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  • 特許-グリース組成物および転がり軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】グリース組成物および転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/10 20060101AFI20240718BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20240718BHJP
   C10M 135/10 20060101ALN20240718BHJP
   C10M 129/26 20060101ALN20240718BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20240718BHJP
   C10M 133/12 20060101ALN20240718BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240718BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20240718BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240718BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240718BHJP
   C10N 30/12 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
C10M141/10
F16C33/66 Z
C10M135/10
C10M129/26
C10M137/10 A
C10M133/12
C10N50:10
C10N10:04
C10N40:02
C10N30:00 Z
C10N30:12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020116496
(22)【出願日】2020-07-06
(65)【公開番号】P2022022772
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新谷 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】三宅 一徳
(72)【発明者】
【氏名】村上 正之
(72)【発明者】
【氏名】秋元 翔太
(72)【発明者】
【氏名】前田 高弘
(72)【発明者】
【氏名】西 要
(72)【発明者】
【氏名】吉原 径孝
(72)【発明者】
【氏名】伊佐 一希
(72)【発明者】
【氏名】安藤 好輝
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-279981(JP,A)
【文献】特開2008-239687(JP,A)
【文献】特開2009-185084(JP,A)
【文献】特開2011-084646(JP,A)
【文献】特開2012-012441(JP,A)
【文献】特開2012-193298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
F16C33/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、
増ちょう剤と、
防錆剤と、
極圧剤と、を含むグリース組成物であって、
前記防錆剤は、前記グリース組成物の全体の質量に対して、
スルホン酸カルシウムを0.10~10.00質量%、
スルホン酸亜鉛を0.20~10.00質量%、及び
カルボン酸亜鉛を0.10~10.00質量%、を含み
前記極圧剤は、前記グリース組成物の全体の質量に対して、
ジアルキルジチオリン酸亜鉛を2.00~14.00質量%、を含む
グリース組成物。
【請求項2】
前記スルホン酸カルシウムの含有量は、前記グリース組成物の全体の質量に対して、0.30~4.00質量%である、請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記防錆剤と前記極圧剤との合計量は、前記グリース組成物の全体の質量に対して、15.00質量%以下である、請求項1又は2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
更に、酸化防止剤を含み、
前記酸化防止剤は、前記グリース組成物の全体の質量に対して、
ナフチルアミンを0.50~5.00質量%、を含む
