(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】術後補助療法剤
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20240718BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20240718BHJP
A61K 47/65 20170101ALI20240718BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20240718BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
A61K39/00 Z ZNA
A61K47/64
A61K47/65
A61P35/00
A61P35/04
A61P37/04
(21)【出願番号】P 2021567660
(86)(22)【出願日】2020-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2020048667
(87)【国際公開番号】W WO2021132550
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-24
(31)【優先権主張番号】P 2019236947
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000207827
【氏名又は名称】大鵬薬品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 理沙
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/060235(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/136814(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61K 47/64
A61K 47/65
A61P 35/00
A61P 35/04
A61P 37/04
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンカーを介して連結された4個のCTLエピトープペプチドを含む1種以上のCTLエピトープ4連結ペプチドを有効成分として含有することを特徴とする腫瘍の術後補助療法剤であって、
該CTLエピトープ4連結ペプチドの1種が、配列番号4で表されるエピトープペプチド(PEP4)、配列番号5で表されるエピトープペプチド(PEP5)、配列番号6で表されるエピトープペプチド(PEP6)、及び配列番号9で表されるエピトープペプチド(PEP9)が
リンカーを介して以下の連結順序:
PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP4
(式中「(L)」はリンカーを示す。)
で連結されてな
るCTLエピトープ4連結ペプチドである、上記腫瘍の術後補助療法剤。
【請求項2】
リンカーがアミノ酸リンカーである、請求項
1に記載の腫瘍の術後補助療法剤。
【請求項3】
アミノ酸リンカーが、アルギニンを2個連結したアルギニンダイマー、又はアルギニンを3個連結したアルギニントリマーである、請求項
2に記載の腫瘍の術後補助療法剤。
【請求項4】
CTLエピトープ4連結ペプチドの1種が配列番号24で表されるCTLエピトープ4連結ペプチド
である、請求項1に記載の腫瘍の術後補助療法剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HLA-A拘束性にCTL誘導能を有するペプチドを4つ連結してなるCTLエピトープ4連結ペプチドを用いた腫瘍の術後補助療法剤に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは日本人の死亡原因の第1位を占め年間約35万人が死亡しており、今なお重篤な疾患である。確立されているがん治療法には主に手術療法、抗がん剤治療、放射線療法、およびがん免疫療法がある。進行度(ステージ)の低い早期がんの場合は、全てのがん細胞を取り去る根治的手術療法により高い治療成績が期待される。一方で、進行度の高いがんに対する根治的手術には限界があり、決して低くない頻度で局所再発や遠隔転移が起こることが報告されている。局所再発や遠隔転移が起こる原因は種々考えられているが、主に手術で肉眼には見えない小さな癌細胞を取り残したことや、既にがん細胞の一部が血行性転移やリンパ行性転移を起こしており、微細な腫瘍が別の臓器で増殖を始めていたことが原因と考えられている。
【0003】
特に遠隔転移による再発の場合、がん細胞は全身に散らばっていると考えられ、手術により全てのがん細胞を取り去ることが非常に困難である。したがって、遠隔転移したがんの治療法として、種々の化学療法、放射線療法、ならびに近年ではがん免疫療法が確立されてきた。これらの治療法は、分子レベル、細胞レベルでがん細胞を殺傷する作用機序が付与されているため、理論的には全身に分布したがん細胞を全て治療することが可能である。しかし、残念なことにかかる療法をもってしても最終的に全ての治療法が無効となり死に至るケースが大半であり、がん治療の大きな問題となっている。したがって、再発・転移がんの新規治療法の開発はがん制圧のための至上命題である。
【0004】
別の見方をすれば、重篤な転帰をもたらす可能性が高い遠隔転移を防げば、根治的手術の成功確率を高め、がん患者の転帰を大幅に改善できると考えられる。このような手術療法による目視できないがん細胞や微小な転移がん細胞を根絶させ、がんの再発や転移を予防する目的で実施される治療を、術後補助療法という。
【0005】
たとえば、本邦ではテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤は治癒手術を受けたStageII(ただし、T1を除く)、IIIA又はIIIBの胃がんの術後補助療法として治療法が確立されており、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤投与群は手術単独群と比較して死亡リスクを32%低減させることが知られている(非特許文献1)。その他にも、肺癌、乳癌、大腸癌、子宮癌、悪性黒色腫等のがんにおいても、それぞれ術後補助療法が実施される。しかしながら、前述の例のように術後補助療法を行っても再発や遠隔転移を防げないケースは多く、治療成績を改善するための新規術後補助療法薬が求められている。
【0006】
