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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】超音波照射装置
(51)【国際特許分類】
   B08B 3/12 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
B08B3/12 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023206105
(22)【出願日】2023-12-06
【審査請求日】2024-02-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513065789
【氏名又は名称】株式会社ブルー・スターR&D
(74)【代理人】
【識別番号】110001184
【氏名又は名称】弁理士法人むつきパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】柴野 佳英
【審査官】新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-206055(JP,A)
【文献】特開平06-296933(JP,A)
【文献】特開平09-192617(JP,A)
【文献】実開平06-034783(JP,U)
【文献】特開平09-000806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B08B 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留槽内にある液状媒体中に超音波を照射する超音波照射装置であって、
前記貯留槽は有底金属円筒容器であり着脱自在の上部蓋を与えられて密封可能であり、中心軸線を鉛直に配置させ、底面には前記中心軸線に沿って上方へ向けて前記液状媒体を導入する供給口を有するとともに、前記上部蓋又はその近傍には前記液状媒体を取り出す排出口を有し、
前記貯留槽の外面には管径を縮径するように金属リングブロックがかしめ固定されており、前記金属リングブロックの外周には前記中心軸線に沿って見て前記中心軸線を重心位置とする正n角形(nは3以上の整数)の各辺上にあり且つ前記中心軸線に平行な面である振動子取付平面があって、前記振動子取付平面のそれぞれには前記中心軸線に向けて振動する振動子を取り付けられており、
脱気した前記液状媒体を満たした前記貯留槽の前記排出口から前記貯留槽内の前記液状媒体を取り出し、前記液状媒体を前記貯留槽の前記供給口に導入する循環管路を含み、
前記循環管路に、前記液状媒体に圧力を与えて前記貯留槽及び前記循環管路を液密状態で循環させる加圧循環手段と、前記液状媒体を所定温度に制御する熱交換部と、を設け、
前記加圧循環手段で、脱気した前記液状媒体に圧力を与えて前記貯留槽及び前記循環管路を液密状態で循環させながら、前記貯留槽の外周部に取り付けた複数の振動子から前記貯留槽の内部に超音波を照射することを特徴とする超音波照射装置。
【請求項2】
前記加圧循環手段は、前記液状媒体に圧力を与える加圧装置と前記液状媒体を循環させる循環ポンプとを含むことを特徴とする請求項1記載の超音波照射装置。
【請求項3】
前記振動子と前記振動子取付平面との間、及び/又は、前記貯留槽と前記金属リングブロックとの間には、熱硬化性樹脂が介在されて固定されていることを特徴とする請求項記載の超音波照射装置。
【請求項4】
前記中心軸線に沿って前記金属リングブロックに並んで第2の金属リングブロックが固定されており、追加の振動子が与えられていることを特徴とする請求項又はに記載の超音波照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯留槽内にある液状媒体中に超音波を照射する超音波照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波を液体媒体中に照射してワークの洗浄を行う超音波洗浄機が広く知られている。