(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】制振装置及びその設置方法
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240718BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20240718BHJP
E04B 1/98 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/04 B
E04B1/98 Z
E04B1/98 H
(21)【出願番号】P 2020186367
(22)【出願日】2020-11-09
【審査請求日】2023-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2019211171
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】福田 優輝
(72)【発明者】
【氏名】井上 竜太
(72)【発明者】
【氏名】松下 仁士
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-239323(JP,A)
【文献】特開2014-005860(JP,A)
【文献】特開2001-234972(JP,A)
【文献】特開2015-197205(JP,A)
【文献】特開2006-194073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00- 15/36
E04B 1/62- 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加振源の近傍の床に設置して当該床に伝搬する特定の固有振動数帯域の振動を質量体により低減する可搬式の制振装置であって、
前記質量体が、主として比較的高周波の固有振動数帯域を低減対象とする第1質量体と主として比較的低周波の固有振動数帯域を低減対象とする第2質量体との2つの質量体で構成され、
前記第1質量体が、前記床の振動を当該第1質量体に伝達するために前記床に接地して第1ばねとして機能する脚部を備え、
前記第2質量体が、前記床の振動を前記第1質量体から当該第2質量体に伝達する第2ばねとして機能する弾性部材を介して前記第1質量体の上方に配置され、
前記脚部が、前記第1質量体に螺着のボルトで構成され、そのボルトの回転操作によって前記脚部の長さが調整可能であ
る制振装置。
【請求項2】
加振源の近傍の床に設置して当該床に伝搬する特定の固有振動数帯域の振動を質量体により低減する可搬式の制振装置であって、
前記質量体が、主として比較的高周波の固有振動数帯域を低減対象とする第1質量体と主として比較的低周波の固有振動数帯域を低減対象とする第2質量体との2つの質量体で構成され、
前記第1質量体が、前記床の振動を当該第1質量体に伝達するために前記床に接地して第1ばねとして機能する脚部を備え、
前記第2質量体が、前記床の振動を前記第1質量体から当該第2質量体に伝達する第2ばねとして機能する弾性部材を介して前記第1質量体の上方に配置され、
前記第1質量体に立設の棒状体が、前記弾性部材と第2質量体を貫通して上方に延出され、その上方延出部に前記弾性部材の圧縮力を調整する圧縮力調整手段が設けられ
る制振装置。
【請求項3】
前記第2質量体の上方に、緩衝用粘弾性体が配置され、
前記緩衝用粘弾性体の上方に、押圧板が配置され、
前記棒状体としてのボルトが、前記弾性部材と前記第2質量体と前記緩衝用粘弾性体と前記押圧板とを貫通して上方にまで延出されており、
前記ボルトの上方延出部にナットが螺着されて、当該ナットと前記押圧板により前記圧縮力調整手段が構成されている請求項2に記載の制振装置。
【請求項4】
加振源の近傍の床に設置して当該床に伝搬する特定の固有振動数帯域の振動を質量体により低減する可搬式の制振装置であって、
前記質量体が、主として比較的高周波の固有振動数帯域を低減対象とする第1質量体と主として比較的低周波の固有振動数帯域を低減対象とする第2質量体との2つの質量体で構成され、
前記第1質量体が、前記床の振動を当該第1質量体に伝達するために前記床に接地して第1ばねとして機能する脚部を備え、
前記第2質量体が、前記床の振動を前記第1質量体から当該第2質量体に伝達する第2ばねとして機能する弾性部材を介して前記第1質量体の上方に配置される制振装置の設置方法であって、
