(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】金属酸化物ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子を含む組成物及びその硬化物
(51)【国際特許分類】
C01G 25/02 20060101AFI20240718BHJP
C01B 13/14 20060101ALI20240718BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20240718BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20240718BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20240718BHJP
【FI】
C01G25/02
C01B13/14 A
C09C3/08
C08F2/44 Z
B82Y30/00
(21)【出願番号】P 2020137595
(22)【出願日】2020-08-17
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】花井 衣里奈
(72)【発明者】
【氏名】木村 純也
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-070195(JP,A)
【文献】特表2009-529004(JP,A)
【文献】国際公開第2013/133281(WO,A1)
【文献】特開2017-025225(JP,A)
【文献】特開2013-216858(JP,A)
【文献】特開2017-061693(JP,A)
【文献】国際公開第2014/141600(WO,A1)
【文献】特開2006-131715(JP,A)
【文献】国際公開第2009/014201(WO,A1)
【文献】特開2008-044835(JP,A)
【文献】FAUCONNIER, N. et al.,Thiolation of maghemite nanoparticles by dimercaptosuccinic acid,Journal of Colloid and Interface Science,1997年,194, (2),427-433
【文献】RUIZ, A. et al.,Magnetic nanoparticles coated with dimercaptosuccinic acid; development, characterization, and application in biomedicine,Journal of Nanoparticle Research,2014年,16, 2589,1-20
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G
C01B 13/14
C09C 3/08
C08F 2/44
B82Y 30/00
C01F
B82Y 40/00
G02B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チオール基含有カルボン酸
及び分枝鎖状飽和脂肪族カルボン酸を含む表面処理剤で被覆された金属酸化物ナノ粒子。
【請求項2】
前記表面処理剤が、更にリン酸エステルを含む請求項1に記載の金属酸化物ナノ粒子。
【請求項3】
前記リン酸エステルが、エチレンオキサイド単位を有するリン酸エステルである請求項2に記載の金属酸化物ナノ粒子。
【請求項4】
被覆されない前記金属酸化物ナノ粒子100質量%に対する前記表面処理剤の割合が20質量%未満である請求項1~3のいずれかに記載の金属酸化物ナノ粒子。
【請求項5】
溶媒及びモノマーの少なくとも1種と、請求項1~4のいずれかに記載の金属酸化物ナノ粒子とを含む組成物。
【請求項6】
前記組成物が(メタ)アクリル酸エステルを含み、組成物100質量%に対する被覆された金属酸化物ナノ粒子の割合が20質量%以上である請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
請求項6に記載の組成物の硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子を含む組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の金属酸化物ナノ粒子を含む樹脂組成物、硬化性組成物等のナノ粒子含有組成物は、ナノ粒子の機能に応じて、光学材料、電子部品材料、磁気記録材料、触媒材料、紫外線吸収材料、歯科材料など様々な材料の高機能化や高性能化に寄与できる。しかし、金属酸化物ナノ粒子単独では有機媒体に対する分散性が不十分なため凝集する場合が多く、透明性の低下といった問題を生じていた。このような問題を解決するため、例えば特許文献1には、酸化ジルコニウム粒子をメトキシ酢酸で被覆することが記載されており、このような被覆によって、エタノールといった極性溶媒に良好に分散できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属酸化物ナノ粒子による各種材料の更なる高機能化を実現するためには、金属酸化物ナノ粒子が、各種材料の原料となるモノマーを含む組成物中で、高濃度に良好に分散でき、該組成物の取扱性が良好であることが必要である。しかし、上記特許文献1ではメトキシ酢酸での被覆によって、酸化ジルコニウムナノ粒子が極性溶媒へ良好に分散できることは示されているものの、金属酸化物ナノ粒子とモノマーを含む組成物であって、金属酸化物ナノ粒子が高濃度でも良好に分散しており、かつ取扱性が良好な組成物を実現可能な被覆剤については何ら示唆されていない。
【0005】
そこで、本発明は、上記した高濃度分散及び良好な取扱性を実現できる被覆剤を見出し、このような被覆剤で被覆された金属酸化物ナノ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成した本発明は以下の通りである。
[1]チオール基含有カルボン酸を含む表面処理剤で被覆された金属酸化物ナノ粒子。
[2]前記表面処理剤が、更にリン酸エステルを含む[1]に記載の金属酸化物ナノ粒子。
[3]前記リン酸エステルが、エチレンオキサイド単位を有するリン酸エステルである[2]に記載の金属酸化物ナノ粒子。
[4]被覆されない前記金属酸化物ナノ粒子100質量%に対する前記表面処理剤の割合が20質量%未満である[1]~[3]のいずれかに記載の金属酸化物ナノ粒子。
[5]溶媒及びモノマーの少なくとも1種と、[1]~[4]のいずれかに記載の金属酸化物ナノ粒子とを含む組成物。
[6]前記組成物が(メタ)アクリル酸エステルを含み、組成物100質量%に対する被覆された金属酸化物ナノ粒子の割合が20質量%以上である[5]に記載の組成物。
[7][6]に記載の組成物の硬化物。
【発明の効果】
【0007】
本発明の、チオール基含有カルボン酸を含む表面処理剤で被覆された金属酸化物ナノ粒子によれば、モノマーを含む組成物中で、金属酸化物ナノ粒子の濃度が高濃度であっても良好に分散でき、かつ、該組成物の粘度を取り扱い可能な程度に低減することができるという効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の金属酸化物ナノ粒子は、チオール基含有カルボン酸を含む表面処理剤で被覆されている。前記表面処理剤は、チオール基含有カルボン酸を含む他、リン酸エステルを含むことが好ましい。
【0009】
1.表面処理剤
1-1.チオール基含有カルボン酸
チオール基含有カルボン酸(以下、カルボン酸(1)と呼ぶ場合がある)は、1分子中に、チオール基(-SH)とカルボキシル基(-COOH)を、それぞれ1以上有する化合物である。チオール基含有カルボン酸としては、チオグリコール酸(メルカプト酢酸)、3-メルカプトプロピオン酸などのHS-(CH2)n-COOHの化学式(式中、nは1~5)で表される化合物、チオ乳酸、システイン、メルカプトコハク酸(チオリンゴ酸)、2-メルカプト安息香酸(チオサリチル酸)、4-メルカプト安息香酸などが挙げられる。チオール基含有カルボン酸としては、1分子中に1つのチオール基と、1つのカルボキシル基を有する化合物が好ましく、上記式HS-(CH2)n-COOH(式中、nは1~5)で表される化合物がより好ましく、特に3-メルカプトプロピオン酸、チオ乳酸が好ましい。
【0010】
被覆されない金属酸化物ナノ粒子100質量%に対するチオール基含有カルボン酸の量は、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは1質量%以上であり、更に好ましくは3質量%以上であり、また15質量%以下であってもよく、13質量%以下であってもよく、また10質量%以下であってもよい。
【0011】
なお、金属酸化物ナノ粒子がカルボン酸(1)で被覆されるとは、カルボン酸(1)が金属酸化物ナノ粒子に化学的に結合した状態及び物理的に結合した状態のいずれをも含む意味であり、例えば、カルボン酸(1)及び/又はカルボン酸(1)由来のカルボキシレートで被覆されていることを意味する。後記するカルボン酸(2)についても同様に、金属酸化物ナノ粒子がカルボン酸(2)で被覆されるとは、カルボン酸(2)及び/又はカルボン酸(2)由来のカルボキシレートで被覆されていることを意味する。
