(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】悪液質を検出するためのCT造影剤
(51)【国際特許分類】
A61K 49/04 20060101AFI20240718BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20240718BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20240718BHJP
A61K 47/14 20170101ALI20240718BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240718BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240718BHJP
A61P 7/00 20060101ALN20240718BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20240718BHJP
A61P 31/18 20060101ALN20240718BHJP
A61P 13/12 20060101ALN20240718BHJP
A61P 11/00 20060101ALN20240718BHJP
A61P 9/04 20060101ALN20240718BHJP
A61P 31/06 20060101ALN20240718BHJP
A61P 1/04 20060101ALN20240718BHJP
A61P 29/00 20060101ALN20240718BHJP
A61P 19/02 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
A61K49/04 210
A61K9/107
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/10
A61K47/24
A61P7/00
A61P35/00
A61P31/18
A61P13/12
A61P11/00
A61P9/04
A61P31/06
A61P1/04
A61P29/00 101
A61P19/02
(21)【出願番号】P 2021544188
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 EP2020053768
(87)【国際公開番号】W WO2020165349
(87)【国際公開日】2020-08-20
【審査請求日】2022-12-21
(32)【優先日】2019-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512300964
【氏名又は名称】ウニヴァシテ デ ジュネーブ
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE GENEVE
(73)【特許権者】
【識別番号】322003189
【氏名又は名称】アディポス エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】バビチ,アンドレイ
(72)【発明者】
【氏名】ストランスキー-イルクロン,ナタリー
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-213233(JP,A)
【文献】特開昭64-056623(JP,A)
【文献】特表昭61-500849(JP,A)
【文献】特許第7210542(JP,B2)
【文献】Acad Radiol,2010年,vol.17, no.8,pp.985-991
【文献】Molecular Imaging and Biology,2019年01月31日,vol.20, no.1,Abstracts ID:279
【文献】Experimental Biology and Medicine,2017年, vol.242,pp.473-481
【文献】Cell Metabolism,2014年,vol.20,pp.433-447
【文献】Intern Med, 2018年,vol.8, no.6,pp.1-7
【文献】J Cachexia Sarcopenia Muscle,2013年,vol.4,pp.173-178
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 49/00-49/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における褐色及び/又はベージュ脂肪組織(BAT)のコンピューター断層撮影法を用いたインビボイメージングに用いられるための経口造影剤であって、一般式I:
【化1】
(式中、n=14~16であり;
R
1は、ヨウ素原子の数が1~6であり、ヨウ素原子がジェミナルでもビシナルでもないことを前提として、H又はIであり;
R
2は、H、不飽和又は飽和、直鎖状又は分岐鎖状アルキル、アルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルコキシアルキル、ポリヒドロキシアルキル、またはヒドロキシポリアルキレンオキシアルキルである)
による16~18個の炭素原子及び/又はそれらのエステルを有する1つ以上のヨウ化脂肪酸の生体適合性製剤を含
み、
コンピューター断層撮影は、PET-CTイメージングによって実施される、経口造影剤。
【請求項2】
対象における褐色及び/又はベージュ脂肪組織(BAT)のコンピューター断層撮影検出による悪液質又は前悪液質の診断に用いられるための経口造影剤であって、一般式I:
【化2】
(式中、n=14~16であり;
R
1は、ヨウ素原子の数が1~6であり、ヨウ素原子がジェミナルでもビシナルでもないことを前提として、H又はIであり;
R
2は、H、不飽和又は飽和、直鎖状又は分岐鎖状アルキル、アルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルコキシアルキル、ポリヒドロキシアルキル、またはヒドロキシポリアルキレンオキシアルキルである)
による16~18個の炭素原子及び/又はそれらのエステルを有する1つ以上のヨウ化脂肪酸の生体適合性製剤を含む、経口造影剤。
【請求項3】
対象における褐色及び/又はベージュ脂肪組織(BAT)のコンピューター断層撮影検出による癌の診断に用いられるための経口造影剤であって、一般式I:
【化3】
(式中、n=14~16であり;
R
1は、ヨウ素原子の数が1~6であり、ヨウ素原子がジェミナルでもビシナルでもないことを前提として、H又はIであり;
R
2は、H、不飽和又は飽和、直鎖状又は分岐鎖状アルキル、アルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルコキシアルキル、ポリヒドロキシアルキル、ヒドロキシポリアルキレンオキシアルキルである)
による16~18個の炭素原子及び/又はそれらのエステルを有する1つ以上のヨウ化脂肪酸の生体適合性製剤を含む、経口造影剤。
【請求項4】
前記造影剤は、前記対象における前記褐色及び/又はベージュ脂肪組織(BAT)の前記活性の非侵襲性インビボイメージング、定量及び/又はモニタリングのために適合する、請求項1~3のいずれか一項に記載の経口造影剤。
【請求項5】
コンピューター断層撮影は、PET-CTイメージングによって実施される、請求項
2または3に記載の経口造影剤。
【請求項6】
前記生体適合性製剤は、ヨード化ケシ油製剤である、請求項1~5の何れか一項に記載の経口造影剤。
【請求項7】
前記生体適合性製剤は、エマルションである、請求項1~6の何れか一項に記載の経口造影剤。
【請求項8】
前記エマルションは、ナノエマルションである、請求項7に記載の経口造影剤。
【請求項9】
前記造影剤は、一般式Iによる16~18個の炭素原子を有する1つ以上のヨウ化脂肪酸の生体適合性ナノエマルションにある、請求項8に記載の経口造影剤。
【請求項10】
前記1つ以上のヨウ化脂肪酸は、ヨウ化リノレン酸から得られる、請求項8または9に記載の経口造影剤。
【請求項11】
前記ナノエマルションは、レシチン、脂肪アルコールを含むポリエチレングリコールエーテル、ポリソルベート、ソルビタンエステル及びそれらの混合物から選択される生体適合性乳化剤を含む、請求項8~10の何れか一項に記載の経口造影剤。
【請求項12】
前記ナノエマルション中の前記生体適合性乳化剤の量は、全ナノエマルションの5~30重量%の間である、請求項11に記載の経口造影剤。
【請求項13】
前記経口造影剤は、体重1g当たり0.0
05~1.6mgのヨウ素に対応する用量で投与される、請求項1~12の何れか一項に記載の経口造影剤。
【請求項14】
悪液質は、癌悪液質である、請求項2に記載の経口造影剤。
【請求項15】
悪液質は、HIV/AIDS、慢性腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性心不全、結核、クローン病、慢性腸疾患、関節リウマチ及び高齢者悪液質から成る群から選択される障害に関連する非癌悪液質である、請求項2に記載の経口造影剤。
【請求項16】
対象がそれに罹患している、又は罹患していることが疑われる早期の悪液質を診断するために用いられる、請求項2及び14~15の何れか一項に記載の経口造影剤。
【請求項17】
悪液質の前記早期診断は、前記対象が5%を超える体重を減少する前に実施される、請求項16に記載の経口造影剤。
【請求項18】
前記癌は、肺癌、膵臓癌、肝臓癌、結腸癌、胃癌、前立腺癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、卵巣癌、子宮頸癌又は肉腫から成るリストから選択される、請求項3に記載の経口造影剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、CT造影剤を用いたコンピューター断層撮影法による悪液質又は前悪液質の診断に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
癌悪液質は、腫瘍の種類に依存して、癌患者のおよそ50~80%に影響を及ぼす、並びに主として骨格筋及び体脂肪の減少を原因とする実質的な体重減少をもたらす、破壊的で、多因子から成り、更に不可逆性であることが多い症候群である。癌悪液質には、身体機能の低下、抗癌療法に対する忍容性の低下及び生存率の低下が結び付いている。癌患者における体重減少が積極的に認識される、評価される、又は管理されることは希である。悪液質が全癌患者の少なくとも20%の死亡について間接的な原因となることは、明確に認められている。従って、悪液質の診断及び治療は、重要なニーズが未だ満たされていないことを表す。
【0003】
癌患者の間でのこの症候群の発生率は極めて高いが、発生率は、腫瘍の種類毎に異なる;胃癌又は膵臓癌患者における発生率は80%を超えるが、他方、肺癌、前立腺癌又は結腸癌の患者で罹患するのはおよそ50%であり、乳房腫瘍又は一部の白血病の患者の約40%がこの症候群を発症する。重度の筋消耗、継続中の異化作用、低い一般状態及び療法に難治性の転移性疾患を有する患者は、多様な治療から臨床的に重要な利益が得られる可能性は低く、結果として痩せた組織及び機能が生じる傾向がある。この段階で、療法の目標は、患者及び家族両方についての症状の緩和及び苦悩の減少である。この領域に対して、その作用を減少させる、又は遅延させるための介入を実施できるように、悪液質の発症を認識及び診断することはメリットがあるであろう。
【0004】
癌悪液質は、従来型の栄養補給によっては完全に逆転させることのできない、及び進行性の機能的損傷をもたらす脂肪塊の消失を伴う、又は伴わない進行中の骨格筋塊の消失を特徴とする多因子症候群であると定義されている。病態生理学は、食物摂取量の減少及び異常代謝の様々な組み合わせによって駆動されるタンパク質とエネルギーの負のバランスを特徴とする。
【0005】
過去10年間に渡り悪液質についての理解は前進してきたが、定義、診断基準及び分類の欠如は、臨床試験及び臨床診療の両方における進歩を妨げてきた。成人及び小児の両方におけるあらゆる種類の悪液質についての一般的定義は提案されてきたが、関連する診断基準は癌特異的ではなく、妥当性が検証されていない。体重減少が日常的に評価されることはなく、治療が通常は不適切であるので、この状態が臨床状況において認識されることは希である。癌誘導性悪液質の患者を分類して病期判定する幾つかの試みにもかかわらず、臨床診療においては多数の方法が使用されている。様々な悪液質の定義及びコンセンサスが存在するにもかかわらず、悪液質が診断されることは依然として希である。この原因は、一部には、明確に標準化された悪液質の診断方法及びマーカーが存在しないことにある。癌悪液質患者のための数種の血液バイオマーカーが提案されているが、それらは全患者にとって普遍的且つ適用可能であると言うには程遠い。それらには、腫瘍由来化合物、炎症性サイトカイン、急性期タンパク質及び骨格筋分解マーカーが含まれる。以前に使用された臨床基準の一部としては、体重減少、身体機能の低下、疲労、食欲不振及び代謝の変調が挙げられる。
