(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/08 20060101AFI20240718BHJP
B60C 9/08 20060101ALI20240718BHJP
B60C 9/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B60C19/08
B60C9/08 K
B60C9/00 J
(21)【出願番号】P 2020111763
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2023-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】岡部 昇
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 益任
(72)【発明者】
【氏名】中島 徹也
(72)【発明者】
【氏名】泉田 寛
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-522738(JP,A)
【文献】特開2016-078742(JP,A)
【文献】特開2017-043122(JP,A)
【文献】特開2019-081401(JP,A)
【文献】特開2010-047200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
D07B 1/00- 9/00
D01F 9/08- 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカスを有する空気入りタイヤであって、
前記カーカスは、一方のビード部からトレッド部を通って他方のビード部まで延びるカーカスコードを有するカーカスプライを含み、
前記カーカスプライのタイヤ半径方向外側及び内側の少なくとも1方の表面には、前記一方のビード部から少なくとも前記トレッド部まで延びる導電性糸が少なくとも1本配され、
前記導電性糸は、金属フィラメントを含み、
前記金属フィラメントは、1%伸張時の応力が13N以下であ
り、
前記金属フィラメントの線径は、0.03~1.00mmである、
空気入りタイヤ。
【請求項2】
カーカスを有する空気入りタイヤであって、
前記カーカスは、一方のビード部からトレッド部を通って他方のビード部まで延びるカーカスコードを有するカーカスプライを含み、
前記カーカスプライのタイヤ半径方向外側及び内側の少なくとも1方の表面には、前記一方のビード部から少なくとも前記トレッド部まで延びる導電性糸が少なくとも1本配され、
前記導電性糸は、金属フィラメントを含み、
前記金属フィラメントは、1%伸張時の応力が13N以下であり、
前記金属フィラメントは、破断時の伸びが20.0%~40.0%である、
空気入りタイヤ。
【請求項3】
カーカスを有する空気入りタイヤであって、
前記カーカスは、一方のビード部からトレッド部を通って他方のビード部まで延びるカーカスコードを有するカーカスプライを含み、
前記カーカスプライのタイヤ半径方向外側及び内側の少なくとも1方の表面には、前記一方のビード部から少なくとも前記トレッド部まで延びる導電性糸が少なくとも1本配され、
前記導電性糸は、金属フィラメントを含み、
前記金属フィラメントは、1%伸張時の応力が13N以下であり、
前記金属フィラメントは、波状に延びており、
前記トレッド部における前記金属フィラメントの振幅は、前記ビード部における前記金属フィラメントの振幅よりも大きい、
空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記金属フィラメントは、2%伸張時の応力が25N以下である、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記金属フィラメントの1%伸張時の応力は、前記カーカスコードの1%伸張時の応力よりも小さい、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記金属フィラメントの2%伸張時の応力は、前記カーカスコードの2%伸張時の応力よりも小さい、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記金属フィラメントは、ステンレス鋼からなる、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記金属フィラメントは、波状に延びている、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記金属フィラメントは、2.0mm以下の振幅で波状に延びている、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、空気入りタイヤの導電性が低くなると、車両に静電気を蓄積させ、ラジオノイズ等の電波障害を引き起こすおそれがある。特に近年では、低燃費化の要請により、トレッドゴム等の電気抵抗が増大する傾向がある。
