(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】プーリ装置および遠心クラッチ
(51)【国際特許分類】
F16H 55/56 20060101AFI20240718BHJP
F16D 43/18 20060101ALI20240718BHJP
F16H 25/12 20060101ALI20240718BHJP
F16H 9/18 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
F16H55/56
F16D43/18
F16H25/12 D
F16H9/18 A
(21)【出願番号】P 2019190523
(22)【出願日】2019-10-17
【審査請求日】2022-10-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】横道 友太
(72)【発明者】
【氏名】青野 薫
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-127993(JP,A)
【文献】特開2017-082971(JP,A)
【文献】国際公開第2018/055514(WO,A1)
【文献】特開2017-096352(JP,A)
【文献】特開平08-233049(JP,A)
【文献】特開2015-203429(JP,A)
【文献】特開2007-278449(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0276280(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/56
F16D 43/18
F16H 25/12
F16H 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成された固定側スリーブの外周面上に径方向外側にフランジ状に張り出し
て一体的に形成された固定側プレートを有して駆動源からの駆動力をベルトを介して受けて回転駆動する固定側ドリブンプレートと、
円筒状に形成された可動側スリーブの外周面上に径方向外側にフランジ状に張り出して前記固定側プレートとともに前記ベルトを挟む可動側プレートを有して前記固定側プレートに対して接近または離隔しながら前記駆動源からの駆動力を前記ベルトを介して受けて回転駆動する可動側ドリブンプレートと、
前記固定側スリーブにおける前記固定側プレートの接続部分である固定側接続部分および前記可動側スリーブにおける前記可動側プレートの接続部分である可動側接続部分のうちの一方に一体的に形成されたらせん状に延びる貫通孔状または溝状の凹状カム部と、
前記固定側接続部分および前記可動側接続部分のうちの他方に径方向に突出して形成されて前記凹状カム部内に摺動可能に嵌合する凸状カム部とを備え
、
前記凹状カム部は、
前記固定側スリーブの外周面または前記可動側スリーブの内周面から突出するカム形成突出部に形成されていることを特徴とするプーリ装置。
【請求項2】
請求項1に記載したプーリ装置において、
前記凸状カム部は、
前記固定側スリーブの外周面または前記可動側スリーブの内周面から突出して軸方向にらせん状に延びて形成されていることを特徴とするプーリ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したプーリ装置において、
前記可動側ドリブンプレートは、
同可動側ドリブンプレートとは別体で構成されて前記可動側スリーブに嵌合して一体的に回転駆動するカム形成筒体を備え、
前記可動側スリーブに形成される前記凹状カム部または前記凸状カム部は、
前記カム形成筒体に形成されていることを特徴とするプーリ装置。
【請求項4】
請求項1ないし
請求項3のうちのいずれか1つに記載したプーリ装置において、
前記凹状カム部および前記凸状カム部は、
互いに異種材料によって構成されていることを特徴とするプーリ装置。
【請求項5】
請求項1ないし
請求項4のうちのいずれか1つに記載したプーリ装置と、
前記固定側スリーブに連結されて前記固定側ドリブンプレートと一体的に回転駆動するドライブプレートと、
前記ドライブプレートの外側にこのドライブプレートと同心で設けられた円筒面を有して出力軸に連結されるクラッチアウタと、
前記ドライブプレートの周方向に沿って延びて形成されて前記クラッチアウタの円筒面に面するクラッチシューを有して前記周方向における一方の端部側が前記ドライブプレートに回動可能に取り付けられるとともに他方の端部側が前記クラッチアウタの円筒面側に向かって変位するクラッチウエイトとを備えることを特徴とする遠心クラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
エンジンなどの駆動源からの駆動力を伝達するプーリ装置および同プーリ装置を備えた遠心クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンなどの駆動源からの駆動力を伝達するプーリ装置がある。例えば、下記特許文献1には、出力軸の外側にエンジンからの駆動力をベルトを介して受けて回転駆動する固定シーブと可動シーブとで構成されるプーリ装置を備えた遠心クラッチが開示されている。この場合、固定シーブには、出力軸が貫通する円筒体で構成されて固定シーブがベルトを介して受ける回転駆動力をドライブプレートに伝達する固定ボスが軸方向に延びて形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたプーリ装置においては、エンジンからの回転駆動力を受けてドライブプレートに伝達する固定側スリーブとしての固定ボスが薄肉の円筒状に形成されているため、剛性または耐久性の確保が困難であるという問題がある。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、固定側スリーブの剛性または耐久性を向上させることができるプーリ装置および同プーリ装置を備えた遠心クラッチを提供することにある。
