(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1226 20160101AFI20240718BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240718BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240718BHJP
C25B 9/63 20210101ALI20240718BHJP
C25B 11/03 20210101ALI20240718BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240718BHJP
【FI】
H01M8/1226
H01M4/86 U
C25B9/00 A
C25B9/63
C25B11/03
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
(21)【出願番号】P 2021023318
(22)【出願日】2021-02-17
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸輔
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/043328(WO,A1)
【文献】特開2011-014461(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0062317(US,A1)
【文献】特開2015-167128(JP,A)
【文献】国際公開第2016/185594(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
C25B 9/00- 9/77
C25B 11/00-11/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、
前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する燃料極および空気極と、
前記燃料極と前記空気極との一方である特定電極に対して前記電解質層とは反対側に位置する金属支持体であって、前記第1の方向視で前記特定電極と重なる位置において前記第1の方向に貫通する複数の貫通孔を有しており、かつ、前記複数の貫通孔の少なくとも1つにおいて、前記金属支持体の前記貫通孔を画定する面に前記特定電極が接合されている金属支持体と、を備える電気化学反応単セルにおいて、
前記複数の貫通孔を、1つまたは複数の前記貫通孔により構成される第1の貫通孔群と、1つまたは複数の前記貫通孔により構成される第2の貫通孔群とに分けたときに、
前記第1の貫通孔群に含まれる前記貫通孔における前記特定電極と前記金属支持体の前記貫通孔を画定する面とが接合される接合部の前記第1の方向の長さは、前記第2の貫通孔群に含まれる前記貫通孔における前記特定電極と前記金属支持体の前記貫通孔を画定する面とが接合される接合部の前記第1の方向の長さよりも短
く、
前記第1の貫通孔群と、前記第2の貫通孔群とが、互いに異なる領域に配置されていることを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応単セルであって、
前記第2の貫通孔群に含まれる前記貫通孔の個数は、前記第1の貫通孔群に含まれる前記貫通孔の個数よりも少ない、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項3】
請求項1に記載の電気化学反応単セルであって、
前記第1の貫通孔群に含まれる前記貫通孔の個数は、前記第2の貫通孔群に含まれる前記貫通孔の個数よりも少ない、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項4】
電解質層と、
前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する燃料極および空気極と、
前記燃料極と前記空気極との一方である特定電極に対して前記電解質層とは反対側に位置する金属支持体であって、前記第1の方向視で前記特定電極と重なる位置において前記第1の方向に貫通する複数の貫通孔を有しており、かつ、前記複数の貫通孔の少なくとも1つにおいて、前記金属支持体の前記貫通孔を画定する面に前記特定電極が接合されている金属支持体と、を備える電気化学反応単セルにおいて、
前記複数の貫通孔を、1つまたは複数の前記貫通孔により構成される第1の貫通孔群と、1つまたは複数の前記貫通孔により構成される第2の貫通孔群とに分けたときに、
前記第1の貫通孔群に含まれる前記貫通孔における前記特定電極と前記金属支持体の前記貫通孔を画定する面とが接合される接合部の前記第1の方向の長さは、前記第2の貫通孔群に含まれる前記貫通孔における前記特定電極と前記金属支持体の前記貫通孔を画定する面とが接合される接合部の前記第1の方向の長さよりも短く、
前記特定電極のうち、前記第1の貫通孔群と前記第2の貫通孔群との一方に含まれる前記貫通孔内に位置する第1の部分の気孔率は、前記特定電極のうち、前記第1の貫通孔群と前記第2の貫通孔群との他方に含まれる前記貫通孔内に位置する第2の部分の気孔率よりも大きい、
ことを特徴とする電気化学反応単セル。
【請求項5】
電解質層と、
前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する燃料極および空気極と、
前記燃料極と前記空気極との一方である特定電極に対して前記電解質層とは反対側に位置する金属支持体であって、前記第1の方向視で前記特定電極と重なる位置において前記第1の方向に貫通する複数の貫通孔を有しており、かつ、前記複数の貫通孔の少なくとも1つにおいて、前記金属支持体の前記貫通孔を画定する面に前記特定電極が接合されている金属支持体と、を備える電気化学反応単セルにおいて、
前記複数の貫通孔を、1つまたは複数の前記貫通孔により構成される第1の貫通孔群と、1つまたは複数の前記貫通孔により構成される第2の貫通孔群とに分けたときに、
前記第1の貫通孔群に含まれる前記貫通孔における前記特定電極と前記金属支持体の前記貫通孔を画定する面とが接合される接合部の前記第1の方向の長さは、前記第2の貫通孔群に含まれる前記貫通孔における前記特定電極と前記金属支持体の前記貫通孔を画定する面とが接合される接合部の前記第1の方向の長さよりも短い電気化学反応単セルと、前記特定電極が面するガス室とをそれぞれ有し、前記第1の方向に並べて配置された複数の電気化学反応単位を備える電気化学反応セルスタックであって、
少なくとも1つの前記電気化学反応単位において、前記第1の貫通孔群は、前記第2の貫通孔群に対して、前記ガス室におけるガス流れの上流側に位置する、
ことを特徴とする電気化学反応セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という。)が知られている。SOFCの構成単位である燃料電池単セル(以下、単に「単セル」という。)は、固体酸化物を含む電解質層と、電解質層を挟んで所定の方向(以下、「第1の方向」という。)に互いに対向する燃料極および空気極とを備える。
【0003】
単セルの一形態として、金属支持型(メタルサポート型)の単セルが知られている。金属支持型の単セルは、燃料極と空気極との一方(以下、「特定電極」という。)に対して電解質層とは反対側に配置された金属支持体を備え、金属支持体によって単セルにおける他の部分(電解質層等)を支持する。一般に、金属支持型の単セルは、他のタイプ(例えば燃料極支持型)の単セルと比較して、熱衝撃による割れが生じにくく、また起動性が高い。