【0012】
1-2.リン酸エステル
前記表面処理剤は、チオール基含有カルボン酸と共に、リン酸エステルを含むことが好ましい。リン酸エステルは、リン酸モノエステルであってもよいし、リン酸ジエステルであってもよいし、リン酸トリエステルであってもよいし、リン酸モノエステル、リン酸ジエステル、リン酸トリエステルの2種以上の混合物であってもよい。リン酸エステルは、エチレンオキサイド単位を有するリン酸エステルであることが好ましく、例えば下記式(p1)で表されることが好ましい。
【0013】
【化1】
上記式(p1)中、Rは炭素数1~10のアルキル基であり、nは1~8であり、aは1~3である。
【0014】
Rは直鎖状アルキル基であってもよいし、分岐鎖状アルキル基であってもよく、好ましくは直鎖状アルキル基であり、より好ましくは炭素数1~5(特に1~3)の直鎖状アルキル基である。上記nは、2~6が好ましく、より好ましくは3~4.5である。また、リン酸エステルが上記式(p1)で表される場合、上記式(p1)におけるaが1であるリン酸モノエステルと、aが2であるリン酸ジエステルと、aが3であるリン酸トリエステルの2種以上の混合物が前記表面処理剤に含まれていてもよく、リン酸モノエステルとリン酸ジエステルの混合物が前記表面処理剤に含まれていることがより好ましい。
【0015】
被覆されない金属酸化物ナノ粒子100質量%に対するリン酸エステルの量(モノエステルとジエステルの混合物である場合にはその合計量)は、3質量%以上が好ましく、より好ましくは4.5質量%以上であり、更に好ましくは5質量%以上であり、また13質量%以下であってもよく、10質量%以下であってもよい。また、カルボン酸(1)の量に対するリン酸エステルの量の質量比は、0.5以上が好ましく、より好ましくは1.0以上であり、更に好ましくは1.5以上であり、また5.0以下が好ましく、より好ましくは4.0以下であり、更に好ましくは3.0以下である。
【0016】
1-3.チオール基含有カルボン酸以外のカルボン酸化合物
前記表面処理剤は、チオール基含有カルボン酸以外のカルボン酸化合物(以下、カルボン酸(2)と呼ぶ)を含むことも好ましい。カルボン酸(2)はカルボキシル基を有する化合物であり、シュウ酸、マロン酸、酪酸、コハク酸、吉草酸、グルタル酸、ヘキサン酸、アジピン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの直鎖状飽和脂肪族カルボン酸;イソ吉草酸、3,3-ジメチル酪酸、3,3-ジエチル酪酸、3-メチル吉草酸、イソノナン酸、4-メチル吉草酸、4-メチルオクタン酸などの1級カルボン酸である分枝鎖状飽和脂肪族カルボン酸;イソ酪酸、2-メチル酪酸、2-エチル酪酸、2-エチルヘキサン酸、2-メチル吉草酸、2-メチルヘキサン酸、2-メチルヘプタン酸、2-プロピル酪酸、2-ヘキシル吉草酸、2-ヘキシルデカン酸、2-ヘプチルウンデカン酸、2-メチルヘキサデカン酸などの2級カルボン酸である分枝鎖状飽和脂肪族カルボン酸;ピバリン酸、2,2-ジメチル酪酸、2,2-ジメチル吉草酸、2,2-ジエチル酪酸、2,2-ジメチルヘキサン酸、ネオデカン酸などの3級カルボン酸である分枝鎖状飽和脂肪族カルボン酸;ナフテン酸、シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式炭化水素基含有カルボン酸;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などの直鎖状不飽和脂肪族カルボン酸;メトキシ酢酸、エトキシ酢酸、3-エトキシプロピオン酸、2-メトキシエトキシ酢酸、2-メトキシエトキシエトキシ酢酸などのエーテル結合含有カルボン酸;乳酸、りんご酸、クエン酸、ヒドロキシステアリン酸、グリコール酸、DL-乳酸、2-ヒドロキシイソ酪酸、ジメチロールプロピオン酸、ヒドロキシピバル酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、DL-2-ヒドロキシ酪酸、DL-3-ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ-2-メチル酪酸、β-ヒドロキシイソ吉草酸、2,2-ビス(ヒドロキシメチル)酪酸、セリン、トレオニン、4-ヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、(o-,m-,p-)ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシ基含有カルボン酸;ピルビン酸などのカルボニル基含有カルボン酸グリオキシル酸、ピルビン酸、レブリン酸、2-オキソ吉草酸、アスパラギン、グルタミン、β-メチルレブリン酸、α-メチルレブリン酸などのカルボニル基含有カルボン酸;安息香酸、フタール酸、イソフタル酸などの芳香族カルボン酸:2-アクリロイロキシエチルコハク酸、2-メタクリロイロキシエチルコハク酸、2-アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-メタクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-アクリロイロキシエチルフタル酸、2-メタクリロイロキシエチルフタル酸などの(メタ)アクリロイル基含有カルボン酸;メチオニン、フェニルチオ酢酸などのスルフィド結合含有カルボン酸;グリシン、アラニン、2-メチルアラニン、システイン、セリン、トレオニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、リシンなどの-NH2基含有カルボン酸;アスパラギン、グルタミンなどのカルバモイル基含有カルボン酸;アスパラギン酸、グルタミン酸などのジカルボン酸;シアノ酢酸などのシアノ基含有カルボン酸;プロリンなどのカルボキシル基で置換された複素環式化合物;などが挙げられる。
【0017】
カルボン酸(2)としては、分枝鎖状飽和脂肪族カルボン酸が好ましく、特に2級カルボン酸である分枝鎖状飽和脂肪族カルボン酸がより好ましい。なお、2級カルボン酸とは、カルボキシル基に結合した炭素が2級炭素であるカルボン酸を意味する。
【0018】
被覆されない金属酸化物ナノ粒子100質量%に対するカルボン酸(2)の量は、0.5質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、更に好ましくは1.5質量%以上であり、また10質量%以下が好ましく、より好ましくは5質量%以下である。また、カルボン酸(1)の量に対するカルボン酸(2)の量の質量比は、0.1以上が好ましく、より好ましくは0.2以上であり、更に好ましくは0.3以上であり、また3.0以下が好ましく、より好ましくは2.0以下であり、更に好ましくは1.0以下である。
【0019】
1-4.シランカップリング剤
前記表面処理剤は、シランカップリング剤を含むことも好ましい。前記シランカップリング剤としては、1種又は2種以上を用いることができ、官能基-Si-OR9(ただし、R9はメチル基又はエチル基)を有する化合物が好ましい。シランカップリング剤としては、官能基を有するシランカップリング剤や、アルコキシシラン等が挙げられる。
【0020】
官能基を有するシランカップリング剤としては、下記式(3):
[X-(CH2)m]4-n-Si-(OR9)n …(3)
(式中、Xは官能基、R9は前記に同じ、mは0~4の整数、nは1~3の整数を表す。
)で表されるシランカップリング剤が挙げられる。
【0021】
Xとしては、ビニル基、アミノ基、(メタ)アクリロキシ基、メルカプト基、グリシドキシ基等が挙げられる。シランカップリング剤を具体的に例示すると、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等の官能基Xがビニル基であるシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルトリメトキシシラン等の官能基Xがアミノ基であるシランカップリング剤;3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等の官能基Xが(メタ)アクリロキシ基であるシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等の官能基Xがメルカプト基であるシランカップリング剤;2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等の官能基Xがグリシドキシ基であるシランカップリング剤;等が挙げられる。
【0022】
また、アルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等のアルキル基がアルコキシシランのケイ素原子に直接結合しているアルキル基含有アルコキシシラン;フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン等の芳香環がアルコキシシランのケイ素原子に直接結合しているアリール基含有アルコキシシラン;等が挙げられる。
