(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】遮音材
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20240718BHJP
G10K 11/162 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
G10K11/16 100
G10K11/162
(21)【出願番号】P 2022078788
(22)【出願日】2022-05-12
(62)【分割の表示】P 2017251226の分割
【原出願日】2017-12-27
【審査請求日】2022-05-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 貫也
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-246182(JP,A)
【文献】特開2011-235794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 39/26-39/36
B29C 41/38-41/44
B29C 43/36-43/42
B29C 43/50
B29C 45/26-45/44
B29C 45/64-45/68
B29C 45/73
B29C 49/48-49/56
B29C 49/70
B29C 51/30-51/40
B29C 51/44
B60R 13/01-13/04
B60R 13/08
G10K 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空隙の内面に接触しながら該空隙内に挿入されるスキン層を有するポリウレタンフォームのモールド成形品からなる遮音材において、
前記スキン層表面の外側および/またはスキン層表面の一部分に摩擦低減部を有し、
前記摩擦低減部は、前記スキン層とは別体であり、前記ポリウレタンフォームのモールド成形時に前記スキン層表面の外側および/またはスキン層表面の一部分に形成されたものであり、前記空隙内への挿入の際に少なくとも前記空隙の内面と接触する部位に設けられていることを特徴とする遮音材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遮音材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両においては、例えば、エンジンルームやタイヤハウス等における音の伝達経路の空隙に遮音材を配置して騒音が車内に伝わるのを抑えるようにしている。近年、車両用遮音材として、金型にポリウレタンフォーム原料を注入して発泡させることにより製造されるポリウレタンフォームのモールド成形品が使用されている。
【0003】
ポリウレタンフォームのモールド成形品からなる遮音材は、空隙内面との間に隙間が存在すると音が漏れやすいため、空隙と等しいあるいは所定量大きいサイズで製造され、空隙内の内面に接触しながら空隙内に挿入され、挿入後に空隙内面に密着するようにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ポリウレタンフォームのモールド成形品からなる遮音材は、空隙内面に接触しながら空隙内に挿入されるため、その際の摩擦抵抗が大きく、挿入作業に手間取ったり、大きな力が必要になったりする問題がある。また、ポリウレタンフォームのモールド成形品からなる遮音材を空隙内に挿入する際に、大きな摩擦抵抗によって空隙内面に引っ掛かったり、破れたりすることがある。
本発明は前記の点に鑑みなされたものであり、表面の摩擦抵抗を低減し、空隙内への挿入作業が容易な遮音材とその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、空隙の内面に接触しながら該空隙内に挿入されるスキン層を有するポリウレタンフォームのモールド成形品からなる遮音材において、前記スキン層表面の外側および/またはスキン層表面の一部分に摩擦低減部を有し、前記摩擦低減部は、前記ポリウレタンフォームのモールド成形時に前記スキン層表面の外側および/またはスキン層表面の一部分に形成されたものであり、前記空隙内への挿入の際に少なくとも前記空隙の内面と接触する部位に設けられていることを特徴とする。
【0007】
第2の態様は、第1の態様において、前記摩擦低減部は、ウレタン系樹脂および/またはアクリル系樹脂からなることを特徴とする。
【0008】
第3の態様は、第1または第2の態様において、前記摩擦低減部は、膜状または散点状からなることを特徴とする。
【0009】
