(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】クローディン18.2の抗体及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/30 20060101AFI20240718BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240718BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240718BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240718BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240718BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240718BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240718BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240718BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240718BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240718BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240718BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240718BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240718BHJP
A61K 38/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C07K16/30 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/02 C
C12P21/08
C07K16/46
C07K19/00
A61K39/395 T
A61K47/68
A61K38/00
A61P35/00
A61K39/395 Y
(21)【出願番号】P 2022573795
(86)(22)【出願日】2021-02-10
(86)【国際出願番号】 CN2021076482
(87)【国際公開番号】W WO2021160155
(87)【国際公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-10-21
(31)【優先権主張番号】202010086516.8
(32)【優先日】2020-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】522318966
【氏名又は名称】上海詩健生物科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI ESCUGEN BIOTECHNOLOGY CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 710,No.781 Cailun Rd,China(Shanghai) Pilot Free Trade Zone,Shanghai 201203,CHINA
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】周清
(72)【発明者】
【氏名】許伝営
(72)【発明者】
【氏名】粘偉紅
(72)【発明者】
【氏名】何向宇
(72)【発明者】
【氏名】鄭欣桐
(72)【発明者】
【氏名】張新敏
(72)【発明者】
【氏名】何峰
(72)【発明者】
【氏名】肖▲靖▼
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/174617(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 16/00-16/46
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CLDN18.2抗体であって、重鎖CDRsと軽鎖CDRsとを含み、
前記重鎖CDRsは、
SEQ ID NO:21に示されるアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO:22に示されるアミノ酸配列を含むCDR2、及び、SEQ ID NO:23に示されるアミノ酸配列を含むCDR3であり、かつ、
前記軽鎖CDRsは、
SEQ ID NO:27に示されるアミノ酸配列を含むCDR1、SEQ ID NO:28に示されるアミノ酸配列を含むCDR2、及び、SEQ ID NO:29に示されるアミノ酸配列を含むCDR3である、CLDN18.2抗体。
【請求項2】
SEQ ID NO:
31又はSEQ ID NO: 40に示される重鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
SEQ ID NO:33
、SEQ ID NO: 41又はSEQ ID NO: 42に示される軽鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体であって、前記重鎖可変領域はSEQ ID NO:31に示され
、前記軽鎖可変領域はSEQ ID NO:33に示される
、抗体。
【請求項5】
重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の抗体であって、
1
)前記重鎖可変領域はSEQ ID NO:40に示され
、前記軽鎖可変領域はSEQ ID NO:41に示され
る、又は
2)
前記重鎖可変領域は、SEQ ID NO:40に示され
、前記軽鎖可変領域は、SEQ ID NO:42に示され
る、請求項1~3のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項6】
キメラ抗体
又はヒト化抗
体である、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項7】
重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む、CLDN18.2抗体であって、
(1)前記重鎖可変領域は、配列番号34で示され、前記軽鎖可変領域は、配列番号35で示される、または
(2)前記重鎖可変領域は、配列番号36で示され、前記軽鎖可変領域は、配列番号35で示される、
CLDN18.2抗体。
【請求項8】
多重特異性抗体又は二重特異性抗体である、請求項1~
7のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項9】
前記多重特異性抗体又は二重特異性抗体は第2生物分子に結合する結合ドメインを含み、前記第2生物分子は細胞表面抗原である、請求項
8に記載の抗体。
【請求項10】
前記細胞表面抗原は腫瘍抗原である、請求項
9に記載の抗体。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の抗体に連結される治療剤、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)受容体アゴニスト、サイトカイン、放射性核種又は酵素を含む、免疫複合体。
【請求項12】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の抗体
又は請求項
11に記載の免疫複合
体を含
む医薬組成物。
【請求項13】
請求項1~
10のいずれか一項に記載の抗体又は抗原結合断片をコードするポリヌクレオチド配列を含む単離された核酸。
【請求項14】
請求項13に記載のポリヌクレオチド配列を含む
、ベクター。
【請求項15】
請求項13に記載のポリヌクレオチド配列又は請求項14に記載のベクターを含む、宿主細胞。
【請求項16】
請求項15に記載の宿主細胞を培養して、培養物か
ら抗体を単離することを含む、請求項1~
10のいずれか一項に記載の抗体
を製造
する方法。
【請求項17】
癌の治療における使用のための、請求項1~
10のいずれか1項に記載の抗体
又は請求項
11に記載の免疫複合
体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の技術分野に関し、また、該抗体の使用及び製造方法に関する。具体的には、クローディン18.2の抗体及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クローディン(Claudin)は分子量20~30kDaの膜貫通タンパク質であり、そのファミリーには計24個のメンバーが含まれており、多くの組織で発現し、細胞間密着結合(TJ:Tight Junctions)構造を形成するための重要な分子である。上皮細胞又は内皮細胞は細胞表面で発現する密着結合分子(Claudin分子を含む)を介して高度に規則的な組織の結合、即ち細胞間密着結合を形成し、上皮細胞ギャップでの分子の移動を制御する。TJは正常な生理条件下での上皮細胞又は内皮細胞の恒常性や、細胞極性を維持するのに重要な役割を果たす。その中でも、注目を集めているのはクローディン18(Claudin18、CLDN18)であり、CLDN18スプライス変異体1(Claudin18.1、CLDN18.1)とCLDN18スプライス変異体2(Claudin18.2、CLDN18.2)というスプライスによる2種類の変異体がある。
【0003】
これらのうち、CLDN18.2(Genbank登録番号NM_001002026、NP_001002026)は分子量27.8kDaの膜貫通タンパク質であり、タンパク質のN末端及びC末端のいずれも細胞内にある。該タンパク質の主なコンフォメーションには4個の膜貫通ドメイン(TMD)と2個の細胞外ループ(ECL)が含まれる。CLDN18.2は複数種の哺乳類で高度に保存的であり、全長として261個のアミノ酸を含み、1~6位アミノ酸がN末端細胞内領域であり、7~27位アミノ酸が膜貫通領域1(TMD1)であり、28~78位アミノ酸が細胞外ループ1(ECL1)であり、79~99位アミノ酸が膜貫通領域2(TMD2)であり、123~144位アミノ酸が膜貫通領域3(TMD3)であり、100~122位アミノ酸がTMD2とTMD3を連結する細胞内領域であり、145~167位アミノ酸が細胞外ループ2(ECL2)であり、168~190位アミノ酸が膜貫通領域4(TMD4)であり、191~261位アミノ酸がC末端細胞内領域である。第116位のアスパラギンに1つの典型的なNグリコシル化モチーフが存在する。
【0004】
CLDN18.1は、CLDN18.2に比べて、タンパク質のN末端-膜貫通領域1-細胞外ループ1という領域内のN末端の最初26個のアミノ酸配列に違いが存在し、残りの配列が同じである。
【0005】
多くの証拠より明らかなように、胃、膵臓、食道などの組織の腫瘍細胞、特に腺癌サブタイプ腫瘍細胞においては、CLDN18.2の発現レベルが顕著に活性化されている。正常な組織においては、CLDN18.1は肺及び胃組織の上皮細胞で選択的に発現し、CLDN18.2は寿命の短い胃腺状上皮粘膜組織(分化済みの腺上皮細胞)でのみ発現し、胃の上皮幹細胞で発現せず、分化済みの腺上皮細胞は胃の上皮幹細胞により絶えずに補充される。これらの分子の発現特性は抗体に基づくCLDN18.2関連癌の治療のための潜在的な可能性を提供する。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、胃癌、膵臓癌又は食道癌などの癌病変を効果的に治療できる癌治療用のCLDN18.2抗体を提供する。具体的には、本願は以下に関する。
【0007】
1. CLDN18.2抗体であって、重鎖CDRsと軽鎖CDRsとを含み、
前記重鎖CDRsは、
SEQ ID NO:18に示されるCDR1、SEQ ID NO:19に示されるCDR2、SEQ ID NO:20に示されるCDR3を含むか、又は
SEQ ID NO:21に示されるCDR1、SEQ ID NO:22に示されるCDR2、SEQ ID NO:23に示されるCDR3を含み、
前記軽鎖CDRsは、
SEQ ID NO:24に示されるCDR1、SEQ ID NO:25に示されるCDR2、SEQ ID NO:26に示されるCDR3を含むか、又は
SEQ ID NO:27に示されるCDR1、SEQ ID NO:28に示されるCDR2、SEQ ID NO:29に示されるCDR3を含むCLDN18.2抗体。
いくつかの実施形態では、本願は、以下から選択される重鎖CDRs及び軽鎖CDRsと少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、CLDN18.2抗体に関する。
前記重鎖CDRsは、
SEQ ID NO:18に示されるCDR1、SEQ ID NO:19に示されるCDR2、SEQ ID NO:20に示されるCDR3を含むか、又は
SEQ ID NO:21に示されるCDR1、SEQ ID NO:22に示されるCDR2、SEQ ID NO:23に示されるCDR3を含み、
前記軽鎖CDRsは、
SEQ ID NO:24に示されるCDR1、SEQ ID NO:25に示されるCDR2、SEQ ID NO:26に示されるCDR3を含むか、又は
SEQ ID NO:27に示されるCDR1、SEQ ID NO:28に示されるCDR2、SEQ ID NO:29に示されるCDR3を含む。
いくつかの実施形態では、本願は、以下から選択される重鎖CDRs及び軽鎖CDRsのアミノ酸配列の保存的変異配列を含む、CLDN18.2抗体に関する。
前記重鎖CDRsは、
SEQ ID NO:18に示されるCDR1、SEQ ID NO:19に示されるCDR2、SEQ ID NO:20に示されるCDR3を含むか、又は
SEQ ID NO:21に示されるCDR1、SEQ ID NO:22に示されるCDR2、SEQ ID NO:23に示されるCDR3を含み、
前記軽鎖CDRsは、
SEQ ID NO:24に示されるCDR1、SEQ ID NO:25に示されるCDR2、SEQ ID NO:26に示されるCDR3を含むか、又は
SEQ ID NO:27に示されるCDR1、SEQ ID NO:28に示されるCDR2、SEQ ID NO:29に示されるCDR3を含む。
2. SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO: 34、SEQ ID NO: 36又はSEQ ID NO: 40に示される重鎖可変領域を含む、項1に記載の抗体。
