(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】回転装置、及び動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/14 20060101AFI20240718BHJP
F16F 15/134 20060101ALI20240718BHJP
F16H 45/02 20060101ALI20240718BHJP
F16H 25/14 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
F16F15/14 Z
F16F15/134 A
F16H45/02 Y
F16H25/14
(21)【出願番号】P 2021006581
(22)【出願日】2021-01-19
【審査請求日】2023-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2020117198
(32)【優先日】2020-07-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020186708
(32)【優先日】2020-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149033
【氏名又は名称】株式会社エクセディ
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】岡町 悠介
(72)【発明者】
【氏名】樋口 晃一
【審査官】宮下 浩次
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-132160(JP,A)
【文献】特開2019-056446(JP,A)
【文献】特開2018-076883(JP,A)
【文献】特開2017-031995(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0283491(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/14
F16F 15/134
F16H 45/02
F16H 25/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向を向く第1ガイド面及び第2ガイド面を含む収容部を有し、回転可能に配置される第1回転体と、
前記第1回転体とともに回転可能であり、且つ前記第1回転体と相対回転可能に配置される第2回転体と、
前記第1回転体又は前記第2回転体の回転による遠心力を受けて径方向移動可能に前記収容部内に配置され、径方向に移動する際に自転するように構成された遠心子と、
前記第1ガイド面と前記遠心子との間に配置され、前記遠心子の自転によって前記第1ガイド面上を転動するように構成される第1転動部材と、
を備える、回転装置。
【請求項2】
前記遠心子は、前記第2ガイド面上を転動するように構成される、
請求項1に記載の回転装置。
【請求項3】
前記遠心子及び前記第1転動部材は、円筒状又は円柱状であり、
前記第1ガイド面と前記第2ガイド面との距離は、前記遠心子の直径と前記第1転動部材の直径との合計よりも小さい、
請求項2に記載の回転装置。
【請求項4】
前記第2ガイド面と前記遠心子との間に配置され、前記遠心子の自転によって前記第2ガイド面上を転動する第2転動部材をさらに備える、
請求項1に記載の回転装置。
【請求項5】
前記遠心子は、
周方向において第1端部及び第2端部を含む遠心子本体部と、
前記遠心子本体部の第1端部に回転可能に取り付けられる第1回転部と、
前記遠心子本体部の第2端部に回転可能に取り付けられる第2回転部と、
を有し、
前記第1転動部材は、前記第1ガイド面と前記第1回転部との間に配置され、前記第1回転部の自転によって第1ガイド面上を転動し、
前記第2転動部材は、前記第2ガイド面と前記第2回転部との間に配置され、前記第2回転部の自転によって第2ガイド面上を転動する、
請求項4に記載の回転装置。
【請求項6】
前記遠心子に作用する遠心力を受けて、前記遠心力を前記第1回転体と前記第2回転体との回転位相差が小さくなる方向の周方向力に変換するカム機構、をさらに備え、
前記カム機構は、
前記遠心子に形成されるカム面と、
前記カム面と当接し、前記遠心子と前記第2回転体との間で力を伝達するカムフォロアと、
を有する、
請求項1から5のいずれかに記載の回転装置。
【請求項7】
前記カムフォロアは、前記カム面上を転動する、
請求項6に記載の回転装置。
【請求項8】
前記遠心子は、軸方向に貫通する第1貫通孔を有し、
前記カム面は、前記第1貫通孔の内壁面によって構成される、
請求項6又は7に記載の回転装置。
【請求項9】
前記カムフォロアは、前記第2回転体に自転可能に取り付けられる、
請求項6から8のいずれかに記載の回転装置。
【請求項10】
前記第2回転体は、第2貫通孔を有し、
前記カムフォロアは、前記第2貫通孔の内壁面上を転動する、
請求項6から9のいずれかに記載の回転装置。
【請求項11】
前記カムフォロアは、円柱状又は円筒状のコロである、
請求項6から10のいずれかに記載の回転装置。
【請求項12】
円柱状又は円筒状のカムフォロアをさらに備え、
前記遠心子は、軸方向に延びる第1貫通孔を有し、
前記第2回転体は、軸方向に延びる第2貫通孔を有し、
前記第1貫通孔の内壁面は、径方向外側を向き前記カムフォロアと当接するカム面を構成し、
前記第2貫通孔の内壁面は、径方向内側を向き前記カムフォロアと当接する当接面を構成し、
前記カム面は、前記遠心子が前記第1転動部材を介して前記第1ガイド面上を転動するときに前記カムフォロアと当接する第1領域と、前記遠心子が前記第2ガイド面上を転動するときに前記カムフォロアと当接す
る第2領域と、を有し、
前記第1領域は、前記第2領域と異なる曲面形状を有する、
請求項2に記載の回転装置。
【請求項13】
前記第1領域は、前記第2領域の曲率半径よりも小さい曲率半径を有する、
請求項12に記載の回転装置。
【請求項14】
前記当接面は、前記遠心子が前記第1転動部材を介して前記第1ガイド面上を転動するときに前記カムフォロアと当接する第3領域と、前記遠心子が前記第2ガイド面上を転動するときに前記カムフォロアと当接す
る第4領域と、を有し、
前記第3領域は、前記第4領域と異なる曲面形状を有する、
請求項12又は13に記載の回転装置。
【請求項15】
円柱状又は円筒状のカムフォロアをさらに備え、
前記遠心子は、軸方向に延びる第1貫通孔を有し、
前記第2回転体は、軸方向に延びる第2貫通孔を有し、
前記第1貫通孔の内壁面は、径方向外側を向き前記カムフォロアと当接するカム面を構成し、
前記第2貫通孔の内壁面は、径方向内側を向き前記カムフォロアと当接する当接面を構成し、
前記当接面は、前記遠心子が前記第1転動部材を介して前記第1ガイド面上を転動するときに前記カムフォロアと当接する第3領域と、前記遠心子が前記第2ガイド面上を転動するときに前記カムフォロアと当接す
