(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】超音波撮像装置、信号処理方法、および、信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/06 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
A61B8/06
(21)【出願番号】P 2021106754
(22)【出願日】2021-06-28
【審査請求日】2023-10-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】320011683
【氏名又は名称】富士フイルムヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 秀樹
【審査官】松岡 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-103919(JP,A)
【文献】特開2020-036774(JP,A)
【文献】特開2019-054938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波が送信された被検体の深度z方向において、順次反射された超音波を、複数の振動子をx方向に並べたアレイによりそれぞれ受信することにより得られた複数の受信信号を受け取って、zx平面に並べてフレームデータを生成する処理を繰り返し、Nフレーム分のフレームデータを生成するデータ収集部と、
前記フレームデータの対応する位置zxのデータをNフレーム分並べたベクトルから相関行列を生成する行列変換部と、
前記相関行列を特異値分解し、前記受信信号のN個のランクごとの特異値および特異ベクトルを算出する行列分析部と、
第1フィルタ要素および第2フィルタ要素のうちの少なくとも一方をフィルタ要素として生成するフィルタ要素生成部と、
前記フィルタ要素生成部が生成するフィルタ要素を用いて、前記フレームデータまたは前記フレームデータから生成された画像の画素値を重み付けしてクラッタ抑制画像を生成する画像処理部と、
血流成分を抽出した血流画像を再構成する画像再構成部
とを有し、
第1フィルタ要素は、予め定めておいた閾値ランクk以上の所定のランク範囲の複数の特異ベクトルを複数の前記フレームデータにそれぞれ乗じ、得られた複数の血流成分フレームデータの、対応する位置zxのデータ間の分散に基づいて算出されたものであり、
前記第2フィルタ要素は、前記閾値ランクk未満の所定のランクの特異ベクトルを1以上の前記フレームデータに乗じることによって得られた組織成分フレームデータに基づいて算出されたものであり、
前記画像再構成部は、前記閾値ランクkからNのうちの所定のランク範囲の複数の特異ベクトルを血流抽出フィルタとして複数の前記フレームデータに乗じて、得られた複数の血流成分フレームデータを、位置zxごとに平均したデータを画素値とする前記血流画像を生成し、
前記画像処理部は、前記血流画像の画素値を、前記第1フィルタ要素および第2フィルタ要素のうちの少なくとも一方によって重み付けして前記クラッタ抑制画像を生成することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の超音波撮像装置であって、前記画像処理部は、前記位置zxごとに、前記第1フィルタ要素と前記第2フィルタ要素にそれぞれ重み係数を乗じて加算平均した値を画素値とするマスク画像を生成し、前記血流画像の画素値に対応する位置の前記マスク画像の画素値を乗じることにより前記クラッタ抑制画像を生成することを特徴とする、超音波撮像装置。
【請求項3】
超音波が送信された被検体の深度z方向において、順次反射された超音波を、複数の振動子をx方向に並べたアレイによりそれぞれ受信することにより得られた複数の受信信号を受け取って、zx平面に並べてフレームデータを生成する処理を繰り返し、Nフレーム分のフレームデータを生成するデータ収集部と、
前記フレームデータの対応する位置zxのデータをNフレーム分並べたベクトルから相関行列を生成する行列変換部と、
前記相関行列を特異値分解し、前記受信信号のN個のランクごとの特異値および特異ベクトルを算出する行列分析部と、
第1フィルタ要素および第2フィルタ要素のうちの少なくとも一方をフィルタ要素として生成するフィルタ要素生成部と、
前記フィルタ要素生成部が生成するフィルタ要素を用いて、前記フレームデータまたは前記フレームデータから生成された画像の画素値を重み付けしてクラッタ抑制画像を生成する画像処理部とを有し、
第1フィルタ要素は、予め定めておいた閾値ランクk以上の所定のランク範囲の複数の特異ベクトルを複数の前記フレームデータにそれぞれ乗じ、得られた複数の血流成分フレームデータの、対応する位置zxのデータ間の分散に基づいて算出されたものであり、
前記第2フィルタ要素は、前記閾値ランクk未満の所定のランクの特異ベクトルを1以上の前記フレームデータに乗じることによって得られた組織成分フレームデータに基づいて算出されたものであり、
前記フィルタ要素生成部は、前記閾値ランクkからランクNまでのランク範囲の複数の特異ベクトルを血流成分フィルタとして用いて、第1フィルタ要素を算出することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項4】
請求項
2に記載の超音波撮像装置であって、前記第1フィルタ要素の重み係数と前記第2フィルタ要素の重み係数の和は、1であることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項5】
