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特許7522481患者のニューロンを刺激してニューロンの病的同期活動を抑制する医療用治療装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】患者のニューロンを刺激してニューロンの病的同期活動を抑制する医療用治療装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20240718BHJP
   A61M 21/02 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
A61N1/36
A61M21/02 C
A61M21/02 E
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022552460
(86)(22)【出願日】2021-03-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-04-17
(86)【国際出願番号】 EP2021055278
(87)【国際公開番号】W WO2021175898
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2023-05-12
(31)【優先権主張番号】62/984,454
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520398456
【氏名又は名称】グレタップ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】Gretap AG
【住所又は居所原語表記】Baarerstrasse 55, Zug, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】タス,ペーター アレクサンダー
【審査官】滝沢 和雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-523357(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0200888(US,A1)
【文献】国際公開第2019/243634(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
A61M 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者のニューロンを刺激して前記ニューロンの病的同期活動を抑制するための医療用治療装置であって、少なくとも1つの音響刺激及び少なくとも1つの非音響刺激を同時に患者の身体に投与するように構成された非侵襲性刺激ユニットを備え、前記刺激の各々が、前記患者の身体に投与されるときに前記病的同期活動を抑制するように構成されており、
前記音響刺激が、前記患者の身体に投与されるときに、第1ニューロン集団の病的同期活動を抑制するように構成され、前記非音響刺激が、前記第1ニューロン集団とは異なる第2ニューロン集団の病的同期活動を抑制するように構成されている、医療用治療装置。
【請求項2】
患者の頭部に固定されるように構成された前記医療用治療装置であって、前記患者の頭部に固定された前記医療用治療装置の固定状態において、前記刺激ユニットが、前記音響刺激を患者の耳に提供し、且つ、前記非音響刺激を、患者の前額部の領域の患者の皮膚提供するように構成されている、請求項1に記載の医療用治療装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの非音響刺激が振動触覚刺激である、請求項1または2に記載の医療用治療装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つの音響刺激の各1つが、1つの非音響刺激と関連付けられ、前記刺激ユニットが、その関連付けられた音響刺激と共に1つの非音響刺激を同時に発生するように構成されている、請求項1~のいずれか一項に記載の医療用治療装置。
【請求項5】
前記刺激ユニットが、少なくとも1つの振動触覚刺激要素を備え、当該振動触覚刺激要素が、前記患者の身体の表面上に、当該患者の身体に前記非音響刺激を投与するように期的に作用するように構成されている、請求項1~のいずれか一項に記載の医療用治療装置。
【請求項6】
前記刺激ユニットが、前記音響刺激と前記非音響刺激とを、前記振動触覚刺激要素を期的に作動させるときに同時に発生するように構成されている、請求項に記載の医療用治療装置。
【請求項7】
前記振動触覚刺激要素が、20Hz~20kHzの範囲作動周波数で作動される、請求項5または6に記載の医療用治療装置。
【請求項8】
前記刺激ユニットが、少なくとも2つの振動触覚刺激要素を備え、当該振動触覚刺激要素の各々が、少なくとも2つの非音響刺激のうちの1つを発生するように構成され、且つ、前記刺激ユニットが、前記少なくとも2つの振動触覚刺激要素を異なる作動周波数で動作させるように構成されている、請求項1~のいずれか一項に記載の医療用治療装置。
【請求項9】
刺激要素を作動させるべき前記作動周波数が、音音階に調整される、請求項に記載の医療用治療装置。
【請求項10】
前記刺激ユニットが、少なくとも1つの刺激要素を作動させるべき周波数を含む、異なる作動周波数のセットを備え、且つ、当該異なる作動周波数のセットが、第1作動周波数と、当該第1作動周波数に依存して決定され又は相関する少なくとも1つのさらなる作動周波数を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の医療用治療装置。
【請求項11】
前記異なる作動周波数のセットの前記少なくとも1つのさらなる作動周波数が、前記第1動周波数に、以下の式、すなわち
【数6】
の少なくとも1つに従って相関し、式中、vは第1作動周波数を指し、v~v10の各1つが、前記少なくとも1つのさらなる作動周波数を指し、kが2以上の自然数を指す、請求項10に記載の医療用治療装置。
【請求項12】
