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特許7522554ホスフィン前駆体、ホスフィン前駆体の製造方法、量子ドット製造用前駆体組成物、量子ドットを製造する方法
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  • 特許-ホスフィン前駆体、ホスフィン前駆体の製造方法、量子ドット製造用前駆体組成物、量子ドットを製造する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ホスフィン前駆体、ホスフィン前駆体の製造方法、量子ドット製造用前駆体組成物、量子ドットを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/02 20060101AFI20240718BHJP
   C01B 25/08 20060101ALI20240718BHJP
   C09K 11/70 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
C07F9/02 C CSP
C01B25/08 A
C09K11/70
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019563200
(86)(22)【出願日】2018-05-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 KR2018005627
(87)【国際公開番号】W WO2018212597
(87)【国際公開日】2018-11-22
【審査請求日】2021-04-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】10-2017-0061800
(32)【優先日】2017-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513193923
【氏名又は名称】エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク ジョンホ
(72)【発明者】
【氏名】チェ ヒイル
(72)【発明者】
【氏名】ユン ギョンシル
(72)【発明者】
【氏名】カン ジュシク
(72)【発明者】
【氏名】チャン ユミ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン ナムチョル
(72)【発明者】
【氏名】パク ジェキュン
(72)【発明者】
【氏名】イ ソン
【合議体】
【審判長】井上 典之
【審判官】瀬良 聡機
【審判官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1043311(KR,B1)
【文献】国際公開第2016/080683(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/034280(WO,A2)
【文献】特表2010-535262(JP,A)
【文献】Zeitschrift fuer Anorganische und Allgemeine Chemie、1989年、575、p.39~54
【文献】Journal of Organometallic Chemistry、1978年、153(3)、p.299~304
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C,C09K,C01B
CAPLUS STN,REGISTRY STN
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式のホスフィン前駆体。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載のホスフィン前駆体の製造方法であって、
1級または2級ホスフィン化合物、ハロゲン化炭化水素、および3級アミンの混合物を製造する段階と、
前記混合物にシリルトリフラート化合物を添加する段階とを含む、ホスフィン前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化炭化水素はジクロロメタンであり、前記3級アミンはトリメチルアミンである、請求項2に記載のホスフィン前駆体の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のホスフィン前駆体を含む、量子ドット製造用前駆体組成物。
【請求項5】
トリス(トリメチルシリル)ホスフィン(tris(trimethylsilyl)phosphine)をさらに含む、請求項4に記載の量子ドット製造用前駆体組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のホスフィン前駆体を用いて量子ドットを製造する方法。
【請求項7】
インジウム前駆体、亜鉛前駆体、ミリスチン酸(myristic acid)および1-オクタデセン(1-octadecene)の混合物を加熱する段階と、
前記混合物を常温に冷却する段階と、
冷却された混合物に請求項1に記載のホスフィン前駆体、ガリウム前駆体、および1-オクタデセンを投入して加熱して反応させる段階と、
前記反応物にドデカンチオール(dodecanethiol)を投入し冷却する段階とを含む、請求項6に記載の量子ドットを製造する方法。
【請求項8】
前記請求項1に記載のホスフィン前駆体にさらにトリス(トリメチルシリル)ホスフィン(tris(trimethylsilyl)phosphine)を混合する、請求項7に記載の量子ドットを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2017年5月18日付の韓国特許出願第10-2017-0061800号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、量子ドット製造用ホスフィン前駆体およびこれから製造される量子ドットに関する。
【背景技術】
【0003】
量子ドット(quantum dot、QD)と呼ばれるナノ結晶は、数ナノ~数十ナノサイズの結晶構造を有する物質で、数百から数千個の原子から構成されており、このような特有の結晶構造および粒子大きさにより元の物質が有する物質自体の固有の特性とは異なる独特な電気的、磁気的、光学的、化学的、機械的特性を持つことになる。また、ナノ結晶の大きさを調節することにより前記した特性の調節が可能となる。このような特性により量子ドットは、次世代発光ダイオード(light emitting diode、LED)、有機-無機ハイブリッド電気発光素子、無機電気発光素子、太陽電池、トランジスターなどの各種素子への適用可能性が注目されている。
【0004】
量子ドットにおいて優れた発光スペクトルを確保するためには、高い発光効率と優れた色純度を持つことが要求されるが、色純度は半値幅(full width at half maximum、FWHM)が狭いほど優れていると評価され、量子ドットの結晶サイズが一定になるほど、つまり、均一なサイズの結晶を持つほど狭い半値幅を示す。
【0005】
