(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】工作機械およびペースト状潤滑剤の塗布方法
(51)【国際特許分類】
B23Q 11/10 20060101AFI20240718BHJP
B25J 13/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B23Q11/10 A
B25J13/00 Z
(21)【出願番号】P 2021039669
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2023-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 知英
(72)【発明者】
【氏名】一木 洋介
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】実開昭49-118487(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第110142643(CN,A)
【文献】特開2017-202547(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102008027670(DE,A1)
【文献】特開2009-148776(JP,A)
【文献】特表2022-529558(JP,A)
【文献】実開平03-015051(JP,U)
【文献】欧州特許出願公開第03804900(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23Q 11/00-13/00
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工室内に配置され、工具が取り付けられる工具取付部を1以上有する工具保持装置と、
内部にペースト状潤滑剤が充填されるとともに一部が開口された保管容器と、
前記加工室内に配置され、前記保管容器を、その位置および姿勢を変更可能に保持するロボットと、
1以上の前記工具取付部の一つに取り付けられ
た塗布具である被保持部材が前記開口を通じて前記保管容器内に進入して前記ペースト状潤滑剤と接触するように、前記ロボットおよび前記工具保持装置の少なくとも一方を駆動して、前記保管容器の前記被保持部材に対する相対的な位置および姿勢を変更するコントローラと、
を備え
、
前記コントローラは、前記塗布具を前記保管容器内に進入させた後、前記ペースト状潤滑剤が付着した前記塗布具がワークの加工対象箇所に接触するように、前記工具保持装置を駆動する、
ることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
請求項
1に記載の工作機械であって、
前記コントローラは、前記被保持部材が、同じ前記保管容器内の同じ箇所に2回以上進入しないように、前記被保持部材の進入箇所を、進入のたびに変更する、ことを特徴とする工作機械。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の工作機械であって、
前記ロボットは、関節を介して連結された2以上のリンクを有し、全体として3自由度以上の自由度を有する多関節ロボットである、ことを特徴とする工作機械。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載の工作機械であって、
前記ロボットは、前記ペースト状潤滑剤の塗布を行っていない期間中に、工具交換、ワーク交換、加工状態のセンシングの少なくとも一つを実行する、ことを特徴とする工作機械。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか1項に記載の工作機械であって、
前記工具保持装置は、刃物台または主軸頭であり、
前記塗布具は、ブラシ、ローラ、刷毛、ヘラ、スポンジ、の少なくとも一つを含む、
ことを特徴とする工作機械。
【請求項6】
加工室内に配置された工具保持装置が有する1以上の工具取付部のうちの一つに
、塗布具である被保持部材を取り付け、
前記加工室内に配置されたロボットに、内部にペースト状潤滑剤が充填されるとともに一部が開口された保管容器を取り付け、
前記ロボットおよび前記工具保持装置の少なくとも一方を駆動して、前記保管容器の前記被保持部材に対する相対的な位置および姿勢を変更することで、前記被保持部材を、前記開口を通じて前記保管容器内に進入させて、前記被保持部材に前記ペースト状潤滑剤を接触させ
、