いくつかの実施形態では、本願は、SEQ ID NO:30、SEQ ID NO:31、SEQ ID NO: 34、SEQ ID NO: 36又はSEQ ID NO: 40に示される重鎖可変領域と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、CLDN18.2抗体に関する。
3. SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO: 35、SEQ ID NO: 37、SEQ ID NO: 41又はSEQ ID NO: 42に示される軽鎖可変領域を含む、項1に記載の抗体。
いくつかの実施形態では、本願は、SEQ ID NO:32、SEQ ID NO:33、SEQ ID NO: 35、SEQ ID NO: 37、SEQ ID NO: 41又はSEQ ID NO: 42に示される軽鎖可変領域と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、CLDN18.2抗体に関する。
4. 1)SEQ ID NO:30に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:32に示される軽鎖可変領域と、又は
2)SEQ ID NO:31に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:33に示される軽鎖可変領域とを含む、如項1~3のいずれか1項に記載の抗体。
いくつかの実施形態では、本願は、以下の配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、CLDN18.2抗体に関する。
1)SEQ ID NO:30に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:32に示される軽鎖可変領域、
2)SEQ ID NO:31に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:33に示される軽鎖可変領域。
5. 1)SEQ ID NO:34に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:35に示される軽鎖可変領域と、
2)SEQ ID NO:36に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:35に示される軽鎖可変領域と、
3)SEQ ID NO:36に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:37に示される軽鎖可変領域と、
4)SEQ ID NO:40に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:41に示される軽鎖可変領域と、又は
5)SEQ ID NO:40に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:42に示される軽鎖可変領域とを含む、項1~3のいずれか1項に記載の抗体。
いくつかの実施形態では、本願は、以下の配列と少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、CLDN18.2抗体に関する。
1)SEQ ID NO:34に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:35に示される軽鎖可変領域、
2)SEQ ID NO:36に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:35に示される軽鎖可変領域、
3)SEQ ID NO:36に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:37に示される軽鎖可変領域、
4)SEQ ID NO:40に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:41に示される軽鎖可変領域、又は
5)SEQ ID NO:40に示される重鎖可変領域と、SEQ ID NO:42に示される軽鎖可変領域。
6. キメラ抗体、ヒト化抗体又は完全ヒト抗体である、項1~5のいずれか1項に記載の抗体。
7. 全長抗体である、項1~6のいずれか1項に記載の抗体。
8. IgG抗体である、項7に記載の抗体。
9. CLDN18.2に結合する抗体断片である、項1~6のいずれか1項に記載の抗体。
10. Fab、Fab’-SH、Fv、scFv又は(Fab’)2である、項9に記載の抗体。
11. 多重特異性抗体又は二重特異性抗体である、項1~8のいずれか1項に記載の抗体。
12. 前記多重特異性抗体又は二重特異性抗体は第2生物分子に結合する結合ドメインを含み、前記第2生物分子は細胞表面抗原である、項11に記載の抗体。
13. 前記細胞表面抗原は腫瘍抗原である、項12に記載の抗体。
14. 前記腫瘍抗原は、CD3、CD20、FcRH5、HER2、LYPD1、LY6G6D、PMEL17、 LY6E、CD19、CD33、CD22、CD79A、CD79B、EDAR、GFRA1、MRP4、RET、Steap1、及びTenB2から選択される、項13に記載の抗体。
15. 項1~10のいずれか1項に記載の抗体に連結される治療剤、インターフェロン遺伝子刺激因子(STING)受容体アゴニスト、サイトカイン、放射性核種又は酵素を含む、免疫複合体。
16. 前記治療剤は化学療法薬である、項15に記載の複合体。
17. 前記治療剤は細胞傷害性剤(細胞毒性剤)である、項15に記載の複合体。
18. 項1~10のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合断片を含む融合タンパク質又はポリペプチド。
19. 項1~14のいずれか1項に記載の抗体、項15~17のいずれか1項に記載の免疫複合体、項18に記載の融合タンパク質又はポリペプチドを含む医薬組成物。
20. SEQ ID NOs:18~29の1つのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列を含む単離された核酸。
21. SEQ ID NOs:30~33の1つのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列を含む項20に記載の核酸。
22. 項1~10のいずれか1項に記載の抗体又は抗原結合断片をコードするポリヌクレオチド配列を含む項21に記載の核酸。
23. 項20~22のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド配列を含むベクター。
24. 項20~22のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド配列又は項23に記載のベクターを含む宿主細胞。
25. 項1~10のいずれか1項に記載の抗体の製造方法であって、項24に記載の宿主細胞を培養して、培養物から前記抗体を単離することを含む製造方法。
26. 項1~14のいずれか1項に記載の抗体、項15~17のいずれか1項に記載の免疫複合体、項18に記載の融合タンパク質又はポリペプチドを含む医薬組成物の、癌治療薬の製造における使用。
27. 前記癌は消化器癌である、項26に記載の使用。
28. 前記消化器癌は胃癌、膵臓癌及び食道癌から選択される、項27に記載の使用。
29. 項1~10のいずれか1項に記載の抗体又はその抗原結合断片を含む癌検出試薬。
30. 前記抗体又はその抗原結合断片は化学的に標識されたものである、項29に記載の癌検出試薬。
31. 前記標識は酵素標識、蛍光標識、同位体標識又は化学発光物標識である、項30に記載の癌検出試薬。
32. 項29~31のいずれか1項に記載の癌検出試薬を含む癌診断キット。
33. 前記癌は胃癌、膵臓癌又は食道癌である、項32に記載のキット。
34. 被検者の癌診断方法であって、項1~14のいずれか1項に記載の抗体、項18に記載の融合タンパク質又はポリペプチド又は項29~31のいずれか1項に記載の検出試薬を被検者由来の組織サンプルと接触させることを含む診断方法。
35. 前記組織サンプルは被検者の体液(例えば血液、尿)及び組織切片(例えば組織生検サンプル)である、項34に記載の診断方法。
36. 前記癌は胃癌、膵臓癌及び食道癌から選択される、項34又は35に記載の診断方法。
37. 項1~14のいずれか1項に記載の抗体、項15~17のいずれか1項に記載の免疫複合体、項18に記載の融合タンパク質又はポリペプチド、又は項19に記載の医薬組成物の治療有効量を被検者に投与することを含む、被検者の癌治療方法。
38. 前記癌は消化器癌である、項37に記載の方法。
39. 前記消化器癌は胃癌、膵臓癌及び食道癌から選択される、項38に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ヒトhCLDN18.2-TCE(T-細胞エピトープペプチド)レトロウイルス発現プラスミドのHEK293-T細胞への一過性トランスフェクションである。
【
図2】hCLDN18.2-TCEレンチウイルス粒子のマウス腫瘍細胞株へのトランスフェクションマウス及びフローサイトメトリーによるhCLDN18.2-TCEを高レベルで発現させたマウス腫瘍細胞の選別である。
【
図3】hCLDN18.2、hCLDN18.1及びmCLDN18.2、mCLDN18.1を安定トランスフェクションした細胞株のフローサイトアッセイである。
【
図4】陽性対照抗体43A11、175D10及び163E12のSDS-PAGE検出である。
【
図5】確認スクリーニングにおける陽性ハイブリドーマ陽性クローンとHEK293-hCLDN18.2細胞及びHEK293-hCLDN18.1細胞との結合である。
【
図6】検証スクリーニングにおける一部の陽性ハイブリドーマクローンの5個の細胞株におけるフローサイトメトリー分析である。
【
図7】一部の陽性ハイブリドーマクローン上清のADCC効果である。
【
図8】HEK293-hCLDN18.2細胞に対するハイブリドーマ単クローン上清のフローサイトメトリー分析である。
【
図9】陽性ハイブリドーマモノクローンの重鎖及び軽鎖のV領域のPCR増幅である。
【
図10】精製モノクローナル抗体タンパク質の還元CE-SDS純度検出である。
【
図11】精製ヒトマウスキメラ体のモノクローナル抗体タンパク質の脱グリコシル化還元LC/MSスペクトルである。
【
図12】精製ヒトマウスキメラモノクローナル抗体のADCC効果である。
【
図13】3-L4及び4-I17の胃癌チップ組織の一部でのIHC染色である。
【
図14】ハイブリドーマクローン上清の正常な胃組織の凍結切片でのIHC染色である。
【
図15】4-B23ハイブリドーマクローン上清のヒトの正常な組織での非特異的IHC染色である。
【
図16】5-M9及び9-D1 Fv領域の相同3Dモデリングである。
【
図17】5-M9及び9-D1のVH及びVLと、CDRs移植受容フレームワークであるヒト生殖細胞系遺伝子との配列アラインメントである。
【
図18】9-D1ヒト化抗体分子タンパク質の精製後の還元SDS-PAGE検出である。
【
図19】非熱処理/熱処理後の5-M9キメラ抗体及びヒト化抗体とHEK293-hCLDN18.2との結合である。
【
図20】5-M9キメラ抗体及びヒト化抗体の昆虫バキュロウイルスへの非特異的結合である。
【
図21】9-D1及びそのヒト化抗体の、hCLDN18.2低発現胃腫瘍細胞株KATO IIIへの結合である。
【
図22】ヒト化抗体h5M9V7のDSFスペクトル及びSLSスペクトルである。
【
図23】9-D1ヒト化抗体のDSC走査スペクトルである。
【
図24】9-D1ヒト化抗体分子のSECスペクトルである。
【
図25】9D1及び5M9ヒト化抗体の胃癌凍結切片でのIHC染色である。
【
図26】9D1及び5M9ヒト化抗体の健常者の主要な器官組織でのIHC染色である。
【
図27】9D1ヒト化抗体の担癌マウスへの抗腫瘍作用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面を参照して本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。図面においては本発明の具体的な実施例が示されているが、本発明は、ここでの実施例により限制されることなく、さまざまな形態で実現されてもよいことが理解される。むしろ、これらの実施例は本発明をより完全に理解できるようにし、本発明の範囲を完全に当業者に伝えるために提供されるのである。
【0010】
1.定義
本明細書に記載の用語「抗体」は広義に使用され、CLDN18.2に結合する、本明細書で開示された1つ又は複数のCDRドメインを含む各種の抗体構造分子を含み、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば二重特異性抗体)及び抗体断片(例えばFv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2)、線状抗体や一本鎖抗体分子(例えばscFv)などを含むが、これらに限定されるものではなく、所望のCLDN18.2への結合活性を示すものであればよい。
【0011】
当業者であれば、本発明で開示される1つ又は複数のCDRドメインを他のポリペプチド配列の1種又は複数種と融合し、CLDN18.2分子に結合する機能性融合タンパク質又はポリペプチド分子、例えばワクチン、細胞膜受容体拮抗薬、シグナル経路調整剤やキメラ抗原受容体分子などを製造することができる。例えば、本発明で開示される1つ又は複数のCDRドメインを用いてCLDN18.2 CAR-T(Chimeric Antigen Receptor T-Cell Immunotherapy、キメラ抗原受容体T細胞免疫療法)分子を製造してもよい。本発明で開示される配列に基づいて誘導、製造された融合タンパク質分子も本発明の特許範囲に含まれる。
【0012】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」における修飾語「モノクローナル」とは、該抗体が実質的に均質な抗体集団から得られるものであって、天然に存在する変異又はモノクローナル抗体の製造中に生じる変異が微量しか含まれていないものをいう。異なるエピトープに対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤の代表例に比べて、モノクローナル抗体製剤中の各モノクローナル抗体は抗原上の単一のエピトープに対するものである。本発明のモノクローナル抗体は複数種の技術で製造されてもよく、ハイブリドーマ方法、組換えDNA方法、ファージディスプレイ方法、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座の全て又は一部を含有する遺伝子改変動物を利用した方法が含まれるが、これらに限定されない。
【0013】