量子ドットは、特に既存の有機物発光体に比べて発光効率および色再現率が高くて次世代発光素子として脚光を浴びており、その中でも周期律表上のII-VI族化合物を用いた量子ドットの高い発光効率と発光領域を持って最も多くの研究が進められている。
【0006】
InP量子ドットは、可視光線から近赤外線領域まで広範囲な発光領域を有する代表的なIII-V族量子ドットである。しかし、一般にInP量子ドットは、CdSe系の量子ドットと比べて多少低い発光効率と比較的低い色純度を示すので、向上した発光効率を有するInP量子ドットを製造するために多くの研究が行われてきた。
【0007】
InP量子ドットは、リン(phosphorus)前駆体とインジウム(indium)前駆体を反応させて製造するが、その中でリンのソースになる前駆体としては、ホスフィン化合物であるTMSP(tris(trimethylsilyl)phosphine)を使用するのが一般的である。
【0008】
しかし、TMSPは、空気中での爆発危険性が大きく、致命的な毒性を含有しており、TMSPから公知の方法で製造されるInP量子ドットは十分に競争力のある色純度を示すことができないので、TMSPを代替することで、より狭い半値幅を有する量子ドットを製造でき、かつ工程時に安定性が確保されるリン前駆体の開発が要求されている。
【0009】
韓国登録特許第1043311号公報においては、TMSPを代替するリン前駆体としてトリス(ジメチルt-ブチルシリル)ホスフィン(tris(dimethyl tert-butyl)silyl phosphine、P(SiMe-tert-Bu))を用いたInP量子ドットの製造方法が開示されている。
【0010】
しかし、前記トリス(ジメチルt-ブチルシリル)ホスフィンは、TMSPと同様に中心原子のリン(P)に3つの同じリガンド(ジメチルt-ブチルシリル基)を導入した3級ホスフィン(tertiaryphosphine)構造で、TMSPを用いて製造した量子ドットと比べて半値幅が減少する効果が殆どないので、TMSPを代替するのに充分ではなく、より高い色純度を有する量子ドットを製造できる前駆体が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、より均一な結晶サイズを持って高い色純度を示す量子ドットの製造を可能にする、新規なホスフィン前駆体およびこれから製造される量子ドットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、下記化学式1で表される量子ドット製造用ホスフィン前駆体を提供する:
【0013】
【化1】
【0014】
本発明の他の態様は、前記ホスフィン前駆体の製造方法を提供する。
【0015】
本発明のさらに他の態様は、前記ホスフィン前駆体を含む量子ドット製造用前駆体組成物を提供する。
【0016】
本発明のさらに他の態様は、前記ホスフィン前駆体から製造される量子ドットを提供する。
【0017】
本発明のさらに他の態様は、前記ホスフィン前駆体を1種以上用いて量子ドットを製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明による量子ドット製造用ホスフィン前駆体は、従来にInP量子ドットを製造するために一般に使用されるTMSPとは異なり、非対称的なシリルリガンドを含み、前記シリルリガンドに連結された多様な置換基により他の前駆体との反応速度を調節することによって、均一な結晶サイズを有する量子ドットの製造を可能にする。
【0019】
これにより、本発明の前駆体を用いる場合、発光効率が改善され、発光色純度がより高い量子ドットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施例および比較例による量子ドットの発光特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、多様な変更を加えられて様々な形態を有し得るが、特定の実施例を例示し、以下に詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれる全ての変更、均等物乃至代替物を含むものと理解されなければならない。
【0022】
以下、本発明の量子ドット製造用ホスフィン前駆体およびこれから製造される量子ドットについてより詳しく説明する。
【0023】
I.ホスフィン前駆体およびその製造方法
本発明の一実施形態による量子ドット製造用ホスフィン前駆体は、下記化学式1で表される:
【0024】
【化2】
【0025】
量子ドット(quantum dot、QD)と呼ばれるナノ結晶は、数ナノ~数十ナノサイズの結晶構造を有する物質で、数百から数千個の原子から構成されており、特有の結晶構造および粒子大きさにより元の物質が有する物質自体の固有の特性とは異なる独特な電気的、磁気的、光学的、化学的、機械的特性を持つことになる。また、ナノ結晶の大きさを調節することにより前記した特性の調節が可能となる。
【0026】
量子ドットは同じ物質で作られても、ナノ結晶の大きさによって放出する光の色が変わることがある。このような特性により量子ドットは、次世代発光ダイオード(light emitting diode、LED)、有機-無機ハイブリッド電気発光素子、無機電気発光素子、太陽電池、トランジスターなどの各種素子への適用可能性が大きくなり、大きく注目されている。
【0027】
量子ドットにおいて優れた発光スペクトルを確保するためには、高い発光効率と優れた色純度を持つことが要求されるが、色純度は半値幅(full width at half maximum、FWHM)が狭いほど優れていると評価され、量子ドットの結晶サイズが一定になるほど、つまり、均一なサイズの結晶を持つほど狭い半値幅を示す。
【0028】
量子ドットの結晶サイズを調節する因子(factor)としては、反応温度、反応時間などいくつかがあるが、そのうちの一つが、量子ドットを製造するための前駆体間の反応速度を調節することである。
【0029】
このとき、前駆体の反応性が低いほど、つまり、反応速度が遅いほど均一な分布の結晶サイズを有する量子ドットが生成されると一般に知られている。しかし、本発明の発明者らによれば、前駆体の反応性が低いほどこれに必ずしも比例して均一なサイズの量子ドットが生成されるのではなく、前駆体の構造的特徴により予測できない多様な特性を有する量子ドットが製造され得ることを確認し、これに基づいて本発明を完成した。
【0030】
より具体的には、量子ドットの結晶サイズの分布は、前駆体に連結された各リガンドの構造、および前駆体全体としての有機的特性によって変わると考えられ、算術的に単に予測できないことが分かった。
【0031】
そこで、本発明の発明者らは、量子ドット製造のための多様なホスフィン前駆体を用いて量子ドットを製造し、製造された量子ドットの物理的、光学的特性などを評価した結果、下記化学式1のようなホスフィン前駆体によって優れた発光効率および色純度を有する量子ドットを提供できることを確認した。
【0032】
【化3】
【0033】
上記化学式1の量子ドット製造用ホスフィン前駆体は、量子ドット製造用前駆体の用途として知られていない新規な用途の化合物である。
【0034】