前記刺激ユニットが、前記音響刺激を投与するように構成された少なくとも1つの第1刺激要素と、前記非音響刺激を投与するように構成された少なくとも1つの第2刺激要素とを備え、各第1刺激要素が前記少なくとも1つの第2刺激要素の1つに関連付けられ、当該関連付けが、前記第1刺激要素及び前記関連付けられた第2刺激要素が、前記音響刺激と前記非音響刺激とを同時に発生させるように作動可能であるように行われる、請求項1~11のいずれか一項に記載の医療用治療装置。
【請求項13】
前記刺激ユニットの制御ユニットが、前記刺激ユニットを、
-前記音響刺激の発生が前記非音響刺激の発生に連動される第1動作モード、及び、
-前記音響刺激の発生が前記非音響刺激の発生から切り離される第2動作モード、
において作動させるように構成されている、請求項1~12のいずれか一項に記載の医療用治療装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者のニューロンを刺激して、ニューロンの病的同期活動を抑制するための医療用治療装置及びそれぞれの方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病などの幾つかの脳疾患は、ニューロンの異常に強い同期活動、すなわち強く同期したニューロン発射又はバーストを特徴とする。この特徴は、パーキンソン病以外にも、例えば、本態性振戦、ジストニア、脳卒中後の機能障害、てんかん、抑鬱症、片頭痛、緊張性頭痛、強迫性障害、過敏性腸症候群、慢性疼痛症候群、骨盤痛、境界性人格障害における解離、及び、心的外傷後ストレス障害にも当てはまり得る。
【0003】
パーキンソン病に対する薬物療法、例えばL-DOPAは、治療効果が限定的な場合があり、また、重大な長期的副作用を生じる可能性がある。パーキンソン病のための高周波深部脳刺激療法(DBS)は、パーキンソン病の進行期で薬物療法難治性の患者に標準的に用いられる。しかし、DBSは、大きいリスクを伴う外科手術を必要とする。例えば、脳内の特定のターゲット領域に電極を深く埋め込むと出血が生じる場合がある。さらに、標準的な連続高周波DBSは副作用を引き起こし得る。
【0004】
また、非侵襲性の振動触覚刺激治療がパーキンソン病の兆候を抑制することが知られており、これは患者の頭部領域に用いられ得る。こうすることにより、振動触覚刺激が患者の頭部の外表面に、振動触覚刺激を発生するように投与され、この刺激は、患者の、特には患者の脳又は脊髄のニューロン集団の病的活動に作用することを目的としている。このような技術は、ニューロン集団の異常な同期を非同期化により打ち消すことができる協調リセット刺激(coordinated reset stimulation)として知られている。一般に、振動触覚刺激を発生するために、患者の頭部に固定される振動触覚刺激要素が用いられ、作動される。
【0005】
一般的に、振動触覚刺激要素を作動させると、振動触覚刺激に加えて、音響刺激も患者により知覚される。これは、刺激要素の作動時に発生される音波により生じ、患者の内耳に、空気伝導及び骨伝導を介して伝導される。しかし、これらの音響刺激は、望ましくない副作用をもたらし、通常、これが患者には煩わしく不快に感じられ、それによりコンプライアンスが低下する。これは、治療が頻繁に、例えば、数週間又は数ヶ月間、毎日長時間にわたり採用される場合に特に当てはまる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
先行技術から出発して、本発明の目的は、患者のニューロン集団の病的同期活動を効果的に抑制できる改良された非侵襲性医療用治療装置及びそれぞれの方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、独立請求項に記載の医療用治療装置及び方法により解決される。好ましい実施形態を、本明細書、図面、及び従属請求項に記載する。
【0008】
従って、患者のニューロンを刺激して、ニューロンの病的同期活動を抑制するための医療用治療装置が提供される。この医療用治療装置は、少なくとも1つの音響刺激と少なくとも1つの非音響刺激とを同時に患者の身体に投与するように構成された非侵襲性刺激ユニットを備え、前記刺激の各々は、患者の身体に投与されたときに病的同期活動を抑制するように構成される。
【0009】
さらに、患者のニューロンを刺激して、ニューロンの病的同期活動を抑制するための医療用治療方法を提供する。この方法は、少なくとも1つの音響刺激と少なくとも1つの非音響刺激とを非侵襲的且つ同時に患者の身体に投与するステップを含み、前記刺激の各々は、病的同期活動を抑制するように構成される。
【0010】
提示された方法は、前記医療用治療装置に関連して定義されたそれらの特徴に対応する方法の特徴を示す。従って、前記医療用治療装置に関連して本開示で定義する技術的特徴は、前記提示された方法にも関連し、適用され得、またその逆もあり得る。
【0011】
本開示は、以下の詳細な説明を参照することにより、その添付図面と関連して考慮すると、より容易に理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、患者のニューロンを刺激して病的同期活動を抑制するための医療用治療装置の概略図である。
図2図2は、図1に示した医療用治療装置の、患者の前額部に刺激を与えるための使用を概略的に示した図である。
図3図3は、図1に示した医療処置装置の、患者の後頭部に刺激を与えるためのさらなる使用を概略的に示した図である。
図4図4は、医療用治療装置の非侵襲性刺激要素が作動して病的同期活動を抑制する第1の構成による作動期間のシーケンスを概略的に示す図である。
図5図5は、第2の構成による作動期間のさらなるシーケンスを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を、添付図面を参照しつつ、より詳細に説明する。図中、類似の要素は同一の参照番号で示され、その繰り返しの説明は、冗長性を避けるために省略され得る。
【0014】
図1は、患者のニューロンを刺激することによりニューロンの病的同期活動を抑制するように構成された医療用治療装置10を概略的に示している。
【0015】