第4の態様は、空隙の内面に接触しながら該空隙内に挿入されるスキン層を有するポリウレタンフォームのモールド成形品からなる遮音材の製造方法において、金型の内面に離型剤を塗布し、前記空隙内への前記遮音材の挿入の際に少なくとも前記空隙の内面と接触する前記遮音材の部位を製造する前記金型の内面の前記離型剤上に塗料を塗布し、前記塗料を硬化させて摩擦低減部を作製し、前記金型にポリウレタンフォーム原料を注入し、発泡させることにより、前記スキン層表面の外側および/またはスキン層表面の一部分に前記摩擦低減部を有するポリウレタンフォームのモールド成形品からなる遮音材を製造することを特徴とする。
【0010】
第5の態様は、第4の態様において、前記塗料はウレタン系エマルジョンおよび/またはアクリル系エマルジョンであることを特徴とする。
【0011】
第6の態様は、第4または第5の態様において、前記塗料の塗布は膜状または散点状に行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遮音材は、ポリウレタンフォームのスキン層表面の外側および/またはスキン層表面の一部分に摩擦低減部が設けられているため、表面の摩擦抵抗が低減され、空隙内への挿入作業が容易になる。また、摩擦低減部は、ポリウレタンフォームのモールド成形時に形成されたものであるため、後加工によるスキン層表面への塗布等で設けた摩擦低減部よりもスキン層との接着力を高くすることができる。このため、遮音材を空隙内に挿入する際に摩擦低減部の剥がれ等により摩擦力が低下し、作業性が悪化したり、遮音材自体が損傷したりするのを防ぐことができる。
【0013】
本発明の遮音材の製造方法は、金型内面の離型剤上に塗料を塗布してポリウレタンフォームをモールド成形することにより、スキン層表面の外側および/またはスキン層表面の一部分に摩擦低減部を有するポリウレタンフォームのモールド成形品からなる遮音材を製造することができるため、後加工による塗布等で摩擦低減部を設けるよりも製造作業が簡略かつ容易になる。
【0014】
また、金型内面の離型剤上に塗料が塗布されて硬化してなる摩擦低減部は、その後に金型に注入されたポリウレタンフォーム原料の発泡によって、ポリウレタンフォームのスキン層と強固に接着するため、後加工による塗布等で設けた摩擦低減部よりもスキン層との接着力が高くなり、製造された遮音材を空隙内に挿入する際に作業性が悪化したり、遮音材自体が損傷したりするのを防ぐことができる。特に、スキン層表面の一部分に摩擦低減部を有する場合、摩擦低減部をポリウレタンフォーム原料が取り囲むようにしてスキン層が形成されるため、スキン層との接着力を一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】遮音材及び空隙の一実施形態の断面図である。
【
図3】遮音材の製造方法における離型剤塗布と塗料塗布を示す断面図である。
【
図4】遮音材の製造方法におけるポリウレタンフォーム原料注入と発泡を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の遮音材の実施形態について図面を用いて説明する。
図1に示す遮音材10は、同図に示す空隙50内に該空隙50の内面51と接触しながら挿入されるものである。空隙50は、例えば、車両の部材間や隔壁間等に存在する。遮音材10は、外形状が空隙50の内面51の形状に対して同一または所定量大きな相似形状からなり、遮音材10の側面には、空隙50の内面51の凹部53に嵌まる凸部11を有する。遮音材10の凸部11は、遮音材10を空隙50内に挿入する際に、空隙50の挿入口と干渉する干渉部(衝突部)である。
【0017】
遮音材10は、スキン層15を有するポリウレタンフォームのモールド成形品からなり、空隙50内に挿入する際、空隙50の内面51と接触して圧縮変形可能な硬さからなる。スキン層15表面の外側および/またはスキン層表面の一部分には、摩擦低減部17を有する。
【0018】
スキン層15は、ポリウレタンフォームの内部(コア)16よりも密度が高くなった表面の層状部分であり、ポリウレタンフォームのモールド成形時に、金型の内面で押圧されて形成される。スキン層15の厚みは100~1000μm程度である。
【0019】
摩擦低減部17は、ポリウレタンフォームのモールド成形時にスキン層15表面の外側および/またはスキン層表面の一部分に形成されたものであり、遮音材10を空隙51内に挿入する際に少なくとも空隙50の内面51と接触する部位(凸部11)に設けられるが、空隙50の内面51と接触する部位以外にも設けてもよい。例えば、遮音材10における空隙50の内面51と接触する面全体に設けてもよいし、遮音材10の全面(直方体の場合、前後左右上下の6面)に設けてもよい。また、摩擦低減部17を設ける部分は、該当部位の全体に設けてもよいし、一部にのみ設けてもよい。一部にのみ設ける場合は、空隙50の内面51と接触して強く押される部位に設けるのが効果的である。