【0004】
金属支持型の単セルでは、金属支持体に、発電に供される反応ガスを通過させるために、金属支持体の一方の表面から他方の表面まで貫通する複数の貫通孔が形成されている。従来、金属支持体に含まれる全ての貫通孔において、当該貫通孔の全体に渡って燃料極が充填されている構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特定電極(例えば燃料極)と金属支持体の上記貫通孔を画定する面とが接合される接合部の第1の方向(燃料極と空気極との対向方向)の長さ(以下、単に「接合部の長さ」という。)が長いほど、特定電極と金属支持体との接合強度は向上するが、当該貫通孔を通るガスの流通性が低下し、これにより単セルの性能は低下する。
【0007】
従来の金属支持型の単セルでは、上述したように、金属支持体に含まれる全ての貫通孔おいて、当該貫通孔の全体に渡って特定電極が充填されているため、全ての貫通孔において、接合部の第1の方向の長さは、均一であり、かつ、最大である。そのため、この単セルでは、特定電極と金属支持体との接合強度は特に優れるが、当該貫通孔を通るガスの流通性が特に悪化し、これにより単セルの性能が特に低下するという欠点がある。
【0008】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という。)の構成単位である電解単セルにも共通の問題である。なお、本明細書では、燃料電池単セルと電解単セルとをまとめて、電気化学反応単セルと呼ぶ。
【0009】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本明細書に開示される電気化学反応単セルは、電解質層と、前記電解質層を挟んで第1の方向に互いに対向する燃料極および空気極と、前記燃料極と前記空気極との一方である特定電極に対して前記電解質層とは反対側に位置する金属支持体であって、前記第1の方向視で前記特定電極と重なる位置において前記第1の方向に貫通する複数の貫通孔を有しており、かつ、前記複数の貫通孔の少なくとも1つにおいて、前記金属支持体の前記貫通孔を画定する面に前記特定電極が接合されている金属支持体と、を備える電気化学反応単セルにおいて、前記複数の貫通孔を、1つまたは複数の前記貫通孔により構成される第1の貫通孔群と、1つまたは複数の前記貫通孔により構成される第2の貫通孔群とに分けたときに、前記第1の貫通孔群に含まれる前記貫通孔における前記特定電極と前記金属支持体の前記貫通孔を画定する面とが接合される接合部の前記第1の方向の長さは、前記第2の貫通孔群に含まれる前記貫通孔における前記特定電極と前記金属支持体の前記貫通孔を画定する面とが接合される接合部の前記第1の方向の長さよりも短い。
【0012】
本電気化学反応単セルにおいては、上述したように、第1の貫通孔群に含まれる貫通孔における特定電極と金属支持体の貫通孔を画定する面とが接合される接合部の第1の方向の長さは、第2の貫通孔群に含まれる貫通孔における特定電極と金属支持体の貫通孔を画定する面とが接合される接合部の第1の方向の長さよりも短い。そのため、本電気化学反応単セルによれば、第1の貫通孔群における接合部の長さと第2の貫通孔群における接合部の長さとが同等である構成と比較して、第1の貫通孔群における接合部の長さが短い分だけ、貫通孔を通るガスの流通性を向上させることができ、これにより上記電気化学反応単セルの性能を向上させることができる。
【0013】
(2)上記電気化学反応単セルにおいて、前記第2の貫通孔群に含まれる前記貫通孔の個数は、前記第1の貫通孔群に含まれる前記貫通孔の個数よりも少ない構成としてもよい。本電気化学反応単セルによれば、これらの個数が同一である構成と比較して、貫通孔群におけるガスの流通性を向上させることができる。
【0014】
(3)上記電気化学反応単セルにおいて、前記第1の貫通孔群に含まれる前記貫通孔の個数は、前記第2の貫通孔群に含まれる前記貫通孔の個数よりも少ない構成としてもよい。本電気化学反応単セルによれば、これらの個数が同一である構成と比較して、特定電極と金属支持体との接合強度を向上させることができる。
【0015】
(4)上記電気化学反応単セルにおいて、前記特定電極のうち、前記第1の貫通孔群と前記第2の貫通孔群との一方(以下、「特定貫通孔群」という。)に含まれる前記貫通孔内に位置する第1の部分の気孔率は、前記特定電極のうち、前記第1の貫通孔群と前記第2の貫通孔群との他方に含まれる前記貫通孔内に位置する第2の部分の気孔率よりも大きい構成としてもよい。本電気化学反応単セルによれば、特定電極の第1の部分の気孔率が第2の部分の気孔率よりも大きいことにより、これらの気孔率が同等である構成と比較して、特定貫通孔群に含まれる貫通孔におけるガスの流通性を向上させることができる。
【0016】
(5)本明細書に開示される電気化学反応セルスタックは、上記(1)から(4)までのいずれか一つに記載の電気化学反応単セルと、前記特定電極が面するガス室とをそれぞれ有し、前記第1の方向に並べて配置された複数の電気化学反応単位を備え、少なくとも1つの前記電気化学反応単位において、前記第1の貫通孔群は、前記第2の貫通孔群に対して、前記ガス室におけるガス流れの上流側に位置する。
【0017】
金属支持体における貫通孔の位置によって、その貫通孔における上記接合部(特定電極と金属支持体の貫通孔を画定する面とが接合される接合部)の長さによる上記電気化学反応単セルの性能への影響度は異なる。すなわち、ある領域(例えば、ガス流れの上流側)に位置する貫通孔における上記接合部の長さは、他の領域(例えば、ガス流れの下流側)に位置する貫通孔における上記接合部の長さと比較して、上記電気化学反応単セルの性能への影響度が大きい。
【0018】
これに鑑み、本電気化学反応セルスタックにおいては、上述したように、第1の貫通孔群に含まれる貫通孔における特定電極と金属支持体の貫通孔を画定する面とが接合される接合部の第1の方向の長さは、第2の貫通孔群に含まれる貫通孔における特定電極と金属支持体の貫通孔を画定する面とが接合される接合部の第1の方向の長さよりも短い。上記接合部の長さによる上記電気化学反応単セルの性能への影響度が比較的大きい領域(例えば、ガス流れの上流側)に第1の貫通孔群が位置し、かつ、当該影響度が比較的小さい領域(例えば、ガス流れの下流側)に、上記接合部の長さが比較的長い第2の貫通孔群が位置することにより、従来よりも効率的に、特定電極と金属支持体との接合強度と、上記電気化学反応単セルの性能(ひいては、上記電気化学反応セルスタックの性能)との両方を確保することができる。
【0019】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応単セル(燃料電池単セルまたは電解単セル)、複数の電気化学反応単セルを備える電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図
【
図2】
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
【
図3】
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図
【
図4】
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
【
図5】
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図
【
図6】本実施形態における単セル110の詳細構成を示す説明図
【
図7】本実施形態における単セル110の詳細構成を示す説明図
【