前記塗布具を前記保管容器内に進入させた後、前記ペースト状潤滑剤が付着した前記塗布具がワークの加工対象箇所に接触するように、前記工具保持装置を駆動させる、
ことを特徴とするペースト状潤滑剤の塗布方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、工具保持装置を備えた工作機械、および、工具またはワークにペースト状潤滑剤を塗布する塗布方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来から、工作機械によるワークの加工を自動化し、夜間等、人員を確保することが難しい場面では、無人で加工を継続できるようにすることが提案されている。ここで、ワークを加工する際には、加工摩擦の低減を目的として、加工箇所に潤滑剤を供給する必要がある。ワークの加工を自動化した場合、当然ながら、この潤滑剤の供給も自動化する必要がある。特許文献1には、液状の潤滑剤を自動供給する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-34232号公報
【文献】実開平5-24249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうした潤滑剤として、水溶性切削液を使用することが考えられる。しかし、高精度なタップ加工を行う場合や、加工負荷の高い大径のタップ加工を行う場合、水溶性切削液では、十分な潤滑性が得られず、加工精度が低下する。
【0005】
そこで、水溶性切削液に替えて、油性切削液を用いることも考えられる。しかし、油性切削液は、引火性液体であるため、油性切削液を用いる場合は、人による監視が必要である。そのため、油性切削液を用いた場合、無人でのワークの加工ができず、加工効率を十分に向上できない。
【0006】
そこで、一部では、液状の潤滑剤ではなく、ペースト状潤滑剤を用いることが提案されている。ペースト状潤滑剤は、潤滑剤として高い性能を有するため、高精度なタップ加工や、加工負荷の高い大径のタップ加工も可能となる。また、ペースト状潤滑剤は、非引火性物質のため、人による監視が不要である。
【0007】
特許文献2には、こうしたペースト状潤滑剤を自動で工具に塗布する技術が提案されている。具体的には、特許文献2には、直進移動可能な給油ノズルと、給油ノズルの根本側からペースト状潤滑剤を供給する供給機構と、を備え、給油ノズルの先端開口内に工具を差し込んだ状態で、給油ノズルの根本側からペースト状潤滑剤を供給することで、工具にペースト状潤滑剤を供給する装置が開示されている。かかる技術によれば、無人で工具にペースト状潤滑剤を供給できる。結果として、加工の自動化が可能となり、加工効率をより向上できる。
【0008】
しかし、特許文献2の技術の場合、ペースト状潤滑剤の供給のために、大型で高価な供給機構を設ける必要があった。この供給機構は、ペースト状潤滑剤の供給以外に利用することができないため、工作機械として他の作業を行う場合には、改めて別の機構を設置する必要がある。結果として、特許文献2の技術では、工作機械全体のコストアップや大型化を招いていた。
【0009】
そこで、本明細書では、大型化を抑制しつつ、加工効率をより向上できる工作機械、および、ペースト状潤滑剤の塗布方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書で開示する工作機械は、加工室内に配置され、工具が取り付けられる工具取付部を1以上有する工具保持装置と、内部にペースト状潤滑剤が充填されるとともに一部が開口された保管容器と、前記加工室内に配置され、前記保管容器を、その位置および姿勢を変更可能に保持するロボットと、1以上の前記工具取付部の一つに取り付けられた前記工具または塗布具である被保持部材が前記開口を通じて前記保管容器内に進入して前記ペースト状潤滑剤と接触するように、前記ロボットおよび前記工具保持装置の少なくとも一方を駆動して、前記保管容器の前記被保持部材に対する相対的な位置および姿勢を変更するコントローラと、を備えることを特徴とする。
【0011】
この場合、前記被保持部材は、前記工具であり、前記コントローラは、前記工具を前記保管容器内に進入させた後、前記ペースト状潤滑剤が付着した前記工具でワークを加工するように、前記工具保持装置を駆動してもよい。
【0012】
また、前記被保持部材は、前記塗布具であり、前記コントローラは、前記塗布具を前記保管容器内に進入させた後、前記ペースト状潤滑剤が付着した前記塗布具がワークの加工対象箇所に接触するように、前記工具保持装置を駆動してもよい。
【0013】
また、前記コントローラは、前記被保持部材が、同じ前記保管容器内の同じ箇所に2回以上進入しないように、前記被保持部材の進入箇所を、進入のたびに変更してもよい。