請求項
2に記載の超音波撮像装置であって、前記画像処理部は、複数の前記フレームデータの類似性を算出し、その算出結果に基づいて前記重み係数を設定することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項6】
請求項
5に記載の超音波撮像装置であって、前記画像処理部は、前記組織成分フレームデータの類似性を算出することにより、複数の前記フレームデータの類似性を算出することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項7】
請求項
2に記載の超音波撮像装置であって、前記データ収集部は、複数の前記フレームデータの類似性を算出し、その算出結果に基づいて、収集するフレームデータの枚数Nを設定することを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項8】
超音波が送信された被検体の深度z方向において、順次反射された超音波を、複数の振動子をx方向に並べたアレイによりそれぞれ受信することにより得られた複数の受信信号を受け取って、zx平面に並べてフレームデータを生成する処理を繰り返し、Nフレーム分のフレームデータを生成するデータ収集ステップと、
前記フレームデータの対応する位置zxのデータをNフレーム分並べたベクトルから相関行列を生成する行列変換ステップと、
前記相関行列を特異値分解し、前記受信信号のN個のランクごとの特異値および特異ベクトルを算出する行列分析ステップと、
第1フィルタ要素および第2フィルタ要素のうちの少なくとも一方をフィルタ要素として生成するフィルタ要素生成ステップと、
前記フィルタ要素生成
ステップで生成
したフィルタ要素を用いて、前記フレームデータまたは前記フレームデータから生成された画像の画素値を重み付けしてクラッタ抑制画像を生成する画像処理ステップと、
血流成分を抽出した血流画像を再構成する画像再構成ステップとを有し、
前記フィルタ要素生成ステップでは、
第1フィルタ要素は、予め定めておいた閾値ランクk以上の所定のランク範囲の複数の特異ベクトルを複数の前記フレームデータにそれぞれ乗じ、得られた複数の血流成分フレームデータの、対応する位置zxのデータ間の分散に基づいて算出され、
前記第2フィルタ要素は、前記閾値ランクk未満の所定のランクの特異ベクトルを1以上の前記フレームデータに乗じることによって得られた組織成分フレームデータに基づいて算出され
、
前記画像再構成ステップは、前記閾値ランクkからNのうちの所定のランク範囲の複数の特異ベクトルを血流抽出フィルタとして複数の前記フレームデータに乗じて、得られた複数の血流成分フレームデータを、位置zxごとに平均したデータを画素値とする前記血流画像を生成し、
前記画像処理ステップは、前記血流画像の画素値を、前記第1フィルタ要素および第2フィルタ要素のうちの少なくとも一方によって重み付けして前記クラッタ抑制画像を生成する
ことを特徴とする信号処理方法。
【請求項9】
コンピュータに、
超音波が送信された被検体の深度z方向において、順次反射された超音波を、複数の振動子をx方向に並べたアレイによりそれぞれ受信することにより得られた複数の受信信号を受け取って、zx平面に並べてフレームデータを生成する処理を繰り返し、Nフレーム分のフレームデータを生成するデータ収集ステップと、
前記フレームデータの対応する位置zxのデータをNフレーム分並べたベクトルから相関行列を生成する行列変換ステップと、
前記相関行列を特異値分解し、前記受信信号のN個のランクごとの特異値および特異ベクトルを算出する行列分析ステップと、
第1フィルタ要素および第2フィルタ要素のうちの少なくとも一方をフィルタ要素として生成するフィルタ要素生成ステップと、
前記フィルタ要素生成ステップで生成したフィルタ要素を用いて、前記フレームデータまたは前記フレームデータから生成された画像の画素値を重み付けしてクラッタ抑制画像を生成する画像処理ステップと、
血流成分を抽出した血流画像を再構成する画像再構成ステップと
を実行させる信号処理プログラムであって、
前記フィルタ要素生成ステップでは、
第1フィルタ要素は、予め定めておいた閾値ランクk以上の所定のランク範囲の複数の特異ベクトルを複数の前記フレームデータにそれぞれ乗じ、得られた複数の血流成分フレームデータの、対応する位置zxのデータ間の分散に基づいて算出され、
前記第2フィルタ要素は、前記閾値ランクk未満の所定のランクの特異ベクトルを1以上の前記フレームデータに乗じることによって得られた組織成分フレームデータに基づいて算出され、
前記画像再構成ステップは、前記閾値ランクkからNのうちの所定のランク範囲の複数の特異ベクトルを血流抽出フィルタとして複数の前記フレームデータに乗じて、得られた複数の血流成分フレームデータを、位置zxごとに平均したデータを画素値とする前記血流画像を生成し、
前記画像処理ステップは、前記血流画像の画素値を、前記第1フィルタ要素および第2フィルタ要素のうちの少なくとも一方によって重み付けして前記クラッタ抑制画像を生成す
る
ことを特徴とする信号処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