図8】本実施形態における単セル110の詳細構成を示す説明図
【
図9】変形例における単セル110Aの詳細構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.実施形態:
A-1.燃料電池スタック100の構成:
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、
図2は、
図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、
図3は、
図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
図4以降についても同様である。
【0022】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)燃料電池発電単位(以下、単に「発電単位」という。)102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態ではZ軸方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。上記配列方向(Z軸方向)は、特許請求の範囲における第1の方向の一例である。発電単位102は、特許請求の範囲における電気化学反応単位の一例である。
【0023】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ軸方向回りの周縁部には、Z軸方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士がZ軸方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたってZ軸方向に延びる貫通孔108を構成している。以下の説明では、貫通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、貫通孔108と呼ぶ場合がある。
【0024】
各貫通孔108にはZ軸方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、
図2および
図3に示すように、ナット24と各エンドプレート104,106(または後述するガス通路部材27)との間には、絶縁シート26が介在している。
【0025】
各ボルト22の軸部の外周面と各貫通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。
図1および
図2に示すように、1つのボルト22(ボルト22A)と当該ボルト22Aが挿通された貫通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOG(例えば空気)が導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102の空気室166に供給するガス流路である空気極側ガス供給マニホールド161として機能し、他の1つのボルト22(ボルト22B)と当該ボルト22Bが挿通された貫通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する空気極側ガス排出マニホールド162として機能する。また、
図1および
図3に示すように、他の1つのボルト22(ボルト22D)と当該ボルト22Dが挿通された貫通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFG(例えば水素リッチなガス)が導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102の燃料室176に供給する燃料極側ガス供給マニホールド171として機能し、他の1つのボルト22(ボルト22E)と当該ボルト22Eが挿通された貫通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料極側ガス排出マニホールド172として機能する。
【0026】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の本体部28の孔は、各ガス通路部材27の設置位置に設けられた各マニホールド161,162,171,172に連通している。
【0027】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、Z軸方向に略直交する平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、当該発電単位102と電気的に接続されている。他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置され、当該発電単位102と電気的に接続されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0028】
(発電単位102の構成)
図4は、
図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、
図5は、
図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0029】
図4および
図5に示すように、発電単位102は、燃料電池単セル(以下、「単セル」という。)110と、セパレータ120と、空気極側フレーム部材130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム部材140と、燃料極側集電体144と、一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム部材130、燃料極側フレーム部材140、インターコネクタ150の周縁部には、上述したボルト22が挿通される貫通孔108に対応する孔が形成されている。
【0030】
インターコネクタ150は、Z軸方向に略直交する平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(
図2および
図3参照)。
【0031】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んでZ軸方向に互いに対向する空気極114および燃料極116とを備える。単セル110は、さらに、燃料極116(より詳細には、後述する燃料極116の基部117)に対して電解質層112とは反対側(下側)に配置された金属支持体180を備える。
【0032】
金属支持体180は、Z軸方向に略直交する平板形状の導電性部材であり、金属(例えばステンレス)により形成されている。金属支持体180は、単セル110における他の構成要素(電解質層112等)を支持している。このように、本実施形態の単セル110は、金属支持体180によって単セル110の機械的強度を確保する、いわゆる金属支持型(メタルサポート型)の単セルである。金属支持型の単セルは、他のタイプ(例えば燃料極支持型)の単セルと比較して、熱衝撃による割れが生じにくく、また起動性が高い。後述するように、金属支持体180には、燃料ガスFGを通過させるための複数の貫通孔50が形成されている(
図6参照)。
【0033】
