(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】炭酸アルコール飲料、炭酸アルコール飲料の製造方法、及び、炭酸アルコール飲料の香味向上方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20240718BHJP
【FI】
C12G3/04
(21)【出願番号】P 2020058213
(22)【出願日】2020-03-27
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 隆一
(72)【発明者】
【氏名】村上 綾子
(72)【発明者】
【氏名】高澄 耕次
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-154238(JP,A)
【文献】特開2015-019650(JP,A)
【文献】特開2018-171004(JP,A)
【文献】高尾佳史ら,樽酒の香り強度指標成分の探索,日本醸造協会誌,2019年,第114巻、第3号,第159-163頁
【文献】高木清兵衛,思い出すまま,日本醸造協會雜誌,1968年,第63巻、第2号,第91-92頁
【文献】折原佑輔ら,樽酒の成分と生理活性への貯蔵期間の影響,日本醸造協会誌,2006年,第101巻、第5号,第349-356頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00 - 3/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
α-カジノールを含有する炭酸アルコール飲料であり、
内部標準物質としてリナロール-d3を2mg/Lとなるように添加して、ガスクロマトグラフィー質量分析法によって測定した場合に、前記リナロール-d3が示すm/z124のピーク面積値に対する前記
α-カジノールが示すm/z121のピーク面積値の比率が0.60以上
4.00以下であ
り、
食物繊維を含有し、アルコール度数が5v/v%以上9v/v%以下であり、ハイボールである炭酸アルコール飲料。
【請求項2】
ウイスキーを含有する請求項1に記載の炭酸アルコール飲料。
【請求項3】
アルコール度数が6v/v%以上である請求項1又は請求項2に記載の炭酸アルコール飲料。
【請求項4】
ハイボールである炭酸アルコール飲料の製造方法であって、
α-カジノールを含有させる工程を含み、
内部標準物質としてリナロール-d3を2mg/Lとなるように添加して、ガスクロマトグラフィー質量分析法によって測定した場合に、前記リナロール-d3が示すm/z124のピーク面積値に対する前記
α-カジノールが示すm/z121のピーク面積値の比率が0.60以上
4.00以下となるように前記
α-カジノールを含有させ
るとともに、食物繊維を含有させ、アルコール度数を5v/v%以上9v/v%以下とする炭酸アルコール飲料の製造方法。
【請求項5】
ハイボールである炭酸アルコール飲料の刺激的な酸味を低減す
る香味向上方法であって、
内部標準物質としてリナロール-d3を2mg/Lとなるように添加して、ガスクロマトグラフィー質量分析法によって測定した場合に、前記リナロール-d3が示すm/z124のピーク面積値に対する
α-カジノールが示すm/z121のピーク面積値の比率が0.60以上
4.00以下となるように前記
α-カジノールを含有させる
とともに、食物繊維を含有させ、アルコール度数を5v/v%以上9v/v%以下とする炭酸アルコール飲料の香味向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸アルコール飲料、炭酸アルコール飲料の製造方法、及び、炭酸アルコール飲料の香味向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルコール飲料の中でも発泡性を呈する炭酸アルコール飲料(発泡性アルコール飲料ともいう)は、炭酸の爽快な刺激を飲用者に感じさせることができる飲料である。