超音波撮像装置に係り、特異値分解を利用して生体内の血流画像を取得する技術において、組織由来のクラッタ成分を抑圧する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波撮像装置は、目視できない生体内の情報を数値または画像の形態で提示する医療用検査装置として広く利用されている。基本的な映像法としては、生体内の撮像対象に向けて超音波信号(エコー信号)を送信し、反射により得られる受信信号の振幅情報を利用して組織の形態を表示する。一方、ドプラ効果に基づく位相変化を計測することで、血流の位置や速度を映像化する技術も広く知られている。
【0003】
近年、特許文献1および2のように、主成分分析に基づく血流映像化技術が開発され、微細な血管網を画像情報として表示する技術が注目されている。主成分分析は、特異値分解や固有値分解の解析方法に基づく統計分析の手法である。超音波信号に主成分分析を当てはめる場合、元の画像をよりよく再現する情報(例えば、組織の境界や実質等の比較的高輝度の成分)が上位の主成分に分類され、逆に、情報支配率として低い情報(例えば、組織に比べて反射率が低く、動的な血流成分)は下位の主成分に分類される。この特性を利用して、超音波信号から血流成分を特異的に抽出し映像化することが提案されている。
【0004】
特許文献1に開示されている技術は、取得した超音波信号(ドプラ信号)に対して主成分分析を実行し、体位の変化や呼吸や心臓の拍動等による組織の移動に由来した成分(クラッタ成分)を抑圧し、血流画像の品質を高める手法である。例えば、クラッタ成分に対応する第1主成分から第3主成分までが除去され、血流成分に対応する第4主成分から第6主成分までが維持されるように、主フィルタ行列が演算される。ドプラ信号に主フィルタ行列を適用することにより、クラッタ成分を抑圧した画像が生成される。さらに、ドプラ信号から第1主成分と第6主成分を抽出し、その比を指標として、血流のパワー信号を重み付けする。これにより、残留するクラッタ成分を適応的に抑圧する。
【0005】
また、特許文献2に開示されている技術は、超音波信号を主成分分析して得た情報に基づいて、表示画像の信号強度を調整することでクラッタ成分を抑圧する手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-54938号公報
【文献】特開2020-185122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、微細な血管の血流を高精度に抽出可能な超音波撮像装置が望まれている。そのためには、背景画像のクラッタや、高輝度になりやすい血管壁の画素を、従来技術以上に抑制する必要があることに発明者らは着目した。特異値分解や固有値分解に基づく主成分分析は、微細な血管構造を抽出する上で有効な手段であるが、組織や血流の移動速度、または輝度の大きさによって、クラッタ成分の抑圧が不十分な場合が生じ得る。その場合、表示画像にはクラッタ成分が残留し、正確な血管構造が視認できず、結果として診断精度の低下や読影のストレス増加に繋がる。
【0008】
特許文献1に記載の技術は、主成分分析により、第一の特定主成分(例えば第1主成分)、および第二の特定主成分(例えば第6主成分)をドプラ信号から抽出し、その比を指標にして輝度の調整(重み付け)を行う。例えば、第1主成分に対する第6主成分の比率を指標とする場合、血管内に位置する画素であれば指標は1に近く、臓器組織に位置する画素であれば指標は0に近くなる。
【0009】
しかし、例えば臓器組織に高輝度成分が含まれる場合や、臓器組織が激しく動き、広範囲の主成分に組織と血流の情報が分散する場合、臓器組織に位置する画素であっても、上記指標は、0ではなく、比較的高い数値となる。結果的に残留クラッタを抑制しきれない可能性がある。
【0010】
一方、特許文献2に記載の技術は、取得した時系列の超音波信号に対して主成分分析を実行し、その結果に基づきに輝度調整量を算出し、表示画像の輝度を調整する。つまり取得した超音波信号のデータから残留クラッタ成分を算出する手法である。しかしながら、超音波信号には血流成分も含まれるため、残留クラッタのみならず、血流成分を過剰に抑圧する可能性があり、結果的に血管視認性を損なう可能性がある。
【0011】
一般に、主成分分析によりクラッタ抑制を行う場合、多数回の送受信を実行して多数の超音波信号(ドプラ信号)を得て主成分分析を実行することにより、クラッタ抑制の効果を向上させることができるが、送受信に時間がかかり、リアルタイム性が低下する。
【0012】
本発明の目的は、短時間に微細な血管の血流を高精度に抽出することが可能な超音波撮像装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、以下のような超音波撮像装置が提供される。
【0014】
すなわち、本発明の超音波撮像装置は、データ収集部と、行列変換部と、行列分析部と、フィルタ要素生成部と、画像処理部とを有する。データ収集部は、超音波が送信された被検体の深度z方向において、順次反射された超音波を、複数の振動子をx方向に並べたアレイによりそれぞれ受信することにより得られた複数の受信信号を受け取る。データ収集部は、受け取った受信信号をzx平面に並べてフレームデータを生成する処理を繰り返し、Nフレーム分のフレームデータを生成する。行列変換部は、フレームデータの対応する位置zxのデータをNフレーム分並べたベクトルから相関行列を生成する。行列分析部は、相関行列を特異値分解し、受信信号のN個のランクごとの特異値および特異ベクトルを算出する。フィルタ要素生成部は、第1フィルタ要素および第2フィルタ要素のうちの少なくとも一方をフィルタ要素として生成する。