近年は術後補助療法として化学療法を行う術後補助化学療法に加え、術後補助療法としてがん免疫療法を行う臨床試験も進められている。がん免疫療法は、がん細胞を直接殺傷できる免疫細胞、たとえば細胞傷害性Tリンパ球(CTL)やナチュラルキラー(NK)細胞等を誘導、移植、または活性化等させることでがん細胞を根絶する作用機序をもつ。従って、がん免疫療法は化学療法同様に目視できない微細な腫瘍やがん細胞に対し、全身で抗腫瘍効果を示しうる。
【0007】
がん免疫療法の一つであるがんペプチドワクチン療法は、長い間がんの新たな治療法として待望されている治療法である。がんペプチドワクチン療法では、がん細胞表面において抗原ペプチドを提示する主要組織適合遺伝子複合体(MHC)を、エピトープ特異的細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の細胞受容体(TCR)が認識し、CTLががん細胞を傷害することで効果を発揮する。
【0008】
ヒトにおけるMHCはヒト白血球抗原(HLA)と呼ばれ、HLAの型は非常に多型性を示すことが知られている。そのため、特定のHLA型を対象としたがんペプチドワクチンの開発が実施されてきた。しかしながら、がんワクチンの対象となるHLA型は限定的であり、対象外のHLA型を有する患者はがんペプチドワクチンの恩恵を受けることができない問題点がある。さらには治療開始前にHLA型検査を要すことが、治療の開始時期を遅延させ、患者負担を増大させる一因となっている。以上より、HLA型検査を必要とせず、全てのがん患者に適応可能ながんペプチドワクチンの開発・研究が望まれていた。
【0009】
この課題を解決するために、HLA-A2、HLA-A24、HLA-A26若しくはHLA-A3スーパータイプのいずれか1つ又は複数のHLA型にCTL誘導能を示す様々なCTLエピトープペプチドを連結したCTLエピトープ4連結ペプチドが報告されている(特許文献1)。
【0010】
しかしながら、CTLエピトープ4連結ペプチドが術後補助療法として効果を発揮するか否かについては、これまでには示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【文献】N Engl J Med.,357:1810-20(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、顕著に優れた腫瘍の転移・再発抑制効果を示し、副作用の少ない腫瘍の術後補助療法剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そこで本発明者は、腫瘍の転移・再発の動物モデルにCTLエピトープ4連結ペプチドを投与し、腫瘍の転移・再発の抑制効果を検討したところ、重篤な副作用を発症させることなく、肺転移結節数が顕著に抑制されることを見出した。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の発明〔1〕~〔11〕を提供するものである。
〔1〕リンカーを介して連結された4個のCTLエピトープペプチドを含むCTLエピトープ4連結ペプチドを有効成分として含有することを特徴とする腫瘍の術後補助療法剤であって、
該CTLエピトープ4連結ペプチドが、
配列番号5で表されるエピトープペプチド(PEP5)と、
配列番号1で表されるエピトープペプチド(PEP1)、配列番号2で表されるエピトープペプチド(PEP2)、配列番号4で表されるエピトープペプチド(PEP4)、配列番号6で表されるエピトープペプチド(PEP6)、配列番号7で表されるエピトープペプチド(PEP7)、配列番号8で表されるエピトープペプチド(PEP8)、配列番号9で表されるエピトープペプチド(PEP9)、配列番号10で表されるエピトープペプチド(PEP10)、配列番号13で表されるエピトープペプチド(PEP13)、配列番号15で表されるエピトープペプチド(PEP15)、配列番号17で表されるエピトープペプチド(PEP17)及び配列番号18で表されるエピトープペプチド(PEP18)からなる群より選択される3個のエピトープペプチドが、
リンカーを介してそれぞれ連結されてなり、親水性アミノ酸からなるペプチド配列を更に有してもよい、CTLエピトープ4連結ペプチドであって、以下の(1)~(3)より選択されるいずれか一つの特徴:
(1)C末端がPEP2である(ただし、N末端にPEP7及びPEP8をN末端側からリンカーを介して隣り合ってこの順で含むものを除く);
(2)C末端がPEP4である;
(3)C末端がPEP10である;
を有する、上記腫瘍の術後補助療法剤。
〔2〕上記CTLエピトープ4連結ペプチドに含まれるエピトープペプチドが、
PEP5、
PEP6、
PEP9、及び
PEP2、PEP4及びPEP10からなる群より選択される1個のエピトープペプチド、
から構成され、上記CTLエピトープ4連結ペプチドのC末端がPEP2、PEP4又はPEP10である、〔1〕に記載の腫瘍の術後補助療法剤。
〔3〕CTLエピトープ4連結ペプチドが、以下より選択される配列からなる、〔1〕又は〔2〕に記載の腫瘍の術後補助療法剤:
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP4;
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP2;又は、
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP10;
なお、式中「(L)」はリンカーを示す。
〔4〕CTLエピトープ4連結ペプチドが、以下の配列からなる、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の腫瘍の術後補助療法剤:
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP4
なお、式中「(L)」はリンカーを示す。
〔5〕リンカーがアミノ酸リンカーである、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の腫瘍の術後補助療法剤。
〔6〕アミノ酸リンカーが、アルギニンを2個連結したアルギニンダイマー、又はアルギニンを3個連結したアルギニントリマーである、〔5〕に記載の腫瘍の術後補助療法剤。
〔7〕親水性アミノ酸からなるペプチド配列が、N末端に連結され、かつアルギニンを3個連結したアルギニントリマー、又はアルギニンを4個連結したアルギニンテトラマーからなる、〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の腫瘍の術後補助療法剤。
〔8〕CTLエピトープ4連結ペプチドが、配列番号24、配列番号25、又は配列番号26である、〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の腫瘍の術後補助療法剤。
〔9〕CTLエピトープ4連結ペプチドが、配列番号24である、〔1〕~〔8〕のいずれかに記載の腫瘍の術後補助療法剤。