そして、この炭酸アルコール飲料については、様々な観点に基づいて研究開発が進められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリグリセリン脂肪酸エステルと、クエン酸、クエン酸ナトリウム及びクエン酸カリウムからなる群から選択される少なくとも1以上のクエン酸類とを含有し、前記クエン酸類の含有量が10~10000ppmであることを特徴とするアルコールテイスト発泡性飲料が開示されている。
そして、特許文献1に記載のアルコールテイスト発泡性飲料は、炭酸ガス抜けが抑制されると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、炭酸アルコール飲料について、香味の詳細な検討を行った結果、特許文献1をはじめとした従来技術において検討されていなかった問題点を確認した。
詳細には、本発明者らは、炭酸とアルコールとの組み合わせにおいて、炭酸によって浮き上がらされたアルコール特有の香味と、炭酸の刺激感とが相俟って、「刺激的な酸味」を飲用者に感じさせてしまうことを確認した。
【0006】
そこで、本発明は、刺激的な酸味が低減された炭酸アルコール飲料、炭酸アルコール飲料の製造方法、及び、炭酸アルコール飲料の香味向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、以下の手段により解決することができる。
(1)α-カジノールを含有する炭酸アルコール飲料であり、内部標準物質としてリナロール-d3を2mg/Lとなるように添加して、ガスクロマトグラフィー質量分析法によって測定した場合に、前記リナロール-d3が示すm/z124のピーク面積値に対する前記α-カジノールが示すm/z121のピーク面積値の比率が0.60以上4.00以下であり、食物繊維を含有し、アルコール度数が5v/v%以上9v/v%以下であり、ハイボールである炭酸アルコール飲料。
(2)ウイスキーを含有する前記1に記載の炭酸アルコール飲料。
(3)アルコール度数が6v/v%以上である前記1又は前記2に記載の炭酸アルコール飲料。
(4)ハイボールである炭酸アルコール飲料の製造方法であって、α-カジノールを含有させる工程を含み、内部標準物質としてリナロール-d3を2mg/Lとなるように添加して、ガスクロマトグラフィー質量分析法によって測定した場合に、前記リナロール-d3が示すm/z124のピーク面積値に対する前記α-カジノールが示すm/z121のピーク面積値の比率が0.60以上4.00以下となるように前記α-カジノールを含有させるとともに、食物繊維を含有させ、アルコール度数を5v/v%以上9v/v%以下とする炭酸アルコール飲料の製造方法。
(5)ハイボールである炭酸アルコール飲料の刺激的な酸味を低減する香味向上方法であって、内部標準物質としてリナロール-d3を2mg/Lとなるように添加して、ガスクロマトグラフィー質量分析法によって測定した場合に、前記リナロール-d3が示すm/z124のピーク面積値に対するα-カジノールが示すm/z121のピーク面積値の比率が0.60以上4.00以下となるように前記α-カジノールを含有させるとともに、食物繊維を含有させ、アルコール度数を5v/v%以上9v/v%以下とする炭酸アルコール飲料の香味向上方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る炭酸アルコール飲料は、刺激的な酸味が低減している。
本発明に係る炭酸アルコール飲料の製造方法は、刺激的な酸味が低減している炭酸アルコール飲料を製造することができる。
本発明に係る炭酸アルコール飲料の香味向上方法は、炭酸アルコール飲料の刺激的な酸味を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】α-カジノールのマススペクトルを示すグラフであり、横軸はm/z、縦軸は強度である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る炭酸アルコール飲料、炭酸アルコール飲料の製造方法、及び、炭酸アルコール飲料の香味向上方法を実施するための形態(本実施形態)について説明する。
【0011】
[炭酸アルコール飲料]
本実施形態に係る炭酸アルコール飲料は、カジノールを含有し、ガスクロマトグラフィー質量分析法(以下、適宜「GC-MS法」という)によって得られるカジノールのピーク面積値の比率が所定値以上である。
