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特許7522752放熱シート、放熱シート積層体、構造体及び発熱素子の放熱処理方法
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  • 特許-放熱シート、放熱シート積層体、構造体及び発熱素子の放熱処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】放熱シート、放熱シート積層体、構造体及び発熱素子の放熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20240718BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H05K7/20 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021548952
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2020035909
(87)【国際公開番号】W WO2021060319
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2019173941
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】和田 光祐
(72)【発明者】
【氏名】金子 政秀
(72)【発明者】
【氏名】野々垣 良三
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-251921(JP,A)
【文献】特開2012-4468(JP,A)
【文献】特開2019-67801(JP,A)
【文献】特開2005-5671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10s-1のせん断速度における25℃の粘度が22Pa・sであり、ボンドライン厚が52μmである放熱グリース3.2mlを、アルミニウム板の上に配置した180mm×100mmの放熱シートとガラス板との間に、単位面積当たり0.2MPaの締め付け力で挟み込み、前記放熱グリースを拡張させた後、-40℃の温度での30分間保持及び125℃の温度での30分間保持を1サイクルとするヒートサイクル試験を100サイクル行った場合、
前記ヒートサイクル試験を行う前の拡張させた前記放熱グリースの面積(S1)に対する、100サイクルの前記ヒートサイクル試験を行った後の前記放熱グリースの面積(S2)の面積比(S2/S1)が1.0~2.0である放熱シート。
【請求項2】
前記面積比(S2/S1)が1.0~1.7である請求項1に記載の放熱シート。
【請求項3】
第1の面及び前記第1の面の反対側の第2の面を有する、請求項1または2に記載の放熱シート、及び
前記放熱シートの前記第1の面及び前記第2の面の少なくとも一方の面の上に形成された放熱グリース層を含む放熱シート積層体。
【請求項4】
請求項1または2に記載の放熱シート、
前記放熱シートに載置された発熱素子、及び
前記放熱シート及び前記発熱素子の間に介在する放熱グリースを備える構造体。
【請求項5】
第1の面及び前記第1の面の反対側の第2の面を有する、請求項1または2に記載の放熱シートにおける前記第1の面及び前記第2の面の少なくとも一方の面に放熱グリースを塗布する工程、及び
前記放熱グリースを塗布した前記放熱シートの面に発熱素子を配置する工程を含む発熱素子の放熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱シート、その放熱シートを含む放熱シート積層体、その放熱シートを備える構造体及びその放熱シートを用いた発熱素子の放熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPUなどの発熱素子においては、使用時に発生する熱を如何に効率的に放熱するかが重要な課題となっている。従来から、このような放熱対策としては、発熱素子から発生した熱をヒートシンクなどの放熱部品へ伝導させ放熱することが一般的に行われてきた。発熱素子から発生した熱を放熱部品へ効率よく熱伝導させるために、発熱素子と放熱部品との間に接触界面におけるエアーギャップを放熱材料で埋めることが望ましい。取り扱いが容易であることから、そのような放熱材料として、従来から放熱シートが用いられていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-39060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、放熱シートは発熱素子の実装面におけるミクロな凹凸に対して追従できないため、発熱素子に対する放熱シートの密着性が不十分となる場合がある。このため、発熱素子と放熱シートとの間の接触熱抵抗が大きくなる場合があった。
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を進めたところ、発熱素子と放熱シートとの間に放熱グリースを介在させることにより、発熱素子と放熱シートとの間の接触熱抵抗を低減できることを見出した。しかし、本発明者らは、発熱素子と放熱シートとの間に放熱グリースを介在させると、放熱シートの熱膨張及び熱収縮により、放熱グリースに著しいポンプアウト現象(放熱グリースが実装部分から流れ出してしまう現象)が起こることも見出した。
