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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】電池モジュール
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/6568 20140101AFI20240718BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20240718BHJP
   H01M 10/6566 20140101ALI20240718BHJP
   H01M 10/6565 20140101ALI20240718BHJP
   H01M 10/651 20140101ALI20240718BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20240718BHJP
   H01M 10/643 20140101ALI20240718BHJP
   H01M 10/6556 20140101ALI20240718BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20240718BHJP
【FI】
H01M10/6568
H01M10/613
H01M10/6566
H01M10/6565
H01M10/651
H01M10/647
H01M10/643
H01M10/6556
H01M10/625
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021197186
(22)【出願日】2021-12-03
(65)【公開番号】P2023083070
(43)【公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-01-05
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】島村 治成
(72)【発明者】
【氏名】大原 敬介
【審査官】鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-131428(JP,A)
【文献】特開2021-103056(JP,A)
【文献】特開2014-082069(JP,A)
【文献】特開2011-060755(JP,A)
【文献】特開2019-135706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52-10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単電池を有する組電池と、
前記組電池を冷却する冷却部と、
を備えた電池モジュールであって、
前記冷却部は、前記組電池と近接する冷却表層部と、冷媒が収容される冷媒収容部と、を備え、
前記冷却表層部は、第1層と、前記第1層よりも前記組電池側に配置される第2層と、を備え
前記第1層は金属板で、平均厚みが1.5mm以上であり、
ここで、前記第2層は前記第1層よりも平均厚みが薄く且つ前記第1層よりも低温で亀裂が生じる材料で構成され、所定の温度以上になった場合には前記冷媒収容部から前記冷媒が前記組電池に向けて放出される、電池モジュール。
【請求項2】
前記組電池を収容する筐体を備え、
前記筐体の少なくとも一面において前記冷却部を備えている、
請求項1に記載の電池モジュール。
【請求項3】
前記冷却部が前記筐体の底面に備えられている、
請求項2に記載の電池モジュール。
【請求項4】
前記冷却部が前記筐体の底面および上面に備えられている、
請求項2に記載の電池モジュール。
【請求項5】
前記冷却部が前記筐体の全ての壁面に備えられている、
請求項2に記載の電池モジュール。
【請求項6】
前記冷却部の冷却方式は、冷媒循環式または冷媒滞留式である、
請求項1~5のいずれか一項に記載の電池モジュール。
【請求項7】
前記第2層の亀裂開始温度が110℃以上450℃以下である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の電池モジュール。
【請求項8】
前記第2層の平均厚みが1μm以上1000μm以下である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の電池モジュール。
【請求項9】
前記第1層の平均厚みが1.5mm以上15mm以下である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の電池モジュール。
【請求項10】
複数の単電池を有する組電池と、
前記組電池を冷却する冷却部と、
を備えた電池モジュールであって、
前記冷却部は、前記組電池と近接する冷却表層部と、冷媒が収容される冷媒収容部と、を備え、
前記冷却表層部は、第1層と、前記第1層よりも前記組電池側に配置される第2層と、を備えており、
ここで、前記第1層はアルミニウムを主体として構成され、前記第2層は前記第1層よりも低温で亀裂が生じる材料で構成され且つ酸化アルミニウムを主体として構成され、所定の温度以上になった場合には前記冷媒収容部から前記冷媒が前記組電池に向けて放出される、池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池モジュールに関する。より詳細には、組電池を冷却するための冷却部を備える電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
複数の単電池(電池セル)を電気的に接続してなる組電池は、高出力用電源として広く利用されている。特許文献1および2においては、冷媒を用いてこのような組電池を適切に冷却するための技術が開示されている。
【0003】
特許文献1では、冷媒の漏れのリスクを低減し、冷却装置の軽量化をするために、冷媒の流路を形成するための樹脂製のプレートと、当該樹脂製プレートよりも組電池側に形成される金属プレートと、を備える冷却装置が開示されている。また、特許文献2では、組電池がハウジングによって包囲された電池モジュールを冷却するためのシステムが開示されており、不具合の際にも冷媒が組電池に達しないように構成されることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-068070号公報