【発明の概要】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、円筒状に形成された固定側スリーブの外周面上に径方向外側にフランジ状に張り出して一体的に形成された固定側プレートを有して駆動源からの駆動力をベルトを介して受けて回転駆動する固定側ドリブンプレートと、円筒状に形成された可動側スリーブの外周面上に径方向外側にフランジ状に張り出して固定側プレートとともにベルトを挟む可動側プレートを有して固定側プレートに対して接近または離隔しながら駆動源からの駆動力をベルトを介して受けて回転駆動する可動側ドリブンプレートと、固定側スリーブにおける固定側プレートの接続部分である固定側接続部分および可動側スリーブにおける可動側プレートの接続部分である可動側接続部分のうちの一方に一体的に形成されたらせん状に延びる貫通孔状または溝状の凹状カム部と、固定側接続部分および可動側接続部分のうちの他方に径方向に突出して形成されて凹状カム部内に摺動可能に嵌合する凸状カム部とを備え、凹状カム部は、固定側スリーブの外周面または可動側スリーブの内周面から突出するカム形成突出部に形成されていることにある。
【0007】
このように構成した本発明の特徴によれば、プーリ装置は、固定側ドリブンプレートの固定側スリーブにおける固定側プレートの接続部分である固定側接続部分に凹状カム部または凸状カム部が形成されているため、固定側接続部分の剛性または耐久性を向上させることができる。この場合、固定側スリーブは、固定側接続部分に溝状の凹状カム部または凸状カム部が形成されることで固定側スリーブの肉厚および表面積が増加して剛性を向上させることができるおよび/または円筒状に形成された固定側スリーブ内の放熱性を向上させて耐久性を向上させることができる。また、固定側スリーブは、固定側接続部分に貫通孔状の凹状カム部が形成されることで固定側スリーブの内部に対する通気性を確保して放熱性を向上させて耐久性を向上させることができる。
【0008】
なお、固定側スリーブにおける固定側接続部分とは、固定側スリーブにおける固定側プレートが立ち上がる部分およびその近傍部分であり、固定側スリーブの軸方向に摺動する可動側ドリブンプレートにおける可動側プレートが対向する固定側スリーブの外周部分である。また、可動側スリーブにおける可動側接続部分とは、可動側スリーブにおける可動側プレートが立ち上がる部分およびその近傍部分であり、前記固定側接続部分が対向する可動側スリーブの内周部分である。
【0009】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、プーリ装置は、凹状カム部が固定側スリーブの外周面または可動側スリーブの内周面から突出するカム形成突出部に形成されているため、凹状カム部が形成された固定側スリーブまたは可動側スリーブの肉厚を厚くしたリブとして機能させて剛性および耐久性を向上させることができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、プーリ装置において、凸状カム部は、固定側スリーブの外周面または可動側スリーブの内周面から突出して軸方向にらせん状に延びて形成されていることにある。
【0012】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、プーリ装置は、凸状カム部が固定側スリーブの外周面または可動側スリーブの内周面から突出して軸方向にらせん状に延びて形成されているため、凸状カム部が形成された固定側スリーブまたは可動側スリーブの肉厚を厚くしたリブとして機能して剛性および耐久性を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、プーリ装置において、可動側ドリブンプレートは、同可動側ドリブンプレートとは別体で構成されて可動側スリーブに嵌合して一体的に回転駆動するカム形成筒体を備え、可動側スリーブに形成される凹状カム部または凸状カム部は、カム形成筒体に形成されていることにある。
【0014】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、プーリ装置は、可動側スリーブに形成される凹状カム部または凸状カム部が可動側ドリブンプレートとは別体で構成されて可動側スリーブに嵌合して一体的に回転駆動するカム形成筒体に形成されているため、可動側スリーブに対する凹状カム部または凸状カム部の形成を容易にすることができる。また、プーリ装置は、凹状カム部または凸状カム部が損傷した場合にはカム形成筒体を交換することで容易に凹状カム部または凸状カム部を再生することができる。また、プーリ装置は、可動側スリーブに形成される凹状カム部または凸状カム部と固定側スリーブに形成される凸状カム部または凹状カム部とを互いに異なる材質で構成することができ、両者の摺動性の向上および摩耗劣化の抑制を図ることができる。なお、カム形成筒体は、可動側スリーブに対して可動側スリーブ内への圧入、互いに嵌合し合う一対の凹部と凸部とからなる嵌合部を介した嵌合、溶接または接着によって一体化することができる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、前記プーリ装置において、凹状カム部および凸状カム部は、互いに異種材料によって構成されていることにある。
【0016】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、プーリ装置は、凹状カム部および凸状カム部が互いに異種材料によって構成されているため、両者の摺動性の向上および摩耗劣化の抑制を図ることができる。
【0017】
また、本発明は、プーリ装置の発明として実施できるばかりでなく、このプーリ装置を備えた遠心クラッチの発明としても実施できるものである。
【0018】
具体的には、遠心クラッチは、請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載したプーリ装置と、固定側スリーブに連結されて固定側ドリブンプレートと一体的に回転駆動するドライブプレートと、ドライブプレートの外側にこのドライブプレートと同心で設けられた円筒面を有して出力軸に連結されるクラッチアウタと、ドライブプレートの周方向に沿って延びて形成されてクラッチアウタの円筒面に面するクラッチシューを有して前記周方向における一方の端部側がドライブプレートに回動可能に取り付けられるとともに他方の端部側がクラッチアウタの円筒面側に向かって変位するクラッチウエイトとを備えるようにすればよい。これによれば、遠心クラッチは、上記プーリ装置と同様の作用効果を期待することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るプーリ装置および遠心クラッチをそれぞれ備えた動力伝達機構の構成を概略的に示す平面断面図である。
