IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本触媒の特許一覧

<>
  • 特許-無機固体酸化物 図1
  • 特許-無機固体酸化物 図2
  • 特許-無機固体酸化物 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】無機固体酸化物
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/00 20060101AFI20240718BHJP
   C01G 33/00 20060101ALI20240718BHJP
   H01M 4/62 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
C01G23/00 C
C01G33/00 A
H01M4/62 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020039157
(22)【出願日】2020-03-06
(65)【公開番号】P2020180037
(43)【公開日】2020-11-05
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019084406
(32)【優先日】2019-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】水野 弘行
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
(72)【発明者】
【氏名】西畑 良
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/203519(WO,A1)
【文献】特開2011-070789(JP,A)
【文献】特開2014-169193(JP,A)
【文献】特開2020-117416(JP,A)
【文献】国際公開第2013/128677(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/175354(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G
H01M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機固体酸化物と炭素質材料との焼結体である、炭素質で被覆された炭素質コート無機固体酸化物を製造する方法であって、
前記無機固体酸化物が強誘電体であり、
前記炭素質材料がフェノール系化合物を含み、
前記炭素質材料を溶解可能な溶媒中で前記無機固体酸化物と該炭素質材料とを混合し、
前記無機固体酸化物と前記炭素質材料との混合物を焼成処理することにより、該無機固体酸化物を炭素質で被覆する、炭素質コート無機固体酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記無機固体酸化物と前記炭素質材料とを混合するときに、該炭素質材料を前記溶媒に溶解させる、請求項1に記載の炭素質コート無機固体酸化物の製造方法。
【請求項3】
導電性である、請求項1又は2に記載の炭素質コート無機固体酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記炭素質材料がフロログルシノールを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素質コート無機固体酸化物の製造方法。
【請求項5】
前記無機固体酸化物が、チタン及びニオブから選択された少なくとも1種の金属を含有する酸化物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素質コート無機固体酸化物の製造方法。
【請求項6】
前記無機固体酸化物が、ペロブスカイト型酸化物である、請求項1~5のいずれか一項に記載の炭素質コート無機固体酸化物の製造方法。
【請求項7】
前記無機固体酸化物が、チタン酸アルカリ土類金属及びニオブ酸アルカリ金属から選択された少なくとも1種を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の炭素質コート無機固体酸化物の製造方法。
【請求項8】
前記炭素質が、アモルファスカーボン及び/又はグラファイトを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の炭素質コート無機固体酸化物の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒としてアセトンを用いる、請求項1~8のいずれか一項に記載の炭素質コート無機固体酸化物の製造方法。
【請求項10】
前記焼成処理に先立って、前記混合物を予備焼成処理し、予備焼成後の混合物をN-メチルピロリドンで洗浄する、請求項1~9のいずれか一項に記載の炭素質コート無機固体酸化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な無機固体酸化物等に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム(BaTiO)等の無機固体酸化物は、強誘電性等の性質を有しており、このような無機固体酸化物を電極に含有させる技術も知られつつある。
【0003】
例えば、特許文献1には、集電体上に活物質を含む電極合材層が形成されてなる電池用電極において、上記電極合材層は、比誘電率12以上の無機化合物を含有することを特徴とする電極が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-283861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、新規な無機固体酸化物等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記のように、電極に無機固体酸化物を含有させる技術が知られている。なお、このような無機固体酸化物は、通常、非導電性である。
【0007】
このような強誘電性能を示す無機固体酸化物を電極合材に添加すると、放電容量は増加(改善)するものの、電子伝導性が低いため、副作用として直流抵抗が増加するという問題がある。また、活物質を無機固体酸化物で被覆する技術が知られているが、焼結法では、無機固体酸化物で被覆された活物質粒子内でのLiイオンの拡散抵抗が大きくなり、その結果、放電容量が低下するという問題がある。
【0008】
このような中、本発明者は、無機固体酸化物の従来の用途(利用方法)とは全く別の観点で、無機固体酸化物を炭素質で被覆することにより新規な材料が得られることを見出した。このような材料は、極めて意外なことに、電極(特に正極)の構成成分として使用することで、放電容量を効率よく向上又は改善しうること、特に、導電性を示すことができ、導電性を損なうことなく、導電性と放電容量の向上又は改善とを両立できること、その結果、直流抵抗の増加を抑制(改善)しうること等を見出し、さらなる検討を重ねて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の発明等に関する。
[1] 炭素質で被覆された無機固体酸化物(無機固体酸化物を炭素質で被覆(コーティング)した材料)。
[2] 無機固体酸化物と炭素質材料(炭素質原料、炭素質前駆体)との焼結体(焼成物)である、[1]に記載の無機固体酸化物(又は材料)。
[3] 導電性である、[1]又は[2]に記載の無機固体酸化物(又は材料)。
[4] 無機固体酸化物が強誘電体である[1]~[3]のいずれか一つに記載の無機固体酸化物(又は材料)。
[5] 無機固体酸化物が、チタン及びニオブから選択された少なくとも1種の金属を含有する酸化物である、[1]~[4]のいずれか一つに記載の無機固体酸化物(又は材料)。
[6] 無機固体酸化物が、ペロブスカイト型酸化物である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の無機固体酸化物(又は材料)。
[7] 無機固体酸化物が、チタン酸アルカリ土類金属及びニオブ酸アルカリ金属から選択された少なくとも1種を含む、[1]~[6]のいずれか一つに記載の無機固体酸化物(又は材料)。
[8] 炭素質が、アモルファスカーボン及び/又はグラファイトを含む、[1]~[7]のいずれか一つに記載の無機固体酸化物(又は材料)。
[9] 無機固体酸化物を炭素質で被覆し、[1]~[8]のいずれか一つに記載の無機固体酸化物(又は材料)を製造する方法。
[10] 無機固体酸化物と炭素質材料との混合物(無機固体酸化物及び炭素質材料を含む組成物)を焼成(焼結)処理する、[9]に記載の製造方法。
[11] [1]~[8]のいずれか一つに記載の無機固体酸化物を(第1の導電助剤、第1の導電性材料として)含む正極合材。
[12] [1]~[8]のいずれか一つに記載の無機固体酸化物(又は材料)を含む正極活物質層(又は正極活物質層を有する正極)。
[13] [1]~[8]のいずれか一つに記載の無機固体酸化物(又は材料)の割合が、正極活物質層全体に対して0.05~10質量%である、[12]に記載の正極活物質層(又は正極)。
[14] [1]~[8]のいずれか一つに記載の無機固体酸化物(又は材料)の割合が、正極活物質100質量部に対して、0.1質量部以上である、[12]又は[13]に記載の正極活物質層(又は正極)。
[15] さらに、導電助剤(第2の導電助剤、第2の導電性材料)を含み、導電助剤(第2の導電助剤)100質量部に対する、[1]~[8]のいずれか一つに記載の無機固体酸化物(第1の導電助剤、第1の導電性材料)の割合が、0.1~95質量部である、[12]~[14]のいずれか一つに記載の正極活物質層(又は正極)。
[16] 正極活物質層の塗工質量(例えば、正極合材の塗工質量)が10mg/cm以上である[12]~[15]のいずれか一つに記載の正極活物質層(又は正極)。
[17] リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を含有し、リチウムイオン二次電池に用いるための、[12]~[16]のいずれか一つに記載の正極活物質層(又は正極)。
[18] [12]~[17]のいずれか一つに記載の正極活物質層(又は正極)を備えた電池。
[19] さらに、リチウム塩を含有する電解液を備えた、リチウムイオン二次電池である、[18]に記載の電池。
[20] リチウム塩が、LiPF及びリチウムビス(フルオロスルホニル)イミドから選択された少なくとも1種を含む、[19]に記載の電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、新規な無機固体酸化物等を提供できる。このような無機固体酸化物(材料)は、炭素質で被覆されており、特に、本発明の一態様では、このような炭素質で被覆された無機固体酸化物で、電極(特に正極)を構成することにより、無機固体酸化物を配合しない場合に比べて、放電容量[特に、塗工質量との関係で、比較的高い電気量ないし電流(例えば、1C以上)における放電容量]を改善又は向上しうる。
【0011】
また、本発明の別の態様では、上記のような炭素質で被覆された無機固体酸化物は、導電性を示す無機固体酸化物を得ることができ、電極(正極等)を構成する導電性材料(導電助剤)等として使用しうる。そして、このように電極(特に正極)を構成することにより、導電性材料ないし導電助剤の一部又は全部と置換しても導電性を損なうことがなく、特に、導電性と放電容量の改善又は向上とを効率良く両立しうる。
【0012】