【0006】
現在のコンセンサスは、20未満のボディ・マス・インデックス又はサルコペニアの存在を伴って患者の体重が6カ月以内に少なくとも5%以上又は2%以上体重が減少した場合に悪液質と診断されるというものである1。しかしながら、現在、西洋化した国々では太り過ぎ及び肥満の癌患者が一般的であり、体重の顕著な変化は癌患者における臨床的に有意な体重減少の定義をますます不明瞭にする。
【0007】
実質的な不随意の体重減少(即ち、≦5%)には、初期臨床的及び代謝的徴候(例えば、食欲不振及び耐糖能異常)を特徴とする、悪液質に先行する前悪液質(又は早期悪液質)と呼ばれる状態が先行し得る。前悪液質を臨床状況において診断するのは、一層より困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
悪液質又は前悪液質の診断方法は、悪液質の診断が遅くなればなるほど難治性となるので、治療の可能性を高めるであろう。現在、悪液質又は前悪液質における脂肪組織の変化を検出する必要性がある。だが現時点では、悪液質又は前悪液質の診断における脂肪組織の組成及び変化のために使用できる画像診断がない。従って、本発明の目的は、この重要な診断上の必要を満たすことにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の簡単な説明
本発明の1つの目的は、悪液質又は前悪液質に罹患している患者における脂肪組織の変化を検出できるCTスキャン及びヨードCT造影剤を使用して、対象における悪液質又は前悪液質を診断する方法を提供することである。
【0010】
悪液質は、結核及びAIDS等の感染性疾患、並びに慢性閉塞性肺疾患、多発性硬化症、慢性心不全、慢性腎疾患、関節リウマチ、クローン病、及び最も重要には癌等の慢性疾患に付随する複合性消耗症候群である。
【0011】
本発明の1つの目的は、対象における悪液質又は前悪液質を診断する方法であって:
a)前記対象における褐色及び/又はベージュ脂肪組織(BAT)をコンピューター断層撮影法によってインビボイメージングする工程であって、一般式I:
【化1】
(式中、n=2~22であり;
R
1は、ヨウ素原子の数が1~6であり、ヨウ素原子がジェミナルでもビシナルでもないことを前提として、H又はIであり;
及びR
2は、H、不飽和又は飽和、直鎖状又は分岐鎖状アルキル、アルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルコキシアルキル、ポリヒドロキシアルキル、ヒドロキシポリアルキレンオキシアルキルである)による4~24個の炭素原子及び/又はそれらのエステル及び/又は塩及び/又は混合物を有するヨウ化脂肪酸の生体適合性製剤を含む造影剤を投与すること、及びCTスキャンを生成することを含む工程;
b)得られた工程a)のCTスキャンを次に健常患者と比較し、BAT及び/又はベージュ脂肪組織の増強の陽性若しくは増加を確定すること、又は前記対象における白色脂肪組織(WAT)の褐色化及び/又はBAT活性を検出することによって、悪液質又は前悪液質の診断を下す工程を含む方法を提供することである。
【0012】
驚くべきことに、前記CT造影剤は、口腔使用(即ち、経口)及び静脈内投与経路のために適合する。
【0013】
本発明の別の目的は、対象における褐色及び/又はベージュ脂肪組織(BAT)のコンピューター断層撮影検出によって悪液質又は前悪液質を診断する方法であって、(上記で定義した)一般式Iによる4~24個の炭素原子及び/又はそれらのエステル及び/又は塩及び/又は混合物を有するヨウ化脂肪酸の生体適合性ナノエマルションを含む造影剤を経口投与することを含む方法を提供することである。
【0014】
更なる目的は、対象における悪液質症候群を発症する原因である癌を診断する方法であって:
a)前記対象における褐色及び/又はベージュ脂肪組織(BAT)をコンピューター断層撮影法によってインビボイメージングする工程であって、上記で定義した一般式Iによる4~24個の炭素原子及び/又はそれらのエステル及び/又は塩及び/又は混合物を有するヨウ化脂肪酸を含む造影剤を投与することを含む工程:
b)得られた工程a)のCTスキャンを次に健常患者と比較し、BAT及び/又はベージュ脂肪組織の増強の陽性若しくは増加を確定すること、又は前記対象における白色脂肪組織(WAT)の褐色化及び/又はBAT活性を検出することによって、悪液質症候群を発症する原因である癌の診断を下す工程を含む方法を提供することである。
【0015】
本発明の他の目的及び利点は、次の詳細な説明を検討することにより当業者には明白になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図面の簡単な説明
【
図1】A群(腫瘍なし、造影剤)、B群(腫瘍あり、造影剤なし)、及びC群(腫瘍あり、造影剤あり)からのマウスにおける、CTによりイメージングされた8日目(1)、14日目(2)及び28日目(3)の肩甲骨間脂肪組織の代表的写真である。白色矢印は、肩甲骨間の褐色脂肪組織を指している。
【
図2】A群(腫瘍なし、造影剤)、B群(腫瘍あり、造影剤なし)、及びC群(腫瘍あり、造影剤あり)からのマウスにおける、CTによりイメージングされた8日目(1)、14日目(2)及び28日目(3)の膝窩脂肪組織の代表的写真である。矢印は、膝窩脂肪を指している。
【
図3】a:全試験を通してのマウスの体重の漸進的変化。A群:腫瘍なし、造影剤あり;B群:腫瘍あり、造影剤なし;C群:腫瘍あり、造影剤あり。B群及びC群については、記録された体重は偏りを回避するために腫瘍質量を減じることによって補正されている。b:B群及びC群における腫瘍質量の漸進的変化。
【
図4】マウスにおける2つの異なるBAT領域(a:肩甲骨間;b:膝窩)のコントラスト増強。A群:CT造影剤あり、腫瘍なし。B群:CT造影剤なし、腫瘍あり;C群:CT造影剤あり、腫瘍あり。a.肩甲骨間BAT:このBAT領域は、20~22℃で収容されたマウスにおいては活性化されるために、腫瘍増殖と関連するコントラスト増強は観察されない。b.膝窩脂肪組織:コントラスト増強を特徴とし、腫瘍増殖と関連する活性化及び褐色化が観察される。c.膝窩脂肪組織:C群では、時間の関数としての活性化及び褐色化が観察される。
【
図5】マウスにおける褐色及びベージュ脂肪組織の所在場所。時計回りで左上から始まる:a:首回りBAT;b:頸部BAT;c:肩甲骨下BAT;d:三頭筋ベージュ;e:肩甲骨間BAT;f:心臓ベージュ;g:血管周囲ベージュ;h:膝窩ベージュ;i:鼠径部ベージュ;j:股間ベージュ;k:腎周囲ベージュ;l:腋窩(Axiliar)ベージュ;m:腋窩(Axiliar)BAT。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
癌悪液質は、癌患者の50~80%に影響を及ぼし、癌死亡の約20%を占める、主として体重減少、筋消耗及び代謝異常を特徴とする複合症候群である。体重減少は、主として、癌悪液質の主要な特徴であると考えられる骨格筋量の消耗に左右される。更に、全身性炎症は、癌悪液質の発症に関与する。主要な症状としては、食欲不振、貧血、無力症及び疲労が挙げられ、更に患者のクオリティ・オブ・ライフを低下させる。更に、悪液質は、抗癌治療の忍容性及び有効性の低下に関連しており、結果として生存率の低下を生じさせる2。
【0018】
現在、悪液質は、ある期間に渡って体重減少を測定することによって診断される。体重減少が6カ月以内に5%を超えた場合は、悪液質が診断される。しかしながら、臨床状況における診断を複雑にする幾つかの他の診断基準が存在する。
【0019】
悪液質では、エネルギー摂取量が減少する、及び/又はエネルギー消費量が増加するエネルギーバランス障害が存在する3。エネルギーバランスの2つの成分-摂取又は消費-の異なる寄与は、腫瘍の種類及びその増殖期に左右される。エネルギー摂取量の変化には悪液質が結び付いていることが多いが、安静時エネルギー消費量の増加は疲労症候群の考えられる原因である。
【0020】
様々な種類の分子機構が、エネルギー消費量、従って不随意体重減少に寄与する。第一に、無益回路活性の増加が観察され、これがエネルギー非能率に寄与する。無益回路は、ミトコンドリア内で発生し、プロトンの再生利用の責任を担う;この回路は、脱共役の結果として癌において活性化され得るであろう。マウス悪液質性ルイス肺癌モデルからのデータは、骨格筋内のミトコンドリアATP合成が癌においては減少することを示唆している。実際に、ミトコンドリアATP合成を駆動する外部及び内部ミトコンドリア膜間のプロトン電気化学的勾配は、いわゆる脱共役タンパク質(UCP)の活性化を通して崩壊させられる4。
【0021】
様々なUCPの活性は、悪液質性腫瘍に罹患した実験動物及びヒト対象骨格筋(UCP2及びUCP3)並びに褐色脂肪組織(BAT)(UCP1)において増加することが証明されている。この現象には、酸化的リン酸化のミトコンドリア脱共役が結び付いている。ミトコンドリアの内膜内に存在するUCPタンパク質は、呼吸鎖を脱共役させ、ATPの産生を低下させ、過剰な陽子勾配を熱として消散させる。
【0022】
より近年には、UCP1を発現する脂肪細胞は、白色脂肪組織(WAT)内に存在することが証明されており、ベージュ脂肪組織と命名されている3。この問題は、ヒト成人は極めて僅かなBATしか有していないが、他方皮下WATには多くの誘導性ベージュ脂肪細胞が存在するので、極めて関心が高い。多数の試験は、褐色脂肪組織(BAT)及び/又はベージュ脂肪組織が過剰なエネルギーを熱として消散させ、エネルギー消費量を増加させることを証明した。
【0023】
癌悪液質では、骨格筋減少には、通常は白色脂肪組織(WAT)内の顕著な変化が付随する。この白色脂肪塊の一貫した融解は、様々な変化したプロセス、つまり脂肪分解活性の増大、インスリンの抗脂肪分解作用の低下、リポタンパク質リパーゼの活性の低下及び新規脂質生成の減少の結果である。脂肪分解の低下は、骨格筋質量の維持と一緒に発生し、これは脂肪組織内の変化が骨格筋タンパク質の変化に先行することを示唆しており、脂肪細胞トリアシルグリセロールの崩壊中に生成される幾つかのシグナルが実際的に筋肉タンパク質分解の活性化の原因となる可能性があることを暗示している。
【0024】
体重減少には、筋肉強度の減少、疲労、食欲不振、低い無脂肪マス・インデックス、生化学検査異常(炎症性バイオマーカー増大(C反応性タンパク質>5.0mg/L)、IL-6>4.0pg/mL)、貧血(<12g/dL)、及び低血清アルブミン(<3.2g/dL))が付随することが多い。更に、身体機能の低下(総活性、握力強度、階段昇り、若しくは6分間で歩ける距離)、又は生化学的組織分析(骨格筋生検におけるタンパク質分解若しくはアポトーシスの活性化)は、全部が臨床診療において使用されており、悪液質の診断を複雑にする5。
【0025】
代謝機能不全及び代謝率の増加は、悪液質についての原因であると提案されてきたが、発症機序は、現時点では十分には特徴付けられていない。マウス腫瘍モデルにおいては熱発生が観察されており、その原因は悪液質の代謝亢進状態に帰せられると示唆されてきた。肩甲骨間BATは、マウス及びヒトにおける唯一の発熱器官ではない。褐色脂肪細胞は、更にWAT褐色化と命名された現象であるWATデポ内で誘導され得る。「ベージュ」又は「ブライト」細胞としても公知であるWAT内で誘導される褐色脂肪細胞は、成熟白色及び褐色両方の脂肪細胞とは別個の前駆体細胞集団に由来する。
【0026】
証拠は、癌悪液質中にWAT細胞がそれらを褐色脂肪組織様細胞(ベージュ脂肪細胞とも呼ばれる)に変換させる「褐色化」プロセスを受けることを示唆している。褐色化には、ミトコンドリア電子輸送の使用をATP合成から熱発生へ切り換えるUCP1の発現増加に関連しており、結果として脂質動員及びエネルギー消費量の増加を生じさせる。免疫細胞によっても遊離され得る炎症性メディエーターIL6及び副甲状腺ホルモン関連タンパク質等の腫瘍由来化合物は、UCP1の発現を駆動することの原因となると思われる。
【0027】
ルイス肺癌を有するマウスにおけるPTHRPの中和は、WAT褐色化を遮断し、筋肉量及び筋肉強度の減少を低下させることができた6。腫瘍担持動物を使用した幾つかの試験は、ミトコンドリアレベルでのエネルギー脱共役及び熱の放出を結果として生じる、癌悪液質中の脂肪分解によるBATの明白な活性化を報告している。BATは、齧歯類における熱発生及びエネルギーバランスにおいて重要な役割を有するので、BATは、癌患者において発生する上述したエネルギー浪費の原因に帰せられる可能性がある。
【0028】