【0003】
タイヤの導電性を向上させるために、例えば、下記特許文献1には、一対のビードコア間をトロイド状に延びる導電性糸が設けられた空気入りタイヤが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記導電性糸は、タイヤが走行するときの繰り返し変形や、タイヤが路面の凸部に乗り上げたときのトレッド部及びサイドウォール部の局所的な変形により、破断するおそれがあり、改善が求められていた。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出なされたもので、導電性糸の破断を抑制し得る空気入りタイヤを提供することを主たる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、カーカスを有する空気入りタイヤであって、前記カーカスは、一方のビード部からトレッド部を通って他方のビード部まで延びるカーカスコードを有するカーカスプライを含み、前記カーカスプライのタイヤ半径方向外側及び内側の少なくとも1方の表面には、前記一方のビード部から少なくとも前記トレッド部まで延びる導電性糸が少なくとも1本配され、前記導電性糸は、金属フィラメントを含み、前記金属フィラメントは、1%伸張時の応力が13N以下である。
【0008】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記金属フィラメントは、2%伸張時の応力が25N以下であるのが望ましい。
【0009】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記金属フィラメントの1%伸張時の応力は、前記カーカスコードの1%伸張時の応力よりも小さいのが望ましい。
【0010】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記金属フィラメントの2%伸張時の応力は、前記カーカスコードの2%伸張時の応力よりも小さいのが望ましい。
【0011】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記金属フィラメントは、ステンレス鋼からなるのが望ましい。
【0012】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記金属フィラメントの線径は、0.03~1.00mmであるのが望ましい。
【0013】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記金属フィラメントは、破断時の伸びが20.0%~40.0%であるのが望ましい。
【0014】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記金属フィラメントは、波状に延びているのが望ましい。
【0015】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記金属フィラメントは、2.0mm以下の振幅で波状に延びているのが望ましい。
【0016】
本発明の空気入りタイヤにおいて、前記金属フィラメントは、波状に延びており、前記トレッド部における前記金属フィラメントの振幅は、前記ビード部における前記金属フィラメントの振幅よりも大きいのが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の空気入りタイヤは、上記の構成を採用したことによって、導電性糸の破断を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態の空気入りタイヤを示す断面図である。
【
図3】波状に延びる金属フィラメントの拡大図である。
【
図4】タイヤの電気抵抗測定装置を概念的に示す略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ1(以下、単に「タイヤ」ということがある)の正規状態におけるタイヤ回転軸を含むタイヤ子午線断面図である。なお、
図1は、円環状に延びるタイヤ1をタイヤ周方向と直交する仮想平面で切断したときの、タイヤ赤道Cよりもタイヤ軸方向の一方側のタイヤ断面を示す図である。本実施形態のタイヤ1は、例えば、乗用車用として好適に用いられる。
【0020】
前記正規状態とは、各種の規格が定められた空気入りタイヤの場合、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。各種の規格が定められていないタイヤや、非空気式タイヤの場合、前記正規状態は、タイヤの使用目的に応じた標準的な使用状態であって無負荷の状態を意味する。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、前記正規状態で測定された値である。なお、本明細書で説明された各構成は、ゴム成形品に含まれる通常の誤差を許容するものとする。