電解質層112は、Z軸方向に略直交する平板形状部材であり、緻密な層である。本実施形態では、電解質層112は、燃料極116における上側の表面と、金属支持体180における上側の表面の内、燃料極116に覆われていない領域とを連続的に覆うように形成されている。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)等の固体酸化物により形成されている。このように、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。空気極114は、Z軸方向に略直交する平板形状部材であり、多孔質な層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物))により形成されている。燃料極116は、Z軸方向に略直交する平板形状部材であり、多孔質な層である。燃料極116は、例えば、Niと酸化物イオン伝導性セラミックス粒子(例えば、YSZ)とからなるサーメットにより形成されている。本実施形態では、燃料極116は、特許請求の範囲における特定電極に相当する。
【0034】
セパレータ120は、中央付近にZ軸方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えばステンレスにより形成されている。セパレータ120における孔121を取り囲む部分は、例えばロウ材を含む接合部124により、単セル110(電解質層112)の周縁部と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画される。
【0035】
空気極側フレーム部材130は、中央付近にZ軸方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えばマイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム部材130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム部材130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。空気極側フレーム部材130には、空気極側ガス供給マニホールド161と空気室166とを連通する空気極側ガス供給連通流路132と、空気室166と空気極側ガス排出マニホールド162とを連通する空気極側ガス排出連通流路133とが形成されている。
【0036】
燃料極側フレーム部材140は、中央付近にZ軸方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えばステンレスにより形成されている。燃料極側フレーム部材140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム部材140には、燃料極側ガス供給マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料極側ガス供給連通流路142と、燃料室176と燃料極側ガス排出マニホールド172とを連通する燃料極側ガス排出連通流路143とが形成されている。
【0037】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置された複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えばステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114とインターコネクタ150とを電気的に接続する。ただし、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、空気極114と上側のエンドプレート104とを電気的に接続する(
図2および
図3参照)。なお、空気極側集電体134とインターコネクタ150とが一体の部材として構成されていてもよい。
【0038】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置された複数の略四角柱状の集電体要素145から構成されており、例えばステンレスにより形成されている。燃料極側集電体144は、金属支持体180とインターコネクタ150とを電気的に接続する。ただし、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における燃料極側集電体144は、金属支持体180と下側のエンドプレート106とを電気的に接続する(
図2および
図3参照)。なお、燃料極側集電体144とインターコネクタ150とが一体の部材として構成されていてもよい。
【0039】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および
図4に示すように、酸化剤ガスOGは、空気極側ガス供給マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から、当該ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して空気極側ガス供給マニホールド161に供給され、空気極側ガス供給マニホールド161から各発電単位102の空気極側ガス供給連通流路132を介して、空気室166に供給される。また、
図3および
図5に示すように、燃料ガスFGは、燃料極側ガス供給マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から、当該ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料極側ガス供給マニホールド171に供給され、燃料極側ガス供給マニホールド171から各発電単位102の燃料極側ガス供給連通流路142を介して、燃料室176に供給される。
【0040】
各発電単位102において、空気室166に供給された酸化剤ガスOGが多孔質な空気極114内に進入し、かつ、燃料室176に供給された燃料ガスFGが金属支持体180に形成された複数の貫通孔50を通って多孔質な燃料極116内に進入すると、単セル110において酸化剤ガスOGに含まれる酸素と燃料ガスFGに含まれる水素との電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は、空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は、金属支持体180および燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0041】
図2および
図4に示すように、各発電単位102の空気室166から空気極側ガス排出連通流路133を介して空気極側ガス排出マニホールド162に排出された酸化剤オフガスOOGは、空気極側ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)から燃料電池スタック100の外部に排出される。また、
図3および
図5に示すように、各発電単位102の燃料室176から燃料極側ガス排出連通流路143を介して燃料極側ガス排出マニホールド172に排出された燃料オフガスFOGは、燃料極側ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)から燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0042】
A-3.単セル110の詳細構成:
図6から
図8までは、本実施形態における単セル110の詳細構成を示す説明図である。
図6には、
図5のX1部(後述する第1の貫通孔群G1が位置する領域周辺)における単セル110のYZ断面構成が拡大して示されており、
図7には、
図5のX2部(後述する第2の貫通孔群G2が位置する領域周辺)における単セル110のYZ断面構成が拡大して示されている。なお、
図6および
図7では、インターコネクタ150の図示が省略されている。
図8には、金属支持体180のXY平面構成が模式的に示されている。
【0043】
