮分離した前記目的物質を機能性成分として含む製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界・亜臨界流体装置、及び、それを用いた溶媒抽出分離方法、並びに製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人々の健康志向の向上や安全性への関心の高まりから、天然由来の機能性成分の利用が注目されている。これらの成分は、食品分野から医療分野まで、健康維持・増進を目的とした利用について注目されており、特に、サプリメント、健康食品・飲料等の食品関連分野における利用に関して、より一層の注目を集めている。また、化粧品や一般・医療用医薬品等の分野においても、天然由来の機能性成分は、製品の付加価値向上に向けたキーマテリアルとして注目されている。
【0003】
これら、天然由来の機能性成分に関連した、医薬や食品の素材の製造プロセスにおいては、目的物質を溶解させることを目的として、高環境負荷の有機溶媒を多量に使用する場合がある。
一方、有機溶媒の中には、人体に影響を及ぼすものも存在することから、厚生労働省(日本国)は、医薬品の製造における残量溶媒のガイドラインを設定しており、一般に周知されている(参照:インターネットURL;HTTPS://WWW.pmda.go.jp/files/000156502.pdf)。
【0004】
現時点では、上記のような規制のもとに製造された医薬品やサプリメント、食品等を、長期的に経口・経皮接種する患者又は使用者において、残留溶媒に起因する副作用等の問題が生じているか否かは明らかとなっていない。また、食品添加物等の製造プロセスにおいても上記に類似した規制があるが、目的物質の溶解に有機溶媒を使用する限り、上述したような残留溶媒に関する問題は避けられない。
【0005】
上記のような背景のもと、本発明者等は、安心且つ安全な医薬食品素材を製造するための技術として、例えば、水やエタノ―ル、二酸化炭素(CO)といった自然界に大量に存在する物質のみを用いた、人間や環境に優しい溶媒抽出分離技術について、鋭意研究を進めてきた。本発明者等は、下記非特許文献1において、上記の各物質のうち、水は高極性、エタノールは両親媒性、COは高圧下においてn-hexaneに匹敵する低極性溶媒としてそれぞれ機能することに基づき、これらの特性を高圧下で高度に活用した方法を提案している。非特許文献1には、溶媒を抽出して分離する向流型の超臨界流体装置として、抽出分離カラムの上部からは気体を(気相)、下部(底部)からは分離物(液相:目的物質を含む)を回収し、且つ、抽出分離カラムにおける気相と液相の2つの吐出口の各々に連動式自動背圧弁を設けた構成の装置を開示している。非特許文献1に開示した超臨界流体装置によれば、上記構成により、各背圧弁の開状態-閉状態の時間間隔を制御することが可能となるので、一度分離された気液両相の連続送液に不具合が生じることなく、溶媒の抽出分離を効率良く確実に行うことが可能となる。
【0006】
また、非特許文献2においては、並流型の流体装置における抽出容器(カラム)が急速に減圧することで容器が損傷するのを防止することを目的として、抽出容器からの抽出時間に下限を設けることが提案されている。
【0007】
また、特許文献1には、超臨界を用いてアルコールを濃縮するのにあたり、向流接触装置を用いて、発酵アルコール供給ラインから原料を、溶解剤供給ラインから溶解剤を投入し、これらを向流で接触させる向流接触装置が提案されている。特許文献1の向流接触装置によれば、上部のアルコール等の軽液の取り出しラインからアルコールを、下部の水等の重液の取り出しラインから水を取り出す構成とされ、上部のラインに設けられた減圧弁を開放して減圧することにより、不純物分離槽にアルコール等を取り出し、相分離できる構成とされている。
【0008】
また、特許文献2には、金属含有物質からウラン等を回収するシステムが提案されている。特許文献2に記載のシステムは、超臨界流体溶媒等を含む金属含有物質が、第一ステーション、第二ステーションに配置され、抽出材が第二ステーションに導入された後、第一ステーション18に導入され、金属を抽出する。その後、抽出物を剥離カラムに移動させ、気体成分を分離器に移動させ減圧した後、気体と錯化剤に分離する構成とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開昭62-25985号公報
【文献】特表2008-533442号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Y.Hoshino et al.,‘Fractionation of hops-extract-ethanol solutions using dense CO2 with a counter-current extraction column’,The Journal of Supercritical Fluids 136(2018),37-43
【文献】E.A. Richter et al.,‘Thermodynamic properties of CO2 during controlled decompression of supercritical extraction vessels’,J. of Supercritical Fluids 98(2015),102-110