請求項1~3のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のグリース組成物が封入された、転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物および当該グリース組成物が封入された転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン補機や電装品用の軸受としては、主に電磁クラッチ用の軸受、オルタネータ用の軸受、アイドラプーリ用の軸受などがある。
これらの軸受に使用されるグリース組成物は、高温環境下でも軸受潤滑寿命が長く、かつ耐白層はく離性に優れることが求められる。
【0003】
自動車のエンジン補機や電装品用の軸受に用いるグリース組成物として、例えば、特許文献1は、アルキルジフェニルエーテルを含む基油と、増ちょう剤としてのジウレアと、耐はく離添加剤としての有機スルホン酸塩系錆止め剤及び耐荷重添加剤と、酸化防止剤とを含有するグリース組成物を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-84442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電磁クラッチ用の軸受やアイドラプーリ用の軸受は、被水環境下で使用される軸受であり、被水環境下で使用される軸受は、耐白層はく離性に加えて、防錆性も求められている。しかしながら、特許文献1で提案されたグリース組成物は、錆止め剤を含有しているものの、被水環境下にある軸受での錆の発生を充分に防止することが困難であった。そのため、グリース組成物に対する防錆性の向上が望まれている。
【0006】
また、防錆剤の配合量を増量したり、複数種類の防錆剤を配合したりすれば、グリース組成物の防錆性の向上が期待できるが、この場合、極圧剤に由来する反応膜の形成が阻害され、その結果、耐白層はく離性が低下しやすかった。
即ち、現状、防錆性と耐白層はく離性とを両立したグリース組成物を提供することは困難であった。
そのため、白層はく離の発生を抑制しつつ、優れた防錆性を付与することができるグリース組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の要求に応えるべく鋭意検討を行い、白層はく離の発生を抑制するための特定の極圧剤を含有するとともに、特定の3種類の防錆剤を含むグリース組成物であれば、転がり軸受に封入した際に、当該軸受における白層はく離の発生を抑制しつつ、この軸受に優れた防錆性を付与することができることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明のグリース組成物は、
基油と、
増ちょう剤と、
防錆剤と、
極圧剤と、を含むグリース組成物であって、
上記防錆剤は、上記グリース組成物の全体の質量に対して、
スルホン酸カルシウムを0.10~10.00質量%、
スルホン酸亜鉛を0.20~10.00質量%、及び
カルボン酸亜鉛を0.10~10.00質量%、を含み
上記極圧剤は、上記グリース組成物の全体の質量に対して、
ジアルキルジチオリン酸亜鉛を2.00~14.00質量%、を含む。
【0009】
本発明のグリース組成物は、極圧剤として所定量のジアルキルジチオリン酸亜鉛を含むため、当該グリース組成物を転がり軸受に使用した際には、ジアルキルジチオリン酸亜鉛による反応膜が形成され、当該転がり軸受における白層はく離の発生を抑制することができる。
これとともに、上記グリース組成物は、防錆剤として、スルホン酸カルシウム、スルホン酸亜鉛及びカルボン酸亜鉛をそれぞれ所定量含有するため、当該グリース組成物を封入した転がり軸受では、耐白層はく離性を阻害することなく、錆の発生を抑制することができる。
【0010】
上記グリース組成物において、上記スルホン酸カルシウムの含有量は、上記グリース組成物の全体の質量に対して、0.30~4.00質量%が好ましい。
上記グリース組成物において、上記防錆剤と上記極圧剤との合計量は、上記グリース組成物の全体の質量に対して、15.00質量%以下が好ましい。
【0011】
上記グリース組成物は、更に酸化防止剤を含み、上記酸化防止剤は、上記グリース組成物の全体の質量に対して、ナフチルアミンを0.50~5.00質量%を含むことが好ましい。
本発明の転がり軸受は、本発明のグリース組成物が封入された、転がり軸受である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のグリース組成物は、転がり軸受に使用した際に、転がり軸受における白層はく離の発生を抑制しつつ、転がり軸受に優れた防錆性を付与することができる。