【0014】
また、前記ロボットは、関節を介して連結された2以上のリンクを有し、全体として3自由度以上の自由度を有する多関節ロボットであってもよい。
【0015】
また、前記ロボットは、前記ペースト状潤滑剤の塗布を行っていない期間中に、工具交換、ワーク交換、加工状態のセンシングの少なくとも一つを実行してもよい。
【0016】
また、前記工具保持装置は、刃物台または主軸頭であり、前記塗布具は、ブラシ、ローラ、刷毛、ヘラ、スポンジ、の少なくとも一つを含んでもよい。
【0017】
また、本明細書で開示するペースト状潤滑剤の塗布方法は、加工室内に配置された工具保持装置が有する1以上の工具取付部のうちの一つに、工具または塗布具である被保持部材を取り付け、前記加工室内に配置されたロボットに、内部にペースト状潤滑剤が充填されるとともに一部が開口された保管容器を取り付け、前記ロボットおよび前記工具保持装置の少なくとも一方を駆動して、前記保管容器の前記被保持部材に対する相対的な位置および姿勢を変更することで、前記被保持部材を、前記開口を通じて前記保管容器内に進入させて、前記被保持部材に前記ペースト状潤滑剤を接触させる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本明細書で開示する技術によれば、工具または塗布具にペースト状潤滑剤を自動で付着させることができる。その結果、人がいない環境下でも、ペースト状潤滑剤を用いた加工を実行できる。結果として、無人環境下での自動加工が可能であるため、加工効率をより向上できる。また、ロボットは、ペースト状潤滑剤の塗布以外にも利用できるため、工作機械に、多数の機構を設ける必要がなく、工作機械の大型化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】ペースト状潤滑剤を、工具に塗布する様子を示すイメージ図である。
【
図3】ペースト状潤滑剤を、工具に塗布する他の様子を示すイメージ図である。
【
図5】ブラシにペースト状潤滑剤を塗布する様子を示すイメージ図である。
【
図6】ブラシを用いて、ワークの加工対象箇所にペースト状潤滑剤を塗布する様子を示すイメージ図である。
【
図7】ローラを用いて、ワークの加工対象箇所にペースト状潤滑剤を塗布する様子を示すイメージ図である。
【
図8】ヘラを用いて、ワークの加工対象箇所にペースト状潤滑剤を塗布する様子を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、工作機械10の構成について図面を参照して説明する。
図1は、工作機械10の概略的な正面図である。以下の説明では、ワーク56の回転軸と平行な方向をZ軸、刃物台20のZ軸と直交する移動方向と平行な方向をX軸と呼ぶ。本例において、X軸は、工作機械10の正面から見て、後方に進むにつれ上方に進む後上がり方向の軸である。
【0021】
この工作機械10は、自転するワーク56に刃物台20で保持した工具50を当てることで、素材を加工する旋盤である。より具体的には、この工作機械10は、NC制御されるとともに、複数の工具50を保持するタレット22を備えたターニングセンタである。
【0022】
工作機械10の加工室12の周囲は、カバー14で覆われている。カバー14にはドア(図示せず)が設けられており、オペレータは、必要に応じて、ドアを開閉し、加工室12内にアクセスする。
【0023】
工作機械10は、ワーク56の一端を自転可能に保持する主軸台16と、工具50を保持する刃物台20と、を備えている。主軸台16は、ワーク56を回転させる主軸を有した台である。この主軸台16には、ワーク56を着脱自在に保持するチャック18やコレットが設けられており、保持するワーク56を適宜、交換できる。チャック18は、ワーク56とともに、水平方向(Z軸方向)に延びる回転軸を中心として自転する。
【0024】
刃物台20は、工具50を保持する工具保持装置である。この刃物台20は、Z軸、すなわち、ワーク56の回転軸と平行な方向に移動可能となっている。また、刃物台20の載置面は、X軸と平行な方向に傾斜しており、刃物台20は、この載置面に沿って移動することで、X軸方向にも移動できる。換言すれば、刃物台20は、ワーク56の軸方向および径方向の双方向に進退できる。
【0025】
