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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】インバータの制御装置、プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/08 20060101AFI20240718BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240718BHJP
【FI】
H02P27/08
H02M7/48 E
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021033513
(22)【出願日】2021-03-03
(65)【公開番号】P2022134405
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】窪田 優
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-239358(JP,A)
【文献】国際公開第2013/105136(WO,A1)
【文献】特開2015-211479(JP,A)
【文献】特開2011-166878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/08
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多相の回転電機(10)と、
前記回転電機を構成する電機子巻線(11U,11V,11W)に電気的に接続されたインバータ(20)と、を備える回転電機システム(100)に適用されるインバータの制御装置(50)であって、
前記回転電機の駆動制御を行うために、前記インバータを構成する各相のスイッチ(SUH~SWL)のスイッチング制御を行う制御部(60)と、
前記スイッチング制御において、2相の前記スイッチにおけるスイッチング動作の時間間隔を、前記スイッチのスイッチング動作に伴って前記電機子巻線に発生する電圧の共振周期(TK)の半分以上となるように設定する設定処理を行う設定部と、を備え
前記制御部は、各相の変調信号とキャリア信号との比較に基づくパルス幅変調により前記スイッチング制御を行い、
前記設定部は、2相の前記変調信号の電圧差が電圧閾値(Vth)以下となる近接期間(TN)において、2相の前記変調信号の電圧差が前記電圧閾値以上となるように2相の前記変調信号を変更することにより、前記時間間隔を前記共振周期の半分以上となるように設定するインバータの制御装置。
【請求項2】
多相の回転電機(10)と、
前記回転電機を構成する電機子巻線(11U,11V,11W)に電気的に接続されたインバータ(20)と、を備える回転電機システム(100)に適用されるインバータの制御装置(50)であって、
前記回転電機の駆動制御を行うために、前記インバータを構成する各相のスイッチ(SUH~SWL)のスイッチング制御を行う制御部(60)と、
前記スイッチング制御において、2相の前記スイッチにおけるスイッチング動作の時間間隔を、前記スイッチのスイッチング動作に伴って前記電機子巻線に発生する電圧の共振周期(TK)の半分以上となるように設定する設定処理を行う設定部と、を備え、
前記制御部は、各相の変調信号とキャリア信号との比較に基づくパルス幅変調により前記スイッチング制御を行い、
前記設定部は、2相の前記変調信号の電圧差が電圧閾値(Vth)以上となるように設定された前記変調信号を生成することにより、前記時間間隔を前記共振周期の半分以上となるように設定するインバータの制御装置。
【請求項3】
前記電圧閾値は、前記キャリア信号の変化速度と前記共振周期とに基づいて算出される請求項1または2に記載のインバータの制御装置。
【請求項4】
前記設定部は、前記制御部が前記スイッチング動作としてターンオン動作を行う場合に、前記ターンオン動作前に前記電機子巻線に流れる電流値が低電流側閾値よりも小さいことを条件として、前記設定処理を行う請求項1~のいずれか1項に記載のインバータの制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記回転電機の制御量を指令値に制御するために前記スイッチング制御を行い、
前記設定部は、前記制御部が前記スイッチング動作としてターンオフ動作を行う場合に、前記指令値が指令値閾値よりも大きいことを条件として、前記設定処理を行う請求項1~のいずれか1項に記載のインバータの制御装置。
【請求項6】
前記設定部は、前記制御部が前記スイッチング動作としてターンオフ動作を行う場合に、前記ターンオフ動作前に前記電機子巻線に流れる電流値が高電流側閾値よりも大きいことを条件として、前記設定処理を行う請求項1~のいずれか1項に記載のインバータの制御装置。
【請求項7】
前記設定部は、前記制御部が前記スイッチング動作としてターンオフ動作を行う場合に、前記回転電機の回転速度が速度閾値よりも低いことを条件として、前記設定処理を行う請求項1~のいずれか1項に記載のインバータの制御装置。
【請求項8】
前記回転電機システムは、前記回転電機の温度を検出する温度センサ(43)を備え、
前記設定部は、前記温度センサにより検出された温度が温度閾値よりも高いことを条件として、前記設定処理を行う請求項1~のいずれか1項に記載のインバータの制御装置。
【請求項9】