加振源の近傍の床に据え付けられた前記制振装置に対して一時的に鉛直荷重を加える制振装置の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加振源の近傍の床に設置して当該床に伝搬する特定の固有振動数帯域の振動を質量体により低減する可搬式の制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような可搬式の制振装置としては、従来、特定の固有振動数帯域の振動を低減する質量体をひとつだけ備えたものが知られている。具体的には、63Hz帯域(45Hz~90Hz)の固有振動数を低減する質量体を備えた可搬式の制振装置と、125Hz帯域(90Hz~180Hz)の固有振動数を低減する質量体を備えた可搬式の制振装置とが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、制振装置の固有振動帯域は、一般的に製作時に調整される。これは、制振装置が低減対象である固有振動数帯域が、あらかじめ事前測定や予測解析などによって把握されており必要条件となるためである。しかしながら、製作時に調整した固有振動数帯域と設置場所へ設置後に測定した固有振動数帯域が異なる(ずれている)ことはしばしば生じる。そのため、従来では、設置後に固有振動数帯域の微調整ができるよう製作されているものが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5955127号公報
【文献】特許第2662067号公報
【文献】特開2006-342879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、コンクリート製の床スラブに対する斫り作業やアンカー作業などでは、ひとつの固有振動数帯域内の振動のみが発生するとは限らず、2つの固有振動数帯域にわたる広い範囲の振動、一例を挙げると、250Hz帯域と500Hz帯域との2つの固有振動数帯域にわたる広い範囲の振動が多発する場合がある。
したがって、特許文献1に開示の従来技術では、コンクリート製の床スラブに対する斫り作業やアンカー作業などに即さない感があり、この点に改良の余地がある。
ちなみに、固定式の制振装置では、設置対象物が特定されるため、低減対象となる固有振動数帯域の特定も容易で、そのため、2つ以上の固有振動数帯域を低減対象とした制振装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、固有振動数帯域を特定し難い可搬式の制振装置においては皆無であり、この点に改良の余地が残されていた。
【0006】
また、このような制振装置を設置場所の床に設置するにあたり、その固有振動数を微調整する際には、粘弾性体の付替えや、質量体の微増減、質量体の支持長さ変更による剛性の増減などがあるが、共通事項として、制振装置を構成する質量体や粘弾性体などの内部構成要因に手を加え、調整を行う必要がある。そのため、特に制振装置を複数台取り付ける際には、設置場所における調整時間が多く必要となる課題がある。
【0007】
本発明は、上記のような従来の問題点に着目したもので、その目的は、実際の斫り作業やアンカー作業などに即した状態で、比較的高周波と低周波の2つの固有振動数帯域にわたる広い範囲の振動を効率よく低減することができる可搬式の制振装置を提供することにある。
更に、本発明は、上記のような従来の問題点に着目したもので、その目的は、制振装置を設置するにあたり、低減対象である固有振動数帯域を調整可能とする制振装置の設置方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る制振装置の第1特徴構成は、加振源の近傍の床に設置して当該床に伝搬する特定の固有振動数帯域の振動を質量体により低減する可搬式の制振装置であって、
前記質量体が、主として比較的高周波の固有振動数帯域を低減対象とする第1質量体と主として比較的低周波の固有振動数帯域を低減対象とする第2質量体との2つの質量体で構成され、
前記第1質量体が、前記床の振動を当該第1質量体に伝達するために前記床に接地して第1ばねとして機能する脚部を備え、
前記第2質量体が、前記床の振動を前記第1質量体から当該第2質量体に伝達する第2ばねとして機能する弾性部材を介して前記第1質量体の上方に配置され、
前記脚部が、前記第1質量体に螺着のボルトで構成され、そのボルトの回転操作によって前記脚部の長さが調整可能である点にある。
【0012】