また、本実施形態に係る炭酸アルコール飲料は、ウイスキーを含有してもよく、食物繊維を含有してもよい。
ここで、炭酸アルコール飲料とは、アルコールを含有する発泡性を呈する飲料であり、特定の種類の飲料に限定されないものの、例えば、ハイボールが挙げられる。そして、ハイボールとは、アルコールとして蒸留酒(特に、ウイスキーを含む)を用い、このアルコールを炭酸飲料(特に、炭酸水)で割ったものである。
以下、本実施形態に係る炭酸アルコール飲料を構成する各要素について説明する。
【0012】
(アルコール)
本実施形態に係る炭酸アルコール飲料は、アルコールを含有している。
本発明者らは、飲料のアルコールと後記する炭酸との組み合わせにおいて、炭酸によって浮き上がらされたアルコール特有の香味と炭酸の刺激感とが相俟って、嫌な「刺激的な酸味」が生じることを確認した。
また、本発明者らは、アルコールを炭酸飲料で割った状態とすると、「味の重厚感」が低減するだけでなく、味が薄っぺらな状態となる(味がペラペラとなる)結果、後味にアルコール特有の香味がギスギスとした感じ(刺々しい感じ)で残ってしまう、つまり「後味のギスギス感」が増強してしまうことも確認した。
【0013】
アルコールは飲用することができるアルコールであればよく、本発明の効果が阻害されない範囲であれば、種類、製法、原料などに限定されることがないが、蒸留酒であることが好ましい。蒸留酒としては、例えば、ウイスキー、ウォッカ、焼酎、ブランデー等の各種スピリッツ、原料用アルコール等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。ただ、本実施形態に係る炭酸アルコール飲料のアルコールは蒸留酒であって、蒸留酒の一部又は全部がウイスキーであるのが、刺激的な酸味という課題の明確化の観点から非常に好ましい。
ここで、ウイスキーとは、日本国の酒税法第三条第十五号に規定されるウイスキーに分類されるものであり、発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて(又は、発芽させた穀類及び水によって穀類を糖化させて)、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの等を指す。
なお、本明細書においてアルコールとは、特に明記しない限り、エタノールのことをいう。
【0014】
(アルコール度数)
アルコール度数は、1v/v%以上が好ましく、2v/v%以上、3v/v%以上、4v/v%以上、5v/v%以上、6v/v%以上がより好ましい。アルコール度数が所定値以上であることによって、刺激的な酸味という課題がより明確化する。
一方、アルコール度数の上限は、特に限定されないものの、例えば、15v/v%以下、が好ましく、13v/v%以下、11v/v%以下、10v/v%以下、9v/v%以下、8v/v%以下がより好ましい。
【0015】
本実施形態に係る炭酸アルコール飲料のアルコール度数は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)3清酒3-4アルコール分(振動式密度計・ガスクロマトグラフ分析法)に基づいて測定することができる。
【0016】
(発泡性)
本実施形態に係る炭酸アルコール飲料は、炭酸ガスを含有する発泡性のものである。
20℃におけるガス圧(全圧)は、0.5kg/cm2以上が好ましく、1.0kg/cm2以上、1.5kg/cm2以上、2.0kg/cm2以上、3.0kg/cm2以上、3.5kg/cm2以上がより好ましい。ガス圧が所定値以上であることによって、刺激的な酸味という課題がさらに明確化する。
一方、20℃におけるガス圧(全圧)の上限は、特に限定されないものの、例えば、5.0kg/cm2以下、4.0kg/cm2以下であるのが好ましい。
【0017】
本実施形態に係る炭酸アルコール飲料の20℃におけるガス圧(全圧)は、例えば、国税庁所定分析法(訓令)「8-3ガス圧」に基づいて測定することができる。
【0018】
(カジノール)
カジノール(cadinol)は、セスキテルペンアルコールの一つであって、詳細にはα-カジノールである。
