(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】プレス成形方法及びプレス成形装置
(51)【国際特許分類】
B21D 24/04 20060101AFI20240718BHJP
B21D 5/01 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B21D24/04 F
B21D5/01 A
(21)【出願番号】P 2021052271
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(74)【代理人】
【識別番号】100218132
【氏名又は名称】近田 暢朗
(72)【発明者】
【氏名】勝間 秀人
(72)【発明者】
【氏名】柴 孝志
(72)【発明者】
【氏名】水田 直気
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-320941(JP,A)
【文献】実開平04-108916(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2008/0053184(US,A1)
【文献】再公表特許第2015/008495(JP,A1)
【文献】特開2001-314918(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 24/04
B21D 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パンチに対してプレス方向と直交する方向である横方向に離間して配置されたダイとブランクホルダとでブランクの端部を挟持すると共に、前記パンチとパッドで前記ブランクの一部を挟持することと、
前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記パンチの肩部と前記ダイの前記パンチ側の端部との最短距離が延びるように、プレス方向に沿って移動させる第1工程を実行することと、
前記第1工程に続いて、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記最短距離が延びるように、前記プレス方向と交差する方向に、前記パンチに向けて斜めに移動させる第2工程を実行することと
を含み、
前記第2工程は、
前記第1工程に続いて、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記横方向に対して第1傾斜角度を有する方向に、前記パンチに向けて斜めに移動させる第1段階を実行することと、
前記第1段階に続いて、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記横方向に対して第2傾斜角度を有する方向に、前記パンチに向けて斜めに移動させる第2段階であって、前記第2傾斜角度が前記第1傾斜角度よりも小さい第2段階を実行することと
を含む、プレス成形方法。
【請求項2】
前記第2工程の前記第1段階及び前記第2段階に、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダが移動する方向は、前記パンチの前記肩部を中心とし前記最短距離を半径とする円弧上の移動開始時の前記ダイのパンチ側の端部が位置する位置における接線の方向又は当該接線よりも前記プレス方向に近い方向である、請求項1に記載のプレス成形方法。
【請求項3】
前記第2工程の前記第1段階における前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダの移動は、横方向の移動量よりも前記プレス方向の移動量が大きい、請求項1又は2に記載のプレス成形方法。
【請求項4】
前記第2工程は、前記第1段階と前記第2段階のみを含み、
前記第2段階における前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダの移動は、横方向の移動量が前記プレス方向の移動量より大きい、請求項1から3のいずれか1項に記載のプレス成形方法。
【請求項5】
前記第2工程の終了時に、前記ブランクホルダの側部が前記パンチの側部に接する、請求項1から4のいずれか1項に記載のプレス成形方法。
【請求項6】
前記パンチの前記側部と、前記ダイの側部とは互いに相補的な形状を有し、前記第2工程の終了時に、前記パンチの前記側部と前記ダイの前記側部との間に前記ブランクが挟持される、請求項5に記載のプレス成形方法。
【請求項7】
前記パンチの前記側部はプレス方向に対して負角をなしている、請求項5に記載のプレス成形方法。
【請求項8】
前記パンチは前記パッドと共に前記ブランクの前記一部を挟持する部分に段差を有する、請求項1から7のいずれか1項に記載のプレス成形方法。
【請求項9】
前記第1傾斜角度と前記第2傾斜角度が以下の式で表される、請求項1から8のいずれか1項に記載のプレス成形方法。
α:第1傾斜角度
β:第2傾斜角度
H:ハット形状の断面高さ
θ:ハット形状の縦壁の角度
n:第2工程の第1段階の伸び率
m:第2工程の第2段階の伸び率
【請求項10】
パッドと共にブランクの一部を挟持するパンチと、
前記パンチに対してプレス方向と直交する方向である横方向に離間して配置され、ブランクホルダと共に前記ブランクの端部を挟持するダイと
前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを移動させる駆動機構と
を備え、
前記駆動機構は、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記パンチの肩部と前記ダイの前記パンチ側の端部との最短距離が延びるように、プレス方向に沿って移動させた後、前記最短距離が延びるように、前記プレス方向と交差する方向に、前記パンチに向けて斜めに移動させ、