無機固体酸化物(炭素質で被覆された無機固体酸化物)と、放電容量(さらには導電性、導電性と放電容量との両立)との関係については、従来知られておらず、このような知見が得られたことは極めて意外である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1で得られた炭素質コート無機固体酸化物のラマン分析結果である。
図2】実施例2で得られた炭素質コート無機固体酸化物のラマン分析結果である。
図3】実施例3で得られた炭素質コート無機固体酸化物のラマン分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[炭素質で被覆された無機固体酸化物]
本発明の無機固体酸化物は、炭素質で被覆(コーティング、コート)されている。換言すれば、本発明の材料(新規材料)は、炭素質で被覆(コーティング)した無機固体酸化物ということができる。このような材料は、無機固体酸化物と炭素質との複合材料(コンポジット)であってもよい。
【0015】
このような無機固体酸化物(以下、炭素質コート無機固体酸化物等ということがある)は、炭素質で被覆されており、被覆の形態等にもよるが、特に、導電性を有してもよい(導電性材料であってもよい)。
【0016】
(無機固体酸化物)
無機固体酸化物としては、特に限定されないが、通常、絶縁体[誘電体、常温(例えば、15~35℃)において絶縁体]であってもよく、特に強誘電体であってもよい。
【0017】
無機固体酸化物の比誘電率は、例えば、15以上、好ましくは20以上、さらに好ましくは100以上、特に好ましくは200以上であってもよい。
【0018】
無機固体酸化物の比誘電率の上限値は、特に限定されないが、例えば、5000等が挙げられる。
【0019】
なお、比誘電率は、所定の温度[例えば、常温(15~35℃)]における値であってもよい。
【0020】
無機固体酸化物は、ペロブスカイト型構造を有していてもよい(ペロブスカイト型酸化物であってもよい)。このようなペロブスカイト型酸化物は、ABO(式中、A及びBは互いに異なる元素を示す)で表される酸化物である。
【0021】
無機固体酸化物は、例えば、典型元素[例えば、アルカリ土類金属又は周期表第2族元素(例えば、マグネシウム等)、周期表第12族元素(例えば、亜鉛、カドミウム等)、周期表第13族元素(例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム等)、周期表第15族元素(例えば、アンチモン等)]、遷移元素[例えば、周期表第3族元素(例えば、スカンジウム等)、周期表第4族元素(例えば、チタン、ジルコニウム、ハフニウム等)、周期表第5族元素(例えば、バナジウム、ニオブ、タンタル等)、周期表第6族元素(例えば、クロム、モリブデン、タングステン等)、周期表第7族元素(例えば、マンガン等)、周期表第9族元素(例えば、コバルト等)、周期表第10族元素(例えば、ニッケル等)、周期表第11族元素(例えば、銅等)等]等の元素を少なくとも含む酸化物であってもよい。
【0022】
これらの中でも、特に、無機固体酸化物は、チタン及びニオブから選択された少なくとも1種の元素(金属)を含む酸化物であってもよい。
【0023】
なお、このような酸化物において、上記元素は、ペロブスカイト型酸化物の元素Bであってもよい。
【0024】
ペロブスカイト型酸化物において、元素Aとしては、特に限定されないが、例えば、典型元素[例えば、アルカリ金属又は周期表第1族元素(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属又は周期表第2族元素(例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、周期表第12族元素(例えば、カドミウム等)、周期表第15族元素(例えば、ビスマス等)]、遷移元素[例えば、周期表第3族元素(例えば、ランタノイド等)等]等から選択された少なくとも1種の元素等であってもよい。
【0025】
これらの中でも、特に、無機固体酸化物(ペロブスカイト型酸化物)は、元素Aとして、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、バリウム、ストロンチウム等)等を有する酸化物であってもよい。
【0026】
具体的な無機固体酸化物としては、例えば、チタン酸化物[例えば、例えば、チタン酸カルシウム(CaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、チタン酸バリウム(BaTiO)等のチタン酸アルカリ土類金属、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O)等]、ジルコニウム酸化物[例えば、BaZrO等]、ニオブ酸化物[例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、ニオブ酸ナトリウム(NaNbO)、ニオブ酸カリウム(KNbO)のニオブ酸アルカリ金属等]、タンタル酸化物(例えば、LiTaO等)、スズ酸化物(例えば、CaSnO、BaSnO等)等が挙げられる。無機固体酸化物は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0027】
これらの中でも、チタン酸化物(例えば、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等のチタン酸アルカリ土類金属)、ニオブ酸化物(例えば、ニオブ酸リチウム等のニオブ酸アルカリ金属)等を好適に使用してもよい。
【0028】
無機固体酸化物(又は炭素質で被覆された無機固体酸化物)の形状は、特に限定されないが、通常、粒子状であってもよい。
【0029】
このような粒子状の無機固体酸化物(又は炭素質で被覆された無機固体酸化物)の平均粒子径は、例えば、0.001~30μm、好ましくは0.01~10μm、さらに好ましくは0.1~1μmであってもよい。
【0030】
なお、平均粒子径は、例えば、レーザー回折/散乱式粒度分布計(例えば、日機装社製、マイクロトラックMT-3300EX2)を用いて、無機固体酸化物を所定の分散媒(例えば、1質量%NaCl水溶液)に分散させた分散液における測定値(粒子径、分散径)であってもよい。
【0031】
無機固体酸化物(又は炭素質で被覆された無機固体酸化物)の平均粒子径は、後述する正極活物質層の厚み以下であってもよく、例えば、正極活物質層の厚みの1倍以下、0.9倍以下、0.8倍以下、0.7倍以下、0.6倍以下、0.5倍以下、0.4倍以下などであってもよい。
【0032】
(炭素質、炭素質で被覆された無機固体酸化物及びその製造方法)
無機固体酸化物は炭素質で被覆されている。このような炭素質で被覆された無機固体酸化物によれば、効率よく充放電容量を向上できる等の効果が得られうる。この理由は定かではないが、例えば、正極活物質層では、通常、正極活物質ないしそのイオン(例えば、リチウムイオン)の濃度勾配が生じるが、そうすると、充放電容量が低下しやすくなると考えられる。しかし、炭素質で被覆された無機固体酸化物を配合することで、正極活物質ないしそのイオン(例えば、リチウムイオン)の移動度が増加し、このような濃度勾配が抑制ないし緩和される(そのため充放電深度が深くなる)ことで、充放電容量が改善するものと考えられる。
【0033】
被覆の形態は、特に限定されず、無機固体酸化物に炭素質が付着(物理的又は化学的に付着)する形態等であってもよいが、特に、無機固体酸化物と炭素質材料(炭素質の原料又は前駆体)との焼結体の形態で被覆していてもよい。
【0034】
このような被覆の形態では、無機固体酸化物(例えば、無機固体酸化物の表面)と炭素質とが一体化(コンポジット化)していてもよく、例えば、アモルファス状の炭素質及び/又はグラフェン(グラファイト)状の炭素質で無機固体酸化物を被覆しやすい。
【0035】
炭素質(無機固体酸化物を被覆する炭素質)としては、被覆の形態に応じて適宜選択できるが、例えば、導電性炭素材料(例えば、黒鉛、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭素繊維等)等であってもよく、特に、アモルファスカーボン(不定形炭素、無定形炭素)、グラファイト(又はグラファイト状又はグラファイト層、例えば、グラフェン)であってもよい。無機固体酸化物は、1種又は2種以上の(異なる)炭素質で被覆されていてもよい。
【0036】
このような無機固体酸化物と一体化する態様で炭素質を被覆することで、導電性を有する無機固体酸化物を得やすい(無機固体酸化物に導電性を発現ないし付与しやすい)。また、導電性を効率よく発現しつつ、放電容量を改善ないし向上しやすい。
【0037】
なお、無機固体酸化物と炭素質が一体化していること(例えば、アモルファスカーボン層やグラファイト層の形成)や導電性を有することは、公知の方法により確認できる。例えば、炭素質の存在又は形成(炭素化の進行)は、ラマン分析等により確認しうる。
【0038】
より具体的な態様では、例えば、炭素質[例えば、アモルファスカーボン(アモルファスカーボンを含む炭素質で被覆された無機固体酸化物)]は、ラマン分析(ラマンスペクトル)において、特定のバンド(ラマンバンド)[例えば、Gバンド(例えば、1550cm-1~1650cm-1等の1580cm-1又はその付近を含むバンド)、Dバンド(例えば、1300cm-1~1400cm-1等の1350cm-1又はその付近を含むバンド)、G’バンド(例えば、2650cm-1~2750cm-1の範囲内)、D+D’バンド(例えば、2800cm-1~3000cm-1の範囲内)、2D’バンド(例えば、3100cm-1~3300cm-1の範囲内)から選択された少なくとも1つのバンド(特に、少なくともGバンド及び/又はDバンド)]を示してもよい。
【0039】
なお、グラファイト(グラファイト自体)は、ラマン分析(ラマンスペクトル)において、1580cm-1付近にバンド(単一のバンド)を示してもよく、グラファイトを一部に含む炭素質(例えば、アモルファスカーボン及びグラファイトを含む炭素質)では、この1580cm-1を含むバンド(例えば、Gバンド)を示してもよい。
【0040】
炭素質は、無機固体酸化物の少なくとも一部を被覆(又は無機固体酸化物の少なくとも一部と一体化)していればよく、無機固体酸化物(又はその表面)の全部を被覆していてもよく、一部を被覆していて(又は被覆していない部分を有していて)もよい。
【0041】
炭素質の割合は、特に限定されず、ごく少量ないし微量(例えば、検出限界以下)であってもよいが、無機固体酸化物100質量部に対して、例えば、0.01質量部以上(例えば、0.02質量部以上)、好ましくは0.05質量部以上(例えば、0.07質量部以上)、さらに好ましくは0.1質量部以上(例えば、0.12質量部以上)であってもよく、0.15質量部以上、0.2質量部以上、0.3質量部以上、0.5質量部以上、0.7質量部以上、0.8質量部以上、1質量部以上等であってもよい。
【0042】
なお、炭素質の割合の上限値は、特に限定されず、例えば、無機固体酸化物100質量部に対して、1000質量部、800質量部、500質量部、300質量部、200質量部、100質量部、80質量部、50質量部、30質量部、20質量部、10質量部、5質量部、3質量部等であってもよい。
【0043】
炭素質の割合は、特に限定されず、ごく少量ないし微量(例えば、検出限界以下)であってもよいが、無機固体酸化物及び炭素質の総量(炭素質で被覆された無機固体酸化物)に対して、0.01質量%以上(例えば、0.02質量%以上)、好ましくは0.05質量%以上(例えば、0.07質量%以上)、さらに好ましくは0.1質量%以上(例えば、0.12質量%以上)程度であってもよく、0.15質量%以上、0.2質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、0.7質量%以上、0.8質量%以上、1質量部%以上等であってもよい。