【0023】
シランカップリング剤としては官能基Xが(メタ)アクリロキシ基であるシランカップリング剤及びアルキル基含有アルコキシシランが好ましく、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシランがより好ましい。
【0024】
1-5.界面活性剤及び/又はチタンカップリング剤
前記表面処理剤は、界面活性剤及び/又はチタンカップリング剤を含んでいてもよい。該界面活性剤としては、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両性イオン界面活性剤等のイオン性界面活性剤、あるいは非イオン系界面活性剤が挙げられる。陰イオン系界面活性剤としては、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸エステルスルホン酸ナトリウム等の脂肪酸系;アルキルリン酸エステルナトリウム等のリン酸系;アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム等のオレフィン系;アルキル硫酸ナトリウム等のアルコール系;アルキルベンゼン系等が挙げられる。陽イオン系界面活性剤としては、塩化アルキルメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルジメチルベンジルアンモニウム等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、アルキルアミノカルボン酸塩等のカルボン酸系;フォスフォベタイン等のリン酸エステル系等が挙げられる。非イオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の脂肪酸系;ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル;脂肪酸アルカノールアミド等が挙げられる。
【0025】
前記チタンカップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(ドデシル)ベンゼンスルホニルチタネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシ-トリ(ジオクチル)ホスフェイトチタネート、ネオペンチル(ジアリル)オキシ-トリネオドデカノイルチタネート等が挙げられる。
【0026】
本発明の金属酸化物ナノ粒子を被覆する表面処理剤には、チオール基含有カルボン酸が含まれているため、表面処理剤の量が少なくても、モノマーを含む組成物中での良好な分散性及び該組成物の粘度の低減を実現できる。前記表面処理剤の割合は、被覆されない金属酸化物ナノ粒子100質量%に対して、20質量%未満であることが好ましく、より好ましくは17質量%以下であり、更に好ましくは15質量%以下である。前記表面処理剤の量が前記範囲であることはすなわち、被覆された金属酸化物ナノ粒子における金属酸化物ナノ粒子の比率が大きいということであり、金属酸化物ナノ粒子の機能を最大源に発揮できる。
【0027】
2.金属酸化物ナノ粒子
金属酸化物ナノ粒子は、Ti、Al、Zr、In、Zn、Sn、La、Y、Ce、Mg、Ba、Ca、Sb等の酸化物ナノ粒子が挙げられ、特に屈折率を高める観点からTi、Al、Zr、Zn、Sn及びCeよりなる群から選択される少なくとも1種(特にZr)の酸化物ナノ粒子であることが好ましい。前記金属酸化物は、単一金属の酸化物であってもよいし、2種以上の酸化物の固溶体であってもよいし、複合酸化物であってもよい。単一金属酸化物には、例えば、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化インジウム(In2O3)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)、酸化ランタン(La2O3)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化セリウム(CeO2)、酸化マグネシウム(MgO)が含まれる。2種以上の酸化物の固溶体としては、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化スズアンチモン(ATO)等が挙げられる。複合酸化物としては、例えばチタン酸バリウム(BaTiO3)、灰チタン石(CaTiO3)、スピネル(MgAl2O4)等が挙げられる。
【0028】
前記金属酸化物ナノ粒子の結晶子径は、好ましくは20nm以下、より好ましくは15nm以下、さらに好ましくは10nm以下であり、通常1nm以上である。結晶子径が小さいほど、金属酸化物ナノ粒子を含む組成物の光透過率を向上できる。前記結晶子径はX線回折法により特定することができる。
【0029】
前記金属酸化物ナノ粒子の結晶構造は、X線回折法により特定することができ、立方晶、正方晶、単斜晶等であることが好ましく、複数の結晶構造が存在していてもよい。なお、X線回折測定では酸化ジルコニウムナノ粒子の立方晶と正方晶を区別することが難しく、立方晶が存在する場合でもその割合は正方晶の割合としてカウントされる。屈折率を向上する観点から、結晶構造全体の50%以上が正方晶及び/又は立方晶であることが好ましい。また、単斜晶に対する正方晶及び立方晶の合計の割合((正方晶+立方晶)/単斜晶)は、好ましくは1.0以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上であり、また15以下であることが好ましい。
【0030】
また金属酸化物ナノ粒子の平均一次粒子径は、好ましくは50nm以下、より好ましくは30nm以下、さらに好ましくは20nm以下であり、好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上である。金属酸化物ナノ粒子の平均一次粒子径が前記範囲にあると、金属酸化物ナノ粒子含有組成物の透明性を高めやすくなる。前記平均一次粒子径は、金属酸化物ナノ粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)、電界放射型透過電子顕微鏡(FE-TEM)、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)等で拡大観察し、無作為に100個の粒子を選択してその長軸方向の長さを測定し、その算術平均を求めることで決定できる。
【0031】
チオール基含有カルボン酸(カルボン酸(1))を含む表面処理剤で被覆された金属酸化物ナノ粒子は、カルボン酸(1)を含む表面処理剤を、被覆されていない金属酸化物ナノ粒子と接触させて製造してもよいし、水熱合成によって得られるカルボン酸(2)で被覆された金属酸化物ナノ粒子と、カルボン酸(1)を含む表面処理剤を接触させて製造してもよい。前記した水熱合成を経る製造方法では、例えば、水の存在下で、(i)水熱反応により金属酸化物を生成しうる化合物(以下、「金属酸化物ナノ粒子前駆体」又は単に「前駆体」という場合がある)及びカルボン酸(2)の混合物、(ii)前記前駆体とカルボン酸(2)との塩、(iii)金属とカルボン酸(2)との塩、のいずれかを水熱反応させることで、カルボン酸(2)で被覆された金属酸化物ナノ粒子aを製造し(水熱工程)、さらに前記ナノ粒子aを被覆するカルボン酸(2)の少なくとも一部をカルボン酸(1)で置換することで(置換工程)、カルボン酸(1)を含む表面処理剤で被覆された金属酸化物ナノ粒子bを製造できる。なお、カルボン酸(2)の全てがカルボン酸(1)で置換されるまで置換工程を実施することで、カルボン酸(1)で被覆された金属酸化物ナノ粒子を製造できる。
【0032】
前記(i)における金属酸化物ナノ粒子前駆体は、水熱反応により金属酸化物を生成する化合物であることが好ましく、具体的には各種金属及び各種金属の水酸化物、塩化物、オキシ塩化物、オキシ酢酸塩、オキシ硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、有機酸塩、アルコキシド等が含まれる。前記(i)及び(ii)の態様における金属酸化物ナノ粒子前駆体中の金属、及び前記(iii)の態様における金属とは、本発明の金属酸化物ナノ粒子を構成する金属を意味する。前記(i)~(iii)のいずれかを水熱反応に供する際、これらに対して良好な溶解性を示す炭化水素、ケトン、エーテル、アルコール等の有機溶媒を添加するとよい。
【0033】
前記水熱反応は、例えば0.1MPaG~2MPaG(ゲージ圧を意味する)の圧力で行うのが好ましく、圧力がこの範囲であると、反応が進行しやすく、金属酸化物ナノ粒子の粒径や結晶系の制御が容易である。また水熱反応の温度は、水の飽和蒸気圧を考慮すると、好ましくは200℃以下、より好ましくは190℃以下であり、反応時間を抑制する観点から、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上である。反応時間は、反応温度や圧力と収率の関係から調整可能であり、通常は0.1~50時間であり、好ましくは1~20時間である。