前記駆動機構による、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダの前記斜めの移動は、前記横方向に対して第1傾斜角度を有する方向の移動と、前記横方向に対する傾斜角度が前記第1傾斜角度より小さい第2傾斜角度である移動とを含む、プレス成形装置。
【請求項11】
前記駆動機構は、
前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記プレス方向の相対移動を規制しつつ、前記横方向に移動可能に保持し得る保持部であって、前記プレス方向に移動可能な保持部と、
前記プレス方向の前記保持部の移動に伴って前記ダイ又は前記ブランクホルダに係合して、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記横方向に対して前記第1傾斜角度を有する方向に移動するように案内する第1傾動案内部と、
前記プレス方向の前記保持部の移動に伴って前記ダイ又は前記ブランクホルダに係合して、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記横方向に対して前記第2傾斜角度を有する方向に移動するように案内する第2傾動案内部と
を備える、請求項10に記載のプレス成形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形方法及びプレス成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されたプレス成形方法では、パンチに対してプレス方向と直交する方向である横方向に離間して配置されたダイとブランクホルダとでブランクの端部を挟持すると共に、前記パンチとパッドでブランクの一部を挟持し、ダイとブランクホルダをプレス方向に移動させた後、さらにプレス方向に対して斜めに移動させる。より具体的には、ブランクを挟持したダイとブランクホルダを、パンチに近づく方向に一定角度で一段階のみ移動させる。これによりブランクはパンチの肩部で曲げられる。このプレス成形方法により、ブランクをハット断面形状の成形品に成形できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のプレス成形方法では、ブランクを挟持したダイとブランクホルダの斜めの移動が一定角度かつ一段階のみであるので、成形中、ブランクのパンチとダイとの間の部分(ハット断面形状の成形品の縦壁となる部分)に加わる張力が不足する。張力不足の結果、ブランクのパンチとダイとの間の部分に、皺が生じる。張力不足を解消するには、ダイとブランクホルダの移動をより急角度、つまりプレス方向に対する角度をより小さくする必要がある。ダイとブランクホルダの移動をより急角度とすると、成形完了までのパンチとダイのプレス方向の移動量が過度に大きくなり、例えばハット断面形状の成形品の場合、深い製品形状にしか成形できない。
【0005】
また、特許文献1のプレス成形方法では、ブランクのうち成形開始時にダイのパンチ側の端部においてダイとブランクホルダによって挟持されていた部分が、成形終了時までにパンチ側に移動する量が大きい。言い換えると、ブランクのパンチとダイとの間の部分(ハット断面形状の成形品の縦壁となる部分)に対するダイのすべり量が大きい。このすべり量が大きいと、例えばハット断面形状の成形品の場合、縦壁の反りを生じることになる。
【0006】
本発明は、プレス成形において、成形品に皺や反りが生じるのを防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、パンチに対してプレス方向と直交する方向である横方向に離間して配置されたダイとブランクホルダとでブランクの端部を挟持すると共に、前記パンチとパッドで前記ブランクの一部を挟持することと、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記パンチの肩部と前記ダイの前記パンチ側の端部との最短距離が延びるように、プレス方向に沿って移動させる第1工程を実行することと、前記第1工程に続いて、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記最短距離が延びるように、前記プレス方向と交差する方向に、前記パンチに向けて斜めに移動させる第2工程を実行することとを含み、前記第2工程は、前記第1工程に続いて、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記横方向に対して第1傾斜角度を有する方向に、前記パンチに向けて斜めに移動させる第1段階を実行することと、前記第1段階に続いて、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記横方向に対して第2傾斜角度を有する方向に、前記パンチに向けて斜めに移動させる第2段階であって、前記第2傾斜角度が前記第1傾斜角度よりも小さい第2段階を実行することとを含む、プレス成形方法を提供する。
【0008】
ダイとブランクホルダで挟持されたブランクの端部は、まずプレス方向に沿って移動し、パンチの肩部において曲げられると共に、パンチの肩部とダイのパンチ側の端部との最短距離の延びに応じて延ばされる(第1工程)。その後、ダイとブランクホルダで挟持されたブランクの端部は、プレス方向に交差する方向に、パンチに向けて斜めに移動し、パンチの肩部において曲げられると共に、パンチの肩部とダイのパンチ側の端部との最短距離の延びに応じて延ばされる(第2工程)。第2工程は一定角度の一段階のみの移動により構成されているのではなく、横方向に対して相対的に大きな第1傾斜角度を有する第1段階と、横方向に対して相対的に小さな第2傾斜角度を有する第2段階とを含む。