【文献】特許第6226436号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、組電池を構成する単電池の一つにおいて、短絡が生じるなどの緊急事態が発生した場合には、当該単電池の温度が急激に上昇することがあり得る。このような場合においては、特許文献1および2に開示されるような冷却方法では冷却効果が低く、組電池全体に熱伝播することで、他の単電池においても発熱が生じる虞があった。したがって、電池モジュールの安全性をより向上させるためには、短絡が生じるなどの緊急事態の際に組電池を速やかに冷却することができる技術が求められている。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、より安全性の高い電池モジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するため、ここに開示される電池モジュールが提供される。ここに開示される電池モジュールは、複数の単電池を有する組電池と、上記組電池を冷却する冷却部と、を備えている。上記冷却部は、上記組電池と近接する冷却表層部と、冷媒が収容される冷媒収容部と、を備え、上記冷却表層部は、第1層と、上記第1層よりも上記組電池側に配置される第2層と、を備えている。ここで、上記第2層は上記第1層よりも低温で亀裂が生じる材料で構成され、所定の温度以上になった場合には上記冷媒収容部から上記冷媒が上記組電池に向けて放出される。
【0008】
上記電池モジュールによれば、第2層が第1層よりも低温で亀裂が生じる材料から構成されているため、組電池を構成する単電池の少なくとも一つにおいて短絡などが生じて温度が急激に上昇した場合には、比較的温度が低い段階で冷媒収容部から冷媒が放出されて、速やかに組電池が冷却される。これにより、組電池全体への熱伝播が抑制される。したがって、より安全性の高い電池モジュールが実現される。
【0009】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、上記組電池を収容する筐体を備え、上記筐体の少なくとも一面において上記冷却部を備えている。冷却部が筐体に備えられている態様においては、上記冷却部が上記筐体の底面に備えられていてもよい。また、上記冷却部が上記筐体の底面および上面に備えられていてもよい。さらに、上記冷却部が上記筐体の全ての壁面に備えられていてもよい。
かかる構成によれば、さらに速やかに組電池を冷却することができるため、より安全性の高い電池モジュールを提供することができる。
【0010】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、上記冷却部の冷却方式は、冷媒循環式または冷媒滞留式である。
かかる構成によれば、組電池を適切に冷却することができるため、安全性の高い電池モジュールを提供することができる。
【0011】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、上記第2層の亀裂開始温度が110℃以上450℃以下であってもよい。また、上記第2層の平均厚みが1μm以上1000μm以下であってもよい。さらに、上記第1層の平均厚みが1.5mm以上15mm以下であってもよい。
かかる構成によれば、単電池において短絡などが生じて温度が急激に上昇した場合には、適切に冷媒収容部から冷媒が放出され、組電池を冷却することができる。
【0012】
ここに開示される非水電解液二次電池の好ましい一態様では、上記第1層がアルミニウムを主体として構成され、上記第2層が酸化アルミニウムを主体として構成されている。
かかる構成によれば、ここに開示される技術の効果がより好適に発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る電池モジュールを模式的に示す斜視図である。
図2】一実施形態に係る電池モジュール説明するための模式的な側面図である。
図3】一実施形態に係る単電池の内部構造を模式的に示す縦断面図である。
図4】一実施形態に係る組電池の模式的な斜視図である。
図5】一実施形態に係る冷却部を説明するための模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、ここで開示される二次電池の一実施形態を説明する。ここで説明される実施形態は、当然ながら特にここで開示される技術を限定することを意図したものではない。ここで開示される技術は、特に言及されない限りにおいて、ここで説明される実施形態に限定されない。各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。また、各図面において、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。また、図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。また、数値範囲を示す「A~B」の表記は、特に言及されない限りにおいて「A以上B以下」を意味するとともに、「Aを上回り、Bを下回る」をも意味する。
【0015】
本明細書において「単電池」とは、組電池を構成する個々の蓄電素子を指す用語であって、特に限定しない限り種々の組成の電池、キャパシタを包含する。また、「二次電池」とは、繰り返し充電可能な電池一般をいい、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池などのいわゆる蓄電池を包含する。リチウムイオン二次電池などは、ここでいう「単電池」に包含される典型例であり、そのような単電池を複数備えてなるリチウムイオン二次電池モジュール(バッテリーパック)は、ここでいう「組電池」の一つの典型例である。以下では、単電池としてリチウムイオン二次電池を対象とした場合の実施形態について説明する。
【0016】
以下、ここに開示される電池モジュール1を説明する。図1は、電池モジュール1を模式的に示す斜視図であり、図2は、電池モジュール1を説明するための模式的な側面図である。図3は、単電池10の内部構造を模式的に示す縦断面図である。図4は、組電池100の模式的な斜視図である。図5は、電池モジュール1が備える冷却部210を模式的に示す断面図である。以下、図1図5を参照しながら、ここに開示される電池モジュール1を説明する。なお、以下の説明において、図面中の符号Xは「奥行方向」を示し、符号Yは「幅方向」を示し、符号Zは「上下方向」を示すものとする。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、電池モジュール1の設置形態を何ら限定するものではない。
【0017】
1.全体構成