【0034】
前記水熱反応で得られたカルボン酸(2)で被覆された金属酸化物ナノ粒子におけるカルボン酸(2)の少なくとも一部をカルボン酸(1)(すなわちチオール基含有カルボン酸)で置換することによって、カルボン(1)で被覆され、必要に応じて更にカルボン酸(2)でも被覆された金属酸化物ナノ粒子が得られる。カルボン酸(2)をカルボン酸(1)で置換するためには、カルボン酸(2)で被覆された金属酸化物ナノ粒子とカルボン酸(1)とを含む混合物(特に、更に溶媒を含む混合液)を、例えば40~60℃で30分~2時間程度撹拌すればよい。カルボン酸化合物(1)とカルボン酸(2)で被覆された金属酸化物ナノ粒子aの質量比(カルボン酸(1)/カルボン酸(2)で被覆された金属酸化物ナノ粒子)は、好ましくは1/100~50/100であり、より好ましくは3/100~30/100である。好ましい態様において、本発明の金属酸化物ナノ粒子を、リン酸エステルで被覆する場合には、カルボン酸(2)で被覆された金属酸化物ナノ粒子と溶媒を含む混合液に、リン酸エステルを添加してから、カルボン酸(1)を添加してもよいし、リン酸エステルとカルボン酸(1)を同時に添加してもよいし、カルボン酸(1)を添加してからリン酸エステルを添加してもよいが、リン酸エステルを添加してからカルボン酸(1)を添加することが好ましい。リン酸エステルを添加した後は、カルボン酸(2)で被覆された金属酸化物ナノ粒子とリン酸エステルと溶媒とを含む混合液を、60~100℃で1~5時間程度、加熱還流することが好ましい。
【0035】
上記したように、チオール基含有カルボン酸を含む表面処理剤で被覆されている本発明の金属酸化物ナノ粒子(以下、被覆型金属酸化物ナノ粒子と呼ぶ場合がある)は、モノマーを含む組成物中で、被覆型金属酸化物ナノ粒子の濃度が高濃度であっても良好に分散でき、かつ、該組成物の粘度を取り扱い可能な程度に低減できる。本発明の被覆型金属酸化物ナノ粒子とモノマーを含む組成物は、被覆型金属酸化物ナノ粒子と溶媒とを含む組成物を作製し、これとモノマーとを混合することによって得てもよく、溶媒及びモノマーの少なくとも1種と、前記した被覆型金属酸化物ナノ粒子とを含む組成物が本発明に含まれる。
【0036】
前記被覆型金属酸化物ナノ粒子は、該粒子と溶媒とを含む組成物中で分散していることが好ましく、該粒子を分散可能な溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、エチレングリコールなどのアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸プロピルなどのエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどの変性エーテル類(特に、エーテル変性及び/又はエステル変性アルキレングリコール類);ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ミネラルスピリットなどの炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類;ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどのアミド類;水;鉱物油、植物油、ワックス油、シリコーン油などの油類を挙げることができる。これらは1種でも、2種以上を組み合わせて使用してもよい。取扱性の面から、常圧(1013hPa)での沸点が40℃以上、250℃以下程度の溶媒が好適である。
【0037】
また、本発明の被覆型金属酸化物ナノ粒子は、該粒子とモノマーを含む組成物中で分散していることが好ましく、モノマーは、重合性二重結合を1つ有する単官能単量体又は重合性二重結合を2以上有する架橋性単量体が挙げられる。モノマーは1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
単官能単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル;スチレン、ptert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-クロロスチレン、p-クロロメチルスチレン等のスチレン系単量体;(メタ)アクリル酸等のカルボキシ基含有単量体;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-フェノキシ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有単量体等が挙げられる。中でも、単官能(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0039】
単官能(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;2,4-ジブロモ-6-sec-ブチルフェニル(メタ)アクリレート、2,4-ジブロモ-6-イソプロピルフェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、ペンタブロモフェニル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;ベンジル(メタ)アクリレート、ペンタブロモベンジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アラルキルエステル;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシ-2-メチルエチル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2,4-ジブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、2-ブロモフェノキシエチル(メタ)アクリレート、1-ナフチルオキシエチル(メタ)アクリレート、2-ナフチルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシ-2-メチルエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエトキシエチル(メタ)アクリレート等のアリールオキシ単位を有する(メタ)アクリル酸エステル;フェニルチオエチル(メタ)アクリレート、1-ナフチルチオエチル(メタ)アクリレート、2-ナフチルチオエチル(メタ)アクリレート等のアリールチオオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート;グリシジル(メタ)アクリレートなどのグリシジル基を有する(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。
上記化合物に含まれるRy1-O-(Ry2-O-)n-単位(Ry1は、メチル基、フェニル基を表す。Ry2はエチレン基を表す。nは、整数を表す。)は、Ry1-(O)ty-Ly-単位(tyは0又は1の整数を表し、Lyは単結合、後述する式(a1)~式(a3)のいずれかで表される連結基又は後述する式(a1)~式(a3)で表される連結基のうち2以上を組み合わせた連結基を表す。)に置換されていてもよく、Ry1-O-(CH2CH2-O-)ny-単位(nyは1~30の整数を表す。)であることが好ましい。
【0040】
架橋性単量体としては、架橋性(メタ)アクリル酸エステル;ジビニルベンゼン等の多官能スチレン系単量体;ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等の多官能アリルエステル系単量体;2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート;ウレタンアクリレートオリゴマー(例えば、紫光(登録商標)シリーズ(日本合成化学工業(株)製)、CNシリーズ(サートマー社製)、ユニディック(登録商標)シリーズ(DIC(株)製)、KAYARAD(登録商標) UX シリーズ(日本化薬(株)製)等);等が挙げられ、中でも架橋性(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0041】
架橋性(メタ)アクリル酸エステルとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールポリ(メタ)アクリレート;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のネオペンチルグリコールポリ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化(3)トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化(3)トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等のトリメチロールプロパンポリ(メタ)アクリレート;グリセリルトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート等のグリセリルポリ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート;α-アリルオキシメチルアクリル酸メチル等のα-アリルオキシメチルアクリル酸アルキルエステル等が挙げられる。
