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特許7522493粉末肥料、液体肥料、栽培作物の作製方法、および施肥システム
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  • 特許-粉末肥料、液体肥料、栽培作物の作製方法、および施肥システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】粉末肥料、液体肥料、栽培作物の作製方法、および施肥システム
(51)【国際特許分類】
   C05G 5/10 20200101AFI20240718BHJP
   C05F 3/00 20060101ALI20240718BHJP
   C05G 5/20 20200101ALI20240718BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20240718BHJP
【FI】
C05G5/10
C05F3/00
C05G5/20
A01G31/00 601A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023138063
(22)【出願日】2023-08-28
(62)【分割の表示】P 2023133917の分割
【原出願日】2023-08-21
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2023057953
(32)【優先日】2023-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522146266
【氏名又は名称】株式会社BIOTEX
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】馬場 務
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-210090(JP,A)
【文献】特開平07-132029(JP,A)
【文献】特開2015-097509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05G
C05F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏糞を含み、かつ、水に添加した直後にレーザー回折散乱法で求められる粒度分布のD90が120μm未満の粉末であり、
原料100質量%における鶏糞の配合量が、30質量%以上であり、
水に導入して点滴灌水による施肥に用いられる、点滴灌水用粉末肥料。
【請求項2】
0.1質量%の濃度で水に添加し、24時間静置後において、レーザー回折散乱法で求められる粒度分布のD50(D5024h)が50μm未満である、請求項1に記載の点滴灌水用粉末肥料。
【請求項3】
前記D5024hが、水に添加した直後にレーザー回折散乱法で求められる粒度分布のD50に対して、1.3倍以下である、請求項2に記載の点滴灌水用粉末肥料。
【請求項4】
水に添加した後、24時間以上に亘って施肥に用いられる、請求項2に記載の点滴灌水用粉末肥料。
【請求項5】
請求項1に記載の点滴灌水用粉末肥料を水に導入して得られ、点滴灌水による施肥に用いられる、点滴灌水用液体肥料。
【請求項6】
12~72時間に亘って施肥に用いられる、請求項5に記載の点滴灌水用液体肥料。
【請求項7】
栽培対象に対し、請求項5に記載の点滴灌水用液体肥料を点滴灌水によって施肥する工程を有する、栽培作物の作製方法。
【請求項8】
点滴灌水用液体肥料中の水、または、点滴灌水用液体肥料の調製前の水において、微細気泡を発生させる、請求項に記載の栽培作物の作製方法。
【請求項9】
請求項5に記載の点滴灌水用液体肥料を収容するための収容手段と、
点滴灌水用液体肥料を収容手段から栽培対象の近傍へとデリバリし、栽培対象へ点滴灌水するための灌水手段と、
を備える、施肥システム。
【請求項10】
点滴灌水用液体肥料中の水、または、点滴灌水用液体肥料の調製前の水に対し、微細気泡を発生させる手段を備える、請求項9に記載の施肥システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉末肥料、液体肥料、栽培作物の作製方法、および施肥システムに関する。