る第4領域と、を有し、
前記第3領域は、前記第4領域と異なる曲面形状を有する、
請求項2に記載の回転装置。
【請求項16】
前記第3領域は、前記第4領域の曲率半径よりも大きい曲率半径を有する、
請求項14又は15に記載の回転装置。
【請求項17】
前記第1回転体と前記第2回転体とが互いに相対回転せずに一体回転しているときに、前記第1領域と前記第2領域との境界が前記カムフォロアと接触するように前記遠心子の状態を維持するように構成された状態維持機構をさらに備える、
請求項12から
14のいずれかに記載の回転装置。
【請求項18】
前記状態維持機構は、前記第1回転体に形成された第1係合部と、前記遠心子に形成されて前記第1係合部と係合する第2係合部と、を有する、
請求項17に記載の回転装置。
【請求項19】
前記第2回転体は、規制溝を有しており、
前記第1転動部材は、前記規制溝によって支持される、
請求項1から18のいずれかに記載の回転装置。
【請求項20】
前記収容部は、
径方向外側を向く底面と、
前記第1ガイド面と前記底面とを連結する連結面と、
を含む、
請求項1から19のいずれかに記載の回転装置。
【請求項21】
前記連結面は、湾曲面である、
請求項20に記載の回転装置。
【請求項22】
前記連結面は、平面である、
請求項20に記載の回転装置。
【請求項23】
入力部材と、
前記入力部材からトルクが伝達される出力部材と、
請求項1から22のいずれかに記載の回転装置と、
を備える、動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転装置、及び動力伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転軸周りに回転する回転体に遠心子が取り付けられた回転装置が知られている。この回転装置は、遠心子が回転体の回転による遠心力を受けることによって、機能を発揮する。このような回転装置の一例として、トルク変動抑制装置がある。
【0003】
トルク変動抑制装置は、入力部材及びイナーシャ部材を備えている。例えば、特許文献1に記載のトルク変動抑制装置では、ハブフランジの凹部内に遠心子が径方向移動可能に配置されている。遠心子は、ハブフランジの回転による遠心力を受けて、凹部内において径方向外側に移動する。そして、この遠心子がスムーズに径方向に移動できるように、遠心子はローラを有している。遠心子のローラは、凹部の内壁面(ガイド面)上を転動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したトルク変動抑制装置では、製造の精度の観点から、遠心子とガイド面との間のクリアランスを無くすことは困難である。このため、遠心子とガイド面との間にはクリアランスが形成される。このようにクリアランスがあるため、トルク変動が正方向から負方向に切り替わるとき、遠心子と内壁面との接触音が発生するという問題がある。
【0006】
そこで、本願発明では、遠心子とガイド面との接触音の発生を抑制することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1側面に係る回転装置は、第1回転体、第2回転体、遠心子、及び第1転動部材を備える。第1回転体は、第1及び第2ガイド面を含む収容部を有する。第1及び第2ガイド面は、周方向を向く。第1回転体は、回転可能に配置される。第2回転体は、第1回転体とともに回転可能であり、且つ第1回転体と相対回転可能に配置される。遠心子は、収容部内に配置されている。遠心子は、第1回転体又は第2回転体の回転による遠心力を受けて径方向移動可能に配置されている。遠心子は、径方向に移動する際に自転するように構成されている。第1転動部材は、第1ガイド面と遠心子との間に配置される。第1転動部材は、遠心子の自転によって第1ガイド面上を転動するように構成される。
【0008】
この構成によれば、遠心子と第1ガイド面との間に第1転動部材が配置されている。この第1転動部材によって、遠心子と第1ガイド面との隙間を埋めることができ、この結果、遠心子と第1ガイド面との接触音の発生を抑制することができる。なお、遠心子が自転するとは、遠心子全体が自転することだけでなく、遠心子の一部の部材が自転することも含む概念である。
【0009】
好ましくは、遠心子は、第2ガイド面上を転動するように構成される。
【0010】
好ましくは、遠心子及び第1転動部材は、円筒状又は円柱状である。第1ガイド面と第2ガイド面との距離は、遠心子の直径と第1転動部材の直径との合計よりも小さい。
【0011】
好ましくは、回転装置は、第2転動部材をさらに備える。第2転動部材は、第2ガイド面と遠心子との間に配置される。第2転動部材は、遠心子の自転によって第2ガイド面上を転動する。
【0012】
好ましくは、遠心子は、遠心子本体部と、第1回転部と、第2回転部とを有する。遠心子本体部は、周方向において第1端部及び第2端部を含む。第1回転部は、遠心子本体部の第1端部に回転可能に取り付けられる。第2回転部は、遠心子本体部の第2端部に回転可能に取り付けられる。第1転動部材は、第1ガイド面と第1回転部との間に配置される。第1転動部材は、第1回転部の自転によって第1ガイド面上を転動する。第2転動部材は、第2ガイド面と第2回転部との間に配置される。第2転動部材は、第2回転部の自転によって第2ガイド面上を転動する。
【0013】
好ましくは、回転装置は、カム機構をさらに備える。カム機構は、遠心子に作用する遠心力を受けて、遠心力を第1回転体と第2回転体との回転位相差が小さくなる方向の周方向力に変換する。カム機構は、カム面と、カムフォロアとを有する。カム面は、遠心子に形成される。カムフォロアは、カム面と当接する。カムフォロアは、遠心子と第2回転体との間で力を伝達する。
【0014】
好ましくは、カムフォロアは、カム面上を転動する。
【0015】
好ましくは、遠心子は、軸方向に貫通する第1貫通孔を有する。カム面は、第1貫通孔の内壁面によって構成される。
【0016】
好ましくは、カムフォロアは、第2回転体に自転可能に取り付けられる。
【0017】
好ましくは、第2回転体は、第2貫通孔を有する。カムフォロアは、第2貫通孔の内壁面上を転動する。
【0018】
好ましくは、カムフォロアは、円柱状又は円筒状のコロである。
【0019】
好ましくは、回転装置は、円柱状又は円筒状のカムフォロアをさらに備える。遠心子は、軸方向に延びる第1貫通孔を有する。第2回転体は、軸方向に延びる第2貫通孔を有する。第1貫通孔の内壁面は、カム面を構成する。カム面は、径方向外側を向き、カムフォロアと当接する。第2貫通孔の内壁面は、当接面を構成する。当接面は、径方向内側を向き、カムフォロアと当接する。カム面は、第1領域と第2領域とを有する。第1領域は、遠心子が第1転動部材を介して第1ガイド面上を転動するときにカムフォロアと当接する。第2領域は、遠心子が第2ガイド面上を転動するときにカムフォロアと当接する。第1領域は、第2領域と異なる曲面形状を有する。
