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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/52 20060101AFI20240718BHJP
   F16D 23/12 20060101ALI20240718BHJP
   F16D 43/21 20060101ALI20240718BHJP
   F16F 1/12 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
F16D13/52 A
F16D23/12 Z
F16D43/21
F16F1/12 N
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019218994
(22)【出願日】2019-12-03
(65)【公開番号】P2021089017
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-10-25
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】北澤 秀訓
(72)【発明者】
【氏名】間野 修
【合議体】
【審判長】中屋 裕一郎
【審判官】平城 俊雅
【審判官】鎌田 哲生
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-183999(JP,A)
【文献】実開昭48-96342(JP,U)
【文献】特開2018-44644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に開口するとともに円周方向に延びる楕円形の凹部、を有する第1回転体と、
前記第1回転体に対して相対回転可能に配置される第2回転体と、
前記凹部と前記第2回転体との間に配置され、前記第2回転体を付勢する複数のコイルスプリングと、
前記コイルスプリングの端面が当接するシート部、及び、前記シート部から前記軸方向に延び前記コイルスプリング内に嵌合された円筒状の突出部を有し、かつ、前記凹部と前記コイルスプリングの端面との間に配置される、スプリングシートと、
を備え、
前記スプリングシートは、樹脂製である、
クラッチ装置。
【請求項2】
前記第1回転体は、サポートプレートであり、
前記第2回転体は、プレッシャプレートである、
請求項1に記載のクラッチ装置。
【請求項3】
前記シート部は、中心部に孔を有する、
請求項1又は2に記載のクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動二輪車及びバギーなどのモータサイクルには、エンジンからの動力をトランスミッションに伝達又は遮断するためにクラッチ装置が用いられている。このクラッチ装置は、クラッチセンタと、動力の伝達、遮断を行うためのクラッチ部と、クラッチ部を押圧するためのプレッシャプレートと、を有している。また、このクラッチ装置は、プレッシャプレートとサポートプレートとの間にコイルスプリングが設けられ、このコイルスプリングによって、クラッチ部に押圧力を与えている。
【0003】
プレッシャプレートとサポートプレートとの相対回転によって、クラッチ部に対する押圧力を増加又は減少させるためのカム機構が設けられたクラッチ装置が提案されている。このような装置では、プレッシャプレートとサポートプレートとが相対回転するために、スプリングの一方の端面に滑りが発生する。この滑りによって、プレッシャプレート又はサポートプレートは摩耗しやすくなる。
【0004】
そこで、特許文献1に示されるように、プレッシャプレートの収容部内に、スプリングの端面を支持するスプリングシートが設けられている。特許文献1のスプリングシートは、C字状に形成されており、外周面には外側に向って突出する突起部が形成されている。そして、収容部の内壁部に、突起部が係合する逃げ部が形成されている。
【0005】
この特許文献1のクラッチ装置では、スプリングシートの突起部が収容部の逃げ部に係合することにより、装置の組み付け作業時に、スプリングシートが収容部から脱落するのが防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-104544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、プレッシャプレートの収容部の径方向の内側及び外側に、スプリングシートを係合するための逃げ部を形成するためにサポートプレートが複雑な形状となってしまう。