上記化学式1のホスフィン前駆体において、リン(P)の3つのリガンド(Q、Q、Q)はアルキル、アリール、アルキルアリール、またはアリールアルキルなどの多様な炭化水素基で置換されたシリルリガンドであり、前記Q、Q、およびQは同じ構造ではなく、3つのリガンドのうち、2つ以上が互いに異なる構造であることを特徴とする。前記シリルリガンドに連結された置換基の種類によって全体前駆体の大きさ(bulkiness)が多様に調節され、これによって量子ドット製造のための他の前駆体との反応で反応性が異なることになる。
【0035】
つまり、上記化学式1の量子ドット製造用ホスフィン前駆体は、従来から知られているTMSPのようにリン(P)に同じ構造の3つのシリルリガンドを含むのではなく、少なくとも2つのリガンドが互いに異なる構造のシリル基である構造で、中心原子のリン(P)に対して非対称的なリガンド構造を示し、このような非対称構造が複合的な反応性を示すようになる。
【0036】
また、本発明の化学式1の量子ドット製造用ホスフィン前駆体は、TMSPより速い反応速度を示し、これによって従来のTMSPを用いた場合よりも低い温度で量子ドットを製造することができる。
【0037】
一方、本発明の一実施形態によれば、前記Q~Qのうちのいずれか一つは、トリメチルシリル基(-SiMe)であるか、または前記Q~Qのうちの2つがトリメチルシリル基でありうる。
【0038】
上記化学式1中、好ましくは、前記R~Rは、それぞれ独立して、炭素数1~6の直鎖アルキル、炭素数3~6の分枝鎖アルキル、または炭素数6~12のアリールでありうる。
【0039】
より好ましくは、前記R~Rは、それぞれ独立して、メチル、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、t-ブチル、iso-ブチル、またはフェニルでありうる。
【0040】
本発明の一実施形態によれば、上記化学式1の化合物は、下記化学式1-1で表される化合物でありうる。
【0041】
【化4】
【0042】
上記化学式1-1中、
’~R’は、それぞれ独立して、同一または異なって炭素数1~20の直鎖または分枝鎖アルキル、炭素数6~30のアリール、炭素数7~30のアルキルアリール、または炭素数7~30のアリールアルキルであり、R’~R’が全てメチルである場合を除く。
【0043】
上記化学式1-1中、好ましくは、前記R’~R’は、それぞれ独立して、炭素数1~6の直鎖アルキル(但し、R’~R’が全てメチルである場合は除外)、炭素数3~6の分枝鎖アルキル、または炭素数6~12のアリールでありうる。
【0044】
より好ましくは、前記R’~R’は、それぞれ独立して、メチル(但し、R’~R’が全てメチルである場合は除外)、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、t-ブチル、iso-ブチル、またはフェニルでありうる。
【0045】
本発明の一実施形態によれば、上記化学式1の化合物は、下記化学式1-2で表される化合物でありうる。
【0046】
【化5】
【0047】
上記化学式1-2中、
’’~R’’は、それぞれ独立して、同一または異なって炭素数1~20の直鎖または分枝鎖アルキル、炭素数6~30のアリール、炭素数7~30のアルキルアリール、または炭素数7~30のアリールアルキルであり、R’’~R’’が全てメチルである場合を除く。
【0048】
上記化学式1-2中、好ましくは、前記R’’~R’’は、それぞれ独立して、炭素数1~6の直鎖アルキル(但し、R’’~R’’が全てメチルである場合は除外)、炭素数3~6の分枝鎖アルキル、または炭素数6~12のアリールでありうる。
【0049】
より好ましくは、前記R’’~R’’は、それぞれ独立して、メチル(但し、R’’~R’’が全てメチルである場合は除外)、エチル、n-プロピル、iso-プロピル、n-ブチル、t-ブチル、iso-ブチル、またはフェニルでありうる。
【0050】
また、本発明の一実施形態によれば、化学式1の化合物は、下記構造式からなる群から選択されるものでありうる:
【0051】
【化6】
【0052】
上記化学式1の量子ドット製造用ホスフィン前駆体は、1級または2級ホスフィン化合物とシリルトリフラート化合物を反応させて製造することができる。
【0053】
より具体的には、本発明の一実施形態による上記化学式1の量子ドット製造用ホスフィン前駆体の製造方法は、
1級ホスフィン化合物、ハロゲン化炭化水素、および3級アミンの混合物を製造する段階と、
前記混合物にシリルトリフラート化合物を添加する段階とを含む。
【0054】
前記製造方法を具体的な反応式で示すと、次の反応式1の通りである:
【0055】
【化7】
【0056】
上記反応式1中、
~Qは、上記化学式1で定義した通りであり、TfOは、トリフルオロメタンスルホニル基(trifluoromethanesulfonate、triflate)を意味する。
【0057】
上記反応式1のように、シリルトリフラート化合物と1級ホスフィンの反応とを行うと、1級ホスフィンの残り水素がそれぞれQおよびQで置換された3級ホスフィン前駆体化合物を得ることができる。
【0058】
本発明の他の一実施形態による上記化学式1の量子ドット製造用ホスフィン前駆体の製造方法は、
2級ホスフィン化合物、ハロゲン化炭化水素、および3級アミンの混合物を製造する段階と、
前記混合物にシリルトリフラート化合物を添加する段階とを含む。
【0059】
前記製造方法を具体的な反応式で示すと、次の反応式2の通りである:
【0060】
【化8】
【0061】
上記反応式2中、
~Qは、上記化学式1で定義した通りであり、TfOは、トリフルオロメタンスルホニル基(trifluoromethanesulfonate、triflate)を意味する。
【0062】
上記反応式2のように、シリルトリフラート化合物と2級ホスフィン化合物との反応を行うと、2級ホスフィンの残り水素がQで置換されて、3級ホスフィン前駆体化合物を得ることができる。
【0063】
本発明の他の一実施形態による上記化学式1の量子ドット製造用ホスフィン前駆体の製造方法は、
1級または2級ホスフィン化合物、エーテル溶媒、およびアルキルリチウムの混合物を製造する段階と、前記混合物にシリルハロゲン化合物を添加する段階とを含む。
【0064】
前記製造方法において、出発物質として2級ホスフィン化合物を用いる場合を具体的な反応式で示すと、次の反応式3の通りである:
【0065】
【化9】
【0066】
上記反応式3中、
~Qは、上記化学式1で定義した通りであり、Xはハロゲンを意味する。
【0067】
前記製造方法において、出発物質として1級ホスフィン化合物を用いる場合を具体的な反応式で示すと、次の反応式4の通りである:
【0068】
【化10】
【0069】
上記反応式4中、
~Qは、上記化学式1で定義した通りであり、XおよびXは、それぞれ独立して、ハロゲンを意味する。
【0070】
前記製造方法で使用される物質に対する具体的な説明は、次の通りである。
【0071】
前記エーテル溶媒は、他の原料と反応性を示さないもので、テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran、THF)を用いることができる。
【0072】
前記アルキルリチウムは、ブチルリチウム(BuLi)を用いることができる。
【0073】