【0020】
好ましくは、第1領域は、第2領域の曲率半径よりも小さい曲率半径を有する。
【0021】
好ましくは、当接面は、第3領域と、第4領域とを有する。第3領域は、遠心子が第1転動部材を介して第1ガイド面上を転動するときにカムフォロアと当接する。第4領域は、遠心子が第2ガイド面上を転動するときにカムフォロアと当接する。第3領域は、第4領域と異なる曲面形状を有する。
【0022】
好ましくは、回転装置は、円柱状又は円筒状のカムフォロアをさらに備える。遠心子は、軸方向に延びる第1貫通孔を有する。第2回転体は、軸方向に延びる第2貫通孔を有する。第1貫通孔の内壁面は、カム面を構成する。カム面は、径方向外側を向き、カムフォロアと当接する。第2貫通孔の内壁面は、当接面を構成する。当接面は、径方向内側を向き、カムフォロアと当接する。当接面は、第3領域と第4領域とを有する。第3領域は、遠心子が第1転動部材を介して第1ガイド面上を転動するときにカムフォロアと当接する。第4領域は、遠心子が第2ガイド面上を転動するときにカムフォロアと当接する。第3領域は、第4領域と異なる曲面形状を有する。
【0023】
好ましくは、第3領域は、第4領域の曲率半径よりも大きい曲率半径を有する。
【0024】
好ましくは、回転装置は、状態維持機構をさらに備える。状態維持機構は、第1回転体と第2回転体とが互いに相対回転せずに一体回転しているときに、第1領域と第2領域との境界がカムフォロアと接触するように遠心子の状態を維持するように構成されている。
【0025】
好ましくは、状態維持機構は、第1回転体に形成された第1係合部と、遠心子に形成されて第1係合部と係合する第2係合部と、を有する。
【0026】
好ましくは、第2回転体は、規制溝を有する。第1転動部材は、規制溝によって支持される。
【0027】
好ましくは、収容部は、底面と連結面とを有する。底面は、径方向外側を向いている。連結面は、第1ガイド面と底面とを連結している。
【0028】
連結面は、湾曲面であってもよいし、平面であってもよい。
【0029】
本発明の第2側面に係る動力伝達装置は、入力部材と、入力部材からトルクが伝達される出力部材と、上記いずれかのトルク変動抑制装置と、を備える。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、遠心子とガイド面との接触音の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図2】一方のイナーシャリングが取り外された状態のトルク変動抑制装置の正面図。
【
図7】トルク変動が入力されていない状態の遠心子、カムフォロア、イナーシャリング、及び第1転動部材の位置関係を示す概略図。
【
図8】トルク変動が入力された状態の遠心子、カムフォロア、イナーシャリング、及び第1転動部材の位置関係を示す概略図。
【
図9】トルク変動抑制装置の特性の一例を示すグラフ。
【
図10】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大図。
【
図12】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図13】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図14】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図15】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図16】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図17】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図18】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図19】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【
図20】変形例に係るトルク変動抑制装置の拡大正面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本実施形態に係るトルク変動抑制装置(回転装置の一例)及びトルクコンバータ(動力伝達装置の一例)について図面を参照しつつ説明する。
図1は、トルクコンバータの模式図である。なお、以下の説明において、軸方向とはトルク変動抑制装置の回転軸Oが延びる方向である。また、周方向とは、回転軸Oを中心とした円の周方向であり、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の径方向である。なお、周方向とは、回転軸Oを中心とした円の周方向に完全に一致している必要はなく、例えば、
図4において、遠心子を基準とした左右方向も含む概念である。また、径方向とは、回転軸Oを中心とした円の直径方向に完全に一致している必要はなく、例えば、
図4において、遠心子を基準とした上下方向も含む概念である。
【0033】
[全体構成]
図1に示すように、トルクコンバータ100は、フロントカバー11、トルクコンバータ本体12と、ロックアップ装置13と、出力ハブ14(出力部材の一例)と、を有している。フロントカバー11にはエンジンからトルクが入力される。トルクコンバータ本体12は、フロントカバー11に連結されたインペラ121と、タービン122と、ステータ(図示せず)と、を有している。タービン122は出力ハブ14に連結されている。トランスミッションの入力軸(図示せず)が出力ハブ14にスプライン嵌合している。
【0034】
[ロックアップ装置13]
ロックアップ装置13は、クラッチ部や、油圧等によって作動するピストン等を有し、ロックアップオン状態と、ロックアップオフ状態と、を取り得る。ロックアップオン状態では、フロントカバー11に入力されたトルクは、トルクコンバータ本体12を介さずに、ロックアップ装置13を介して出力ハブ14に伝達される。一方、ロックアップオフ状態では、フロントカバー11に入力されたトルクは、トルクコンバータ本体12を介して出力ハブ14に伝達される。
【0035】
ロックアップ装置13は、入力側回転体131(入力部材の一例)と、ダンパ132と、トルク変動抑制装置10と、を有している。
【0036】
入力側回転体131は、軸方向に移動自在なピストンを含み、フロントカバー11側の側面に摩擦部材133が固定されている。この摩擦部材133がフロントカバー11に押し付けられることによって、フロントカバー11から入力側回転体131にトルクが伝達される。
【0037】
ダンパ132は、入力側回転体131と、後述するハブフランジ2との間に配置されている。ダンパ132は、複数のトーションスプリングを有しており、入力側回転体131とハブフランジ2とを周方向に弾性的に連結している。このダンパ132によって、入力側回転体131からハブフランジ2にトルクが伝達されるとともに、トルク変動が吸収、減衰される。
