(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】セパレータ、燃料電池及びセパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20240718BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20240718BHJP
H01M 8/021 20160101ALI20240718BHJP
H01M 8/0221 20160101ALI20240718BHJP
H01M 8/0247 20160101ALI20240718BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240718BHJP
H01M 8/247 20160101ALI20240718BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0206
H01M8/021
H01M8/0221
H01M8/0247
H01M8/10 101
H01M8/247
(21)【出願番号】P 2021558032
(86)(22)【出願日】2020-11-12
(86)【国際出願番号】 IB2020060656
(87)【国際公開番号】W WO2021099896
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2019209818
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020101107
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【氏名又は名称】大場 玲児
(72)【発明者】
【氏名】卜 同
(72)【発明者】
【氏名】上原 茂高
(72)【発明者】
【氏名】高椋 庄吾
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-071780(JP,A)
【文献】特開2012-209265(JP,A)
【文献】特開2011-071080(JP,A)
【文献】国際公開第2019/029769(WO,A1)
【文献】Haobing Wang et al.,Synthesis of Self-Healing Polymers by Scandium-Catalyzed Copolymerization of Ethylene and Anisylpropylenes,JOURNAL OF AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,AMERICAN CHEMICAL SOCIETY,2019年02月06日,Vol.141,pp.3249-3257
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の基板(41)と、前記基板(41)の表面の少なくとも一部を覆う保護層(42)と、を備える燃料電池用セパレータ(4)であって、
前記保護層(42)は、エチレンとアニシルプロピレンの共重合体からなる自己修復
性材料を含む、
セパレータ(4)。
【請求項2】
前記基板(41)の表面には、凹部(4a)が設けられ、
前記保護層(42)は、前記凹部(4a)の少なくとも一部に設けられる、
請求項1に記載のセパレータ(4)。
【請求項3】
複数の膜電極接合体(3)を含む燃料電池(100)であって、
前記膜電極接合体(3)の両側に配置され、前記膜電極接合体(3)側の表面に凹部(4a)が設けられた1対のセパレータ(4)を備え、
前記セパレータ(4)は、導電性の基板(41)と、前記基板(41)の表面の少なくとも一部に設けられた保護層(42)と、を備え、
前記保護層(42)は、エチレンとアニシルプロピレンの共重合体からなる自己修復
性材料を含む、
燃料電池(100)。
【請求項4】
前記自己修復性材料は、水分子が存在し、外部から自己修復のための作用が入力されない場合でも自己修復性を有する、
請求項3に記載の燃料電池(100)。
【請求項5】
前記燃料電池(100)が備える部材により締め付けられ、前記自己修復性材料同士が接触し、結合する、
請求項3又は4に記載の燃料電池(100)。
【請求項6】
導電性の基板(41)と、前記基板(41)の表面の少なくとも一部に設けられた保護層(42)と、を備える燃料電池用セパレータ(4)の製造方法であって、
前記基板(41)の少なくとも一部の表面上に保護層(42)を形成するステップと、
前記保護層(42)が形成された前記基板(41)を成形加工するステップと、を含み、
