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特許7522802高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品
<図1>
  • 特許-高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品 図1
  • 特許-高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品 図2A
  • 特許-高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品 図2B
  • 特許-高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品 図3
  • 特許-高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品 図4
  • 特許-高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品 図5
  • 特許-高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品 図6
  • 特許-高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品 図7
  • 特許-高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品 図8
  • 特許-高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品 図9
  • 特許-高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品 図10
  • 特許-高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品 図11
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-07-17
(45)【発行日】2024-07-25
(54)【発明の名称】高い圧痕亀裂しきい値を有する水素含有ガラス系物品
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/097 20060101AFI20240718BHJP
   C03C 21/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C03C3/097
C03C21/00 101
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022152245
(22)【出願日】2022-09-26
(62)【分割の表示】P 2020526391の分割
【原出願日】2018-11-16
(65)【公開番号】P2022180562
(43)【公開日】2022-12-06
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】62/587,872
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】2020896
(32)【優先日】2018-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー マイケル グロス
(72)【発明者】
【氏名】ゲオルギー グリヤノフ
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04053679(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0277085(US,A1)
【文献】国際公開第2016/104454(WO,A1)
【文献】特開2009-084076(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01306355(EP,A1)
【文献】米国特許第04440576(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
C03C 21/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスであって、
46モル%以上74モル%以下のSiO
3モル%以上20モル%以下のAl
6モル%以上15モル%以下のP;および
6モル%以上25モル%以下のK
を含み、前記ガラスは、
前記ガラスの表面から前記ガラス中に層深さまで延在する水素含有層、及び、
水素種による圧縮応力層であって、前記ガラスの前記表面から前記ガラス中に圧縮深さまで延在する、圧縮応力層、
を含み、
前記層深さは、水素濃度が前記ガラスの中心の水素濃度と一致する、前記表面下の第1の深さであり、前記圧縮深さは、前記ガラス中の応力が圧縮応力から引張応力に変化する深さであり、
前記層深さは、前記表面から5μmより大きく、
前記圧縮応力層は、少なくとも100MPaの圧縮応力を有する、
ガラス。
【請求項2】
ガラスであって、
46モル%以上74モル%以下のSiO
3モル%以上20モル%以下のAl
4モル%以上15モル%以下のP;および
11モル%以上25モル%以下のK
を含み、前記ガラスは、
前記ガラスの表面から前記ガラス中に層深さまで延在する水素含有層、及び、
水素種による圧縮応力層であって、前記ガラスの前記表面から前記ガラス中に圧縮深さまで延在する、圧縮応力層、
を含み、