図1の例では、遮音材10を空隙50内に挿入する際に、空隙50の挿入口と干渉する前記凸部11の表面全体に摩擦低減部17が設けられている。
【0020】
摩擦低減部17は、ポリウレタンフォーム原料のみから形成されるスキン層15よりも静摩擦係数(JIS K7125:1999に基づく)の小さな樹脂からなり、好ましい静摩擦係数は1以下であり、より好ましくは0.8以下である。摩擦低減部17を構成する樹脂としては、ウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂とアクリル系樹脂の混合物等を挙げることができる。摩擦低減部17の形態や厚みは限定されるものではなく、膜状や棒状(連続状)、散点状(非連続状)、膜状や棒状と散点状の組合せ等適宜決定される。
図2の(2-A)は、摩擦低減部17が膜状の例、
図2の(2-B)は、摩擦低減部17が散点状(非連続状)の例、
図2の(2-C)は、摩擦低減部17が膜状(連続状)の部分171と散点状(非連続)の部分172の両方からなる例である。摩擦低減部17の厚みは、膜状や棒状の場合に10~100μm程度、散点状の場合に0.1~10μm程度が好ましい。
【0021】
遮音材10は、空隙50内への挿入時、空隙50の内面51と接触する部位に摩擦低減部17が設けられているため、摩擦抵抗を小さくでき、空隙50内への挿入作業が容易である。また、摩擦低減部17は、ポリウレタンフォームのモールド成形時にスキン層15表面の外側および/またはスキン層表面の一部分に形成されたものであるため、スキン層15との接着力が高く、遮音材10を空隙50内に挿入する際に摩擦低減部17の剥がれ等による作業性の悪化や遮音材10自体が損傷したりするのを防ぐことができる。
【0022】
遮音材10の製造は、モールド成形によって行われ、離型剤塗布工程、塗料塗布工程、ポリウレタンフォーム原料注入工程、発泡硬化工程、脱型工程が順に行われる。
【0023】
離型剤塗布工程では、
図3の(3-A)に示すように、金型60の下型61の内面62と上型65の内面66とに、それぞれ離型剤71をスプレーガン等で塗布する。離型剤は、ポリウレタンフォームのモールド成形に使用される公知のものを用いることができ、シリコーン系、フッ素系、ワックス系等が挙げられる。より好ましい離型剤71はワックス系である。金型60(下型61の内面62および上型65の内面66)は、遮音材10の外形に応じた形状にされている。
【0024】
塗料塗布工程では、
図3の(3-B)に示すように、離型剤71の上に塗料73をスプレーガン等で塗布する。その際、塗料73は、使用する塗布具(スプレーガン等)に適した粘度となるように希釈して使用される。塗料73を塗布する部位は、遮音材10を空隙50内に挿入する際に少なくとも空隙50の内面51と接触する遮音材10の部位を製造する金型60の内面の離型剤71上である。この例では、遮音材10の凸部11を製造する部位の離型剤71上である。塗料としては、ポリウレタンフォーム原料のみから形成されるスキン層15よりも静摩擦係数(JIS K7125:1999に基づく)の小さな樹脂から形成される塗料であり、水系/溶剤系のウレタン系エマルジョン、水系/溶剤系のアクリル系エマルジョン、水系/溶剤系のウレタン系エマルジョンとアクリル系エマルジョンの混合物などが挙げられる。塗料の塗布方法は、摩擦低減部17を膜状(連続状)に形成する場合には、あらかじめ吐出量を計測しておいたスプレーガンを用いて、塗布時間で調整したり、目視において膜状となっているか確認することにより行えばよい。一方、散点状(非連続状)に形成する場合には、膜状に形成する場合と同様、塗布時間の調整や目視確認等により行えばよい。塗料73の塗布後、塗料73を硬化させて摩擦低減部17を形成する。塗料73の硬化は、金型60は、あらかじめ温調されているため、塗料73を塗布後、所定時間放置することにより溶媒(水/溶剤)を揮発させることによって行う。特に、摩擦低減部17を散点状に形成した場合、静摩擦係数を小さくしながら塗布剤の使用量を減らすことができ、原料コストや成形コスト(成形サイクルの短縮化)等を減らすことができる。
【0025】
ポリウレタンフォーム原料注入工程では、
図4の(4-A)に示すように、ポリウレタンフォーム原料75を下型61内に注入する。ポリウレタンフォーム原料75は、ポリオール、イソシアネート、発泡剤、触媒、適宜の添加剤を含む。
【0026】
ポリオールは、ポリウレタンフォームの製造に用いられる公知のポリエーテル系ポリオール、ポリエステル系ポリオール、ポリエーテルエステル系ポリオール、ポリマーポリオール等を単独であるいは複数組み合わせて使用することができる。
【0027】