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のように、超臨界流体溶媒等を用いた製造プロセスにおいて必要な目的成分を含む試料等を、向流型のカラムを備えた流体装置を用いて気相分離し、液相側で目的物質を得る場合、一般的に、試料の前処理に時間がかかる傾向がある。また、前処理の手法によっては、有機溶剤が残留するか、あるいは、一部の成分の減少や変性起こりうる。例えば、天然物からの機能性成分の抽出分離法においては、一般に固体天然物試料を(1)乾燥、(2)粉砕、(3)有機溶媒によって抽出、という前処理プロセスが必要となる。このため、本発明者等は、天然物原料を直接、水熱ペースト化した試料として、前処理の時間がかかることなく、また、目的成分を失うことなく、有機溶剤を用いない条件で、より迅速な抽出処理ができるかどうか試みた。しかしながら、水熱ペースト法で得られる試料はスラリーを含むものであり、このような試料を、超臨界流体を採用した製造プロセスで用いる場合、以下のような課題があった。
超臨界流体を用いた製造プロセスにおける背圧弁の出口側においては、超臨界流体が断熱膨張することから、温度の低下に伴う凍結が発生し易い状態となる。このため、スラリーを流体装置内で送液した場合には、背圧弁の出口側において固形分を含むスラリーが凍結することで、この部分に閉塞が生じることがある。この場合、例えば、背圧弁の出口側にヒータを設置して加温することも考えられる。しかしながら、非特許文献1に記載の連動式背圧弁を用いた吐出システムでは、1/16インチという細管であるのに加えて、速い開閉速度を備えたソレノイド式の背圧弁を用いているため、閉塞しやすいという問題があった。
【0012】
上記のように、スラリー状の分離物を取り出す用途に従来の流体装置を用いた場合には、液相側の背圧弁に閉塞が発生することによるプロセスの停止、並びに、メンテナンスの頻繁な実施を余儀なくされる場合もある。このため、生産性の低下を招くとともに、メンテナンスに要する時間や費用も増大するという問題があった。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、スラリー状の分離物を液相側から取り出す場合においても、背圧弁や配管等に閉塞が生じることがなく、生産性及びメンテナンス性に優れた超臨界・亜臨界流体装置及びそれを用いた溶媒抽出分離方法並びに製品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、上記問題を解決するため、さらなる鋭意検討を重ねた。この結果、背圧弁の構成及び開閉条件を最適化し、分離抽出用カラムにおける気相側と液相側とで圧力差を生じさせる構成を採用することで、背圧弁の出口側において急激な断熱膨張が生じるのを抑制し、スラリー状の分離物が凍結して閉塞が発生するのを防止できることを見出した。さらに、気相側と液相側とで圧力差を生じさせることで、分離抽出用カラムの下部に配置される液相側の吐出口からのスラリーを含む分離物(目的物質)の取り出しが容易になることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下の態様を有する。
【0015】
分離抽出用カラムと、前記分離抽出用カラムの下部に第一の流路を介して接続され、超臨界流体となる移動相を供給する第一の送液部と、前記分離抽出用カラムの上部に第二の流路を介して接続され、分離対象物を供給する第二の送液部と、前記分離抽出用カラムの下部に第三の流路を介して接続され、前記分離抽出用カラム内を、前記移動相を超臨界流体状態に保つ第一の加圧状態とする第一の背圧調整機構と、前記分離抽出用カラムの上部に第四の流路を介して接続され、前記分離抽出用カラム内を、前記移動相を超臨界流体状態に保つ第二の加圧状態とする第二の背圧調整機構と、前記第一の背圧調整機構及び前記第二の背圧調整機構を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記第一の加圧状態に対し、前記第二の加圧状態を所定の圧力差で低下させるように、前記第一の背圧調整機構及び前記第二の背圧調整機構を制御することを特徴とする、超臨界・亜臨界流体装置、及び、当該超臨界・亜臨界流体装置を用いた溶媒抽出分離方法、並びに、当該超臨界・亜臨界流体装置を用いて得た目的物質を機能性成分として含む製品の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る超臨界・亜臨界流体装置によれば、上記のように、制御部が、第一の加圧状態に対し、第二の加圧状態を所定の圧力差で低下させるように、第一の背圧調整機構及び第二の背圧調整機構を制御する構成を採用している。これにより、分離抽出用カラムにおける気相側と液相側とで圧力差が生じるので、第一の背圧調整機構の出口側において急激な断熱膨張が生じるのを抑制し、スラリー状の分離物が凍結して閉塞が生じるのを防止できる。また、気相側と液相側とで圧力差が生じることで、分離抽出用カラムの下部に配置される液相側からのスラリー状の分離物の取り出しが容易になる。
従って、生産性及びメンテナンス性に優れた超臨界・亜臨界流体装置を提供できる。