本発明の転がり軸受は、上記グリース組成物が封入されているため、白層はく離が発生しにくく、かつ錆が発生しにくい転がり軸受である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る玉軸受を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
本発明の実施形態に係る転がり軸受は、本発明の実施形態に係るグリース組成物からなるグリースが封入された玉軸受である。
図1は、本発明の一実施形態に係る玉軸受を示す断面図である。
玉軸受1は、内輪2と、この内輪2の径方向外側に設けられている外輪3と、これら内輪2と外輪3との間に設けられている複数の転動体としての玉4と、これらの玉4を保持している環状の保持器5とを備えている。また、この玉軸受1は、軸方向一方側及び他方側のそれぞれにシール6が設けられている。
さらに、内輪2と外輪3との間の環状の領域7は、本発明の実施形態に係るグリース組成物からなるグリースGが封入されている。
【0015】
内輪2は、その外周に玉4が転動する内軌道面21が形成されている。
外輪3は、その内周に玉4が転動する外軌道面31が形成されている。
玉4は、内軌道面21と外軌道面31との間に複数介在し、これら内軌道面21及び外軌道面31を転動する。
領域7に封入されたグリースGは、玉4と内輪2の内軌道面21との接触箇所、及び、玉4と外輪3の外軌道面31との接触箇所にも介在する。なお、グリースGは、内輪2と外輪3とシール6とで囲まれた空間から玉4と保持器5を除いた空間の容積に対して、20~40体積%を占めるように封入されている。
シール6は、環状の金属環6aと金属環6aに固定された弾性部材6bとを備えた環状の部材であり、径方向外側部が外輪3に固定され、径方向内側部のリップ先端が内輪2に摺接可能に取付けられている。シール6は、封入されたグリースGが外部へ漏れるのを防止している。
【0016】
このように構成された玉軸受1は、グリースGとして、後述する本発明の実施形態に係るグリース組成物からなるグリースが封入されている。そのため、グリースGが封入された玉軸受1は、白層はく離が発生しにくく、かつ錆も発生しにくい。
【0017】
次に、グリースGを構成するグリース組成物について詳細に説明する。
グリースGを構成するグリース組成物は、本発明の実施形態に係るグリース組成物であり、基油、増ちょう剤、防錆剤及び極圧剤を含む。
上記グリース組成物は、特定の極圧剤を含有するので白層はく離の発生を抑制しつつ、特定の3種類の防錆剤を含有することで、転がり軸受における錆の発生を回避することができる。即ち、上記グリース組成物によれば、耐白層はく離性と防錆性とを両立することができる。
【0018】
グリース組成物が封入された転がり軸受において、白層はく離の発生を抑制するには、軸受の回転時に内外輪の軌道面等に極圧剤による反応膜が確実に形成されることが重要である。一方、錆の発生を防止するには、保管時や停止時など軸受非回転時に内外輪の表面や転動体の表面に防錆剤による緻密な吸着膜が形成されることが重要である。
ここで、防錆剤による吸着膜の内外輪や転動体の表面に対する密着性が高すぎると、軸受の回転時にも上記吸着膜が維持され、内外輪の軌道面等における極圧剤由来の反応膜の形成が阻害されることがある。この場合、耐白層はく離性が不十分になる。
これに対して、本実施形態のグリース組成物が含有する特定の3種類の防錆剤による吸着膜は、内外輪や転動体の表面に対する密着性が1種類の防錆剤のみを用いる場合に比べると弱く、軸受回転時には吸着膜を維持しにくい。そのため、上記3種類の防錆剤による吸着膜は、軸受回転時に上記極圧剤に由来する反応膜の形成を阻害しないと考えられる。
これが、本発明の実施形態に係るグリース組成物を用いることにより、転がり軸受における白層はく離の発生を抑制しつつ、転がり軸受に優れた防錆性を付与することができる理由と考えている。
【0019】
上記基油としては、例えば、アルキルジフェニルエーテル(ADE)等のエーテル油、エステル油、ポリ-α-オレフィン(PAO)、ポリアルキレングリコール、フッ素油、シリコーン油などが挙げられる。
これらのなかでは、アルキルジフェニルエーテル(ADE)が好ましい。耐白層はく離性に優れたグリース組成物を提供するのに適しているからである。
アルキルジフェニルエーテルとしては、転がり軸受用のグリースの基油として使用される従来公知のアルキルジフェニルエーテルを使用することができる。
【0020】
上記基油がアルキルジフェニルエーテルの場合、アルキルジフェニルエーテルの40℃における基油動粘度は、60~200mm/sが好ましい。この場合、上記グリース組成物は、高温下での使用に適しているからである。
一方、上記基油動粘度(40℃)が60mm/s未満では、上記グリース組成物を使用した際に高温下で焼付きが発生する懸念がある。また、上記基油動粘度(40℃)が200mm/sを超えると、上記グリース組成物を使用した際、低温での起動トルクが増大することがある。
