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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】天然ゴム架橋物
(51)【国際特許分類】
   C09J 107/00 20060101AFI20240718BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20240718BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240718BHJP
   C08K 5/36 20060101ALI20240718BHJP
   C08C 1/04 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
C09J107/00
C08L7/00
C08K3/04
C08K5/36
C08C1/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019224478
(22)【出願日】2019-12-12
(65)【公開番号】P2021091825
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-10-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021288
【氏名又は名称】国立大学法人長岡技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】村上 佑介
(72)【発明者】
【氏名】上田 博昭
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 望
(72)【発明者】
【氏名】程傲然
(72)【発明者】
【氏名】河原 成元
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-329838(JP,A)
【文献】特開2014-227482(JP,A)
【文献】国際公開第2011/027739(WO,A1)
【文献】特開昭57-055981(JP,A)
【文献】特開2003-040902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/14
C08K 3/00 - 13/08
C09J 107/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ISO 1407に対応するJIS K-6451-2で規定されるケルダール法で測定した窒素含有率がその検出限界である0.001重量%以下であるタンパク質除去天然ゴムおよび硫黄系架橋剤を含有してなるタンパク質除去天然ゴム組成物の架橋物よりなる、水と接触して使用される水系用シール材として使用される、天然ゴム架橋物
【請求項2】
さらにカーボンブラックおよび/または白色充填剤を配合したタンパク質除去天然ゴム組成物が用いられた請求項1記載の天然ゴム架橋物
【請求項3】
カーボンブラックおよび/または白色充填剤が、タンパク質除去天然ゴム100重量部当り90重量部以下の割合で配合されたタンパク質除去天然ゴム組成物が用いられた請求項2記載の天然ゴム架橋物
【請求項4】
カーボンブラックおよび/または白色充填剤が、タンパク質除去天然ゴム100重量部当り35~60重量部の割合で配合されたタンパク質除去天然ゴム組成物が用いられた請求項3記載の天然ゴム架橋物
【請求項5】
JIS K-6258に準拠する、180℃、40時間の耐液性試験後の体積変化率が5%未満である請求項1~4のいずれかの請求項に記載された天然ゴム架橋物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ゴム架橋物に関する。さらに詳しくは、水浸漬時の膨張およびブルーム(白色化)の度合いの小さい天然ゴム架橋物に関する。
【背景技術】
【0002】
水廻りに使用されるゴム材料としては、EPDM、(水素化)NBR、フッ素ゴム等の合成ゴムが一般的であるが、資源の持続可能性などの観点から、植物由来の天然ゴムの使用が望まれる。
【0003】
しかしながら、天然ゴムは親水性のタンパク質をその構造中に含むため、使用時に体積が増大するという課題がみられる。また、配合物が水浸漬時にゴム表面に白く析出し、著しく外観を損ねるという課題もある。
【0004】
天然ゴムからタンパク質を分離したタンパク質フリー天然ゴムが特許文献1に提案されているが、この場合にあってもそのような傾向は依然としてみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO 2011/027739 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、水浸漬時の膨張およびブルーム(白色化)の度合いの小さい天然ゴム架橋物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、ISO 1407に対応するJIS K-6451-2で規定されるケルダール法で測定した窒素含有率がその検出限界である0.001重量%以下であるタンパク質除去天然ゴムおよび硫黄系架橋剤を含有してなるタンパク質除去天然ゴム組成物の架橋物よりなる、水と接触して使用される水系用シール材として使用される、天然ゴム架橋物によって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るタンパク質除去天然ゴムに硫黄系架橋剤を配合したタンパク質除去天然ゴム組成物の架橋物は、水浸漬時の膨張およびブルーム(白色化)の度合いの小さい水と接触して使用される水系用シール材等として使用される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の水浸漬後の外観図である