画像処理部は、フィルタ要素生成部が生成したフィルタ要素によって、フレームデータまたはフレームデータから生成された画像の画素値を重み付けしてクラッタ抑制画像を生成する。第1フィルタ要素は、予め定めておいた閾値ランクk以上の所定のランク範囲の複数の特異ベクトルを複数のフレームデータにそれぞれ乗じ、得られた複数の血流成分フレームデータの、対応する位置zxのデータ間の分散に基づいて算出されたものである。第2フィルタ要素は、閾値ランクk未満の所定のランクの特異ベクトルを1以上の前記フレームデータに乗じることによって得られた組織成分フレームデータに基づいて算出されたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、主成分分析により組織由来のクラッタ成分を短時間に効果的に抑圧でき、微細な血管の血流を高精度に抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施形態1に係る超音波撮像装置のブロック図
【
図2】実施形態1の超音波撮像装置の血流画像生成部30の処理工程を示すフローチャート
【
図3】
図2の各工程を図やグラフで説明するフローチャート
【
図4】実施形態1の超音波撮像装置の表示画面例を示す説明図
【
図5】実施形態2の超音波撮像装置が算出する複数のフレームデータの相関値(類似性)と、第2フィルタ要素の係数αとの関係を示すグラフ
【
図6】実施形態2の超音波撮像装置の血流画像生成部30の処理工程を示すフローチャート
【
図7】(a)および(b)実施形態2の超音波撮像装置の表示画面例を示す説明図
【
図8】実施形態2の超音波撮像装置の血流画像生成部30の処理工程の別の例を示すフローチャート
【
図9】実施形態3の超音波撮像装置の血流画像生成部30の処理工程を示すフローチャート
【
図10】実施形態3の超音波撮像装置が算出する複数のフレームデータの相関値(類似性)と、収集するフレームデータの枚数との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態の超音波撮像装置について図面を用いて説明する。
【0018】
<<<実施形態1>>>
実施形態1の超音波撮像装置100について、
図1から
図3を用いて説明する。
図1は、実施形態1の超音波撮像装置の概略構成を示す図であり、
図2は、超音波撮像装置の血流画像生成部の処理工程を示すフローチャートである。
図3は、
図2の各処理工程を図やグラフで説明するフローチャートである。
【0019】
図1を用いて、実施形態1の超音波撮像装置100の構成について説明する。超音波撮像装置100には、探触子10と、外部からの指示を受け付ける外部入力デバイス80と、表示装置70が接続されている。探触子10は、振動子がx方向に配列されたアレイを備えている。振動子は、圧電素子等により構成される。
【0020】
超音波撮像装置100は、送受信制御部20と、血流画像生成部30と、メモリ40と、Bモード画像生成部50と、表示処理部60とを備えている。
【0021】
送受信制御部20は、送信ビームフォーマ21と、受信ビームフォーマ22と、図示していないが直交検波器を有する。送信ビームフォーマ21は、送信信号を生成して探触子10の各振動子に出力し、被検体1の深さ方向(z方向)に送信させる。受信ビームフォーマ22は、探触子10の各振動子が被検体1で反射等された超音波を受信して出力する受信信号を受け取って、所定の整相処理を実行し、受信ビームデータを生成する。直交検波気は、受信ビームデータを直交検波し、複素信号としてのビームデータを生成する。
【0022】
血流画像生成部30は、データ収集部31、行列変換部32、行列分析部33、特異値解析部34、フィルタ要素生成部35、マスク画像生成部36、および、画像再構成部37を備えている。マスク画像生成部36と画像再構成部37は、画像処理部38を構成している。
【0023】
血流画像生成部30は、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサと、メモリとを備えたコンピュータにより構成され、プロセッサが、予めメモリに格納されたプログラムを読み込んで実行することにより、ソフトウエアにより上述の各部31~38の機能を実現する。なお、血流画像生成部30は、その一部および全部をハードウエアにより構成することもできる。例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルICを用いて、各部31~38の機能を実現するように回路設計を行えばよい。
【0024】
以下、本実施形態の超音波撮像装置100の各部の動作について説明する。
【0025】
送信ビームフォーマ21は、所定の時間遅延を与えた送信信号を探触子10の振動子にそれぞれ出力する。これにより、探触子10の振動子は、圧電効果に基づく電気音響変換等により撮像対象となる生体(被検体1)内の臓器組織に向けて超音波を照射する。超音波は、所定の深度で焦点を結ぶように生体内を伝播する。伝播の過程で、超音波は音響インピーダンスが異なる界面での反射を繰り返す。
【0026】
反射波(超音波)は、再び探触子10の振動子に到達して受信され、受信信号(電気信号)に変換される。受信ビームフォーマ22は、送信時に設定された時間遅延を戻すように、受信信号に整相処理を実行し、深度z方向の受信ビームデータを、x方向に複数本生成する。整相処理後の受信信号は、血流画像生成部30に送られる。ただし、本発明で扱う受信信号については、あくまで撮像対象から反射により得られた信号であれば、送受信の方式に特に限定は必要なく、例えば探触子10の振動子に時間遅延を与えず、撮像対象に平面波を送信して得た信号を利用しても成立する。
