(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】PKLRの遺伝子発現増強のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240718BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240718BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240718BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20240718BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
A61K35/28
C12N5/10
C12N15/867 Z
A61P43/00 111
A61P7/06
C12N15/54 ZNA
(21)【出願番号】P 2022043903
(22)【出願日】2022-03-18
(62)【分割の表示】P 2019506604の分割
【原出願日】2017-04-20
【審査請求日】2022-04-14
(32)【優先日】2016-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518371940
【氏名又は名称】セントロ デ インベスティガシオンス エネルジェチカス メディオアンビエンタゥス イェ テクノロジカス オー.エイ. エム.ピー.
(73)【特許権者】
【識別番号】516355014
【氏名又は名称】フンダシオン、インスティトゥト、デ、インベスティガシオン、サニタリア、フンダシオン、イメネス、ディアス
【氏名又は名称原語表記】FUNDACION INSTITUTO DE INVESTIGACION SANITARIA FUNDACION JIMENEZ DIAZ
(73)【特許権者】
【識別番号】522007451
【氏名又は名称】コンソルシオ セントロ デ インベスティガシオン バイオメディカ エン レッド
【住所又は居所原語表記】C.Monforte de Lemos 3-5.Pabellon 11,MADRID(ES)
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】セゴビア ホセ シー.
(72)【発明者】
【氏名】ゴメス マリア ジー.
(72)【発明者】
【氏名】ナバーロ スサナ
(72)【発明者】
【氏名】メサ ネストール
(72)【発明者】
【氏名】ビューレン フアン
(72)【発明者】
【氏名】ブラーボ マリア ジー.
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0111106(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0031134(US,A1)
【文献】特開2007-054069(JP,A)
【文献】特表2006-524051(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056014(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5'から3'の順で
(a)プロモーター配列;
(b)ヒト肝臓・赤血球型ピルビン酸キナーゼ(PKLR)ポリペプチドである治療用遺伝子産物をコードする配列;および
(c)SEQ ID NO:1と少なくとも
90%の同一性を有する配列を含む、変異型ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(Wpre)
を含むポリヌクレオチド配列を含み、該プロモーター配列が、PKLRポリペプチドをコードする配列に機能的に連結されている、発現カセット
を含む組換え遺伝子送達ベクターによって形質導入された細胞を含む、疾患または障害を治療するまたは予防するための薬学的組成物であって、
該組換え遺伝子送達ベクターが、レンチウイルス(LV)であり、該細胞が、該発現カセットを含み、該薬学的組成物が、静脈注射用である、
薬学的組成物。
【請求項2】
プロモーターがホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターである、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
治療用遺伝子産物をコードする配列がコドン最適化されている、請求項1または2記載の薬学的組成物。
【請求項4】
変異型Wpreが、SEQ ID NO:1と同一の配列を含む、請求項1~3のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項5】
発現カセットが、1個または複数個のエンハンサー配列を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項6】
発現カセットが、ポリアデニル化(ポリA)シグナル配列を含む、請求項1~4のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項7】
組換え遺伝子送達ベクターが、ポリプリントラクト(PPT)を含む、請求項1~6のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項8】
組換え遺伝子送達ベクターが、以下の配列のうちの1個または複数個を含む、請求項1~7のいずれか一項記載の薬学的組成物:
(i)パッケージングシグナル配列(Psi);
(ii)短縮型Gag配列;
(iii)Rev応答要素(RRE);
(iv)セントラルポリプリントラクト(cPPT);
および
(v)セントラルターミナル配列(CTS)
。
【請求項9】
組換え遺伝子送達ベクターが、5'および3'の長い末端反復配列を含む、請求項1~
8のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項10】
長い末端反復配列が、自己不活化型(SIN)レンチウイルスベクターを生成するように改変されている、請求項
9記載の薬学的組成物。
【請求項11】
SINレンチウイルスベクターが3’の長い末端反復に400bpの欠失を含み、該欠失が、5’の長い末端反復のU3領域の要素をカバーする、請求項
10記載の薬学的組成物。
【請求項12】
細胞が、造血幹細胞である、請求項1~
11のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項13】
細胞が、運命付けられた(committed)造血赤血球前駆細胞である、請求項
12記載の薬学的組成物。
【請求項14】
細胞が、対象に対して自己である、請求項1~
13のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項15】
細胞が、対象に対して同種である、請求項1~
13のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項16】
薬学的に許容される賦形剤を含む、請求項1~
15のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項17】
疾患または障害がピルビン酸キナーゼ欠損症(PKD)である、請求項1~
16のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項18】
組換えウイルスベクターによって形質導入された赤血球細胞または赤血球前駆細胞
を作製するためのインビトロまたはエクスビボ方法であって、
該方法が、赤血球細胞または赤血球前駆細胞を有効量の組換えウイルスベクターと接触させる工程、および、該細胞を培養する工程を含み、
該ベクターが、
ヒトホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター、ヒト肝臓・赤血球型ピルビン酸キナーゼ(PKLR)cDNAトランスジーンのコドン最適化バージョン、およびSEQ ID NO:1と少なくとも
90%の同一性を有する配列を含むキメラWpreである変異型ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(Wpre)を含む、発現カセット
を含み、かつ、レンチウイルス(LV)であり、
該接触させる工程の後に
、赤血球細胞または赤血球前駆細胞が該発現カセットを含み、かつ、赤血球細胞または赤血球前駆細胞において検出可能なレベルでPKLRが発現される、
方法。
【請求項19】
変異型Wpreが、SEQ ID NO:1と同一の配列を含む、請求項
18記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、参照によってその全体が本明細書に組み入れられる2016年4月20日に出願された米国仮出願第62/325,397号に基づく優先権を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、ピルビン酸キナーゼ欠損症に対する遺伝子療法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
ピルビン酸キナーゼ欠損症(PKD)は、可変性の症候の溶血性貧血をもたらし、新生児期に致死的であり得る、PKLR遺伝子の変異によって引き起こされる一遺伝子性代謝疾患である。PKDの劣性遺伝形質および同種骨髄移植による治療的処置は、遺伝子療法アプローチを開発するための理想的なシナリオを提供する。
【0004】
赤血球に影響する多くの遺伝性酵素欠陥の中でも、ピルビン酸キナーゼ欠損症(PKD)は、慢性非球状赤血球性溶血性貧血(CNSHA)を引き起こす最も高頻度のものである(Zanella et al. 2007)。PKDの発症および重症度は、極めて可変性であり、軽症のものから重症の新生児貧血にまで及び、最も重症の症例においては小児期に致死的となる(Pissard et al 2006)。発育遅滞、胎児水腫、および新生児期死亡も、頻度は低いが報告されている(Gilsanz et al. 1993)。PKDの有病率は、一般コーカサス人集団において1:20,000と推定されており(Beutler et al 2000)、現在までに、195種を超える異なる変異がPKLR遺伝子において同定されている(http://www.lovd.nl/pklr)。同種骨髄移植(BMT)が、重症PKD患者を治療するために成功裏に使用されているが(Tanphaichitr et al 2000)、組織適合ドナーの低い利用可能性およびこれらの患者のBMTに関連した重篤な合併症(即ち、移植片対宿主病、日和見感染等)のため、定期的な輸血および脾摘出が、重症型PKDの大部分のための主な治療オプションとなっており(Zanella et al 2005)、患者の罹患率および死亡率を劇的に増加させている(Hilgard et al 2005)。重症PKD患者のための治療オプションの限定された効力および副作用、ならびにその劣性遺伝形質のため、PKDは、遺伝子療法によって処置することが適当な疾患である。
【0005】
PKDは、全ての細胞において解糖経路の最後のATP生成反応を触媒するピルビン酸キナーゼ(PK)酵素の欠陥によって引き起こされる(Zanella 2005)。成熟赤血球においては、PKLR遺伝子座の赤血球特異的オルタナティブプロモーターの制御のため(Noguchi et al 1987)、RBCはR型特異的アイソフォーム(RPK)のみを発現するため(Kanno et al 1992)、PKが必須となる。従って、RPK活性の損失は、RBCの代謝および寿命を損ない(Zanella 2005)、CNSHAをもたらす。
【0006】
遺伝性およびその他の疾患および障害の処置および防止のための有望なアプローチは、遺伝子療法ベクターによる治療剤の送達である。現在、ウイルスベクターが、遺伝子移入において最も大きい効力を示しており、持続的な遺伝子発現が必要とされるような遺伝性疾患の矯正のためには、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、またはAAVに基づくベクターが、ウイルス生活環の組み込みの性質のため、望ましい。
【0007】
一遺伝子性疾患、具体的には、造血系に影響するものの遺伝子療法は、自己造血幹細胞(HSC)の遺伝学的矯正が、大きい合併症を回避する、同種HSCTの代替治療オプションであるという確信的証拠を提供している(Cartier et al 2009;Cavazzana-Calvo et al 2010;Cartier et al 2012;Aiuti et al 2013;Biffi et al 2013)。βサラセミアおよび鎌状赤血球症のような赤血球に影響する疾患の遺伝学的矯正は、動物モデルにおいて取り組まれ(Pestina et al 20091 Breda et al 2012)、ヒトにおいても取り組まれている(Cavazzana-Calvo et al 2010)。しかしながら、PKDのような遺伝性赤血球代謝欠損のための遺伝子療法アプローチは、未だ限定されている。PKDのためのHSC遺伝子療法の実施可能性は、マウス(Tani et al 1994;Meza et al 2009)およびイヌ(Trobridge et al 2012)の両方のRPK欠損実験モデルにおいて証明されており、ドナー遺伝子矯正HSCの選択優位性の欠如のため、ドナーキメリズムおよび形質導入のレベルが、溶血表現型の効率的な矯正に到達するためのキーポイントであることが示されている(Richard et al 2004)。PKDマウスモデルによる以前の研究は、25%を超える遺伝学的に矯正された細胞が移植された時に、レトロウイルスに由来するヒトRPK発現が、PKD表現型を完全に矯正することができることを証明した(Meza et al 2009)。インビボで増大した泡沫状ベクターによって矯正されたHSCを注入された1匹のPKDバセンジーイヌにおいて、矯正された細胞の類似の治療閾値が最近報告された(Trobridge et al 2012)。
【0008】
遺伝子療法において使用するためのポリヌクレオチドカセットおよび発現ベクターの設計に関しては、多数の課題が残っている。一つの重大な課題は、標的細胞におけるトランスジーンの十分な発現を入手することである。当技術分野における長年の未解決の必要性は、遺伝子移入後のトランスジーンの十分に頑強な発現である。いくつかのケースにおいて、ある種のベクター、例えば、プラスミドDNAベクターの効力のため、より効率的な発現が必要とされる。他のケースにおいては、より有利な安全性プロファイルを有するより低い治療用量、または侵襲性のより低い投与ルートを可能にするため、より効率的な遺伝子発現カセットが望ましい。
【0009】
治療用トランスジーン発現がLTR配列によって制御されるという事実のため、ガンマレトロウイルス(ガンマRV)ベクターが使用された時、高レベルのトランスジーン発現が達成され得る。しかしながら、このタイプのベクターに基づく最初の臨床試験は、数人の患者が予想外の白血病を発症したため、安全性問題を提起した(Hacein-Bey-Abina et al 2008)。LTR配列の強いプロモーター活性は、プロトオンコジーンプロモーターの活性化または腫瘍抑制遺伝子の阻害によって、周辺の遺伝子の制御に影響し、挿入変異誘発をもたらし得る(Ott et al 2006;Howe et al 2008;Stein et al 2010;Braun et al 2014)。これらの所見は、ガンマレトロウイルスベクターより安全で効率的なベクターを、PKD遺伝子療法のために使用する必要性を強調した。
【発明の概要】
【0010】
一つの態様において、本発明は、(a)プロモーター配列;(b)遺伝子産物をコードする配列;および(c)リボ核酸(RNA)輸送シグナルを含むポリヌクレオチド配列を含む発現カセットを提供し、該発現カセットにおいて、プロモーター配列は、ピルビン酸キナーゼポリペプチドをコードする配列に機能的に連結されており、任意で、(a)~(c)は、5'から3'の順で発現カセット内に存在する。ある種の態様において、プロモーターは、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターである。いくつかの態様において、遺伝子産物は、治療用遺伝子産物である。いくつかの態様において、治療用遺伝子産物は、ピルビン酸キナーゼ(PK)ポリペプチド、任意で、肝臓・赤血球型ピルビン酸キナーゼ(PKLR;pyruvate kinase, liver and red blood cell)ポリペプチドである。ある種の態様において、遺伝子産物をコードする配列は、コドン最適化されている。具体的な態様において、RNA輸送シグナルは、変異型ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(Wpre)である。ある種の態様において、変異型Wpreは、SEQ ID NO:1との少なくとも80%の同一性を有する配列を含むキメラWpreである。いくつかの態様において、発現カセットは、1個または複数個のエンハンサー配列をさらに含む。いくつかの態様において、発現カセットは、ポリプリントラクト(PPT)またはポリアデニル化(ポリA)シグナル配列をさらに含む。いくつかの態様において、発現カセットは、以下の配列のうちの1個または複数個をさらに含む:(i)パッキングシグナル配列;(ii)短縮型Gag配列;(iii)Rev応答要素(RRE);(iv)セントラルポリプリントラクト(cPPT);(v)セントラルターミナル配列(CTS);および(vi)上流配列要素(USE)、任意で、サルウイルス40由来のもの(SV40-USE)。いくつかの態様において、発現カセットは、5'および3'の長い末端反復配列をさらに含む。
【0011】
関連する態様において、本発明は、本明細書中に開示された発現カセットを含む組換え遺伝子送達ベクターを提供する。ある種の態様において、組換え遺伝子送達ベクターは、ウイルスまたはウイルスベクターである。ある種の態様において、ウイルスまたはウイルスベクターは、レンチウイルス(LV)である。
【0012】
もう一つの関連する態様において、本発明は、本明細書中に開示された発現カセットまたは遺伝子送達ベクターを含む細胞を提供する。いくつかの態様において、細胞は、血液細胞である。いくつかの態様において、細胞は、赤血球細胞である。いくつかの態様において、細胞は、骨髄細胞、例えば、系統枯渇(lineage depleted)骨髄細胞である。いくつかの態様において、細胞は、造血幹細胞である。いくつかの態様において、細胞は、CD34+造血幹細胞である。いくつかの態様において、細胞は、運命付けられた(committed)造血赤血球前駆細胞である。
【0013】
さらにもう一つの関連する態様において、本発明は、薬学的に許容される賦形剤と、本明細書中に開示された組換え遺伝子送達ベクターまたは細胞とを含む薬学的組成物を提供する。
【0014】
もう一つの態様において、本発明は、本明細書中に開示された発現カセット、遺伝子送達ベクター、または薬学的組成物を、その必要のある対象へ提供する工程を含む、該対象における疾患または障害の処置または防止の方法を提供する。一つの態様において、疾患または障害は、ピルビン酸キナーゼ欠損症(PKD)であり、遺伝子産物は、ピルビン酸キナーゼ(PK)ポリペプチド、任意で、肝臓・赤血球型ピルビン酸キナーゼ(PKLR)ポリペプチドである。ある種の態様において、薬学的組成物は、組換え遺伝子送達ベクターを含む。他の態様において、薬学的組成物は、細胞を含む。一つの態様において、細胞は、対象に対して自己である。もう一つの態様において、細胞は、対象に対して同種である。
【0015】
関連する態様において、本発明は、1個または複数個の赤血球細胞を有効量の組換えウイルスベクターと接触させる工程を含む、赤血球細胞においてトランスジーンを発現させる方法を提供し、該方法において、ベクターは、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター、ヒト肝臓・赤血球型ピルビン酸キナーゼ(PKLR)cDNAトランスジーンのコドン最適化バージョン、および変異型ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメントを含み、該接触させる工程の後に1個または複数個の赤血球細胞において検出可能なレベルでPKLRが発現される。
[本発明1001]
5'から3'の順で
(a)プロモーター配列;
(b)遺伝子産物をコードする配列;および
(c)リボ核酸(RNA)輸送シグナル
を含むポリヌクレオチド配列を含み、該プロモーター配列が、ピルビン酸キナーゼポリペプチドをコードする配列に機能的に連結されている、発現カセット。
[本発明1002]
プロモーターがホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターである、本発明1001の発現カセット。
[本発明1003]
遺伝子産物が治療用遺伝子産物である、本発明1001または1002の発現カセット。
[本発明1004]
治療用遺伝子産物がピルビン酸キナーゼ(PK)ポリペプチド、任意で、肝臓・赤血球型ピルビン酸キナーゼ(PKLR;pyruvate kinase, liver and red blood cell)ポリペプチドである、本発明1003の発現カセット。
[本発明1005]
遺伝子産物をコードする配列がコドン最適化されている、本発明1001~1004のいずれかの発現カセット。
[本発明1006]
RNA輸送シグナルが変異型ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(Wpre)である、本発明1001~1005のいずれかの発現カセット。
[本発明1007]
変異型Wpreが、SEQ ID NO:1との少なくとも80%の同一性を有する配列を含むキメラWpreである、本発明1006の発現カセット。
[本発明1008]
1個または複数個のエンハンサー配列をさらに含む、本発明1001~1007のいずれかの発現カセット。
[本発明1009]
ポリプリントラクト(PPT)またはポリアデニル化(ポリA)シグナル配列をさらに含む、本発明1001~1008のいずれかの発現カセット。
[本発明1010]
以下の配列のうちの1個または複数個をさらに含む、本発明1001~1009のいずれかの発現カセット:
(i)パッキングシグナル配列;
(ii)短縮型Gag配列;
(iii)Rev応答要素(RRE);
(iv)セントラルポリプリントラクト(cPPT);
(v)セントラルターミナル配列(CTS);および
(vi)上流配列要素(USE)、任意で、サルウイルス40由来のもの(SV40-USE)。
[本発明1011]
5'および3'の長い末端反復配列をさらに含む、本発明1001~1010のいずれかの発現カセット。
[本発明1012]
本発明1001~1011のいずれかの発現カセットを含む組換え遺伝子送達ベクター。
[本発明1013]
ウイルスまたはウイルスベクターである、本発明1012の組換え遺伝子送達ベクター。
[本発明1014]
ウイルスまたはウイルスベクターがレンチウイルス(LV)である、本発明1013の組換え遺伝子送達ベクター。
[本発明1015]
本発明1001~1011のいずれかの発現カセットまたは本発明1012~1014のいずれかの遺伝子送達ベクターを含む、細胞。
[本発明1016]
造血幹細胞である、本発明1015の細胞。
[本発明1017]
運命付けられた(committed)造血赤血球前駆細胞である、本発明1015の細胞。
[本発明1018]
薬学的に許容される賦形剤と、本発明1012~1014のいずれかの組換え遺伝子送達ベクターまたは本発明1015~1017のいずれかの細胞とを含む、薬学的組成物。
[本発明1019]
その必要のある対象へ本発明1018の薬学的組成物を提供する工程を含む、該対象における疾患または障害の処置または防止の方法。
[本発明1020]
疾患または障害がピルビン酸キナーゼ欠損症(PKD)であり、遺伝子産物がピルビン酸キナーゼ(PK)ポリペプチド、任意で、肝臓・赤血球型ピルビン酸キナーゼ(PKLR)ポリペプチドである、本発明1019の方法。
[本発明1021]
薬学的組成物が組換え遺伝子送達ベクターを含む、本発明1019または1020の方法。
[本発明1022]
薬学的組成物が細胞を含む、本発明1019または1020の方法。
[本発明1023]
細胞が対象に対して自己である、本発明1022の方法。
[本発明1024]
細胞が対象に対して同種である、本発明1022の方法。
[本発明1025]
1個または複数個の赤血球細胞を有効量の組換えウイルスベクターと接触させる工程を含む、赤血球細胞においてトランスジーンを発現させるための方法であって、ベクターが、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼプロモーター、ヒト肝臓・赤血球型ピルビン酸キナーゼ(PKLR)cDNAトランスジーンのコドン最適化バージョン、および変異型ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(Wpre)を含み、該接触させる工程の後に1個または複数個の赤血球細胞において検出可能なレベルでPKLRが発現される、方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本開示の新規の特色は、添付の特許請求の範囲に具体的に示される。本発明の特色および利点のよりよい理解は、本発明の原理が利用される例示的な態様を示す以下の詳細な説明および添付の図面を参照することによって得られるであろう。