【0044】
なお、炭素質の割合の上限値は、特に限定されず、例えば、無機固体酸化物及び炭素質の総量(炭素質で被覆された無機固体酸化物)に対して、99.9質量%、99.5質量%、99質量%、95質量%、90質量%、80質量%、70質量%、60質量%、50質量%、40質量%、30質量%、20質量%、10質量%、8質量%、5質量%、3質量%、2質量%以下、1.5質量%、1質量%、0.5質量%等であってもよい。
【0045】
炭素質の厚み(炭素質で形成された被覆層の厚み)は、特に限定されず、ごく薄い厚み(例えば、検出限界以下)であってもよいが、例えば、0.2nm以上(例えば、0.3nm~100μm)、好ましくは0.5nm以上(例えば、0.6~50μm)、さらに好ましくは0.6nm以上(例えば、0.7nm~30μm)程度であってもよい。
【0046】
なお、炭素質の割合や厚みは、例えば、TGA(熱重量分析)等により測定・算出してもよい。例えば、炭素質の割合は、TGA分析にて重量変化(重量減少)を測定することで算出・算定してもよく、炭素質の厚み(平均厚み)は、当該重量変化と無機固体酸化物の表面積[(平均)粒子径から求められる(平均)表面積]及び炭素質の密度に基づいて算出・算定してもよい。
【0047】
本発明の無機固体酸化物(炭素質コート無機固体酸化物)は、無機固体酸化物を被覆(コーティング、コート)することで製造できる。
【0048】
被覆方法としては、炭素質の被覆の態様に応じて選択でき、例えば、無機固体酸化物に炭素質を塗布する方法[例えば、炭素質を付着する(まぶす)方法、炭素質を含む溶媒組成物を無機固体酸化物に塗布(スプレー等)ないし浸漬する(さらに必要に応じて乾燥させる)方法等]等であってもよく、特に、無機固体酸化物と炭素質材料との混合物[無機固体酸化物と炭素質材料を含む組成物、炭素質材料が付着した(炭素質材料が被覆された)無機固体酸化物]を焼成処理(炭化処理)する方法であってもよい。このような焼成処理により、無機固体酸化物に炭素質を効率よく一体化(コンポジット化、グラファイト層を形成)しやすい。
【0049】
炭素質材料としては、炭素質を形成可能な材料(炭素含有材料)であれば、特に限定されず、有機材料(有機化合物)、例えば、樹脂又はポリマー{例えば、ビニル系樹脂[例えば、ビニルアルコ-ル系樹脂(例えば、ポリビニルアルコール等)、アミド系樹脂(例えば、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等)、アミン系樹脂(例えば、ポリエチレンイミン等)、ハロゲン含有樹脂(例えば、ポリ塩化ビニル等)等]、フェノール樹脂、フラン樹脂、エポキシ樹脂、セルロース系樹脂[例えば、セルロース、セルロース誘導体(例えば、セルロースエーテル、セルロースエステル等)等]、ピッチ系材料(例えば、ピッチ等)等}、低分子ないし非ポリマー型成分{例えば、芳香族化合物[例えば、フェノール系化合物(例えば、フェノール、フロログルシノール等)等]、タール等}等が挙げられる。炭素質材料(炭素質の前駆体、炭素前駆体)は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0050】
炭素質材料は、無機固体酸化物の分解点(分解温度)以下の温度で炭素化する材料であってもよい。換言すれば、炭素質材料の炭素化温度は、無機固体酸化物の分解点以下であってもよい。なお、炭素化温度は、その種類(例えば、低分子化合物、ポリマー等)にかかわらず、TG-DTA分析(熱重量示差熱分析)分析等により測定しうる。無機固体酸化物の分解点も、同様にTG-DTA分析(熱重量示差熱分析)分析等により測定しうる。
【0051】
また、炭素質材料は、効率よく炭素質で被覆する等の観点から、溶媒に対して可溶性であってもよい。
【0052】
無機固体酸化物と炭素質材料との混合物は、これらを混合することで得ることができ、混合方法は特に限定されない。例えば、溶媒中(溶媒の存在下)で、無機固体酸化物と炭素質材料とを混合し、溶媒を除去することで混合物を得てもよい(無機固体酸化物に炭素質材料を付着させてもよい)。
【0053】
溶媒としては、炭素質材料の種類等に応じて適宜選択でき、特に限定されず、例えば、後述の溶媒(水、有機溶媒等)等を使用してもよい。溶媒は、炭素質材料を溶解可能な溶媒であってもよく、炭素質材料を溶解してもよい。
【0054】
混合物は、焼成に先立って、予備焼成(炭素化、予備炭化)処理してもよい。このような予備焼成は、混合物中の不純物(例えば、溶媒、低分子成分等)を除去するための工程であってもよい。また、予備焼成は、炭素質材料の炭素化度合いを調整するための工程であってもよい。なお、予備焼成では、後述の除去を効率良く行いうるよう、適宜条件を調整してもよい。
【0055】
予備焼成において、予備焼成温度は、炭素質材料の種類等に応じて選択でき、例えば、650℃以下(例えば、150~600℃)、好ましくは550℃以下(例えば、200~500℃)、さらに好ましくは450℃以下(例えば、250~400℃)等であってもよい。
【0056】
予備焼成は、通常、非酸化性雰囲気下(窒素、ヘリウム、アルゴン中など)で行ってもよい。
【0057】
予備焼成は、撹拌下で行ってもよい。また、予備焼成は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
【0058】
予備焼成時間は、炭素質材料の種類等に応じて適宜選択でき、特に限定されず、例えば、10分以上、20分以上、30分以上等であってもよい。
【0059】
なお、予備焼成後、必要に応じて、過剰な炭素質材料(無機固体酸化物に付着ないしコートしなかった炭素質材料)を除去してもよい。除去(分離)方法としては、特に限定されず、予備焼成物(予備焼成後の混合物)を適当な溶媒(後述の溶媒等)で洗浄する方法等が挙げられる。
【0060】
焼成(炭化)処理において、焼成温度は、炭素質材料の種類等に応じて選択できるが、例えば、500℃以上(例えば、500~4000℃)、好ましくは550℃以上(例えば、550~3000℃)、さらに好ましくは600℃以上(例えば、600~2500℃)等であってもよく、650℃以上(例えば、650~2000℃)等であってもよい。なお、焼成温度の上限値は、特に限定されず、炭素化(導電性)の観点からは高温であってもよいが、無機固体酸化物としての機能を効率良く担保・実現するという観点からは、無機固体酸化物の分解点(分解温度)以下(又は耐熱温度)であってもよい。
【0061】
焼成は、通常、非酸化性雰囲気下(窒素、ヘリウム、アルゴン中など)で行ってもよい。
【0062】
焼成は、撹拌下で行ってもよい。また、焼成は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
【0063】
焼成時間は、炭素質材料の種類等に応じて適宜選択でき、特に限定されず、例えば、10分以上、30分以上、60分以上、120分以上等であってもよい。
【0064】
(炭素質で被覆された無機固体酸化物の用途等)
炭素質コート無機固体酸化物は、例えば、電極の構成成分(電極を構成する成分)として使用できる。特に、電極の中でも、正極の構成成分とすることで、放電容量等を向上又は改善しうる。
【0065】
また、導電性を有する炭素質コート無機固体酸化物は、導電性材料として使用できる。そのため、このような無機固体酸化物は、電極等を構成する導電性材料として使用できる。
【0066】
[炭素質コート無機固体酸化物で被覆された正極活物質]
本発明の別の態様では、本発明の正極活物質は、粒子状の炭素質コート無機固体酸化物で被覆(コーティング、コート)されている。換言すれば、本発明の材料は、炭素質コート無機固体酸化物で被覆(コーティング)した正極活物質ということができる。このような材料は、炭素質コート無機固体酸化物と正極活物質との複合材料(コンポジット)であってもよい。
【0067】
なお、粒子状の炭素質コート無機固体酸化物は、正極活物質の少なくとも一部を被覆(又は無機固体酸化物の少なくとも一部と一体化)していればよく、正極活物質(又はその表面)の全部を被覆していてもよく、一部を被覆していて(又は被覆していない部分を有していて)もよい。
【0068】
正極活物質を被覆するときに用いる粒子状の炭素質コート無機固体酸化物としては、前記した無機固体酸化物と同様のものを使用してもよく、ニオブ酸化物(例えば、ニオブ酸リチウム等のニオブ酸アルカリ金属)等を好適に使用してもよい。
【0069】
ここで、本発明者は、炭素質コート無機固体酸化物の平均粒子径が小さいほど、放電容量に与える影響が大きい、即ち放電容量をより一層改善又は向上しうることを見出した。
【0070】
正極活物質を被覆するときに用いる粒子状の炭素質コート無機固体酸化物の平均粒子径は、例えば、5μm以下、好ましくは2μm以下、より好ましくは1μm以下であってもよい。なお、下限値は、特に限定されず、例えば、0.001μm以上である。
【0071】
炭素質コート無機固体酸化物で被覆された正極活物質の平均粒子径は、正極活物質層の厚み以下であってもよく、例えば、正極活物質層の厚みの1倍以下、0.9倍以下、0.8倍以下、0.7倍以下、0.6倍以下、0.5倍以下、0.4倍以下などであってもよい。
【0072】
炭素質の割合や厚みは、前記と同様の割合や厚みであってもよい。
【0073】
正極活物質を粒子状の炭素質コート無機固体酸化物で被覆する方法としては、炭素質コート無機固体酸化物の被覆の態様に応じて選択できる。例えば、正極活物質に粒子状の炭素質コート無機固体酸化物を塗布する方法[例えば、炭素質コート無機固体酸化物を付着する(まぶす)方法、炭素質コート無機固体酸化物を含む溶媒組成物を正極活物質に塗布(スプレー等)ないし浸漬する(さらに必要に応じて乾燥させる)方法等]等であってもよく、特に、正極活物質と炭素質コート無機固体酸化物材料との混合物[正極活物質と炭素質コート無機固体酸化物材料を含む組成物、炭素質コート無機固体酸化物材料が付着した(炭素質コート無機固体酸化物材料が被覆された)正極活物質]を焼成処理する方法であってもよい。このような焼成処理により、正極活物質に該無機固体酸化物を効率よく一体化(コンポジット化)しやすい。
【0074】
正極活物質と炭素質コート無機固体酸化物との混合物は、これらを混合することで得ることができ、混合方法は特に限定されない。例えば、溶媒中(溶媒の存在下)で、正極活物質と炭素質コート無機固体酸化物とを混合し、溶媒を除去することで混合物を得てもよい(正極活物質に炭素質コート無機固体酸化物材料を付着させてもよい)。
【0075】
溶媒としては、炭素質コート無機固体酸化物材料の種類等に応じて適宜選択でき、特に限定されず、例えば、後述の溶媒(水、有機溶媒等)等を使用してもよい。溶媒は、無機固体酸化物材料を溶解可能な溶媒であってもよく、無機固体酸化物材料を溶解してもよい。
【0076】
焼成処理において、焼成温度は、炭素質コート無機固体酸化物材料の種類等に応じて選択できるが、例えば、500℃以上(例えば、500~4000℃)、好ましくは550℃以上(例えば、550~3000℃)、さらに好ましくは600℃以上(例えば、600~2500℃)等であってもよく、650℃以上(例えば、650~2000℃)等であってもよい。なお、焼成温度の上限値は、特に限定されず、炭素質コート無機固体酸化物としての機能を効率良く担保・実現するという観点からは、炭素質コート無機固体酸化物の分解点(分解温度)以下(又は耐熱温度)であってもよい。
【0077】
焼成は、通常、非酸化性雰囲気下(窒素、ヘリウム、アルゴン中など)で行ってもよい。
【0078】