本発明者らは、このカジノールを炭酸アルコール飲料に含有させると、炭酸とアルコールとの組み合わせによって生じる「刺激的な酸味」を低減できることを見出した。また、本発明者らは、このカジノールが炭酸アルコール飲料の「味の重厚感」を増強できるだけでなく、「後味のギスギス感」を低減できることも見出した。
【0019】
カジノールのピーク面積値の比率(後記するGC-MS法による測定値)は、0.60以上が好ましく、0.70以上、0.75以上、0.80以上、1.00以上、1.20以上、1.40以上、1.50以上がより好ましい。この比率が所定値以上であることによって、炭酸アルコール飲料の刺激的な酸味を抑制できるだけでなく、味の重厚感を増強し、後味のギスギス感を低減することもできる。
カジノールのピーク面積値の比率は、8.00以下が好ましく、6.00以下、5.00以下、4.00以下、3.50以下、3.00以下がより好ましい。この比率が所定値以下であることによって、飲料としての総合評価を好ましい状態とすることができる。
なお、このカジノールのピーク面積値の比率が大きいほど、炭酸アルコール飲料のカジノールの含有量が多いことを示しており、この値が0の場合は、炭酸アルコール飲料にカジノールが含まれていないことを示している。
【0020】
本実施形態に係る炭酸アルコール飲料のカジノールのピーク面積値の比率は、以下の方法によって測定できる値である。
詳細には、測定対象となる飲料に対して2mg/Lとなるようにリナロール-d3を内部標準物質として添加し、ガスクロマトグラフィー質量分析法によって測定を実施する。そして、リナロール-d3が示すm/z124のピーク面積値と、カジノールが示すm/z121のピーク面積値とを算出する。その後、リナロール-d3が示すm/z124のピーク面積値に対するカジノールが示すm/z121のピーク面積値の比率(=[m/z121のピーク面積値]/[m/z124のピーク面積値])を算出する。
【0021】
(食物繊維)
本実施形態に係る炭酸アルコール飲料は食物繊維を含有してもよい。
食物繊維としては、例えば、難消化性デキストリン、ペクチン、ポリデキストロース、グアーガム分解物などが挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、難消化性デキストリンが好ましい。
本実施形態に係る炭酸アルコール飲料が食物繊維を含有すると、解消すべき後味のギスギス感がより明確化(増強)することとなる。
【0022】
食物繊維の含有量は特に限定されないものの、例えば、0.5w/v%以上、1.0w/v%以上、1.5w/v%以上、2.0w/v%以上であって、4.0w/v%以下、3.5w/v%以下、3.0w/v%以下、2.5w/v%以下である。
なお、炭酸アルコール飲料の食物繊維の含有量は、例えば、HPLC法によって測定することができる。
【0023】
(その他)
本実施形態に係る炭酸アルコール飲料は、本発明の所望の効果が阻害されない範囲で飲料として通常配合される甘味料、高甘味度甘味料、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類など(以下、適宜「添加剤」という)を含有していてもよい。甘味料としては、例えば、果糖ぶどう糖液糖、グルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトースなどを用いることができる。高甘味度甘味料としては、例えば、ネオテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、サッカリン、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、チクロ、ズルチン、ステビア、グリチルリチン、ソーマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテームなどを用いることができる。酸化防止剤としては、例えば、ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノールなどを用いることができる。