18FDG-PETは、褐色脂肪組織を評価するための主要なイメージング技術であるが、複数の制限に悩まされる。グルコースはBAT活性化後に取り込まれるが、グルコースは好ましい基質ではない。従って、18FDG-PETによって測定されるグルコース取込みは、BAT活性を過小評価し得た。更に、2型糖尿病(T2D)及び肥満症におけるインスリン耐性等の幾つかの病理学的状態は、18FDG-PETを用いたBAT活性の定量を軽減又は偏向させ得た。18FDG-PETは更に、極めて低い分解能しか提供しないので、WATにおいて存在するベージュ脂肪組織の小さなデポを検出することはできない。
【0029】
骨格筋及び脂肪組織に関する身体組成についての情報は、CT又はMRIスキャンによって作製できるが、これらの技術はBAT又はベージュ脂肪組織とWATとの識別を可能にしない。
【0030】
出願人らは、驚くべきことに、患者におけるBAT及び/又はベージュ脂肪組織を測定することが悪液質又は前悪液質を診断するための極めて強力なツールであることを見出した。ベージュ脂肪組織は、悪液質の初期発症において増大する。このプロセスは、白色脂肪組織の褐色化と呼ばれており、ベージュ脂肪組織を産生する。
【0031】
白色脂肪組織の褐色化は、癌悪液質発症の早期指標である。本発明では、BATの活性及び特にWATの褐色化は、驚くべきことに正確な診断を確定することに役立つ。
【0032】
悪液質の診断の状況では、褐色及びベージュ脂肪組織のイメージングは、特異的トレーサーがないために、現在は可能ではない。これは、これらの組織をインビボで検出、イメージング及びモニターすることを困難にさせる。CTスキャン上の一部の領域はCT造影剤を使用しないと褐色脂肪組織であると定義され得るという事実にもかかわらず、非熟練者は、新世代のCT造影剤を使用することで、褐色又はベージュ脂肪組織の検出限界、定量及び品質において相当に大きな進歩がみられることを理解するであろう。白色脂肪組織内に散乱しているベージュ脂肪細胞について考察する場合には、特に造影剤を用いずに視認することが不可能であることは事実である。
【0033】
それに加えて、様々な投与経路の中で、経口投与は最も容認され、且つ経済的方法であると考察される。造影剤、特に静脈内(IV)注射及び注入を投与するためには経験を積んだ専門家が必要とされるので、注射は、通常は病院内で投与される。典型的には、患者には、ヨード造影剤を使用するIV CT検査を行う前に「インフォームドコンセント用紙」に署名することが求められるであろう。造影剤の注射後には、呼吸困難、喉の腫れ、又は身体の他の部分の腫れを含む可能性がある重篤な反応が発生し得る。これらの反応は、直ちに治療されなければ、より重篤になり得る。これとは反対に、経口製剤は、投与するのがより容易で、安全で、所望の濃度を達成できるので、従って経口(PO)経路を理想的な選択にさせる。
【0034】
本出願人らは、健常対象におけるBAT/ベージュ脂肪組織のための低いコントラスト増強である特殊造影剤を使用するCTスキャンを提供する。個人又は対象が悪液質又は前悪液質を有する場合、スキャンは、初期診断を確定するのに役立つ増強の陽性又は増加を明らかにする。
【0035】
本発明に関連して、「CTスキャン」は、コンピューター(ソフトウエアを含む)がX線源及び検出器の動きを制御し、データを処理し、画像を生成する断層撮影法の形態を用いて作製されるX線画像である。
【0036】
前記対象のCTスキャン又は画像は、次に健常患者又は対象のCTスキャン/画像と比較され、BAT活性及び/又はWAT褐色化の陽性コントラスト増強を確定することによって診断が下される。より高いコントラスト強度及び/又は面積及び/又は容積を特徴とする陽性のBAT活性及び/又はWAT褐色化のコントラスト増強は、患者における悪液質の進行を示す。
【0037】
本発明の一実施形態では、患者又は対象は、悪液質の状態の進行を追跡する、及び/又は病期を確定するために数回試験することができる。理論によって拘束されなくても、患者は、身体内で異常な代謝変化(WATの褐色化及び/又はBATの活性化)が発生しているために、この症候群(悪液質)に罹患している。これは、腫瘍と患者の免疫系との組み合わせによって誘発される。
【0038】
この方法の利点は、さもなければ医師が診断を確定するためには少なくとも6カ月間を必要とする単回CTスキャンを通して、早期に(現代の標準治療によるより早期に)検出できることである。
【0039】
コンピューター断層撮影法(CT)造影剤は、過去20年間に渡って漸進的な改善が見られている。それでも尚、本出願人らは、悪液質に関連する脂肪組織の変化を特異的に検出するためのヨードCT造影剤を開発してきた。有利にも、この造影剤は、静脈内又は経口投与することができ、これはCTイメージングにおける大発見である。CTによる画像分解能は、PETと比較して有意に強化され、これらの代謝変化をモニタリングするために適切である。
【0040】
経口経路は、一般に甲状腺腫を治療するため、又は原子力事故においてヨード化油を投与するためには使用されるが、この投与経路は、腸管外器官のCTイメージングのための造影剤を送達する手段としては決して記載されてこなかった。腸管外器官は、口腔及び消化管(alimentary canal)(消化管(digestive tract))以外の身体のどこかに位置する器官である。
【0041】
前臨床試験又は臨床試験レベルでこのヨードCT造影剤を使用することは、更にどちらも癌悪液質の特質であるWATの褐色化及びBAT活性化のレベルの評価を可能にする。
【0042】
放射性18F-デオキシグルコース-PETは、BATを非侵襲性で評価するための有力なイメージング法であるが、脂肪組織褐色化を検出することについては幾つかの制限に悩まされる7。18FDG-PETによって測定されるグルコース取込みは、生理学的及び病態生理学的条件下ではBAT及びベージュ脂肪組織を過小評価するであろう。更に、2型糖尿病におけるインスリン耐性等の幾つかの病理的状態は、18FDG-PETを用いたBAT活性の定量を軽減又は偏向させ得た。PETと比較して、CTによる画像分解能は、有意に優れており、放射線量を減少させることができ、CT技術は世界中の病院でより幅広く利用可能である。
【0043】
陽電子放出断層撮影法-コンピューター断層撮影法(PET-CTとして公知である)は、同一セッションにおいて両方のデバイスからの連続画像を獲得するために、単一ガントリーにおいて陽電子放出断層撮影法(PET)スキャナーとX線コンピューター断層撮影法(CT)スキャナーとを組み合わせる核医学技術である。これらの画像は、単一重畳(共登録)画像に組み合わせられる。従って、身体内の代謝活性又は生化学的活性の空間分布を描出するPETによって得られる機能的イメージングは、CTスキャンによって得られる解剖学的イメージングとより精密に位置合わせする、又は相関させることができる。二次元及び三次元画像再構成は、一般的ソフトウエア及び制御システムの関数として提供され得る。
【0044】
本明細書に記載されるものと同様又は同等の方法及び材料は、本発明の実施又は試験において使用できるが、好適な方法及び材料について以下に記載する。本明細書に記載した全ての刊行物、特許出願、特許及び他の参照文献は、参照により全体として本明細書に組み込まれる。本明細書で考察する刊行物及び特許出願は、本出願の出願日よりも先に開示されているという意味でのみ提供される。本明細書ではいかなるものも、本発明が先行発明によってそのような刊行物が先行することを認めていないとの承認であると解釈すべきではない。更に、材料、方法及び実施例は例示に過ぎず、限定的であることは意図されない。
【0045】
不一致が生じた場合は用語の定義を含めて本明細書が優先されることになる。他に定義されない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本明細書の主題が属する分野の当業者であれば一般に理解される意味と同一の意味を有する。本明細書で使用する以下の定義は、本発明の理解を手助けするために提供される。
【0046】
用語「含む」は、一般に1つ以上の特徴又は成分の存在を許容することを言う意味での包含するという意味で使用される。
【0047】
本明細書及び特許請求の範囲で使用する単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、及び「その(the)」には、文脈が明確に他のことを指示しない限り、複数の言及が含まれる。
【0048】
本明細書で使用する用語「対象」又は「患者」は、当該技術分野では明確に認識されており、本明細書ではイヌ、ネコ、ラット、マウス、サル、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ラクダを含む哺乳動物、及び最も好ましくはヒトを指す。幾つかの実施形態では、対象は、診断を必要とする対象、又は診断された疾患又は障害を有する対象である。しかしながら、他の実施形態では、対象は健常対象であり得る。この用語は、特定の年齢又は性別を示さない。従って、男性又は女性にかかわらず、成人及び新生児対象が範囲内に含まれることが意図されている。
【0049】
用語「製剤」又は「医薬製剤」は、錠剤、腸溶コーティング錠、放出制御錠剤、徐放性錠剤及びカプセル剤等の固体製剤を含む。それは更に、液剤、懸濁剤、エマルション剤、局所用製剤、坐剤、浣腸剤、並びに注射用及び注入用の非経口製剤等の液体及び半固体製剤も含む。
【0050】
用語「ヨード化ケシ油」は、放射能調査において構造の輪郭を描くために使用される放射線不透過性造影剤として注射によって使用されるケシ油である。ヨード化ケシ油は、主としてモノヨードステアリン酸エチル及びジヨードステアリン酸エチルとしてのケシ油の脂肪酸のエチルエステルと結合したヨウ素から構成される。正確な構造は不明であるにもかかわらず、それは式Iの定義の中に含まれている。
【0051】
用語「エマルション」は、通常は不混和性である別の液体中に分散した1種の液体の液滴のコロイド系を指すと解釈されている;そのような定義は、水と液体脂質又はその誘導体の系しか包含せず、固体脂質又はそれらの誘導体の分散液は包含しないであろう。
【0052】
用語「ナノエマルション」は、本明細書で水中の固体又は液体親油性活性医薬成分のコロイド系を含むために使用される;精密な物理的形態の油相の分散粒子は、おそらく固体、半固体又は液体である。ナノエマルションの平均粒径は、ナノメートル範囲内、好ましくは1000nm未満であろう。
【0053】
ナノエマルションは、それらの特徴がそれらを活性医薬物質の経口又は非経口送達のための医薬製剤にとって適切にさせる生体適合性及び生分解性として工学的に設計され得る。ナノエマルション系を得るために使用されるエマルション調製法及び組成物は、最終ナノエマルションの形成及び安定性のために重要である。ナノエマルション薬物送達系調製の方法は、調製エネルギー要件、位相反転の性質、及び自己乳化特性に従って分類することができる。従って、これらの系は、高又は低乳化エネルギー法によって調製することができる。
【0054】
高エネルギーアプローチは、高運動エネルギーを用いて極めて微細な油滴を形成し、ナノエマルションを生成できる強力な力を生成する洗練された機械的装置(マイクロフルイダイザー、高圧ホモジナイザー、又は超音波法)を利用する。これらの方法は、粒径の分散に関するより大きな制御を行い、組成物の選択に対してより柔軟性である。高エネルギー法は、更に安定性、レオロジー、及びエマルションの色についての制御も提供する。
【0055】
低エネルギー法は、複雑な界面流体力学的現象を包含し、システム組成特性に左右される。これらの方法は、それらがシステムの内部化学的エネルギーを利用するのでよりエネルギー効率が高く、ナノエマルションを製造するためには緩徐な物理的撹拌しか必要としない。これらの方法は、一般に位相反転乳化及び自己乳化を包含する。
【0056】
ナノエマルションは、幾つかの利点を提供する。難水溶性薬物の湿潤性及び/又は溶解性が強化される。これは適切な速度での効率的な薬物放出、長期有効性、及び薬物取り込み制御を含む薬物動態及び薬力学にプラスの影響を及ぼし、それらは低い副作用、及び酵素的又は酸化的プロセスからの薬物保護特性を示す。更に、ナノエマルションの高い柔軟性は、更に多様な製造プロセス選択肢、及び界面活性剤、液体脂質又は薬物複合体等の幅広く様々な成分の組み合わせを含む。
【0057】
水性媒体中で難水溶性を有する薬剤成分は、効率についての有意な挑戦、及び高い生体内利用率についての有意な挑戦を提示する。経口親油薬物の吸収の固有の高い個体内及び個体間変動性は、一貫性がなく且つ予測不能な生体内利用率及び治療効果の大きさをもたらす。そこで、脂質をベースとする薬剤についての予測可能、一貫性且つ再生性の生体内利用率及び治療効果を保証するための効果的な戦略が必要とされる。この問題に対処するために、粒径減少、プロドラッグ、塩形態、共結晶、固体非晶質形態、シクロデキストリン包接化合物、並びに自己乳化系及びリポソーム等の脂質ベースの薬物送達系へのアプローチを含む様々な解決策が幅広く研究されてきた。