【0038】
[トルク変動抑制装置10]
図2はトルク変動抑制装置10の正面図、
図3は
図2のIII-III線断面図である。なお、
図2では、一方(手前側)のイナーシャリング3が取り外されている。
【0039】
図2~
図3に示すように、トルク変動抑制装置10は、ハブフランジ2(第1回転体の一例)、一対のイナーシャリング3(第2回転体の一例)、遠心子4、第1転動部材5、及びカム機構6を有している。
【0040】
<ハブフランジ2>
ハブフランジ2は、回転可能に配置される。ハブフランジ2は、入力側回転体131と軸方向に対向して配置されている。ハブフランジ2は、入力側回転体131と相対回転可能である。ハブフランジ2は、出力ハブ14に連結されている。すなわち、ハブフランジ2は、出力ハブ14と一体的に回転する。なお、ハブフランジ2は、出力ハブ14と一つの部材で構成されていてもよい。
【0041】
ハブフランジ2は、環状に形成されている。ハブフランジ2の内周部が出力ハブ14に連結されている。ハブフランジ2は、複数の収容部21を有している。本実施形態では、ハブフランジ2は6個の収容部21を有している。複数の収容部21は、周方向において互いに間隔をあけて配置されている。各収容部21は、ハブフランジ2の外周部に形成されている。各収容部21は、径方向外側に向かって開口する。収容部21は、所定の深さを有している。
【0042】
図4は、トルク変動抑制装置10の拡大図である。
図4に示すように、収容部21を画定する内壁面は、第1ガイド面211及び第2ガイド面212、及び底面213を有している。
【0043】
第1ガイド面211及び第2ガイド面212は、周方向(
図4の左右方向)を向いている。第1ガイド面211及び第2ガイド面212は、遠心子4を向いている。遠心子4がない場合、第1ガイド面211及び第2ガイド面212は、対向する。第1ガイド面211と第2ガイド面212とは、互いに略平行に延びている。第1及び第2ガイド面211,212は、平面である。
【0044】
底面213は、第1ガイド面211と第2ガイド面212とを連結している。底面213は、正面視(軸方向視)において、略円弧状である。底面213は、径方向外側を向いている。底面213は、遠心子4の外周面と対向している。
【0045】
<イナーシャリング3>
図3及び
図5に示すように、イナーシャリング3は、環状のプレートである。詳細には、イナーシャリング3は、連続した円環状に形成されている。イナーシャリング3は、トルク変動抑制装置10の質量体として機能する。
【0046】
一対のイナーシャリング3は、軸方向においてハブフランジ2を挟むように配置されている。一対のイナーシャリング3は、軸方向においてハブフランジ2の両側に所定の隙間をあけて配置されている。すなわち、ハブフランジ2と一対のイナーシャリング3とは、軸方向に並べて配置されている。イナーシャリング3の回転軸は、ハブフランジ2の回転軸と同じである。イナーシャリング3は、ハブフランジ2とともに回転可能で、かつハブフランジ2に対して相対回転可能である。
【0047】
イナーシャリング3は、複数の第2貫通孔31を有している。第2貫通孔31は、軸方向に延びている。第2貫通孔31は、イナーシャリング3を軸方向に貫通している。第2貫通孔31の径は、後述するカムフォロア62の小径部622の径よりも大きい。また、第2貫通孔31の径は、カムフォロア62の大径部621よりも小さい。
【0048】
一対のイナーシャリング3は、複数のリベット32によって固定されている。したがって、一対のイナーシャリング3は、互いに、軸方向、径方向、及び周方向に移動不能である。すなわち、一対のイナーシャリング3は、互いに一体的に回転する。
【0049】
イナーシャリング3は、複数の規制溝33を有している。規制溝33は、一対のイナーシャリング3のそれぞれに、同じ位置に同じ形状で形成されている。規制溝33は、径方向外側に膨らむ円弧状に形成されている。
【0050】
図2に示すように、一対のイナーシャリング3の間には、複数のイナーシャブロック34が配置されている。複数のイナーシャブロック34は、周方向において、互いに間隔をあけて配置されている。例えば、周方向において、イナーシャブロック34と遠心子4とが交互に配置されている。イナーシャブロック34は、一対のイナーシャリング3に固定されている。具体的には、イナーシャブロック34は、リベット32によって一対のイナーシャリング3に固定されている。なお、イナーシャブロック34は、遠心子4よりも厚い。
【0051】
<遠心子4>
遠心子4は、収容部21内に配置されている。遠心子4は、ハブフランジ2の回転によって遠心力を受けるように構成されている。遠心子4は、収容部21内において径方向に移動可能である。なお、遠心子4は、径方向に移動する際に自転するように構成されている。本実施形態では、遠心子4の全体が自転する。遠心子4の軸方向の移動は、一対のイナーシャリング3によって規制されている。
【0052】
図4に示すように、遠心子4は、円板状であり、中央部に第1貫通孔41を有する。すなわち、遠心子4は円筒状である。遠心子4は、ハブフランジ2よりも厚い。遠心子4は、一つの部材によって構成することができる。
【0053】
遠心子4は、第2ガイド面212と第1転動部材5とに接触している。このため、遠心子4は、周方向への移動が規制される。一方、遠心子4は径方向に移動可能である。遠心子4は、径方向に移動する際、収容部21の第2ガイド面212上を転動する。また、遠心子4は、径方向に移動する際、第1転動部材5を介して第1ガイド面211上を転動する。すなわち、遠心子4は、第1転動部材5の外周面上を転動する。
【0054】
遠心子4の外周面のうち、遠心子4が転動したときに第1転動部材5の外周面と転がり接触する面を第1接触面42aとする。また、遠心子4の外周面のうち、遠心子4が転動したときに第2ガイド面212と転がり接触する面を第2接触面42bとする。この第1接触面42a及び第2接触面42bは、軸方向視において円弧状である。
【0055】
第1貫通孔41は、軸方向に延びている。第1貫通孔41は、遠心子4を軸方向に貫通している。第1貫通孔41の径は、カムフォロア62の径よりも大きい。詳細には、第1貫通孔41の径は、カムフォロア62の大径部621の径よりも大きい。この第1貫通孔41を画定する内壁面の一部は、カム面61を構成する。
【0056】
<第1転動部材5>
第1転動部材5は、第1ガイド面211と遠心子4との間に配置されている。詳細には、第1転動部材5は、第1ガイド面211と遠心子4とによって挟まれている。第1転動部材5は、第1ガイド面211と遠心子4とに接触している。
【0057】
第1転動部材5の中心は、遠心子4の中心よりも径方向内側に位置している。第1転動部材5は、円柱状のコロとして構成されている。すなわち、第1転動部材5は、ベアリングではない。