上記基油動粘度(40℃)は、80~120mm/sがより好ましい。
上記基油動粘度は、JIS K 2283に準拠した値である。
【0021】
上記増ちょう剤としては、従来公知の増ちょう剤を使用することができる。上記増ちょう剤としては、ジウレアが好ましい。
上記ジウレアとしては、下記式(1)で表されるジウレアが好ましい。
-NHCONH-R-NHCONH-R・・・(1)
(式(1)中、R及びRは互いに独立して、-C2n+1(nは、8~18の整数)で表されるアルキル基、又は、R-C10-(Rは、水素、2-メチル基、3-メチル基、又は、4-メチル基である)で表される脂環基であり、Rは、-(CH-、-C(CH)-、又は、-C-CH-C-である。)
上記式(1)において、Rが-C(CH)-の場合、フェニレン基は、メチル基を1位として、2,4位又は2,6位で結合していることが好ましい。また、Rが-C-CH-C-の場合、両フェニレン基は、どちらもパラ位で結合していることが好ましい。
また、R及びRとしては、-C1837、及び、-C11(シクロヘキシル基)が好ましい。Rとしては、-C-CH-C-が好ましい。
【0022】
上記増ちょう剤は、1種類のジウレアで構成されていても良いが、2種類以上のジウレアの混合物が好ましい。
上記増ちょう剤が2種類以上のジウレアの混合物の場合、当該混合物は、
上記式(1)におけるR及びRがいずれも上記アルキル基である脂肪族ジウレアと、上記式(1)におけるR及びRがいずれも上記脂環基である脂環式ジウレアとの混合物であるか、若しくは、
上記式(1)におけるR及びRの一方が上記アルキル基で、他方が上記脂環基である脂環式脂肪族ジウレアと、上記式(1)におけるR及びRがいずれも上記アルキル基である脂肪族ジウレア及び/又は上記式(1)におけるR及びRがいずれも上記脂環基である脂環式ジウレアと、の混合物である、ことが好ましい。
この理由は、R及びRの官能基として、アルキル基と脂環基とが混在しているジウレアは、耐焼付き性と耐漏えい性とを高いレベルで両立することができるグリース組成物の増ちょう剤として適しているからである。
【0023】
上記式(1)で表されるジウレアは、アミン化合物と、ジイソシアネート化合物とが反応して生成した生成物である。
上記アミン化合物は、脂肪族アミン及び/又は脂環式アミンである。
上記脂肪族アミンは、炭素数8~18の脂肪族アミンであり、具体例としては、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミンなどが挙げられる。
上記脂環式アミンとしては、シクロヘキシルアミン、1-アミノ-2-メチルシクロヘキサン、1-アミノ-3-メチルシクロヘキサン、1-アミノ-4-メチルシクロヘキサンを選択することができる。
【0024】
上記ジイソシアネート化合物としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,4-トルエンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トルエンジイソシアネート(2,6-TDI)、2,4-TDIと2,6-TDIとの混合物、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を選択することができる。
【0025】
上記式(1)で表されるジウレアを得るために、上記アミン化合物と上記ジイソシアネート化合物とは種々の条件下で反応させることができるが、増ちょう剤としての均一分散性が高いジウレア化合物が得られることから、基油中で反応させることが好ましい。
また、上記アミン化合物と上記ジイソシアネート化合物との反応は、アミン化合物を溶解した基油中に、ジイソシアネート化合物を溶解した基油を添加して行っても良いし、ジイソシアネート化合物を溶解した基油中に、アミン化合物を溶解した基油を添加して行っても良い。
【0026】
上記アミン化合物とジイソシアネート化合物との反応における温度及び時間は特に制限されず、通常この種の反応で採用される条件と同様の条件を採用すれば良い。
反応温度は、25℃~110℃が好ましい。
反応時間は、アミン化合物とジイソシアネート化合物との反応を完結させるという点や、製造時間を短縮してグリースの製造を効率良く行うという点から、0.5~2.0時間が好ましい。
【0027】
上記増ちょう剤の含有量は、グリース組成物の全体の質量に対して、5.00~30.00質量%が好ましい。
上記増ちょう剤の含有量は、少なすぎると使用時にグリース漏れが発生することがあり、多すぎるとグリース組成物を使用した際に焼付きが発生することがある。
