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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/18 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
H02K1/18 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020088554
(22)【出願日】2020-05-21
(65)【公開番号】P2021184654
(43)【公開日】2021-12-02
【審査請求日】2023-04-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】大村 準
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-137864(JP,A)
【文献】特開2020-039218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、
ロータと、
を備え、
前記ステータは、
軸方向に積み重なった複数の磁性体と、
前記複数の磁性体を保持する、非磁性体で形成されたケース及び非磁性体で形成されたカバーと、
前記複数の磁性体を前記軸方向に案内する案内部を有する柱と、
を備え、
前記複数の磁性体はアモルファス合金で形成され、
前記複数の磁性体は、前記柱によって案内される被案内部を備え、
前記柱は、複数の位置決め部を有する外周面を備え、
前記複数の位置決め部、前記ケースと前記カバーとの前記軸方向における相対位置を決め、前記軸方向において前記ケースと前記カバーとが近づくこと規制している、モータ。
【請求項2】
前記複数の位置決め部は、前記ケース及び前記カバー位置決めしている、請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記軸方向において、前記ケースと前記カバーの間に配置されたインシュレータを備え、
前記インシュレータは、前記複数の磁性体を保持する保持体と、蓋体と、を備え、
径方向において、前記複数の磁性体の外周部が前記保持体から露出している、請求項1又は2に記載のモータ。
【請求項4】
前記保持体は、前記ケース側にある底部と、当該底部に設けられた壁部と、を備え、
前記蓋体は、前記壁部の前記カバー側にある端部に支持されている、請求項3に記載のモータ。
【請求項5】
前記ケース又は前記カバーに対して固定されたハウジングを備える、請求項1から4のいずれかに記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに関する。
【背景技術】
【0002】
モータのステータ材料には、磁化の変化しやすい珪素鋼板などの軟磁性材料が用いられる。軟磁性材料は、電気伝導性を示し、渦電流を生ずる可能性があるので、厚さ0.5~0.1mm程度のシートを積層して用いることで渦電流を抑制している。しかしながら、複数のシートによって積層体を形成する際にシート間に接着剤を設けると、接着剤の体積によって磁性材料の占積率が低下し、モータ効率が低下してしまうことがあった。
【0003】
この解決案として、軟磁性薄帯を積層した積層体の開口に金属締結機構を設けたモータが提案されている。このようなモータでは、金属締結機構によって複数の薄帯を位置決めして同時に取り扱うことができるようにするとともに、磁性材料の占積率低下の抑制を図っている。
【0004】
積層体を構成するシートは、上記のように薄く形成されることが好ましいため、強度が低下しやすい。また、シートの磁気特性の向上を目的として、シートを構成する鉄等への添加物の量が調節されたり、アモルファス合金によってシートが構成されたりすると、シートの強度や弾性が低下することがある。シートの強度や弾性が低いと、金属締結機構を締結する際に積層体に加わる荷重により、シートに割れ等の損傷が生じる等の不具合の懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-240135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明は、以上の背景に鑑みてなされたものであり、磁性体の占積率を向上させつつ磁性体の損傷を抑制することができる、モータを提供することを課題の一例とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の本発明により解決される。即ち、本発明のモータは、軸方向に積み重なった複数の磁性体と、前記複数の磁性体を保持するケースと、前記ケースを覆うカバーと、前記複数の磁性体を前記軸方向に案内する案内部を有する柱と、を備え、前記複数の磁性体は、前記柱によって案内される被案内部を備え、前記柱は、位置決め部を有する外周面を備え、前記位置決め部により、前記ケースと前記カバーとの前記軸方向における相対位置が決まる。