「全長抗体」、「完全抗体」という用語とは、天然抗体の構造とほぼ類似している構造を有する抗体を指し、これらの用語は本明細書では交換して利用可能である。
【0014】
抗体の「クラス」とは、その重鎖が有する定常ドメイン又は定常領域のタイプを指す。抗体には、IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMの5つのクラスがあり、これらのうちのいくつかは、さらに、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2などのサブクラス(アイソタイプ)に分類されてもよい。異なるクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖の定常ドメインはそれぞれα、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0015】
「キメラ抗体」は1つの種に由来の少なくとも一部の重鎖可変領域と少なくとも一部の軽鎖可変領域、及び別の種に由来の少なくとも一部の定常領域を含む抗体である。例えば、一実施形態では、キメラ抗体はマウス可変領域とヒト定常領域を含んでもよい。
【0016】
「ヒト化」抗体とは、非ヒトHVR由来のアミノ酸残基とヒトFR由来のアミノ酸残基とを含むキメラ抗体を指す。いくつかの実施形態では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、通常2つのほぼ可変ドメイン全体を含み、ここで、全て又はほぼ全てのHVR(例えばCDR)は非ヒト抗体に対応するものであり、しかも、全て又はほぼ全てのFRはヒト抗体に対応するものである。任意により、ヒト化抗体は少なくともヒト抗体から誘導される抗体定常領域の一部を含んでもよい。抗体(例えば非ヒト抗体)の「ヒト化形態」とはヒト化を受けた抗体のことである。
【0017】
「ヒト共通フレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列から選ばれる最も一般的に存在しているアミノ酸残基を代表するフレームワークである。一般には、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列は可変ドメイン配列のサブグループから選択される。一般には、配列サブグループは、Kabatら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,NIH Publication 91-3242,Bethesda MD (1991),第1~3巻に記載のサブグループである。一実施形態では、VLの場合、前記サブグループはKabatら(同上)によるサブグループκIである。一実施形態では、VHの場合、前記サブグループはKabatら(同上)によるサブグループIIIである。
【0018】
「人間抗体」は「ヒト抗体」、「完全ヒト化抗体」又は「完全ヒト抗体」とも呼ばれ、そのアミノ酸配列が人間又は人間細胞から生じたアミノ酸配列に対応する抗体である。この人間抗体の定義は非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体を特異的に排除する。人間抗体は本分野で公知のさまざまな技術で製造されてもよく、このような技術はファージディスプレイライブラリ技術、Hoogenboom及びWinter, J. Mol. Biol., 227: 381 (1991); Marksら,J. Mol. Biol., 222: 581 (1991)。Coleら,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R. Liss,第77頁(1985);Boernerら,J. Immunol., 147(1): 86-95 (1991)の文献に記載されたような技術を含む。人間抗体は、抗原チャレンジに応答するように修飾されてこのような抗体を産生させるが、その内因性遺伝子座が能力を失った遺伝子改変動物(例えば免疫異種マウス)へ抗原を投与することにより製造されてもよい(XENOMOUSETM技術については、例えば米国特許第6,075,181号及び第6,150,584号を参照)。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術により生成された人間抗体についても、例えばLiら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,103: 3557-3562 (2006)を参照する。
【0019】
本明細書で使用される用語「超可変領域」又は「HVR」とは、抗体可変ドメインに配列超可変領域(「相補性決定領域」又は「CDR」とも呼ばれる)を有する、及び/又は構造が明確なループ(「超可変ループ」)を形成する、及び/又は抗原接触残基(「抗原接点」)を含有する各領域である。一般には、抗体は、6個のHVR(CDR領域)を含み、これらのうち、3個(H1、H2、H3)はVHにあり、3個(L1、L2、 L3)はVLにある。本明細書のHVR(CDR領域)の例には、
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)及び96~101(H3)に現れる超可変ループ(Chothia及びLesk, J. Mol. Biol. 196: 901-917(1987));
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)及び95~102(H3)に現れるHVR(CDR領域)(Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest,第5版,Public Health Service,National Institutes of Health, Bethesda, MD(1991));
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)及び93~101(H3)に現れる抗原接点(MacCallumら, J. Mol. Biol. 262: 732-745(1996));及び
(d)HVR(CDR領域)アミノ酸残基46~56(L2)、47~56(L2)、48~56(L2)、49~56(L2)、26~35(H1)、26~35b(H1)、49~65(H2)、93~102(H3)及び94~102(H3)を含む(a)、(b)及び/又は(c)の組み合わせが含まれる。
【0020】
特に断らない限り、HVR(CDR領域)残基及び可変領域内の他の残基(例えばFR残基)は、本明細書では、Kabatら(同上)に従って番号付けられる。
【0021】
「可変領域」又は「可変ドメイン」という用語は、抗体と抗原の結合に関連する抗体重鎖又は軽鎖ドメインを指す。天然抗体の重鎖及び軽鎖(それぞれVH及びVL)の可変ドメインは一般には類似の構造を有し、各ドメインは4個の保存的フレームワーク領域(FR)及び3個の相補性決定領域(CDR領域)を含む(例えばKindtら,Kuby Immunology,第6版参照)。単一のVH又はVLドメインは抗原へ結合特異性を付与するのに十分である。
【0022】
「抗体断片」とは、完全抗体以外の、該完全抗体が結合する抗原を結合する完全抗体の一部を含む分子を指す。抗体断片の例には、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;二機能性抗体;線状抗体;一本鎖抗体分子(例えばscFv);及び抗体断片で形成される多重特異性抗体が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0023】
本明細書で使用される用語「細胞傷害性剤」とは、細胞機能を抑制又は予防する、及び/又は細胞死亡又は破壊を引き起こす物質である。細胞傷害性剤は、放射性同位体(例えばAt211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体);化学治療剤又は薬物(例えばメトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン又は他の挿入剤);成長阻害剤;酵素及びその断片、例えば核酸分解酵素;抗生物質;毒素、例えば細菌、真菌、植物又は動物由来の小分子毒素や酵素活性毒素、例えばその断片及び/又はバリアント;本分野で公知の各種の抗腫瘍薬又は抗癌剤を含むが、これらに限定されるものではない。
【0024】
「免疫複合体」は抗体と1つ又は複数の異種分子(を含むが、細胞傷害性剤に限定されるものではない)との複合体である。
【0025】
インターフェロン遺伝子刺激因子(STING:stimulator of interferon genes)受容体アゴニストは、STINGが依存するシグナル経路を活性化することでI型インターフェロンの分泌や抗ウイルス免疫及び抗腫瘍免疫に関連するタンパク質の発現を促進し、ウイルスコピーをブロックし、癌細胞への免疫反応を促進する分子である。このような分子は、例えば環状ジヌクレオチド類、アミノベンズイミダゾール類、キサントン類やアクリドン類、ベンゾチオフェン類及びベンゾジオキソール類などの構造タイプのSTINGアゴニストである。
「被検者」又は「個体」は哺乳動物である。哺乳動物は、家畜化動物(例えばウシ、羊、猫、犬及び馬)、霊長類(例えばヒト及び非ヒト霊長類、例えばサル)、ウサギ及び齧歯類動物(例えばマウス及びラット)を含むが、これらに限定されるものではない。いくつかの実施形態では、前記被検者又は個体は人間である。
【0026】
「プロトコール(添付文書)」という用語は、通常、治療製品の商業包装に含まれる取扱書を指し、この取扱書には、適応症、使用方法、用量、投与、併用療法、禁忌症及び/又はこのような治療製品の使用についての警告に関する情報を含む。
【0027】
「親和性」とは、分子(例えば抗体)の単一結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有結合相互作用の全強度を指す。特に断らない限り、本明細書に使用される場合、「結合親和性」とは固有の結合親和性を指し、結合パートナーメンバー(例えば抗体と抗原)同士の1:1の相互作用を反映する。そのパートナーYに対する分子Xの親和性は一般には解離定数(Kd)で表されてもよい。親和性は、本明細書に記載の方法など、本分野で公知の常法により測定されてもよい。結合親和性を測定するための説明的かつ例示的な特定の実施形態は以下で記載される。
【0028】
参照ポリペプチド配列の「アミノ酸配列の相同性百分率(%)」は、候補配列と参照ポリペプチド配列とをアラインメントし、必要に応じてギャップを導入して最大の配列相同性百分率を実現し、かついずれの保存的置換も配列相同性の一部と見なさない場合、候補配列と参照ポリペプチド配列における、アミノ酸残基が一致するアミノ酸残基の百分率として定義される。アミノ酸配列の相同性百分率は本分野における複数種の手段により決定されてもよく、例えば、相同性は例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN又は Megalign(DNASTAR)などのソフトウェアを用いてアラインメントされてもよい。当業者は配列のアラインメントに適したパラメータを決定してもよく、比較対象の配列の全長に亘って最大アラインメントを行うのに必要な任意のアルゴリズムが含まれる。
【0029】
例えば、ALIGN-2を用いてアミノ酸配列比較を行う場合、所定のアミノ酸配列Aと所定のアミノ酸配列Bの、あるいは所定のアミノ酸配列Bに対するアミノ酸配列の相同性%は以下のように計算される。
100×分数X/Y
式中、XはAとBについてプログラムアラインメントを行うときに配列アラインメントプログラムALIGN-2によりマッチングしたと評価されたアミノ酸残基の数であり、YはB中のアミノ酸残基総数である。理解できるものとして、アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さに等しくない場合、AとBのアミノ酸配列の相同性%はBとAのアミノ酸配列の相同性%に等しくない。特に断らない限り、本明細書に使用される全てのアミノ酸配列の相同性%の値はALIGN-2コンピュータプログラムにより取得される。
【0030】
2.抗体、製造方法、組成物及び製品
1)抗体
本発明は抗CLDN18.2抗体に関する。いくつかの実施形態では、本発明は、抗CLDN18.2抗体を提供し、以下の(a)~(f)から選択される少なくとも1、2、3、4、5又は6個の超可変領域(HVR)(又は、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる。)を含有する結合ドメインを含む。(a)HVR-H1であって、配列SEQ ID NO:18又はSEQ ID NO:21のアミノ酸配列又は該配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%の相同性を有するアミノ酸配列を含む;(b) HVR-H2であって、配列SEQ ID NO:19又はSEQ ID NO:22のアミノ酸配列又は該配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%の相同性を有するアミノ酸配列を含む;(c) HVR-H3であって、配列SEQ ID NO:20又はSEQ ID NO:23のアミノ酸配列又は該配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%の相同性を有するアミノ酸配列を含む;(d) HVR-L1であって、配列SEQ ID NO:24又はSEQ ID NO:27のアミノ酸配列又は該配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%の相同性を有するアミノ酸配列を含む;(e) HVR-L2であって、配列SEQ ID NO:25又はSEQ ID NO:28のアミノ酸配列又は該配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%の相同性を有するアミノ酸配列を含む;及び(f) HVR-L3であって、配列SEQ ID NO:26又はSEQ ID NO:29のアミノ酸配列又は該配列と少なくとも90%、95%、96%、97%、98%、99%相同性のアミノ酸配列を含む。いくつかの場合、抗CLDN18.2抗体が有する重鎖可変(VH)ドメイン(領域)は、配列SEQ ID NO:30又はSEQ ID NO:31と少なくとも90%の配列相同性(例えば少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%配列相同性)を有するアミノ酸配列、又は配列SEQ ID NO:30又はSEQ ID NO:31のアミノ酸配列を含み、及び/又はその軽鎖可変(VL)ドメイン(領域)は、配列SEQ ID NO:32又はSEQ ID NO:33と少なくとも90%の配列相同性(例えば少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%の配列相同性)を有するアミノ酸配列、又は配列SEQ ID NO:32又はSEQ ID NO:33のアミノ酸配列を含んでもよい。
