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  • 特許-非水電解液二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/052 20100101AFI20240718BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240718BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0567
H01M10/0587
H01M4/13
H01M4/62 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021041687
(22)【出願日】2021-03-15
(65)【公開番号】P2022141404
(43)【公開日】2022-09-29
【審査請求日】2022-04-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】細江 健斗
(72)【発明者】
【氏名】松原 伸典
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-011969(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0106637(KR,A)
【文献】特開2020-071944(JP,A)
【文献】特開平10-154513(JP,A)
【文献】特開2000-082472(JP,A)
【文献】特開2016-058153(JP,A)
【文献】特開2014-026932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052
H01M 10/0567
H01M 10/0587
H01M 4/13
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、セパレータと、を含む電極体、および
非水電解液、
を備える非水電解液二次電池であって、
前記負極は、負極活物質層を備え、
前記負極活物質層は、負極活物質と、バインダと、増粘剤と、を含有し、
前記増粘剤が、LiOHを用いて合成されたカルボキシメチルセルロース塩であるか、前記バインダが、LiOHを用いて合成されたスチレンブタジエンゴムであるかの少なくともいずかであり、
前記正極は、正極活物質層を備え、
前記正極活物質層中のNa含有量、前記負極活物質層中のNa含有量、および前記セパレータ中のNa含有量の合計に対する、前記負極活物質層中のNa含有量の割合(%)が、5%以下であり、
前記非水電解液は、リチウムビス(オキサラト)ボレートを含有し、
レーザーアブレーションICP質量分析によって求まる前記負極活物質層中のNa含有量が、50μg/g以下である、
非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質層の主面の短辺方向に沿って抵抗分布測定を行った際に、抵抗が最も低い箇所における抵抗値に対する、抵抗が最も高い箇所の抵抗値の割合が、1.10以下である、請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記LiOHを用いて合成されたカルボキシメチルセルロース塩において、カルボキシル基の80モル%以上90モル%以下がLiと塩を形成している、請求項1または2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記電極体が、捲回電極体である、請求項1~3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池等の非水電解液二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
非水電解液二次電池の非水電解液に、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)を添加する技術が知られている。LiBOBの添加により、負極に良好な皮膜が形成され、正極活物質からの遷移金属の溶出を防止でき、これにより抵抗上昇を抑制することができる。一方で、非水電解液二次電池内には、不純物としてNaが混入する。この混入したNaはLiBOBと反応して、ナトリウムビス(オキサラト)ボレート(NaBOB)を生成し得る。
【0004】
そこで、非水電解液二次電池内で生成するNaBOBの量を減少させるために、電極を、LiBOBを含有する電解液で洗浄する技術が知られている。例えば、特許文献1では、不純物としてNaを含有する電極を用いて積層型電極体を作製し、積層型電極群の積層方向と直交する方向の一端を、LiBOBを含有する電解液に浸し、当該電解液を一端に対向する他端に向かって浸透させ、その後、積層型電極体の当該他端を含む領域を除去する技術が開示されている。この技術によれば、電解液が電極体に浸透する際に、電極に含まれるNaがLiBOBと反応し、生成したNaBOBは、電解液の浸透に伴って電極体の他端に移動する。この他端を含む領域を除去することにより、NaBOBをある程度除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-26297号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、上記従来技術においては、初期抵抗の低減および金属Li析出耐性の向上に関し、改善の余地があることを見出した。
