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特許7522600害虫忌避フィルム及び間仕切り用フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】害虫忌避フィルム及び間仕切り用フィルム
(51)【国際特許分類】
   A01N 53/08 20060101AFI20240718BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20240718BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20240718BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20240718BHJP
   A01M 29/12 20110101ALI20240718BHJP
【FI】
A01N53/08 125
A01N25/10
A01N25/34 A
A01P17/00
A01M29/12
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020129047
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022025882
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000077
【氏名又は名称】アキレス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小林 秀一
(72)【発明者】
【氏名】本多 七海
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-126826(JP,A)
【文献】特開平09-169916(JP,A)
【文献】特開昭62-278931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 53/08
A01P 17/00
A01N 25/10
A01N 25/34
A01M 29/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂と害虫忌避成分と補助剤とを含む害虫忌避フィルムであって、
前記熱可塑性樹脂が塩化ビニル系樹脂であり、
前記害虫忌避成分がピレスロイド系化合物であり、
前記補助剤が、4級アンモニウム塩と脂肪酸エステルであり、前記4級アンモニウム塩が、アルキロイルアミノプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム塩であり、前記脂肪酸エステルが、ソルビタン脂肪酸エステル
であることを特徴とする害虫忌避フィルム。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、前記ピレスロイド系化合物の含有量が
0.70質量部以上3.6質量部以下、前記補助剤の含有量が0.035質量部以上0.27質量部以下であることを特徴とする請求項1に記載の害虫忌避フィルム。
【請求項3】
さらに脂肪酸ビスアマイドを含み、
前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、前記脂肪酸ビスアマイドの含有量が0.080質量部以上0.51質量部以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の害虫忌避フィルム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の害虫忌避フィルムからなる間仕切り用フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂フィルムの成形性や機能性を向上させるために添加された各種添加剤を用いた場合にも害虫忌避効果を損ねることのない害虫忌避フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、工場、倉庫、作業場、家庭等の建物の出入口を塞ぐためや内部空間を仕切るために、間仕切りフィルムが用いられている。
当該間仕切りフィルムには、人の出入りに乗じて害虫が建物や当該空間に入るのを防ぐために防虫効果が付与されている。例えば、虫が人の目には認識されない紫外線領域の光に感応する習性を有することから、黄色やオレンジなど紫外線領域の光を遮蔽する色に着色したものや紫外線吸収剤を含む防虫フィルムが知られている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、このような防虫フィルムを用いても隙間などから蛍光灯などの光が漏れてしまうと、そこに虫が集まってしまい、建物や内部空間に侵入してしまうことがあった。
また、精密機械の製造ラインのように塵や埃などの異物の混入が厳禁な場所の他、虫が媒介して細菌やウイルスなどの病原体を運ぶことにより、人への健康を害することや感染症が広がることが懸念されることから、衛生管理上必要な場所など、幅広い環境下での間仕切りフィルムの利用が期待されており、防虫効果の向上が求められている。