【
図2】
図1に示すプーリ装置を構成する固定側ドリブンプレート、可動側ドリブンプレートおよびカム形成筒体の構成の概略を示す組立分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るプーリ装置および同プーリ装置を備えた遠心クラッチの一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係るプーリ装置130および遠心クラッチ200を備えた動力伝達機構100の構成を概略的に示す平面断面図である。この場合、
図1は、プーリ装置130および遠心クラッチ200における各上側半分の図が可動側ドリブンプレート150が固定側ドリブンプレート140に最接近した状態を示すとともに、各下側半分の図が可動側ドリブンプレート150が固定側ドリブンプレート140に対して最も離隔した状態を示している。
【0021】
これらのプーリ装置130および遠心クラッチ200をそれぞれ備えた動力伝達機構100は、主としてスクータなどの自動二輪車両において、エンジンと駆動輪である後輪との間に設けられてエンジンの回転数に対する減速比を自動的に変更しながら回転駆動力を後輪に伝達または遮断する機械装置である。この場合、遠心クラッチ200は、エンジンが所定の回転数に達するまでの間は回転駆動力の従動側への伝達を遮断するとともに、エンジンが所定の回転数に達したときに回転駆動力を従動側に伝達する機械装置である。
【0022】
(プーリ装置130および遠心クラッチ200の構成)
この動力伝達機構100は、主として、変速機101および遠心クラッチ200をそれぞれ備えている。変速機101は、図示しないエンジンからの回転駆動力を無段階で減速して遠心クラッチ200に伝達する機械装置であり、主として、ドライブプーリ110、Vベルト120およびプーリ装置130をそれぞれ備えて構成されている。これらのうち、ドライブプーリ110は、エンジンから延びるクランク軸111上に設けられてエンジンの回転駆動力によって直接回転駆動する機械装置であり、主として、固定ドライブプレート112および可動ドライブプレート113をそれぞれ備えて構成されている。
【0023】
固定ドライブプレート112は、可動ドライブプレート113とともにVベルト120を挟んで保持した状態で回転駆動する部品であり、金属材料を円錐筒状に形成して構成されている。この固定ドライブプレート112は、凸側の面が可動ドライブプレート113側(エンジン側)に向いた状態でクランク軸111上に固定的に取り付けられている。すなわち、固定ドライブプレート112は、常にクランク軸111と一体的に回転駆動する。また、固定ドライブプレート112における凹側の面上には、複数の放熱フィン112aがクランク軸111の軸線を中心として放射状に設けられている。
【0024】
可動ドライブプレート113は、固定ドライブプレート112とともにVベルト120を挟んで保持した状態で回転駆動する部品であり、金属材料を円錐筒状に形成して構成されている。この可動ドライブプレート113は、凸側の面が固定ドライブプレート112に対向する向きでクランク軸111に取り付けられている。この場合、可動ドライブプレート113は、クランク軸111に対して固定的に嵌合するスリーブ軸受114上に含浸ブッシュを介して取り付けられており、スリーブ軸受114に対して軸方向および周方向にそれぞれ摺動自在に取り付けられている。
【0025】
一方、可動ドライブプレート113の凹側の面には、複数のローラウエイト115がランププレート116によって押圧された状態で設けられている。ローラウエイト115は、可動ドライブプレート113の回転数の増加に応じて径方向外側に変位することによってランププレート116と協働して可動ドライブプレート113を固定ドライブプレート112側に押圧するための部品であり、金属材料を筒状に形成して構成されている。また、ランププレート116は、ローラウエイト115を可動ドライブプレート113側に押圧する部品であり、金属板を可動ドライブプレート113側に屈曲させて構成されている。
【0026】
Vベルト120は、ドライブプーリ110の回転駆動力をプーリ装置130のドリブンプーリ131に伝達するための部品であり、芯線をゴム材などの弾性材料で覆った無端のリング状に形成されている。このVベルト120は、固定ドライブプレート112と可動ドライブプレート113との間およびドリブンプーリ131における固定側ドリブンプレート140と可動側ドリブンプレート150との間に配置されてドライブプーリ110とドリブンプーリ131との間に架設されている。
【0027】
プーリ装置130は、ドライブプーリ110およびVベルト120をそれぞれ介して伝達されるエンジンからの回転駆動力によって回転駆動する機械装置でありドリブンプーリ131によって構成されている。ドリブンプーリ131は、
図2に示すように、固定側ドリブンプレート140と可動側ドリブンプレート150とで構成されている。
【0028】
固定側ドリブンプレート140は、可動側ドリブンプレート150とともにVベルト120を挟んで保持した状態で回転駆動する部品であり、アルミニウム材などの金属材料を円錐筒状に形成して構成されている。この固定側ドリブンプレート140は、主として、固定側プレート141と固定側スリーブ142とで構成されている。
【0029】
固定側プレート141は、可動側プレート151とともにVベルト120を挟む部分であり、可動側プレート151側に凸状に張り出す円錐面状に形成されている。この固定側プレート141には、中心部に固定側スリーブ142が形成されている。
【0030】