前記ハロゲン化炭化水素は、通常、極性で不発火性物質としてよく知られているが、極性溶媒を使用するかまたは火災危険がある原料を用いる反応性の高い反応では反応溶媒として使用されない。また、一部のハロゲン化炭化水素は分解されて酸性を帯び、酸化反応の酸化剤としても用いられるため、反応性の高い原料を用いる反応ではもっと使用されない。しかし、本発明の製造方法では、前記ハロゲン化炭化水素を反応溶媒として使用する場合、大量工程の安定性を示し、むしろ高収率および高純度で目的とするホスフィン前駆体化合物を得られることを確認した。
【0074】
前記ハロゲン化炭化水素は、二フッ化メタン、三フッ化メタン、四フッ化メタン、四フッ化エタン、五フッ化エタン、六フッ化エタン、二塩化メタン(ジクロロメタン)、クロロホルム、四塩化炭素、四塩化エタン、五塩化エタン、六塩化エタン、六塩化プロパン、七塩化プロパン、八塩化プロパン、二臭化メタン、三臭化メタン、四臭化メタン、四臭化エタン、五臭化エタン、および六臭化エタンからなる群から選択される1種以上であることができるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
前記ハロゲン化炭化水素は、他の原料と反応性を示さず、価格の低廉な塩素で置換されることが好ましい。したがって、ハロゲン化炭化水素は、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、四塩化エタン、五塩化エタン、六塩化エタン、六塩化プロパン、七塩化プロパン、および八塩化プロパンからなる群から選択される1種以上であることができ、より好ましくは、ジクロロメタンまたは四塩化エタンでありうる。
【0076】
前記ハロゲン化炭化水素は、取り扱いの容易さ、反応の安定性、反応収率および製品純度を考慮して、その使用量を適切に調節して使用することができる。
【0077】
前記3級アミンは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、およびフェニルからなる群から選択される1種以上の置換基を含むことができる。
【0078】
前記3級アミンは、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリフェニルアミン、ジメチルエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、メチルジプロピルアミン、メチルエチルプロピルアミン、ジエチルプロピルアミン、エチルジプロピルアミン、およびエチルジイソプロピルアミンからなる群から選択されることができ、好ましくはトリエチルアミンでありうる。
【0079】
前記3級アミンは、シリルトリフラート化合物1モルに対して0.5~2モル当量を用いることができる。
【0080】
II.量子ドット製造用前駆体組成物
本発明の他の一実施形態による量子ドット製造用前駆体組成物は、前記ホスフィン前駆体を含む。
【0081】
前記量子ドット製造用前駆体組成物は、上述した化学式1のホスフィン前駆体を含む。このとき、上記化学式1のホスフィン前駆体は1種だけを含むか、または上記化学式1に該当する2種以上のホスフィン前駆体を含むこともできる。
【0082】
また、本発明の一実施形態によれば、化学式1のホスフィン前駆体に加えて、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン(tris(trimethylsilyl)phosphine)をさらに含むことができる。
【0083】
前記量子ドット製造用前駆体組成物が化学式1のホスフィン前駆体を2種以上含むか、または、トリス(トリメチルシリル)ホスフィンをさらに含む場合、その混合比は特に制限されない。
【0084】
III.量子ドット
本発明の他の一実施形態によれば、前記ホスフィン前駆体から製造される量子ドットを提供する。
【0085】
本発明のまた他の一実施形態によれば、ホスフィン前駆体を1種以上用いて量子ドットを製造する方法を提供する。
【0086】
本発明の化学式1のホスフィン前駆体を用いて製造される量子ドットは、従来ホスフィン前駆体としてTMSPを用いて製造される量子ドットよりも半値幅が狭く、発光効率に優れた効果を示すことができる。
【0087】
本明細書において、“前記前駆体から製造される量子ドット”とは、量子ドットの製造段階におけるどんな段階でも上述した化学式1のホスフィン前駆体の1種以上をリン(phosphorus)のソースとして用いて製造される量子ドットを意味し、量子ドットのサイズ、形態、または構造などに制限されない。
【0088】
本発明の一実施形態によれば、前記量子ドットは、InPを含む量子ドットであってもよい。
【0089】
本発明の他の一実施形態によれば、前記量子ドットは、コア層とシェル層からなるコア/シェル構造の量子ドットであってもよい。より具体的には、前記量子ドットは、InPをコア(core)として含み、ZnSおよび/またはGaPをシェル(shell)として含むコア/シェル構造の量子ドットであってもよい。
【0090】
前記量子ドットは、下記のような製造方法によって製造され得る。
【0091】
例えば、本発明の一実施形態による量子ドットの製造方法は、インジウム前駆体、亜鉛前駆体、ミリスチン酸(myristic acid)、および1-オクタデセン(1-octadecene)の混合物を加熱する段階と、前記混合物を常温に冷却する段階と、冷却された混合物に上述した本発明のホスフィン前駆体を1種以上、ガリウム前駆体、および1-オクタデセンを投入し加熱して反応させる段階と、前記反応物にドデカンチオール(dodecanethiol)を投入し冷却する段階とを含む。
【0092】
より具体的には、InPをコアとして含み、ZnSおよびGaPをシェルとして含む量子ドットを製造する方法をより具体的に説明すれば、まず、ミリスチン酸(myristic acid、MA)と1-オクタデセン(1-octadecene、ODE)の混合物にインジウム前駆体および亜鉛前駆体を添加して100~140℃で加熱する段階を行う(段階1)。
【0093】
前記段階1の混合物を常温に冷却する(段階2)。
【0094】
次に、常温に冷却された前記段階1の混合物に1-オクタデセン、ガリウム前駆体および上述した化学式1のホスフィン前駆体を投入する。上記化学式1のホスフィン前駆体は1種だけを投入するか、または2種以上を混合して投入することもできる。また、化学式1のホスフィン前駆体に加えて、TMSPをさらに混合して使用することもできる。
【0095】
前記混合物を200~320℃の温度で昇温して1~30分間反応させる(段階3)。
【0096】
前記段階3の反応物にドデカンチオール(dodecanethiol、DDT)を投入した後、常温に冷却する(段階4)。
【0097】
常温に冷却された反応物を沈殿させた後、精製してInP/GaP/ZnS量子ドットを得ることができる。
【0098】
前記のように本発明の化学式1のホスフィン前駆体を用いて得られた量子ドットは、均一な結晶サイズ、優れた発光効率および色純度を示すことができる。
【0099】
例えば、本発明のホスフィン前駆体を用いて得られた量子ドットは、他の条件は同様にし、TMSPを単独で用いる場合より量子効率および/または半値幅が約1~約15%まで改善される効果を示すことができる。
【0100】