この装置10は、偏頭痛、頭痛、うつ病、強迫性障害、境界性人格障害、パーキンソン病の治療に使用されることが意図されているが、これらの用途に限定されるものではない。むしろ、提示された医療用治療装置10は、さらに、その他の神経学的又は精神医学的疾患の治療に用いられ得る。これらは、例えば、本態性振戦、ジストニア、てんかん、多発性硬化症に由来する振戦及びその他の病的振戦、運動障害、小脳の疾患、トゥレット症候群、ストローク後の機能障害、痙攣、耳鳴り、睡眠障害、統合失調症、過敏性大腸症候群、依存症、人格障害、注意欠陥障害、注意欠陥多動症候群、ゲーム中毒、神経症、摂食障害、燃え尽き症候群、線維筋痛症、偏頭痛、群発頭痛、神経痛、アトピー、チック障害、又は高血圧症などである。
【0016】
上記の疾患は、特定の回路で互いに接続されたニューロン群の生体電気通信の障害により引き起こされ得る。これにより、ニューロン集団は、連続的な病的ニューロン活動及び関連し得る病的接続(ネットワーク構造)を生成する。この点に関し、多数のニューロンが同期活動電位を形成する。これは、関連するニューロンが過度に且つ同期的に発射又はバーストすることを意味する。さらに、病的ニューロン集団は振動ニューロン活動を有し、これは、ニューロンが律動的に発射又はバーストすることを意味する。神経又は精神疾患の場合、関連するニューロン群の病的律動的活動の平均周波数は、約1Hz~30Hzの範囲であり得るが、この範囲外もあり得る。これとは対照的に、健康な人のニューロンは、質的に異なるように、例えば無相関式に発射又はバーストする。
【0017】
換言すれば、上述の各疾患は、病的同期ニューロン活動を有する患者の脳又は脊髄内の少なくとも1つのニューロン集団により特徴付けられ得る。このような病的同期活動を抑制するために、医療用治療装置10は、罹患したニューロン集団を刺激して、その罹患したニューロン集団を無相関式に、即ち非同期的に発射又はバーストさせるように構成されている。このような治療技術を、協調リセット刺激とも称する。
【0018】
患者の身体に作用し、従って患者のニューロンに刺激を与えるために、装置10は、患者の身体に異なる刺激を与えるように構成された非侵襲性刺激ユニット12を備えている。本開示の文脈において、用語「非侵襲性」(non-invasive)は、医療用治療装置10、すなわち刺激ユニット12が、意図された治療効果を達成するために非侵襲性の手順を展開することを意味する。換言すれば、提示される医療用治療装置10は、患者の身体内へのコンポーネントの埋め込み、すなわち介入処置に関連するようなものを必要としない。
【0019】
刺激ユニット12は、少なくとも1つの音響刺激と少なくとも1つの非音響刺激とを同時に患者の身体に投与するように設計及び構成され、各刺激の各々は、患者の身体に投与されるときに病的同期活動を抑制するように構成されている。より具体的には、刺激ユニット12は、複数の異なる音響刺激及び非音響刺激を同時に発生させることができるように設計されている。そうするために、刺激ユニット12は、複数の刺激要素14a~14d、特には少なくとも2つの刺激要素を含み、これらは、患者の身体に投与される音響刺激及び非音響刺激を発生するように構成されている。図1から推測されるように、図示されている医療用治療装置10は、少なくとも4つの刺激要素14a~14dを含むが、刺激要素14の個数はこれに限定されない。4つよりも少数又は多数の刺激要素14を有する医療用治療装置10でも満足のいく治療効果が達成され得ることが指摘される。従って、別の構成によれば、刺激ユニット12は、例えば、少なくとも2つ、特には3個~8個以上、例えば10個又は20個の刺激要素14を含んでもよい。1つの構成において、刺激ユニット12は、3個又は5個の刺激要素を含み得る。
【0020】
異なる刺激要素14a~14dを適切に作動させるために、刺激ユニット12は、刺激要素14a~14dを選択的に作動させるように構成された制御ユニット16をさらに備えている。このようにして、個々の刺激要素14a~14dを互いに独立に作動させることができる。さらに、制御ユニット16は、刺激要素14a~14dを、異なる刺激(すなわち刺激持続時間、振動周波数、振動振幅などに関して)を発生するように可変的に作動させるように構成されている。制御ユニット16は刺激要素14a~14dの各1つに、接続ワイヤを介して接続されており、この接続ワイヤを介して、刺激要素14a~14dを作動させるための制御信号がガイドされる。
【0021】
図1から推測されるように、刺激ユニット12は、患者の身体に解放可能に且つ調節可能に固定(締結)されるように構成されたストラップ又はバンド18(例えばベルクロ(登録商標)ファスナ)に埋め込まれるか又は含まれている。具体的には、バンド18は、バンド18が患者の身体に固定された状態で刺激要素14a~14dが患者の身体の異なる部位に(すなわち互いに離間して)配置されるように設計されている。例えば、医療用治療装置10は、医療用治療装置10の固定状態において、複数の刺激要素14a~14dが少なくとも1つのアレイで配置されるように提供されることができ、この配置は、所望の治療効果を達成するように、患者の身体の表面上の予め定められた領域に刺激要素14a~14dがそれぞれ位置するように行われる。
【0022】
図2は、医療用治療装置10の一実施形態を示しており、この医療用治療装置10は、患者の前額部に固定されるように構成されたヘッドバンドの形態で提供されている。この構成において、医療用治療装置10は、偏頭痛、頭痛、うつ病、強迫性障害、境界性人格障害及び/又はその他の精神疾患の治療のために使用されることが意図されている。図2から推測されるように、この構成において、医療用治療装置10は、線形アレイで配置された4つの刺激要素14を備え、これらの刺激要素は、医療用治療装置10が患者の前額部に固定された状態において、患者の三叉神経の皮膚セグメントの領域に、眼神経又は三叉神経(特には、図2に「Trig.1」で示されている三叉神経の第1枝)を刺激するように配置される。このようにして、医療用治療装置10の固定状態において、刺激ユニット12は、患者の内耳に音響刺激を与え、且つ、三叉神経の第1枝領域Trig.1において患者の皮膚に非音響刺激を与えるように構成されている。また、図2には、三叉神経の第2枝Trig.2及び第3枝Trig.3、並びに、C2デルマトーム~C4デルマトーム(皮膚分節)も示されている。さらなる構成において、図示の医療用治療装置10は、刺激要素14の2つのアレイ(例えば、各アレイが、一列に配置された4つの刺激要素14を含む)を備え得る。
【0023】