ポリエーテル系ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、ソルビトール、シュークロース等の多価アルコール、またはその多価アルコールにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加したポリエーテルポリオールを挙げることができる。また、ポリエステル系ポリオールとしては、マロン酸、コハク酸、アジピン酸等の脂肪族カルボン酸やフタル酸等の芳香族カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等の脂肪族グリコール等とから重縮合して得られたポリエステルポリオールを挙げることできる。さらにポリオール中にエーテル基とエステル基の両方を含むポリエーテルエステル系ポリオールやポリエーテルポリオール中でエチレン性不飽和化合物等を重合させて得られるポリマーポリオールを使用することもできる。
【0028】
イソシアネートとしては、芳香族系、脂環式、脂肪族系の何れでもよく、また、1分子中に2個のイソシアネート基を有する2官能のイソシアネートであっても、あるいは1分子中に3個以上のイソシアネート基を有する3官能以上のイソシアネートであってもよく、それらを単独であるいは複数組み合わせて使用することができる。
【0029】
例えば、2官能のイソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネートなどの芳香族系のもの、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネートなどの脂環式のもの、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、リジンイソシアネートなどの脂肪族系のものを挙げることができる。
【0030】
また、3官能以上のイソシアネートとしては、1-メチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、1,3,5-トリメチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、ビフェニル-2,4,4’-トリイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4,4’-トリイソシアネート、メチルジフェニルメタン-4,6,4’-トリイソシアネート、4,4’-ジメチルジフェニルメタン-2,2’,5,5’テトライソシアネート、トリフェニルメタン-4,4’,4”-トリイソシアネート、ポリメリックMDI等を挙げることができる。なお、その他ウレタンプレポリマーも使用することができる。また、イソシアネートは、それぞれ1種類に限られず2種類以上であってもよい。例えば、脂肪族系イソシアネートの一種類と芳香族系イソシアネートの二種類を併用してもよい。イソシアネートインデックスは、90~115が好ましく、95~110がより好ましい。イソシアネートインデックスは、ポリウレタンの分野で使用される指数であって、原料中の活性水素基(例えばポリオール類の水酸基及び発泡剤としての水等の活性水素基等に含まれる活性水素基)に対するイソシアネートのイソシアネート基の当量比を百分率で表した数値である。
【0031】
発泡剤は、特に限定されないが、水が好適である。発泡剤としての水の量は、ポリオール100重量部に対して0.3~3重量部が好適である。
【0032】
触媒は、ポリウレタンフォーム用として公知のものを用いることができる。例えば、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、ジエタノールアミン、ジメチルアミノモルフォリン、N-エチルモルホリン、テトラメチルグアニジン、イミダゾール系化合物等のアミン触媒や、スタナスオクトエートやジブチルチンジラウレート等の錫触媒やフェニル水銀プロピオン酸塩あるいはオクテン酸鉛等の金属触媒(有機金属触媒とも称される。)を挙げることができる。触媒の一般的な量は、ポリオール100重量部に対して0.2~3重量部程度である。
【0033】
適宜配合される添加剤としては、整泡剤、着色剤、架橋剤、充填材(フィラー)、難燃剤、酸化防止剤等の合成樹脂安定剤などを挙げることができる。整泡剤は、ポリウレタンフォームに用いられるものであればよく、シリコーン系整泡剤、含フッ素化合物系整泡剤および公知の界面活性剤を挙げることができる。着色剤は、顔料や染料等求められる色に応じたものが用いられる。
【0034】
ポリウレタンフォーム原料75を金型60に注入後、金型60を閉じる。
図4の例では、金型60を開いた状態でポリウレタンフォーム原料75を注入する例を示したが、上型65に注入口(図示せず)を設け、金型60を閉じた状態で注入口からポリウレタンフォーム原料75を金型60内に注入してもよい。