焼成は、撹拌下で行ってもよい。また、焼成は、常圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。
【0079】
焼成時間は、炭素質材料の種類等に応じて適宜選択でき、特に限定されず、例えば、10分以上、30分以上、60分以上、120分以上等であってもよい。
【0080】
以上により、本発明の別の態様では、平均粒子径5μm以下の粒子状である炭素質コート無機固体酸化物で被覆された正極活物質(正極活物質を該炭素質コート無機固体酸化物で被覆(コーティング)した材料)であってもよい。また、この正極活物質(又は材料)は、該炭素質コート無機固体酸化物がニオブ酸アルカリ金属を含むものであってもよい。
【0081】
以下、代表的な態様として、正極を構成する態様について詳述する。
【0082】
[正極]
正極は、正極活物質層を有している。このような正極活物質層は、例えば、後述するように、正極合材(正極活物質を含む正極合材)を用いて[例えば、正極合材(正極活物質組成物)の塗工(塗布)により]形成されうる。
【0083】
本発明では、この正極活物質層(又は正極合材)に、炭素質コート無機固体酸化物を含有させることを特徴とする。
【0084】
(正極活物質)
正極活物質としては、各種イオン(リチウムイオン、ナトリウムイオン等)を吸蔵・放出可能であれば良く、例えば、従来公知の二次電池(リチウムイオン二次電池やナトリウムイオン二次電池)等で使用される正極活物質等を用いることができる。
【0085】
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質(例えば、リチウムイオン二次電池の活物質)としては、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、LiNi1-x-yCoMnやLiNi1-x-yCoAl(0≦x≦1、0≦y≦1)で表される三元系酸化物などの遷移金属酸化物、LiAPO(A=Fe、Mn、Ni、Co)などのオリビン構造を有する化合物、遷移金属を複数取り入れた固溶材料(電気化学的に不活性な層状のLiMnOと、電気化学的に活性な層状のLiMO(M=Co、Niなどの遷移金属)との固溶体)、LiCoMn1-x(0≦x≦1)、LiNiMn1-x(0≦x≦1)、LiAPOF(A=Fe、Mn、Ni、Co)などのフッ化オリビン構造を有する化合物、硫黄などを用いることができる。これらを単独で使用してもよく、複数組み合わせて使用してもよい。
【0086】
ナトリウムイオンを吸蔵・放出可能な活物質(例えば、ナトリウムイオン二次電池の活物質)としては、NaNiO、NaCoO、NaMnO、NaVO、NaFeO、Na(NiMn1-X)O(0<X<1)、Na(FeMn1-X)O(0<X<1)、NaVPOF、NaFePOF、Na(PO等が挙げられる。これらを単独で使用してもよく、複数組み合わせて使用してもよい。
【0087】
正極活物質は単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0088】
これらの中でも、特に、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を好適に使用してもよい。このような正極活物質は、例えば、非水系電解液を利用したリチウムイオン二次電池等に使用される。このような非水系は、水系に比べて、通常、イオン伝導度が低いが、本発明では、このような場合であっても、効率よく放電容量の改善等を効率よく実現しうる。
【0089】
(他の成分)
正極活物質層(正極合材)は、他の成分(正極活物質及び炭素質コート無機固体酸化物以外の成分)を含んでいてもよい。
【0090】
このような他の成分としては、特に限定されないが、例えば、導電助剤(導電物質、導電性材料)、炭素質コートされていない無機固体酸化物、結着剤等が挙げられる。
【0091】
導電助剤としては、例えば、カーボンブラック(例えば、アセチンブラック等)、グラファイト、カーボンナノチューブ(例えば、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ等)、炭素繊維(例えば、気相法炭素繊維等)、金属粉末材料等が挙げられる。導電助剤は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0092】
なお、導電性を有する炭素質コート無機固体酸化物は、それ自体、導電助剤(導電性材料)として使用しうる。このような場合、上記導電助剤(導電性材料)は、炭素質コート無機固体酸化物でない導電助剤(導電性材料)ということができる。このような場合、炭素質コート無機固体酸化物は第1の導電助剤(第1の導電性材料)、上記導電助剤(炭素質コート無機固体酸化物でない導電助剤)は、第2の導電助剤(第2の導電性材料)ということができる。
【0093】
結着剤(バインダー)としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;スチレン-ブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム等の合成ゴム;ポリアミドイミド等のポリアミド系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリ(メタ)アクリル系樹脂;ポリアクリル酸;カルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂;等が挙げられる。結着剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0094】
(正極活物質層)
正極活物質層において、正極活物質の割合(正極合材のうち固形分全体に対する正極活物質の割合)は、例えば、50質量%以上(例えば、60質量%以上、70質量%以上)程度の範囲から選択してもよく、75質量%以上(例えば、80質量%以上)、好ましくは85質量%以上(例えば、88質量%以上)、さらに好ましくは90質量%以上であってもよい。
【0095】
なお、正極活物質層において、正極活物質の割合の上限値は、特に限定されないが、例えば、99.5質量%、99質量%、98.5質量%、98質量%、97.5質量%、97質量%、96質量%、95質量%、94質量%、93質量%等であってもよい。
【0096】
なお、これらの下限値と上限値とを適宜組み合わせて適当な範囲(例えば、90~99質量%等)を設定してもよい(他も同じ)。
【0097】
正極活物質層において、炭素質コート無機固体酸化物の存在形態は、特に限定されず、正極活物質を被覆する形態(正極活物質との焼結体等)、正極活物質に含有(ドープ)する形態、正極活物質と分離して存在する形態、これらが混在した形態等のいずれであってもよく、特に、コスト面や効率よく放電容量を向上又は上昇させる等の観点から、正極活物質と分離した形態であってもよい。
【0098】
正極活物質層において、炭素質コート無機固体酸化物(又は炭素質コート無機固体酸化物で被覆された正極活物質における該炭素質コート無機固体酸化物、以下同じ)の割合は、例えば、0.01質量%以上(例えば、0.05質量%以上)程度の範囲から選択してもよく、0.1質量%以上(例えば、0.2質量%以上)、好ましくは0.3質量%以上(例えば、0.4質量%以上)、さらに好ましくは0.5質量%以上(例えば、0.7質量%以上、0.8質量%以上等)であってもよい。
【0099】
なお、正極活物質層において、炭素質コート無機固体酸化物の割合の上限値は、特に限定されないが、例えば、20質量%、19質量%、18質量%、17質量%、16質量%、15質量%、14質量%、13質量%、12質量%、11質量%、10質量%、9質量%、8質量%、7質量%、6質量%、5質量%、4質量%、3質量%、2質量%、1.5質量%等であってもよい。
【0100】
炭素質コート無機固体酸化物の割合は、例えば、正極活物質100質量部に対して、0.01質量部以上(例えば、0.05質量部以上)程度の範囲から選択してもよく、0.1質量部以上(例えば、0.2質量部以上)、好ましくは0.3質量部以上(例えば、0.4質量部以上)、さらに好ましくは0.5質量部以上(例えば、0.7質量部以上、0.8質量部以上、0.9質量部以上、1質量部以上等)であってもよい。
【0101】
なお、正極活物質100質量部に対する、炭素質コート無機固体酸化物の割合の上限値は、特に限定されないが、例えば、20質量部、19質量部、18質量部、17質量部、16質量部、15質量部、14質量部、13質量部、12質量部、11質量部、10質量部、9質量部、8質量部、7質量部、6質量部、5質量部、4質量部、3質量部、2質量部、1.5質量部等であってもよい。
【0102】
正極活物質層が導電助剤(炭素質コート無機固体酸化物でない導電助剤)を含む場合、正極活物質層において、導電助剤(第2の導電助剤、第2の導電性材料)の割合は、例えば、0.1質量%以上(例えば、0.2質量%以上)程度の範囲から選択してもよく、0.3質量%以上(例えば、0.4質量%以上)、好ましくは0.5質量%以上(例えば、0.8質量%以上)、さらに好ましくは1質量%以上(例えば、1.2質量%以上、1.5質量%以上、1.8質量%以上、2質量%以上、2.2質量%以上、2.5質量%以上等)であってもよい。
【0103】
なお、正極活物質層が導電助剤(炭素質コート無機固体酸化物でない導電助剤)を含む場合、正極活物質層において、導電助剤(第2の導電助剤、第2の導電性材料)の割合の上限値は、特に限定されないが、例えば、30質量%、29質量%、28質量%、27質量%、26質量%、25質量%、24質量%、23質量%、22質量%、21質量%、20質量%、19質量%、18質量%、17質量%、16質量%、15質量%、14質量%、13質量%、12質量%、11質量%、10質量%、9質量%、8質量%以下、7質量%、6質量%、5質量%、4質量%等であってもよい。
【0104】
正極活物質層が導電助剤(第2の導電助剤、第2の導電性材料)を含む場合、炭素質コート無機固体酸化物(第1の導電助剤、第1の導電性材料)の割合は、例えば、導電助剤(第2の導電助剤、第2の導電性材料)100質量部に対して、0.01質量部以上(例えば、0.02質量部以上)程度の範囲から選択してもよく、0.03質量部以上(例えば、0.05質量部以上)、好ましくは0.1質量部以上(例えば、0.15質量部以上)、さらに好ましくは0.2質量部以上(例えば、0.25質量部以上、0.3質量部以上等)であってもよく、0.5質量部以上、1質量部以上、3質量部以上、5質量部以上、10質量部以上、15質量部以上、20質量部以上、25質量部以上、30質量部以上等であってもよい。
【0105】
なお、正極活物質層が導電助剤(第2の導電助剤、第2の導電性材料)を含む場合、導電助剤(第2の導電助剤、第2の導電性材料)100質量部に対する、炭素質コート無機固体酸化物(第1の導電助剤、第1の導電性材料)の割合の上限値は、特に限定されないが、例えば、2000質量部、1500質量部、1200質量部、1000質量部、900質量部、800質量部、700質量部、600質量部、500質量部、400質量部、300質量部、200質量部、150質量部、100質量部、95質量部、90質量部、85質量部、80質量部、70質量部、60質量部、50質量部等であってもよい。
【0106】
正極活物質層が結着剤を含む場合、正極活物質層において、結着剤の割合は、例えば、0.1質量%以上(例えば、0.2質量%以上)程度の範囲から選択してもよく、0.3質量%以上(例えば、0.4質量%以上)、好ましくは0.5質量%以上(例えば、0.8質量%以上)、さらに好ましくは1質量%以上(例えば、1.2質量%以上、1.5質量%以上、1.8質量%以上、2質量%以上、2.2質量%以上、2.5質量%以上等)であってもよい。