図3は、医療用治療装置10の別の実施形態を示しており、この医療用治療装置10は、患者の後頭部に固定されるように構成されたヘッドバンドの形態で提供される。この構成において、医療用治療装置10は、例えばパーキンソン病による嚥下障害(嚥下問題)及び/又は唾液腺(過剰流涎)の治療のために使用されることが意図されている。図3から推測されるように、この構成において、医療用治療装置10は、2つのアレイで配置された8つの刺激要素14を備え、各アレイが、一列に配置された4つの刺激要素14を含む。医療用治療装置10が患者の後頭部に固定された固定状態において、刺激要素14は、図3に示されているように、C2デルマトーム及びC3デルマトームを刺激するように配置されている。このようにして、医療用治療装置10の固定状態において、刺激ユニット12は、患者の内耳に音響刺激を与え、そしてC2デルマトーム及びC3デルマトームの領域において患者の皮膚に非音響刺激を与えるように構成されている。また図3に、C4~C6ダーマトームも示されている。
【0024】
さらなる実施形態において、医療用治療装置10は、図2及び図3に示されている上述の実施形態を組み合わせたヘッドバンドの形態で提供され得る。従って、この構成では、医療用治療装置10は、患者の前額部及び後頭部を刺激するように構成され、患者の前額部を刺激するための少なくとも2つ又は4つの刺激要素と、患者の後頭部を刺激するための少なくとも2つ又は4つの刺激要素を含み得る。
【0025】
以下に、刺激ユニット12の、本発明に関連する特徴を、特にその構造的構成及び動作の観点から、さらに詳細に説明する。これらの特徴は、医療用治療装置10の上記の実施形態の各々に当てはまる。
【0026】
上述したように、刺激ユニット12は、音響刺激及び非音響刺激を発生するように構成された複数の刺激要素14a~14dを備えている。概して、用語「刺激」(stimulus)又は「刺激(複数)」(stimuli)は、患者の身体により、すなわち、それぞれの受容体により感知することができる励起を指し、これらの受容体は、刺激の様式に応じて、例えば、患者の目、耳及び/又は皮膚である。これらの受容体から励起が患者の神経系に誘導され、患者の脳又は脊髄においてニューロンの作動を引き起こす。本開示の文脈において、刺激の2つの様式、すなわち、音響刺激と非音響刺激とは区別される。
【0027】
概して、用語「音響刺激」(acoustic stimuli)は、患者の耳、特に内耳に備わっている受容体により感知される励起を指す。典型的には、これらの励起は、内耳に音波の形態で、空気伝導及び骨伝導を介して提供される。そのために、本開示の文脈では、用語「非音響刺激」(non-acoustic stimuli)は、音響刺激を構成しない任意の刺激を指す。例えば、非音響刺激は、機械的刺激、特には触覚刺激又は振動刺激、光学刺激、電気刺激及び熱刺激のうちの任意の1つを指し得る。これらの刺激は、対応する受容体(例えば、患者の皮膚又は目の中の)により感知され得る。
【0028】
上述したように、刺激ユニット12は、少なくとも1つの音響刺激と少なくとも1つの非音響刺激とを同時に患者の身体に投与するように構成及び設計され、少なくとも1つの音響刺激及び非音響刺激の各々は、患者の身体に投与されるときに病的同期活性を抑制するように構成されている。言い換えれば、音響刺激及び非音響刺激の各1つが、協調リセット刺激を行うように構成されている。医療用治療装置10の1つの動作モードにおいて、非音響刺激が、患者の身体に投与されているときに病的同期活動を抑制するように構成され得る。一方、音響刺激は、患者の身体に投与されているときに病的同期活動を抑制するように構成されなくてもよい。
【0029】
より具体的には、刺激ユニット12は、少なくとも1つの音響刺激が、患者の身体に投与されているときに第1ニューロンサブ集団の病的同期活動を抑制するように構成されるように提供される。さらに、刺激ユニット12は、少なくとも1つの非音響刺激が、患者の身体に投与されているときに第1ニューロン集団とは異なるか又は境界を成す第2ニューロンサブ集団の病的同期活動を抑制するように構成されるように提供される。
【0030】
ニューロン集団が病的同期活動により影響を受けることを抑制できるように、音響刺激及び非音響刺激の各1つが、患者の体内の対応する受容体により感知されて患者の神経系に誘導される際に、影響を受けるニューロン集団の作動を少なくとも部分的に引き起こすように提供される。そうするために、発生された刺激の様式及び特性、並びに、これらの刺激が患者の体内に誘導されるべき意図される位置がそれぞれ設定される。これに関しては、以下に、より詳細に説明する。
【0031】
図示の構成では、非音響刺激を提供するために、刺激ユニット12は、患者の皮膚、特に患者の頭部領域の皮膚における対応する受容体に投与される触覚刺激又は振動刺激(振動触覚刺激とも称する)を発生するように構成されている。一般的に、人間の皮膚は、触覚刺激又は振動刺激を感知できる様々なタイプの機械受容性求心性ユニットを含む。典型的には、様々なタイプの機械的受容体の分布及び密度は、人間の皮膚上の位置によって異なる。
【0032】
患者の所望の機械受容性求心性ユニットを選択的に刺激するために、刺激ユニット12は、非音響刺激を振動触覚刺激の形態で発生するように構成された複数の振動触覚刺激要素14a~14dを含む。具体的には、振動触覚刺激要素14a~14dの各1つが、患者の身体に非音響刺激を投与するために患者の身体の表面上に振動的又は周期的に作用するように構成される。このようにすることで、患者の身体に投与されるべき非音響刺激が、周期的又は振動的刺激、すなわち、振幅又は刺激強度が時間と共に周期的に変化する刺激を構成する。
【0033】
より具体的には、1つの構成によれば、振動触覚刺激要素14a~14dは、患者の皮膚に機械的に作用するように構成された、ロッド又はその他の任意の構成要素を含む。そうするために、刺激要素14a~14dは、電気エネルギーをロッドの運動に変換するための電気機械アクチュエータを含む。例えば、電気機械アクチュエータは、等電流モータ、ボイスコイル、圧電変換器、又は、電流の印加により形状が変化する電気活性ポリマーから構成された変圧器であり得る。電気機械アクチュエータに電気エネルギーを供給するために、刺激ユニット12は、エネルギー源(特には電池の形態で提供される)を含んでいても、或いはこのようなエネルギー源に接続されていてもよい。
【0034】