【0007】
かかる事情に鑑み、本発明は、非水電解液がリチウムビス(オキサラト)ボレートを含有する非水電解液二次電池であって、初期抵抗が低減され、かつ金属Li析出耐性が高い非水電解液二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、電池の各構成部材のNa量について鋭意検討を行った。その結果、負極に用いられる増粘剤およびバインダに改良を加えることにより、Na量を大幅に低減できることを見出した。そして本発明者らがさらに検討を進めた結果、電池の構成部材内に含まれるNaのうち、負極に含まれるNaが電池特性に悪影響を大きく及ぼすことを見出した。
【0009】
そこで、ここに開示される非水電解液二次電池は、正極と、負極と、セパレータと、を含む電極体、および非水電解液を備える。前記負極は、負極活物質層を備える。前記非水電解液は、リチウムビス(オキサラト)ボレートを含有する。レーザーアブレーションICP質量分析によって求まる前記負極活物質層中のNa含有量は、311μg/g以下である。
【0010】
このような構成によれば、非水電解液がリチウムビス(オキサラト)ボレートを含有する非水電解液二次電池であって、初期抵抗が低減され、かつ金属Li析出耐性が高い非水電解液二次電池が提供される。
【0011】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、前記正極は、正極活物質層を備える。前記正極活物質層中のNa含有量、前記負極活物質層中のNa含有量、および前記セパレータ中のNa含有量の合計に対する、前記負極活物質層中のNa含有量の割合(%)は、33%以下である。このような構成によれば、初期抵抗がより小さくなると共に、金属Li析出耐性がより高くなる。
【0012】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、前記負極活物質層の主面の短辺方向に沿って抵抗分布測定を行った際に、抵抗が最も低い箇所における抵抗値に対する、抵抗が最も高い箇所の抵抗値の割合が、1.10以下である。このような構成によれば、初期抵抗がより小さくなると共に、金属Li析出耐性がより高くなる。
【0013】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、前記負極活物質層は、負極活物質と、バインダと、増粘剤と、を含有する。前記増粘剤は、カルボキシメチルセルロース塩であり、前記カルボキシメチルセルロース塩の少なくとも一部のカチオンが、Liイオンである。このような構成によれば、初期抵抗がより小さくなると共に、金属Li析出耐性がより高くなる。
【0014】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、前記負極活物質層は、負極活物質と、Naを含有しないアクリル系バインダと、を含有する。このような構成によれば、初期抵抗がより小さくなると共に、金属Li析出耐性がより高くなる。
【0015】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、前記電極体は、捲回電極体である。このような構成によれば、初期抵抗低減効果が、より発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の内部構造を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池の捲回電極体の構成を示す模式分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明に係る実施の形態を説明する。なお、本明細書において言及していない事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0018】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイスをいい、いわゆる蓄電池、および電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。また、本明細書において「リチウムイオン二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0019】
以下、捲回電極体を備える扁平角型のリチウムイオン二次電池を例にして、本発明について詳細に説明するが、本発明をかかる実施形態に記載されたものに限定することを意図したものではない。
【0020】
図1に示すリチウムイオン二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解液80とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。また、電池ケース30には、非水電解液80を注入するための注入口(図示せず)が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質としては、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0021】