【0107】
なお、正極活物質層が結着剤を含む場合、正極活物質層において、結着剤の割合の上限値は、特に限定されないが、例えば、30質量%、29質量%、28質量%、27質量%、26質量%、25質量%、24質量%、23質量%、22質量%、21質量%、20質量%、19質量%、18質量%、17質量%、16質量%、15質量%、14質量%、13質量%、12質量%、11質量%、10質量%、9質量%、8質量%以下、7質量%、6質量%、5質量%、4質量%等であってもよい。
【0108】
正極活物質層の塗工質量は、特に限定されず、例えば、1mg/cm以上(例えば、1~5mg/cm)等であってもよい。特に、本発明では、正極活物質層の塗工質量を比較的大きい量、例えば、5mg/cm以上(例えば、6mg/cm以上、7mg/cm以上、8mg/cm以上、9mg/cm以上)程度、通常、10mg/cm以上(例えば、12mg/cm以上)、好ましくは15mg/cm以上(例えば、16mg/cm以上)、さらに好ましくは17mg/cm以上(例えば、18mg/cm以上)であってもよく、19mg/cm以上、20mg/cm以上、21mg/cm以上、22mg/cm以上、23mg/cm以上、24mg/cm以上、25mg/cm以上、28mg/cm以上、30mg/cm以上、32mg/cm以上、35mg/cm以上、38mg/cm以上、40mg/cm以上、42mg/cm以上、45mg/cm以上、48mg/cm以上、50mg/cm以上等とすることもできる。
【0109】
このような比較的大きい塗工質量とすることで、炭素質コート無機固体酸化物による、放電容量の改善ないし向上効果等を効率よく得やすいようである。この理由は定かではないが、塗工質量が大きい程、前記のような正極活物質層における正極活物質ないしそのイオン(例えば、リチウムイオン)の濃度勾配がより大きくなり、そのため、充放電容量の低下の程度もより大きくなると考えられる。しかし、炭素質で被覆された無機固体酸化物を配合することで、濃度勾配を効率よく抑制ないし緩和できるため、充放電容量の改善効果がより顕著に現れるものと考えられる。
【0110】
なお、正極活物質層の塗工質量の上限値は、特に限定されないが、例えば、200mg/cm、180mg/cm、150mg/cm、120mg/cm、100mg/cm、90mg/cm、80mg/cm、70mg/cm以上、60mg/cm、55mg/cm、50mg/cm、45mg/cm、40mg/cm、35mg/cm、30mg/cm等であってもよい。
【0111】
正極活物質層の厚みは、正極活物質層における各成分の割合等に応じて適宜選択できるが、10μm以上(例えば、12μm以上)程度の範囲から選択してもよく、例えば、15μm以上(例えば、15μm以上)、好ましくは20μm以上(例えば、21μm以上)、さらに好ましくは25μm以上(例えば、26μm以上)等であってもよく、30μm以上(例えば、35μm以上、38μm以上、40μm以上、42μm以上、45μm以上、48μm以上、50μm以上等)であってもよい。
【0112】
なお、正極活物質層の厚みの上限値は、特に限定されないが、例えば、500μm、300μm、250μm、200μm、180μm、150μm、120μm、100μm、80μm、70μm、60μm、50μm、40μm等であってもよい。
【0113】
正極活物質層(正極)の電極密度は、例えば、2g/cc以上(例えば、2.1g/cc以上、2.4g/cc以上)、好ましくは2.5g/cc以上(例えば、2.6g/cc以上、2.9g/cc以上)、さらに好ましくは3.0g/cc以上(例えば、3.1g/cc以上)等であってもよい。
【0114】
正極活物質層(正極)の電極密度の上限値は、特に限定されないが、例えば、4g/cc、3.9g/cc、3.8g/cc、3.7g/cc、3.6g/cc等であってもよい。
【0115】
(正極活物質層の形成方法及び正極)
正極活物質層は、例えば、正極合材(正極材料)を用いて(代表的には、塗工(塗布)することで)形成できる。このような正極合材は、正極活物質層の構成成分を含んでいる。
【0116】
すなわち、正極合材は、炭素質コート無機固体酸化物(第1の導電助剤、第1の導電性材料)を含んでいればよく、通常、さらに、正極活物質(さらには、導電助剤(第2の導電助剤、第2の導電性材料)、結着剤等の他の成分)を含んでいてもよい。
【0117】
正極合材は、正極活物質層の形成方法に応じて、溶媒を含んでいてもよい。なお、このような溶媒を含む正極合材において、各成分は、溶媒に溶解状態であっても、溶媒に分散した状態であってもよい。
【0118】
溶媒(各成分を分散または溶解する溶媒)としては特に限定されず、従来公知の各材料を用いることができ、例えば、窒素含有溶媒[例えば、ラクタム類(例えば、N-メチルピロリドン)、アミド類(又は鎖状アミド類、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド)等]、ケトン類[例えば、鎖状ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)等]、エーテル類[例えば、環状エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン等)等]、アルコール類(例えば、エタノール等)、エステル類(例えば、酢酸エチル等)、カーボネート類(例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート等)、水等が挙げられる。溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0119】
溶媒の使用量は特に限定されず、製造方法や、使用する材料に応じて適宜決定すればよい。
【0120】
溶媒を含む正極合材において、固形分(溶媒以外の成分)の割合(濃度)は、例えば、10質量%以上(例えば、11質量%以上、15質量%以上)、好ましくは20質量%以上(例えば、21質量%以上、25質量%以上)、さらに好ましくは30質量%以上(例えば、31質量%以上、35質量%以上)程度であってもよい。該割合(濃度)の上限値は、特に限定されないが、例えば、99質量%、95質量%、90質量%、85質量%、80質量%等であってもよい。
【0121】
正極活物質層は、正極合材を用いて形成できる。正極は、通常、正極活物質層と正極集電体と(正極集電体上に形成された正極活物質層)を備えていてもよい。このような正極活物質層は、代表的には、正極合材を正極集電体に塗工(塗布)することで正極活物質層を形成してもよい。
【0122】
正極集電体の材料としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、SUS(ステンレス鋼)、チタン等の導電性金属が使用できる。
【0123】
なお、正極(正極集電体)の形状は、特に限定されないが、例えば、シート状であっても(シート状に成形されていても)よい。
【0124】
正極活物質層の形成方法(塗工方法)は、特に限定されず、例えば、(i)正極合材を正極集電体に慣用の塗布法(例えば、ドクターブレード法等)で塗布(さらには乾燥)する方法、(ii)正極集電体を正極合材に浸漬(さらには乾燥)する方法、(iii)正極合材で形成されたシートを正極集電体に接合(例えば、導電性接着剤を介して接合)し、プレス(さらには乾燥)する方法、(iv)液状潤滑剤を添加した正極合材を正極集電体上に塗布又は流延して、所望の形状に成形した後、液状潤滑剤を除去する(さらには、次いで、一軸又は多軸方向に延伸する)方法、(v)正極合材(又は正極活物質、無機固体酸化物、導電助剤等の正極活物質層を形成する固形分)を電解液でスラリー化し、半固体状態として集電体(正極集電体)に転写し、乾燥させずに電極(正極)として使用する方法等が挙げられる。
【0125】
なお、正極合材(正極活物質層)は、必要に応じて、形成又は塗工(塗布)後、乾燥してもよく、加圧(プレス)してもよい。
【0126】
なお、このような方法[塗工(塗工工程)]において、塗工質量を前記範囲となるようにする(調整する)ことで、より一層効率よく、炭素質コート無機固体酸化物による、放電容量の改善ないし向上効果等を効率よく得やすいようである。
【0127】
[正極の用途]
正極は、例えば、電池(充放電機構を有する電池)、蓄電(電気化学)デバイス(又はこれらを構成するイオン伝導体の材料)等に用いることができる。
【0128】
具体的には、正極は、例えば、一次電池、二次電池(例えば、リチウム(イオン)二次電池)、燃料電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池、エレクトロクロミック表示素子等を構成する正極として使用しうる。
【0129】
以下、電池(特にリチウムイオン二次電池)を例に挙げて説明する。電池は、正極及び負極を少なくとも含んでいる。
【0130】
(負極)
負極は、負極活物質を含んでおり、負極活物質層を形成してもよい。このような負極は、負極活物質そのもの(例えば、リチウム金属等)で構成されていてもよく、負極集電体と負極活物質層とで構成されていてもよい。このような負極活物質層は、例えば、負極合材(負極活物質を含む負極合材)を用いて[例えば、負極合材(負極活物質組成物)の塗工(塗布)により]形成される。より具体的には、負極活物質層[又は負極活物質を含む負極合材(負極活物質組成物)]が、負極集電体状に形成(負極集電体に担持)されてなるものであってもよく、通常、シート状に成形されていてもよい。
【0131】
負極活物質としては、各種電池(例えば、リチウム二次電池)等で使用される従来公知の負極活物質等を用いることができ、各種イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵・放出可能なものであればよい。
【0132】
具体的には、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛材料、石炭、石油ピッチから作られるメソフェーズ焼成体、難黒鉛化性炭素等の炭素材料、Si、Si合金、SiO等のSi系負極材料、Sn合金等のSn系負極材料、リチウム金属、リチウム-アルミニウム合金等のリチウム合金を用いることができる。負極活物質は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0133】
負極合材は、さらに、導電助剤(導電物質)、結着剤、溶媒等を含んでいてもよい。導電助剤、結着剤、溶媒等としては、前記と同様の成分を使用できる。また、その使用割合等も前記と同様である。
【0134】
なお、負極(又は負極合材)は、炭素質コート無機固体酸化物や、炭素質コートされていない無機固体酸化物を含んでいてもよいが、電池性能の観点から、(実質的に)含んでいなくてもよい。
【0135】
負極集電体の材料としては、例えば、銅、鉄、ニッケル、銀、ステンレス鋼(SUS)等の導電性金属を用いることができる。
【0136】
負極の製造方法としては、正極の製造方法と同様の方法を採用してもよい。
【0137】
(電解液)
電池は、電解液を備えていてもよい。電解液は、少なくとも電解質を含んでいる。電解質としては、特に限定されず、電解液において使用される電解質を使用できる。なお、電解液は、正極活物質層又は正極合材に含まれていてもよい。
【0138】
このような電解質としては、使用目的等に応じて適宜選択でき、アニオンとカチオンとの塩(電解質塩)を使用できる。
【0139】