【0008】
本発明において、前記位置決め部は、前記ケース及び前記カバーのそれぞれを位置決めしていることが好ましい。
【0009】
本発明において、前記軸方向において、前記ケースと前記カバーの間に配置されたインシュレータを備え、前記インシュレータは、前記複数の磁性体を保持する保持体と、蓋体と、を備え、径方向において、前記複数の磁性体の外周部が前記保持体から露出している
ことが好ましい。
【0010】
本発明において、前記保持体は、前記ケース側にある底部と、当該底部に設けられた壁部と、を備え、前記蓋体は、前記壁部の前記カバー側にある端部に支持されていることが好ましい。
【0011】
本発明において、前記ケース又は前記カバーに対して固定されたハウジングを備えることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一例である実施形態にかかるモータの断面図である。
図2】本発明の一例である実施形態にかかるモータのステータを製造する様子を示す斜視図である。
図3】本発明の一例である実施形態にかかるモータのステータを製造する様子を示す断面図である。
図4】本発明の一例である実施形態にかかるモータに用いられるステータコア及びコイルの平面図である。
図5】本発明の一例である実施形態にかかるモータに用いられる柱の側面図である。
図6】本発明の一例である実施形態にかかるモータのステータの断面図である。
図7】本発明の一例である実施形態にかかるモータのステータの製造工程を示す斜視図である。
図8】本発明の一例である実施形態にかかるモータのステータの製造工程を示す斜視図である。
図9】本発明の一例である実施形態にかかるモータのステータの製造工程を示す斜視図である。
図10】本発明の一例である実施形態にかかるモータのステータの製造工程を示す斜視図である。
図11】本発明の一例である実施形態にかかるモータのステータの製造工程を示す斜視図である。
図12】本発明の一例である実施形態にかかるモータのステータの製造工程を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の一例である実施形態にかかるモータ1の断面図であり、図2は、モータ1のステータ10を製造する様子を示す斜視図であり、図3は、ステータ10を製造する様子を示す断面図である。図4は、モータ1に用いられるステータコア2及びコイル7の平面図である。
【0014】
本実施形態に係るモータ1は、ステータ10とロータ20とハウジング30とを備え、ステータ10は、複数の磁性体2Aの積層体であるステータコア2と、ステータコア2を保持するケース3と、ケース3を覆うカバー4と、複数の磁性体2Aを中心軸X方向に案内する柱5と、ケース3とカバー4との間に配置されたインシュレータ6と、コイル7と、を備える。柱5は、ケース3とカバー4との中心軸X方向における相対位置を決める位置決め部511、531を外周面50に有する。図1、2に示されるように、ステータ10を構成するステータコア2とケース3とカバー4とインシュレータ6とは、ロータ20の回転軸(中心軸X)を中心として全体が円環状に形成されている。
【0015】
以降の説明において、図1~3における上側(カバー4側)を上側乃至上方向と、下側(ケース3側)を下側乃至下方向と、便宜上それぞれ表現するが、これらは勿論、重力方向における上下関係を表すものではない。また、以降の説明において、中心軸Xを中心とする円周に沿った方向を単に「周方向」と呼ぶことがあり、中心軸Xを中心とする円の径方向を単に「径方向」と呼ぶことがあり、中心軸Xと略直交する平面を単に「直交面」と呼ぶことがある。
【0016】