【背景技術】
【0002】
循環型社会を構築する機運の高まりおよび商品である作物に付加価値を付ける観点から、有機肥料を用いることが推奨されつつある。有機肥料には、固形のもののほか液状のもの、すなわち有機液肥がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、完全に水溶液の状態にある無機液肥と異なり、粉末が水中に分散する有機液肥の場合、経時的に発生する灌水チューブの詰まりが問題になる。灌水チューブは非常に小さい多数の灌水孔を設けているので、灌水孔が詰まりやすく、詰まると全ての灌水孔から同じ流量で灌水できなくなる。そうすると、栽培対象に供給される灌水量が非コントロール下で変化して、生育にばらつきが発生しやすい。
【0004】
また、液肥の収容タンクにおいては、通常、吐出口がタンク側面の底面から離れた位置にあり、タンク底面付近の液肥を排出できない構造になっている。そのため、収容タンク内で有機液肥中の粉末が高度に沈殿すると、排出される液肥(粉末を低濃度にしか含まない)中の栄養成分が不足し、生育のコントロールが難しくなる。
【0005】
ところで、従来の有機液肥は、植物質材料(腐植等)を主成分とするものが大半である。これに対し、出願人が知る限りにおいて、動物質材料、中でも鶏糞を用いた有機液肥は存在しない。鶏糞は、安価かつ安定に入手可能な肥料材料ではあるが、取扱い性の悪さから十分に活用されていないのが現状である。
【0006】
本発明は以上の実情に鑑みて完成されたものであり、鶏糞を含み、かつ、灌水で、簡便かつ栽培上有効に施肥しやすい肥料、栽培作物の作製方法、および施肥システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鶏糞を含み、かつ、粒度分布のD90が特定の範囲内の粉末を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0008】
[1] 鶏糞を含み、かつ、水に添加した直後にレーザー回折散乱法で求められる粒度分布のD90が120μm未満の粉末であり、
水に導入して灌水による施肥に用いられる、粉末肥料。
【0009】
[2] 0.1質量%の濃度で水に添加し、24時間静置後において、レーザー回折散乱法で求められる粒度分布のD50(D5024h)が50μm未満である、[1]に記載の粉末肥料。
【0010】
[3] 前記D5024hが、水に添加した直後にレーザー回折散乱法で求められる粒度分布のD50に対して、1.3倍以下である、[2]に記載の粉末肥料。
【0011】
[4] 水に添加した後、24時間以上に亘って施肥に用いられる、[1]~[3]のいずれか一項に記載の粉末肥料。
【0012】
[5] [1]~[4]のいずれか一項に記載の粉末肥料を水に導入して得られ、灌水による施肥に用いられる、液体肥料。
【0013】
[6] 12~72時間に亘って施肥に用いられる、[5]に記載の液体肥料。
【0014】
[7] 栽培対象に対し、[5]または[6]に記載の液体肥料を灌水によって施肥する工程を有する、栽培作物の作製方法。
【0015】
[8] [5]または[6]に記載の液体肥料を収容するための収容手段と、
液体肥料を収容手段から栽培対象の近傍へとデリバリし、栽培対象へ灌水するための灌水手段と、
を備える、施肥システム。
【0016】
[9] 液体肥料中の水、または、液体肥料の調製前の水に対し、微細気泡を発生させる手段を備える、[8]に記載の施肥システム。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鶏糞を含み、かつ、灌水で、簡便かつ栽培上有効に施肥しやすい肥料、栽培作物の作製方法、および施肥システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例2における点滴孔のパイプ詰まりの程度を示す写真である。
図2】比較例1における点滴孔のパイプ詰まりの程度を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0020】
<粉末肥料>
本発明に係る粉末肥料は、鶏糞を含み、かつ、水に添加した直後にレーザー回折散乱法で求められる粒度分布のD90(以下、D900minともいう)が120μm未満の粉末であり、水に導入して灌水による施肥に用いられる。