前記システムは、気圧を検出する気圧センサ(44)を備え、
前記設定部は、前記気圧センサにより検出された気圧が気圧閾値よりも低いことを条件として、前記設定処理を行う請求項1~のいずれか1項に記載のインバータの制御装置。
【請求項10】
前記回転電機は、
周方向に極性が交互となる複数の磁極を含む磁石部(15)を有する界磁子(RT)と、
前記電機子巻線を有する電機子(ST)と、を備え、
前記界磁子及び前記電機子のうちいずれかを回転子(ST)とし、
各相の前記電機子巻線は、前記電機子において前記回転子の周方向に並んで配置されており、2相の前記電機子巻線間に電気的絶縁性を有する絶縁層が設けられていない請求項1~のいずれか1項に記載のインバータの制御装置。
【請求項11】
多相の回転電機(10)と、
前記回転電機を構成する電機子巻線(11U,11V,11W)に電気的に接続されたインバータ(20)と、
コンピュータと、を備える回転電機システム(100)に適用されるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記回転電機の駆動制御を行うために、前記インバータを構成する各相のスイッチ(SUH~SWL)のスイッチング制御を行う制御処理と、
前記スイッチング制御において、2相の前記スイッチにおけるスイッチング動作の時間間隔を、前記スイッチのスイッチング動作に伴って前記電機子巻線に発生する電圧の共振周期(TK)の半分以上となるように設定する設定処理と、を実行させ、
前記制御処理は、各相の変調信号とキャリア信号との比較に基づくパルス幅変調により前記スイッチング制御を行う処理であり、
前記設定処理は、2相の前記変調信号の電圧差が電圧閾値(Vth)以下となる近接期間(TN)において、2相の前記変調信号の電圧差が前記電圧閾値以上となるように2相の前記変調信号を変更することにより、前記時間間隔を前記共振周期の半分以上となるように設定する処理である、プログラム。
【請求項12】
多相の回転電機(10)と、
前記回転電機を構成する電機子巻線(11U,11V,11W)に電気的に接続されたインバータ(20)と、
コンピュータと、を備える回転電機システム(100)に適用されるプログラムであって、
前記コンピュータに、
前記回転電機の駆動制御を行うために、前記インバータを構成する各相のスイッチ(SUH~SWL)のスイッチング制御を行う制御処理と、
前記スイッチング制御において、2相の前記スイッチにおけるスイッチング動作の時間間隔を、前記スイッチのスイッチング動作に伴って前記電機子巻線に発生する電圧の共振周期(TK)の半分以上となるように設定する設定処理と、を実行させ、
前記制御処理は、各相の変調信号とキャリア信号との比較に基づくパルス幅変調により前記スイッチング制御を行う処理であり、
前記設定処理は、2相の前記変調信号の電圧差が電圧閾値(Vth)以上となるように設定された前記変調信号を生成することにより、前記時間間隔を前記共振周期の半分以上となるように設定する処理である、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多相の回転電機と、回転電機を構成する電機子巻線に電気的に接続されたインバータと、を備える回転電機システムに適用されるインバータの制御装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置は、電機子巻線に電流を流して回転電機の駆動制御を行うために、インバータを構成する各相のスイッチのスイッチング制御を行う。ここで、スイッチのスイッチング動作に伴ってサージ電圧が発生する。
【0003】
サージ電圧を低減するための制御装置として、特許文献1には、各相におけるスイッチング動作の時間間隔が、サージ電圧の変動期間に基づく所定の範囲外となるように、パルス幅変調における変調率等のパラメータを変更するものが開示されている。これにより、同相内で発生するサージ電圧の重畳の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-108365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、多相の回転電機では、同相内で発生するサージ電圧だけでなく、異なる相で発生するサージ電圧が重畳することがある。異なる相で発生するサージ電圧が重畳した場合でも、サージ電圧を低減する技術が望まれている。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、サージ電圧を低減できるインバータの制御装置及びプログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、多相の回転電機と、前記回転電機を構成する電機子巻線に電気的に接続されたインバータと、を備える回転電機システムに適用されるインバータの制御装置であって、前記回転電機の駆動制御を行うために、前記インバータを構成する各相のスイッチのスイッチング制御を行う制御部と、前記スイッチング制御において、2相の前記スイッチにおけるスイッチング動作の時間間隔を、前記スイッチのスイッチング動作に伴って前記電機子巻線に発生する電圧の共振周期の半分以上となるように設定する設定処理を行う設定部と、を備える。
【0008】