上記増ちょう剤のより好ましい含有量は、グリース組成物の全体の質量%に対して、10.00~20.00質量%である。
【0028】
上記グリース組成物は、特定の3種類の防錆剤を含有することを技術的特徴の1つとしている。
上記防錆剤は、スルホン酸カルシウム、スルホン酸亜鉛、及び、カルボン酸亜鉛である。
【0029】
上記スルホン酸カルシウムとしては、グリース組成物に配合して防錆剤として使用できるものであれば特に限定されない。
上記スルホン酸カルシウムの具体例としては、例えば、下記式(2)で示されるスルホン酸カルシウム等が挙げられる。
[R-SOCa・・・(2)
(式(2)中、Rは、アルキル基、アルケニル基、アルキルナフチル基、ジアルキルナフチル基、アルキルフェニル基、又は石油高沸点留分であり、アルキル及びアルケニルは、いずれも直鎖又は分岐であり、炭素数は2~22である。)
【0030】
としては、R中のアルキル基の炭素数が好ましくは6~18、より好ましくは8~18、とりわけ好ましくは10~18であるアルキルフェニル基が好ましい。式(2)で示される化合物のうち、好ましくは塩基価(JIS K 2501に準拠)が50~500mgKOH/gであり、より好ましくは300~500mgKOH/gである過塩基性カルシウムスルホネートが使用される。過塩基性カルシウムスルホネートは、カルシウムスルホネートと炭酸カルシウムとを含む。
【0031】
上記スルホン酸カルシウムの含有量は、グリース組成物の全体の質量に対して、0.10~10.00質量%である。上記スルホン酸カルシウムの含有量がこの範囲をはずれると、3種類の特定の防錆剤を併用しても、防錆性と耐白層はく離性とを両立することが困難である。
上記スルホン酸カルシウムの含有量は、グリース組成物の全体の質量に対して0.30~4.00質量%が好ましい。この場合、グリース組成物は、防錆性と耐白層はく離性とをより好ましく両立することができる。
【0032】
上記スルホン酸亜鉛としては、グリース組成物に配合して防錆剤として使用できるものであれば特に限定されない。
上記スルホン酸亜鉛の具体例としては、例えば、下記式(4)で示されるスルホン酸亜鉛等が挙げられる。
[R-SOZn・・・(4)
(式(4)中、Rは、アルキル基、アルケニル基、アルキルナフチル基、ジアルキルナフチル基、又はアルキルフェニル基であり、アルキル及びアルケニルは、いずれも直鎖又は分岐であり、炭素数は2~22である。)
上記スルホン酸亜鉛としては、アルキルナフタレンスルホン酸亜鉛が好ましい。
【0033】
上記スルホン酸亜鉛の含有量は、グリース組成物の全体の質量に対して、0.20~10.00質量%である。上記スルホン酸亜鉛の含有量がこの範囲をはずれると、3種類の特定の防錆剤を併用しても、防錆性と耐白層はく離性とを両立することが困難である。
上記スルホン酸亜鉛の含有量は、グリース組成物の全体の質量に対して0.50~3.00質量%が好ましい。この場合、上記グリース組成物は、防錆性と耐白層はく離性とを両立するのにより適したグリース組成物となる。
【0034】
上記カルボン酸亜鉛としては、グリース組成物に配合して防錆剤として使用できるものであれば特に限定されない。
上記カルボン酸亜鉛の具体例としては、例えば、ナフテン酸亜鉛、ロジン酸亜鉛、ネオデカン酸亜鉛、オクチル酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛等が挙げられる。
上記カルボン酸亜鉛としては、ナフテン酸亜鉛が好ましい。
【0035】
上記カルボン酸亜鉛の含有量は、グリース組成物の全体の質量に対して、0.10~10.00質量%である。上記カルボン酸亜鉛の含有量がこの範囲をはずれると、3種類の特定の防錆剤を併用しても、防錆性と耐白層はく離性とを両立することが困難である。
上記カルボン酸亜鉛の含有量は、グリース組成物の全体の質量に対して0.10~1.00質量%が好ましい。この場合、上記グリース組成物は、防錆性と耐白層はく離性とを両立するのにより適したものとなる。
【0036】
上記防錆剤の含有量は、全体量の好ましい上限が、グリース組成物の全体の質量に対して15.00質量%である。上記防錆剤の全含有量が15.00質量%を超えると、白層はく離を抑制する反応膜の形成を阻害する場合がある。
【0037】
上記極圧剤は、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(以下、ZnDTPともいう)である。
上記ZnDTPとしては、従来公知のZnDTPを使用することができる。
上記ZnDTPの具体例としては、例えば、下記式(5)で表される化合物等が挙げられる。
【0038】
【化2】

(式(5)中、R~R10は、それぞれ独立して、1級アルキル基、2級アルキル基及びアリール基のいずれかである。)