図2】実施例2の水浸漬後の外観図である
図3】実施例3の水浸漬後の外観図である
図4】実施例4の水浸漬後の外観図である
図5】比較例1の水浸漬後の外観図である
図6】比較例2の水浸漬後の外観図である
【発明を実施するための形態】
【0010】
タンパク質除去天然ゴム組成物は、タンパク質除去天然ゴムおよび硫黄系架橋剤を含有してなる。
【0011】
本発明においてタンパク質除去天然ゴムとは、ケルダール法(ISO 1407に対応するJIS K6451-2準拠;硫酸カリウムと硫酸銅(II)との混合触媒および硫酸を用いて試料を湿式分解し、試料中の窒素を硫酸アンモニウムに変換し、これに強アルカリを加えて遊離したアンモニアを水蒸気蒸留し、ほう酸水溶液に導入した後、硫酸または塩酸で滴定してアンモニア量を求め、その値から窒素含有率を算出する)で測定した窒素含有率が0.05重量%以下、好ましくはその検出限界である0.001%以下の実質的にタンパク質がフリーの天然ゴムを指している。
【0012】
このようなタンパク質除去天然ゴムは、天然ゴムラテックスに尿素系化合物、好ましくは一般式 RNHCONH2 (R:水素原子または炭素数1~5のアルキル基)で表される尿素またはその低級アルキル誘導体、アニオン系、ノニオン系またはカチオン系の界面活性剤および極性有機溶媒、好ましくは炭素数1~5のアルキル基を有する脂肪族アルコール、炭素数3~4のケトン、炭素数1~5の脂肪族カルボン酸、炭素数1~5のアルキル基を有するカルボン酸エステル等の水混和性極性有機溶媒を添加し、該ラテックス中のタンパク質を変性処理した後除去することにより得られる。
【0013】
また、このようなタンパク質除去天然ゴムは、改良ローリー法により測定した固形ゴム中のタンパク質量が0.5μg/g以下のレベルである。
【0014】
ケルダール法(JIS K6451-2):
ケルダールフラスコにゴム0.1g、触媒(硫酸カリウム:硫酸銅(II)・五水和物:セレン=重量比 15:2:1)0.65g、濃硫酸2.5mlを計りとり、ガスバーナーで溶液の色が緑色になるまで30分間程度加熱した。水蒸気蒸留装置を組み立て、容量1Lのフラスコに蒸留水を適量入れ、オイルバスで加熱し、水蒸気で容量300mlの二口フラスコとリービッヒ冷却管を洗浄した。蒸留水20mlを用いて、ケルダールフラスコの中身を二口フラスコ内に移し、67w/v%水酸化ナトリウム水溶液10mlと蒸留水10mlとを二口フラスコ内に加えて蒸気を通し、2w/v%ホウ酸水溶液10mlを入れた三角フラスコを受器としてアンモニアを捕捉した。水蒸気蒸留装置の三角フラスコの内容量が20ml程度になったところで蒸留を止めた。リービッヒ冷却器内を蒸留水で洗い、洗浄液を三角フラスコに流して、メチルレッドを指示薬として0.005mol/L硫酸で滴定してゴム試料中の窒素含有率を求めた。
窒素含有率の算出には、以下の式を用いた。
窒素含有率(%)= V/1000(L)×N(molL-1)×14×2(gmol-1)×1/w(g-1)×100
ここで、Vは0.005mol/L硫酸の滴定量、wはゴムの質量、Nは滴定に用いた0.005mol/L硫酸の濃度にファクター(1.004)を掛け合わせた値である。
【0015】
硫黄系架橋剤としては、可溶性または不溶性の硫黄または含硫黄架橋促進剤が用いられる。硫黄としては、硫黄単体のみならず、高分子硫黄等も用いられる。
【0016】
含硫黄架橋促進剤としては、例えばテトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムジスルフィド等のチウラム系を始め、チアゾール系、スルフェンアミド系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、キサントゲン酸系等の各種含硫黄化合物が用いられる。
【0017】
硫黄または含硫黄架橋促進剤がそれ単独で用いられる場合には、タンパク質除去天然ゴム100重量部当り約0.1~10重量部、好ましくは約0.2~5重量部の割合で用いられ、両者が併用される場合には上記割合の範囲で任意の割合で用いられる。
【0018】
さらに、この場合には、亜鉛華、酸化マグネシウム、リサージ等またはステアリン酸、ステアリン酸亜鉛等の架橋助剤を、タンパク質除去天然ゴム100重量部当り約0.1~10重量部、好ましくは約0.2~5重量部の割合で添加して用いることもできる。
【0019】
また、N-イソプロピル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-オクチル-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジアリル-p-フェニレンジアミン、N-(1,3-ジメチルブチル)-N′-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N′-ジ(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン等のp-フェニレンジアミン系、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のケトン・アミン反応生成物などによって代表される老化防止剤、その他の任意成分も適宜配合して用いられる。
【0020】
タンパク質除去天然ゴム組成物中には、各種の補強剤または充填剤をタンパク質除去天然ゴム100重量部当り約90重量部以下、好ましくは約35~60重量部配合して用いることもできる。補強剤または充填剤の割合は、架橋物の破断強度やモジュラスを改善させるが、これより多い割合での配合は破断伸びや圧縮永久歪特性を損なわせるおそれがある。