【0009】
以上のように、このプレス成形方法では、ブランクの端部をダイとブランクホルダで挟持してブランクをパンチに押し付けている。また、このプレス成形方法では、特にブランクの端部をパンチに向けて斜めに移動させる第2工程が、相対的に大きな第1傾斜角度の第1段階と相対的に小さな第2傾斜角度の第2段階を含む点で、ダイとブランクホルダで挟持したブランクの端部を、パンチを大きく回り込むように移動させている。そのため、ブランクには過剰な張力が作用することがなく、割れが防止される。また、ブランクは常に適切な張力が作用した状態で曲げられるので、皺が防止される。さらに、ブランクは張力が作用した状態で曲げられるので(引張曲げ)、パンチの肩部のブランクの曲げ部における、ブランクの内側に作用する圧縮応力と、ブランクの外側に作用する引張応力の差が緩和される。その結果、スプリングバックが軽減される。さらに、ブランクの成形開始時にダイのパンチ側の端部に位置していた部分が、成形開始から終了までの間に移動する量を低減できるので、縦壁の反りが軽減される。
【0010】
前記第2工程の前記第1段階及び前記第2段階に、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダが移動する方向は、前記パンチの前記肩部を中心とし前記最短距離を半径とする円弧上の移動開始時の前記ダイのパンチ側の端部が位置する位置における接線の方向又は当該接線よりも前記プレス方向に近い方向であってもよい。
【0011】
この方向にブランクの端部を挟持したダイとブランクホルダを移動させることで、ブランクに適度な張力を作用させ続けることができる。
【0012】
前記第2工程の前記第1段階における前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダの移動は、横方向の移動量よりも前記プレス方向の移動量が大きくてもよい。
【0013】
第2工程の最初の段階である第1段階に、ダイとブランクの横方向の移動量よりもプレス方向の移動量を大きくすることで、ブランクに対して十分な張力を作用させることができる。
【0014】
前記第2工程は、前記第1段階と前記第2段階のみを含み、前記第2段階における前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダの移動は、横方向の移動量が前記プレス方向の移動量より大きくてもよい。
【0015】
第2工程の最後の段階である第2段階に、ダイとブランクの横方向の移動量をプレス方向の移動量よりも大きく設定することで、ブランクをパンチの下部に回り込ませるような態様でブランクを曲げることができる。
【0016】
前記第2工程の終了時に、前記ブランクホルダの側部が前記パンチの側部に接してもよい。
【0017】
これにより、ブランクをダイでパンチの側部に押し付けるように変形させて加工を終了することできる。
【0018】
前記パンチの前記側部と、前記ダイの側部とは互いに相補的な形状を有し、前記第2工程の終了時に、前記パンチの前記側部と前記ダイの前記側部との間に前記ブランクが挟持されてもよい。
【0019】
加工の最終段階でブランクをパンチとダイとの間に挟持することで、反りを抑制することができる。
【0020】
前記パンチの前記側部はプレス方向に対して負角をなしていてもよい。
【0021】
これにより成形品の縦壁に対して負角成形を施すことができる。
【0022】
前記パンチは前記パッドと共に前記ブランクの前記一部を挟持する部分に段差を有してもよい。
【0023】
これにより、ブランクに斜面を形成することができる。
【0024】
前記第1傾斜角度と前記第2傾斜角度が以下の式で表されるものであってもよい。
【0025】
【数1】
α:第1傾斜角度
β:第2傾斜角度
H:ハット形状の断面高さ
θ:ハット形状の縦壁の角度
n:第2工程の第1段階の伸び率
m:第2工程の第2段階の伸び率
【0026】
本発明の第2の態様は、パッドと共にブランクの一部を挟持するパンチと、前記パンチに対してプレス方向と直交する方向である横方向に離間して配置され、ブランクホルダと共に前記ブランクの端部を挟持するダイと、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを移動させる駆動機構とを備え、前記駆動機構は、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記パンチの肩部と前記ダイの前記パンチ側の端部との最短距離が延びるように、プレス方向に沿って移動させた後、前記最短距離が延びるように、前記プレス方向と交差する方向に、前記パンチに向けて斜めに移動させ、前記駆動機構による、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダの前記斜めの移動は、前記横方向に対して第1傾斜角度を有する方向の移動と、前記横方向に対する傾斜角度が前記第1傾斜角度より小さい第2傾斜角度である移動とを含む、プレス成形装置を提供する。
【0027】