【0031】
いくつかの実施形態では、抗CLDN18.2抗体は、重鎖可変領域と軽鎖可変領域とを含み、重鎖可変領域は下記アミノ酸配列を含む。
【0032】
2)抗体断片
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される抗体は抗体断片である。抗体断片は、Fab、Fab’、Fab’-SH、(Fab’)2、Fv及びscFv断片、並びに下記した他の断片を含むが、これらに限定されるものではない。いくつかの抗体断片の概要に関しては、Hudsonら,Nat. Med. 9: 129-134(2003)を参照する。scFv断片に関しては、例えばWO 93/16185を参照する。
【0033】
二機能性抗体は2つの抗原結合部位を有する抗体断片であり、二価又は二重特異性であり得る。例えばEP 404,097;WO1993/01161を参照する。三機能性抗体及び四機能性抗体は例えばHudsonら,Nat. Med. 9: 129-134(2003)を参照する。
【0034】
シングルドメイン抗体は、抗体の全て又は一部の重鎖可変領域あるいは全て又は一部の軽鎖可変領域を含む抗体断片である。いくつかの実施形態では、シングルドメイン抗体はヒトシングルドメイン抗体(例えば米国特許6,248,516 B1参照)である。
【0035】
抗体断片はさまざまな技術により産生されてもよく、完全抗体のタンパク質水解消化及び組換え宿主細胞(例えば大腸菌又はファージ)による産生を含むが、これらに限定されるものではない。
【0036】
3)キメラ抗体及びヒト化抗体
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される抗体はキメラ抗体である。キメラ抗体の製造は例えば米国特許4,816,567を参照してもよい。
【0037】
いくつかの実施形態では、キメラ抗体はヒト化抗体である。典型的に、非ヒト抗体はヒト化されることで人間への免疫原性を低下させるとともに、親非ヒト抗体の特異性及び親和性を保持する。一般には、ヒト化抗体は1つ又は複数の可変領域を含み、これらのうち、HVR(CDR)領域の全て又は一部が非ヒト抗体に由来し、そして、FR(又はその一部) が人間抗体配列に由来する。ヒト化抗体は任意により人間の定常領域の少なくとも一部を含む。いくつかの実施形態では、非ヒト抗体由来の対応する残基でヒト化抗体のいくつかのFR残基を置換することにより、抗体の親和性を回復又は改善することができる。
【0038】
ヒト化抗体及びその製造方法は、米国特許第5,821,337号、第7,527,791号、第6,982,321号及び第7,087,409号を参照してもよい。
【0039】
4)人間抗体
いくつかの実施形態では、本明細書で提供される抗体は人間抗体である。人間抗体は本分野で公知のさまざまな技術で生産されてもよい。
【0040】
人間抗体としては、修飾された遺伝子改変動物に免疫原を投与した後、抗原チャレンジにより、完全な人間抗体又はヒト可変領域を有する完全抗体を製造する。このような動物は、典型的に、内因性免疫グロブリン遺伝子座を置換するか、染色体外に存在するか、又は動物の染色体にランダムに組み込まれるヒト免疫グロブリン遺伝子座の全て又は一部を含有する。このような遺伝子改変マウスでは、内因性免疫グロブリン遺伝子座は一般には不活性化される。遺伝子改変動物から人間抗体を取得する方法に関しては、例えば米国特許第6,075,181号及び第6,150,584号(XENOMOUSETM技術が記載された);米国特許第5,770,429号;米国特許第7,041,870号(K-M技術が記載された);及び米国出願公開第US 2007/0061900号を参照する。このような動物からの完全抗体から得られるヒト可変領域はさらに修飾されて、例えば異なるヒト定常領域と組み合わせられてもよい。
【0041】
人間抗体はハイブリドーマに基づく方法によって製造されてもよい。ヒトモノクローナル抗体を産生するヒト骨髄腫及びマウス-ヒトハイブリッド骨髄腫細胞株が報告されており、例えばBoernerら,J. Immunol., 147: 86(1991)を参照する。ヒトB細胞ハイブリドーマ技術により産生された人間抗体もLiら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 103: 3557-3562(2006)に記載されている。他の方法は、例えば米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株からモノクローナルヒトIgM抗体を産生することが記載される)及びNi,Xiandai Mianyixue, 26(4): 265-268(2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマが記載される)に記載の方法を含む。
【0042】
人間抗体は、ヒト由来のファージディスプレイライブラリから選択されるFvクローン可変領域配列を単離することにより製造されてもよい。次に、このような可変領域配列と所望のヒト定常ドメインとを組み合わせてもよい。
【0043】
具体的には、高親和性を有する本発明の抗体は、CLDN18.2結合活性を有する抗体に対してコンビナトリアルライブラリをスクリーニングして単離されてもよい。例えば、ファージディスプレイライブラリを産生し、および所望の結合特徴を有する抗体に対してこのようなライブラリをスクリーニングする複数種類の方法が本分野で知られている。このような方法は、例えばHoogenboomら,Methods in Molecular Biology 178: 1-37(O’Brien ら編,Human Press, Totowa,NJ,2001),Marks及びBradbury,Methods in Molecular Biology 248: 161-175 (Lo編,Human Press, Totowa, NJ, 2003)及びLeeら,J. Immunol. Methods 284(1-2) :119-132 (2004)を参照することができる。
【0044】
いくつかのファージディスプレイ方法では、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってVH及びVL遺伝子系統を単独でクローニングし、ファージライブラリにランダムに組換え、次に、抗原-結合ファージに対してスクリーニングを行う。典型的に、ファージは抗体断片を一本鎖Fv(scFv)断片又はFab断片として示す。ヒト抗体ファージライブラリを記載する特許には、例えば、米国特許第5,750,373号及び米国特許公開第2005/0079574号、第2005/0119455号、第2005/0266000号、第2007/0117126号、第2007/0160598号、第2007/0237764号、第2007/0292936号及び第2009/0002360号が含まれる。
【0045】
本明細書では、ヒト抗体ライブラリから単離された抗体又は抗体断片は人間抗体又は人間抗体断片とみなされる。
【0046】
5)多重特異性抗体
上記のいずれかの態様では、本明細書で提供される抗CLDN18.2抗体は多重特異性抗体、例えば二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる部位に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体である。いくつかの実施形態では、一方の結合特異性はCLDN18.2に対するものであり、他方の結合特異性は他の任意の抗原(例えば第2生物分子、例えば細胞表面抗原、例えば腫瘍抗原)に対する。相応的に、二重特異性抗CLDN18.2抗体はCLDN18.2及び腫瘍抗原、例えばCD3、CD20、FcRH5、HER2、LYPD1、LY6G6D、PMEL17、 LY6E、CD19、CD33、CD22、CD79A、CD79B、EDAR、GFRA1、MRP4、RET、Steap1又はTenB2に対して結合特異性を有してもよい。二重特異性抗体は全長抗体又は抗体断片として製造されてもよい。
【0047】
多重特異性抗体を製造する技術は、特異性の異なる2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖ペアの組換え共発現を含むが、これらに限定されるものではなく、WO 93/ 08829、WO2009/08025及びWO 2009/089004A1等を参照してもよい。
【0048】
6)抗体バリアント
本発明の抗体は、本発明の抗CLDN18.2抗体のアミノ酸配列バリアントを含む。例えば、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的性質をさらに改善するために製造された抗体バリアントである。抗体のアミノ酸配列バリアントは、該抗体をコードするヌクレオチド配列に適切な修飾を導入することにより製造されてもよい。このような修飾は、例えば抗体アミノ酸配列中の残基の欠如及び/又は挿入及び/又は置換を含む。欠如、挿入及び置換を任意に組み合わせて最終的な構築体を得て、その条件としては、最終的な構築体は所望の特徴、例えばCLDN18.2抗原との結合特性を有する。
【0049】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数のアミノ酸置換を有する抗体バリアントを提供する。HVR(CDR)領域及び/又はFR領域の1つ又は複数の部位で置換して置換型変異体(保存的置換変異体又は非保存的置換変異体を含む)を取得してもよい。
アミノ酸は共通の側鎖の性質によって群分けされてもよい。
(1)疎水性:n-ロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖の配向に影響する残基:Gly、Pro;
(6)芳香族:Trp、Tyr、Phe。
【0050】
保存的置換は同一群のアミノ酸同士の置換として定義され、非保存的置換は異なるクラス(群)のうち1種のアミノ酸が別の群のアミノ酸で置換されるものとして定義される。アミノ酸置換を本発明の抗体に導入し、所望の活性(例えば抗原結合の保持/改善又はADCC若しくはCDCの改善)に基づいて産物をスクリーニングすることにより、本発明の抗体バリアントを得ることができる。
【0051】
本発明は、本発明で開示される抗体から得られた非保存的突然変異及び/又は保存的突然変異を含有する抗体バリアントを含み、該バリアントは所望のCLDN18.2結合活性を有していればよい。
【0052】
1種の置換型バリアントは、親抗体(例えばヒト化抗体又は人間抗体)の1つ又は複数の超可変領域残基を置換した抗体バリアントに関する。一般には、さらなる研究用のために選択されるバリアントは、一部の生物学的性質(例えば親和性向上)が親抗体に対して、修飾(例えば改善)される、及び/又は親抗体のいくつかの生物学的性質が実質的に保持される。例示的な置換型バリアントは親和性成熟抗体であり、例えばファージディスプレイに基づく親和性成熟技術(例えば本明細書に記載のもの)によって容易に産生され得る。簡単に言えば、1つ又は複数のHVR(CDR)残基を変異させ、この変異された抗体をファージにディスプレイし、特定の生物学的活性(例えば結合親和性)基づいて変異された抗体をスクリーニングする。
【0053】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数のHVR(CDR)においては置換、挿入又は欠如が発生してもよく、このような変化により抗体のCLDN18.2結合能力が実質的に減弱しなければよい。例えば、HVR(CDR)において結合親和性を実質的に低下させない保存的変化が起こってもよい。例えば、このような変化としては、HVRの抗原接触残基以外、例えばFR領域の1個、2個、3個、4個、5個のアミノ酸残基で保存的又は非保存的アミノ酸置換が発生してもよい。
【0054】
7)組換え方法
本発明の抗CLDN18.2抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号に記載のとおり、組換え方法によって製造されてもよい。一実施形態では、本明細書に記載の抗CLDN18.2抗体をコードする単離された核酸が提供されている。このような核酸は、抗体のVLアミノ酸配列及び/又はVHのアミノ酸配列をコードし得る。別の実施形態では、このような核酸を含む1種又は複数種ベクター(例えば発現ベクター)が提供されている。別の実施形態では、このような核酸を含む宿主細胞が提供されている。1つのこのような実施形態では、宿主細胞は、(1)該抗体のVLを含むアミノ酸配列及び該抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター;又は(2)該抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1ベクター、及び該抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2ベクターを含む(例えば、形質転換によって有する)。一実施形態では、該宿主細胞は、真核細胞、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はリンパ系細胞(例えばY0、NS0、Sp20細胞)である。一実施形態では、抗CLDN18.2抗体の製造方法が提供されており、該方法は、該抗体の発現に適した条件下で該抗体をコードする核酸を含む上記の宿主細胞を培養することと、必要に応じて該宿主細胞(又は宿主細胞培地)から該抗体を回収することとを含む。
【0055】
抗CLDN18.2抗体を組換え産生するために、抗体をコードする核酸(例えば、上記のとおり)を単離し、1つ又は複数のベクターに挿入して、宿主細胞においてさらにクローン及び/又は発現する。このような核酸は、一般的な手順(例えば、該抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合し得るオリゴヌクレオチドプローブを使用する)によって容易に単離されて配列決定にかけられてもよい。
【0056】
抗体コードベクターのクローン又は発現に適用できる宿主細胞は、本明細書に記載の原核細胞又は真核細胞を含む。例えば、特にグリコシル化及びFc効果機能が必要とされない場合、細菌にて抗体を産生する。細菌における抗体断片及びポリペプチドの発現に関しては、例えば米国特許第5,648,237号、第5,789,199号及び第5,840,523号を参照する。発現させた後、細菌細胞質から可溶性部分にある抗体を単離して、さらに精製してもよい。
【0057】
原核生物に加えて、例えば糸状真菌又は酵母の真核微生物も、抗体コードベクターにとって適切なクローン又は発現宿主であり、グリコシル化経路が「ヒト化」されて、部分的又は完全なヒトグリコシル化パターンを有する抗体を産生する真菌及び酵母菌株を含む。Liら, Nat. Biotech. 24: 210-215(2006)を参照する。