ステータコア2を構成する磁性体2Aは、アモルファス合金によって構成されたシート部材(例えば厚さ25μmの超薄帯)である。このようなシート部材が例えば400枚積み重ねられることにより、ステータコア2が構成される。磁性体2Aの材質としては、通常ステータの部材として用いられる磁性体がそのまま利用可能であるが、電磁気特性に優れる珪素鋼板などの電磁鋼板、アモルファス合金、ナノ結晶合金等を用いることが好ましい。磁性体2Aの厚みとしては、渦電流がほとんど生じない程度の厚みが望ましく、具体的には、100μm以下が好ましく、25μm以下がより好ましい。取り扱い性と電磁気特性の双方を考慮すると、本実施形態の25μmが最も好ましい。尚、磁性体2Aの材質や厚さ、積層枚数は上記に限定されるものではなく、モータの用途等に応じて適宜に設定されればよい。ステータコア2を構成する複数の磁性体2Aは互いに同一の形状を有しており、以下では主として、積層された状態であるステータコア2の形状について説明する。
【0017】
ステータコア2は、図4に示すように、中心に形成された開口部21と、中心軸X方向に貫通した貫通孔である6つのスロット(電線通過部)22と、外周面に形成された切り欠き状(凹状)の6つの被案内部23と、隣り合う電線通過部22の間において径方向に沿って延びる計6つのティース24と、を有する。ステータコア2を構成する磁性体2Aは、直交面に沿うように配置される。電線通過部22は、内周側において開口部21と連続した扇形状に形成されている。隣り合う2つの電線通過部22を通過するように、ティース24及び後述するインシュレータ6の各部の周囲に電線が巻き回されることで計6つのコイル7が形成される。図4においては、説明の都合上、ステータコア2及びコイル7のみを図示しているが、実際にはティース24に直接的に電線が巻き付けられているわけではなく、これらの間にインシュレータ6が配置される。
【0018】
被案内部23は、中心軸X方向から見て半円状の曲面部231と、曲面部231の両端部に接続された一対の平面部232と、を有し、中心軸X方向から見てU字状に形成されている。即ち、ステータコア2の外周面の一部が凹状となることで被案内部23が形成されている。被案内部23は、各々のティース24に対して外周側に配置されている。後述するように6つの被案内部23のうち3つにおいて柱5が通過するが、磁性体2Aが直交面内で所定の位置からずれないようにしつつ中心軸X方向に沿って案内されるように、3つ以上の被案内部23が形成されていることが好ましく、全ての被案内部23が使用されてもよいし、使用されないものがあってもよい。
【0019】
ケース3は、図7に示すように、中心軸Xを中心とする円環部31と、円環部31の外周縁から上側に延びるとともに中心軸Xを中心とする円筒部32と、を一体に有し、例えば非磁性金属材料により形成されている。円環部31には、柱5が圧入可能な圧入部311が複数形成されている。本実施形態において圧入部311は貫通孔状に形成されているが、非貫通の凹状の圧入部が形成されていてもよい。また、円環部31には6つの圧入部311が形成されており、後述するようにこれらのうち3つに柱5が圧入される。円環部31には、柱5の数以上の圧入部311が形成されていればよく、全ての圧入部311が使用されてもよいし、使用されないものがあってもよい。また、円環部31の上側の面には、後述する底部611を位置決めするための凹部312が形成されている。
【0020】
カバー4は、図12に示すように、中心軸Xを中心とする円環部41と、円環部41の外周縁から下側に延びるとともに中心軸Xを中心とする円筒部42と、を一体に有し、例えば非磁性金属材料により形成されている。円環部41には、柱5が圧入可能な圧入部411が複数形成されている。本実施形態において圧入部411は貫通孔状に形成されているが、非貫通の凹状の圧入部が形成されていてもよい。また、円環部41には6つの圧入部411が形成されており、後述するようにこれらのうち3つに柱5が圧入される。円環部41には、柱5の数以上の圧入部411が形成されていればよく、全ての圧入部411が使用されてもよいし、使用されないものがあってもよい。
【0021】
カバー4は、ケース3に対して間隔をあけつつ上側に配置されることにより、ケース3を上側から覆う(上側から見てケース3がカバー4に隠れるようにする)。即ち、ケース3とカバー4とは中心軸X方向において対向するように配置される。円環部31と円環部41との間隔は、ステータコア2の厚さ(中心軸X方向の寸法)と略等しいか、又は若干大きい。ケース3の圧入部311とカバー4の圧入部411とは、中心軸X方向から見て重なるように、周方向における略同一位置に配置される。円筒部32の上端部と円筒部42の下端部とが離れて配置され、ステータコア2の外周部2Bの一部が露出するようになっている。
【0022】