【0017】
【
図1】
図1は、レンチウイルスベクターの骨格に存在する異なる記載された要素の位置を反映するスキームを示す。
【
図2】
図2Aは、対照ベクターにおけるEGFPトランスジーンの発現(上の図)または治療用ベクターにおけるPKLR遺伝子cDNAのコドン最適化配列(coRPK)の発現(下の図)を制御するヒトPGKプロモーターを保有している、遺伝子療法実験において使用された自己不活化型レンチウイルスベクターの模式図である。
図2bは、開発されたPGK-coRPKレンチウイルスベクターの機能性を解明するために実施された遺伝子療法プロトコルの模式図である。
【
図3a】
図3a~dは、遺伝学的矯正後の一次レシピエントの末梢血中のPKD表現型の矯正を示すデータを示す。
図3aは、健常マウス(黒色バー、n=5)およびPKD貧血マウス(灰色バー、n=6)ならびにEGFP(白色バー、n=9)またはcoRPK(斜線付きのバー、n=17)によって形質導入された細胞を移植されたPKD貧血マウスにおけるRBCのレベルであり、
図3bは、網状赤血球のレベルである。データは、平均値±SEMとして表され、ノンパラメトリッククラスカル・ウォリス検定によって分析された。
図3cは、時間の間中、ビオチン標識RBCを検出するために使用されたフローサイトメトリー戦略を示し、
図3dは、健常マウス(黒色線、n=2)、貧血マウス(灰色線、n=2)、および遺伝学的に矯正されたマウス(不連続線、n=4)におけるRBC生存速度論を示す。データは、平均値±SEMとして表され、二元配置のANOVA検定によって分析された。健常、移植されていない対照マウス;PKD、移植されていないPKDマウス;coRPK、治療用トランスジーンを発現するPKDマウス。
【
図4a】
図4a~cは、二次移植マウスにおける多系統造血再構築。
図4aは、CD3-PE、B220-PE、B220-PECy5、Gr1-ビオチンおよびMac1-ビオチン抗体+SAV-PE-Cy5による標識によって異なる造血系統を同定するために使用されたフローサイトメトリー戦略の図である。
図4bは、移植後140日目のPB中の各系統の代表的なドットプロットを示し、
図4cは、百分率を示す。バーは、健常マウス対照(n=2、黒色バー)およびPKDマウス対照(n=2、灰色バー)ならびにcoRPK治療用トランスジーンを発現する二次移植マウス(n=4、斜線付きのバー)の百分率の平均値±SEMを表す。
【
図5-1】
図5a~dは、二次移植マウスにおけるPKD表現型矯正を示す。
図5aは、網状赤血球集団(青色)を同定するための、非移植マウスおよび二次レシピエントに由来する血液塗抹標本のブリリアントクレシルブルー染色を示す。
図5bは、末梢血中の網状赤血球レベルのフローサイトメトリー分析である。
図5cは、coRPKトランスジーンを発現する二次移植マウス(斜線付きのバー、n=4)、健常マウス(黒色バー、n=3)、および貧血対照マウス(灰色バー、n=3)におけるRBCの百分率を表し、
図5dは、網状赤血球の百分率を表す。データは、平均値±SEMとして表され、ノンパラメトリック両側マン・ホイットニー検定によって分析された。
【
図6a】
図6a~cは、プロウイルス組み込みの定量化を示す。
図6aは、移植後120~170日目の個々の移植マウスに由来するBM CFU中の1細胞当たりのベクターコピー数を示す。形質導入およびキメリズムの百分率も示される。
図6bは、異なる造血コンパートメントからの細胞におけるプロウイルスコピー数を示す。カラムは、移植マウスの異なる群の平均値±SEMを表す。
図6cは、個々の移植されたEGFP発現マウス(灰色線)およびcoRPKトランスジーンを保持するマウス(黒色線)に由来するBM細胞におけるプロウイルス組み込みの速度論を示す。
【
図7a】
図7a~cは、遺伝学的に矯正されたマウスにおける赤血球分化パターンの正常化を示す。
図7aは、移植後140日目の骨髄および脾臓における異なる赤血球亜集団の百分率を示す。
図7bは、使用されたフローサイトメトリー戦略の代表的なドットプロットを示す。CD71マーカーおよびTer119マーカーの発現強度は、4種の赤血球亜集団の同定を可能にする。集団I:初期前赤芽球(Ter119
中CD71
高)、集団II:好塩基性赤芽球(Ter119
高CD71
高)、集団III:後期好塩基性多染性赤芽球(Ter119
高CD71
中)、ならびに集団IV:正染性赤芽球、網状赤血球、および成熟赤血球細胞(Ter119
高CD71
低)。
図7cは、非移植マウスおよび移植マウスにおけるELISAによって測定された血漿Epoレベルを示す。ドットは、個々のマウスの値を表す。線は、平均値±SEMを表し、ノンパラメトリッククラスカル・ウォリス検定によって分析された。健常、非移植対照マウス;PKD、非移植PKDマウス;EGFP、EGFPトランスジーンを発現するPKDマウス;coRPK、治療用トランスジーンを発現するPKDマウス。
【
図8】
図8a~bは、対照マウスおよび形質導入細胞を移植されたマウスにおける造血前駆細胞アッセイを示す。データは、移植後140日目の脾臓(
図8a)および骨髄(
図8b)からの全CFUを示す。ドットは、分析された各マウスのコロニーの数を表し、線は、各群の平均値±SEMを表す。データは、ノンパラメトリッククラスカル・ウォリス検定によって統計的に分析された。
【
図9a】
図9a~cは、移植後140日目の遺伝学的に矯正されたマウスにおける脾腫および器官病理の逆転を証明する。
図9aは、代表的な脾臓の写真であり、
図9bは、一次移植PKDマウスおよび二次移植PKDマウスの全体重に対する脾臓重量の比を示す。ドットは、個々のマウスの値を表す。線は、各群の平均値±SEMを表す。データは、ノンパラメトリッククラスカル・ウォリス検定によって分析された。
図9cは、一次移植PKDマウスに由来する脾臓および肝臓の組織学的研究を示す。第1列および第2列は、ヘマトキシリン・エオシンで染色され、光学顕微鏡においてそれぞれ4倍および10倍の対物レンズを使用して写真撮影された脾臓および肝臓の代表的な組織学切片を示す。矢印は、髄外赤血球生成を示す赤血球細胞クラスタをさす。第3列は、矢じりによって示された鉄沈着物を検出するための肝臓切片のプルシアンブルー染色(Fe)を示す。写真は、20倍の対物レンズを使用して得られた。
図7と同様の群レジェンド。二次coRPK、二次レシピエント。
【
図10a】
図10a~gは、遺伝学的に改変された細胞を移植されたマウスに由来するRBC試料における代謝プロファイリングを示す。2回の独立の実験における、PKD動物との比較による、健常マウスおよび移植マウスにおける有意な代謝プロファイリング変化の分析。
図10aは、ノンターゲット(untargeted)プロファイリングによって入手された完全RBCヒートマップを示す。より高い代謝レベルは赤色で表され、より低い代謝レベルは青色で表される。リストされた代謝物質は、以下の基準を使用して有意である少なくとも一つの比較を有する:絶対変化倍率>1.5;最小シグナル>2000;調整済みp値<0.01。黒色ボックスは、群の間で異なるプロファイルを有する代謝物質変化のクラスタを強調している。
図10b、10c、および10dは、移植後140日目の、PKDマウスとの比較による、ノンターゲットプロファイリングによって測定されたRBC中のATP、ADP、およびピルビン酸のレベルをそれぞれ示す。アッセイ1:健常マウス(黒色バー)n=1、PKD(灰色バー)n=1、hPGK-EGFP(白色バー)n=2、hPGK-coRPK(斜線付きのバー)n=3。アッセイ2:健常マウスn=2、PKD n=2、hPGK-EGFP n=6、hPGK-coRPK n=10。
図10e、10f、および10gは、移植後280日目の解糖経路に関与する選択された数の代謝物質(それぞれ、PEP、3-ホスホグリセリン酸、およびD-乳酸)のRBCターゲット(targeted)代謝プロファイリングを示す。ドットは、個々のマウスの値を表す。線は、平均値±SEMを表し、ノンパラメトリッククラスカル・ウォリス検定によって分析された。アッセイ2:健常マウスn=7、PKD n=5、hPGK-EGFP n=3、hPGK-coRPK n=5。
【
図11】
図11a~cは、対照マウスおよび形質導入細胞を移植されたマウスに由来するRBCにおけるピルビン酸キナーゼ活性を示し、
図11bは、ヘキソキナーゼ活性を示し、
図11cは、ピルビン酸キナーゼ酵素活性とヘキソキナーゼ酵素活性との比を示す。RBCは、白血球PK活性混入を回避するため、セルロースカラムを通して血液試料から精製され、酵素活性評価に供された。黒色バー、健常マウス(n=2);白色バー、EGFP発現ベクターによって形質導入された細胞を移植されたマウス(n=3);斜線付きのバー、coRPK発現ベクターによって形質導入された細胞を移植されたマウス(n=3)。格子縞のバーは、健常ボランティア(n=1)からの値を表す。データは、各群の平均値±SEMを表す。
【
図12】
図12a~dは、遺伝学的に改変された細胞を移植されたマウスに由来するWBC試料におけるノンターゲット代謝プロファイリングを示す。
図12aは、対照マウスおよび移植マウスにおけるRBC(赤色ドット;左および中央)およびWBC(青色ドット;右側クラスタ)におけるノンターゲット代謝物質プロファイルの主成分分析を表す。
図12b、12c、および12dは、PKDマウスとの比較によるWBCにおけるATP、ADP、およびピルビン酸のレベルをそれぞれ示す。アッセイ1:健常マウス(黒色バー)n=1、PKD(灰色バー)n=1、hPGK-EGFP(白色バー)n=2、hPGK-coRPK(斜線付きのバー)n=3。アッセイ2:健常マウスn=2、PKD n=2、hPGK-EGFP n=6、hPGK-coRPK n=10。データは、各群の平均値±SEMを表し、ノンパラメトリッククラスカル・ウォリス検定によって分析された。
【
図13】
図13は、異なる時点および組織における全てのマウスから採集された試料についてのTsp509I酵素によって生成されたLAM-PCR産物のゲル画像を示す。ベクター組み込み部位が、3'ベクターLTRゲノムジャンクションのLAM-PCR増幅によって同定された。MultiNA自動系が使用され、数本のバンドを特徴とするパターンが生成された。ベクター骨格に由来するTsp509I内部対照バンド(IC)が、矢印によって示される。
【
図14】
図14は、異なる時点および組織における全てのマウスから採集された試料についてのHpyCH4IV5酵素によって生成されたLAM-PCR産物のゲル画像を示す。ベクター組み込み部位が、3'ベクターLTRゲノムジャンクションのLAM-PCR増幅によって同定された。MultiNA自動系が使用され、数本のバンドを特徴とするパターンが生成された。ベクター骨格に由来するHpyCH4IV5内部対照バンド(IC)が、矢印によって示される。
【
図15】
図15は、遺伝学的に改変された造血前駆細胞を移植されたマウスにおいて実施される組み込み部位マッピングの分析の一般的なスキームを示す。2回の独立の実験(表3)に属し、移植後の異なる時点で採集された移植マウスに由来する骨髄および白血球の試料が、示されたパイプラインに従い、補足的方法に記載されるように分析された。
【
図16a】
図16a~bは、移植マウスのゲノムに沿ったLV組み込みの分布を示す。
図16aは、TSSの500Kb上流および下流に及ぶ、最も近いRefSeq遺伝子の転写開始部位(TSS)の周囲の組み込み部位(IS)頻度分布を示す。上部の数字は、全ての試料および時点について検出されたISの数である。
図16bは、特定の染色体への歪みを示さない、EGFPトランスジーン(黒色バー)またはcoRPK治療用トランスジーン(灰色バー)を発現する移植マウスにおけるLV組み込み部位の染色体分布を示す。
【
図17a】
図17a~cは、coRPK-LV形質導入細胞のクローン存在量(clonal abundance)分析を証明する。アッセイ1(
図17a)および2(
図17bおよび17c)からの各マウスにおけるプールされた組み込みのクローン存在量のドットプロット表示。各組み込み部位についての相対百分率(y軸)は、各データセットにおいて入手されたシーケンスリードの総数に対するものである。IS、組み込み部位;BM、骨髄;PB、末梢血;coRPK1~14、治療用ベクターによって形質導入された造血細胞を移植されたマウス。
【
図18】
図18は、治療用PGK-coRPK LVベクターを保持する一次レシピエントマウスと二次レシピエントマウスとの間の追跡された共有された組み込みを示す。全ての器官および全ての時点においていずれかのマウスにおいて検出された組み込みが、プールされる。二次レシピエントは、移植マウスcoRPK11~14に由来するプールされたBMを受容した。検出されたISの残りは、一次レシピエントまたは二次レシピエントにおいて検出された。ボックス内の数字は、言及されたマウスにおける対応する組み込みの提示率(representativeness)を百分率で示す。組み込み分析に適用された≧5%のフィルタに加えて、シーケンスカウント<3を有する全ての組み込みが排除された。
【
図19】
図19は、EGFP-LV形質導入細胞のクローン存在量分析を証明する。骨髄における各マウスにおけるプールされた組み込みのクローン存在量のドットプロット表示。各組み込み部位についての相対百分率(y軸)は、各データセットにおいて入手されたシーケンスリードの総数に対するものである。co-RPK形質導入細胞と同様に(
図17)、グラフは、移植マウスの大部分が造血再集団のポリクローナルパターンを示すことを示す。IS、組み込み部位。
【
図20】
図20は、LVゲノム組み込みプロファイルを示す。ジーンオントロジー(GO)分析が、移植マウスに由来する試料に対してGREATソフトウェアを使用して実施された。この研究から検索された全ての組み込み(N=2220)が、図の左部分に示された遺伝子機能の過剰提示を示した。最も高存在量の組み込みが特定の遺伝子クラスにおいて濃縮されているか否かを解明するため、(
図17に示された)全データセットの>5%という相対シーケンスカウントを有する全ての組み込み部位を選択したところ、過剰提示されたGO遺伝子クラスは示されなかった。
【
図21】
図21は、医療用生成物(PGK-coRPK LV)の模式図を示す。
【
図22a】
図22a~bは、医療用生成物の作用機序を示す。
図22aは、そうでなければ、機能を実施するために十分なエネルギーを生じるための機能性RPKタンパク質を生成することができないPKD赤血球の野生型表現型を、PGK-coRPK LV医療用生成物の異所発現が救済するであろうことを示す。
図22bは、医療用生成物によるRPK欠損CD34
+造血前駆細胞のエクスビボ形質導入およびその後の患者への移植に基づく、PKD患者のための遺伝子療法戦略を示す。治療用ヒトPKLR遺伝子cDNAを保持する開発された医療用生成物は、エクスビボ形質導入によって患者のCD34
+細胞ゲノムへ組み込まれるであろう。次いで、これらの遺伝学的に矯正された細胞は、患者へ戻し注入され、そこで、治療用トランスジーンを発現するRBCを産生し、従って、PKD病理学的表現型を矯正する機能性RPKタンパク質を産生するであろう。Boston Children's Hospitalのブログから改変された図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明の詳細な説明
定義
「ベクター」とは、本明細書中で使用されるように、ポリヌクレオチドを含むかまたはポリヌクレオチドと会合し、ポリヌクレオチドの細胞への送達を媒介するために使用され得る高分子または高分子が会合したものをさす。例示的なベクターには、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、リポソーム、およびその他の遺伝子送達媒体が含まれる。
【0019】
「LV」という用語は、レンチウイルスの略語であり、ウイルス自体またはその誘導体をさすために使用され得る。この用語は、そうでないことが必要とされる場合を除き、全ての亜型をカバーし、天然に存在する型および組換え型の両方をカバーする。
【0020】
本明細書中で使用されるように、「遺伝子」または「コード配列」という用語は、遺伝子産物をコードするインビトロまたはインビボのヌクレオチド配列をさす。いくつかの場合において、遺伝子は、コード配列、即ち、遺伝子産物をコードする配列からなるか、または本質的になる。他の場合において、遺伝子は、付加的な非コード配列を含む。例えば、遺伝子は、コード領域に先行する領域および後続する領域、例えば、5'非翻訳(5'UTR)または「リーダー」配列および3'UTRまたは「トレーラー」配列、ならびに個々のコードセグメント(エクソン)の間の介在配列(イントロン)を含んでいてもよいし、または含んでいなくてもよい。
【0021】
本明細書中で使用されるように、「治療用遺伝子」とは、発現された時、それが存在する細胞もしくは組織に対して、またはその遺伝子が発現される哺乳動物に対して、有益な効果を付与する遺伝子をさす。有益な効果の例には、状態もしくは疾患の兆候もしくは症状の改善、状態もしくは疾患の防止もしくは阻害、または所望の特徴の付与が含まれる。治療用遺伝子には、細胞または哺乳動物における遺伝子欠損を矯正する遺伝子が含まれる。
【0022】
本明細書中で使用されるように、トランスジーンとは、ベクターによって細胞へ送達される遺伝子である。
【0023】
本明細書中で使用されるように、「遺伝子産物」という用語は、ポリペプチド、ペプチド、タンパク質、または低分子干渉RNA(siRNA)、miRNA、もしくは低分子ヘアピン型RNA(shRNA)を含む干渉RNAのような、ポリヌクレオチド配列の所望の発現産物をさす。
【0024】
本明細書中で使用されるように、「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、任意の長さのアミノ酸のポリマーをさす。これらの用語には、修飾されたアミノ酸ポリマー;例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質付加、リン酸化、または標識成分とのコンジュゲーションも包含される。
【0025】
「含む」とは、例えば、組成物、方法、キット等において、明記された要素が必要とされるが、特許請求の範囲の範囲内で、例えば、組成物、方法、キット等を形成するため、他の要素が含まれていてもよいことを意味する。例えば、プロモーターに機能的に連結された治療用ポリペプチドをコードする遺伝子を「含む」発現カセットとは、遺伝子およびプロモーターに加えて、他の要素、例えば、ポリアデニル化配列、エンハンサー要素、その他の遺伝子、リンカードメイン等を含んでいてもよい発現カセットである。
【0026】
「から本質的になる」とは、記載された、例えば、組成物、方法、キット等の範囲が、例えば、組成物、方法、キット等の基本的な新規の特徴に実質的に影響しない明示された材料または工程に限定されることを意味する。例えば、プロモーターおよびポリアデニル化配列に機能的に連結された治療用ポリペプチドをコードする遺伝子「から本質的になる」発現カセットは、遺伝子の転写または翻訳に実質的に影響しない限り、付加的な配列、例えば、リンカー配列を含んでいてもよい。もう一つの例として、明記された配列「から本質的になる」バリアントまたは変異体、ポリペプチド断片は、それが由来した全長未処理ポリペプチドに基づく配列の境界において、約10個のアミノ酸残基が付加されたまたは除去された、明記された配列のアミノ酸配列を有し、例えば、明記された境界アミノ酸残基より10残基、9残基、8残基、7残基、6残基、5残基、4残基、3残基、2残基、または1残基少ないか、または明記された境界アミノ酸残基より1残基、2残基、3残基、4残基、5残基、6残基、7残基、8残基、9残基、または10残基多い。
【0027】
「からなる」とは、特許請求の範囲において明示されていない要素、工程、または成分が、組成物、方法、またはキットから排除されることを意味する。例えば、プロモーターに機能的に連結された治療用ポリペプチドをコードする遺伝子および転写後制御要素「からなる」発現カセットとは、プロモーター、治療用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列、および転写後制御要素からのみなる。もう一つの例として、「明記された配列からなる」ポリペプチドは、明記された配列のみを含有している。
【0028】
「発現ベクター」には、本明細書中で使用されるように、関心対象の遺伝子産物をコードするポリヌクレオチドを含み、意図された標的細胞における遺伝子産物の発現の達成のために使用される、前述のまたは当技術分野において公知のベクター、例えば、プラスミド、ミニサークル、ウイルスベクター、リポソーム等が包含される。発現ベクターは、標的における遺伝子産物の発現を容易にするためにコード領域に効果的に連結された調節要素も含む。調節要素、例えば、プロモーター、エンハンサー、UTR、miRNAターゲティング配列等と、発現のために機能的に連結されている遺伝子との組み合わせは、時に、「発現カセット」と呼ばれる。多くのそのような調節要素は、当技術分野において公知であり入手可能であるか、または当技術分野において入手可能な成分から容易に構築され得る。
【0029】
「プロモーター」には、本明細書中で使用されるように、RNAポリメラーゼとの結合を指図し、それによって、RNA合成を促進するDNA配列、即ち、転写を指図するのに十分な最小配列が包含される。プロモーターおよび対応するタンパク質またはポリペプチドの発現は、偏在性、即ち、広範囲の細胞、組織、および種において強い活性を有するものであってもよいし、または細胞型特異的、組織特異的、もしくは種特異的であってもよい。プロモーターは、「構成性」、即ち、絶えず活性を有するものであってもよいし、または「誘導性」、即ち、生物要因もしくは非生物要因の存在もしくは欠如によって活性化されるかもしくは不活化されるものであってもよい。プロモーター配列に近接していてもよいしまたは近接していなくてもよいエンハンサー配列も、本発明の核酸構築物またはベクターに含まれる。エンハンサー配列は、プロモーター依存性の遺伝子発現に影響を及ぼし、ネイティブ遺伝子の5'または3'の領域に位置していてよい。
【0030】
「エンハンサー」には、本明細書中で使用されるように、隣接している遺伝子の転写を刺激するかまたは阻害するシス作用性要素が包含される。転写を阻害するエンハンサーは、「サイレンサー」とも呼ばれる。エンハンサーは、コード配列および転写される領域の下流の位置から数キロ塩基対(Kb)までの距離において、いずれかの方向に機能することができる(即ち、コード配列に関連していてよい)。
【0031】
「終結シグナル配列」には、本明細書中で使用されるように、例えば、ポリアデニル化シグナル配列のような、RNAポリメラーゼの転写の終結を引き起こす遺伝子要素が包含される。
【0032】
本明細書中で使用されるように、「効果的に連結された」または「機能的に連結された」という用語は、要素が期待された様式で機能することを可能にする関係にある、遺伝子要素、例えば、プロモーター、エンハンサー、終結シグナル配列、ポリアデニル化配列等の並置をさす。例えば、プロモーターが、コード配列の転写の開始を助ける場合、そのプロモーターは、そのコード領域に効果的に連結されている。この機能的関係が維持される限り、プロモーターとコード領域との間に介在する残基が存在してもよい。
【0033】
本明細書中で使用されるように、「異種」という用語は、それが比較されているエンティティの残りのものと遺伝子型が異なるエンティティに由来することを意味する。例えば、異なる種に由来するプラスミドまたはベクターに遺伝子工学技術によって導入されたポリヌクレオチドは、異種ポリヌクレオチドである。もう一つの例として、ネイティブコード配列から除去され、天然には連結されていることが見出されないコード配列に効果的に連結されたプロモーターは、異種プロモーターである。従って、例えば、異種遺伝子産物をコードする異種核酸を含むLVベクターは、天然に存在する野生型LVに通常含まれない核酸を含むLVベクターであり、コードされた異種遺伝子産物は、天然に存在する野生型LVによって通常コードされない遺伝子産物である。
【0034】
ヌクレオチド分子または遺伝子産物に関して、本明細書中で使用されるように、「内在性」という用語は、宿主ウイルスもしくは宿主細胞に天然に存在するかまたは宿主ウイルスもしくは宿主細胞に関連している核酸配列、例えば、遺伝子もしくは遺伝子要素、または遺伝子産物、例えば、RNA、タンパク質をさす。
【0035】
「ネイティブ」という用語は、本明細書中で使用されるように、野生型ウイルスまたは野生型細胞に存在するヌクレオチド配列、例えば、遺伝子、または遺伝子産物、例えば、RNA、タンパク質をさす。
【0036】