〔10〕リンカーを介して連結された4個のCTLエピトープペプチドを含むCTLエピトープ4連結ペプチドを有効成分として含有することを特徴とする腫瘍の転移抑制剤であって、
該CTLエピトープ4連結ペプチドが、
配列番号5で表されるエピトープペプチド(PEP5)と、
配列番号1で表されるエピトープペプチド(PEP1)、配列番号2で表されるエピトープペプチド(PEP2)、配列番号4で表されるエピトープペプチド(PEP4)、配列番号6で表されるエピトープペプチド(PEP6)、配列番号7で表されるエピトープペプチド(PEP7)、配列番号8で表されるエピトープペプチド(PEP8)、配列番号9で表されるエピトープペプチド(PEP9)、配列番号10で表されるエピトープペプチド(PEP10)、配列番号13で表されるエピトープペプチド(PEP13)、配列番号15で表されるエピトープペプチド(PEP15)、配列番号17で表されるエピトープペプチド(PEP17)及び配列番号18で表されるエピトープペプチド(PEP18)からなる群より選択される3個のエピトープペプチドが、
リンカーを介してそれぞれ連結されてなり、親水性アミノ酸からなるペプチド配列を更に有してもよい、CTLエピトープ4連結ペプチドであって、以下の(1)~(3)より選択されるいずれか一つの特徴:
(1)C末端がPEP2である(ただし、N末端にPEP7及びPEP8をN末端側からリンカーを介して隣り合ってこの順で含むものを除く);
(2)C末端がPEP4である;
(3)C末端がPEP10である;
を有する、上記腫瘍の転移抑制剤。
〔11〕リンカーを介して連結された4個のCTLエピトープペプチドを含むCTLエピトープ4連結ペプチドを有効成分として含有することを特徴とする腫瘍の再発抑制剤であって、
該CTLエピトープ4連結ペプチドが、
配列番号5で表されるエピトープペプチド(PEP5)と、
配列番号1で表されるエピトープペプチド(PEP1)、配列番号2で表されるエピトープペプチド(PEP2)、配列番号4で表されるエピトープペプチド(PEP4)、配列番号6で表されるエピトープペプチド(PEP6)、配列番号7で表されるエピトープペプチド(PEP7)、配列番号8で表されるエピトープペプチド(PEP8)、配列番号9で表されるエピトープペプチド(PEP9)、配列番号10で表されるエピトープペプチド(PEP10)、配列番号13で表されるエピトープペプチド(PEP13)、配列番号15で表されるエピトープペプチド(PEP15)、配列番号17で表されるエピトープペプチド(PEP17)及び配列番号18で表されるエピトープペプチド(PEP18)からなる群より選択される3個のエピトープペプチドが、
リンカーを介してそれぞれ連結されてなり、親水性アミノ酸からなるペプチド配列を更に有してもよい、CTLエピトープ4連結ペプチドであって、以下の(1)~(3)より選択されるいずれか一つの特徴:
(1)C末端がPEP2である(ただし、N末端にPEP7及びPEP8をN末端側からリンカーを介して隣り合ってこの順で含むものを除く);
(2)C末端がPEP4である;
(3)C末端がPEP10である;
を有する、上記腫瘍の再発抑制剤。
【0016】
本発明は、以下の態様にも関する。
・腫瘍の術後補助療法において使用するための上記〔1〕~〔11〕で規定されるCTLエピトープ4連結ペプチド。
・腫瘍の術後補助療法において使用するための配列番号24で表されるCTLエピトープ4連結ペプチド。
・腫瘍の転移抑制において使用するための上記〔1〕~〔11〕で規定されるCTLエピトープ4連結ペプチド。
・腫瘍の転移抑制において使用するための配列番号24で表されるCTLエピトープ4連結ペプチド。
・腫瘍の再発抑制において使用するための上記〔1〕~〔11〕で規定されるCTLエピトープ4連結ペプチド。
・腫瘍の再発抑制において使用するための配列番号24で表されるCTLエピトープ4連結ペプチド。
・上記〔1〕~〔11〕で規定されるCTLエピトープ4連結ペプチドを含む腫瘍の術後補助療法のための医薬組成物。
・配列番号24で表されるCTLエピトープ4連結ペプチドを含む腫瘍の術後補助療法のための医薬組成物。
・上記〔1〕~〔11〕で規定されるCTLエピトープ4連結ペプチドを含む腫瘍の転移抑制のための医薬組成物。
・配列番号24で表されるCTLエピトープ4連結ペプチドを含む腫瘍の転移抑制のための医薬組成物。
・上記〔1〕~〔11〕で規定されるCTLエピトープ4連結ペプチドを含む腫瘍の再発抑制のための医薬組成物。
・配列番号24で表されるCTLエピトープ4連結ペプチドを含む腫瘍の再発抑制のための医薬組成物。
・上記〔1〕~〔11〕で規定されるCTLエピトープ4連結ペプチドを、腫瘍の再発及び/又は転移治療に有効な量を患者に投与する工程を含む、腫瘍の術後補助療法。
・上記〔1〕~〔11〕で規定されるCTLエピトープ4連結ペプチドを、腫瘍の転移治療に有効な量を患者に投与する工程を含む、腫瘍の転移抑制方法。
・上記〔1〕~〔11〕で規定されるCTLエピトープ4連結ペプチドを、腫瘍の再発治療に有効な量を患者に投与する工程を含む、腫瘍の再発抑制方法。
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-236947号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の腫瘍の術後補助療法によれば、副作用の発症を抑えつつ、腫瘍の転移・再発抑制効果を奏する癌治療を行うことが可能である。ひいては、癌患者の長期間の生存をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】CTLエピトープ4連結ペプチドTPV07のHPLCのクロマトグラムを示す。
【
図2】CTLエピトープ4連結ペプチドTPV08のHPLCのクロマトグラムを示す。
【
図3】CTLエピトープ4連結ペプチドTPV07のマススペクトルを示す。
【
図4】CTLエピトープ4連結ペプチドTPV08のマススペクトルを示す。
【
図5】B16F10.A24/SART2
93-101細胞株を静脈内移植したマウスモデルにおけるTPV06の肺転移結節数の抑制効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、CTLエピトープ4連結ペプチドを有効成分として含有する腫瘍の術後補助療法剤に関する。本発明はまた、CTLエピトープ4連結ペプチドを有効成分として含有する腫瘍の転移抑制剤に関する。本発明はまた、CTLエピトープ4連結ペプチドを有効成分として含有する腫瘍の再発抑制剤に関する。
【0020】
本発明においてCTLエピトープ4連結ペプチドは、同一及び/又は異なる腫瘍抗原分子由来のCTLエピトープペプチドから選ばれる4つのペプチドを、リンカーを介して直鎖状に連結して1分子としたペプチドを意味する。