捲回電極体20は、図1および図2に示すように、正極シート50と、負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回された形態を有する。正極シート50は、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された構成を有する。負極シート60は、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成されている構成を有する。正極活物質層非形成部分52a(すなわち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)および負極活物質層非形成部分62a(すなわち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)は、捲回電極体20の捲回軸方向(すなわち、上記長手方向に直交するシート幅方向)の両端から外方にはみ出すように形成されている。正極活物質層非形成部分52aおよび負極活物質層非形成部分62aには、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0022】
正極シート50を構成する正極集電体52としては、例えばアルミニウム箔等が挙げられる。正極活物質層54に含まれる正極活物質としては、例えばリチウム遷移金属酸化物(例、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等)、リチウム遷移金属リン酸化合物(例、LiFePO等)等が挙げられる。
【0023】
正極活物質層54は、活物質以外の成分、例えば導電材やバインダ等を含み得る。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0024】
セパレータ70は、多孔性の部材であり、セパレータとして好適には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂から成る多孔性シート(フィルム)が用いられる。かかる多孔性シートは、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。
【0025】
セパレータ70の表面には、耐熱層(HRL)が設けられていてもよい。HRLは、公知の非水電解液二次電池のセパレータが備える耐熱層と同様であってよく。例えば、アルミナ、シリカ、ベーマイト、マグネシア、チタニア等のセラミック粒子と、PVDF等のバインダなどを含む。
【0026】
負極シート60を構成する負極集電体62としては、例えば銅箔等が挙げられる。負極活物質層64に含まれる負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。負極活物質層64は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。
【0027】
リチウムイオン二次電池100の内部には、正極活物質の不純物、正極活物質層54のバインダの不純物、セパレータ70のHRL内の不純物、負極活物質層64のバインダおよび増粘剤の不純物等に由来するNaが存在し得る。このNaはLiBOBと反応して、NaBOBを生成し、このNaBOBが初期抵抗等の電池特性に悪影響を及ぼす。本発明者らの鋭意検討により、後述の実施例および比較例の結果が示すように、電池の構成部材に含まれるNaの中でも、負極に含まれるNaが電池特性に悪影響を大きく及ぼすことを見出した。そこで、本実施形態においては、レーザーアブレーションICP質量分析によって求まる負極活物質層64中のNa含有量が、311μg/g以下である。このようなNa含有量範囲では、初期抵抗が顕著に小さくなり、さらに金属Li析出耐性が顕著に向上する。より小さい初期抵抗と、より高い金属Li析出耐性の観点からは、負極活物質層64中のNa含有量は、好ましくは200μg/g以下であり、より好ましくは100μg/g以下であり、さらに好ましくは50μg/g以下であり、最も好ましくは10μg/g以下である。
【0028】
一方、レーザーアブレーションICP質量分析によって求まる正極活物質層54中のNa含有量は、特に限定されず、100μg/g以上、150μg/g以上、または180μg/g以上であってよく、300μg/g以下、または250μg/g以下であってよい。また、レーザーアブレーションICP質量分析によって求まるセパレータ70中のNa含有量は、特に限定されず、100μg/g以上、150μg/g以上、または200μg/g以上であってよく、300μg/g以下、または250μg/g以下であってよい。
【0029】
なお、レーザーアブレーションICP質量分析は、公知のレーザーICP質量分析(LA-ICP-MS)装置を用いて行うことができる。
【0030】
負極活物質層64は、Na含有量が311μg/g以下である限り、その組成は特に限定されない。
【0031】
負極活物質層64中のNa含有量を減少させる方法の一つとして、バインダにおける不純物としてのNa含有量を減少させる方法が挙げられる。負極活物質層に用いられるバインダとして最も一般的なものはスチレンブタジエンゴム(SBR)である。しかしながら、SBRはその合成時に用いられるNaOHを不純物として含有する。そこで、バインダとして、Na含有成分を用いずに合成されたバインダを使用することにより、負極活物質層64中のNa含有量を減少させることができる。具体的には、バインダとして、NaOHに代えてLiOHを用いて合成したスチレンブタジエンゴムを用いることにより、負極活物質層64中のNa含有量を減少させることができる。
【0032】