「バリアント」という用語は、本明細書中で使用されるように、参照ポリヌクレオチド配列または参照ポリペプチド配列、例えば、ネイティブポリヌクレオチド配列またはネイティブポリペプチド配列の変異体、即ち、参照ポリヌクレオチド配列または参照ポリペプチド配列との100%未満の配列同一性を有するものをさす。換言すると、バリアントは、参照ポリヌクレオチド配列、例えば、ネイティブポリヌクレオチド配列またはネイティブポリペプチド配列と比べて、少なくとも1個のアミノ酸の違い(例えば、アミノ酸置換、アミノ酸挿入、アミノ酸欠失)を含む。例えば、バリアントは、全長ネイティブポリヌクレオチド配列との70%以上の配列同一性、例えば、全長ネイティブポリヌクレオチド配列との75%または80%またはそれ以上、例えば、85%、90%、または95%、またはそれ以上の同一性、例えば、98%または99%の同一性を有するポリヌクレオチドであり得る。もう一つの例として、バリアントは、全長ネイティブポリペプチド配列との70%以上の配列同一性、例えば、全長ネイティブポリペプチド配列との75%または80%またはそれ以上、例えば、85%、90%、または95%、またはそれ以上の同一性、例えば、98%または99%の同一性を有するポリペプチドであり得る。バリアントには、参照配列、例えば、ネイティブ配列の断片との70%以上の配列同一性、例えば、ネイティブ配列との75%または80%またはそれ以上、例えば、85%、90%、または95%、またはそれ以上の同一性、例えば、98%または99%の同一性を共有している、参照配列、例えば、ネイティブ配列のバリアント断片も含まれ得る。
【0037】
本明細書中で使用されるように、「生物学的活性」および「生物学的活性を有する」という用語は、細胞における特定の生物学的要素に起因する活性をさす。例えば、「免疫グロブリン」、「抗体」、またはその断片もしくはバリアントの「生物学的活性」とは、抗原決定基に結合し、それによって、免疫学的機能を容易にする能力をさす。もう一つの例として、ポリペプチドまたはその機能性の断片もしくはバリアントの生物学的活性とは、ポリペプチドまたはその機能性の断片もしくはバリアントの、ネイティブの機能、例えば、結合、酵素活性等を実施する能力をさす。第三の例として、遺伝子制御要素、例えば、プロモーター、エンハンサー、コザック配列等の生物学的活性とは、制御要素またはその機能性の断片もしくはバリアントの、機能的に連結されている遺伝子の発現を制御する能力、即ち、それぞれ、その翻訳を促進するか、増強するか、または活性化する能力をさす。
【0038】
「投与」または「導入」という用語は、本明細書中で使用されるように、組換えタンパク質発現のためのベクターの、細胞、対象の細胞および/もしくは器官、または対象への送達をさす。そのような投与または導入は、インビボ、インビトロ、またはエクスビボで行われ得る。遺伝子産物の発現のためのベクターは、典型的には、物理的手段(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、電気穿孔、微量注入、もしくはリポフェクション)による細胞への異種DNAの挿入を意味するトランスフェクション;典型的には、感染媒介物、即ち、ウイルスによる導入をさす感染;または、典型的には、ウイルスによる細胞の安定的感染、もしくはウイルス性媒介物(例えば、バクテリオファージ)による微生物から微生物への遺伝材料の転移を意味する形質導入によって、細胞へ導入され得る。
【0039】
「形質転換」とは、典型的には、異種DNAを含む細菌、または、腫瘍細胞のような、癌遺伝子を発現し、従って、持続的な増殖モードに変換されている細胞をさすために使用される。細胞を「形質転換する」ために使用されるベクターは、プラスミド、ウイルス、またはその他の媒体であり得る。
【0040】
典型的には、細胞は、異種DNA(即ち、ベクター)の細胞への投与、導入、または挿入のために使用される手段に依って、「形質導入される」、「感染させられる」、「トランスフェクトされる」、または「形質転換される」と呼ばれる。「形質導入される」、「トランスフェクトされる」、および「形質転換される」という用語は、異種DNAの導入の方法に関わらず、本明細書中で交換可能に使用され得る。
【0041】
「宿主細胞」という用語は、本明細書中で使用されるように、ベクターによって形質導入された、感染させられた、トランスフェクトされた、または形質転換された細胞をさす。ベクターは、プラスミド、ウイルス粒子、ファージ等であり得る。温度、pH等のような培養条件は、発現のために選択された宿主細胞で従来使用されているものであり、当業者には明らかであろう。「宿主細胞」という用語は、最初の形質導入された、感染させられた、トランスフェクトされた、もしくは形質転換された細胞、およびそれらの子孫をさすことが理解されるであろう。
【0042】
「処置」、「処置する」等の用語は、一般に、所望の薬理学的効果および/または生理学的効果の入手を意味するために本明細書中で使用される。効果は、疾患もしくはその症状の完全もしくは部分的な防止、例えば、対象において疾患もしくはその症状が発生する可能性の低下という点で予防的であってもよいし、かつ/または疾患および/もしくは疾患に起因する有害効果の部分的もしくは完全な治療という点で治療的であってもよい。「処置」には、本明細書中で使用されるように、哺乳動物における疾患の処置をカバーし、(a)疾患の素因を有するが、未だそれを有すると診断されていない対象における疾患の発生の防止;(b)疾患の阻害、即ち、その発症の阻止;または(c)疾患の軽減、即ち、疾患の退縮の誘導:が含まれる。治療剤は、疾患または損傷の発症の前、途中、または後に投与され得る。進行中の疾患の処置は、処置が患者の望ましくない臨床症状を安定化するかまたは低下させる場合、特に重要である。そのような処置は、望ましくは、影響された組織における機能の完全な喪失の前に実施される。本発明の治療は、望ましくは、疾患の症候期に投与され、いくつかのケースにおいては、疾患の症候期の後に投与されるであろう。
【0043】
「個体」、「宿主」、「対象」、および「患者」という用語は、本明細書中で交換可能に使用され、ヒトおよび非ヒト霊長類、例えば、サルおよびヒト;哺乳類競技動物(例えば、ウマ);哺乳類家畜(例えば、ヒツジ、ヤギ等);哺乳類ペット(イヌ、ネコ等);ならびに齧歯類(例えば、マウス、ラット等)を含むが、これらに限定されるわけではない、哺乳動物をさす。
【0044】
本明細書中で使用される用語法は、具体的な態様を記載するためのものに過ぎず、本発明を限定するためのものではない。本明細書中で使用されるように、単数形「(a)」、「(an)」、および「(the)」には、前後関係がそうでないことを明白に示さない限り、複数形も含まれるものとする。さらに、「含む(including)」、「含む(includes)」、「有する(having)」、「有する(has)」、「含む(with)」という用語、またはそれらの変化形が、詳細な説明および/または特許請求の範囲のいずれかにおいて使用される場合、そのような用語は、「含む(comprising)」という用語と同様に包括的であるものとする。
【0045】
「約」または「およそ」という用語は、値が測定されるかまたは決定される方法、即ち、測定系の限界に一部分依存する、当業者によって決定される特定の値についての許容される誤差の範囲内を意味する。例えば、「約」とは、当技術分野における実務に従い、1標準偏差内または1標準偏差超を意味することができる。あるいは、「約」とは、所定の値の20%まで、好ましくは、10%まで、より好ましくは、5%まで、さらに好ましくは、1%までの範囲を意味することができる。あるいは、特に、生物学的な系または過程に関して、その用語は、ある値の1桁以内、好ましくは、5倍以内、より好ましくは、2倍以内を意味することができる。特定の値が本願および特許請求の範囲において記載される場合、そうでないことが記述されない限り、「約」という用語は、特定の値の許容される誤差の範囲内を意味すると想定されるべきである。
【0046】
そうでないことが示されない限り、本明細書中で使用される全ての用語は、それらが当業者に対して有する意味と同じ意味を有し、本発明の実施は、当業者の知識の範囲内にある微生物学および組換えDNAテクノロジーの従来の技術を利用するであろう。
【0047】
本発明の実施は、そうでないことが示されない限り、当業者の範囲内にある細胞生物学、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、生化学、および免疫学の従来の技術を利用する。そのような技術は、参照によって各々明示的に本明細書に組み入れられる、"Molecular Cloning: A Laboratory Manual", second edition(Sambrook et al, 1989);"Oligonucleotide Synthesis"(M.J.Gait, ed., 1984);"Animal Cell Culture"(R.I.Freshney, ed., 1987);"Methods in Enzymology"(Academic Press, Inc.);"Handbook of Experimental Immunology"(D.M.Weir & C.C.Blackwell, eds.);"Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells"(J.M.Miller & M.P.Calos, eds., 1987);"Current Protocols in Molecular Biology"(F.M.Ausubel et al, eds., 1987);"PCR:The Polymerase Chain Reaction", (Mullis et al., eds., 1994);および"Current Protocols in Immunology"(J.E.Coligan et al., eds., 1991)のような文献において完全に説明されている。
【0048】
ある種の態様において、本開示は、細胞における遺伝子の発現のためのポリヌクレオチド、ポリヌクレオチドカセット、および発現ベクターを提供する。薬学的組成物、および、例えば、障害の処置または予防のため、細胞、例えば、個体の細胞における遺伝子の発現の促進において組成物のいずれかを使用する方法も、提供される。本発明のこれらおよびその他の目的、利点、および特色は、より完全に以下に記載される組成物および方法の詳細を参照することによって、当業者に明らかになるであろう。
【0049】
本発明は、一般に、分子生物学およびウイルス学の分野、具体的には、(例えば、ペプチド、ポリペプチド、リボザイム、および触媒RNA分子を含む)選択された治療用構築物をコードする核酸セグメントの、脊椎動物の選択された細胞および組織への送達のために有用な遺伝子発現カセットおよびそれを含むベクターに関する。具体的には、これらの遺伝子構築物は、哺乳動物、具体的には、ヒトの疾患、障害、および機能障害の処置のための、例えば、レンチウイルスベクターを含む遺伝子療法ベクターの開発において有用である。
【0050】
開示された組成物は、多様なヒト疾患の防止および処置を含む、多様な調査、診断、および治療の計画において利用され得る。本発明の様々な組成物および方法が、以下に記載される。
【0051】
具体的な組成物および方法が本明細書中に例証されるが、多数の代替的な組成物および方法のいずれかが、本発明の実施において使用するために適用可能であり適当であることが理解される。本発明の発現構築物および方法の評価は、当技術分野において標準的な手法を使用して実施され得ることも理解されるであろう。
【0052】
ある種の態様において、動物、具体的には、ヒトにおける疾患、障害、および機能障害の中心的(central)遺伝子療法および標的型(targeted)遺伝子療法において有用な医薬の調製において使用するための、これらの遺伝子発現カセットを含む遺伝子療法ベクター組成物、例えば、ウイルスベクターの調製のための方法および組成物が、提供される。
【0053】
いくつかの態様において、本発明は、PKLR cDNAの発現を駆動するhPGK真核生物プロモーターを保有するレンチウイルスベクターに基づくPKDの遺伝子治療を提供する。この治療用ベクターは、マウスPKD造血幹細胞(HSC)を形質導入するために使用され、その後、骨髄破壊されたPKDマウスに移植され得る。異所RPK発現は、赤血球コンパートメントを正常化して、血液学的表現型を矯正し、器官病理を逆転させる。メタボローム研究は、白血球における代謝妨害を伴わない、遺伝学的に矯正されたPKD HSCに由来するRBCにおける解糖経路の機能的矯正を証明する。移植された造血細胞のゲノムにおけるレンチウイルス挿入部位の分析は、移植された動物のいずれにおいても遺伝毒性の証拠を示さない。全体として、結果は、hPGK-coRPKレンチウイルスベクターの治療可能性を明確に示し、PKDおよびその他の赤血球代謝遺伝性障害の遺伝子療法に対する高い期待を提供する。
【0054】
ある種の態様において、本発明は、PKDの遺伝学的矯正のためのRPKレンチウイルスベクター(LV)を提供する。このベクターによるマウスPKD-HSCの遺伝学的改変は、移植されたPKDマウスにおいて溶血表現型およびRBC代謝物質プロファイルを効率的に矯正することができる。注目すべきことに、白血球における代謝妨害およびベクター組み込みに由来する遺伝毒性の証拠は観察されず、このことは、PGK-coRPK LVベクターの治療可能性を支持している。全体として、結果は、臨床適用のために設計されたLVによるPKDの遺伝子療法の実行可能性の有力な証拠を提供する。
【0055】
本発明のある種の態様は、ヒトPLKR遺伝子のコドン最適化バージョンを発現する自己不活化型レンチウイルスベクターを含む。この発現ベクターは、プロモーター領域、コード配列、および転写後制御要素を含む。
【0056】
本発明のポリヌクレオチドカセットのある種の態様は、プロモーター配列またはその機能性断片を含むプロモーター領域を含む。一つの態様において、プロモーターは、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターである。
【0057】
本発明のいくつかの態様は、ピルビン酸キナーゼの発現の増強のためのポリヌクレオチドカセットを含む。いくつかの態様において、ポリヌクレオチドカセットは、転写時のmRNAの安定性を増加させるため、ヒトPKLR cDNAのコドン最適化バージョン(coRPK)を含む。最適化のため、転写サイレンシングを回避し、従って、トランスジーン発現を増加させるため、GC含量を増加させ、潜在性のスプライス部位を除去する、GeneArt(登録商標)ソフトウェアを使用することができる。coRPK最適化配列は、タンパク質のアミノ酸配列の変化なしに、ヒトPKLR遺伝子との80.4%の相同性を示す。あるいは、当技術分野において公知の任意の最適化方法が使用されてもよい。
【0058】
いくつかの態様において、ポリヌクレオチドカセットは、第2のエンハンサーの下流にRNA輸送シグナルを含む。RNA輸送シグナルは、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後エレメント(WPRE)配列を含み得る。いくつかの態様において、残余オープンリーディングフレームを欠く変異型ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(Wpre)(Schambach, Bohne et al.2006)も、治療用遺伝子の発現および安定性のレベルを改善するために含まれる。
【0059】
本発明のいくつかの局面において、本発明のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターが提供される。いくつかの態様において、遺伝子送達ベクターは、レンチウイルスである。
【0060】
本発明のいくつかの局面において、本発明のポリヌクレオチドカセットと薬学的賦形剤とを含む薬学的組成物が提供される。いくつかの態様において、薬学的組成物は、本発明の遺伝子送達ベクターと薬学的賦形剤とを含む。
【0061】
本発明のいくつかの局面において、哺乳動物細胞においてトランスジーンを発現させる方法が提供される。いくつかの態様において、本法は、1個または複数個の哺乳動物細胞を、有効量の本発明のポリヌクレオチドカセットまたは本発明の遺伝子送達ベクターと接触させる工程を含み、1個または複数個の哺乳動物細胞において検出可能なレベルでトランスジーンが発現される。いくつかの態様において、本法は、1個または複数個の哺乳動物細胞を有効量の本発明のポリヌクレオチドカセットまたは本発明の遺伝子送達ベクターと接触させる工程を含み、1個または複数個の哺乳動物細胞において治療レベルでトランスジーンが発現される。いくつかの態様において、本法は、インビトロである。他の態様において、本法は、インビボである。
【0062】
本発明のいくつかの局面において、疾患または障害の処置または予防の必要のある哺乳動物における疾患または障害の処置または予防の方法が提供される。いくつかの態様において、本法は、コード配列が治療用遺伝子産物をコードする本発明の薬学的組成物を、有効量、哺乳動物へ投与する工程を含む。
【0063】
組成物
本開示のいくつかの局面において、真核細胞におけるトランスジーンの発現のための組成物が提供される。いくつかの局面において、真核細胞は、哺乳動物細胞である。いくつかの局面において、哺乳動物細胞は、造血幹細胞である。いくつかの態様において、細胞は、骨髄細胞、例えば、系統枯渇骨髄細胞である。いくつかの局面において、哺乳動物細胞は、運命付けられた造血赤血球前駆細胞である。
【0064】
本開示のいくつかの態様において、組成物は、ポリヌクレオチドカセットである。「ポリヌクレオチドカセット」とは、典型的には、相互に機能的に連結されている、2種以上の機能性ポリヌクレオチド配列、例えば、制御要素、翻訳開始配列、コード配列、および/または終結配列等を含むポリヌクレオチド配列を意味する。同様に、「哺乳動物細胞におけるトランスジーンの発現のためのポリヌクレオチドカセット」とは、細胞におけるトランスジーンの発現を促進する、2種以上の機能性ポリヌクレオチド配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、5'UTR、翻訳開始配列、コード配列、および/または終結配列等の組み合わせを意味する。
【0065】
例えば、いくつかの態様において、ポリヌクレオチドカセットは、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、ヒトPKLR cDNAのコドン最適化バージョン(coRPK)、および変異型ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(Wpre)を含む。
【0066】
本明細書中に記載された発現カセットおよび遺伝子送達ベクターのいずれかの具体的な態様において、ヒトPKLRプロモーターは、以下の配列、その機能性断片、または以下の配列との少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有する配列を含むか、あるいはそれからなる。
【0067】
本明細書中に記載された発現カセットおよび遺伝子送達ベクターのいずれかの具体的な態様において、ヒトPKLRプロモーターは、以下の配列、その機能性断片、または以下の配列との少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有する配列を含むか、あるいはそれからなる。
【0068】
本明細書中に記載された発現カセットおよび遺伝子送達ベクターのいずれかの具体的な態様において、RPE配列は、以下の配列、または以下の配列との少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有する配列を含むか、あるいはそれからなる。
【0069】
本明細書中に記載された発現カセットおよび遺伝子送達ベクターのいずれかの具体的な態様において、psi配列は、HIV-1 psi配列であるか、またはpsi配列は、以下の配列、または以下の配列との少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有する配列を含むか、あるいはそれからなる。
【0070】
本明細書中に記載された発現カセットおよび遺伝子送達ベクターのいずれかの具体的な態様において、5'LTRは、以下の配列、または以下の配列との少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有する配列を含むか、あるいはそれからなる。
【0071】
本明細書中に記載された発現カセットおよび遺伝子送達ベクターのいずれかの具体的な態様において、3'LTRは、以下の配列、または以下の配列と少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有する配列を含むか、あるいはそれからなる。
【0072】
いくつかの態様において、本開示のポリヌクレオチドカセットは、哺乳動物細胞におけるトランスジーンの発現の増強を提供する。本開示の実施例によって証明されるように、本発明者らは、個々にかつ共同的に哺乳動物細胞におけるトランスジーンの発現の増強を提供する多数のポリヌクレオチド要素、即ち、当技術分野において公知のものと比較して改善された要素を発見した。ある種の態様において、本開示のポリヌクレオチドカセット内の2種以上の機能性ポリヌクレオチド配列の配置は、哺乳動物細胞におけるトランスジーンの発現の増強を提供する。「増強」とは、例えば、当技術分野において公知であるような比較可能な制御要素に機能的に連結されたトランスジーンを保持する細胞と比べて、本開示のポリヌクレオチドカセットを保持する細胞において、トランスジーンの発現が増加するか、強化されるか、またはより強力であることを意味する。換言すると、本開示の1種または複数種の最適化された要素を含まないポリヌクレオチドカセット、即ち、参照対照からの発現と比べて、本開示のポリヌクレオチドカセットからのトランスジーンの発現は、増加するか、強化されるか、またはより強力である。ある種の態様において、発現の増強は、1種または複数種の所望の細胞型に特異的であるかまたは限定される。
【0073】
例えば、トランスジーンの発現は、例えば、当技術分野において公知であるような異なるプロモーターに機能的に連結されたトランスジーンを保持する細胞より、本明細書中に開示されたプロモーターを含むポリヌクレオチドカセットを含む細胞において、増強されるか、または強化されるか、またはより強力であり得る。もう一つの例として、トランスジーンの発現は、異なるエンハンサー配列に機能的に連結されたトランスジーンを保持する細胞より、本明細書中に開示されたエンハンサー配列を含むポリヌクレオチドカセットを含む細胞において、増強されるか、または増加するか、強化されるか、またはより強力であり得る。
【0074】
プロモーターおよびエンハンサーの要素は、組織特異的または段階特異的であり得る。例えば、組織特異的なプロモーターまたはエンハンサーは、1種または複数種の特定の細胞型において優先的に発現(またはより高いレベルの発現)を駆動する。細胞型の例には、造血幹細胞、長期造血幹細胞、短期造血幹細胞、多能性前駆細胞、造血CD34+細胞、およびCD34+集団内のクラスタ分化亜集団が含まれるが、これらに限定されるわけではない。段階特異的なプロモーターまたはエンハンサーは、細胞周期または発達の1種または複数種の特定の段階において優先的に発現(またはより高いレベルの発現)を駆動する。これらには、βグロビン遺伝子座調節領域、スペクトリンプロモーター、および赤血球特異的プロモーターが含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0075】
理論によって拘束されることは望まないが、細胞におけるトランスジーンの発現の増強は、細胞における遺伝子産物のより速い組み立てまたは細胞におけるより安定的な遺伝子産物によると考えられる。従って、本開示のポリヌクレオチドカセットによるトランスジーンの発現の増強は、多数の方式で観察され得る。例えば、発現の増強は、ポリヌクレオチドカセットの細胞との接触の後に、例えば、当技術分野において公知であるような比較可能な制御要素にトランスジーンが機能的に連結されている場合に発現が検出されるより早く、例えば、2日早く、7日早く、2週間早く、3週間早く、4週間早く、8週間早く、12週間早く、またはそれ以前に、トランスジーンの発現を検出することによって観察され得る。発現の増強は、1細胞当たりの遺伝子産物の量の増加としても観察され得る。例えば、哺乳動物細胞1個当たりの遺伝子産物の量の2倍以上の増加、例えば、3倍以上の増加、4倍以上の増加、5倍以上の増加、または10倍以上の増加が存在し得る。発現の増強は、ポリヌクレオチドカセットによって保持されたトランスジーンを検出可能なレベルで発現する哺乳動物細胞の数の増加としても観察され得る。例えば、検出可能なレベルのトランスジーンを発現する哺乳動物細胞の数の2倍以上の増加、例えば、3倍以上の増加、4倍以上の増加、5倍以上の増加、または10倍以上の増加が存在し得る。もう一つの例として、本発明のポリヌクレオチドは、従来のポリヌクレオチドカセットと比較して、より大きい百分率の細胞において検出可能なレベルのトランスジーンを促進することができ;例えば、従来のカセットが、例えば、ある領域における細胞の5%未満において検出可能なレベルのトランスジーン発現を促進する場合、本発明のポリヌクレオチドは、その領域における細胞の5%以上において検出可能なレベルの発現を促進し;例えば、接触させられた細胞の10%以上、15%以上、20%以上、25%以上、30%以上、35%以上、40%以上、または45%以上、いくつかの場合において、50%以上、55%以上;60%以上、65%以上、70%以上、または75%以上、例えば、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上が、検出可能なレベルの遺伝子産物を発現するであろう。発現の増強は、細胞の生存度および/または機能の変更としても観察され得る。