酸味料としては、例えば、クエン酸、アジピン酸、クエン酸三ナトリウム、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、グルコン酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、コハク酸、コハク酸一ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酢酸ナトリウム、DL-酒石酸、L-酒石酸、DL-酒石酸ナトリウム、L-酒石酸ナトリウム、二酸化炭素、乳酸、乳酸ナトリウム、フマル酸、フマル酸一ナトリウム、DL-リンゴ酸、DL-リンゴ酸ナトリウム、リン酸などを用いることができる。塩類としては、例えば、食塩、酸性りん酸カリウム、酸性りん酸カルシウム、りん酸アンモニウム、硫酸カルシウム、メタ重亜硫酸カリウム、塩化カルシウム、硝酸カリウム、硫酸アンモニウムなどを用いることができる。
【0024】
本実施形態に係る炭酸アルコール飲料は、仮に、チューハイテイスト飲料とする場合、フルーツフレーバー(フルーツ様の香りを付与するフレーバー)、果汁(果実を搾った汁)、果実エキス(果実又は果汁から水やアルコールなどを用いて当該果実の有効成分を抽出した抽出物)を含有させることもできる。そして、果汁としては、例えば、濃縮果汁、還元果汁、ストレート果汁といった各種果汁、果実ピューレ(火を通した果実あるいは生の果実をすりつぶしたり裏ごししたりした半液体状のもの)、これらの希釈液、濃縮液、混合液などを用いることができる。
果汁の由来となる果実(および、果実フレーバーや果実エキスの果実種)は、柑橘類果実である、レモン、ライム、ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、ユズ、シークワーサー等や、バラ科果実である、梅、リンゴ、イチゴ、桃等、これら以外にも、ぶどう、プラム、ざくろ、ブルーベリー、カシス、クランベリー、マキベリー、いちご、アップル、ピーチ、マンゴー、パイナップル、キウイ、梨等といった従来公知の果実も挙げることができる。
ただ、本実施形態に係る炭酸アルコール飲料を前記したハイボールとする場合は、これらの果汁等は含有させないのが好ましい。
なお、本発明の効果(特に、刺激的な酸味)は、フレーバー・果汁・果実エキスの香味タイプや香味の強弱から直接的な影響は受けず、少なくとも、当該効果が消失してしまうといったことはないと考えることから、フレーバーなどによる香味タイプは前記のとおり多様であってもよく、含有量についても特に限定されない。
【0025】
(容器詰め炭酸アルコール飲料)
本実施形態に係る炭酸アルコール飲料は、各種容器に入れて提供することができる。各種容器にアルコール飲料を詰めることにより、長期間の保管による品質の劣化を好適に防止することができる。
そして、容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル、紙容器、パウチ容器などを適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。
【0026】
以上説明したように、本実施形態に係る炭酸アルコール飲料は、刺激的な酸味が低減している。
また、本実施形態に係る炭酸アルコール飲料は、味の重厚感が増強し、後味のギスギス感が低減しているとともに、飲料としての総合評価にも優れている。
【0027】
[炭酸アルコール飲料の製造方法]
次に、本実施形態に係る炭酸アルコール飲料の製造方法を説明する。
本実施形態に係る炭酸アルコール飲料の製造方法は、混合工程と、後処理工程と、を含む。
【0028】
混合工程では、混合タンクに、水、カジノール、飲用アルコール、添加剤などを適宜投入して混合後液を製造する。
この混合工程において、カジノールの含有量やアルコール度数などが前記した所定範囲内となるように各原料を混合し、調整すればよい。
【0029】
そして、後処理工程では、例えば、ろ過、殺菌、炭酸ガスの付加、容器への充填などの処理を必要に応じて選択的に行う。
なお、後処理工程のろ過処理は、一般的なフィルター又はストレーナーによって行うことができる。また、後処理工程の殺菌処理は、処理速度等の観点から、プレート殺菌によって行うのが好ましいが、同様の処理を行うことができるのであればこれに限定されることなく適用可能である。また、後処理工程の充填処理は、飲料品の製造において通常行われる程度にクリーン度を保ったクリーンルームにおいて充填するのが好ましい。そして、後処理工程での各処理の順序は特に限定されない。