【0058】
グリコシル化抗体の発現に適した宿主細胞は、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)に由来してもよい。無脊椎動物細胞の例には、植物及び昆虫細胞が含まれる。昆虫細胞に結合する、特にツマジロクサヨトウ(Spodoptera frugiperda)細胞にトランスフェクションし得るバキュロウイルス株が多く同定されている。
【0059】
植物細胞培養物も宿主として利用可能である。例えば米国特許第5,959,177号、第6,040,498 号、第6,420,548号、第7,125,978号及び第6,417,429号(遺伝子改変植物にて抗体を産生するPLANTIBODIESTM技術が記載されている)を参照する。
【0060】
脊椎動物細胞も宿主として利用可能である。例えば、懸濁液における生長に適した哺乳動物細胞株は適用し得る。哺乳動物宿主細胞株に適した他の例には、SV40で形質転換されたサル腎臓CV1細胞株(COS-7);ヒト胎児腎臓細胞株(例えば293細胞);幼若ハムスター腎臓細胞(BHK);マウスセルトリー細胞(例えばTM4細胞);サル腎臓細胞(CV1);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76);ヒト子宮頸癌細胞(HELA);犬腎臓細胞(MDCK);バッファローラット肝臓細胞(BRL3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝臓細胞(Hep G2);マウス乳房腫瘍(MMT 060562);TRI細胞;MRC 5細胞;チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、例えばDHFR-CHO細胞;及び骨髄腫細胞株、例えばY0、NS0及びSp2/0が挙げられる。
【0061】
8)免疫複合体
本発明はまた、本明細書に係る抗CLDN18.2抗体と1種又は複数種の細胞傷害性剤とを結合した免疫複合体を提供しており、このような細胞傷害性剤は例えば化学治療剤又は化学治療薬、成長阻害剤、毒素(例えばタンパク質毒素、細菌、真菌、植物又は動物由来の酵素活性毒素又はその断片)又は放射性同位体である。
【0062】
一実施形態では、免疫複合体は、抗体と1種又は複数種の薬物とが結合された抗体-薬物複合体(ADC)であり、メイタンシン、オルリスタット、ドラスタチン、メトトレキサート、ビンデシン、タキサン、トリコテセン(trichothecene)及びCC1065を含むが、これらに限定されるものではない。
【0063】
別の実施形態では、免疫複合体は、本明細書に記載の抗CLDN18.2抗体と酵素活性毒素又はその断片との複合体であり、該酵素活性毒素は、ジフテリアA鎖、ジフテリア毒素の非結合活性断片、外毒素A鎖及びトリコテセンなどを含むが、これらに限定されるものではない。
【0064】
別の実施形態では、免疫複合体は、本明細書に記載の抗CLDN18.2抗体と放射性原子とが結合された放射性複合体を含む。複数種の放射性同位体は放射性複合体の産生に有用である。その例としては、At211、 I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、Pb212及びLuの放射性同位体が含まれる。
【0065】
抗体と細胞傷害性剤との複合体は、複数種の二官能性タンパク質結合剤を用いて製造されてもよく、この結合剤は、例えば、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えばアジピン酸ジメチル塩酸塩)、活性エステル(例えばジスクシニミジルスベレート)、アルデヒド(例えばグルタルアルデヒド)、ジアジド化合物(例えばビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサメチレンジアミン)、ビスジアゾ誘導体(例えばビス(p-ジアゾベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソチオシアネート(例えばトルエン2,6-ジイソチオシアネート)及び二重活性フッ素化合物(例えば1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン)である。
【0066】
9)薬物製剤
本発明の抗CLDN18.2抗体の薬物製剤は、所望の純度を有する抗体と、1種又は複数種の薬学的に許容される任意の担体とを混合して凍結乾燥製剤又は水溶液の形態とすることで製造される。薬学的に許容される担体は、一般に、使用された用量及び濃度において受容体に対して無毒であり、リン酸塩、クエン酸塩及び他の有機酸などの緩衝剤;アスコルビン酸及びメチオニンなどの抗酸化剤;防腐剤(オクタデシルジメチルフェニルアンモニウムクロライド;バイオトリウム;塩化ベンザルコニウム;塩化ベンザルコニウム;フェノール、ブタノール又はベンジルアルコール;p-ヒドロキシ安息香酸メチル、またはp-ヒドロキシ安息香酸プロピルなどのp-ヒドロキシ安息香酸アルキルエステル類;カテコール;レゾルシン;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびメタクレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン、免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン又はリジンなどのアミノ酸;グルコース、マンノース及びデキストリンを含む、単糖類、二糖類及びその他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;ショ糖、マンニトール、フコース、ソルビトールなどの糖;ナトリウムのような塩形成対イオン;金属錯体(例えば、亜鉛-タンパク質錯体)及び/又はポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤を含むが、これらに限定されるものではない。
【0067】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水性抗体製剤は、米国特許第6,171,586号及びWO2006/044908に記載のものを含む。
【0068】
本明細書における製剤は、治療対象の特定適応症にとって必須な1種以上の活性成分を含んでもよく、好ましくは、互いに悪影響を与えない補完的な活性を有する活性成分が好ましい。例えば、追加の治療剤(例えば化学療法剤、細胞傷害性剤、成長阻害剤及び/又は抗ホルモン剤)が必要とされる場合がある。このような活性成分は組み合わせの形態として所定の目的に有効な量で存在するのに適している。
【0069】
10)製品
本発明の別の態様では、本発明の抗体又は医薬組成物を含有する製品が提供されている。該製品は容器と、該容器上にある又は該容器に関連するレベルや添付文書(プロトコル)とを含む。適切な容器は、例えばボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグなどを含む。このような容器は、例えばガラスやプラスチックなどの各種の材料で形成されてもよい。該容器は本発明の組成物単独又は該組成物と別の組成物との組み合わせを収容し、そして、滅菌入口を備えてもよい(例えば、該容器は点滴バッグ又は皮下注射針で穿刺可能な瓶栓を備えたバイアルであってもよい)。該組成物の少なくとも1種の活性化剤は本発明の抗体である。該レベル又は添付文書は該組成物が特定の腫瘍の治療に用いられることを示す。さらに、該製品は、(a)本発明の抗体を含む組成物を収容する第1容器と、(b)別の腫瘍治療薬又は別の抗体を含む組成物を収容する第2容器とを含んでもよい。本発明の本実施形態の製品は、このような組成物が治療し得る腫瘍を示す添付文書をさらに含んでもよい。任意選択的に、また、該製品は、医薬的に許容される緩衝剤、例えば注射用抗菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液及びデキストロース溶液を収容する第2(又は第3)容器をさらに含んでもよい。市販品及び使用者のニーズに合わせる他の材料をさらに含んでもよく、このような材料は、他の緩衝剤、希釈剤、フィルタ、針及び注射器を含む。
実施例
【0070】
実施例1 免疫及びスクリーニング材料の製造
(1) ヒトhCLDN18.2-TCE(T-細胞エピトープペプチド) レトロウイルス発現プラスミドの構築
hCLDN18.2 cDNA(SEQ ID NO : 1)をクローニングして、C-末端にT-細胞エピトープペプチドを融合し、hCLDN18.2-TCEを得た。T-細胞エピトープペプチドにより抗原は免疫耐性を突破して、抗体の産生(Percival-Alwyn J. et al, mAbs, 2015, 7(1), 129-137)が促進される。hCLDN18.2-TCEをレトロウイルスベクターにクローニングして、hCLDN18.2-TCEレトロウイルス発現プラスミドを得た。hCLDN18.2-TCEレトロウイルス発現プラスミドをHEK293-T細胞に一過性トランスフェクションし、トランスフェクション72時間後、hCLDN18.2のHEK293-T細胞表面での発現についてフローサイトメトリー分析を行った。一次抗体(1st Ab)は自作された陽性対照(Benchmarker)キメラ抗体163E12である。まず、細胞を一次抗体(1g/mL)とともに4℃の条件で45minインキュベートし、PBSで洗浄した後、Alexa Fluor 488標識ヤギ抗ヒトIgG二次抗体(Thermofisher、品番A-11013)(2nd Ab、1:200希釈)とともに、4℃の条件で45分間インキュベートした。PBSで2回洗浄後、フローサイトメトリー(FACS)解析を行い、陰性対照細胞については、二次抗体だけインキュベートした。
図1に示す結果から、野生HEK293-T細胞の表面ではhCLDN18.2の発現が認められず、hCLDN18.2-TCEレトロウイルス発現プラスミドを一過性トランスフェクションしたHEK293-T 細胞(HEK293T CLDN18.2 TCE)では、陽性細胞の80.9%はhCLDN18.2を発現させた。該ベクタープラスミドは実施例2の(1)DNA免疫スキームに用いられる。
(2) hCLDN18.2-TCEを高レベルで発現させたマウス腫瘍細胞
hCLDN18.2-TCEレトロウイルス発現プラスミドとレンチウイルスパッケージングプラスミドとを混合して293-T細胞にトランスフェクションし、hCLDN18.2-TCEレンチウイルス粒子を製造した。hCLDN18.2-TCEレンチウイルス粒子をマウス腫瘍細胞系にトランスフェクションし、72時間後、フローサイトメトリー検出を行ってhCLDN18.2を高発現させたマウス腫瘍細胞プールを選別した。一次抗体(1st Ab)は自作された陽性対照(Benchmarker)キメラ抗体163E12である。まず、細胞を一次抗体(1 μg/mL)とともに4℃の条件で45分間インキュベートし、PBSで洗浄した後、Alexa Fluor 488標識したヤギ抗ヒトFc二次抗体(2nd Ab、1:200希釈)とともに4℃の条件で45分間インキュベートした。PBSで2回洗浄した後、フローサイトメトリー(FACS)解析を行い、陰性対照細胞については二次抗体だけインキュベートした。
図2に示す結果から、野生マウス腫瘍細胞(UBER parental)の表面では16.8%の陽性シグナルしかなかった。hCLDN18.2-TCEレトロウイルスをトランスフェクションしたマウス腫瘍細胞(UBER CLDN18.2 TCE)では、82.7%の陽性細胞があった。フローサイトメトリー分析により選別した結果、95.7%と多くのマウス腫瘍細胞では、hCLDN18.2-TCEは高レベルで発現されていた。このhCLDN18.2-TCEのマウス腫瘍細胞は実施例2の(2)細胞免疫スキームに用いられる。
(3) hCLDN18.2細胞外ループ1 ウイルス様粒子の製造
Thorsten K.が発表した方法(Thorsten K., et al, Cancer Res, 2011, 71(2), 515-527)に従って、hCLDN18.2の細胞外ループ1(ECL1:Extra Cellular Loop1)(SEQ ID NO:2)をB型肝臓炎ウイルスコア抗原(HBcAg:Hepatitis B virus core antigen)の主要免疫優性領域(MIR:Major immunodominant region)に挿入し、ECL1 N-末端及びC-末端のそれぞれにG4SG4リンカーを導入し、全長融合タンパク質のC-末端に6xHis タグ(SEQ ID NO:3)を添加した。融合タンパク質の遺伝子全長を合成して、pET24a(+)プラスミドにクローニングし、BL21(DE3)大腸菌発現系にトランスフェクションして融合タンパク質の発現を行った。融合タンパク質の精製後、復元緩衝液にてHBV hCLDN18.2細胞外ループ1 ウイルス様粒子を製造した。該hCLDN18.2細胞外ループ1 ウイルス様粒子の製造は、実施例2の(3)ウイルス様粒子多部位反復免疫-細胞免疫スキーム及び(4)ウイルス様粒子飛節免疫-細胞免疫スキームに用いられる。
(4) CLDN18安定トランスフェクション細胞株の構築
hCLDN18.2(SEQ ID NO:4)、hCLDN18.1(SEQ ID NO:5)、マウスmhCLDN18.2(SEQ ID NO:6)、mCLDN18.1(SEQ ID NO:7)遺伝子全長をそれぞれ合成し、pcDNA3.4ベクタープラスミドにそれぞれクローニングした。プラスミドをHEK293細胞にトランスフェクションして、ネオマイシン(G418)を加えて加圧スクリーニングを行った。限界希釈法によってhCLDN18.2、hCLDN18.1、mhCLDN18.2、mCLDN18.1を高発現させたHEK293安定トランスフェクション細胞株をそれぞれ選択した。フローサイトメトリー検出の結果、hCLDN18.2及びmCLDN18.2をトランスフェクションしたHEK293安定トランスフェクション細胞株(HEK293-hCLDN18.2、HEK293-mCLDN18.2)では、パラホルムアルデヒド固定化及び非固定化の細胞のいずれも自作された抗CLDN18.2陽性対照抗体163E12又は175D10により特異的に識別され(
図3.A、C)、また、市販の広範な抗CLDN18抗体(34H14L15、Abcam 品番ab203563)によって識別され得る(
図3.A、C)。hCLDN18.1及びmCLDN18.1をトランスフェクションしたHEK293安定トランスフェクション細胞株(HEK293-hCLDN18.1、HEK293-mCLDN18.1)では、パラホルムアルデヒド固定化及び非固定化の細胞はいずれも自作された抗CLDN18.2陽性対照抗体163E12又は175D10によって特異的に識別できず(
図3.B、D)、一方、市販の広範な抗CLDN18抗体(34H14L15)によって識別され得る(