回転電機とインバータとを備える回転電機システムでは、回転電機の駆動制御を行うために、インバータを構成する各相のスイッチのスイッチング制御が行われる。スイッチング制御では、各相のスイッチのスイッチング動作が行われ、このスイッチング動作に伴ってサージ電圧が発生する。そのため、2相のスイッチにおけるスイッチング動作の時間間隔が短くなると、異なる相で発生するサージ電圧が重畳してしまう。重畳したサージ電圧が過大となると、回転電機の劣化を招くおそれがある。
【0009】
そこで、上記構成では、2相のスイッチにおけるスイッチング動作の時間間隔を、スイッチのスイッチング動作に伴って電機子巻線に発生する電圧の共振周期の半分以上となるように設定するようにした。各相で発生するサージ電圧は、上記電圧の共振周波数で減衰振動し、サージ電圧の減衰振動では、サージ電圧が最大値となってから共振周期の半分が経過するまでの特定期間において、サージ電圧の振幅が急激に減少する。そして、特定期間が経過した後では、サージ電圧が重畳しても、サージ電圧が過度に増大することがない。そのため、2相のスイッチにおけるスイッチング動作の時間間隔を、共振周期の半分以上となるように設定することで、振幅が減少する前の2相分のサージ電圧の重畳を抑制することができ、重畳したサージ電圧を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】回転電機システムの全体構成図。
図2】回転電機の横断面図。
図3】信号生成回路を示す図。
図4】変更前の電圧指令値とキャリア信号とを示す図。
図5】サージ電圧の重畳を示す図。
図6】設定処理の手順を示すフローチャート。
図7】変更後の電圧指令値とキャリア信号とを示す図。
図8】設定処理によるサージ電圧の低減効果を示す図。
図9】その他の実施形態におけるサージ電圧の重畳禁止期間を示す図。
図10】その他の実施形態における回転電機を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る回転電機システムを具体化した実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1に示すように、回転電機システム100は、回転電機10及びインバータ20を備えている。本実施形態において、回転電機10は、ブラシレスの同期機であり、例えば永久磁石同期機である。回転電機10は、3相の電機子巻線であるU,V,W相巻線11U,11V,11Wを備えている。
【0013】
回転電機10は、インバータ20を介して直流電源としてのバッテリ30に接続されている。インバータ20は、上アームスイッチSUH,SVH,SWHと下アームスイッチSUL,SVL,SWLとの直列接続体を備えている。U相上,下アームスイッチSUH,SULの接続点PUには、U相導電部材22Uを介してU相巻線11Uの第1端が電気的に接続(以下、単に接続)されている。V相上,下アームスイッチSVH,SVLの接続点PVには、V相導電部材22Vを介してV相巻線11Vの第1端が接続されている。W相上,下アームスイッチSWH,SWLの接続点PWには、W相導電部材22Wを介してW相巻線11Wの第1端が接続されている。U,V,W相巻線11U,11V,11Wの第2端は中性点PTで接続されている。なお、各相の導電部材22U,22V,22Wは、例えば、ケーブル又はバスバーである。
【0014】
本実施形態では、各スイッチSUH~SWLとして、電圧制御形の半導体スイッチング素子が用いられており、より具体的にはNチャネルMOSFETが用いられている。各スイッチSUH~SWLには、ボディダイオードが内蔵されている。
【0015】
インバータ20のバッテリ30側には、インバータ20に入力される電圧を平滑化するコンデンサ23が設けられている。コンデンサ23の高電位側端子には、バッテリ30の正極端子が接続され、コンデンサ23の低電位側端子には、バッテリ30の負極端子が接続されている。コンデンサ23の高電位側端子には、上アームスイッチSUH~SWHの高電位側端子であるドレインが接続されている。コンデンサ23の低電位側端子には、下アームスイッチSUL~SWLの低電位側端子であるソースが接続されている。なお、コンデンサ23は、インバータ20内部に設けられていてもよい。
【0016】
次に、回転電機10の構成を詳細に説明する。本実施形態の回転電機10は、例えばアウタロータ式の表面磁石型回転電機である。
【0017】
図2は、回転電機10の横断面図である。回転電機10は、回転子RTと、固定子STとを備えている。回転子RT及び固定子STは、いずれも回転子RTに一体回転可能に設けられた回転軸13に対して同軸に配置され、所定順序で軸方向に組み付けられることで回転電機10が構成されている。本実施形態の回転電機10は、「界磁子」としての回転子RTと、「電機子」としての固定子STとを有する構成となっており、回転界磁形の回転電機として具体化されるものとなっている。
【0018】
回転電機10において、回転子RT及び固定子STはそれぞれ円筒状をなしており、所定のエアギャップAGを挟んで互いに対向配置されている。回転子RTが回転軸13と共に一体回転することにより、固定子STの径方向外側にて回転子RTが回転する。
【0019】
回転子RTは、略円筒状の回転子キャリア14と、その回転子キャリア14に固定された環状の磁石ユニット15と、を備えている。回転子キャリア14は、回転軸13に固定されている。
【0020】
回転子キャリア14は、円筒部14Aを有している。円筒部14Aの径方向内側には磁石ユニット15が固定されている。磁石ユニット15は、回転子RTの周方向に沿って極性が交互に変わるように配置された複数の永久磁石により構成されている。これにより、磁石ユニット15は、周方向に極性が交互となる複数の磁極を有する。なお、本実施形態において、磁石ユニット15が「磁石部」に相当する。