【0076】
本開示のポリヌクレオチドカセットは、典型的には、プロモーター領域を含む。プロモーター領域が真核細胞におけるコード配列の発現を促進する限り、任意の適当なプロモーター領域またはその中のプロモーター配列が、本発明のポリヌクレオチドカセットにおいて使用され得る。ある種の態様において、プロモーター領域は、哺乳動物細胞におけるコード配列の発現を促進する。いくつかの場合において、プロモーターは、偏在性プロモーター、即ち、広範囲の細胞、組織、および種において活性を有するプロモーターである。他の場合において、プロモーターは、ヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターである。
【0077】
いくつかの態様において、ポリヌクレオチドは、1種または複数種のエンハンサーを含む。エンハンサーは、転写を増強することが当技術分野において公知の核酸要素であり、それらが制御する遺伝子と会合して任意の場所に、例えば、上流、下流、イントロン内等に位置していてよい。プロモーターと組み合わせて使用された時に遺伝子の発現を増強する限り、任意のエンハンサー要素が、本開示のポリヌクレオチドカセットおよび遺伝子療法ベクターにおいて使用され得る。
【0078】
細胞において発現されるコード配列は、任意のポリヌクレオチド配列、例えば、遺伝子産物、例えば、ポリペプチドをコードする遺伝子もしくはcDNA、またはRNAに基づく治療薬(siRNA、アンチセンス、リボザイム、shRNA等)であり得る。コード配列は、機能的に連結されたプロモーター配列に対して異種、即ち、天然には機能的に会合していないものであってよい。あるいは、コード配列は、機能的に連結されたプロモーター配列に対して内在性、即ち、自然界においてそのプロモーターと会合しているものであってもよい。遺伝子産物は、哺乳動物細胞において内因的に作用してもよいし、または外因的に作用してもよく、例えば、分泌されてもよい。例えば、トランスジーンが治療用遺伝子である時、コード配列は、疾患または障害を処置するための治療薬として使用され得る所望の遺伝子産物またはその機能性断片もしくはバリアントをコードする遺伝子であり得る。様々な好ましい態様において、トランスジーンは、ヒトPKLRをコードする。
【0079】
本発明の一つの態様において、トランスジーンをコードする配列は、低頻度に提示されるコドンを、より高頻度に提示されるコドンに交換することによって、発現を増強するため、改変されるか、または「コドン最適化」される。コード配列とは、翻訳のためのアミノ酸をコードするmRNA配列の部分である。翻訳においては、61種のトリヌクレオチドコドンの各々が、20種のアミノ酸のうちの1種へ翻訳されるため、遺伝暗号の縮重または重複がもたらされる。しかしながら、異なる細胞型および異なる動物種は、同じアミノ酸をコードする(各々アンチコドンを保持している)tRNAを異なる頻度で利用する。遺伝子配列が、対応するtRNAによって低頻度に提示されるコドンを含有している時、リボソーム翻訳機構は、遅くなり、効率的な翻訳が妨害され得る。特定の種のための「コドン最適化」を介して発現を改善することができ、ここでコード配列は、同じタンパク質配列をコードするが、高度に提示されかつ/または高度に発現されたヒトタンパク質によって利用されるコドンを利用するように、変更される(Cid-Arregui et al, 2003;J.Virol.77:4928)。本発明の一つの局面において、トランスジーンのコード配列は、哺乳動物または霊長類において低頻度に発現されるコドンを、霊長類において高頻度に発現されるコドンに交換するように、改変される。例えば、いくつかの態様において、トランスジーンによってコードされたコード配列は、コード配列の少なくとも1個のコドンが、前記または本明細書中に開示された配列における対応するコドンより高いtRNA頻度をヒトにおいて有する、前記または本明細書中に開示された配列によってコードされたポリペプチドとの少なくとも85%の配列同一性、例えば、少なくとも90%の配列同一性、例えば、少なくとも95%の配列同一性、少なくとも98%の同一性、少なくとも99%の同一性を有するポリペプチドをコードする。
【0080】
本発明の付加的な態様において、トランスジーンをコードする配列は、所望のトランスジーンをコードしないオープンリーディングフレーム(ORF)の終結または除去によって、発現を増強するために改変される。オープンリーディングフレーム(ORF)とは、開始コドンに後続し、終止コドンを含有していない核酸配列である。ORFは、順方向にあってもよいしまたは逆方向にあってもよく、関心対象の遺伝子と比較して「インフレーム」にあってもよいしまたは「アウトオブフレーム」にあってもよい。そのようなオープンリーディングフレームは、関心対象の遺伝子と並んで発現カセットにおいて発現される可能性を有し、不要な有害効果をもたらし得る。本発明の一つの局面において、トランスジーンのコード配列は、コドン使用をさらに変更することによって、オープンリーディングフレームを除去するように改変されている。これは、アミノ酸配列を保存し、関心対象の遺伝子において高度に利用されるコドンを維持しながら(即ち、<20%の頻度を有するコドンを回避しながら)、開始コドン(ATG)を排除し、逆方向またはアウトオブフレームのORFに終止コドン(TAG、TAA、またはTGA)を導入することによって行われた。本発明において、トランスジーンをコードする配列は、コドン最適化および非トランスジーンORFの除去のいずれかによって、または両方の技術を使用して、最適化され得る。当業者に明らかであるように、コドン最適化において導入されたORFを除去するため、コドン最適化の後に非トランスジーンORFを除去するかまたは最小化することが好ましい。
【0081】
いくつかの態様において、本発明のポリヌクレオチドカセットは、RN輸送シグナルをさらに含む。例示的なRNA輸送配列には、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後エレメント(WPRE)由来の配列が含まれるが、これに限定されるわけではない。ウッドチャック肝炎ウイルス(WHV)転写後調節エレメント(Wpre)は、プロモーターおよびベクターとは無関係に、トランスジーンにおけるRNA安定性を増加させることによって、標的細胞におけるトランスジーン発現を有意に増加させる(Zuffrey et al, 1999)。しかしながら、それは、肝臓癌に関与するWHV X遺伝子に由来する短縮型60アミノ酸タンパク質を発現させることができる(Kingsman et al, 2005)。従って、大部分の前臨床プロトコルおよび臨床試験が、Wpre要素の変異バージョンを含む(Zanta-Boussif et al, 2009)。他方、SIN-LVベクターにおける2個のSV40-USE要素の使用は、転写リードスルーの抑制においてWPRE配列より効率的であることが見られている(Schambach et al, 2007)。より正確には、本明細書中に開示されたWPREは、Axel Schambachによって実施された修飾型WPREに由来する589ヌクレオチド(ヌクレオチド1~589)(WO 2008136670 A2;[5])と、元のWPREに由来する88ヌクレオチド(ヌクレオチド590~677)(Zuffrey et al, 1999)とを保持するキメラWPREである。本明細書中に開示されたデータは、このキメラwpreが元のWPREより良好に機能することを示す。キメラWPRE配列は、下記表にリストされた配列を含む。
【0082】
【0083】
本発明は、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:9に示された配列との少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を有する配列を含む核酸、例えば、ポリヌクレオチド配列も含む。具体的な態様において、ポリヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:1またはSEQ ID NO:9に示された配列を含む。
【0084】
本明細書中に記載された発現カセットおよび遺伝子送達ベクターのいずれかの具体的な態様において、Wpre配列は、SEQ ID NO:1の配列、またはSEQ ID NO:1の配列との少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有する配列を含むか、あるいはそれからなる。
【0085】
本明細書中に記載された発現カセットおよび遺伝子送達ベクターのいずれかの具体的な態様において、Wpre配列は、以下の配列、または以下の配列との少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有する配列を含むか、あるいはそれからなる。
【0086】
ある種の態様において、発現カセットまたは遺伝子送達ベクター、例えば、レンチウイルスは、5'から3'の順で以下の配列を含むポリヌクレオチド配列を含む:
(a)PGKプロモーター配列、任意で、ヒトPGKプロモーター配列;
(b)ピルビン酸キナーゼポリペプチドをコードする配列、任意で、コドン最適化されたRPKのコード配列またはcDNA配列;および
(c)任意で、SEQ ID NO:1の配列を含むか、またはそれからなる、変異体Wpre配列。
【0087】
ある種の態様において、発現カセットまたは遺伝子送達ベクター、例えば、レンチウイルスは、5'から3'の順で以下の配列を含むポリヌクレオチド配列を含む:
(a)cPPT配列;
(b)PGKプロモーター配列、任意で、ヒトPGKプロモーター配列;
(c)ピルビン酸キナーゼポリペプチドをコードする配列、任意で、コドン最適化されたRPKのコード配列またはcDNA配列;および
(d)任意で、SEQ ID NO:1の配列を含むか、またはそれからなる、変異体Wpre配列。
【0088】
ある種の態様において、発現カセットまたは遺伝子送達ベクター、例えば、レンチウイルスは、5'から3'の順で以下の配列を含むポリヌクレオチド配列を含む:
(a)5'LTR、任意で、修飾型5'LTR;
(b)cPPT配列;
(c)PGKプロモーター配列、任意で、ヒトPGKプロモーター配列;
(d)ピルビン酸キナーゼポリペプチドをコードする配列、任意で、コドン最適化されたRPKのコード配列またはcDNA配列;
(e)任意で、SEQ ID NO:1の配列を含むか、またはそれからなる、変異体Wpre配列;および
(f)3'LTR、任意で、修飾型3'LTR。
【0089】
ある種の態様において、遺伝子送達ベクターは、PGK-coRPK LVであるか、または
図21に示された要素を含む。
【0090】
本明細書中に記載された発現カセットおよび遺伝子送達ベクターのいずれかの具体的な態様において、コドン最適化されたRPKのcDNA配列またはコード配列は、GenBankアクセッション番号XP_016856982.1、XP_011507942.1、XP_006711449.1、NP_870986.1、もしくはNP_000289.1のいずれかに開示された配列を含むもしくはそれからなるPKLRポリペプチド、これらの配列のいずれかの機能性断片、またはこれらの配列のいずれかとの少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有する配列をコードする。
【0091】
本明細書中に開示されたまたは当技術分野において公知の両方の要素の他の組み合わせは、当業者によって容易に理解されるであろう。
【0092】
さらに、当業者によって認識されるように、ポリヌクレオチドカセットは、クローニングを容易にするための制限部位および特定の遺伝子発現ベクターのための制御要素を含むが、これらに限定されるわけではない、他の要素を任意で含有していてもよい。
【0093】
本発明のいくつかの局面において、本発明のポリヌクレオチドカセットは、例えば、遺伝子が細胞の生存度および/または機能に対して及ぼす効果を決定するため、細胞障害を処置するため、等のため、動物の細胞へ遺伝子を送達するために使用される。従って、本発明のいくつかの局面において、哺乳動物細胞におけるトランスジーンの発現を提供する組成物は、本開示のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターである。
【0094】
ポリヌクレオチド配列を哺乳動物細胞へ送達するために有用な任意の便利な遺伝子療法ベクターが、本開示の遺伝子送達ベクターに包含される。例えば、ベクターは、一本鎖または二本鎖の核酸、例えば、一本鎖または二本鎖のDNAを含み得る。例えば、遺伝子送達ベクターは、DNA、例えば、裸のDNA、例えば、プラスミド、ミニサークル等であり得る。ベクターは、RNAの修飾型を含む一本鎖または二本鎖のRNAを含んでいてもよい。もう一つの例において、遺伝子送達ベクターは、RNA、例えば、mRNAまたは修飾型mRNAであり得る。
【0095】
もう一つの例として、遺伝子送達ベクターは、ウイルス、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス(LV)、ヘルペスウイルス、アルファウイルス、またはレトロウイルス、例えば、モロニーマウス白血病ウイルス(M-MuLV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳癌ウイルス(MuMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、スプーマウイルス、フレンドマウス白血病ウイルス、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)、およびラウス肉腫ウイルス(RSV)、またはレンチウイルスに由来するウイルスベクターであり得る。レンチウイルスの使用を包含する態様が、より詳細に以下に記載されるが、当技術分野における類似の知識および技術を非LV遺伝子療法ベクターに向けてもよいことを、当業者は理解するであろうと期待される。いくつかの態様において、遺伝子送達ベクターは、自然治癒型レンチウイルスである。
【0096】
そのような態様において、本発明のポリヌクレオチドカセットの5'末端および3'末端には、機能性の長い末端反復配列(LTR)配列が隣接している。一つの態様において、レンチウイルスベクターの骨格に存在する異なる要素の位置は、
図1に示される。両方のLTR配列は、自己不活化型(SIN)LVベクターを生成するために改変されている。SINベクターは、U3領域に由来するプロモーター/エンハンサー要素をカバーする400bp欠失を3'-LTRに有する。従って、トランスジーンの発現は、内部プロモーターに依存し、RCLのリスクが低下し、プロモーター干渉が減少する(Ginn et al, 2003)。この3'-LTR欠失は、TATAボックスを除去して、転写開始を防止し(Miyoshi et al.1998;Zuffrey et al 1998);従って、ベクターを不活化する。5'-LTRのU3領域は、Tat非依存性の転写を達成し、ゲノムRNA合成を増加させ、ウイルス力価の増加をもたらすため、他の異種促進配列(即ち、CMVまたはRSV)に交換された。5'-U3領域は一次転写物の発現を駆動するため、その改変は形質導入細胞には存在しないであろう(Schambach et al.2009)。βグロビンもしくはSV40ポリアデニル化シグナルのような外来性要素(Iwakuma et al, 1999)またはサルウイルス40由来の上流配列要素(USE)(SV40-USE)(Schambach et al, 2007)も、内部プロモーター(Zaiss et al, 2002)またはSIN-LVベクターの欠失したU3領域の残遺物(Almarza et al.2011)からの転写リードスルーを減少させ、下流遺伝子の可能性のある転写活性化を防止するため、ウイルス3'LTRのR領域に含まれた。リーダー領域は、パッケージングシグナル(Ψ)を含有しており、LVベクターは、この領域にGag遺伝子のおよそ300bpを必要とすると考えられた。現在、このGag配列は、わずか40bpにまで低下している(
図1)。Rev応答要素(RRE)も、周囲のEnv残遺物を含有しているが、遺伝子移入の効率を改善するために含まれた。組み込み前複合体の核移行を容易にするセントラルポリプリントラクト(cPPT)は、逆転写酵素の分離に関与するセントラルターミナル配列(CTS)と共に、ウイルス力価を改善することが見られている(Zennou, et al.2000;Follenzi et al.2000)。具体的な態様において、本明細書中に記載された発現カセットまたは遺伝子送達ベクターのいずれかに存在するcPPTは、以下の配列:
またはSEQ ID NO:2との少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、もしくは少なくとも99%の同一性を有する配列を含むか、あるいはそれからなる。
【0097】
dNEF/PPTシグナルは、逆転写のために必須であり、その組み入れは、LVベクター作製を有意に改善する。
【0098】
本開示のポリヌクレオチドカセットを被包している遺伝子療法ベクターは、標準的な方法論を使用して作製され得る。例えば、LVビリオンのケースにおいては、本発明によるLV発現ベクターが、産生細胞へ導入され、続いて、LVヘルパー構築物が導入される。ヘルパー構築物は、産生細胞において発現されることができ、LVベクターに存在しないLVヘルパー機能を補完するLVコード領域を含む。その後、効率的なLVウイルス作製を支持することができる補助機能を提供するヘルパーウイルスおよび/または付加的なベクターが、産生細胞へ導入される。次いで、産生細胞は、LVを作製するために培養される。これらの工程は、標準的な方法論を使用して実施される。
【0099】
以下の実施例に記載されるものを含むが、それらに限定されるわけではない任意の適当な方法を、本発明のポリヌクレオチドカセットの送達のためのウイルス粒子を作製するために使用することができる。哺乳動物細胞を効率的に形質導入するために適当なウイルス粒子の濃度を、インビトロまたはインビボで哺乳動物細胞を接触させるために調製することができる。例えば、ウイルス粒子は、1ml当たり108ベクターゲノム以上、例えば、1ml当たり5×108ベクターゲノム;1ml当たり109ベクターゲノム;1ml当たり5×109ベクターゲノム、1ml当たり1010ベクターゲノム、1ml当たり5×1010ベクターゲノム;1ml当たり1011ベクターゲノム;1ml当たり5×1011ベクターゲノム;1ml当たり1012ベクターゲノム;1ml当たり5×1012ベクターゲノム;1ml当たり1013ベクターゲノム;1ml当たり1.5×1013ベクターゲノム;1ml当たり3×1013ベクターゲノム;1ml当たり5×1013ベクターゲノム;1ml当たり7.5×1013ベクターゲノム;1ml当たり9×1013ベクターゲノム;1ml当たり1×1014ベクターゲノム、1ml当たり5×1014ベクターゲノム、またはそれ以上、典型的には、1ml当たり1×1015ベクターゲノム以下の濃度で製剤化され得る。
【0100】
本発明のLV組成物の調製において、例えば、哺乳動物細胞(例えば、293細胞)、昆虫細胞(例えば、SF9細胞)、微生物、および酵母を含む任意の宿主細胞を、LVビリオンを作製するために利用することができる。宿主細胞は、LVのrep遺伝子およびgap遺伝子が宿主細胞において安定的に維持されているパッケージング細胞、またはLVベクターゲノムが安定的に維持されパッケージングされている産生細胞であってもよい。例示的なパッケージング細胞および産生細胞は、SF-9細胞、293細胞、A549細胞、またはHeLa細胞に由来する。LVベクターは、当技術分野において公知の標準的な技術を使用して、精製され、製剤化される。
【0101】
ある種の態様において、本発明は、本明細書中に開示された発現カセットまたは遺伝子送達ベクターを含む細胞を含む。関連する態様において、細胞は、本明細書中に開示された発現カセットを含むウイルスベクターによって形質導入されるか、または細胞のゲノムに組み込まれた本明細書中に開示された発現カセットを有する。ある種の態様において、細胞は、ウイルス遺伝子送達ベクターを作製するために使用される細胞である。他の態様において、細胞は、発現カセットによってコードされた遺伝子産物を対象へ提供するために対象へ送達される細胞である。従って、ある種の態様において、細胞は、処置される対象に対して自己であるか、または処置される対象から入手されたものである。他の態様において、細胞は、処置される対象に対して同種であるか、または処置される対象以外のドナーから入手されたものである。具体的な態様において、細胞は、哺乳動物細胞、例えば、ヒト細胞である。ある種の態様において、細胞は、血液細胞、赤血球、造血前駆細胞、骨髄細胞、例えば、系統枯渇骨髄細胞、造血幹細胞(例えば、CD34+)、または運命付けられた造血赤血球前駆細胞である。
【0102】
本発明は、本明細書中に記載されたポリヌクレオチドカセット、遺伝子送達ベクター、または細胞と、薬学的に許容される担体、希釈剤、または賦形剤とを含む薬学的組成物を含む。本発明のポリヌクレオチドカセット、遺伝子送達ベクター、または細胞は、一般に、安全で、無毒で、望ましく、霊長類において使用するために許容される賦形剤を含む、製剤の調製において有用な薬学的に許容される担体、希釈剤、および試薬と組み合わせられ得る。そのような賦形剤は、固体、液体、半固体であってよく、または、エアロゾル組成物のケースにおいて、気体であってよい。そのような賦形剤、担体、または希釈剤の例には、水、生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、および5%ヒト血清アルブミンが含まれるが、これらに限定されるわけではない。補足的な活性化合物が、製剤へ組み入れられてもよい。製剤のために使用される溶液または懸濁液は、注射用水、生理食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、またはその他の合成溶媒のような無菌の希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンのような抗菌化合物;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムのような抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のようなキレート化合物;酢酸、クエン酸、またはリン酸のような緩衝剤;凝集を防止するTween 20のような界面活性剤;ならびに塩化ナトリウムまたはデキストロースのような浸透圧の調整のための化合物を含んでいてよい。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムのような酸または塩基によって調整され得る。具体的な態様において、薬学的組成物は、無菌である。
【0103】
本発明において使用するために適当な薬学的組成物には、無菌の水性溶液または分散液、ならびに無菌の注射可能溶液または分散液の即時調製のための無菌粉末がさらに含まれる。
【0104】
無菌溶液は、必要とされた量の活性化合物を、前掲の成分のうちの一つまたは組み合わせと共に、適切な溶媒に組み入れ、続いて、ろ過滅菌することによって調製され得る。一般に、分散液は、基本的な分散媒および前掲のものからの必要とされる他の成分を含有している無菌媒体へ、活性化合物を組み入れることによって調製される。無菌注射可能溶液の調製のための無菌粉末のケースにおいて、調製の方法は、事前にろ過滅菌された溶液から、活性成分+付加的な所望の成分の粉末を与える真空乾燥および凍結乾燥である。
【0105】
一つの態様において、組成物は、植込みおよびマイクロカプセル化送達系を含む放出制御製剤のような、身体からの迅速な排除から遺伝子カセットまたは発現ベクターを保護する担体によって調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸のような生分解性生体適合性ポリマーを使用することができる。そのような製剤の調製の方法は、当業者に明らかであろう。材料は、商業的に入手されてもよい。
【0106】
投与が容易であり投薬量が均一であるため、投薬単位形態で、経口組成物、眼組成物、または非経口組成物を製剤化することは、特に有利である。投薬単位形態とは、本明細書中で使用されるように、処置される対象のための単位投薬量として適した物理的に不連続の単位をさし;各単位は、必要とされた薬学的担体と共同で所望の治療効果を生じるよう計算された予定された量の活性化合物を含有している。本発明の投薬単位形態についての明細は、活性化合物の独特の特徴、および達成されるべき具体的な治療効果、および個体の処置のためのそのような活性化合物の調合の分野に固有の限界によって指示され、それらに直接依存する。