柱5は、中心軸X方向に沿って延びる円柱状の部材であって、本実施形態においては3本の柱5が使用される。柱5は、図5に示すように、圧入部311に圧入される第1圧入部分51と、円環部31と円環部41との間に配置される非圧入部分52と、圧入部411に圧入される第2圧入部分53と、を下側から順に有する。さらに、柱5は、第2圧入部分53から上方に延びる案内部54を有する。柱5の外周面50のうち案内部54の先端部分には、雄ねじ部541が形成されている。柱5は、例えば非磁性金属材料により形成されていればよく、充分な強度が得られる樹脂によって形成されてもよい。
【0023】
第1圧入部分51の外径は、圧入部311の内径よりも若干大きく形成され、第2圧入部分53の外径は、圧入部411の内径よりも若干大きく形成される。非圧入部分52の外径は、第1圧入部分51の外径及び第2圧入部分53の外径のいずれよりも大きく、圧入部311、411を通過不能となっている。このような外径の差により、柱5の外周面50には、第1圧入部分51と非圧入部分52との間に第1段差部511が形成され、第2圧入部分53と非圧入部分52との間に第2段差部531が形成されている。案内部54の外径は第2圧入部分53の外径よりも小さく、案内部54が圧入部411を通過可能となっている。
【0024】
第1圧入部分51を圧入部311に圧入する際、第1段差部511が円環部31(圧入部311の周辺部分)と接触することにより、所定位置を超えて挿入されることが規制される。即ち、第1段差部511は、中心軸X方向において柱5とケース3とを位置決めする。第2圧入部分53を圧入部411に圧入する際、第2段差部531が円環部41(圧入部411の周辺部分)と接触することにより、所定位置を超えて挿入されることが規制される。即ち、第2段差部531は、中心軸X方向において柱5とカバー4とを位置決めする。柱5に対してケース3及びカバー4の両方が位置決めされることにより、中心軸X方向において、ケース3とカバー4との相対位置が決まる。即ち、2つの段差部511、531が、ケース3及びカバー4の両方を位置決めすることにより、ケース3とカバー4との中心軸X方向における相対位置を決める位置決め部として機能する。以上のように円環部31、41同士の中心軸X方向の間隔が決まり、円環部31、41同士がそれ以上近づかないようなっている。
【0025】
インシュレータ6は、図8~11に示すように、ケース3側に配置されてステータコア2を保持する保持体61と、カバー4側に配置される蓋体62と、を別体に有する。本実施形態では、保持体61は独立した6つの部品によって構成されているが、以降の説明では、ステータ10の組み立てが完了した状態を基準として、各部の形状及び配置について、6つの部品を一括して説明する。保持体61は、ケース3側に配置されて円環部31上に載置される底部611と、底部611に設けられて上側に延びる壁部612と、を備える。保持体61及び蓋体62は、絶縁性を有する部材であれば問題なく使用可能であり、通常インシュレータとして用いられる公知の樹脂材料(塊状、板状、フィルム状の何れも含む。)が、そのまま好適に用いられる。
【0026】
底部611は、ステータコア2の開口部21及び電線通過部22に重なる位置に貫通孔を有して円弧状の外形で板状に形成され、凹部312に配置される。壁部612は、開口部21に挿通される第1壁部612Aと、電線通過部22に挿通される第2壁部612Bと、を有する。第1壁部612Aは、全体として円筒状に形成されるとともに、中心軸X方向に沿って延びる複数のスリット613が形成されている。第2壁部612Bは、ステータコア2のティース24のそれぞれを2枚の板状部分24aで挟み込むように配置されたものである。即ち、第2壁部612Bは、合計6対(12枚)の板状部分を有している。第2壁部612Bを構成する板状部分は、電線通過部22の内周縁に沿って径方向に延び、径方向の両端部が周方向に向かうように屈曲されている。第1壁部612Aは、第2壁部612Bよりも壁高さ(中心軸X方向の寸法)が高く形成されている。
【0027】
第2壁部612Bのうち同一の電線通過部22に挿通された2枚の板状部分は、互いに間隔をあけて配置されており、即ち保持体61は内周側及び外周側において開口している。保持体61が独立した6つの部品によって構成されていることで、ティース24の角度ずれが生じた際に、6つの部品の位置を調節して角度ずれを吸収することができる。尚、ティース24の角度ずれが小さい場合や角度ずれが生じにくい場合には、これらの6つの部品を連結して1部品としてもよい。
【0028】