【0030】
なお、混合工程及び後処理工程において行われる各処理は、RTD飲料などを製造するために一般的に用いられている設備によって行うことができる。
【0031】
以上説明したように、本実施形態に係る炭酸アルコール飲料の製造方法は、刺激的な酸味が低減している炭酸アルコール飲料を製造することができる。
また、本実施形態に係る炭酸アルコール飲料の製造方法は、味の重厚感が増強し、後味のギスギス感が低減しているとともに、飲料としての総合評価にも優れた炭酸アルコール飲料を製造することができる。
【0032】
[炭酸アルコール飲料の香味向上方法]
次に、本実施形態に係る炭酸アルコール飲料の香味向上方法を説明する。
本実施形態に係る炭酸アルコール飲料の香味向上方法は、炭酸アルコール飲料の刺激的な酸味を低減する方法であって、GC-MS法によって得られるカジノールのピーク面積値の比率が所定値以上となるようにカジノールを含有させる方法である。
なお、各成分の含有量等については、前記した「炭酸アルコール飲料」において説明した値と同じである。
【0033】
以上説明したように、本実施形態に係る炭酸アルコール飲料の香味向上方法は、炭酸アルコール飲料の刺激的な酸味を低減させることができる。
また、本実施形態に係る炭酸アルコール飲料の香味向上方法は、炭酸アルコール飲料の味の重厚感を増強させ、後味のギスギス感を低減させるとともに、飲料としての総合評価も優れたものとすることができる。
【実施例】
【0034】
次に、本発明の要件を満たす実施例とそうでない比較例とを例示して、本発明について説明する。
【0035】
[サンプル1-1~1-6の準備]
まず、ウォッカ、ウイスキー、酸味料(リン酸)、食物繊維(難消化性デキストリン)、カラメル、エキス素材、炭酸水、純水を混合してベース液(サンプル1-1)を準備した。
そして、このベース液に対して、カジノールを含有する香料を添加し、サンプル1-2~1-6を準備した。
なお、各サンプルの20℃におけるガス圧(全圧)は約2.3kg/cm2であり、難消化性デキストリンの含有量は2.8w/v%であった。
【0036】
[サンプル2-1、2-2の準備]
サンプル2-1は、アルコール度数7%の食物繊維を含有するハイボール(ウイスキー、カラメル色素を含む)の市販品Aであり、20℃におけるガス圧(全圧)が約2.3kg/cm2になるように調製した。
そして、サンプル2-2は、サンプル2-1に対して、カジノールを含有する香料を添加して準備した。
【0037】
[サンプル3-1、3-2の準備]
サンプル3-1は、アルコール度数7%の食物繊維を含有するハイボール(ウイスキーを含む)の市販品Bであり、20℃におけるガス圧(全圧)が約2.3kg/cm2になるように調製した。
そして、サンプル3-2は、サンプル3-1に対して、カジノールを含有する香料を添加して準備した。
【0038】
[試験内容]
前記の方法により準備した各サンプルについて、訓練された識別能力のあるパネル8名が下記評価基準に則って「後味のギスギス感」、「刺激的な酸味」、「味の重厚感」、「飲料としての総合評価」について、-2、-1、0、+1、+2点の5段階評価で個別に点数付けし、その平均値を算出した。
そして、全ての評価は、サンプルを飲んで評価した。なお、「後味のギスギス感」の評価については、サンプル1-1、2-1、2-2、3-1、3-2に対して実施した。
【0039】
(後味のギスギス感:評価基準)
後味のギスギス感の評価は、サンプル1-1の0点を基準とし、「後味のギスギス感が全くない」場合を-2点、「後味のギスギス感がサンプル1-1と同程度である」場合を0点、「後味のギスギス感が非常にある」場合を+2点と評価した。そして、後味のギスギス感については、点数が低いほど、低減されており好ましいと判断できる。
ここで、「後味のギスギス感」とは、後味において感じるギスギスとした感覚(後味が刺々しく感じる様子)である。
【0040】
(刺激的な酸味:評価基準)
刺激的な酸味の評価は、サンプル1-1の0点を基準とし、「刺激的な酸味が全くない」場合を-2点、「刺激的な酸味がサンプル1-1と同程度である」場合を0点、「刺激的な酸味が非常にある」場合を+2点と評価した。そして、刺激的な酸味については、点数が低いほど、低減されており好ましいと判断できる。