【0021】
固定子STは、前述のU,V,W相巻線11U,11V,11Wと、固定子コア12と、を備えている。
【0022】
固定子コア12は円筒状をなしており、回転子RT側となる径方向外側に各巻線11U,11V,11Wが組み付けられている。各巻線11U,11V,11Wが組み付けられた状態では、固定子コア12の外周面に、各相の巻線11U,11V,11Wは、回転軸13の周方向に並んで配置されている。本実施形態では、2相の巻線11U,11V,11W間に絶縁紙を有さず、絶縁紙が無い分、2相の巻線11U,11V,11Wが近接して配置されている。なお、本実施形態において、絶縁紙が「電気的絶縁性を有する絶縁層」に相当する。
【0023】
図1に戻り、回転電機システム100は、電圧センサ40、電流センサ41、回転角センサ42、温度センサ43及び気圧センサ44を備えている。電圧センサ40は、コンデンサ23の端子電圧である電源電圧を検出する。電流センサ41は、回転電機10に流れる各相電流のうち、少なくとも2相分の電流を検出する。回転角センサ42は、例えばレゾルバ又はホール素子で構成され、回転電機10を構成する回転子RTの電気角を検出する。
【0024】
温度センサ43は、回転電機10の温度を検出する。回転電機10の温度は、例えば、巻線11U,11V,11Wの温度である。気圧センサ44は、回転電機10及びインバータ20の設置環境における大気圧を検出する。各センサ40~44の検出値は、制御システムに備えられる制御装置50に入力される。
【0025】
制御装置50には、電流センサ41により検出された電流値(以下、電流検出値I)、回転角センサ42により検出された電気角θe、温度センサ43により検出された温度(以下、温度検出値TDr)、気圧センサ44により検出された大気圧(以下、気圧検出値Pr)、及び指令値閾値としてのトルク指令値Trq*が入力される。制御装置50は、電気角θeに基づいて、回転電機10の回転速度としての電気角周波数ωeを算出する。
【0026】
制御装置50は、回転電機10の駆動制御を行うために、回転電機10の制御量を指令値に制御すべく、入力された各値を用いてインバータ20を構成する各スイッチSUH~SWLのスイッチング制御を行う。本実施形態において、制御量はトルクであり、指令値はトルク指令値Trq*である。制御装置50は、デッドタイムDTを挟みつつ上,下アームスイッチを交互にオン状態とすべく、上,下アームスイッチに対応する駆動信号SAを、上,下アームスイッチに対して個別に設けられた駆動回路Drに出力する。駆動信号SAは、オン指令又はオフ指令のいずれかをとる。
【0027】
続いて、図3,4を用いて、駆動信号SAの生成方法について説明する。図3に、駆動信号SAを生成する信号生成回路60の回路構成を示す。信号生成回路60は、制御装置50に設けられている。
【0028】
駆動信号SAは、変調信号としての電圧指令値V*とキャリア信号SDとに基づいて生成される。図4(A)に、電圧指令値V*とキャリア信号SDとを示す。信号生成回路60では、3相の電圧指令値V*(VU*,VV*,VW*)が用いられている。各相における電圧指令値V*の位相は電気角で120°ずつずれており、各相において共通のキャリア信号SDが用いられている。
【0029】
なお、本実施形態のキャリア信号SDは、振幅がVAであり、その中央値がゼロ電圧である三角波信号である。三角波信号では、極大値と極小値とが交互に繰り返されており、本実施形態の三角波信号では、電圧が極小値から極大値まで上昇する速度の絶対値と、電圧が極大値から極小値まで下降する速度の絶対値とが等しく設定されている。キャリア信号SDの周波数は、電圧指令値V*の周波数よりも高い。また、本実施形態の電圧指令値V*は、振幅がVBであり、その中央値がゼロ電圧である正弦波信号である。なお、電圧指令値V*としては、正弦波信号の他に、正弦波信号に3次高調波信号が重畳されたものであってもよい。
【0030】
信号生成回路60は、電圧指令値V*とキャリア信号SDとの大小比較に基づくパルス幅変調により、駆動信号SAを生成する。図3に示すように、コンパレータ62の非反転入力端子62Aには、電圧指令値V*が入力されている。コンパレータ62の反転入力端子62Bには、キャリア信号SDが入力されている。コンパレータ62は、電圧指令値V*がキャリア信号SDよりも大きい場合にオン指令となり、電圧指令値V*がキャリア信号SDよりも小さい場合にオフ指令となる駆動信号SAを、出力端子62Cから出力する。なお、本実施形態において、信号生成回路60が「制御部」に相当する。
【0031】
各相において、駆動信号SAは、上,下アームスイッチに対して個別に設けられた駆動回路Drに入力される。上,下アームスイッチに対して設けられた駆動回路Drのそれぞれは、駆動信号SAに基づいて、デッドタイムDTを設定しつつ、上,下アームスイッチが交互にオン状態とされるようなスイッチング制御を行う。そして、このスイッチング制御により、各スイッチSUH~SWLの駆動状態が切り替えられる。
【0032】
スイッチング制御では、電圧指令値V*とキャリア信号SDとの交点において各スイッチSUH~SWLの駆動状態の切り替え、つまりスイッチング動作が行われ、このスイッチング動作に伴ってサージ電圧が発生する。サージ電圧が増大し、回転電機10の各相の巻線11U,11V,11Wに過電圧が印加された場合、近接する巻線間で部分放電が発生し、回転電機10の劣化を招くおそれがある。