【0027】
血流画像生成部30が、血流画像を生成する際には、被検体1の同一の撮像面に対して、超音波の送受信がN回繰り返される。
【0028】
つぎに、血流画像生成部30の各部31~38の処理を、
図2および
図3のフローチャートを用いて説明する。
【0029】
<ステップ201>
データ収集部31は、受信ビームフォーマ22により整相後の複数本の受信ビームデータを受け取って、受け取った受信ビームデータをzx平面に並べ、フレームデータ301を生成する。データ収集部31は、探触子10により同一の撮像範囲について、超音波がN回送信および受信されるたびに信号を受け取り、Nフレーム分のフレームデータ301を取得する。データ収集部31は、時系列(N枚)のフレームデータ301を、IQ(In-Phase/Quadrature-Phase)信号の形でメモリ40に格納する。これにより、
図3のステップ201に示すように、x、z、N方向に並べられた3次元データ300がメモリ40に格納される。
【0030】
被検体1内の血流で反射される超音波はわずかであり、大部分の超音波は被検体1内の構造物の界面で反射されるため、各フレームデータ301の大部分は、構造物で反射された背景成分(クラッタ成分)であり、血流成分の占める割合は非常に小さい。そこで、以下の処理により、各フレームデータ301のクラッタ成分を除去及び抑制し、血流成分を抽出する。
【0031】
<ステップ202>
行列変換部32は、フレームデータ301の一つの画素(位置zx)のデータuzxiを、N枚のフレーム301の対応する画素(位置zx)からそれぞれ抽出し、Nフレーム分並べることによりベクトルuzxを式(1)のように生成する。なお、iは、N方向のフレームデータの番号を示す。ベクトルuzxは、特異値分解のアンサンブルデータである。
【0032】
さらに、式(2)によりベクトルuzxから用いて、相関行列Rzxを生成する。
【0033】
【0034】
<ステップ203>
行列変換部32は、相関行列Rzxを複数の画素(例えば全画素)についてそれぞれ求め、求めた相関行列を式(3)により平均し、平均の相関行列R-を算出する(なお、R-の「-」は、式(3)の文字Rの上の「-」を示す)。
【0035】
【0036】
<ステップ204>
行列分析部33は、行列変換部32が求めた平均の相関行列R-から、式(4)により、ランクiごとに、すなわち、第1主成分から第N主成分の特異値λiと特異ベクトルwi(i=1,2・・・N)を算出する。(ここで、ランクiとは、特異値分解に基づく主成分分析で得られる各主成分の番号を示し、上位に該当する第1主成分をランク1の主成分、第N主成分をランクNの主成分と呼ぶ)。なお、式(4)は、主成分分析の計算プロセスだが、フレームデータ301が正方行列の場合、代替手段として固有値分解を用いてもよい。
【0037】
【0038】
<ステップ205、206>
つぎに、特異値解析部34は、受信信号に含まれる血流成分は、クラッタ成分に比べて優位に低いことを利用して、血流成分の主成分と、クラッタ成分の主成分とを分ける閾値ランクを決定する。
【0039】
特異値解析部34は、特異値分解で算出した各主成分の特異値λi(行列Λの対角成分)を算出する。具体的には、特異値λiを特異値λiの総加算数(Σλi)で除算したλi/Σλiを求める(ステップ204)。λi/Σλiは、各主成分が元データの再現にどれだけ寄与するか、すなわち情報支配率、を示している。
【0040】
λ
i/Σλ
iを縦軸とし、ランクi(i=1~N)を横軸とするグラフ310を
図3のステップ205に示したように生成する。続いて、予め定めたおいたλ
i/Σλ
iの閾値に対応する主成分のランク(ランク閾値k)を選択する。λ
i/Σλ
iの閾値の一例は、0.01であり、組織成分に対する血流成分のエネルギー量が概ね1%程度であることに従う。
【0041】
なお、ランク閾値kとして、予め設定おいた値を用いてもよい。
【0042】
<ステップ207、208>
ランク閾値以下(ランクk~N)の特異ベクトル(wi、i=k~N)は、受信信号に含まれるクラッタ成分を抑制し、血流成分を抽出するフィルタの役割を果たすことができる。画像再構成部37は、これを利用して血流成分を抽出した血流画像を再構成する。
【0043】
具体的には、画像再構成部37は、閾値ランクkからNのうちの所定のランク範囲の複数の特異ベクトルと特異値の積の和を血流抽出フィルタPkとして式(5)により生成する(ステップ207)。
【0044】
つぎに、画像再構成部37は、式(6)、(7)により、複数のフレームデータ301(例えばすべてフレームデータ301である三次元データU)に血流抽出フィルタPkを乗じて、血流成分フレームデータU^を得る。(なお、U^の「^」は、式(6)の文字Uの上の「^」を示す)。
【0045】
さらに、画像再構成部37は、得られた三次元データ(N枚のフレームデータ)U^に対して、式(8)により、画素(位置zx)ごとに時間軸方向(N方向)に加算平均することで、血流画像Uavgを生成する(ステップ208)。
【0046】
【0047】
<ステップ209~211>
フィルタ要素生成部35は、第1フィルタ要素および第2フィルタ要素のうちの少なくとも一方をフィルタ要素として生成する。本実施形態では、第1フィルタ要素と第2フィルタ要素の両方を算出する。
【0048】
(第1フィルタ要素)