このような超音波照射装置のうち、振動エネルギーのより大なる超音波を液状媒体中に照射してエネルギーの大なるキャビテーションを生じさせ、ワークの洗浄のみならず、ワークのバリ取りをも行おうとする装置も提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1では、ワークを浸漬させる洗浄液の液面高さを一定にして貯留させるオーバーフロー型貯留槽の底面に超音波振動子を配置し、液面に向けて超音波を照射して液中に定在波を形成させる超音波バリ取り装置が開示されている。定在波を安定して形成させるには、超音波の波長変化を生じないようにバリ取り洗浄水の温度を一定に管理するとともに、強力なキャビテーションを生じさせるには、バリ取り洗浄水の十分な脱気が必要であるとしている。
【0004】
また、キャビテーションの衝撃力を高めるため、洗浄液の圧力(水圧)を高めキャビティの崩壊スピードを上昇させることが有効であることが知られている。
【0005】
特許文献2では、貯留槽を気密構造とした超音波バリ取り装置が開示されている。貯留槽は、洗浄液を貯留する洗浄液貯留空間部と、超音波振動子の周囲を取り囲む振動子側空間部とに区画分離し、それぞれの空間部を気密状態にしている。洗浄液貯留空間部には、内部に充填される洗浄液を循環させて洗浄液中の気体を脱気する洗浄液循環・脱気回路を接続している。また、洗浄液貯留空間部と振動子側空間部とには、大気圧に対して一定の圧力で加圧エアを供給するように加圧エア供給回路を接続している。かかる構成により、洗浄液貯留空間部内に貯留される洗浄液の圧力を高め、バリ取り・洗浄効果を確実に高めることができるとしている。なお、振動子側空間部にも加圧エアを送るのは、超音波振動子の取り付けられた振動板が加圧力によって損傷するのを防止するためであり、該振動板を挟んで両側から等しい圧力をかけてバランスさせるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-277999号公報
【文献】特開2017-221881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したような洗浄液を加圧する機構を含む超音波バリ取り装置では、加圧機構が複雑となり、より小型かつ簡易に構成させる一方で、バリ取りに対応し、より高いエネルギーの超音波の照射を可能とする装置が求められた。
【0008】
本発明は以上のような状況に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、より高いエネルギーの超音波の照射を可能とした小型の超音波照射装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による装置は、貯留槽内にある液状媒体中に超音波を照射する超音波照射装置であって、前記貯留槽は有底金属円筒容器であり着脱自在の上部蓋を与えられて密封可能であり、脱気した前記液状媒体を前記貯留槽に満たすとともに、前記上部蓋の近傍から前記液状媒体を取り出し、前記貯留槽の底部に導入する循環管路を含み、前記循環管路の間に、前記液状媒体に圧力を与えて前記貯留槽及び前記循環管路を液密状態で循環させる加圧循環手段と、前記液状媒体を所定温度に制御する熱交換部と、を設け、前記加圧循環手段で前記液状媒体を循環させながら、前記貯留槽の外周部に取り付けた複数の振動子から前記貯留槽の内部に超音波を照射することを特徴とする。
【0010】
かかる特徴によれば、貯留槽内に気体を与えた空間を有さず、かつ、円筒容器により均等に液状媒体に圧力を与えることができて、より高いエネルギーの超音波の照射を可能とするのである。
【0011】
上記した発明において、前記加圧循環手段は、前記液状媒体に圧力を与える加圧装置と前記液状媒体を循環させる循環ポンプとを含むことを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、簡便な構成で円筒容器により均等に液状媒体に圧力を与えることができて、より高いエネルギーの超音波の照射を可能とするのである。
【0012】