本発明の一実施形態によれば、本発明のホスフィン前駆体を用いて得られた量子ドットは、35~60nm、または40~60nmの半値幅を示すことができる。
【0101】
また、本発明のホスフィン前駆体を用いて得られた量子ドットは、粒径が2~5nmの範囲でありうる。
【0102】
前記本発明のホスフィン前駆体を用いて得られた量子ドットは、発光ダイオード(light emitting diode、LED)、ディスプレイ、有機-無機ハイブリッド電気発光素子、無機電気発光素子、太陽電池、トランジスターなどの各種素子に多様に適用され得ると期待される。
【0103】
以下、本発明の具体的な実施形態を通じて、本発明の作用および効果をさらに詳述する。ただし、これらの実施形態は本発明の例として提示したものに過ぎず、これによって本発明の権利範囲が決められるのではない。
【0104】
<実施例>
下記の実施例および比較例は全て非活性環境で行った。分析は、無水ベンゼン-D溶媒下で600MHzでNMR分析器を用い、また非活性環境でGC-MSを用いて分析した。反応および分析に用いられたすべての溶媒は、分子篩(molecular sieve)を用いて水分を除去した後、使用した。
【0105】
<ホスフィン前駆体製造の実施例>
実施例1:(t-ブチルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィン((t-butyldimethylsilyl)bis(trimethylsilyl)phosphine)、((t-BuMeSi)(MeSi)P)の合成
【0106】
【化11】
【0107】
段階1:ビス(トリメチルシリル)ホスフィンの製造
窒素雰囲気下、2L容量の丸底三つ口フラスコに、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン30gをジクロロメタン500mlに添加し、0℃に冷却した。0℃冷却を維持した状態でメタノール3.8gを1時間にわたって滴下した。生成されたビス(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(trimethylsilyl)phosphine)を別途の精製過程なしに次の過程で使用した。
【0108】
段階2:(t-ブチルジメチルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィンの製造
前記段階1で製造したビス(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(trimethylsilyl)phosphine)を200mlのMCで希釈し、EtN 35.4gを添加して0℃に冷却した後、t-ブチルジメチルシリルトリフラート(tert-butyldimethyl silyl triflate)32.7gを1時間にわたって滴下した。このように得られた反応物をろ過過程なしに減圧蒸留して目的化合物である(t-ブチルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィン((t-butyldimethylsilyl)bis(trimethylsilyl)phosphine)15.1g(収率:43%)を得た。
【0109】
MS(ESI):[M+H]292
H NMR(600MHz、benzene-d):δ0.95(s、9H)、0.26(d、18H)、0.20(d、6H)
31P NMR(243MHz、benzene-d):δ-261.5(s)
【0110】
実施例2:ビス(t-ブチルジメチルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(t-butyldimethylsilyl)(trimethylsilyl)phosphine)、((t-BuMeSi)(MeSi)P)の合成
【0111】
【化12】
【0112】
段階1:トリメチルシリルホスフィンの製造
窒素雰囲気下、2L容量の丸底三つ口フラスコに、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン30gをジクロロメタン500mlに添加し、0℃に冷却した。0℃冷却を維持した状態でメタノール7.6gを1時間にわたって滴下した。生成されたトリメチルシリルホスフィン(trimethylsilyl phosphine)を別途の精製過程なしに次の過程で使用した。
【0113】
段階2:ビス(t-ブチルジメチルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィンの製造
前記段階1で製造したビス(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(trimethylsilyl)phosphine)を200mlのMCで希釈し、EtN 70.8gを添加して0℃に冷却した後、t-ブチルジメチルシリルトリフラート(tert-butyldimethyl silyl triflate)62.4gを1時間にわたって滴下した。このように得られた反応物をろ過過程なしに減圧蒸留して目的化合物である(t-ブチルジメチルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィン((tert-butyldimethyl silyl)(trimethyl silyl)phosphine)10.2g(収率:25%)を得た。
【0114】
MS(ESI):[M+H]334
H NMR(600MHz、benzene-d):δ0.97(s、18H)、0.30(d、9H)、0.25(d、12H)
31P NMR(243MHz、benzene-d):δ-271.9(s)
【0115】
実施例3:(ジメチルフェニルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィン((dimethylphenylsilyl)bis(trimethylsilyl)phosphine)、((PhMeSi)(MeSi)P)の合成
【0116】
【化13】
【0117】
t-ブチルジメチルシリルトリフラートの代わりにジメチルフェニルシリルトリフラート(dimethylphenyl silyl triflate)34.1gを使用したことを除いては、前記実施例1と同様の方法を用いて、(ジメチルフェニルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィン((dimethylphenylsilyl)bis(trimethylsilyl)phosphine)13.1g(収率:35%)を得た。
【0118】
MS(ESI):[M+H]312
H NMR(600MHz、benzene-d):δ7.60-7.59(m、2H)、7.15-7.05(m、3H)、0.48、(d、6H)、0.15(d、18H)
31P NMR(243MHz、benzene-d):δ-250.8(s)
【0119】
実施例4:ビス(ジメチルフェニルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(dimethylphenylsilyl)(trimethylsilyl)phosphine)、((PhMeSi)(MeSi)P)の合成
【0120】