【0035】
発泡硬化工程では、
図4の(4-B)に示すように、金型60を閉じた状態でポリウレタンフォーム原料75の反応、発泡、硬化を行い、金型60内にポリウレタンフォームを充満させる。その際、ポリウレタンフォームの表面にスキン層15が形成され、スキン層15表面の外側および/またはスキン層表面の一部分に摩擦低減部17が接着される。
【0036】
脱型工程では、発泡後に金型60を開け(図示せず)、
図1に示した遮音材10を取り出す。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例および比較例について説明する。次の成分を用い、
図5及び
図6の配合からなるポリウレタンフォーム原料を用いて、モールド成形により遮音材の製品サンプルとテストピースを製造した。
図5及び
図6の配合における各成分の数値は重量部を示す。
【0038】
・ポリオール:ポリエーテルポリオール、官能基数3、重量平均分子量5000、水酸基価35mgKOH/g
・発泡剤:水
・アミン触媒1:エアープロダクツジャパン社製、「DABCO 33LSI」
・アミン触媒2:エアープロダクツジャパン社製、「DABCO BL-19」
・整泡剤:東レ・ダウコーニング社製、「SZ-1346E」、シリコーン整泡剤
・イソシアネート:ポリメリックMDI、イソシアネート基含有率(NCO%)31.5%
・離型剤:中京油脂社製、「URM-520」、直鎖状炭化水素ワックス
・塗布剤1:大日本塗料社製、水系ウレタン樹脂系塗料、「DNTビューウレタン」
・塗布剤2:大日本塗料社製、溶剤系ウレタン樹脂系塗料、「Vトップ一液スマイルUNI」
・塗布剤3:大日本塗料社製、水系アクリル樹脂、「DNTビューアクリル」
・塗布剤4:ハーベス社製、フッ素系潤滑剤、「ドライサーフ MDF-2400EL」
【0039】
製品サンプルの形状は、
図1に示した遮音材10と同一であり、前記凸部11を含む全体の外寸法が幅200mm(突部11を含む)×奥行150mm×高さ400mmであり、そのうち凸部11は、幅50mm×奥行150mm×高さ200mmである。使用した金型は、金型を開けて注入するタイプである。金型の加熱は温水により行った。
【0040】
製品サンプルの製造について説明する。
実施例1~8では、60℃に温調した金型の内面に離型剤を塗布し、20秒乾燥させた後に塗布剤を離型剤上に塗布し、20秒乾燥させた。その後、ポリウレタンフォーム原料を金型に注入し、3分後に発泡体を取り出し、各実施例の製品サンプルを得た。実施例1~8の塗布剤の塗布量であれば、塗布剤を塗布後、20秒乾燥(放置)させれば、塗布剤の塗布量に関係無く、溶媒を完全に揮発させることができる。各実施例における塗布剤(塗料)の種類、塗布部位、塗布残差量は、
図5に示すとおりである。なお、塗布残差量とは、塗布剤(水系/溶媒系エマルジョン等)に含まれる樹脂等の固形分(不揮発成分)の量(理論値)である。
【0041】
比較例1は、塗布剤を塗布しない点以外、実施例1と同様にして製品サンプルを製造した。
比較例2~9は、塗布剤を塗布しない点を除き、実施例1と同様にしてポリウレタンフォームを製造し、脱型後のポリウレタンフォームに後加工で塗布剤を塗布して製品サンプルを製造した。各比較例における塗布剤(塗料や潤滑剤)の種類、塗布部位、塗布残差量は、
図6に示すとおりである。
比較例10は、モールド成形時に厚く、強度の高いスキン層を形成するインテグラルスキンフォーム用原料を金型に注入して製品サンプルを製造した。
【0042】
テストピースの形状は、400mm角×30mmとして製造し、使用した金型の形状以外は、製品サンプルと同条件にて行った。
密度は、前記テストピースを200mm角×厚み30mm(上下面のみスキン層付き)にカットして密度測定用サンプルとし、JIS K7222:2005に基づき測定を行った。比較例2~9は、塗布剤を塗布後、エマルジョンの場合は、溶媒成分を揮発させた後の密度を測定した。
静摩擦係数は、前記テストピースを90mm×63mm×厚み10mm(片面(上面または下面)のみスキン層付き)にカットして静摩擦測定用サンプルとし、JIS K7125:1999に基づき測定を行った。ポリウレタンフォームは摩擦抵抗が大きく、測定時に振動等が生じ易いため、引張方向側のポリウレタンフォームを浮かせて測定を行った。比較例2~9は、塗布剤を塗布後、エマルジョンの場合は、溶媒成分を揮発させた後の密度を測定した。
【0043】
また、各実施例及び各比較例の製品サンプルを、