前記保護層(42)は、エチレンとアニシルプロピレンの共重合体からなる自己修復
性材料を含む、
セパレータ(4)の製造方法。
【請求項7】
前記基板(41)のロールが巻き出されて、搬送され、
前記保護層(42)を形成するステップは、前記搬送される基板(41)に前記保護層(42)を形成し、
前記成形加工するステップは、前記搬送される基板(41)に前記成形加工を行う、
請求項6に記載のセパレータ(4)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セパレータ、燃料電池及びセパレータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、一般的に、燃料ガスを化学反応させて発電する膜電極接合体と、その両側に配置された1対のセパレータとを備える。膜電極接合体と接するセパレータの表面には、燃料ガスの流路を形成する凹部がプレス加工等によって設けられる。
【0003】
燃料電池の使用環境下では、金属製のセパレータの表面に腐食による酸化膜が形成されることがある。酸化膜は、電極との接触抵抗を高め、セパレータの集電性能を低下させやすい。そのため、導電性フィラーを含む樹脂層によりセパレータの表面を被覆して、セパレータの耐食性を高めることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂層の形成後にカット加工及びプレス加工等の加工成形を行うと、樹脂層の内部にピンホールやボイド、クラック等の欠陥が発生しやすい。このような樹脂層中の欠陥を修復するには、上記特許文献1のように樹脂層中の樹脂を溶融させる加熱処理が必要であり、製造コストがかかる。
【0006】
一方、加工成形後に樹脂層を形成すれば、加工成形による欠陥は発生しない。しかし、製造時に欠陥を修復するか、欠陥の発生を回避できたとしても、樹脂層自体が脆いため、製造後にクラック等の欠陥が生じて腐食が生じる可能性がある。基板自体に欠陥が生じることもあり、この場合は基板及び樹脂層の欠陥部分から燃料ガスが外部へ漏れる可能性がある。
【0007】
金属製ではなく、カーボン製のセパレータにおいても、製造時又は製造後に欠陥が生じることがある。
【0008】
本発明は、耐食性及び燃料ガスの封止性に優れたセパレータの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、導電性の基板(41)と、前記基板(41)の表面の少なくとも一部を覆う保護層(42)と、を備える燃料電池用セパレータ(4)であって、前記保護層(42)は、自己修復性材料を含む。
【0010】
本発明の他の一態様は、導電性の燃料電池用セパレータ(4C)であって、内部に自己修復性材料を含む。
【0011】
本発明の他の一態様は、複数の膜電極接合体(3)を含む燃料電池(100)であって、前記膜電極接合体(3)の両側に配置され、前記膜電極接合体(3)側の表面に凹部(4a)が設けられた1対のセパレータ(4)を備え、前記セパレータ(4)は、導電性の基板(41)と、前記基板(41)の表面の少なくとも一部に設けられた保護層(42)と、を備え、前記保護層(42)は、自己修復性材料を含む。
【0012】
本発明の他の一態様は、複数の膜電極接合体(3)を含む燃料電池(100)であって、前記膜電極接合体(3)の両側に配置され、前記膜電極接合体(3)側の表面に凹部(4a)が設けられた1対のセパレータ(4C)を備え、前記セパレータ(4C)は、内部に自己修復性材料を含む。
【0013】
本発明の他の一態様は、導電性の基板(41)と、前記基板(41)の表面の少なくとも一部に設けられた保護層(42)と、を備える燃料電池用セパレータ(4)の製造方法であって、前記基板(41)の少なくとも一部の表面上に保護層(42)を形成するステップと、前記保護層(42)が形成された前記基板(41)を成形加工するステップと、を含み、前記保護層(42)は、自己修復性材料を含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐食性及び燃料ガスの封止性に優れたセパレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態の燃料電池の構成を示す断面図である。
【
図3】第1実施形態におけるセパレータの構成を示す拡大断面図である。
【
図4】セパレータの製造過程を模式的に示す図である。
【
図5】第2実施形態におけるセルの構成を示す断面図である。
【
図6】カーボン製セパレータの製造過程を示す側面図である。
【
図7】カーボン製セパレータの製造過程を示す側面図である。