【0033】
サージ電圧が増大する原因として、サージ電圧の重畳がある。図4(A)に示すように、V相電圧指令値VV*とW相電圧指令値VW*とは指令値交点PAで交差する。図4(B)に、指令値交点PA近傍におけるV相電圧指令値VV*、W相電圧指令値VW*及びキャリア信号SDを拡大して示す。図4(B)に示す例では、指令値交点PAの近傍をキャリア信号SDが通過している。そのため、交点PBでV相電圧指令値VV*とキャリア信号SDとが交差する時刻t1と、交点PCでW相電圧指令値VW*とキャリア信号SDとが交差する時刻t2との間の時間間隔が狭くなる。これにより、U相上,下アームスイッチSUH,SULのスイッチング動作と、V相上,下アームスイッチSVH,SVLのスイッチング動作との時間間隔が短くなり、V相及びW相で発生するサージ電圧が重畳し、サージ電圧の重畳値が増大してしまう。
【0034】
そこで、本実施形態では、2相のスイッチSUH~SWLにおけるスイッチング動作の時間間隔を、2相の巻線11U,11V,11W間の共振周期TKを用いて設定するようにした。
【0035】
図5を用いて、共振周期TKについて説明する。回転電機10では、各相の巻線11U,11V,11Wのインダクタンスやキャパシタンスに起因して、各相の巻線11U,11V,11Wに共振が発生する。
【0036】
図5(A)に、ターンオン動作における入力電圧Vinの推移を示す。入力電圧Vinは、インバータ20から回転電機10の各相の巻線11U,11V,11Wにそれぞれ入力される電圧であり、各スイッチSUH~SWLのスイッチング動作によりオン電圧Vonとオフ電圧Voffとで切り替えられる。オン電圧Vonは、バッテリ30の正極側電圧に対応した値である。オン電圧Vonは、例えば、バッテリ30の正極側電圧から、インバータ20の上アームスイッチSUH~SWH等の電圧降下量を差し引いた値である。オフ電圧Voffはバッテリ30の負極側電圧に対応した値であり、例えばグランド電圧(0V)である。
【0037】
図5(A)に実線で示すように、ターンオン動作により入力電圧Vinにサージ電圧が発生し、サージ電圧は共振周波数で減衰振動する。具体的には、時刻t11に、入力電圧Vinがオン電圧Vonへの上昇を開始すると、入力電圧Vinがオン電圧Vonを超えてオーバーシュートし、時刻t12において入力電圧Vinが1スイッチング周期における最大値となる。その後、入力電圧Vinは、減衰振動しつつオン電圧Vonに収束する。減衰振動において時刻t12の次に入力電圧Vinが極大値となる時刻をt14とした場合、時刻t12から時刻t14までの期間が共振周期TKとなる。
【0038】
図5(A)では、2相のスイッチSUH~SWLにおけるスイッチング動作が近接したタイミングで行われた場合に、一方の相の巻線に入力される入力電圧Vinが実線で示されている。入力電圧Vinには、2相分のサージ電圧が重畳する。具体的には、図5(A)に破線で示すように、自相で発生した自相サージ電圧VSAが重畳するとともに、図5(A)に一点鎖線で示すように、他方で発生した他相サージ電圧VSBが重畳する。自相サージ電圧VSAと他相サージ電圧VSBとの重畳により、入力電圧Vinが回転電機10の上限電圧Vmaxを超えると、これら2相の巻線11U,11V,11W間で部分放電が発生し、回転電機10の劣化を招くおそれがある。
【0039】
図5(B)に、サージ電圧の一例として、他相サージ電圧VSBを拡大して示す。図5(B)に示すように、減衰振動において時刻t12の次に他相サージ電圧VSBが極小値となる時刻をt13とした場合、他相サージ電圧VSBは、時刻t12から時刻t13までの期間、つまり他相サージ電圧VSBが最大値となってから共振周期TKの半分が経過するまでの特定期間において、サージ電圧の振幅が急激に減少する。本発明者らは、この点に着目し、重畳したサージ電圧を低減する方法を見出した。
【0040】
具体的には、2相のスイッチSUH~SWLにおけるスイッチング動作の時間間隔を、共振周期TKの半分以上となるように設定するようにした。これにより、特定期間、つまり振幅が減少する前の他相サージ電圧VSBと自相サージ電圧VSAとの重畳が抑制される。
【0041】
続いて、図6を用いて、制御装置50が実行する設定処理の手順を説明する。この処理は、所定の制御周期で繰り返し実行される。
【0042】
ステップS10では、第1,第2絶縁条件が全て成立しているか否かを判定する。第1,第2絶縁条件は、回転電機10を構成するU,V,W相巻線11U,11V,11W間の絶縁耐力が低くなる状況であるか否かを判定するための条件である。第1絶縁条件は、気圧検出値Prが気圧閾値Pthよりも低いとの条件である。なお、気圧閾値Pthは、例えば、1気圧未満の値(例えば、0.6~0.7気圧)に設定されればよい。第2絶縁条件は、温度検出値TDrが温度閾値TDthよりも高いとの条件である。
【0043】
ステップS10において第1,第2絶縁条件の少なくとも1つが成立していないと判定した場合には、設定処理の実行条件が成立していないと判定し、設定処理を終了する。
【0044】