アニオンとしては、例えば、ホウ素系イオン[例えば、BF 、BF(CF 、B(CN) 、B1212-x(式中、Xは12未満の数)等]、リン系イオン{例えば、PF 、PF(C2n+16-m (式中、mは1~5、nは1以上を示す)で表されるイオン[例えば、PF(CF 、PF(C 、PF(C 、PF(C 等]、PF 等}、アンチモン系イオン(例えば、SbF 等)、ヒ素系イオン(例えば、AsF 等)、過塩素酸イオン(ClO )、チオシアン酸イオン(NCS)、アルミニウム系イオン(例えば、AlCl 、AlF 等)、スルホン酸系イオン(例えば、CFSO 、FSO 等)、メチド系イオン(例えば、C[(CFSO等)、ジニトロアミンアニオン((ON))、シアナミドイオン(例えば、N[(CN)等)、トリアゾラートイオン(例えば、ジシアノトリアゾラートイオン等)、イミドイオン{例えば、フルオロスルホニルイミドイオン[例えば、ビス(フルオロスルホニル)イミドイオン;(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド等の(フルオロスルホニル)(フルオロアルキルスルホニル)イミド(例えば、フルオロスルホニル)(フルオロC1-6アルキルスルホニル)イミド)のイオン]、フルオロアルキルスルホニルイミドイオン[例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド等のビス(フルオロアルキルスルホニル)イミド(例えば、ビス(フルオロC1-6アルキルスルホニル)イミド)等のイオン]等のフッ素含有スルホニルイミドイオン}等が挙げられる。
【0140】
カチオンとしては、例えば、金属イオン[又は金属カチオン、例えば、アルカリ金属イオン(例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン等)、アルカリ土類金属イオン(例えば、ベリリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン等)、アルミニウムイオン等]、アンモニウムイオン(例えば、テトラエチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオン等の第4級アンモニウムイオン)、ホスホニウムイオン(例えば、テトラメチルホスホニウムイオン等の第4級ホスホニウムイオン)等が挙げられる。
【0141】
電解質において、アニオンとカチオンの組み合わせは特に限定されず、上記のアニオンとカチオンのいずれの組み合わせであってもよい(いずれの組み合わせで塩を形成してもよい)。
【0142】
具体的な電解質としては、例えば、リチウム塩[例えば、LiBF、LiBF(CF、LiB1212-x、LiPF、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(C、LiPF(C、LiSbF、LiAsF、LiClO、LiSCN、LiAlF、CFSOLi、LiC[(CFSO]、LiN(NO)、LiN[(CN)]、FSOLi、PFLi、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド等]、非リチウム塩[例えば、これらのリチウム塩においてリチウム(イオン)を他の金属(イオン)に置換した塩(例えば、NaBF、NaPF、NaPF(CF、ナトリウムビス(フルオロスルホニル)イミド、ナトリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ナトリウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド等)等]等}が挙げられる。電解質は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0143】
これらの中でも、LiPF、LiFSI等が特に好ましい。このような電解質は、イオン伝導性が高く、炭素質で被覆された無機固体酸化物(さらには、比較的大きい塗工質量の正極活物質層)との組み合わせにおいて、効率よく充放電容量等を向上又は改善しやすいようである。
【0144】
電解液は、溶媒を含んでいてもよい。溶媒としては、特に限定されず、用途等に応じて選択でき、例えば、鎖状カーボネート[例えば、ジアルキルカーボネート(例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)などのジC1-4アルキルカーボネート)、アルキルアリールカーボネート(例えば、炭酸メチルフェニル等のC1-4アルキルフェニルカーボネート)、ジアリールカーボネート(例えば、炭酸ジフェニル)等]、環状カーボネート[例えば、飽和環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、2,3-ジメチル炭酸エチレン、炭酸1,2-ブチレン等のアルキレンカーボネート(例えば、C2-6アルキレンカーボネート)、エリスリタンカーボネート等)、不飽和環状カーボネート(例えば、炭酸ビニレン、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート等のアルケニレンカーボネート;2-ビニル炭酸エチレン)、フッ素含有環状カーボネート(例えば、フルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート)等]等のカーボネート類;鎖状エーテル類[例えば、アルカンジオールジアルキルエーテル(例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル等)、ポリアルカンジオールジアルキルエーテル(例えば、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ-テル)等]、環状エーテル類[例えば、テトラヒドロフラン類(例えば、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,6-ジメチルテトラヒドロフラン)、テトラヒドロピラン類(例えば、テトラヒドロピラン)、ジオキサン類(例えば、1,4-ジオキサン)、ジオキソラン類(例えば、1,3-ジオキソラン)、クラウンエーテル等]等のエーテル類;鎖状エステル類[例えば、芳香族カルボン酸エステル類(例えば、安息香酸メチル、安息香酸エチル)等]、環状エステル類[又はラクトン類、例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン等]等のエステル(カルボン酸エステル)類;リン酸アルキルエステル(例えば、リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル)等のリン酸エステル類;脂肪族ニトリル(例えば、アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2-メチルグルタロニトリル、バレロニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル等)、芳香族ニトリル類(例えば、ベンゾニトリル、トルニトリル)等のニトリル類;スルホン類(例えば、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン等)、スルホラン類(例えば、スルホラン、3-メチルスルホラン、2,4-ジメチルスルホラン)等のイオウ含有溶媒;ニトロメタン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン等を挙げることができる。溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0145】
これらの溶媒のうち、カーボネート類、エーテル類、エステル類等が代表的であり、特に、鎖状カーボネート(例えば、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート)、環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート)、ラクトン(例えば、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン)等を好適に使用してもよい。
【0146】
電解液が溶媒を含む場合、電解液中の電解質の割合(濃度)は、特に限定されないが、例えば、0.5M(mol/L)以上(例えば、0.6M以上、0.7M以上等)、好ましくは0.8M以上(例えば、0.9M以上)、さらに好ましくは1M以上(例えば、1.1M以上)程度であってもよく、5M以下(例えば、4M以下、3.5M以下、3M以下、2.5M以下、2M以下、1.5M以下、1M以下、0.8M以下)等であってもよい。
【0147】
なお、溶媒を含む電解液は、通常、非水電解液(水を実質的に含まない電解液)であってもよい。
【0148】
(セパレータ)
電池はセパレータを備えていてもよい。セパレータは正極と負極とを隔てるように配置されるものである。セパレータには、特に制限がなく、本発明では、従来公知のセパレータのいずれも使用することができる。具体的なセパレータとしては、例えば、電解液(非水電解液)を吸収・保持し得るポリマーからなる多孔性シート(例えば、ポリオレフィン系微多孔質セパレータやセルロース系セパレータなど)、不織布セパレータ、多孔質金属体等が挙げられる。
【0149】
上記多孔性シートの材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの3層構造を有する積層体等が挙げられる。
【0150】
上記不織布セパレータの材質としては、例えば、綿、レーヨン、アセテート、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、アラミド、ガラス等が挙げられ、要求される機械的強度等に応じて、上記例示の材質を単独で又は2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0151】
(電池外装材)
電解液、正極、負極(さらにはセパレーター)等を備えた電池素子は、通常、電池使用時の外部からの衝撃、環境劣化等から電池素子を保護するため電池外装材に収容される。電池外装材の素材は特に限定されず従来公知の外装材はいずれも使用することができる。
【0152】
電池(リチウムイオン二次電池等)の形状は特に限定されず、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等、電池(リチウムイオン二次電池等)の形状として従来公知の形状はいずれも使用することができる。また、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に搭載するための高電圧電源(数10V~数100V)として使用する場合には、個々の電池を直列に接続して構成される電池モジュールとすることもできる。
【0153】
二次電池(リチウムイオン二次電池等)の定格充電電圧は特に限定されないが、3.6V以上、好ましくは4.1V以上、さらに好ましくは4.2V以上(例えば、4.2V超)であってもよく、4.3V以上(例えば、4.35V以上)であってもよい。定格充電電圧が高いほど、エネルギー密度を高めることはできるが、安全性の観点などから、定格充電電圧は、4.6V以下(例えば、4.5V以下)等であってもよい。
【実施例
【0154】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではない。
【0155】
実施例1(炭素質コートBaTiO
BaTiO(富士フィルム和光純薬製 025-08972)を1g計量し、そこへフロログルシノール(東京化成工業社製)を0.2gずつ添加し、アセトンを加えフロログルシノールを溶解、超音波処理したのち、乾燥させることで無機固体酸化物-フロログルシノール混合物を得た。
【0156】