【
図8】カーボン製セパレータの凹部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のセパレータ、燃料電池及びセパレータの製造方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。以下に説明する構成は、本発明の一例(代表例)であり、これに限定されない。
【0017】
〔第1実施形態〕
(燃料電池)
図1は、本実施形態の燃料電池100の構成を示す。
本実施形態の燃料電池は、例えば車両等の移動体に搭載され、燃料ガスを化学反応させて発電することにより移動体の駆動電力を供給するが、移動体に限らず、定置発電システム等の燃料電池にも本発明を適用できる。
【0018】
図1に示すように、燃料電池100は、スタックされた複数のセル10と、各セル10のスタック方向の両側にそれぞれ配置された1対の集電体プレート11、1対の絶縁体プレート12及び1対のエンドプレート13とを備える。また、燃料電池100は、少なくとも一方側のエンドプレート13に取り付けられるガス管14を備える。ガス管14は図示しないマニホールドに連通する。
【0019】
セル10、ガス管14側の集電体プレート11、絶縁体プレート12及びエンドプレート13には、ガス管14に連通し、セル10のスタック方向に貫通する4つの貫通孔P1~P4が設けられる。これらの貫通孔P1~P4を通じて、燃料ガスの供給と排出が行われる。
【0020】
燃料電池100は、集電体プレート11、絶縁体プレート12、エンドプレート13及びガス管14の各部材間に、シール材15を備える。シール材15は、例えば貫通孔P1~P4の外側を囲むOリングであり、エラストマー材料を含んで構成される。シール材15が隣接する各部材に接触して貫通孔P1~P4の外周を封止することにより、貫通孔P1~P4からのガス漏れを抑えることができる。
【0021】
1対のエンドプレート13はボルトとナット等の締め付け部材により締め付けられ、燃料電池100にはエンドプレート13により挟まれる燃料電池100の各部材のスタック方向に締め付け力が作用する。この締め付け力により、エンドプレート13間の各部材のスタック構造が固定されるとともに、燃料ガスが燃料電池100内に封止される。
【0022】
図2は、セル10の構成を示す。
セル10は、膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)3と、MEA3の両側に配置された1対のセパレータ4と、MEA3の外周縁を囲むサブガスケット5と、を備える。MEA3は、電解質膜1及び1対の電極2を備える。1対の電極2は電解質膜1を挟持する。
【0023】
電解質膜1は、イオン伝導性の高分子電解質の膜である。電解質膜1に使用できる高分子電解質としては、例えばナフィオン(登録商標)、アクイヴィオン(登録商標)等のパーフルオロスルホン酸ポリマー;スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(SPEEK)、スルホン化ポリイミド等の芳香族系ポリマー;ポリビニルスルホン酸、ポリビニルリン酸等の脂肪族系ポリマー等が挙げられる。
【0024】
電解質膜1は、耐久性向上の観点から、多孔質基材1aに高分子電解質を含浸させた複合膜であることができる。多孔質基材1aとしては、高分子電解質を担持できる空隙を有するのであれば特に限定されず、多孔質状、織布状、不織布状、フィブリル状等の膜を用いることができる。多孔質基材1aの材料としても特に限定されないが、イオン伝導性を高める観点から、上述したような高分子電解質を用いることができる。なかでも、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、及びポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素系ポリマーは、強度及び形状安定性に優れる。
【0025】
1対の電極2のうち、一方の電極2はアノードであり、燃料極とも呼ばれる。他方の電極2はカソードであり、空気極とも呼ばれる。燃料ガスとして、アノードには水素ガスが供給され、カソードには酸素ガスを含む空気が供給される。
【0026】
アノードでは、水素ガス(H2)から電子(e-)とプロトン(H+)を生成する反応が生じる。電子は、図示しない外部回路を経由してカソードへ移動する。この電子の移動により外部回路では電流が発生する。プロトンは電解質膜1を経由してカソードへ移動する。
【0027】
カソードでは、外部回路から移動してきた電子により、酸素ガス(O2)から酸素イオン(O2