【0058】
本発明を実行に移す際に使用される用語「ヨウ化脂肪酸」及び「ヨウ化脂肪酸エステル」は、ヨウ化ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ステリドン酸(steridonic)、アラキドン酸、エラインジン酸(elaindic)、ゴンド酸、エルカ酸、ドコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、又はドコサヘキサエン酸等の、単独若しくは相互に一緒に、又は少量の他の脂肪酸若しくはそれらの誘導体と共に使用される、分子内に少なくとも4個及び好ましくは24個以内の炭素原子を含有する直鎖状又は分岐鎖状の飽和脂肪族カルボン酸であり得る。それらは天然又は合成脂肪酸アルケン二重結合のヒドロヨウ化反応の結果として最大数のヨウ素原子を含有する。本発明は、更に「過ヨウ化」脂肪酸及び/又はそれらのエステルを含むが、この用語は、それらの化学構造内に最大可能量のヨウ素原子を有するヨウ化脂肪酸及び/又はエステルを指す。本発明の特定の実施形態によると、過ヨウ化脂肪酸及び/又はそれらのエステルが好ましい。
【0059】
本発明によると、本発明のヨウ化脂肪酸化合物の薬学的に許容される塩も又含まれる。本明細書で使用する語句「薬学的に許容される塩」(本明細書では「塩」とも言う)は、本発明のヨウ化脂肪酸化合物の遊離酸の生物学的有効性を保持している、及び生物学的又はその他の点で望ましい塩を指す。一般式(I)のヨウ化脂肪酸化合物の薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される酸との酸付加塩である。
【0060】
所望の塩は、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化カルシウム、水素化マグネシウム、水素化亜鉛等の無機塩基、又は水素化アンモニウム、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリメチルアミン、モルホリン、ピペラジン、L-アルギニン、4-フェニル-シクロヘキシルアミン、ベネタミン、ベンザチン、ベタイン、ヒドラバミン、4-(2-ヒドロキシエチル)モルホリン、1-(2-ヒドロキシエチル)-ピロリジン、1-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン、N-メチルグルカミン、N,N,N-トリメチルエタノールアミン水酸化物、トロメタミン等の有機塩基との遊離酸の処理を含む、当該技術分野において公知の任意の適切な方法によって調製することができる。
【0061】
一般に、塩は、対応する塩を形成するために、遊離酸を2~10個の炭素原子、それらのアルキルエステル又は混合物を含有する低級アルカノール、対称性又は非対称性エーテル等の有機溶媒中に添加し、及び次に無機塩基又は有機塩基を形成するために化学量論的量又は過剰の所望の塩を用いて処理することによって調製される。塩は、例えば、溶液の蒸発、若しくは所望の塩の混合物からの濾過によって標準回収技術によって回収される、又は塩は、その中に塩が不溶性である溶媒の添加によって沈殿させ、そこから回収することができる。
【0062】
様々な反応を実施するための適切な無機及び有機溶媒の例としては、塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化溶媒、ジエチルエーテル等のエーテル溶媒、並びにテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム、シクロオクタン、ベンゼン又はトルエン、ヘプタン、シクロヘキサン、脂肪族並びに脂環式及び芳香族炭化水素溶媒、水、水溶液、混合有機及び無機溶液、酢酸エチル、酢酸プロピル及びそれらの混合物等の他の溶媒を含む、反応物質又は結果として生じる生成物に有害に影響を及ぼさない任意の無機又は有機溶媒が挙げられる。塩中に含まれる好ましい無機カチオンは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、亜鉛及びマンガンである。
【0063】
化学では、本明細書で使用する用語「ジェミナル」は、同一原子に付着している2個の原子間又は官能基間の関係を指す。
【0064】
関連用語「ビシナル」は、隣接原子に付着している2個の官能基間の関係を指す。現在、隣接炭素原子に付着したヨウ素原子(即ち、ビシナル)を有するヨウ化脂肪酸及び/又はそれらのエステルを合成することはほぼ不可能である。それらの分子は、立体障害のために不安定であり、本発明のために使用することはできない。しかしながら、将来的には、当業者がこの問題に対する技術的解決策を見出すことは可能になるであろう。従って、ビシナル位置にあるヨウ素原子を有する安定性のヨウ化脂肪酸及び/又はそれらのエステルが提供されれば、それらの化合物は更に本発明の技術的問題を解決する際に好適であろうと信じられている。
【0065】
本明細書で使用する用語「アルキル」としては、長鎖又は単鎖の直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族飽和又は不飽和炭化水素基が挙げられる。不飽和アルキル基は、一価不飽和又は多価不飽和であってよく、アルケニル基及びアルキニル基の両方を含む。そのような基は、40個までの炭素原子を含有し得る。しかしながら、10個まで、例えば8個、より好ましくは6個まで、及び特に好ましくは4個までの炭素原子を含有するアルキル基が好ましい。
【0066】
用語「アルコキシル」は、-O-アルキルを表す。アルコキシルの例は、1個の酸素原子に付着した1~6個の炭素原子を有する直鎖状又は分岐鎖状アルキル鎖を表すC1~C6アルコキシルである。例示的なC1~C6アルコキシル基としては、メトキシル、エトキシル、プロポキシル、イソプロポキシル、ブトキシル、sec-ブトキシル、t-ブトキシル、ペントキシル、ヘキソキシル等が挙げられる。C1~C6アルコキシルとしては、その定義内でC1~C4アルコキシルが挙げられる。
【0067】
本明細書で使用する用語「アリール」は、炭素環式若しくは複素環式、芳香族、5~14員の単環式又は多環式環を指す。例示的なアリールとしては、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、チエニル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、フリル、イソチアゾリル、フラザニル、イソキサゾリル、チアゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、トリアジニル、ベンゾ[b]チエニル、ナフト[2,3-b]チアントレニル、イソベンゾフラニル、クロメニル、キサンテニル、フェノキサチエニル、インドリジニル、イソインドリル、インドリル、インダゾリル、プリニル、イソキノリル、キノリニル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキシアリニル、キンゾリニル(quinzolinyl)、ベンゾチアゾリル、ベンズイミダゾリル、テトラヒドロキノリニル、シノリニル、プテリジニル、カルバゾリル、β-カルボリニル、フェナントリジニル、アクリジニル、ペリミジニル、フェナントロリニル、フェナジニル、イソチアゾリル、フェノチアジニル、及びフェノキサジニルが挙げられる。
【0068】
有機化学では、「飽和」化合物は、単結合によって一緒に連結された炭素原子の鎖を有する化学的化合物である。アルカンは、飽和炭化水素である。「不飽和」化合物は、アルケン又はアルキンそれぞれにおいて見出される結合等の炭素-炭素二重結合又は三重結合を含有する化学的化合物である。飽和及び不飽和化合物は、炭素原子鎖だけから成る必要はない。それらは、直鎖、分岐鎖又は環状配列を形成し得る。それらは、同様に官能基を有し得る。この意味では、脂肪酸は飽和又は不飽和と分類される。脂肪酸の不飽和の量は、そのヨウ素数を見出すことによって決定され得る。
【0069】
不飽和化合物は、付加反応を入手できる化合物である。脂肪酸等の炭素の鎖内では、二重結合又は三重結合は鎖内によじれを誘発するであろう。これらのよじれは、マクロ構造であることを意味する。不飽和脂肪酸は、固体を形成するために分子が密に詰まることを鎖内のよじれが防止するので、室温では固体よりむしろ液体である傾向があり、これらの脂肪は油と呼ばれる。
【0070】
用語「ポリヒドロキシ」又は多価は、1分子当たり2つ以上のヒドロキシル基を含有する化学的化合物を指す。
【0071】
本発明の1つの目的は、対象における悪液質又は前悪液質を診断する方法であって:
a)前記対象において褐色及び/又はベージュ脂肪組織(BAT)をコンピューター断層撮影法によってインビボイメージングする工程であって、一般式I:
【化2】
(式中、n=2~22であり;
R
1は、ヨウ素原子の数が1~6であり、ヨウ素原子がジェミナルでもビシナルでもないことを前提として、H又はIであり;
及びR
2は、H、不飽和又は飽和、直鎖状又は分岐鎖状アルキル、アルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルコキシアルキル、ポリヒドロキシアルキル、ヒドロキシポリアルキレンオキシアルキルである)による4~24個の炭素原子及び/又はそれらのエステル及び/又は塩及び/又は混合物を有するヨウ化脂肪酸の生体適合性製剤を含む造影剤を投与すること、及びCTスキャンを生成することを含む工程;
b)得られた工程a)のCTスキャン又は画像を次に健常対象と比較し、BAT及び/又はベージュ脂肪組織の増強の陽性若しくは増加を確定すること、又は前記対象における白色脂肪組織(WAT)の褐色化及び/又はBAT活性を検出することによって、悪液質又は前悪液質の診断を下す工程を含む方法を提供することである。
【0072】
脂肪組織におけるコントラスト増強は、対象における悪液質症候群が進行するにつれて増加するので、脂肪組織の褐色化のレベルに従った悪液質の病期を決定する能力を証明する(
図4cを参照されたい)。
【0073】
前記対象におけるBAT及び/又はベージュ脂肪組織の増強の陽性若しくは増加、又は白色脂肪組織(WAT)褐色化及び/又はBAT活性を検出することによる確定は、好ましくはハウンスフィールド単位に従って決定されるが、ここでBAT及び/又はベージュ脂肪組織CTハウンスフィールド単位は、-50~400HUの範囲内、好ましくは-50~100HUの範囲内、及びより好ましくは-50~0HUの範囲内にある。
【0074】
ヒトにおけるBAT/ベージュ脂肪は、通常は-100~-70HUの範囲内にある。これらの数値を超える何らかの増強は、悪液質の陽性診断を許容するであろう。明らかに、当業者には最終HU値が用量依存性であろうことは知られている。
【0075】
驚くべきことに、前記CT造影剤は、口腔(即ち、経口)又は静脈内経路のために適合する。好ましくは、造影剤は経口である。
【0076】
好ましくは、R2基は、一置換又は多置換であり得る。適切なR2基は、一連のアルキル置換基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、シクロプロピルメチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、オクチル、イソオクチル、2-プロペニル、アリル、クロチル、1-ブテニル、2-ブテニル、ブタジエニル、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル及びプロパギル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、アドマンチル(admantyl);アリール置換基、例えばフェニル、ナフチル、アニシル、トルイル、キシレニル、アリールオキシ、アラルキル、アラルキルオキシ、ヘテロアリール基(ピリミジン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、チオフェン)、1-シクロヘキシルプロピル、又はハロアルキル置換基、例えばフルオロメチル、1-フルオロエチル、2-フルオロエチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル及びペンタフルオロエチル、クロロジメチル、クロロメチル、2-クロロエチル、2,4-ジクロロフェニル、1,1,2,2-テトラクロロエチル、1-クロロブチル、及び4-クロロベンジルを含み得るが、それらに限定されない。
【0077】