上記した発明において、前記貯留槽は、中心軸線を鉛直に配置させ、底面には前記中心軸線に沿って上方へ向けて前記液状媒体を導入する供給口を有するとともに、前記上部蓋又はその近傍には前記液状媒体を取り出す出口を有し、前記貯留槽の外面には管径を縮径するように金属リングブロックがかしめ固定されており、前記金属リングブロックの外周には前記中心軸線に沿って見て前記中心軸線を重心位置とする正n角形(nは3以上の整数)の各辺上にあり且つ前記中心軸線に平行な面である振動子取付平面があって、前記振動子取付平面のそれぞれには前記中心軸線に向けて振動する振動子を取り付けられていることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、振動子からのエネルギを逸失させることなく貯留槽内の液状媒体に導くことができて、より高いエネルギーの超音波の照射を可能とするのである。
【0013】
上記した発明において、前記振動子と前記振動子取付平面との間、及び/又は、前記貯留槽と前記金属リングブロックとの間には、熱硬化性樹脂が介在されて固定されていることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、振動子からのエネルギーを逸失させることなく貯留槽内の液状媒体に導くことができて、より高いエネルギーの超音波の照射を可能とするのである。
【0014】
上記した発明において、前記中心軸線に沿って前記金属リングブロックに並んで第2の金属リングブロックが固定されており、追加の振動子が与えられていることを特徴としてもよい。かかる特徴によれば、複数の振動子からのエネルギーを逸失させることなく貯留槽内の液状媒体に導くことができて、より高いエネルギーの超音波の照射を可能とするのである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一例による超音波照射装置のブロック図である。
図2】本発明の一例による超音波照射装置に用いられる貯留槽の斜視図である。
図3】貯留槽の側断面図である。
図4】金属リングブロックの(a)斜視図及び(b)平面図である。
図5】超音波照射装置の運転準備での循環経路を示すブロック図である。
図6】超音波照射装置の加圧準備での循環経路を示すブロック図である。
図7】超音波照射装置の加圧運転での循環経路を示すブロック図である。
図8】(a)2つの振動子を対向配置させた場合、(b)3つの振動子を等角度で配置させた場合の貯留槽内の液状媒体に生じる応力の解析結果である。
図9】(a)超音波を30分間照射したときの圧力とエロージョン量との関係を示すグラフ、及び、(b)エロージョンを生じたアルミ板の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の1つの実施例としての、貯留槽内にある液状媒体中に超音波を照射する超音波照射装置、図1乃至図4を用いて説明する。
【0017】
図1に示すように、超音波照射装置10は、液状媒体に超音波を照射するための容器である貯留槽1を含み、貯留槽1に脱気して圧力を付与した液状媒体を循環させることができる。詳細には、超音波照射装置10は、さらに、液状媒体の脱気を行う脱気槽31と、液状媒体を循環させる循環ポンプ34と、液状媒体を所定の温度に制御するための熱交換部である冷却器35と、液状媒体を加圧する加圧装置36、液状媒体を保持するためのタンク37と、を含む。
【0018】
脱気槽31は、液状媒体の脱気を行うことができれば、特に形式を問われるものではなく、例えば中空糸を用いた一般的なものでもよいが、高い脱気能力を有することが好ましい。例えば、脱気槽31は、真空引きと超音波照射を行う形式のものとすることができる。この場合、略円筒形の筒状容器を備え、内部の閉空間に液状媒体による液相及び真空引きのための気相を形成させる。筒状容器の上側には気相に通じるよう真空ポンプ33が取り付けられるとともに、側面の下方には液相に超音波を照射できるよう超音波振動器32を備える。これにより、脱気槽31では真空引きしながら液状媒体に超音波を照射できる。そして、液状媒体にキャビテーションを生じさせることで、液状媒体に溶存していた気体の気相への排出を促進させることができる。このような構成で、脱気槽31は、高い脱気能力を有する。なお、脱気槽31から液状媒体を排出する管路に、超音波照射装置10の外部へ液状媒体を排出する排出口39が設けられている。