蓋体62は、ステータコア2の開口部21及び電線通過部22に重なる位置に貫通孔を有して円板状に形成されている。即ち、蓋体62は、ステータコア2(特にティース24)を上側から覆うように構成されている。図6に示すように、蓋体62の下面には、第2壁部612Bの上端縁と嵌合可能な嵌合部621が形成されている。嵌合部621は例えば凸部であればよく、第2壁部612Bを構成する板状部分の上端部に沿うように形成される。このように、蓋体62は、第2壁部612Bのうちカバー4側にある端部612Cに支持される。蓋体62が保持体61によって支持されることにより、ステータコア2には蓋体62の荷重が加わらないようになっている。蓋体62のうちティース24に重ねられる部分は、内周側端部において、第1壁部612Aに沿うように上側に向かって延びている。同様に、蓋体62のうち電線通過部22の外周縁に重なる部分は、上側に向かって延びている。
【0029】
インシュレータ6は、ステータコア2を内周側及び中心軸X方向の上下から覆っているが、外周側からは覆っていない。即ち、径方向において、ステータコア2を構成する複数の磁性体2Aの外周部2Bは、保持体61から露出している。
【0030】
コイル7は、上述のように、隣り合う2つの電線通過部22を通過するように電線が巻き回されて形成されている。このとき、コイル7を構成する電線は、ステータコア2には直接接触せず、インシュレータ6の周囲に巻き回される。即ち、電線が一周する際、底部611の下側と、第2壁部612Bの板状部分における外側(ティース24とは反対側)と、蓋体62の上側と、隣り合う板状部分における外側(ティース24とは反対側)と、を通過して再び底部611の下側に戻るようになっている。
【0031】
ロータ20は、出力軸201と、マグネット202と、軸受203と、を備える。マグネット202が、インシュレータ6の第1壁部612Aの内側に配置される。コイル7に通電することで、マグネット202との磁気的な相互作用によってロータ20が回転するようになっている。
【0032】
ハウジング30は、中心軸Xを中心とする円筒状の筒部301と、筒部301の中心軸X方向一端側(カバー4側)に配置される円板状の第1板部302と、筒部301の中心軸X方向他端側(ケース3側)に配置される円板状の第2板部303と、を有して略円筒状に形成されている。筒部301と第1板部302とが一体に形成され、第2板部303が筒部301に対して着脱可能に構成されている。ハウジング30は、上記のようなステータ10の全体、ロータ20の出力軸201の一部、及びマグネット202を収容する。
【0033】
第1板部302及び第2板部303には、出力軸201が通過する開口部302A、303Aがそれぞれ形成され、開口部302A、303Aには、ロータ20の軸受203が設けられている。第1板部302には、柱5が貫通する貫通孔302Bが形成されている。柱5のうち雄ねじ部541が形成された部分が、貫通孔302Bを通過してハウジング30の外側に突出する。ハウジング30の筒部301の内周面には、カバー4を中心軸X方向から挟み込んで保持するように、段差部301Aが形成されている。筒部301に肉厚な上側部分301Bと肉薄な下側部分301Cとが形成され、上側部分301Bと下側部分301Cとの内径の差によって段差部301Aが形成される。
【0034】
雄ねじ部541に対してナット40を螺合させて締結すると、段差部301Aが荷重を受ける部分となり、カバー4とナット40とがハウジング30の一部(第1板部302の外縁部及び上側部分301B)を挟み込み、ハウジング30の一部に対して中心軸X方向の圧縮力が加わる。これにより、カバー4は、柱5及びナット40とともにハウジング30に対して固定される。また、柱5がケース3に圧入されていることから、ケース3は、柱5を介して間接的にハウジング30に固定される。
【0035】
ここで、ステータ10の詳細な製造方法及びその手順について説明する。まず、図7に示すように、円環状の受け治具800の上にケース3を載置し、3つの圧入部311のそれぞれに柱5を圧入する。受け治具800は、中心軸Xに対する直交面内でケース3が移動することを規制するものであるとともに、ケース3の下面から突出した柱5と干渉しないようになっている。このとき、第1段差部511が円環部31と接触するまで、柱5の第1圧入部分51を圧入部311に圧入する。これにより、柱5の挿入量を一定とすることができる。
【0036】