ここで、「刺激的な酸味」とは、炭酸とアルコールとに基づくものであり、味において目立つように尖った酸味である。
【0041】
(味の重厚感:評価基準)
味の重厚感の評価は、サンプル1-1の0点を基準とし、「味の重厚感が全くない」場合を-2点、「味の重厚感がサンプル1-1と同程度である」場合を0点、「味の重厚感が非常にある」場合を+2点と評価した。そして、味の重厚感については、点数が高いほど、増強されており好ましいと判断できる。
ここで、「味の重厚感」とは、味がしっかりと感じられ厚みがある感覚である。
【0042】
(飲料としての総合評価:評価基準)
飲料としての総合評価については、「炭酸アルコール飲料の香味として劣る」場合を-2点、「劣るとも優れるともいえず、どちらでもない」場合を0点、「炭酸アルコール飲料の香味として優れる」場合を+2点と評価した。
【0043】
[ピーク面積値の比率の算出方法]
各サンプルのα-カジノールのピーク面積値の比率(=α-カジノールのピーク面積値/リナロール-d3のピーク面積値)の算出方法を以下に説明する。
【0044】
(サンプルの調整)
各サンプル2.5mLを0.75gの塩化ナトリウムを入れた10mLのバイアルに採取し、内部標準物質(リナロール-d3(ビニルD3))を2mg/Lとなるように加えて軽く攪拌した。その後、ジクロロメタンを5mL加え、15分間振とうして抽出後、3000rpmで10分間遠心分離を施し、下層を測定用試料とした。
【0045】
(GC-MS法の測定条件)
・測定装置 :7890B GC、5977B MSD
(アジレント・テクノロジー株式会社)
・カラム :InertCap PureWAX
長さ30m、内径0.25mm、膜厚0.25μm
(ジーエルサイエンス株式会社)
・ライナー :PTV1.8mmID GW
・注入方法 :ソルベントベント
キャリアガス He、パージ流量 50mL/min
パージ時間 1.2min、ベント圧 0psi
ベント流量 50mL/min、時間 0.1min
注入量 10μL、注入速度 10μL/s
吸引速度 0.5μL/s
・注入口温度 :10℃(0.5min)-10℃/s-250℃(3min)
・圧力制御 :コンスタントフロー
線速度 37cm/s
・オーブン温度 :40℃(3min)-5℃/min-250℃(5min)
・イオンタイプ:EI
・電子エネルギー:70eV
・測定モードSIM
【0046】
前記したGC-MS法の測定条件に基づいて、前記の調整を施した各サンプルを測定し、m/z124のリナロール-d3のピーク面積値と、m/z121のα-カジノールのピーク面積値とを算出し、α-カジノールのピーク面積値の比率(=α-カジノールのピーク面積値/リナロール-d3のピーク面積値)を求めた。
なお、リナロール-d3のリテンションタイムは18.26minとし、α-カジノールのリテンションタイムは32.23minとし、α-カジノールのマススペクトルは、
図1に示すとおり(横軸:m/z、縦軸:強度)であった。
【0047】
表に、各サンプルのアルコール度数、及び、カジノールのピーク面積値の比率を示すとともに、各評価の結果を示す。
【0048】
【0049】
【0050】
(結果の検討)
表1の結果から、カジノールのピーク面積値の比率が所定値以上となると、刺激的な酸味が低減する(基準としたサンプル1-1の点数より低くなる)ことが確認できた。また、表1の結果から、カジノールのピーク面積比が所定値以上となると、味の重厚感が増強し(基準としたサンプル1-1の点数より高くなる)、飲料としての総合評価も優れたものとなることが確認できた。
そして、全ての評価を考慮すると、サンプル1-1~1-6の中でも、サンプル1-3~1-6(特に、サンプル1-4~1-5)について非常に好ましい結果が得られた。
【0051】
表2の結果から、市販品のハイボールを用いた場合でも、カジノールを含有させていないサンプル2-1、3-1と比較して、カジノールのピーク面積値の比率が所定値以上となるようにカジノールを含有させたサンプル2-2、3-2の方が、刺激的な酸味が低減するだけでなく、味の重厚感が増強し、後味のギスギス感が低減し、飲料としての総合評価も良くなることが確認できた。