【0021】
鶏糞においても、水に導入して灌水による施肥に用いる場合、経時的に発生する灌水チューブの詰まり等が問題になりやすい。
【0022】
そこで、本発明者が検討した結果、D900minを120μm未満に調整することで、上記の問題を回避できることを見出した。
【0023】
(粒径)
D900minは、120μm未満であり、好ましくは90μm未満、より好ましくは70μm未満である。D900minが120μm未満であることにより、添加後すぐに施肥に使用しても、灌水パイプにおけるフィルターの詰まりが抑制され、十分量の施肥がなされやすい。D900minの下限は特に限定されないが、過剰に小さくしても有利な効果が飽和する一方で製造効率が悪くなりやすい点から、例えば、5μm以上、15μm以上、または20μm以上等であってもよい。
本明細書において、D900minとは、粉末を水に対し0.1質量%の濃度で添加して混合した直後の試料について、レーザー回折散乱法により測定された粒度分布における累積体積90%粒径を意味する。
【0024】
D970minは、170μm未満であり、好ましくは150μm未満、より好ましくは130μm未満である。D970minが170μm未満であることにより、添加後すぐに施肥に使用しても、灌水パイプにおけるフィルターの詰まりが抑制され、十分量の施肥がなされやすい。D970minの下限は特に限定されないが、過剰に小さくしても有利な効果が飽和する一方で製造効率が悪くなりやすい点から、例えば、10μm以上、25μm以上、または40μm以上等であってもよい。
本明細書において、D970minとは、粉末を水に対し0.1質量%の濃度で添加して混合した直後の試料について、レーザー回折散乱法により測定された粒度分布における累積体積97%粒径を意味する。
【0025】
水に添加した直後にレーザー回折散乱法で求められる粒度分布のD50(以下、D500minともいう)は、好ましくは80μm未満、より好ましくは50μm未満、さらに好ましくは40μm未満である。D500minが80μm未満であると、水に溶解しやすく、添加後すぐに施肥に使用しても、灌水パイプにおけるフィルターの詰まりが抑制され、十分量の施肥がなされやすい。D500minの下限は特に限定されないが、過剰に小さくしても有利な効果が飽和する一方で製造効率が悪くなりやすい点から、例えば、4μm以上、6μm以上、または8μm以上等であってもよい。
本明細書において、D500minとは、粉末を水に対し0.1質量%の濃度で添加して混合した直後の試料について、レーザー回折散乱法により測定された粒度分布における累積体積50%粒径を意味する。
【0026】
0.1質量%の濃度で水に添加し、24時間静置後において、レーザー回折散乱法で求められる粒度分布のD90(以下、D9024hともいう)は、好ましくは120μm未満、より好ましくは90μm未満、さらに好ましくは70μm未満である。D9024hが120μm未満であると、収容タンクやパイプ中での沈降が抑制され、十分に均質な栄養の液体肥料が施肥されやすい。D9024hの下限は特に限定されないが、過剰に小さくしても有利な効果が飽和する一方で製造効率が悪くなりやすい点から、例えば、5μm以上、15μm以上、または20μm以上等であってもよい。
本明細書において、D9024hとは、粉末を水に対し0.1質量%の濃度で添加して混合した後、24時間の静置を行った試料について、レーザー回折散乱法により測定された粒度分布における累積体積90%粒径を意味する。
【0027】
0.1質量%の濃度で水に添加し、24時間静置後において、レーザー回折散乱法で求められる粒度分布のD97(以下、D9724hともいう)は、好ましくは220μm未満、より好ましくは200μm未満、さらに好ましくは180μm未満である。D9724hが220μm未満であると、収容タンクやパイプ中での沈降が抑制され、十分に均質な栄養の液体肥料が施肥されやすい。D9724hの下限は特に限定されないが、過剰に小さくしても有利な効果が飽和する一方で製造効率が悪くなりやすい点から、例えば、10μm以上、20μm以上、または40μm以上等であってもよい。