【0019】
循環ポンプ34は、脱気槽31で脱気された液状媒体を冷却器35へ送出させることで超音波照射装置10内を循環させる。なお、後述するように、循環ポンプ34は貯留槽1から排出された液状媒体を冷却器35へ送出させるような循環をさせる場合もある。
【0020】
冷却器35は、貯留槽1へ供給する液状媒体を所定の温度に制御することができる。液状媒体の温度を低く安定させることで、貯留槽1内で超音波によって生成されるキャビティのエネルギーを高く安定させ得る。なお、冷却器35への液状媒体の導入路と排出路との間で熱交換を行うようにして熱交換の速度を向上させるようにすることも好ましい。
【0021】
加圧装置36は、冷却器35と貯留槽1の間の管路に接続され、液密状態で循環する液状媒体に所定の圧力を付与することができる。加圧装置36としては、例えば、気相及び液相を有する空水圧変換シリンダを備えて空気圧を水圧に変換する気圧水圧変換器を用いることができる。空水圧変換シリンダはφ50~100mm、長さ200~300mm程度の縦置きの円筒であり、工場等で比較的容易に入手できる圧縮空気を用いることができ、圧力調整も容易である。この場合、加圧装置36から管路までの接続路を細く且つ長くすることが好ましく、これによって空水圧変換シリンダ内で空気を溶存させた液状媒体を貯留槽1に流入させないようにする。なお、加圧装置としてポンプを使用することも可能であるが、減圧弁等の圧量調整器を必要とする。
【0022】
タンク37は、超音波照射装置10内に循環させる液状媒体を大気圧下で貯留する。タンク37は、貯留槽1又は冷却器35から液状媒体を受けて脱気槽31に液状媒体を供給できるように配管されるとともに、超音波照射装置10の外部からの液状媒体の供給を受ける給液口38に接続される。
【0023】
図2に示すように、貯留槽1は、中心軸線Lを鉛直に配置させた丸管状の有底金属容器であり、外面に金属リングブロック2が固定されている。金属リングブロック2には、複数の振動子3が取り付けられて、貯留槽1の内部の液状媒体に超音波を照射可能となっている。また、貯留槽1は、その上面に上部の開口部13を有し、着脱自在な上部蓋4によって開口部13を密封可能とされる。超音波照射装置10は、貯留槽1に貯留した水などの液状媒体に超音波を照射することで、貯留槽1の内部で液状媒体に浸した対象物に超音波を照射して、例えば、バリ取りや洗浄を行うものである。
【0024】
図3を併せて参照すると、貯留槽1は、底面11の中央に中心軸線Lに沿って上方へ向けて液状媒体を供給する供給口12を有する。また、貯留槽1は、上部開口13の外周側に設けられたフランジ15によって上部蓋4を固定可能とされている。後述するように、貯留槽1を流通する液状媒体は加圧されるため、上部蓋4は、この加圧に耐えられるとともに密封状態を保つことのできるように固定される。貯留槽1は、さらに上部蓋4の近傍から液状媒体を取り出し可能な排出口16を備える。貯留槽1は、供給口12から液状媒体を供給されるとともに、その上方への流れを導き、上部開口13から外部へと導く。このように、貯留槽1では、液状媒体を流通させることで、貯留槽1内での液状媒体の発熱を抑制できる。なお、上部蓋4は、上方からエアシリンダーなどで押圧することで貯留槽1を密封するような構成としてもよい。例えば、貯留槽の内径を100mm、液状媒体の圧力を0.5MPaにする場合、エアシリンダーによる上部蓋4を押圧する力は50~100kgとする。
【0025】
なお、排出口16は、このように下方から液状媒体を供給したときに、その流れによって液状媒体の上方に形成される気相部分の気体を全て排出できるような配置とされる。例えば、上部蓋4には、その下方に膨出する膨出部4aが備えられ、貯留槽1を密封したときに開口部13を閉塞するように挿入されている。膨出部4aは、密封された貯留槽1内で、水平視で排出口16の流路の上端の一部にかかるように膨出しており、排出口16の内部空間を膨出部4aの下面よりも高く配置させる。これによって、気相中のガスを全て排出し得て、貯留槽1の内部空間を液密状態とし得る。
【0026】