【0058】
第1転動部材5は、大径部51と、一対の小径部52とを有している。大径部51と小径部52とは、互いの中心が一致している。大径部51は、小径部52よりも径が大きい。大径部51の直径は、規制溝33の幅よりも大きい。このため、第1転動部材5は、一対のイナーシャリング3によって軸方向に支持されている。
【0059】
各小径部52は、大径部51から軸方向の両側に突出している。小径部52の直径は、規制溝33の幅よりも小さい。小径部52は、イナーシャリング3の規制溝33内に配置されている。小径部52と規制溝33の内壁面との間には所定の隙間が設けられており、小径部52は規制溝33内をスムーズに移動することが可能である。このように小径部52が規制溝33内に配置されているため、停止時における第1転動部材5の径方向の移動を規制することができる。すなわち、第1転動部材5は、規制溝33によって支持されている。
【0060】
第1転動部材5は、一つの部材によって構成することができる。すなわち、第1転動部材5の大径部51と一対の小径部52とは一つの部材によって構成されている。なお、第1転動部材5は、直径が一定の円柱状であってもよい。また、第1転動部材5は、円筒状であってもよい。
【0061】
第1転動部材5は、遠心子4の自転によって第1ガイド面211上を転動するように構成されている。すなわち、遠心子4が自転することによって、第1転動部材5も自転する。なお、遠心子4の回転方向と第1転動部材5の回転方向とは逆となる。そして、第1転動部材5は、自転することによって、第1ガイド面211上を転動する。詳細には、第1転動部材5の大径部51が第1ガイド面211上を転動する。
【0062】
ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転方向の相対変位が(回転位相差)がない状態では、
図5に示すように、小径部52は規制溝33の長手方向(周方向)の略中央に位置している。そして、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差が生じた場合は、小径部52は規制溝33に沿って移動する。
【0063】
図6に示すように、第1ガイド面211と第2ガイド面212との距離Hは、遠心子4の直径D1と第1転動部材5の直径D2との合計よりも小さい。すなわち、H<D1+D2の式が成り立つ。これにより、トルク変動抑制装置10の動作中において、遠心子4は常時、第2ガイド面212と第1転動部材5とに接触している。
【0064】
第1転動部材5の直径D2は、遠心子4の外周面と第1ガイド面211との隙間よりも大きいため、第1転動部材5が径方向外側に飛び出すことが規制される。
【0065】
<カム機構6>
図4に示すように、カム機構6は、遠心子4に作用する遠心力を受けて、その遠心力をハブフランジ2とイナーシャリング3との回転位相差が小さくなる方向の周方向力に変換するように構成されている。なお、カム機構6は、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差が生じたときに機能する。
【0066】
カム機構6は、カム面61とカムフォロア62とを有している。カム面61は、遠心子4に形成されている。詳細には、カム面61は、遠心子4の第1貫通孔41の内壁面の一部である。カム面61は、カムフォロア62が当接する面であり、軸方向視において円弧状である。カム面61は、径方向外側を向いている。
【0067】
カムフォロア62は、カム面61と当接している。カムフォロア62は、遠心子4と一対のイナーシャリング3との間で力を伝達するように構成されている。詳細には、カムフォロア62は、第1貫通孔41内と第2貫通孔31内を延びている。カムフォロア62は、自転可能に、イナーシャリング3に取り付けられている。
【0068】
カムフォロア62は、第1貫通孔41のカム面61上を転動する。また、カムフォロア62は、第2貫通孔31の内壁面上を転動する。なお、カムフォロア62は、第2貫通孔31の内壁面のうち、径方向内側を向く面と当接している。すなわち、カムフォロア62は、カム面61と、第2貫通孔31の内壁面とによって挟まれている。
【0069】
詳細には、カムフォロア62は、径方向内側においてカム面61と当接し、径方向外側において第2貫通孔31の内壁面と当接している。これによって、カムフォロア62は、位置決めされている。また、このようにカムフォロア62がカム面61と第2貫通孔31の内壁面とによって挟まれているため、カムフォロア62は、遠心子4と一対のイナーシャリング3との間で力を伝達する。
【0070】
カムフォロア62は、円柱状のコロとして構成されている。すなわち、カムフォロア62はベアリングではない。カムフォロア62は、大径部621と、一対の小径部622とを有している。大径部621と小径部622とは、互いの中心が一致している。大径部621は、小径部622よりも径が大きい。大径部621は、第1貫通孔41よりも径が小さく、第2貫通孔31よりも径が大きい。大径部621は、カム面61上を転動する。
【0071】
各小径部622は、大径部621から軸方向の両側に突出している。小径部622は、第2貫通孔31の内壁面上を転動する。小径部622は、第2貫通孔31よりも径が小さい。カムフォロア62は、一つの部材によって構成することができる。すなわち、カムフォロア62の大径部621と一対の小径部622とは一つの部材によって構成されている。なお、カムフォロア62は、径が一定の円柱状であってもよい。また、カムフォロア62は、円筒状であってもよい。
【0072】
カムフォロア62とカム面61との接触、及びカムフォロア62と第2貫通孔31の内壁面との接触によって、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差が生じたときに、遠心子4に生じた遠心力は、回転位相差が小さくなるような周方向の力に変換される。
【0073】
<ストッパ機構>
トルク変動抑制装置10は、ストッパ機構8をさらに備えている。ストッパ機構8は、ハブフランジ2とイナーシャリング3との相対回転角度範囲を規制する。ストッパ機構8は、凸部81と凹部82とを有する。
【0074】
凸部81は、イナーシャブロック34から径方向内側に突出している。凹部82は、ハブフランジ2の外周面に形成されている。凸部81は、凹部82内に配置されている。この凸部81が凹部82の端面に当接することによって、ハブフランジ2とイナーシャリング3との相対回転角度範囲が規制される。
【0075】
[トルク変動抑制装置10の作動]
図7及び
図8を用いて、トルク変動抑制装置10の作動について説明する。
【0076】
ロックアップオン時には、フロントカバー11に伝達されたトルクは、入力側回転体131及びダンパ132を介してハブフランジ2に伝達される。
【0077】
トルク伝達時にトルク変動がない場合は、