【0008】
本発明の課題は、スプリングシートが配置された部品の形状を簡易化することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の一側面に係るクラッチ装置は、第1回転体と、第2回転体と、複数のコイルスプリングと、スプリングシートと、を備える。第1回転体は、軸方向に開口するとともに円周方向に延びる楕円形の凹部、を有する。第2回転体は、第1回転体に対して相対回転可能に配置される。コイルスプリングは、上記凹部と第2回転体との間に配置され、第2回転体を付勢する。スプリングシートは、シート部、及び、突出部を有する。シート部は、コイルスプリングの端面が当接する。突出部は、円筒状である。突出部は、シート部から軸方向に延びコイルスプリング内に挿入されている。スプリングシートは、上記凹部とコイルスプリングの端面との間に配置される。
【0010】
スプリングシートには突出部が設けられ、この突出部によってスプリングシートはコイルスプリングに取り付けられている。したがって、第1回転体の凹部にスプリングシートを保持させる必要がないため、上記凹部の形状を簡易化できる。
【0011】
(2)好ましくは、第1回転体は、サポートプレートであり、第2回転体は、プレッシャプレートである。
【0012】
(3)好ましくは、スプリングシートは、樹脂製である。
【0013】
スプリングシートが樹脂製であれば、凹部の摩耗を低減することができる。
【0014】
(4)好ましくは、シート部は、中心部に孔を有する。
【0015】
オイルは樹脂を破損しやすい。シート部の中心部に孔があれば、孔からオイルを抜くことができ、スプリングシート内にオイルが滞留するのを防ぐことができる。その結果、スプリングシートの耐久寿命が長くなる。
【発明の効果】
【0016】
以上のような本発明では、スプリングシートが配置された部品の形状を簡易化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態によるクラッチ装置の断面図。
図2】サポートプレートの外観斜視図。
図3】プレッシャプレートを軸方向の第1側から視た外観斜視図。
図4】プレッシャプレートを軸方向の第2側から視た外観斜視図。
図5】クラッチセンタの外観斜視図。
図6】スプリングシートの外観斜視図。
図7】コイルスプリングにスプリングシートを装着した状態を示す断面図。
図8】カム機構を説明する断面図。
図9】スプリングシートの他の実施形態を示す図。
図10】他の実施形態によるプッシュタイプのクラッチ装置の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[全体構成]
図1に、本発明の一実施形態によるクラッチ装置としてのモータサイクル用クラッチ装置100を示している。図1はクラッチ装置100の断面図である。図1の断面図において、O-O線が回転軸線である。なお、以下の説明において、「軸方向」とは回転軸Oが延びる方向を示し、図1に示すように、図1の右側を「軸方向の第1側」、逆を「軸方向の第2側」とする。また、「径方向」とは、回転軸Oを中心とした円の半径方向を意味し、「円周方向」とは、回転軸Oを中心とした円の周方向を意味する。
【0019】
クラッチ装置100は、エンジンからの動力をトランスミッションに伝達したり、その伝達を遮断したりするように構成されている。このクラッチ装置100は、サポートプレート10(第1回転体の一例)と、プレッシャプレート20(第2回転体の一例)と、複数のコイルスプリング40と、スプリングシート50とを備える。クラッチ装置100はさらに、クラッチセンタ30、アシストカム機構60及びスリッパカム機構61(図8参照)を備える。
【0020】
[サポートプレート10]
図1及び図2に示すように、サポートプレート10は、円板状の部材であり、プレッシャプレート20よりも、軸方向の第1側に配置されている。サポートプレート10は、中央部に孔10aを有している。また、サポートプレート10は、複数の第1突起部15と、複数の凹部16と、を有する。なお、本実施形態では、サポートプレート10は、3つの第1突起部15と、3つの凹部16と、を有する。
【0021】