図1および図2に示すように、電池モジュール1は、複数の単電池10を有する組電池100と、組電池100を冷却するための冷却部210と、を備えている。ここでは、組電池100は、筐体200に収容されており、冷却部210は、筐体200に備えられている。ただし、筐体200は必須ではなく、他の実施形態において省略することもできる。
【0018】
2.組電池
まず、ここに開示される電池モジュール1が備える組電池100と、組電池100を構成する単電池10について説明する。ここに開示される組電池100は、複数の充放電可能な単電池(ここではリチウムイオン二次電池)10を備える。単電池10の構成は、従来から組電池に使用され得る単電池と同様であってよく、特に限定されない。単電池10は、例えば、発電要素である電極体20と、適当な電解質(図示せず)とを備え、当該電極体20および電解質が電池ケース30に収容された構成を有する。
【0019】
(1)単電池の構成
図3に示すように、電池ケース30は、ここでは底面と、底面と対向する蓋体と、底面から延び相互に対向する一対の幅広面と、底面から延び相互に対向する一対の幅狭面と、を備えた角型の電池ケースである。電池ケース30は、外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。また、電池ケース30には、非水電解質を注入するための図示されない注入口が設けられている。正極端子42は、正極集電板42aと電気的に接続されている。負極端子44は、負極集電板44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材料は、所定の強度を有した金属材料であることが好ましい。このような金属材料の一例として、アルミニウム、鉄、クロムもしくはこれらの合金(例えばアルミニウム合金、ステンレス鋼)などが挙げられる。
【0020】
なお、電池ケースの形態は上記したような角型の電池ケースに限定されない。例えば、電極体20をラミネートフィルム内部に収容し、ラミネート型の単電池を構築してもよい。ラミネートフィルムの構成は特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系の熱可塑性樹脂で形成される層と、アルミニウム箔などの金属で形成される層と、ポリアミドなどの樹脂から形成される層とを有する構造であってもよい。
【0021】
電極体20は、長尺シート状の正極50(以下、「正極シート50」ともいう。)と、長尺シート状の負極60(以下、「負極シート60」ともいう。)と、長尺シート状のセパレータ70(以下、「セパレータシート70」ともいう。)と、を有している。電極体20は、例えば、正極シート50と負極シート60とが2枚のセパレータシート70とを介して重ねあわされて長手方向に捲回された形態を有する。
なお、電極体20は、例えば、セパレータシート70を介在させつつ、正極シート50と負極シート60とが交互に所定の枚数積層された積層電極体であってもよい。
【0022】
図3に示すように、正極シート50は、長尺状の正極集電体52と、該正極集電体52の長手方向に沿って片面または両面(ここでは両面)に形成された正極活物質層54とを備える。正極集電体52の幅方向Yの一方(図3の左側)の端部には、正極活物質層54が形成されていない正極集電体露出部52aが設けられている。正極シート50は、正極集電体露出部52aに付設された正極集電板42aを介して正極端子42と電気的に接続される。正極集電体52としては、例えばアルミニウム箔などが挙げられる。正極集電体52の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。正極集電体52の厚みは、特に限定されないが、例えば2μm以上20μm以下であり、好ましくは5μm以上15μm以下である。
【0023】
正極活物質層54は、少なくとも正極活物質を含んでいる。正極活物質層54に含まれる正極活物質は特に限定されず、一好適例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物等のリチウム遷移金属複合酸化物等が挙げられる。正極活物質層54の固形分全体を100質量%としたときに、正極活物質の含有量は、特に限定されないが、概ね80質量%以上、典型的には90質量%以上、例えば95質量%以上であってもよい。正極活物質層54は、正極活物質以外の任意成分、例えば、導電材、バインダ、各種添加成分等を含んでいてもよい。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等の炭素材料を使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVdF)等を使用し得る。
【0024】
負極シート60は、長尺状の負極集電体62と、該負極集電体62の長手方向に沿って片面または両面(ここでは両面)に形成された負極活物質層64とを備える。負極集電体62の幅方向Yの一方(図3の左側)の端部には、負極活物質層64が形成されていない負極集電体露出部62aが設けられている。負極シート60は、負極集電体露出部62aに付設された負極集電板44aを介して負極端子44と電気的に接続される。負極集電体62としては、例えば銅箔等が挙げられる。負極集電体62の寸法は特に限定されず、電池設計に応じて適宜決定すればよい。負極集電体62の厚みは、特に限定されないが、例えば5μm以上35μm以下であり、好ましくは7μm以上20μm以下である。
【0025】
負極活物質層64は、負極活物質を含んでいる。負極活物質層64に含まれる負極活物質としては、特に限定されず、一好適例としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料が挙げられる。負極活物質は、粒状の天然黒鉛の表面に非晶質炭素(例えばカーボンブラック)がコートされた、非晶質コート黒鉛であってもよい。負極活物質層64の固形分全体を100質量%としたときに、負極活物質の含有量は、特に限定されないが、90重量%以上が好ましく、95重量%以上がより好ましく、99重量%以上がさらに好ましい。負極活物質層64は、負極活物質以外の任意の成分、例えば、増粘剤、バインダ、分散剤等を含んでいてもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)やメチルセルロース(MC)等のセルロース類が挙げられる。バインダとしては、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)等のゴム類や、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のハロゲン化ビニル樹脂が挙げられる。
【0026】