R2基は、置換アルキル基、例えば9-フルオレニルメチル、メトキシエトキシメチル、テトラヒドロピラニル、ピバリルオキシメチル、フェニルアセトキシメチル、フェナシル及び置換フェナシル、例えばp-ブロモフェナシル、p-メトキシフェナシル、及び更にt-ブチル、3-メチル-3-ペンチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アリル、3-ブテン-1-イル、シンナミル、オキサゾール、及び2-アルキル-1,3-オキサゾリンを含み得る。R2基は更に、アルキルアリール、例えばベンジル、置換ベンジル、例えばトリフェニルメチル、p-メトキシベンジル、4-ピコリル、ジポフェニルメチル(dipohenylmethyl)フェニルエチル、置換フェニルエチルも又含み得るが、更に又アルコキシアルキル、例えばメトキシメチル、エトキシメチル、プロポキシメチル、ブトキシメチル、メトキシエチル、エトキシエチル、プロポキシエチル、イソプロポキシエチル、ブトキシエチル、イソブトキシエチル、ヒドロキシアルコキシアルキル、例えばヒドロキシメトキシメチル、2-ヒドロキシエトキシメチル、3-ヒドロキシプロポキシメチル、4-ヒドロキシブトキシメチル、ヒドロキシメトキシエチル、ヒドロキシメトキシプロピルヒドロキシメトキシブチル、ヒドロキシメトキシペンチル、ヒドロキシメトキシヘキシル、ポリヒドロキシアルキル、及びヒドロキシポリアルキレンオキシアルキルを含み得る。
【0078】
一般式Iによる4~24個の炭素原子及び/又はそれらのエステル及び/又は塩及び/又は混合物を有するヨウ化脂肪酸は、使用した出発物質に依存して下記のサブ式A、B及びC:
【化3】
(式中、但し式A、B又はCそれぞれの中の炭素原子の総数は≦24であることを前提として、nは、1~6の整数であり、x、yは、x=0~20及びy=0~20であり、x+y≦20である炭素原子であり;及びR
2基は、一置換又は多置換であり得る)を含む。
【0079】
従って、適切なR2基としては、例えば、未置換アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、オクチル、イソオクチル等、並びに更に置換アルキル基、例えば9-フルオレニルメチル、メトキシエトキシメチル、テトラヒドロピラニル、ピバリルオキシメチル、フェニルアセトキシメチル、フェナシル及び置換フェナシル、例えばp-ブロモフェナシル、p-メトキシフェナシル、及び更にt-ブチル、3-メチル-3-ペンチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アリル、3-ブテン-1-イル、シンナミル、オキサゾール、2-アルキル-1,3-オキサゾリン等が挙げられる。適切なR2基は更に、アルキルアリール、例えばベンジル、置換ベンジル、例えばトリフェニルメチル、p-メトキシベンジル、4-ピコリル、ジポフェニルメチル(dipohenylmethyl)フェニルエチル、置換フェニルエチルも又含み得るが、更に又アルコキシアルキル、例えばメトキシメチル、エトキシメチル、プロポキシメチル、ブトキシメチル、メトキシエチル、エトキシエチル、プロポキシエチル、イソプロポキシエチル、ブトキシエチル、イソブトキシエチル、ヒドロキシアルコキシアルキル、例えばヒドロキシエトキシメチル、2-ヒドロキシエトキシメチル、3-ヒドロキシプロポキシメチル、4-ヒドロキシブトキシメチル、ヒドロキシメトキシエチル、ヒドロキシメトキシプロピルヒドロキシメトキシブチル、ヒドロキシメトキシペンチル、ヒドロキシメトキシヘキシル、ポリヒドロキシアルキル、ヒドロキシポリアルキレンオキシアルキル等の基を含む。
【0080】
本発明による4~24個の炭素原子及び/又はそれらのエステル及び/又は混合物を有するヨウ化脂肪酸は、異性体混合物又は単一異性体として存在し得る。特定されていない場合は、両方の異性体形態が意図されている。本発明の化合物が1つのキラル中心を含有する場合、ヨウ化化合物は、単一異性体(R若しくはS)として、又は例えばラセミ混合物のような異性体の混合物として提供され得る。本発明のヨウ化化合物が2つ以上のキラル中心を含有する場合は、ヨウ化化合物は、エナンチオマー的に純粋なジアステレオ異性体として、又はジアステレオ異性体の混合物として提供され得る。
【0081】
一実施形態では、本発明による4~24個の炭素原子及び/又はそれらのエステル及び/又は混合物を有するヨウ化脂肪酸は、少なくとも1つの不斉中心を有する。この不斉中心の結果として、本発明のヨウ化化合物は、可能性のある立体異性体形態の何れかにおいて発生し得る、及び光学的活性若しくはラセミ体であり得る立体異性体の混合物において使用できる、又は本質的に純粋な、即ち、少なくとも95%純粋な立体異性体として単独で使用できる。全ての非対称形態、個別立体異性体及びそれらの組み合わせは、本発明の範囲内に含まれる。
【0082】
本発明の実施形態によると、工程a)のコンピューター断層撮影法を用いたインビボイメージングは、PET-CTイメージング、つまりCTイメージングとPETイメージングとを組み合わせることによって実施される。
【0083】
有利にも、PET-CTスキャンは、PETスキャン上で見られる代謝的に活性な腫瘍の解剖学的局在のより明確な理解を医師に提供する目的で、CTの利点をPETの利点と結合するためにCTスキャンとPETスキャンを組み合わせる。本発明の特定の実施形態では、PET-CTは、対象における褐色及び/又はベージュ脂肪組織(BAT)のインビボイメージングのために好ましい。
【0084】
又別の実施形態では、生体適合性製剤は、ヨード化ケシ油製剤である。
【0085】
本発明の又別の実施形態によると、生体適合性製剤は、エマルションである。好ましくは、エマルションは、ナノエマルションである。
【0086】
本発明の更に別の実施形態では、4~24個の炭素原子及び/又はそれらのエステルを有するヨウ化脂肪酸の生体適合性ナノエマルション中に存在する経口造影剤は、4~24個の炭素原子の様々な炭素鎖を有する数個又は少なくとも2個のヨウ化脂肪酸を含む混合物中で使用することができる。
【0087】
本発明の好ましい実施形態では、造影剤は、一般式Iによる、好ましくは10~20個の炭素原子、及びより好ましくは16~18個の炭素原子を有するヨウ化脂肪酸の生体適合性ナノエマルションにある。
【0088】
更に一層好ましい実施形態では、ヨウ化脂肪酸は、ヨウ化リノレン酸である。
【0089】
好ましくは、ヨウ化脂肪酸は、過ヨウ化されている。
【0090】
特に、ナノエマルションは、好ましくは特に、レシチン、脂肪アルコールを含むポリエチレングリコールエーテル、ポリエチレングリコール酸、ポリオキシエチレンソルビトールエステル、ステアリン酸スクロース、スクロースエステル、ポリソルベート及びソルビタンエステル又はそれらの混合物から選択される生体適合性乳化剤を含む。レシチン、ポリソルベート(Tween)及びソルビタンエステル(Span)界面活性剤は、それらが化粧品、食品及び医薬製剤(経口、非経口及び局所用)において長年に渡る安全な使用が証明されているので好ましい。
【0091】
好ましくは、ナノエマルション中の生体適合性乳化剤の量は、全ナノエマルションの5~30重量%の間である。
【0092】
一実施形態では、本発明のCT診断法のための造影剤は、対象における褐色及び/又はベージュ脂肪組織(BAT)の活性の非侵襲性インビボイメージング、定量及び/又はモニタリングのために適合する。
【0093】
一実施形態では、悪液質は、癌悪液質である。
【0094】
本発明の又別の実施形態では、悪液質は、HIV/AIDS、慢性腎疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、慢性心不全、結核、クローン病、慢性腸疾患、関節リウマチ及び高齢者悪液質から成る群から選択される障害に関連する非癌悪液質である。
【0095】
他の実施形態では、本発明の方法は、それに罹患している対象における早期の悪液質を診断するために適合する。好ましくは、早期の診断は、対象の体重減少が5%を超える前に実施される。又は、早期の診断は、癌の診断後6カ月未満に実施される。
【0096】
好ましい実施形態によると、本発明による方法の経口CT造影剤は、体重1g当たり0.05~1.6mgのヨウ素に対応する用量で投与される。
【0097】
しかしながら、所定の実施形態では、ナノエマルションは、例えば、本発明の経口CT造影剤の体重1g当たり少なくとも約0.01mgのヨウ素を含み得る。他の実施形態では、ナノエマルションは、約0.1%~約75%、又は約2%~約20%、例えば、それから派生する任意の範囲の単位重量を含み得る。
【0098】
他の非限定的な例では、用量は、更に投与1回当たり約1μg/kg/体重、約100μg/kg/体重、約500μg/kg/体重、約1mg/kg/体重、約5mg/kg/体重、約10mg/kg/体重、約50mg/kg/体重、約100mg/kg/体重、約200mg/kg/体重、約300mg/kg/体重、約350mg/kg/体重、約400mg/kg/体重、約450mg/kg/体重、約500mg/kg/体重、約600mg/kg/体重、約700mg/kg/体重、約800mg/kg/体重、約900mg/kg/体重、約1000mg/kg/体重、約2000mg/kg/体重~約5000mg/kg/体重以上、及びそれから派生する任意の範囲を含み得る。本明細書に列挙した数から誘導できる範囲の非限定的な例では、約350mg/kg/体重~約1000mg/kg/体重、約50μg/kg/体重~約500mg/kg/体重の範囲等を投与することができる。
【0099】
あらゆる場合に、使用すべきナノエマルションの用量は、診断される特定の状態、その状態の重症度、年齢、身体状態、サイズ及び体重を含む個人的な患者のパラメーター、イメージングの所要時間、(ある場合は)併用療法の性質、並びにヘルスケア専門家の知識及び技能の範囲内に含まれる他の類似の因子に左右される。これらの因子は、当業者には知られており、最小の日常的実験を用いて取り扱うことができる。従って、最適用量は、任意の特定患者を診断している医師によって決定され得る。
【0100】
実際に、褐色又はベージュ脂肪細胞の主要物質は、グルコースより多い脂肪酸であると思われる。それは、褐色又はベージュ脂肪組織が活性化された場合に、CT造影剤がなぜ褐色又はベージュ脂肪細胞によってより多く取り込まれるのかの理由である可能性があり、同一CTスキャンからの解剖学的及び機能的情報を得られることを意味する。18FDG-PET等のBAT又はベージュ脂肪組織のための他のイメージング法は、BATの活性化を必要とするが、本出願人らは、BAT及びベージュ脂肪組織がこれらの組織の先行活性化を行わずに新規なCT造影剤を使用してイメージングできることを観察した。
【0101】
次に、CTの分解能はPETの分解能(ほぼ1mm)よりはるかに優れている(10~100μm)ので、白色脂肪組織内でのベージュデポの精密な描出を可能にする。この最後の特性は、現在に至るまでそのような精度で白色脂肪組織内のベージュ脂肪組織を強調できるイメージング法がなかったために、特に重要である。実際に、ベージュ脂肪細胞は造影剤を取り込み、これはベージュ脂肪細胞と白色脂肪細胞との間のコントラストの相当に大きな強化を生じさせるであろう。他方、造影剤は、白色脂肪細胞内では検出されない。
【0102】
本出願人の知る限りでは、この性能を非侵襲的且つインビボで達成できるのは初めてである。これは、心臓シグナル自体からの波及効果があるために、18FDG-PETを用いてはほぼ不可能である、心臓及び血管周囲の小さなベージュデポを精密に描出することを可能にする。本発明は、皮下脂肪組織、血管周囲脂肪組織及び心臓脂肪組織の褐色化を非侵襲的且つ精密に試験する可能性を提供する。本出願人らは、マウスにおいて更に鼠径部又は膝窩領域内の膝の裏側等の、今日までは不良に描出されていた新規のベージュデポを明確に同定することもできた。更に、本出願人らは、鼠径脂肪体内の様々な小葉内のベージュデポの領域分割化を示すことができた。
【0103】
本出願人らは、通常はPETスキャンに指定される、組織の代謝活性の徴候をモニターするためのツールとしてのCTスキャンを導入する。実際に、本出願人らは、低温又はβ-3受容体を介してのアドレナリン受容体活性化等の褐色又はベージュ脂肪を活性化する状態が、CT造影剤の取り込みの増加をもたらすことを証明した。より顕著にも、本出願人らは更に、脂肪酸から構成される本発明のCT造影剤が、志願者の放射線曝露の許容限界を前提に、PETの使用が現実的に困難である低い褐色脂肪組織活性化の状態においてさえ検出可能であることを証明した。18F-フルオロ-チアヘプタンデカン酸(18FTHA)等のPETに対する脂肪酸トレーサーは、既にBATイメージングについて試験されたが、ヒトでは低シグナルを提供すると思われる。
【0104】
調製:
当業者には公知である式(I)の4~24個の炭素原子及び/又はそれらのエステルを有するヨウ化脂肪酸を調製するための任意の適切な方法は、本発明の範囲に含まれ得ることは理解されている。
【0105】
化学合成
天然、半合成又は合成起源の、直鎖状又は分岐鎖状の不飽和脂肪酸又はその誘導体は、関心対象のヨウ化分子を産生するための出発物質として使用することができる。二重結合の数は、1~6の間で変動し得る。