図4を併せて参照すると、金属リングブロック2は、中心軸線Lに沿った上面視において、環の一部を切断するような半径方向に延びたスリット21を設けられた略C環状を呈している。スリット21を挟む両側には、外周方向に向けて延びる一対の板状体部22が備えられている。板状体部22には両者を貫通する貫通孔23が設けられており、貫通孔23に挿通させたボルトにナットを螺合させ、板状体部22の両者を近接させる方向に締結することでスリット21の間隔を狭めることができる。つまり、かかるボルトの締結によって、貯留槽1の外面にはその管径を縮径するように、金属リングブロック2がかしめ固定される。金属リングブロック2は、また、その外周に振動子3を取り付けられる取付平面24を備える。取付平面24は、略中央に振動子3の先端のホーンを締結し固定するためのねじ穴25を備えている。つまり、複数の振動子3は、貯留槽1の側部に配置される。
【0027】
特に、同図(b)を参照すると、取付平面24のそれぞれは、中心軸線Lを重心位置とする正三角形Pの各辺上にあり、中心軸線Lに平行な面とされる。そして、取付平面24のそれぞれに取り付けられる3つの振動子3は、その振動する方向を中心軸線Lに向けるように配置される。
【0028】
本実施例においては、振動子3の数を3つとしたが、これ以上とすることもできる。このような場合、正三角形Pの代わりに、上面視で中心軸線Lを重心とする正n角形(nは3以上の整数)の各辺上に取付平面を配置する。また、金属ブロックは、ねじで固定するのではなく、貯留槽1に嵌め合い固定するようにしてもよい。
【0029】
超音波照射装置10に備えられる配管には、適宜、図示しない弁が設けられ、後述するような循環路を形成できるようにされている。また、バリ取りなどによる汚れを除去する図示しないフィルタが設けられることも好ましい。フィルタは、例えば、タンク37から脱気槽31への管路の間や、貯留槽1から循環ポンプ34への管路などに設置することができる。
【0030】
次に、超音波照射装置10の使用方法について説明する。
【0031】
[運転準備:液状媒体の脱気と冷却]
図5に示すように、まず、タンク37内及び管路内の液状媒体の脱気を行いつつ、所定の温度に制御する。液状媒体の経路としては、タンク37から脱気槽31に移動して脱気され、循環ポンプ34を経て冷却器35へと導かれて温度制御され、そしてタンク37へと戻る。このような循環によって、液状媒体の脱気と温度制御とを行う。この脱気と温度制御により、液状媒体は、例えば、溶存酸素量を2.5mg/L以下、温度を12℃以下に制御される。なお、図面において、点線で示した経路については使用せず、液状媒体が流入しないように図示しない弁の開閉がなされる。また加圧装置36も稼働させない。また、この間に、超音波を照射させる対象物を貯留槽1内に装入し、上部蓋4で密封する。
【0032】
[加圧準備:貯留槽の密封と液密状態の確保]
図6に示すように、液状媒体を貯留槽1内と循環管路W(図7参照)内に流通させ、満たす。液状媒体の経路としては、タンク37から始まって脱気槽31、循環ポンプ34、冷却器35までは上記と同様である。そして、液状媒体は、冷却器35から貯留槽1に導かれ、貯留槽1の内部を満たしつつ排出され、タンク37に戻る。なお、貯留槽1から排出された液状媒体を循環ポンプに直接導く管路41については、このときまでに少なくとも一度開通させて液状媒体で満たしておく。また、貯留槽1の上部蓋4を閉じる際に空気が混入し得るため、これを取り除くよう脱気しながらしばらく(例えば、1分間程度)液状媒体を循環させることが好ましい。このようにして、貯留槽1内と循環管路W内を液状媒体で満たした状態とする。
【0033】
[加圧運転:加圧及び超音波の照射]
図7に示す様に、貯留槽1の上部蓋4の近傍の排出口16から取り出された液状媒体を循環ポンプ34で冷却器35を介して貯留槽1の底部の供給口12へと導き循環させる循環管路Wを形成させる。貯留槽1からタンク37へ通じる管路を管路41へ切り換える部分には三方弁を配置し、これを切り換えるようにするとよい。そして、貯留槽1及び循環管路Wに液状媒体を満たした状態で加圧循環手段としての加圧装置36及び循環ポンプ34を稼働させ、液状媒体に所定の圧力を与えながら液密状態で循環させる。ここで液状媒体に付与する圧力としては、例えば、0.5MPa程度までの圧力を想定し得る。そして、貯留槽1及び循環管路W内において、圧力を付与した液状媒体を液密状態で循環させつつ、貯留槽1の内部に振動子3によって超音波を照射する。なお、加圧する圧力は照射された超音波によって発生するキャビティの衝撃力に比例するので、これを考慮して調整される。