刃物台20の端面には、複数の工具50を保持可能なタレット22が設けられている。タレット22は、Z軸方向視で多角形をしており、Z軸に平行な軸を中心として回転可能となっている。このタレット22の周面には、工具50が取り付けられる工具取付部24が複数設けられている。この工具取付部24の形態は、特に限定されないが、例えば、工具取付部24は、工具50または工具ホルダの一部が挿し込まれる穴でもよい。そして、このタレット22を回転させることで、加工に使用する工具50を変更できる。タレット22で保持される工具50は、旋削に使用される旋削用工具(「バイト」とも呼ばれる)でもよいし、転削に使用される転削工具(「エンドミル」とも呼ばれる)でもよい。また、工具50は、ネジ切り加工に用いられる工具(「タップ」とも呼ばれる)や、穴開け加工に用いられるドリル等でもよい。こうした工具50は、直接、または、工具ホルダを介して、タレット22に装着される。なお、旋削工具やタップ、ドリルのように、加工時に、自転する必要がある工具50は、原則として、特定の工具取付部24にのみ装着可能となっている。この特定の工具取付部24に装着された工具には、刃物台20に内蔵されたモータの回転力が伝達されるようになっている。
【0026】
タレット22に保持された工具50は、刃物台20を、Z軸と平行な方向に移動することで、Z軸と平行な方向に移動する。また、刃物台20をX軸と平行な方向に移動させることで、タレット22に保持された工具50は、X軸に平行な方向に移動する。そして、刃物台20をX軸に平行な方向に移動させることで、工具50による素材の切り込み量等が変更できる。
【0027】
加工室12内には、さらに、機内ロボット30およびオートエンドエフェクタチェンジャ38が設けられている。機内ロボット30は、加工室12の内部に設けられたロボットである。ここで、「ロボット」とは、二つ以上の軸についてプログラムによって動作し、ある程度の自律性をもち、所定の作業を実行する運動機構のことである。
【0028】
機内ロボット30は、後述する保管容器40を保持できるのであれば、その形態は、特に限定されない。したがって、機内ロボット30は、三つの直進関節を有するガントリロボットや、二つの回転関節と一つの直進関節とを有し、それらの軸が極座標系を構成する極座標ロボットや、閉ループ構造を構成するリンクを有するパラレルリンクロボットでもよい。本例では、機内ロボット30として、関節34を介して接続された複数のリンク32を有する多関節ロボットを採用している。この機内ロボット30は、少なくとも、3自由度以上の自由度を有しており、その先端の位置および姿勢を自由に変更できる。なお、
図1では、機内ロボット30を加工室12の側面に設置しているが、機内ロボット30は、刃物台20で保持された工具50にアクセスできるのであれば、その設置場所や構成は適宜、変更されてもよい。例えば、機内ロボット30は、加工室12の天面や刃物台20に設置されてもよい。
【0029】
機内ロボット30には、エンドエフェクタ36が取り付けられている。エンドエフェクタ36は、機内ロボット30が所定の作業を行うために、当該機内ロボット30に装着される機構である。エンドエフェクタ36は、機内ロボット30の先端に、着脱可能に装着されている。例えば、機内ロボット30には、エンドエフェクタ36の装着状態を維持するラッチ(図示せず)が設けられており、このラッチを解除することで、エンドエフェクタ36を機内ロボット30から取り外すことができる。また、エンドエフェクタ36は、予め、複数種類が用意されており、機内ロボット30が行う作業種類に応じて、当該機内ロボット30に装着するエンドエフェクタ36を交換できる。
【0030】
加工室12には、機内ロボット30に装着するエンドエフェクタ36を自動的に交換するオートエンドエフェクタチェンジャ38が設けられている。オートエンドエフェクタチェンジャ38は、機内ロボット30が所定の解除動作をすれば、当該機内ロボット30に装着されていたエンドエフェクタ36を受け取り、機内ロボット30が所定の装着動作をすれば、収容中のエンドエフェクタ36を機内ロボット30に装着する。かかるオートエンドエフェクタチェンジャ38の構成は、特に限定されない。したがって、オートエンドエフェクタチェンジャ38は、オートツールチェンジャと同様の構成でもよい。
【0031】
また、オートエンドエフェクタチェンジャ38は、エンドエフェクタ36を係合保持する係合部を複数有してもよい。この場合、機内ロボット30から装着中のエンドエフェクタ36を取り外す場合、機内ロボット30は、その姿勢を変更して、装着中のエンドエフェクタ36を係合部に係合させる。その後、機内ロボット30は、ラッチを解除して機内ロボット30とエンドエフェクタ36との連結を解除する。そして、最後に、機内ロボット30が移動すれば、エンドエフェクタ36は、係合部に係合された状態のままオートエンドエフェクタチェンジャ38に残存し、両者が分離する。一方、機内ロボット30に新たなエンドエフェクタ36を装着する場合、機内ロボット30は、移動して、オートエンドエフェクタチェンジャ38に係合しているエンドエフェクタ36の一つと連結できる位置まで移動し、ラッチを掛ける。その後、機内ロボット30が、エンドエフェクタ36と係合部との係合を解除できる方向に移動すればよい。