前記駆動機構は、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記プレス方向の相対移動を規制しつつ、前記横方向に移動可能に保持し得る保持部であって、前記プレス方向に移動可能な保持部と、前記プレス方向の前記保持部の移動に伴って前記ダイ又は前記ブランクホルダに係合して、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記横方向に対して前記第1傾斜角度を有する方向に移動するように案内する第1傾動案内部と、前記プレス方向の前記保持部の移動に伴って前記ダイ又は前記ブランクホルダに係合して、前記ブランクの前記端部を挟持した前記ダイと前記ブランクホルダを、前記横方向に対して前記第2傾斜角度を有する方向に移動するように案内する第2傾動案内部とを備えてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るプレス成形方法及びプレス成形装置によれば、成形品に皺や反りが生じるのを防止することができると共に、成形品に割れやスプリングバックが生じるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施形態に係るプレス成形方法を説明するための模式的な断面図。
【
図2】本発明の実施形態に係るプレス成形方法を実施するためのプレス成形装置の一例を示す模式的な断面図。
【
図3】本発明の実施形態に係るプレス成形方法を実施するためのプレス成形装置の一例を示す背面図。
【
図4】第1工程終了時のプレス成形装置を示す
図2と同様の断面図。
【
図5】第2工程の第1段階終了時のプレス成形装置を示す
図2と同様の断面図。
【
図6】第2工程の第2段階終了時のプレス成形装置を示す
図2と同様の断面図。
【
図7】第1傾斜角度、第2傾斜角度を含むパラメータの設定を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0031】
図1を参照して、本発明の実施形態に係るプレス成形方法を説明する。
図1には、後述するプレス成形装置10(
図2から
図6参照)を構成する要素の一部が図示されている。これらの要素については、プレス成形装置10を図示した図面と同一の符号を付している。
【0032】
ブランク1の材質は、特に限定されないが、本実施形態では、高強度の板材の一例である高張力鋼材である。高張力鋼材に本実施形態のプレス成形方法を適用することは、後述するように、皺、反り、割れ、及びスプリングバックを防止する上で特に有効である。本実施形態におけるブランク1は厚さが一定の平坦な板である。
【0033】
ブランク1の一部、より具体的には図において左側の端部1aはパンチ13とパッド19によって挟持される。パンチ13の頂部13aは本実施形態では平坦である。パンチ13の側部13bはプレス方向PDに対して負角θをなしている。パッド19は、図において上方から、ブランク1の端部1aを頂部13aに押し付けている。
【0034】
パンチ13に対してプレス方向PDと直交する方向である水平方向ないし横方向LDに離間した位置にダイ14とブランクホルダ16が配置されている。ブランクホルダ16はダイ14の下方に配置されている。本実施形態では、ダイ14の底部14aとブランクホルダ16の底部16aはいずれも平坦である。また、ブランクホルダ16とダイ14がプレス成形開始時の位置、つまり初期位置IPにあるとき、ダイ14の底部14aはパンチ13の頂部13aと面一である。ブランク1の図において右側の端部1bは、ダイ14の底部14aとブランクホルダ16の頂部16aとの間に挟持されており、ダイ14とブランクホルダ16が初期位置IPにあるとき、ブランク1の姿勢は概ね水平である。
【0035】
ダイ14のパンチ13と対向する側の側部14b(パンチ側の側部)は、前述のように負角θをなしているパンチ13の側部13bに対して相補的な形状を有する。つまり、ダイ14の側部14bはプレス方向PDに向かってパンチ13の側部13bに向かう傾斜を有しており、この傾斜の角度はパンチ13の側部13bの負角θに対応している。
【0036】
ダイ14とブランクホルダ16は、ブランク1の端部1bを挟持した状態を維持しつつ、プレス方向PD及び横方向LDの両方について相対的な位置関係を維持したまま移動する。プレス成形終了時の位置、つまり最終位置FPにおけるブランクホルダ16を二点鎖線で示す。初期位置IPと最終位置FPとを比較すれば明らかなように、プレス成形の開始から終了までに、ダイ14とブランクホルダ16は、プレス方向PD(
図1において下方)に移動するだけでなく、横方向LD(パンチ13に接近する方向)に移動する。このダイ14とブランクホルダ16の移動によって、ブランク1が成形される。具体的には、ブランク1はパンチ13の肩部13c(頂部13aと側部13bによって形成されている)において、曲げられる。また、ブランク1はダイ14のパンチ13側の端部14cにおいて曲げられる。これらの曲げに加え、後述するように、ブランク1、より具体的には、ブランク1のパンチ13の肩部13cからダイ14のパンチ13側の端部14cまでの部分が延ばされる。つまり、このプレス成形方法では、ブランク1に引張曲げが施され、それによってブランク1が成形品2に加工される。
【0037】
このプレス成形方法における、ブランク1の端部1bを挟持したダイ14とブランクホルダ16の移動は、大きく2つの工程、つまり第1工程と第2工程を含む。第2工程は第1工程に続いて連続して実行される。また、本実施形態では、第2工程は、連続して実行される2つの段階、つまり第1段階と第2段階とを含む。以下、第1工程及び第2工程を説明する。
【0038】
(第1工程)
第1工程では、ブランク1の端部1bを挟持したダイ14とブランクホルダ16をプレス方向PDに沿って移動させる。ここで、「プレス方向PDに沿って」とは、プレス方向PDと一致する方向に移動させる場合と、プレス方向PDから小さな角度(例えば、プレス方向PDに対しては20度以上60度以下で、横方向LDに対しては30度以上70度以下)をなす方向に移動させる場合の両方を含む意味である。本実施形態では、ダイ14とブランクホルダ16を、プレス方向PDと一致する方向(