【0021】
腫瘍抗原分子由来のCTLエピトープペプチドとしては、以下のようなものが知られている。
KLVERLGAA(配列番号1、本明細書において「PEP1」と記載する、例えば国際公開第200l/0l1044号);
ASLDSDPWV(配列番号2、本明細書において「PEP2」と記載する、例えば国際公開第2002/010369号);
ALVEFEDVL(配列番号3、本明細書において「PEP3」と記載する、例えば国際公開第2002/010369号);
LLQAEAPRL(配列番号4、本明細書において「PEP4」と記載する、例えば国際公開第2000/12701号);
DYSARWNEI(配列番号5、本明細書において「PEP5」と記載する、例えば特開平11-318455号);
VYDYNCHVDL(配列番号6、本明細書において「PEP6」と記載する、例えば国際公開第2000/12701号);
LYAWEPSFL(配列番号7、本明細書において「PEP7」と記載する、例えば特開2003-000270号);
DYLRSVLEDF(配列番号8、本明細書において「PEP8」と記載する、例えば国際公開第2001/011044号);
QIRPIFSNR(配列番号9、本明細書において「PEP9」と記載する、例えば国際公開第2008/007711号);
ILEQSGEWWK(配列番号10、本明細書において「PEP10」と記載する、例えば国際公開第2009/022652号);
VIQNLERGYR(配列番号11、本明細書において「PEP11」と記載する、例えば国際公開第2009/022652号);
KLKHYGPGWV(配列番号12、本明細書において「PEP12」と記載する、例えば国際公開第1999/067288号);
RLQEWCSVI(配列番号13、本明細書において「PEP13」と記載する、例えば国際公開第2002/010369号);
ILGELREKV(配列番号14、本明細書において「PEP14」と記載する、例えば国際公開第2002/010369号;
DYVREHKDNI(配列番号15、本明細書において「PEP15」と記載する、例えば国際公開第2005/071075号);
HYTNASDGL(配列番号16、本明細書において「PEP16」と記載する、例えば国際公開第2001/011044号);
NYSVRYRPGL(配列番号17、本明細書において「PEP17」と記載する、例えば特開2003-000270号);
RYLTQETNKV(配列番号18、本明細書において「PEP18」と記載する、例えば国際公開第2005/116056号)
【0022】
下記の表1に、CTLエピトープペプチドPEP1~PEP18の由来となるタンパク質の情報を記載する。これらのタンパク質は、腫瘍組織において高発現することが報告されている。
【0023】
【0024】
本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドは、上記CTLエピトープペプチドのうち特定の13種類(配列番号1で表されるペプチド「PEP1」、配列番号2で表されるペプチド「PEP2」、配列番号4で表されるペプチド「PEP4」、配列番号5で表されるペプチド「PEP5」、配列番号6で表されるペプチド「PEP6」、配列番号7で表されるペプチド「PEP7」、配列番号8で表されるペプチド「PEP8」、配列番号9で表されるペプチドを「PEP9」、配列番号10で表されるペプチド「PEP10」、配列番号13で表されるペプチド「PEP13」、配列番号15で表されるペプチド「PEP15」、配列番号17で表されるペプチド「PEP17」及び配列番号18で表されるペプチド「PEP18」)から選択される4種類のCTLエピトープペプチドがリンカーを介して直鎖状に連結したペプチドであり、各CTLエピトープペプチドに特異的なCTLを3つ以上誘導、及び/又は、活性化することができる。なお、CTLエピトープペプチドに特異的な誘導を直接的に評価しなくても、イムノプロテアソームによる切断実験(国際公開第2015/060235号等)により、当該エピトープペプチドに特異的なCTL誘導の有無について判断することができる。
【0025】
本発明において、CTLエピトープ4連結ペプチドは、
配列番号5で表されるペプチド「PEP5」と、
配列番号1で表されるペプチド「PEP1」、配列番号2で表されるペプチド「PEP2」、配列番号4で表されるペプチド「PEP4」、配列番号6で表されるペプチド「PEP6」、配列番号7で表されるペプチド「PEP7」、配列番号8で表されるペプチド「PEP8」、配列番号9で表されるペプチド「PEP9」、配列番号10で表されるペプチド「PEP10」、配列番号13で表されるペプチド「PEP13」、配列番号15で表されるペプチド「PEP15」、配列番号17で表されるペプチド「PEP17」及び配列番号18で表されるペプチド「PEP18」からなる群より選択される3つのペプチドが、
リンカーを介してそれぞれ連結されてなる、
ペプチドである。
【0026】
本発明において、PEP1、PEP2、PEP4、PEP5、PEP6、PEP7、PEP8、PEP9、PEP10、PEP13、PEP15、PEP17、及びPEP18の各アミノ酸配列において、一又は複数のアミノ酸が置換、挿入、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有し、かつ、元のペプチドと同等又はそれ以上のCTL誘導能及び/又は免疫グロブリン産生誘導能を有するペプチドも、「CTLエピトープペプチド」として使用することができる。ここで「複数」とは2~3個、好ましくは2個である。このようなペプチドとしては、例えば、元のアミノ酸と類似した特性を有するアミノ酸で置換された(すなわち、保存的アミノ酸置換により得られた)ペプチドが挙げられる。
【0027】
「元のペプチドと同等又はそれ以上のCTL誘導能及び/又は免疫グロブリン産生誘導能を有するペプチド」であるか否かは、例えば、国際公開第2015/060235号パンフレットに記載の方法に準じて評価することができる。前記方法を用いて評価する場合、CTL誘導能は、一又は複数のアミノ酸が置換、挿入、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有する試験ペプチドを予め投与したマウス由来の細胞、同系マウス由来の抗原提示細胞及び試験ペプチドを添加したウェルにおけるIFN-γ産生細胞の数を指標とし、得られたΔ値の判定結果(陽性(10≦Δ<100)、中陽性(100≦Δ<200)、強陽性(200≦Δ))が同等又はそれ以上であれば、元のペプチドと同等又はそれ以上のCTL誘導能を有するペプチドであると判断できる。この場合、元のペプチドが「陽性」であり、一又は複数のアミノ酸が置換、挿入、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチドも「陽性」であれば同等と判断する。また、免疫グロブリン産生誘導能は、試験ペプチドを投与したマウス血清中のCTLエピトープ特異的IgG抗体価を指標とし、得られたIgG抗体価の増加(fold)の測定結果(2<fold<10、10≦fold<100、100≦fold)が同等又はそれ以上であれば、同等又はそれ以上の免疫グロブリン産生誘導能を有するペプチドであると判断できる。この場合、元のペプチドの測定結果が「2<fold<10」の範囲内であり、一又は複数のアミノ酸が置換、挿入、欠失、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するペプチドの測定結果も「2<fold<10」の範囲内であれば同等と判断する。