図6および
図7に示すように、本実施形態における単セル110では、金属支持体180に複数の貫通孔50が形成されている。金属支持体180において、各貫通孔50は、燃料極116(より詳細には、燃料極116における電解質層112に近い側の一部分である基部117)に接する、電解質層112側の上面S11から、上面S11とは反対側の下面S22まで貫通している。このことから、各貫通孔50はZ軸方向に貫通する孔であるといえる。
【0044】
本実施形態では、金属支持体180は、2枚の板状部材(第1の金属部材181および第2の金属部材182)がZ軸方向に積層された構成を有している。第2の金属部材182は、第1の金属部材181の下側に配置されており、例えば溶接によって第1の金属部材181と接合されている。本実施形態では、第1の金属部材181の厚さと第2の金属部材182の厚さとは、略同一である。
【0045】
金属支持体180に形成された各貫通孔50は、金属支持体180の上面S11における開口53を含む第1の部分51を有している。各貫通孔50の第1の部分51は、金属支持体180を構成する第1の金属部材181に形成されている。各第1の部分51は、第1の金属部材181における燃料極116に接する上面S11から、上面S11とは反対側の下面S12まで貫通している。
【0046】
また、金属支持体180に形成された各貫通孔50は、第1の部分51に加えて、第1の部分51に連通する第2の部分52を有している。第2の部分52は、金属支持体180の下面(後述する第2の金属部材182の下面S22)における開口54を含む部分である。各第2の部分52は、第2の金属部材182における第1の金属部材181に接する上面S21から、上面S21とは反対側の下面S22まで貫通している。すなわち、本実施形態では、各貫通孔50は、第1の部分51と第2の部分52とから構成されている。本実施形態では、各貫通孔50において、第2の部分52は、Z軸方向視における輪郭線が第1の部分51の輪郭線と重なるように位置している。
【0047】
図8に示すように、金属支持体180に形成された複数(本実施形態では192個)の貫通孔50は、複数(本実施形態では128個)の貫通孔50により構成される第1の貫通孔群G1と、複数(本実施形態では64個)の貫通孔50により構成される第2の貫通孔群G2とにより構成されている。このことから、本実施形態では、第2の貫通孔群G2に含まれる貫通孔50の個数は、第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50の個数よりも少ないといえる。
【0048】
本実施形態では、第1の貫通孔群G1を構成する複数の貫通孔50は、X軸方向に16個かつY軸方向に8個ずつ、格子点上に並んでいる。X軸方向に隣り合う2つの貫通孔50間の間隔は略一定であり、Y軸方向に隣り合う2つの貫通孔50間の間隔も略一定である。第2の貫通孔群G2を構成する複数の貫通孔50は、X軸方向に16個かつY軸方向に4個ずつ、格子点上に並んでいる。
【0049】
本実施形態では、第1の貫通孔群G1は、第2の貫通孔群G2に対して、燃料室176における燃料ガスFGの流れの上流側(Y軸正方向側)に位置している。これは、下記の条件(1)から条件(3)までの少なくとも1つを満たすことと同義である。なお、本実施形態では、下記の条件(1)から条件(3)までの全てを満たしている。
条件(1):
第1の貫通孔群G1に含まれる少なくとも1つの貫通孔50は、第2の貫通孔群G2のいずれの貫通孔50よりもY軸方向(燃料室176における燃料ガスFGの流れの方向)のガス流れ上流側に位置する。
条件(2):
第1の貫通孔群G1に含まれる全ての貫通孔50は、第2の貫通孔群G2のいずれの貫通孔50よりもY軸方向(燃料室176における燃料ガスFGの流れの方向)のガス流れ上流側に位置する。
条件(3):
Z軸方向視で単セル110に重なる点を通り、かつ、ガス室(上記実施形態では燃料室176)における燃料ガスFGの流れの方向に直交する仮想直線VLにより区画される2つの領域の一方をガス流れ上流側とし、他方をガス流れ下流側とする。第1の貫通孔群G1に含まれる全ての貫通孔50は、当該2つの領域の一方に位置し、第2の貫通孔群G2に含まれる全ての貫通孔50は、当該2つの領域の他方に位置する。なお、当該仮想直線VLは、Z軸方向視で単セル110の中心点を通る直線であってもよい。
【0050】
図6に示すように、本実施形態では、第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50においては、貫通孔50内に燃料極116が充填されていない。換言すれば、燃料極116は、第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50内に位置する部分を有していない。従って、燃料極116は、金属支持体180のうち、第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50を画定する面には接合されていない。これに対し、
図7に示すように、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50においては、貫通孔50の全体にわたって燃料極116が充填されている。燃料極116は、基部117に連なり、かつ、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50内のZ軸方向の全範囲に位置する部分(以下、「孔内部」という。)118を備え、当該孔内部118は、金属支持体180の当該貫通孔50を画定する面に接合されている。すなわち、燃料極116は、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50を画定する面に接合されている。
【0051】
このことから、第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50における燃料極116と金属支持体180の貫通孔50を画定する面とが接合される接合部J1のZ軸方向の長さLJ1(本実施形態では、当該接合部J1は存在しないため、当該接合部J1の長さLJ1は0(零))は、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50における燃料極116と金属支持体180の貫通孔50を画定する面とが接合される接合部J2のZ軸方向の長さLJ2よりも短い、といえる。
【0052】
上述したように第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50内には燃料極116が充填されていないため、第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50においては、当該貫通孔50の全体において空間SPが形成されている。第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50においては、貫通孔50の全体にわたって燃料極116が充填されている。燃料室176に供給された反応ガス(燃料ガスFG)の多くは、第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50(空間SP)内を進行し、さらに燃料極116の基部117の空隙内を進行して、反応場に供給される。第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50(空間SP)内に進入せずに、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50側に進んだ反応ガスは、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50に充填された燃料極116の各孔内部118の空隙内を進行し、さらに燃料極116の基部117の空隙内を進行して、反応場に供給される。