上記ZnDTPとしては、上記式(5)において、R~R10がそれぞれ独立して炭素数3~8の1級アルキル基又は2級アルキル基であるZnDTPを1種のみを使用する、又は、炭素数が異なる複数種類を併用する、ことが好ましい。
【0039】
上記極圧剤の含有量は、グリース組成物の全体の質量に対して、2.00~14.00質量%である。
上記極圧剤の含有量が2.00質量%未満では、充分な耐白層はく離性を確保することができないことがある。一方、上記極圧剤の含有量が14.00質量%を超えても、耐白層はく離性は、上記極圧剤の含有量が14.00質量%である時と比較して顕著な向上は認められない。
【0040】
上記グリース組成物において、上記防錆剤と上記極圧剤との合計量は、上記グリース組成物の全体の質量に対して、15.00質量%以下であることが好ましい。
【0041】
上記グリース組成物は、更に、酸化防止剤を含有することが好ましい。
上記酸化防止剤としては特に限定されず、従来公知の酸化防止剤を使用することができる。
上記酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤が好ましく、ナフチルアミンがより好ましい。酸化防止剤としてナフチルアミンを使用したグリース組成物は、高温下での耐焼付き性が特に良好である。
【0042】
上記ナフチルアミンの具体例としては、例えば、1-ナフチルアミン、フェニル-1-ナフチルアミン、N-ナフチル-(1,1,3,3-テトラメチルブチルフェニル)-1-アミン、アルキルフェニル-1-ナフチルアミン、p-オクチルフェニル-1-ナフチルアミン、p-ノニルフェニル-1-ナフチルアミン、p-ドデシルフェニル-1-ナフチルアミン、フェニル-2-ナフチルアミン、及びN-[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル]-1-ナフチルアミン等が挙げられる。
【0043】
上記酸化防止剤の含有量は、グリース組成物の全体の質量に対して、0.50~5.00質量%が好ましい。
上記酸化防止剤の含有量が0.50質量%未満では、酸化防止剤を配合する効果が充分に得られないことがある。一方、酸化防止剤の含有量が5.00質量%を超えても、耐熱性は、上記酸化防止剤の含有量が5.00質量%である時と比較して顕著な向上は認められない。
【0044】
上記グリース組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に、耐摩耗剤、染料、色相安定剤、増粘剤、構造安定剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤などの添加剤を適量含有しても良い。
【0045】
本発明のグリース組成物は、グリース潤滑が求められる箇所に用いることができ、転がり軸受用のグリースとして好ましく用いられる。特に、本発明のグリース組成物は、耐白層はく離性と防錆性との両立が要求される転がり軸受用のグリースとして好適である。
そのため、上記グリース組成物からなるグリースは、電磁クラッチ用の軸受、アイドラプーリ用の軸受などの被水環境下で使用される転がり軸受に封入するグリースとして好ましく用いられる。
【0046】
次に、上記グリース組成物の製造方法について説明する。
上記グリース組成物の製造は、例えば、最初に、基油と増ちょう剤との混合物を調製し、その後、得られた混合物に、上述した所定の防錆剤及び極圧剤、更には必要に応じて含有させる酸化防止剤等の各種添加剤を投入し、3本ロールミルで撹拌して各成分を分散することによって行うことができる。
【0047】
本発明は、上記の実施形態に制限されることなく、他の実施形態で実施することもできる。
本発明の実施形態に係る転がり軸受は、本発明の実施形態に係るグリース組成物が封入された玉軸受に限定されず、上記転がり軸受は、本発明の実施形態に係るグリース組成物が封入されたものであれば、転動体として玉以外のものが使用された針軸受、ころ軸受等、他の転がり軸受であっても良い。
【実施例
【0048】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例のみに限定されるものではない。
ここでは、複数のグリース組成物を調製し、各グリース組成物の特性を評価した。各グリース組成物の組成及び評価結果は、表1に示した。
【0049】
実施例/比較例では、以下の原料を使用した。
[ベースグリース原料]
・ジイソシアネート化合物:4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート
・アミン化合物A(脂環式アミン):シクロヘキシルアミン
・アミン化合物B(脂肪族アミン):オクタデシルアミン
・基油:ADE(40℃における基油動粘度=103mm/s)