固定側スリーブ142は、固定側プレート141と一体的に回転駆動する部分であり、固定側プレート141に対して直交する方向に延びる円筒状に形成されている。この固定側スリーブ142における一方(図示右側)の端部には、固定側プレート141が接続されているとともに、この接続部分に隣接する固定側接続部分142aにカム形成突出部143が形成されている。また、固定側スリーブ142における他方(図示左側)の端部には、外歯状のスプラインが形成されているとともに、このスプラインを介してドライブプレート210がスプライン嵌合によって連結されている。
【0031】
ここで、固定側接続部分142aは、固定側スリーブ142における固定側プレート141が立ち上がる部分およびその近傍部分であり、固定側スリーブ142の軸方向に摺動する可動側ドリブンプレート150における可動側プレート151が対向する固定側スリーブ142の外周部分である。
【0032】
カム形成突出部143は、固定側スリーブ142における固定側接続部分142aに凹状カム部144を形成するための部分であり、固定側接続部分142aの外表面から凸状に突出して形成されている。ここで、凹状カム部144は、凸状カム部154が摺動自在な状態で嵌合する部分である。本実施形態においては、カム形成突出部143は、固定側スリーブ142の周方向に捩じれながら軸方向に延びるらせん状に形成されている。この場合、カム形成突出部143は、固定側スリーブ142の周方向に均等な間隔を介して3つ形成されている。
【0033】
これにより、固定側スリーブ142における固定側接続部分142aには、互いに隣接する2つのカム形成突出部143の間に1つの凹状カム部144が形成される。したがって、固定側スリーブ142における固定側接続部分142aには、周方向にカム形成突出部143を介して3つの凹状カム部144が形成される。この場合、3つの凹状カム部144は、固定側スリーブ142の軸方向にらせん状に延びる溝状にそれぞれ形成されている。また、3つの凹状カム部144は、底部が固定側スリーブ142の外表面から突出して形成されている。すなわち、固定側スリーブ142は、固定側接続部分142aの外径が若干太く形成されて剛性が高められている。
【0034】
この固定側ドリブンプレート140は、カム形成突出部143および凹状カム部144を含む固定側スリーブ142と固定側プレート141とが互いに同じ材料で一体成形によって一体的に形成されている。なお、固定側ドリブンプレート140は、カム形成突出部143および凹状カム部144を含む固定側スリーブ142と固定側プレート141とが互いに別部品で成形されて溶接などを介して互いに連結されることで一体的に形成されていてもよい。また、固定側ドリブンプレート140は、カム形成突出部143が固定側スリーブ142に対して別体で構成されて連結されることで固定側スリーブ142に形成されていてもよい。
【0035】
この固定側ドリブンプレート140には、固定側スリーブ142内にドライブシャフト145が貫通している。ドライブシャフト145は、この動力伝達機構100が搭載される自動二輪車両の後輪を図示しないトランスミッションを介して駆動するための金属製の回転軸体である。この場合、自動二輪車両の後輪は、ドライブシャフト145における一方(図示右側)の端部(図示せず)に取り付けられている。このドライブシャフト145は、軸受け146a,146bを介して固定側ドリブンプレート140を支持している。また、ドライブシャフト145における図示左側の先端部には、雄ネジが形成されており、この雄ネジおよび同雄ネジにネジ嵌合するナットを介してクラッチアウタ230が取り付けられている。なお、
図1においては、ドライブシャフト145を二点鎖線で示している。
【0036】
軸受け146a,146bは、ドライブシャフト145上で固定側ドリブンプレート140を回転駆動可能な状態で支持するための環状の部品である。この場合、軸受け146aは、ドライブシャフト145が固定側スリーブ142を支持する最先端部(図示左側端部)に設けられている。また、軸受け146bは、ドライブシャフト145が固定側スリーブ142を支持する最後端部(図示右側端部)に設けられている。すなわち、軸受け146bは、カム形成突出部143および凹状カム部144の径方向内側に重なる位置に設けられている。なお、軸受け146bは、軸受け146aと同じ耐荷重で構成されていてもよいが、本実施形態においては軸受け146aよりも軸方向の長さが長く形成されて耐荷重が大きく構成されている。
【0037】
可動側ドリブンプレート150は、固定側ドリブンプレート140とともにVベルト120を挟んで保持した状態で回転駆動する部品であり、アルミニウム材などの金属材料を円錐筒状に形成して構成されている。この可動側ドリブンプレート150は、主として、可動側プレート151と可動側スリーブ152とで構成されている。
【0038】
可動側プレート151は、固定側プレート141とともにVベルト120を挟む部分であり、固定側プレート141側に凸状に張り出す円錐面状に形成されている。この可動側プレート151には、中心部に可動側スリーブ152が形成されている。
【0039】
可動側スリーブ152は、可動側プレート151と一体的に回転駆動する部分であり、可動側プレート151に対して直交する方向に延びる円筒状に形成されている。この場合、可動側スリーブ152は、固定側スリーブ142が貫通可能な内径に形成されている。この可動側スリーブ152は、一方(図示右側)の端部に可動側プレート151が接続されているとともに、他方(図示左側)の端部にカム連結部152aが形成されている。
【0040】
カム連結部152aは、カム形成筒体153を連結するための部分であり、可動側スリーブ152の端部の一部が軸方向に凹状に切り欠かれて形成されている。本実施形態においては、カム連結部152aは、可動側スリーブ152の端部に周方向に沿って3つの凹状の切り欠き部が均等な配置で形成されている。
【0041】
カム形成筒体153は、
図2に示すように、固定側スリーブ142と可動側スリーブ152との間に配置されて可動側スリーブ152を固定側スリーブ142に対して摺動させるとともに可動側スリーブ152の内周面における可動側接続部分152bに凸状カム部154を形成するための部品であり、樹脂材を円筒形に形成して構成されている。ここで、可動側接続部分152bは、可動側スリーブ152における可動側プレート151が立ち上がる部分およびその近傍部分であり、前記固定側接続部分142aが対向する可動側スリーブ152の内周部分である。
【0042】