そのために、刺激ユニット12は、音響刺激を提供するために、患者の内耳に投与される音響刺激を発生するように構成されたそれぞれの音響刺激要素14をさらに備えている。具体的には、音響刺激要素14は音波を発生するように構成され、これらの音波が患者の内耳に、音響刺激を投与するように空気伝導及び/又は骨伝導を介して提供される。
【0035】
一般的に、音響刺激要素14は、音波を選択的に発生させることができる任意の適切な構成要素の形態で設けられ得る。従って、音響刺激要素14は、ラウドスピーカの形態で提供されてバンド18とは別に設けられてもよい。図示の構成では、音響刺激要素14は、振動触覚刺激要素14a~14dにより構成されている。すなわち、刺激要素14a~14dの各1つが、音響刺激及び非音響刺激の両方を発生させるように構成されている。従って、刺激ユニット12は、それぞれの刺激要素14a~14dを振動的又は周期的に作動させるときに音響刺激と非音響刺激とを同時に発生させるように構成されている。換言すれば、刺激ユニット12は、非音響刺激の発生時に音響刺激を発生させるように構成される。このようにすることで、刺激要素14a~14dの各1つが、作動時に、非音響刺激と関連する音響刺激とにより構成される刺激のセットを提供するように構成されている。従って、各音響刺激が1つの非音響刺激に関連付けられ、刺激ユニット12、すなわち刺激要素14a~14dの各1つが1つの非音響刺激を、関連付けられた音響刺激と共に発生するように構成されている。
【0036】
具体的には、刺激ユニット12は、複数の刺激要素14a~14dの各1つが人間の聴覚の範囲、すなわち20Hz~20kHzの範囲の作動周波数vで作動するように提供される。例えば、刺激要素14は、20Hz~250Hzの範囲の作動周波数vで作動される。代替的に又は追加的に、刺激要素14a~14dは、低周波トーンに関連する周波数範囲、すなわち200Hz~600Hz、又は330Hz~600Hzで作動されてもよく、これは患者がリラックスして心地良いと感じ範囲であり得る。具体的には、刺激要素14a~14dは、示された周波数範囲のうちの様々な作動周波数で選択的に且つ変動的に作動され得るように構成される。
【0037】
以下に、図4を参照しつつ、医療用治療装置10、すなわちその刺激ユニット12の動作をより詳細に説明する。動作中、制御ユニット16は、異なる刺激要素14a~14dを選択的に且つ断続的に作動させるように構成されている。具体的には、制御ユニット16は、連続する作動期間TA1-AiのシーケンスCで刺激要素14a~14dを作動させるように構成され、文字「i」は、シーケンスC内の作動期間の総数を指している。図4は、連続する作動期間TA1-AiのシーケンスCを示し、これが、時間にわたるそれぞれの作動要素14a~14dの作動を示す制御シーケンス又は制御パターンを形成している。具体的には、図4において、それぞれの刺激要素14a~14dの作動が、作動期間T内に配置された破線フィールドを用いて示されている。
【0038】
シーケンスCは、時間シフトされた、重ならないi個の作動期間TA1-Aiを含み、この作動期間TA1-Ai中に、刺激要素14a~14dの少なくとも1つが、音響刺激Sと、非音響、振動触覚刺激Sとの両方を発生するために作動される。それぞれの刺激要素14a~14dにより発生されるべき音響刺激SAと非音響刺激SVとを区別するために、図4の凡例により示されているように、破線フィールドの異なるパターン(すなわち、それらの向き及び線厚に関して)が選択される。作動期間TA1-Aiの持続時間は、刺激要素14a~14dにより発生される対応する刺激S、Sの長さに対応している。例えば、作動期間は、25ミリ秒~3秒の、特には100ミリ秒又は125ミリ秒の持続時間を有し得る。
【0039】
連続する作動期間TA1-Aiの間に休息期間TR1-Riがスケジューリングされており、この休息期間TR1-Riの間、患者の身体は刺激ユニット12により発生される刺激に晒されない。休息期間TR1-Riの長さは、シーケンスCの間に、変化しても一定であってもよい。また、休息期間Tの長さは、連続する2つの作動期間が互いに直接続くように0秒であってもよい。代替的な構成において、シーケンス内の作動期間が少なくとも部分的に重なっていてもよい。
【0040】
作動期間Tの間、制御ユニット16は、刺激要素14a~14dのうちの1つを排他的に作動させるように構成されてもよく、或いは、2つ以上の刺激要素14a~14dを同時に作動させるように構成されてもよい。1つの構成において、制御ユニット16は、各作動期間Tに関し、それぞれの作動期間Tの間に同時に作動されるべき刺激要素14a~14dの個数nを変動的に決定するように構成されている。この文脈において、用語「変動的に」(variedly)は、個数nの値が、シーケンスCにわたって様々に、特には非周期的に変化することを意味する。具体的には、パラメータnは1よりも大きい整数である。nが1に等しければ、これは、それぞれの作動期間Tの間に刺激要素14a~14dの1つのみが排他的に作動されることを意味する。nが1よりも大きい場合、これは、それぞれの作動期間Tの間に2つ以上の、すなわちn個の刺激要素14a~14dが同時に作動されることを意味する。
【0041】
それぞれの作動期間Tの間に同時に作動されるべき異なる刺激要素14a~14dの個数nを変動的に決定するための、及び、作動期間Tと対応する休止期間Tとの長さを決定するための制御ユニット16の特定の手順及び実施に関して、公開された国際出願公開第2019/243634A1号を明示的に参照する。具体的には、制御ユニット16は、それぞれの作動期間Tの間に同時に作動されるべき異なる刺激要素14a~14dの個数nを変動的に決定するため、及び、作動期間Tと対応する休止期間Tとの長さを決定するために、決定論的、確率統計的、カオス理論的、及び(疑似)ランダムアルゴリズム法のうちの少なくとも1つを採用し得る。
【0042】
図4から推測されるように、各刺激要素14a~14dは、予め定められた周波数v1-4で作動されるとき、音響刺激及び振動触覚刺激S,Sを同時に発生する。刺激ユニット12、すなわちその制御ユニット16は、異なる刺激要素14a~14dを異なる作動周波数v1-4で動作させるように構成される。言い換えれば、示された構成において、それぞれの刺激要素14a~14dが作動されるべき作動周波数は、異なる刺激要素14a~14dのセット間で異なる。