【0050】
[添加剤]
・防錆剤A(スルホン酸カルシウム):製品名 BRYTON C-400C(CHEMTURA CORPORATION社製、有効成分としてスルホン酸カルシウムを26質量%含有のものを使用)
・防錆剤B(スルホン酸亜鉛):製品名 NA-SUL ZS-HT(KING INDUSTRIES社製、有効成分としてスルホン酸亜鉛を35質量%含有のものを使用)
・防錆剤C(カルボン酸亜鉛):製品名 DAILUBE Z-310(DIC株式会社製、有効成分としてナフテン酸亜鉛を20質量%含有のものを使用)
【0051】
・極圧剤A(ジアルキルジチオリン酸亜鉛):
製品名 LUBRIZOL 1395(日本ルーブリゾール株式会社製、有効成分としてジアルキルジチオリン酸亜鉛を84質量%含有のものを使用)
・極圧剤B(ジアルキルジチオリン酸亜鉛):
製品名 LUBRIZOL 677A(日本ルーブリゾール株式会社製、有効成分としてジアルキルジチオリン酸亜鉛を93質量%含有のものを使用)
【0052】
・酸化防止剤(ナフチルアミン):製品名 IRGANOX L06(BASFジャパン株式会社製、有効成分としてN-[4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェニル]-1-ナフチルアミンを100質量%含有のものを使用)
【0053】
(ベースグリースの製造)
(1)基油含有量が77.00質量%となるように用意したADEの半量のADEに、増ちょう剤原料のアミン化合物(脂環式アミン:脂肪族アミン=5:1)を、増ちょう剤含有量が23.00質量%となるように混合し、70~80℃に加熱して溶解させ溶液Aを調製した。
(2)溶液Aの調製とは別に、基油含有量が77.00質量%となるように用意したADEの半量のADEに、増ちょう剤原料のジイソシアネート化合物を増ちょう剤含有量が23.00質量%となるように混合し、70~80℃に加熱して溶解させ溶液Bを調製した。
(3)上記溶液Bを撹拌しつつ、これに上記溶液Aを徐々に添加した。添加後100~110℃で30分間保持した。その後、160~180℃まで昇温した後、冷却したものを、ベースグリースとした。ベースグリースは、基油含有量が77.00質量%であり、増ちょう剤含有量が23.00質量%である。
【0054】
ベースグリースの混和ちょう度(60W)をJIS K 2220-7に準拠した方法で測定した。上記ベースグリースの混和ちょう度はNLGIちょう度グレードでNo.5であった。
【0055】
(実施例1)
ベースグリースに、表1に示した含有量となるように、ADE(ベースグリースの基油と併せて69.70質量%)、BRYTON C-400C(2.00質量%)、NA-SUL ZS-HT(4.00質量%)、DAILUBE Z-310(0.80質量%)、LUBRIZOL 1395(4.00質量%)、LUBRIZOL 677A(2.00質量%)、IRGANOX L06(2.00質量%)を添加し、ミキサーを用いて混合し、その後、3本ロールミルにより分散することで、グリース組成物を得た。
【0056】
(実施例2)
表1に示した含有量となるように、ADE(ベースグリースの基油と併せて72.70質量%)、LUBRIZOL 1395(2.00質量%)、LUBRIZOL 677A(1.00質量%)の添加量を変更した以外は実施例1と同様の手法でグリース組成物を調製した。
【0057】
(実施例3)
表1に示した含有量となるように、ADE(ベースグリースの基油と併せて68.50質量%)、BRYTON C-400C(5.00質量%)、NA-SUL ZS-HT(3.00質量%)、DAILUBE Z-310(3.00質量%)、及びLUBRIZOL 1395(2.00質量%)、LUBRIZOL 677A(1.00質量%)の添加量を変更した以外は実施例1と同様の手法でグリース組成物を調製した。
【0058】
(実施例4)
表1に示した含有量となるように、ADE(ベースグリースの基油と併せて66.50質量%)、NA-SUL ZS-HT(5.00質量%)の添加量を変更した以外は実施例3と同様の手法でグリース組成物を調製した。
【0059】
(比較例1)
表1に示した含有量となるように、ADE(ベースグリースの基油と併せて78.70質量%)、BRYTON C-400C(配合せず)、NA-SUL ZS-HT(1.00質量%)、及びLUBRIZOL 1395(1.33質量%)、LUBRIZOL 677A(0.67質量%)の添加量を変更した以外は実施例1と同様の手法でグリース組成物を調製した。
【0060】
(比較例2)
表1に示した含有量となるように、ADE(ベースグリースの基油と併せて77.70質量%)、BRYTON C-400C(2.00質量%)、及びNA-SUL ZS-HT(配合せず)の添加量を変更した以外は比較例1と同様の手法でグリース組成物を調製した。