【0017】
また、本発明に係る溶媒抽出分離方法によれば、上記構成を備えた本発明に係る超臨界・亜臨界流体装置を用いて、分離抽出用カラム内において、超臨界流体となる移動相と分離対象物とを向流接触させ、分離対象物から溶媒を抽出して分離することにより、分離対象物から目的物質を分離回収する方法を採用している。これにより、上記同様、スラリー状の分離物が凍結して第一の背圧調整機構の出口側で閉塞が生じるのを防止できるとともに、液相側からのスラリー状の分離物の取り出しが容易になる。
従って、生産性よく、分離対象物から目的物質を連続的に分離回収することが可能となる。
【0018】
また、本発明に係る製品の製造方法によれば、上記同様、上記構成を備えた本発明に係る超臨界・亜臨界流体装置を用い、これによって得られた目的物質を機能性成分として含む製品の製造方法なので、同様に、スラリー状の分離物が凍結して第一の背圧調整機構の出口側で閉塞が生じるのを防止できるとともに、液相側からのスラリー状の分離物の取り出しが容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態である超臨界・亜臨界流体装置及び溶媒抽出分離方法並びに製品の製造方法について模式的に説明する図であり、超臨界流体装置の一例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る超臨界・亜臨界流体装置及び溶媒抽出分離方法並びに製品の製造方法の一実施形態について、図1を参照しながら説明する。
なお、以下の説明で用いる各図面は、その特徴をわかりやすくするために、便宜上、特徴となる部分を拡大して示している場合があり、寸法比率等は実際とは異なる場合がある。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
<超臨界流体装置>
以下、本実施形態の超臨界・亜臨界流体装置の全体構成について、図1を参照しながら詳述する。
図1は、本実施形態の超臨界・亜臨界流体装置100の全体構成を概略で示す系統図である。
なお、本発明における「超臨界」とは、所定の温度、所定の高圧下において、液体としての性質(溶解力)と気体としての性質(拡散力)とを持ち合わせている状態のものを意味する。一方、本発明における「亜臨界」とは、超臨界の臨界点よりやや低い温度、圧力下における状態のものをいう。本発明は、通常の超臨界状態の流体を用い、目的対象物の濃縮を行うものであるが、詳細を後述するように、装置の圧力を一部減圧しているため、処理過程において亜臨界状態が一部含まれることから、厳密の意味では超臨界・亜臨界流体装置である。このため、以下の説明においては、「超臨界・亜臨界流体装置」を「超臨界流体装置」と略称するが、これは、本発明における減圧下での亜臨界状態をも含む超臨界流体装置としての範囲を含むものとする。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の超臨界流体装置100は、分離抽出用カラム30、第一の送液部10、第二の送液部20、第一の背圧調整機構40、第二の背圧調整機構50、及び超臨界流体装置100を制御する図示略の制御部を備えて、概略構成される。
そして、本実施形態の超臨界流体装置100は、詳細を後述するように、第一の背圧調整機構40によって調節される分離抽出用カラム30の第一の加圧状態に対して、第二の背圧調整機構50によって調節される分離抽出用カラム30の第二の加圧状態を所定の圧力差で低下させるように、図示略の制御部によって第一の背圧調整機構40及び第二の背圧調整機構50を制御する。より詳細には、超臨界流体装置100は、分離抽出用カラム30の下部側(図1中の下端30a側)が上述した第一の加圧状態とされ、上部側(同図の上端30b側)が第二の加圧状態とされる。
【0023】
第一の送液部10は、分離抽出用カラム30の下部導入口31に第一の流路11を介して接続され、超臨界流体となる移動相を供給するものであり、本実施形態で説明する一例では、分離抽出用カラム30の下部に超臨界状態の流体Cを供給する。図示例の第一の送液部10は、超臨界流体源貯蔵槽1、減圧弁2、フィルター3、送液圧送ポンプ4、冷却機5、安全バルブ6、流量制御バルブ7、及びベントバルブ8を有する。
【0024】
超臨界流体源貯蔵槽1は、超臨界流体となる流体源を内部に貯留するものであり、上端側の出口1aが第一の流路11に接続されていることで、この第一の流路11を介して流体源を分離抽出用カラム30に向けて供給する。超臨界流体源貯蔵槽1としては、特に限定されず、この分野で一般的に用いられている金属製のタンクを何ら制限無く採用することが可能である。なお、本実施形態では、超臨界流体となる気体又は液体として二酸化炭素を用いた例を説明しているが、二酸化炭素以外にも、水、エタノール、グリセリン等の有機炭素を用いることができる。
【0025】
減圧弁2は、第一の流路11の経路中において、超臨界流体源貯蔵槽1の出口1a近傍に設けられ、超臨界流体源貯蔵槽1から導出された流体源を、一定の圧力になるように制御するものである。減圧弁2としても、特に限定されず、例えば、高圧タンクに接続されて用いられる一般的な構成の減圧弁を何ら制限無く採用できる。
【0026】