このカム形成筒体153を構成する筒状体は、可動側スリーブ152の内周面に摺動自在に嵌合する外径に形成されるとともに、固定側スリーブ142の外周面に摺動自在に嵌合する内径に形成されている。また、カム形成筒体153は、筒状体の一方の端部にスリーブ連結部153aが形成されるとともに、他方の端部に凸状カム部154が形成されている。
【0043】
スリーブ連結部153aは、前記カム連結部152aに嵌合する部分であり、カム形成筒体153における一方の端部から径方向外側に張り出して形成されている。この場合、スリーブ連結部153aは、3つのカム連結部152aにそれぞれ嵌合するように、カム形成筒体153の端部に周方向に沿って3つの突出部が均等な配置で形成されている。
【0044】
凸状カム部154は、可動側スリーブ152の内周面における可動側接続部分152bから突出して固定側スリーブ142に形成された前記凹状カム部144に摺動自在に嵌合する部分であり、カム形成筒体153の端部に軸方向にらせん状に張り出して形成されている。この場合、凸状カム部154は、固定側スリーブ142の外周面に対して接触するように構成されていてもよいが、本実施形態においては非接触な状態で延びて形成されている。この凸状カム部154は、凹状カム部144に対応するようにカム形成筒体153の端部に周方向に均等な間隔を介して3つ形成されている。
【0045】
すなわち、3つの各凸状カム部154の各間には、各凸状カム部154を形成するためのカム形成切欠き部153bがらせん状に延びてそれぞれ形成されている。そして、これら3つのカム形成切欠き部153bは、固定側スリーブ142に形成されたカム形成突出部143が摺動自在に嵌合する。したがって、固定側スリーブ142に形成されたカム形成突出部143は固定側スリーブ142に形成された本願発明に係る凸状カム部とみることができるとともに、カム形成筒体153(可動側スリーブ152)に形成されたカム形成切欠き部153bはカム形成筒体153(可動側スリーブ152)に形成された本願発明に係る凹状カム部とみることもできる。
【0046】
このカム形成筒体153は、スリーブ連結部153aがカム連結部152aに嵌合した状態で可動側ドリブンプレート150の可動側スリーブ152内に接着剤などを介して固定的に嵌合している。これにより、カム形成筒体153は、凸状カム部154が可動側スリーブ152における可動側接続部分152bに位置するとともに、この位置において凹状カム部144に嵌合した状態で可動側スリーブ152と一体的に回転駆動する。
【0047】
なお、カム形成筒体153を構成する樹脂材としては、耐熱性および耐摩耗性を有する熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂を用いることができ、エンジニアリングプラスチックまたはスーパーエンジニアリングプラスチックが好適である。具体的には、熱可塑性樹脂としては、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、フッ素樹脂(PTFE)またはポリイミド樹脂(PI)を用いることができ、熱硬化性樹脂としては、ジアリルフタレート樹脂(PDAP)、エポキシ樹脂(EP)またはシリコン樹脂(SI)を用いることができる。
【0048】
一方、可動側ドリブンプレート150の凹側の面には、遠心クラッチ200におけるドライブプレート210との間にトルクスプリング155が設けられている。トルクスプリング155は、可動側ドリブンプレート150を固定側ドリブンプレート140側に弾性的に押圧するためのコイルスプリングである。すなわち、この変速機101は、固定ドライブプレート112と可動ドライブプレート113との間隔で規定されるVベルト120を挟む直径と、固定側ドリブンプレート140と可動側ドリブンプレート150との間隔で規定されるVベルト120を挟む直径との大小関係によってエンジンの回転数を無段階で変速する。そして、固定側スリーブ142およびドライブシャフト145における各先端部側には遠心クラッチ200が設けられている。
【0049】
遠心クラッチ200は、変速機101を介して伝達されたエンジンの回転駆動力をドライブシャフト145に伝達または遮断する機械装置であり、主として、ドライブプレート210、3つのクラッチウエイト220およびクラッチアウタ230をそれぞれ備えて構成されている。
【0050】
ドライブプレート210は、固定側スリーブ142と一体的に回転駆動する部品であり、金属材料を段付きの円板状に形成して構成されている。より具体的には、ドライブプレート210は、平板状の底部211の中央部に固定側スリーブ142の外歯状のスプラインが貫通した状態で嵌合する内歯状のスプラインが形成されているとともに、この底部211の周囲に起立した段差部分を介して更に径方向外側にフランジ状に張り出した鍔部212が形成されて構成されている。
【0051】
また、ドライブプレート210には、底部211の外縁部分における前記段差部分の内側には前記トルクスプリング155が設けられている。また、鍔部212には、周方向に沿ってそれぞれ3つずつの揺動支持ピン213およびウエイト押圧体支持部215がそれぞれ等間隔で設けられている。
【0052】
揺動支持ピン213は、後述するクラッチウエイト220における一方の端部側を回動可能に支持して他方の端部側を揺動させるための部品であり、金属製の段付きの棒体で構成されている。この場合、揺動支持ピン213は、取付ボルト213aによって鍔部212に固定的に取り付けられている。この揺動支持ピン213は、クラッチウエイト220のピン摺動孔222内を貫通した状態で、揺動支持ピン213の先端部に取り付けられるサイドプレート214とでクラッチウエイト220を挟んだ状態で支持している。
【0053】
サイドプレート214は、3つのクラッチウエイト220が各揺動支持ピン213から抜けることを防止するための部品であり、金属材料をリング状に形成して構成されている。このサイドプレート214は、3つのクラッチウエイト220に対してドライブプレート210とは反対側で各クラッチウエイト220にそれぞれ面した状態で配置されている。
【0054】