本明細書において、D9724hとは、粉末を水に対し0.1質量%の濃度で添加して混合した後、24時間の静置を行った試料について、レーザー回折散乱法により測定された粒度分布における累積体積97%粒径を意味する。
【0028】
0.1質量%の濃度で水に添加し、24時間静置後において、レーザー回折散乱法で求められる粒度分布のD50(以下、D5024hともいう)は、好ましくは80μm未満、より好ましくは50μm未満、さらに好ましくは40μm未満である。D5024hが80μm未満であると、収容タンクやパイプ中での沈降が抑制され、十分に均質な栄養の液体肥料が施肥されやすい。D5024hの下限は特に限定されないが、過剰に小さくしても有利な効果が飽和する一方で製造効率が悪くなりやすい点から、例えば、4μm以上、6μm以上、または8μm以上等であってもよい。
本明細書において、D5024hとは、粉末を水に対し0.1質量%の濃度で添加して混合した後、24時間の静置を行った試料について、レーザー回折散乱法により測定された粒度分布における累積体積50%粒径を意味する。
【0029】
D5024hは、D500minに対して、好ましくは1.3倍以下、より好ましくは1.2倍以下である。また、この比率の下限は特に限定されないが、例えば、0.2倍以上、または0.6倍以上等であってもよい。この比率が1.3倍以下であると、水に溶解しやすく、凝集しにくいから、添加後すぐに全量を使用しなくてもよく、作り置きしやすい。また、液体肥料としての栄養濃度が偏在しにくくなる。さらに、凝集しにくいため、添加後すぐに全量を使用しなくてもフィルター詰まりの抑制能が低減しにくい。
【0030】
(原料)
粉末肥料は、原料として鶏糞を含む。本明細書において「鶏糞」とは、鶏の任意の排泄物を包含する。鶏糞が由来する鶏の品種等は特に限定されない。
【0031】
粉末肥料は、鶏糞以外の原料を含んでいてもよい。鶏糞以外の原料としては、肥料の原料として通常使用されるものであれば特に限定されず、例えば、魚粉、酸化鉄、マグネシウム、卵殻、ゼオライト、酢酸、フルボ酸、酵素、木酢液等が挙げられる。これらの成分の種類や配合量は、得ようとする効果に応じて適宜調整できる。
【0032】
原料100質量%における鶏糞の配合量は特に限定されないが、例えば、10質量%以上、30質量%以上、50質量%以上、70質量%以上、または90質量%以上等であってもよく、100質量%であってもよい。配合量の上限は、特に限定されないが、例えば、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、または60質量%以下であってもよい。
【0033】
(用途)
粉末肥料は、水に導入して灌水による施肥に用いられる。
粉末肥料は、水に添加した後、24時間以上に亘って施肥に用いられることが好ましい。ただし、これに限られず、粉末肥料は、水に添加した後24時間以内(例えば、12~23時間)に全量を施肥しても構わない。
【0034】
(粉末肥料の製造方法)
粉末肥料の製造方法は特に限定されないが、例えば、鶏糞または鶏糞等の原料の混合物を市販の乾燥機を用いて水分量が15質量%以下になるように乾燥させる工程と、市販の粉砕機を用いて粉砕する工程とを含む方法等が挙げられる。水分量が15質量%以下になるように乾燥させることで、本発明に規定される粒径を満たしかつ腐敗しにくい粉末肥料を量産しやすくなる。
【0035】
乾燥方法は、水分量を低減できれば特に限定されないが、例えば、真空乾燥機、気流乾燥機等の任意の市販乾燥機を用いる方法が挙げられる。
【0036】
粉砕方法は特に限定されず、例えば、衝撃式粉砕装置(ハンマーミル、ピンミル等)、せん断粉砕装置(カッターミル等)等の任意の市販粉砕機を用いる方法が挙げられる。
【0037】
<液体肥料>
本発明に係る液体肥料は、本発明に係る粉末肥料を水に導入して得られ、灌水による施肥に用いられる。
【0038】
液体肥料100質量%中の粉末肥料の濃度は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.05質量%以上である。また、粉末肥料の濃度は、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下である。
【0039】