【0053】
なお、本実施形態では、単セル110のXY断面における各貫通孔50の形状は、円形である。各貫通孔50の径は、金属支持体180の上面S11における開口53の位置から下面S22における開口54の位置にわたって略一定である。また、複数の貫通孔50の径は、互いに略同一である。
【0054】
このような構成の単セル110は、例えば以下の製造方法により製造することができる。まず、金属支持体180を構成する第1の金属部材181および第2の金属部材182を準備し、孔開け加工によって第1の金属部材181に各貫通孔50の第1の部分51を形成すると共に、第2の金属部材182に各貫通孔50の第2の部分52を形成する。次に、第1の金属部材181と第2の金属部材182とを、各第1の部分51が各第2の部分52と連通する(本実施形態では、かつ、Z軸方向視における第1の部分51の輪郭線と第2の部分52の輪郭線とが重なる)ように位置を合わせて、例えば溶接によって接合することにより、金属支持体180を作製する。
【0055】
次に、燃料極116の孔内部118および基部117のそれぞれを形成するためのペーストを調製する。そして、孔内部118を形成するためのペーストを、金属支持体180に形成された第2の貫通孔群G2を構成する各貫通孔50に充填する。その後、基部117を形成するためのペーストを、金属支持体180の上面S11に塗布することによって成膜する。なお、孔内部118を形成するためのペーストと基部117を形成するためのペーストとは、同一組成であってもよいし、互いに異なる組成であってもよい。
【0056】
次に、電解質層112を形成するためのペーストを調製し、燃料極116の基部117を形成するためのペーストの塗膜上に塗布することによって成膜する。このようにして作製された積層体を所定の温度で焼成することにより、電解質層112および燃料極116を形成し、金属支持体180と電解質層112と燃料極116との積層体を得る。次に、空気極114を形成するためのペーストを調製し、電解質層112上に塗布することによって成膜する。このようにして作製された積層体を所定の温度で焼成することにより、空気極114を形成し、上述した構成の単セル110を得る。
【0057】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する各単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んでZ軸方向に互いに対向する燃料極116および空気極114と、金属支持体180とを備える。金属支持体180は、燃料極116に対して電解質層112とは反対側に位置する部材である。金属支持体180は、Z軸方向視で燃料極116と重なる位置においてZ軸方向に貫通する複数の貫通孔50を有する。第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50において、金属支持体180の貫通孔50を画定する面に燃料極116が接合されている。第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50における燃料極116と金属支持体180の貫通孔50を画定する面とが接合される接合部J1のZ軸方向の長さLJ1は、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50における燃料極116と金属支持体180の貫通孔50を画定する面とが接合される接合部J2のZ軸方向の長さLJ2よりも短い。第1の貫通孔群G1と第2の貫通孔群G2とは、いずれも、複数の貫通孔50により構成される群である。
【0058】
本実施形態の単セル110においては、上述したように、第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50における燃料極116と金属支持体180の貫通孔50を画定する面とが接合される接合部J1のZ軸方向の長さLJ1は、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50における燃料極116と金属支持体180の貫通孔50を画定する面とが接合される接合部J2のZ軸方向の長さLJ2よりも短い。そのため、本実施形態の単セル110によれば、第1の貫通孔群G1における接合部J1の長さLJ1と第2の貫通孔群G2における接合部J2の長さLJ2とが同等である構成と比較して、第1の貫通孔群G1における接合部J1の長さLJ1が短い分だけ、貫通孔50を通るガスの流通性を向上させることができ、これにより単セル110の発電性能を向上させることができる。
【0059】
また、本実施形態の単セル110では、第2の貫通孔群G2に含まれる貫通孔50の個数は、第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50の個数よりも少ない。そのため、本実施形態の単セル110によれば、これらの個数が同一である構成と比較して、貫通孔50におけるガスの流通性を向上させることができる。
【0060】
また、本実施形態の燃料電池スタック100は、上述した単セル110と、燃料極116が面する燃料室176とをそれぞれ有し、Z軸方向に並べて配置された複数の発電単位102を備える。各発電単位102において、第1の貫通孔群G1は、第2の貫通孔群G2に対して、燃料室176における燃料ガスFGの流れの上流側に位置する。
【0061】
金属支持体180における貫通孔50の位置によって、その貫通孔50における上記接合部(J1,J2)の長さ(LJ1,LJ2)による単セル110の発電性能への影響度は異なる。すなわち、ある領域(例えば、燃料ガスFGの流れの上流側)に位置する貫通孔50における上記接合部(J1,J2)の長さ(LJ1,LJ2)は、他の領域(例えば、燃料ガスFGの流れの下流側)に位置する貫通孔50における上記接合部(J1,J2)の長さ(LJ1,LJ2)と比較して、単セル110の発電性能への影響度が大きい。
【0062】
これに鑑み、本実施形態の燃料電池スタック100においては、上述したように、第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50における燃料極116と金属支持体180の貫通孔50を画定する面とが接合される接合部J1のZ軸方向の長さLJ1は、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50における燃料極116と金属支持体180の貫通孔50を画定する面とが接合される接合部J2のZ軸方向の長さLJ2よりも短い。上記接合部(J1,J2)の長さ(LJ1,LJ2)による単セル110の発電性能への影響度が比較的大きい領域(例えば、ガス流れの上流側)に第1の貫通孔群G1が位置し、かつ、当該影響度が比較的小さい領域(例えば、ガス流れの下流側)に、接合部J2の長さLJ2が比較的長い第2の貫通孔群G2が位置することにより、従来よりも効率的に、燃料極116と金属支持体180との接合強度と、単セル110の発電性能(ひいては、燃料電池スタック100の発電性能)との両方を確保することができる。
【0063】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0064】