図1において下向き)に移動させる。第1工程の開始時、つまりダイ14とブランクホルダ16が初期位置IPにあるときのブランク1を符号ST1で示し、第1工程の終了時(第2工程の第1段階の開始時でもある)のブランク1を符号ST2で示す。また、第1工程の開始から終了までのブランク1のダイ14のパンチ13側の端部14cの移動の向きと量を矢印A1で示す。
【0039】
第1工程では、ダイ14とブランク1はプレス方向PDに移動するので、パンチ13の肩部13cとダイ14のパンチ13側の端部14cとの最短距離が延びる。従って、ブランク1がパンチ13の肩部13aとダイ14のパンチ13側の端部14cとにおいて曲げられるだけでなく、ブランク1のパンチ13の肩部13cとダイ14の端部14cとの間の部分に対して張力が作用して延ばされる。
【0040】
(第2工程)
前述のように、第1工程に続いて連続的に第2工程が実行され、まずは第1段階、そしてそれに続いて連続的に第2段階が実行される。第2工程では、ブランク1の端部を挟持したダイ14とブランクホルダ16を、パンチ13の肩部13cとダイ14のパンチ13側の端部14cとの最短距離が延びるように、プレス方向PDと交差する方向に、パンチ13に向けて斜めに移動させる。
【0041】
(第1段階)
第1段階では、ブランク1の端部1bを挟持したダイ14とブランクホルダ16を、横方向LDに対して第1傾斜角度αを有する方向に、パンチ13に向けて斜めに移動させる。第1段階の開始時のブランク1を符号ST2で示し、第1段階の終了時のブランク1を符号ST3で示す。また、第1段階の開始から終了までのブランク1のダイ14のパンチ13側の端部14cの移動の向きと量を矢印A21で示す。
【0042】
第2工程の第1段階においてブランク1の端部1bを挟持したダイ14とブランクホルダ16が移動する方向(矢印A21)は、パンチ13の肩部13cを中心としパンチ13の肩部13cとダイ14のパンチ13側の端部14cとの最短距離を半径とする円弧21上における、移動開始時のダイ14のパンチ13側の端部14cが位置する位置での接線方向、又はそのような接線よりもプレス方向PDに近い方向である。
【0043】
第2工程の第1段階におけるブランク1の端部1bを挟持したダイ14とブランクホルダ16の移動(矢印A21)は、横方向LDの移動量y
2よりもプレス方向PDの移動量z
2が大きい(
図7参照)。
【0044】
(第2段階)
第2段階では、ブランク1の端部1bを挟持したダイ14とブランクホルダ16を、横方向LDに対して第2傾斜角度βを有する方向に、パンチ13に向けて斜めに移動させる。第2段階の開始時のブランク1を符号ST3で示し、第2段階の終了時のブランク1を符号ST4で示す。また、第2段階の開始から終了までのブランク1のダイ14のパンチ13側の端部14cの移動の向きと量を矢印A22で示す。
【0045】
第2段階においてダイ14とブランクホルダ16の移動方向(矢印A22)が横方向LDに対してなす第2傾斜角度βは、第1段階においてダイ14とブランクホルダ16の移動方向(矢印A21)が横方向LDに対してなす第1傾斜角度αよりも小さい。
【0046】
第2段階におけるブランク1の端部1bを挟持したダイ14とブランクホルダ16の移動(矢印A22)は、横方向LDの移動量y
3がプレス方向PDの移動量z
3より大きい(
図7参照)。
【0047】
第2段階の終了時には(符号ST4)、ブランクホルダ16の側部16bがパンチ13の側部13bに接し、パンチ13の側部13bとダイ14の側部14bとの間にブランク1が挟持される。つまり、ブランク1をダイ14でパンチ13の側部13bに押し付けるように変形させて加工を終了することできる。また、加工の最終段階である第2段階の終了時にブランク1をパンチ13とダイ14との間に挟持することで、反りを抑制することができる。さらに、前述のようにパンチ13の側部13bはプレス方向PDに対して負角θをなしているので、成形品2の縦壁に対して負角成形を施すことができる。
【0048】
本実施形態のプレス成形方法では、ダイ14とブランクホルダ16で挟持されたブランク1の端部1bは、まずプレス方向PDに沿って移動し、パンチ13の肩部13cにおいて曲げられると共に、パンチ13の肩部13cとダイ14のパンチ13側の端部14cとの最短距離の延びに応じて延ばされる(第1工程)。その後、ダイ14とブランクホルダ16で挟持されたブランク1の端部1bは、プレス方向PDに交差する方向に、パンチ13に向けて斜めに移動し、パンチ13の肩部13cにおいて曲げられると共に、パンチ13の肩部13cとダイ14のパンチ13側の端部14cとの最短距離の延びに応じて延ばされる(第2工程)。また、第2工程は一定角度の一段階のみの移動により構成されているのではなく、横方向LDに対して相対的に大きな第1傾斜角度αを有する第1段階と、横方向LDに対して相対的に小さな第2傾斜角度βを有する第2段階とからなる。
【0049】
以上のように、本実施形態のプレス成形方法では、ブランク1の端部1bをダイ14とブランクホルダ16で挟持してブランク1をパンチ13に押し付けている。また、本実施形態のプレス成形方法では、特にブランク1の端部1bをパンチ13に向けて斜めに移動させる第2工程が、相対的に大きな第1傾斜角度αの第1段階と相対的に小さな第2傾斜角度βの第2段階からなり、ダイ14とブランクホルダ16で挟持したブランク1の端部1bを、パンチ13を大きく回り込むように移動させている。そのため、ブランク1には過剰な張力が作用することがなく、割れが防止される。また、ブランク1は常に適切な張力が作用した状態で曲げられるので、皺が防止される。さらに、ブランク1は張力が作用した状態で曲げられるので(引張曲げ)、パンチ13の肩部13cのブランク1の曲げ部における、ブランク1の内側に作用する圧縮応力と、ブランクの外側に作用する引張応力の差が緩和される。その結果、スプリングバックが軽減される。さらに、ブランク1の成形開始時にダイ14のパンチ13側の端部14cに位置していた部分が、成形開始から終了までの間に移動する量を低減できる。言い換えると、ブランク1のパンチ13とダイ14との間の部分(ハット断面形状の成形品の縦壁となる部分)に対するダイ14のすべり量を低減できる。このすべり量低減により、例えばハット断面形状の成形品の場合、縦壁の反りを抑制できる。