セパレータシート70は、正極シート50の正極活物質層54と、負極シート60の負極活物質層64との間に配置され、正極活物質層54と負極活物質層64とを絶縁する。セパレータシート70は、多孔性の樹脂基材で構成されている。樹脂基材としては、例えば、ポリエチレン(PE)や、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、セルロース等の樹脂からなるシート(フィルム)が例示される。セパレータシート70は、単層構造であってもよく、性質や性状(厚みや空孔率等)の異なる2種以上の多孔性樹脂シートが積層された構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。また、セパレータシート70は、その表面にセラミック粒子等により構成された耐熱層(Heat Resistant Layer:HRL層)を備えていてもよい。
【0027】
単電池10は、上記したように非水電解質を含んでいる。非水電解質は従来と同様でよく、特に制限はない。非水電解質は、例えば、非水系溶媒と支持塩とを含有する非水電解液である。非水系溶媒は、例えば、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等のカーボネート類を含んでいる。支持塩は、例えば、LiPF等のフッ素含有リチウム塩である。
【0028】
(2)組電池の構成
次いで、組電池100について説明する。図4に示すように、組電池100は、ここでは複数個の単電池10が、所定の配列方向に沿って配列されている。単電池10を一つずつ反転させつつ配列することにより、正極端子42および負極端子44が交互に配置されている。より詳しくは、単電池10の電池ケース30の幅広面が順に対向し、幅狭面が揃うように並べられた状態で配置されている。単電池10の間には、図4に示すように、スペーサー110が挟み込まれていることが好ましい。スペーサー110は、熱を効率よく放散させるための放熱手段や、長さの調整手段として機能し得る。組電池100における単電池10の個数は特に制限はないが、例えば10個以上、好ましくは10個以上30個以下である。
【0029】
配列した単電池10の両端には、一対のエンドプレート(拘束板)120が配置されている。両方のエンドプレート120の間を架橋するように、締め付け用の拘束バンド130が取り付けられている。これにより、単電池10の配列方向に所定の拘束荷重が印加されるように複数の単電池10が拘束されている。詳しくは、拘束バンド130の端部をビス155によりエンドプレート120に締付することによって、単電池10の配列方向(ここでは奥行方向X)に所定の拘束荷重が印加されるように複数の単電池10が拘束されている。各単電池10を拘束する拘束圧は、特に限定されない。例えば、単電池10の配列方向において、0.2MPa以上(好ましくは0.5MPa以上)であって、10MPa以下(好ましくは5MPa以下)の圧力で押圧されるように、拘束圧が設定される。そして、隣接する単電池10間において、一方の正極端子42と他方の負極端子44とが、バスバー140によって電気的に接続されている。以上のようにして、各単電池10を直列に接続することにより、所望する電圧の組電池100が構築されている。
なお、組電池の形態は、図示されるような形態に限定されず、例えばラミネート型単電池を複数所定の方向に配列して拘束した形態であってもよいし、円筒形状の単電池を複数配列して拘束した形態であってもよい。また、複数の単電池10が、拘束圧のかからない状態で配置された形態であってもよい。
【0030】
3.冷却部
次いで、ここに開示される電池モジュール1が備える冷却部210について説明する。図5に示すように、冷却部210は、組電池100と近接する冷却表層部212と、冷媒が収容される冷媒収容部214と、を備えている。冷却表層部212は、第1層212aと、第1層212aよりも組電池100側に配置される第2層212bと、を備えている。第2層212bは、第1層212aよりも低温で亀裂(クラック)が生じる材料で構成され、所定の温度以上になった際には、冷媒収容部214から冷媒(例えば空気や冷却水)が組電池100に向けて放出されるように構成されている。
組電池100を構成する単電池10のうち少なくとも1つの単電池10において、例えば、正極と負極とが短絡したような緊急事態においては、単電池10が急激に発熱することがあり得る。また、単電池10が急激に発熱した場合には、電池ケース30内部で急激にガスが発生し、安全弁36から高温のガスが勢いよく吹き出すこともあり得る。ここに開示される技術によれば、第2層212bが、第1層212aよりも低温で亀裂が生じる材料から構成されているため、単電池10において急激な発熱やガスの噴き出しなどの不安全挙動が生じた際には、まず、組電池100と近接する第2層212bにおいて亀裂が生じる。そして、当該第2層212bの亀裂が起点となり、第1層212aにも亀裂が生じて、冷媒が組電池100に向けて放出される。これにより、組電池100を構成する単電池10の少なくとも一つにおいて短絡が生じた際においても、当該単電池10が適切に冷却され、組電池100を構成する他の単電池10への影響を抑制することができる。
【0031】
(1)冷却部の構成
図1に示すように、冷却部210は、外部から冷媒を供給可能に構成された吸入口220と、冷媒を外部に排出可能に構成された排出口230と、を有している。冷却部210における冷却方式は、特に限定されない。好ましくは、冷媒循環式または冷媒滞留式であるとよい。冷媒循環式とは、上記した吸入口220から冷媒収容部214に連続的に冷媒が供給され、供給された冷媒が冷媒収容部214を通過して排出口230から排出され、排出された冷媒が例えば外部の冷却装置で再び冷却されて吸入口220から供給される冷却方式である。また、冷媒滞留式とは、上記した吸入口220から冷媒収容部214に冷媒を供給し、冷媒収容部214を冷媒で満たした状態で密閉する冷却方式である。当該冷媒滞留方式では、冷媒収容部214に滞留する冷媒によって、組電池100から発生する熱を吸収して外部に放熱させる。
【0032】
冷媒収容部214が収容する冷媒は、組電池100を適切に冷却するように構成されている限り、特に限定されない。冷媒は気体であってもよく、液体であってもよい。気体としては、例えば、外気であってもよい。液体としては、組電池100の冷却効果が大きいものが好ましく、例えば、水であってもよく、水と不燃性かつ絶縁性の溶媒との混合溶液であってもよい。このような不燃性かつ絶縁性の溶媒としては、ジイソプロピルナフタレン、1-フェニル-1-(3,4-ジメチルフェニル)エタン、液体セルロース、エチレングリコールやプロピレングリコールなどのグリコール、四塩化炭素などが挙げられる。水と当該溶媒との混合割合(質量比)は、1:9~9:1であってもよい。また、冷媒が液体の場合には、防錆材などの種々の添加剤を含んでいてもよい。防錆剤としては例えば、リン酸塩系物質(例えば、リン酸カリ塩、無機カリ塩)などが挙げられる。防錆剤を含む場合には、水と、不燃性かつ絶縁性の溶媒と、防錆剤との混合溶液において、防錆剤は0.5~3質量%程度含まれ得る。