図1で示した空隙50に手作業で3回挿入し、その際の作業性を判定した。作業性の判定は、繰り返しの挿入が容易な場合に「◎」、繰り返しの挿入が可能な場合に「〇」、繰り返しの挿入が難しい場合に「△」、繰り返しの挿入が困難な場合に「×」とした。なお、後加工によって摩擦低減部17を設けると、繰り返し挿入によって摩擦低減部が剥がれ、挿入し難くなる。
【0044】
また、各実施例及び各比較例のテストピースから、所定のサイズにカットし、静摩擦係数(片面スキン層付き)及び密度(上下面スキン層付き)の測定を行った。
【0045】
また、各実施例及び各比較例の製品サンプル及びテストピースについて、外観、成形サイクル、環境性能について判定した。また、製品サンプルの作業性、テストピースの静摩擦係数、製品サンプル及びテストピースの外観、成形サイクル及び環境性能の各判定を総合した総合判定を行った。
【0046】
外観は、後加工で溶剤系塗料を使用するとポリウレタンフォームの表面が溶剤成分により腐食され、凹凸等が発生する。外観の判定は目視で行い、外観が良好な場合に「〇」、外観が不良の場合に「×」とした。
【0047】
成形サイクルは、後加工で潤滑剤を使用すると、刷毛等で塗布を行うため塗布に時間を要し、また、後加工で水系塗料を使用すると、乾燥に時間を要したり、乾燥炉や乾燥工程等が必要となる。成形サイクルの判定は、成形サイクルが非常に速い場合に「◎」、成形サイクルが速い場合に「〇」、成形サイクルが遅い場合に「△」、成形サイクルが非常に遅い場合に「×」とした。
【0048】
環境性能は、塗布剤として溶剤系塗料を使用すると排気設備や作業者の保護具着用が必要となり、また、使用が制限されているフロン等を使用すると、環境への負荷が大きくなる。環境性能の判定は、環境への負荷が非常に小さい場合に「◎」、環境への負荷が小さい場合に「〇」、環境への負荷が大きい場合に「×」とした。
【0049】
総合判定は、作業性、外観、成形サイクル及び環境性能の判定が「◎」または「〇」のみの場合に「〇」とし、一つでも「×」を含む場合に「×」とした。
【0050】
実施例1は、塗布剤1を使用し、塗布残差量が0.6μg/cm2、摩擦低減部を干渉部(前記凸部11)にのみ散点状に設けた例である。実施例1は、作業性が「〇」、静摩擦係数が0.88、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「◎」、環境性能「◎」、総合判定「〇」であった。
【0051】
実施例2は、塗布剤1の塗布残差量が1.8μg/cm2の例であり、他は実施例1と同様である。実施例2は、作業性が「◎」、静摩擦係数が0.66、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「◎」、環境性能「◎」、総合判定「〇」であった。
【0052】
実施例3は、塗布剤1の塗布残差量が3.6μg/cm2の例であり、他は実施例1と同様である。実施例3は、作業性が「◎」、静摩擦係数が0.49、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「◎」、環境性能「◎」、総合判定「〇」であった。
【0053】
実施例4は、塗布剤1の塗布残差量が20μg/cm2の例であり、摩擦低減部を干渉部にのみ膜状に設けた点以外は、実施例1と同様である。実施例4は、作業性が「◎」、静摩擦係数が0.44、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「◎」、環境性能「◎」、総合判定「〇」であった。
【0054】
実施例5は、塗布剤1を使用し、塗布残差量が1.8μg/cm2となるように摩擦低減部を全面(干渉部を含む空隙50の内面51と接触する面全体)に、散点状に設けた例であり、他は実施例2と同様である。実施例5は、作業性が「◎」、静摩擦係数が0.66、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「◎」、環境性能「◎」、総合判定「〇」であった。
【0055】
実施例6は、塗布剤1の塗布残差量が20μg/cm2、の例であり、摩擦低減部を膜状に設けた点以外は、実施例5と同様である。実施例6は、作業性が「◎」、静摩擦係数が0.44、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「◎」、環境性能「◎」、総合判定「〇」であった。
【0056】
実施例7は、塗布剤2を使用した以外、実施例2と同様の例である。実施例7は、作業性が「◎」、静摩擦係数が0.68、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「◎」、環境性能「◎」、総合判定「〇」であった。
【0057】
実施例8は、塗布剤3を使用した以外、実施例2及び実施例7と同様の例である。実施例8は、作業性が「◎」、静摩擦係数が0.70、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「◎」、環境性能「◎」、総合判定「〇」であった。