【0107】
薬学的組成物は、投与の説明書と共に、容器、パック、またはディスペンサー、例えば、注射器、例えば、予め充填された注射器に含まれていてよい。
【0108】
本発明の薬学的組成物には、薬学的に許容される塩、エステル、またはそのようなエステルの塩、またはヒトを含む動物への投与時に生物学的活性を有する代謝物質もしくはその残基を(直接的もしくは間接的に)提供することができるその他の任意の化合物が包含される。
【0109】
「薬学的に許容される塩」という用語は、本発明の化合物の生理学的かつ薬学的に許容される塩:即ち、親化合物の所望の生物学的活性を保持しており、不要な毒物学的効果を付与しない塩をさす。多様な薬学的に許容される塩が、当技術分野において公知であり、例えば、"Remington's Pharmaceutical Sciences", 17th edition, Alfonso R.Gennaro(Ed.), Mark Publishing Company, Easton, PA, USA, 1985(およびより最近の版)、"Encyclopaedia of Pharmaceutical Technology", 3rd edition, James Swarbrick(Ed.), Informa Healthcare USA(Inc.), NY, USA, 2007、およびJ.Pharm.Sci.66:2(1977)に記載されている。適当な塩に関する概説については、Handbook of Pharmaceutical Salts:Properties, Selection, and Use by Stahl and Wermuth(Wiley-VCH, 2002)も参照すること。
【0110】
薬学的に許容される塩基付加塩は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属または有機アミンのような、金属またはアミンによって形成される。陽イオンとして使用される金属には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等が含まれる。アミンには、N-N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、ジシクロヘキシルアミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、およびプロカインが含まれる(例えば、Berge et al, "Pharmaceutical Salts, "J.Pharma Sci., 1977, 66, 119を参照すること)。酸性化合物の塩基付加塩は、従来の様式で、塩を作製するために十分な量の所望の塩基と、遊離酸型を接触させることによって調製される。遊離酸型は、従来の様式で、塩型を酸と接触させ、遊離酸を単離することによって再生され得る。遊離酸型は、極性溶媒への可溶性のようなある種の物理的性質について、それぞれの塩型と多少異なるが、その他の点では、塩は、本発明の目的のため、それぞれの遊離酸と等しい。
【0111】
本発明のポリヌクレオチドカセット、遺伝子送達ベクター、例えば、組換えウイルス(ビリオン)、または(例えば、本明細書中に開示された遺伝子送達ベクターによって形質導入された)細胞を、哺乳類患者、具体的には、霊長類、より具体的には、ヒトへの投与のため、薬学的組成物へ組み入れることができる。本発明のポリヌクレオチドカセット、遺伝子送達ベクター、例えば、ビリオン、または細胞は、好ましくは、3~8の範囲、より好ましくは、6~8の範囲のpHで、無毒の不活性の薬学的に許容される水性担体において製剤化されてよい。そのような無菌組成物は、再生時に許容されるpHを有する水性緩衝液に溶解した治療用分子をコードする核酸を含有しているベクターまたはビリオンを含むであろう。
【0112】
いくつかの態様において、本明細書中に提供される薬学的組成物は、薬学的に許容される担体および/または賦形剤、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸、およびアミノ酸、ポリマー、ポリオール、糖、緩衝剤、保存剤、およびその他のタンパク質と混和された、本明細書中に開示された細胞、ベクター、またはビリオンを、治療的に有効な量、含む。例示的なアミノ酸、ポリマー、および糖等は、オクチルフェノキシポリエトキシエタノール化合物、モノステアリン酸ポリエチレングリコール化合物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖、フルクトース、デキストロース、マルトース、グルコース、マンニトール、デキストラン、ソルビトール、イノシトール、ガラクチトール、キシリトール、ラクトース、トレハロース、ウシまたはヒトの血清アルブミン、クエン酸、酢酸、リンゲル液、ハンクス液、システイン、アルギニン、カルニチン、アラニン、グリシン、リジン、バリン、ロイシン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレン、およびグリコールである。好ましくは、この製剤は、4℃で少なくとも6ヶ月間安定している。
【0113】
いくつかの態様において、本明細書中に提供される薬学的組成物は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)またはリン酸ナトリウム/硫酸ナトリウム、トリス緩衝液、グリシン緩衝液、滅菌水、およびGood et al.(1966)Biochemistry 5:467に記載されたもののような当業者に公知のその他の緩衝液のような緩衝液を含む。アデノウイルスベクター送達系に含有された腫瘍抑制遺伝子を含む薬学的組成物における緩衝液のpHは、6.5~7.75、好ましくは、7~7.5、最も好ましくは、7.2~7.4の範囲にあり得る。
【0114】
ある種の態様において、ウイルスベクターは、非限定的に、1×108ベクターゲノム以上、例えば、1×109ベクターゲノム、1×1010ベクターゲノム、1×1011ベクターゲノム、1×1012ベクターゲノム、もしくは1×1013ベクターゲノム、またはそれ以上、ある種の場合において、1×1014ベクターゲノム、一般的には、4×1015ベクターゲノム以下を含む、任意の適当な単位投薬量へ製剤化され得る。いくつかのケースにおいて、単位投薬量は、多くても約5×1015ベクターゲノム、例えば、1×1014ベクターゲノム以下、例えば、1×1013ベクターゲノム、1×1012ベクターゲノム、1×1011ベクターゲノム、1×1010ベクターゲノム、もしくは1×109ベクターゲノム、またはそれ以下、ある種の場合において、1×108ベクターゲノム以下、典型的には、1×108ベクターゲノム以上である。いくつかのケースにおいて、単位投薬量は、1×1010~1×1011ベクターゲノムである。いくつかのケースにおいて、単位投薬量は、1×1010~3×1012ベクターゲノムである。いくつかのケースにおいて、単位投薬量は、1×109~3×1013ベクターゲノムである。いくつかのケースにおいて、単位投薬量は、1×108~3×1014ベクターゲノムである。一つの態様において、範囲は、約5×1010~約1×1011ベクターゲノムである。いくつかの態様において、範囲は、約1×109~約1×1010ベクターゲノムである。
【0115】
いくつかのケースにおいて、薬学的組成物の単位投薬量は、感染多重度(MOI)を使用して測定され得る。MOIとは、核酸が送達され得る細胞に対する、ベクターまたはウイルスゲノムの比または倍数を意味する。いくつかのケースにおいて、MOIは、1×106であり得る。いくつかのケースにおいて、MOIは、1×105~1×107であり得る。いくつかのケースにおいて、MOIは、1×104~1×108であり得る。いくつかのケースにおいて、本開示の組換えウイルスは、少なくとも約1×101、1×102、1×103、1×104、1×105、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、および1×1018 MOIである。いくつかのケースにおいて、本開示の組換えウイルスは、1×108~3×1014 MOIである。いくつかのケースにおいて、本開示の組換えウイルスは、多くても1×101、1×102、1×103、1×104、1×105、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、および1×1018 MOIである。いくつかの態様において、範囲は、約20~約400 MOIである。
【0116】
いくつかの局面において、薬学的組成物の量は、約1×108~約1×1015組換えウイルス、約1×109~約1×1014組換えウイルス、約1×1010~約1×1013組換えウイルス、または約1×1011~約3×1012組換えウイルスを含む。
【0117】
方法
本明細書中に開示されるように、本明細書中で集合的に「本発明の組成物」と呼ばれる本発明のポリヌクレオチドカセットおよび遺伝子送達ベクターは、動物の細胞におけるトランスジーンの発現において有用である。例えば、本発明の組成物は、研究において、例えば、細胞の生存度および/または機能に対して遺伝子が及ぼす効果を決定するため、使用され得る。もう一つの例として、本発明の組成物は、医療において、例えば、疾患または障害を処置するかまたは防止するため、使用され得る。従って、本発明のいくつかの局面において、細胞を本開示の組成物と接触させる工程を含む、細胞における遺伝子の発現の方法が提供される。いくつかの態様において、接触は、インビトロまたはエクスビボで行われる。いくつかの態様において、接触は、インビボで行われる、即ち、本発明の組成物が対象へ投与される。
【0118】
哺乳動物細胞が、本発明のポリヌクレオチドカセットまたは本発明のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターとインビトロまたはエクスビボで接触させられる場合、細胞は、任意の哺乳動物種、例えば、齧歯類(例えばマウス、ラット、スナネズミ、リス)、ウサギ、ネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、霊長類、ヒトに由来するものであってよい。細胞は、樹立細胞株に由来してもよいし、または初代細胞であってもよく、「初代細胞」、「初代細胞株」、および「初代培養物」とは、対象に由来し、培養物の限定された数の継代、即ち、分裂の間、インビトロで増殖させられた細胞および細胞培養物をさすため、交換可能に本明細書中で使用される。例えば、初代培養物は、0回、1回、2回、4回、5回、10回、または15回、クライシス期を経るほど十分ではない回数、継代されていてよい培養物である。典型的には、本発明の初代細胞株は、10回未満の継代の間、インビトロで維持される。
【0119】
本発明の態様は、ヒト肝臓・赤血球型ピルビン酸キナーゼ(PKLR)遺伝子を含有しているウイルス送達ベクター、例えば、レンチウイルスベクターによって形質導入された哺乳動物細胞(例えば、CD34+細胞)を含む。従って、本発明は、本明細書中に記載された発現カセットを含むウイルス送達ベクター、例えば、レンチウイルスベクターと、細胞を接触させる工程を含む、本明細書中に記載された哺乳動物細胞、例えば、ヒト造血幹細胞またはその他の細胞を形質導入する方法を含む。ある種の態様において、細胞は、処置される対象または他のドナーから事前に入手されたものである。具体的な態様において、対象は、PKDを有すると診断されており、細胞は、ピルビン酸キナーゼをコードする発現カセット、例えば、コドン最適化されたRPKのコード領域またはcDNAを含むLVによって形質導入される。開示された方法、例えば、coPRK cDNA配列を使用して、例えば、ピルビン酸キナーゼ遺伝子産物を対象へ送達するために使用される方法は、溶血性貧血を処置し、かつ/または赤血球分化を正常化するため、機能性成熟赤血球の数を増加させるため、髄外赤血球生成を低下させるため、脾腫および溶血性貧血またはPKDのその他の二次的効果を低下させるためにも、使用され得ることが理解される。
【0120】
トランスジーンの発現を促進するため、本発明のポリヌクレオチドカセットまたは本発明のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターは、約30分~24時間またはそれ以上、例えば、1時間、1.5時間、2時間、2.5時間、3時間、3.5時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、12時間、16時間、18時間、20時間、24時間等の間、細胞と接触させられるであろう。
【0121】
本発明のポリヌクレオチドカセットまたは本発明のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターは、1回または複数回、例えば、1回、2回、3回、または3回超、本発明の細胞へ提供され得、細胞は、各接触イベントの後、いくらかの量の時間、例えば、16~24時間、薬剤と共にインキュベートされ、その時間の後に、培地が新鮮な培地に交換され、細胞がさらに培養される。細胞の接触は、任意の培養培地において、細胞の生存を促進する任意の培養条件の下で行われてよい。培養物は、細胞が応答性である増殖因子を含有していてよい。増殖因子とは、本明細書中で定義されるように、膜貫通型受容体に対する特異的な効果を通して、培養物または完全組織のいずれかにおいて、細胞の生存、増殖、および/または分化を促進することができる分子である。増殖因子には、ポリペプチドおよび非ポリペプチド因子が含まれる。
【0122】
典型的には、本発明のポリヌクレオチドカセットまたは本発明のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターは、細胞におけるトランスジーンの発現を生じるために有効な量、提供される。本明細書中の他の場所に記述されるように、有効量は、経験的に、例えば、トランスジーン遺伝子産物の存在またはレベルの検出、細胞の生存度または機能に対する効果の検出等によって、容易に決定され得る。典型的には、本発明のポリヌクレオチドカセットまたは本発明のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターの有効量は、当技術分野において公知の同量のポリヌクレオチドカセットより大きい、細胞におけるトランスジーンの発現を促進するであろう。典型的には、発現は、例えば、当技術分野において公知の参照ポリヌクレオチドカセットまたは対照ポリヌクレオチドカセットからの発現と比べて、2倍以上、例えば、3倍、4倍、もしくは5倍、またはそれ以上、いくつかの場合において、10倍、20倍、もしくは50倍、またはそれ以上、例えば、100倍、増強されるであろう。
【0123】
細胞が、本発明のポリヌクレオチドカセットまたは本発明のポリヌクレオチドカセットを含む遺伝子送達ベクターとインビボで接触させられる場合、対象は、任意の哺乳動物、例えば、齧歯類(例えば、マウス、ラット、スナネズミ)、ウサギ、ネコ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、または霊長類であり得る。さらなる好ましい態様において、霊長類は、ヒトである。さらなる態様において、細胞は、CD34+細胞である。
【0124】
本開示の方法および組成物は、例えば、ピルビン酸キナーゼ欠損症の処置において有用である。
【0125】
もう一つの態様において、本発明は、細胞において治療用遺伝子産物を発現する遺伝子送達ベクター、例えば、ウイルスベクターによって形質導入された細胞の有効量を、その必要のある対象へ提供する工程を含む、該対象における疾患を処置する方法を含む。具体的な態様において、細胞は、対象に対して自己である。ある種の態様において、細胞は、赤血球細胞、例えば、造血幹細胞または運命付けられた造血赤血球前駆細胞である。いくつかの態様において、細胞は、骨髄細胞、例えば、系統枯渇骨髄細胞である。具体的な態様において、本法は、PKDを処置するために使用され、ウイルスベクターは、コドン最適化されたヒトPKLR遺伝子のcDNAまたはコード配列に機能的に連結されたヒトPGKプロモーターおよび本明細書中に開示された変異型Wpreを含む本明細書中に開示された発現構築物を含むLVである。具体的な態様において、細胞は、非経口的に、例えば、静脈注射を介して対象へ提供される。
【0126】
もう一つの態様において、本発明は、細胞においてコドン最適化されたPKLR cDNAを発現するレンチウイルスベクターによって形質導入された自己C34+幹細胞の有効量を、その必要のある対象へ提供する工程を含む、該対象におけるPKDを処置する方法を含み、レンチウイルスベクターは、コドン最適化されたヒトPKLRのcDNAまたはコード配列に機能的に連結されたヒトPGKプロモーターおよび本明細書中に開示された変異型Wpre配列を含む。具体的な態様において、細胞は、造血幹細胞または運命付けられた赤血球造血前駆細胞、例えば、骨髄細胞である。具体的な態様において、細胞は、非経口的に、例えば、静脈注射を介して、対象へ提供される。
【0127】
もう一つの態様において、本発明は、その必要のある対象において治療用遺伝子産物を発現する遺伝子送達ベクター、例えば、ウイルスベクターの有効量を、該対象へ提供する工程を含む、該対象における疾患を処置する方法を提供する。具体的な態様において、本法は、PKDを処置するために使用され、ウイルスベクターは、コドン最適化されたヒトPKLR遺伝子のcDNAまたはコード配列に機能的に連結されたヒトPGKプロモーターおよび本明細書中に開示された変異型Wpreを含む本明細書中に開示された発現構築物を含むLVである。具体的な態様において、遺伝子送達ベクターは、非経口的に、例えば、静脈注射を介して、対象へ提供される。
【0128】
具体的な態様において、細胞または遺伝子送達ベクターは、薬学的組成物に含まれて、対象へ提供される。
【0129】
いくつかの態様において、本発明の方法は、治療的利益、例えば、障害の発症の防止、障害の進行の停止、障害の進行の逆行等をもたらす。いくつかの態様において、本発明の方法は、治療的利益が達成されたことを検出する工程を含む。当業者は、治療効力のそのような尺度が、改変される具体的な疾患に適用可能であることを理解し、かつ当業者は、治療効力を測定するために使用するための適切な検出方法を認識するであろう。
【0130】
本発明のトランスジーンを使用したトランスジーンの発現は、頑強であると期待される。従って、いくつかの場合において、例えば、遺伝子産物のレベルの測定、治療効力の測定等によって検出されるトランスジーンの発現は、本発明の組成物の投与後2ヶ月以内、例えば、投与後4週間以内、3週間以内、または2週間以内、またはそれ以前、例えば、投与後1週間以内に観察され得る。トランスジーンの発現は、経時的に持続すると期待される。従って、いくつかの場合において、例えば、遺伝子産物のレベルの測定、治療効力の測定等によって検出されるトランスジーンの発現は、本発明の組成物の投与の2ヶ月以上後、例えば、4ヶ月後、6ヶ月後、8ヶ月後、または10ヶ月後、またはそれ以降、いくつかの場合において、1年以上後、例えば、2年後、3年後、4年後、または5年後、ある種の場合において、5年以上後に観察され得る。
【0131】
ある種の態様において、本法は、細胞または対象におけるトランスジーンの発現を検出する工程を含み、発現は、本開示の1種または複数種の改善された要素を含まないポリヌクレオチドカセットからの発現と比べて増強される。典型的には、発現は、例えば、より早い検出、遺伝子産物のより高いレベル、細胞に対するより強い機能的影響等によって証拠付けられるように、例えば、当技術分野において公知の参照、即ち、対照ポリヌクレオチドカセットからの発現と比べて、2倍またはそれ以上、例えば、3倍、4倍、または5倍、またはそれ以上、いくつかの場合において、10倍、20倍、または50倍、またはそれ以上、例えば、100倍、増強されるであろう。
【0132】
典型的には、本発明の組成物が、本開示のポリヌクレオチドカセットを含むLVである場合、変化を達成するための有効量は、約1×108ベクターゲノム以上、いくつかのケースにおいて、1×109ベクターゲノム、1×1010ベクターゲノム、1×1011ベクターゲノム、1×1012ベクターゲノム、または1×1013ベクターゲノム、またはそれ以上、ある種の場合において、1×1014ベクターゲノム以上、一般的には、1×1015ベクターゲノム以下であろう。いくつかのケースにおいて、送達されるベクターゲノムの量は、多くても約1×1015ベクターゲノム、例えば、1×1014ベクターゲノム以下、例えば、1×1013ベクターゲノム、1×1012ベクターゲノム、1×1011ベクターゲノム、1×1010ベクターゲノム、または1×109ベクターゲノム、またはそれ以下、ある種の場合において、1×108ベクターゲノム、典型的には、1×108ベクターゲノム以上である。いくつかのケースにおいて、送達されるベクターゲノムの量は、1×1010~1×1011ベクターゲノムである。いくつかのケースにおいて、送達されるベクターゲノムの量は、1×1010~3×1012ベクターゲノムである。いくつかのケースにおいて、送達されるベクターゲノムの量は、1×109~3×1013ベクターゲノムである。いくつかのケースにおいて、送達されるベクターゲノムの量は、1×108~3×1014ベクターゲノムである。
【0133】
いくつかのケースにおいて、投与される薬学的組成物の量は、感染多重度(MOI)を使用して測定され得る。いくつかのケースにおいて、MOIは、核酸が送達される細胞に対する、ベクターまたはウイルスゲノムの比または倍数をさし得る。いくつかのケースにおいて、MOIは、1×106であり得る。いくつかのケースにおいて、MOIは、1×105~1×107であり得る。いくつかのケースにおいて、MOIは、1×104~1×108であり得る。いくつかのケースにおいて、本開示の組換えウイルスは、少なくとも約1×101、1×102、1×103、1×104、1×105、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、および1×1018 MOIである。いくつかのケースにおいて、本開示の組換えウイルスは、1×108~3×1014 MOIである。いくつかのケースにおいて、本開示の組換えウイルスは、多くても約1×101、1×102、1×103、1×104、1×105、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、1×1015、1×1016、1×1017、および1×1018 MOIである。
【0134】
いくつかの局面において、薬学的組成物の量は、約1×108~約1×1015個の組換えウイルスの粒子、約1×109~約1×1014個の組換えウイルスの粒子、約1×1010~約1×1013個の組換えウイルスの粒子、または約1×1011~約3×1012個の組換えウイルスの粒子を含む。
【0135】
所望の効果を付与するかまたは疾患を処置するため、細胞の適切な形質導入を提供するために適当なウイルス粒子の任意の総数を、哺乳動物に投与することができる。様々な好ましい態様において、少なくとも108個;5×108個;109個;5×109個、1010個、5×1010個;1011個;5×1011個;1012個;5×1012個;1013個;1.5×1013個;3×1013個;5×1013個;7.5×1013個;9×1013個、1×1014個のウイルス粒子、または5×1014個のウイルス粒子、またはそれ以上、典型的には、1×1015個以下のウイルス粒子が注射される。哺乳動物または霊長類の眼へのベクターの適当な回数の投与を行うことができる。一つの態様において、本法は、単回投与を含み;他の態様において、主治医によって適切であると見なされるように、複数回投与が経時的に行われる。いくつかの態様において、高い形質導入効率をもたらすため、少なくとも2×108VG/mlまたは5×105細胞/mlが、単回投与(24時間の形質導入)において必要とされる。
【0136】
個々の用量は、典型的には、対象に対する測定可能な効果を生じるのに必要な量以上であり、本発明の組成物またはその副産物の吸収、分布、代謝、および排泄(「ADME」)についての薬物動態および薬理学に基づき、従って、対象における組成物の分配に基づき、決定され得る。これは、投薬量のみならず、投与ルートの考慮も含む。用量および/または用量計画の有効量は、前臨床アッセイ、安全性および漸増および用量範囲の治験、個々の医師と患者との関係、ならびに本明細書中に記載され、実施例において例示されたもののようなインビトロおよびインビボのアッセイから経験的に容易に決定され得る。
【0137】
本発明のいくつかの局面は、例示のための適用例に関して本明細書中に記載される。多数の具体的な詳細、関係、および方法が、本発明の完全な理解を提供するために示されることが理解されるべきである。しかしながら、具体的な詳細のうちの一つまたは複数を含まずに、またはその他の方法によって、本発明が実施され得ることを、当業者は容易に認識するであろう。いくつかの行為は、異なる順序で、かつ/または他の行為もしくはイベントと同時に行われ得るため、本発明は、行為またはイベントの例示された順序に限定されない。さらに、全ての例示された行為またはイベントが、本発明による方法論を実行するために必要とされるとは限らない。
【0138】