【0006】
そこで、本発明は、発熱素子と放熱シートとの間に放熱グリースを介在させたとき、放熱グリースのポンプアウト現象を抑制できる放熱シート、その放熱シートを含む放熱シート積層体、その放熱シートを備える構造体及びその放熱シートを用いた発熱素子の放熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を進めたところ、アルミニウム板の上に載置した放熱シートとガラス板とで放熱グリースを挟んで所定のヒートサイクル試験を行った場合、ヒートサイクル試験前の放熱グリースの面積に対するヒートサイクル試験後の放熱グリースの面積の面積比が所定範囲内になるような放熱シートを用いることにより、上記の目的を達成することができることを見出した。
本発明は、上記の知見に基づくものであり、以下を要旨とする。
[1]10s-1のせん断速度における25℃の粘度が22Pa・sであり、ボンドライン厚さ(BLT)が52μmである放熱グリース3.2mlを、アルミニウム板の上に配置した180mm×100mmの放熱シートとガラス板との間に、単位面積当たり0.2MPaの締め付け力で挟み込み、放熱グリースを拡張させた後、-40℃の温度での30分間保持及び125℃の温度での30分間保持を1サイクルとするヒートサイクル試験を100サイクル行った場合、ヒートサイクル試験を行う前の拡張させた放熱グリースの面積(S1)に対する、100サイクルのヒートサイクル試験を行った後の放熱グリースの面積(S2)の面積比(S2/S1)が1.0~2.0である放熱シート。
[2]面積比(S2/S1)が1.0~1.7である上記[1]に記載の放熱シート。
[3]第1の面及び第1の面の反対側の第2の面を有する、上記[1]または[2]に記載の放熱シート、及び放熱シートの第1の面及び第2の面の少なくとも一方の面の上に形成された放熱グリース層を含む放熱シート積層体。
[4]上記[1]または[2]に記載の放熱シート、放熱シートに載置された発熱素子、及び放熱シート及び発熱素子の間に介在する放熱グリースを備える構造体。
[5]第1の面及び第1の面の反対側の第2の面を有する、請求項1または2に記載の放熱シートにおける第1の面及び第2の面の少なくとも一方の面に放熱グリースを塗布する工程、及び放熱グリースを塗布した放熱シートの面に発熱素子を配置する工程を含む発熱素子の放熱処理方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発熱素子と放熱シートとの間に放熱グリースを介在させたとき、放熱グリースのポンプアウト現象を抑制できる放熱シート、その放熱シートを含む放熱シート積層体、その放熱シートを備える構造体及びその放熱シートを用いた発熱素子の放熱処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態の放熱シート積層体及び構造体を説明するための図である。
図2図2は、本発明の一実施形態の放熱シート積層体及び構造体の変形例を説明するための図である。
図3図3は、実施例のヒートサイクル試験に使用した面積比評価用治具の分解図である。
図4図4は、面積比評価用治具における放熱グリースの広がりを説明するための図である。
図5図5は、粘弾性測定装置を用いたボンドライン厚さの測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[放熱シート]
本発明の放熱シートは、10s-1のせん断速度における25℃の粘度が22Pa・sであり、ボンドライン厚が52μmである放熱グリース3.2mlを、アルミニウム板の上に配置した180mm×100mmの放熱シートとガラス板との間に、単位面積当たり0.2MPaの締め付け力で挟み込み、放熱グリースを拡張させた後、-40℃の温度での30分間保持及び125℃の温度での30分間保持を1サイクルとするヒートサイクル試験を100サイクル行った場合、ヒートサイクル試験を行う前の拡張させた放熱グリースの面積(S1)に対する、100サイクルのヒートサイクル試験を行った後の放熱グリースの面積(S2)の面積比(S2/S1)は1.0~2.0である。具体的には、本発明の放熱シートは、後述の実施例に記載されたガラス板を用いたヒートサイクル試験においてヒートサイクル試験を行う前の拡張させた放熱グリースの面積(S1)に対する、100サイクルのヒートサイクル試験を行った後の放熱グリースの面積(S2)の面積比(S2/S1)が1.0~2.0である。上記面積比(S2/S1)が2.0よりも大きいと、発熱素子と放熱シートとの間に放熱グリース層を介在させたとき、放熱グリースのポンプアウト現象が著しくなる場合がある。なお、放熱グリースの25℃における粘度の値22Pa・sは、通常、用いられる放熱グリースの25℃における粘度の値の一つである。また、放熱グリースのボンドライン厚さの値52μmは、通常、用いられる放熱グリースのボンドライン厚さの値の一つである。このような粘度およびボンドライン厚の放熱グリースを用いて測定された上記面積比が特定の範囲内になるように調整することで、通常の放熱グリースを用いた場合に、ポンプアウト現象を効果的に抑制できる。
【0011】
