(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】磁性粒子操作装置
(51)【国際特許分類】
B01J 19/08 20060101AFI20240718BHJP
B03C 1/00 20060101ALI20240718BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B01J19/08 D
B03C1/00 A
B03C1/00 B
C12M1/00
(21)【出願番号】P 2019070754
(22)【出願日】2019-04-02
【審査請求日】2021-08-30
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100149962
【氏名又は名称】阿久津 好二
(74)【代理人】
【識別番号】100170988
【氏名又は名称】妹尾 明展
(74)【代理人】
【識別番号】100189566
【氏名又は名称】岸本 雅之
(74)【代理人】
【識別番号】100102037
【氏名又は名称】江口 裕之
(72)【発明者】
【氏名】山野 彩花
(72)【発明者】
【氏名】四方 正光
(72)【発明者】
【氏名】花房 信博
(72)【発明者】
【氏名】村松 晃
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】金 公彦
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-117032(JP,A)
【文献】特開2003-075457(JP,A)
【文献】特開2014-221111(JP,A)
【文献】特開2005-013413(JP,A)
【文献】特開2014-083041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/00- 5/52
B01J 19/00-19/32
B81B 1/00
C12M 1/00- 1/42
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部において目的物質に対する処理を行なうための処理液からなる複数の処理液層が互いの間にゲル層を挟んで長手方向に重層されているとともに、前記目的物質を捕捉する磁性粒子が内部に装填された管状デバイスを保持するための少なくとも1つのデバイス保持部と、
前記デバイス保持部に保持された前記管状デバイス内の前記磁性粒子に磁力を作用させて前記磁性粒子を前記管状デバイスの外側から操作するための磁力源と、
前記デバイス保持部に保持される前記管状デバイスに近接する位置で前記管状デバイスの長手方向へ前記磁力源を移動させる磁力源移動機構と、
前記磁力源移動機構の動作を制御して前記管状デバイス内の前記磁性粒子を前記各処理液層へ順次移動させる処理動作を実行するように構成された動作制御部と、
前記デバイス保持部を覆う開閉式のカバーと、
前記カバーに設けられ、前記カバーが閉じられているときに前記デバイス保持部に保持されている前記管状デバイスを前記磁力源側へ押圧して前記管状デバイスの反りを矯正する押圧機構と、
前記カバーの開閉状態を検知する開閉状態検知部と、を備え、
前記動作制御部は、前記カバーが閉じられていることを前記開閉状態検知部が検知している場合にのみ前記処理動作を実行するように構成されている、磁性粒子操作装置。
【請求項2】
前記動作制御部は、前記処理動作を実行しているときに前記カバーが開いていることを前記開閉状態検知部が検知したときは、前記磁力源移動機構の動作を停止させて前記処理動作を中止するように構成されている、請求項1に記載の磁性粒子操作装置。
【請求項3】
前記動作制御部は、前記処理動作を開始すべき指示の入力がなされたときに、前記カバーが開いていることを前記開閉状態検知部が検知しているときは、前記処理動作を実行しないように構成されている、請求項1又は2に記載の磁性粒子操作装置。
【請求項4】
前記デバイス保持部が2つ以上設けられている、請求項1から3のいずれか一項に記載の磁性粒子操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部において目的物質の分離や精製といった処理を行なうための処理液の層がゲル層を挟んで重層された管状デバイス内で、目的物質を捕捉した磁性粒子を操作するための磁性粒子操作装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内部において溶解/固定液、洗浄液、溶出液といった処理液からなる複数の処理液層がゲル層を挟んで重層された管状デバイスを用いて、核酸などの目的物質の分離・精製を行なうことが提案され、実施もなされている(特許文献1参照。)。