図7に示すような状態で、ハブフランジ2及びイナーシャリング3は回転する。この状態では、カム機構6のカムフォロア62はカム面61のもっとも径方向内側の位置(周方向の中央位置)に当接する。また、この状態では、ハブフランジ2とイナーシャリング3との回転位相差は「0」である。
【0078】
前述のように、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間の周方向の相対変位量を、「回転位相差」と称しているが、これらは、
図7及び
図8では、遠心子4及びカム面61の周方向の中央位置と、第2貫通孔31の中心位置と、のずれを示すものである。
【0079】
ここで、トルクの伝達時にトルク変動が存在すると、
図8に示すように、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間には、回転位相差θが生じる。
【0080】
図8に示すように、ハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差θが生じた場合、カム機構6のカムフォロア62は、
図7に示す位置から
図8に示す位置まで移動する。このとき、カムフォロア62は、カム面61上を転動しながら相対的に左側に移動する。また、カムフォロア62は、第2貫通孔31の内壁面上も転動している。詳細には、カムフォロア62の大径部621がカム面61上を転動し、カムフォロア62の小径部622が第2貫通孔31の内壁面上を転動する。なお、カムフォロア62は、反時計回りに自転している。
【0081】
このカムフォロア62が左側に移動することによって、カムフォロア62がカム面61を介して遠心子4を径方向内側(
図7及び
図8の下側)に押圧し、遠心子4を径方向内側に移動させる。この結果、遠心子4は、
図7に示す位置から
図8に示す位置まで移動する。このとき、遠心子4は、第2ガイド面212上を転動する。遠心子4は、時計回りに自転している。なお、遠心子4が時計回りに自転することによって、第1転動部材5は反時計回りに自転する。そして、第1転動部材5は、第1ガイド面211上を転動して径方向内側に移動する。
【0082】
このように
図8の位置に移動した遠心子4には遠心力が作用しているので、遠心子4は径方向外側(
図8の上側)に移動する。詳細には、遠心子4は、第2ガイド面212上を転動して、径方向外側に移動する。なお、遠心子4は、反時計周りに自転する。このように遠心子4が反時計回りに自転することによって、第1転動部材5は時計回りに自転する。そして、第1ガイド面211上を転動して径方向外側に移動する。
【0083】
また、遠心子4に形成されたカム面61がカムフォロア62を介して、イナーシャリング3を
図8の右側に押圧し、イナーシャリング3を
図8の右側に移動させる。このとき、カムフォロア62の大径部621はカム面61上を転動し、カムフォロア62の小径部622は第2貫通孔31の内壁面上を転動する。なお、カムフォロア62は、時計回りに自転している。この結果、
図7の状態に戻る。
【0084】
なお、逆方向に回転位相差が生じた場合は、カムフォロア62がカム面61に沿って相対的に
図8の右側に移動するが、作動原理は同じである。このとき、遠心子4は、第1転動部材5を介して第1ガイド面211上を転動する。
【0085】
以上のように、トルク変動によってハブフランジ2とイナーシャリング3との間に回転位相差が生じると、遠心子4に作用する遠心力及びカム機構6の作用によって、ハブフランジ2は、両者の回転位相差を小さくする周方向の力を受ける。この力によって、トルク変動が抑制される。なお、カムフォロア62を介して、遠心子4とイナーシャリング3との間で力が伝達される。
【0086】
以上のトルク変動を抑制する力は、遠心力、すなわちハブフランジ2の回転数によって変化するし、回転位相差及びカム面61の形状によっても変化する。したがって、カム面61の形状を適宜設定することによって、トルク変動抑制装置10の特性を、エンジン仕様等に応じた最適な特性にすることができる。
【0087】
また、遠心子4は、第1ガイド面211又は第2ガイド面212上を間接的に又は直接的に転動することによって径方向に移動する。このため、遠心子4は、第1ガイド面211、又は第2ガイド面212上を摺動するものに比べて、スムーズに径方向に移動することができる。また、カムフォロア62は、カム面61上及び第2貫通孔31の内壁面上を転動している。このため、よりスムーズに遠心子4とイナーシャリング3との間で力を伝達することができる。
【0088】
[特性の例]
図9は、トルク変動抑制装置10の特性の一例を示す図である。横軸は回転数、縦軸はトルク変動(回転速度変動)である。特性Q1はトルク変動を抑制するための装置が設けられていない場合、特性Q2はカム機構を有さない従来のダイナミックダンパ装置が設けられた場合、特性Q3は本実施形態のトルク変動抑制装置10が設けられた場合を示している。
【0089】
この
図9から明らかなように、カム機構を有さないダイナミックダンパ装置が設けられた装置(特性Q2)では、特定の回転数域のみについてトルク変動を抑制することができる。一方、カム機構6を有する本実施形態(特性Q3)では、すべての回転数域においてトルク変動を抑制することができる。
【0090】
[変形例]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0091】
<変形例1>
遠心子4は、円板状でなくてもよい。例えば、遠心子4は、第1及び第2接触面42a、42b以外の部分は、正面視において円弧状に形成されていなくてもよい。
【0092】
<変形例2>
カムフォロア62は、軸受部材を介して、第2貫通孔31に取り付けられていてもよい。
【0093】
<変形例3>
上記実施形態では、遠心子4の全体が自転するように構成されているが、遠心子4の構成はこれに限定されず、遠心子4の一部が自転するように構成されていてもよい。例えば
図10に示すように、遠心子4は、遠心子本体部43、複数の第1回転部44a、及び複数の第2回転部44bを有している。なお、本変形例では、第1回転部44a及び第2回転部44bの数はそれぞれ2つである。
【0094】
遠心子本体部43は、周方向において第1端部431及び第2端部432を含む。第1端部431は第1ガイド面211側に配置され、第2端部432は第2ガイド面212側に配置される。遠心子本体部43は、一対のプレートによって構成されている。複数の第1回転部44a及び第2回転部44bは、一対のプレートによって軸方向において挟まれている。遠心子本体部43は、好ましくはハブフランジ2と接触していない。
【0095】
第1回転部44aは、遠心子本体部43の第1端部431に回転可能に取り付けられている。すなわち、第1回転部44aは、自転するように構成されている。第1回転部44aは、第1ガイド面211と間隔をあけて配置されている。
【0096】