ボンドライン厚さは、粘弾性測定装置を用いて測定することができる。図5を参照して、粘弾性測定装置を用いたボンドライン厚の測定方法を説明する。直径8mmの円柱状の測定用治具と、円板状の測定用治具とを粘弾性測定装置に取り付ける。そして、試料を圧縮方向に変形する粘弾性測定装置の機能を利用して、図5(a)に示すように、10Nの応力で円柱状の測定用治具41を円板状の測定用治具42に押し付ける。このときの円柱状の測定用治具41と円板状の測定用治具42との間隔をゼロと設定する。次に、図5(b)に示すように、円柱状の測定用治具41と円板状の測定用治具42との間の間隔が1mmになるように、円板状の測定用治具42から円柱状の測定用治具41を離す。そして、円柱状の測定用治具41と円板状の測定用治具42との間の放熱グリース43を配置する。図5(c)に示すように、10Nの応力で円柱状の測定用治具41を円板状の測定用治具42に再び押し付ける。円柱状の測定用治具41と円板状の測定用治具42との間には放熱グリース43があるので、円柱状の測定用治具41と円板状の測定用治具42との間隔はゼロよりも大きくなる。このときの円柱状の測定用治具41と円板状の測定用治具42との間隔をボンドライン厚さとする。
【0012】
例えば、放熱シートの表面に交差するライン状の溝をエンボス加工等によって形成することにより、上記面積比(S2/S1)を1.0~2.0とすることができる放熱シートを得ることができる。上記面積比(S2/S1)を調整する上で、ライン状の溝を放熱シート全体に形成することは特に有効である。複数の溝を放熱シートに全体的に形成することで、放熱シート等の膨張や収縮があっても、放熱グリースを溝の中に溜めておくことができ、これにより上記面積比(S2/S1)を小さくできると考えられる。また、隣接する溝の間の距離は100~1500μmであり、溝の深さは5~25μmであり、溝の幅は5~25μmであることが好ましい。また、隣接する溝の間の距離を短くしたり、溝の深さを深くしたり、溝の幅を大きくしたりすることで、上記面積比(S2/S1)を小さくすることができる。なお、放熱シートの2つの主な面のうち、一方の面のみに溝を形成してもよいし、両方の面に溝を形成してもよい。
【0013】
(面積比(S2/S1))
発熱素子と放熱シートとの間に放熱グリースを介在させたとき、放熱グリースのポンプアウト現象をより大きく抑制できるという観点から、ヒートサイクル試験を行う前の拡張させた放熱グリースの面積(S1)に対する、100サイクルのヒートサイクル試験を行った後の放熱グリースの面積(S2)の面積比(S2/S1)は1.0~2.0であり、好ましくは1.0~1.7であり、より好ましくは1.0~1.5であり、さらに好ましくは1.0~1.3である。
【0014】
(放熱シートの表面粗さ)
発熱素子と放熱シートとの間に放熱グリースを介在させたとき、放熱グリースのポンプアウト現象をより大きく抑制できるという観点から、本発明の放熱シートの表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で、好ましくは1.2~3.5μmであり、より好ましくは1.5~3.2μmであり、さらに好ましくは2.0~3.0μmである。また、本発明の放熱シートの表面粗さは、十点平均粗さ(Rz)で、好ましくは10~25μmであり、より好ましくは14~23μmであり、さらに好ましくは17~23μmである。なお、算術平均粗さ(Ra)及び十点平均粗さ(Rz)はJIS B0601:2013に準拠して測定した値である。
なお、上記の通り、例えば溝形成等により表面を物理的に調整して面積比(S2/S1)を調整できるが、他の方法でもよい。例えば、放熱シートの表面状態を化学的に調整して、S2/S1を調整してもよい。具体的には、放熱グリースと相溶性の高い表面に改質する方法が考えられる。
【0015】
(放熱シートの成分)
本発明の放熱シートの成分は、放熱シートに通常に用いられている成分であれば、とくに限定されない。例えば、本発明の放熱シートは、樹脂バインダー及び熱伝導率の高い充填材を含有することができる。
【0016】
<樹脂バインダー>
本発明の放熱シートに使用する樹脂バインダーは、放熱シートに通常用いられる樹脂バインダーであれば、とくに限定されない。本発明の放熱シートに使用する樹脂バインダーには、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ウレタン樹脂、ポリアミド(例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等)、ポリエステル(例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。放熱シートの取り扱いを容易にするという観点及び放熱シートの密着性をより高めるという観点から、樹脂バインダーはゴムまたはエラストマーであることが好ましい。これらの中で、耐熱性、耐候性、電気絶縁性及び化学的安定性の観点からシリコーン樹脂が好ましい。
【0017】
金属腐食の原因となるイオン性の不純物を含まず、反応後に副生成物を発生しないという観点から、本発明の放熱シートに使用するシリコーン樹脂は、付加反応型シリコーン樹脂であることが好ましい。付加反応型シリコーン樹脂は、白金化合物を触媒として用いて、アルケニル基とケイ素原子に結合した水素原子との間のヒドロシリル化反応により硬化したものである。付加反応型シリコーンには、例えば旭化成ワッカーシリコーン株式会社製の商品名「LR3303-20A/B」のシリコーンがある。
【0018】
<充填材>