【0032】
いずれにしても、本例の機内ロボット30は、装着するエンドエフェクタ36の種類を自動的に交換できるようになっている。工作機械10は、エンドエフェクタ36として、少なくとも、保管容器40が固着されたエンドエフェクタ36、または、保管容器40を保持可能なエンドエフェクタ36を有している。保管容器40を保持可能なエンドエフェクタ36としては、例えば、対象物を保持する保持機構が該当する。この場合、エンドエフェクタ36は、一対の部材で対象物を把持するハンド装置でもよいし、対象物を吸引保持する吸引チャックでもよいし、磁力等を利用して対象物を保持する磁気チャックでもよい。
【0033】
また、工作機械10は、さらに、別の種類のエンドエフェクタ36を有してもよい。例えば、工作機械10は、エンドエフェクタ36の一つとして、対象物に関する情報をセンシングするセンサを有してもよい。この場合、エンドエフェクタ36は、例えば、対象物への接触の有無を検知する接触センサや、対象物までの距離を検知する距離センサ、対象物の振動を検知する振動センサ、対象物から付加される圧力を検知する圧力センサ、対象物の温度を検知するセンサ等でもよい。
【0034】
また、別の形態として、工作機械10は、エンドエフェクタ36として、ワーク56の加工を補助するための流体を出力する装置を有してもよい。この場合、エンドエフェクタ36は、切粉を吹き飛ばすためのエアや、工具50またはワーク56に、液状潤滑剤(例えば水性切削液や油性切削液等)を放出する装置でもよい。また、工作機械10は、エンドエフェクタ36として、ワーク造形のためエネルギまたは材料を放出する装置を有してもよい。この場合、エンドエフェクタ36は、例えば、レーザやアークを放出する装置でもよいし、積層造形のために材料を放出する装置でもよい。さらに別の形態として、工作機械10は、エンドエフェクタ36として、対象物を撮影するカメラを有してもよい。
【0035】
機内ロボット30に装着するエンドエフェクタ36を交換可能とすることで、機内ロボット30は、様々な作業を実施できる。すなわち、本例によれば、一つの機内ロボット30で、ワーク56や工具50を保持して搬送したり、対象物の状態をセンシングしたり、加工を保持したり、できる。その結果、工作機械10の大型化を避けつつ、オペレータが行う作業量を低減でき、加工の自動化をより促進できる。
【0036】
加工の自動化をより促進するために、本例の機内ロボット30は、保管容器40を保持できる。すなわち、機内ロボット30は、保管容器40が固着されたエンドエフェクタ36、または、保管容器40を保持可能な保持装置であるエンドエフェクタ36が装着できる。機内ロボット30に、保持装置が装着されている場合、さらに、加工室12に、保管容器40の載置台を設けてもよい。この場合、機内ロボット30は、必要に応じて、載置台に載置された保管容器を、保持装置(すなわちエンドエフェクタ36)で保持する。
【0037】
図4は、保管容器40の斜視図である。保管容器40は、ペースト状潤滑剤42が充填されるとともに、その一部(
図4の例では、保管容器40の上面)が開口された箱状容器である。ペースト状潤滑剤42は、常温でペースト状であり、加工熱で液状に変化する潤滑剤である。このペースト状潤滑剤42は、優れた潤滑性能を有しており、工具50またはワーク56に塗布されることで、工具50とワーク56との間の摩擦を低減し、工具50を保護する。かかるペースト状潤滑剤42は、一般的な旋削加工でも有用であるが、摩擦抵抗が大きくなりやすい加工、例えば、タッピング加工やドリル加工において、特に有用である。ここで、油性切削液も、ペースト状潤滑剤42と同様に、優れた潤滑性能を有する。ただし、油性切削液は、引火性液体であるため、使用時には、人の監視が必要である。一方、ペースト状潤滑剤42は、非引火性であるため、人が監視していない環境下でも使用できる。
【0038】
ペースト状潤滑剤42は、常温では、重力で流動しない程度の粘土を有している。そのため、ペースト状潤滑剤42を充填した保管容器40の姿勢を変更し、保管容器40の開口を横や下に向けたとしても、ペースト状潤滑剤42が、開口から垂れ落ちることはない。一方で、ペースト状潤滑剤42は、あくまでペースト状であるため、工具50や後述するブラシ52が保管容器40内に進入した際、工具50等の形状に応じて流動変形し、工具50等の進入を許容する。機内ロボット30が、こうしたペースト状潤滑剤42を保持する理由については、後述する。