上記実施形態における燃料電池スタック100や単セル110の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、金属支持体180に形成された各貫通孔50が、第1の部分51と第2の部分52とから構成されているが、貫通孔50の構成は、金属支持体180のZ軸方向の一方の面から他方の面まで貫通する限りにおいて、必ずしもこれに限られない。例えば、金属支持体180に形成された貫通孔50が、Z軸方向に直交する方向に延伸する部分を含んでいてもよい。
【0065】
上記実施形態(または変形例、以下同様)では、単セル110のXY断面における金属支持体180の各貫通孔50形状は、円形であるが、円形以外の形状(例えば矩形)であってもよい。また、上記実施形態では、各貫通孔50の径は、金属支持体180の上面S11における開口53の位置から下面S22における開口54の位置にわたって略一定であるが、いずれかの位置で異なっていてもよい。また、上記実施形態では複数の貫通孔50の構成は同様であるが、いずれかの貫通孔の構成が他の貫通孔の構成と異なっていてもよい。例えば、複数の貫通孔50の径は、互いに略同一であるが、互いに異なっていてもよい。
【0066】
図9は、変形例における単セル110Aの詳細構成を示す説明図である。上記実施形態では、燃料極116は、第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50内に位置する部分を備えず、金属支持体180のうち、第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50を画定する面には接合されていないが、例えば
図9に示す例のように、「第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50における燃料極116と金属支持体180の貫通孔50を画定する面とが接合される接合部J1のZ軸方向の長さLJ1は、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50における燃料極116と金属支持体180の貫通孔50を画定する面とが接合される接合部J2のZ軸方向の長さLJ2よりも短い」という条件(以下、「特定条件」という。)を満たす限りにおいて、燃料極116は、基部117に連なり、かつ、第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50内に位置(より詳細には、貫通孔50のZ軸方向の一部のみに位置)する部分(以下、「孔内部」という。)118Aを備え、孔内部118Aが金属支持体180の貫通孔50を画定する面に接合されていてもよい。このような構成においても、上記の特定条件を満たすことにより、上記実施形態と同様に、第1の貫通孔群G1における接合部J1の長さLJ1が短い分だけ、貫通孔50を通るガスの流通性を向上させることができ、これにより単セル110Aの発電性能を向上させることができる。また、上記実施形態では、燃料極116は、第2の貫通孔群G2に含まれる貫通孔50内に位置する孔内部118は、Z軸方向の全範囲に位置するものであるが、貫通孔50のZ軸方向の一部のみに位置するものであってもよい。なお、燃料極116が金属支持体180の貫通孔50のZ軸方向の一部のみに位置する構成は、上述した製造方法において、金属支持体180の各貫通孔50の最下部の一部分(第2の部分52における下側の一部分)に例えば樹脂を充填しておくことにより、孔内部118Aを形成するためのペーストが当該孔内部118Aには充填されないようにすることにより実現(製造)できる。
【0067】
燃料極116は、第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50内に位置する部分118Aを備える構成において、燃料極116のうち、第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50内に位置する部分118Aの気孔率P1は、燃料極116のうち、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50内に位置する孔内部118の気孔率P2よりも大きい、構成を採用してもよい。この構成によれば、これらの気孔率(P1,P2)が同等である構成と比較して、第2の貫通孔群G2に含まれる貫通孔50におけるガスの流通性を向上させることができる。この例では、燃料極116のうち、第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50内に位置する部分118Aは、特許請求の範囲における第1の部分の一例であり、燃料極116のうち、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50内に位置する孔内部118は、特許請求の範囲における第2の部分の一例である。また、燃料極116のうち、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50内に位置する孔内部118の気孔率P2は、燃料極116のうち、第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50内に位置する部分118Aの気孔率P1よりも大きい、構成を採用してもよい。この構成においても、これらの気孔率(P1,P2)が同等である構成と比較して、第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50におけるガスの流通性を向上させることができる。この例では、燃料極116のうち、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50内に位置する孔内部118は、特許請求の範囲における第1の部分の一例であり、燃料極116のうち、第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50内に位置する部分118Aは、特許請求の範囲における第2の部分の一例である。なお、燃料極116を構成する各部(118、118A)における気孔率(P1,P2)の測定は、例えば次のように行うことができる。まず、SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて、燃料極116のうち、貫通孔50内に位置する部分の断面を、例えば1000倍~3000倍に拡大して観察し、観察される視野について、画像解析によって、気孔を含めた燃料極116の上記部分の合計面積と、気孔の合計面積とを算出する。そして、数式:(気孔の合計面積/(気孔を含めた燃料極116の上記部分の合計面積))×100(%)により、気孔率(P1,P2)を算出する。燃料極116を構成する各部(118、118A)における気孔率の調整は、例えば、各部を形成するペーストを調製する際に、造孔材の添加量を調整することにより、実現することができる。具体的には、当該ペーストを調製する際に、造孔材の添加量を多くするほど、気孔率は高くなる。
【0068】
上記実施形態では、上記の条件(1)から条件(3)までの全てを満たす構成であるが、上記の条件(1)から条件(3)までの1つまたは2つのみを満たす構成であってもよい。この構成においても、第1の貫通孔群G1は、第2の貫通孔群G2に対して、燃料室176における燃料ガスFGの流れの上流側に位置するといえ、これにより、従来よりも効率的に、燃料極116と金属支持体180との接合強度と、単セル110の発電性能(ひいては、燃料電池スタック100の発電性能)との両方を確保することができる。
【0069】