一方、ステップS10において第1,第2絶縁条件の全てが成立していると判定した場合には、ステップS11に進む。ステップS11では、2相の電圧指令値V*とキャリア信号SDとが交差するタイミングが近接しているか否かを判定する。具体的には、2相の交点が近接し、2相のスイッチSUH~SWLにおけるスイッチング動作の時間間隔が共振周期TKの半分よりも短くなるか否かを判定する。本実施形態では、3相のうちいずれか2相の電圧指令値V*の電圧差が電圧閾値Vth以下となる期間(以下、近接期間TN)にわたって、時間間隔が共振周期TKの半分よりも短くなると判定する。電圧閾値Vthについては後に詳述する。
【0045】
ステップS11において否定判定した場合には、設定処理を実行する必要がないと判定し、設定処理を終了する。一方、ステップS11において肯定判定した場合には、ステップS12に進む。
【0046】
ステップS12では、第1駆動条件が成立しているか否かを判定する。第1駆動条件は、ターンオン動作に伴い発生するサージ電圧が大きくなる状況であるか否かを判定するための条件である。第1駆動条件は、ターンオン動作前に検出された電流検出値Iであるオフ電流値Ioffが低電流側閾値ILthよりも低いとの条件である。
【0047】
ステップS12において第1駆動条件が成立していないと判定した場合には、ステップS13に進む。一方、ステップS12において第1駆動条件が成立していると判定した場合には、設定処理の実行条件が成立していると判定し、ステップS14に進む。
【0048】
ステップS13では、第2~第4駆動条件が成立しているか否かを判定する。第2~第4駆動条件は、ターンオフ動作に伴い発生するサージ電圧が大きくなる状況であるか否かを判定するための条件である。第2駆動条件は、ターンオフ動作前に検出された電流検出値Iであるオン電流値Ionが高電流側閾値IHthよりも高いとの条件である。第3駆動条件は、トルク指令値Trq*がトルク閾値Trqthよりも大きいとの条件である。
【0049】
第4駆動条件は、電気角周波数ωeが速度閾値としての低周波数閾値ωthよりも低いとの条件である。本実施形態において、低周波数閾値ωthは、回転電機10を構成する回転子RTの回転が停止していることを判別可能な値に設定されている。回転電機10のトルク制御が行われているにもかかわらず、モータロック等に起因して回転子RTの回転が停止されている又は停止寸前の状況は、U,V,W相巻線11U,11V,11Wに大電流が流れる状況である。
【0050】
ステップS13において第2~第4駆動条件の少なくとも1つが成立していないと判定した場合には、設定処理の実行条件が成立していないと判定し、設定処理を終了する。一方、ステップS12において第2~第4駆動条件の全てが成立していると判定した場合には、設定処理の実行条件が成立していると判定し、ステップS14に進む。
【0051】
ステップS14では、2相のスイッチSUH~SWLにおけるスイッチング動作の時間間隔を、共振周期TKの半分以上となるように電圧指令値V*を変更し、設定処理を終了する。なお、本実施形態において、ステップS14の処理が「設定部」に相当する。
【0052】
図7を用いて、ステップS14の処理について説明する。図7(A)に、変更後の電圧指令値V*を示す。なお、図7(A)では、区別のために、変更後のU相電圧指令値VU*及びキャリア信号SDが実線で示されており、変更後のV相電圧指令値VV*が一点鎖線で示されており、変更後のW相電圧指令値VW*が二点鎖線で示されており、変更前の電圧指令値V*が破線で示されている。図7(A)に示すように、本実施形態では、2相の電圧指令値V*の電圧差が、電圧閾値Vth以下となる近接期間TNにおいて、2相の電圧指令値V*の電圧差が電圧閾値Vthとなるように2相の電圧指令値V*を変更する。
【0053】
図7(B)に、指令値交点PA近傍の近接期間TNにおけるV相電圧指令値VV*、W相電圧指令値VW*及びキャリア信号SDを拡大して示す。図7(B)に示す例では、時刻t21から時刻t24までの期間において、変更前のV相電圧指令値VV*及び変更前のW相電圧指令値VW*の電圧差が電圧閾値Vth以下となっており、時刻t21から時刻t24までの期間が近接期間TNとなる。
【0054】
本実施形態では、この近接期間TNにおいて、V相電圧指令値VV*及びW相電圧指令値VW*が変更される。具体的には、近接期間TNにおいて、V相電圧指令値VV*及びW相電圧指令値VW*が時刻t21の電圧値に維持されるように変更される。この結果、近接期間TNにおいて、V相電圧指令値VV*及びW相電圧指令値VW*の電圧差が電圧閾値Vthに維持される。
【0055】
V相電圧指令値VV*の変更により、V相電圧指令値VV*とキャリア信号SDとの交点が、交点PBから交点PDに変更され、交点が表れる時刻が、時刻t1から時刻t2よりも遅い時刻t23に変更される。また、W相電圧指令値VW*の変更により、W相電圧指令値VW*とキャリア信号SDとの交点が、交点PCから交点PEに変更され、交点が表れる時刻が、時刻t2から時刻t1よりも速い時刻t22に変更される。この結果、V相電圧指令値VV*とキャリア信号SDとの交点と、W相電圧指令値VW*とキャリア信号SDとの交点との間の時間間隔は、補正前よりも広くなる。
【0056】
本実施形態では、変更後の交点PDと交点PEとの間の時間間隔が、共振周期TKの半分となるように電圧閾値Vthが設定されている。具体的には、電圧閾値Vthは、キャリア信号SDの変化速度(dV/dt)と共振周期TKとに基づいて算出され、詳細には、共振周期TKにキャリア信号SDの変化速度を積算した値の半分の値として算出される。キャリア信号SDの変化速度は、例えば近接期間TNにおけるキャリア信号SDの変化速度の平均値であればよい。
【0057】