フィルター3は、第一の流路11の経路中において、流体源の流れ方向で減圧弁2の下流側に設けられ、流体源に含まれる不純物成分を除去する。フィルター3としても、特に限定されず、流体の浄化処理に用いられる一般的な構成のフィルターを採用できる。
【0027】
送液圧送ポンプ4としては、例えば、HPLCポンプ(高速液体クロマトグラフィー(High Performance Liquid Chromatography)用ポンプ)等を用いる。送液圧送ポンプ4は、第一の流路11の経路中において、超臨界状態の流体Cの流れ方向でフィルター3の下流側に設けられ、第一の流路11を介して超臨界流体源貯蔵槽1に収容された流体源を加圧して送液する。送液圧送ポンプ4は、HPLCポンプに限定されず、流体の加圧圧送に用いられる一般的な、プランジャー式ポンプ等も採用できる。
【0028】
冷却機5は、第一の流路11を流通する流体源を断熱圧縮する際の冷却に用いるものであり、図示例においては、送液圧送ポンプ4に併設されている。送液圧送ポンプ4で液化した流体源を加圧圧送することで、超臨界状態の流体Cとなる。このような冷却器としては、例えば、一般的な水や冷媒等を用いたものを何ら制限無く採用できる。
【0029】
安全バルブ6は、例えば、第一の流路11の経路中において、超臨界状態の流体Cの流通に何らかの不具合が生じた場合に、緊急的に開放することができるものである。このような安全バルブ6としても、特に限定されず、この分野で一般的に用いられるバルブを採用することが可能である。
【0030】
流量制御バルブ7は、分離抽出用カラム30への超臨界状態の流体Cの供給量を適宜調整するものである。流量制御バルブ7としても、特に限定されず、流体の流量制御に用いられる一般的なバルブを採用することが可能である。
【0031】
ベントバルブ8は、例えば、超臨界流体装置100のメンテナンスを行う際等において、エアや余分な液体を排出するために設けられる。ベントバルブ8としても、特に限定されず、この分野で一般的に用いられるバルブを何ら制限無く採用できる。
【0032】
上記構成を有する第一の送液部10により、超臨界状態の流体Cは、超臨界流体源貯蔵槽1から、冷却機5を併設した送液圧送ポンプ4により、第一の流路11を介して、詳細を後述する分離抽出用カラム30の下部導入口31から分離抽出用カラム30内に供給される。
【0033】
第二の送液部20は、分離抽出用カラム30の上部に第二の流路21を介して接続され、分離対象物を供給するものであり、本実施形態で説明する一例では、分離抽出用カラム30の上部に、分離対象物として原料(本実施形態ではスラリーを含む試料)及びモディファイヤ((助溶媒、あるいはエントレーナ)本実施形態ではエタノール、またはエタノール水溶液)を含むフィード溶液Bを供給する。図示例の第二の送液部20は、分離対象物溶液貯蔵槽22、送液圧送ポンプ23、及び流量制御バルブ24を有する。
【0034】
分離対象物溶液貯蔵槽22は、目的物質Mを含む分離対象物である原料と、モディファイヤからなるフィード溶液Bを内部に貯留するものであり、上端側の開口部22aから第二の流路21の一端が挿入されていることで、この第二の流路21を介してフィード溶液Bを分離抽出用カラム30に向けて供給する。分離対象物溶液貯蔵槽22としては、特に限定されず、この分野で一般的に用いられている金属製のタンクやガラス容器等を何ら制限無く採用することが可能である。
【0035】
送液圧送ポンプ23は、第二の流路21の経路中において、分離対象物溶液貯蔵槽22の出口側に配置され、第二の流路21を介して分離対象物溶液貯蔵槽22に収容された原料及びモディファイヤからなるフィード溶液Bを送液する。送液圧送ポンプ23としても、特に限定されず、流体の加圧圧送に一般的に用いられるポンプを何ら制限無く採用できる。
【0036】
流量制御バルブ24は、分離抽出用カラム30へのフィード溶液Bの供給量を適宜調整するものである。流量制御バルブ24としても、特に限定されず、上述した流量制御バルブ7と同様、流体の流量制御に用いられる一般的なバルブを採用することが可能である。
【0037】
分離抽出用カラム30は、下部導入口31から超臨界流体となる移動相である超臨界状態の流体Cが導入されるとともに、上部導入口32から目的物質Mを含む分離対象物であるフィード溶液Bが導入される。これにより、分離抽出用カラム30は、内部において超臨界状態の流体Cとフィード溶液Bとが向流方向で接触する、所謂、向流型のカラムを構成する。
分離抽出用カラム30は、図示例においては、オーブン70の内部に配置され、下部側(下端30a側)が第一オーブン70Aの内部に配置されるとともに、上部側(上端30b側)が第二オーブン70Bの内部に配置されている。
【0038】
分離抽出用カラム30としては、超臨界抽出の用途で汎用される、例えば、ディクソンパッキン等の充填物が収容されたものが用いられる。分離抽出用カラム30は、上記の充填物により、例えば、超臨界状態の流体Cと、原料成分を含有する原料とエタノール及び水からなるフィード溶液Bとが向流接触することにより、原料に含まれる目的物質Mである各成分が気相・液相間において分配されることで、下端30a及び上端30bの各々から各成分が濃縮・抽出される。
【0039】