【0021】
補強剤または充填剤としては、一般に各種グレードのカーボンブラック、好ましくはFEFカーボンブラック、乾式法または湿式法で製造されたシリカ等の白色充填剤が用いられる。シリカが用いられた場合には、シランカップリング剤も併用されることが好ましい。
【0022】
タンパク質除去天然ゴム組成物の調製は、タンパク質除去天然ゴムおよび他の配合成分を密封型ニーダやオープンロールで混練することにより行われる。
【0023】
タンパク質除去天然ゴム組成物の架橋は、用いられた架橋剤の種類に応じて約140~200℃の加熱プレスで約3~30分間加熱することにより行われる。
【0024】
得られたタンパク質除去天然ゴム組成物の架橋物よりなる天然ゴム架橋物は、水と接触して使用されるゴム製品、特に水系用シール材、例えば水道用シール材等として有効に用いられる。
【実施例
【0025】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0026】
参考例
天然ゴムラテックス(マレーシアゴールデンホープ社製品、豊通ケミプラス輸入品;ゴム分濃度60.2重量%、アンモニア分0.7重量%)100重量部に、ドデシル硫酸ナトリウム1重量部および尿素0.1重量部を加え、室温条件下で90分間攪拌した。
【0027】
その後、ラテックスを15℃、回転数9000rpmの条件下で30分間遠心分離し、上層のクリーム分を分離した。クリーム分に蒸留水を加え、ドデシル硫酸ナトリウム0.5重量部およびアセトン2.5重量部を添加し、1時間撹拌した。
【0028】
この遠心分離と再分散(1%アニオン系界面活性剤-0.025%エタノール水溶液によりゴム分濃度を30重量%にする)の作業を合計3回くり返すことで、タンパク質除去天然ゴムラテックスを調製し、このラテックスを乾燥して、タンパク質除去天然ゴムを得た。
【0029】
得られた天然ゴム〔PFNR〕は、ケルダール法(JIS K-6451-2)で測定した窒素含有率が検出限界である0.001%以下のレベルであり、改良ローリー法により測定したタンパク質量が検出限界である0.5μg/g以下のレベルであった。
【0030】
実施例1
参考例で得られたPFNR 100重量部
FEFカーボンブラック 50 〃
硫黄 1 〃
架橋促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーCZ) 1.25 〃
架橋促進剤(大内新興化学製品ノクセラーTT) 0.63 〃
架橋助剤亜鉛華 5 〃
架橋助剤ステアリン酸 1 〃
老化防止剤(川口化学工業製品アンテージRD) 2 〃
以上の各成分の内、PFNRを密封型ニーダで素練りした後、加硫促進剤以外の配合成分を加えて120℃で混練した。さらに、オープンロールで加硫促進剤を添加、混練して、タンパク質除去天然ゴム組成物を得た。
【0031】
得られたタンパク質除去天然ゴム組成物を、150℃の加熱プレスで架橋し、加硫曲線のt90に該当する時間まで架橋し、厚さ2mmの架橋シートを得た。
架橋シートについて、次の各項目の試験を行った。
体積変化率:JIS K6258(耐液性試験;180℃、40時間)準拠
JIS6号試験片および体積変化測定用2×5cmの試験片をゴムシートか
ら打ち抜き、それぞれ3個を1セットとした。試験管にゴムサンプルを
入れ、イオン交換水を100ml注ぎ入れてアルミニウムホイルで蓋をし
た後、試験管を所定の温度の恒温槽に放置した。試験後の試験片を水
より取り出して、不織布で水分をふき取った。体積は、試験片を水中
につるした時の重さからアルキメデスの原理を用いて算出し、試験前
の体積に対する変化率を算出した。
5%未満を合格、5%以上を不合格と判定
外観:第1図参照
外観明度:ゴム表面を撮影し、画像をHSV空間に分解したときの明度(V)によって
評価
上記耐液性試験で、浸漬前のブルームしていない状態を0、明度100
%を100とした
【0032】
実施例2
実施例1において、硫黄および架橋促進剤ノクセラーCZは用いられなかった。また、架橋促進剤ノクセラーTTは、4重量部に変更された。
【0033】
実施例3
実施例1において、参考例で得られたPFNRの代わりに、同量(100重量部)の脱タンパク質NR(豊通ケミプラス輸入品;窒素含有率0.019重量%)が用いられた。ただし、架橋促進剤ノクセラーCZは1重量部、同ノクセラーTTは0.5重量部に変更された。
【0034】
実施例4
実施例3において、硫黄および架橋促進剤ノクセラーCZは用いられなかった。また、架橋促進剤ノクセラーTTは、4重量部に変更された。
【0035】
比較例1
実施例1において、参考例で得られたPFNRの代わりに、同量(100重量部)の天然ゴム(豊通ケミプラス輸入品;窒素含有率0.480重量%)が同量(100重量部)用いられた。ただし、架橋促進剤ノクセラーCZは0.88重量部、同ノクセラーTTは0.44重量部に変更された。
【0036】
比較例2
比較例1において、硫黄および架橋促進剤ノクセラーCZは用いられなかった。また、架橋促進剤ノクセラーTTは4重量部に変更された。
【0037】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表に示される。



測定項目 実-1 実-2 実-3 実-4 比-1 比-2
体積変化率(%) 2.1 2.1 3.6 2.8 6.0 5.6
同判定 ○ ○ ○ ○ × ×
外観 第1図 第2図 第3図 第4図 第5図 第6図
外観明度(%) 18 20 35 66 69 75
図1
図2
図3
図4
図5
図6