(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】スイベル型溶接用電極
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
B23K11/30 320
(21)【出願番号】P 2020169519
(22)【出願日】2020-10-07
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000127891
【氏名又は名称】株式会社エスエムケイ
(74)【代理人】
【識別番号】100085257
【氏名又は名称】小山 有
(72)【発明者】
【氏名】日高 勝人
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-076144(JP,A)
【文献】特開2019-058948(JP,A)
【文献】実開平05-044385(JP,U)
【文献】実公昭49-015786(JP,Y1)
【文献】特開昭53-062754(JP,A)
【文献】特開2001-009575(JP,A)
【文献】特開2020-006433(JP,A)
【文献】実開昭59-129489(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/00 - 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基端側の基体部に対し、先端側の回動部が球面嵌合部を有するスイベルジョイントを介して接合され、前記回動部が軸方向に沿って先端側の第1分割体と基端側の第2分割体に分割されるとともにこれら第1、第2分割体は任意の結合構造を介して結合可能とされ、また、前記基体部と第2分割体とがスイベルジョイントを介して接合一体化されるスイベル型溶接用電極であって、前記基体部の長さ方向の全長と前記回動部の少なくとも一部には電極を冷却するための冷却水供給通路が形成され、この冷却水供給通路を通して供給される冷却水は、前記第1分割体に直接接触するように構成され、
前記回動部を構成する第2分割体の球面凹部周縁の形状をシーリング機構を包持する断面鉤形状とし、シールリング機構を介装した状態で前記球面凹部周縁を径方向内側にカシメることでシーリング機構と第2分割体とを一体化したことを特徴とするスイベル型溶接用電極。
【請求項2】
前記第1、第2分割体の結合構造は
ネジ式結合であり、第2分割体に刻設したネジ部より径方向内側の第2分割体の端面には、第1分割体の下面と接触するシーリング機構を設けたことを特徴とする請求項1に記載のスイベル型溶接用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接等に使用される電極において、電極先端側の回動部が基端側の基体部の軸方向に対して所定の角度範囲内で回転可能な電極の先端側の回動部への冷却効果を高めるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、スポット溶接等の溶接作業において、電極の摩耗等による交換作業の手間を省いたり、ランニングコストを削減する等のため、電極を損耗の激しい先端部分と耐久性のある基端部分とに二分割し、基端部分を先端部分に比べて比較的長時間使用することにより、手間とコストの削減を図るようにした技術を提案している。(例えば、特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この技術では、
図7に示すように、スイベル型電極51として、電極基端側の基体部52と、電極先端側の回動部53とを球面嵌合部kを有するスイベルジョイント54で連結するとともに、回動部53として、先端側の第1分割体53aと、基端側の第2分割体53bに分割することにより、溶接作業において損耗の激しい第1分割体53aが損耗しても、第2分割体53bは継続して使用することにより、ランニングコストの削減や交換作業の手間や時間の削減を図っている。ところで、この従来の構造にあっては、
図7(b)に示すように、冷却水の通路sが基体部52だけに設けられており、特に損耗の激しい回動部53には冷却水の通路が形成されていないため、特にワークに直接接触して発熱する第1分割体53aに対する冷却効果が十分でなく、第1分割体53aの耐久性という点で難点があった。