任意要素を排除するため、特許請求の範囲が起草され得ることが、さらに注目される。従って、この陳述は、請求項要素の引用または「負の」限定の使用に関して、「のみ(solely)」、「のみ(only)」等のような排他的な用語法の使用のための前提基礎として役立つものとする。
【0139】
本明細書中に記述された刊行物は、本願の出願日より前のそれらの開示のためにのみ提供される。先行発明のため、本発明がそのような刊行物に先行する資格を有しないことの承認として解釈されるべきものは、本明細書中に存在しない。さらに、提供された刊行物の日付は、実際の刊行日と異なる可能性があり、独立に確認する必要があり得る。
【0140】
本明細書中で言及されかつ/またはアプリケーションデータシートにリストされた前記の米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願、および非特許刊行物は、全て、例えば、その刊行物が引用された方法および/または材料を開示し記載するため、参照によってその全体が本明細書中に組み入れられる。矛盾が存在する場合には、本開示が、組み入れられた刊行物の開示に取って代わることが理解される。
【0141】
例示の目的のため、本発明の具体的な態様が本明細書中に記載されたが、本発明の本旨および範囲から逸脱することなく様々な改変が施され得ることが認識されるであろう。従って、本発明は、添付の特許請求の範囲によって以外は限定されない。
【実施例】
【0142】
以下の実施例は、本発明を作成し使用する方法の完全な開示および説明を当業者に提供するために示され、本発明者らが本発明と見なすものの範囲を限定するためのものではなく、下記の実験が実施された全てまたは唯一の実験であることを表すためのものでもない。使用された数字(例えば、量、温度等)に関しては、正確さを確実にする努力がなされたが、いくらかの実験誤差および偏差は考慮に入れられるべきである。そうでないことが示されない限り、部分は重量部分であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏度であり、圧力は大気圧またはほぼ大気圧である。
【0143】
実験方法
ベクターおよびレンチウイルス上清の作製。本明細書中に記載されるように、LVを生成した。coRPK配列は、配列のGC含量を増加させ、潜在性のスプライス部位を防止するため、GeneArt(登録商標)ソフトウェアを使用して設計された。ベクターは、Dr.Naldini(HSR-TIGET, San Raffaele Telethon Institute, Milano, Italy)から寛大に提供されたpCCL.sin.ppt.hPGK-EGFP-Wpre*構築物を骨格として使用して開発された。VSV-Gシュードタイプ化LVのベクターストックは、以前に記載されたように[Follenzi A, et al.(2000).Nat Genet 25:217-222]、293T細胞(ATCC:CRL-1573, Rockeville, MD, USA)における3プラスミドリン酸カルシウム媒介トランスフェクションによって調製された。感染性LVの力価は、他の場所に記載されたように[Charrier S, et al.(2005).Gene Ther 12:597-606]、qPCRによって、HT1080細胞(ATCC:CCL-121)において決定された。107~108ウイルス粒子(vp)/mLの力価のレンチウイルスストックが、ルーチンに入手された。
【0144】
マウスHSCの精製および形質導入。8~14週齢雄PKDマウスに由来するBMを、脚骨から採集し、Lin-細胞枯渇キット(Miltenyi Biotec, Gladbach, Germany)を使用して、系統陰性細胞(Lin-)を精製し、70~90%の純度を得た。Lin-細胞を、20%FBSおよび0.5%抗生物質(50U/mLペニシリンおよび50μg/mLストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA))が補足されたIMDM-Glutamax培地において、100ng/mLの組換えヒトIL-11(Peprotech EC Ltd., London, UK)および100ng/mLの組換えマウスSCF(R&D Systems Inc., Minneapolis, MN)によって24時間予備刺激し、次いで、1~10vp/細胞のMOIで、2サイクルの形質導入において、EGFPまたはcoRPKを保持するLVによって形質導入した。各形質導入は、4℃で一晩、CH-296フィブロネクチン断片(2μg/cm2;Retronectin, TakaraShuzo, Otsu, Japan)で事前にコーティングされたプレートにおいて、前記サイトカインの存在下で24時間実施された。
【0145】
インビボRBC生存。coRPKトランスジーンを保持する移植マウスに、ビオチン3-スルホ-N-ヒドロキシサクシニミドエステルナトリウム塩(50mg/kg)(Sigma Aldrich, Saint Louis, MO)の3回の連続的な静脈注射(12時間間隔)を注射した。最後の注射の12時間後に、尾静脈血を採集し、4℃で30分間、2μg/mLの抗マウスTer119-PE(BD Bioscience, San Jose, CA)およびストレプトアビジン-FITC(50μg/mL, BD Biosciences, San Jose, CA)によって標識した。注射後40日間、2~4日毎に、EPICS XLフローサイトメーター(Beckman Coulter, Brea, CA)によって試料を分析した。RBC生存速度論を、全RBC集団内のビオチン化細胞の百分率によって測定した。
【0146】
CFCアッセイ。CFCアッセイは、Methocult培地GF M3434(Stem Cell Technologies, Vancouver, Canada)からの製造業者の手法に従って、対照マウスおよび移植マウスに由来するBMおよび脾臓において実施された。全てのマウス群から、移植後の異なる時点で、BM細胞を採集し、Nikon Diaphot-TMD顕微鏡への播種の7日後に、CFU(30個以上の細胞のクラスタ)をスコア化した。
【0147】
造血系統の同定。PBMCを、移植動物の尾静脈から入手し、異なる造血細胞を検出するための抗体のパネルによって標識した。骨髄系細胞は、抗GR-1ビオチン化抗体および抗Mac-1ビオチン化抗体(BD Bioscience, San Jose, CA、5μg/mL)によって検出され、リンパ系細胞は、T細胞については抗CD3-PE抗体、B細胞については抗B220-PE抗体および抗B220-PECy5抗体(BD Bioscience, San Jose, CA、10μg/mL)を、SAV-TRC二次抗体(Invitrogen, Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)と共に使用して検出された。死細胞を排除するため、DAPI(Boehringer, Ingelheim, Germany、2μg/mL)を添加して、BD LSR Fortessa Cytometer(BD Bioscience, San Jose, CA, USA)において、試料を分析した。
【0148】
構造的研究および組織学的研究。脾臓を収集し、写真撮影し、脾腫の存在を決定するため、精密スケールで計量した。従来の組織学的方法に従って入手され、ヘマトキシロン(Gill-2 Haematoxylin, Thermo, Pittsburgh, USA)およびエオシン(Eosin Alcoholic, Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)で染色された脾臓および肝臓の切片に対して、組織学的研究を実施した。製造業者の説明書に従って、プルシアンブルーまたはペルルス染色(Sigma Aldrich, Saint Louis, MO)によって、脾臓における鉄沈着物も研究した。全ての切片を、Olympus BX40光学顕微鏡を使用して調査し、100倍または200倍の最終倍率で、Olympus DP21カメラで写真撮影した。
【0149】
赤血球分化。4μg/mLの抗マウスTer119-PE抗体(BD Bioscience, San Jose, CA)、10μg/mLのビオチン化抗CD71抗体(BD Bioscience, San Jose, CA)、およびストレプトアビジン-tricolor(Invitrogen, Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を使用して、他の場所に記載されるように[Socolovsky M, et al. (2001). Blood 98:3261-3273]、異なる赤血球亜集団を同定するため、BMおよび脾臓におけるTer119マーカーおよびCD71マーカーの強度のフローサイトメトリー分析を使用した。次いで、生細胞を検出するため、ヨウ化プロピジウム(IP、2μg/mL)を使用して、EPICS XLフローサイトメーター(Beckman Coulter, Brea, CA)において細胞を分析した。
【0150】
プロウイルス定量化。1細胞当たりの組み込まれたプロウイルスの検出および定量化は、パッケージングプロウイルス配列(Ψ)およびマウスTitinハウスキーピング遺伝子に相補的なプライマーを使用して達成された。全てのBM試料および末梢血試料を定期的に収集し、DNeasy Blood & Tissueキット(Qiagen, Venlo, Limburg, The Netherlands)を使用して、ゲノムDNAを有核細胞から単離した。7500 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems, Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)ならびに以前に記載されたプライマーおよびプローブを使用した多重qPCRによって、20~50ngのゲノムDNA(gDNA)を増幅した[Charrier S, et al. (2011). Gene Ther 18:479-487]。
【0151】
キメリズム。ドナー細胞の存在を、Y染色体SRY遺伝子およびマウスβアクチンハウスキーピング遺伝子を検出するqPCRによって定量化した。以前に記載されたプライマーおよびプローブ[Navarro S et al(2006). Mol Ther 14:525-535]を使用し、移植マウスのPBに由来するゲノムDNAを、7500 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems, Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)を使用して増幅した。雄/雌マウス混合物に由来する0%から100%のBM細胞を含有している試料からのgDNA抽出物を使用して、標準曲線を調製し、キメリズムを以下のように計算した。ドナー生着%=100×2(CtβAct-CtSRY)。
【0152】
LAM-PCR手法。ベクター組み込み部位を同定するため、3'ベクターLTR-ゲノムジャンクションを、Schmidt et al. 2007[Nat Methods 4:1051-1057]によって発表された方法に従って、LAM-PCRによって増幅した。初期の直線的増幅(100サイクル)を、ビオチン化LTR特異的プライマーおよび鋳型としての100ngまでのgDNAを使用して実施した。直線的増幅産物を、ストレプトアビジン磁気ビーズを使用して精製した後、相補鎖合成、2種の異なる制限酵素(Tsp509IおよびHpyCH4IV)による平行消化、ならびに酵素切断によって残された末端に相補的なリンカーカセットを使用した2種のライゲーション反応を行った。生成された断片を、2回の付加的な指数関数的PCR工程によって増幅した。MultiNA自動系(Shimadzu)におけるゲル電気泳動によって、LAM-PCR産物を分離し、定量化した。
【0153】
Illumina MiSeq配列決定のためのLAM-PCR産物のセットアップ。Parazynskiら[Paruzynski A, et al. (2010). Nat Protoc 5:1379-1395]によって発表された方法に従って、Tsp509I酵素およびHpyCH4IV酵素によって生成された第2の指数関数的PCR産物40ngを、Illumina MiSeqシーケンサーでのペアードエンドシーケンシングを可能にする特異的配列を含有している融合プライマーを使用して再増幅した。Roche 454 GS-FLXアダプターを付加するための融合PCRによって、LAM-PCR試料を454パイロシーケンシングのために適応させた:アダプターA+8ヌクレオチドバーコードを、LAM-PCRアンプリコンのLTR末端へ付加し;アダプターBを、リンカーカセット側へ付加した。5'-3'方向に、最終アンプリコンは、以下のように構成された:アダプターA、バーコード、LTR配列、未知のゲノム配列、リンカーカセット配列、およびプライマーB。精製された融合プライマーPCR産物を、MultiNA自動電気泳動系において実行し、定量化し、10nMの最終等モルライブラリーを入手するため、共にプールした。次いで、最終ライブラリーを、Viia7 real-time PCR system(Applied Biosystems, Thermo Fisher Scientific, Waltham, MA)で、KAPA Library Quantification Kit for Illumina Sequencing Platform(Kapa Biosystems, Wilmington, MA)を使用して再定量化し、16.35nMという推定濃度を得た。最後に、Illumina MiSeq Reagent Kitを使用してライブラリーを配列決定した。
【0154】
バイオインフォマティクス分析。ハイスループットシーケンシングプラットフォーム、Roche 454およびIllumina MiSeq/HiSeqの両方からベクター組み込み部位(IS)を抽出するため、信頼性のあるISおよび最も近い遺伝子のリストを提供する、生データを取り込むパイプライン(典型的には、FastQファイルフォーマット)を設計した。クローン存在量定量化およびジーンオントロジー濃縮の上位レベルの分析は、Excel、GraphPad Prism(TM)、および入手可能なオンラインツールを使用して実施された。
【0155】
NGSデータ処理およびパイプライン使用法。全ての有効なシーケンスリードを参照ゲノムと整列させるNGSデータ処理の工程は、Illumina MiSeqシーケンシングプラットフォームからのハイスループットデータの管理に取り組み、ISを同定することを目標とする。データ処理は、2種の主要なアクティビティを含む:1. レンチウイルスベクター配列およびその他の混入物がトリミングされる、データ品質の検査および分析。2. 全ての有効なシーケンスリードが参照のゲノムと整列させられ、有効なISが検索される、組み込み部位同定。
【0156】
データ品質分析。Illumina MiSeq生データからISを同定するため、バイオインフォマティクスパイプラインを開発した。標準的なLAM-PCR産物は、LTR配列、隣接するヒトゲノム配列、およびリンカーカセット(LC)配列を含有している。459テクノロジーは、10bp~900bpの範囲の長さを有するLAM-PCR配列の検索を可能にした。類似の結果が、Illumina MiSeqペアードエンドリードから検索された。これらの長さの境界は、その後のアライメント手法およびベクター成分同定のアルゴリズムの両方に影響するため、品質分析過程において考慮すべき重要なパラメータである。LC配列の一部または全部の喪失を回避するため、参照遺伝子と正確に整列し得ないほどに短い配列を廃棄し、NSGテクノロジーによって到達可能な最大サイズを超えるものも廃棄した。各プールについてのパイプラインが終わった後、全ての組み込み部位を、(TIGETネットワーク接続ファイルストレージNASにアーカイブされた)ファイルおよび内部データベースの両方に収集し、改変されたコピーの追跡を維持するストレージサーバーにおいて維持した。
【0157】
組み込み部位同定。独特の組み込み部位を同定し、最も近い遺伝子アノテーションを有する、全てのISを行に含み、各試料を列に含むexcelファイル(ISマトリックス)を抽出するため、以下の工程を実行する:1. プロジェクト間の衝突検出を可能にするcreate_matrixと呼ばれるプログラムを使用したISマトリックスの作出。このプログラムはタブ区切りファイル(TSV)を作製するであろう;2. インプットTSVファイルを使用した各プールについて、以下のように呼ばれるであろう、プログラムannotate_bedを使用したISマトリックスファイルのアノテーション:
;3. アノテーションおよびマトリックスファイルの両方の、本明細書においてXLSと呼ばれる新しいExcelワークシートへのインポート。
【0158】
衝突検出。各移植マウスからISの信頼性のあるデータセットを入手するため、本発明者らは、シーケンスカウントに基づき、可能性のある混入/衝突および偽陽性からのデータをフィルタリングした。異なる実験から得られた組み込み部位を組み合わせるため、データ標準化の付加的な工程が必要とされた。
【0159】
「衝突」という用語は、独立の試料における同一ISの存在を同定するために使用される。本発明者らの実験状況において、異なる細胞における全く同じゲノム位置におけるベクターの組み込みは、極めて低確率のイベントである。従って、独立の試料における同一ISの検出は、混入に由来する可能性が高く、それは、ウェットラボ手法(試料精製、DNA抽出、LAM-PCR、および配列決定)の異なる段階で起こり得る。本発明者らのワーキングパイプラインは、試料間接触の発生を最小化するよう設計されているが、ISのハイスループット分析は、ある程度のバックグラウンド混入を内因的に保持している。同じマウスから入手された異なる試料における同じISの検索は、ベクターによってマーキングされた造血細胞の生物学的特性(即ち、多系統可能性および持続的なクローン形成活性)を推測するためにその後の工程において使用されることからも、試料間の混入の程度の同定は重要である。従って、本発明者らは、(同じマウスに由来する)異なる試料における同じISの実際の発生を、混入/衝突から区別することができなければならない。これらの問題に取り組むため、本発明者らは、本発明者らの分析における衝突の程度を測定し、次いで、各マウスのデータセットから衝突が原因であり得るISを廃棄するためのルールを設計し、同じマウスに由来する試料の間の共有ISを探す時の偽陽性判定の可能性を最小化するための手段として、異なる試験アイテムおよびマウスに由来する試料の間の共有ISの程度を査定した。本発明者らは、各組み込み遺伝子座のバリデーションを可能にする衝突検出過程を設計した。全体的な結果は、組み込み遺伝子座のセットIがある時、Iの中の組み込み遺伝子座iが衝突として分類されるケースにおいて、iはIから廃棄されるというものである。本発明者らは、3種の独立の移植群の間に衝突検出過程を適用した:1. coPKR170:coRPK発現LVベクターによって形質導入されたLin-細胞の移植後170日目に安楽死させられたアッセイ1からのマウス(coRPK1~3)。2. EGFP:EGFP発現LVベクターを保持するLin-細胞を移植されたアッセイ2からのマウス(EGFP1~6)。3. coPKR-TC:一次移植マウスのサブグループ(coRPK11~14)に由来するプールされたBMを移植された二次レシピエントを含む、血液およびBMが異なる時点で分析された、coPKR発現LVベクターによって形質導入されたLin-細胞を移植されたアッセイ2からのマウス(coRPK1~14)。
【0160】
各同一ISは、異なるマウスの間で異なるシーケンスリード(シーケンスカウント)を有する。シーケンスカウントは、1匹のマウスに由来する試料が、存在量基準に基づき、他のマウスの試料に混入したか否かを決定するために使用され得る。本発明者らの理論的根拠において、2匹のマウスにおいて見出された組み込みは、最も高い存在量を示すマウスに割り当てられ、他方のマウスにおいては混入物と見なされるであろう。従って、本発明者らは、あるマウスへの所定の衝突の割り当ておよび他のものからの除去を可能にするディファレンシャルシーケンスカウントの閾値を同定することができる。本発明者らは、データから閾値を検索し、10という値を得た。即ち、各ISについて、全てのTIの間で、ISが他のTIの最高存在量値(百分率シーケンスカウント)より10倍低い存在量値(百分率シーケンスカウント比)を得た場合、当TIからそれを廃棄する。本発明者らは、TIの間にも、選択された群の間にも、これらのルールを適用し、(本明細書中では、TIフィルタリングについて詳述されるが、群フィルタリングにも同様に拡張される)以下のルールを適用することによって、衝突検出を計算するため、Excelファイルを使用した:1. 各TIを単離して、シーケンスカウントを合計することによって、同じTIの全ての試料を共にグループ化する。2. 各ISについて、入手された3個のTIについて、TIについてのリードの総計に対するISシーケンスカウントの百分率比を計算する。3. 次いで、各ISを信頼性のあるTIへ割り当てることを可能にする10という閾値で、決定工程を計算するため、以下のルールを適用する。
【0161】
ISを除去すべきことが検出された後は、そのISのリードを群から除去したため、それはもはやその群にも割り当てられない。前記のフィルタを、異なるエクスビボ形質導入細胞集団を移植されたマウス(アッセイ2からのEGFP発現マウスの1つのコホート、および2回の独立の移植実験に属するcoPKRマウスの2つのコホート)の間に適用した。さらに、coPKR-TC群(アッセイ2)について、前述のフィルタ法を二通りに改変した:(a)クローン存在量分析に関して、時点間の組み込みの共有をより強調するため、以下のルールを追加した:ある組み込みが1匹または複数匹のマウスの間で共有される場合には、シーケンスカウントがマウスの間で最大シーケンスカウントの10%未満であったとしても、その組み込みは全ての時点について維持される;(b)関係の系統追跡のため、3未満のシーケンスカウントを有するISの排除、および時点間の共有についての10%シーケンスカウントフィルタによって、よりストリンジェントなフィルタを適用した。即ち、2つの時点の間で共有された組み込みは、それぞれ、他方より多い場合または少ない場合にのみ、維持されるかまたは廃棄される。
【0162】
ジーンオントロジー分析。全てのジーンオントロジー分析が、GREATオンラインソフトウェアを使用してなされた(http://bejerano.stanford.edu/great/public/html/)。ウェブページは、各データセットの組み込みのゲノム座標をアップロードし、(p値計算の二項分布分析に基づく)位置情報と、(p値計算の超幾何分布分析に基づく)組み込み部位に最も近い遺伝子のアノテートされた機能とを相関させることによって、試験されたデータセットにおける濃縮レベルを計算することを可能にする[Groeschel S, et al. (2011). J Inherit Metab Dis 34:1095-1102]。ジーンオントロジーデータベースの生物学的過程および分子機能を、濃縮分析のために選択した。両方の統計分析について偽発見率<0.05を有する遺伝子クラスのみを考慮した(
図20)。
【0163】
データストレージ。パイプラインからのアライメントが入手可能であり、存在量マトリックスおよびプロットも入手可能である、ルートフォルダ内のTIGETネットワーク接続ファイルストレージ(NAS)に、全てのデータ、生データおよび結果の両方を保管する。NASストレージは、認証および承認のポリシーによって保証されており、ディスクRAID 5のリダンダンシーアレイを使用して、信頼性のあるスケーラブルのインフラストラクチャーにおいて構築されており、TIGETに登録された本発明者らのCrashPlanソフトウェアでのバックアップ下にある。
【0164】
実施例1
PGK-coRPK治療用レンチウイルスベクターは、遺伝学的に矯正されたPKDマウスにおいて、貧血表現型の安定的かつ長期的な矯正をもたらす
PGK-coRPK LV(
図2a)のインビボ効力を、PKDマウスに由来する系統枯渇BM細胞(Lin
-細胞)の形質導入および移植によってアッセイした(
図2b)。
図2aは、対照ベクターにおけるEGFPトランスジーンの発現(上図)または治療用ベクターにおけるPKLR遺伝子cDNAのコドン最適化配列(coRPK)の発現(下図)を制御するヒトPGKプロモーターを保有する遺伝子療法実験全体で使用された自己不活化型レンチウイルスベクターの模式図である。coRPK配列は、アミノ酸配列の変化なしに、ヒトPKLR cDNAとの80.4%の相同性、マウスPklr cDNAとの76.5%の相同性を示した。