第1フィルタ要素は、閾値ランクk以上(つまりランクkを含む下位側のランク)の所定のランク範囲の複数の特異ベクトル(wi、i=k~N)を複数のフレームデータ301にそれぞれ乗じ、得られた複数の血流成分フレームデータの、対応する位置zxのデータ間の分散に基づいて算出されたものである(ステップ209)。ここでは、第1フィルタ要素は、分散の値の逆数である。
【0049】
具体的に、第1フィルタ要素の算出方法について説明する。フィルタ要素生成部35は、ランク閾値k以下に含まれる特異ベクトル(wi, i=k~N)を用いて式(5)により血流抽出フィルタPkを得て、式(6)により、複数のフレームデータ301(N枚のすべてフレームデータ301である三次元データU)に血流抽出フィルタPkを乗じてN枚の血流成分フレームデータU^を得る。フィルタ要素生成部35は、式(9)により、N枚の血流成分フレームデータU^の対応する画素(位置zx)について、時間軸方向(N方向)の分散(var[U^])を計算し、その逆数を第1フィルタ要素Uvarとする。(ただし、式(9)において、var[ ]は、時間軸方向の輝度分散を算出する関数を示す)。
【0050】
【0051】
(第2フィルタ要素)
第2フィルタ要素は、閾値ランクk未満の所定のランクの特異ベクトルwiを、1以上のフレームデータ301に乗じることによって得られた組織成分フレームデータに基づいて算出されたものである(ステップ210,211)。フィルタ要素生成部35は、閾値ランクk未満の所定のランクの特異ベクトルとして、ランク1の特異ベクトルを用いる。また、第2フィルタ要素は、組織成分フレームデータの画素の値である。
【0052】
具体的に、第2フィルタ要素の算出方法について説明する。フィルタ要素生成部35は、主成分分析の結果から、第1主成分の特異ベクトルw1と特異値λ1との積からクラッタ抽出フィルタP1を式(10)により生成する(ステップ210)。フィルタ要素生成部35は、クラッタ抽出フィルタP1を、N枚のフレームデータ301(三次元データU)に乗算し、N枚の組織成分フレームデータ(三次元データ)U1^を式(11)により算出する。
【0053】
フィルタ要素生成部35は、式(12)により、得られた時系列のN枚の組織成分フレームデータ(三次元データ)U1^の対応する画素を、時間軸方向(N方向)に加算平均することにより、クラッタ成分を中心とする輝度の分布を示すフレームデータU1を求め、これを第2フィルタ要素とする。ただし、式(12)においてavg[ ]は、時間軸方向(N方向)の平均を算出する関数を示す。
【0054】
【0055】
画像処理部38は、第1フィルタ要素Uvarおよび第2フィルタ要素U1のうちの少なくとも一方によってフレームデータ301またはフレームデータから生成された画像の画素値を重み付けしてクラッタ抑制画像を生成する。ここでは画像処理部38は、ステップ208で求めた血流画像Uavgの画素値を、第1フィルタ要素Uvarおよび第2フィルタ要素U1によって、重み付けしてクラッタ抑制画像を生成する。
【0056】
具体的には、マスク画像生成部36は、式(13)により第1フィルタ要素Uvarと第2フィルタ要素U1に係数βとα(重み係数αとβの加算結果は1)を乗じて重みづけ加算し、その逆数の値を画素値とするマスク画像MASK(二次元の係数行列(マスク行列))を生成する(ステップ212)。αとβの関係性は、前述の通り加算して1に設定することで、可変パラメータを一つにでき、ユーザの調整を簡便化できる利点がある。ただし画質を優先する場合、αとβを独立変数として扱うのが効果的な場合もあり、術者の目的に応じて切り替えられる設計が効果的である。
【0057】
【0058】
第1フィルタ要素Uvarは、上述してように血流成分フレームデータの時間方向(N方向)の輝度分散の逆数である。一般的に、立体的な流れを持つ血流成分は、臓器組織の移動に比べて輝度の時間変化が大きい。そのため輝度分散の逆数をマスクの画素値とすることにより、被検体1の組織領域の画素に高い数値(画素値)のマスク画像MASKが生成できる。
【0059】
一方、第2フィルタ要素U1は、第1主成分の特異ベクトルにより抽出されたクラッタ成分(組織成分)フレームデータ(三次元データ)U1^の輝度平均である。クラッタ成分は、受信信号のフレームデータの輝度データに比べて、空間的にも時間的にも安定した信号が支配要素であり、血流や雑音の影響を受けにくい。このため、第2フィルタ要素U1の逆数をマスクの画素値とすることにより、臓器組織の境界や高輝度領域を選択的に抽出可能なマスク画像MASKを生成できる。
【0060】
言い換えると、マスク画像生成部36は、いずれもクラッタ源となる組織領域で高い数値を示す第1フィルタ要素と第2フィルタ要素を用い、その逆数をマスク画素値に設定するため、クラッタ抑制の効果を持つマスク画像MASKを生成することができる(ステップ213)。
【0061】
画像再構成部37は、式(14)により、ステップ208で生成した血流画像Uavgにマスク画像MASKを乗算し、画像再構成を行うことにより、残留クラッタが少なく、血流が強調された視認性が高い血流画像UMASKを生成する(ステップ213)。
【0062】
【0063】
画像再構成部37は、残留クラッタが少なく、血流領域を強調した血流画像UMASKを生成することができる。画像再構成部37は、血流画像UMASKを表示処理部60に出力する。
【0064】
一方、Bモード画像生成部50は、受信ビームフォーマ22から受信ビームデータを受け取って、Bモード画像を生成し、表示処理部60に出力する。