【0043】
各刺激要素14a~14dは、シーケンスCの間、実質的に一定で同一の作動周波数v1-4で作動される。具体的には、制御ユニット16により作動されるとき、第1刺激要素14aは第1作動周波数vで動作され、第2刺激要素14は第2作動周波数vで動作され、第3刺激要素14cは第3作動周波数vで動作され、第4刺激要素14dは第4作動周波数vで動作される。
【0044】
より具体的には、刺激ユニット12は、作動周波数v1-4(この周波数で刺激要素14a~14dが作動される、特に同時に作動される)が、音階に調整されるように構成される。言い換えれば、刺激ユニット12に、作動周波数v1-4の所定のセットが備えられることができ、この作動周波数v1-4のセットで個々の刺激要素14a~14dが作動され得る。作動周波数v1-4、すなわち、作動周波数のセットの個々のメンバーが、音階の少なくとも一部を構成し、具体的には実質的に構成している。このようにして、治療の効果だけでなく、治療に対する患者の受容性も向上させ得る。
【0045】
治療の効果及び/又は患者の受容性をさらに高めるために、作動周波数は音階の子音周波数に調整される。
【0046】
さらなる展開として、刺激ユニット12は、作動周波数v1-4、すなわち作動周波数のセットの個々のメンバーが五音音階(ペンタトニック)に調整されるように構成され得る。このようにして、特に許容可能な、滑らかな、且つ/又はリラックスできる音響刺激シーケンスが提供され得る。さらに、五音音階周波数は、それらが滑らかに組み合わされ得るという有利な効果を提供できる。
【0047】
具体的には、刺激ユニット12は、五音音階の少なくとも一部を構成する、異なる作動周波数のセットv1-5を備え得る。第1作動周波数vから開始して、作動周波数のセットに含まれるべきその他の周波数は、以下の式(1)~(4)の少なくとも1つに基づいて決定又は計算され得る。すなわち、
【数1】
式中、特にvは、例えば200Hz若しくは220Hz又はその他の値、特には200Hz~600Hzの範囲の値を有し得る。そのために、vは、ピアノ鍵盤周波数又はその他の任意の楽器の周波数であり得る。
【0048】
提示された医療用治療装置10に関し、上記の有利な効果が、作動周波数のセットに含まれる個々のメンバーのオクターブを使用することによっても達成され得ることが分かった。従って、代替的に又は追加的に、作動周波数のセットに含まれるべきさらなる作動周波数が、以下の式の少なくとも1つに基づいて計算され得る。
【数2】

式中、kは1以上の自然数であり、例えば1、2、3又は4である。
【0049】
さらに、刺激ユニット12は、異なる刺激要素14a~14dの各々の1つの振動振幅を調整するように構成され得る。具体的には、刺激ユニット12は、異なる刺激要素14a~14dの各1つの振動振幅を、音響刺激又は非音響刺激S,Sを考慮して患者の知覚に依存して調整するように構成され得る。そうするために、刺激ユニット12は、異なる刺激要素14a~14dの各1つの振動振幅を、音響刺激及び非音響刺激S,Sを考慮して、等しい固有受容知覚、等しいラウドネス知覚又は、患者の知覚を示すその他のパラメータの少なくとも1つに依存して調整するように構成され得る。
【0050】
上述したように、図4に示した構成において、刺激ユニット12は、刺激要素14a~14dの各1つの作動周波数が、動作中に、すなわち作動期間TのシーケンスCの間に一定又は不変であるように構成されている。
【0051】
さらなる展開として、刺激ユニット12は、少なくとも1つの刺激要素14a~14dを異なる刺激周波数vで作動させるように構成され得る。言い換えれば、刺激ユニット12は、少なくとも1つの刺激要素14a~14dの作動周波数が時間と共に変化されるように構成され得る。例えば、刺激ユニット12は、少なくとも1つの刺激要素14a~14dの作動周波数が作動期間Tの間に変化するように構成され得る。代替的に又は追加的に、刺激ユニット12は、少なくとも1つの刺激要素14a~14dの作動周波数が作動期間Tの間は一定に維持されるがシーケンスCの間で、すなわち、連続する作動期間T中には変化するように構成され得る。これは、例えば、第1刺激要素14aが第1作動期間TA1中に第1作動周波数vで作動されることができ、別の作動期間Tにおいては異なる作動周波数で(例えば、第2、第3、第4作動周波数v2-4又はその他の任意の作動周波数で)作動され得ることを意味する。具体的には、それぞれの刺激要素14a~14dの作動周波数は、連続的に増大又は減少するように、特には、作動周波数の予め定められたセットに含まれる増大又は減少する周波数へと連続的に調整されることにより、変化され得る。
【0052】
1つの構成において、刺激ユニット12は、各刺激要素14a~14dに関して、対応する作動期間T中に、予め決められた作動周波数のセットに含まれるどの作動周波数で刺激要素14a~14dが作動されるべきかを変動的に選択するように構成され得る。具体的には、そうするために、制御ユニット12は、各刺激要素14a~14dに関して、対応する作動期間T中に、予め決められた作動周波数のセットに含まれるどの作動周波数で刺激要素14a~14dが作動されるべきかを確率論的及び/又は決定論的に、及び/又は、確率論的-決定論的の組合せ、及び/又は決定するように構成され得る。そのために、このような構成において、制御ユニット16は、作動期間Tの各1つ内で刺激要素14a~14dが異なる作動周波数で作動されることを保証するように構成され得る。
【0053】
図5は、別の構成による医療用治療装置10の動作を示す図である。この構成において、医療用治療装置10は、ニューロンの病的同期活動を抑制するための音響刺激Sを発生するように構成された第1作動要素20a~20dのセットと、ニューロンの病的同期活動を抑制するための非音響的、振動触覚刺激Sを発生するように構成された第2作動要素22a~22dのセットとを備えている。第1刺激要素20a~20dと第2刺激要素22a~22dとは、刺激ユニット12の別々の構成要素を構成している。第1刺激要素20a~20dは単一の構成要素により提供されてもよく、例えば、複数の音響刺激を同時に発生するように構成されたラウドスピーカの形態で提供されてもよい。
【0054】
この構成において、制御ユニット16は、図5のシーケンスC1により例示される第1動作モードと、図5のシーケンスC3により例示される第2動作モードで刺激ユニット12とを動作させるように構成されている。