【0033】
冷却表層部212は、組電池100に近接して配置され、組電池100を適切に冷却する。冷却表層部212は、上記したように第1層212aと、第1層212aよりも低温で亀裂が生じる材料から構成される第2層212bと、を備えている。かかる構成によれば、単電池10において不安全挙動が生じた際には、まず、組電池100と近接する第2層212bにおいて亀裂が生じる。ここで、第2層212bに生じる亀裂は、当該亀裂が起点となり、第1層212aにも亀裂を生じさせる程度の亀裂であることが求められる。第2層212bの厚みや、第1層212aを構成する材料などにより異なるため、一概に規定できないが、第2層212bに生じる亀裂とは、第2層の厚みの1/3程度以上の亀裂(クラック)が第2層に生じることをいう。例えば、第2層の厚みが180μmであれば、60μm以上の亀裂(クラック)が生じるこという。
【0034】
第1層212aは、冷媒収容部214側に配置される層である。第1層212aは、冷媒収容部214を適切に維持することができる強度を有することが好ましい。また、第2層212bよりも、亀裂が生じる温度が高いことが求められる。例えば、第1層212aにおいて亀裂が生じる温度(亀裂開始温度)は、少なくとも150℃以上である。第1層212aの材料は、例えば、アルミニウム、鉄、銅、クロムもしくはこれらの合金(例えばアルミニウム合金、ステンレス鋼)などの金属材料が挙げられる。かかる金属材料は、一般的には強度が高い材料であるが、上記したように第2層212bの亀裂が起点となることにより、連鎖的に亀裂を生じさせることができる。これにより、単電池10で短絡などの不安全挙動が生じた際には、第1層212aに亀裂が生じるような温度に達する前に、速やかに冷媒収容部214から冷媒を放出させることができるため、安全性の高い電池モジュール1を提供することができる。好ましい一態様では、第1層212aは、アルミニウムを主体として構成される。なお、本明細書において「Aを主体として構成されている」とは、Aの含有量(質量%)が最も多いことを意味し、例えば、60質量%以上がAから構成されていることをいう。
【0035】
第1層212aの平均厚みは、冷媒収容部214を適切に維持できる限り特に限定されない。第1層212aの平均厚みは、例えば1.5mm以上15mm以下であることが好ましく、3mm以上12mm以下であることがより好ましく、5mm以上10mm以下であることが特に好ましい。なお、第1層212a平均厚みは、例えば、対象物(すなわち冷却部)の断面(平面方向に対して垂直に切断し研磨したもの)に対して光学顕微鏡を用いて、第1層の厚みをランダムに複数個所(例えば5~20箇所)測定し、かかる値の平均を算出することで求めることができる。
【0036】
第2層212bは、組電池100が通常使用されている際の温度では上記したような亀裂は生じず、少なくとも1つの単電池10において不安全挙動が発生した際に、亀裂が生じるように構成される。例えば、第2層212bにおいて、亀裂が生じる温度(亀裂開始温度)は、110℃以上であることが好ましい。すなわち、第2層212bが110℃以上の環境に晒された場合には、第2層212bに亀裂が生じ、これを起点として第1層212aにも亀裂が生じることで、冷媒収容部214から冷媒が放出され、組電池100が冷却される。第2層212bの亀裂開始温度の上限は、例えば、450℃以下であって、300℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましく、145℃以下であってもよい。第2層212bの亀裂開始温度は、例えば110℃以上450℃以下であることが好ましく、110℃以上200℃以下であることがより好ましい。
【0037】
上記したような温度で亀裂が生じる材料の一例としては、低融点の金属、合金、および金属の固溶体などが挙げられる。より具体的には、酸化アルミニウムや、Sn-Bi-In系合金、Sn-Cu系合金、Sn-Ag-Cu系合金、Sn-Zn系合金、Sn-Al系合金などの融点が200℃以下の合金が挙げられる。好ましい一態様では、第2層212bは酸化アルミニウムを主体として構成されている。
【0038】
第2層212bが薄すぎる場合には、第1層212aにも亀裂が生じる程度の勢いで亀裂が生じないため、所定の平均厚みを有することが好ましい。一方で、第2層212bが厚すぎる場合には、単電池10において不安全挙動が生じた際に速やかに亀裂が生じ難くなる。かかる観点から第2層212bの平均厚みは、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、25μm以上750μm以下であることがより好ましく、50μm以上500μm以下であることがさらに好ましい。かかる第2層の平均厚みは、例えば、対象物(すなわち冷却部)の断面(平面方向に対して垂直に切断し研磨したもの)に対して光学顕微鏡を用いて、第2層の厚みをランダムに複数個所(例えば5~20箇所)測定し、かかる値の平均を算出することで求めることができる。
【0039】
上記したような第1層212aと第2層212bとを備える冷却表層部212は、例えば、以下のようにして作製することができる。第1層212aの材料となり得るアルミニウムやステンレスなどの金属板と、第2層212bの材料となり得るSn-Ag-Cu系合金などの金属板とを用意する。かかる2枚の金属板を、所定の温度(例えば第2層212bの金属板の溶融温度より10℃程度低い温度)と圧力(例えば0.5MPa~100MPa)で圧着等させることにより冷却表層部212を作製することができる。なお、第1層212aおよび第2層212bの平均厚みは、材料とする金属板の厚みや、合板させる際の温度や圧力を変更することにより調整することができる。
【0040】