【0106】
モノヨードステアリン酸の合成
五酸化リン(170mg、1.0mmol)を磁気攪拌下でオルトリン酸(1.0mL)へ緩徐に添加した。オレイン酸(141mg、0.5mmol)及びヨウ化ナトリウム(150mg、1.0mmol)を添加し、この反応混合物を還流冷却下の70℃で加熱した。24時間後、反応混合物を周囲温度に冷却し、酸を粗生成物から分離した。ジクロロメタン(20mL)を添加し、有機相が無色になるまで有機相をチオ硫酸ナトリウム(0.1M)により洗浄した。有機相を塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムの上方に通して乾燥させた。溶媒を減圧下で蒸発させると無色の油が得られたので、これはジクロロメタン/メタノール勾配(181mg、0.44mmol、収率88%)を用いるフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。
【0107】
モノヨードステアリン酸エチルの合成
【化4】
オレイン酸エチルは、公表された手順
8に従って合成した。手短には、オレイン酸(282mg、1mmol)、エチルアルコール(170mmol、15mL)及びSnCl
2(19mg、0.1mmolを60℃で撹拌した。16時間後、反応混合物を周囲温度に冷却し、溶媒を減圧下で蒸発させた。ジクロロメタン(50mL)を添加し、有機相を水、NaHCO
3の飽和溶液及び塩水で洗浄した。有機相をNa
2SO
4により乾燥させ、溶媒を減圧下で蒸発させると、無色の油(282mg、収率95%)が産生した。
【0108】
五酸化リン(170mg、1.0mmol)を磁気攪拌下でオルトリン酸(1.0mL)へ緩徐に添加した。オレイン酸エチル(148mg、0.5mmol)及びヨウ化ナトリウム(150mg、1.0mmol)を添加し、この反応混合物を還流冷却下の70℃で加熱した。24時間後、反応混合物を周囲温度に冷却し、酸を粗生成物から分離した。ジクロロメタン(20mL)を添加し、有機相が無色になるまで有機相をチオ硫酸ナトリウム(0.1M)により洗浄した。有機相を塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムの上方に通して乾燥させた。溶媒を減圧下で蒸発させると無色の油が得られたので、これはジクロロメタン/メタノール勾配(170mg、0.39mmol、収率78%)を用いるフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。
【化5】
【0109】
記載した合成は、使用した出発物質に依存して、下記のサブ式A、B及びC:
【化6】
(式中、nは、整数=1~6であり、x=0~20及びy=0~20であり、x+y≦20であるが、但し式A、B又はCそれぞれの中の炭素原子の総数は≦24であることを前提とし;
及びR
2基は、一置換又は多置換であり得る)を備える構造を提供する。
【0110】
好ましくは、R2基は、一連のアルキル置換基、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t-ブチル、シクロプロピルメチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、オクチル、イソオクチル、2-プロペニル、アリル、クロチル、1-ブテニル、2-ブテニル、ブタジエニル、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル、1-ブチニル、2-ブチニル、3-ブチニル及びプロパギル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、アドマンチル(admantyl);アリール置換基、例えばフェニル、ナフチル、アニシル、トルイル、キシレニル、アリールオキシ、アラルキル、アラルキルオキシ、ヘテロアリール基(ピリミジン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、チオフェン)、1-シクロヘキシルプロピル、又はハロアルキル置換基、例えばフルオロメチル、1-フルオロエチル、2-フルオロエチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル及びペンタフルオロエチル、クロロジメチル、クロロメチル、2-クロロエチル、2,4-ジクロロフェニル、1,1,2,2-テトラクロロエチル、1-クロロブチル、及び4-クロロベンジルを含み得るが、それらに限定されない。
【0111】
R2基は、置換アルキル基、例えば9-フルオレニルメチル、メトキシエトキシメチル、テトラヒドロピラニル、ピバリルオキシメチル、フェニルアセトキシメチル、フェナシル及び置換フェナシル、例えばp-ブロモフェナシル、p-メトキシフェナシル、及び更にt-ブチル、3-メチル-3-ペンチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アリル、3-ブテン-1-イル、シンナミル、オキサゾール、及び2-アルキル-1,3-オキサゾリンを含み得る。
【0112】
R2基は更に、アルキルアリール、例えばベンジル、置換ベンジル、例えばトリフェニルメチル、p-メトキシベンジル、4-ピコリル、ジポフェニルメチル(dipohenylmethyl)フェニルエチル、置換フェニルエチルも又含み得るが、更に又アルコキシアルキル、例えばメトキシメチル、エトキシメチル、プロポキシメチル、ブトキシメチル、メトキシエチル、エトキシエチル、プロポキシエチル、イソプロポキシエチル、ブトキシエチル、イソブトキシエチル、ヒドロキシアルコキシアルキル、例えばヒドロキシエトキシメチル、2-ヒドロキシエトキシメチル、3-ヒドロキシプロポキシメチル、4-ヒドロキシブトキシメチル、ヒドロキシメトキシエチル、ヒドロキシメトキシプロピルヒドロキシメトキシブチル、ヒドロキシメトキシペンチル、ヒドロキシメトキシヘキシル、ポリヒドロキシアルキル、及びヒドロキシポリアルキレンオキシアルキルを含み得る。
【0113】
ナノエマルション:
製剤最適化は、実験デザインによって実施した。活性CT成分、賦形剤の種類及び量、それらの適合性、並びに調製方法を含む数種のパラメーターが評価されてきた。最適な製剤の選択は、物理化学的特性、安定性及び生体適合性に基づいた。
【0114】
水中油型ナノエマルションは、水中にヨウ化脂肪酸を溶解させるために調製したが、これはそれらの腸内吸収を改善するであろう。エマルション製剤は、造影剤の最速及び最も完全な吸収を達成するために改善された。この最終工程の目的は、可能な限り少ない用量で最高の増強を達成することである。次に、褐色脂肪代謝の評価におけるその可能性を示すために、造影剤を褐色脂肪活性化の様々な条件において試験した。
【0115】
下記の特徴が達成されなければならない:
・ 水中油型(O/W)ナノエマルション
・ 最少量の乳化剤
・ 低粘度
・ 生体適合性(必要とされる用量で非毒性及び非刺激性)
・ 4℃での保管後のナノエマルションの長期安定性
・ 材料及びプロセスの費用有効性。
【0116】
提案されたショートリストの好ましい賦形剤及びそれらの混合物について試験した:
・ ポリソルベート(Tween)20、40、60、80
・ ソルビタンエステル(Span)20、40、60、80、85
・ ポリオキシエチレン脂肪アルコールエーテル(Brij)O10、S10、S20、30、35、52、58、72、78、92、98、99、S100
・ ステアリン酸ポリオキシエチレン
・ レシチン
・ アルキルポリグリコシド
・ カプリロカロイル(caprylocaroyl)マクロゴール-8グリセリド
・ セトマクロゴール1000
・ セトステアリルアルコール
・ セチルアルコール
・ コカミドMEA
・ コカミドDEA
・ デシルグルコシド
・ デシルポリグルコース
・ グリセロールモノステアレート
・ イソセテス-20
・ ラウリルグルコシド
・ マルトシド
・ マノラウリン
・ ミコスブチリン
・ Nonidet P-40
・ ノノキシノール-9
・ ノノキシノール
・ NP-40
・ オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル
・ N-オクチルβ-D-チオグルコピラノシド
・ オクチルグルコシド
・ オレイルアルコール
・ PEG-10ヒマワリグリセリド
・ PEG-12オクチルフェニルエーテル
・ PEG-12トリデシルエーテル
・ PEG-18トリデシルエーテル
・ PEG-40ヒマシ油
・ PEG-40ソルビタンパーオレエート
・ PEG-PPG-PEG Pluronic(登録商標)L-64
・ ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル
・ ポリドカノール
・ ポロキサマー
・ ポロキサマー407
・ ポリエトキシル化獣脂アミン
・ ポリリシノレイン酸ポリグリセロール
・ トリステアリン酸ソルビタン
・ ステアリルアルコール
・ ラウリン酸スクロース
・ パルミチン酸スクロース
・ サーファクチン
・ Triton X-100。
【0117】
レシチン、ポリソルベート(Tween)及びソルビタンエステル(Span)界面活性剤は、それらが化粧品、食品及び医薬製剤(経口、非経口及び局所用)において長年に渡る安全な使用が証明されているので好ましい。
【0118】
脂肪酸又は(有機溶媒中に溶解させた、又はニートの)その誘導体は、好ましくは乳化剤を含有する脱イオン水又はバッファーに脂肪酸の融点を超える温度で強力に攪拌しながら添加すると、微細に分散した水中油型エマルションが生成され得る。撹拌は、任意の公知の手段によって、例えば高剪断撹拌装置を使用することにより、又は超音波装置により実行することができる。水相は、保存料(抗菌剤及び/又は酸化防止剤等)、安定剤、テクスチャー修飾剤、着色剤、味覚修飾剤、薬学的に許容される塩及び/又は緩衝剤等の他の賦形剤を含有し得る。
【0119】
ヨウ化脂肪酸又はその誘導体の量は、濃縮エマルションの少なくとも10重量%、及び好ましくは少なくとも20重量%であるべきである;30重量%の含量は一般に好ましいが、一部の場合には40重量%に濃縮したエマルションを調製することができる。好ましくは、組成物中には少量の乳化剤が含まれる。
【0120】
乳化剤が使用される場合は、エマルションの粘度は水相/油相の比率に伴って変動し、通常は水/脂肪酸比が増加するにつれて最大値を経験するであろう。微細なエマルションを得るためには、最大粘度のために必要とされる過剰に近い、又は僅かに過剰な水/脂肪酸比である時間に渡って攪拌し、次に更に撹拌を継続しながら脱イオン水を添加して所望のヨウ化脂肪酸濃度を得ることが好ましい。エマルションは、次に室温に冷却させられる。
【0121】
本発明の又別の目的は、対象における褐色及び/又はベージュ脂肪組織のインビボイメージング、及び次に患者における悪液質又は前悪液質を診断するための、非侵襲性経口コンピューター断層撮影法造影剤として使用するための、(上記に定義した)一般式I:
【化7】
(式中n=2~22であり;
R
1は、ヨウ素原子の数が1~6であり、ヨウ素原子がジェミナルでもビシナルでもないことを前提として、H又はIであり;
及びR
2は、H、不飽和又は飽和、直鎖状又は分岐鎖状アルキル、アルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルコキシアルキル、ポリヒドロキシアルキル、ヒドロキシポリアルキレンオキシアルキルである)による4~24個の炭素原子を有するヨウ化脂肪酸及び/又はそれらのエステル及び/又は塩及び/又は混合物を含む製剤を提供することである。
【0122】
特に、本発明の造影剤は、一般式Iによる10~20個の炭素原子、及びより好ましくは16~18個の炭素原子を有するヨウ化脂肪酸の生体適合性ナノエマルションにある。更に一層好ましい実施形態では、ヨウ化脂肪酸は、ヨウ化リノレン酸である。
【0123】
上記に定義したように、ナノエマルションは、好ましくは、特にレシチン、脂肪アルコールを含むポリエチレングリコールエーテル、ポリソルベート及びソルビタンエステル、又はそれらの混合物から選択される生体適合性乳化剤を含む。
【0124】
又別の実施形態では、癌は、先進国及び開発途上国における主要な死因である。癌死亡率は、2030年までに年間推定1310万人の死者を発生させると予測されている。しかしながら、所定の種類の癌は、それらが早期に検出され、適正に治療されれば高い治癒の見込みがある。癌の早期診断は、一般に、できる限り早期に症状のある患者の検出に焦点を当てることによって治療に成功する機会を増加させる。
【0125】