そして、分離抽出用カラム30は、図1中に示した下端30a側から後述の第一の背圧調整機構40に向けて液相抽出物を導出するとともに、上端30b側から後述の第二の背圧調整機構50に向けて気相抽出物を導出する。
【0040】
オーブン70は、上述したように、下部側が第一オーブン70Aとされ、上部側が第二オーブン70Bとされている。これら第一オーブン70A及び第二オーブン70Bは、それぞれ図示略のヒータ等により、分離抽出用カラム30が収容される内部空間を加熱することが可能な構成とされている。
【0041】
第一オーブン70Aの内部には、第一の流路11に取り付けられ、この第一の流路11内を流通する超臨界状態の流体Cを予備加温するためのプレリボンヒーター71が設けられている。
また、第二オーブン70Bの内部には、第二の流路21に取り付けられ、第二の流路21内を流通するフィード溶液Bを予備加温するためのプレリボンヒーター72が設けられている。
【0042】
さらに、第一オーブン70Aの内部において、第一の流路11の経路中に配置されるプレリボンヒーター71の、超臨界状態の流体Cの流れ方向で下流側には、分離抽出用カラム30の上流側における圧力を検知するための圧力センサPが設けられている。
【0043】
そして、第一の流路11を流通する超臨界状態の流体Cは、第一オーブン70Aの内部に配置されたプレリボンヒーター71によって所定の温度まで予備加温され、超臨界流体として第一オーブン70Aによって加温されながら、下部導入口31から分離抽出用カラム30内に供給される。
【0044】
また、本実施形態においては、例えば、天然物由来の目的物質Mを含む原料と、エタノール及び水からなるフィード溶液Bとして、分離対象物溶液貯蔵槽22から送液圧送ポンプ23により、分離抽出用カラム30の上部から供給される。このようなフィード溶液Bは、プレリボンヒーター72により所定の温度まで予備加温され、第二オーブン70Bによって加温されながら、上部導入口32から分離抽出用カラム30内に供給される。
【0045】
第一の背圧調整機構40は、分離抽出用カラム30の下端(下部)30aに第三の流路41を介して接続され、分離抽出用カラム30内を、移動相を超臨界流体状態に保つ第一の加圧状態に調整する背圧弁である。第一の背圧調整機構40としては、必要に応じて開度を細かく変化させることが可能な、背圧弁としては、バネ式の機械式弁が好ましいが、開度が調整できるものであれば、一般的に用いられている電磁弁等を採用することができる。
【0046】
また、第一の背圧調整機構40の前後で、第三の流路41の流路配管の径を太くする(断面積を大きくする)ように変化させてもよい。
例えば、第一の背圧調整機構40の手前では、配管としては一般的に1/16inch(約1.6mm)サイズのものを用いるが、スラリーを含む試料の場合、第一の背圧調整機構40の後の配管として同サイズのものを用いると、閉塞することが多い。そのため、第一の背圧調整機構40の後の配管は、それよりお内径の太い配管、例えば、前の配管の4倍の大きさである、1/4inch(約6.3mm)サイズのものを用いると、スラリーを含む試料を用いた場合であっても閉塞が起きにくい。
第一の背圧調整機構40の前後は、断熱膨張が非常に起きやすいため、断熱膨張が生じる前後の位置で配管の内径を変化させることで、配管が閉塞するのを防ぐことができる。
なお、第一の背圧調整機構40には、凍結防止のため、加熱ヒータを設けてもよい。
【0047】
第一分離槽42は、分離抽出用カラム30の下端30aから導出される液相抽出物の流れ方向で、第一の背圧調整機構40の下流側に配置される。図1中に示す例の第一分離槽42は、前段槽42aと後段槽42bとからなる多段槽として構成される。
第一分離槽42は、分離抽出用カラム30の下端30aから導出され、第一の背圧調整機構40で減圧された液相抽出物を、例えば、目的物質Mの濃縮物を含むスラリーと、それ以外のスラリーとに分離し、目的物質Mの濃縮物を分離回収する。
なお、この際に分離された流体(二酸化炭素ガス)Gを、後段に配置される湿式ガス流量計43から回収して再利用に供することも可能である。
【0048】
第二の背圧調整機構50は、分離抽出用カラム30の上端(上部)30bに、第四の流路51を介して接続され、分離抽出用カラム30内を、移動相を超臨界流体状態に保つ第二の加圧状態に調整する背圧弁である。図示例においては、第二の背圧調整機構50は、第四の流路51中に設けられた出口バルブ54を介して、分離抽出用カラム30の上端30bと接続されている。第二の背圧調整機構50としても、第一の背圧調整機構40と同様、細やかに開度を変化させることが可能な、一般的な電磁弁等を採用できる。
なお、第二の背圧調整機構50には、凍結防止のための加熱ヒータを設けてもよい。
第二の背圧調整機構50側は、スラリーをほとんど含まないため、閉塞のおそれはないが、第一の背圧調整機構40の前後と同様、第四の流路51の配管の径を太く構成してもよい。
【0049】
第二分離槽52は、分離抽出用カラム30の上端30bから導出される、気相抽出物の流れ方向で、第二の背圧調整機構50の下流側に配置される。図1中に示す例の第二分離槽52も、第一分離槽42と同様、前段槽52aと後段槽52bとからなる多段槽として構成される。