上記化合物に含まれるRz1-O-(Rz2-O-)n-単位(Rz1は、(メタ)アクリロイル基を表す。Rz2はエチレン基又はプロピレン基を表す。nは、整数を表す。)は、Rz1-(O)tz-Lz-単位(tzは0又は1の整数を表し、Lzは単結合、後述する式(a1)~式(a3)のいずれかで表される連結基又は後述する式(a1)~式(a3)で表される連結基のうち2以上を組み合わせた連結基を表す。)に置換されていてもよく、Rz1-O-(CH2CH2-O-)nz-単位(nzは1~30の整数を表す。)であることが好ましい。
【0042】
【0043】
(式(a1)~(a3)中、R2~R4は、炭素数1~18の飽和又は不飽和炭化水素基又は炭素数6~30の芳香族含有炭化水素基を表し、R2~R4を構成する水素原子は、エーテル基で置換されていてもよい。
p1、q1及びr1は、それぞれ1~200の整数を表し、p1、q1及びr1の合計は1~200である。)
【0044】
また、モノマーとしては、1分子中に芳香族環を2以上又は1分子中に橋かけ環を1以上含み、且つ重合性二重結合を1又は2以上有する化合物(以下、これらを総称して「特定含環化合物」という場合がある。)が挙げられる。
【0045】
前記芳香族環は、芳香族炭化水素環であっても芳香族複素環であってもよく、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香族炭化水素環であることが好ましい。1分子中に芳香族環を2以上含み、且つ重合性二重結合を1又は2以上有する化合物としては、ビフェニルメチル(メタ)アクリレート、o-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、エトキシ化フェニルフェノール(メタ)アクリレート(オキシエチレン単位の合計は、好ましくは1~30、より好ましくは2~20)、エトキシ化クミルフェノール(メタ)アクリレート(オキシエチレン単位の合計は、好ましくは1~30、より好ましくは2~20)、2-(1-ナフチルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-ナフチルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、ナフチルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、N-ビニルカルバゾール等の1分子中に重合性二重結合を1つと芳香族環を2以上含む化合物;ジビニルナフタレン、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン単位の合計は、好ましくは2~30、より好ましくは5~20。オキシプロピレン単位の合計は、好ましくは2~30、より好ましくは5~20)、エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン単位の合計は、好ましくは2~40、より好ましくは3~30)、エトキシ化ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン単位の合計は、好ましくは2~40、より好ましくは3~30)、プロポキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(オキシプロピレン単位の合計は、好ましくは2~40、より好ましくは3~30)、9,9-ビス[4-(2-(メタ)アクリロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ジフェン酸ジアリル、2,3-ナフタレンジカルボン酸ジアリルエステル等の1分子中に重合性二重結合を2つと芳香族環を2以上含む化合物;等が挙げられる。
上記化合物に含まれるRx1-O-(Rx2-O-)n-単位(Rx1は、フェニルフェニル基、クミルフェニル基、ナフチル基又は(メタ)アクリロイル基を表す。Rx2はエチレン基又はプロピレン基を表す。nは、整数を表す。nが2以上の場合、Rx2は同一でも異なっていてもよい。)は、Rx1-(O)tx-Lx-単位(txは0又は1の整数を表し、Lxは単結合、後述する式(a1)~式(a3)のいずれかで表される連結基又は後述する式(a1)~式(a3)で表される連結基のうち2以上を組み合わせた連結基を表す。)に置換されていてもよく、Rx1-O-(CH2CH2-O-)nx-単位(nxは1~30の整数を表す。)であることが好ましい。
【0046】
前記橋かけ環としては、飽和又は不飽和の橋かけ環が挙げられ、飽和の橋かけ環が好ましい。1分子中に橋かけ環を1以上含み、且つ重合性二重結合を1又は2以上有する化合物としては、イソボルニル(メタ)アクリレート等の1分子中に重合性二重結合を1つと橋かけ環を1つ含む化合物;トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート等の1分子中に重合性二重結合を2つと橋かけ環を1つ含む化合物;等が挙げられ、1分子中に重合性二重結合を1つと橋かけ環を1つ含む化合物が好ましい。
【0047】
特定含環化合物の含有量は、溶媒及びモノマーの合計100質量部中、好ましくは90質量部以上、より好ましくは95質量部以上、特に好ましくは99質量部以上であり、上限は100質量部である。
【0048】
上記モノマーのうち、特に単官能(メタ)アクリル酸エステル、又は架橋性(メタ)アクリル酸エステル(両者を合わせて、(メタ)アクリル酸エステルと呼ぶ)が好ましい。
【0049】
本発明の組成物は、さらにポリマー(樹脂)を含んでいてもよい。以下ポリマー(樹脂)を含む組成物を樹脂組成物という場合がある。前記樹脂組成物は、ポリマー(樹脂)と前記したモノマーとを含んでいてもよい。
前記ポリマー(樹脂)としては、1種又は2種以上を用いることができ、例えば6-ナイロン、66-ナイロン、12-ナイロンなどのポリアミド類;ポリイミド類;ポリウレタン類;ポリエチレン、ポロプロピレンなどのポリオレフィン類;PET、PBT、PENなどのポリエステル類;ポリ塩化ビニル類;ポリ塩化ビニリデン類;ポリ酢酸ビニル類;ポリスチレン類;(メタ)アクリル樹脂系ポリマー;ABS樹脂;フッ素樹脂;フェノール・ホルマリン樹脂;クレゾール・ホルマリン樹脂などのフェノール樹脂;エポキシ樹脂;尿素樹脂;メラミン樹脂;グアナミン樹脂などのアミノ樹脂;ポリビニルブチラール系樹脂;ポリウレタン系樹脂;エチレン-酢酸ビニル共重合体系樹脂;エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体系樹脂などの軟質樹脂や硬質樹脂;等が挙げられる。上記した中で、ポリイミド類、ポリウレタン類、ポリエステル類、(メタ)アクリル樹脂系ポリマー、フェノール樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂がより好ましい。
【0050】
溶媒及びモノマーの少なくとも1種と、本発明の被覆型金属酸化物ナノ粒子とを含む本発明の組成物に、本発明の効果を損なわない範囲において、界面活性剤、硬化剤、硬化促進剤、着色剤、内部離型剤、カップリング剤、反応性希釈剤、可塑剤、安定化剤、難燃助剤、架橋剤、低収縮剤、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、レベリング剤、揺変化剤、増粘剤等の他の添加成分が含まれていてもよい。これらの添加成分の含有量は、組成物の合計100質量部に対し、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは0~3質量部である。
【0051】
さらに、本発明の組成物は、前記以外の添加成分が含まれていてもよい。前記以外の添加成分の含有量は、組成物の合計100質量部に対し、好ましくは5質量部以下、さらに好ましくは3質量部以下、よりいっそう好ましくは1質量部以下、特に好ましくは0質量部である。
【0052】
溶媒及びモノマーの少なくとも1種と、前記した被覆型金属酸化物ナノ粒子とを含む組成物において、被覆型金属酸化物ナノ粒子以外の成分100質量%のうちモノマーの割合が30質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、100質量%であってもよい。
【0053】