【0021】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0022】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0023】
図1に示されるように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、カーカス6を有する。カーカス6は、一方のビード部4からトレッド部2を通って他方のビード部(図示省略)まで延びるカーカスコードを有するカーカスプライ6Aを含む。カーカスコードは、ビード部4とトレッド部2との間のサイドウォール部3を通るのは言うまでもない。
【0024】
本実施形態のカーカスプライ6Aは、例えば、並列されたカーカスコードがトッピングゴムで被覆されて構成されている。本実施形態のカーカス6は、1枚のカーカスプライ6Aで構成されているが、複数枚のカーカスプライ6Aで構成されても良い。
【0025】
カーカスプライ6Aは、例えば、本体部6aと折返し部6bとを含んでいる。本体部6aは、例えば、2つのビード部4の間を延びている。これにより、本体部6aは、少なくともトレッド部2からサイドウォール部3を経てビード部4のビードコア5に至る。折返し部6bは、例えば、本体部6aに連なりビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されている。本体部6aと折返し部6bとの間には、ビードコア5からタイヤ半径方向外側にのびるビードエーペックス8が配され、ビード部4が適宜補強される。
【0026】
カーカスコードは、例えば、アラミド、レーヨンなどの有機繊維コードが採用される。カーカスコードは、例えば、タイヤ赤道Cに対して70~90°の角度で配列されるのが望ましい。
【0027】
望ましい態様として、本実施形態のカーカス6のタイヤ半径方向外側には、ベルト層7が設けられている。ベルト層7は、例えば、タイヤ半径方向に重ねられた2枚のベルトプライ7A、7Bで構成されている。各ベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードがトッピングゴムで被覆されて構成されており、互いのベルトコードが交差する向きにタイヤ半径方向内外に重ねられている。
【0028】
図2には、
図1のA-A線断面図が示されている。
図2に示されるように、本発明のタイヤ1は、カーカスプライ6Aのタイヤ半径方向外側及び内側(サイドウォール部3においては、タイヤ軸方向外側及び内側)の少なくとも1方の表面には、一方のビード部4から少なくともトレッド部2まで延びる導電性糸10が少なくとも1本配されている。なお、
図1では、導電性糸10が破線で示されている。導電性糸10は、金属フィラメント11を含む。金属フィラメント11は、1%伸張時の応力が13N以下である。
【0029】
1%伸張時の応力とは、無負荷の状態の金属フィラメント11を1%伸張させたときに金属フィラメント11に作用する応力を意味する。測定方法としては、引張試験機によって、タイヤに適用される導電性糸10の長さに応じた所定の長さ(試験機の掴み代を除いた長さであり、例えば、300~800mmである。)の金属フィラメント11を1%伸張させたときの応力が測定されることにより、実施される。より具体的には、JIS G 3510に記載の切断荷重及び切断時全伸びの測定方法に従って取得した、荷重-伸び線図より読み取るのが望ましい。
【0030】
本発明の空気入りタイヤは、上記の構成を採用したことによって、導電性糸の破断を効果的に抑制することができる。その理由としては、以下のメカニズムが推察される。
【0031】
本発明の金属フィラメントは、1%伸張時の応力が13N以下と小さく設定されているため、タイヤ1が走行するときの繰り返し変形や、タイヤ1が路面の凸部に乗り上げたときのトレッド部2及びサイドウォール部3の局所的な変形によっても、適度に延びることができ、破断するおそれが小さい。このような作用効果により、導電性糸10の破断が抑制されると推察される。
【0032】
また、上述の導電性糸10は、加硫成形時において、カーカスプライ6Aと他のゴム部材との間に空気が残留するのを効果的に抑制する。以下、このような作用効果を「エア抜き性」という場合がある。
【0033】
以下、本実施形態のさらに詳細な構成が説明される。
図1に示されるように、本実施形態の導電性糸10は、例えば、一方のビード部4からサイドウォール部3及びトレッド部2を通って他方のビード部(図示省略)まで延びている。このような導電性糸10は、導電性を確実に高め、かつ、1か所が破断した場合でも導電性の低下を防ぐことができる。
【0034】