第二分離槽52は、分離抽出用カラム30の上端30bから導出され、第二の背圧調整機構50で減圧された気相抽出物を、例えば、モディファイヤであったエタノール水溶液と流体(二酸化炭素ガス)Gとに分離する。なお、この際に分離された流体(二酸化炭素ガス)Gについても、後段の乾式ガス流量計53から回収して再利用に供することが可能である。
【0050】
第一分離槽42の出口側、即ち、上記の液相抽出物の流れ方向の下流側には、湿式ガス流量計43が設けられている。湿式ガス流量計43は、第一分離槽42で分離された流体(二酸化炭素ガス)Gの流量をリアルタイム検出できるとともに、超臨界流体装置100の運転状況についてもリアルタイムで監視できる。
【0051】
また、第二分離槽52の出口側、即ち、上記の気相抽出物の流れ方向の下流側には、乾式ガス流量計53が設けられている。乾式ガス流量計53は、超臨界流体装置100によって分離された流体(二酸化炭素ガス)Gの流量をリアルタイム検出できるとともに、上記同様、超臨界流体装置100の運転状況についてもリアルタイムで監視できる。
【0052】
図1においては図示を省略している制御部は、第一の背圧調整機構40及び第二の背圧調整機構50等の超臨界流体装置100全体を制御するものであり、本実施形態においては、これら第一の背圧調整機構40及び第二の背圧調整機構50を連動制御する。
本実施形態の超臨界流体装置100に備えられる制御部は、分離抽出用カラム30内における、第一の背圧調整機構40によって保持される第一の加圧状態に対し、第二の背圧調整機構50によって保持される第二の加圧状態を所定の圧力差で低下させるように、これら第一の背圧調整機構40及び第二の背圧調整機構50を制御する。
【0053】
図示略の制御部は、分離抽出用カラム30の上流側に配置された圧力センサPの検出値(圧力)に加え、分離抽出用カラム30における各流体の流れ方向で下流側に各々設けられた湿式ガス流量計43及び乾式ガス流量計53の検出値等に基づき、第一の背圧調整機構40及び第二の背圧調整機構50の開度を適宜制御する。
本実施形態の超臨界流体装置100は、第一の背圧調整機構40及び第二の背圧調整機構50を制御する制御部を備えることにより、上記のように、分離抽出用カラム30内の加圧状態を適宜調整することが可能となる。
【0054】
制御部によって第一の背圧調整機構40及び第二の背圧調整機構50を制御することで保持される、上記の第一の加圧状態及び第二の加圧状態の各圧力は、第二の加圧状態の方が所定の圧力差で低く、且つ、超臨界状態の流体Cを超臨界流体状態に保つことが可能な圧力であれば、特に限定されない。
【0055】
一方、本実施形態においては、特に、フィード溶液Bが、原料中にスラリー状とされた目的物質(分離物)Mを含む場合に、この分離物が凍結するのを防止する観点から、上記の第一の加圧状態に対し、第二の加圧状態が0.05MPa~0.15MPaの範囲で低い圧力であることが好ましい。即ち、制御部は、分離抽出用カラム30内における第一の加圧状態に対し、第二の加圧状態が0.05MPa~0.15MPaの範囲で低い圧力となるように、第一の背圧調整機構40及び第二の背圧調整機構50を制御することが好ましい。
【0056】
上記の圧力状態を実現する手法として、具体的には、まず、第二の背圧調整機構50を開の状態とし(このとき、第一の背圧調整機構40は閉の状態。)、乾式ガス流量計53が一定の流量となるように、送液圧送ポンプ4の流量及び第二の背圧調整機構50の開度、開度時間(第一の所定時間)を調整することで、一部の超臨界流体を抜き出して、第二の加圧状態の圧力を減圧する(工程(i))。
次に、第二の背圧調整機構50を閉の状態とし、第一の背圧調整機構40を開の状態にして、湿式ガス流量計43の流量、送液圧送ポンプ23の流量、第一の背圧調整機構40の開度、開度時間(第二の所定時間)を調整し、一部の超臨界流体を抜き出す(工程(ii))。
そして、再び、第二の背圧調整機構50を開の状態、第一の背圧調整機構40を閉の状態とし、上記の工程(i)及び工程(ii)を所定の間隔で繰り返すことにより、各々の抜き出し量を開度の調整によって制御する。このような操作により、第一の加圧状態に対し、第二の加圧状態が0.05MPa~0.15MPaの範囲で低い圧力の圧力差がついたところ(以下、「定常状態」ということもある。)で、第一分離槽42を設置して目的物質Mの濃縮物を分離回収する(工程(iii))。
【0057】
本発明において、上記のような複数回の抜き出しを行って定常状態とするのは、急激な圧力変化による超臨界流体の特性変化や、分離抽出用カラム30の不具合の発生を防ぎつつ、定常状態となっているか否かを確認するためである。定常状態に到達したか否かは、圧力センサPの検出値及び抜き出しを行った際の吐出が定常的(乱れた脈動(間隔)がないか、抜き出し物の吹き出しが安定(流路から均質に噴き出すか))であること確認することで判定する。
【0058】
なお、上記のような制御としては、例えば、オーブン70に設けた可視窓により、高圧下における内部の流体の状態をリアルタイムで観察、撮影しながら、制御を実施してもよい。
また、上記のように、流量から調整する場合は、それぞれの流量は、気液平衡状態をPR(Pegn-Robinson)モデルに基づく成分系の相図から求めてもよい。
【0059】