無機固体酸化物-フロログルシノール混合物を窒素中300℃で1時間炭素化させた後、NMP(N-メチルピロリドン)で余分な炭素成分を洗浄した。洗浄後、さらに窒素中700℃で2時間焼成した。得られた粉体は炭素質コート(カーボンコート)され黒色を帯びていた。
【0157】
得られた粉体[炭素質コート無機固体酸化物(BaTiO)]中の炭素質の割合は、0.19質量%であった。
【0158】
得られた炭素質コート無機固体酸化物のラマン分析結果を図1に示した。これによるとアモルファスカーボンに特有のD、G、G’、D+D’、2D’バンドが存在し、炭素質が存在することと、炭素質の状態がアモルファスカーボンであることがわかる。
【0159】
なお、炭素質の割合は、TGA分析(装置:リガク株式会社製 TG8120)により、条件:空気下、昇温速度10℃/分、最高温度700℃まで分析し、重量減少量により算定した。
【0160】
また、ラマン分析(炭素質の存在・状態の確認)は、次のようにして行った。
測定装置:顕微ラマン(日本分光NRS-3100)
測定条件:532nmレーザー使用、対物レンズ20倍、CCD取り込み時間1秒、積算32回(分解能=4cm-1
ラマン分析から、Gバンド(1550cm-1~1650cm-1の範囲内)、Dバンド(1300cm-1~1400cm-1の範囲内)、G’バンド(2650cm-1~2750cm-1の範囲内)、D+D’バンド(2800cm-1~3000cm-1の範囲内)、2D’バンド(3100cm-1~3300cm-1の範囲内)の存在により炭素質の存在及び状態がわかる。
【0161】
実施例2(炭素質コートSrTiO
実施例1において、BaTiOに代えてSrTiO(アルドリッチ製 517011-50G)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、粉体を得た。得られた粉体はカーボンコートされ黒色を帯びていた。
【0162】
得られた粉体[炭素質コート無機固体酸化物(SrTiO)]中の炭素質の割合を、実施例1と同様にして測定・算出したところ、1.4質量%であった。
【0163】
さらに、実施例1と同様にして、得られた炭素質コート無機固体酸化物のラマン分析を行った。結果を図2に示す。これによるとアモルファスカーボンに特有のD、G、G’、D+D’、2D’バンドが存在し、炭素質が存在することと、炭素質の状態がアモルファスカーボンであることがわかる。
【0164】
実施例3(炭素質コートLiNbO
実施例1において、BaTiOに代えてLiNbO(アルドリッチ製 254290-10G)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、粉体を得た。得られた粉体はカーボンコートされ黒色を帯びていた。
【0165】
得られた粉体[炭素質コート無機固体酸化物(LiNbO)]を、実施例1と同様にしてラマン分析した結果を図3に示す。これによるとアモルファスカーボンに特有のD、G、G’、D+D’、2D’バンドが存在し、炭素質が存在することと、炭素質の状態がアモルファスカーボンであることがわかる。
【0166】
なお、無機固体酸化物に対して炭素質の量(被覆量)が少なく、TGA分析で炭素質の量を算定することはできなかった(分析下限以下であった)が、上記の通り、ラマン分析により炭素質の存在は確認できた。
【0167】
実施例4(炭素質コートの有無の比較)
正極活物質としてLiCoO(ユミコア製KD20S)、実施例1で得られた炭素質コート無機固体酸化物(BaTiO、第1の導電助剤)、導電助剤(第2の導電助剤)として、アセチレンブラック(デンカ工業製 HS-100)、カーボンナノチューブ(VGCF 昭和電工製)、炭素繊維(大阪ガスケミカル製 ドナカーボミルド)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF クレハ製 ♯1120)、無機固体酸化物としてSrTiO(アルドリッチ製 517011-50G)を用いた。
【0168】
LiCoO:炭素質コート無機固体酸化物(BaTiO):アセチレンブラック:
VGCF:ドナカーボミルド:PVdF=93:1:1:1:1:3の質量比で秤量し、N-メチルピロリドン(NMP)を加えて自転公転ミキサーで分散させて、無機固体酸化物を含む正極スラリー(正極合材、固形分濃度75質量%)を作製した。
【0169】
同様にして、LiCoO:アセチレンブラック:VGCF:ドナカーボミルド:PVdF=94:1:1:1:3の質量比で含む、炭素質コート無機固体酸化物を含まない正極スラリーを作製した。
【0170】
さらに、同様にして、LiCoO:炭素質コートされていない無機固体酸化物(BaTiO):アセチレンブラック:VGCF:ドナカーボミルド:PVdF=93:1:1:1:1:3の質量比で含む、炭素質コート無機固体酸化物を含まない(炭素質コートされてない無機固体酸化物(BaTiO)を含む)正極スラリーを作製した。
【0171】
各スラリーをアルミ箔上に片面塗工し、110℃のホットプレート上で乾燥させ、その後、110℃の真空乾燥炉で12時間減圧乾燥を行った。そして、真空乾燥後に、それぞれ、ロールプレス機でプレスした。なお、プレスは、電極密度が3.35g/cc~3.5g/ccの範囲となるようにロールプレス機を調整して行った。
【0172】
このようにして、片面塗工質量53.50mg/cm(厚み151μm)の正極活物質層を有する電極を作製した。
【0173】
Liメタルをφ14mmで打ち抜き負極とした。その上に、1.2M LiPF エチレンカーボネート(EC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/7(体積比)組成の電解液を35μL滴下し、ポリエチレン(PE)製16μmセパレータを重ね、更に同様の電解液を35μL滴下した。その上に、作製した電極をφ12mmに打ち抜いたものを正極として、積層し、コインセルを作製した。
【0174】
得られたコインセルを、4.3V、0.1Cの定電流定電圧充電15時間終止、0.1Cの定電流放電3.0V終止の充放電を行い、セルのエージングとした。
【0175】
エージング後のセルを、4.3V、0.2Cの定電流定電圧8時間充電を行い、0.1C、3.0V終止の定電流放電を行った。
【0176】
同様の充電方法で、0.2C、3.0V終止の定電流放電、1C、3.0V終止の定電流放電、1.25C、3.0V終止の定電流放電を行い、エージング後に合計4サイクル行った。
【0177】
0.1C放電、0.2C放電、1C放電時、放電開始2秒後の閉路電圧を測定し、電流と閉路電圧の関係より傾きを算出し、セルのDCR(直流抵抗値)として算出した。
【0178】
電極の活物質当たりの放電容量を含めた結果を表1に示す。なお、表1において、1C放電容量及びDCRは、無機固体酸化物を添加しない場合の値を「100.0」とした相対値である。
【0179】
【表1】
【0180】
表1の結果から明らかなように、炭素質コート無機固体酸化物(BaTiO)を添加することで、放電容量が増加し、電池性能が向上していることが示された。
【0181】
また、炭素質コート無機固体酸化物は、それ自体が導電性を示すためか、無機固体酸化物を配合しない(代わりに同量のアセチレンブラックを使用した)場合と同等ないしそれよりも低い抵抗値を示した。
【0182】
このように、炭素質でコートしているにもかかわらず、導電性を損なうことなく、放電容量を改善できたことは極めて意外なことといえる。
【0183】
一方、炭素質コートしない場合でも、上記の条件では、意外にも、放電容量が増加したが、抵抗値は大きくなった。
【0184】
実施例5(異なる無機固体酸化物)
実施例4において、炭素質コートBaTiOに代えて、実施例2及び実施例3で得られたいずれかの炭素質コート無機固体酸化物を使用したこと以外は、実施例4と同様にして、1C放電容量及びDCRの相対値(無機固体酸化物を添加しない場合の値を「100.0」とした相対値)を測定した。結果を表2に示す。
【0185】
【表2】
【0186】
表2の結果から明らかなように、無機固体酸化物の種類を変更した場合でも、同様の傾向が見られた。
【0187】
実施例6(塗工質量の変更)
実施例4及び5において、塗工質量を43.67mg/cm(厚み127μm)又は28.80mg/cm(厚み84μm)に変更したこと以外は、実施例4及び5と同様にして、1C放電容量及びDCRの相対値(無機固体酸化物を添加しない場合の値を「100.0」とした相対値)を測定した。結果をそれぞれ表3、表4に示す。
【0188】
【表3】
【0189】
【表4】
【0190】
表3及び表4の結果から明らかなように、塗工質量を変更した場合でも、同様の傾向が見られた。
【0191】
実施例7(塗工質量及び無機固体酸化物の変更)
実施例4において、塗工質量をさらに減らして19.43mg/cm(厚み57μm)又は24.12mg/cm(厚み70μm)に変更したり、炭素質コート無機固体酸化物の種類を変更したこと以外は、実施例4と同様にして、1C放電容量及びDCRの相対値(無機固体酸化物を添加しない場合の値を「100.0」とした相対値)を測定した。結果を表5に示す。
【0192】
【表5】
【0193】
表5の結果から明らかなように、塗工質量をさらに減らし、無機固体酸化物の種類を変更した場合でも、同様の傾向が見られた。
【0194】
実施例8(電解液の変更)
実施例4及び5において、電解液を、LiPF(濃度0.6M)及びLiFSI(濃度0.6M)を含むEC/MEC=3/7(体積比)組成の電解液としたこと以外は、実施例4及び5と同様にして、1C放電容量及びDCRの相対値(無機固体酸化物を添加しない場合の値を「100.0」とした相対値)を測定した[塗工質量53.50mg/cm(厚み151μm)]。結果を表6に示す。
【0195】
【表6】
【0196】
表6の結果から明らかなように、LiPFの一部をよりイオン伝導度の高いLiFSIに置換した電解液を用いても同様の傾向があることが分かった。また、実施例4及び5の結果との対比から明らかなように、よりイオン伝導度が高いLiFSIを用いることで、より放電容量の改善効果及び抵抗低減効果が大きかった。
【0197】
実施例9(炭素質材料の変更)
ポリビニルアルコール(PVA)を70℃に加温した純水に溶解し、ポリビニルアルコール2質量%の水溶液を作製した。この水溶液中に、実施例1~3で使用した無機固体酸化物(BaTiO、SrTiO、及びLiNbO)を、それぞれ、ポリビニルアルコール:無機固体酸化物=1:10の質量比となるようにそれぞれ秤量し、自転公転ミキサーで2000rpmにて5分間分散させた。得られたスラリーをポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート上に滴下し、110℃のホットプレート上で乾燥させ、ポリビニルアルコール被覆無機固体酸化物を得た。これを窒素雰囲気中700℃で2時間焼成し、炭素質コート無機固体酸化物を得た。
【0198】
得られた炭素質コート無機固体酸化物中の炭素質の割合を、実施例1と同様にして測定したところ、0.2質量%から1.1質量%であった。
【0199】
また、実施例1と同様にして、ラマン分析より、炭素質(アモルファスカーボン)の存在を確認した。
【0200】
実施例10(炭素質材料の変更)
実施例4において、実施例9で作製した炭素質コートBaTiOを使用したこと以外は、実施例4と同様にして、1C放電容量及びDCRの相対値(無機固体酸化物を添加しない場合の値を「100.0」とした相対値)を測定した[塗工質量53.50mg/cm(厚み151μm)]。結果を表7に示す。
【0201】
【表7】
【0202】
表7の結果から明らかなように、炭素質材料をPVAとした場合でも、同様の傾向があることがわかった。
【0203】