癌治療へのアクセスの遅延は、後期になってからの受診、特に資源がより少ない環境及び社会的弱者では一般的である。癌治療が遅延し、又は癌治療にアクセスできない場合には生存の可能性がより低くなり、結果として死亡や癌からの身体障害が回避可能となり治療後の罹患率及び治療費がより高くなる可能性がある。早期診断は、できる限り初期での治療を提供することによって癌の転帰を改善するので、このためあらゆる状況での重要な公衆衛生戦略である。このような事情にもかかわらず、患者が病院に進行性癌の急性症状を報告しても、癌診断が下されるのはほぼ半数である。
【0126】
癌は、通常は、周囲のリンパ節及び他の臓器に拡がり始める時点の前後に、後期第II期であると診断される。この後期診断の費用は莫大である。生存確率は、第II期よりむしろ第I期で診断された癌の方が4~7倍高いが、しかしそれらは癌の種類に左右される。
【0127】
全ての癌の中で一般的であるのは、疾患を通しての悪液質の発症である。悪液質はあらゆる種類の癌において出現する可能性があるが、一部の癌は他の癌よりもこの症候群を発症する可能性が高い9。一般的に言って、癌の種類は、それらが悪液質を誘発する傾向に依存して3つのカテゴリー:高い悪液質有病率を備える癌(癌患者の≧80%);中間の悪液質有病率を備える癌(癌患者の50~80%);及び低い悪液質有病率を備える癌(癌患者の<50%)に分類できる。高い悪液質有病率は、胃癌、肝臓癌及び膵臓癌において見出される。(小細胞及び非小細胞)肺癌、結腸大腸癌、前立腺癌及び頭頸部癌は、中間の悪液質有病率を示す。低い悪液質有病率を有する癌は、非ホジキンリンパ腫、肉腫、急性非リンパ球性白血病及び乳癌である。
【0128】
興味深いことに、一般に後期第III期又は第IV期にあると診断される癌(肺癌、膵臓癌、胃癌、食道癌、頭頸部癌)は、癌の中でも高い、又は中間の悪液質有病率を有する。
【0129】
従って、本発明の別の目的は、対象における悪液質症候群を発症する原因となる癌を診断する方法であって:
a)前記対象における褐色及び/又はベージュ脂肪組織(BAT)をコンピューター断層撮影法によってインビボイメージングする工程であって、一般式I:
【化8】
(式中n=2~22であり;
R
1は、ヨウ素原子の数が1~6であり、ヨウ素原子がジェミナルでもビシナルでもないことを前提として、H又はIであり;
及びR
2は、H、不飽和又は飽和、直鎖状又は分岐鎖状アルキル、アルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルコキシアルキル、ポリヒドロキシアルキル、ヒドロキシポリアルキレンオキシアルキルである)による4~24個の炭素原子及び/又はそれらのエステル及び/又は塩及び/又は混合物を有するヨウ化脂肪酸を含む造影剤を投与すること、及びCTスキャンを生成することを含む工程;
b)得られた工程a)のCTスキャン又は画像を次に健常対象と比較し、BAT及び/又はベージュ脂肪組織の増強の陽性又は増加を確定すること、又は前記対象における白色脂肪組織(WAT)の褐色化及び/又はBAT活性を検出することによって、悪液質症候群を発症する原因となる癌の診断を下す工程を含む方法を提供することである。
【0130】
悪液質症候群を発症する原因となる癌は、通常は、脂肪組織及び/又は筋肉のリモデリング及び/又は褐色化及び/又は消耗を誘発する、腫瘍因子及び/又は前炎症性ケモカイン及び/又はサイトカインを放出する任意の癌である。癌の慢性炎症への患者の免疫系の応答は、脂肪組織及び/又は筋肉の類似の変化を生じさせ得る。
【0131】
好ましくは、対象における悪液質症候群を発症する原因である癌は、高い悪液質有病率を有する癌である。
【0132】
より好ましくは、悪液質症候群を発症する原因となる癌は、肺癌、膵臓癌、肝臓癌、結腸癌、胃癌、前立腺癌、乳癌、食道癌、頭頸部癌、卵巣癌、子宮頸癌、又は肉腫から成るリストから選択される。
【0133】
驚くべきことに、前記CT造影剤は、口腔(即ち、経口)又は静脈内経路のために適合する。好ましくは、造影剤は経口である。
【0134】
本発明の一実施形態では、造影剤は、ヨード化ケシ油製剤である。
【0135】
本発明の又別の実施形態によると、造影剤は、生体適合性製剤、及び好ましくはエマルションである。最も好ましくは、エマルションは、ナノエマルションである。
【0136】
本発明の更に別の実施形態では、造影剤は、4~24個の炭素原子の異なる炭素鎖を有する数個又は少なくとも2つのヨウ化脂肪酸を含む混合物中で使用することができる、4~24個の炭素原子及び/又はそれらのエステルを有するヨウ化脂肪酸の生体適合性ナノエマルションにある。好ましくは、造影剤は、一般式Iによる4~24個の炭素原子を有するヨウ化脂肪酸の生体適合性ナノエマルションである。
【0137】
本発明の実施形態によると、工程a)のコンピューター断層撮影法を用いたインビボイメージングは、PET-CTイメージングによって、つまりCTイメージングをPETイメージングと組み合わせることによって実施される。
【0138】
本発明のコンピューター断層撮影法造影剤を含むキットも又企図されている。
【0139】
更に、ゼラチン、ポリ乳酸、ポリ乳酸-ポリグリコール酸、ポロキサマー、カプロラクトン、セルロース、糖誘導体等の好適な賦形剤と混合されたコンピューター断層撮影法造影剤を含む固体形態も又企図されている。
【0140】
本発明の又別の目的は、悪液質又は前悪液質に罹患していることが疑われる、又は罹患している対象を予防及び/又は治療するための方法であって:
a)一般式I:
【化9】
(式中、n=2~22であり;
R
1は、ヨウ素原子の数が1~6であり、ヨウ素原子がジェミナルでもビシナルでもないことを前提として、H又はIであり;
及びR
2は、H、不飽和又は飽和、直鎖状又は分岐鎖状アルキル、アルコキシアルキル、ヒドロキシアルコキシアルキル、ポリヒドロキシアルキル、ヒドロキシポリアルキレンオキシアルキルである)による4~24個の炭素原子及び/又はそれらのエステル及び/又は塩及び/又は混合物を有するヨウ化脂肪酸の生体適合性ナノエマルションから成る、本発明のコンピューター断層撮影法造影剤を前記対象に投与する工程;
b)及び引き続いて前記対象若しくは患者に、悪液質若しくは前悪液質に罹患していると疑われる又は罹患している、前記対象上で実施された工程a)のインビトロイメージングの結果に依存して、適切な療法を投与する工程を含む方法を提供することである。
【0141】
悪液質又は早期悪液質を治療するための治療アプローチは、多様である。悪液質患者及び悪液質の病期に依存して、治療アプローチは、高いタンパク質含量を含む特殊な栄養;及び/又は多価不飽和脂肪酸及び/又は魚油及び/又はビタミンD及び/又は分岐鎖アミノ酸を含有する栄養補助食品;及び/又は運動プログラム;及び/又は食欲増進のため(酢酸メゲストロール)、及び/又はコルチコステロイド剤若しくは非ステロイド抗炎症薬(NSAID)及び/又は新規な食欲増進性同化グレリンアゴニスト(アナモレリン等)による炎症低減のための療法から成る。
【0142】
本発明の更に別の目的は、対象における肥満症を診断する方法であって:
a)(上述した)本発明の造影剤を投与することを含む、前記対象における褐色及び/又はベージュ脂肪組織(BAT)のコンピューター断層撮影法によるインビボイメージングする工程、
b)得られた工程a)のCTスキャン若しくは画像を次に健常対象と比較し、BAT及び/又はベージュ脂肪組織の陰性若しくは増強の減少を確定すること、又は前記対象における白色脂肪組織(WAT)の褐色化及び/又はBAT活性を検出することによって、肥満症の診断を下す工程を含む方法を提供することである。
【0143】
大多数の成人においては正常な褐色脂肪組織(BAT)が存在するが、褐色脂肪組織の活性及び/又は量は、過体重又は肥満体である対象においては減少する。ヒトにおいては褐色脂肪組織は代謝的に重要であり、殆どの過体重又は肥満症の対象においてはそれが減少するがそれでも存在するという事実は、それを肥満症の新規な治療の標的とし得る。
【0144】
当業者であれば、本明細書に記載した本発明は、詳細に記載した以外の変更及び修正を受け入れる余地があることを理解するであろう。本発明が本発明の精神又はその本質的な特徴から逸脱せずに全てのそのような変更及び修正を含むことを理解すべきである。本発明は、本明細書に言及又は指示した工程、特徴、組成物及び化合物の全てを個別に、又は集合的に、並びに前記工程若しくは特徴の任意及び全ての組み合わせ又は任意の2つ以上を更に含む。従って本開示は、例示した非限定的である全態様におけるように、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって指示され、同等性の意味及び範囲内に含まれる全ての変更はその中に含まれることが意図されると見なすべきである。
【0145】
上記の説明は、以下の実施例を参照するとより十分に理解されるであろう。しかし、そのような実施例は、本発明を実施する方法の例であり、本発明の範囲を限定することは意図されていない。
【実施例】
【0146】
実施例
実施例1:9(10)-ヨードオクタデカン酸の合成
五酸化リン(170mg、1.0mmol)を磁気攪拌下でオルトリン酸(1.0mL)へ緩徐に添加した。オレイン酸(141mg、0.5mmol)及びヨウ化ナトリウムを添加し、この反応混合物を還流冷却下の70℃で加熱した。24時間後、反応混合物を周囲温度に冷却し、酸を粗生成物から分離した。ジクロロメタン(20mL)を添加し、有機相が無色になるまで有機相をチオ硫酸ナトリウム(0.1M)により洗浄した。有機相を塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムの上方に通して乾燥させた。溶媒を減圧下で蒸発させると無色の油が得られたので、これはジクロロメタン/メタノール勾配(181mg、0.44mmol、収率88%)を用いてフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。1H NMR(600MHz,CDCl3)δ 4.07-4.02(m,1H),2.28(t,J=7.5Hz,2H),1.78(m,2H),1.60(m,4H),1.45(m,2H),1.36-1.16(m,22H),0.81(t,J=7.0Hz,3H).LRMS(ESI):[M+K]+についてのm/z計算値449.1、実測値448.1。
【0147】
実施例2:9(10),12(13)-ジヨードオクタデカン酸の合成
五酸化リン(340mg、2.0mmol)を磁気攪拌下でオルトリン酸(2.0mL)へ緩徐に添加した。リノール酸(280mg、1.0mmol)及びヨウ化ナトリウム(500mg、3.33mmol)を添加し、この反応混合物を還流冷却下の70℃で加熱した。24時間後、反応混合物を周囲温度に冷却し、酸を粗生成物から分離した。ジクロロメタン(20mL)を添加し、有機相が無色になるまで有機相をチオ硫酸ナトリウム(0.1M)により洗浄した。有機相を塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムの上方に通して乾燥させた。溶媒を減圧下で蒸発させると無色の油が得られたので、これはジクロロメタン/メタノール勾配(407mg、0.76mmol、収率76%)を用いるフラッシュクロマトグラフィーによって精製した。1H NMR(600MHz,CDCl3)δ 4.15-4.07(m,2H),2.41-2.34(m,2H),2.11-2.02(m,2H),1.96-1.82(m,2H),1.76-1.62(m,4H),1.58-1.50(m,2H),1.46-1.23(m,16H),0.95-0.88(m,3H).LRMS(ESI):[M+Na]+についてのm/z計算値559.0、実測値558.9。
【0148】
実施例3:16-ヨードヘキサデカン酸エチルの合成
【化10】
【0149】
実施例4:16-ヨードヘキサデカン酸の合成
16-ヘキサデカノリド(2.00g、7.86mmol、1等量)、ヨウ化ナトリウム(3.54g、23.6mmol、3等量)、クロロトリメチルシラン(2.99mL(2.56g)、23.6mmol、3等量)、及びアセトニトリル(25mL、c=0.31M)を窒素雰囲気下の還流下で一晩攪拌した。水(20mL)及びエーテル(50mL)を反応混合物に添加した。有機相を水、チオ硫酸ナトリウム、飽和塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムの上方に通して乾燥させた。有機相を濾別して減圧下で蒸発させると、白色の固体(2.88g、7.53mmol、収率96%)が得られた。1H NMR(600MHz,CDCl3)δ 3.19(t,J=7.1Hz,2H),2.35(t,J=7.5Hz,2H),1.82(p,J=7.1Hz,2H),1.63(p,J=7.5Hz,2H),1.43-1.19(m,23H).13C NMR(151MHz,CDCl3)δ 179.62,34.09,33.72,30.66,29.77,29.75,29.73,29.69,29.57,29.39,29.21,28.70,24.83,7.71.