【0065】
表示処理部60は、例えば、
図4に示したように、Bモード画像と、血流領域を強調した血流画像U
MASKをそれぞれ表示装置70の画面の領域401と402に表示させる。このとき、比較のために、画像再構成部37がステップ208で生成した血流画像U
avgを領域403に併せて表示してもよい。
【0066】
また、マスク画像生成部36が、式(13)によりマスク画像MASKを生成する際に用いる、第1フィルタ要素U
varと第2フィルタ要素U
1の係数βとα(α+β=1)の値を、表示装置70の表示画面上で、ユーザから受け付ける構成としてもよい。例えば、表示処理部60は、
図4のバー404を表示画面に表示させる。ユーザーは、マウス等の外部入力デバイス80により、バー404上のマーク405を左右に移動させることにより、係数αと係数βの割合を設定する。マスク画像生成部36は、設定された係数αと係数βの割合を用いてマスク画像MASKをステップ212において生成する。
【0067】
本実施形態の第一の特徴は、組織成分(クラッタ成分)である第1主成分を利用した第2フィルタ要素U1を用いる点である。これにより、臓器組織の低輝度領域だけでなく、高輝度領域に残留するクラッタ成分をマスク画像によって抑制できる。
【0068】
すなわち、第2フィルタ要素U1は、ランク1(第1主成分)の画像であるため、組織(背景)のみの画像であり、血流成分も電気ノイズも含まれない。そのため、血流画像に含まれる血管壁等の高輝度の成分を除去するのには、元画像(フレームデータ)を使うより適している。
【0069】
また本実施形態の第二の特徴は、血流画像Uavgの時間方向の分散を利用した第1フィルタ要素Uvarを用いる点である。血流画像Uavgの時間的な輝度変化に応じて、血流画像Uavgの輝度をマスク画像によって調整することにより、クラッタ成分の抑制のみならず、血流成分の増強効果も期待できる。
【0070】
すなわち、第1フィルタ要素Uvarは、血流成分を豊富に含むN枚の血流成分フレームデータU^を用いて算出されるため、血流を効果的に取り出すことができる。
【0071】
また、本実施形態では、血流画像Uavgの生成も、第1および第2フィルタ要素の生成も、すべて主成分分析の中で行っている。このため、クラッタ成分の抑制のために、主成分分析とは別の処理を行う場合よりも、計算効率がよく、短時間に微細な血管の血流を高精度に抽出することが可能である。また、別の処理回路は不要であり、装置構成を簡素化することができる。
【0072】
<<<実施形態2>>>
実施形態2の超音波撮像装置について説明する。実施形態3の超音波撮像装置は、実施形態1の装置と同様の構成であるが、第1フィルタ要素Uvarと第2フィルタ要素U1に乗算される係数βとα(α+β=1)を適切に設定する機能をさらに備えている。すなわち、画像処理部38は、複数のフレームデータ301の類似性を算出し、その算出結果に基づいて重み係数α、βを設定する。
主成分分析を実行するN枚のフレームデータ301間の相関性(類似性)が高い場合、係数βとαは、いずれも0.5付近が適当である。N枚のフレームデータ301の互いの相関性(類似性)が高い場合、主成分分析にてクラッタ成分と血流成分が効果的に分離できているためであり、第2フィルタ要素U1の計算結果においても、クラッタ成分の輝度が高くなる。よって、第1フィルタ要素Uvarと第2フィルタ要素U1の重みづけ加算後に逆数をとったマスク画像MASKを生成し、血流画像Uavgに掛けることにより、クラッタ抑制効果が得られる。
【0073】
一方、N枚のフレームデータ301の相関性が低い場合、クラッタ成分は、複数の主成分に横断的に存在し、第2フィルタ要素U1のクラッタ成分の輝度が低値になる場合が想定される。その状態でステップ212においてマスク画像MASKを構成した場合、マスク画像MASKを血流画像Uavgに掛けることにより、血流画像avgのクラッタ成分をむしろ強調してしまう現象が生じ得る。
【0074】
この現象を回避するためには、N枚のフレームデータ301の相関性が低い場合には、係数αの値を低く設定し、第2フィルタ要素U1のマスク画像MASKへの寄与割合を抑制する方法が効果的である。
【0075】
例えば
図5に示すように、N枚のフレームデータ301の相関値が低いほど、第2フィルタ要素U
1の係数αが小さくなるように、直線グラフ501や曲線グラフ502,503を設定し、メモリ40内に格納しておく。
【0076】
図6にフローを示したように、マスク画像生成部36は、ステップ214、215を実行して、N枚のフレームデータ301の相関値を計算し、算出された相関値に対応する係数αを
図5のグラフ501、502および503のいずれかから求める。そして、ステップ212では、求めた係数αと、β(=1-α)を用いて、第2フィルタ要素U
1と第1フィルタ要素U
varを式(13)により重み付けして、マスク画像MASKを求める。
【0077】
これにより、超音波撮像装置内で自動的に適切な係数αを設定することができる。
【0078】
図7(a)、(b)に示したように、ステップ214において算出した相関値の時間変化(データの安定度)を示すグラフ1001を、ステップ213で生成した残留クラッタ抑制後の血流画像U
avgとともに表示装置70に表示してもよい。
図7(a)は、相関値が高く維持され、データの安定度が高い場合であり、係数αは、0.5に近い大きい値が設定されている。一方、
図7(b)は、相関値が低く維持、データの安定度が低い場合であり、係数αの割合が小さく設定されている。