【0061】
(比較例3)
表1に示した含有量となるように、ADE(ベースグリースの基油と併せて78.50質量%)、BRYTON C-400C(1.00質量%)、及びDAILUBE Z-310(配合せず)の添加量を変更した以外は比較例1と同様の手法でグリース組成物を調製した。
【0062】
(比較例4)
表1に示した含有量となるように、ADE(ベースグリースの基油と併せて74.70質量%)、LUBRIZOL 1395(4.00質量%)、LUBRIZOL 677A(2.00質量%)の添加量を変更した以外は比較例1と同様の手法でグリース組成物を調製した。
【0063】
(比較例5)
表1に示した含有量となるように、ADE(ベースグリースの基油と併せて74.70質量%)、BRYTON C-400C(1.00質量%)、及びLUBRIZOL 1395(4.00質量%)、LUBRIZOL 677A(2.00質量%)の添加量を変更した以外は比較例2と同様の手法でグリース組成物を調製した。
【0064】
(比較例6)
表1に示した含有量となるように、ADE(ベースグリースの基油と併せて74.50質量%)、LUBRIZOL 1395(4.00質量%)、LUBRIZOL 677A(2.00質量%)の添加量を変更した以外は比較例3と同様の手法でグリース組成物を調製した。
【0065】
(比較例7)
表1に示した含有量となるように、ADE(ベースグリースの基油と併せて77.50質量%)、DAILUBE Z-310(配合せず)、及びLUBRIZOL 1395(2.00質量%)、LUBRIZOL 677A(1.00質量%)の添加量を変更した以外は比較例2と同様の手法でグリース組成物を調製した。
【0066】
(比較例8)
表1に示した含有量となるように、ADE(ベースグリースの基油と併せて76.70質量%)、BRYTON C-400C(2.00質量%)の添加量を変更した以外は比較例1と同様の手法でグリース組成物を調製した。
【0067】
(グリース組成物の評価)
実施例1~4及び比較例1~8で調製したグリース組成物を評価した。なお、実施例1~4及び比較例1~8で調整したグリース組成物の混和ちょう度はNLGIちょう度グレードでNo.2~3であった。結果を表1に示した。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示した各性能の評価方法は、下記の通りである。
(防錆性)
空間容積の33%のグリース組成物および0.8mlの1wt%塩水を封入した、型番:6202/1B2RM(軸受内径:φ15、軸受外径:φ35、軸受幅:13の両シール深溝玉軸受)の軸受を転がり軸受の中心軸を水平方向に一致させた状態にして40℃雰囲気下で120h静置した。その後、内外輪軌道における発錆の有無を目視にて確認した。結果を表1に示した。
(評価基準)
〇:内外輪軌道に発錆なし
×:内外輪軌道のいずれか又は両方に発錆あり
【0070】
(耐白層はく離性)
型番:62022RM(呼び番号6202の両シール軸受)の軸受に、実施例及び比較例で調製したグリース組成物を規定量(内輪と外輪とシールとで囲まれた空間から玉と保持器を除いた空間の容積に対して35体積%)充填した後、グリース組成物が充填された軸受を軸受回転試験機に設置した。
その後、下記の条件で軸受の内輪を回転させた。
温度:室温
ラジアル荷重:1.5kN
回転数:9700⇔12000min-1
加速時間:30秒
減速時間:30秒
時間:16時間
【0071】
軸受回転試験後、軸受の玉の表面に形成された極圧剤由来の反応膜の厚さをX線光電子分光(XPS)分析装置により下記の条件で測定し、下記の基準で評価した。結果を表1に示した。
上記X線光電子分光分析装置としては、ULVAC-PHI社製、VersaProbe IIIを使用した。
【0072】
(測定条件)
スパッタガス:Ar
加速電圧:2kV
スパッタエリア:3×3
スパッタ率:2.32nm/min(SiO
分析径:200μm
分析サイクル:5回
測定ステップ:0.125eV
パスエナジー:140eV
(評価基準)
〇:反応膜の厚さが5nm以上である。
×:反応膜の厚さが5nm未満である。
【0073】
実施例及び比較例の結果から明らかな通り、本発明の実施形態に係るグリース組成物を用いることにより、白層はく離の発生を抑制しつつ、転がり軸受に優れた防錆性を付与することができる。
従って、上記グリース組成物が封入された転がり軸受は、白層はく離が発生しにくく、かつ錆も発生しにくい。
【符号の説明】
【0074】
1:玉軸受、2:内輪、3:外輪、4:玉、5:保持器、6:シール、7:領域、G:グリース
図1