液体肥料は、粉末肥料に加えて無機肥料を含んでいてもよい。有機肥料は持続性および全栄養のバランスが良い傾向にあり、無機肥料は即効性があるが栄養が偏る傾向にあるため、粉末肥料に加えて無機肥料を併用することでこれらの弱点を補完しあいやすい。
【0040】
液体肥料は、12~72時間に亘って施肥に用いられることが好ましい。72時間を超えると、収容タンク内の沈殿を抑制しきれず、送出する液体肥料中の栄養成分が不足しやすい。収容タンク内の液体肥料を撹拌等することで、収容タンク内の沈殿を一層抑制することができ、特に限定されないが、24時間以上、48時間以上、または72時間以上に亘る施肥に用いることができる。ただし、収容タンク内の液体肥料の腐敗または悪臭を抑制する観点では、液体肥料の施肥は48時間以内に終えることが好ましい。
【0041】
<栽培作物の作製方法>
本発明に係る栽培作物の作製方法は、栽培対象に対し、本発明に係る液体肥料を灌水によって施肥する工程を有する。
【0042】
栽培対象としては、灌水による施肥が可能な植物であれば特に限定されない。被子植物または裸子植物のいずれであってもよく、また被子植物は、双子葉植物および単子葉植物のいずれも包含する。さらに、草本植物または木本植物を問わない。好ましくは、農業上重要な農作物、または園芸上重要な園芸植物である。例えば、穀類、花卉、野菜、果物等の作物植物が挙げられる。具体的には、単子葉植物であれば、イネ科(Poaceae)に属する種(例えば、イネ、コムギ、オオムギ、ライムギ、トウモロコシ、サトウキビ、アワ、キビ、ヒエ、ソルガム、コウリャン、シバ)、バショウ科(Musaceae)に属する種(例えば、バナナ、バショウ)、ユリ科(Liliaceae)に属する種(例えば、ネギ、タマネギ、ニラ、チューリップ、ヒアシンス、ムスカリ、ユリ)、ヒガンバナ科(Amaryllidaceae)に属する種(例えば、ニンニク)、およびアナナス科(Bromeliaceae)に属する種(例えば、パイナップル)が該当する。また、双子葉植物であれば、マメ科(Fabaceae)に属する種(例えば、ダイズ、ピーナッツ、エンドウ、インゲンマメ、アズキ、ソラマメ、スイートピー)、アブラナ科(Brassicaceae)に属する種(例えば、キャベツ、ダイコン、ハクサイ、アブラナ)、ナス科(Solanaceae)に属する種(例えば、トマト、ナス、ジャガイモ、タバコ、ピーマン、トウガラシ、ペチュニア)、ウリ科(Cucurbitaceae)植物に属する種(例えば、カボチャ、スイカ、メロン、キュウリ)、ヒルガオ科(Convolvulaceae)に属する種(例えば、サツマイモ)、バラ科(Rosaceae)に属する種(例えば、イチゴ、バラ、リンゴ、ナシ、モモ、ビワ、アーモンド、スモモ、ウメ、サクラ)、ミカン科(Rutaceae)に属する種(例えば、ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、レモン、ユズ)、ブドウ科(Vitaceae)に属する種(例えば、ブドウ)、キク科(Asteraceae)に属する種(例えば、レタス、キク、ダリア、マーガレット、ヒマワリ)、ツバキ科(Theaceae)に属する種(例えば、サザンカ、チャノキ)が該当する。
【0043】
液体肥料は、土壌栽培の土壌に灌水によって施肥してもよいし、水耕栽培の水耕液に灌水によって施肥してもよいが、本発明の効果が良好に得られやすい点から、土壌栽培の土壌に灌水によって施肥することが好ましい。また、灌水方法としては、本発明の効果が良好に得られやすい点から、点滴灌水が好ましい。
【0044】
液体肥料を点滴灌水する方法としては、例えば、後述の施肥システムを使用する方法等が挙げられる。
【0045】
液体肥料の施肥時期や期間、頻度、使用量等は栽培対象に応じて適宜決定すればよい。
【0046】
<施肥システム>
本発明に係る施肥システムは、液体肥料を収容するための収容手段と、本発明に係る液体肥料を収容手段から栽培対象の近傍へとデリバリし、栽培対象へ灌水するための灌水手段と、を備える。
【0047】
液体肥料を収容するための収容手段としては特に限定されず、例えば、液体肥料を貯蔵できるタンクやボトル等の容器が挙げられる。
【0048】
収容手段には、沈降抑制または沈降物の再分散が可能な攪拌手段が任意に備えられていてもよい。攪拌手段は特に限定されず、通常の攪拌手段を用いることができる。
【0049】