【0039】
コントローラ26は、オペレータからの指示に応じて、工作機械10の各部の駆動を制御する。このコントローラ26は、物理的には、プロセッサ26aとメモリ26bとを有したコンピュータである。この「コンピュータ」には、コンピュータシステムを一つの集積回路に組み込んだマイクロコントローラも含まれる。また、コントローラ26は、例えば、工具50やワーク56の位置を随時演算する数値制御装置を含んでもよい。ここで、プロセッサ26aとは、広義的なプロセッサを指し、汎用的なプロセッサ(例えばCPU:Central Processing Unit、等)や、専用のプロセッサ(例えばGPU:Graphics Processing Unit、ASIC:Application Specific Integrated Circuit、FPGA:Field Programmable Gate Array、プログラマブル論理デバイス、等)を含むものである。また、プロセッサ26aは、単一である必要はなく、物理的に離れた位置に存在する複数のプロセッサ26aを有してもよい。メモリ26bも、物理的に一つの要素である必要はなく、物理的に離れた位置に存在する複数のメモリで構成されてもよい。また、メモリ26bは、半導体メモリ(例えばRAM、ROM、ソリッドステートドライブ等)および磁気ディスク(例えば、ハードディスクドライブ等)の少なくとも一つを含んでもよい。
【0040】
コントローラ26は、例えば、ワーク56を工具50で加工する際に、主軸台16や刃物台20の動きを制御する。また、本例のコントローラ26は、さらに、必要に応じて、機内ロボット30および刃物台20を駆動して、刃物台20で保持されている工具50に、ペースト状潤滑剤42を塗布させる。以下、このペースト状潤滑剤42の塗布処理について詳説する。
【0041】
上述した通り、ペースト状潤滑剤42は、優れた潤滑性能を有しているため、摩擦の低減が強く求められる加工、例えば、高精度なタップ加工や、大径のタップ加工の際に、多用される。従来、こうしたペースト状潤滑剤42は、オペレータが、手作業で、工具50やワーク56に塗布していた。しかし、加工効率の更なる向上のためには、人が少ない時間帯(例えば夜間等)には、工作機械10が、予め登録されたプログラムに従い、無人で加工を継続する無人加工の実現が求められる。こうした無人加工の実現のため、ペースト状潤滑剤42の塗布も、人に頼ることなく、自動で行うことが求められている。
【0042】
そこで、本例では、このペースト状潤滑剤42の塗布処理を自動化している。
図2は、ペースト状潤滑剤42を、工具50に塗布する様子を示すイメージ図である。
図2の例では、タレット22の工具取付部24の一つには、工具50としてタップが、その軸方向が水平となる姿勢で取り付けられている。かかる工具50にペースト状潤滑剤42を塗布する場合、コントローラ26は、機内ロボット30の姿勢を変更させて、保管容器40の開口を、工具50に向ける。
図2の例では、保管容器40の上面に開口が設けられているため、この上面が、工具50の軸に対して略直交するように、機内ロボット30が、姿勢変更する。ペースト状潤滑剤42は、重力で流動しない程度の粘度を有しているため、かかる姿勢を取ったとしても、ペースト状潤滑剤42は、垂れ落ちない。
【0043】
そして、その状態で、工具50が、開口を通じて保管容器40の内部に進入するように、機内ロボット30および刃物台20の少なくとも一方を駆動する。コントローラ26は、工具50の塗布対象部分が、全て、ペースト状潤滑剤42に埋もれるまで、機内ロボット30および刃物台20を相対移動させる。
【0044】
塗布対象部分が全てペースト状潤滑剤42に埋もれれば、コントローラ26は、再び、機内ロボット30および刃物台20の一方を駆動し、工具50を、保管容器40の外側に移動させる。このとき、ペースト状潤滑剤42の一部は、工具50に付着した状態のまま工具50とともに移動する。その結果、保管容器40から離脱した工具50は、ペースト状潤滑剤42が塗布された状態となる。この状態になれば、機内ロボット30は、加工の邪魔にならない位置に退避する。そして、コントローラ26は、主軸台16および刃物台20を駆動して、工具50によるワーク56の加工を開始する。
【0045】
以上の説明から明らかなとおり、本例によれば、ペースト状潤滑剤42を自動的に工具50に塗布できる。その結果、ペースト状潤滑剤42を使用する加工を無人環境下で行うことができ、加工効率をより向上できる。
【0046】