複数の第1突起部15は、円周方向に間隔をあけて配置されている。好ましくは、複数の第1突起部15は、円周方向に等間隔で配置されている。第1突起部15は、軸方向の第2側に突出している。第1突起部15は、第1カム用突起18と、第1固定用突起19と、を有している。第1カム用突起18と第1固定用突起19とは、円周方向に配列されている。第1カム用突起18と第1固定用突起19とは、一つの部材として形成されている。
【0022】
第1カム用突起18は、SP・カム面60aを有している。
【0023】
第1固定用突起19の高さは、第1カム用突起18の高さより高い。すなわち、第1固定用突起19の先端面19a(軸方向の第2側の端面)は、第1カム用突起18の先端面18aよりも、軸方向の第2側に位置している。なお、第1固定用突起19の高さとは、軸方向における第1固定用突起19の長さである。
【0024】
第1固定用突起19の中心部には、軸方向に延びる貫通孔19bが形成されている。
【0025】
第1固定用突起19の外側部には、第1固定用突起19の先端面19aよりもさらに軸方向の第2側に突出する位置決め部19cが形成されている。
【0026】
サポートプレート10はさらに、凹部16を有する。凹部16は、サポートプレート10の軸方向の第2側の側面に、所定の深さで形成されている。凹部16は、軸方向に開口する。凹部16は、軸方向視において、円周方向に延びる楕円形である。凹部16は、スプリングシート50を係合するための孔を有していない。
【0027】
[プレッシャプレート20]
図3はプレッシャプレート20をサポートプレート10側から視た図、図4はプレッシャプレート20をサポートプレート10とは逆側から視た図である。図1図3及び図4に示すように、プレッシャプレート20は、円板状の部材である。プレッシャプレート20は、軸方向において、サポートプレート10の第2側に配置されている。
【0028】
プレッシャプレート20は、サポートプレート10及びクラッチセンタ30に対して軸方向に移動自在である。プレッシャプレート20は、中央部に形成されたボス部25と、筒状部21と、押圧部22と、を有している。
【0029】
ボス部25は、軸方向の第1側に突出するように延びている。ボス部25は、サポートプレート10の孔10aを貫通する。ボス部25の中央には、貫通孔21aが形成されている。この貫通孔21aに、図示しないレリーズ部材が挿入される。
【0030】
筒状部21は、径方向において、ボス部25の外側に形成される。筒状部21は、軸方向の第2側に突出している。
【0031】
筒状部21は、円筒状の本体211と、複数の第1歯212と、を有している。第1歯212は、本体211の外周面に形成されている。複数の第1歯212は、本体211の外周面において、軸方向の第1側の端部に設けられている。複数の第1歯212の軸方向長さは、本体211の軸方向長さよりも短い。
【0032】
また、筒状部21は、中央部に形成された概略円形の孔21bと、複数のカム用孔21cと、複数の有底孔21dと、を有している。なお、本実施形態では、筒状部21は、3つのカム用孔21cと、3つの有底孔21dと、を有する。
【0033】
プレッシャプレート20は、アシストカム機構60用のPPa・カム面60bと、スリッパカム機構61用のPPs・カム面61bとを有している。PPa・カム面60b及びPPs・カム面61bは、カム用孔21cを画定する内壁面によって構成されている。PPa・カム面60bと、PPs・カム面61bとは、円周方向において対向している。PPa・カム面60bは、軸方向の第1側を向く。PPs・カム面61bは、軸方向の第2側を向く。
【0034】
有底孔21dは、軸方向の第1側の面から所定の深さで形成されている。図1及び図7に示すように、この有底孔21dに、コイルスプリング40が配置されている。
【0035】
押圧部22は、環状に形成され、プレッシャプレート20の外側部に形成されている。押圧部22は、軸方向の第2側を向く摩擦面を有している。
【0036】
[クラッチセンタ30]
図1に示すように、クラッチセンタ30は、軸方向において、プレッシャプレート20の第2側に配置されている。クラッチセンタ30は略円板状である。クラッチセンタ30は、中央部に形成されたボス部39と、円板部36と、筒状部37と、受圧部38と、を有している。
【0037】
ボス部39は軸方向に延びている。ボス部39の中央部には軸方向に延びるスプライン孔(図示省略)が形成されている。このスプライン孔には、トランスミッションの入力軸(図示省略)が係合する。なお、クラッチセンタ30は、軸方向において移動しない。
【0038】