【0050】
前述のように、第2工程の第1及び第2段階において、ブランク1の端部1bを挟持したダイ14とブランクホルダ16が移動する方向は、パンチ13の肩部13cを中心とし、パンチ13の肩部13cとダイ14のパンチ13側の端部14cとの最短距離を半径とする円弧C21,C22上における、移動開始時のダイ14のパンチ13側の端部14cが位置する位置での接線の方向、又はそのような接線よりもプレス方向PDに近い方向である。ダイ14とブランクホルダ16が移動する方向をこのような設定することで、第1工程だけでなく第2工程においても、ブランク1に適度な張力を作用させ続けることができる。
【0051】
第2工程の最初の段階である第1段階では、前述のように、ダイ14とブランク1の横方向LDの移動量y2よりもプレス方向PDの移動量z2が大きい。これにより、ダイ14とブランク1を斜めに移動させながらも、ブランク1に対して十分な張力を作用させることができる。
【0052】
第2工程の最後の段階である第2段階では、前述のように、ダイ14とブランク1の横方向LDの移動量y3がプレス方向の移動量z3よりも大きい。これにより、ブランク1をパンチ13の下部に回り込ませるような態様でブランク1を曲げることができる。
【0053】
第2工程は、上述の2つの段階、つまり第1段階と第2段階のみからなるものに限定されない。つまり、第2工程は、3つ以上の段階を含むものであってもよい。例えば、第2工程が3つの段階からなる場合には、最後の第3段階におけるダイ14とブランクホルダ16の移動の横方向LDに対する傾斜角度は、その直前の第2段階におけるダイ14とブランクホルダ16の移動の横方向LDに対する傾斜角度よりも小さく設定される。
【0054】
図2及び
図3は、本実施形態のプレス成形方法を実行するためのプレス成形装置の一例を示す。
【0055】
このプレス成形装置10は、ボルスタ11と、ボルスタ11に対してプレス方向PDに昇降するラム12とを備える。パンチ13はボルスタ11に固定されている。ダイ14を保持するダイ保持部材15がラム12に固定されている。ブランクホルダ16を保持するブランクホルダ保持部材17は、ボルスタ11に備えられているクッション装置18により、昇降を許容する態様で保持されている。パッド19は、ばね19を介してダイ保持部材15に連結されている。クッション装置18は、クッションシリンダ22と、クッションシリンダ22の先端に連結されたクッションパッド23と、基端がクッションパッド23に連結されて先端がブランクホルダ保持部材17を支持する複数のクッションピン24を備える。
図3を参照すれば明らかなように、ダイ14とブランクホルダ16はブランク1の幅方向に延びた形状を有する。この点は、パンチ13とパッド19も同様である。
【0056】
ダイ保持部材15は、ラム12に固定された頂壁15aと、頂壁15aのパンチ13から離れた側から延びる背壁15bと、一対の側壁15cとを備える。ダイ14は直動案内部25を介してダイ保持部材15の側壁15cに連結されている。直動案内部25は、ダイ14のダイ保持部材15に対する横方向LDの相対移動を許容し、プレス方向PDの相対移動を規制する。ダイ14の頂部14aは、ダイ保持部材15の頂壁15aに摺動可能に当接している。ダイ14は、ばね26を介してダイ保持部材15の背壁15bに連結されている。ばね26はパンチ13に近接する方向に、ダイ14を弾性的に付勢している。
【0057】
ブランクホルダ保持部材17は、クッション装置18のクッションピン24に支持された底壁17aと、底壁17aのパンチ13から離れた側から延びる背壁17bと、一対の側壁17cとを備える。ブランクホルダ16はスライドプレート31を介してブランクホルダ保持部材17の底壁17aに支持されている。ブランクホルダ16は、スライドプレート31により摺動抵抗が低減された態様でブランクホルダ保持部材17に対して横方向LDに相対移動が可能であるが、プレス方向PDにはブランクホルダ保持部材17に対して相対移動しない。スライドプレート31は、ブランクホルダ16とブランクホルダ保持部材17の側壁17cの間にも介在している。
【0058】
ダイ保持部材15とブランクホルダ16は、ダイ14とブランクホルダ16の間にブランク1の端部1bが挟持された後の、横方向LDの相対変位が規制される。この相対変位規制のために、本実施形態では、ダイ保持部材15の背壁15bにプレス方向PDに突出するガイドポスト32が設けられ、ブランクホルダ保持部材17の背壁17bにはガイドポスト32が進入する凹部17dが設けられている。ガイドポスト32に代えてヒールガイドを採用してもよい。
【0059】
ダイ14とブランクホルダ16も、ダイ14とブランクホルダ16の間にブランク1の端部1bを挟持した後の横方向LDの相対変位が規制される。この相対変位規制のために、本実施形態では、ダイ14にはピン33が設けられ、ブランクホルダ16の頂部にピン33が進入する凹部16cが設けられている。
【0060】