本構成によれば、特定の固有振動数帯域の振動を低減する質量体が、主として比較的高周波と比較的低周波の固有振動数帯域を低減対象とする第1と第2の2つの質量体で構成されるので、ひとつの可搬式の制振装置で比較的高周波と低周波の2つの固有振動数帯域の振動を効率よく低減することができる。
そして、比較的高周波の帯域を低減対象とする第1質量体が、床の振動を第1質量体に伝達するために床に接地して第1ばねとして機能する脚部を備えているので、第1質量体用の第1ばねと装置設置用の脚部を同じ部材で兼用することになり、装置の簡素化を図りながら、しかも、床の振動を確実に第1質量体へ伝達することが可能となる。
また、比較的低周波の帯域を低減対象とする第2質量体に関しては、床の振動を第1質量体から第2質量体に伝達する第2ばねとして機能する弾性部材を介して第1質量体の上方に配置されるので、第2質量体を第1質量体の上方に合理的に配置しながら、第1質量体と弾性部材を介して床の振動を確実に第2質量体へ伝達することができる。
このようにして、実際の斫り作業やアンカー作業に即した状態で、比較的高周波と低周波の2つの固有振動数帯域にわたる広い範囲の振動を効率よく低減することが可能な可搬式の制振装置を提供することができる。
更に、本構成によれば、第1質量体用の第1ばねを兼用する脚部が、第1質量体に螺着のボルト、つまり、ゴムやプラスチックなどの粘弾性体ではなく、剛性が高くてばね定数の大きな金属製のボルトで構成されるので、低減対象となる帯域を高周波に設定することが容易かつ確実となる。
そして、そのボルトの回転操作によって脚部の長さが調整可能であるから、脚部の長さ調整によりばね定数を調整し、その結果、低減対象である高周波の固有振動数帯域を調整することもできる。
【0013】
本発明に係る制振装置の第2特徴構成は、加振源の近傍の床に設置して当該床に伝搬する特定の固有振動数帯域の振動を質量体により低減する可搬式の制振装置であって、
前記質量体が、主として比較的高周波の固有振動数帯域を低減対象とする第1質量体と主として比較的低周波の固有振動数帯域を低減対象とする第2質量体との2つの質量体で構成され、
前記第1質量体が、前記床の振動を当該第1質量体に伝達するために前記床に接地して第1ばねとして機能する脚部を備え、
前記第2質量体が、前記床の振動を前記第1質量体から当該第2質量体に伝達する第2ばねとして機能する弾性部材を介して前記第1質量体の上方に配置され、
前記第1質量体に立設の棒状体が、前記弾性部材と前記第2質量体を貫通して上方に延出され、その上方延出部に前記弾性部材の圧縮力を調整する圧縮力調整手段が設けられる点にある。
【0014】
本構成によれば、特定の固有振動数帯域の振動を低減する質量体が、主として比較的高周波と比較的低周波の固有振動数帯域を低減対象とする第1と第2の2つの質量体で構成されるので、ひとつの可搬式の制振装置で比較的高周波と低周波の2つの固有振動数帯域の振動を効率よく低減することができる。
そして、比較的高周波の帯域を低減対象とする第1質量体が、床の振動を第1質量体に伝達するために床に接地して第1ばねとして機能する脚部を備えているので、第1質量体用の第1ばねと装置設置用の脚部を同じ部材で兼用することになり、装置の簡素化を図りながら、しかも、床の振動を確実に第1質量体へ伝達することが可能となる。
また、比較的低周波の帯域を低減対象とする第2質量体に関しては、床の振動を第1質量体から第2質量体に伝達する第2ばねとして機能する弾性部材を介して第1質量体の上方に配置されるので、第2質量体を第1質量体の上方に合理的に配置しながら、第1質量体と弾性部材を介して床の振動を確実に第2質量体へ伝達することができる。
このようにして、実際の斫り作業やアンカー作業に即した状態で、比較的高周波と低周波の2つの固有振動数帯域にわたる広い範囲の振動を効率よく低減することが可能な可搬式の制振装置を提供することができる。
更に、本構成によれば、第1質量体に立設の棒状体が、弾性部材と第2質量体を貫通して上方に延出され、その上方延出部に弾性部材の圧縮力を調整する圧縮力調整手段が設けられるので、その圧縮力調整手段の操作により弾性部材に対する上下からの圧縮力を調整することができる。
すなわち、弾性部材への圧縮力調整によりばね定数の変更が可能となり、低減対象となる比較的低周波の帯域を変更することが可能となる。
本発明に係る制振装置の第3特徴構成は、前記第2質量体の上方に、緩衝用粘弾性体が配置され、
前記緩衝用粘弾性体の上方に、押圧板が配置され、
前記棒状体としてのボルトが、前記弾性部材と前記第2質量体と前記緩衝用粘弾性体と前記押圧板とを貫通して上方にまで延出されており、