また、第1層212aがアルミニウムを主体として構成され、第2層212bが酸化アルミニウムを主体として構成される場合には、アルマイト処理によって作製することができる。アルマイト処理は、従来公知のアルマイト処理と同様でよい。具体的には、アルミニウムまたはアルミニウム合金板の片面をアルマイト処理液に浸漬し、アルミニウム陽極酸化処理を行うことによって実施することができる。かかるアルマイト処理液や温度や電圧および処理時間等で制御することにより、第2層212bの平均厚みを調整することができる。アルマイト処理液は、一般的にアルマイト処理に用いられるものの中から特に限定することなく用いることができる。一例として、硫酸、硫酸アンモニウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素アンモニウム、リン酸、リン酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂、炭酸アンモニウム、クロム酸、重クロム酸、スルファミン酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、クエン酸、クエン酸アンモニウム、蟻酸、アンモニア水、水酸化ナトリウム、フッ化アンモニウム、フェリシアン化カリウム、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、過酸化水素水、チタン酸シュウ酸カリウム、スルホサリチル酸、スルホフタル酸、スルホイソフタル酸、フェノールスルホン酸などが挙げられる。
【0041】
冷却部210は、上記したように作製される第1層212aと第2層212bとを備える冷却表層部212と、適当な金属板とを用いて作製することができる。例えば、少なくとも組電池100に近接する面に冷却表層部212を配置し、冷媒収容部214が形成されるような直方体となるように、金属板と溶接する。そして、吸入口220と排出口230とを取り付けることによって、冷却部210を作製することができる。
【0042】
好適な一態様では、第1層212aがアルミニウムを主体として構成され、第2層212bは、酸化アルミニウムを主体として構成されていることが好ましい。ここで、酸化アルミニウムを主体として構成されている第2層とは、第1層212aの組電池100と近接する側の面に意図的に酸化アルミニウムの層を形成したことをいう。アルミニウムは、一般的に酸化されやすい金属であり、第1層212aがアルミニウムを主体として構成されている場合には、空気中において20nm程度の酸化被膜が形成され得る。しかしながら、このように生じた酸化アルミニウムの層は、厚みが薄すぎるために、上記したような第1層212aにも亀裂が生じる程度の亀裂を生じさせることはできない。さらに、上記したようにアルマイト処理によって酸化アルミニウムを主体とする第2層212bを形成した場合には、かかる第2層212bには、表面から厚み方向に延びる細孔が形成される。かかる細孔が多数存在することで、より好適な亀裂を第2層212bに生じさせることができる。すなわち、空気中に晒されることによって酸化して生じた酸化アルミニウムの層によっては、ここに開示される技術の効果を発揮させることはできず、酸化アルミニウムを主体として第2層212bを意図的に形成することにより、ここに開示される技術の効果を発揮させることができる。
【0043】
(2)筐体の構成
上記したような冷却部210は、ここでは、筐体200に備えられている。筐体200は、組電池100を外部からの衝撃などから保護する部材であり、組電池100を収容することができる限りにおいて、特に限定されない。筐体200は、図1に示すように、収容される組電池100と外部負荷とを接続するための配線を挿入可能に構成された電気取出口240を備えている。筐体200に収容される組電池100の個数は特に限定されず、1または複数の組電池100を収容することができる。筐体200は、例えば、所定の強度と熱伝導性とを有した金属材料であることが好ましい。このような金属材料の一例として、アルミニウム、鉄、クロムもしくはこれらの合金(例えばアルミニウム合金、ステンレス鋼)などが挙げられる。なかでも、アルミニウムを主体として構成されていることが好ましく、例えばアルミニウム、アルミニウム合金などから構成されていることが好ましい。
【0044】
好適な一態様では、冷却部210は、筐体200の壁面の少なくとも一面に備えられている。例えば、冷却部210は、筐体200の底面にのみに備えられた構造であってもよく、底面と上面とに備えられた構造であることがより好ましく、筐体200の全ての壁面に備えられた構造であることがさらに好ましい。組電池100が筐体200に収容されている場合には、単電池10で上記したような不安全挙動が生じた際に、筐体200内部の温度も上昇する。また、筐体200の内部にガスが充満することによって、内部の圧力が上昇しやすくなる。この結果、第2層212bに圧力がかかるため、さらに亀裂が生じやすくなる。すなわち、冷却部210が筐体200に備えられていることにより、さらに速やかに組電池100を冷却することができるため、より安全性の高い電池モジュール1を提供することができる。
【0045】
冷却部210が筐体200に備えられている場合には、例えば、以下の手順によって作製することができる。まず、上記したように作製した冷却表層部212と、筐体200の材料となり得るアルミニウムなどの金属板とを用意する。次いで、冷媒収容部214を備えるように冷却表層部212と金属板とが一体化された冷却部210を作製する。そして、少なくとも上記冷却部210を1面含む状態で、筐体200を構成するための金属板とそれぞれ接合する。このとき、各面の間は溶接やパッキンによって接合され得る。あるいは、上記作製した冷却部210を組電池100に収容するための一面以外を一体として作製してもよい。
【0046】
以上のようにして構成される電池モジュール1は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。また、電池モジュール1は、当該電池モジュール1が複数収容された電池パック、当該電池モジュール1が複数積層された状態のものにおいても、ここに開示される技術の効果を発揮させることができる。
【0047】
<試験例>
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0048】
1.冷却部の構造の検討
(1)評価用組電池の作成
正極活物質粉末としてのLiNi1/3Co1/3Mn1/3と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)と、を用意した。上記した材料を、溶媒としてのN-メチルピロリドン(NMP)と混合し、正極活物質層形成用スラリーを調整した。このスラリーを長尺状のアルミニウム箔の両面に帯状に塗布して、乾燥した後プレスすることにより、正極シートを作製した。
負極活物質としての天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンゴム(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)と、を用意した。上記した材料を、溶媒としてのイオン交換水と混合し、負極活物質層形成用スラリーを調整した。このスラリーを長尺状の銅箔の両面に帯状に塗布して、乾燥した後プレスすることにより、負極シートを作製した。