【化14】
【0121】
t-ブチルジメチルシリルトリフラートの代わりにジメチルフェニルシリルトリフラート(dimethylphenyl silyl triflate)68.2gを使用したことを除いては、前記実施例2と同様の方法を用いて、ビス(ジメチルフェニルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(dimethylphenylsilyl)(trimethylsilyl)phosphine)7.6g(収率:17%)を得た。
【0122】
MS(ESI):[M+H]374
H NMR(600MHz、benzene-d):δ7.56-7.53(m、2H)、7.15-7.05(m、3H)、0.39、(d、12H)、0.01(d、9H)
31P NMR(243MHz、benzene-d):δ-249.4(s)
【0123】
実施例5:(トリスイソプロピルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィン((trisisopropylsilyl)bis(trimethylsilyl)phosphine)、((i-PrSi)(MeSi)P)の合成
【0124】
【化15】
【0125】
段階1:ビス(トリメチルシリル)ホスフィンの製造
窒素雰囲気下、2L容量の丸底三つ口フラスコに、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン30gをTHF 200mlに添加し、0℃に冷却した。0℃冷却を維持した状態でメタノール3.8gを1時間にわたって滴下した。生成されたビス(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(trimethylsilyl)phosphine)を別途の精製過程なしに次の過程で使用した。
【0126】
段階2:(トリスイソプロピルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィンの製造
前記段階1で製造したビス(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(trimethylsilyl)phosphine)混合物を-20℃に冷却した後、hexaneに溶けている2.5M濃度のブチルリチウム(BuLi)38.4mlを20分間にわたって滴下した。ブチルリチウムの滴下終了後、反応溶液の温度を常温まで昇温した後、1時間さらに攪拌した。反応溶液を再び-20℃に冷却した後、トリスイソプロピルシリルクロリド(i-PrSiCl)20.8gを10分間にわたって滴下した。滴下が終了した反応溶液を常温まで昇温し、3時間常温でさらに攪拌して反応を行った。
【0127】
このように得られた反応混合物を濃縮してTHFを除去した後、150mlのヘキサンを入れた。ヘキサン添加後、生成される沈殿物を減圧ろ過して除去した後、濾液を濃縮した。このように得られた反応物を減圧蒸留して目的化合物である(トリスイソプロピルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィン((trisisopropylsilyl)bis(trimethylsilyl)phosphine)28.1g(収率:70%)を得た。
【0128】
MS(ESI):[M+H]334
H NMR(600MHz、benzene-d):δ1.20-1.10(m、21H)、0.30(d、18H)
31P NMR(243MHz、benzene-d):δ-267.4(s)
【0129】
実施例6:ビス(トリスイソプロピルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(trisisopropylsilyl)(trimethylsilyl)phosphine)、((i-PrSi)(MeSi)P)の合成
【0130】
【化16】
【0131】
段階1:トリメチルシリルホスフィンの製造
窒素雰囲気下、2L容量の丸底三つ口フラスコに、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン30gをTHF500mlに添加し、0℃に冷却した。0℃冷却を維持した状態でメタノール7.6gを1時間にわたって滴下した。生成されたトリメチルシリルホスフィン(trimethylsilylphosphine)を別途の精製過程なしに次の過程で使用した。
【0132】
段階2:ビス(トリスイソプロピルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィンの製造
前記段階1で製造したビス(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(trimethylsilyl)phosphine)混合物を-20℃に冷却した後、hexaneに溶けている2.5M濃度のブチルリチウム(BuLi)76.8mlを30分間にわたって滴下した。ブチルリチウムの滴下終了後、反応溶液の温度を常温まで昇温した後、1時間さらに攪拌した。反応溶液を再び-20℃に冷却した後、トリスイソプロピルシリルクロリド(i-PrSiCl)41.6gを10分間にわたって滴下した。滴下が終了した反応溶液を常温まで昇温し、3時間常温でさらに攪拌して反応を行った。
【0133】
このように得られた反応混合物を濃縮してTHFを除去した後、150mlのヘキサンを入れた。ヘキサン添加後、生成される沈殿物を減圧ろ過して除去した後、濾液を濃縮した。このように得られた反応物を減圧蒸留して目的化合物であるビス(トリスイソプロピルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィン((trisisopropylsilyl)bis(trimethylsilyl)phosphine)28.1g(収率:56%)を得た。
【0134】
MS(ESI):[M+H]418
H NMR(600MHz、benzene-d):δ1.15-1.05(m、42H)、0.28(d、9H)
31P NMR(243MHz、benzene-d):δ-273.7(s)
【0135】
実施例7:(イソプロピルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィン((isopropyldimethylsilyl)bis(trimethylsilyl)phosphine)、((i-PrMeSi)(MeSi)P)の合成
【0136】
【化17】
【0137】
段階1:ビス(トリメチルシリル)ホスフィンの製造
窒素雰囲気下、2L容量の丸底三つ口フラスコに、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン30gをTHF200mlに添加し、0℃に冷却した。0℃冷却を維持した状態でメタノール3.8gを1時間にわたって滴下した。生成されたビス(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(trimethylsilyl)phosphine)を別途の精製過程なしに次の過程で使用した。
【0138】
段階2:(トリスイソプロピルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィンの製造