図2bは、開発されたPGK-coRPKレンチウイルスベクターの機能性を解明するために実施された遺伝子療法プロトコルの模式図である。PKD表現型の矯正は、血液学的分析および代謝プロファイリングを通して、PBおよびBMにおける移植の後に4~9ヶ月間研究された。組み込み分析は、LVベクターの安全性を解明するため、全てのマウスに由来する異なる組織および時点で実施された。移植後280日目に、生着の安定性および安全性を試験するため、coRPKトランスジーンを保持する一次移植マウスに由来する全BMを、致死的に照射された雌PKDマウス(二次レシピエント)へ再び移植した。coRPK LVによって形質導入された欠損細胞を移植された致死的に照射されたPKDマウスは、非移植PKD同腹仔と比較して、またはEGFP LVによって形質導入された細胞を移植されたマウスと比較して、全ての試験された血中赤血球パラメータの有意な改善を示した(
図3および表2)。
【0165】
(表2)末梢血中の移植後140日目に記録された血液学的変数
【0166】
データは、平均値±SEMを表し、クラスカル・ウォリスノンパラメトリック検定を使用して、EGFP発現マウスとの比較によって統計的に分析された。*p<0.05;**p<0.01。
【0167】
PGK-coRPKトランスジーンを保持するマウスにおいては、RBC数が移植後40日目に早くも増加し(
図3a)、PKDの最も一般的な兆候のうちの一つである構成性網赤血球増加症が有意に逆転され、移植後少なくとも9ヶ月間、健常対照において観察されるものに近いレベルに達した(
図3b)。反対に、EGFP LV形質導入細胞を移植されたPKD動物は、分析された全ての時点で、PKDマウスと平行して、貧血および著しい網赤血球増加症を示した。ヘモグロビンレベル(HGB)、ヘマトクリット値(HTC)、平均血球体積(MCV)、および平均赤血球ヘモグロビン(MCH)値も、非移植PKD同腹仔と比較された時、レンチウイルスによって矯正された細胞を移植されたマウスにおいて矯正された(表2)。この血液学的矯正は、63.66±4.45%のドナーキメリズムおよび60%~90%の範囲の形質導入効力で達成された(表3)。
【0168】
(表3)遺伝学的に改変された細胞を移植されたマウスにおける関連分子パラメータ
【0169】
データは、平均値±SEMを表し、n.dは未決定を表す。a実験1から構築された線形回帰における内挿によって入手された推定形質導入百分率(X軸:VCN/WBC、Y軸:%プロウイルス+CFU)。
【0170】
形質導入細胞は、平均して1細胞当たり1.65±0.08の組み込まれたベクターコピーを示し、このことから、PGK-coRPK LVベクターが溶血性貧血を逆転させるために十分なヒトRPKトランスジェニック発現を提供したことが示された。注目すべきことに、coRPKトランスジーンの発現は、非移植PKDマウスと比較された時、赤血球細胞半減期の延長をもたらした(
図3c、d)。平均して、PKDマウスは、19日のRBC半減期を示したが、遺伝学的に矯正されたマウスにおいて、これは、25日にまで延長され(6日の延長)、野生型RBCの半減期に近い値に達した(
図3d)。従って、coRPK発現マウスのRBCは、健常対照マウスと欠損対照マウスとの中間の生存速度論を示したが(
図3c)、これは、これらの動物において完全なキメリズムが達成されなかったためである可能性が最も高い(表3)。
【0171】
移植の9ヶ月後に、生着レベル(62.89±5.61%)およびVCN(1.44±0.08コピー)(表3)を維持していた一次レシピエントに由来する造血前駆細胞を、二次レシピエントへ移植した。二次移植レシピエントは、移植後5ヶ月までの多系統造血再構築(
図4)および全てのPB赤血球パラメータの有意な改善を示した(
図5および表2)。
図4aは、CD3-PE、B220-PE、B220-PECy5、Gr1-ビオチン、およびMac1-ビオチン抗体+SAV-PE-Cy5による標識によって異なる造血系統を同定するために使用されたフローサイトメトリー戦略の図である。
図4bは、移植後140日目のPB中の各系統の代表的なドットプロットおよび百分率(
図4c)を示す。バーは、健常マウス対照(n=2、黒色バー)およびPKDマウス対照(n=2、灰色バー)ならびにcoRPK治療用トランスジーンを発現する二次移植マウス(n=4、斜線付きのバー)の平均百分率±SEMを表す。さらに、プロウイルス組み込みは、異なって運命付けられた造血前駆細胞(
図6a、b)において検出され、その数は経時的に一定のままであり(
図6c)、そのことから、遺伝学的矯正の安定性が証明され、PGK-coRPK LVの安全性が強調された。
図6aは、移植後120~170日目の個々の移植マウスに由来するBM CFU中の1細胞当たりのベクターコピー数を示す。形質導入およびキメリズムの百分率も示される。
図6bは、異なる造血コンパートメントからの細胞におけるプロウイルスコピー数を示す。カラムは、移植マウスの異なる群の平均値±SEMを表す。
図6cは、個々の移植EGFP発現マウス(灰色線)およびcoRPKトランスジーンを保持するマウス(黒色線)に由来するBM細胞におけるプロウイルス組み込みの速度論を示す。
【0172】
実施例2
レンチウイルスに由来するRPK発現は、赤血球分化を正常化し、機能性成熟赤血球の生成を可能にする
PKDマウスは、代償的な赤血球生成機序によって引き起こされる、赤血球コンパートメントの特徴的な増大を示す(Min-oo et al 2004)。移植マウスにおける赤血球分化パターンの研究は、異所RPK発現がこの機序を逆転させることを示した(
図7a、b)。EGFP発現PKDマウスは、BMおよび脾臓における未熟赤血球前駆細胞(亜集団I:前赤芽球および亜集団II:好塩基性赤芽球)の優勢ならびに後期赤血球細胞(集団IV:網状赤血球および成熟赤血球)の著しい減少を示したが、coRPK LVによって形質導入された細胞を移植されたマウスは、健常マウスと等しい、BMおよび脾臓における未熟赤血球前駆細胞(亜集団IおよびII)の有意な低下ならびに最後期赤血球コンパートメント(亜集団IV)の有意な増加を示した(
図7a、b)。さらに、EGFP発現PKDマウスと異なり、coRPKトランスジーンを保持するものは、血漿中のエリスロポエチン(Epo)レベルの有意な低下を示した(
図7c)。
図8aは、脾臓からの全CFUを示し、
図8bは、移植後140日目の骨髄を示す。ドットは、分析された各マウスのコロニー数を表し、線は各群における平均値±SEMを表す。データは、ノンパラメトリッククラスカル・ウォリス検定によって統計的に分析された。BM CFU含量の変化は認められなかったが(
図8b)、治療用ベクターによって処置されたPKDマウスにおける赤血球生成の正常化は、脾臓前駆細胞数の正常レベルへの低下を伴った(
図8a)。
【0173】
実施例3
coRPKレンチウイルスベクターによって形質導入された細胞の移植は髄外赤血球生成および器官病理を逆転させる
RPK欠損赤血球の活発な破壊のため、EGFP発現PKDマウスは、健常対照と比較された時、200%を超える脾臓の重量およびサイズの増加を伴う急性脾腫を示した(
図9a、b)。EGFP発現PKD肝臓切片における赤血球細胞クラスタの存在によっても支持される極度の髄外赤血球生成を示す、脾組織の構造の崩壊および赤脾髄の増大も、これらの動物において観察された(
図9c)。注目すべきことに、coRPKトランスジーンの異所発現は、遺伝学的に矯正されたマウスにおいて脾臓および肝臓の病理を完全に逆転させ、RBC蓄積を低下させ、脾臓の組織学的構造およびサイズを正常化した(
図9)。さらに、組織学的研究は、遺伝学的に矯正されたマウスの肝臓における鉄沈着物の完全な欠如を明らかにしたが、非移植群またはEGFP保持ベクターによって形質導入されたHSCを移植された群のいずれかからのPKDマウスは、連続的な溶血過程による極度の鉄過剰を示した(
図9c)。全体として、PKDマウスにおける遺伝学的に矯正されたHSCの移植は、赤血球生成の正常な状態および溶血性貧血によって引き起こされた全ての二次的効果を回復させた。
【0174】
実施例4
PGK-coRPK LVに由来する発現は、WBC代謝バランスを改変することなく、RBCにおける解糖経路を回復させる
次に、本発明者らは、RPK酵素活性の機能的矯正を研究するため、全ての移植マウスおよび対照マウスの広範囲のメタボローム分析を実施した。ノンターゲットプロファイリング戦略に従って、本発明者らは、異なる群の間のRBC内の解糖中間体の有意な変化を観察し、別個の傾向を有する代謝物質パターンの3つの広いクラスタを同定した(
図10a)。coRPK発現マウスに由来するRBCは、健常対照と類似しており、EGFPトランスジーンを保持する移植マウスと異なる、クラスタ1からの代謝物質の増加を示した。同様に、クラスタ3は、野生型マウスと類似しており、EGFP発現マウスと異なる、遺伝学的に矯正されたマウスにおける低下した代謝物質傾向を反映した。にも関わらず、アッセイ1からのクラスタ2は、移植マウス群(EGFP発現マウスおよびcoRPK発現マウス)の間の代謝物質プロファイルの違いを示さなかった(
図10a)。ノンターゲット代謝プロファイリングは、遺伝子改変が、いくつかの重要な解糖中間体を修飾することができ、PGK-coRPK LV形質導入HSCを移植されたマウスから単離された赤血球においてATP(
図10b)、ADP(
図10c)、およびピルビン酸(
図10d)のレベルの増加を達成し得ることも示した。これらの代謝傾向を考慮して、次いで、本発明者らは、ターゲットプロファイリングアプローチを使用して、PK触媒反応のより近くに位置する他の代謝物質を分析した。PK触媒反応の上流に位置する、直接のPK基質ホスホエノールピルビン酸(PEP)(
図10e)および3-ホスホグリセリン酸(3-PG)(
図10f)のレベルは、健常対照マウスのものに近づいた。coRPKトランスジーンを発現する欠損赤血球は、EGFP発現PKDマウスと比較された時、嫌気的解糖の最終産物であるD-乳酸の増加も生じた(
図10g)。解糖代謝物質の代償が、成熟赤血球におけるPK活性の正常化の結果であるか否かを試験するため、本発明者らは、この酵素の活性を測定し、欠損動物における多量の網状赤血球の影響を回避するため、ヘキソキナーゼ活性に対してそれを標準化した。白血球PK活性混入を防止するため、セルロースカラムを通してRBCを精製した。野生型健常動物および正常健常血液ドナーボランティアから入手されたものと類似した比に達する、PK活性の完全な代償が、coRPKを発現する動物において観察された(
図11)。
図11aは、対照マウスおよび形質導入細胞を移植されたマウスに由来するRBCにおけるピルビン酸キナーゼ活性を示し、
図11bは、ヘキソキナーゼ活性を示し、
図11cは、ピルビン酸キナーゼおよびヘキソキナーゼの酵素活性の比を示す。RBCは、白血球PK活性混入を回避するため、セルロースカラムを通して血液試料から精製され、酵素活性評価に供された。黒色バー、健常マウス(n=2);白色バー、EGFP発現ベクターによって形質導入された細胞を移植されたマウス(n=3);斜線付きのバー、coRPK発現ベクターによって形質導入された細胞を移植されたマウス(n=3)。格子縞のバーは、健常ボランティアからの値を表す(n=1)。データは、各群の平均値±SEMを表す。
【0175】
主成分分析は、RBCの代謝物質パターンが群によって異なり、WBCプロファイルと著しく異なることを示した(
図12a)。反対に、WBCサブグループは、極めて小さい群の間の違いで、共にクラスター形成し、異所coRPKを発現した時の白血球の代謝バランスの変化を示さなかった(
図12a)。さらに、RBCノンターゲットプロファイリングにおいて観察される特定の代謝物質の変化は、WBCには存在しなかった(
図12b~d)。
【0176】
実施例5
PGK-coRPK LV形質導入細胞はベクター遺伝毒性の証拠なしにポリクローナル造血再構築を与える
coRPKトランスジーンまたはEGFPトランスジーンのいずれかを保持するLVの組み込みプロファイルを、移植マウスにおいて分析した。LVのゲノムワイドの組み込みプロファイルに起因して、各挿入は、個々の形質導入細胞におけるクローン挙動を追跡するために使用することができる独特の遺伝子マークを作出する。一次移植マウスおよび二次移植マウスに由来するWBCおよびBM細胞から、ゲノムDNA(gDNA)を入手し、移植前の形質導入細胞プール(Lin
-細胞)からも入手した。ベクター/ゲノムジャンクションを増幅し、ベクター挿入部位(IS)を同定するため、線形増幅媒介(Linear Amplification Mediated)PCR(LAM-PCR)を使用した(
図13および14)。
図13は、3'ベクターLTR-ゲノムジャンクションのLAM-PCR増幅によってベクター組み込み部位が同定されたことを証明する。いくつかのバンドを特徴とするパターンを生成するMultiNA自動系を使用した。ベクター骨格に由来するTsp509I内部対照バンド(IC)は、矢印によって示される。
図14は、3'ベクターLTR-ゲノムジャンクションのLAM-PCR増幅によってベクター組み込み部位が同定されたことを証明する。いくつかのバンドを特徴とするパターンを生成するMultiNA自動系を使用した。ベクター骨格に由来するHpyCH4IV5内部対照バンド(IC)は、矢印によって示される。
【0177】
PCR産物を、MiSeq Illuminaプラットフォームによって配列決定し、入手された配列を、バイオインフォマティクスパイプラインによってマウスゲノムにマッピングし、前記の方法セクションに記載されたように、衝突についてフィルタリングした(
図15)。
図15は、遺伝学的に改変された造血前駆細胞を移植されたマウスにおいて実施された組み込み部位マッピングの分析の一般的なスキームである。示されたパイプラインに従って、補足的方法に記載されたように、移植後の異なる時点で採集された、2回の独立の実験(表3)に属する移植マウスに由来する骨髄および白血球の試料を分析した。
【0178】
全体として、本発明者らは、2,220の独特のベクター組み込み部位をもたらす、5,173,892のシーケンシングリードを移植マウスゲノム上にマッピングした。2回の独立の実験からのISのゲノム分布は、転写単位内(具体的には、転写開始部位TSSの最初の50Kb下流以内)の組み込みについての以前に報告されたLVの好みとマッチし(
図16a)、マウスゲノムの特定の染色体への歪みを示さなかった(
図16b)。
図16aは、TSSの500kb上流および下流に及ぶ、最も近いRefSeq遺伝子の転写開始部位(TSS)の周辺の組み込み部位(IS)頻度分布を示す。上部の数字は、全ての試料および時点について検出されたISの数である。
図16bは、特定の染色体への歪みを示さない、EGFPトランスジーン(黒色バー)またはcoRPK治療用トランスジーン(灰色バー)を発現する移植マウスにおけるLV組み込み部位の染色体分布を示す。
【0179】
PGK-coRPK LVに基づく遺伝子療法の安全性を、データセットの配列の総数に対する各IS(クローンマーク)のシーケンスカウントの百分率を計算する、クローン存在量推定によって研究した。各マウスについて検索された各ISの相対存在量のドットプロットおよびヒートマップ表示(
図17、18、および19)は、異なるマウスおよびインビトロ培養Lin
-細胞のクローン組成の強力な変動を示した。
図17は、治療用PGK-coRPK LVベクターを保持する一次レシピエントマウスと二次レシピエントマウスとの間の追跡された共有された組み込みのチャートである。任意の器官および時点において、いずれかのマウスにおいて検出された組み込みが、プールされる。二次レシピエントは、移植マウスcoRPK11~14に由来するプールされたBMを受容した。検出されたISの残りは、一次レシピエントまたは二次レシピエントにおいて検出された。ボックス内の数字は、言及されたマウスにおける相当する組み込みの提示率(%)を示す。組み込み分析に適用された≧5%フィルタに加えて、シーケンスカウント<3を有する全ての組み込みが排除された。
図19は、骨髄における各マウスにおけるプールされた組み込みのクローン存在量のドットプロット表示を提示する。各組み込み部位の相対百分率(y軸)は、各データセットにおいて入手されたシーケンスリードの総数に対するものである。co-RPK形質導入細胞と類似して(
図17)、グラフは、移植マウスの大部分が造血再集団のポリクローナルパターンを示すことを示す。
【0180】
また、いくつかの試料について、少数の組み込みが大量のシーケンスリードに寄与することを理解することが可能であり(
図17および18)、形質導入されたHSCの再集団のポリクローナルパターンが明らかにされた。さらに、治療用PGK-coRPK LVを保持する一次マウスと、その後に移植された二次マウスとの間の追跡された共有された組み込みは、群の間の組み込みの強力な共有を示さず、クローン優勢の欠如が確認された(
図18)。
【0181】
挿入変異誘発のホールマークが移植マウスに存在するか否かを決定するため、本発明者らは、現在進行中のLVによって媒介される臨床試験と類似の好発挿入部位(Common Insertion Sites/CIS)の発生を査定した。CISは、増殖優位性を付与するベクター組み込みを保有するクローンの形質導入またはインビボ選択の時の組み込みバイアスに起因し得る挿入ホットスポットである。Abelらに基づくアルゴリズムおよび外れ値についてのグラブス検定を使用してCISを同定したが、CISは見出されず、従って、このリードアウトによる遺伝毒性の警告兆候は見出されなかった。さらに、ジーンオントロジー(GO)分析は、再増殖造血細胞クローンの組織分布、時点、または存在量によって選別された組み込みデータセットのいずれにおいても、癌、細胞増殖、またはアポトーシスの制御に関与する遺伝子クラスへの歪みを明らかにしなかった(
図20)。
図20は、LVゲノム組み込みプロファイルを表す。ジーンオントロジー(GO)分析は、移植マウスに由来する試料に対してGREATソフトウェアを使用して実施された。この研究から検索された全ての組み込み(N=2220)が、図の左部分に示された遺伝子機能の過剰提示を示した。最も高存在量の組み込みが特定の遺伝子クラスにおいて濃縮されたか否かを解明するため、(
図17に示される)データセット全体に対する相対シーケンスカウント>5%を有する全ての組み込み部位を選択したところ、過剰提示されたGO遺伝子クラスは示されなかった。
【0182】
これらの結果は、ベクター組み込みの中立性を示唆し、前臨床状況におけるPGK-coRPK LVの安全性を証明する。
【0183】
実施例6
ヒト臨床試験
臨床試験は、脾摘出に対して抵抗性の重症輸血依存性貧血の病歴を有するピルビン酸キナーゼ欠損症を有する患者において、EU/3/14/1130医療用生成物(RPK遺伝子を含有しているレンチウイルスベクターによって形質導入された自己CD34+造血幹細胞)を使用した自己造血幹細胞移植(HSCT)の安全性および予備効力を評価するために実施される。
【0184】
ODD EU/3/14/1130は、治療用ヒトPKLR遺伝子のコドン最適化バージョンを発現する自己不活化型レンチウイルスベクターを含む(
図21)。
【0185】
自己不活化型レンチウイルスベクター(SIN-LV)は、より頑強な発現を提供し(Ellis 2005)、ガンマレトロウイルスベクターより転写サイレンシングを受けにくい(Pfeifer, Ikawa et al. 2002)。それらは、はるかに安全な組み込みプロファイル(Schroder, Shinn et al. 2002)(Mitchell, Beitzel et al. 2004)(Wu, Li et al. 2003)も示し、3'LTR配列(Miyoshi, Blomer et al. 1998)(Zufferey, Dull et al. 1998)内に保持する400bp欠失のため、トランスジーン発現が内部プロモーターによって制御され、そのことが、LVに基づく遺伝子改変の安全性を増加させる。
【0186】
受容されたレンチウイルスベクターのベクター配列は、標的細胞におけるトランスジーンの発現および安全性を改善するためのいくつかの改変も含む。
【0187】
一つの改変は、安定的なインビボ活性と遺伝子療法において使用される他のプロモーターと比較して改善された安全性特性とを既に特徴とするヒトホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターの使用である(Montini, Cesana et al. 2006、Modlich, Navarro et al. 2009、Montini, Cesana et al. 2009、Biffi, Montini et al. 2013)。PGKは、トランスジーンのより生理学的な発現および転写サイレンシングに対するより低い感受性をもたらす(Gerolami, Uch et al. 2000、Zychlinski, Schambach et al. 2008)。
【0188】
もう一つの改変は、転写時のmRNA安定性を増加させるヒトPKLR cDNAのコドン最適化バージョン(coRPK)である。最適化のため、転写サイレンシングを回避し、従って、トランスジーン発現を増加させるため、GC含量を増加させ、潜在性のスプライス部位を除去するGeneArt(登録商標)ソフトウェアが使用されている。coRPKの最適化配列は、タンパク質のアミノ酸配列の変化なしに、ヒトPKLR遺伝子との80.4%の相同性を示した。
【0189】
もう一つの改変は、残余のオープンリーディングフレームを欠く変異型ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(Wpre)(Schambach, Bohne et al. 2006)も、治療用遺伝子の発現および安定性のレベルを改善するために含まれることである。このレンチウイルスベクター(PGK-coRPK LV)の骨格、プロモーター、およびWpre*配列は、医療用生成物「ファンコニー貧血A型患者の治療のためのファンコニー貧血A型(FANCA)遺伝子を含有しているレンチウイルスベクター」(Ref 141/2000)に相当するもの、および異染性白質ジストロフィー(MLD)のための現在進行中の臨床試験において使用されているベクター骨格と同じである(Biffi, Montini et al. 2013)。
【0190】
作用モード
骨髄(BM)または動員された末梢血細胞のいずれかから、PKD患者由来のCD34
+前駆細胞を採集した後、それらを医療用生成物によってエクスビボで形質導入し、治療用ベクターを細胞のゲノムに組み込む。組み込まれた後、PKD成熟赤血球において欠如しているかまたは低下している治療用RPKタンパク質が産生されるよう、治療用ヒト遺伝子(coRPK)が、欠損細胞において転写され翻訳される。次いで、形質導入されたPKD造血前駆細胞は、遺伝学的に矯正され、従って、機能を達成するために十分な量のATPを有するRBCを産生することができる(
図22)。(医療用生成物を構成する)これらの遺伝学的に矯正された造血前駆細胞は、次いで、患者に、戻し移植され、生着後、一生、正常な赤血球を生成し、疾患を治療する。
【0191】
有効成分は、ピルビン酸キナーゼ欠損症の処置のためのオーファンドラッグとしてEuropean Commissionによって指定された治療用レンチウイルスベクターPGK.coRPK.wpre(ODD EU/3/14/1130)によって矯正された造血幹細胞(CD34+)細胞の細胞懸濁物にあるであろう。従って、この新しい医薬品は、遺伝子療法サブクラス内の先端治療開発の群に含まれるべきである。
【0192】
有効成分は、1細胞当たり少なくとも0.1コピーの治療用ベクターを有する体重1Kg当たり少なくとも2×106 CD34+細胞の遺伝学的に改変された細胞懸濁物から構成される。細胞は、2%HSAを含む生理食塩緩衝液に懸濁させられる。
【0193】
最終的な治療用生成物は、GMPルールに従って作製され、従って、患者における遊離(liberation)および注入のための生成物の必要量は、生成物の品質に関係するであろう。これに関して、これらの明細は、細胞生存度≧30%、無菌性(薬局方によるグラム試験および無菌性)、マイコプラズマの欠如、複製性の競合的なレンチウイルス粒子の欠如、ならびに定量的PCRによる1細胞当たり少なくとも0.1ベクターコピーの存在の検出による治療可能性の効力の証明である。さらに、造血前駆細胞の含量およびこれらにおけるベクターコピー数の調査および研究が実施される。手法が前記の必要量に達することを確実にするため、3種の独立のバリデーションが健常対照細胞で実施される。
【0194】
最終生成物は、特に、凍結および患者への注入までの保管のため、熱によって密封された輸送バッグに最終的にパッケージングされ;事前に、試料は、正確な対応する品質管理のために収集されるであろう。
【0195】
動員
患者は、それぞれの病院において動員されるが、最初の2人の患者は、Hospital del Nino Jesus(Madrid, Spain)において動員されるであろう。動員過程は、12mg/kgの用量の組換え刺激因子顆粒球コロニー(G-CSF、Neupogen, Amgen, Thousand Oaks, CA, USA)の生後8日間までの1日2回の投与、240mg/kg/dのプレリキサホル(Mozobil(登録商標)、Genzyme Europe BV, Naarden, Netherlands)の4日目から4日連続の4回の皮下投与であろう。末梢血由来の造血前駆細胞が、MadridのHospital Nino Jesusにおいて、標準的なプロトコルに従って、細胞分離装置を通して、動員の5日目から、白血球アフェレーシスによって大量に収集される。全ての器機および溶液が、CEマーク付きであり、医療機器に関する法律の明細を満たしている。