【0079】
なお、ステップ214におけるN枚のフレームデータ301の相関値の計算は、相互相関演算など一般的に知られる類似性の演算方法を用いる。
【0080】
図6のフローにおいて、上述した以外の各ステップは、実施形態1の
図2のフローと同様であるので説明を省略する。
【0081】
また、
図8にフローを示したように、マスク画像生成部36は、第1主成分を利用して得られる組織成分フレームデータ(U
1^)を用いて、N枚のフレームデータ301の類似性を判定することも可能である。
【0082】
組織成分フレームデータは、第1主成分の特異ベクトルにより抽出された組織構造を主とする成分(三次元データ)である。前述の通り、生体からの反射信号は、臓器組織からの成分が主であり、血流からの成分は10%-1%以下である。即ち、データの類似性は、臓器組織の成分を主体に判断することが妥当である。
【0083】
よってマスク画像生成部36は、ステップ212の前に、ステップ216、217を実行して、組織成分フレームデータの相関値を計算し、算出された相関値に対応する係数αを
図5のグラフから求める。
【0084】
組織成分フレームデータを利用してN枚のフレームデータ301の相関値を算出することにより、主成分分析に影響を及ぼす組織移動や雑音の影響を排除し、より効果的に相関性を判定できる。これにより、超音波撮像装置内で自動的に適切な係数αを設定することができる。なお、ここではαとβを従属変数(α+β=1)として扱っているが、この限定はあくまで操作の簡便性に主眼を置いた設定であり、記載の装置形態を維持したまま、両者を独立変数(つまり0<=α<=1、0<=β<=1)で扱うことに制限を設けない。
【0085】
図8のフローにおいて、上述した以外の各ステップは、実施形態1の
図2のフローと同様であるので説明を省略する。
【0086】
また、実施形態2の超音波撮像装置の上述した以外の構成、動作および効果は、実施形態1と同様であるので説明を省略する。
【0087】
<<<実施形態3>>>
実施形態3の超音波撮像装置について説明する。実施形態3の超音波撮像装置は、実施形態1の装置と同様の構成であるが、N枚のフレームデータ301間の相関性(類似性)を判定し、データの取得枚数を調整する機能をさらに備えている。
【0088】
行列変換部32、行列分析部33、特異値解析部34およびフィルタ要素生成部35が、主成分分析に用いるフレームデータ301の枚数Nが多い場合、区別される主成分が増加してクラッタと血流の分離精度が高くなる。しかし、血流画像生成部30内の計算負荷が重くなり、フレームレートの低下に繋がる可能性がある。
【0089】
そこで、実施形態3では、フレームデータ301間の相関性が充分に高い場合には、取得枚数Nを低減することにより、クラッタ抑制とフレームレート向上の効果を両立する。
【0090】
具体的には、
図9のフローに示したように、N枚のフレームデータ301を収集するステップ201の前に、収集するフレームデータ301の枚数Nを設定するステップ200を実行する。
【0091】
ステップ200では、前回のステップ216において算出された組織成分フレームデータの相関値を受け取って、例えば
図10のように予め定められた相関値とフレーム枚数との関係を示すグラフ901,902または903等にしたがって、適切なフレーム枚数Nを設定する。組織成分フレームデータの相関値は、実施形態2で説明したようにN枚のフレームデータ301の相関値に対応している。
【0092】
図10のように、N枚のフレームデータ301の相関値が高いほど、取得するフレーム枚数Nが小さくなるように、直線グラフ901や曲線グラフ902,903が設定されている。これらのグラフ901~903は、メモリ40内に格納されている。
【0093】
図9のフローを用いることにより、前回のステップ216において算出された組織成分フレームデータの相関値を用いて、今回の主成分分析に用いるフレームデータ301の枚数Nを適切な枚数に設定することができる。
【0094】
なお、N枚のフレームデータ301の相関値を算出する方法としては、組織成分フレームデータの相関値を算出する方法以外に、
図6のフローのステップ214により、フレームデータ301から直接相関値を算出してもよい。
【0095】
なお、主成分分析を行うたびに適切なフレーム枚数Nの値が大きく変化する場合、表示される血流画像の切替のタイミングで輝度の明滅が発生し、動画像としての視認性が損なわれる可能性がある。これを抑止するため、例えば連続するフレーム間でのデータ数の変動は2フレーム以下などの制限措置を備えることが有効である。
【0096】
また、実施形態3の超音波撮像装置の上述した以外の構成、動作および効果は、実施形態1、2と同様であるので説明を省略する。
【符号の説明】
【0097】
1…被検体、10…探触子、20…送受信制御部、21…送信ビームフォーマ、22…受信ビームフォーマ、30…血流画像生成部、31…データ収集部、32…行列変換部、33…行列分析部、34…特異値解析部、35…フィルタ要素生成部、36…マスク画像生成部、37…画像再構成部、38…画像処理部、40…メモリ、50…Bモード画像生成部、60…表示処理部、70…表示装置、80…外部入力デバイス、100…超音波撮像装置、300…3次元データ、301…フレームデータ、310…グラフ、403…領域、バー…404、405…マーク、501…直線グラフ、502,503…曲線グラフ、901…直線グラフ、902,903…曲線グラフ、1001…グラフ