前記段階1で製造したビス(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(trimethylsilyl)phosphine)混合物を-20℃に冷却した後、hexaneに溶けている2.5M濃度のブチルリチウム(BuLi)38.4mlを20分間にわたって滴下した。ブチルリチウムの滴下終了後、反応溶液の温度を常温まで昇温した後、1時間さらに攪拌した。反応溶液を再び-20℃に冷却した後、イソプロピルジメチルシリルクロリド(i-PrMeSiCl)14.8gを10分間にわたって滴下した。滴下が終了した反応溶液を常温まで昇温し、3時間常温でさらに攪拌して反応を行った。
【0139】
このように得られた反応混合物を濃縮してTHFを除去した後、150mlのヘキサンを入れた。ヘキサン添加後、生成される沈殿物を減圧ろ過して除去した後、濾液を濃縮した。このように得られた反応物を減圧蒸留して目的化合物である(イソプロピルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィン((isopropyldimethylsilyl)bis(trimethylsilyl)phosphine)21.7g(収率:65%)を得た。
【0140】
MS(ESI):[M+H]278
H NMR(600MHz、benzene-d):δ1.03(d、6H)、0.93(m、1H)、0.25(d、18H)、0.19(d、6H)
31P NMR(243MHz、benzene-d):δ-259.2(s)
【0141】
実施例8:ビス(イソプロピルジメチルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(isopropyldimethylsilyl)(trimethylsilyl)phosphine)、((i-PrMeSi)(MeSi)P)の合成
【0142】
【化18】
【0143】
段階1:トリメチルシリルホスフィンの製造
窒素雰囲気下、2L容量の丸底三つ口フラスコに、トリス(トリメチルシリル)ホスフ
ィン30gをTHF500mlに添加し、0℃に冷却した。0℃冷却を維持した状態でメタノール7.6gを1時間にわたって滴下した。生成されたトリメチルシリルホスフィン(trimethylsilylphosphine)を別途の精製過程なしに次の過程で使用した。
【0144】
段階2:ビス(トリスイソプロピルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィンの製造
前記段階1で製造したビス(トリメチルシリル)ホスフィン(bis(trimethylsilyl)phosphine)混合物を-20℃に冷却した後、hexaneに溶けている2.5M濃度のブチルリチウム(BuLi)76.8mlを30分間にわたって滴下した。ブチルリチウムの滴下終了後、反応溶液の温度を常温まで昇温した後、1時間さらに攪拌した。反応溶液を再び-20℃に冷却した後、イソプロピルジメチルシリルクロリド(i-PrMeSiCl)29.6gを10分間にわたって滴下した。滴下が終了した反応溶液を常温まで昇温し、3時間常温でさらに攪拌して反応を行った。
【0145】
このように得られた反応混合物を濃縮してTHFを除去した後、150mlのヘキサンを入れた。ヘキサン添加後、生成される沈殿物を減圧ろ過して除去した後、濾液を濃縮した。このように得られた反応物を減圧蒸留して目的化合物である(イソプロピルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィン((isopropyldimethylsilyl)bis(trimethylsilyl)phosphine)18.7g(収率:51%)を得た。
【0146】
MS(ESI):[M+H]306
H NMR(600MHz、benzene-d):δ1.05(d、12H)、0.97(m、2H)、0.26(d、9H)、0.17(d、12H)
31P NMR(243MHz、benzene-d):δ-267.0(s)
【0147】
実施例9:ビス(t-ブチルジメチルシリル)(トリスイソプロピルシリル)ホスフィン(bis(tert-butyldimethylsilyl)(trisisopropylsilyl)phosphine、((t-BuMeSi)(i-PrSi)PH)の合成
【0148】
【化19】
【0149】
段階1:ビス(t-ブチルジメチルシリル)ホスフィン
窒素雰囲気下、2L容量の丸底三つ口フラスコに、常温でt-ブチルジメチルシリルトリフラート(tert-butyldimethyl silyl triflate)100g、およびトリエチルアミン(triethyl amine)61gをジクロロメタン(dichloromethane)1Lに添加し攪拌して混合した。前記混合物の温度を25℃以下に維持しながらホスフィン(phosphine、PH)ガスを、カニューレを通じて3ml/分の速度で投入した。総17gのホスフィンが投入されると、ホスフィン投入を中断した。このように得られた混合物形態の反応物をろ過過程なしに減圧分別蒸留して目的化合物であるビス(t-ブチルジメチルシリル)ホスフィン((bis(tert-butyldimethylsilyl)phosphine)52.4g(収率:50%)を得た。
【0150】
MS(ESI):[M+H]262
H NMR(600MHz、benzene-d):δ0.92(s、18H)、0.14(d、12H)
31P NMR(243MHz、benzene-d):δ-262.2(s)
【0151】
段階2:ビス(t-ブチルジメチルシリル)(トリスイソプロピルシリル)ホスフィンの製造
前記段階1で製造したビス(t-ブチルジメチルシリル)ホスフィン((bis(tert-butyldimethylsilyl)phosphine)52.4gを-20℃に冷却した後、THFに溶けている2.5M濃度のブチルリチウム(BuLi)64mlを30分間にわたって滴下した。ブチルリチウムの滴下終了後、反応溶液の温度を常温まで昇温した後、1時間さらに攪拌した。反応溶液を再び-20℃に冷却した後、トリスイソプロピルシリルクロリド(i-PrSiCl)34.7gを10分間にわたって滴下した。滴下が終了した反応溶液を常温まで昇温し、3時間常温でさらに攪拌して反応を行った。
【0152】
このように得られた反応混合物を濃縮してTHFを除去した後、150mlのヘキサンを入れた。ヘキサン添加後、生成される沈殿物を減圧ろ過して除去した後、濾液を濃縮した。このように得られた反応物を減圧蒸留して目的化合物であるビス(t-ブチルジメチルシリル)(トリスイソプロピルシリル)ホスフィン((bis(tert-butyldimethylsilyl)(trisisopropylsilyl)phosphine)67.9g(収率:81%)を得た。
【0153】
MS(ESI):[M+H]418
H NMR(600MHz、benzene-d):δ1.25-1.15(m、21H)、0.94(s、18H)、0.28(d、12H)
31P NMR(243MHz、benzene-d):δ-288.5(s)
【0154】
<量子ドット製造の実施例>
実施例10