円板部36は、径方向において、ボス部39から外側に延びている。図1及び図5に示すように、円板部36には、複数の第2突起部35が形成されている。なお、本実施形態では、円板部36は、3つの第2突起部35を有する。複数の第2突起部35は、円板部36の径方向の中間部に、円周方向に間隔をあけて配置されている。第2突起部35は、軸方向の第1側に突出している。また、複数の第2突起部35は、筒状部37の内周面37aから離れて配置されている。第2突起部35の外周面と、筒状部37の内周面37aと、の間には隙間が確保されている。
【0039】
筒状部37は、径方向視で、プレッシャプレート20の筒状部21と重なるように配置されている。また、筒状部37と、第2突起部35と、の間の隙間に、プレッシャプレート20の筒状部21が挿入されるように配置される。
【0040】
受圧部38は、軸方向において、プレッシャプレート20の押圧部22と間隔をあけて配置されている。この受圧部38とプレッシャプレート20の押圧部22との間に、クラッチ部70が配置されている。すなわち、軸方向の第2側から第1側に向かって、受圧部38、クラッチ部70、押圧部22の順に並んでいる。
【0041】
図5に示すように、第2突起部35は、第2カム用突起31と、第2固定用突起32と、を有している。第2カム用突起31と第2固定用突起32とは、円周方向配列されている。第2カム用突起31と第2固定用突起32とは、一つの部材として形成されている。
【0042】
第2カム用突起31は、CC・カム面61aを有している。
【0043】
第2固定用突起32の高さは、第2カム用突起31の高さより高い。すなわち、第2固定用突起32の先端面32a(軸方向の第1側の端面)は、第2カム用突起31の先端面31aよりも、軸方向の第1側に位置している。また、第2固定用突起32の高さは、筒状部37の高さより低い。なお、第2固定用突起32の高さは、軸方向において、第2固定用突起32の長さである。
【0044】
また、第2固定用突起32の中心部には、軸方向に延びるねじ孔32bが形成されている。
【0045】
第2固定用突起32の先端面32aとサポートプレート10の第1固定用突起19の先端面19aとを当接させ、第1固定用突起19の貫通孔19bを貫通するボルト63(図1参照)をクラッチセンタ30の第2固定用突起32のねじ孔32bに螺合することにより、サポートプレート10にクラッチセンタ30が固定される。
【0046】
第2固定用突起32の外周面は、サポートプレート10の位置決め部19cの内周側の面に沿った形状であり、両者は当接している。この両者の当接によって、サポートプレート10はクラッチセンタ30に対して径方向に位置決めされている。
【0047】
筒状部37は、円板部36の外側部から軸方向の第1側に延びて形成されている。筒状部37は、円筒状の本体371と、本体371の外周面に形成された係合用の複数の第2歯372と、を有している。
【0048】
受圧部38は、筒状部37の外側部からさらに外周側に延びて形成されている。受圧部38は、環状であり、軸方向の第1側に摩擦面を有している。この受圧部38は、クラッチ部70と対向している。
【0049】
[コイルスプリング40]
コイルスプリング40は、サポートプレート10の凹部16と、プレッシャプレート20の有底孔21dとの間に配置されている。コイルスプリング40は、凹部16内に配置される。詳細には、コイルスプリング40は、プレッシャプレート20を軸方向の第2側に付勢している。この付勢力によって、クラッチ部70はレリーズ機構が作動していない状態では、クラッチオン状態(動力を伝達する状態)である。
【0050】
[スプリングシート50]
図1及び図7に示すように、スプリングシート50は、凹部16とコイルスプリング40の端面との間に配置される。図6及び図7に示すように、スプリングシート50は、シート部51、及び、突出部52を有する。
【0051】
シート部51は、コイルスプリング40の端面が当接する。詳細には、シート部51の第1面53は、コイルスプリング40の端面に当接している。シート部51の第2面54は、凹部16の底部に当接している。突出部52は、シート部51の第1面53からコイルスプリング40側に延びる円筒状である。シート部51の直径は、突出部52の直径よりも長い。
【0052】
突出部52は、円筒状である。突出部52は、シート部51から軸方向に延びコイルスプリング40内に挿入されている。好ましくは、突出部52は、コイルスプリング40に篏合している。このようにして、スプリングシート50がコイルスプリング40内に固定されている。