前記ボルトの上方延出部にナットが螺着されて、当該ナットと前記押圧板により前記圧縮力調整手段が構成されている点にある。
【0015】
本発明に係る制振装置の設置方法の特徴構成は、加振源の近傍の床に設置して当該床に伝搬する特定の固有振動数帯域の振動を質量体により低減する可搬式の制振装置であって、
前記質量体が、主として比較的高周波の固有振動数帯域を低減対象とする第1質量体と主として比較的低周波の固有振動数帯域を低減対象とする第2質量体との2つの質量体で構成され、
前記第1質量体が、前記床の振動を当該第1質量体に伝達するために前記床に接地して第1ばねとして機能する脚部を備え、
前記第2質量体が、前記床の振動を前記第1質量体から当該第2質量体に伝達する第2ばねとして機能する弾性部材を介して前記第1質量体の上方に配置される制振装置の設置方法であって、
加振源の近傍の床に据え付けられた前記制振装置に対して一時的に鉛直荷重を加える点にある。
【0016】
本構成によれば、加振源の近傍の床に据え付けられた制振装置に対して、鉛直荷重を加える載荷工程とその鉛直荷重を取り除く除荷工程とを順に実行する形態で、一時的に鉛直荷重が加えられる。そして、除荷工程後の状態では、載荷工程前の状態と比較して、脚部の剛性が上昇することになる。これは、鉛直荷重の一時的な載荷により、制振装置の脚部が床面へめり込んでなじむなどして床に対する脚部の接触面が増加することに起因すると考えられる。
このように脚部の剛性を上昇させることができるので、低減対象である高周波の固有振動数帯域を調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図5】実験例1の実験結果としての振動特性を示すグラフ図
【
図6】実験例2の実験結果としての固有振動数を示すグラフ図
【
図7】実験例2の実験結果としての剛性比率を示すグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔制振装置〕
本発明による可搬式の制振装置につきその実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態の可搬式の制振装置は、例えば、コンクリート製の床スラブに対して斫り作業やアンカー作業などを行う際、その作業に伴う加振源の近傍の床に設置して当該床に伝搬する特定の固有振動数帯域の振動を質量体により低減するために使用するものである。
この可搬式の制振装置10は、
図1に示すように、例えば、コンクリート製の床Fに伝搬する振動を低減する質量体が、相対的にみて主として比較的高周波の固有振動数帯域を低減対象とする鋼材製の第1質量体1と、主として比較的低周波の固有振動数帯域を低減対象とする鋼材製の第2質量体2との2つの質量体で構成される。
【0019】
高周波の固有振動数帯域を低減対象とする第1質量体1は、床Fの振動を第1質量体1に伝達するために床Fに接地して第1ばねとして機能する脚部3を備えている。
脚部3としては、第1質量体1に螺着可能なトラスボルト、六角ボルト、皿ボルトなどの各種の金属製のボルトが使用可能であり、
図2に示すように、第1質量体1の底部において正三角形の頂点に位置するように3箇所に配置される。
これら3個の脚部3は、第1質量体1の底部にそれぞれ螺着され、各脚部3の回転操作によって各脚部3の長さが調整可能に構成され、脚部3の長さを調整することにより、第1ばねとして機能する脚部3のばね定数を調整し、低減対象である高周波の固有振動数帯域を調整することができる。
【0020】
低周波の固有振動数帯域を低減対象とする第2質量体2は、床Fの振動を第1質量体1から当該第2質量体2に伝達する第2ばねとして機能する弾性部材としての防振材製の粘弾性体4を介して第1質量体1の上方に配置される。その第2質量体2の上方には、防振材製の緩衝用粘弾性体5が配置され、更に、緩衝用粘弾性体5の上方に鋼材製の押圧板6が配置される。
第1質量体1の上面部の中心には、棒状体としてのボルト7が螺合され、そのボルト7に対して粘弾性体4、第2質量体2、緩衝用粘弾性体5、押圧板6が外嵌される。
言い換えると、第1質量体1に立設の棒状体としてのボルト7が、粘弾性体4と第2質量体2を貫通し、更に、緩衝用粘弾性体5と押圧板6も貫通して上方にまで延出される。
【0021】
それら粘弾性体4、第2質量体2、緩衝用粘弾性体5、および、押圧板6には、ボルト7が貫通するための貫通孔がそれぞれ設けられ、かつ、各貫通孔は、通常の振動によってボルト7が貫通孔の内面に当接しないように、ボルト7の直径に対して十分な大きさの直径に設定される。