【0034】
ここで、液状媒体は脱気されて冷却器35で温度制御され、さらには圧力を付与されている。脱気により、超音波の照射によってキャビティの生成核となりやすいマイクロバブルなどの気泡が除去され、さらに低温かつ高圧となって、液状媒体はキャビテーションを生じづらくなる。つまり、貯留槽1内に照射する超音波の振動エネルギーが低いとキャビテーションを生じさせることができない。換言すれば、このような液状媒体で生じるキャビテーションでは、その崩壊エネルギーの高いキャビティを生成しており、キャビティの崩壊による衝撃力も高くし得る。
【0035】
一方で、このような液状媒体にキャビテーションを生じさせるには、高い振動エネルギーを有する超音波を照射する必要がある。そして、上記した実施例によれば、複数の振動子3は、貯留槽1の側部において中心軸線Lに向けて配置されるので、貯留槽1の内部で超音波を重畳して振動エネルギーの大きな超音波を照射することができる。また、振動方向が液体媒体の流れの方向と直交することで、振動と流れとが互いに影響を与えることを抑制できる。これらによって、優れた動作安定性を与えることができ、装置を小型化した上で、加圧した液状媒体にキャビテーションを生じさせることが可能となった。
【0036】
ところで、超音波照射装置10は、複数の振動子3からの超音波を重畳させ得て、所定の位置において大きな振動エネルギーを与えることができる。特に、複数の振動子3を同期して振動させると、中心軸線Lの近傍において特に大きな振動エネルギーを与えることができて好ましい。例えば、洗浄やバリ取りに用いる従来の超音波照射装置において、定在波を用いて反射波を重畳させて大きな振動エネルギーを得ようとする場合に比べて、減衰の少ない大きな振動エネルギーを重畳させるために非常に大きな振動エネルギーを得ることができる。特に、振動エネルギーを減衰させずに重畳させるために、貯留槽1は比較的小型とすることが好都合である。例えば、貯留槽1の内径は70mm~150mm程度とすることが好適である。内径約70mmとして振動子3の数を3つとした場合、照射される超音波のワット密度は、600W/Lと非常に高い値を得ることができる。
【0037】
このように、定在波を形成させる必要がないので、貯留槽1の内径については比較的自由に設計できる。また、定在波を形成させる必要がないので、1つの貯留槽1を用いて、音速の異なる複数の液状媒体に取り換えて使用しても、同様に高い振動エネルギーを得ることができる。
【0038】
図8に示すように、貯留槽1の内部の液状媒体として用いた水に生じる応力の解析結果によると、2つの振動子を対向配置させた場合(a)に比べて、3つの振動子を上記したように配置した場合(b)において水に生じる応力が全体的に高くなった。特に、この応力の最高値は、2つの振動子の場合に63MPaであるのに対し、3つの振動子の場合に900MPaと非常に大きな値となった。また、水平断面(各々の右下の円形の図)において、2つの振動子3
の場合に比べて、3つの振動子の場合に応力の高い部分が中心軸Lの近辺により集中していた。なお、振動子は全て同期させて振動させたものとする。
【0039】
2つの振動子とする場合には、2つの振動子のそれぞれから等距離の位置で同位相の振動を重畳させて高い振動エネルギーを得ることができると考えられる。つまり、中心軸線を含む帯状の領域において周囲よりも高い振動エネルギーを得ることになり、上記した解析結果と一致する。これは、反射波を利用して同位相の振動を重畳させて定在波を形成させてより高い振動エネルギーを得ようとすることと類似した手法であると言える。
【0040】