【0053】
突出部52の長さL1は、コイルスプリング40の線径L2の2倍超であることが好ましい。突出部52の長さL1がコイルスプリング40の線径L2の2倍超であれば、スプリングシート50がコイルスプリング40から外れにくくなる。突出部52の長さL1は、長ければ長いほどよい。
【0054】
スプリングシート50の素材は特に限定されないが、例えば樹脂製である。第1回転体は、一般にアルミニウム又はその合金で形成されている場合が多い。したがって、スプリングシート50が表面硬度の高い素材である場合、スプリングシート50が第1回転体に接触した状態で両者の間で滑りが発生すると、第1回転体の凹部16が摩耗しやすくなる。
【0055】
スプリングシート50が樹脂製であれば、凹部16の摩耗を低減することができる。詳細には、スプリングシート50を表面硬度の低い樹脂で形成しておくことにより、コイルスプリング40の端面がスプリングシート50との間で滑っても、第1回転体の凹部16の摩耗を抑えることができる。
【0056】
スプリングシート50が樹脂製であればさらに、スプリングシート50の形状を容易に設計できる。
【0057】
[アシストカム機構60及びスリッパカム機構61]
図8に示すように、アシストカム機構60は、サポートプレート10とプレッシャプレート20との軸方向間に配置されている。アシストカム機構60は、プレッシャプレート20及びクラッチセンタ30に駆動力が作用したときに(正側、つまり図8の+R側のトルクが作用したときに)、クラッチ部70の結合力を増加させるための機構である。また、スリッパカム機構61は、プレッシャプレート20とクラッチセンタ30の軸方向間に配置されている。スリッパカム機構61は、クラッチセンタ30及びプレッシャプレート20に逆駆動力が作用したときに(負側、つまり図8の-R側のトルクが作用したときに)、クラッチ部70の結合力を低減させるための機構である。
【0058】
<アシストカム機構60>
アシストカム機構60は、図2及び図3で示すように、サポートプレート10に設けられた複数(ここでは3個)のSP・カム面60aと、プレッシャプレート20に設けられた複数(ここでは3個)のPPa・カム面60bと、を有する。
【0059】
SP・カム面60aはサポートプレート10の第1カム用突起18に形成されている。第1突起部15はプレッシャプレート20のカム用孔21cに挿入されている。そして、円周方向において、第1突起部15の一方の端面にSP・カム面60aが形成されている。
【0060】
PPa・カム面60bは、プレッシャプレート20のカム用孔21cに形成されている。具体的には、カム用孔21cは、円周方向の一方の端面(壁面)にPPa・カム面60bを有している。SP・カム面60aは、円周方向を向くとともに、軸方向の第2側を向くように傾斜している。PPa・カム面60bは、円周方向を向くとともに、軸方向の第1側を向くように傾斜している。そして、このPPa・カム面60bに、SP・カム面60aが当接可能である。
【0061】
<スリッパカム機構61>
スリッパカム機構61は、図4及び図5で示すように、複数(ここでは3個)のクラッチセンタ30に設けられたCC・カム面61aと、複数(ここでは3個)のプレッシャプレート20に設けられたPPs・カム面61bと、を有する。
【0062】
CC・カム面61aはクラッチセンタ30の第2カム用突起31に形成されている。第2突起部35はプレッシャプレート20のカム用孔21cに挿入されている。そして、第2突起部35の円周方向の一方の端面にCC・カム面61aが形成されている。
【0063】
PPs・カム面61bは、プレッシャプレート20のカム用孔21cに形成されている。具体的には、カム用孔21cにおいて、PPa・カム面60bが形成された側面(壁面)と円周方向において対向する逆側の端面(壁面)が、PPs・カム面61bとなっている。ただし、PPa・カム面60bとPPs・カム面61bとは軸方向にずれて形成されている。CC・カム面61aは、円周方向を向くとともに、軸方向の第2側を向くように傾斜している。PPs・カム面61bは、円周方向を向くとともに、軸方向の第1側を向くように傾斜している。そして、このPPs・カム面61bに、CC・カム面61aが当接可能である。
【0064】
[動作]