そして、ボルト7の上方延出部にナット8が螺着されて、ナット8と押圧板6により粘弾性体4の圧縮力を調整する圧縮力調整手段9が構成される。つまり、ボルト7の上方延出部に圧縮力調整手段9が設けられ、ナット8の回転操作によって粘弾性体4の圧縮力を調整し、第2ばねとして機能する粘弾性体4のばね定数を調整し、低減対象である低周波の固有振動数帯域を調整することが可能となる。
【0022】
この可搬式の制振装置10は、例えば、第1質量体1が、1辺の長さを100mmとする立方体に、第2質量体2と押圧板6が、それぞれ平面視で1辺の長さを100mmとする正方形で厚さが10mmの板状体に、粘弾性体4と緩衝用粘弾性体5が、それぞれ平面視で1辺の長さを100mmとする正方形で厚さが12.5mmの板状体に構成される。更に、各脚部3はそれぞれM8のボルト、棒状体としてのボルト7はM12のボルトで構成される。
その場合、第1質量体1の質量は9.10kg、第2質量体2の質量は0.85kg、第1ばねとして機能する脚部3のばね定数は4.46×107N/m、第2ばねとして機能する粘弾性体4のばね定数は6.46×106N/m、で、全体の重量が約10kgに設定される。そして、比較的低周波の固有振動数帯域を250Hz帯域とし、その帯域内における320Hzを固有振動数に設定し、比較的高周波の固有振動数帯域を500Hz帯域とし、その帯域内における470Hzを固有振動数に設定される。
【0023】
ただし、上述した寸法や重量などは単なる一例に過ぎず、実際の実施に際しては、実情に応じて適宜変更することが可能である。
一例を挙げると、第1質量体1が、平面視で1辺の長さを100mmとする正方形で厚さが30mmの直方体に、第2質量体2と押圧板6が、それぞれ平面視で1辺の長さを100mmとする正方形で厚さが10mmの板状体に、粘弾性体4と緩衝用粘弾性体5が、それぞれ平面視で1辺の長さを100mmとする正方形で厚さが12.5mmの板状体に構成される。そして、3個の脚部3はそれぞれM8のボルト、棒状体としてのボルト7はM12のボルトで構成され、全体の重量が約4.5kgに設定される。この場合には、比較的低周波の固有振動数帯域を250Hz帯域とし、その帯域内における420Hzを固有振動数に設定し、比較的高周波の固有振動数帯域を500Hz帯域とし、その帯域内における730Hzを固有振動数に設定される。
【0024】
いずれにせよ、比較的低周波の固有振動数帯域を250Hz帯域とし、比較的高周波の固有振動数帯域を500Hz帯域とすると、ほぼ160Hz~730Hzの固有振動数を低減対象とすることができる。
そして、これら比較的低周波の固有振動数帯域と比較的高周波の固有振動数帯域に関しても、実際の実施に際しては、実情に応じて適宜変更して実施することになる。
【0025】
〔制振装置の設置方法〕
本発明による制振装置の設置方法につきその実施形態を図面に基づいて説明する。
図3に示す本実施形態の設置方法(以下、「本設置方法」と呼ぶ。)は、上述した本発明に係る制振装置10を設置するにあたり、脚部3の剛性を上昇させることで低減対象である高周波の固有振動数帯域を調整するために実施される。本設置方法では、加振源の近傍の床Fに制振装置10を据え付ける据付工程(
図3(a)を参照)を実行し、その後制振装置10の天面(押圧板6の上面)に錘Wを載せるなどの形態で当該制振装置10に鉛直荷重を加える載荷工程(
図3(b)を参照)を実行し、その後錘Wを撤去する形態で制振装置10から上記載荷された鉛直荷重を取り除く除荷工程(
図3(c)を参照)を実行する。即ち、このような工程を順次実行する形態で、加振源の近傍の床Fに据え付けられた制振装置10に対して一時的に鉛直荷重が加えられることになる。
このような本設置方法を実施して制振装置10を設置すれば、除荷工程後の状態では、鉛直荷重を加える前の据付工程直後の状態と比較して、脚部3の剛性が上昇する。これは、脚部3を構成するボルトの剛性が床との接触面の影響を受けるためであると考えられる。
【0026】
(実験例1)
実施例1として、
図4に示すように、6.2kgの質量体M(鉄塊)を脚部3としての3本のボルトで支持した構成にて、質量体Mの振動特性を測定した。ここで、その質量体Mに対して、約70kgの鉛直荷重を用いて上記のような載荷工程及び除荷工程を実行したものを実施例(載荷→除荷)とし、そのような載荷工程及び除荷工程を実行しないものを比較例(無載荷)とする。そして、実施例(載荷→除荷)と比較例(無載荷)の振動特性を比較し、その結果を
図5のグラフ図に示す。
【0027】