【0055】
具体的には、第1動作モードにおいて、制御ユニット16は、刺激ユニット12を、音響刺激Sの発生が非音響刺激の発生と対になるように又は連動されるように動作させるように構成される。従って、制御ユニット16は、非音響刺激Sがそれらの関連する音響刺激Sと同時に又は一緒に発生されるように、第1作動要素20a~20d及び第2作動要素22a~22dを制御するように構成される。各第1刺激要素20a~20は第2刺激要素22a~22dの1つに関連付けられ、この関連付けは、第1刺激要素20a~20dとその関連する第2刺激要素22a~22とが、非音響刺激S及びその関連する音響刺激Sにより構成された対応する刺激のセットを生成するように行われる。図5から推測されるように、図示の構成では、以下の第1刺激要素と第2刺激要素から成るペアが同時に作動され、従って互いに関連付けられる。これらのペアは、20a-22a、20b-22b、20c-22c、及び、20d-22dである。
【0056】
第1刺激要素20a~20dは、それらの関連する第2刺激要素22a~22dの作動周波数vに依存する作動周波数vで作動される。具体的には、各第1刺激要素20a~20dは、その関連する第2刺激要素22a~22dの作動周波数vと等しいか又はその高調波を構成する作動周波数vで作動され得る。従って、各第1刺激要素20a~20dの作動周波数vは、その関連する第2刺激要素22a~22dの作動周波数vの1/m又はm/1であり得、mは、1よりも大きい自然数である。さらに、それぞれの第1刺激要素20a~20dにより発生されて患者の内耳に伝導される音波の周波数vは、関連する第2刺激要素22a~22dの作動周波数vの1/m又はm/1であり得る。代替的に又は追加的に、各第1刺激要素20a~20dの作動周波数v、及び/又は、それぞれの第1刺激要素20a~20dにより発生された音波の周波数vと、関連する第2刺激要素22a~22dの作動周波数vとが五音音階に調整され得る。言い換えれば、作動周波数v及び/又は周波数vと、関連する第2刺激要素22a~22dの作動周波数vとが、5音音階の一部を構成し得る。従って、作動周波数v及び/又は周波数vを、関連する第2刺激要素22a~22dの作動周波数vと相関させることができ、又は、以下の式(10)~(14)の少なくとも1つに基づいて計算し得る。
【数3】

式中、v’/”は、各第1刺激要素20a~20dの作動周波数v、及び/又は、それぞれの第1刺激要素20a~20dにより発生される音波の周波数vを指し、vは、関連する第2刺激要素22a~22dの作動周波数を指し、lは、0以上の自然数を指す。
【0057】
そのために、刺激ユニット12の第2の動作モードにおいて、制御ユニット16は、第1刺激要素20a~20d及び第2刺激要素22a~22dを、音響刺激Sが非音響刺激Sの発生から切り離されて発生されるように動作させるように構成される。図5から推測されるように、第2動作モードにおいて、すなわち第2シーケンスC2内で、患者は非音響刺激Sに晒されることがない。
【0058】
第2動作モードにおいて、制御ユニット16は、それぞれの作動期間Tの間に同時に作動させるべき第1刺激要素20a~20dの個数nを変動的に決定し、そして、その作動期間Tの間に第1刺激要素20a~20dのどれを作動させるかを変動的に選択するように構成されている。そうするために、制御ユニット16は、それぞれの作動期間Tの間に同時に作動されるべき第1刺激要素20a~20dの個数nを、確率的及び/若しくは決定論的に、並びに/又は確率論的-決定論的の組合せで決定するように構成され得る。さらに、制御ユニット16は、それぞれの作動期間Tの間に第1刺激要素20a~20dのうちのどの1つが作動されるべきかを、確率的及び/若しくは決定論的に、並びに/又は確率論的-決定論的の組合せで選択するように構成され得る。
【0059】
刺激ユニット12を第1動作モードで動作させることにより、条件付け及び/又は連想学習の原理が、異常なシナプス重みを効果的にダウンレギュレートするために、条件付け及び/又は連想学習の原理が採用され得る。より具体的には、音響刺激と非音響刺激とを組み合わせることにより、条件付け又は連想学習が特定の自然な方法で提供され、それにより、治療に対する患者の受容性を高めることができる。
【0060】
上述した構成のいずれか1つによる、提示された医療用治療装置10において、全ての作動周波数、すなわち、異なる刺激要素14;20a~20d,22a~22dが動作される周波数が、予め定められた方法で、特には五音音階に調整されるように互いに相関している。そうするために、刺激要素の1つ(特には第2刺激要素22a~22dの1つ)の基本作動周波数vが決定又は提供されることができ、これに基づいて残りの刺激要素のその他の全ての作動周波数が調整される。そうするために、その他の作動周波数vが基本作動周波数vに、以下の式(15)~(19)の少なくとも1つに基づいて相関され得る。
【数4】

式中、lは、0以上の自然数を指す。さらに、音響刺激を発生させるように構成された刺激要素14;22a~22dの作動周波数は、その刺激要素により発生されて患者の内耳に伝導される音波の周波数を指し、具体的にはこの周波数に等しくてもよいことに留意されたい。
【0061】
当業者には、これらの実施形態及び項目が複数の可能性の例を示しているに過ぎないことが明らかであろう。従って、ここに示された実施形態は、これらの特徴及び構成の限定を形成するものと理解されるべきではない。記載された特徴の任意の可能な組合せ及び構成は、本発明の範囲に従って選択され得る。
【0062】
これは特に、上述した幾つかの又は全ての実施形態の、技術的に実現可能な任意の組合せによる項目及び/又は特徴と組み合わされ得る以下の任意選択的な特徴に関する場合である。
【0063】
患者のニューロンを刺激してニューロンの病的同期活動を抑制するための医療用治療装置が提供される。この医療用治療装置は、少なくとも1つの音響刺激と少なくとも1つの非音響刺激とを同時に患者の身体に投与するように構成された非侵襲性刺激ユニットを備え、これらの各刺激は、患者の身体に投与されたときに病的同期性活動を抑制するように構成される。
【0064】