クラッチ装置100においてレリーズ操作がなされていない状態では、サポートプレート10とプレッシャプレート20とは、コイルスプリング40によって互いに離れる方向に付勢されている。サポートプレート10は、クラッチセンタ30に固定されて軸方向に移動しないため、プレッシャプレート20が軸方向の第2側に移動する。この結果、クラッチ部70がクラッチオン状態となる。
【0065】
このような状態では、エンジンからのトルクがクラッチ部70を介してクラッチセンタ30及びプレッシャプレート20に伝達される。
【0066】
次にアシストカム機構60及びスリッパカム機構61の動作について詳細に説明する。
【0067】
クラッチセンタ30及びプレッシャプレート20に駆動力が作用しているとき、すなわち正側のトルクが作用しているときには、入力されたトルクは、クラッチ部70を介してクラッチセンタ30とプレッシャプレート20に出力される。プレッシャプレート20に入力されたトルクは、アシストカム機構60を介してサポートプレート10に出力される。サポートプレート10に入力されたトルクは、各固定用突起19、32を介してクラッチセンタ30に出力される。このようにしてプレッシャプレート20からサポートプレート10にトルクが伝達されると同時に、アシストカム機構60が作動する。
【0068】
具体的には、駆動力が作用しているときには、サポートプレート10に対してプレッシャプレート20が相対回転する。すると、SP・カム面60aに対してPPa・カム面60bが押圧される。ここで、クラッチセンタ30は軸方向に移動しないために、サポートプレート10も移動せず、SP・カム面60aに沿ってPPa・カム面60bが移動する結果、プレッシャプレート20は軸方向の第2側に移動する。すなわち、プレッシャプレート20の押圧部22は、クラッチセンタ30の受圧部38に向かって移動する。この結果、押圧部22と受圧部38とによってクラッチ部70が強固に挟持されることになり、クラッチの結合力が増加する。
【0069】
一方、アクセルを緩めた場合はクラッチセンタ30を介して逆駆動力が作用し、この場合はスリッパカム機構61が作動する。すなわち、トランスミッション側からのトルクによって、クラッチセンタ30がプレッシャプレート20に対して相対回転する。この相対回転によって、CC・カム面61aとPPs・カム面61bとが互いに押圧される。クラッチセンタ30は軸方向に移動しないために、この押圧により、CC・カム面61aに沿ってPPs・カム面61bが移動し、プレッシャプレート20は軸方向の第1側に移動する。この結果、押圧部22が受圧部38から離れる方向に移動することになり、クラッチの結合力が低減する。
【0070】
以上のような各カム機構60、61の作動時には、クラッチセンタ30及びサポートプレート10と、プレッシャプレート20と、は所定角度相対回転する。すなわち、クラッチセンタ30及びサポートプレート10と、プレッシャプレート20と、の間には、回転方向の位相のずれが発生する。したがって、コイルスプリング40の端面は、相手部材との間で滑ることになる。
【0071】
ここで、サポートプレート10は、一般にアルミニウム又はその合金で形成されている場合が多い。したがって、コイルスプリング40の端面がサポートプレート10に直接接触し、両者の間で滑りが発生すると、サポートプレート10の座面が摩耗しやすくなる。
【0072】
しかし、この実施形態では、コイルスプリング40の端面と、それを支持する第1回転体10の凹部16と、の間にスプリングシート50が配置されているので、上記凹部16の摩耗を抑制することができる。また、スプリングシート50には突出部52が設けられ、この突出部52によってスプリングシート50はコイルスプリング40に取り付けられている。したがって、第1回転体10の凹部16にスプリングシート50を保持させる必要がないため、凹部16を複雑な形状にする必要がなく、簡易化できる。
【0073】
しかも、第1回転体10と第2回転体20とを組み付ける際に、スプリングシート50が上方に位置するような姿勢で組み付けを行っても、スプリングシート50が脱落するのを気にすることなく、組み付けを行うことができる。このため、組み付け作業性が向上する。
【0074】