ブランクホルダ保持部材17はクッション装置18で支持されているので、ダイ14とブランクホルダ16の間にブランク1の端部1bを挟持した後は、ラム12の降下にともって、ダイ保持部材15とブランクホルダ保持部材17、従って、ダイ14とブランクホルダ16は一体的にプレス方向PDに移動する。つまり、ダイ14とブランクホルダ16の間にブランク1の端部1bを挟持した後は、ダイ14とブランクホルダ16はプレス方向PDに相対移動しない状態が維持される。
【0061】
ダイ保持部材15の頂壁15aには、第1規制ピン34と第2規制ピン35が備えられている。第1規制ピン34は、頂壁15aの下面から突出する規制位置と、頂壁15a内に格納された許容位置との移動可能である。規制位置の第1規制ピン34は、ダイ保持部材15に対するダイ14のパンチ13に向かう横方向LDの相対移動を規制する。許容位置の第1規制ピン34は、ダイ保持部材15に対するダイ14のパンチ13に向かう横方向LDの相対移動を許容する。第2規制ピン35は、頂壁15aの下面から突出する規制位置と、頂壁15a内に格納された許容位置との移動可能である。規制位置の第2規制ピンは、ダイ保持部材15に対するダイ14のパンチ13から離れる向きの横方向LDの相対移動を規制する。許容位置の第2規制ピンは、ダイ保持部材15に対するダイ14のパンチ13から離れる向きの横方向LDの相対移動を許容する。
【0062】
プレス成形装置10は、第2工程の第1段階の動作、つまりブランク1の端部1bを挟持したダイ14とブランクホルダ16が、横方向LDに対して第1傾斜角度αを有する方向にパンチ13に向けて斜めに移動する動作を実現するための第1カムドライバ36を備える。また、プレス成形装置10は、第2工程の第2段階の動作、つまりブランク1の端部1bを挟持したダイ14とブランクホルダ16が、横方向LDに対して第2傾斜角度βを有する方向にパンチ13に向けて斜めに移動する動作を実現するための一対の第2カムドライバ37を備える。
【0063】
第1カムドライバ36は、ボルスタ11上においてダイ14及びブランクホルダ16の幅方向の中央に固定配置されている。第1カムドライバ36は、ブランクホルダ16に向いた第1カム面36aを備える。第1カム面36aの横方向LDに対する傾斜角度は第1傾斜角度αに設定されている。
【0064】
一対の第2カムドライバ37は、ボルスタ11上においてダイ14及びブランクホルダ16の幅方向の第1カムドライバ36の両側に固定配置されている。個々の第2カムドライバ37はブランクホルダ16に向いた第2カム面37aを備える。第2カム面37aの横方向LDに対する傾斜角度は第2傾斜角度βに設定されている。
【0065】
ブランクホルダ16の底壁17aには、第1カムドライバ36が進入する第1案内溝17eと、それぞれ第2カムドライバ37が進入する一対の第2案内溝17fとが設けられている。ブランクホルダ保持部材17の底壁17aには貫通孔17g,17hが形成されており、第1案内溝17eと第2案内溝17fは貫通孔17g,17hを介してボルスタ11に向かって開口している。第1案内溝17eの底壁は横方向LDに対する傾斜角度が第1傾斜角度αの第1カムフォロア面17iであり、個々の第2案内溝17fの底壁は横方向LDに対する傾斜角度が第2傾斜角度βの第2カムフォロア面17jである。
【0066】
以下、
図1を参照して説明したプレス成形方法を実行する際のプレス成形装置10の動作を説明する。
【0067】
図2に示すように、ブランク1をプレス成形装置10にセットするためには、ラム12と共にダイ保持部材15を上昇させ、ダイ14の底部14aとブランクホルダ16の頂部16aとの間に間隔を設ける。
【0068】
ブランク1の端部1aがパンチ13とパッド19に挟持され、端部1bがダイ14とブランクホルダ16に挟持された後、ラム12が降下することで、ダイ14とブランクホルダ16はブランク1の端部1bを挟持した状態を維持したままで、
図2に示す位置から
図4に示す位置までプレス方向PDに移動する。この際、規制位置にある第1規制ピン34により、ダイ14とブランクホルダ16のダイ保持部材15とブランクホルダ保持部材17に対する横方向LDの相対移動が規制される。従って、
図2の位置から
図4の位置までダイ14とブランクホルダ16が降下するまで、ダイ14とブランクホルダ16で挟持されたブランク1の端部1dは、プレス方向PDに移動し(
図1の矢印A1参照)、ブランク1はパンチ13の肩部13cにおいて曲げられると共に、パンチ13の肩部13cとダイ14のパンチ13側の端部14cとの最短距離の延びに応じて延ばされる(第1工程)。
【0069】
ダイ14とブランクホルダ16が
図4の位置まで降下すると、第1カムドライバ36の第1カム面36aにブランクホルダ16の第1カムフォロア面17iが当接する。また、第1規制ピン34が規制位置から許容位置に移動する。この状態で、ラム12がさらに降下すると、ダイ保持部材15とブランクホルダ保持部材17は、プレス方向PDに降下はするが、横方向LDには移動しない。しかし、第1カムフォロア面17iが第1カム面36aに追従することで、ブランクホルダ16とそれに対する横方向LDの相対変位が規制されているダイ14は、横方向LDに対して第1傾斜角度αを有する方向に、パンチ13に向けて斜めに移動する。従って、
図4の位置から
図5の位置までダイ14とブランクホルダ16が移動するまでに、ダイ14とブランクホルダ16で挟持されたブランク1の端部1bは、
図1において矢印A21で示すように移動し、ブランク1はパンチ13の肩部13cにおいてさらに曲げられると共に、パンチ13の肩部13cとダイ14のパンチ13側の端部14cとの最短距離の延びに応じてさらに延ばされる(第2工程の第1段階)。
【0070】
ダイ14とブランクホルダ16が