【0150】
実施例5:16-ヨードヘキサデカン酸エチルの合成
16-ヨードヘキサデカン酸(100mg、0.262mmol、1等量)、塩化錫(II)(19.8mg、0.105mmol、0.4等量)、及びエタノール(5mL、c=0.052M)を窒素雰囲気下の還流下で一晩攪拌した。反応混合物を減圧下で蒸発させた。粗生成物をシクロヘキサン/エーテル勾配を用いるフラッシュクロマトグラフィーによって精製すると、白色の固体(94.0mg、0.229mmol、収率88%)が得られた。ESI MS 433.2[M+Na]+.1H NMR(600MHz,CDCl3)δ 4.12(m,J=7.1Hz,2H),3.19(t,J=7.1Hz,2H),2.28(t,J=7.6Hz,2H),1.82(p,J=7.1Hz,2H),1.61(p,J=7.4Hz,2H),1.45-1.19(m,23H).13C NMR(151MHz,CDCl3)δ 174.10,60.31,34.56,33.72,30.66,29.78,29.75,29.74,29.69,29.60,29.57,29.42,29.30,28.70,25.15,14.41,7.66.
【0151】
実施例6:12-ヨードドデカン酸エチルの合成
【化11】
【0152】
実施例7:12-ヨードヘキサデカン酸の合成
オキサシクロトリデカン-2-オン(1.00g、5.00mmol、1等量)16-ヘキサデカノリド(2.00g、7.86mmol、1等量)、ヨウ化ナトリウム(2.25g、15.0mmol、3等量)、及びクロロトリメチルシラン(1.90mL(1.63g)、15.0mmol、3等量)、及びアセトニトリル(25mL、c=0.31M)を窒素雰囲気下の還流下で一晩攪拌した。水(20mL)及びエーテル(50mL)を反応混合物に添加した。有機相を水、チオ硫酸ナトリウム、飽和塩水で洗浄し、硫酸ナトリウムの上方に通して乾燥させた。有機相を濾別して減圧下で蒸発させると、淡黄色がかった固体(1.62g、4.97mmol、収率98%)が得られた。ESI MS 325.2[M-H]-.1H NMR(600MHz,CDCl3)δ 3.19(t,J=7.0Hz,2H),2.35(t,J=7.5Hz,2H),1.82(p,J=7.1Hz,2H),1.63(p,J=7.5Hz,2H),1.44-1.22(m,14H).13C NMR(151MHz,CDCl3)δ 179.47,34.06,33.70,30.64,29.59,29.52,29.50,29.35,29.18,28.67,24.82,7.71.
【0153】
実施例8:12-ヨードドデカン酸エチルの合成
12-ヨードヘキサデカン酸(800mg、2.45mmol、1等量)、塩化錫(II)(200mg、1.05mmol、0.4等量)、及びエタノール(50mL、c=0.052M)を窒素雰囲気下の還流下で一晩攪拌した。反応混合物を減圧下で蒸発させた。粗生成物をシクロヘキサン/エーテル勾配を用いてフラッシュクロマトグラフィーによって精製すると、白色の固体(1.06mg、2.58mmol、収率66%)が得られた。ESI MS 355.1[M+H]+.1H NMR(600MHz,CDCl3)δ 4.11(q,J=7.1Hz,2H),3.18(t,J=7.1Hz,2H),2.27(t,J=7.6Hz,2H),1.81(p,J=7.1Hz,2H),1.60(p,J=7.4Hz,2H),1.37(q,J=6.8,6.4Hz,2H),1.33-1.20(m,15H).13C NMR(151MHz,CDCl3)δ 174.03,60.28,34.52,33.69,30.63,29.58,29.51,29.37,29.26,29.25,28.66,25.11,14.40,7.51.
【0154】
実施例9:9(10),12(13)-ジヨードオクタデカン酸の合成
【化12】
五酸化リン(2.82g、20.0mmol、2等量)、リノール酸(3.00g、10.7mmol、1等量)、ヨウ化ナトリウム(6.00g、40.0mmol、4等量)、及びリン酸(20mL、c=0.50M)を窒素雰囲気下の70℃で12時間及び室温で緩徐に1時間半攪拌した。エーテル(50mL)及び水(20mL)を反応混合物に添加した。水相を酢酸エチルにより抽出し、合わせた有機相をチオ硫酸ナトリウム(0.1M)、飽和塩水により洗浄し、硫酸ナトリウムの上方に通して乾燥させ、濾別し、減圧下で蒸発させた。粗生成物をジクロロメタン/メタノール勾配+0.1%の酢酸を用いてフラッシュクロマトグラフィーにより精製すると、淡黄色がかった固体(4.875g、9.09mmol、収率85%)が得られた。ESI MS 558.5[M+Na]
+,553.5[M+NH
4]
+.574.5[M+K]
+.
1H NMR(600MHz,CDCl
3)δ 4.14-4.05(m,2H),2.35(m,2H),1.96-1.80(m,2H),1.76-1.61(m,3H),1.57-1.49(m,3H),1.46-1.27(m,16H),0.90(7,J=6.8Hz,3H).
【0155】
実施例10:トリヨードオクタデカン酸及びトリヨードオクタデカン酸エチルの合成
【化13】
【0156】
実施例11:悪液質のマウスモデルにおける褐色化脂肪組織のイメージング
ナノエマルションの形態下にあるCT造影剤を3群のマウスに投与した。A群はコントロール(腫瘍なし)であったが、B群及びC群は、悪液質の認識されたマウスモデルであるルイス肺同系腫瘍を有していた
2。腫瘍注射の7、13及び27日後に、A群及びC群からのマウスには経口経路により3400mg/kg(体重)でCT造影剤を投与した。各投与の24時間後、全群からのマウスはmicroCTスキャンを受けた。造影剤は、
図1及び2で見られるように、褐色脂肪組織により取り込まれた。取り込み及びコントラスト増強は、C群(腫瘍あり)において、特に膝窩領域において最高であった(
図2)。コントラスト増強は、造影剤が全く投与されなかったB群において視認されなかった。C群では、体重減少が全く記録されなかった腫瘍摂取後8日目からコントラスト増強を視認できたが、それでも腫瘍を検出するのは依然として困難であった(
図3)。更に、膝窩領域では、コントラスト増強は、腫瘍増殖と相関していた(
図4)。それは、本発明によるCT造影剤が極めて早期の癌病期で脂肪組織における変化を検出できること、及びこれらの変化が腫瘍増殖と相関することを示している。更にその上、膝窩領域におけるコントラスト増強は、最小の体脂肪の減少を伴ってマウスの体重が未変化である14日目でさえ明白であったが、これは前悪液質(早期悪液質)を検出する能力を示している。
【0157】
実施例12:活性化褐色及びベージュ脂肪組織のイメージング
BATを活性するために、マウスを1週間に渡り6℃で収容した。マウスにはCT造影剤を経口で投与し、24時間後にCTによってイメージングした。CT造影剤は、全ての褐色及びベージュ脂肪組織によって取り込まれ、これらをCTスキャン上で視認できた。三次元再構成及び対応する脂肪組織を
図5に示す。
【0158】
実施例13:マウスにおける褐色化脂肪組織のイメージング
ナノエマルションの形態下にあるCT造影剤を3群のマウスに投与した。A群はコントロール(腫瘍なし)であったが、B群及びC群は、ルイス肺同系腫瘍を有していた。腫瘍注射の13日後に、A群及びC群からのマウスには経口経路により3400mg/kg(体重)の用量でCT造影剤を投与した。各投与の24時間後、全群からのマウスはmicroCTスキャンを受けた。生じたスキャンを
図2に提示した(A2、B2及びC2)。コントラスト増強は、造影剤が投与されなかったB群では存在しない。A群(健常コントロール動物)とC群(腫瘍担持動物)のCTスキャン間の比較は、後者の群における明白なコントラスト増強を示している。CT造影剤は、健常マウスと比較して褐色及び/又はベージュ脂肪組織のゾーンを同定することによって、腫瘍を有するマウスを明確に識別する。それは、何らかの体重減少が観察される前に(即ち、肺癌の発症の14日目、
図4c)、本発明によるCT造影剤が悪液質の極めて早期(前悪液質)に脂肪組織の変化を検出できることを証明している。脂肪組織におけるコントラスト増強は、悪液質症候群が進行するにつれて増加するので、脂肪組織の褐色化のレベルに従った悪液質の病期を決定する能力を証明している(
図4c)。
【0159】
図4cは、C群における14日目のコントラスト強度が増強されるのは、早期悪液質(前悪液質)及び/又は早期肺癌を検出するのが可能であることも又証明している。本出願人の独自のデータ及び文献は、この癌モデルにおける14日目には、マウスが体重減少を示さないことを示しており、これはそれらが前悪液質及び/又は早期悪液質病期にあることを意味している(
図3a)。
【0160】
参照文献
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