【0004】
そこで、害虫忌避成分を含む合成樹脂フィルム(害虫忌避フィルムともいう)が間仕切りフィルムとして使用されている。例えば、合成樹脂フィルム表面に、害虫忌避成分を含む塗膜層を形成したものや害虫忌避成分を含む樹脂組成物をフィルムに形成したものなどが知られている(特許文献2)。
【0005】
特許文献2に記載の害虫忌避フィルムは、害虫忌避成分をフィルム表面に移行させること(ブリードアウトともいう)で害虫の嫌がる成分を揮発させて寄り付かせない害虫忌避効果を発揮するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平04-65651号公報
【文献】特公平02-55402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、一般的に、合成樹脂フィルムには、可塑剤や滑剤、難燃剤など成形性や機能性を向上させるために各種添加剤が含まれるが、当該添加剤によっては、害虫忌避成分がフィルム表面に移行するのを阻害することがあり、害虫忌避効果を十分に発揮できなかった。
【0008】
本発明は、合成樹脂フィルムの成形性や機能性を向上させるために添加された各種添加剤を用いた場合でも、害虫忌避効果を損ねることのない害虫忌避フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願人は、特定の補助剤を用いることで、合成樹脂フィルムの成形性や機能性を向上させるための各種添加剤を添加しても、害虫忌避効果を損ねることのない害虫忌避フィルムが得られることを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
すなわち、本発明は、熱可塑性樹脂と害虫忌避成分と補助剤とを含む害虫忌避フィルムであって、前記熱可塑性樹脂が塩化ビニル系樹脂であり、前記害虫忌避成分がピレスロイド系化合物であり、前記補助剤が、4級アンモニウム塩と脂肪酸エステルであり、前記4級アンモニウム塩が、アルキロイルアミノプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム塩であり、前記脂肪酸エステルが、ソルビタン脂肪酸エステルであることを特徴とする。
【0011】
前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、前記ピレスロイド系化合物の含有量が0.70質量部以上3.6質量部以下、前記補助剤の含有量が0.035質量部以上0.27質量部以下であることを特徴とする。
【0012】
さらに脂肪酸ビスアマイドを含み、前記熱可塑性樹脂100質量部に対し、前記脂肪酸ビスアマイドの含有量が0.080質量部以上0.51質量部以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の害虫忌避フィルムは、間仕切り用フィルムに好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、合成樹脂フィルムの成形性や機能性を向上させるために添加された各種添加剤を用いた場合でも、害虫忌避効果を損ねることのない害虫忌避フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、熱可塑性樹脂と害虫忌避成分と補助剤とを含む害虫忌避フィルムであって、当該害虫忌避成分がピレスロイド系化合物であり、当該補助剤が、4級アンモニウム塩と脂肪酸エステルであることを特徴とする。
【0016】
本発明の熱可塑性樹脂としては、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、酢酸ビニル、ポリビニールアルコール又はこれら重合体を主体とする共重合体、もしくはブレンド物等などが使用でき、特に、透明性及び可撓性を兼ね備えた塩化ビニル系樹脂を用いることが好ましい。
塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニルの他、塩化ビニルと他の樹脂のモノマー、例えばエチレン、プロピレン、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、酢酸ビニル、マレイン酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、高級ビニルエーテル等との共重合体、もしくはこれらのブレンド物等が使用できる。
【0017】
本発明の害虫忌避成分としては、ピレスロイド系化合物が用いられる。
ピレスロイド系化合物は、ハエや蚊、ダニなどの昆虫類に対して忌避効果を発揮する。
ここで、本発明でいう害虫忌避効果とは、虫が嫌がって寄り付かせない効果のことであり、殺虫効果(ノックダウン)を発揮するものも含む。
【0018】