施肥システムは、液体肥料を収容するための収容手段とは別に、無機液体肥料を収容するための収容手段を備えていてもよい。上述の通り、無機肥料を併用することで弱点を補完しあいやすい。無機液体肥料は、上述の液体肥料と混合して施肥されてもよいし、別々に施肥されてもよい。
【0050】
灌水手段は、本発明の効果が良好に得られやすい点から、点滴灌水手段が好ましい。
【0051】
点滴灌水手段としては特に限定されず、通常の点滴灌水装置が挙げられる。点滴灌水装置は、例えば、収容手段から液体肥料を移送するポンプと、該ポンプに流体学的に接続された1本~複数本の点滴灌水パイプ(ホースおよびチューブを含む)とを備える。点滴灌水パイプは、灌水量を微量に設定できる程度の内径や点滴孔、点滴孔ピッチ等を有する。
【0052】
点滴灌水パイプの点滴孔のフィルターメッシュは、本発明の効果が良好に得られやすい点から、好ましくは80~300メッシュ、より好ましくは100~200メッシュ、さらに好ましくは110~130メッシュであり、120メッシュであってもよい。
点滴灌水パイプの点滴孔ピッチは特に限定されないが、例えば、5cm~1m、または5~30cm等であってもよい。
点滴灌水パイプの内径は特に限定されないが、例えば、5~50mm、または10~30mm等であってもよい。
点滴灌水パイプの一本の長さは特に限定されないが、例えば、1~150m、または10~120m等であってもよい。
点滴灌水パイプとしては、例えば、ネタフィム社製のストリームラインXシリーズ等が挙げられる。
【0053】
施肥システムは、液体肥料中の水、または、液体肥料の調製前の水に対し、微細気泡を発生させる手段(気泡発生手段)を任意で備えていてもよい。これにより、収容手段および点滴灌水パイプ内での液体肥料中の粉末の沈殿が抑制されやすく、栽培対象の成長促進や品質向上、収量向上、土壌改良が期待できる。
【0054】
気泡発生手段は、収容手段内に備えられていてもよいし、灌水手段の一部に備えられていてもよい。気泡発生手段としては、市販のナノバブル/マイクロバブル発生装置が挙げられる。
【実施例
【0055】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
<粉末肥料の調製>
鶏糞に、魚粉、酸化鉄、マグネシウム、卵殻、ゼオライト、酢酸、フルボ酸、酵素、および木酢液を適量混合した。混合物を、市販の真空乾燥器を用いて、水分量が15質量%未満になるまで乾燥させた。乾燥物を、市販の乾式粉砕機を用いて粉砕し、粉砕条件を適宜調整することで、表1の粉末肥料1~3を得た。
【0057】
<液体肥料の調製>
各粉末肥料を、水に対し0.1質量%の濃度で添加して混合し、実施例1~2、および比較例1の液体肥料をそれぞれ調製した。また、各例の液体肥料に、市販の無機液肥を同じ適量ずつ加えることで、実施例3~4、および比較例2の液体肥料をそれぞれ調製した。比較例3の液体肥料は当該無機液肥とした。
【0058】
<粒径の測定>
各粉末肥料の一部を、0.1質量%の濃度で水に添加し、その直後および24時間の静置後に、セイシン企業社製のレーザー回折式粒度分布測定装置LMS-3000を用い、レーザー回折散乱法により、粒度分布を測定した。得られた粒度分布から、D50(累積体積50%粒径)およびD97(累積体積97%粒径)を求めた。結果を表1に示す。
【0059】
<栽培実験(イチゴ)>
収容タンクに入れた各液体肥料を、通常の灌水システムを用い、点滴灌水パイプ(長さ:42m、点滴孔のフィルターメッシュ:120メッシュ、点滴孔ピッチ:10cm)を通じて、18L/パイプ・日の量で、イチゴに対し毎日施肥を行った。なお、液体肥料は調製から約24時間後に使い切った。
【0060】
各液体肥料を用いてイチゴの栽培を行ったときの、パイプ詰まりの程度、収容タンク内の沈殿の程度、葉の付き方、実の収穫量、実の味の平均(コクおよび甘味)、および実の味のばらつき(コクおよび甘味)を、以下の基準に従って評価した。結果を表1に示す。なお、実施例2のパイプ詰まりの程度を図1に、比較例1のパイプ詰まりの程度を図2に示す。本明細書において、「コク」とは、「味の濃さ」を意味する。
【0061】
(パイプ詰まり)
◎:栽培時に、パイプ詰まりが認められない
〇:栽培時に、パイプ詰まりがほぼ認められない
×:栽培時に、パイプ詰まりが認められる
【0062】
(収容タンク内の沈殿)