前記層深さは、水素濃度が前記ガラスの中心の水素濃度と一致する、前記表面下の第1の深さであり、前記圧縮深さは、前記ガラス中の応力が圧縮応力から引張応力に変化する深さであり、
前記層深さは、前記表面から5μmより大きく、
前記圧縮応力層は、少なくとも100MPaの圧縮応力を有する、
ガラス。
【請求項3】
前記ガラスが、リチウムおよびナトリウムのうちの少なくとも1つを実質的に含まない、または
5kgf(約49N)以上のビッカース亀裂発生しきい値を有する
ことのうちの少なくとも一方を特徴とする、請求項1または2記載のガラス。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2017年11月17日に提出された米国仮出願第62/587,872号および2018年5月8日に提出された蘭国出願第2020896号の優先権の利益を主張するものであり、両出願の内容に依拠し、それらの内容全体を参照することにより本明細書に援用する。
【0002】
また、本願は、2018年11月16日に出願された特願2020-526391号の分割出願である。
【技術分野】
【0003】
本開示は、水素を含有するガラス系物品、ガラス系物品を形成するために利用されるガラス組成物、およびガラス系物品を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
ポータブル電子デバイス、例えばスマートフォン、タブレットおよびウェアラブルデバイス(例えば、時計およびフィットネストラッカーなど)は、ますます小型化および複雑化し続けている。したがって、そのようなポータブル電子デバイスの少なくとも1つの外面に従来使用されている材料も、ますます複雑化し続けている。例えば、ポータブル電子デバイスが消費者の需要を満たすためにますます小型化および薄型化されるにつれて、これらのポータブル電子デバイスにおいて使用されるディスプレイカバーおよび筐体もますます小型化および薄型化され、その結果、これらの部品の形成に使用される材料の性能要件がより高くなっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、ポータブル電子デバイスで使用するための、より高い性能、例えば耐損傷性を示す材料が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
態様(1)では、ガラス系物品が提供される。ガラス系物品は、SiO、AlおよびP;ならびにガラス系物品の表面から層深さまで延在する水素含有層を含む。水素含有層の水素濃度は、最大水素濃度から層深さに向かって減少し、かつ層深さは5μmよりも大きい。
【0007】
態様(2)では、ガラス系物品が、1kgf(約9.8N)以上のビッカース亀裂発生しきい値を有する、態様(1)記載のガラス系物品が提供される。
【0008】
態様(3)では、層深さが10μm以上である、態様(1)または(2)記載のガラス系物品が提供される。
【0009】
態様(4)では、最大水素濃度が、ガラス系物品の表面に位置する、態様(1)から(3)までのいずれか1つ記載のガラス系物品が提供される。
【0010】
態様(5)では、LiO、NaO、KO、CsOおよびRbOのうちの少なくとも1つをさらに含む、態様(1)から(4)までのいずれか1つ記載のガラス系物品が提供される。
【0011】
態様(6)では、KOをさらに含む、態様(1)から(5)までのいずれか1つ記載のガラス系物品が提供される。
【0012】
態様(7)では、ガラス系物品の中心が、45モル%以上75モル%以下のSiO;3モル%以上20モル%以下のAl;6モル%以上15モル%以下のP;および6モル%以上25モル%以下のKOを含む、態様(1)から(6)までのいずれか1つ記載のガラス系物品が提供される。
【0013】
態様(8)では、ガラス系物品の中心が、45モル%以上75モル%以下のSiO;3モル%以上20モル%以下のAl;4モル%以上15モル%以下のP;および11モル%以上25モル%以下のKOを含む、態様(1)から(6)までのいずれか1つ記載のガラス系物品が提供される。
【0014】
態様(9)では、ガラス系物品の中心が、55モル%以上69モル%以下のSiO;5モル%以上15モル%以下のAl;6モル%以上10モル%以下のP;および10モル%以上20モル%以下のKOを含む、態様(1)から(6)までのいずれか1つ記載のガラス系物品が提供される。
【0015】
態様(10)では、ガラス系物品の中心が、0モル%以上10モル%以下のCsO;および0モル%以上10モル%以下のRbOを含む、態様(7)から(9)までのいずれか1つ記載のガラス系物品が提供される。
【0016】
態様(11)では、ガラス系物品が、リチウムおよびナトリウムのうちの少なくとも1つを実質的に含まない、態様(1)から(10)までのいずれか1つ記載のガラス系物品が提供される。
【0017】
態様(12)では、ガラス系物品の表面からガラス系物品内に圧縮深さまで延在する圧縮応力層をさらに含む、態様(1)から(11)までのいずれか1つ記載のガラス系物品が提供される。
【0018】
態様(13)では、圧縮応力層が少なくとも約100MPaの圧縮応力を含み、かつ圧縮深さが少なくとも約75μmである、態様(12)記載のガラス系物品が提供される。
【0019】
態様(14)では、家庭用電子製品が提供される。家庭用電子製品は、前面、背面および側面を含む筐体;少なくとも部分的に筐体内にある電気部品であって、少なくともコントローラ、メモリおよびディスプレイを含み、かつディスプレイは筐体の前面に設けられているまたはその前面に隣接している電気部品;ならびにディスプレイ上に配置されたカバー基材を含む。筐体またはカバー基材の少なくとも1つの少なくとも一部は、態様(1)から(13)までのいずれか1つ記載のガラス系物品を含む。
【0020】