-)が生成される。酸素イオンは、電解質膜1から移動してきたプロトン(2H+)と結合して、水(H2O)になる。
【0028】
電極2は、触媒層21を備える。本実施形態の電極2は、燃料ガスの拡散性向上のため、ガス拡散層22を備える。ガス拡散層22は、触媒層21のセパレータ4側に配置される。
【0029】
触媒層21は、触媒によって水素ガス及び酸素ガスの反応を促進する。触媒層21は、触媒と、触媒を担持する担体及びこれらを被覆するアイオノマーを含む。
触媒としては、例えば白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、タングステン(W)等の金属、これら金属の混合物、合金等が挙げられる。なかでも、触媒活性、一酸化炭素に対する耐被毒性、耐熱性等の観点から、白金、白金を含む混合物、合金等が好ましい。
【0030】
担体としてはメソポーラスカーボン、Ptブラック等の細孔を有する導電性の多孔性金属化合物が挙げられる。分散性が良好で表面積が大きく、触媒の担持量が多い場合でも高温での粒子成長が少ない観点からは、メソポーラスカーボンが好ましい。
アイオノマーとしては、電解質膜1と同様のイオン伝導性の高分子電解質を使用することができる。
【0031】
ガス拡散層22は、セル10に供給された燃料ガスを触媒層21の全面に均一に拡散させることができる。
ガス拡散層22は、MEA3の最表層としてガス拡散層用シートを配置することで形成できる。ガス拡散層用シートとしては、例えば導電性、ガス透過性及びガス拡散性を有するカーボン繊維等の多孔性繊維シートの他、発泡金属、エキスパンドメタル等の金属製のシート材等が挙げられる。
【0032】
サブガスケット5は、MEA3の外周縁を囲むフィルム又はプレートであり、MEA3の支持体として機能する。サブガスケット5の材料としては、導電性が低い樹脂を用いることができる。樹脂材料としては特に限定されず、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS)、ガラス入りポリプロピレン(PP-G)、ポリスチレン(PS)、シリコーン樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。
【0033】
(セパレータ)
セパレータ4はバイポーラプレートとも呼ばれる。セパレータ4の表面には、貫通孔P1~P4に連通する複数の凹部4aが設けられる。セパレータ4の凹部4aが設けられた面がMEA3と対面したとき、セパレータ4とMEA3との間に流体の流路が設けられる。流路は、燃料ガスの供給路であるだけでなく、発電時に化学反応により生成された水の排出路でもある。燃料電池100の冷却に冷却水が使用される場合、流路は冷却水の通路としても使用される。
【0034】
図3は、セパレータ4の層構造を示す拡大断面図である。
図3に示すように、セパレータ4は、導電性の基板41と保護層42とを備える。
【0035】
第1実施形態において、基板41は、導電性材料、例えばステンレス鋼、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、鋼等の金属により構成される。
【0036】
基板41は、耐食性、保護層42との密着性の観点から、金属メッキ処理により表面に形成されたメッキ層を備えてもよい。金属メッキとしては、例えば錫メッキ、ニッケルメッキ又はこれらの複層化メッキ、合金化メッキ等が挙げられる。また、基板41は、保護層42との密着性の観点から、リン酸塩処理等により表面に形成されたエッチング層、研磨層等を備えてもよい。
【0037】
基板41の厚さは、特に限定されないが、成形性と軽量化の両立の観点から、0.05~0.5mmとすることができる。
【0038】
(保護層)
保護層42は、基板41の表面に設けられて表面の酸化を抑え、基板41の耐食性を高める。また、保護層42は、基板41のクラック等の欠陥を塞ぎ、燃料ガスの外部への漏洩を減らすことができる。
【0039】
(自己修復性材料)
保護層42は、自己修復性材料を含む。自己修復性とは、保護層42のような自己修復性材料を含む成形体が損傷した場合でも切断部位を再結合して回復する機能をいう。再結合は、例えば共有結合、水素結合、イオン結合又は配位結合であってもよいし、静電相互作用、疎水性相互作用、π電子相互作用又はこれら以外の分子間相互作用による結合であってもよい。
【0040】
セパレータ4は、凹部4aを形成するためのプレス加工、貫通孔P1~P4を形成するためのホール加工等の加工成形によって製造されるが、加工成形時には基板41への圧縮応力又は塑性変形に伴う局所的な引張応力の作用等により、保護層42中にピンホールやボイド、クラック等の欠陥が生じることがある。また、上記加工成形によって基板41の内部又は表面にクラックやボイド等の欠陥が発生することがある。