ピレスロイド系化合物としては、除虫菊に含まれる天然ピレスロイド系化合物(ピレトリン)や、合成ピレスロイド系化合物のペルメトリン、アレスリン、フタルスリン、レスメトリン、フラメトリン、フェノトリン、エムペントリン、プラレトリン、イミプロトリン、トランスフルトリン、シフルトリン、プロフルトリン、メトフルトリン、モンフルオロトリン、サイフェノトリン、フェンバレレート、フェンプロパスリン、シハロトリン、サイフルトリン、エトフェンプロクス、トラロメスリン、エスビオスリン、トランスフルスリン、テラレスリン等が挙げられ、1種又は2種以上混合したものでもよい。
その中でも、害虫忌避効果が高く、皮膚に触れてアレルギー反応を引き起こすといった皮膚感作性が低く人体への影響も少ないペルメトリンが好ましい。
【0019】
本発明において、ピレスロイド系化合物の添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し0.70質量部以上3.6質量部以下であることが好ましい。
0.70質量部未満だと、害虫忌避効果が得られ難く、3.6質量部を超えると害虫忌避効果の速効性があるものの、フィルム表面がべたつきやすく、後述する成形性や機能性に劣り取り扱いが困難となる。本発明では、害虫忌避成分を効率的にブリードアウトさせ、害虫忌避効果に持続性を持たせるためには、当該害虫忌避成分と後述する補助剤との添加量の適切なバランスが求められる。
【0020】
本発明の補助剤としては、4級アンモニウム塩と脂肪酸エステルが用いられる。当該補助剤を用いると、害虫忌避成分であるピレスロイド系化合物がフィルム表面に移行しやすくなり、害虫忌避効果が向上する。
【0021】
本発明の4級アンモニウム塩としては、下記の一般式(1)で示される化合物が使用できる。特に、塩化ビニル系樹脂中でのブリードアウトのしやすさから、アルキロイルアミノプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム塩が好ましい。
【0022】
【化1】
【0023】
式(1)中、R1、R2はメチル又はエチル基を示し、R3、R4のうち少なくとも1つは、親水性基として水酸基、ケトン基、エーテル基、カルボキシル基を少なくとも1つを有するアルキル基を示し、残りは炭素数1~22の飽和又は不飽和である直鎖及び分岐鎖のアルキル基、アリール基、アミド基を示す。Xは陰イオンを示す。
【0024】
本発明の脂肪酸エステルとしては、多価アルコールと炭素数が10以上の脂肪酸とのエステル結合により得られるものが使用できる。
多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、エリトリトール、キシリトール、ソルビトール、ソルビタンなどが挙げられる。
また、炭素数が10以上の脂肪酸としては、カプリン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸などが挙げられる。
その中でも、塩化ビニル系樹脂中での作用のしやすさから、ソルビタン脂肪酸エステルが好ましい。
【0025】
4級アンモニウム塩は、熱可塑性樹脂との相溶性が低く、フィルム内部からフィルム表面に移行しやすいため、フィルム内部のピレスロイド系化合物をも4級アンモニウム塩とともにフィルム表面に移行させる作用を有すると想定される。また、脂肪酸エステルは、界面活性剤のような働きをするので、4級アンモニウム塩を熱可塑性樹脂中に均一に分散させつつ、フィルム表面への移行を促す作用を有すると想定される。このように、4級アンモニウム塩と脂肪酸エステルの比率を調整することによって、害虫忌避成分をフィルム表面に移行しやすくすることができる。
そのため、本発明では、4級アンモニウム塩の添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し0.030質量部以上0.21質量部以下、脂肪酸エステルの添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し0.0050質量部以上0.060質量部以下であることが好ましい。
【0026】
本発明において、補助剤の添加量は、4級アンモニウム塩と脂肪酸エステルとの混合物が、熱可塑性樹脂100質量部に対し0.035質量部以上0.27質量部以下であることが好ましい。
0.035質量部未満だと、害虫忌避成分をフィルム表面に移行しにくいため忌避効果が得られ難く、0.27質量部を超えると忌避効果は得られるものの、フィルム表面がべたつきやすく、成形性や機能性に劣り取り扱いが困難となる。
【0027】
本発明は、合成樹脂フィルムの成形性や機能性を向上させるための各種添加剤を添加してもよい。
例えば、滑剤は、成形時に金属ロールとフィルムとが貼り付くことを抑え成形性を向上させることを目的に添加される。滑剤によって金属ロールとフィルムとが貼り付くことを抑えることで、例えばカレンダー成形時、複数の金属ロール間を通ってフィルムが製膜される過程で、次の金属ロールへの巻き取りができずフィルムの製膜ができなくなることを防止できる。また、滑剤の種類によっては、フィルム中の滑剤がフィルム表面に移行することで、ロールからフィルムを巻き出す(解反する)際にフィルム同士が貼り付いて所謂ブロッキングが発生することを防止することもできる。