また、セパレータとしては、PP/PE/PPの三層構造の多孔質ポリオレフィンシートを使用した。
【0049】
上記作製した正極シートおよび負極シートと、2枚の上記用意したセパレータとを積層し、捲回した後に側面方向から押圧して拉げさせることにより、扁平形状の捲回電極体を作製した。そして、捲回電極体に正極端子および負極端子を接続し、電解質注入口を有する角型の電池ケースに収容した。続いて、電池ケースの電解質注入口から非水電解液を注液し、当該注入口を気密に封止した。なお、非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とをEC:EMC:DMC=3:3:4の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを、1.1mol/Lの濃度で溶解したものを用意した。その後、活性化処理を行って、各例の角型単電池を得た。
【0050】
また、上記作製した正極シートおよび負極シートと、2枚の上記用意したセパレータとを積層し、捲回した後に側面方向から押圧して拉げさせることにより、扁平形状の捲回電極体を作製した。そして、捲回電極体に正極端子および負極端子を接続し、ラミネート型の電池ケースに収容した。ラミネート型電池ケースの開口部から非水電解液を注液し、当該注液口を気密に封止した。なお、非水電解液には、上記した角型単電池と同様のものを用いた。その後、活性化処理を行って、各例のラミネート型単電池を得た。
【0051】
上記のようにして同様の単電池を6つ用意した。6つの単電池の幅広面がそれぞれ対向するように、所定の配列方向に沿って一列に並べ、6つの電池のそれぞれの間に厚みが5mm程度の断熱板(スペーサー)を挟んだ状態で、拘束バンドで拘束した。なお、後述する安全性の試験を実施するために、3つ目と4つ目の単電池の間の断熱板は2枚とし、そのうちの1枚の中央部に2cm×2cmの大きさの穴をあけ、小型の窒化アルミヒーターを取り付けた。そして、単電池の正極端子と負極端子とを電気的に接続することにより、各例の評価用組電池を作製した。
【0052】
(2)評価用電池モジュールの作成
本試験では、筐体の冷却部の形成位置と、冷却部の冷却方法と、を異ならせて、電池モジュールの安全性を評価した。まず、冷却部を備え、外側がアルミニウムから構成される筐体を用意した。冷却部は、冷却表層部と、冷却収容部と、外部から冷媒を供給可能な吸入口と、冷媒を外部に排出可能な排出口とを有している。冷却部の冷却表層部の第1層は、アルミニウムを主体として構成し、平均厚みは5mmとした。また、冷却表層部の第2層は、第2層の亀裂開始温度が110℃となるように、酸化アルミニウムを主体として構成し、平均厚みは50μmとした。第2層の酸化アルミニウムは第1層の表面にアルマイト処理を実施することにより作製した。また、冷媒としては、水と不燃性かつ絶縁性の溶媒(プロピレングリコール)とを混合したものを使用した。
【0053】
例1では、冷却表層部が上記したような第1層のみを備える冷却部を、底面にのみ備えた筐体を用意した。当該筐体に上記作製した角型単電池の組電池を収容し、評価用電池モジュールを作製した。また、冷却部の冷却方法は、冷媒滞留式とした。
例2では、冷却表層部が上記したような第1層および第2層を有する冷却部を、底面にのみ備えた筐体を用意した。当該筐体に上記作製した角型単電池の組電池を収容し、評価用電池モジュールを作製した。また、冷却部の冷却方法は、冷媒滞留式とした。
例3では、冷却表層部が上記したような第1層および第2層を有する冷却部を、底面および上面に備えた筐体を用意した。当該筐体に上記作製した角型単電池の組電池を収容し、評価用電池モジュールを作製した。また、冷却部の冷却方法は、冷媒滞留式とした。
例4では、冷却表層部が上記したような第1層および第2層を有する冷却部を、全ての壁面に備えた筐体を用意した。当該筐体に上記作製した角型単電池の組電池を収容し、評価用電池モジュールを作製した。また、冷却部の冷却方法は、冷媒滞留式とした。
例5では、冷却表層部が上記したような第1層および第2層を有する冷却部を、全ての壁面に備えた筐体を用意した。当該筐体に上記作製した角型単電池の組電池を収容し、評価用電池モジュールを作製した。また、冷却部の冷却方法は、冷媒循環式とした。
例6では、単電池をラミネート型単電池に変更したこと以外は、例2と同様にして評価用電池モジュールを作製した。
例7では、単電池をラミネート型単電池に変更したこと以外は、例3と同様にして評価用電池モジュールを作製した。
例8では、単電池をラミネート型単電池に変更したこと以外は、例4と同様にして評価用電池モジュールを作製した。
【0054】
(3)電池モジュールの安全性評価
各評価用電池モジュールに収容される組電池の単電池の間に設置した小型の窒化アルミヒーターを、500℃以上となるように作動させた。このとき、単電池の内部が800℃以上となった単電池の数と、各評価用電池モジュールの表面温度を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
例1と例2を比較すると、冷却表層部が第1層および第2層を有する冷却部を備える例2は、冷却表層部が第1層のみを有する冷却部を備える例1と比較して、800℃以上となった単電池の数が少なくなり、電池モジュールの表面最高温度が非常に低くなった。すなわち、冷却部が第1層および第2層を有する冷却表層部を備え、第2層が第1層よりも低温で亀裂が生じる材料で構成されることにより、冷媒収容部から冷媒が放出されて組電池が速やかに冷却されるため、より安全性の高い電池モジュールを実現することができる。
【0057】
例2~例4に示すように、筐体の底面だけでなく、底面と上面、さらには筐体の全ての壁面において冷却部が備えられていることにより、800℃以上となった単電池の数がさらに少なくなり、電池モジュールの表面最高温度がさらに低くなった。したがって、冷却部が筐体の底面と上面または筐体の全ての壁面において備えられていることにより、さらに効率よく組電池を冷却させることができ、より安全性の高い電池モジュールが実現される。
また、例4および例5に示すように、冷却部の冷却方式を変更した場合にも、十分に800℃以上となった単電池の数が少なく、電池モジュールの表面最高温度も低くなった。したがって、冷却部の冷却方式が冷媒循環式または冷媒滞留式であることにより、安全性の高い電池モジュールが実現される。
【0058】