ウエイト押圧体支持部215は、ウエイト押圧体216を回転自在な状態で支持するための部品であり、金属製の段付きの棒体で構成されている。このウエイト押圧体支持部215は、クラッチウエイト220におけるピン摺動孔222よりもクラッチウエイト220の先端部側の部分に対向する鍔部212上にピン状に突出して形成されている。ウエイト押圧体216は、クラッチウエイト220をクラッチアウタ230側に押圧するための部品であり、樹脂材料を円筒状に形成して構成されている。
【0055】
3つのクラッチウエイト220は、それぞれドライブプレート210の回転数に応じてクラッチアウタ230に対してクラッチシュー221を介して接触または離隔することによってエンジンからの回転駆動力をドライブシャフト145に伝達または遮断するための部品であり、金属材料(例えば、亜鉛材)をドライブプレート210の周方向に沿って延びる湾曲した形状に形成して構成されている。
【0056】
クラッチシュー221は、クラッチアウタ230の内周面に対する摩擦力を増大させるための部品であり、摩擦材を円弧状に延びる板状に形成して構成されている。このクラッチシュー221は、各クラッチウエイト220における前記他方の端部側であるクラッチウエイト220の先端部側の外周面に張り付けられた状態で設けられている。
【0057】
これらのクラッチウエイト220は、それぞれ一方の端部側に長孔状の貫通孔で構成されたピン摺動孔222が形成されており、このピン摺動孔222を介して揺動支持ピン213によって回動自在に支持されている。また、各クラッチウエイト220は、他方の端部側が互いに隣接するクラッチウエイト220に連結スプリング223によって連結されてドライブプレート210の内側方向に向かって引っ張られている。すなわち、クラッチウエイト220は、クラッチシュー221が設けられた前記他方の端部側がクラッチアウタ230に対して揺動するようにドライブプレート210上に揺動支持ピン213およびピン摺動孔222をそれぞれ介して支持されている。
【0058】
連結スプリング223は、クラッチウエイト220に対して引張力を作用させて前記他方の端部側をクラッチアウタ230に対して離隔する方向に引っ張るための部品であり、金属製のコイルスプリングによって構成されている。この連結スプリング223は、ドライブプレート210の周方向に沿って互いに隣接し合うクラッチウエイト220間にそれぞれ架設されている。
【0059】
また、各クラッチウエイト220におけるドライブプレート210に対向する内側面には、押圧体収容部224がそれぞれ形成されている。押圧体収容部224は、前記ウエイト押圧体216を収容しつつこのウエイト押圧体216が押し付けられる押圧体受け部224aが形成される部分であり、クラッチウエイト220の内側面に凹状に切り欠かれて形成されている。
【0060】
押圧体受け部224aは、ウエイト押圧体216が押し付けられることでクラッチウエイト220をクラッチアウタ230側に変位させるための部分である。この押圧体受け部224aは、押圧体収容部224内の側面がドライブプレート210の回転駆動方向の後方かつ外側に向かって湾曲して延び滑らかな曲面で構成されている。
【0061】
クラッチアウタ230は、ドライブシャフト145と一体的に回転駆動する部品であり、金属材料をドライブプレート210からクラッチウエイト220の外周面を覆うカップ状に形成して構成されている。すなわち、クラッチアウタ230は、ドライブプレート210の外周側に変位したクラッチウエイト220のクラッチシュー221に摩擦接触する円筒面231を有して構成されている。
【0062】
(プーリ装置130および遠心クラッチ200の作動)
次に、上記のように構成したプーリ装置130および遠心クラッチ200の作動について説明する。この遠心クラッチ200は、自動二輪車車両(例えば、スクータ)におけるエンジンと駆動輪となる後輪との間に配置された動力伝達機構100の一部を構成して機能する。まず、遠心クラッチ200は、エンジンがアイドリング状態においては、
図1に示すように、エンジンとドライブシャフト145との間の駆動力の伝達を遮断する。
【0063】
具体的には、プーリ装置130は、ドライブプーリ110およびVベルト120をそれぞれ介して伝達されるエンジンの回転駆動力によってドリブンプーリ131が回転駆動する。ここで、ドリブンプーリ131は、可動側ドリブンプレート150がカム形成筒体153を介して固定側ドリブンプレート140に連結されているとともに、固定側ドリブンプレート140がドライブプレート210に直接連結されている。これにより、ドライブプレート210は、固定側ドリブンプレート140および可動側ドリブンプレート150と同じ回転数で回転駆動する。すなわち、遠心クラッチ200におけるドライブプレート210に設けられた3つのクラッチウエイト220は、ドライブプレート210と同じ回転数で回転駆動する。
【0064】
しかし、この場合、遠心クラッチ200は、クラッチウエイト220に作用する遠心力が連結スプリング223の弾性力(引張力)よりも小さいため、クラッチシュー221がクラッチアウタ230の円筒面231に接触するに至るほどクラッチウエイト220がクラッチアウタ230の円筒面231側に傾倒することはない。したがって、遠心クラッチ200は、エンジンの回転駆動力がドライブシャフト145に伝達されることはなくクラッチオフ状態となっている。
【0065】
このクラッチオフ状態においてドリブンプーリ131は、可動側ドリブンプレート150がトルクスプリング155によって固定側ドリブンプレート140に最も近い位置またはその近傍の位置で弾性的に押圧されている。このため、可動側ドリブンプレート150は、カム形成筒体153における凸状カム部154が固定側ドリブンプレート140の固定側スリーブ142に形成された凹状カム部144内の奥深くまで嵌合した状態で回転駆動力を固定側ドリブンプレート140に伝達する。すなわち、可動側ドリブンプレート150は、凸状カム部154と凹状カム部144との接触面積が最大または最大に近い接触面積で回転駆動力を伝達するため、エンジンのアイドリングなどの回転数が不安定になりがちな低回転時において安定的に回転駆動力を固定側ドリブンプレート140に伝達することができる。
【0066】