【0005】
そこで、本発明は、特に発熱して損耗しやすい電極先端側の回動部への冷却効果を高め、耐久性の一層の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明は、基端側の基体部に対し、先端側の回動部が球面嵌合部を有するスイベルジョイントを介して接合され、前記回動部が軸方向に沿って先端側の第1分割体と基端側の第2分割体に分割されるとともにこれら第1、第2分割体は任意の結合構造を介して結合可能とされ、また、前記基体部と第2分割体とがスイベルジョイントを介して接合一体化されるスイベル型溶接用電極において、前記基体部の長さ方向の全長と前記回動部の少なくとも一部には電極を冷却するための冷却水供給通路を形成し、この冷却水供給通路を通して供給される冷却水が、前記第1分割体に直接接触するように構成した。
【0007】
このように、基体部の長さ方向の全長と前記回動部の少なくとも一部に電極を冷却するための冷却水供給通路を形成し、この冷却水供給通路を通して供給される冷却水が、第1分割体に直接接触するように構成することで、回動部の冷却効果が高まり、特に、冷却水を第1分割体に直接接触させることにより、第1分割体の損耗度を抑えることができる。
【0008】
この際、スイベルジョイントの球面嵌合部には、水漏れを防止するためのシーリング機構を設けることが有効であり、また、第1、第2分割体の結合構造を、テーパ式嵌合又はネジ式結合にする。
すなわち、冷却水供給通路を通して供給される冷却水は、必然的にスイベルジョイントの球面嵌合部や、第1、第2分割体の結合面を通して外部に漏洩しやすくなることから、球面嵌合部にシーリング機構を設けることにより、球面嵌合部からの溝漏れを防止することができる。また、第1、第2分割体の結合構造をテーパ式嵌合にすれば、同嵌合部からの水漏れは防止できる。
なお、第1、第2分割体の結合構造を、ネジ式結合にする場合は、ネジ部がストレートネジの場合はネジ部周辺にシーリング機構としてOリング等を設ける必要がある。しかしながら、ネジ部をテーパネジにすることにより、雄ネジのネジ山と雌ネジのネジ溝とが密着するようになり同結合部からの水漏れを防止することができる。
【0009】
また、基体部の先端側に、回動部の回動角度を規制するためのフランジ部を形成し、回動部が一定角度まで回動すると、回動部の一部がフランジ部に当接して、それ以上回動できないようにすることで、電極の先端部が損耗等してドレッシング作業する際、回動部が回動しすぎて溶接不良等の不具合を招くことを防止できる。
【発明の効果】
【0010】
基体部に対して回動部がスイベルジョイントを介して接合され、回動部が軸方向に沿って先端側の第1分割体と基端側の第2分割体に分割されるスイベル型溶接用電極において、基体部の長さ方向の全長と回動部の少なくとも一部に電極を冷却するための冷却水供給通路を形成し、この冷却水供給通路を通して供給される冷却水が、第1分割体に直接接触するように構成することで、回動部の冷却効果が高まり、熱損傷による摩耗等を防いで耐久性向上を図ることができる。この際、スイベルジョイントの球面嵌合部に、水漏れを防止するためのシーリング機構を設ければ、同嵌合部からの水漏れを防止することができる。また、第1、第2分割体の結合構造をテーパ式嵌合又はネジ式結合にすることにより、脱着が簡単に行えるようになり、特にテーパ式嵌合やテーパネジ構造にすれば、テーパ嵌合部にOリング等のシーリング機構が不要となる。また、基体部の先端側にフランジ部を設け、回動部の回動角度を一定以下に規制することで、電極の先端部をドレッシング作業する際、回動部が回動しすぎるような不具合がなくなって溶接不良等を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】スポット溶接の概要を説明するための説明図である。
【
図2】本発明に係る溶接用電極であり、(a)は回動部の第2分割体を取り外した状態、(b)は第2分割体を結合した状態の説明図である。
【
図3】本発明に係る溶接用電極の構成部品を示し、(a)は回動部の第1分割体、第2分割体、基体部を組み付ける前の状態図、(b)は第2分割体と基体部が接合一体化接合され、第1分割体は分離した状態の断面図である。
【