図3.B、D)。上記のHEK293安定トランスフェクション細胞株は実施例3のハイブリドーマスクリーニングに用いられる。
(5)陽性対照抗体43A11、175D10、及び163E12の製造
ヒトマウスキメラ陽性対照抗体43A11の重鎖(SEQ ID NO:8)及び軽鎖(SEQ ID NO:9)、175D10の重鎖(SEQ ID NO:10)及び軽鎖(SEQ ID NO:11)、並びに163E12の重鎖(SEQ ID NO:12)及び軽鎖(SEQ ID NO:13)の抗体遺伝子全長をそれぞれ合成して、それぞれのN-末端にシグナルペプチドを添加し、その後、pcDNA3.4真核発現ベクターにクローニングした。43A11、175D10及び163E12の重鎖及び軽鎖発現プラスミドをそれぞれ混合してCHOS細胞に共トランスフェクションし、一過性トランスフェクションタンパク質の発現を行い、上清を収集して、Protien Aを用いて親和精製を行い、SDS-PAGE検出を行い、結果を
図4に示す。
【0071】
実施例2 マウス免疫プログラム及びハイブリドーマの製造
合計4種類の免疫スキーム(表1)を採用し、そして、免疫スキームごとに少なくとも2つの異なる種(strain)のマウスを用いて免疫を行った(表2)。いずれの免疫スキームにおいても、マウスの一部の個体で高レベルの血清免疫力価が認められた。各免疫スキームにおいて高レベルの免疫力価が認められたマウスの個体を殺して脾臓を摘出し、Bリンパ球を単離して混合した後、マウス骨髄腫細胞系と電気融合し、ハイブリドーマを製造した。合計3バッチのハイブリドーマを製造した(表2)。
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
実施例3 ハイブリドーマのスクリーニング
3バッチ由来のハイブリドーマを限界希釈法によってクローン化培養し、クローン上清をフローサイトメトリーで結合又は逆結合スクリーニングを3回行い、抗体タイピング及び抗体依存性細胞傷害性(ADCC:Antibody dependent cell-mediated cytoxity)を測定し、CLDN18.2に強く特異的に結合し得るが、CLDN18.1に結合せず又は僅かに結合され、そして抗体依存性細胞傷害(ADCC)機能を有するハイブリドーマクローンを20個スクリーニングした。スクリーニングステップ及び各段階のスクリーニングにより得られたハイブリドーマクローンを表3にまとめて示す。
【0076】
【0077】
1)一次スクリーニング:各クローン上清発現産物とCLDN18.2-TCEを高レベルで発現させたマウス腫瘍細胞株(UBER CLDN18.2 TCE)との結合をフローサイトメトリーによって解析した。限界希釈法によって融合後のハイブリドーマを384ウェルプレートに接種し、10日間培養後、上清を取り、フローサイトメトリーで陽性ハイブリドーマクローンをスクリーニングした。上清をUBER CLDN18.2 TCE細胞(20000個(細胞)/ウェル)とともに4℃で45分間共インキュベートした後、プレートを洗浄し、以Alexa Fluor-488-ヤギ抗マウスIgG(ThermoFisher 品番A28175)を二次抗体としてフローサイトメトリー検出を行い、平均蛍光強度が100,000以上のクローンをスクリーニングして増幅し、飽和上清を収集し、確認スクリーニングを行った。
3バッチのハイブリドーマについて、各バッチを限界希釈法によって10個の384ウェルプレートにクローン化した。一次スクリーニングによって、3バッチのハイブリドーマは、CLDN18.2-TCEのマウス腫瘍細胞株との結合が陽性であるハイブリドーマクローンをそれぞれ341個の(MFI>100,000)、336個の(MFI>75,000又はMFI>80,000)及び89個の(MFI>90,000)を得た。
2)確認スクリーニング:前のステップである一次スクリーニングによる陽性クローンの上清発現産物を、それぞれHEK293-hCLDN18.2細胞、HEK293-hCLDN18.1細胞、及びHEK293野生型細胞とインキュベートし(20000個(細胞)/ウェル、4℃、45分間)、Alexa Fluor-488-ヤギ抗マウスIgG(ThermoFisher 品番A28175)を二次抗体として、HEK293-hCLDN18.2細胞との結合が陽性であるが、HEK293-hCLDN18.1細胞及びHEK293野生型細胞との結合が陰性であるクローンをローサイトメトリーによってスクリーニングして増幅し、飽和上清を収集し、検証スクリーニングを行った。
確認スクリーニングをした結果、3バッチのハイブリドーマは、HEK293-hCLDN18.2細胞に強く特異的に結合され得るが、HEK293-hCLDN18.1細胞に弱く結合され、しかもHEK293野生型細胞に結合しないクローンをそれぞれ165個の(HEK293-hCLDN18.2 MFI>200,000、HEK293-hCLDN18.1 MFI<100,000)、120個の(HEK293-hCLDN18.2 MFI>50,000、HEK293-hCLDN18.1 MFI<40,000)、及び21個の(HEK293-hCLDN18.2 MFI>70,000、HEK293-hCLDN18.1 MFI<30,000)を得た。陽性クローンの一部のFACS解析を
図5に示す。
3)検証スクリーニング:3バッチ由来のハイブリドーマの確認スクリーニングにおいて得られた306個の(165個+120個+21個)陽性ハイブリドーマの上清発現産物を、それぞれHEK293-hCLDN18.2細胞、HEK293-hCLDN18.1細胞、HEK293-mCLDN18.2細胞、HEK293-mCLDN18.1 細胞、及びHEK293野生型細胞とインキュベートし(20000個(細胞)/ウェル、4℃、45分間)、Alexa Fluor-488-ヤギ抗マウスIgG(ThermoFisher 品番A28175)を二次抗体として、フローサイトメトリーによって解析した。
図6に示す一部のクローンの5個の細胞株におけるフローサイトメトリー分析結果から、陽性クローンは、HEK293-hCLDN18.2細胞及びHEK293-mCLDN18.2細胞のいずれでも、平均蛍光強度(MFI)が500,000を超え、一方、HEK293-hCLDN18.1細胞、HEK293-mCLDN18.1細胞、及びHEK293野生型細胞細胞株では、平均蛍光強度が全て20,000未満であり、多くのクローン(16/20)は、HEK293-hCLDN18.2細胞及びHEK293-mCLDN18.2細胞では、平均蛍光強度(MFI)がHEK293-hCLDN18.1細胞及びHEK293-mCLDN18.1細胞の場合の平均蛍光強度(MFI)の50倍を上回ることが示された。
4)抗体タイピング:IgG分子は、サブタイプによって、ADCC効果媒介能力が異なる。このため、抗体依存性細胞殺傷検出に先立って、マウス抗体サブタイプ検出キットを用いて、3バッチ由来のハイブリドーマの確認スクリーニングにより得られた306個の(165個+120個+21個の)陽性ハイブリドーマの上清抗体発現産物について、マウス抗体サブタイプのタイピングを行った。306個のクローンのサブタイプのほとんどはADCC機能を備えたマウスIgG2a又はIgG2b又はIgG3であり、僅か少量(26/306)はADCC機能を備えないIgG1サブタイプ(ヒトに対応する抗体IgG4サブタイプ)である。一部のクローンは混合サブタイプであり、これは、ハイブリドーマクローンがモノクローナルではないことによると考えられる。軽鎖は全てマウスκサブタイプである。
5)ADCC効果測定
前述確認スクリーニング、検証スクリーニング及び抗体タイピングの結果を総合的に考慮して、128個の陽性クローンの飽和上清を選択して、抗体依存性細胞傷害性の機能検出を行った。エフェクター細胞は、2人のドナー(45及び46号)から試験の前日に採血して、採取した血液を室温で保存し、Ficoll密度勾配遠心分離を行うことにより新たに単離されたヒト末梢血単核細胞(PBMCs)である。ターゲット細胞はCLDN18.2を発現させたHEK293細胞(HEK293-hCLDN18.2)である。ハイブリドーマ発現産物を全て4倍希釈した。新しく取得したPBMC細胞とターゲット細胞を25:1のエフェクター細胞/ターゲット細胞比で各サンプルと4時間共インキュベートした。細胞傷害性に関連する乳酸脱水素酵素(LDH)を測定することによって抗体のADCC効果を表す。ターゲット細胞が自発的に溶解した場合に検出された吸光度値を0%、ターゲット細胞が全て溶解した場合に検出された吸光度値を100%に定義して、試験サンプルごとに、活性百分率でADCC効果を表す。一部のクローンのADCC効果の結果は、
図7に示すように、クローンのADCC殺傷効果が平均で20%よりも高く、一部のクローン(9D-1、8-O11)のADCC効果は50%よりも高く、一方、マウスIgG1サブタイプの6-G11及び4-O2に対しては、ADCC効果は10%を下回った。
【0078】
実施例4 陽性ハイブリドーマクローンのサブクローニング及び抗体分子配列の配列決定
凍結保存した陽性ハイブリドーマクローンを蘇生させて、サブクローニングを行った。各陽性ハイブリドーマクローンを限界希釈法によってサブクローニングした。顕微鏡検査によってモノクローンを選択して増幅培養し、その後、上清を収集して、フローサイトメトリー分析方法によって、サブクローン上清とHEK293-hCLDN18.2細胞との特異的結合を検出した。上清をHEK293-CLDN18.2細胞(20000個(細胞)/ウェル)とともに4℃で45分間共インキュベートした後、プレートを洗浄し、Alexa Fluor-488-ヤギ抗マウスIgG(ThermoFisher、 品番A28175)を二次抗体として、フローサイトメトリー検出を行った。後続の配列決定の成功率を確保するために、ハイブリドーマごとに2個のモノクローン(クローンA及びクローンB)を選択して増幅し、凍結保存した。
図8に示すサブクローニング後の陽性単クローン上清のHEK293-hCLDN18.2細胞に対するフローサイトメトリー分析から、選択された単クローン上清はHEK293-hCLDN18.2細胞への特異的結合を保持することが示された。
RACE(cDNA末端高速増幅技術)方法を用いて、ハイブリドーマ単クローンのVH及びVLのDNA配列を増幅した。増幅させたハイブリドーマモノクローナル細胞からRNAを抽出し、cDNAに逆転写し、5’-RACE反応によって5’-のユニバーサルプライマーと3’-H、L(κ)又はL(λ)FR1区の縮重プライマーとの組み合わせを用いて、重鎖又は軽鎖のV領域にPCRを行い、アガロースゲル電気泳動によって陽性増幅バンドを確認した。
図9に示す結果から、PCRの目的バンドが全て合理的な範囲であることが分かった。ゲルを切ってアガロースゲル電気泳動におけるPCR陽性バンドを回収し、TOPOクローン方法でPCR増幅断片を配列決定ベクターに連結して、配列決定を行った。表4及び表5は、それぞれ、5M9-A及び9D1-Aクローンの重鎖及び軽鎖のヌクレオチド配列とアミノ酸配列(5-M9-A及び9-D1-Aはクローン、5-M9及び9-D1は5-M9-A及び9-D1-A クローンに対応する抗体を表す)を示している。ここでは、軽鎖、重鎖のCDR領域はChothia番号系統に基づいて分けられる。
【0079】
【0080】
【0081】
実施例5 ヒトマウスキメラ抗体の製造及び特徴付け
候補マウス抗体の重鎖及び軽鎖のV領域を、それぞれヒトIgG1型重鎖(G1m17)の定常領域(HC)及びヒトκ型軽鎖の定常領域(LC)と融合し、ヒトマウスキメラ重鎖全長遺伝子及び軽鎖全長遺伝子をそれぞれ合成し、発現ベクターにクローンし、配列決定によって検証した。候補分子ごとに構築された発現プラスミドに対して増幅及びプラスミド抽出を行い、アガロースゲル電気泳動を通じて検証し、トランスフェクション材料として使用した。
HEK293細胞(Tuna293TM)を振とうフラスコに接種して、化学成分が明確な無血清培地を用いて懸濁種子培養を行った。トランスフェクションの前日に、増幅させたHEK293細胞を新しい振とうフラスコに接種して、新しい培地に変換した。各候補ヒトマウスキメラ抗体分子の重鎖及び軽鎖の発現プラスミドをHEK293細胞に共トランスフェクションし、細胞活性が低下するまで流加培養(Fed-batch culture)を行うと、上清を収集して産物精製を行った。
まず、上清液に対する遠心分離及びろ過によって、大部分の細胞破片及び不溶性粒子を除去し、その後、試料液をProtein Aカラムに注入し、抗体分子を充填剤におけるProtein Aと結合し、平衡化ステップの後に、大部分の不純物を除去し、低pHの溶出液で抗体タンパク質を溶出し、画分を収集した。pHを調整して限外ろ過を通じて製剤緩衝液に置換した。最後にOD280を測定してタンパク質の濃度を算出した。精製された抗体タンパク質について還元CE-SDS(Reducing capillary electrophoresis sodium dodecyl sulfate)を行って純度を検査し、還元CE-SDS検出の結果、20個のヒトマウスキメラモノクローナル抗体分子の純度は95%よりも高かった(表6)。一部の抗体タンパク質の還元CE-SDSを
図10に示す。
【0082】
【0083】
精製されたモノクローナル抗体について、デグリコシラーゼ(PNGase F)で脱グリコシル化して、ジチオスレイトール(DTT)で軽鎖及び重鎖を還元した後、逆相超高速液体クロマトグラフィータンデム質量分析(RP-UPLC/MS)による分子量測定を行った。ここでは、液相部分はWaters ACQUITY UPLC H-Classシステムを用い、移動相Aは0.1%ギ酸(FA)/水、移動相Bは0.1% FA/アセトニトリル(ACN)、カラムはWaters ACQUITY UPLC Protein BEH C4、質量分析装置はWaters Xevo G2-XS Qtofとし、エレクトロスプレーイオン化(ESI)イオン源が装備されており、走査パターンはResolutionであり、収集したターゲットピーク化合物の多電荷原子価の生の一次質量分析データに対してMassLynxソフトウェアを用いてノイズ低減、平滑化、及びデコンボリューション処理を行い、一部のモノクローナル抗体の総イオンクロマトグラム、軽鎖及び重鎖のデコンボリューションスペクトルを
図11に示し、20個のヒトマウスキメラモノクローナル抗体分子の分子量の測定結果を表6に示し、全てのモノクローナル抗体の質量分析分子量は、理論分子量との誤差としては、重鎖では、5Da以下、軽鎖では、1Da以下であり、理論値と一致すると認められた。なお、サンプル処理及び液相測定においては、程度が異なるが、抗体タンパク質のコンフォメーションが変わり、結果として、重鎖ピークのカラムにおける保留時間が変わり、ピークスプリットが見られ、質量分析測定をした結果、スプリットした2つの重鎖ピークでは、分子量が一致する。
【0084】
実施例6 ヒトマウスキメラモノクローナル抗体の細胞表面CLDN18.2への親和性の測定