【0041】
このように製造時又は製造後に欠陥が生じた場合でも、保護層42中の自己修復性材料同士が再結合して欠陥部分を修復するため、セパレータ4の耐食性及び燃料ガスの封止性を長く維持することができ、燃料電池100の信頼性が向上する。
【0042】
上記加工成形に起因する欠陥を修復できるため、加工成形後に保護層42を形成して加工成形による欠陥の発生を避ける必要もなく、保護層42の形成は成形加工の前後どちらでもよいため、製造工程の自由度が向上する。保護層42の形成後に加工成形する場合は、生産効率が高いロール・トゥ・ロール方式を採用できる。
【0043】
また、自己修復性材料によれば、加工成形により生じた欠陥の修復のために、保護層42中の樹脂成分を溶融させる加熱処理も不要である。加熱処理の工程を減らすことができ、製造コストを下げることができる。
【0044】
自己修復性材料としては、ポリマー等の有機材料、セラミックス、金属等の無機材料があり、公知の材料を使用できる。公知の有機材料としては、例えばガラス転移温度が150℃以上である硬質ポリマーからなるハードセグメントと、ガラス転移温度が-30℃以下である軟質ポリマーからなるソフトセグメントと、を有し、一定量のジスルフィド結合を有するマルチブロック共重合体(特開2018-39876参照)、ホスト基及びゲスト基との相互作用によって架橋された架橋重合体を含む高分子材料(国際公開第2017/159346号参照)、スカンジウム触媒を使用したエチレンとアニシルプロピレンの共重合体(「Synthesis of Self-Healing Polymers by Scandium-Catalyzed Copolymerization of Ethylene and Anisylpropylenes」、Haobing Wang 外5名、J.Am.Chem.Soc.、American Chemical Society、2019年、141、p.3249-3257参照)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0045】
また、公知の無機材料としては、例えば金属チタンを分散したアルミナセラミックス基複合材料(Electrochemically Assisted Room‐Temperature Crack Healing of Ceramic‐Based Composites,Shengfang Shi,Tomoyo Goto,Sung Hun Cho,Tohru Sekino,J.Am.Ceram.Soc.,Journal of the American Ceramic Society(2019年1月9日オンライン)、https://doi.org/10.1111/jace.16264参照)等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
なかでも、自己修復性材料は、水分子が存在し、外部から自己修復のための作用が入力されない場合でも、自己修復性を有する材料であることが好ましい。
燃料電池100用のセパレータ4は、発電時に水素ガスが供給され、水が生じる環境下にあるが、上記自己修復性材料によればこのような環境下でも自己修復が可能である。また、燃料電池100自体による作用以外の作用、例えば赤外線、紫外線等の照射、加温又は加圧等のエネルギーを付与する作用が燃料電池100の外部から入力されない場合でも上記自己修復性材料であれば、燃料電池100内に配置されたセパレータ4に自己修復のための作用を加える必要がない。よって、燃料電池100とは別に燃料電池100の外部から作用を加えるための装置や作業を省略できる。
【0047】
また、自己修復性材料は、当該自己修復性材料同士の接触により結合し、修復することが好ましい。上述のように燃料電池100は締め付け部材で燃料電池100の各部材のスタック方向に締め付けられるため、セパレータ4もスタック方向に締め付けられる。そのため、走行時の車両の揺れや発電時の電解質膜1の熱膨張、湿潤膨張等によってセパレータ4を挟む両側の部材により保護層42が押しつぶされやすい。押しつぶされた保護層42は面内方向に広がるため、保護層42中の自己修復性材料同士の接触が起こりやすく、燃料電池100の外部からの作用が入力されない場合でも自然発生的な自己修復が容易となる。
【0048】
なお、保護層42を締め付ける締め付け部材は、セル10のスタックを固定する固定部材であってもよいし、締め付けられる方向はスタック方向ではなく、セル10の面内方向であってもよい。また、燃料電池100の各部材の固定のための締め付け部材とは別に設けられる締め付け部材によって、自己修復性材料の接触を促すための締め付け力を保護層42に付与するようにしてもよい。