さらに、第1回転体10の凹部16は楕円形であるため、コイルスプリング40が捩れることがない。詳細には、クラッチセンタ30及びサポートプレート10と、プレッシャプレート20と、が所定角度相対回転するとき、クラッチセンタ30及びサポートプレート10と、プレッシャプレート20と、の間には、回転方向の位相のずれが発生する。このとき、コイルスプリング40の端面が第1回転体10の凹部16に固定されていると、コイルスプリング40が捩れてしまう。コイルスプリング40が捩じれると、スプリングシート50が脱落したり、コイルスプリング40自体が破損する可能性がある。第1回転体10の凹部16が楕円形であれば、相対回転に伴って、第1回転体10側のスプリングコイルの端面が移動する。そのため、コイルスプリング40が捩じれない。
【0075】
次に、ライダーがクラッチレバーを握ると、その操作力はクラッチワイヤ等を介してレリーズ機構(図示せず)に伝達される。このレリーズ機構によって、プレッシャプレート20がコイルスプリング40の付勢力に抗して軸方向の第1側に移動する。プレッシャプレート20が軸方向の第1側に移動すると、プレッシャプレート20のクラッチ部70への押圧力が解除され、クラッチ部70はオフ状態になる。このクラッチオフ状態では、トルクはクラッチセンタ30には伝達されない。
【0076】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0077】
変形例1
図9に示すように、スプリングシート50のシート部51は、中心部に孔を有してもよい。この場合、スプリングシート50の耐久寿命を長くすることができる。詳細には、オイルは樹脂を破損しやすい。シート部51の中心部に孔があれば、孔からオイルを抜くことができ、スプリングシート50内にオイルが滞留するのを防ぐことができる。その結果、スプリングシート50の耐久寿命が長くなる。
【0078】
変形例2
上記実施形態では、第1回転体の一例としてサポートプレート10を、第2回転体の一例としてプレッシャプレート20を例にとって説明した。すなわち、前記実施形態では、プレッシャプレート20を軸方向の第1側に移動させ、クラッチ部70をオフする、いわゆるプルタイプのクラッチ装置100に本発明を適用したが、いわゆるプッシュタイプのクラッチ装置にも本発明を同様に適用することができる。
【0079】
図10にプッシュタイプのクラッチ装置110を示している。
【0080】
プッシュタイプのクラッチ装置110では、第1回転体10はリフタプレート116に、第2回転体20はクラッチセンタ113に、クラッチセンタ30はプレッシャプレート114に相当する。
【0081】
具体的には、プッシュタイプのクラッチ装置110では、軸方向の第1側から第2側に向けて、プレッシャプレート114、クラッチセンタ113、及びリフタプレート116が配置されている。プレッシャプレート114とリフタプレート116とは、クラッチセンタ113に形成された開口113aを通して、ボルト163により互いに固定されている。そして、クラッチセンタ113とリフタプレート116との間に、コイルスプリング119が配置されている。また、プレッシャプレート114の押圧部142と、クラッチセンタ113の受圧部128と、の間に、クラッチ部115が配置されている。これらの各部材は、プルタイプのクラッチ装置100と同様に、クラッチハウジング112の内部に収容されている。
【0082】
クラッチセンタ113は軸方向に移動しないので、コイルスプリング119によってリフタプレート116が軸方向の第1側に付勢されている。すなわち、リフタプレート116に固定されたプレッシャプレート114が軸方向の第1側に付勢され、プレッシャプレート114がクラッチセンタ113に対して押圧されている。このとき、クラッチ部115がオン状態になっている。
【0083】
そして、リフタプレート116及びプレッシャプレート114を、コイルスプリング119の付勢力に抗して軸方向の第2側に移動させることによって、クラッチ部115がオフされる。
【0084】
変形例3
プレッシャプレート20及びクラッチセンタ30の構成は前記実施形態に限定されない。例えば、前記実施形態では、クラッチセンタ30の円板部36、筒状部37、及び受圧部38を一体成形で形成したが、それぞれ別の部材で形成してもよい。また、プレッシャプレート20についても同様であり、ボス部25、筒状部21、及び押圧部22を、それぞれ別の部材で形成してもよい。
【符号の説明】
【0085】
10 サポートプレート(第1回転体)
16 凹部
20、114 プレッシャプレート(第2回転体)
30、113 クラッチセンタ
40 コイルスプリング
50 スプリングシート
51 シート部
52 突出部
100、110 クラッチ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10