本発明では、上述した通り、チオール基含有カルボン酸を含む表面処理剤を用いているため、本発明の被覆型金属酸化物ナノ粒子と(メタ)アクリル酸エステルを含む組成物中の被覆型金属酸化物ナノ粒子の割合は20質量%以上とすることができ、このような高濃度であっても、被覆型金属酸化物ナノ粒子が良好に分散でき、また前記組成物の粘度を十分に低くできる。被覆型金属酸化物ナノ粒子の割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上(特に70質量%以上)とすることも可能であり、このような高濃度であっても、前記した良好な分散性と低い粘度を実現できる。本発明の被覆型金属酸化物ナノ粒子と(メタ)アクリル酸エステルを含む組成物において、被覆型金属酸化物ナノ粒子の、(メタ)アクリル酸エステル100質量部に対する割合は、100質量部以上とすることができ、好ましくは150質量部以上、より好ましくは200質量部以上、更に好ましくは250質量部以上であり、上限は特に限定されないが、例えば500質量部以下であってもよい。
このように被覆型金属酸化物ナノ粒子が高濃度に含まれる(メタ)アクリル酸エステル含有組成物であっても、後述の粘度及び/又は屈折率を実現することができる。
【0054】
本発明の被覆型金属酸化物ナノ粒子とモノマー(特に、(メタ)アクリル酸エステル)とを含む組成物を後記する実施例で示す方法で測定した際の粘度は、例えば200,000mPa・s以下とすることができ、好ましくは50,000mPa・s以下であり、より好ましくは30,000mPa・s以下であり、更に10,000mPa・s以下が好ましく、また、3,000mPa・s以上であってもよい。また、該組成物を後記する実施例で示す方法で測定した際の屈折率は、例えば1.700以上とすることができ、好ましくは1.720以上であり、より好ましくは1.730以上であり、また1.780以下であってもよい。
【0055】
本発明の被覆型金属酸化物ナノ粒子を20質量%以上と、(メタ)アクリル酸エステルを含む組成物の硬化物も本発明に含まれる。該硬化物の形状は特に限定されず、板状、シート状、フィルム状、繊維状などが挙げられる。特に硬化物の形状が板状、シート状、またフィルム状である場合の厚み、また繊維状である場合の直径は10μm~1mmであることが好ましく、より好ましくは50~500μmである。前記硬化物の屈折率は、例えば1.750以上とすることができ、より好ましくは1.760以上であり、更に好ましくは1.770以上であり、上限は特に限定されないが、例えば1.790である。また、前記硬化物の全光線透過率は、70%以上であることが好ましく、より好ましくは75%以上であり、上限は特に限定されないが、例えば95%以下であってもよく、またHAZEは7%以下が好ましく、より好ましくは6%以下であり、更に好ましくは5%以下であり、下限は特に限定されないが、例えば1%であってもよい。前記した屈折率、全光線透過率及びHAZEは、前記硬化物の厚みまたは繊維直径が10μm~1mm(好ましくは50~500μm)の場合の値であることが好ましい。
【0056】
また、本発明の被覆型金属酸化物ナノ粒子とモノマーを含む組成物は、硬化性が良好であるという効果を奏することができる。本発明の被覆型金属酸化物ナノ粒子とモノマーを含む組成物は、硬化性が良好であることから、重合開始剤の量を低減する又は重合開始剤を含まなくてもよく、該組成物100質量%中における重合開始剤の量を0.5質量%以下(0%を含む)にすることができ、このような組成物を厚さ0.1~200μm程度に塗工した際、1000mJ/cm2以下の紫外線照射量で該組成物を硬化可能である。前記紫外線照射量はより好ましくは800mJ/cm2以下であり、さらに好ましくは600mJ/cm2以下であり、下限は特に限定されないが、例えば300mJ/cm2程度である。前記重合開始剤は特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
【0057】
本発明の被覆型金属酸化物ナノ粒子は、良好な分散性を有することから、分散体を用いて成形または硬化した物品等に代表される各種用途への展開が可能となる。高分散性を要する用途としては、例えば、レジスト用途、光学用途、塗布用途、接着用途が挙げられ、光学レンズ、光学フィルム用粘着剤、光学フィルム用接着剤、ナノインプリント用樹脂組成物、マイクロレンズアレイ、透明電極に使用する反射防止層、反射防止フィルムや反射防止剤、光学レンズの表面コート、有機EL光取り出し層、各種ハードコート材、TFT用平坦化膜、カラーフィルター用オーバーコート、反射防止フィルム等の各種保護膜および、光学フィルター、タッチセンサー用絶縁膜、TFT用絶縁膜、カラーフィルター用フォトスペーサー、タッチパネル用保護膜等の光学材料に好適に用いられる。特に本発明の被覆型金属酸化物ナノ粒子は、顕著な分散性に加え、高屈折率、高硬度、高安定性を有するため、光学レンズ、光学レンズの表面コート、各種ハードコート材、タッチセンサー用絶縁膜、TFT用絶縁膜、タッチパネル用保護膜に使用することが好ましい。
【0058】
さらに本発明の被覆型金属酸化物ナノ粒子は光学用途以外に、その高い誘電率を生かして半導体のゲート絶縁膜やDRAM等のメモリー用キャパシタ絶縁膜への適用が可能である。このような高誘電率な絶縁膜を得る方法として、有機金属前駆体を用いてCVD(Chemical Vapor Deposition)法やALD(Atomic Layer Deposition)法等の気相成長法で蒸着後、酸化処理する方法が知られている。所望の高誘電率の金属酸化物を得るには600℃以上の高温処理を必要とするが、その影響により、ピニング現象を始めとする半導体層の動作不安定化をもたらす現象が生じる。本発明の被覆型金属酸化物ナノ粒子は高温処理が不要で、生成時点ですでに高い誘電率を有し、半導体微細化に対応できる積層化が可能であると同時に、高温処理不要なことからプラスチック基板上での半導体製造への適用も可能である。また、本発明の酸化ジルコニウムナノ粒子の他の用途として、義歯等の歯科材料やシャープペンシル用鉛筆芯、木軸用鉛筆芯などでの用途が挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前記、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0060】
実施例及び比較例を、以下の方法により測定した。
【0061】
(1)結晶構造の解析
酸化ジルコニウム粒子の結晶構造は、X線回折装置(リガク社製、RINT-TTRIII)を用いて解析した。測定条件は以下の通りである。
X線源:CuKα(0.154nm)
X線出力設定:50kV、300mA
サンプリング幅:0.0200°
スキャンスピード:10.0000°/min
測定範囲:10~75°
測定温度:25℃
【0062】
(2)正方晶、単斜晶の割合の定量
X線回折装置(リガク社製、RINT-TTRIII)を用いて算出される値を元に、計算ソフト(リガク社製、PDXL)を用いて参照強度比法(RIP法)により定量した(ピークの帰属も計算ソフトの指定に従った)。なお、本測定では正方晶と立方晶を区別することが難しく、立方晶が存在する場合でも、その割合は正方晶の割合としてカウントされる。
【0063】
(3)X線回折解析による結晶子径算出
酸化ジルコニウム粒子の結晶子径は、X線回折装置(リガク社製、RINT-TTRIII)によって解析及び算出される30°のピークの半値幅を元に、計算ソフト(リガク社製、PDXL)を用いて算出した。
【0064】
(4)電子顕微鏡による平均一次粒子径の測定
被覆型酸化ジルコニウム粒子の平均一次粒子径は、超高分解能電界放出型走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、S-4800)で観察することによって測定した。倍率15万倍で被覆型酸化ジルコニウム粒子を観察し、任意の100個の粒子について、各粒子の長軸方向の長さを測定し、その平均値を平均一次粒子径とした。
【0065】
(5)重量(質量)減少率(有機分量)の測定
予め被覆型酸化ジルコニウム粒子の重量(質量)を測定した後に、TG-DTA(熱重量-示唆熱分析)装置により、空気雰囲気下、室温から800℃まで10℃/分で被覆型酸化ジルコニウム粒子を昇温し、昇温後の粒子の重量(質量)を測定した。下記式により、被覆されない酸化ジルコニウム粒子に対する重量減少率を計算し、被覆型ZrO2粒子の有機分量とした。
重量減少率(質量%)=100×(昇温前の被覆型酸化ジルコニウム粒子の重量-昇温後の酸化ジルコニウム粒子の重量)/昇温後の酸化ジルコニウム粒子の重量
【0066】
(6)1H-NMRの測定
被覆型酸化ジルコニウム粒子を重クロロホルムに分散させて測定資料とし、Variann社製「Unity Plus」(共鳴周波数:400MHz、積算回数:16回)を用いて測定した。下記の化学シフト(テトラメチルシラン基準)のピークの積分比に基づき、各化合物のモル比を決定した。
i-1)2-エチルヘキサン酸(1.0-0.5ppm:6H)
i-2)2-エチルヘキサン酸由来のカルボキシレート(1.0-0.5ppm:6H)
ii-1)3-メルカプトプロピオン酸(2.8ppm:2H)
ii-2)3-メルカプトプロピオン酸由来のカルボキシレート(2.8ppm:2H)
iii-1)チオ乳酸(1.5ppm:3H)