図4】回動部の第1分割体と第2分割体の結合構造をネジ式にする場合の説明図であり、(a)はストレートのネジとOリングを組み合わせる場合の説明図であり、(b)はテーパネジにする場合の説明図である。
【
図5】回動部の第1分割体と第2分割体の構造の他の一例を示す説明図である。
【
図6】基体部の先端側にフランジ部を形成する際の説明図であり、(a)は正面図、(b)は回動部が回動を規制される場合の説明図である。
【
図7】従来の冷却構造の一例を示す説明図であり、(a)は斜視図、(b)は縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る溶接用電極は、基端側の基体部に対して先端側の回動部がスイベルジョイントを介して回動自在に連結されるスイベル式電極を用いたスポット溶接等において、特に発熱して損耗しやすい電極先端側の回動部への冷却効果を高め、耐久性の一層の向上を図ることができるようにされ、基体部内部から回動部内部に向けて形成される冷却水供給通路が、回動部の一部にまで形成されていることを特徴としている。
【0013】
ここで、スポット溶接の概要について説明すると、スポット溶接とは、
図1に示すように、接合すべき二つの被溶接材料W
1、W
2を一対の電極Dで挟み込んで加圧しつつ電流を流し、被溶接材料W
1、W
2の接触面に抵抗熱を発生させて被溶接材料の接触面同士を溶融させて溶接する技術であり、自動車の車体の溶接等に多用されているが、被溶接材料の接触面が複雑な形状の場合、
図7に示すような、いわゆるスイベル式電極51が使用されることがある。
【0014】
この電極51は、
図7に示すように、定置式溶接機等の装置側に取り付けられる基体部52と、この基体部52に対してスイベルジョイント54を介して球面嵌合部kで連結される回動部53を一体に備えており、回動部53は、基体部52の軸方向に対して所定の角度範囲内で回動自在にされている。
【0015】
このため、例えば挟み込まれた被溶接材料の表面が複雑な形状の場合でも、電極51で加圧する際、回動部53が被溶接材料の表面に倣うように回動し、被溶接材料と電極51との接触面積を十分確保することができ、通電量も確保されて溶接不良等を起こすことがないが、このような電極構造の場合、電極の磨耗等による交換の際、電極51全体を交換する必要があるため、コスト高である。
【0016】
そこで、
図7の従来のスイベル式電極51は、回動部53を軸方向に沿って第1分割体53aと第2分割体53bに分割し、特に損耗等の激しい第1分割体53aに交換等の必要が生じた場合でも、第2分割体53bは継続して使用可能なことに着目し、第1分割体53aだけを交換できるようにしたものであるが、この場合、冷却水の通路sが基体部52内部だけに設けられており、特に損耗の激しい回動部53には冷却水の通路が形成されていないため、特にワークに直接接触して発熱する第1分割体53aに対する冷却効果が十分でなく、第1分割体53aの耐久性に難点があることは前記したとおりである。
【0017】
そこで、本発明に係るスイベル型溶接用電極1は、基体部52内部に形成される冷却水通路sを、回動部53内部の一部まで形成することで、特に熱損傷等を受けやすい第1分割体53aの冷却効果を高めたことを特徴としている。
【0018】
それでは、本発明に係るスイベル型溶接用電極1の構成について、以下、基体部2、回動部3、第1分割体3a、第2分割体3b、スイベルジョイント4等について順次説明する。
基体部2は、
図3に示すように、先端側に球面部2qを備えるとともに、内部の中央部に軸心方向に沿って冷却水供給通路sを備えている。なお本実施例では、基体部2の基端側外周部は、装置本体側の取付け部のテーパ孔に挿し込み式で装着するためテーパ面2tとしているが、装置本体側の取付部がネジ孔である場合、テーパ面2tの代わりに雄ネジにしてもよい。
また、回動部3は、先端側の第1分割体3aと基端側の第2分割体3bに分割され、第2分割体3bの基端側には球面凹部3qが形成されるとともに、軸方向に沿って先端側に向けて冷却水供給通路sが形成されている。また、第2分割体3bの先端側外部には、テーパ凸部3tが形成されている。
更に、第1分割体3aの基端側には、第2分割体3bのテーパ凸部3tに嵌合可能なテーパ凹部3uが形成されている。
【0019】
以上のようなスイベル型溶接用電極1において、基体部2の球面部2qと、第2分割体3bの球面凹部3qとは、嵌合するような状態で一体化され、