第一の加圧状態と第二の加圧状態の各圧力が定常状態の関係となるように、制御部が第一の背圧調整機構40及び第二の背圧調整機構50を制御することにより、分離抽出用カラム30における気相側(上端30b側)と液相側(下端30a側)との間で圧力差が生じる。これにより、第一の背圧調整機構40の出口側において急激な断熱膨張が生じるのが抑制されるので、スラリー状の分離物が凍結するのを抑制できる。これにより、第一の背圧調整機構40や前後の配管等に閉塞が生じるのを防止できるので、目的物質Mの生産性に優れ、且つ、メンテナンス性にも優れたものとなる。
さらに、上記のように、分離抽出用カラム30における気相側と液相側との間で圧力差を生じさせることで、分離抽出用カラム30の下部、即ち、液相側に配置される下端30aからのスラリー状の分離濃縮物が圧力差によって押し出される力が働き、分離濃縮物の取り出しが容易になる。
【0060】
また、制御部は、第二の背圧調整機構50を開放することで、分離抽出用カラム30の下部側における第一の加圧状態に対して、上部側における第二の加圧状態を所定の圧力差で低い圧力としたうえで、さらに、第二の背圧調整機構50を閉鎖するとともに、第一の背圧調整機構40を開放するように制御することが好ましい。第一の背圧調整機構40及び第二の背圧調整機構50の開閉タイミングを上記のように制御することで、フィード溶液Bに含まれるスラリー状の目的物質Mの濃縮物(分離物)を採取する場合に、分離物の凍結による第一の背圧調整機構40や配管内に閉塞が発生するのを防止できる。
【0061】
上述したような制御を実施する場合の、第一の背圧調整機構40と第二の背圧調整機構50との間の開閉タイミングや開度は、これらを構成する各背圧弁の前後や、分離抽出用カラム30内における逆流等が生じないよう、適宜調整しながら設定することが好ましい。
【0062】
制御部は、超臨界流体装置100の定常状態での運転と、上述した第一の背圧調整機構40及び第二の背圧調整機構50を繰り返し開閉制御する運転とを連続で実施することが可能である。これにより、超臨界流体装置100による優れた運転効率を維持しながら、目的物質Mを得ることが可能となる。このような超臨界流体装置100の運転効率の観点からは、第一の背圧調整機構40と第二の背圧調整機構50との間の開閉タイミングの差は、できるだけ小さいことが好ましい。一方、この開閉タイミングの差が小さすぎると、分離抽出用カラム30における液相側及び気相側からの各流体の導出が同時になってしまう可能性もある。このため、制御部により、上記の開閉タイミングの差が一定以上となるように、適宜調整して設定することが好ましい。
【0063】
また、第一の背圧調整機構40及び第二の背圧調整機構50の開放時間(及び閉塞時間)としても、特に限定されないが、上記の開閉タイミングを考慮しながら、例えば、第一の背圧調整機構40が2~3秒程度の開放時間となるように、制御部で設定することが好ましい。
【0064】
図示略の制御部としては、特に限定されず、例えば、CPU等を備えた制御回路等からなる専用回路を用いることができる。あるいは、例えば、一般的なパーソナルコンピューター(PC)やタブレット端末を超臨界流体装置100に接続することで、これらPCやタブレット端末を制御部として使用することも可能である。
【0065】
なお、本実施形態の超臨界流体装置100においては、図1中では図示を省略しているが、さらに、濃縮した抽出物(目的物質M)にモディファイヤ(例えば、エタノール溶液やエタノール水溶液)が含まれている場合には、目的物質Mとエタノール溶液(エタノール水溶液)とに分離するエバポレータ等を備えていてもよい。
また、上述したように、第一分離槽42又は第二分離槽52で分離された流体(例えば、二酸化炭素ガス)を回収して再利用に供する場合には、例えば、流体を再液化して超臨界流体源貯蔵槽1に還流し、再循環させるための、図示略の循環機構を備えた構成を採用してもよい。
【0066】
また、本実施形態の超臨界流体装置100による分離対象物としては、特に限定されず、様々な物質を含む分離対象物の分離抽出が可能であるが、特に、上記のようなスラリー状とされた固形物を含む試料中に目的物質を含む分離対象物の分離処理を行う場合に、上記の優れた効果を発揮できる。
【0067】
<溶媒抽出分離方法>
以下に、本実施形態の溶媒抽出分離方法について、図1に示した本実施形態の超臨界流体装置100の構成も適宜参照しながら説明する。なお、既に説明した超臨界流体装置100の構成については、その詳細な説明を省略する。
【0068】
本実施形態の溶媒抽出分離方法は、本実施形態の超臨界流体装置100を用いて、分離抽出用カラム30内において、超臨界流体となる移動相である超臨界状態の流体Cと分離対象物を含むフィード溶液Bとを向流接触させ、フィード溶液Bから溶媒を抽出して分離することにより、フィード溶液Bから濃縮した目的物質Mを分離回収する方法である。
【0069】
本実施形態の溶媒抽出分離方法によれば、本実施形態の超臨界流体装置100を用いて、フィード溶液Bから濃縮した目的物質Mを分離回収することで、上記同様、分離抽出用カラム30の下端30aに接続された第一の背圧調整機構40の出口側で、スラリー状の分離物が凍結して閉塞が生じるのを防止できる。また、超臨界流体装置100を用いることで、分離抽出用カラム30の液相側である下端30aからの目的物質Mの濃縮物の取り出しが容易になる。従って、生産性よく、フィード溶液Bから目的物質Mの濃縮物を連続的に分離回収することが可能となる。