本発明の放熱シートに使用する充填材は、放熱シートに通常用いられる充填材であれば、とくに限定されない。本発明の放熱シートに使用する充填材には、例えば、無機系充填材、金属系充填材などが挙げられる。無機系充填材には、例えば、酸化亜鉛、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミ、炭化ケイ素、窒化ケイ素などが挙げられる。金属系充填材には、例えば、アルミニウム、銀、銅などが挙げられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中で、電気絶縁性の観点から無機系充填材が好ましく、無機系充填材の中で、熱伝導率及び化学的安定性の観点から窒化ホウ素がより好ましい。また、窒化ホウ素は熱伝導性に異方性を有するので、この熱伝導性の異方性を抑制した塊状窒化ホウ素粒子がさらに好ましい。なお、塊状窒化ホウ素粒子は、六方晶窒化ホウ素の鱗片状粒子を塊状に凝集させた粒子である。
【0019】
充填材の平均粒子径は、好ましくは8~90μmである。充填材の平均粒子径が8μm以上であると、充填材の含有量を高くすることができる。一方、充填材の平均粒子径が90μm以下であると、放熱シートを薄くすることができる。このような観点から、充填材の平均粒子径は、より好ましくは20~70μmであり、さらに好ましくは25~50μmであり、とくに好ましくは25~45μmである。なお、充填材の平均粒子径は、例えば、ベックマンコールター社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置、(LS-13 320)を用いて測定することができる。充填材の平均粒子径には、測定処理の前にホモジナイザーをかけずに測定したものを採用することができる。なお、得られた平均粒子径は、例えば体積統計値による平均粒子径である。
【0020】
樹脂バインダー及び充填材の合計100体積%に対する充填材の含有量は、30~85体積%が好ましく、40~80体積%がより好ましい。充填材の含有量が30体積%以上の場合、放熱シートの熱伝導率が向上し、十分な放熱性能が得られやすい。また、充填材の含有量が85体積%以下の場合、放熱シートの成形時に空隙が生じやすくなることを抑制でき、放熱シートの絶縁性や機械強度を高めることができる。
【0021】
<補強層>
本発明の放熱シートは、補強層を備えていてもよい。補強層は、放熱シートの機械的強度をさらに向上させる役目を担い、さらには放熱シートが厚さ方向に圧縮されたとき、放熱シートの平面方向への延伸を抑制し、絶縁性を確保する効果も奏する。補強層には、例えば、ガラスクロス、アルミナクロス、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、アクリル樹脂などの樹脂フィルム、木綿、麻、アラミド繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリオレフィン繊維などの布繊維メッシュクロス、アラミド繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリオレフィン繊維などの不織布、ステンレス、銅、アルミニウムなどの金属繊維メッシュクロス、銅、ニッケル、アルミニウムなど金属箔などが挙げられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中で、熱伝導性、絶縁性及びコストの観点から、ガラスクロスが好ましい。
【0022】
補強層としてガラスクロスを用いる場合、一般に市販されているような開口部を有するガラスクロスを使用できる。熱伝導性の観点から、ガラスクロスの厚さは、好ましくは10μm~150μm、より好ましくは20~90μm、さらに好ましくは30~60μmである。ガラスクロスの厚さが10μm以上の場合、ハンドリング時にガラスクロスが壊れるのを抑制することができる。一方、ガラスクロスの厚さが150μm以下の場合、ガラスクロスによる放熱シートの熱伝導率の低下を抑制することができる。市販されているガラスクロスでは繊維径が4~9μmのものがあり、これらを放熱シート1に使用することができる。またガラスクロスの引張強度は、例えば、100~1000N/25mmである。またガラスクロスの開口部の一辺の長さは、熱伝導性及び強度のバランスを取るという観点から、好ましくは0.1~1.0mmである。放熱シート1に使用できるガラスクロスには、例えばユニチカ社製、商品名「H25 F104」がある。
補強層を用いる場合、放熱シートの厚み方向中央に補強層が配置されるように、補強層の両面に放熱シート用組成物を塗布して放熱シートを製造してもよいし、補強層の片面に放熱シート用組成物を塗布して放熱シートを製造してもよい。
【0023】
なお、本発明の放熱シートには、樹脂バインダー、充填材及び補強層以外の成分が含まれてもよい。その他の成分は添加剤、難燃剤、シリコーンオイル、シラン材、シランカップリング剤、白金触媒、硬化剤、着色剤等であり、放熱シートの体積100体積%中、例えば5体積%以下、好ましくは3体積%以下、より好ましくは1体積%以下であってよい。
【0024】
<基材樹脂層>
本発明の放熱シートは基材樹脂層を備えていてもよい。基材樹脂層は、放熱シートの耐熱性をさらに向上させる役目を担う。この場合、本発明の放熱シートは、上述の樹脂バインダー及び充填材を含有する樹脂組成物層と、この樹脂組成物層に隣接する基材樹脂層とを含む。そして、樹脂組成物層の一方の面が、上述の面積比(S2/S1)が1.0~2.0となる面であり、樹脂組成物層の他方の面側に基材樹脂層が配置されることが好ましい。また、樹脂組成物層は上述の補強層を備えていてもよい。
【0025】
基材樹脂層は、ガラス転移点が200℃以上である樹脂を含むことが好ましい。ガラス転移点が200℃以上であれば、十分な耐熱性が得られ、積層体の絶縁性や熱伝導性を良好に維持することができる。基材樹脂層は、塗膜から形成される層でも、フィルムから形成される層でもよい。