【0028】
本発明において、リンカーは、CTLエピトープ4連結ペプチドが生体に投与された際に切断され、連結されたCTLエピトープペプチドが個々に分離されることを可能とするものであればよく、例えば、エステル結合、エーテル結合、アミド結合、糖鎖リンカー、ポリエチレングリコールリンカー、アミノ酸リンカーなどが挙げられる。アミノ酸リンカーとして用いられるアミノ酸配列としては、アルギニンダイマー(RR)、アルギニントリマー(RRR)、アルギニンテトラマー(RRRR)、リジンダイマー(KK)、リジントリマー(KKK)、リジンテトラマー(KKKK)、グリシンダイマー(GG)、グリシントリマー(GGG)、グリシンテトラマー(GGGG)、グリシンペンタマー(GGGGG)、グリシンヘキサマー(GGGGGG)、アラニン-アラニン-チロシン(AAY)、イソロイシン-ロイシン-アラニン(ILA)、アルギニン-バリン-リジン-アルギニン(RVKR)等が例示され、好ましくはアルギニンダイマー(RR)又はアルギニントリマー(RRR)であり、より好ましくはアルギニンダイマー(RR)である。エピトープ連結ペプチドにおいて使用されるリンカーは当分野において知られており、当業者であれば適宜選択して使用することができる。
【0029】
本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドにおいて、選択されるCTLエピトープペプチド、及びその連結順序は、所定の組合せ及び所定の連結順序で合成したCTLエピトープ4連結ペプチドをヒトHLA-A発現トランスジェニックマウスに投与し、in vivoにおいて各CTLエピトープペプチド特異的なCTL誘導の有無を評価し決定することができる。in vivoにおいて各CTLエピトープペプチド特異的なCTL誘導の有無を評価する方法は、例えば、国際公開第2015/060235号パンフレットに記載の方法に準じて評価することができる。選択されるCTLエピトープペプチド、及びその連結順序は、当該方法を用いて、少なくとも3種以上、好ましくは4種のCTLエピトープペプチドについて、各CTLエピトープペプチドに特異的なCTLの誘導が見られたCTLエピトープペプチド、及びその連結順序に決定することができる。
【0030】
本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドは、好ましくは、以下の(1)~(3)より選択されるいずれか1つの特徴を有する:
(1)C末端がPEP2である(ただし、N末端にPEP7及びPEP8をN末端側からリンカーを介して隣り合ってこの順で含むものを除く);
(2)C末端がPEP4である;
(3)C末端がPEP10である。
【0031】
従って、好ましくは、本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドは、
配列番号5で表されるペプチド「PEP5」と、
配列番号1で表されるペプチド「PEP1」、配列番号2で表されるペプチド「PEP2」、配列番号4で表されるペプチド「PEP4」、配列番号6で表されるペプチド「PEP6」、配列番号7で表されるペプチド「PEP7」、配列番号8で表されるペプチド「PEP8」、配列番号9で表されるペプチド「PEP9」、配列番号10で表されるペプチド「PEP10」、配列番号13で表されるペプチド「PEP13」、配列番号15で表されるペプチド「PEP15」、配列番号17で表されるペプチド「PEP17」及び配列番号18で表されるペプチド「PEP18」からなる群より選択される3つのペプチドが、
リンカーを介してそれぞれ連結されてなり、以下の(1)~(3)より選択されるいずれか一つの特徴を有するペプチド:
(1)C末端がPEP2である(ただし、N末端にPEP7及びPEP8をN末端側からリンカーを介して隣り合ってこの順で含むものを除く);
(2)C末端がPEP4である;
(3)C末端がPEP10である。
【0032】
より好ましくは、本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドは、配列番号5で表されるペプチド「PEP5」、配列番号6で表されるペプチド「PEP6」及び配列番号9で表されるペプチド「PEP9」と、
配列番号2で表されるペプチド「PEP2」、配列番号4で表されるペプチド「PEP4」及び配列番号10で表されるペプチド「PEP10」からなる群より選択される1つのペプチドが、
リンカーを介してそれぞれ連結されてなり、C末端がPEP2、PEP4、又はPEP10である。
【0033】
より好ましくは、本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドは、以下より選択される配列からなるペプチドである:
・PEP5-(L)-PEP6-(L)-PEP9-(L)-PEP4;
・PEP9-(L)-PEP5-(L)-PEP6-(L)-PEP4;
・PEP6-(L)-PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP4;
・PEP6-(L)-PEP9-(L)-PEP5-(L)-PEP4;
・PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP5-(L)-PEP4;
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP4;
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP2;又は、
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP10。
なお、式中「(L)」はリンカーを示す。
【0034】
より好ましくは、本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドは、以下より選択される配列からなるペプチドである:
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP4;