金属支持体180に形成された複数の貫通孔50を第1の貫通孔群G1と第2の貫通孔群G2とに分ける際の選び方は、上記実施形態のものに限られず、種々変更可能である。例えば、上記実施形態では、第1の貫通孔群G1は、第2の貫通孔群G2に対して、燃料室176における燃料ガスFGの流れの上流側(Y軸正方向側)に位置している構成であるが、このような位置関係ではない第1の貫通孔群G1および第2の貫通孔群G2を採用してもよい。また、上記実施形態では、第2の貫通孔群G2に含まれる貫通孔50の個数は、第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50の個数よりも少ない構成であるが、第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50の個数よりも多い構成(換言すれば、第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50の個数は、第2の貫通孔群G2に含まれる貫通孔50の個数よりも少ない構成)であってもよい。この構成においても、第1の貫通孔群G1に含まれる貫通孔50の個数が第2の貫通孔群G2に含まれる貫通孔50の個数よりも少ないことにより、これらの個数が同一である構成と比較して、ガスの流通性を向上させることができる。また、上記実施形態では、第1の貫通孔群G1と第2の貫通孔群G2とはいずれも複数の貫通孔50により構成されているが、第1の貫通孔群G1と第2の貫通孔群G2との一方または両方が1つの貫通孔50のみにより構成されてもよい。
【0070】
上記実施形態では、金属支持体180が、Z軸方向に積層された第1の金属部材181および第2の金属部材182から構成されているが、金属支持体180の構成はこれに限られない。例えば、金属支持体180が、1枚の板状部材から構成されていてもよいし、Z軸方向に積層された3枚以上の板状部材から構成されていてもよい。また、金属支持体180がZ軸方向に積層された複数の板状部材から構成されている場合、各板状部材の厚さは互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0071】
上記実施形態では、単セル110は、燃料極116に対して電解質層112とは反対側に位置する金属支持体180を備え、かつ、上記の特定条件(第1の貫通孔群G1に含まれる各貫通孔50における燃料極116と金属支持体180の貫通孔50を画定する面とが接合される接合部J1のZ軸方向の長さLJ1は、第2の貫通孔群G2に含まれる各貫通孔50における燃料極116と金属支持体180の貫通孔50を画定する面とが接合される接合部J2のZ軸方向の長さLJ2よりも短い)を満たす。このような金属支持体180に換えて、または加えて、後述する空気極側金属支持体を備える構成を採用してもよい。すなわち、単セル110は、空気極114に対して電解質層112とは反対側に位置する金属支持体(以下、「空気極側金属支持体」という。)を備え、かつ、上記の特定条件と同様の条件を満たす構成を採用してもよい。このような構成においては、空気極側金属支持体の貫通孔を通るガスの流通性を向上させることができ、これにより単セル110の発電性能を向上させることができる。なお、このような構成において、空気極114は、特許請求の範囲における特定電極の一例である。
【0072】
上記実施形態において、単セル110の空気極114と電解質層112との間に、空気極114から拡散した元素(例えば、Sr)が電解質層112に含まれる元素(例えば、Zr)と反応して高抵抗な物質(例えば、SrZrO3)が生成されることを抑制する反応防止層が配置されるとしてもよい。反応防止層は、例えば、セリア系のイオン伝導体材料により形成される。
【0073】
上記実施形態において、必ずしも燃料電池スタック100に含まれる全ての単セル110において、上述した構成が実現されている必要はなく、燃料電池スタック100に含まれる少なくとも1つの単セル110において、上述した構成が実現されていればよい。例えば、上記実施形態では各単セル110が備える金属支持体180の構成は同様であるが、いずれかの単セルが備える金属支持体の構成が異なっていてもよい。また、上記実施形態では各単セル110が備える燃料極116の構成は同様であるが、いずれかの単セルが備える燃料極の構成が異なっていてもよい。
【0074】
上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。また、上記実施形態における単セル110の製造方法は、あくまで一例であり、種々変形可能である。
【0075】
上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行う固体酸化物形燃料電池(SOFC)を対象としているが、本明細書に開示される技術は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解単セルおよび複数の電解単セルを備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、貫通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解セル単位において水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、貫通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解単セルにおいても、上記実施形態と同様の構成を採用することにより、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0076】
上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本明細書に開示される技術は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0077】
22(22A~22E): ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 50:貫通孔 51:第1の部分 52:第2の部分 53:開口 54:開口 100:燃料電池スタック 102:発電単位 104,106:エンドプレート 108:貫通孔 110:単セル 110A:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 117:基部 118:孔内部 118A:孔内部 120:セパレータ 121:孔 124:接合部 130:空気極側フレーム部材 131:孔 132:空気極側ガス供給連通流路 133:空気極側ガス排出連通流路 134:空気極側集電体 135:集電体要素 140:燃料極側フレーム部材 141:孔 142:燃料極側ガス供給連通流路 143:燃料極側ガス排出連通流路 144:燃料極側集電体 145:集電体要素 150:インターコネクタ 161:空気極側ガス供給マニホールド 162:空気極側ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料極側ガス供給マニホールド 172:燃料極側ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:金属支持体 181:第1の金属部材 182:第2の金属部材 FG:燃料ガス FOG:燃料オフガス G1:第1の貫通孔群 G2:第2の貫通孔群 J1:接合部 J2:接合部 LJ1:長さ LJ2:長さ OG:酸化剤ガス OOG:酸化剤オフガス P1:気孔率 P2:気孔率 S11:上面 S12:下面 S21:上面 S22:下面 SP:空間