【0003】
そのような管状デバイスを用いる目的物質の分離・精製は、目的物質を捕捉した磁性粒子を管状デバイス内に導入し、管状デバイスの外側の磁石で管状デバイス内の磁性粒子を操作することによって行なわれる。処理液層が洗浄液である場合、その処理液層内で磁性粒子による高速の撹拌運動がなされるように、磁石を管状デバイスの長手方向に沿って高速で往復動させるということが行われる。
【0004】
上記のような磁性粒子を用いた目的物質の分離・精製を自動的に行なうために、管状デバイス内の磁性粒子を操作するための磁力源を管状デバイスの長手方向へ自動的に移動させる磁性粒子操作装置が提案されている(特許文献2参照。)。
【0005】
上記のような磁性粒子操作装置では、管状デバイスと磁力源との距離を一定に保った状態で磁力源を管状デバイスの長手方向へ移動させる必要がある。一方で、管状デバイスは一般的に樹脂製のチューブで構成されており、反りのあるものも存在する。管状デバイスに反りがある場合、磁力源を管状デバイスの長手方向に沿って一軸方向へ移動させたときに、磁力源の位置によって磁力源と管状デバイスとの距離が変わってしまい、管状デバイス内の磁性粒子の一部が磁力源に追従せず、管状デバイス内の磁性粒子を正確に操作できない虞がある。そのため、特許文献2では、管状デバイスを管状デバイスの長手方向に対して垂直な方向へ押圧することによって管状デバイスの反りを矯正することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2015/177933A1
【文献】特開2016-117032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
管状デバイスの反りを矯正するために管状デバイスを押圧する機構は、管状デバイスを保持するデバイス保持部を覆う開閉式のカバーに設けることができる。その場合、管状デバイスをデバイス保持部に保持させてカバーを閉じるだけで、管状デバイスの反りが矯正され、磁力源と管状デバイスとの距離の一定性が担保される。逆にいえば、カバーが開いている場合には、磁力源と管状デバイスとの距離の一定性が担保されないことになる。したがって、カバーが開いている状態で磁力源を動作させる処理が行われると、目的物質に対する所定の処理が正確になされることが担保されない。
【0008】
そこで、本発明は、磁力源と管状デバイスとの距離の一定性が担保されない状態で磁力源を動作させる処理が実行されないようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る磁性粒子操作装置では、内部において目的物質に対する処理を行なうための処理液からなる複数の処理液層が互いの間にゲル層を挟んで長手方向に重層されているとともに、前記目的物質を捕捉する磁性粒子が内部に装填された管状デバイスを使用する。当該磁性粒子操作装置は、前記管状デバイスを保持するための少なくとも1つのデバイス保持部と、前記デバイス保持部に保持された前記管状デバイス内の前記磁性粒子に磁力を作用させて前記磁性粒子を前記管状デバイスの外側から操作するための磁力源と、前記デバイス保持部に保持される前記管状デバイスに近接する位置で前記管状デバイスの長手方向へ前記磁力源を移動させる磁力源移動機構と、前記磁力源移動機構の動作を制御して前記管状デバイス内の前記磁性粒子を前記各処理液層へ順次移動させる処理動作を実行するように構成された動作制御部と、前記デバイス保持部を覆う開閉式のカバーと、前記カバーに設けられ、前記カバーが閉じられているときに前記デバイス保持部に保持されている前記管状デバイスを前記磁力源側へ押圧して前記管状デバイスの反りを矯正する押圧機構と、前記カバーの開閉状態を検知する開閉状態検知部と、を備えている。そして、前記動作制御部は、前記カバーが閉じられていることを前記開閉状態検知部が検知している場合にのみ前記処理動作を実行するように構成されている。
【0010】
すなわち、本発明に係る磁性粒子操作装置は、デバイス保持部を覆う開閉式のカバーに、当該カバーが閉じている状態で管状デバイスを押圧して管状デバイスの反りを矯正する押圧機構を設け、カバーが空いている状態、すなわち管状デバイスの反りの矯正がなされていない状態で、処理動作が実行されないように構成されている。
【0011】
本発明の磁性粒子操作装置の好ましい実施形態では、前記処理動作を実行しているときに前記カバーが開いていることを前記開閉状態検知部が検知したときは、前記磁力源移動機構の動作を停止させて前記処理動作を中止するように前記動作制御部が構成されている。