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP2;又は、
・PEP5-(L)-PEP9-(L)-PEP6-(L)-PEP10。
なお、式中「(L)」はリンカーを示す。
【0035】
より好ましくは、本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドは、リンカーがアルギニンダイマーである、以下より選択される配列で表されるペプチド:
・PEP5-RR-PEP9-RR-PEP6-RR-PEP4(配列番号24、本明細書においてTPV06と記載する);
・PEP5-RR-PEP9-RR-PEP6-RR-PEP2(配列番号25、本明細書においてTPV07と記載する);又は、
・PEP5-RR-PEP9-RR-PEP6-RR-PEP10(配列番号26、本明細書においてTPV08と記載する)
であり、
より好ましくは、本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドは、配列番号24で表されるペプチドTPV06である。
【0036】
本発明の態様の1つにおいて、CTLエピトープ4連結ペプチドは、好ましくは、以下の表2に示す配列番号19~28より選択される配列で表されるペプチドである。
【0037】
【0038】
より好ましくは、CTLエピトープ4連結ペプチドは、上記表2に挙げたものから選択される、以下のペプチド:
・TPV01(配列番号19);
・TPV02(配列番号20);
・TPV03(配列番号21);
・TPV04(配列番号22);
・TPV05(配列番号23);又は、
・TPV06(配列番号24);
である。
【0039】
また、本発明において、CTLエピトープ4連結ペプチドは2種以上使用されても良く、例えば、2種、3種、4種又はそれ以上のCTLエピトープ4連結ペプチドを別個に、または混合して使用しても良く、3種のCTLエピトープ4連結ペプチドを混合して使用するのが好ましい。CTLエピトープ4連結ペプチドを2種以上使用する場合、本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドが少なくとも1種含まれていれば、残りの1種以上は本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドであっても良いし、例えば国際公開第2015/060235号に記載のもののようなCTLエピトープ4連結ペプチドであっても良い。配列番号24で表されるペプチドと国際公開第2015/060235号に記載のCTLエピトープ4連結ペプチドを1種以上使用するのが好ましく、配列番号24で表されるペプチドと国際公開第2015/060235号に記載のCTLエピトープ4連結ペプチドを2種使用するのがより好ましく、配列番号24で表されるペプチド、配列番号29で表されるペプチド(TPV011:PEP15-RR-PEP18-RR-PEP1-RR-PEP10)及び配列番号30で表されるペプチド(TPV012:RRRR-PEP7-RR-PEP13-RR-PEP8-RR-PEP2)の3種類を混合して使用するのがさらにより好ましい。
【0040】
本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドは、さらに親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有することができる。当該ペプチド配列は、CTLエピトープ4連結ペプチドのN末端及び/又はC末端に付加することができ、好ましくはN末端に付加する。当該ペプチド配列は、アルギニン、ヒスチジン、リジン、トレオニン、チロシン、セリン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、及びグルタミン酸からなる群から選択される1~15個、好ましくは2~10個、さらに好ましくは3~5個の親水性アミノ酸からなるものを選択することができる。例えば当該ペプチド配列として、アルギニントリマー(RRR)やアルギニンテトラマー(RRRR)を利用することができ、このようなペプチド配列が付加されたCTLエピトープ4連結ペプチドとしては、RRR-TPV06、RRRR-TPV06、TPV06-RRR、TPV06-RRRR、RRR-TPV07、RRRR-TPV07、TPV07-RRR、TPV07-RRRR、RRR-TPV08、RRRR-TPV08、TPV08-RRR、TPV08-RRRR、KKK-TPV06、KKKK-TPV06、TPV06-KKK、TPV06-KKKK、KKK-TPV07、KKKK-TPV07、TPV07-KKK、TPV07-KKKK、KKK-TPV08、KKKK-TPV08、TPV08-KKK、TPV08-KKKK、HHH-TPV06、HHHH-TPV06、TPV06-HHH、TPV06-HHHH、HHH-TPV07、HHHH-TPV07、TPV07-HHH、TPV07-HHHH、HHH-TPV08、HHHH-TPV08、TPV08-HHH、TPV08-HHHH、RRKK-TPV06、RKRK-TPV06、RHRH-TPV06、RRHH-TPV06、KKHH-TPV06、KHKH-TPV06等が例示され、好ましくはRRR-TPV06、RRRR-TPV06、RRR-TPV07、RRRR-TPV07、RRR-TPV08、RRRR-TPV08、KKK-TPV06、KKKK-TPV06、KKK-TPV07、KKKK-TPV07、KKK-TPV08、KKKK-TPV08、HHH-TPV06、HHHH-TPV06、HHH-TPV07、HHHH-TPV07、HHH-TPV08、HHHH-TPV08、RRKK-TPV06、RKRK-TPV06、RHRH-TPV06、RRHH-TPV06、KKHH-TPV06、KHKH-TPV06であり、さらに好ましくはRRR-TPV06(TPV09)、RRRR-TPV06(TPV10)、RRR-TPV07、RRRR-TPV07、RRR-TPV08、RRRR-TPV08であり、最も好ましくはRRR-TPV06(TPV09)、RRRR-TPV06(TPV10)である。
【0041】
親水性アミノ酸からなる当該ペプチド配列が付加されたペプチドは、水性溶媒への溶解度が向上することが知られている(Peptides:38,302-311(2012)、特開2006-188507)。本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドに当該ペプチド配列を付加することによって、水性溶媒へのCTLエピトープ4連結ペプチドの溶解度を向上することができる。
【0042】