次に、遠心クラッチ200は、自動二輪車両における運転者のアクセル操作によるエンジンの回転数の増加に応じてエンジンの回転駆動力をドライブシャフト145に伝達する。具体的には、遠心クラッチ200は、エンジンの回転数が増加するに従ってクラッチウエイト220に作用する遠心力が連結スプリング223の弾性力(引張力)よりも大きくなってクラッチウエイト220が揺動支持ピン213を中心として径方向外側に向かって回動変位する。
【0067】
すなわち、遠心クラッチ200は、エンジンの回転数が増加するに従ってクラッチウエイト220が連結スプリング223の弾性力(引張力)に抗しながらクラッチアウタ230の円筒面231側に回動変位する結果、クラッチシュー221が円筒面231に接触する。
【0068】
これにより、クラッチウエイト220は、クラッチシュー221を介して回転駆動方向とは反対方向の反力を受けてドライブプレート210の回転駆動方向とは反対方向に相対変位する。この場合、クラッチウエイト220は、押圧体受け部224aがウエイト押圧体216を回転変位させながらウエイト押圧体216上に乗り上がるに従って径方向外側のクラッチアウタ230側に押されてクラッチシュー221が同円筒面231に強く押し付けられる。
【0069】
すなわち、遠心クラッチ200は、クラッチシュー221がクラッチアウタ230の円筒面231に接触した後、極めて短時間(換言すれば、瞬間的)にクラッチシュー221が円筒面231に押し付けられてクラッチウエイト220がウエイト押圧体216とクラッチアウタ230との間に楔状に入り込んだ状態となる。これにより、遠心クラッチ200は、エンジンの回転駆動力を完全にドライブシャフト145に伝達するクラッチオン状態となる。したがって、自動二輪車両は、エンジンの回転駆動力によって後輪が回転駆動して走行することができる。
【0070】
このクラッチオン状態に移行する過程においてドリブンプーリ131は、エンジンの回転数が増加するに従って可動側ドリブンプレート150がトルクスプリング155の弾性力に抗して固定側ドリブンプレート140に対して離隔する側に変位する。すなわち、可動側ドリブンプレート150に形成された凸状カム部154は、固定側ドリブンプレート140に形成された凹状カム部144に対して図示左側に摺動変位する。これにより、固定側ドリブンプレート140に形成されたカム形成突出部143および凹状カム部144は、カム形成切欠き部153bおよび凸状カム部154との嵌合量が減少してVベルト120側に露出するようになる。
【0071】
この場合、ドライブシャフト145は、回転駆動した状態で軸受け146a,146bを介して固定側ドリブンプレート140を支持している。これにより、固定側ドリブンプレート140は、軸受け146a,146bに生じた熱を露出したカム形成切欠き部153bおよび凸状カム部154をそれぞれ介して外部に逃がすことができる。特に、カム形成切欠き部153bおよび凸状カム部154は、軸受け146aに対して大型の軸受け146bの近傍に形成しされているため、軸受け146bに生じた熱を効率的に逃がすことができる。
【0072】
一方、エンジンの回転数が減少していく場合においては、遠心クラッチ200は、エンジンの回転駆動力のドライブシャフト145への伝達を遮断する。具体的には、遠心クラッチ200は、エンジンの回転数が減少するに従ってクラッチウエイト220に作用する遠心力が連結スプリング223の弾性力(引張力)よりも小さくなってクラッチウエイト220が揺動支持ピン213を中心として径方向内側に向かって回動変位する。
【0073】
これにより、クラッチウエイト220は、クラッチシュー221がクラッチアウタ230の円筒面231から離隔して元の位置(前記アイドリング時の位置)に復帰する。すなわち、遠心クラッチ200は、クラッチシュー221がクラッチアウタ230に接触せず回転駆動力を伝達しないクラッチオフ状態となる。
【0074】
この場合、ドリブンプーリ131は、エンジンの回転数が減少するに従って可動側ドリブンプレート150がトルクスプリング155の弾性力によって固定側ドリブンプレート140に接近するように変位する。すなわち、固定側ドリブンプレート140に形成された凹状カム部144は、可動側ドリブンプレート150に形成された凸状カム部154が図示右側に摺動変位することで同凸状カム部154との嵌合量が増加して露出量が減少する。
【0075】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、プーリ装置130は、固定側ドリブンプレート140の固定側スリーブ142における固定側プレート141の接続部分である固定側接続部分142aに凹状カム部144が形成されているため、固定側接続部分142aの剛性または耐久性を向上させることができる。この場合、固定側スリーブ142は、固定側接続部分142aに溝状の凹状カム部144が形成されることで固定側スリーブ142の肉厚および表面積が増加して剛性を向上させることができるおよび/または円筒状に形成された固定側スリーブ142内の放熱性を向上させて耐久性を向上させることができる。
【0076】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0077】
例えば、上記実施形態においては、プーリ装置130は、固定側ドリブンプレート140の固定側スリーブ142に凹状カム部144を形成するとともに、可動側ドリブンプレート150の可動側スリーブ152に径方向内側に向かって突出する凸状カム部154を形成して構成した。しかし、プーリ装置130は、固定側ドリブンプレート140の固定側スリーブ142に径方向の外側に向かって突出する凸状カム部154を形成するとともに、可動側ドリブンプレート150の可動側スリーブ152に凹状カム部144を形成して構成することもできる。この場合、プーリ装置130は、固定側ドリブンプレート140の固定側スリーブ142に溝状または貫通孔状のカム形成切欠き部153bを形成するとともに、可動側ドリブンプレート150の可動側スリーブ152にカム形成突出部143を形成することになる。
【0078】
すなわち、凹状カム部144は、固定側スリーブ142における固定側接続部分142aおよび可動側スリーブ152における可動側接続部分152bのうちの一方にらせん状に延びて貫通孔状または溝状に形成することができる。また、この場合、凸状カム部154は、固定側接続部分142aおよび可動側接続部分152bのうちの他方に径方向に突出して凹状カム部144内に摺動可能に嵌合するように形成することができる。