また、可塑剤は、樹脂に柔軟性を付与することを目的に添加される。可塑剤は経時でフィルム表面に移行することが知られている。
このように、滑剤や可塑剤は、害虫忌避成分と同様にフィルム表面に移行する添加剤であり、害虫忌避成分が表面に移行するのを阻害しかねない。
また、合成樹脂フィルムには、滑剤や可塑剤以外にも、フィルム表面に移行しないまでも、熱安定剤、難燃剤、防滴剤、顔料、染料等などフィルムに機能性を付与する各種添加剤を含んでもよいが、当該添加剤によっても、害虫忌避成分が表面に移行するのを阻害しかねない。
本発明では、補助剤を用いることで、当該添加剤を含んでいても害虫忌避効果を阻害することを防止できる。
【0028】
本発明では、脂肪酸ビスアマイドを含むことが好ましい。
脂肪酸ビスアマイドは、前述した滑剤としても作用するが、害虫忌避成分や補助剤よりも移行しにくいため、害虫忌避成分が表面に移行するのを阻害せずに解反性を付与することができる。
脂肪酸ビスアマイドとしては、メチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイドなどが挙げられる。
【0029】
本発明において、脂肪酸ビスアマイドの添加量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し0.080質量部以上0.51質量部以下であることが好ましい。
0.080質量部未満だと、解反性が得られにくく、0.51質量部を超えると害虫忌避効果を阻害する虞がある。
【0030】
本発明の害虫忌避フィルムは、カレンダー成形、押出成形など公知の方法で形成される。また、本発明の害虫忌避フィルムには、厚みのあるシートも含むものであり、厚みとしては、0.2mm~2.0mmとし、単層でもよく、2層以上積層させた構造でもよい。
【0031】
本発明は、合成樹脂フィルムの成形性や機能性を向上させるために添加された各種添加剤を用いた場合でも、害虫忌避効果を損ねることのない害虫忌避フィルムを提供することができる。
【0032】
本発明の害虫忌避効果は、害虫忌避成分がフィルム表面へ移行する量によって評価される。
害虫忌避成分がフィルム表面へ移行する量は、以下の方法で測定できる。
縦30mm、横50mmの大きさにカットした害虫忌避フィルムを試験片とし、常温下で1週間静置する。その後、各試験片をビーカー中の抽出液(内部標準物質含む)に1分間浸し、試験片を取り出した後の液を検液とし、GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析装置、島津製作所社製、商品名「QP2010Plus」)を用いて検液中の害虫忌避成分の量(μg/cm)を測定する。本発明では、当該方法で測定された量が、フィルム表面へ移行した害虫忌避成分の量である。
【0033】
害虫忌避成分がフィルム表面に移行する量が多いほど、害虫忌避率を高めることができる。害虫忌避率とは、一般財団法人日本環境衛生センターの試験方法に準じて測定できる。具体的には、高さ20cm、横26cm、縦15cmの樹脂製の容器中に、得られたフィルムを縦70mm、横70mmに切った試験片(処理区)および忌避成分を含まない無処理試験片(対照区)を対にして両面テープで固定する。試験片および無処理試験片の上に、同試験片と同じ大きさで一面が開放した高さ5mmの木枠の上面にベニヤ板を載置したシェルターを置く。このとき、ベニヤ板と試験片とは木枠の高さ5mm分の隙間が設けられ、当該隙間にゴキブリが入れる入口が設けられている。容器の中央部には水を含ませた脱脂綿と固形飼料を置き、ゴキブリの逃亡を防止するため、容器内壁にワセリンを薄く塗った後に、ゴキブリの成虫20匹を入れて、24時間放置する。試験には、すべてチャバネゴキブリ成虫を使用した。24時間後、シェルターに潜伏するゴキブリを計数し、下記の計算式によって忌避効果を判定した。試験は、光源、温湿度差、固体差等によるバラツキを考慮して、試験は3回繰り返して行ない、その合計値によって以下の計算式で忌避率を算出する。

忌避率(%)=(1-処理区の虫数/対照区の虫数)×100
【0034】
本発明の害虫忌避フィルムは、間仕切り用フィルムや各種テープの基材などに用いることができ、特に間仕切り用フィルムとして好適である。
【実施例
【0035】
本発明について、実施例に基づき説明する。なお、本発明は実施例の内容に限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1~9、比較例1~5〕
表1で示す配合比で混合した原料を1対の加熱された金属ロール間に投入し、金属ロールを回転させて一方の金属ロールに原料が巻き取られるように加熱溶融して、厚み0.3mmのフィルムを製膜した。なお、表中の配合比は質量部である。
得られたフィルムについて、害虫忌避性、成形性、解反性を以下の通り評価し、結果を表1に示す。
【0037】
〔害虫忌避性:忌避成分のブリード量〕