導電性糸10は、例えば、本体部6aのタイヤ外表面1A側の面に配されている。但し、導電性糸10は、本体部6aのタイヤ内腔面1B側の面に配されても良い。また、導電性糸10は、折返し部6bのタイヤ内腔面1B側の面に配されている。これにより、導電性糸10は、ビードコア5及びビードエーペックス8を囲むように配されている。このような導電性糸10は、導電性を高めつつ、エア抜き性の向上にも役立つ。
【0035】
導電性糸10は、例えば、タイヤ周方向に複数配置されるのが望ましい。これにより、タイヤ1の導電性が確実に向上する。タイヤ側面視における導電性糸10の本数は、導電性及びエア抜き性の向上の観点から、例えば、4~12本とされる。但し、このような態様に限定されるものではない。
【0036】
図2に示されるように、1本の導電性糸10は、例えば、1~3本の金属フィラメント11で構成されており、本実施形態では1本の金属フィラメント11で構成されている。但し、導電性糸10は、例えば、さらに多くの本数の金属フィラメント11で構成されたものでも良く、これらが撚り合わされたものでも良い。また、導電性糸10は、金属フィラメント11と有機繊維フィラメントとを含むものでも良く、これらが撚り合わされたものでも良い。有機繊維フィラメントを含む導電性糸10は、カーカスプライのトッピングゴムと馴染み易く、導電性糸10を起点としたゴムの剥離を抑制するのに役立つ。
【0037】
金属フィラメント11は、導電性に優れていることに加え、タイヤの変形に応じて適度に変形するのが望ましい。また、金属フィラメント11は、耐食性が高いこと求められ、かつ、低コスト及び調達の容易性が求められる。このような観点から、金属フィラメント11は、例えば、ステンレス鋼からなるのが望ましい。なお、本明細書において、ステンレス鋼とは、JIS G 0203で定義されるものであって、炭素を1.2%以下、クロムを10.5%以上含む合金鋼を意味する。
【0038】
金属フィラメント11に用いられるステレンス鋼としては、例えば、フェライト系ステンレス鋼又はオーステナイト系ステンレス鋼が望ましい。これらのステンレス鋼は、優れた耐食性及び延性を発揮することができ、金属フィラメント11の破断を効果的に抑制することができる。なお、フェライト系ステンレス鋼は、常温での主な金属組織がフェライトであるステンレス鋼である。オーステナイト系ステンレス鋼とは、常温での金属組織がオーステナイトとなるステンレス鋼である。
【0039】
とりわけ、オーステナイト系ステンレス鋼は、非磁性であるため、長期のタイヤの使用によっても金属フィラメントが磁化しない。このため、タイヤの回転による電波障害の発生が確実に抑制される。
【0040】
金属フィラメント11の1%伸張時の応力は、望ましくは10N以下であり、さらに望ましくは5N以下である。これにより、タイヤの変形によって金属フィラメント11がその周囲のゴム部材に損傷を与えるのを抑制できる。
【0041】
上述の効果をさらに確実に発揮させるために、金属フィラメント11は、例えば、2%伸張時の応力が25N以下である。金属フィラメント11の2%伸張時の応力は、望ましくは15N以下であり、さらに望ましくは10N以下である。
【0042】
金属フィラメント11の1%伸張時の応力は、カーカスコード6cの1%伸張時の応力よりも小さいのが望ましい、同様に、金属フィラメント11の2%伸張時の応力は、カーカスコード6cの2%伸張時の応力よりも小さいのが望ましい。これにより、タイヤが変形したときでも金属フィラメント11に応力が集中せず、金属フィラメント11の破断が効果的に抑制される。
【0043】
図2に示されるように、金属フィラメント11の線径d1は、例えば、0.03~1.00mmであり、望ましくは0.05~0.50mm、より望ましくは0.10~0.20mmである。
【0044】
本実施形態の金属フィラメント11の破断強力(破断時の最大応力)は、例えば、5~20Nである。
【0045】
波付加工等が施されておらず、カーカスプライ6Aの外面の形状に沿って延びる金属フィラメント11の場合、その破断時の伸びは20.0%~40.0%であるのが望ましい。これにより、導電性糸10の破断がさらに確実に抑制される。金属フィラメント11は、波付加工が施されることにより、波状に延びるものでも良い。
【0046】
図3には、波状に延びる金属フィラメント11の拡大図が示されている。
図3に示されるように、この実施形態の金属フィラメント11は、破断時の伸びを大きく設定することができる。したがって、この実施形態の金属フィラメント11は、タイヤの変形に応じて適宜延び、その破断を確実に抑制することができる。
【0047】
金属フィラメント11は、例えば、2.0mm以下の振幅a1(ピークトゥピークの振幅である。)で波状に延びている。前記振幅a1は、例えば、0.5~1.5mmであるのが望ましい。これにより、金属フィラメント11の破断が抑制され、かつ、金属フィラメント11によるタイヤ重量の増加が抑制される。
【0048】
同様の観点から、金属フィラメント11の波長L1は、例えば、100mm以下とされる。具体的には、前記波長L1は、3~70mmであるのが望ましい。
【0049】