【0058】
比較例1は、摩擦低減部を設けない以外、実施例1と同様の例である。比較例1は、作業性が「×」、静摩擦係数が2.29、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「◎」、環境性能「◎」、総合判定「×」であった。
【0059】
比較例2は、塗布剤1を使用し、後加工の塗布により摩擦低減部を干渉部にのみ散点状に設け、塗布残差量が実施例2と同一の1.8μg/cm2の例である。比較例2は、作業性が「△」、静摩擦係数が0.72、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「×」、環境性能「◎」、総合判定「×」であった。
【0060】
比較例3は、塗布剤1を使用し、後工程の塗布により摩擦低減部を干渉部にのみ膜状に設け、塗布残差量が実施例4と同一の20μg/cm2の例である。比較例3は、作業性が「△」、静摩擦係数が0.58、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「×」、環境性能「◎」、総合判定「×」であった。
【0061】
比較例4は、塗布剤1を使用し、後加工の塗布により摩擦低減部を全面に散点状に設け、塗布残差量が実施例5と同一の1.8μg/cm2の例である。比較例4は、作業性が「△」、静摩擦係数が0.72、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「×」、環境性能「◎」、総合判定「×」であった。
【0062】
比較例5は、塗布剤1を使用し、後加工の塗布により摩擦低減部を全面に膜状に設け、塗布残差量が実施例6と同一の20μg/cm2の例である。比較例5は、作業性が「△」、静摩擦係数が0.58、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「×」、環境性能「◎」、総合判定「×」であった。
【0063】
比較例6は、塗布剤2を使用し、後加工の塗布により摩擦低減部を干渉部にのみ散点状に設け、塗布残差量が実施例7と同一の1.8μg/cm2の例である。比較例6は、作業性が「×」、静摩擦係数が1.05、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「×」、成形サイクル「〇」、環境性能「〇」、総合判定「×」であった。
【0064】
比較例7は、塗布剤3を使用し、後加工の塗布により摩擦低減部を干渉部にのみ散点状に設け、塗布残差量が実施例8と同一の1.8μg/cm2の例である。比較例7は、作業性が「△」、静摩擦係数が0.84、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「×」、環境性能「◎」、総合判定「×」であった。
【0065】
比較例8は、塗布剤4を使用し、後加工の塗布により摩擦低減部を干渉部にのみ膜状に設け、塗布残差量が実施例4と同一の20μg/cm2の例である。比較例8は、作業性が「×」、静摩擦係数が1.22、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「△」、環境性能「〇」、総合判定「×」であった。
【0066】
比較例9は、塗布残差量が40μg/cm2、他が比較例8と同様の例である。比較例9は、作業性が「×」、静摩擦係数が1.19、密度(スキン層付き)が100kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「△」、環境性能「〇」、総合判定「×」であった。
【0067】
比較例10は、インテグラルスキンフォームからなり、摩擦低減部の無い例である。比較例10は、作業性が「△」、静摩擦係数が1.38、密度(スキン層付き)が300kg/m3であり、外観「〇」、成形サイクル「×」、環境性能「×」、総合判定「×」であった。
【0068】
このように、実施例1~8は何れも総合判定が「〇」であり、空隙内への挿入作業が容易であった。一方、摩擦低減部が無い比較例1は、作業性が「×」であり、また、後加工の塗布により摩擦低減部を設けた比較例2~9及びインテグラルスキンフォームの比較例10は、作業性が「△」または「×」で、総合判定が「×」であり、空隙への作業が容易ではなかった。
【符号の説明】
【0069】
10:遮音材
11:凸部(干渉部)
15:スキン層
16:ポリウレタンフォームの内部(コア)
17:摩擦低減部
50:空隙
51:空隙の内面
53:空隙の内面の凹部
60:金型
61:下型
62:下型の内面
65:上型
66:上型の内面
71:離型剤
73:塗料
75:ポリウレタンフォーム原料