次に、図8に示すように、底部611が凹部312に配置されるように保持体61をケース3上に載置する。次に、図9に示すように、ステータコア2を構成する磁性体2Aを、底部611の上側に重ねるように載置し、さらにその上側に磁性体2Aを重ねる作業を繰り返す。このとき、柱5が被案内部23を通過するようにし、柱5によって磁性体2Aを案内する。柱5の外周面50が、非圧入部分52と第2圧入部分53と案内部54とにおいて、磁性体2Aの被案内部23のうち断面半円状の曲面部231と摺接する。これと同時に、磁性体2Aの内周縁(ティース24の内周側端部241を形成する部分)を第1壁部612Aと摺接させることにより、第1壁部612Aによっても磁性体2Aを案内する。
【0037】
所定枚数の磁性体2Aを積層することで、図10に示すようにステータコア2が形成される。ステータコア2の上面は、第2壁部612Bの上端部よりも所定の高さだけ低く、且つ、第1壁部612Aよりも低く位置する。これにより、磁性体2Aを積層する工程の後半においても、第1壁部612Aによって磁性体2Aを案内することができるようになっている。磁性体2Aの積層が完了したら、図11に示すように蓋体62をステータコア2に対して被せる。このとき、第1壁部612Aがステータコア2よりも上側に突出しており、第1壁部612Aによって蓋体62がガイドされるようになっている。また、蓋体62を被せる際、蓋体62がステータコア2に接触しないように各部の寸法が設定されており、接触した場合であっても、ステータコア2に対して荷重がほとんど作用しないようになっている。
【0038】
次に、図12に示すように、カバー4を蓋体62の上側に被せるとともに、カバー4に柱5を圧入する。このとき、例えば押治具801を用いてハンドプレスによって圧入すればよい。第2段差部531が円環部41と接触するまで、第2圧入部分53を圧入部411に圧入する。非圧入部分52の中心軸X方向がステータコア2の厚さよりも大きいか又は同等に設定されていることから、柱5を圧入する際の荷重が、ステータコア2に対して加わらないか、又は、ほとんど加わらない。
【0039】
次に、ティース24及びインシュレータ6に対して電線を巻き付けることでコイル7を形成する。電線を巻き付けると、第2壁部612Bを構成する板状部分に対し、内側(ティース24側)に向かう力が作用する。このとき、蓋体62に嵌合部621が形成されていることで、第2壁部612Bの板状部分同士の接近が嵌合部621によって規制され、保持体61の変形を抑制することができる。従って、ティース24に対し、電線を巻き付ける力が作用しないか、又は、電線を巻き付ける力が作用しにくくなっている。
【0040】
次に、ステータ10全体をハウジング30に収容する。このとき、柱5のうち先端側の一部(雄ねじ部54が形成された部分)が貫通孔301を通過するようにし、雄ねじ部54にナット40を締結する。そして、ステータ10をハウジング30に収容した後にロータ20を設けてモータ1を完成させる。尚、ステータ10とロータ20とを略同時にハウジング30に収容することでモータ1を完成させてもよい。
【0041】
本実施形態によれば、ケース3とカバー4とによって、複数の磁性体2Aが積み重なったステータコア2を保持することにより、接着剤等を使う必要がなく、磁性体2Aの占積率を向上させることができる。このとき、位置決め部としての段差部511、531が、ケース3とカバー4との中心軸X方向における相対位置を決めることで、ケース3とカバー4との中心軸X方向における間隔が所定値未満となることが規制される。従って、ケース3とカバー4とによって複数の磁性体2Aを保持する際に、磁性体2Aに荷重が作用しにくく、磁性体2Aの損傷を抑制することができる。また、柱5によって磁性体2Aを中心軸X方向に案内することで、磁性体2Aの外周部2B全体に摺接するような案内部材を用いる構成と比較して、摺接時の摩擦が低減されて磁性体2Aの損傷を抑制することができる。
【0042】
また、位置決め部としての段差部511、531が、ケース3及びカバー4のそれぞれの中心軸X方向位置を位置決めすることにより、ケース3とカバー4と柱5とを別体とし、組み立て性を向上させることができる。
【0043】
また、径方向において複数の磁性体2Aの外周部2Bが保持体61から露出していることで、複数の磁性体2Aを積層する際に保持体61との間で摩擦を生じにくくし、磁性体2Aの損傷を抑制することができる。
【0044】
また、蓋体62が第2壁部612Bの端部612Cに支持されていることで、電線をインシュレータ6に巻き付けてコイルを製造する際に、保持体61の変形を抑制することができ、磁性体2Aに荷重が作用することを抑制することができる。
【0045】