【0049】
水分子が存在し、外部からの作用が入力されない場合でも接触により結合する自己修復性材料としては、例えば上記エチレンとアニシルプロピレンの共重合体が挙げられる。上記エチレンとアニシルプロピレンの共重合体は、水中でも、1MのNaOH又は1MのHClの存在下でも、乾燥条件下と同様の自己修復性を示すことが確認されている。また、上記エチレンとアニシルプロピレンの共重合体の自己修復は紫外線の照射等の外部からの作用を必要とせず、切断部位の接触によって自然発生することも確認されている。
【0050】
本実施形態の保護層42は、基板41の両面に設けられて表面全体を覆うが、保護層42は、基板41の表面の少なくとも一部に設けられていればよい。
【0051】
特に、保護層42は、凹部4aの少なくとも一部に設けられることが好ましい。凹部4aは欠陥が生じやすいため、保護層42中の自己修復性材料による欠陥の修復がセパレータ4の耐食性及び燃料ガスの封止性の維持に大きく貢献する。
【0052】
(導電性フィラー)
保護層42は、さらに導電性フィラーを含むことが好ましい。導電性フィラーにより、セパレータ4の導電性の低下を抑えることができる。
導電性フィラーとしては、例えばカーボン、金属炭化物、金属酸化物、金属窒化物、金属繊維及び金属粉末等が挙げられる。
【0053】
カーボンとしては、例えば黒鉛、カーボンブラック、カーボン繊維、カーボンナノファイバー、及びカーボンナノチューブ等が挙げられる。金属炭化物としては、例えばタングステンカーバイト、シリコンカーバイト、炭化カルシウム、炭化ジルコニウム、炭化タンタル、炭化チタン、炭化ニオブ、及び炭化モリブデン等が挙げられる。
【0054】
例えば、金属酸化物としては、酸化チタン、酸化ルテニウム、及び酸化インジウム等が挙げられ、金属窒化物としては窒化クロム、窒化アルミニウム、窒化モリブデン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル、窒化チタン、窒化ガリウム、窒化ニオブ、窒化バナジウム、及び窒化ホウ素等が挙げられる。金属繊維としては、例えば鉄繊維、銅繊維、及びステンレス繊維等が挙げられる。金属粉末としては、例えばニッケル粉、錫紛、タンタル紛、及びニオブ粉等が挙げられる。
上記導電性フィラーのなかでは、カーボンが導電性及び耐食性に優れ、好ましい。
【0055】
保護層42中の導電性フィラーの含有量は、5~99体積%とすることができる。この範囲内であれば、導電性及び成形性が良好となりやすい。
【0056】
保護層42の厚みは、10~200μmが好ましい。この範囲内であれば、十分な耐食性が得られやすく、燃料電池100のコンパクト化も容易である。
【0057】
(セパレータの製造方法)
上記セパレータ4の製造方法は、基板41の少なくとも一部の表面上に保護層42を形成するステップと、保護層42が形成された基板41を成形加工するステップと、を含む。成形加工としては、例えばプレス加工、ホール加工、及びカット加工等が挙げられる。
【0058】
各ステップの順番は特に限定されないが、保護層42の形成後に加工成形する場合、ロール・トゥ・ロール方式による製造が可能であり、生産効率が高いため、好ましい。上述のように、保護層42の形成が先の場合、加工成形が先の場合に比べて保護層42中に欠陥が生じやすい。しかし、このような欠陥も自己修復性材料によって修復されるため、セパレータ4の耐食性及び燃料ガスの封止性を長く継続することができる。
【0059】
図4は、ロール・トゥ・ロール方式によるセパレータ4の製造過程を示す。
図4に示すように、基板41のロールがアンワインダー61により巻き出されて、ローラー62により搬送される。搬送された基板41は、前処理装置63において洗浄及び乾燥等の前処理が施される。
【0060】
前処理後の基板41はさらにコート装置64に搬送される。コート装置64においては、自己修復性材料及び導電性フィラーを含む保護層42の形成用のインクが基板41上にコートされ、乾燥されて、保護層42が形成される。インクは、必要に応じて溶媒、分散剤等を含有してもよい。
【0061】
保護層42が形成された基板41は加工装置65に搬送され、加工装置65において成形加工される。例えば、基板41はプレス加工され、基板41の表面に凹部4aが設けられる。また、基板41がホール加工され、貫通孔P1~P4が設けられる。最後に、基板41が所定のサイズにカット加工され、セパレータ4が製造される。
【0062】