また、本例では、保管容器40は、自由度の高い機内ロボット30で保持している。そのため、刃物台20で保持される工具50の姿勢に応じて、保管容器40の姿勢を自由に変更できる。結果として、様々な姿勢の工具50に、ペースト状潤滑剤42を塗布できる。すなわち、コントローラ26は、塗布対象の工具50の取り付け姿勢を予め記憶しており、この工具50の姿勢に応じて、保管容器40の姿勢、ひいては、機内ロボット30の姿勢を変更する。例えば、
図3に示すように、工具50が、鉛直方向下向きの姿勢で、工具取付部24に取り付けられている場合、機内ロボット30は、そのアームの姿勢を変更して、保管容器40の開口を鉛直方向上向きにする。そして、その状態で、工具50を保管容器40の内部に進入させることで、工具50にペースト状潤滑剤42を塗布する。
【0047】
また、コントローラ26は、工具50の保管容器40への進入箇所を、進入のたびに変更している。これについて
図4を参照して説明する。繰り返し述べる通り、ペースト状潤滑剤42は、重力で流動しない程度の粘度を有している。そのため、ペースト状潤滑剤42のうち、工具50が差し込まれた箇所には、工具50の形状に応じた穴(以下「進入穴44」と呼ぶ)が形成される。常温環境下では、この進入穴44は、時間が経過しても、崩れることなく、そのまま残存し続ける。すでに形成済みの進入穴44に、工具50が進入した場合、工具50とペースト状潤滑剤42との接触面積が低下し、工具50に十分な量のペースト状潤滑剤42を塗布できない。そこで、コントローラ26は、工具50が、進入穴44に進入しないように、保管容器40への進入箇所を、進入のたびに変更している。
【0048】
例えば、コントローラ26は、保管容器40に充填されたペースト状潤滑剤42の上面(すなわち開口との対向面)を、複数のエリアに分割して管理してもよい。この場合、一つのエリアは、工具50一つの直径より十分に大きくしておく。そして、コントローラ26は、工具50が進入したエリアを使用済みエリア、工具50が進入していないエリアを未使用エリアとして記憶しておき、新たな工具50の進入箇所は、未使用エリアの中から選択していく。そして、すべてのエリアに工具50が進入し、未使用エリアが無くなれば、コントローラ26は、機内ロボット30で保持する保管容器40を新しいものに交換する。このように、工具50の保管容器40への進入箇所を、進入のたびに変更することで、工具50に、適切な量のペースト状潤滑剤42を、繰り返し塗布できる。
【0049】
また、コントローラ26は、工具50のペースト状潤滑剤42を塗布しない期間中、機内ロボット30に他の作業、例えば、工具交換、ワーク交換、加工状態のセンシングの少なくとも一つを実行させてもよい。また、これらの作業を実行するために、機内ロボット30の際には、必要に応じて、機内ロボット30に装着するエンドエフェクタ36を交換してもよい。このように、ペースト状潤滑剤42の塗布に用いる機内ロボット30に、他の作業も実施させることで、工作機械10の大型化を防止しつつ、加工の自動化をより促進できる。
【0050】
また、これまでの説明では、ペースト状潤滑剤42を、工具50に直接的に塗布している。しかし、工具50ではなく、ワーク56の加工対象箇所にペースト状潤滑剤42を塗布してもよい。ただし、ワーク56の加工対象箇所にペースト状潤滑剤42を、保管容器40から直接塗布することは難しいため、この場合には、塗布具51を用いて、塗布すればよい。これについて、
図5、
図6を参照して説明する。
図5、
図6は、塗布具51であるブラシ52を用いて、ワーク56の加工対象箇所にペースト状潤滑剤42を塗布する様子を示すイメージ図である。
【0051】
図5に示すように、この場合、ブラシ52は、刃物台20の工具取付部24に取り付けられている。このブラシ52は、シャフトの全周囲に毛が植えられたロールブラシである。コントローラ26は、このブラシ52が、保管容器40内に進入するように、機内ロボット30および刃物台20の少なくとも一方を駆動する。そして、ブラシ52がペースト状潤滑剤42の内部に埋もれれば、当該ブラシ52を保管容器40から取り出す。これにより、ブラシ52には、ペースト状潤滑剤42が付着した状態となる。この状態になれば、コントローラ26は、
図6に示すように、刃物台20を駆動して、当該刃物台20が保持しているブラシ52を、加工対象箇所に接触させる。これにより、ブラシ52に付着しているペースト状潤滑剤42の一部が、加工対象箇所に転写され、加工対象箇所にペースト状潤滑剤42が塗布される。
【0052】