また、ハウジング30をカバー4に対して固定する際、上記のようにケース3とカバー4との相対位置が決められていることで、磁性体2Aに荷重が作用しにくく損傷を抑制することができる。
【0046】
以上、本発明のモータについて、好ましい実施形態を挙げて説明したが、本発明のモータは上記実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、柱5がケース3及びカバー4の両方を位置決めすることにより、これらの相対位置を決めるものとしたが、ケース3及びカバー4のいずれか一方のみを位置決めすることにより、これらの相対位置を決めてもよい。即ち、柱5がケース3とカバー4といずれか一方と一体的に構成され、他方を位置決めすることにより、ケース3とカバー4との相対位置を決めてもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、柱5が圧入部分51、53及び非圧入部分52を有することで、柱5がケース3及びカバー4を位置決めするものとしたが、位置決めのための構成はこれに限定されず、例えば、柱の外周面とケース及びカバーの孔の内周面とに互いに嵌合する嵌合部を形成することで位置決めしてもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、柱5の外周面が被案内部23の曲面部231と摺接し、即ち曲面同士が摺接するものとしたが、柱5と被案内部23とは、同形状の面同士(曲率の等しい曲面同士又は平面同士)を摺接させることにより、接触面積を大きくして磁性体2Aに加わる力を小さくしてもよいし、異形状の摺接部同士(曲面と平面との組み合わせや、曲率の異なる曲面同士の組み合わせ、曲面又は平面と角部との組み合わせ)を摺接させることにより、接触面積を小さくして摩擦力自体を小さくしてもよい。柱5と被案内部23との摺接の態様は、摺接部分の摩擦係数や磁性体2Aの強度等に応じて適宜に選択されればよい。
【0049】
また、上記実施形態では、柱5が凹状の被案内部23を通過することで磁性体2Aが案内されるものとしたが、磁性体2Aを案内する構成はこれに限定されない。例えば、磁性体に貫通孔状の被案内部を形成するとともに柱を通過させてもよい。また、磁性体の外周部に凸状の被案内部を形成するとともに柱5の外周面に凹部を形成し、柱5の凹部内に凸状の被案内部が位置することで磁性体が案内されてもよい。また、磁性体の凸状の被案内部を、2本の柱によって挟み込むことで磁性体が案内されてもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、径方向においてステータコア2の外周部2Bが保持体61から露出しているものとしたが、ステータコア2の外周部2Bは、保持体やインシュレータの他の部分によって一部又は全体が覆われていてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、インシュレータ6において蓋体62が第2壁部612Bのカバー4側の端部612Cに支持されているものとしたが、例えば第2壁部612Bが変形しにくく形成されている場合や、コイル7の製造時に電線を巻き付ける際に第2壁部612Bに加わる力が小さい場合には、蓋体62は第2壁部612Bのカバー4側の端部612Cに支持されていなくてもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、ハウジング30がカバー4に対して固定されているものとしたが、ハウジング30がケース3に対して固定されている構成としてもよい。また、ハウジング30が、ケース3又はカバー4に対し、柱5以外の部材を介して固定されていてもよいし、直接固定されていてもよい。また、上記実施形態のようにカバー4とナット40とがハウジング30の一部を挟み込んで固定されるのに加え、又は、これに代えて、ケース3とナット40とがハウジング30の一部を挟み込んで固定されてもよい。
【0053】
その他、当業者は、従来公知の知見に従い、本発明のモータを適宜改変することができる。かかる改変によってもなお本発明の構成を具備する限り、勿論、本発明の範疇に含まれるものである。
【符号の説明】
【0054】
1…モータ、10…ステータ、20…ロータ、30…ハウジング、2A…磁性体、23…被案内部、3…ケース、4…カバー、5…柱、50…外周面、511,531…段差部(位置決め部)、54…案内部、6…インシュレータ、61…保持体、611…底部、612…壁部、612C…端部、62…蓋体
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