上記ロール・トゥ・ロール方式によれば、連続的な生産が可能であり、生産効率が高いとともに、保護層42を形成する面積を大きくしやすい。
なお、
図4はすべての工程を連続工程としたが、これに限定されない。例えば、保護層42が形成された基板41を巻き取る工程と、この巻き取られた基板41を巻き出して一定間隔で搬送する順送により加工成形する工程と、に分けられていてもよい。
【0063】
(燃料電池の製造方法)
燃料電池100は、MEA3の両側に1対のセパレータ4を配置することにより製造される。MEA3は、例えば電解質膜1の両側に触媒層21の材料を含むインクをコートして乾燥し、この触媒層21にガス拡散層用シートを貼り合わせてガス拡散層22を形成することにより、得られる。
【0064】
以上のように、第1実施形態の燃料電池100は、基板41の表面の少なくとも一部に自己修復性材料を含む保護層42が設けられたセパレータ4を備える。保護層42に欠陥が生じても修復されるため、製造時だけでなく製造後も保護層42の欠陥が少なく、耐食性及び燃料ガスの封止性に優れたセパレータ4を提供できる。また、保護層42の欠陥の修復のための加熱処理等の工程を必要とせず、バッチ方式だけでなく、ロール・トゥ・ロール方式による製造も可能となるため、セパレータ4の生産効率を高めることもできる。
【0065】
〔第2実施形態〕
図5は、第2実施形態の燃料電池におけるセル10Cの構成を示す。
セル10Cは、第1実施形態におけるセパレータ4の代わりに、導電性のカーボン製セパレータ4Cを備える。セパレータ4C以外のセル10Cの構成は、第1実施形態のセル10と同じである。同じ構成には同じ符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0066】
カーボン製セパレータ4Cの表面には、金属製セパレータ4と同様に、凹部4aが設けられる。カーボン製セパレータ4Cは、モールド成形により製造され得る。
【0067】
図6及び
図7は、モールド成形によるカーボン製セパレータ4Cの製造過程を示す。
図6に示すように、まず下側のモールド50にセパレータ材料40が流し込まれる。セパレータ材料40は、カーボン及び樹脂を含む組成物である。次いで、
図7に示すように、セパレータ材料40は上側のモールド50によって熱プレスされ、表面に複数の凹部4aが設けられたセパレータ4Cが製造される。
【0068】
上記製造過程において加圧及び加熱されるセパレータ4Cの表面又は内部には、欠陥が発生することがある。特に厚みが変化する凹部4aにおいて欠陥が生じやすい。
図8は、凹部4aに生じた欠陥の例を示す。
図8に示すように、凹部4aの角においてヒケ(Sink Marks)と呼ばれる窪み71が生じている。また、内部にはクラック72が生じている。このような欠陥が開始点となって、製造後に搭載された車両の振動や流路における差圧、締め付け力の偏差等により欠陥が成長することがある。
【0069】
カーボン製セパレータ4Cは、その内部に自己修復性材料を含む。自己修復性材料は、上述した金属製セパレータ4と同じ材料であるので、詳細な説明を省略する。製造時又は製造後に欠陥が生じた場合でも、自己修復性材料を含むセパレータ4Cは、外部からの作用がなくとも、自己修復性材料同士が再結合して欠陥部分を修復する。そのため、セパレータ4Cの耐食性及び燃料ガスの封止性を長く維持することができ、燃料電池100の信頼性が向上する。なお、セパレータ4Cも、セパレータ4と同様に、締め付け力が作用する。締め付け力により接触が起こりやすく、自己修復しやすい。
【0070】
内部に自己修復性材料を含むセパレータ4Cは、上述したカーボンと樹脂の組成物中に自己修復性材料を混合してモールド成形することにより得ることができる。成形後のセパレータ4Cの表面に自己修復性材料を塗工することによって、表面が自己修復性材料により覆われたセパレータ4Cを得ることもできる。
【0071】
以上のように、第2実施形態によれば、カーボン製のセパレータ4Cが内部に自己修復性材料を含む。セパレータ4Cに欠陥が生じても修復されるため、製造時だけでなく製造後もセパレータ4Cの欠陥が少なく、耐食性及び燃料ガスの封止性に優れたセパレータ4Cを提供できる。
【0072】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、その発明の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0073】
100・・・燃料電池、1・・・電解質膜、2・・・電極、3・・・MEA、4・・・金属製セパレータ、41・・・基板、42・・・保護層、4C・・・カーボン製セパレータ