本実施例では、フローサイトメトリーによって、20個の精製ヒトマウスキメラモノクローナル抗体の細胞表面CLDN18.2への親和性を測定した。細胞表面のタンパク質親和性の測定方法は、(Hunter S.A. et al, Methods in Enzymology, 2016, 580, 21-44)に記載の直接FACS結合法を参照する。CLDN18.2を安定的に発現させたHEK293細胞(HEK293-hCLDN18.2)を蘇生させた後に培養し、所定の細胞数となるまで継代し、細胞を5×104密度/mLで1mL遠心分離管に移し、遠心分離して使用に備えた。各モノクローナル抗体について、(10μg/mL、3.3μg/mL、1.1μg/mL、0.37μg/mL、0.1123μg/mL、0.0041μg/mL、0.0013μg/mL)のような一連の抗体濃度のものを調製した。リガンド枯渇効果(Ligand Depletion)をなくするために、抗体濃度シリーズの調製においては、PBSと緩衝液との組み合わせを用いて、対応するリガンド枯渇体積となるまで希釈した。HEK293-hCLDN18.2細胞を、リガンド枯渇体積となるように調製した一連の濃度の抗体と混合してインキュベートした。4℃の条件で平衡化するまでインキュベートした。4℃で遠心分離して細胞を収集し、予冷PBSで洗浄した後、蛍光染料を備えた抗ヒトIgGの第2抗体とともに4℃で30分間共インキュベートし、予冷PBSで1回洗浄し、その後、FACS結合解析を行い、その結果に基づいて非線形曲線回帰を行って、結合速度定数(KD)の値を算出した。表7に示す結果から、全ての抗体の親和性(KD)はサブナノモル(subnanomoler)であることが示された。抗体の一部は、親和性が陽性対照抗体(BM:Benchmark)163E12(重鎖アミノ酸配列SEQ ID NO: 12;軽鎖アミノ酸配列SEQ ID NO: 13)及び175D10(重鎖アミノ酸配列SEQ ID NO: 10;軽鎖アミノ酸配列SEQ ID NO: 11)よりも3~5倍低く、ほぼピコモルの親和性があった。
【0085】
【0086】
実施例7 ヒトマウスキメラモノクローナル抗体の抗体依存性細胞傷害性(ADCC)機能
本実施例では、エフェクター細胞レポーター遺伝子方法を用いて、精製ヒトマウスキメラモノクローナル抗体についてADCC機能を測定した。この方法では、エフェクター細胞はヒトFc受容体(FcγRIIIa V158)及びNFAT(活性化T細胞核因子)応答性誘導発現ルシフェラーゼ(NFAT-RE-Luc)を安定的に発現させたJurkat細胞株(Promega, G7018)である。このエフェクター細胞がターゲット細胞に結合された関連測定対象抗体のFc領域に結合されると、応答細胞におけるFcγRIIIa受容体を活性化し、さらに細胞内のNFAT細胞シグナル経路を活性化し、NFATに対応するルシフェラーゼ発現を媒介した。この蛍光活性を定量化することでADCC効果を測定した。
抗体濃度について2μg/mLから5倍勾配希釈を行い、8個の濃度(それぞれ2000 ng/mL、400 ng/mL、80 ng/mL、16 ng/mL、3.2 ng/mL、0.64 ng/mL、0.128 ng/mL、0.0256 ng/mL)の一連の希釈抗体サンプルを得た。まず、抗体サンプルを、ヒトCLDN18.2を安定的に発現させたターゲット細胞(HEK293-hCLDN18.2)と混合し、その後、エフェクター細胞・ターゲット細胞比5:1(75000:15000)でエフェクター細胞を加えた。反応系を37℃で6時間培養し、フルオレセイン底物を加えて、蛍光強度(RLU)を読み取った。縦座標の誘導倍数(Fold Induction)を下記式から算出した。
誘導倍数=(誘導蛍光強度-バックグラウンド蛍光強度)/(抗体なし対照蛍光強度-バックグラウンド蛍光強度)
図12に示す20個の精製ヒトマウスキメラモノクローナル抗体のADCC効果結果、表8に示すこれらに対応するADCC最大殺傷及び半数効果用量(EC50)から明らかなように、ほとんどの抗体(17/20)のADCC効果の半数効果用量は陽性対照抗体(163E12)よりも大きかった。2-B8-Aクローンの最大殺傷は対照抗体よりも顕著に低減した。これらのうち、5-M9-Aモノクローナル抗体は、EC50(0.287 pg/mL)が陽性対照抗体(19.5 pg/mL)よりも顕著に高く、最大殺傷(40倍)も対照抗体(36.3倍)よりも明らかに高かった。
【0087】
【0088】
実施例8 ハイブリドーマ抗体の胃癌組織の凍結組織チップ、正常な胃組織及び重要器官組織での免疫組織化学(IHC:Immunohistochemistry)の研究
本実施例では、免疫組織化学方法を用いて、凍結組織チップにおける20個のハイブリドーマ抗体の正常な胃組織及び胃癌組織への結合を検出した。まず、Elisa方法によって20個のハイブリドーマ上清中のマウスIgG抗体の濃度を定量化し、その後、ハイブリドーマ上清中のマウスIgGの定量結果に基づいてハイブリドーマ上清を希釈し、正常な胃組織の凍結切片において胃粘膜上皮腺に対するハイブリドーマ上清のIHCを検証し、検証したIHC条件を利用して、20個のハイブリドーマ上清の正常なヒト胃組織及び胃癌組織の凍結チップ(TMA:Tissue Micro Array)(BioMax, FST401)でIHC研究を行った。凍結組織チップを、濃度が検証された各ハイブリドーマ上清のそれぞれと37℃でインキュベートした後、PBS緩衝液で3回すすぎ、その後、HRP標識抗マウスIgG二次抗体とともに37℃でインキュベートし、ジアミノベンジジン(DAB)法で発色させた。表9には、20個の各ハイブリドーマクローン上清の、16例の胃癌組織及び4例の正常な胃組織を含む凍結TMAにおけるIHC結果が示されている。これらのうち、5-M9、3-N12、3-L4、9-D1及び4-B23のいずれも、胃癌組織では、陽性染色率が67%よりも高く、一方、正常な胃組織上皮細胞組織染色では、9-D1の染色は25%しかなく、他の4個のクローン(>50%)よりもはるかに低く、このことから、9-D1抗体が、胃腫瘍組織で高い陽性染色を有するものの、正常な胃粘膜上皮との結合が弱いことが示され、これは、9-D1は治療性抗体として腫瘍外標的に発現している正常な組織において低い毒性(On target off tumor toxicity)を有することを示し、9-D1抗体が薬剤形成性において強い優位性を有する可能性を示唆している。腫瘍組織中の標的に対して強い結合を有するが、正常な組織中の標的に対して弱い結合を有する抗体をスクリーニングすることは近年治療性抗体をスクリーニングする新しい傾向であり、多くの標的は腫瘍組織の特殊な生理環境により、腫瘍細胞上の分子構造が正常な組織で正常な機能を維持する標的分子構造と異なるが、腫瘍標的特異的抗体をスクリーニングすると、この区別を特異的に識別することができる(Garrett T. P. J. et al, PNAS, 2009, 106(13), 5082-5087)。3-L4及び4-I17の一部の胃癌チップ組織でのIHC染色例を
図13に示す。
【0089】
【0090】
【0091】
なお、4-B23が正常な胃凍結組織切片でIHC条件探索を行ったところ、非常に明らかな非特異的な強いIHC染色が認められ、非特異的染色は主に胃組織の平滑筋に集中していた。4-B23及び一部の他のクローンの正常な胃組織凍結切片でのIHC染色を
図14に示す。ここでは、矢印は4-B23が胃腺下層平滑筋及び血管平滑筋に強く非特異的に発色していることを示している。他のクローンの陽性発色は特異的に胃腺の上皮細胞にある。
5個のハイブリドーマ(4-B23、3-N12、5-M9、8-O11及び3-L4)の単クローン上清の人の正常な心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓の凍結組織でのIHC染色結果を表10にまとめた。ここでは、陽性対照抗体(163E12)、3-N12、5-M9、8-O11及び3-L4は、人の正常な心臓、肝臓、脾臓、肺、腎臓の凍結組織でのIHC染色が全て陰性であり、4-B23は上記の重要な器官組織では、全て強い陽性染色が現れた。
図15は、4-B23がHEK293-hCLDN18.2細胞ブロックの凍結切片では陽性であり、HEK293-hCLDN18.1及びHEK293では陰性であったが、心臓、肺及び腎臓では陽性染色を示し、強染色部位は平滑筋に位置し、正常な胃組織の上粘膜の下層平滑筋に見られる非特異的染色と一致していたことを示している。これは、4-B23が非特異的結合による予期せぬ臨床毒性を示す可能性があり、薬剤形成性を有しないことを示唆している。
【0092】
【0093】
実施例9 モノクローナル抗体5-M9及び9-D1の配列ヒト化
抗体5-M9及び9-D1の配列ヒト化は、抗体の3Dモデリングに基づいて行われ(Kurella et al, Methods Mol. Biol., 2018, 1827, 3-14)、設計プロセスは市販のSchrodinger’s Bioluminateソフトウェアにより行われた。まず、抗体重鎖V領域及び抗体軽鎖V領域に対して相同性モデリングを行い、PDB(Protein Data Bank)データベース中の既存抗体配列との配列アラインメントにより、配列相同性が最も高いVH及びVL構造をテンプレートとして選択し、それぞれモデリング対象の抗体のVH及びVLを3Dモデリングした。次に、3DモデリングされたVH及びVLのフレームワーク領域を解析し、CDR領域、典型的なフレームワーク領域(Canonical fold)、Vernier領域、及びVH/VL結合領域(interface)の重要なアミノ酸残基を特定した。被ヒト化抗体VH及びVLとヒト抗体生殖細胞株遺伝子との相同性アラインメントにより、相同化の度合いが最も高いヒト生殖細胞株遺伝子を見つけてヒト化のテンプレートとした後、被ヒト化抗体のCDRを対応するヒト生殖細胞株遺伝子フレームワーク領域に移植した。以下の3つの基本原則を通じてCDR移植のヒト由来フレームワーク領域の重要なアミノ酸に対して回復変異を行うかどうかを判断した。1)3D構造上のヒト由来のフレームワーク領域のアミノ酸残基がCDR領域、典型的なフレームワーク領域(Canonical fold)、Vernier領域、及びVH/VL結合領域(interface)に対して新たな接触部位(イオン結合、水素結合、及び疎水性作用)を生成した場合、対応するフレームワーク領域のヒト由来のアミノ酸残基は、対応するマウス由来のフレームワーク領域の残基に回復変異する。2)CDR領域、典型的なフレームワーク領域(Canonical fold)、Vernier領域、及びVH/VL結合領域(interface)と本来接触部位(イオン結合、水素結合及び疎水性作用)を有する3D構造上のマウス由来のフレームワーク領域のアミノ酸残基が、対応するヒトフレームワーク領域のアミノ酸残基に置換された後に、接触部位が弱まるか又は消失する場合、対応するフレームワーク領域のヒト由来のアミノ酸残基は対応するマウス由来のフレームワーク領域の残基に回復変異する。3)マウス由来の典型的なフレームワーク領域(Canonical fold)、Vernier領域、及びVH/VL結合領域(interface)のアミノ酸残基をヒト由来の残基に置換する場合は、慎重な検討と慎重な置換が必要である。
Schrodingerソフトウェアは上記の原則を通じて予測されたヒト化抗体に対して、3D構造に基づいてさらに1)タンパク質表面解析を行い、ヒト化後にマウス由来抗体の表面に対して大きな疎水性露出領域を形成するアミノ酸を標記し、もしヒト化抗体が後続の製造・特徴づけにおいて多くの凝集体を形成するならば、大きな疎水性露出領域を有するアミノ酸残基を修正して対応する表面疎水性領域を破壊し、2)アミノ酸翻訳後修飾解析では、ヒト化後に翻訳後修飾が生じやすいアミノ酸側鎖が3D構造表面に50%を越えて露出しているアミノ酸残基を標記し、もしヒト化抗体では後続の製造・特徴づけにおいて翻訳後修飾が現れたならば、表面露出のリスクが高い翻訳後修飾アミノ酸残基を修正し、3)抗体配列の免疫原性解析は、T細胞エピトープ解析、B細胞エピトープ解析、MHCIIエピトープ解析を含み、抗薬物抗体(ADA:Anti-Drug-Antibody)産生能を有する高免疫原性ペプチドセグメントの位置を標記した。
図16は、PBDデータベースの3KJ4と4M61をテンプレートとした、5-M9及び9-D1 Fv領域のそれぞれの相同3Dモデルを示しており、濃赤色の領域がCDRs領域、白色と灰色の領域がVH/VLの界面結合アミノ酸残基、黄色の領域が典型的なフレームワーク(Canonical fold)アミノ酸残基、緑色の領域がVernier領域アミノ酸残基である。
図17はそれぞれ5-M9及び9-D1のVH及びVLの相同性と最も高いヒト抗体生殖細胞株遺伝子IGHV4-4*8、IGKV4-1*01、IGHV1-46*01、及びIGKV4-1*01を示しており、ヒト生殖細胞株遺伝子に対応するフレームワーク領域はそれぞれ5-M9及び9-D1のVH及びVL CDRsが移植する受容フレームワークとなった。濃色の領域はCDRs領域、典型的なフレームワーク領域(Canonical fold)及びVernier領域の感受性アミノ酸であり、濃色の領域を除く黄色は、アミノ酸残基がヒト生殖細胞株遺伝子とマウス由来抗体の配列との差異アミノ酸であることを示している。
各抗体配列のVHとVLごとに3~4個のヒト化配列が提供されており、表11はそれぞれVH及びVLのマウス由来配列と対応するヒト化配列のヒト化度を示しており、VHのヒト化度はマウス由来のものの約60%から最高で約80%に、VLのヒト化度はマウス由来のものの約80%から最高で約90%に向上した。ヒト化重鎖及び軽鎖に対して全長遺伝子合成を行い、重鎖及び軽鎖の定常領域はそれぞれヒトIgG1(G1m17)の重鎖及びヒトκ型軽鎖である。全長遺伝子を発現プラスミドにクローニングし、重鎖及び軽鎖の発現プラスミドについて並べ替えを行い、HEK293を共トランスフェクションして抗体発現を行った。表12はVH/VLヒト化配列の並べ替えによるヒト化分子の発現を示しており、5-M9では12個、9-D1では9個のヒト化分子が発現していることが示された。
図18は、9-D1ヒト化抗体分子タンパク質の精製後の還元SDS-PAGE電気泳動図を示しており、9個のヒト化バージョンの電気泳動純度が95%よりも大きく、重鎖及び軽鎖のバンドの分子量が予想通りで、対照であるヒト由来IgG1抗体の位置と一致していることを示している。
【0094】
【0095】
【0096】
実施例10 ヒト化抗体と細胞表面hCLDN18.2との結合活性の解析