また、本発明者らの検討では、負極に用いられる増粘剤に改良を加えることにより、Na量を大幅に低減できることを見出した。具体的には、負極活物質層に用いられる増粘剤として最も一般的なものはカルボキシメチルセルロース(CMC)であり、このCMCは、合成の際にNaOHが用いられるため、カルボキシル基の一部はNaイオンと塩を形成している。したがって、負極に用いられている一般的なCMCは、Naを含有している。すなわち、負極活物質層に増粘剤として用いられるCMCは、実際はCMCのNa塩ともいえる。そこで、増粘剤として、Na含有成分を用いずに合成された増粘剤を使用することにより、負極活物質層64のNa含有量を減少させることができる。具体的には、増粘剤としてLiOHを用いて合成したCMCを用いることにより、負極活物質層64のNa含有量を減少させることができる。このLiOHを用いて合成したCMCは、CMC塩であって、カチオンの一部が少なくともLiを含有する塩ということができ、増粘剤として好適には、CMCのリチウム塩である。CMCのリチウム塩において、カルボキシル基の80モル%以上90モル%以下がLiと塩を形成していることが好ましい。
【0033】
また、増粘剤およびバインダの両方の機能を備え、Na含有成分を用いずに合成されたバインダを用いることにより、負極活物質層64のNa含有量を減少させることができる。Na含有成分を用いずに合成されたバインダは、Naを含有しないバインダということができる。このようなバインダの例としては、Na含有成分を用いずに合成されたアクリル系バインダ(すなわち、Naを含有しないアクリル系バインダ)が挙げられる。よって、負極活物質層64の好ましい一形態は、負極活物質と、Naを含有しないアクリル系バインダとを含有し、より好ましい形態では、負極活物質、およびNaを含有しないアクリル系バインダのみを含有する。
【0034】
負極活物質層64中の負極活物質の含有量は、特に限定されないが、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。負極活物質層64中のバインダの含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.1質量%以上8質量%以下であり、より好ましくは0.2質量%以上3質量%以下であり、さらに好ましくは0.3質量%以上2質量%以下である。負極活物質層64中の増粘剤の含有量は、特に限定されないが、好ましくは0.3質量%以上3質量%以下であり、より好ましくは0.4質量%以上2質量%以下である。
【0035】
より小さい初期抵抗とより高い金属Li析出耐性の観点から、正極活物質層54中のNa含有量、負極活物質層64中のNa含有量、およびセパレータ70中のNa含有量の合計に対する、負極活物質層64中のNa含有量の割合(%)は、例えば45%以下であり、好ましくは33%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、最も好ましくは3%以下である。
【0036】
より小さい初期抵抗と、より高い金属Li析出耐性の観点から、負極活物質層64の主面の短辺方向(すなわち、幅方向)に沿って抵抗分布測定を行った際に、抵抗が最も低い箇所における抵抗値に対する、抵抗が最も高い箇所の抵抗値の割合は、例えば1.17以下であり、好ましくは1.10以下であり、より好ましくは1.07以下であり、さらに好ましくは1.05以下である。なお、捲回電極体20においては、抵抗が最も高い箇所は、通常、捲回軸方向における中央部(具体的には、中心から±20%までの領域、特に、中心から±10%までの領域)にある。
【0037】
なお、抵抗分布測定は、負極活物質層64の主面の短辺方向に沿って、交流インピーダンス法により、所定の間隔(例えば、負極活物質層64の全幅のうち、負極活物質層64の端部から30%までの部分は5mm間隔、中央部(残りの40%の部分)は2mm間隔)で抵抗値を測定することにより、行うことができる。
【0038】
非水電解液80は、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)を含有する。また、非水電解液80は、典型的には非水溶媒および支持塩を含有する。非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる各種のカーボネート類、エーテル類、エステル類、ニトリル類、スルホン類、ラクトン類等の有機溶媒を、特に限定なく用いることができる。なかでも、カーボネート類が好ましく、その具体例としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)等が挙げられる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0039】
支持塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiClO等のリチウム塩(好ましくはLiPF)を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
【0040】
非水電解液80中のLiBOBの含有量は、例えば、0.1質量%以上であり、好ましくは0.3質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。一方、非水電解液80中のLiBOBの含有量は、例えば、1.5質量%以下であり、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.7質量%以下である。
【0041】