【0026】
基材樹脂層を構成する樹脂としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド(特に芳香族ポリアミド)、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等が挙げられ、なかでもポリイミドが好ましい。また、単独あるいは数種類を組み合わせて使用することができる。
【0027】
基材樹脂層中の樹脂の含有量は特に限定されないが、下限については、78体積%以上が好ましく、より好ましくは80体積%以上、さらに好ましくは82体積%以上である。上限については92体積%以下が好ましく、より好ましくは90体積%以下、さらに好ましくは88体積%以下である。
【0028】
基材樹脂層は無機フィラーを含有することが好ましい。基材樹脂層が無機フィラーを含有することで、絶縁性、熱伝導性、ピール強度等を向上させることができる。特に、ピール強度が上がるのは、無機フィラーにより基材樹脂層と樹脂組成物層との界面に凹凸が形成され、アンカー効果が生じるためと推察される。無機フィラーとしては、上述の充填材と同様なものを使用することができる。
【0029】
基材樹脂層中の無機フィラーの含有量は特に限定されないが、下限については8体積%以上が好ましく、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは12体積%以上である。上限については22体積%以下が好ましく、より好ましくは20体積%以下、さらに好ましくは18体積%以下である。
【0030】
また、基材樹脂層中には、上述のその他の成分が少量含まれてもよいし、不純物が少量含まれてもよい。なお、基材樹脂層中において、上記樹脂と無機フィラーの合計含有量は90体積%以上が好ましく、より好ましくは95体積%以上、さらに好ましくは97体積%以上である。
【0031】
基材樹脂層の厚みは、絶縁性、熱伝導性、加工性の観点から以下の範囲が好ましい。下限については0.010mm以上が好ましい。0.010mm以上とすることで、絶縁性をさらに改善できるとともに、加工性も改善できる。より好ましくは0.012mm以上、さらに好ましくは0.015mm以上である。上限については0.100mm以下が好ましい。より好ましくは0.070mm以下、さらに好ましくは0.050mm以下である。
【0032】
基材樹脂層となるフィルムとしては、公知のフィルム作製方法に準じて作製できる。また、市場に販売されている製品を入手して用いてもよい。
基材樹脂層を備える放熱シートの場合には、基材樹脂層となる基材シート上に、樹脂組成物(放熱シート用組成物)を塗布する。基材シートへの塗布方法としては、従来公知の方法、例えば、コーター法、ドクターブレード法、押出成形法、射出成形法、プレス成形法等を用いることができる。基材樹脂層を備える放熱シートの場合にも、放熱シートの厚み方向中央に基材樹脂層が配置されるように、基材樹脂層の両面に放熱シート用組成物を塗布してもよいし、片面のみ放熱シート用組成物を塗布してもよい。
【0033】
<放熱シートの形態>
本発明の放熱シートの形態は特に限定されない。枚葉品でもロール品でもよい。
【0034】
[放熱シート積層体]
図1に示すように、本発明の一実施形態の放熱シート積層体10は、本発明の一実施形態の放熱シート1、及び放熱シート1の面の上に形成された放熱グリース層11を含む。これにより、発熱素子21と放熱シート1との間の接触熱抵抗を低減できるとともに、放熱グリースのポンプアウト現象を抑制できる。なお、放熱グリース層11が形成された放熱シート1の表面が、面積比(S2/S1)が上述の範囲内となるような表面状態を有する。
【0035】
(放熱グリース)
本発明の一実施形態の放熱シート積層体10に使用される放熱グリース11は、放熱材料として通常用いられる放熱グリースであれば、とくに限定されない。放熱グリースは、例えば、液状ポリマー及び充填材を混練してペースト状にしたものである。充填材としては、例えば、上述の本発明の放熱シートに用いた充填材と同じものを使用できる。これらの中で、電気絶縁性の観点から無機系充填材が好ましく、無機系充填材の中で、熱伝導率及び絶縁性、コストの観点からアルミナがより好ましい。また、アルミナの形状は球状、破砕状、板状、不定形等いずれでもよいが、流動性の観点から球状が特に好ましい。液状ポリマーには、例えば、ポリオレフィン、アルキル芳香族、脂環式化合物などの炭化水素油、ポリグリコール、フェニルエーテルなどのポリエーテル類、ジエステル、ポリオールエステルなどのエステル類、芳香族リン酸エステルなどのリン化合物、シリコーンなどのケイ素化合物、フッ素化ポリエーテルなどのハロゲン化合物、鉱物油、フロロシリコーン、アクリル樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。これらの液状ポリマーの中で、耐熱性、耐候性、電気絶縁性及び化学的安定性の観点からシリコーンが好ましい。
【0036】
上記の通り、本発明において放熱グリースの種類は特に限定されないが、通常の放熱グリースの25℃における粘度の値は10~400Pa・sであり、このような粘度を有する通常の放熱グリースを使用する場合において、より効果的にポンプアウト現象を抑制することができる。特に、本発明の放熱シートは粘度が低い放熱グリースに対して効果的である。粘度が低い方が放熱グリースの扱いやすさ等の観点から好ましいが、ポンプアウト現象が起こりやすい点に問題がある。本発明の放熱シートによれば、粘度が低い放熱グリースを用いてもポンプアウト現象を抑えることができる。粘度が低い放熱グリースとは、25℃における粘度の値が300Pa・s以下である放熱グリースである。