【0079】
また、上記実施形態においては、凹状カム部144は、有底の溝状に形成した。しかし、凹状カム部144は、固定側接続部分142aを貫通する貫通孔が固定側スリーブ142の軸方向にらせん状に延びて形成することもできる。これによれば、プーリ装置130は、固定側スリーブ142に貫通孔状の凹状カム部144が形成されているため、固定側スリーブ142の内部に対する通気性を確保して放熱性を向上させて耐久性を向上させることができる。なお、凹状カム部144は、可動側スリーブ152に形成する場合においても貫通孔状に形成することができる。
【0080】
また、上記実施形態においては、凹状カム部144は、固定側スリーブ142の外周面上に形成したカム形成突出部143によって形成した。これにより、凹状カム部144は、カム形成突出部143を固定側スリーブ142の肉厚を厚くしたリブとして機能させて剛性および耐久性を向上させることができる。しかし、凹状カム部144は、固定側スリーブ142の外周面の表面から凹状に窪んだ溝状または貫通孔状に形成することもできる。
【0081】
また、上記実施形態においては、凸状カム部154は、カム形成筒体153の端部に軸方向にらせん状に張り出して形成されている。これにより、凸状カム部154は、可動側スリーブ152の内周面からレール状に突出して形成される。しかし、凸状カム部154は、可動側スリーブ152の内周面から凸状に突出して凹状カム部144内に摺動自在に嵌合するように構成されていればよい。したがって、凸状カム部154は、例えば、棒状態で構成されたピン状に形成することもできる。
【0082】
また、上記実施形態においては、凸状カム部154は、可動側スリーブ152とは別体で構成されたカム形成筒体153に形成した。しかし、凸状カム部154は、可動側スリーブ152の内周面から凸状に突出して凹状カム部144内に摺動自在に嵌合するように構成されていればよい。したがって、凸状カム部154は、可動側スリーブ152の内周面に直接形成して構成することもできる。これにより、プーリ装置130は、部品点数を抑えて構成することができる。なお、凸状カム部154は、固定側スリーブ142に形成する場合においても固定側スリーブ142に直接または別体の部品を介して形成することができる。また、凹状カム部144についても、固定側スリーブ142または可動側スリーブ152に対して別体の部品を介して形成することができる。
【0083】
また、上記実施形態においては、プーリ装置130は、凹状カム部144を金属材料で構成するとともに凸状カム部154を樹脂材料で構成した。すなわち、プーリ装置130は、凹状カム部144と凸状カム部154とを互いに異なる材料で構成した。これにより、遠心クラッチ200は、凹状カム部144と凸状カム部154との間の摺動性の向上および摩耗劣化の抑制を図ることができる。この場合、プーリ装置130は、凹状カム部144を樹脂材料で構成するとともに凸状カム部154を金属材料で構成することもできる。また、凹状カム部144および凸状カム部154は、金属材および樹脂材以外の材料、例えば、セラミック材で構成することもできる。また、プーリ装置130は、凹状カム部144と凸状カム部154とを互いに同じ材料で構成することもできる。
【0084】
また、上記実施形態においては、プーリ装置130は、凹状カム部144および凸状カム部154をそれぞれ3つずつ形成して構成した。しかし、プーリ装置130は、凹状カム部144および凸状カム部154を少なくとも一組ずつ形成して構成すればよい。
【0085】
また、上記実施形態においては、遠心クラッチ200は、ウエイト押圧体216、押圧体収容部224および押圧体受け部224aをそれぞれ備えて構成した。しかし、遠心クラッチ200は、ウエイト押圧体216、押圧体収容部224および押圧体受け部224aを省略して構成することもできる。また、遠心クラッチ200は、ピン摺動孔222を平面視で長孔状に形成した。しかし、遠心クラッチ200は、ピン摺動孔222を平面視で円状に形成することもできる。
【0086】
また、上記実施形態においては、プーリ装置130は、遠心クラッチ200に適用した。しかし、プーリ装置130は、エンジンまたは電動モータなどの駆動源からの駆動力をドライブシャフト145などの出力軸に伝達する機械装置に広く適用することができる。したがって、プーリ装置130は、例えば、対向配置される2つのプレート、具体的には、平板環状の芯金の表面に摩擦材を設けた複数の摩擦プレートと摩擦材がない複数のクラッチプレートとを互いに押し付け合うことにより回転駆動力の伝達または遮断を行う多板クラッチに適用することもできる。また、プーリ装置130は、電動モータを駆動源として自走する電気自動車において電動モータと駆動輪との間の駆動力伝達機構の一部に設けることもできる。
【符号の説明】
【0087】
100…動力伝達機構、101…変速機、
110…ドライブプーリ、111…クランク軸、112…固定ドライブプレート、112a…放熱フィン、113…可動ドライブプレート、114…スリーブ軸受、115…ローラウエイト、116…ランププレート、
120…Vベルト、
130…プーリ装置、131…ドリブンプーリ、
140…固定側ドリブンプレート、141…固定側プレート、142…固定側スリーブ、142a…固定側接続部分、143…カム形成突出部、144…凹状カム部、145…ドライブシャフト、146a,146b…軸受け、
150…可動側ドリブンプレート、151…可動側プレート、152…可動側スリーブ、152a…カム連結部、152b…可動側接続部分、153…カム形成筒体、153a…スリーブ連結部、153b…カム形成切欠き部、154…凸状カム部、155…トルクスプリング、
200…遠心クラッチ、
210…ドライブプレート、211…底部、212…鍔部、213…揺動支持ピン、213a…取付ボルト、214…サイドプレート、215…ウエイト押圧体支持部、216…ウエイト押圧体、
220…クラッチウエイト、221…クラッチシュー、222…ピン摺動孔、223…連結スプリング、224…押圧体収容部、224a…押圧体受け部、
230…クラッチアウタ、231…円筒面。