図3(b)に示すように、周縁端部付近のOリングrが介装された後、球面凹部3q周縁の周縁部がカシメ工具によってカシメられて一体化されている。
そして、この球面部2qと球面凹部3qの球面嵌合によりスイベルジョイント4が形成されるとともに、球面部2qと球面凹部3qとの間に介装されたOリングrにより、球面嵌合部kの水の流通を遮断するシーリング機構が構成されている。
【0020】
そして、この状態で、第2分割体3bは、基体部2の軸方向に対して、所定の角度範囲内で自由な角度で回動自在となり、この第2分割体3bのテーパ凸部3tに対して、第1分割体3aのテーパ凹部3uがテーパ嵌合可能とされている。
【0021】
以上のような基体部2に第2分割体3bが組付けられると、
図3(b)の状態となり、基体部2に対して第2分割体3bが自由な角度で回動自在にされるとともに、冷却水供給通路sを通して供給される冷却水がスイベルジョイント4の球面嵌合部kから外部に漏洩するのがOリングrによって阻止される。
また、第1分割体3aと第2分割体3bの連結は、第2分割体3bのテーパ凸部3tに対して第1分割体3aのテーパ凹部3uがテーパ嵌合するため、第1分割体3aと第2分割体3bの嵌合部が密着し同部から冷却水が漏洩するのを防止することができる。
【0022】
なお、以上の実施例では、第1分割体3aと第2分割体3bの連結をテーパ式嵌合としているが、これを
図4に示すように、第2分割体3bの雄ネジ3nと、第1分割体3aの雌ネジ3mとのネジ式結合にすることも可能である。しかし、この場合は、ネジ部がストレートである場合、ネジ部を通して冷却水が外部に漏洩する恐れがあるため、ネジ嵌合部付近にOリングr等のシーリング機構を設ける必要がある。このことにより、冷却水の外部への漏洩を防止することができる。なお、Oリングrの位置は、ネジ部近傍であればよく任意である。
一方、
図4(b)に示すように、第2分割体3bの雄ネジ3nと第1分割体3aの雌ネジ3mとをテーパネジにすることにより、雄ネジ3nのネジ山と雌ネジ3mのネジ溝が密着するようになり、Oリングr等を使用しなくても水漏れを防止することができる。この場合、テーパの傾斜方向としては、雄ネジ3nが先端先細りであり、雌ネジ3mは深部側に向けて径が狭まる方向である。
【0023】
ところで、
図5の実施例では、第1分割体3aや第2分割体3bの分割の形態を異ならせた場合の一例である。この場合は、第1分割体3aの形態を断面T字型にして、下端側の嵌合凸部aを第2分割体3bの嵌合凹部bに差し込んで連結できるようにするとともに、嵌合凸部aの中央の下面部に冷却水が入り込むことのできる穴vを設け、第1分割体3aに対する冷却効果を向上させるようにしている。
【0024】
次に、前記回動部3の回動角度を規制する実施例について、
図6に基づき説明する。
この実施例では、基端部2の先端側にフランジ部2fを形成し、このフランジ部2fの先端側面と回動部3の第2分割体3bの基端側面との間の距離mと、フランジ部2fの径φとの関係を適切に調整することにより、回動部3が回動した際、第2分割体3bの下方周端部Eがフランジ部2fに当接して、回動部3の回動角度θを規制するようにしたものである。これは、回動部3が所定角度θ以上に回動すると、溶接不良を招きやすくなるからである。
【0025】
また、本実施例では、基体部2や第1分割体31aや第2分割体31bの材質として、クロム銅、ジリコニウムクロム銅、ジリコニウム銅、ベリリウム銅、シリコン入りジリコニウムクロム銅、真鍮のいずれかの組み合わせによるものとし、冷却効果を高めるようにしている。
【0026】
なお、本発明は上記のような実施形態に限定されるものではない。本発明の特許請求の範囲に記載した事項と実質的に同一の構成を有し、同一の作用効果を奏するものは本発明の技術的範囲に属する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
回動部を分割したスイベル式溶接用電極を多用するような業界において、特に回動部に対する効果的な冷却が可能であり、耐久性等の大幅な向上が図られるため、今後広い範囲での普及が期待される。
【符号の説明】
【0028】
1…スイベル型溶接用電極、2…基体部、2f…フランジ部、3…回動部、3a…第1分割体、3b…第2分割体、4…スイベルジョイント、r…Oリング。