酢酸インジウム(In(Ac))70mg(0.24mmol)、酢酸亜鉛(Zn(Ac))183mg(1mmol)、ミリスチン酸(myristic acid、MA)496mg(2.17mmol)、および1-オクタデセン(1-octadecene、ODE)4mlを、25ml容量の三つ口フラスコに入れた混合溶液1に2時間真空状態で110℃で加熱した。
【0155】
前記混合溶液1を常温に冷却した。常温に冷却された混合溶液1に塩化ガリウム(GaCl)15mgを1-オクタデセン(1-octadecene、ODE)1mlに溶かした注入液を投入した。そして、続いて実施例1で得た(t-ブチルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィン55.5mg(0.19mmol)を1-オクタデセン(1-octadecene、ODE)1mlに溶かした注入液を投入して混合溶液2を製造した。
【0156】
前記混合溶液2を300℃まで昇温した後、10分間300℃で加熱した。
【0157】
ドデカンチオール(dodecanethiol、DDT)0.25ml(1mmol)を前記混合溶液2に投入した後、常温に冷却した。
【0158】
常温に冷却された前記混合溶液2に過剰のメタノールとブタノールの混合溶液を添加して沈殿させた後、ろ過および乾燥してInPをコアとして含み、ZnSおよびGaPをシェルとして含む量子ドット(以下、InP/GaP/ZnS量子ドット)を得た。
【0159】
実施例11
前記実施例10において実施例1の(t-ブチルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィンの代わりに実施例2で得たビス(t-ブチルジメチルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィン63.5mg(0.19mmol)を使用したことを除いては、前記実施例10と同様の方法を用いて、InP/GaP/ZnS量子ドットを製造した。
【0160】
実施例12
前記実施例10において実施例1の(t-ブチルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィンの代わりに実施例3で得た(ジメチルフェニルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィン59.3mg(0.19mmol)を使用したことを除いては、前記実施例10と同様の方法を用いて、InP/GaP/ZnS量子ドットを製造した。
【0161】
実施例13
前記実施例10において実施例1の(t-ブチルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィンの代わりに実施例4のビス(ジメチルフェニルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィン71.1mg(0.19mmol)を使用したことを除いては、前記実施例10と同様の方法を用いて、InP/GaP/ZnS量子ドットを製造した。
【0162】
実施例14
前記実施例10において実施例1の(t-ブチルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィンの代わりに実施例5の(トリスイソプロピルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィン63.5mg(0.19mmol)を使用したことを除いては、前記実施例10と同様の方法を用いて、InP/GaP/ZnS量子ドットを製造した。
【0163】
実施例15
前記実施例10において実施例1の(t-ブチルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィンの代わりに実施例6のビス(トリスイソプロピルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィン79.6mg(0.19mmol)を使用したことを除いては、前記実施例10と同様の方法を用いて、InP/GaP/ZnS量子ドットを製造した。
【0164】
実施例16
前記実施例10において実施例1の(t-ブチルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィンの代わりに実施例7の(イソプロピルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィン52.9mg(0.19mmol)を使用したことを除いては、前記実施例10と同様の方法を用いて、InP/GaP/ZnS量子ドットを製造した。
【0165】
実施例17
前記実施例10において実施例1の(t-ブチルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィンの代わりに実施例8のビス(イソプロピルジメチルシリル)(トリメチルシリル)ホスフィン58.3mg(0.19mmol)を使用したことを除いては、前記実施例10と同様の方法を用いて、InP/GaP/ZnS量子ドットを製造した。
【0166】
実施例18
前記実施例10において実施例1の(t-ブチルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィンの代わりに実施例9のビス(t-ブチルジメチルシリル)(トリスイソプロピルシリル)ホスフィン79.6mg(0.19mmol)を使用したことを除いては、前記実施例10と同様の方法を用いて、InP/GaP/ZnS量子ドットを製造した。
【0167】
比較例1
前記実施例10においてホスフィン前駆体として、実施例1の(t-ブチルジメチルシリル)ビス(トリメチルシリル)ホスフィンを使用せず、トリス(トリメチルシリル)ホスフィン55.6mg(0.19mmol)を使用したことを除いては、前記実施例10と同様の方法を用いて、InP/GaP/ZnS量子ドットを製造した。
【0168】
<実験例>
実験例1:InP/GaP/ZnS量子ドットの光学特性評価
実施例および比較例で製造した量子ドットの光学的特性を調べるために蛍光分光光度計(Perkin Emer-LS55)を用いて、実施例10および比較例1で製造されたInP/GaP/ZnS量子ドットの光学特性を測定してその結果を表1に示す。
【0169】
本発明の実施例10および比較例1による量子ドットの波長による発光グラフを図1に示す。
【0170】
【表1】
【0171】
上記表1のFWHM(full width at half maximum)は、発光ピークの半値幅を意味するもので、半値幅が小さいほどサイズが均一で、純度が高い量子ドットが製造されたことを意味する。
【0172】
比較例1では、公知のホスフィン前駆体であるトリス(トリメチルシリルホスフィン)(TMSP)を用いて量子ドットを製造した。
【0173】
本発明のホスフィン前駆体であるビス(t-ブチルジメチルシリル)ホスフィンを用いて量子ドットを製造した実施例10と、比較例1の量子ドットと半値幅を比べると半値幅が約3%ほど減ったことを確認することができた。したがって、本発明の新規なホスフィン前駆体を用いて量子ドットを製造すれば、サイズが均一で純度が高い、優れた物性の量子ドットを製造できることが分かる。

図1