第2回転部44bは、遠心子本体部43の第2端部432に回転可能に取り付けられている。すなわち、第2回転部44bは、自転するように構成されている。第2回転部44bは、第2ガイド面212と間隔をあけて配置されている。
【0097】
第1転動部材5aは、第1ガイド面211と遠心子4との間に配置されている。詳細には、第1転動部材5aは、第1ガイド面211と第1回転部44aとの間に配置されている。第1転動部材5aは、第1ガイド面211と第1回転部44aとに接触している。第1転動部材5aの直径は、第1回転部44aと第1ガイド面211との隙間よりも大きい。
【0098】
第1転動部材5aは、遠心子4の自転によって第1ガイド面211上を転動する。詳細には、第1転動部材5aは、第1回転部44aの自転によって第1ガイド面211上を転動する。
【0099】
第2転動部材5bは、第2ガイド面212と遠心子4との間に配置されている。詳細には、第2転動部材5bは、第2ガイド面212と第2回転部44bとの間に配置されている。第2転動部材5bは、第2ガイド面212と第2回転部44bとに接触している。第2転動部材5bの直径は、第2回転部44bと第2ガイド面212との隙間よりも大きい。
【0100】
第2転動部材5bは、遠心子4の自転によって第2ガイド面212上を転動する。詳細には、第2転動部材5bは、第2回転部44bの自転によって第2ガイド面212上を転動する。
【0101】
<変形例4>
上記実施形態では、遠心子4をハブフランジ2に設けたが、遠心子4をイナーシャリング3に設けてもよい。この場合、イナーシャリング3が本発明の第1回転体に相当し、ハブフランジ2が本発明の第2回転体に相当する。
【0102】
<変形例5>
上記実施形態では、第1回転体の一例としてハブフランジ2を例示しているが、第1回転体はこれに限定されない。例えば、トルク変動抑制装置を本実施形態のようにトルクコンバータに取り付ける場合、トルクコンバータ100のフロントカバー11又は入力側回転体131などを第1回転体とすることができる。
【0103】
<変形例6>
上記実施形態では、トルク変動抑制装置10を、トルクコンバータ100に取り付けているが、クラッチ装置などの他の動力伝達装置にトルク変動抑制装置10を取り付けることもできる。
【0104】
例えば、
図11に示すように、ダンパ装置101にトルク変動抑制装置10を取り付けることができる。このダンパ装置101は、例えば、ハイブリッド車に搭載される。ダンパ装置101は、入力部材141と、出力部材142と、ダンパ143と、トルク変動抑制装置10と、を備えている。入力部材141には駆動源からのトルクが入力される。ダンパ143は、入力部材141と出力部材142との間に配置されている。出力部材142は、ダンパ143を介して入力部材141からのトルクが伝達される。トルク変動抑制装置10は、例えば出力部材142に取り付けられている。
【0105】
<変形例7>
図12は、一方のイナーシャリング3、遠心子4、及び第1転動部材5を取り外した状態におけるトルク変動抑制装置1
0の拡大正面図である。
図12に示すように、収容部21は、第1ガイド面211、第2ガイド面212、底面213、及び連結面214を有している。
【0106】
連結面214は、第1ガイド面211と底面213とを連結している。連結面214は、周方向且つ径方向を向いている。連結面214は、湾曲面である。詳細には、連結面214は、凹状の湾曲面である。連結面214は、軸方向視において、円弧状である。連結面214の曲率半径は、第1転動部材5の半径以上とすることが好ましい。なお、
図13に示すように、連結面214は、平面であってもよい。
【0107】
この連結面214は第1転動部材5の径方向内側に位置するため、第1転動部材5が自重で径方向内側に落下した場合の落下音の発生を抑制することができる。なお、変形例7において、イナーシャリング3に規制溝33は形成されていない。
【0108】
<変形例8>
上記実施形態では、遠心子4の第1貫通孔41は軸方向視において真円であるが、第1貫通孔41の形状はこれに限定されない。例えば、
図14に示すように、遠心子4の第1貫通孔41は、軸方向視において真円でなくてもよい。以下、詳細に説明する。
【0109】
図14に示すように、第1貫通孔41の内壁面は、カム面61を構成する。カム面61は、径方向外側を向いている。トルク変動抑制装置10の作動時に遠心子4が径方向外側に移動することによって、カム面61は、カムフォロア62と当接する。詳細には、カム面61は、カムフォロア62の大径部621と当接する。
【0110】
カム面61は、第1領域611と、第2領域612とを有する。第1領域611は、遠心子4が第1転動部材5を介して第1ガイド面211上を転動するときにカムフォロア62と当接する領域である。例えば、イナーシャリング3がハブフランジ2に対して時計回りに相対回転すると、第1領域611はカムフォロア62と当接する。すなわち、第1領域611は、カム面61の最も径方向内側の部分から第1ガイド面211側(
図14の右側)の領域である。
【0111】
第2領域612は、遠心子4が第2ガイド面212上を転動するときにカムフォロア62と当接する領域である。例えば、イナーシャリング3がハブフランジ2に対して反時計回りに相対回転すると、第2領域612はカムフォロア62と当接する。すなわち、第2領域612は、カム面61の最も径方向内側の部分から第2ガイド面212側(
図14の左側)の領域である。
【0112】
第1領域611は、第2領域612と異なる曲面形状を有している。第1領域611及び第2領域612は、軸方向視において円弧状である。本変形例では、第1領域611は、第2領域612の曲率半径よりも小さい曲率半径を有している。
【0113】
なお、本変形例では、軸方向視において、第1貫通孔41の右半分は半円形状であり、第1貫通孔41の左半分も半円形状である。軸方向視において、第1貫通孔41の右半分を構成する半円は、第1貫通孔41の左半分を構成する半円の半径よりも、小さい半径を有する。すなわち、第1貫通孔41は、軸方向視において、半径の異なる二つの半円によって構成されている。
【0114】
第1領域611と第2領域612との境界は、最も径方向内側に位置している部分である。ハブフランジ2とイナーシャリング3とが互いに相対回転せずに一体回転しているとき、すなわち、ハブフランジ2とイナーシャリング3との回転位相差θがゼロのときに、第1領域611と第2領域612との境界がカムフォロア62と当接している。
【0115】
なお、このように、第1領域611と第2領域612との境界がカムフォロア62と当接しているような遠心子4の状態を、中立状態と称する。すなわち、遠心子4が中立状態にあるとき、第1領域611と第2領域612との境界がカムフォロア62と当接する。
【0116】
図15は、遠心子4、第1転動部材5、及びカムフォロア62を取り除いた状態のトルク変動抑制装置の正面図である。
図15に示すように、第2貫通孔31も、軸方向視において真円ではない形状とすることができる。
【0117】