【0037】
上記の通り、本発明において放熱グリースの種類は特に限定されないが、通常の放熱グリースのボンドライン厚さの値は10~120μmであり、このようなボンドライン厚を有する通常の放熱グリースを使用する場合において、より効果的にポンプアウト現象を抑制することができる。特に、本発明の放熱シートはボンドライン厚が小さい放熱グリースに対して効果的である。ボンドライン厚さが小さい方が熱抵抗等の観点から好ましいが、ポンプアウト現象が起こりやすい点に問題がある。本発明の放熱シートによれば、ボンドライン厚が小さい放熱グリースを用いてもポンプアウト現象を抑えることができる。ボンドライン厚が小さい放熱グリースとは、ボンドライン厚の値が60μm以下である放熱グリースである。
【0038】
本発明の一実施形態の放熱シート積層体10に使用される放熱グリース11の使用量は、溝の形状等が上記の好ましい範囲内であれば、放熱シート180mm×100mm当たり1.5~8.0mlであってよく、2.3~4.5mlであってよく、2.6~3.8mlであってよい。また、通常の放熱グリースの10s-1のせん断速度における25℃の粘度は、15~1000Pa・sの範囲であれば効果的であり、上記範囲にするために例えば真空脱泡・混合という方法で調整してもよい。
【0039】
(本発明の一実施形態の放熱シート積層体の変形例)
本発明の一実施形態の放熱シート積層体は、以下のように変形することができる。
図1に示す本発明の一実施形態の放熱シート積層体10は、放熱シート1の一方の面側のみに放熱グリース11が配置されている。しかし、図2に示す放熱シート積層体10Aのように、放熱シート1の両方側に放熱グリース11,12が配置されてもよい。これにより、放熱シート1とヒートシンク30との間の接触熱抵抗も低減することができる。なお、この場合、放熱シート1の両方の表面が、放熱グリースの上記面積比(S2/S1)が上述の範囲内となるような表面状態を有する。
【0040】
[構造体]
図1に示すように、本発明の一実施形態の構造体20は、本発明の一実施形態の放熱シート1、放熱シート1に載置された発熱素子21、及び放熱シート1及び発熱素子21の間に介在する放熱グリース11を備える。これにより、発熱素子21と放熱シート1との間の接触熱抵抗を低減できるとともに、放熱グリース11のポンプアウト現象を抑制できる。なお、放熱グリース11が配置された放熱シート1の表面が、放熱グリースの上記面積比(S2/S1)が上述の範囲内となるような表面状態を有する。なお、放熱グリース11には、上述の放熱シート積層体に用いた放熱グリースと同様のものを使用できる。
【0041】
(発熱素子)
発熱素子には、例えば、パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPU、IGBTモジュール、ダイオードなどが挙げられる。
【0042】
(本発明の一実施形態の構造体の変形例)
本発明の一実施形態の構造体は、以下のように変形することができる。
<変形例1>
図1に示す本発明の一実施形態の構造体20は、放熱シート1の一方の面側のみに放熱グリース11が配置されている。しかし、図2に示す構造体20Aのように、放熱シート1の両方側に放熱グリース11,12が配置されてもよい。これにより、放熱シート1とヒートシンク30との間の接触熱抵抗も低減することができる。なお、この場合、放熱シート1の両方の面が、放熱グリースの上記面積比(S2/S1)が上述の範囲内となるような表面状態を有する。
【0043】
<変形例2>
発熱素子の代わりに発熱素子を実装した基板を放熱シートに載置してもよい。
【0044】
[発熱素子の放熱処理方法]
本発明の発熱素子の放熱処理方法は、第1の面及び第1の面の反対側の第2の面を有する、本発明の放熱シートにおける第1の面及び第2の面の少なくとも一方の面に放熱グリースを塗布する工程、及び放熱グリースを塗布した放熱シートの面に発熱素子を配置する工程を含む。これにより、発熱素子と放熱シートとの間の接触熱抵抗を低減できるとともに、放熱グリースのポンプアウト現象を抑制できる。なお、放熱グリースの塗布には、例えば、自動ディスペンスやスクリーン印刷法が用いられる。
【0045】
以上の本発明の一実施形態の放熱シート積層体10及び構造体20ならびにその変形例10A,20Aは一つの形態に過ぎず、本発明の放熱シート積層体及び構造体を限定しない。
【実施例
【0046】
以下、本発明について、実施例及び比較例により、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0047】
実施例及び比較例の放熱シートに対して以下の評価を行った。
(放熱シートの厚さ)
シックネスゲージ(株式会社ミツトヨ製、型番:547-301)を用いて放熱シートの厚さを任意に10箇所測定し、その平均値をその放熱シートの厚さとした。
【0048】
(放熱シートの表面粗さ)
共焦点顕微鏡(株式会社キーエンス製、商品名「LT・9010M」)を用いて、計測長さ10,000μm、計測ピッチ10μm、計測速度500μmの条件で、JIS B0601:2013に準拠して放熱シートの表面粗さを測定した。
【0049】
(放熱グリースの面積比(S2/S1)の測定)
図3に示す面積比評価用治具100を用いてヒートサイクル試験を行い、放熱グリースの上記面積比(S2/S1)を調べた。まず、図3を参照して面積比評価用治具100を説明する。