◎:液体肥料を使い切るまでに、沈殿が認められない
〇:液体肥料を使い切るまでに、沈殿がほぼ認められない
×:液体肥料を使い切るまでに、沈殿が認められる
【0063】
(葉の付き方)
:葉の発育に非常に優れ、葉量が非常に多い
◎:葉の発育に優れ、葉量が多い
〇:葉の発育にやや優れ、葉量がやや多い
△:葉の発育にやや劣り、葉量がやや少ない
【0064】
(実の収穫量)
:実の収穫が非常に多い
◎:実の収穫が多い
〇:実の収穫がやや多い
△:実の収穫がやや少ない
【0065】
(実の味の平均)
パイプに沿って複数箇所を任意に選択し、各箇所で収穫された実について、それらの平均的なコクおよび甘味を評価した。
〇:コクおよび甘味が良好である
△:コクおよび甘味がやや少ない
【0066】
(実の味のばらつき)
パイプに沿って複数箇所を任意に選択し、各箇所で収穫された実について、コクおよび甘味のばらつきを評価した。
:コクおよび甘味のばらつきが非常に小さい
◎:コクおよび甘味のばらつきが小さい
〇:コクおよび甘味のばらつきがやや小さい
△:コクおよび甘味のばらつきがやや大きい
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示されるとおり、鶏糞を含み、かつ、本発明に規定されるD900minを満たす粉末肥料を用いると、パイプ詰まりや収容タンク内の沈殿が抑制され、実の収穫量が増加し、実の味のばらつきが抑制されることが認められた。したがって、上記粉末肥料を用いると、灌水で、簡便かつ栽培上有効に施肥しやすいことが認められた。
【0069】
他方で、本発明に規定されるD900minを満たさない粉末肥料を用いると、パイプ詰まりや収容タンク内の沈殿、実の収穫量減少、実の味のばらつき増大が認められた。
【0070】
また、D5024hが50μm未満である粉末肥料を用いると、パイプ詰まりや収容タンク内の沈殿が抑制され、実の収穫量が増加し、実の味のばらつきが抑制されることが認められた。
さらに、D5024hがD500minに対して1.3倍以下である粉末肥料を用いると、パイプ詰まりや収容タンク内の沈殿が抑制され、実の収穫量が増加し、実の味のばらつきが抑制されることが認められた。
【0071】
<栽培実験(トマト)>
収容タンクに入れた各液体肥料を、通常の灌水システムを用い、点滴灌水パイプ(長さ:42m、点滴孔のフィルターメッシュ:120メッシュ、点滴孔ピッチ:10cm)を通じて、適量で、トマトに対し毎日施肥を行った。なお、液体肥料は調製から約24時間後に使い切った。施肥は、根が高度に成長する時期を外して行った。
【0072】
各液体肥料を用いてトマトの栽培を行ったときの、パイプ詰まりの程度、収容タンク内の沈殿の程度、葉の付き方、および実の収穫量を、イチゴで用いた基準と同一の基準に従って評価し、実の味の平均(酸味と甘味のバランス)、および実の味のばらつき(酸味と甘味のバランス)を、以下の基準に従って評価した。結果を表2に示す。
【0073】
(実の味の平均)
パイプに沿って複数箇所を任意に選択し、各箇所で収穫された実について、それらの平均的な酸味と甘味のバランスを評価した。
〇:酸味と甘味のバランスが良好である
△:酸味と甘味のバランスがやや悪い
【0074】
(実の味のばらつき)
パイプに沿って複数箇所を任意に選択し、各箇所で収穫された実について、酸味と甘味のバランスのばらつきを評価した。
:酸味と甘味のバランスのばらつきが非常に小さい
◎:酸味と甘味のバランスのばらつきが小さい
〇:酸味と甘味のバランスのばらつきがやや小さい
△:酸味と甘味のバランスのばらつきがやや大きい
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示される通り、トマトの栽培実験でも、イチゴの栽培実験結果(表1)と同様の結果が得られることが分かった。
【0077】
<栽培実験(ナス)>
収容タンクに入れた各液体肥料を、通常の灌水システムを用い、点滴灌水パイプ(長さ:42m、点滴孔のフィルターメッシュ:120メッシュ、点滴孔ピッチ:10cm)を通じて、適量で、ナスに対し毎日施肥を行った。なお、液体肥料は調製から約24時間後に使い切った。施肥は、根が高度に成長する時期を外して行った。
【0078】