なお、上記非水電解液80は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、例えば、ビフェニル(BP)、シクロヘキシルベンゼン(CHB)等のガス発生剤;ビニレンカーボネート(VC)等の被膜形成剤;分散剤;増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
【0042】
以上のようにして構成されるリチウムイオン二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウムイオン二次電池100は、典型的には複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態でも使用され得る。
【0043】
なお、一例として捲回電極体20を備える角形のリチウムイオン二次電池100について説明した。リチウム二次電池100の有する電極体20は、複数の正極と、複数の負極とがセパレータを介して交互に積層された積層型電極体であってもよい。しかしながら、捲回電極体20においては、リチウムイオン二次電池100の製造過程において非水水電解液80を捲回電極体20に含浸させる際に、捲回電極体20の開口端部の両方から非水電解液80が浸入する。そのため、捲回電極体20においては、捲回電極体20の捲回軸方向における中央部において、NaBOBが蓄積しやすい。そのため、捲回電極体20は、積層型電極体に比べて、NaBOBによる悪影響を受けやすい。具体的には、捲回電極体20では、中央部において抵抗が増加しやすい。したがって、リチウムイオン二次電池100が備える電極体20が捲回電極体である場合には、初期抵抗低減効果が、顕著となる。また、リチウムイオン二次電池100が備える電極体20が捲回電極体である場合には、特許文献1に記載された技術によってNaBOBを除去することも困難である。
【0044】
リチウムイオン二次電池100の構成は、上述の構成に限られず、リチウムイオン二次電池100は、円筒形リチウムイオン二次電池、ラミネート型リチウムイオン二次電池等として構成することもできる。また、ここに開示される技術は、リチウムイオン二次電池以外の非水電解液二次電池にも適用可能である。
【0045】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0046】
<負極の準備>
バインダAとして、NaOHを中和剤として用いて合成したスチレンブタジエンゴム(SBR)を用意した。また、Na含有量が小さいバインダBとして、LiOHを中和剤として用いて合成したスチレンブタジエンゴムを用意した。
【0047】
増粘剤Aとして、NaOHを用いて合成したカルボキシメチルセルロース(ナトリウム塩)を用意した。また、Na含有量が小さい増粘剤Bとして、LiOHを用いて合成したカルボキシメチルセルロース(カルボキシル基の88モル%がLiと塩形成したリチウム塩)を用意した。
【0048】
また、バインダと増粘剤の両方の機能を有するものとして、Na含有成分を用いずに合成したアクリル系バインダを用意した。
【0049】
負極活物質としての天然黒鉛(C)と、バインダと、増粘剤とを、C:バインダ:増粘剤=98:1:1の質量比でイオン交換水と混合して、負極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、長尺状の銅箔の両面に帯状に塗布して乾燥した後、プレスすることにより負極シートを作製した。なお、上記アクリル系バインダを用いる場合は、天然黒鉛(C)と、アクリル系バインダとを、C:アクリル系バインダ=98:2の質量比で用いた。
【0050】
このとき、バインダと増粘剤に関し、バインダAと増粘剤Aとの組み合わせ、バインダBと増粘剤Aとの組み合わせ、バインダAと増粘剤Bとの組み合わせ、アクリル系バインダのみ、の4種類の負極シートA~Dを作製した。
【0051】
得られた負極シートの負極活物質層の一部を切り出した。これを試料として、レーザICP質量分析装置を用いて、レーザーアブレーションICP質量分析を行い、負極活物質層中のNa含有量を測定した。その結果、負極シートA中の負極活物質層中のNa含有量は420μg/gであり、負極シートB中の負極活物質層中のNa含有量は311μg/gであり。負極シートC中の負極活物質層中のNa含有量は191μg/gであり、負極シートD中の負極活物質層中のNa含有量は9μg/gであった。
【0052】
<正極の準備>
正極活物質としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3(LNCM)と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、LNCM:AB:PVdF=90:8:2の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、正極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、長尺状のアルミニウム箔の両面に帯状に塗布して乾燥した後、プレスすることによりNa含有量の多い正極シートAを作製した。
【0053】
また、この正極シートAを、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とをEC:DMC:EMC=3:3:4の体積比で含む混合溶媒を用いて30分間洗浄したものを、Na含有量の少ない正極シートBとして用意した。
【0054】