実施例11(炭素質材料及び塗工質量の変更)
実施例10において、実施例9で作製した、炭素質コートBaTiO、炭素質コートSrTiO又は炭素質コートLiNbOを使用し、塗工質量を19.43mg/cm(厚み57μm)に変更したこと以外は、実施例10と同様にして、1C放電容量及びDCRの相対値(無機固体酸化物を添加しない場合の値を「100.0」とした相対値)を測定した。結果を表8に示す。
【0204】
【表8】
【0205】
表8の結果から明らかなように、炭素質材料をPVAとし、塗工質量を変更した場合でも、同様の傾向があることがわかった。
【0206】
実施例12(LiNbO 、平均粒子径1μm、塗工質量20mg/cm
正極活物質としてLiCoO(ユミコア製 KD20S)、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ工業製 HS-100)、カーボンナノチューブ(VGCF 昭和電工製)、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF クレハ製 KFポリマー#1120)を用いた。また、無機固体酸化物として、LiNbO(H.C.Starck製、平均粒子径1μm)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして、粉体[炭素質コート無機固体酸化物(LiNbO)]を用いた。得られた粉体はカーボンコートされ黒色を帯びていた。また、実施例1と同様にして、ラマン分析より、炭素質(アモルファスカーボン)の存在を確認した。
【0207】
LiCoO:アセチレンブラック:VGCF:PVDF:炭素質コートLiNbO=90.5:3:2:3:1.5の質量比で秤量し、N-メチルピロリドン(NMP)を加えて自転公転ミキサーで分散させて、炭素質コートLiNbOを含む正極スラリーを作製した。
【0208】
同様にして、カーボンコートしていないLiNbOを同組成で含む正極スラリーを作製した。
【0209】
各正極スラリーをアルミ箔上に片面塗工し、110℃のホットプレート上で乾燥させ、その後110℃の真空乾燥炉で12時間減圧乾燥を行った。そして真空乾燥後にそれぞれロールプレス機でプレスした。プレスは電極密度が3.6g/ccとなるようにロールプレス機を調整した。
【0210】
このようにして片面塗工質量20mg/cm(厚み70μm)の正極合材層を有する電極を作製した。
【0211】
負極活物質としてグラファイト(日立化成製 SMG)、導電助剤としてカーボンナノチューブ(VGCF 昭和電工製)、バインダーとしてスチレン・ブタジエンゴム(SBR、JSR製)、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC ダイセル製)を用いた。
【0212】
CMC2%水溶液を作製し、グラファイト:VGCF:CMC:SBR=100:2:1:1の質量比で秤量し、自転公転ミキサーで分散させて、負極スラリーを作製した。
【0213】
負極スラリーを銅箔上に片面塗工し、80℃のホットプレート上で乾燥させ、その後、100℃の真空乾燥炉で12時間減圧乾燥を行った。そして真空乾燥後に電極密度が1.5g/ccとなるようにロールプレス機でプレスした。
【0214】
このようにして、片面塗工質量9.6mg/cmの負極合材層を有する電極を作製した。
【0215】
(ラミネート電池の作製)
前記で得られた正極及び負極をそれぞれカットし、極性導出リードを超音波で溶接し、25μmのPE製セパレータを介して該正極及び負極を対向させ、ラミネート外装で3方を封止した。未封止の1方より、電解液を700μL添加した。これにより4.2V、30mAhのラミネート電池(フルセル)を作製した。
【0216】
なお、電解液は、LiPF(濃度0.6M)及びLiFSI(濃度0.6M)を含むEC/MEC=3/7(体積比)組成の電解液を使用した。
【0217】
得られたラミネート電池を、4.2V、0.5Cで5時間の定電流定電圧充電後、0.2C、2.75Vまでの定電流放電を行い、更に同様の充電後1C、2.75Vまでの定電流放電を行い、セルのエージングとした。
【0218】
(1C放電容量)
エージング完了後のセルを、25℃で4.2V、1C(30mA)、0.6mA終止の充電後、25℃で1C、2.75Vの放電容量を測定した。また、放電後、同様の充電を25℃で行った後、-20℃にして3時間放置し、-20℃で1C、2.75Vの放電容量を測定した。電極の活物質当たりの放電容量を含めた結果を表9に示す。
【0219】
【表9】
【0220】
表9の結果から明らかなように、常温(25℃)での放電量は変わらないものの、負荷が強い-20℃での放電容量がLiNbOの添加により改善した。また、カーボンコートされたLiNbOは、カーボンコートしていないLiNbOと比較して、-20℃での放電容量の改善効果が大きかった。
【0221】
(DCR(相対値))
また、エージング完了後のセルを、実施例4と同様にして、充電深度(SOC)50%で、DCRの相対値(無機固体酸化物を添加しない場合の値を「100.0」とした相対値)を測定した。結果を表10に示す。
【0222】
【表10】
【0223】
表10の結果から明らかなように、LiNbOの添加により、抵抗値が低減した。また、カーボンコートされたLiNbOは、カーボンコートしていないLiNbOと比較して、抵抗値の低減効果が大きかった。
【0224】
(サイクル容量維持率)
さらに、エージング完了後のセルを、45℃にて、以下の充放電条件(サイクル条件)で、合計300サイクルのサイクル試験を行った。その結果を表11に示す。
(サイクル条件)
充電:4.2V、1C、0.6mA終止
放電:1C、2.75V終止
【0225】
【表11】
【0226】
表11の結果から明らかなように、LiNbOの添加により、300サイクル後の容量維持率が改善した。また、カーボンコートされたLiNbOは、カーボンコートしていないLiNbOと比較して、サイクル容量維持率の改善効果が大きかった。
【0227】
実施例13(平均粒子径1μm又は100~300μm、塗工質量90mg/cm
0.3mm厚みのPPシートをトムソンカッターで加工して外形6cm×6cm、中心に開口部4cm×4cmを設けたドーナツ型のPP樹脂枠を作製した。このPP樹脂枠の片面にシーラント兼接着剤としてスリーボンド3315Eを塗布した後、15μmアルミ箔に張り付け、60℃の真空乾燥炉で12時間乾燥させた。乾燥後、PP樹脂枠外にリード接触箇所を1点設け、それ以外は樹脂枠に沿って金属集電体を切断し、正極集電体を作製した。
【0228】
負極集電体についても正極集電体と同様にして、0.3mm厚みのPPシートを6cm×6cm、中心に開口部4.2cm×4.2cmを設けたドーナツ型のPP樹脂枠を作製した。このPP樹脂枠の片面にシーラント兼接着剤としてスリーボンド3315Eを塗布した後、15μmの銅箔に張り付け、正極集電体と同様にして乾燥させ、負極集電体を作製した。
【0229】
正極活物質としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3(ユミコア製、MX7H)、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ工業製、HS-100)、カーボンナノチューブ(VGCF 昭和電工製)、炭素繊維(大阪ガスケミカル製:ドナカーボミルド)を用いた。また、無機固体酸化物として、LiNbO(H.C.Starck製、平均粒子径1μm、以下「LiNbO(1μm)」ともいう)、又はLiNbO(アルドリッチ製、254290-10G、平均粒子径100~300μm、以下「LiNbO(100~300μm)」ともいう)を使用したこと以外は、実施例3と同様にして、粉体[炭素質コート無機固体酸化物(LiNbO)]を用いた。得られた粉体はカーボンコートされ黒色を帯びていた。また、実施例1と同様にして、ラマン分析より、炭素質(アモルファスカーボン)の存在を確認した。
【0230】
正極活物質:HS-100:VGCF:ドナカーボミルド:炭素質コートLiNbOを81:5:5:5:4の質量比で秤量し、電解液を固形分70%相当となるように秤量し、自転公転ミキサーで分散させて、正極スラリーを作製した。なお、電解液は、LiFSI(濃度2M)を含むEC/プロピレンカーボネート(PC)=3/7(体積比)組成の電解液と、LiPF(濃度1M)を含むEC/PC=3/7(体積比)組成の電解液とを体積比2:1でブレンドした電解液を用いた。
【0231】
作製した正極スラリーを正極集電体の開口部に、固形分の塗工質量が90mg/cm(厚み200μm)となるように転写し、セルロースセパレータ(日本高度紙工業社製、TF4425、厚さ:25μm、不織布:空隙率71%)をを2枚重ねで正極スラリー上に設置し、その上にSUSのジグを置き、平板プレス機(テスター産業、SA-302)でシリンダ圧30MPaにて10秒間プレスした。プレス後、さらに前記と同じセパレータを1枚設置し、前記電解液を0.4g滴下して正極を作製した。
【0232】
また、カーボンコートしていないLiNbOを用いたこと以外は前記と同様にして(前記と同じ組成、電解液で)、スラリー化し(正極スラリーを作製し)、正極を作製した。
【0233】
さらに、正極活物質:HS-100:VGCF:ドナカーボミルド=85:5:5:5の質量比で含む、無機固体酸化物を含まない正極スラリーを用いたこと以外は、前記と同様にして正極を作製した。
【0234】
負極活物質としてハードカーボン(クレハ製、カーボトロンP)、導電助剤としてアセチレンブラック(デンカ工業製 HS-100)、カーボンナノチューブ(VGCF 昭和電工製)、炭素繊維(大阪ガスケミカル製:ドナカーボミルド)を用いた。
【0235】
負極活物質:HS-100:VGCF:ドナカーボミルド=87:2:4:7の質量比で秤量し、電解液を固形分50%相当になるように秤量し、自転公転ミキサーで分散させて、負極スラリーを作製した。なお、電解液は、正極で用いた電解液と同じものを用いた。
【0236】
作製した負極スラリーを負極集電体の開口部に、固形分の塗工質量が35mg/cmとなるように転写したこと以外は正極と同様にして、負極を作製した。
【0237】
以上により作製した正負極を対向させてラミネートフィルムで真空封止して、ラミネート電池(フルセル)を完成させた。
【0238】
得られたラミネート電池を、以下の手順で充放電を行い、セルのエージングとした。
(エージングの手順)
・10mA定電流、4.2V終止充電後、10mA定電流、2.5V終止放電を2サイクル
・20mA、4.2Vの定電流定電圧で2mA終止充電後、20mA定電流、2.5V終止放電
・40mA、4.2Vの定電流定電圧で2mA終止充電後、40mA定電流、2.5V終止放電
エージング後のセルを開裂し、再度、真空封止することでガス抜きを行い、セルを完成させた。
【0239】
完成後のセルを40mA、4.2Vの定電流定電圧で4mA終止充電後、それぞれ、10mA、20mA、33mA、50mA、100mAで放電し、放電レート特性を確認した。電極の活物質当たりの放電容量を含めた結果を表12に示す。
【0240】
【表12】
【0241】
表12の結果から明らかなように、LiNbOの添加により放電容量が増加(改善)した。カーボンコートされたLiNbOは、カーボンコートしていないLiNbOと比較して、放電容量がより一層増加した。さらに、LiNbOの平均粒子径が小さいほど放電容量は増加した。この理由としては、LiNbOは、その平均粒子径が小さいほど厚膜電極内に広く分散するため、Liイオンの移動度が増加すると推定する。
【産業上の利用可能性】
【0242】
本発明によれば、新規な無機固体酸化物等を提供できる。
図1
図2
図3