得られたフィルムを縦30mm、横50mmの大きさにカットしたものを試験片とし、温度40℃、湿度95%の条件下(2か月促進相当)で1週間静置した。その後、各試験片をビーカー中の抽出液(内部標準物質:ピレンd10)に1分間浸し、試験片を取り出した後の液を検液とした。各検液を用いてGC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析装置、島津製作所社製、商品名「QP2010Plus」)を用いて、内部標準法に基づき、各検液中のペルメトリンの量(μg/cm)を測定し、以下の通り評価した。

〇 ペルメトリンの量が7.4μg/cm以上
△ ペルメトリンの量が7.3μg/cm以上7.4μg/cm未満
× ペルメトリンの量が7.3μg/cm未満
【0038】
〔害虫忌避性:ゴキブリ忌避率〕
一般財団法人日本環境衛生センターの試験方法に準じて行なった。具体的には、高さ20cm、横26cm、縦15cmの樹脂製の容器中に、得られたフィルムを縦70mm、横70mmに切った試験片(処理区)および忌避成分を含まない無処理試験片(対照区)を対にして両面テープで固定した。試験片および無処理試験片の上に、同試験片と同じ大きさで一面が開放した高さ5mmの木枠の上面にベニヤ板を載置したシェルターを置いた。このとき、ベニヤ板と試験片とは木枠の高さ5mm分の隙間が設けられ、当該隙間にゴキブリが入れる入口が設けられている。容器の中央部には水を含ませた脱脂綿と固形飼料を置き、ゴキブリの逃亡を防止するため、容器内壁にワセリンを薄く塗った後に、ゴキブリの成虫20匹を入れて、24時間放置した。試験には、すべてチャバネゴキブリ成虫を使用した。24時間後、シェルターに潜伏するゴキブリを計数し、下記の計算式によって忌避効果を判定した。試験は、光源、温湿度差、固体差等によるバラツキを考慮して、試験は3回繰り返して行ない、その合計値によって以下の計算式でゴキブリ忌避率を算出した。得られた忌避率から、80%以上を〇、50%以上80%未満を△、50%未満を×と評価した。

ゴキブリ忌避率(%)=(1-処理区の虫数/対照区の虫数)×100
【0039】
〔成形性〕
各原料を1対の加熱された金属ロール間に投入し、金属ロールを回転させて一方の金属ロールに原料が巻き取られるように加熱溶融して、厚み0.3mmのフィルムを製膜した後、金属ロールからフィルムを剥がす際の剥がしやすさを以下の通り評価した。なお、当該評価は、カレンダー成形時、複数の金属ロール間を通ってフィルムが製膜される過程で、金属ロールからフィルムが剥がれ難いと、次の金属ロールへの巻き取りができずフィルムの製膜ができなくなることを想定したものである。

〇 金属ロールへのフィルムの貼り付きがなく、スムーズに剥離できる
△ 金属ロールへのフィルムの貼り付きが若干あるが、剥離できる
× 金属ロールにフィルムが貼り付き、剥離できない
【0040】
〔解反性〕
幅25mm、長さ130mmの試験片を2枚用意し、当該試験片を重ねて2kgの重りを載せて1日間静置後、引張圧縮試験機(今井製作所社製、商品名「SV-52NA」)を用いて、150mm/minの速度で試験片間を角度180°で剥離した際の剥離強度を測定し平均値を求め、以下の通り評価した。

〇 剥離強度の平均値が8mN/mm未満
△ 剥離強度の平均値が8mN/mm以上16mN/mm未満
× 剥離強度の平均値が16mN/mm以上
【0041】
〔原料〕
塩化ビニル樹脂
補助剤:4級アンモニウム塩(アルキロイルアミノプロピルジメチル-2-ヒドロキシ エチルアンモニウム塩)とソルビタン脂肪酸エステルの混合物(質量比でアルキロイ ルアミノプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム塩:ソルビタン脂肪酸エステル=4:1)
可塑剤: DINP
安定剤:バリウム亜鉛系安定剤
滑剤:有機オリゴマー系滑剤
ピレスロイド系化合物:ペルメトリン
脂肪酸ビスアマイド:メチレンビスステアリン酸アマイド
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1で示されるように、実施例1~9では、合成樹脂フィルムの成形性や機能性を向上させるために添加された各種添加剤を用いた場合でも、害虫忌避効果を損ねることのない害虫忌避フィルムが得られた。
特に、脂肪酸ビスアマイドを添加した実施例2、3、8、9では、解反性の評価において、剥離強度が0.8mN/mm未満と「〇」の評価であり、試験片同士の貼り付きがなくスムーズに剥離でき、害虫忌避効果をも維持できることが示された。
さらに、脂肪族ビスアマイド及び滑剤を添加した実施例3では、解反性が「〇」評価であり、成形性も「〇」評価で、金属ロールへのフィルムの貼り付きがなく、スムーズに剥離でき、害虫忌避効果をも維持できることが示された。
【0045】
表2より、害虫忌避成分のブリード量が少ない比較例1~5では、ゴキブリ忌避率も同様に劣るフィルムが得られる結果となった。
また、滑剤を添加した実施例3と比較例3、4、5とを比較すると、本発明の補助剤を添加した実施例3では、害虫忌避性に優れるフィルムが得られたが、補助剤を添加していない比較例3、4、5では害虫忌避性に劣るフィルムとなった。