得られた正極シートの正極活物質層の一部を切り出した。これを試料として、レーザICP質量分析装置を用いて、レーザーアブレーションICP質量分析を行い、正極活物質層中のNa含有量を測定した。その結果、正極シートAの正極活物質層中のNa含有量は183μg/gであり、正極シートBの正極活物質層中のNa含有量は88μg/gであった。
【0055】
<セパレータの準備>
Na含有量の異なる2種類のセパレータシートを用意した。具体的には、PP/PE/PPの三層構造の多孔質ポリオレフィンシートにHRLが設けられたものを、Na含有量の多いセパレータシートAとして用意した。また、このセパレータシートAをECとDMCとEMCとをEC:DMC:EMC=3:3:4の体積比で含む混合溶媒を用いて30分間洗浄したものを、Na含有量の少ないセパレータシートBとして用意した。
【0056】
用意したセパレータシートの一部を切り出した。これを試料として、レーザICP質量分析装置を用いて、レーザーアブレーションICP質量分析を行い、セパレータシート中のNa含有量を測定した。その結果、セパレータシートA中のNa含有量が202μg/g、セパレータシートB中のNa含有量が65μg/gであった。
【0057】
<評価用リチウムイオン二次電池の作製>
上記で作製した正極シートと、負極シートと、2枚の上記用意したセパレータシートとを積層し、捲回した後、側面方向から押圧して拉げさせることによって扁平形状の捲回電極体を作製した。使用した各部材のNa含有量を表1に示す。
【0058】
次に、捲回電極体に正極端子および負極端子を接続し、電解液注入口を有する角型の電池ケースに収容した。続いて、電池ケースの電解液注入口から非水電解液を注入し、当該注入口を気密に封止した。なお、非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とをEC:DMC:EMC=3:3:4の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを1.1mol/Lの濃度で溶解させ、さらにLiBOBを0.5質量%となるように添加したものを用意した。
【0059】
その後、活性化処理を行って、各実施例および各比較例の評価用リチウムイオン二次電池を得た。
【0060】
<負極のNa量/全体のNa量>
正極活物質層中のNa含有量、負極活物質層中のNa含有量、およびセパレータ中のNa含有量の合計に対する、負極活物質層中のNa含有量の割合を、上記レーザーアブレーションICP質量分析の結果を用いて算出した。
【0061】
<抵抗分布測定>
作製した各評価用リチウムイオン二次電池を、開回路電圧が3.0Vとなるまで放電させてからドライ環境のグローブボックス内で解体し、捲回型電極体を取り出した。次に、捲回型電極体の負極の最内周の適切な大きさで切り出し、EMC中に10分程度浸漬して洗浄して、抵抗測定用の試験体とした。そしてこの試験体に形成された負極活物質層の表面の反応抵抗を、負極活物質層の幅方向に沿って、交流インピーダンス法により測定した。交流インピーダンス法による抵抗測定は、特開2014-25850号公報に開示される手法に従って実施した。このとき負極活物質層の端部から30%までの部分は5mm間隔で、中央部(残りの40%の部分)は2mm間隔で抵抗値を求めた。
【0062】
<初期抵抗比>
各評価用リチウムイオン二次電池をSOC60%に調整した。これを-10℃の環境下に置き、10秒間放電した。放電電流レートは1C、3C、5C、10Cとし、各電流レートで放電した後の電圧を測定した。電流レートおよび電圧よりIV抵抗を算出し、その平均値を電池抵抗とした。比較例1のリチウムイオン二次電池の抵抗を「100」とした場合のその他の電池の抵抗の比を算出した。結果を表1に示す。
【0063】
<金属リチウム析出耐性>
各評価用リチウムイオン二次電池を、-10℃の環境下に置き、所定の電流値で、5秒間充電、10分間休止、5秒間放電、10分間休止を1サイクルとする充放電サイクルを1000サイクル実施した。その後、各リチウムイオン二次電池を解体し、負極上での金属リチウムの析出の有無を確認した。負極上での金属リチウムの析出が確認されなかった電流値のうち、最大の電流値を限界電流値とした。比較例1のリチウムイオン二次電池の限界電流値を「100」としたときの、その他のリチウムイオン二次電池の限界電流値の比を求めた。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1の結果より、負極活物質層中のNa含有量を減少させた実施例1~3は、比較例に比べて、初期抵抗が小さく、金属Li析出耐性も高いことがわかる、また、負極活物質層中のNa含有量が小さいほど、初期抵抗がより小さく、金属Li析出耐性がより高くなることがわかる。一方、比較例1~4の比較より、正極活物質層中のNa含有量を減少させても、初期抵抗および金属Li析出耐性に影響がないことがわかる。また、セパレータ中のNa含有量を減少させても、初期抵抗および金属Li析出耐性に影響がないことがわかる。また、正極活物質層中のNa含有量とセパレータ中のNa含有量の両方を減少させても、初期抵抗に影響はなく、金属Li析出耐性向上効果もほとんど得られないことがわかる。
【0066】
このことから、ここに開示される非水電解液二次電池によれば、初期抵抗が小さく、かつ金属Li析出耐性が高いことがわかる。
【0067】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0068】
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
80 非水電解液
100 リチウムイオン二次電池
図1
図2