【0070】
<製品の製造方法>
本実施形態の製品の製造方法は、上述した本実施形態の溶媒抽出分離方法と同様、図1に示した本実施形態の超臨界流体装置100を用いて、分離対象物(例えば、原料及びモディファイヤを含むフィード溶液B)から目的物質Mを濃縮分離し、濃縮分離した目的物質Mを機能性成分として含む製品を製造する方法である。
【0071】
本実施形態の製品の製造方法における具体的なプロセスは、上述した本実施形態の溶媒抽出分離方法と同様であり、その詳細な説明を省略する。
【0072】
<分離対象物から分離抽出される目的物質>
上述したような本実施形態の超臨界流体装置、及び、それを用いた溶媒抽出分離方法によって得る事が可能な目的物質としては、特に限定されないが、例えば、各種食品や医薬品、サプリメント等が挙げられる。
【0073】
上述したように、本実施形態の超臨界流体装置及び溶媒抽出分離方法は、スラリー状の試料からの分離物(目的物質)が凍結するのを抑制でき、内部における閉塞が生じるのを防止できるとともに、目的物質Mの濃縮物の取り出しが容易なものである。従って、本実施形態の超臨界流体装置及び溶媒抽出分離方法で得られる目的物質、即ち、食品や医薬品、サプリメント等の生産性に優れるとともに、有機溶媒や、不要な前処理がないので、品質にも優れたものとなる。
【0074】
本実施形態の超臨界流体装置及び溶媒抽出分離方法は、上記のような工業生産的な観点に基づく生産性や品質のみならず、例えば、人や地球環境に優しい医薬品の製造や、食品・飲料等の製造における色や香り、味の分離等、各種の用途開発においても有用である。
【0075】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の超臨界流体装置によれば、上記のように、図示略の制御部が、分離抽出用カラム30内の下部側における第一の加圧状態に対し、上部側の第二の加圧状態を所定の圧力差で低下させるように、第一の背圧調整機構40及び第二の背圧調整機構50を制御する構成を採用している。これにより、分離抽出用カラム30における気相側と液相側とで圧力差が生じるので、第一の背圧調整機構40の出口側において急激な断熱膨張が生じるのを抑制し、スラリー状の分離物が凍結して閉塞が生じるのを防止できる。また、気相側と液相側とで圧力差が生じることで、分離抽出用カラム30の液相側である下端30aからの分離物の取り出しが容易になる。従って、生産性及びメンテナンス性に優れた超臨界流体装置100を提供できる。
【0076】
また、本実施形態の溶媒抽出分離方法によれば、上記構成を備えた超臨界流体装置100を用いて、分離対象物を含むフィード溶液Bから目的物質Mを分離回収する方法を採用している。これにより、上記同様、スラリー状の分離物が凍結して第一の背圧調整機構40の出口側で閉塞が生じるのを防止できるとともに、液相側からのスラリー状の分離物の取り出しが容易になる。従って、生産性よく、原料を含むフィード溶液Bから目的物質Mを連続的に分離回収することが可能となる。
【0077】
<本発明の他の形態>
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は上記のような特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の超臨界流体装置は、スラリー状の分離物を液相側から取り出す場合においても、背圧弁や配管等に閉塞が生じることがなく、生産性及びメンテナンス性に優れたものである。スラリー状の分離物を扱うことができるので、天然由来成分から、目的物質を抽出する際の前処理の手間、時間が減り、また、目的物質の変性も起きにくく、有害な有機溶媒も含まないため、生産性及び安全性に優れた製品を適用できる。従って、本発明の超臨界流体装置は、例えば、本発明の超臨界流体装置を用いて得た目的物質を用い、医薬品や化粧品、サプリメント、食品素材等の、目的物質を機能性成分として含む製品の製造プロセスに非常に好適である。
【符号の説明】
【0079】
100…超臨界・亜臨界流体装置(超臨界流体装置)
10…第一の送液部
11…第一の流路
1…超臨界流体源貯蔵槽
2…減圧弁
3…フィルター
4…送液圧送ポンプ
5…冷却機
6…安全バルブ
7…流量制御バルブ
8…ベントバルブ
20…第二の送液部
21…第二の流路
22…分離対象物溶液貯蔵槽
22a…開口部
23…送液圧送ポンプ
24…流量制御バルブ
30…分離抽出用カラム
30a…下端(下部側)
30b…(上部側)
31…下部導入口
32…上部導入口
40…第一の背圧調整機構
41…第三の流路
42…第一分離槽
42a…前段槽
42b…後段槽
43…湿式ガス流量計
50…第二の背圧調整機構
51…第四の流路
52…第二分離槽
52a…前段槽
52b…後段槽
53…乾式ガス流量計
54…出口バルブ
60…制御部
70…オーブン
70A…第一オーブン
70B…第二オーブン
71,72…プレリボンヒーター
P…圧力センサ
C…超臨界状態の流体(超臨界流体となる移動相)
B…原料及びモディファイヤを含むフィード溶液(分離対象物)
M…目的物質(スラリー状の目的物質;分離物)
G…流体(二酸化炭素ガス)
図1