さらに、例6~例8に示すように、単電池をラミネート型とした場合にも、例1と比較して、800℃以上となった単電池の数が少なくなり、電池モジュールの表面最高温度が非常に低くなった。したがって、筐体に収容される組電池を構成する単電池の形態にかかわらず、安全性の高い電池モジュールを実現することができる。
【0059】
2.第2層の平均厚みおよび材料の検討
(1)評価用電池モジュールの用意
本試験では、第2層の平均厚みおよび構成する材料を異ならせて、電池モジュールの安全性を評価した。まず、上記したような角型単電池を6つ用意した。6つの単電池を上記したように一列に並べ、断熱板を挟んだ状態で拘束し、各例の評価用組電池を作製した。なお、安全性の試験を実施するために、3つ目と4つ目の単電池の間の断熱板は2枚とし、そのうちの1枚の中央部に2cm×2cmの大きさの穴をあけ、小型の窒化アルミヒーターを取り付けた。次いで、冷却表層部が第1層および第2層を有する冷却部を備え、外側がアルミニウムから構成される筐体を用意した。冷却部は、冷却表層部と、冷却収容部と、外部から冷媒を供給可能な吸入口と、冷媒を外部に排出可能な排出口とを有している。冷却部の冷却表層部の第1層は、アルミニウムを主体として構成され、平均厚みは5mmとした。また、冷媒としては、水と不燃性かつ絶縁性の溶媒(エチレングリコール)との混合溶液にリン酸カリ塩を添加したものを使用した。
【0060】
例9では、第2層は酸化アルミニウムを主体として構成され、平均厚みは1μmとした。第2層の酸化アルミニウムは第1層の表面にアルマイト処理を実施することにより作製した。冷却表層部が第1層および第2層を備える冷却部を、全ての壁面に備えた筐体を用意した。当該筐体に上記作製した角型単電池の組電池を収容し、評価用電池モジュールを作製した。また、冷却部の冷却方法は、冷媒滞留式とした。
例10は、第2層の平均厚みを表2に示すように変更したこと以外は例9と同様にして、評価用電池モジュールを作製した。
【0061】
例11では、第2層は、第2層の亀裂開始温度が110℃となるように、Sn-Bi-In系合金を主体として構成し、平均厚みは500μmとした。例11の冷却表層部は、アルミニウム板とSn-Bi-In系合金板とを所定の温度や圧力により溶着させて作製した。冷却表層部が第1層および第2層を備える冷却部を、全ての壁面に備えた筐体を用意した。当該筐体に上記作製した角型単電池の組電池を収容し、評価用電池モジュールを作製した。また、冷却部の冷却方法は、冷媒滞留式とした。
例12では、第2層の平均厚みを表2に示すように変更したこと以外は例11と同様にして、評価用電池モジュールを作製した。
例13では、第2層は、第2層の亀裂開始温度が200℃となるように、Sn-Ag-Cu系合金を主体として構成し、平均厚みは500μmとした。例13の冷却表層部は、アルミニウム板とSn-Ag-Cu系合金板とを所定の温度や圧力により溶着させて作製した。このこと以外は例11と同様にして、評価用電池モジュールを作製した。
例14では、第2層は、第2層の亀裂開始温度が450℃となるように、Al-Mg系合金を主体として構成し、平均厚みは500μmとした。例14の冷却表層部は、アルミニウム板とAl-Mg系合金板とを所定の温度や圧力により溶着させて作製した。このこと以外は例11と同様にして、評価用電池モジュールを作製した。
例15では、第2層は、第2層の亀裂開始温度が200℃となるように、Sn-Ag-Cu系合金を主体として構成し、平均厚みは100μmとした。例15の冷却表層部は、アルミニウム板とSn-Ag-Cu系合金板とを所定の温度や圧力により溶着させて作製した。このこと以外は例11と同様にして、評価用電池モジュールを作製した。
【0062】
(2)電池モジュールの安全性評価
各評価用電池モジュールに収容される組電池の単電池の間に設置した小型の窒化アルミヒーターを、500℃以上となるように作動させた。このとき、800℃以上となった単電池の数と、各評価用電池モジュールの表面温度を測定した。結果を表2に示す。なお、表2においては、比較のために例1と例4の結果も併せて記載している。
【0063】
【表2】
【0064】
例4および例9~例12に示すように、第2層の平均厚みにかかわらず、冷却表層部が第1層と第2層を有する冷却部を備えることにより、冷却表層部が第1層のみを有する冷却部を備える例1と比較して、800℃以上となった単電池の数が少なくなり、電池モジュールの表面最高温度が非常に低くなった。さらに、第2層の平均厚みが50μm以上500μm以下のときに、特に800℃以上となった単電池の数がさらに少なくなり、電池モジュールの表面最高温度がさらに低くなった。これは、第2層の平均厚みが薄い場合には、第1層に達する亀裂の入り方の勢いがなくなり、平均厚みが50μm以上の第2層と比較すると効果が小さくなったと推測される。また、第2層の平均厚みが厚い場合には、平均厚みが500μm以下の第2層と比較すると熱の伝わり方が遅くなり、効果が小さくなったと推測される。したがって、第2層の平均厚みは、1μm以上1000μm以下である場合には十分効果が発揮され、50μm以上500μm以下である場合には特に効果が発揮されることがわかる。
【0065】
例10~例15に示すように、第2層の材料にかかわらず、冷却表層部が第1層と第2層を有する冷却部を備えることにより、冷却表層部が第1層のみを有する冷却部を備える例1と比較して、800℃以上となった単電池の数が少なくなり、電池モジュールの表面最高温度が非常に低くなった。また、第2層の亀裂開始温度が高くなるにつれ、800℃以上となった単電池の数が多くなり、電池モジュールの表面最高温度が高くなる傾向にあるが、第2層の亀裂開始温度が110℃以上450℃以下である場合には、十分効果が発揮されることがわかる。また、第2層の亀裂開始温度が110℃以上200℃以下である場合には特に効果が発揮されることがわかる。
【0066】
以上、ここで開示される技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0067】
1 電池モジュール
10 単電池
20 電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
44 負極端子
50 正極(正極シート)
60 負極(負極シート)
70 セパレータ(セパレータシート)
100 組電池
110 スペーサー
120 エンドプレート(拘束板)
130 拘束バンド
140 バスバー
155 ビス
200 筐体
210 冷却部
212 冷却表層部
212a 第1層
212b 第2層
214 冷媒収容部
220 吸入口
230 排出口
240 電気取出口
図1
図2
図3
図4
図5