【0050】
面積比評価用治具100は、放熱シート200を載置するアルミニウム板110、アルミニウム板110と組み合わせて放熱シート200及び放熱シートに滴下される放熱グリース300を挟む透明なガラス板120、ガラス板120を固定する透明な樹脂製のガラス板固定板130、ならびにアルミニウム板110とガラス板120との間を締め付けるために用いるボルト140及びナット150を含む。アルミニウム板110には、ボルト140のネジ部141を通すための穴111が設けられている。ガラス板固定板130には、ガラス板120を嵌合するための中空部131と、ボルト140のネジ部141を通すための穴132とが設けられている。なお、中空部131の深さは、ガラス板120の厚さよりも若干小さい。
【0051】
なお、アルミニウム板110には、材質A-5052のアルミニウム板を使用した。アルミニウム板110の大きさは180mm×100mm×10mmであった。また、ガラス板120の大きさは70mm×55mm×10mmであった。さらに、ガラス板固定板130には、塩ビ系樹脂を使用した。ガラス板固定板130の大きさは180mm×100mm×30mmmmであった。
【0052】
次に面積比の測定方法を説明する。ボルト140のネジ部141を通すための穴210が設けられた180mm×100mの大きさの放熱シート200をアルミニウム板110に載置した。そして、アルミニウム板110に載置した放熱シート110の上に放熱グリース300を3.2ml滴下した。放熱シート200における放熱グリース300を滴下する位置は、放熱グリース300の上に載置するガラス板120の中心に相当する位置であった。
【0053】
次に、ガラス板120を嵌め込んだガラス板固定板130を、放熱グリース300を滴下した放熱シート200の上に載置した。これにより、放熱グリース300は放熱シート200及びガラス板120により挟まれた。そして、アルミニウム板110の穴111、放熱シート200の穴210、及びガラス板固定板130の穴131にボルト140のネジ部141を挿入した後、ナット150を用いて、アルミニウム板110とガラス板120との間を締め付けた。アルミニウム板110とガラス板120との間の単位面積当たりの締め付け力は0.2MPaであった。図4に示すように、ガラス板120及びガラス板固定板130を通して放熱グリース300の広がり具合を見ることができた。そして、ガラス板120及びガラス板固定板130を通して放熱グリース300を撮影し、撮影した画像から広がった放熱グリース300の面積(S1)を測定した。なお、図4において、ガラス板120及び放熱シートの間に挟み込まれている放熱グリース300の面積が本発明の放熱シートにおける放熱グリースの面積(S1)に相当する。
【0054】
放熱シート200及び放熱グリース300を挟んだ面積比評価用治具100を水平にしてヒートサイクル試験を行った。-40℃の温度で30分保持及び125℃の温度で30分保持を1サイクルとして、100サイクルのヒートサイクル試験を行った。100サイクルのヒートサイクル試験を行った後の面積比評価用治具100について、ガラス板120及びガラス板固定板130を通して放熱グリース300を撮影し、撮影した画像から広がった放熱グリース300の面積(S2)を測定した。なお、図4において、100サイクルのヒートサイクル試験後のガラス板120及び放熱シートの間に挟み込まれている放熱グリース300の面積が本発明の放熱シートにおける放熱グリースの面積(S2)に相当する。そして、ヒートサイクル試験前の放熱グリースの面積(S1)に対する100サイクルのヒートサイクル試験後の放熱グリースの面積(S2)の面積比(S2/S1)を算出した。なお、面積比評価試験には以下の放熱グリースを使用した。
放熱グリース:デンカ株式会社製、商品名:GFC-PF3、10s-1のせん断速度における25℃の粘度:22Pa・s、ボンドライン厚さ:52μm、滴下した量:3.2ml
【0055】
(発熱素子を用いたヒートサイクル試験)
面積比評価用治具100において、ガラス板120及びガラス板固定板130の代わりにパワーモジュールアッセンブリ(PM-Assy)(株式会社東芝製、型番:TO-3P形状トランジスタ)を配置して、ヒートサイクル試験を行った。このヒートサイクル試験では、アルミニウム板(株式会社リョーサン製、型番:40CH104)に載置した放熱シートの上に放熱グリースを0.16ml滴下した。放熱シートにおける放熱グリースを滴下する位置は、放熱グリースの上に載置するPM-Assyの中心に相当する位置であった。そして、PM-Assyを、放熱グリースを滴下した放熱シートの上に載置した。これにより、放熱グリースは放熱シート及びPM-Assyにより挟まれた。そして、アルミニウム板の穴、放熱シートの穴、及びPM-Assyの穴にボルトのネジ部を挿入した後、ナットを用いて、アルミニウム板とPM-Assyとの間を締め付けた。アルミニウム板とPM-Assyとの間の単位面積当たりの締め付け力は1.0MPaであった。この段階では、PM-Assyと放熱シートとの間からの放熱グリースの流れ出しがないことを確認した後、PM-Assyを水平にしてヒートサイクル試験を行った。-40℃の温度で30分保持及び125℃の温度で30分保持を1サイクルとして、100サイクルのヒートサイクル試験を行った。そして、100サイクルのヒートサイクル試験の後、PM-Assyと放熱シートとの間からの放熱グリースの流れ出しの有無を確認した。
【0056】
実施例及び比較例の放熱シートは以下のようにして作製した。