本発明の「親水性アミノ酸からなるペプチド配列を更に有していてもよい、CTLエピトープ4連結ペプチド」は、好ましくはN末端に親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有していてもよいCTLエピトープ4連結ペプチドであり、より好ましくはN末端にアルギニン、ヒスチジン及びリジンからなる群から選択される3~5個の親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有していてもよいCTLエピトープ4連結ペプチドであり、より好ましくはN末端にアルギニントリマー(RRR)又はアルギニンテトラマー(RRRR)を有していてもよいCTLエピトープ4連結ペプチドであり、より好ましくは親水性アミノ酸からなるペプチド配列を有さないCTLエピトープ4連結ペプチドである。
【0043】
なお、本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドは、例えば、国際公開第2015/060235号パンフレットに記載の方法に準じて合成することができる。
【0044】
本発明において「術後補助療法」とは、手術後に腫瘍の再発及び/又は転移を治療あるいは抑制する方法である。本発明の術後補助療法は、本明細書に記載されるCTLエピトープ4連結ペプチドを、腫瘍摘出後の患者に投与するステップを含む。
本発明の対象となる患者は、限定するものではないが、ヒトで特に有効な効果を得ることができる。
【0045】
本発明において使用されるCTLエピトープ4連結ペプチドのヒトにおける推奨用量は、好ましくはCTLエピトープ4連結ペプチド1種あたり3~9mg/body/dayの範囲である。
【0046】
なお、本発明において「推奨用量」とは、臨床試験などにより決定された、重篤な副作用を発症せずに安全に使用できる範囲で、最大の治療効果をもたらす投与量でありうる。具体的には、日本独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA;Pharmaceuticals and Medical Devices Agency)、米国食品医薬品局(FDA;Food and Drug Administration)、欧州医薬品庁(EMA;European Medicines Agency)等の公的機関や団体により承認・推奨・勧告され、添付文書・インタビューフォーム・治療ガイドライン等に記載された投与量が挙げられ、PMDA、FDA又はEMAのいずれかの公的機関により承認された投与量が好ましい。
【0047】
本発明の腫瘍の術後補助療法剤、転移抑制剤及び再発抑制剤の投与スケジュールは、腫瘍の種類や病期等に応じて適宜選択しうる。
CTLエピトープ4連結ペプチドは、1週間に1回投与する工程を3回(1日目、8日目、15日目に1日1回)繰り返す計21日間を1サイクルとした投与スケジュールが好ましい。また、3サイクル目以降は、1日目に投与し20日間の休薬を行う(3週間に1回投与する方法)計21日間を1サイクルとした投与スケジュールが好ましい。
【0048】
本発明のCTLエピトープ4連結ペプチドの1日の投与回数は、癌種や病期等に応じて適宜選択しうる。CTLエピトープ4連結ペプチドの1日の投与回数は、1回が好ましい。
【0049】
本発明において対象となる腫瘍は、腫瘍の術後補助療法において抗腫瘍効果を奏する範囲であれば特に制限されないが、好ましくはCTLエピトープ4連結ペプチドが腫瘍の術後補助療法において抗腫瘍効果を発揮する腫瘍であり、より好ましくはLck、WHSC2、SART2、SART3、MRP3、UBE2V、EGFR、又はPTHrP陽性の悪性腫瘍であり、より好ましくはSART2陽性の悪性腫瘍である。
【0050】
本発明の対象となる癌としては、具体的には、脳腫瘍、頭頚部癌、消化器癌(食道癌、胃癌、十二指腸癌、肝臓癌、胆道癌(胆嚢・胆管癌など)、膵臓癌、小腸癌、大腸癌(結腸直腸癌、結腸癌、直腸癌など)、消化管間質腫瘍など)、肺癌(非小細胞肺癌、小細胞肺癌)、乳癌、卵巣癌、子宮癌(子宮頚癌、子宮体癌など)、腎癌、尿路上皮癌(膀胱癌、腎盂癌、尿管癌)、前立腺癌、皮膚癌、原発不明癌等が挙げられる。なお、ここで癌には、原発巣のみならず、他の臓器(肝臓など)に転移した癌をも含む。このうち、抗腫瘍効果の観点から、頭頸部癌、消化器癌、肺癌、腎癌、尿路上皮癌、皮膚癌が好ましく、消化器癌、肺癌、尿路上皮癌、皮膚癌がより好ましく、肺癌、尿路上皮癌が特に好ましい。
【0051】
本発明の腫瘍の術後補助療法剤、転移抑制剤及び再発抑制剤の投与形態としては特に制限は無く、治療目的に応じて適宜選択でき、具体的には経口剤(錠剤、被覆錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤など)、注射剤、坐剤、貼付剤、軟膏剤等が例示でき、好ましくは注射剤である。
【0052】
本発明における腫瘍の術後補助療法剤、転移抑制剤及び再発抑制剤は、薬学的に許容される担体を用いて、通常公知の方法により調製することができる。斯かる担体としては、通常の薬剤に汎用される各種のもの、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、pH調整剤、緩衝剤、安定化剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤等を例示できる。
【0053】
本発明の術後補助療法剤、転移抑制剤及び再発抑制剤の有効成分であるCTLエピトープ4連結ペプチドは、含まれるエピトープを発現する細胞のみを特異的に標的とすることができる。従って、従来の術後補助療法剤、転移抑制剤及び再発抑制剤として用いられる抗がん剤と比較して、重篤な副作用を生じることなく、患者の負担を軽減しつつ、効果的に用いることができる。
【0054】
抗がん効果の確認は、動物モデルを用いて行うことが多いが、移植した腫瘍の増殖や腫瘍を移植された動物の生存率を指標とすることが一般的である。これに対して術後補助療法剤、転移抑制剤及び再発抑制剤の効果は、動物モデルに一旦移植した腫瘍を切除するよりも、転移に対する効果を確認することがより好適であると考えられる。従って、本発明の腫瘍の術後補助療法剤、転移抑制剤及び再発抑制剤の効果は、例えば腫瘍の移植部位とは異なる場所での腫瘍発生、すなわち転移を生じる動物モデルを用いて確認することができる。
【0055】
また、本発明の術後補助療法剤、転移抑制剤及び再発抑制剤の有効成分であるCTLエピトープ4連結ペプチドは、HLA-A拘束性にCTL誘導能等を有するものであるため、効果を確認するために使用する動物モデルは、HLA-A分子を発現するものであることが必要となる。
【0056】
そのようなモデルとして、特に限定するものではないが、例えばHLA-A遺伝子ノックインの非免疫不全非ヒト動物を挙げることができる。HLA-A遺伝子ノックインの非免疫不全非ヒト動物は、ヒトHLA-Aのα1及びα2領域を有する非免疫不全非ヒト動物であれば良く、例えば国際公開第2015/056774号並びにJ.Immunol:198,516-527(2017)で開示されたヒトHLA-A24遺伝子ノックインマウス(B2mtm2(HLA-A24/H-2Db/B2M)Taiマウス)を好適に使用することができる。