本実施例では、フローサイトメトリー分析方法を用いて、5-M9及び9-D1ヒト化抗体の細胞表面hCLDN18.2に対する結合活性を測定した。良好に成長したHEK293-hCLDN18.2を安定トランスフェクションした細胞株とフローサイトメトリーで選別・濃化されたhCLDN18.2低発現KATOIIIヒト胃癌細胞株とをパンクレアチン(トリプシン)で消化し、再懸濁させて細胞濃度が1.5×106~2×106/mLとなるように調整し、96ウェルU字底プレートに100μL/ウェル(15万~20万細胞/ウェル)で加えた。1%ウシ胎児血清(FBS)含有のPBS緩衝液で1回洗浄した。PBS(+1%FBS)で調製した試験濃度の抗体溶液(100μL/ウェル)を加えて細胞と均一に混合し、4℃で1時間インキュベートした。細胞200gを遠心分離して、PBS(+1%FBS)で1回洗浄した。1000倍のPBS(+1%FBS)で希釈したCy3-Conjugated AffiniPureヤギ抗ヒトIgG二次抗体(Jackson labs、品番109-165-003)又はAlexa Fluor488-conjugatedヤギ抗ヒトIgG(H+L)二次抗体(Thermofisher、品番A-11013)を100μL/ウェルで加え、細胞と均一に混合した後、4℃で45分間インキュベートし、細胞200gを遠心分離して、PBS(+1%FBS)で2回洗浄し、PBS(+1%FBS)100μLで再懸濁させた後、フローサイトメトリーで解析した。5-M9の12個のヒト化分子の予備FACS結合解析には、HEK293細胞の抗体発現上清を用い、上清中の抗体濃度をProblifeで定量化し、ELISAで修正した。熱処理による抗体結合特性への影響の検討において、濃度測定対象の抗体をPCR装置にて70℃で5分間熱処理した後、細胞とインキュベートして結合した。
ヒト化抗体の多糖、脂質及びタンパク質に対する非特異性を評価する検討において、昆虫バキュロウイルス(BV:Baculovirus)の結合能に対する抗体の影響をELISA法で検出した(Hotzel et al, mAbs, 2012, 4(6), 753-760)。昆虫ウイルスエンベロープは多くの脂質類、多糖類及びタンパク質類を含み、ヒトの細胞や組織と類似した生化学混合物の特徴を持ち、抗体の昆虫バキュロウイルスに対する結合能力はある程度に抗体の体内での非特異的結合のリスクを評価することができる。昆虫バキュロウイルスはバキュロウイルスプラスミドを昆虫細胞に感染させて得られたものである。昆虫バキュロウイルスをPBSで1:500希釈し、50μL/ウェルで96ウェルプレートに被覆し、4℃で一晩放置した。PBS(300μL/ウェル)でプレートを3回洗浄し、1%BSAを用いて室温で1時間ブロッキングし(200μL/ウェル)、PBSでプレートを3回洗浄した。各濃度の抗体(100μL/ウェル)を加えて室温で1時間インキュベートした。PBS(300μL/ウェル)でプレートを6回洗浄した。1:5000希釈HRP-conjugatedヤギ抗ヒト二次抗体(100μL/ウェル)を加えた。室温で1時間インキュベーションした後、PBS(300μL/ウェル)でプレートを6回洗浄した。H2O2-Amplx(100μL/ウェル)を加えて、室温、遮光下、値を読み取った。
表13は、5-M9ヒト化抗体発現上清の非熱処理/熱処理後のHEK293-hCLDN18.2との結合特徴を示しており、その中でも、h5M9V7、h5M9V10、及びh5M9V12は、合計12個のヒト化分子において高い結合活性を有し、抗体は、70℃で5分間熱処理した後も安定な結合特徴を維持した。
【0097】
【0098】
h5M9V7、h5M9V10及びh5M9V12の重鎖定常領域及び軽鎖定常領域のアミノ酸配列は以下のとおりである。
【0099】
【0100】
5-M9キメラ抗体(Chi 5-M9)、h5M9V7、h5M9V10及びh5M9V12(それぞれh5M9-V7、h5M9-V10及びh5M9-V12とも呼ばれる)の精製抗体は、非熱処理/熱処理後、HEK293-hCLDN18.2との結合特徴が
図19に示されており、精製ヒト化抗体h5M9V7、h5M9V10及びh5M9V12はChi 5-M9抗体と同様の結合特徴を有している。70℃で熱処理後の3個のヒト化分子の結合特徴はChi 5-M9と一致し、熱的不安定性は示さなかった。5-M9及びそのヒト化抗体の非特異的結合のリスクを評価する検討では、
図20に示すように、ヒト化抗体は、参照対照(Rituxan)及びChi 5-M9抗体と比較して、高濃度条件下で、非特異的結合が相対的に増強され、その中でも、h5M9V7は最も弱い非特異的結合を示した。
試験抗体のhCLDN18.2低発現細胞株への結合特性は、患者の胃腫瘍CLDN18.2の発現レベルが臨床上不均一であり、1/3近くが低発現レベルであり、単一腫瘍の発現が異質性であることから、抗体の臨床応用を評価するための価値がある(Zhu G. et al, Sci Rep, 2019, 9, 8420-8431)。
図21は、hCLDN18.2低発現胃腫瘍細胞株KATO IIIに対する9-D1及びそのヒト化抗体の結合を示しており、9-D1及びそのヒト化分子は、KATO IIIへの結合が類似しており、いずれも強い結合能を示しており(
図21、A)、EC50(0.4~0.5μg/mL)は陽性対照(Benchmark)175D10の半分(約0.8μg/mL)しかなく、最大結合強度(800~1000MFI)は175D10(300~600MFI)の2倍である。9-D1及びそのヒト化分子がKATO IIIに結合した最大陽性細胞率(80~95%)は、陽性対照175D10(30~40%)の2倍である(
図21、B)。
【0101】
【0102】
実施例11 ヒト化抗体の物理的・化学的性質の解析
本実施例では、5-M9及び9-D1、並びにそのヒト化抗体分子について、抗体の熱安定性、凝集体形成及び純度の物理的・化学的性質の解析を複数の方法で行った。
抗体の熱安定性解析:示差走査熱量蛍光測定(DSF:Differential scanning fluorimetry)と静的光散乱(SLS:Static light scanttering)によってUncle system(UNCHAINED LABS)で解析を行い、DSFとSLSは、温度検出範囲20~95℃、昇温速度1℃/minであり、波長266nmと473nmの静的光散乱を検出し、溶融温度(T
m:Melting Temperature)及び熱凝集温度(T
agg:Thermal aggregation)はUncle systemソフトウェアで解析された。示差走査熱量測定装置(DLC:Differential Scanning calorimetry)は、Malvern MicroCal VP-Capillary DSCである。温度変化範囲は25℃から100℃、走査速度は1℃/minとした。試料緩衝液をブランク溶液として走査した。元のデータはMicroCal VP-Capillary DSC Automated Analysisソフトウェアで処理された。
抗体凝集体解析:動的光散乱(DLS:Dynamic light scanttering)はUncle system上で、試験温度25℃で行い、Uncle systemソフトウェアで解析した。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC:Size-Exclusion Chromatography)検出装置はWaters Alliance e2695システムであり、PDA検出器を備えている。カラムはTOSOH TSKgel G3000SWXL、品番0008541である。移動相は0.1Mリン酸緩衝液、0.1M塩化ナトリウム、pH6.8である。流速1.0mL/minとして、アイソクラティック溶出を行った。カラム温度25℃、検出波長280nm、試料注入量100μgとした。
IgG抗体は、それぞれ固有の融解温度(T
m)を有する複数のタンパク質ドメインを有し、重鎖定常領域2(CH2)はPBS溶液中で一般的に約70℃のT
mを有し、重鎖定常領域3(CH3)は比較的安定で、T
mが約80℃である。抗体Fabs領域は大きな配列差異性を持つため、T
m範囲が約50℃~85℃と広い。しかし、各ドメインのT
mは過渡的であり、ドメインのT
m値が近いために分離できない場合がある。表14は5-M9及びそのヒト化抗体の熱安定性解析結果を示しており、各抗体は2つ又は3つのT
mがあり、その中でも、T
m1は全て約70℃であり、CH2ドメインのT
mであると考えられ、T
m2又はT
m3はCH3又はFabドメインのT
mであり、全体的には、h5M9V7はT
m値が高く(
図22)、熱安定性が高かった。T
aggは静的光散乱が凝集体の出現を検出し始めることができる開始温度であり、その中でも、T
agg 266nmは266nmのSLSを測定したものであり、小さな凝集粒子の検出に高感度であり、T
agg 473nmは473nmのSLSを測定したものであり、大きな凝集粒子の検出に高感度である。h5M9V7のT
agg 266nm及びT
agg 473nmは、他のヒト化抗体及び5-M9キメラ抗体よりも有意に高かった(
図22)。
【0103】
【0104】
9-D1抗体及びそのヒト化抗体の示差走査熱量測定(DSC)検出スペクトルを
図23に、対応する融解温度(T
m値)を表15に示す。その結果、各抗体候補は良好な熱安定性を示した。抗体CH2領域の熱安定性を示すT
m1値は、全ての候補抗体では、50℃よりも高かった。抗体Fab領域の熱安定性を示すT
m2値は、全ての候補抗体では、65℃よりも高かった。h9D1V1は他のヒト化抗体より明らかに高いT
m値を持ち、T
m1は他のヒト化抗体より少なくとも5℃高く、T
m2は他のヒト化抗体より少なくとも3℃高く、他の9-D1ヒト化抗体よりもh9D1V1には明らかな熱安定性上の優位性があることが示された。
【0105】
【0106】
5-M9のヒト化抗体の凝集体解析には、それぞれ動的光散乱法(DLS)を用い、DLSデータを表16にまとめた。各抗体分子は、25℃の条件での粒子半径が約9.5nm(ピーク1)であり、抗体単体の半径範囲にあり、IgG単体分子であり、含有量は約100%である。多分散度指数(PDI:Polydispersity Index)は粒子の分散度を反映しており、PDI<0.25は単一の均質な粒子と見なす。h5M9V7及びh5M9V12のPDIは両方とも0.25未満であり、Chi 5-M9及びh5M9V10のPDIよりも大幅に小さく、単体の分散性が良好で、凝集体になりにくいことを示している。
9-D1のヒト化抗体の凝集体解析には、それぞれサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)方法を採用し、
図24に示すSEC検出スペクトルから、9-D1の各ヒト化抗体は良好な単体純度を持っており、明らかな凝集体と断裂断片が現れていないことが分かった。その中でも、h9D1V3、h9D1V6、h9D1V7、及びh9D1V9抗体の主ピークは少し尾を引く。h9D1V1の主ピークの形状は最適であり、尾引き現象がなかった。
【0107】
【0108】
実施例12 ヒト化抗体の胃癌組織及び健常者の主要器官組織でのIHC染色
本実施例では、精製された9D1及び5M9ヒト化抗体を利用して、ポリペルオキシダーゼ多量体(Poly-HRP-polymer)を用いて抗体の直接結合(WO2015171938)を行い、次に、免疫組織化学方法を用いて、16例の胃癌組織と5つの健常者の主要器官組織(心臓、肝臓、脾臓、肺及び腎臓、組織ごとに3例)の凍結切片でのヒト化抗体の染色を検出し、Poly-HRP-polymerに結合したhIgGアイソタイプ抗体(ThermoFisher、品番12000C、)は陰性対照、Poly-HRP-polymerに結合した175D10抗体は参照抗体(Benchmark)とした。免疫組織化学方法では、凍結組織切片を凍結アセトンで5分間固定化し、その後、3% H
2O
2含有PBS緩衝液で5分間不活化し、PBSでリンスした後、5g/mLのPoly-HRP-polymer抗体結合物とともに5分間インキュベートし、PBSで切片を洗浄し、DAB基質3分発色後に反応を停止し、顕微鏡で撮影した。表17は16例の胃癌凍結切片における9D1及び5M9のヒト化抗体のIHC染色結果をまとめた。陰性対照(hIgGアイソタイプ抗体)全ての組織での染色結果は陰性であり、参照抗体(Benchmark)175D10の陽性染色率は31.3%(-5/16)であったが、h9D1-V1、h9D1-V2、h5M9-V7及びh5M9-V10の陽性染色率は参照抗体175D10より有意に高く、それぞれ75%(12/16)、62.5%(10/16)、75%(12/16)及び81.25%(13/16)であり、陽性染色組織では、ヒト化抗体9D1及び5M9抗体の染色強度は175D10より有意に強かった(
図25参照)。
【0109】
以下、h9D1-V1及びh9D1-V2(h9D1V1及びh9D1V2ともいう)の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列である。これらの重鎖定常領域配列及び軽鎖定常領域配列は、それぞれSEQ ID NO: 38、及びSEQ ID NO: 39である。
【0110】
【0111】
【0112】
9D1及び5M9のヒト化抗体、並びに対照抗体の健常者の心臓(3例)、肝臓(3例)、脾臓(3例)、肺(3例)、及び腎臓(3例)の凍結切片でのIHC染色結果を表18にまとめたが、全て陰性であった。
図26は、正常な腎臓組織(#125)と正常な肝臓組織(#128)のそれぞれでの抗体の陰性染色結果を示す。
【0113】
【0114】
これらの結果は、参照抗体(Benchmark)175D10抗体に比べ、ヒト化9D1及び5M9抗体は、胃癌組織では、顕著に向上した特異的陽性染色率及び染色強度を有し、非標的主要器官組織では、非特異的な組織交差反応を有さないことを示した。これは9D1及び5M9抗体の高い薬剤形成性を示唆しており、腫瘍組織を最大限に標的化しながら、標的外毒性(オフターゲット毒性)を持たない。
【0115】
実施例13 抗体の担癌マウスへの抗腫瘍作用
本実施例では、h9D1V1抗体及び陽性対照抗体175D10の荷腫マウスへの抗腫瘍作用を検討した。実験動物飼育室にCB17-SCADマウス(Charles River社、系統コード404)を入れて、検疫適応を7日間した。細胞検疫に合格したものを実験に入れ、HEK293-hCLDN18.2細胞を5×10
6個、体積100μl(マトリゲル(Biocoat、品番356234):PBS=1:1)を側腹中部に接種し、1日観察し、接種翌日、1群9匹で3群(PBS群、175D10、h9D1V1)に無作為に分け、腹腔内投与を開始し(200μg/匹、投与濃度1mg/mL、投与体積200μL、週2回、計4週間)、接種後1週間から腫瘍体積を測定し、それ以降3日ごとに1回測定し、体重は6日ごとに測定した。統計学はOne-way-ANOVA、Tukey post-hoc検定を用い、**p<0.01、***p<0.001であった。その結果、
図27に示すように、PBS群に比べて、175D10投与群は腫瘍の成長を有意に抑制したのに対し、h9D1V1は同様に腫瘍の成長を有意に抑制しており、175D10とh9D1V1では有意差が認められなかった。投与期間中のマウスの体重変化の傾向は同じであり、明らかな投与関連変化はなかった。
【配列表】