波状に延びる金属フィラメント11の場合、その破断時の伸びは、80%~160%であるのが望ましい。これにより、金属フィラメントの破断が効果的に抑制される。
【0050】
図1に示されるように、トレッド部2及びサイドウォール部3は、走行時においてビード部4よりも変形度合いが大きい。したがって、金属フィラメント11は、トレッド部2及びサイドウォール部3において、大きく伸ばされる傾向がある。このような観点から、トレッド部2における金属フィラメント11の振幅は、ビード部4における金属フィラメント11の振幅よりも大きいのが望ましい。また、サイドウォール部3における金属フィラメント11の振幅は、ビード部4における金属フィラメント11の振幅よりも大きいのが望ましい。これにより、金属フィラメント11によるタイヤ重量の増加を抑制しつつ、変形が大きい部分での金属フィラメント11の破断を効果的に抑制することができる。
【0051】
以上、本発明の一実施形態の空気入りタイヤが詳細に説明されたが、本発明は、上記の具体的な実施形態に限定されることなく、種々の態様に変更して実施され得る。
【実施例】
【0052】
図1の基本構造を有するサイズ195/70R15の乗用車用の空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作された。比較例1として、導電性糸として有機繊維フィラメント(PET)が用いられている空気入りタイヤが試作された。比較例2及び3として、金属フィラメントの1%伸張時の応力が13Nを超える空気入りタイヤが試作された。比較例2及び3並びに各実施例の金属フィラメントは、ステンレス鋼(SUS)からなる。また、各テストタイヤには、9本の導電性糸が配されている。各テストタイヤは、導電性糸の構成を除き、実質的に同じ構成を有している。各テストタイヤについて、タイヤの電気抵抗、一定距離走行後に破断した導電性糸の本数、及び、縁石乗り上げ後に破断した導電性糸の本数がテストされた。テスト方法は以下の通りである。
【0053】
<タイヤの電気抵抗>
図4に示されるように、絶縁板41(電気抵抗値が10
12Ω以上)の上に設置された表面が研磨された金属板42(電気抵抗値は10Ω以下)と、タイヤ・リム組立体を保持する導電性のタイヤ取付軸43と、電気抵抗測定器44とを含む測定装置が使用され、JATMA規定に準拠してテストタイヤTとリムRとの組立体の電気抵抗値が測定された。なお各テストタイヤTは、予め表面の離型剤や汚れが十分に除去され、かつ、十分に乾燥した状態のものが用いられた。その他の条件は、次の通りである。
リム材料:アルミニウム合金製
リムサイズ:15×6.0J
内圧:230kPa
荷重:4.8kN
試験環境温度(試験室温度):24℃
湿度:24%
電気抵抗測定器の測定範囲:1.0×10
3 ~1.6×10
16Ω
試験電圧(印可電圧):1000V
【0054】
試験の要領は、次の通りである。
(1)テストタイヤTをリムに装着しタイヤ・リム組立体を準備する。この際、両者の接触部に潤滑剤として石けん水が用いられる。
(2)タイヤ・リム組立体を試験室内で2時間放置させた後、タイヤ取付軸43に取り付ける。
(3)タイヤ・リム組立体に前記荷重を0.5分間負荷し、解放後にさらに0.5分間、解放後にさらに2分間負荷する。
(4)試験電圧が印可され、5分経過した時点で、タイヤ取付軸43と金属板42との間の電気抵抗値を電気抵抗測定器44によって測定する。前記測定は、タイヤ周方向に90°間隔で4カ所で行われ、そのうちの最大値を当該タイヤTの電気抵抗値(測定値)とする。
なお、上述したタイヤの電気抵抗の測定は、タイヤが未使用の状態で実施された。
【0055】
<一定距離走行後に破断した導電性糸の本数>
各テストタイヤをドラム試験機上で下記の条件で走行させた後、X線CTスキャン装置によって金属フィラメントを含む導電性糸の破断の本数が確認された。
タイヤ内圧:150kPa
縦荷重:5.9kN
速度:100km/h
走行距離:5000km
【0056】
<縁石乗り上げ後に破断した導電性糸の本数>
下記テスト車両にテストタイヤを装着し、一定の速度で侵入して縁石に乗り上げることを一定回数実施した。その後、X線CTスキャン装置によって金属フィラメントを含む導電性糸の破断の有無が確認された。
タイヤ内圧:230kPa
テスト車両:排気量1600cc、前輪駆動
テスト結果を表1~2に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
表1~2で示されるように、PETからなる導電性糸を含む比較例1は、タイヤの電気抵抗が大きい。一方、SUSからなる導電性糸を含む比較例2~3及び実施例1~8は、前記電気抵抗が有意に小さくなっている。また、実施例1~8は、金属フィラメントを含む導電性糸の破断を効果的に抑制していることが確認できた。
【符号の説明】
【0060】
2 トレッド部
4 ビード部
6 カーカス
6A カーカスプライ
10 導電性糸
11 金属フィラメント