各液体肥料を用いてナスの栽培を行ったときの、パイプ詰まりの程度、収容タンク内の沈殿の程度、葉の付き方、および実の収穫量を、イチゴで用いた基準と同一の基準に従って評価し、実の味の平均(苦み等の嫌味)、および実の味のばらつき(苦み等の嫌味)を、以下の基準に従って評価した。結果を表3に示す。
【0079】
(実の味の平均)
パイプに沿って複数箇所を任意に選択し、各箇所で収穫された実について、それらの平均的な苦み等の嫌味の小ささを評価した。
〇:苦み等の嫌味が小さい
△:苦み等の嫌味がやや大きい
【0080】
(実の味のばらつき)
パイプに沿って複数箇所を任意に選択し、各箇所で収穫された実について、苦み等の嫌味のばらつきを評価した。
◎:苦み等の嫌味のばらつきが小さい
〇:苦み等の嫌味のばらつきがやや小さい
△:苦み等の嫌味のばらつきがやや大きい
【0081】
【表3】
【0082】
表3に示される通り、ナスの栽培実験でも、イチゴの栽培実験結果(表1)と同様の結果が得られることが分かった。
【0083】
<栽培実験(キュウリ)>
収容タンクに入れた各液体肥料を、通常の灌水システムを用い、点滴灌水パイプ(長さ:42m、点滴孔のフィルターメッシュ:120メッシュ、点滴孔ピッチ:10cm)を通じて、適量で、キュウリに対し毎日施肥を行った。なお、液体肥料は調製から約24時間後に使い切った。施肥は、根が高度に成長する時期を外して行った。
【0084】
各液体肥料を用いてキュウリの栽培を行ったときの、パイプ詰まりの程度、収容タンク内の沈殿の程度、葉の付き方、実の収穫量を、イチゴで用いた基準と同一の基準に従って評価し、実の味の平均(みずみずしさと爽やかさ)、および実の味のばらつき(みずみずしさと爽やかさ)を、以下の基準に従って評価した。結果を表4に示す。
【0085】
(実の味の平均)
パイプに沿って複数箇所を任意に選択し、各箇所で収穫された実について、それらの平均的なみずみずしさと爽やかさを評価した。
〇:みずみずしさと爽やかさが良好である
△:みずみずしさと爽やかさがやや無い
【0086】
(実の味のばらつき)
パイプに沿って複数箇所を任意に選択し、各箇所で収穫された実について、みずみずしさと爽やかさのばらつきを評価した。
◎:みずみずしさと爽やかさのばらつきが小さい
〇:みずみずしさと爽やかさのばらつきがやや小さい
△:みずみずしさと爽やかさのばらつきがやや大きい
【0087】
【表4】
【0088】
表4に示される通り、キュウリの栽培実験でも、イチゴの栽培実験結果(表1)と同様の結果が得られることが分かった。
【0089】
<栽培実験(チャノキ)>
収容タンクに入れた各液体肥料を、通常の灌水システムを用い、点滴灌水パイプ(長さ:42m、点滴孔のフィルターメッシュ:120メッシュ、点滴孔ピッチ:10cm)を通じて、適量で、チャノキに対し毎日施肥を行った。なお、液体肥料は調製から約24時間後に使い切った。施肥は、根が高度に成長する時期を外して行った。
【0090】
各液体肥料を用いてチャノキの栽培を行ったときの、パイプ詰まりの程度、収容タンク内の沈殿の程度、葉の付き方を、イチゴで用いた基準と同一の基準に従って評価し、葉の柔らかさの平均、および葉の柔らかさのばらつきを、以下の基準に従って評価した。結果を表5に示す。
【0091】
(葉の柔らかさの平均)
パイプに沿って複数箇所を任意に選択し、各箇所で収穫された葉について、それらの平均的な柔らかさを評価した。
〇:葉が柔らかい
△:葉が固い
【0092】
(葉の柔らかさのばらつき)
パイプに沿って複数箇所を任意に選択し、各箇所で収穫された葉について、柔らかさのばらつきを評価した。
:葉の柔らかさのばらつきが非常に小さい
◎:葉の柔らかさのばらつきが小さい
〇:葉の柔らかさのばらつきがやや小さい
△:葉の柔らかさのばらつきがやや大きい
【0093】
【表5】
【0094】
表5に示される通り、チャノキの栽培実験でも、イチゴの栽培実験結果(表1)と同様の結果が得られることが分かった。
【要約】
【課題】鶏糞を含み、かつ、灌水で、簡便かつ栽培上有効に施肥しやすい肥料、栽培作物の作製方法、および施肥システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る粉末肥料は、鶏糞を含み、かつ、レーザー回折散乱法で求められる粒度分布のD90が120μm未満の粉末であり、水に導入して灌水による施肥に用いられる。
【選択図】なし
図1
図2