設定処理により、2相分が重畳されたサージ電圧を低減させることができる。図8には、2相におけるスイッチSUH~SWLのドレイン及びソース間電圧を端子間電圧VIA,VIBにて示し、端子間電圧VIA,VIBに起因して回転電機10内で発生して一方の相の入力電圧Vinに重畳したサージ電圧を示す。入力電圧Vinには、自相サージ電圧VSAとともに他相サージ電圧VSBが重畳している。
【0058】
図8(a)は、電圧指令値V*を変更する前の比較例の電圧の推移を示し、図8(b)は、電圧指令値V*を変更した後の本実施形態の電圧の推移を示す。図8(b)に示す例では、端子間電圧VIA,VIBに対応するスイッチSUH~SWLにおけるスイッチング動作の時間間隔が、共振周期TKの半分となるように拡大されている。これにより、振幅が減少する前の他相サージ電圧VSBと自相サージ電圧VSAとの重畳が抑制され、入力電圧Vinが回転電機10の上限電圧Vmaxを超えることが抑制される。
【0059】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0060】
回転電機10では、インバータ20を構成するスイッチSUH~SWLのスイッチング動作によりサージ電圧が発生する。本実施形態では、2相のスイッチSUH~SWLにおけるスイッチング動作の時間間隔が、スイッチSUH~SWLのスイッチング動作に伴って巻線に発生する電圧の共振周期TKの半分以上となるように設定する設定処理が行われる。サージ電圧は、上記電圧の共振周波数で減衰振動するとともに、サージ電圧が最大値となってから共振周期TKの半分が経過するまでの特定期間において、サージ電圧の振幅が急激に減少する。設定処理が行われることで、振幅が減少する前の2相分のサージ電圧の重畳を抑制することができ、重畳したサージ電圧を低減させることができる。
【0061】
設定処理では、2相の電圧指令値V*とキャリア信号SDとが交差するタイミングが近接している場合に、2相の電圧指令値V*が変更される。そのため、一般に使用されている電圧指令値V*の一部を変更することにより重畳されたサージ電圧を低減させることができ、新たに電圧指令値V*を生成する場合に比べて、制御装置50の処理負担の軽減を図ることができる。この場合、電圧指令値V*の変更範囲は、変更前の電圧指令値V*により予め決定されるため、電圧指令値V*の変更範囲を決定するためにフィードバック制御を行う必要がない。これにより、制御装置50における制御性の悪化やコストの増加を抑制することができる。
【0062】
具体的には、2相の電圧指令値V*の電圧差が電圧閾値Vth以下となる近接期間TNにおいて、2相の電圧指令値V*の電圧差が電圧閾値Vthとなるように2相の電圧指令値V*が変更される。電圧閾値Vthは、キャリア信号SDの変化速度と共振周期TKとに基づいて算出され、具体的には、共振周期TKにキャリア信号SDの変化速度を積算した値の半分の値として算出される。そのため、キャリア信号SDに対応させて電圧閾値Vthを算出することができ、回転電機10の駆動条件によりキャリア信号SDが変化した場合でも、キャリア信号SDに対応させて電圧閾値Vthが変化することにより、2相のスイッチング動作の時間間隔を共振周期TKの半分以上とすることができる。
【0063】
キャリア信号SDの周波数が電圧指令値V*の周波数よりも高い場合、キャリア信号SDが極大値から極小値まで下降する下降期間に、スイッチング動作としてターンオン動作が行われる。本実施形態では、スイッチング動作としてターンオン動作を行う場合には、オフ電流値Ioffが低電流側閾値ILthよりも低いと判定された場合に設定処理が行われる。ターンオン動作では、オフ電流値Ioffが低電流側閾値ILthよりも低い状況で、サージ電圧が大きくなりやすい。サージ電圧が大きくなりやすい状況においてのみ設定処理が行われることで、サージ電圧を抑制しつつ、設定処理による制御装置50の処理負担の軽減を図ることができる。
【0064】
一方、キャリア信号SDの周波数が電圧指令値V*の周波数よりも高い場合、キャリア信号SDが極小値から極大値まで上昇する上昇期間に、スイッチング動作としてターンオフ動作が行われる。本実施形態では、スイッチング動作としてターンオフ動作を行う場合には、トルク指令値Trq*がトルク閾値Trqthよりも大きいと判定された場合に速度低下処理が行われる。ターンオフ動作を行う場合には、トルク指令値Trq*がトルク閾値Trqthよりも大きい状況で、サージ電圧が大きくなりやすい。サージ電圧が大きくなりやすい状況においてのみ設定処理が行われることで、サージ電圧を抑制しつつ、設定処理による制御装置50の処理負担の軽減を図ることができる。
【0065】
また、スイッチング動作としてターンオフ動作を行う場合には、オン電流値Ionが高電流側閾値IHthよりも高いと判定された場合に設定処理が行われる。ターンオフ動作を行う場合には、オン電流値Ionが高電流側閾値IHthよりも高い状況で、サージ電圧が大きくなりやすい。サージ電圧が大きくなりやすい状況においてのみ設定処理が行われることで、サージ電圧を抑制しつつ、設定処理による制御装置50の処理負担の軽減を図ることができる。
【0066】
さらに、スイッチング動作としてターンオフ動作を行う場合には、電気角周波数ωeが低周波数閾値ωthよりも低いと判定された場合に設定処理が行われる。ターンオフ動作を行う場合には、電気角周波数ωeが低周波数閾値ωthよりも低い状況で、サージ電圧が大きくなりやすい。サージ電圧が大きくなりやすい状況においてのみ設定処理が行われることで、サージ電圧を抑制しつつ、設定処理による制御装置50の処理負担の軽減を図ることができる。