[実施例1]
(六方晶窒化ホウ素の作製)
ホウ酸、メラミン、及び炭酸カルシウム(いずれも試薬特級)を、質量比70:50:5の割合で混合し、窒素ガス雰囲気中、室温から1400℃までを1時間で昇温し、1400℃で3時間保持してから1900℃までを4時間で昇温し、1900℃で2時間保持した後、室温まで冷却して六方晶窒化ホウ素を製造した。これを解砕した後、粉砕し、篩い分けして、塊状窒化ホウ素粒子を作製した。作製した塊状窒化ホウ素粒子の平均粒子径は50μmであった。
【0057】
(放熱シート用組成物の作製)
110gのシリコーン樹脂(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、型番:LR3303-20A)と110gのシリコーン樹脂(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、型番:LR3303-20B)に、650gの作製した塊状窒化ホウ素粒子を添加した後、固形分濃度が60wt%となるように粘度調整剤としてトルエンを添加し、タービン型撹拌翼を用いて攪拌機(HEIDON社製、商品名:スリーワンモーター)で15時間混合し、放熱シート用組成物を作製した。
【0058】
(放熱シート前駆体シートの作製)
上記の放熱シート用組成物をテフロン(登録商標)シート上にコンマコーターで片面当たり厚さ0.5mmに塗工し、75℃で5分乾燥させた。その後、平板プレス機(株式会社柳瀬製作所製)を用いて、温度120℃、圧力50kgf/cmの条件下で10分間のプレスを行い、厚さ0.30mmのシートを作製した。次いでそれを常圧、150℃の温度で4時間の二次加熱を行い、放熱シート前駆体シートを作製した。
【0059】
(放熱シート前駆体シートの粗面化処理)
第1の方向に延びる複数の第1の突条及び第1の方向とは異なる第2方向に延び、第1の溝と交差する複数の第2の突条を表面に備える転写用シートを用意した。なお、転写用シートにおける隣接する第1の突条の間の距離及び隣接する第2の突条の間の距離は1.0mmであった。また、第1の突条及び第2の突条の幅は10μmであった。さらに、第1の突条及び第2の突条の高さは20μmであった。また、第1の方向及び第2の方向のなす角度は90°であった。さらに、第1の突条及び第2の突条は直線状に延びる突条であった。また、第1の突条及び第2の突条の断面の形状は四角形であった。
【0060】
放熱シート前駆体シートの上に上記転写用シートを載置した後、平板プレス機(株式会社柳瀬製作所製)を用いて、温度165℃、圧力150kgf/cmの条件下で30分間のプレスを行い、放熱シート前駆体シートの表面に溝を形成して、実施例1の放熱シートを作製した。
【0061】
[実施例2]
放熱シート前駆体シートの表面に溝を形成するときの平板プレス機の圧力150kgf/cmから220kgf/cmに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の放熱シートを作製した。
【0062】
[実施例3]
放熱シート前駆体シートの表面に溝を形成するときの平板プレス機の圧力を150kgf/cmから50kgf/cmに変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の放熱シートを作製した。
【0063】
[実施例4]
放熱シート前駆体シート作成の際に、基材樹脂層としてのポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、商品名Kapton 100H、厚さ0.026mm)をテフロン(登録商標)シート上に配置した後、上記の放熱シート用組成物を、ポリイミドフィルム上にコンマコーターで厚さ0.2mm塗工し、75℃で5分乾燥させ、ポリイミドフィルムの片面に放熱シート用組成物を塗工した。次に、ポリイミドフィルムが上側になるようにひっくり返して、放熱シート用組成物をポリイミドフィルム上にコンマコーターで厚さ0.2mmに塗工し、75℃で5分乾燥させ、両面に放熱シート用組成物を塗工した放熱シート用組成物のシートを作製した。それ以外は、実施例1と同様にして、実施例4の放熱シートを作製した。
【0064】
[比較例1]
放熱シート前駆体シートの表面に溝を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の放熱シートを作製した。
【0065】
実施例1~3及び比較例1の放熱シートの評価結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
以上の評価結果から、面積比(S2/S1)が1.0~2.0である放熱シートを発熱素子の実装に用いるとポンプアウト現象が抑制されることがわかった。一方、上記面積比(S2/S1)が2.0よりも大きな放熱シートを発熱素子の実装に用いるとポンプアウト現象が著しく起こることがわかった。
また、JIS C2110に記載の方法に準拠し、実施例1及び実施例4の絶縁破壊電圧を、短時間破壊試験(室温:23℃)にて評価した。実施例4の方が、絶縁破壊電圧が3kV程高かった。
【符号の説明】
【0068】
1,200 放熱シート
10,10A 放熱シート積層体
11,11A,12,43,300 放熱グリース
20,20A 構造体
21 発熱素子
30 ヒートシンク
41 円柱状の測定用治具
42 円板状の測定用治具
100 面積比評価用治具
110 アルミニウム板
120 ガラス板
130 ガラス板固定板
140 ボルト
150 ナット

図1
図2
図3
図4
図5