このように、ブラシ52等の塗布具51を介在させることで、ワーク56にもペースト状潤滑剤42を塗布できる。なお、これまでの説明では、塗布具51として、ブラシ52を例示したが、塗布具51は、ペースト状潤滑剤42を塗り広げることができるのであれば、他の形態でもよい。例えば、塗布具51は、所定のシャフトを中心として自転可能なローラでもよい。この場合、ローラは、塗布対象箇所の形状に合わせて弾性変形できる程度の弾性を有する樹脂ローラまたはゴムローラでもよい。さらに、塗布具51は、刷毛、ヘラ、スポンジの少なくとも一つを有してもよい。
【0053】
また、これまでの説明では、工具取付部24に取り付けられた工具50および塗布具51(すなわち「被保持部材」)を、保管容器40に充填されたペースト状潤滑剤42に埋もれさせているが、例えば、工具50および塗布具51の一部を、ペースト状潤滑剤42の表面に接触させた状態を維持したまま、工具50または塗布具51を保管容器40に対して移動させてもよい。例えば、
図3に示すように、工具50が、その先端に刃50aが形成された旋削工具の場合を考える。この場合、コントローラ26は、刃50aをペースト状潤滑剤42の表面に接触させた状態で、工具50を当該表面と平行な方向に相対移動させてもよい。かかる動きをすることで、ペースト状潤滑剤42の表面が工具50の刃50aで削り取られ、この削り取られたペースト状潤滑剤42が刃50aに付着する。また、別の形態として、
図7に示すように、塗布具51としてローラ53を用いる場合を考える。この場合、コントローラ26は、当該ローラ53がペースト状潤滑剤42の表面で転がるように、ローラ53を保管容器40に対して移動させてもよい。かかる動きをすることで、ローラ53の外周面にペースト状潤滑剤42が付着する。
【0054】
このように、工具50および塗布具51を、ペースト状潤滑剤42に埋もれさせない構成とすることで、進入穴44の形成を抑制でき、保管容器40の交換頻度を少なくできる。また、この場合、工具50または塗布具51の、ペースト状潤滑剤42の表面への接触圧力を調整することで、工具50または塗布具51に付着するペースト状潤滑剤42の量を調整できる。
【0055】
さらに、塗布具51を用いてワーク56にペースト状潤滑剤42を塗布する場合、刃物台20だけでなく、主軸台16も駆動してもよい。例えば、
図8に示すように、塗布具51として、ヘラ54を用いる場合を考える。
図8の例では、ワーク56の一端に形成された穴の内周面が、加工対象部位となる。この場合、ヘラ54の先端縁を、保管容器40に挿し込むことで、ヘラ54の先端縁にペースト状潤滑剤42を付着させることができる。換言すれば、ヘラ54は、その一方向端部にしかペースト状潤滑剤42が付着しない。これは、360度の全範囲にペースト状潤滑剤42が付着するロールブラシと大きく異なる。こうしたヘラ54の先端縁を、ワーク56の加工対象部位、すなわち、穴の内周面に接触させる。その状態で、主軸台16を駆動して、ワーク56を自転させれば、ペースト状潤滑剤42を、穴の全内周面に塗り広げることができる。このように、ペースト状潤滑剤42が付着した塗布具51を、加工対象部位に接触させた状態で、主軸台16を駆動してワーク56を自転させることで、ヘラ54や刷毛のように、ペースト状潤滑剤42が一方向端部にしか付着しない塗布具51を用いて、ワーク56の様々な面にペースト状潤滑剤42を塗布できる。
【0056】
また、これまでの説明では、工具50を保持する工具保持装置として、刃物台20を例に挙げて説明したが、工具保持装置は、1以上の工具取付部24を有するのであれば、他の装置でもよい。例えば、
図9に示すように、工作機械10は、工具保持装置として、主軸頭60を有してもよい。主軸頭60は、ドリル、フライス、砥石等の工具50を回転可能に保持する部位である。この主軸頭60に、工具50または塗布具51を取り付け、その状態で、工具50または塗布具51の一部がペースト状潤滑剤42と接触するように、機内ロボット30および主軸頭60を相対移動させてもよい。なお、本明細書で記載した「刃物台」、「主軸台」、「主軸頭」の用語の意味は、いずれも、それぞれ、日本工業規格(JIS)の規格「JIS B0106 工作機械10-部品および工作方向-用語」で規定された意味に従う。
【符号の説明】
【0057】
10 工作機械、12 加工室、14 カバー、16 主軸台、18 チャック、20 刃物台、22 タレット、24 工具取付部、26 コントローラ、26a プロセッサ、26b メモリ、30 機内ロボット、32 リンク、34 関節、36 エンドエフェクタ、38 オートエンドエフェクタチェンジャ、40 保管容器、42 ペースト状潤滑剤、44 進入穴、50 工具、50a 刃、51 塗布具、52 ブラシ、53 ローラ、54 ヘラ、56 ワーク、60 主軸頭。