図5の位置まで降下すると、第2カムドライバ37の第2カム面37aにブランクホルダ16の第2カムフォロア面17jが当接する。この状態でラム12がさらに降下することで、この状態で、ラム12がさらに降下すると、ダイ保持部材15とブランクホルダ保持部材17は、プレス方向PDに降下はするが、横方向LDには移動しない。しかし、第2カムフォロア面17jが第2カム面37aに追従することで、ブランクホルダ16とそれに対する横方向LDの相対変位が規制されているダイ14は、横方向LDに対して第2傾斜角度βを有する方向に、パンチ13に向けて斜めに移動する。従って、
図5の位置から
図6の位置までダイ14とブランクホルダ16が移動するまでに、ダイ14とブランクホルダ16で挟持されたブランク1の端部1bは、
図1において矢印A22で示すように移動し、ブランク1はパンチ13の肩部13cにおいてさらに曲げられると共に、パンチ13の肩部13cとダイ14のパンチ13側の端部14cとの最短距離の延びに応じてさらに延ばされる(第2工程の第1段階)。また、
図6の位置までダイ14とブランクホルダ16が移動すると、パンチ13の側部13bとダイ14の側部14bとの間にブランク1が挟持される。
【0071】
以上のように第1及び第2工程が完了し、成形品2を取り出す際には、まず、例えばばね24によってダイ14の端部14aがパンチ13の肩部13cと緩衝しない位置までダイ14を後退させる。その後、第2規制ピン35が規制位置に移動してダイ14のパンチ13から離間する方向の移動が規制された状態で、ラム12と共にダイ14が上昇する。
【0072】
図7を参照すると、単純ハット形状の場合、ハット形状の高さH、ハット形状の縦壁の角度θ、第2工程の第1段階開始時(
図1の符号ST2)の縦壁の長さl
1に対する第2工程の第1段階終了時(
図1の符号ST3)の縦壁の長さl
2の伸び率m、及び第2工程の第2段階開始時(
図1の符号ST3)の縦壁の長さl
2に対する第2工程の第2段階終了時(
図1の符号ST4)の縦壁の長さl
3の伸び率nが与えられることで、第1傾斜角度αと第2傾斜角度βを含む、
図7に示された種々のパラメータが幾何学的に算出できる。
【0073】
まず、以下の式(1)が成立する。
【0074】
【0075】
また、伸び率nから以下の式(2)が成立する。
【0076】
【0077】
第2段階の移動量bが分かれば、角度β',βが求められる(式(3))。
【0078】
【0079】
第2傾斜角度βにより、第2段階での横方向LDの移動量y3とプレス方向PDの移動量z3を算出できる(式(4))。
【0080】
【0081】
同様に,第1傾斜角度αと第1段階での横方向LDの移動量y2とプレス方向PDの移動量z2を算出できる。また、伸び率mから長さl1と第1段階の移動量aが求められる(式(5)~(6))。
【0082】
【0083】
以上より、特に第1傾斜角度αと第2傾斜角度βについて、以下が成立する。
【0084】
【数7】
ここで、以下のとおりである。
α:第1傾斜角度
β:第2傾斜角度
H:ハット形状の断面高さ
θ:ハット形状の縦壁の角度
n:第2工程の第1段階の伸び率
m:第2工程の第2段階の伸び率
【0085】
本発明は、上記実施形態に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、
図8に示すように、パンチ13の頂部13aに突部13dを設け段差を有する構成としてもよい。この場合、ブランク1に斜面1cを形成することができる。また、プレス方向PDは下方向に限定されず、上方向であってもよい。さらに、ダイ14及びブランクホルダ16のプレス方向PDの移動に代えて、又はそれと共に、パンチ13をプレス方向PDと反対方向に移動させてもよい。
【0086】
上記実施形態では、ブランク1の一方の端部1bのみをダイ14とブランクホルダ16で挟持して移動させる場合について説明した。しかし、パンチ13の頂部13aに配置されたブランク1が、パンチ13の両側に突出し、両方の端部をダイ14とブランクホルダ16で挟持して移動させてもよい。これにより、ハット断面形状の成形品が得られる。
【0087】
上記実施形態では、パンチ13の側部13bに負角θが付されているが、本発明の適用対象は負角成形に限定されない。
【符号の説明】
【0088】
1 ブランク
1a 端部
1b 端部
1c 斜面
2 成形品
10 プレス成形装置
11 ボルスタ
12 ラム
13 パンチ
13a 頂部
13b 側部
13c 肩部
13d 突部
14 ダイ
14a 底部
14b 側部
14c 端部
15 ダイ保持部材
15a 頂壁
15b 背壁
15c 側壁
16 ブランクホルダ
16a 頂部
16b 側部
16c 凹部
17 ブランクホルダ保持部材
17a 底壁
17b 背壁
17c 側壁
17d 凹部
17e 第1案内溝
17f 第2案内溝
17g,17h 貫通孔
17i 第1カムフォロア面
17j 第2カムフォロア面
18 クッション装置
19 パッド
21 ばね
22 クッションシリンダ
23 クッションパッド
24 クッションピン
25 直動案内部
26 ばね
31 スライドプレート
32 ガイドポスト
33 ピン
34 第1規制ピン
35 第2規制ピン
36 第1カムドライバ
36a 第1カム面
37 第2カムドライバ
37a 第2カム面
PD プレス方向
LD 横方向
θ 負角
IP 初期位置
FP 最終位置
ST1 第1工程開始時のブランク
ST2 第1工程終了時(第2工程の第1段階開始時)のブランク
ST3 第2工程の第1段階終了時(第2工程の第2段階開始時)のブランク
ST4 第2工程の第2段階終了時のブランク
A1 第1工程の移動を示す矢印
A21 第2工程の第1段階の移動を示す矢印
A22 第2工程の第2段階の移動を示す矢印
C21,C22 円弧
α 第1傾斜角度
β 第2傾斜角度