【0067】
温度検出値TDrが温度閾値TDthよりも高いと判定された場合に設定処理が行われる。温度検出値TDrが温度閾値TDthよりも高い状況は、回転電機10の絶縁耐力が低くなる状況である。このような状況においてのみ設定処理が行われるため、サージ電圧を抑制しつつ、設定処理による制御装置50の処理負担の軽減を図ることができる。
【0068】
気圧検出値Prが気圧閾値Pthよりも低いと判定された場合に設定処理が行われる。気圧検出値Prが気圧閾値Pthよりも低い状況は、回転電機10の絶縁耐力が低くなる状況である。このような状況においてのみ速度低下処理が行われるため、サージ電圧を抑制しつつ、設定処理による制御装置50の処理負担の軽減を図ることができる。
【0069】
回転電機10では、2相の巻線11U,11V,11W間に絶縁紙が設けられていない。絶縁紙が設けられていないことで、2相の巻線11U,11V,11Wを近接して配置することができ、回転電機10を小型化することができる。その反面、2相の巻線11U,11V,11Wの絶縁性が低くなり、2相で発生したサージ電圧が重畳しやすくなる。本実施形態では、2相のスイッチング動作の時間間隔が共振周期TKの半分以上となるように設定されるため、2相で発生したサージ電圧が重畳した場合でも、重畳したサージ電圧を低減させることができる。
【0070】
<その他の実施形態>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0071】
・上記実施形態では、補正前の電圧指令値V*を変更することにより補正後の電圧指令値V*を生成する例を示したが、これに限らず、初めから補正後の電圧指令値V*を生成するようにしてもよい。つまり、スイッチング制御に用いる電圧指令値V*として、2相の電圧指令値V*の電圧差が電圧閾値Vthとなるように設定されたものを生成するようにしてもよい。この場合、キャリア信号SDの周波数に応じて電圧閾値Vthが変更されることが好ましい。
【0072】
・上記実施形態では、2相のスイッチSUH~SWLにおけるスイッチング動作の時間間隔を、共振周期TKの半分以上となるように設定するために、電圧指令値V*を変更する例を示したが、変更の対象は電圧指令値V*に限られない。例えば、インバータ20のデッドタイムDTを変更することにより、2相のスイッチSUH~SWLにおけるスイッチング動作の時間間隔を、共振周期TKの半分以上となるように設定してもよい。
【0073】
・上記実施形態では、電圧閾値Vthが、共振周期TKにキャリア信号SDの変化速度の絶対値を積算した値の半分の値に設定される例を示したが、該半分の値以上の値に設定されてもよい。また、該半分の値よりも小さい値に設定されてもよい。例えば、図9に示すように、他相サージ電圧VSBにおいて、時刻t12の次に他相サージ電圧VSBが極大値となる時刻t14の電圧を特定電圧VXとする。そして、時刻t12の次に他相サージ電圧VSBが特定電圧VXとなる時刻をt31とする。この場合、電圧閾値Vthが、時刻t12から時刻t31までの期間の長さに基づいて設定されてもよい。具体的には、電圧閾値Vthは、時刻t12から時刻t31までの期間の長さにキャリア信号SDの変化速度の絶対値を積算した値の半分の値に設定されてもよい。
【0074】
・上記実施形態では、入力電圧Vinが、インバータ20から回転電機10の各相の巻線11U,11V,11Wにそれぞれ入力される電圧である例を示したが、例えば、3相のうち特定の相における巻線の両端の電位差等、回転電機10内の他の電圧であってもよい。
【0075】
・電機子巻線としては、各相の巻線11U,11V,11Wが一つの単位巻線16で構成されている例を示したが、これに限られない。例えば、図10に示すように、各相の電機子巻線が、並列接続された複数の単位巻線16により構成されていてもよい。これにより、各相の巻線11U,11V,11Wが一つの単位巻線16で構成されている場合に比べて、電機子巻線による共振揺れを小さくすることができる。
【0076】
・キャリア信号としては、三角波信号に限らず、例えばのこぎり波信号であってもよい。
【0077】
・インバータを構成するスイッチとしては、NチャネルMOSFETに限らず、例えばIGBTであってもよい。この場合、スイッチの高電位側端子がコレクタとなり、低電位側端子がエミッタとなる。また、この場合、スイッチにフリーホイールダイオードが逆並列に接続されていればよい。
【0078】
・インバータ及び回転電機は、3相のものに限らず、2相のものであっても4相以上のものであってもよい。つまり、インバータ及び回転電機は、多相のものであればよい。
【0079】
・絶縁層は絶縁紙に限られず、合成樹脂等の電気的絶縁性を有する絶縁材料から構成されたものであればよい。
【0080】
・回転電機の制御量はトルクに限らず、例えば回転速度であってもよい。
【0081】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0082】
10…回転電機、11U…U相巻線、11V…V相巻線、11W…W相巻線、20…インバータ、50…制御装置、60…信号生成回路、100…回転電機システム、SUH~SWL…スイッチ、TK…共振周期。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10