上述のように、幾つかの脳疾患(すなわちパーキンソン病を含む)を誘発するニューロンの異常な強い同期活動は、異常にアップレギュレートされたシナプス結合により引き起こされ得る。ニューロンの異常な同期プロセスに、長期的、持続的に対抗するためには、シナプス重みをダウンレギュレートすることが特に好ましい。
【0065】
異常なシナプス重みのダウンレギュレーションが、異なる構成(すなわち場所及びモダリティに関して)の刺激によるニューロン集団の相互活性化により効果的に達成できることが分かっている。従って、病的同期活動を抑制するために少なくとも1つの音響刺激と少なくとも1つの非音響刺激とを同時に投与するように構成された医療用治療装置を提供することにより、ニューロンの病的同期活動を効果的に抑制することを、すなわちニューロンの病的同期活動を脱同期化することにより可能にする。
【0066】
具体的には、医療用治療装置は、患者の頭部に固定されるように構成されることができ、医療用治療装置が患者の頭部に固定された固定状態において、刺激ユニットが、音響刺激を患者の耳に提供し、且つ、非音響刺激を、患者の前額部の領域の患者の皮膚、特には三叉神経の第1枝にて提供するように構成され得る。代替的又は追加的に、刺激ユニットは、非音響刺激を、患者の後頭部の領域の患者の皮膚、特にはC2又はC3皮膚分節にて提供するように構成され得る。
【0067】
さらなる展開において、刺激ユニットは、音響刺激が患者の身体に投与されるときに、特には患者の脳又は脊髄の少なくとも一方における第1ニューロン集団の病的同期活動を抑制するように構成されるように提供され得る。代替的又は追加的に、患者の身体に投与されているときに、非音響刺激が、特には患者の脳又は脊髄の少なくとも一方における、前記第1ニューロン集団とは異なり又は境界を成す第2ニューロン集団の病的同期活動を抑制するように構成され得る。
【0068】
具体的には、少なくとも1つの非音響刺激が、機械的刺激、特には振動触覚刺激である。
【0069】
さらなる展開において、少なくとも1つの音響刺激の各1つが、1つの非音響刺激と関連付けられ得る。さらに、刺激ユニットは、その関連付けられた音響刺激と共に1つの非音響刺激を同時に発生するように構成され得る。
【0070】
刺激ユニットは、少なくとも1つの振動触覚刺激要素を含むことができ、この振動触覚刺激要素は、患者の身体の表面上に、患者の身体に前記非音響刺激を与えるように振動的又は周期的に作用するように構成されている。
【0071】
さらなる展開において、前記刺激ユニットは、音響刺激と非音響刺激とを、振動触覚刺激要素を振動的又は周期的に作動させるときに同時に発生するように構成され得る。或いは、刺激ユニットは、音響刺激を発生するための少なくとも1つの音響刺激要素を含み得る。音響刺激要素は、振動刺激要素とは別個に設けられ得る。さらに、刺激ユニットは、振動触覚刺激要素と音響刺激要素とを同時に作動させるように構成されることができ、これは、非音響刺激と音響刺激とを同時に発生するように行われる。
【0072】
振動触覚刺激要素及び音響刺激要素は、20Hz~20kHzの範囲、特には20Hz~250Hzの範囲、又は200Hz~600Hzの範囲の作動周波数で作動され得る。
【0073】
刺激ユニットは、少なくとも2つの振動触覚刺激要素、又は、非音響的及び/又は音響的刺激を発生するためのその他の任意の刺激要素を含み得る。少なくとも2つの刺激要素の各1つが、少なくとも2つの非音響刺激のうちの1つを発生するように構成され得、刺激ユニットは、少なくとも2つの刺激要素を異なる作動周波数又は振動周波数で動作させるように構成されている。さらなる展開において、刺激要素が作動される作動周波数又は振動周波数は音階、特には五音音階に調整され得る。
【0074】
さらに、刺激ユニットは、異なる作動周波数のセットを備え得る。この作動周波数のセットは、少なくとも1つの刺激要素を作動させることができる作動周波数、特には、予め定められた作動周波数を含み得る。言い換えれば、刺激要素は、作動周波数のセットに含まれる作動周波数で作動されるように構成され得る。従って、刺激要素は、作動周波数のセットに含まれない作動周波数では動作され得ない場合がある。
【0075】
作動周波数のセットは、第1作動周波数と、第1作動周波数に依存して又は相関して決定される少なくとも1つのさらなる作動周波数とを含み得る。このようにして、第1作動周波数を決定するときに、少なくとも1つのさらなる作動周波数も決定され得る。
【0076】
具体的には、異なる作動周波数のセットの少なくとも1つのさらなる作動周波数は、第1作動周波数に相関していてもよく、又は、以下の式(20)~(28)の少なくとも1つに従って第1作動周波数に依存して決定されてもよい。すなわち、
【数5】

式中、vは第1作動周波数を指し、v~v10の各1つが、少なくとも1つのさらなる作動周波数を指し、kは1以上の自然数を指す。
【0077】
さらなる展開において、刺激ユニットは、少なくとも1つの音響刺激を投与するように構成された少なくとも1つの第1刺激要素と、少なくとも1つの非音響刺激を投与するように構成された少なくとも1つの第2刺激要素とを含み得る。各第1刺激要素は、少なくとも1つの第2刺激要素の1つに関連付けられ、この関連付けは、第1刺激要素及び関連する第2刺激要素が音響刺激と非音響刺激とを同時に発生するように作動可能であるように行われる。
【0078】
付加的又は代替的に、刺激ユニットは、刺激ユニット(特にはその刺激要素の動作)を制御するための制御ユニットを含み得る。具体的には、制御ユニットは、刺激ユニットを、音響刺激の発生が非音響刺激の発生と連動され又は対になっている第1動作モード、及び、音響刺激の発生が非音響刺激の発生から切り離されている第2動作モードで動作させるように構成され得る。
【0079】
さらに、患者のニューロンを刺激してニューロンの病的同期活動を抑制する医療用治療方法を提供する。この方法は、少なくとも1つの音響刺激と少なくとも1つの非音響刺激とを非侵襲的に同時に患者の身体に投与するステップを含み、これらの刺激の各々は、病的同期活動を抑制するように構成されている。
【符号の説明】
【0080】
10 医療用治療装置
12 刺激ユニット
14 刺激要素
16 制御ユニット
18 バンド
20 音響刺激を発生させるための刺激要素
22 非音響刺激を発生させるための刺激要素
C 作動期間のシーケンス
音響刺激
非音響刺激、振動触覚刺激
作動期間
休息期間
v 作動周波数
図1
図2
図3
図4
図5