iii-2)チオ乳酸由来のカルボキシレート(1.5ppm:3H)
vi)トリエチレングリコールモノメチルエーテルリン酸エステル(3.5-3.8ppm:10H)
以下、酸化ジルコニウム粒子を被覆する2-エチルヘキサン酸には、2-エチルヘキサン酸及び2-エチルヘキサン酸由来のカルボキシレートの両方が含まれ得る。同様に、酸化ジルコニウム粒子を被覆する3-メルカプトプロピオン酸には、3-メルカプトプロピオン酸及び3-メルカプトプロピオン酸由来のカルボキシレートの両方が含まれ得、酸化ジルコニウム粒子を被覆するチオ乳酸には、チオ乳酸及びチオ乳酸由来のカルボキシレートの両方が含まれ得る。
【0067】
(7)蛍光X線分析
蛍光X線分析装置(ZSX PrimusII リガク社製)を用いて、被覆型酸化ジルコニウム粒子中のZr含有量を測定した。
【0068】
(8)透明性評価
膜厚100ミクロンのPETフィルム(商品名:コスモシャインAS4300、東洋紡社製)上に、後で詳述する組成物をバーコーター#20で塗工し、120℃で5分間乾燥後、高圧水銀ランプで1000mJ/cm2の紫外線を照射することにより硬化させ、硬化物を得た(乾燥膜厚:5ミクロン)。作製した硬化物の、厚み方向のヘイズを、濁度計(日本電色工業社製 NDH5000)を用いて測定した。
○:1%以下、△:1%超、50%未満、×:50%以上
【0069】
(9)モノマー分散体の外観評価
後記する実施例2-1~2-3で作製した丸底フラスコに入ったモノマー分散液を目視で外観(色、粒子沈降有無)を確認した。
【0070】
(10)モノマー分散体の流動性評価
後記する実施例2-1~2-3で作製した丸底フラスコに入ったモノマー分散液を丸底フラスコに玉栓で蓋をしたのちに、60℃雰囲気で1時間放置した。その後、試料の入った丸底フラスコを90℃倒して10秒間保ち状態を観察する。試料が動く場合を流動性あり、全く動かない場合を流動性なしとして評価した。
【0071】
(11)モノマー分散体の粘度評価
実施例2-1~2-3、比較例2-1~2-3の酸化ジルコニウムナノ粒子のモノマー分散体の粘度は、粘度計(東機産業社製 TVE-22H形粘度計)を用いて測定した。
設定温度:40℃
サンプル量:0.2mL
プレヒートタイム:5分
測定時間:5分
コーン・ロータ:3°×R9.7
【0072】
(12)モノマー分散体の屈折率測定
実施例2-1~2-3、比較例2-1~2-3の酸化ジルコニアナノ粒子モノマー分散体の屈折率は、ATAGO社製多波長アッベ屈折計DR-M4型(測定温度20℃、干渉フィルター波長589(D)nm)を使用して測定した。
【0073】
製造例1
[2-エチルヘキサン酸ジルコニウムの製造]
攪拌機、温度計及び冷却管を備えた200mlセパラブルフラスコに塩基性炭酸ジルコニウム(日本軽金属製ZBC ZrO2含有率42.3% 含水分37%)50g及び溶剤としてミネラルスピリット73.5g、2-エチルヘキサン酸2.5gを添加して、常温にて5~10分撹拌した後、油浴に浸けて、400rpmで撹拌しながら、内温を70℃まで昇温した。その後、内温を70℃~80℃に保持して3時間撹拌を継続した。その後、2-エチルヘキサン酸22.2g(工程(1)で添加した2-エチルヘキサン酸2.5gと合わせて、Zrに対して1.1モル)を添加して内温が100~103℃になるように油浴の温度を調節しながら4時間保持して、塩基性炭酸ジルコニウムと2-エチルヘキサン酸を反応させた。
反応物は、反応開始時には白色のスラリー状であったが、反応終了時には、半透明の濁った液になっていた。反応液を室温まで冷却したところ2層に分離しており、上層がミネラルスピリット層であった。上層を濾過して、ミネラルスピリットを少量添加してZr濃度を約12%程度に調整した後に、この液を使用して下記の水熱合成を実施した。
【0074】
[水熱合成]
得られた2-エチルヘキサン酸ジルコニウム-ミネラルスピリット溶液42.4gに純水7.3gを混合して、温度計及び攪拌機付オートクレーブ(内容量100ml)に仕込み、反応器中の雰囲気を窒素ガスにより置換した。その後、内温を190℃まで加熱し9時間反応させることにより酸化ジルコニウムナノ粒子を合成した。190℃で反応した際の容器中の圧力は1.2MPaであった。反応後の溶液を取り出し、生成した沈殿物を濾過してアセトンで洗浄した後に減圧乾燥して、被覆型ZrO2粒子(1)(2-エチルヘキサン酸で被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子)を得た。
得られた被覆型ZrO2粒子(1)の結晶構造を確認したところ、正方晶及び/又は立方晶と、単斜晶に帰属される回折線が検出され、回折線の強度から、正方晶及び立方晶の合計と単斜晶の割合は91/9で、その粒子径(結晶子径)は10nmであった。
電子顕微鏡により測定して得られた被覆型ZrO2粒子(1)の平均粒子径(平均一次粒子径)は、18nmであった。また、得られた被覆型ZrO2粒子(1)を、赤外吸収スペクトルによって分析したところ、C-H由来の吸収と、COOH由来の吸収が確認できた。当該吸収は、被覆型酸化ジルコニウム粒子に被覆されている2-エチルヘキサン酸に起因するものと考えられる。
さらに上記した「(5)質量減少率の測定」に従って測定した被覆型ZrO2粒子(1)の質量減少率は、15質量%だった。従って、被覆型酸化ジルコニウム粒子を被覆する2-エチルヘキサン酸は、被覆されない酸化ジルコニウム粒子100質量%に対して15質量%であることが分かった。
【0075】
製造例2
[2-エチルヘキサン酸と3-メルカプトプロピオン酸で被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子(被覆型ZrO2粒子(2))の製造]
上記製造例1で得られた被覆型ZrO2粒子(1)(20g)を、トルエン(50g)に分散させて白濁スラリーを調製した。当該溶液に表面処理剤として3-メルカプトプロピオン酸(1.4g、東京化成工業株式会社製)を添加して50℃で1時間撹拌混合し、酸化ジルコニウム分散液を得た。
次いでn-ヘキサンを添加することで分散粒子を凝集させて溶液を白濁させた。白濁液から凝集粒子を濾紙により分離後、室温で真空乾燥し、2-エチルヘキサン酸と3-メルカプトプロピオン酸で被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子(被覆型ZrO2粒子(2))を調製した。
「(5)質量減少率の測定」に従って測定した被覆型ZrO2粒子(2)の質量減少率は、11質量%であった。このことから被覆されないZrO2粒子100質量%に対する有機分量が11質量%であることが確認された。
得られた被覆型ZrO2粒子(2)を重クロロホルムに分散させて測定試料とし、1H-NMRによる分析を行なった。その結果、2-エチルヘキサン酸と3-メルカプトプロピオン酸の存在モル比率が25:75であることがわかった。
上記、TG-DTA、1H-NMRによる分析結果から勘案して2-エチルヘキサン酸と3-メルカプトプロピオン酸は、被覆されないZrO2粒子100質量%に対して、それぞれ3.6質量%、8質量%であることがわかった。
【0076】
製造例3
2-エチルヘキサン酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルリン酸エステルとチオ乳酸で被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子(被覆型ZrO2粒子(3))の製造
上記製造例1で得られた被覆型ZrO2粒子(1)(20g)を、メタノール(50g)に分散させて白濁スラリーを調製した。当該溶液に表面処理剤としてトリエチレングリコールモノメチルエーテルリン酸エステル(1.8g、モノエステルとジエステルの混合物であり、純度は約92%)を添加し、80℃で3時間加熱還流することで透明分散溶液を得た。次いで、50℃まで降温し、チオ乳酸(0.9g、東京化成工業株式会社製)を添加して1時間撹拌混合し、酸化ジルコニウム分散液を得た。
次いでn-ヘキサンを添加することで分散粒子を凝集させて溶液を白濁させた。白濁液から凝集粒子を濾紙により分離後、室温で加熱乾燥し、2-エチルヘキサン酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルリン酸エステルとチオ乳酸で被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子(被覆型ZrO2粒子(3))を調製した。
「(5)質量減少率の測定」に従って測定した被覆型ZrO2粒子(3)の質量減少率は、12.4質量%であった。このことから被覆されないZrO2粒子100質量%に対する有機分量が12.4質量%であることが確認された。
得られた被覆型ZrO2粒子(3)を重クロロホルムに分散させて測定試料とし、1H-NMRによる分析を行なった。その結果、2-エチルヘキサン酸及び/又は2-エチルヘキサン酸由来のカルボキシレートとトリエチレングリコールモノメチルエーテルリン酸エステルとチオ乳酸の存在モル比率が17:39:45であることがわかった。
【0077】