【0012】
また、本発明の磁性粒子操作装置の好ましい実施形態では、前記処理動作を開始すべき指示の入力がなされたときに、前記カバーが開いていることを前記開閉状態検知部が検知しているときは、前記処理動作を実行しないように前記動作制御部が構成されている。
【0013】
また、本発明の磁性粒子操作装置では、前記デバイス保持部が2つ以上設けられていてもよい。その場合は、各デバイス保持部のそれぞれに対応する磁力源が設けられる。各デバイス保持部に対応する複数の磁力源は、共通の磁力源移動機構によって移動させることも可能であるが、そうすると、一部のデバイス保持部しか使用されないでも、管状デバイスが設置されていないデバイス保持部において磁力源が動作することになる。また、管状デバイスが設置されていないデバイス保持部では、磁力源が露出した状態となるため、カバーが開いている状態で磁力源を動作させると、ユーザの手指等が動作している磁力源に触れてしまう虞がある。しかしながら、本発明では、カバーが開いているときに処理動作が行われないように構成されているので、ユーザの手指等が動作している磁力源に触れることを防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る磁性粒子操作装置では、カバーが空いている状態、すなわち管状デバイスの反りの矯正がなされていない状態で、処理動作が実行されないように構成されているので、磁力源と管状デバイスとの距離の一定性が担保されない状態で磁力源を動作させる処理が実行されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】磁性粒子操作装置の一実施例を示す斜視図である。
【
図3】同実施例のデバイス保持部に管状デバイスが保持された状態を示す概略構成図である。
【
図4】同実施例の処理動作の開始が入力されたときの動作を説明するためのフローチャートである。
【
図5】同実施例の処理動作中における動作を説明するためのフローチャートである。
【
図6】同実施例で用いられる管状デバイスの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、磁性粒子操作装置の一実施例について説明する。
【0017】
まず、
図6を参照して、同実施例の磁性粒子操作装置で用いられる管状デバイスの一例について説明する。
【0018】
管状デバイス100は、管の内部において一端側から長手方向に、試料層102、ゲル層108、処理液層104、ゲル層108、処理液層104、ゲル層108、溶出液層106が重層されたものである。
【0019】
試料層102を構成する試料には核酸などの目的物質を捕捉した磁性粒子が含まれている。処理液層104は、磁性粒子に捕捉された目的物質の処理を行なうための処理液からなる。処理液としては、磁性粒子に捕捉された目的物質から夾雑物質を取り除くための洗浄液が挙げられる。溶出液層106を構成する溶出液は、処理液層104を経て分離・精製等の処理がなされた目的物質を溶解させるためのものであり、例えば純水を用いることができる。
【0020】
次に、磁性粒子操作装置の一実施例について
図1、
図2及び
図3を用いて説明する。
【0021】
磁性粒子操作装置は、筐体1の前面パネル2に管状デバイス100を嵌め込むための窪み4が設けられている。窪み4は管状デバイス100を保持するデバイス保持部を構成するものである。この実施例では、前面2に2つの窪み4が設けられているが、本発明はこれに限定されるものではなく、1つ又は3つ以上の窪み4が設けられていてもよい。
【0022】
筐体1の内部であって前面パネル2の背後に、磁力源8、保持ブロック10、ボールネジ12及びステッピングモータ14が設けられている。磁力源8は、管状デバイス100内の磁性粒子を操作するための磁力を発生させるものであり、例えば永久磁石によって実現される。ボールネジ12は、前面パネル2の窪み4に嵌め込まれる管状デバイス100の長手方向と平行に設けられており、ステッピングモータ14によって回転させられる。保持ブロック10はボールネジ12と螺合しており、ボールネジ12が回転することによってボールネジ12の軸方向へ移動するようになっている。保持ブロック10、ボールネジ12及びステッピングモータ14は磁力源8を管状デバイス100の長手方向へ移動させるための磁力源移動機構を構成する。
【0023】