他方、3つの振動子とする場合にも、同様に3つの振動子から等距離の位置で同位相の振動を重畳させることで大なる振動エネルギーを得られると考えられる。この場合、中心軸線Lの付近の非常に狭い領域で同位相の振動を重畳させて高い振動エネルギーを得ることになり、上記した解析結果と一致する。つまり、2つの振動子とするよりも振動エネルギーを狭い領域に集中させてより高い振動エネルギーを得ることができるものと考えられる。なお、これらの解析において、液状媒体に加圧することを考慮していないが、加圧によって超音波の音速に影響があるものの、上記したように高い振動エネルギーを得られることに変わりはない。また、実際に、加圧することで貯留槽1内の対象物に高い洗浄効果を与え得ることが確認されている。
【0041】
例えば、図9に示すように、条件によってはアルミニウムの薄板(アルミ板)の表面にエロージョンを生じさせることもできた。同図(a)に示すように、エロージョン量は、純アルミニウムであるA1050によるアルミ板に超音波を30分間照射して、その前後の重量の減少量として測定した。エロージョン量は、1mm、3mm、5mmとアルミ板を厚くするほど大きくなった。さらに、エロージョン量は、圧力に対してほぼ比例するように増加した。なお、非加圧時においては、エロージョン量は測定限界(0.01g)以下であった。また、同図(b)に示すように、エロージョンは、貯留槽1の中心軸線Lの近傍に位置するアルミ板のほぼ中央において集中的に生じたことも判った。
【0042】
また、液状媒体は、その温度を一定に保つために、上記したように液状媒体を所定温度に制御することに加え、貯留槽1内の温度変化に対応した流量で液状媒体を供給口12に供給することも好ましい。例えば、貯留槽1の内部又はその近傍の液状媒体の温度を測定するセンサーを設けて、かかるセンサーによって測定した液状媒体の温度が上昇した場合に流量を増加させ、測定した温度が低下した場合に流量を低減させるのである。
【0043】
なお、振動子3と取付平面24との間や貯留槽1と金属リングブロックとの間には、熱硬化性樹脂を介在させ、それぞれを加熱硬化させて固定させることも好ましい。これによって、振動子3から伝播される振動エネルギーのロスを少なくし得て、結果として大きな振動エネルギーの超音波を照射できる。
【0044】
また、金属リングブロック2を増加させて超音波を照射できる範囲を中心軸線Lに沿った方向に拡げることもできる。つまり、中心軸線Lに沿って金属リングブロック2に並んでその上方又は下方に第2の金属リングブロックを固定させるのである。そして、第2の金属リングブロックにも同様に追加の振動子3を取り付ける。これによって、洗浄やバリ取りを可能とする範囲を上下方向に拡げ得る。
【0045】
なお、超音波は金属リングブロック2を介して照射されるため、大きな振動エネルギーの得られる高さ位置は金属リングブロック2の高さによって定まる。そのため、洗浄やバリ取りを行われる対象物は、適宜、治具などで貯留槽1内における位置を定めるようにすることが好ましい。
【0046】
ここまで本発明による実施例及びこれに基づく変形例を説明したが、本発明は必ずしもこれらの例に限定されるものではない。また、当業者であれば、本発明の主旨又は添付した特許請求の範囲を逸脱することなく、様々な代替実施例及び改変例を見出すことができるであろう。
【符号の説明】
【0047】
1 貯留槽
2 金属リングブロック
3 振動子
4 上部蓋
10 超音波照射装置
34 循環ポンプ
36 加圧装置
L 中心軸線
W 循環管路
【要約】
【課題】より高いエネルギーの超音波の照射を可能とした小型の超音波照射装置の提供。
【解決手段】貯留槽内にある液状媒体中に超音波を照射する超音波照射装置である。貯留槽は有底金属円筒容器であり着脱自在の上部蓋を与えられて密封可能であり、脱気した液状媒体を貯留槽に満たすとともに、上部蓋の近傍から液状媒体を取り出し、貯留槽の底部に導入する循環管路を含み、循環管路の間に、液状媒体に圧力を与えて貯留槽及び循環管路を液密状態で循環させる加圧循環手段と、液状媒体を所定温度に制御する熱交換部と、を設け、加圧循環手段で液状媒体を循環させながら、貯留槽の外周部に取り付けた複数の振動子から貯留槽の内部に超音波を照射する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9