上記、TG-DTA、1H-NMRによる分析結果から勘案して2-エチルヘキサン酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルリン酸エステルとチオ乳酸は、被覆されないZrO2粒子100質量%に対して、それぞれ1.8質量%、7質量%、3.4質量%であることがわかった。
【0078】
製造例4
2-エチルヘキサン酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルリン酸エステルと3-メルカプトプロピオン酸で被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子(被覆型ZrO2粒子(4))の製造
上記製造例1で得られた被覆型ZrO2粒子(1)(20g)を、メタノール(50g)に分散させて白濁スラリーを調製した。当該溶液に表面処理剤としてトリエチレングリコールモノメチルエーテルリン酸エステル(1.8g)を添加し、80℃で3時間加熱還流することで透明分散溶液を得た。次いで、50℃まで降温し、3-メルカプトプロピオン酸(0.9g、東京化成工業株式会社製)を添加して1時間撹拌混合し、酸化ジルコニウム分散液を得た。
次いでn-ヘキサンを添加することで分散粒子を凝集させて溶液を白濁させた。白濁液から凝集粒子を濾紙により分離後、室温で加熱乾燥し、2-エチルヘキサン酸及び/又は2-エチルヘキサン酸由来のカルボキシレートとトリエチレングリコールモノメチルエーテルリン酸エステルと3-メルカプトプロピオン酸で被覆された酸化ジルコニウムナノ粒子(被覆型ZrO2粒子(4))を調製した。
「(5)質量減少率の測定」に従って測定した被覆型ZrO2粒子(4)の質量減少率は、12質量%であった。このことから被覆されないZrO2粒子100質量に対する有機分量が12質量%であることが確認された。
得られた被覆型ZrO2粒子(4)を重クロロホルムに分散させて測定試料とし、1H-NMRによる分析を行なった。その結果、2-エチルヘキサン酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルリン酸エステルと3-メルカプトプロピオン酸の存在モル比率が8:29:62であることがわかった。
【0079】
上記、TG-DTA、1H-NMRによる分析結果から勘案して2-エチルヘキサン酸とトリエチレングリコールモノメチルエーテルリン酸エステルと3-メルカプトプロピオン酸は、被覆されないZrO2粒子100質量%に対して、それぞれ1質量%、5.5質量%、5.1質量%であることがわかった。
【0080】
製造例5
製造例2における3-メルカプトプロピオン酸に代えて、メトキシ酢酸を用いたこと以外は製造例2と同様にして、被覆型ZrO2粒子(C1)を調製した。
【0081】
製造例6
製造例2における3-メルカプトプロピオン酸に代えて、乳酸を用いたこと以外は製造例2と同様にして、被覆型ZrO2粒子(C2)を調製した。
【0082】
製造例7
製造例3におけるチオ乳酸に代えて、乳酸を用いたこと以外は製造例3と同様にして、被覆型ZrO2粒子(C3)を調製した。
【0083】
実施例1:各種モノマーとの相溶性評価
製造例3で得られた被覆型ZrO2粒子(3)(10g)、メチルイソブチルケトン(以後、MIBKとする)(2.1g)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以後、PGMとする)(2.1g)、プライサーフA208F(0.18g、第一工業製薬株式会社製)を配合し、均一撹拌することで、酸化ジルコニウム粒子含有率70%のMIBK/PGM分散液を得た。
【0084】
前記の酸化ジルコニウム粒子含有MIBK/PGM分散溶液について、茶色褐色ガラス瓶に当該溶液5.0gに表1記載のモノマー3.5g、MIBK4.5g、PGM4.5g、Irgacure184(光ラジカル重合開始剤、BASF社製)0.1gを仕込み、均一になるまで撹拌を行い、酸化ジルコニウム粒子含有組成物を得た。
得られた酸化ジルコニウム粒子含有組成物について(8)透明性評価を行った結果を表1に示す。なお、用いたモノマーは以下の通りである。
3PO-TMPTA:プロポキシ化(3)トリメチロールプロパントリアクリレート(商品名:SR492 サートマー社製)
DPHA:ジペンタエリスルトールヘキサアクリレート
PETA:ペンタエリスリトールトリアクリレート
【0085】
【0086】
実施例2-1
製造例2で得られた被覆型ZrO2粒子(2)70gを丸底フラスコへ入れ、トルエン30g中で均一攪拌したのちに、分散媒としてm-フェノキシベンジルアクリレート(製品名:Miramer M1122、MIWON社製)16.8gを配合し均一撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いてトルエンを減圧除去することで、酸化ジルコニウム粒子モノマー分散体を得た。
【0087】
実施例2-2
製造例3で得られた被覆型ZrO2粒子(3)70gを丸底フラスコへ入れ、メタノール30g中で均一攪拌したのちに、分散媒としてm-フェノキシベンジルアクリレート(PBZA)16.8gを配合し均一撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いてメタノールを減圧除去することで、酸化ジルコニウム粒子モノマー分散体を得た。
【0088】
実施例2-3
製造例4で得られた被覆型ZrO2粒子(4)70gを丸底フラスコへ入れ、メタノール、30g中で均一攪拌したのちに、分散媒としてm-フェノキシベンジルアクリレート(PBZA)16.8gを配合し均一撹拌した。その後、ロータリーエバポレーターを用いてメタノールを減圧除去することで、酸化ジルコニウム粒子モノマー分散体を得た。
【0089】
比較例2-1、2-2
被覆型ZrO2粒子(2)に代えて、被覆型ZrO2粒子(C1)または(C2)を用いたこと以外は、実施例2-1と同じ方法でm-フェノキシベンジルアクリレート分散液を作製し、それぞれ比較例2-1、2-2とした。
【0090】
比較例2-3
被覆型ZrO2粒子(4)に代えて、被覆型ZrO2粒子(C3)を用いたこと以外は、実施例2-3と同じ方法でm-フェノキシベンジルアクリレート分散液を作製し、比較例2-3とした。
【0091】
実施例2-1~2-3、及び比較例2-1~2-3について、上記「(9)モノマー分散体の外観評価」、「(10)モノマー分散体の流動性評価」、「(11)モノマー分散体の粘度評価」及び「(12)モノマー分散体の屈折率測定」に従って評価した結果を表2に示す。なお、下記表2において、比較例2-1、2-2、2-3で用いたメトキシ酢酸又は乳酸はチオール基含有カルボン酸ではないが、実施例2-1~2-3との対比のため、チオール基含有カルボン酸の欄に記載した。
【0092】
【0093】
実施例2-1~2-3では、金属酸化物ナノ粒子がチオール基含有カルボン酸で被覆されており、モノマー中で良好な分散性を有するとともに、流動性評価及び粘度測定から被覆型金属酸化物ナノ粒子とモノマーを含む組成物が良好な取扱性を有していることが分かる。一方、チオール基含有カルボン酸で被覆されていない比較例2-1~2-3では、流動性がなく粘度測定もできない状況であり、また特に比較例2-1、2-2については被覆型金属酸化物ナノ粒子がモノマー中で分散することができなかった。
【0094】
実施例3:硬化性評価
酸化ジルコニウム粒子含有m-フェノキシベンジルアクリレート分散液の硬化性評価は以下のように実施した。
実施例2-2で得られた酸化ジルコニウム粒子モノマー分散体について、大型スライドグラス(松浪硝子工業株式会社製、品番:S9112)の両端に厚さ100μmのスペーサーを置き、中央に当該分散液を0.5g計量した。さらにその上に大型スライドグラスを気泡が入らないように重ねた。この分散液塗布スライドグラスを高圧水銀ランプで500mJ/cm2の紫外線を照射した。紫外線照射後、分散液塗布後に上に重ねたスライドグラスを指で押したところ、上のスライドグラスが重なったままで動かなかったため硬化したと評価した。
【0095】
また、全光線透過率、HAZEを濁度計(日本電色工業社製 NDH5000)を用いて測定したところ、全光線透過率は80%、HAZEは5%であった。
【0096】
実施例4:硬化物の屈折率評価
膜厚100ミクロンのPETフィルム(商品名:コスモシャインAS4300、東洋紡社製)上に、実施例2-2で得た酸化ジルコニウム粒子モノマー分散体をアプリケーター#01で塗工し、高圧水銀ランプで1000mJ/cm2の紫外線を照射することにより硬化させ、硬化物を得た(乾燥膜厚:100ミクロン)。作製した硬化物を縦35mm、横8mmのサイズで切り取り、ATAGO社製多波長アッベ屈折計DR-M4型(測定温度20℃、干渉フィルター波長589(D)nm)の測定部に中間液(イオウヨウ化メチレン溶液)を少量垂らした後に、その上から気泡が入らないように塗工面を下にして切り出した硬化物を置き、屈折率を測定した。その結果、得られた硬化物(膜)の屈折率は1.770であり、硬化物においても高い屈折率を実現できた。