前面パネル2の窪み4の底面に、窪み4に嵌め込まれた管状デバイス100に対して磁力源8を露出させるための開口6が設けられている。磁力源8は、保持ブロック10によって窪みに嵌め込まれる管状デバイス100の近傍で保持されており、保持ブロック10によるボールネジ12の軸方向への移動に伴って管状デバイス100の長手方向へ移動する。管状デバイス100内の磁性粒子は、磁力源8からの磁力の作用によって磁力源8の動作に追従し、管状デバイス100内を長手方向へ移動する。
【0024】
前面パネル2に開閉式のカバー16が取り付けられている。カバー16は、閉じられたときに窪み4の設けられている領域を覆うように設けられている。カバー16の内側には、カバー16が閉じられたときに窪み4に嵌め込まれた管状デバイス100を磁力源8側へ押圧するための押圧板18が弾性部材20を介して取り付けられている。カバー16が閉じられると、押圧板18は、管状デバイス100と当接するとともに弾性部材20によって管状デバイス100側へ付勢され、これによって管状デバイス100の反りが矯正される。押圧板18及び弾性部材20は、管状デバイス100を押圧して反りを矯正するための押圧機構を構成する。図では省略されているが、前面パネル2及びカバー16には、カバー16を閉じた状態で維持するためのロック機構が設けられている。
【0025】
前面パネル2とカバー16との内側面には、カバー16の開閉状態を検出するためのマイクロセンサ22及びセンサドグ24が設けられている。
図1から
図3では、前面パネル2側にマイクロセンサ22、カバー16側にセンサドグ24が設けられているが、逆に、前面パネル2側にセンサドグ24、カバー16側にマイクロセンサ22が設けられていてもよい。
【0026】
磁性粒子操作装置は、ステッピングモータ14の動作を制御するための制御装置26を備えている。制御装置26は、演算素子や記憶媒体を備えた電子回路によって実現することができる。制御装置26は、動作制御部28及び開閉状態検知部30を備えている。動作制御部28及び開閉状態検知部30は、演算素子がプログラムを実行することによって実現される機能である。
【0027】
動作制御部28は、ステッピングモータ14の動作を制御して磁力源8を管状デバイス100の長手方向へ移動させ、管状デバイス100内の磁性粒子を試料層102から各処理液層104、溶出液層106へと順に移行させ、磁性粒子に捕捉された目的物質に対する所定の処理動作を実行するように構成されている。目的物質の精製処理は、処理液層104内において磁性粒子を管状デバイス100の長手方向へ高速で往復運動させることによって行なう。
【0028】
開閉状態検知部30は、カバー16の開閉状態をマイクロセンサ22からの信号に基づいて検知するように構成されている。
【0029】
動作制御部28はさらに、カバー16が閉じていることを開閉状態検知部30が検知している場合にのみ、目的物質に対する処理動作を実行するように構成されている。具体的には、ユーザによって処理動作の開始の指示が入力された場合でも、カバー16が開いている場合には、処理動作を開始しない。さらに、処理動作の実行中にカバー16が開けられたときは、処理動作を中止する。
【0030】
処理動作の開始の指示が入力されたときの動作について、
図3とともに
図4のフローチャートを用いて説明する。
【0031】
処理動作の開始の指示が入力されると、開閉状態検知部30はマイクロセンサ22の信号に基づいてカバー16の開閉状態を確認する(ステップS1、S2)。カバー16が閉じられている場合、動作制御部28は処理動作を開始する(ステップS3)。一方で、カバー16が開いている場合は、カバー16が開いていることをユーザに認識させるための警告を発し(ステップS4)、処理動作を開始することなく待機する。
【0032】
次に、処理動作が開始されたあとの動作について、
図3とともに
図5のフローチャートを用いて説明する。
【0033】
処理動作の実行中、制御装置26にはマイクロセンサ22からの信号が定期的に取り込まれる(ステップS11)。開閉状態検知部30は、マイクロセンサ22の信号に基づいてカバー16の開閉状態を確認する(ステップS12)。カバーが閉じられている場合、動作制御部28は所定の処理動作が完了するまで動作を続行する(ステップS13)。一方で、カバーが開けられた場合、動作制御部28はステッピングモータ14の駆動を停止して実行中の処理動作を中止する(ステップS14)。
【符号の説明】
【0034】
1 筐体
2 前面パネル
4 窪み
6 開口
8 磁力源
10 保持ブロック
12 ボールネジ
14 ステッピングモータ
16 カバー
18 押圧板
20 弾性部材
22 マイクロセンサ
24 センサドグ
26 制御装置
28 動作制御部
30 開閉状態検知部
100 管状デバイス
102 試料層
104 処理液層
106 溶出液層
108 ゲル層