態様(15)では、ガラスが提供される。ガラスは、45モル%以上75モル%以下のSiO;3モル%以上20モル%以下のAl;6モル%以上15モル%以下のP;および6モル%以上25モル%以下のKOを含む。
【0021】
態様(16)では、55モル%以上69モル%以下のSiO;5モル%以上15モル%以下のAl;6モル%以上10モル%以下のP;および10モル%以上20モル%以下のKOを含む、態様(15)記載のガラスが提供される。
【0022】
態様(17)では、0モル%以上10モル%以下のCsO;および0モル%以上10モル%以下のRbOをさらに含む、態様(15)または(16)記載のガラスが提供される。
【0023】
態様(18)では、ガラスがリチウムを実質的に含まない、態様(15)から(17)までのいずれか1つ記載のガラスが提供される。
【0024】
態様(19)では、ガラスがナトリウムを実質的に含まない、態様(15)から(18)までのいずれか1つ記載のガラスが提供される。
【0025】
態様(20)では、58モル%以上63モル%以下のSiO;7モル%以上14モル%以下のAl;7モル%以上10モル%以下のP;および15モル%以上20モル%以下のKOを含む、態様(15)から(19)までのいずれか1つ記載のガラスが提供される。
【0026】
態様(21)では、ガラスが、5kgf(約49N)以上のビッカース亀裂発生しきい値を有する、態様(15)から(20)までのいずれか1つ記載のガラスが提供される。
【0027】
態様(22)では、LiO、NaO、CsOおよびRbOのうちの少なくとも1つをさらに含む、態様(15)から(21)までのいずれか1つ記載のガラスが提供される。
【0028】
態様(23)では、ガラスが提供される。ガラスは、45モル%以上75モル%以下のSiO;3モル%以上20モル%以下のAl;4モル%以上15モル%以下のP;および11モル%以上25モル%以下のKOを含む。
【0029】
態様(24)では、55モル%以上69モル%以下のSiO;5モル%以上15モル%以下のAl;5モル%以上10モル%以下のP;および11モル%以上20モル%以下のKOを含む、態様(23)記載のガラスが提供される。
【0030】
態様(25)では、0モル%以上10モル%以下のCsO;および0モル%以上10モル%以下のRbOをさらに含む、態様(23)または(24)記載のガラスが提供される。
【0031】
態様(26)では、ガラスがリチウムを実質的に含まない、態様(23)から(25)までのいずれか1つ記載のガラスが提供される。
【0032】
態様(27)では、ガラスがナトリウムを実質的に含まない、態様(23)から(26)までのいずれか1つ記載のガラスが提供される。
【0033】
態様(28)では、58モル%以上63モル%以下のSiO;7モル%以上14モル%以下のAl;7モル%以上10モル%以下のP;および15モル%以上20モル%以下のKOを含む、態様(23)から(27)までのいずれか1つ記載のガラスが提供される。
【0034】
態様(29)では、ガラスが5kgf(約49N)以上のビッカース亀裂発生しきい値を有する、態様(23)から(28)までのいずれか1つ記載のガラスが提供される。
【0035】
態様(30)では、LiO、NaO、CsOおよびRbOのうちの少なくとも1つをさらに含む、態様(23)から(29)までのいずれか1つ記載のガラスが提供される。
【0036】
態様(31)では、方法が提供される。この方法は、ガラス系基材を、相対湿度75%以上の環境に曝露して、ガラス系物品の表面から層深さまで延在する水素含有層を有するガラス系物品を形成するステップを含む。ガラス系基材は、SiO、AlおよびPを含む。水素含有層の水素濃度は、最大水素濃度から層深さに向かって減少し、かつ層深さは5μmよりも大きい。
【0037】
態様(32)では、ガラス系基材が、55モル%以上69モル%以下のSiO;5モル%以上15モル%以下のAl;6モル%以上10モル%以下のP;および10モル%以上20モル%以下のKOを含む組成を有する、態様(31)記載の方法が提供される。
【0038】
態様(33)では、ガラス系基材が、45モル%以上75モル%以下のSiO;3モル%以上20モル%以下のAl;4モル%以上15モル%以下のP;および11モル%以上25モル%以下のKOを含む組成を有する、態様(31)記載の方法が提供される。
【0039】
態様(34)では、ガラス系基材が、45モル%以上75モル%以下のSiO;3モル%以上20モル%以下のAl;6モル%以上15モル%以下のP;および6モル%以上25モル%以下のKOを含む組成を有する、態様(31)記載の方法が提供される。
【0040】
態様(35)では、ガラス系基材が、0モル%以上10モル%以下のCsO;および0モル%以上10モル%以下のRbOをさらに含む、態様(31)から(34)までのいずれか1つ記載の方法が提供される。
【0041】
態様(36)では、LiO、NaO、CsOおよびRbOのうちの少なくとも1つをさらに含む、態様(31)から(35)までのいずれか1つ記載の方法が提供される。
【0042】
態様(37)では、ガラス系物品が、リチウムおよびナトリウムのうちの少なくとも1つを実質的に含まない、態様(31)から(36)までのいずれか1つ記載の方法が提供される。
【0043】
態様(38)では、曝露を70℃以上の温度で行う、態様(31)から(37)までのいずれか1つ記載の方法が提供される。
【0044】
態様(39)では、ガラス系物品が1kgf(約9.8N)以上のビッカース亀裂発生しきい値を有する、態様(31)から(38)までのいずれか1つ記載の方法が提供される。
【0045】
これらと他の態様、利点および目立った特徴は、以下の詳細な説明、添付の図面および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】一実施形態によるガラス系物品の断面図である。