第2貫通孔31の内壁面は、当接面30を構成する。当接面30は、径方向内側を向いている。当接面30は、カムフォロア62と当接する。なお、当接面30は、トルク変動抑制装置10の作動時及び停止時において、カムフォロア62と当接する。詳細には、当接面30は、カムフォロア62の小径部622と当接する。
【0118】
当接面30は、第3領域301と、第4領域302とを有する。第3領域301は、遠心子4が第1転動部材5を介して第1ガイド面211上を転動するときにカムフォロア62と当接する領域である。例えば、イナーシャリング3がハブフランジ2に対して時計回りに相対回転すると、第3領域301はカムフォロア62と当接する。すなわち、第3領域301は、当接面30の最も径方向外側の部分から第2ガイド面212側(
図15の左側)の領域である。
【0119】
第4領域302は、遠心子4が第2ガイド面212上を転動するときにカムフォロア62と当接する領域である。例えば、イナーシャリング3がハブフランジ2に対して反時計回りに相対回転すると、第4領域302はカムフォロア62と当接する。すなわち、第4領域302は、当接面30の最も径方向外側の部分から第1ガイド面211側(
図15の右側)の領域である。
【0120】
第3領域301は、第4領域302と異なる曲面形状を有している。第3領域301及び第4領域302は、軸方向視において円弧状である。本変形例では、第3領域301は、第4領域302の曲率半径よりも大きい曲率半径を有している。
【0121】
なお、本変形例では、軸方向視において、第2貫通孔31の右半分は半円形状であり、第2貫通孔31の左半分も半円形状である。軸方向視において、第2貫通孔31の右半分を構成する半円は、第2貫通孔31の左半分を構成する半円の半径よりも、小さい半径を有する。すなわち、第2貫通孔31は、軸方向視において、半径の異なる二つの半円によって構成されている。
【0122】
第3領域301と第4領域302との境界は、最も径方向外側に位置している部分である。遠心子4が中立状態にあるとき、遠心子4は、第3領域301と第4領域302との境界に当接している。
【0123】
図14に示すように、トルク変動抑制装置10は、状態維持機構7を備えている。ハブフランジ2とイナーシャリング3とが一体的に回転しているとき、すなわち、回転位相差θがゼロのとき、状態維持機構7は、遠心子4の中立状態を維持するように構成されている。このため、回転位相差θがゼロのとき、第1領域611と第2領域612との境界はカムフォロア62と接触している。
【0124】
状態維持機構7は、第1係合部71と、第2係合部72とを有している。第1係合部71は、ハブフランジ2に形成されている。第1係合部71は、ハブフランジ2から遠心子4に向かって突出している。
【0125】
第2係合部72は、遠心子4に形成されている。第2係合部72は、遠心子4に形成された凹部である。第2係合部72は、第1係合部71と係合する。詳細には、第1係合部71が第2係合部72内に配置されている。このため、第1係合部71と第2係合部72とが互いに当接し、その結果、ハブフランジ2とイナーシャリング3とが相対回転しないときに遠心子4が自転することが規制される。
【0126】
次に、トルク変動抑制装置10の動作について説明する。まず、
図16に示すように、ハブフランジ2とイナーシャリング3とが相対回転していないとき、すなわち、回転位相差θがゼロのときは、遠心子4は中立状態にある。このため、カムフォロア62は、第1領域611と第2領域612との境界と当接している。また、カムフォロア62は、第3領域301と第4領域302との境界と当接している。遠心子4は、自転していない。
【0127】
図17に示すように、イナーシャリング3がハブフランジ2に対して反時計回りに相対回転したとき、遠心子4は第2ガイド面212上を転動する。なお、遠心子4は、時計回りに転動する。
【0128】
カムフォロア62は、カム面61のうち、第2領域612上を転動する。また、カムフォロア62は、当接面30のうち、第4領域302上を転動する。このように、カムフォロア62は、第2領域612と第4領域302とによって挟まれている。なお、カムフォロア62は、反時計回りに転動する。
【0129】
図18に示すように、イナーシャリング3がハブフランジ2に対して時計回りに相対回転したとき、遠心子4は第1転動部材5を介して第1ガイド面211上を転動する。なお、遠心子4は、時計回りに転動する。
【0130】
カムフォロア62は、カム面61のうち、第1領域611上を転動する。また、カムフォロア62は、当接面30のうち、第3領域301上を転動する。このように、カムフォロア62は、第1領域611と第3領域301とによって挟まれている。なお、カムフォロア62は、時計回りに転動する。
【0131】
ここで、遠心子4は、第1ガイド面211上を直接転動するのではなく、第1転動部材5を介して第1ガイド面211上を転動している。このため、第1領域611の曲率半径を第2領域612の曲率半径と同じにすると、第1接線と第2接線とのなす角度が適切な範囲から外れてしまうおそれがある。この結果、カムフォロア62を当接面30とカム面61とでしっかりと挟み込むことができないという問題が生じるおそれがある。なお、第1接線とは、カムフォロア62とカム面61との接触点における接線を意味し、第2接線とは、カムフォロア62と当接面30との接触点における接線を意味する。
【0132】
これに対して、本変形例では、第1領域611が第2領域612と異なる曲率半径を有するため、具体的には、第1領域611の曲率半径を第2領域612の曲率半径よりも小さくしているため、第1接線と第2接線とがなす角度を適切な範囲内とし、カム面61と当接面30とによってカムフォロア62をしっかりと挟み込むことができる。
【0133】
また、本変形例では、第3領域301が第4領域302と異なる曲率半径を有するため、具体的には、第3領域301の曲率半径を第4領域302の曲率半径よりも大きくしているため、第1接線と第2接線とがなす角度を適切な範囲内とし、カム面61と当接面30とによってカムフォロア62をしっかりと挟み込むことができる。
【0134】
なお、
図19に示すように、第3領域301と第4領域302とが異なる曲面形状を有する一方で、第1領域611と第2領域612とは同じ曲面形状であってもよい。また、
図20に示すように、第1領域611と第2領域612とが異なる曲面形状を有する一方で、第3領域301と第4領域302とは同じ曲面形状であってもよい。
【符号の説明】
【0135】
10 トルク変動抑制装置
100 トルクコンバータ
2 ハブフランジ
21 収容部
211 第1ガイド面
212 第2ガイド面
213 底面
214 連結面
3 イナーシャリング
31 第2貫通孔
33 規制溝
4 遠心子
41 第1貫通孔
43 遠心子本体部
44a 第1回転部
44b 第2回転部
5 第1転動部材
5a 第1転動部材
5b 第2転動部材
6 カム機構
61 カム面
62 カムフォロア