【実施例】
【0057】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。
【0058】
[実施例1 ペプチドの合成・精製]
エピトープ4連結ペプチドTPV07及びTPV08を、自動ペプチド合成機Prelude(Protein Technologies,Inc.)を用いて、9-フルオレニルメチル-オキシカルボニル(Fmoc)法による固相ペプチド合成法にて合成した。すなわち、Wang-ChemMatrix樹脂にα-アミノ基がFmoc基で、側鎖官能基が一般的な保護基で保護されたアミノ酸を1-(メシチレン-2-スルホニル)-3-ニトロ-1,2,4-トリアゾール/N-メチルイミダゾール/ジクロロメタン条件により縮合し、樹脂へのC末端アミノ酸の担持を完了した。これにデブロッキング液(20% ピペリジン/N,N-ジメチルホルムアミド(DMF))を注入してFmoc基を除去した後に、α-アミノ基がFmoc基で、側鎖官能基が一般的な保護基で保護されたアミノ酸を1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-5-クロロ-1H-ベンゾ-トリアゾリウム 3-オキシド ヘキサフルオロホスフェート(HCTU)/N-メチルモルホリン(NMM)/DMF条件によって縮合し、ジペプチドを合成した。デブロッキング液によるFmoc基の脱保護とHCTU/NMM/DMF条件によるアミノ酸の縮合操作を繰り返すことにより、目的とする配列を有するペプチドを合成した。保護ペプチド樹脂の合成完了後、脱保護溶液(2.5% トリイソプロピルシラン、2.5% 水、2.5%1,2-エタンジチオール、92.5% トリフルオロ酢酸)を保護ペプチド樹脂に加えて、4時間反応することによってペプチド側鎖保護基の除去と共に、樹脂から遊離ペプチドを切り出した。樹脂をろ去し、得られたろ液を冷エーテルに添加することにより、ペプチドを沈澱として回収した。得られた各種合成ペプチドはProteonaviカラム(SHISEIDO)にて溶媒系に0.1% TFA水溶液及びアセトニトリルを用いて精製した。最終精製ペプチドはCAPCELL PAK UG120カラム(SHISEIDO)及びHPLCシステム(HITACHI)により純度を確認した。また、ESI-MSシステム(Synapt HDMS、WATERS)により分子量を確認し、凍結乾燥後冷温暗所にて保存し、以降に示す実施例に供した。
【0059】
TPV07及びTPV08のマススペクトル(MS)分析により測定した分子量を表3に示す。さらにTPV07及びTPV08のHPLCのクロマトグラム及びMSを
図1~
図4に示した。
【0060】
【0061】
TPV01~TPV06、TPV09~TPV12は、例えば、国際公開第2015/060235号パンフレットに記載の方法に準じて合成することもできるし、上記に示したTPV07及びTPV08と同様の方法に準じて合成することもできる。いずれのペプチドも、純度90%以上のものが得られた。
【0062】
[実施例2 B16F10.A24/SART293-101細胞株肺転移モデルにおけるTPV06の効果]
11週齢のB2mtm2(HLA-A24/H-2Db/B2M)Taiマウス(J.Immunol:198,516-527(2017))を、ランダムに各群10匹ずつ割り付けた。群分けを実施した日をDay0とした。
【0063】
B16F10.A24/SART293-101細胞株(PLoS One:13,e0199249(2018))は10% FBSを含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(Sigma-Aldrich)培地を用いて、培養した。B16F10.A24/SART293-101は、37℃、5%CO2インキュベータ中において、週2回、1:25~1:40比率で継代した。
【0064】
マウス群分け後の同日に(Day0)、D-PBS(富士フイルム和光純薬)を用いて調製したB16F10.A24/SART293-101細胞懸濁液を、マウス尾静脈内に1×106細胞/0.1mLずつ移植した。
【0065】
本マウスモデルは血中に移植した腫瘍細胞が肺にて再発することが確認されている。従って、ヒトにおけるがんの転移による再発メカニズムを模しているといえ、このモデルにおける効果を確認することで、転移・再発の抑制効果を確認することができる。
【0066】
エピトープ4連結ペプチドTPV06(配列番号24)を蒸留水(大塚製薬工場)に溶解して6mg/mLのペプチド溶液を調製し、B Braun Injektシリンジ(ビー・ブラウンエースクラップ)に充填した。別のシリンジに等量のMontanide ISA 51 VG(SEPPIC)を充填後、両シリンジをコネクタにて接続し、ペプチド溶液とMontanide ISA 51 VGをよく混合することで、エマルジョンを調製した。また、コントロールとして、蒸留水と等量のMontanide ISA 51 VGを混合したエマルジョンを調製した。これらをB2mtm2(HLA-A24/H-2Db/B2M)Taiマウスの尾根部周辺の皮下に100μLずつ週1回、計3回投与した(Day1,8,15)。
【0067】
B16F10.A24/SART293-101細胞株移植後28日後(Day28)、肺を摘出し、肺転移結節数を目視で測定した。
【0068】
図5に示すように、TPV06投与群はコントロール群に比べ、有意(p=0.0014,Student’s t-test)に肺転移結節数が抑制された。
【0069】
以上の結果は、TPV06を投与することによりSART293-101を発現する腫瘍細胞の転移・再発が顕著に抑制され得ることを示している。したがって、CTLエピトープ4連結ペプチドは腫瘍の転移・再発の治療に有用である。
【0070】
一般的に抗原特異的CTLは、がん抗原由来CTLエピトープペプチドが細胞表面上のHLA分子を介して抗原提示されている細胞を特異的に認識、活性化し、その細胞を殺傷することが知られている(Janeway’s Immunobiology,7th edition)。したがって、標的細胞がCTLエピトープ4連結ペプチドの標的とするがん抗原を発現していれば抗腫瘍効果を発現しうる。すなわち、かかるCTLエピトープ4連結ペプチドの腫瘍の転移・再発の抑制効果(治療効果)に関しては、当該CTLエピトープ4連結ペプチドが標的とするがん抗原を発現していれば効果を発揮するため、治療標的となる腫瘍の種類は限定されない。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表】