実施例(載荷→除荷)と比較例(無載荷)の固有振動数を比較すると、比較例(無載荷)では317Hzに固有振動数が存在し、一方、実施例(載荷→除荷)では507Hzに固有振動数が存在している。即ち、実施例(載荷→除荷)での固有振動数は、比較例(無載荷)と比べて約1.6倍上昇していることが分かる。尚、両者は、同じ6.2kgの質量体Mを使用しているため、固有振動数に違いを与える要因は脚部3である3本のボルトとなる。
【0028】
更に、下記の(式1)より、固有振動数Fと剛性Kには2乗の関係性があることから、上述の固有振動数Fの変化から剛性Kの変化を計算すると、実施例(載荷→除荷)での脚部3の剛性Kは、比較例(無載荷)と比べて約2.55倍上昇していることが分かる。
F=1/2π×(M/K)1/2・・・(式1)
【0029】
以上のような本実験例1の実験結果により、上述した載荷工程及び除荷工程のプロセスによる脚部3である3本のボルトの剛性上昇効果を利用して、上述した制振装置10(
図3等参照)の低減対象の固有振動数を調整することが可能であるといえる。
尚、本実験例1では、約70kgの人が質量体Mに乗ることで、約70kgの鉛直荷重を載荷している。実験条件としては、踏みつけ時の強さなど不安定・不確定要素が存在してしまうが、本実験例1では、剛性の上昇はN数(サンプル数)20にて安定的に上昇効果が現出することを確認した。
【0030】
(実験例2)
上記実験例1と同様の構成(
図4参照)にて、3.2kgの質量体M(鉄塊)を脚部3としての3本のボルトで支持した構成にて、質量体Mの振動特性を測定した。ここで、その質量体Mに対して、鉛直荷重を用いて上記のような載荷工程及び除荷工程を実行したものを実施例(載荷→除荷)とし、そのような載荷工程及び除荷工程を実行しないものを比較例(無載荷)とする。また、実施例(載荷→除荷)で載荷する鉛直荷重(これを「載荷荷重」と呼ぶ場合がある。)は、3.2kg、9.5kg、12.7kg、15.8kg、40kg、60kgの計6パターンとした。
【0031】
図6のグラフ図は、載荷荷重ごとの固有振動数を示し、
図7のグラフ図は、上記(式1)を用いて固有振動数から算出した比較例(無載荷)を基準とした剛性比率を示す。尚、
図6において、比較例(無載荷)の固有振動数は、載荷荷重が0kgの値としてプロットしている。
図5のグラフ図からわかるように、載荷荷重は重いほど固有振動数が漸次上昇し、60kgでは固有振動数比で1.16倍となった。そして、
図6のグラフ図に示すように、載荷荷重を60kgとした場合では、剛性が比較例(無載荷)と比べて1.36倍上昇する結果となった。
【0032】
上記実験例1と同様に、以上のような本実験例2の実験結果により、上述した載荷工程及び除荷工程のプロセスによる脚部3である3本のボルトの剛性上昇効果を利用して、上述した制振装置10(
図3等参照)の固有振動数を調整することが可能であるといえる。更に、上昇させたい剛性比率から載荷荷重を適切に選択することで、脚部3であるボルトの剛性を調整し、制振装置10としての固有振動数が調整可能となる。
【0033】
尚、本実施形態の制振装置の設置方法は、本発明に係る制振装置の設置方法として採用するものであるが、加振源の近傍の床に設置され、床の振動を質量体に伝達するために床に接地してばねとして機能する脚部を備え、床に伝搬する特定の固有振動数帯域の振動を質量体により低減するものであれば、他の形態の制振装置の設置方法として採用することもできる。
【0034】
〔別実施形態〕
(1)先の実施形態では、脚部3を第1質量体1の底部の3箇所に配置した3点支持構造を示したが、例えば、脚部3を4箇所に配置して4点支持構造にするなど、脚部3の個数については適宜変更可能である。
また、脚部3そのものは、特にボルトに限るものではなく、例えば、金属製の棒状体などで代用することもできる。
【0035】
(2)先の実施形態では、第1質量体1に立設の棒状体がボルト7であり、圧縮力調整手段9が押圧板6とナット8で構成された例を示したが、これらについては適宜変更可能である。
例えば、棒状体を金属棒で構成し、その金属棒に沿って位置変更固定自在なクランプ具を設けて、クランプ具と押圧板6により圧縮力調整手段9を構成するなど、種々の改変が可能である。
ただし、ボルト7とナット8を使用する場合には、入手が容易で作製費の低廉化を図り得るとともに、圧縮力調整手段9の操作も容易、確実となり利点がある。
【符号の説明】
【0036】
1 第1質量体
2 第2質量体
3 脚部
4 弾性部材
7 棒状体
9 圧縮力調整手段
F 床