【0196】
CD34
+
細胞精製
動員過程と一致して、アフェレーシスは、患者が動員される病院において行われるであろう。アフェレーシスは、強力な永久磁石および強磁性マトリックスを含む分離カラムを通した高磁場勾配による細胞の分離を可能にするMACS「磁気細胞選別」テクノロジー(Miltenyi Biotec, Germany)を通して、造血前駆細胞(CD34+細胞)を選択するため、即座に処理されるであろう。CliniMACS(Miltenyi Biotec, Bergisch Gladbach, Germany)系は、コンピューター(CliniMACS(登録商標)plus Instrument)、特異的CD34+選択ソフトウェア、無菌チューブのセット(CliniMACS Tubing Sets)、磁気によって調節される反応性無菌器機(CliniMACS CD34 Reagent)、および無菌緩衝液(CliniMACS PBS/EDTA Buffer)からなる。使用される器機および試薬は、CEマーク付きであり、医療機器に関する法律の明細を満たしている。この相および後の洗浄において、非特異的免疫グロブリン(静脈内フレボガンマ(Flebogamma)5% 0.5gr、Grifols)およびヒトアルブミン(ヒトアルブミンGrifols(登録商標)20%、Grifols)が利用され、それらは遠心分離後の洗浄によって後に除去される。次いで、CD34+細胞が定量化される。入手された生成物に対する微生物学的調節は、特定のプロトコルによる培養のため、標準的な真菌、好気性細菌、および嫌気性生物の試料を採取することによって実施される。
【0197】
CD34
+
形質導入
精製されたCD34+細胞のODD EU/3/14/1130による形質導入は、患者からの細胞の抽出(アフェレーシス)から48時間以内の時間枠でGMP条件下で行われる。細胞のエクスビボ培養を、48時間未満続け、適切に製剤化された培地X-vivo-20(Lonza)の使用、造血増殖因子(10Ong/ml hrSCF、10Ong/ml hrFlt-3、10Ong/ml TPO、および20ng/mL IL-3(全て、Prepotech))、1μg/mLプルモザイム(Pulmozyme)、ならびに調節された5%O2濃度の添加を含む、確立された標準に従って培養する。形質導入は、VIVEbiotech(San Sebastian, Spain)によって作製されたODD EU/3/14/1130のGMPレンチウイルスバッチによって実施される。形質導入後、細胞は、X-vivo-20(Lonza)で洗浄され、最終的には、凍結保存のために適当な輸送バッグにパッケージングされる。最終生成物が最終的な遊離のための既に言及された全ての明細を満たするか否かを決定するため、特定の試料が収集される。3種の独立のバリデーションが、生成物の安定性を評価するために実施される。ベクターを含む全ての生成物および溶液が、医療機器および臨床的使用についての法律の明細を満たす。作製の前に、(消耗品、生物学的試薬、および化学的粉末を含む)全ての原材料が、標準操作手順(SOP)に従って、Quality Control(QC)Unit of CliniStemによって検査される。
【0198】
コンディショニング
患者は、治験のために考慮された標準化された特定のプロトコルに従ってコンディショニングされる。代替のコンディショニングのために患者を考慮するため、調製された生成物が処置された患者の造血を完全に再構成しないケースにおいて使用するため、2×106個の未操作のCD34+細胞/kgのバックアップを凍結する。
【0199】
注入
注入前に、研究の必要条件を満たすことを確実にするため、患者の適格性をチェックする。注入の日、使用された前投薬および予防的投薬を記録する。
【0200】
実施例7
非臨床開発
以前の研究は、25%を超える遺伝学的に矯正された細胞が移植された時、マウスにおけるPKDのHSC遺伝子療法が実行可能であることを証明した。これらの結果は、PKDにおける治療効果を達成するためには、相当数のドナー遺伝子矯正HSC(Zaucha, Yu et al. 2001)および高レベルのトランスジーン発現が必要であることを示唆する。本発明者らは、2014年8月にオーファンドラッグとして指定された、PKLR cDNAの発現を駆動するhPGK真核生物プロモーターを保有している、この臨床試験のために提唱された新しい治療用レンチウイルスベクターを開発した(EU/3/14/1130)。このベクターを用いて、本発明者らは、疾患のマウスモデルにおいてPKDの前臨床遺伝子療法プロトコルを実施した。臨床標準に基づくレンチウイルス投薬量で、異所RPK発現は、赤血球コンパートメントを正常化し、血液学的表現型を矯正し、器官病理を逆転させることができた。メタボローム研究は、遺伝学的に矯正されたRBCにおける解糖経路の機能的矯正を証明し、白血球における代謝妨害は観察されなかった。注目すべきことに、RPKがPGKのような偏在性プロモーターの活性の下で異所発現される時、平行して分析されたWBCは、白血球における代謝バランスの変更を示さず、そのことから、可能性のある安全性問題としての白血球代謝優位性が除外され、EU/3/14/1130ベクターの治療可能性が強化される。
【0201】
BM再移植によって誘導された増殖ストレスの後の二次レシピエントにおける多系統再構築および白血病イベントまたはクローン増大の欠如は、PGK-coRPK LVベクターに基づくプロトコルの長期安定性および安全性を証明する。(i)RPKトランスジーンのより生理学的な発現をもたらす可能性が高く、(ii)弱いトランス活性化因子であることが立証されており、(iii)異染性白質ジストロフィー(MLD)の臨床試験において現在使用されているヒトPGK真核生物プロモーターの使用も、手法全体の安全性を説明することができる。
【0202】
ベクター組み込み部位の分析を通してHSC遺伝子療法の長期安全性を査定するため、HSCにおける挿入による発癌のリスクを予測するため、次世代配列決定を使用した。5,173,892を超えるシーケンスリードが、マウスゲノム上の全部で2220の独特のベクターISへマッピングされたが、ISを保有するクローンのインビボ増大または選択の証拠は見出されなかった。むしろ、本発明者らのデータは、経時的なHSCの真の安定的な遺伝学的インビボ改変を示唆する、マウスにおける形質導入HSCの移植後の造血のクローン組成および動力学を示した。全体として、ベクター組み込みパターンの分析は、遺伝毒性の証拠なしにPKDの遺伝学的矯正を提供するPGK-coRPK LVベクターの安全性特性を強く示している。
【0203】
実施例8
臨床開発
現在までのところ、医療用生成物による臨床研究は実施されていない。プロトコルアシスタンスが規制当局へ必要とされるのは、これが最初である。本発明者らの目標は、European Commissionによって支援された臨床試験を実施することである。欧州の種々の臨床医および基礎研究者によって構成されるForGeTPKDコンソーシアムが、PKD研究および新しい治療戦略の開発に焦点を当てるために設立されている。ForGeTPKD臨床試験は、ヒトにおけるこの医療用生成物の最初の投与になる。それは、重症ピルビン酸キナーゼ欠損症を有する患者における赤血球型ピルビン酸キナーゼ(RPK)遺伝子を含有しているレンチウイルスベクター(EU/3/14/1130)によってエクスビボで形質導入された自己CD34+細胞の移植の安全性および効力を評価するための国際多施設第I/II相非盲検研究として設計される。
【0204】
規制状態
医療用生成物は、現時点で販売承認を有していない。PKDコンソーシアムの目的は、最終的に販売承認を受けるため、医療用生成物の臨床開発へ前進することである。
【0205】
言及された最終生成物は、以下のものと関係のあるオーファンドラッグ指定を受けたレンチウイルスベクターによって作製される:
【0206】
適応症:ピルビン酸キナーゼ欠損症の処置。
【0207】
基準:PKDの唯一の治療的処置は、他の措置に対して抵抗性の輸血依存性重症貧血を有する患者において使用されている同種BMTである。しかしながら、同種BMTは、化学療法または化学放射線治療による集中的なプレアロBMTコンディショニングに関連した重症合併症に関連しており、急性および慢性の移植片対宿主病(GVHD)にも関連しているため、PKDの広く認められた処置ではない(1人の患者のみが、文献(Tanphaichitr, Suvatte et al. 2000)において報告されている)。本発明者らの仮説は、ODD EU/3/14/1130によって提供される遺伝子の野生型バージョンを含有しているウイルスベクターによって形質導入された自己造血幹細胞を使用した遺伝子療法が、造血前駆細胞移植の失敗の主因であるGVHDのリスクを回避する、これらの患者のための可能性のある治療機会を表し得るというものである。
【0208】
活性物質:タンパク質の野生型バージョンを発現する赤血球型ピルビン酸キナーゼ(RPK)遺伝子を含有しているレンチウイルスベクター(ODD EU/3/14/1130)によって形質導入された自己CD34+造血幹細胞。
【0209】
完成品:2%HASを含む生理食塩水緩衝液に懸濁した、患者の体重1kg当たり少なくとも2×106個の活性物質を含有している凍結バッグ。
【0210】
実施例9
薬理学
完了した研究:開発された医療用生成物は、PKDの遺伝子療法のためのいくつかの利点を提供する数種の改変を配列内に含む:(1)SIN-LVベクター設計の使用が、HSCを効率的に形質導入することができるウイルスストックの比較的容易で安全な作製を可能にした;(2)メチル化によるサイレンシングを受けにくい(Gerolami, Uch et al. 2000)hPGKのような弱い真核生物プロモーターの使用が、トランスジーンのより生理学的な発現をもたらし、臨床標準内のウイルス投薬量(1.65 VCN)で治療的レベルを達成する(Matrai, Chuah et al. 2010);(3)コドン最適化されたトランスジーン配列および変異型Wpre配列の存在が、トランスジーンmRNA安定性を増加させ:レポーター遺伝子が治療用ベクター配列に含まれず、可能性のある免疫原性の問題が回避された(Morris, Conerly et al. 2004);(Stripecke, Carmen Villacres et al. 1999)。
【0211】
開発されたhPGK-coRPK LV医療用生成物は、ODD EU/3/14/1130によって形質導入され矯正された前駆細胞を移植された一次欠損マウスおよび二次欠損マウスの両方においてPKD病理を効率的に逆転させた。矯正は、平均して1細胞当たり1.65コピーの治療用トランスジーンを保持している細胞で達成された。
【0212】
ヒトPGKプロモーターは、移植マウスにおける溶血表現型を回復させる、臨床的に適切なレベルのcoRPKタンパク質を発現させるために十分に強力であった。
【0213】
遺伝学的矯正は、RBC半減期を延長し;血液学的変数および網状赤血球レベルを正常化し;PKDマウスにおいて構成的に活性化された代償的な赤血球生成を逆転させ;脾臓および肝臓における病理を救済し、注目すべきことに、PKDの命に関わる合併症のうちの一つである鉄過剰を低下させることができた。さらに、ヒトRPKの異所発現は、WBCにおける代謝バランスを変更することなく、RBCにおけるエネルギー的欠陥を矯正し、そのことから、医療用生成物の効力および安全性が強く示された。
【0214】
実施例10
進行中の研究
(1)ヒト細胞におけるODD EU/3/14/1130の形質導入の効率の研究;(2)RPK治療用タンパク質の効率的な治療的な発現を得るための最適ベクターコピー数/細胞の明確化;および(3)造血幹細胞の能力を失うことなく、治療的な形質導入レベルを得るための最適条件の明確化:のための健常ドナーおよびPKD患者に由来するヒト造血前駆細胞の形質導入。
【0215】
計画されている研究には、GMP施設における大規模形質導入のための条件のセットアップ、ならび最終的な治療用生成物について明確化された必要とされる明細に達するための最適条件をセットアップするためのプレバリデーション研究および3種のバリデーション研究が含まれる。
【0216】
毒物学
完了した研究には、以下のものが含まれる。(1)ヒトRPKの異所発現は、WBCにおける代謝バランスを変更することなく、RBCにおけるエネルギー的欠陥を矯正した;(2)ベクターのゲノム組み込み分析は、以下のことを証明した。(i)特定の細胞クローンの相対存在量の分析は、いくつかのマウスのオリゴクローナルな造血再構築を明らかにし、一次移植マウスおよび二次移植マウスについてのクローン優勢を示さなかった;(ii)挿入変異誘発のホールマークと見なされる好発組み込み部位(CIS、定義されたゲノム間隔におけるベクター組み込みの高密度クラスタ)は、遺伝毒性の兆候を示さず、経時的なCISの異常な濃縮も、マウスにおいて実施された2回の独立の遺伝子療法実験から検出されたCISも、高いシーケンスカウントによって提示されず、癌遺伝子を優先的に標的としなかった;(iii)レンチウイルス組み込みによって標的とされた遺伝子のジーンオントロジー(GO)分析およびゲノムの特定の領域におけるベクター組み込みの位置の研究は、癌、細胞増殖、またはアポトーシスの制御に関与する遺伝子クラスへの歪みを示さなかった;(iv)全体として、医療用生成物組み込み分析は、遺伝毒性の証拠を示さなかった。
【0217】
計画されている研究には、以下のものが含まれる。(1)組換えコンピテントレンチウイルス(RCL)作製の分析:健常ドナーおよびPKD患者に由来するヒトTリンパ球を、ODD EU/3/14/1130によって形質導入し、長期間にわたりインビトロ培養する。可能性のあるRCLの生成を評価するため、ELISAによって上清中のウイルスp24タンパク質の存在を分析する。(2)医療用生成物の体内分布:マウス造血前駆細胞を、ODD EU/3/14/1130によって形質導入し、致死的に照射されたレシピエントへ移植する。移植後1ヶ月目に、動物を屠殺し、異なる器官(性腺、肝臓、腎臓、脳、骨髄、脾臓、および末梢血)を、ベクターDNAの存在について分析する;(3)ヒト細胞におけるベクターインテグローム(integrome):健常ドナーおよびPKD患者に由来する造血前駆細胞を、ODD EU/3/14/1130によって形質導入し、ヒト造血細胞の生着および増殖を可能にするため、重症免疫不全マウスへ移植する。異なる時点(移植後1ヶ月目、2ヶ月目、および3ヶ月目)で、血液およびBM移植片を採取し、ヒト細胞を選別し、マウス細胞で既に実施されたようなベクターインテグローム分析に供する。
【0218】
実施例11
ヒト臨床試験
臨床効力を試験するため、ForgetPKD治験を実施する。提唱された臨床試験は、脾摘出に対して抵抗性の重症輸血依存性貧血の病歴を有するピルビン酸キナーゼ欠損症を有する患者において、EU/3/14/1130医療用生成物(赤血球型ピルビン酸キナーゼ(RPK)遺伝子を含有しているレンチウイルスベクターによって形質導入された自己CD34+造血幹細胞)を使用した自己造血幹細胞移植(HSCT)の安全性および予備的な効力を評価することを目標とする。
【0219】
主な目的は、処置の安全性および認容性/実行可能性を評価することである。従って、以下の終点を測定する:(1)形質導入細胞の注入に関連したAE、細胞注入前のコンディショニングに由来するAE、および形質導入細胞に関連したクローン進化に由来するAE:を含む有害イベント(AE)の発生率および特徴決定;ならびに(2)移植後30日目の幹細胞生着を有する患者の数。
【0220】
二次的な目的は、予備的な処置効力を評価することである。従って、以下の終点を測定する:研究の後わりの「輸血非依存性」になった患者の数;処置後に未だ輸血を必要とする患者における、研究期間(1年)内に必要とされた輸血の平均回数と、ベースライン評価前の最後の1.5年間の輸血の平均回数との比;研究の後わりの、ベースラインからの2gr/dLのヘモグロビンレベルの上昇を有する患者の数として定義される、貧血の臨床的に有意な低下;研究の後わりの、ベースライン評価からの50%の低下を有する患者の数として定義される、網赤血球増加症の臨床的に有意な低下;ならびに細胞注入後6ヶ月目および12ヶ月目および研究の後わりの、1%の形質導入細胞が検出され得る幹細胞生着を有する患者の数。
【0221】
調査目的は、患者の生活の質に対する処置の影響を評価することである。従って、以下の終点を測定する:生活の質に関する調査票(成人用のSF-36または子供用のPEDSQL)ならびに関係国の言語(イタリア語、オランダ語、およびスペイン語)に翻訳されたバリデートされたバージョンを使用した、研究の後わりの、生活の質のベースラインからの改善。
【0222】
ForGetPKD治験は、3つのEU加盟国:スペイン、イタリア、およびオランダにおいて実施される多施設国際治験である。参加施設には、Reference National Investigators and Institutions for PKD diagnosis and treatmentが含まれる。
【0223】
この治験は、記載された生成物のヒトへの最初の投与を表す。それは、非比較非盲検単回投与第I/II相研究として設計される。
【0224】
グローバルスタディ期間は、最初の患者の最初の診察から最後の患者の最後の診察までの2年になるであろう。これは、1年の動員期間ならびに1年の処置期間および初期(直後)追跡を含む。治験の終了後、含まれる対象は、移植後5年までの間、安全性および効力をモニタリングするその後の追跡研究に参加するように依頼される。
【0225】
疾患罹患率および研究設計によって、1年に6人の患者を含むことが計画されている。この推定は、既に同定された3人の可能性のある参加者が存在することを考慮して決定された。
【0226】
研究手法には、スクリーニング期間、処置期間、および追跡期間が含まれる。各相での診察の詳細および関連する研究手法は、以下に詳述され、表4に要約される。
【0227】
【0228】
スクリーニング期間
初回診察:プレスクリーニング診察
可能性のある候補に、治験の目的および特徴が通知され、インフォームド・コンセント文書が二通入手され、記入され、患者(未成年の場合、法定代理人)によって署名される。研究に適格であるため、患者は、全ての選択基準を満たしていなければならず、いかなる除外基準も満たしていてはならず、それがチェックされる。これは、A. 非生着のケースのバックアップとして役立つ体重1kg当たり2×106個のCD34+細胞を保管し、B. 医療用生成物を生成し、医療用生成物の遊離のために必要とされる全ての品質管理を実施するため、体重1kg当たり少なくとも6×106個のCD34+細胞をEU/3/14/1130ベクターによって形質導入するため、生CD34+細胞を動員し入手するための前処理手法を含む。医療用生成物の遊離の後に十分な形質導入細胞(体重1kg当たり2×106個の形質導入CD34+細胞)が入手可能である患者のみが、研究に含まれる。
【0229】
以下の手法も、この診察において実施される:
-関連する病歴および手術歴の登録
-人口統計的データおよび臨床的に関連する身体検査所見の登録
-関連する併用薬の登録
-ルーチンの血球数算定(CBC)、生化学、凝固決定、および血清学のための末梢血試験
-心エコー図、肺機能試験、および胸部X線
-生活の質に関する調査票(SF-36またはPEDSQL)
-PKDの遺伝学的診断
【0230】
研究に適格であるため、患者は、以下の選択基準の全てを満たしていなければならず、いかなる除外基準も満たしていてはならない。
【0231】
選択基準は、動員の時点で年齢>2歳の男性または女性の患者であること、(18歳未満の子供のケースにおいては親または法定代理人によって署名される)署名されたインフォームドコンセントを与える意思があること、PKDの事前の診断が遺伝子検査によって確認されていること、脾摘出に対して不応性の重症輸血依存性貧血の病歴があること、自己造血幹細胞移植の候補であること、体重1kg当たり≧2×106個の形質導入CD34+細胞が入手可能であること、および輸血歴を含む詳細な診療記録を維持している専門施設において少なくとも過去2年間処置され追跡されていることである。
【0232】
除外基準には、ヒト免疫不全ウイルス1型または2型(HIV 1およびHIV 2)の存在が陽性であること、未矯正の出血性障害があること、溶血の他の原因が存在すること、過去または現在の悪性疾患または脊髄増殖性障害または免疫不全障害があること、既知のまたは推測される(遺伝性乳癌卵巣癌症候群、遺伝性非ポリポーシス結腸直腸癌症候群、および家族性大腸腺腫症を含むが、これらに限定されるわけではない)家族性癌症候群を有する近親者がいること、以前に同種移植を受けた患者であること、ドナー起源の残余細胞が存在すること、医学的評価の後にグレードIII/IVの心臓、肺、肝臓、または腎臓の機能異常に罹患していると見なされる重症合併症を有する患者であること、未管理の発作障害があること、(ヘモグロビンに対して補正された)期待値の<50%の一酸化炭素(DLco)の拡散能力を有すること、研究者の見解において除外を保証する重症鉄過剰の他の証拠があること、スクリーニング30日以内に調査薬による別の臨床研究へ参加していること、同種骨髄移植のためのHLA適合家族ドナーが利用可能であること、妊娠中または授乳中の女性であること、研究者基準によって、研究の目的、利益、およびリスクを理解しかつ/または研究手法を遵守することができないであろう患者であること、成人においてはカルノフスキー(Karnofsky)インデックス≦80または子供においてはランスキー(Lansky)≦80によって証拠付けられる不十分な機能的状態であることが含まれる。
【0233】
研究の統計分析は、記述的である。定性的終点は、頻度および百分率によって記載される。定性的終点には、有害イベント、幹細胞生着を有する患者の数、「輸血非依存性」になる患者の数、貧血の臨床的に有意な低下を有する患者の数、網赤血球増加症の臨床的に有意な低下を有する患者の数、形質導入細胞の存在が検出され得る幹細胞生着を有する患者の数、およびSF-36またはPEDSQL調査票によって測定されたベースラインからの生活の質の改善が含まれる。定量的終点は、平均値および標準偏差、または中央値および四分位数によって記載される。定量的終点には、貧血および網赤血球増加症のベースラインからの低下、ベースライン評価前の過去1年間の輸血の回数と比べた、研究期間内に必要とされた輸血の回数、ならびに末梢血および骨髄におけるベクターコピー数が含まれる。全ての終点が、研究の後わりに記載される。
【0234】
以前の研究は、25%を超える遺伝学的に矯正された細胞が移植された時、マウスにおけるPKDのHSC遺伝子療法が実行可能であることを証明した。これらの結果は、PKDにおける治療効果を達成するためには、相当数のドナー遺伝子矯正HSC(Zaucha, Yu et al. 2001)および高レベルのトランスジーン発現が必要とされることを示唆する。本発明者らは、2014年8月にオーファンドラッグとして指定された、PKLR cDNAの発現を駆動するhPGK真核生物プロモーターを保有している、この臨床試験のために提唱された新しい治療用レンチウイルスベクターを開発した(EU/3/14/1130)。このベクターを用いて、本発明者らは、疾患のマウスモデルにおいてPKDの前臨床遺伝子療法プロトコルを実施した。臨床標準に基づくレンチウイルス投薬量で、異所RPK発現は、赤血球コンパートメントを正常化し、血液学的表現型を矯正し、器官病理を逆転させることができた。メタボローム研究は、遺伝学的に矯正されたRBCにおける解糖経路の機能的矯正を証明し、白血球における代謝妨害は観察されなかった。注目すべきことに、RPKがPGKのような偏在性プロモーターの活性の下で異所発現される時、平行して分析されたWBCは、白血球における代謝バランスの変更を示さず、そのことから、可能性のある安全性問題としての白血球代謝優位性が除外され、EU/3/14/1130ベクターの治療可能性が強化される。
【0235】
BM再移植によって誘導された増殖ストレス後の二次レシピエントにおける多系統再構築および白血病イベントまたはクローン増大の欠如は、PGK-coRPK LVのベクターに基づくプロトコルの長期安定性および安全性を証明する。RPKトランスジーンのより生理学的な発現をもたらした可能性が高く、弱いトランス活性化因子であることが立証されており、異染性白質ジストロフィー(MLD)の臨床試験において現在使用されている、ヒトPGK真核生物プロモーターの使用も、手法全体の安全性を説明することができる。
【0236】
ベクター組み込み部位の分析を通してHSC遺伝子療法の長期安全性を査定するため、HSCにおける挿入による発癌のリスクを予測するため、次世代配列決定を使用した。5,173,892を超えるシーケンスリードが、マウスゲノム上の全部で2220の独特のベクターISへマッピングされたが、ISを保有するクローンのインビボの増大または選択の証拠は見出されなかった。むしろ、本発明者らのデータは、経時的なHSCの真の安定的な遺伝学的インビボ改変を示唆する、マウスにおける形質導入HSCの移植後の造血のクローン組成および動力学を示している。全体として、ベクター組み込みパターンの分析は、遺伝毒性の証拠なしにPKDの遺伝学的矯正を提供するPGK-coRPK LVベクターの安全性特性を強く示している。
【配列表】