図2A】本明細書に開示されるガラス系物品のいずれかを組み込んだ例示的な電子デバイスの平面図である。
図2B図2Aの例示的な電子デバイスの斜視図である。
図3】実施例1の組成を有するガラス系基材から形成されるガラス系物品について、生成された表面下の深さの関数としての水素濃度のSIMSによる測定を示す図である。
図4】含水環境に曝露する前の、実施例1の組成を有するガラス系基材における5kgf(約49N)でのビッカース圧痕の写真を示す図である。
図5】含水環境に曝露する前の、実施例1の組成を有するガラス系基材における10kgf(約98N)でのビッカース圧痕の写真を示す図である。
図6】実施例1の組成を有するガラス系基材を含水環境に曝露することによって形成されるガラス系物品における5kgf(約49N)でのビッカース圧痕の写真を示す図である。
図7】実施例1の組成を有するガラス系基材を含水環境に曝露することによって形成されるガラス系物品における10kgf(約98N)でのビッカース圧痕の写真を示す図である。
図8】実施例1の組成を有するガラス系基材を含水環境に曝露することによって形成されるガラス系物品における20kgf(約196N)でのビッカース圧痕の写真を示す図である。
図9】一実施形態による、含水環境に曝露した後の表面からの深さの関数としての、0.5mm厚のガラス物品のヒドロキシル(βOH)濃度のプロットを示す図である。
図10】一実施形態による、含水環境に曝露した後の表面からの深さの関数としての、1.0mm厚のガラス物品のヒドロキシル(βOH)濃度のプロットを示す図である。
図11】リングオンリング試験装置の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下の説明において、同様の参照文字は、図に示されるいくつかの規定された位置からの図全体を通して同様または対応する部分を示す。また、特に明記しない限り、「上部」、「下部」、「外部」、「内部」などの用語は便宜上の言葉であり、限定的な用語として解釈されるべきではないことも理解される。特に明記しない限り、値の範囲には、列挙される場合、範囲の上限と下限の両方に加えて、その間の任意の部分範囲も含まれる。本明細書で使用される場合、不定冠詞「a」、「an」および対応する定冠詞「the」は、特に明記しない限り、「少なくとも1つ」または「1つ以上」を意味する。また、明細書および図面に開示される様々な特徴は、いかなる組合せであっても使用できることも理解される。
【0048】
本明細書で使用される場合、「ガラス系」という用語は、その最も広い意味で使用され、ガラスセラミック(結晶相および残留アモルファスガラス相を含む)を含む、全体または一部がガラスでできた任意の物体を含む。特に明記しない限り、本明細書に記載されるガラスのすべての組成は、モルパーセント(モル%)を単位として表され、成分は酸化物ベースで提供される。特に明記しない限り、すべての温度は摂氏(℃)の単位で表される。
【0049】
なお、「実質的に」および「約」という用語は、本明細書では、任意の定量的比較、値、測定、または他の表現に起因し得る固有の不確定度を表すために利用され得る。これらの用語はまた、問題となっている主題の基本的な機能に変化をもたらさずに、言及された基準から定量的表現が変化し得る程度を表すために本明細書で利用される。例えば、「KOを実質的に含まない」ガラスとは、KOがガラス内に積極的に添加またはバッチ処理されていないが、汚染物質として非常に少量、例えば約0.01モル%未満の量で存在し得るガラスのことである。本明細書で使用される場合、「約」という用語が値に一部変更を加えるために使用されるときは、正確な値も開示される。例えば、「約10モル%を超える」という用語は、「10モル%以上」も開示する。
【0050】
次に、様々な実施形態を詳細に参照するが、これらの例は、添付の実施例および図面に示されている。
【0051】
本明細書に開示されるガラス系物品は、物品の表面から層深さまで延在する水素含有層を含む。水素含有層は、ガラス系物品の最大水素濃度から層深さに向かって減少する水素濃度を含む。いくつかの実施形態では、最大水素濃度は、ガラス系物品の表面に位置し得る。ガラス系物品は、従来の強化方法(例えば、1対のアルカリ金属イオンのイオン交換または熱強化)を使用せずに、ビッカース圧痕亀裂しきい値(例えば、1kgf(約9.8N)以上)を示す。ガラス系物品が示す高いビッカース圧痕亀裂しきい値は、高い耐損傷性を示す。
【0052】
ガラス系物品は、水蒸気を含有する環境にガラス系基材を曝露することによって形成され得、それによって水素種がガラス系基材に浸透し、水素含有層を有するガラス系物品を形成することが可能になる。本明細書で使用される場合、水素種には、分子水、ヒドロキシル、水素イオンおよびヒドロニウムが含まれる。ガラス系基材の組成は、ガラス内への水素種の相互拡散を促進するように選択することができる。本明細書で使用される場合、「ガラス系基材」という用語は、水素含有層を含むガラス系物品を形成するための水蒸気含有環境に曝露する前の前駆体を指す。同様に、「ガラス系物品」という用語は、水素含有層を含む曝露後の物品を指す。
【0053】
いくつかの実施形態によるガラス系物品100の代表的な断面を、図1に示している。ガラス系物品100は、第1の表面110と第2の表面112との間に延びる厚さtを有する。第1の水素含有層120は、第1の表面110から第1の層深さまで延在し、ここで、第1の層深さは、第1の表面110からガラス系物品100の中まで測定された深さdを有する。第2の水素含有層122は、第2の表面112から第2の層深さまで延在し、ここで、第2の層深さは、第2の表面112からガラス系物品100の中まで測定された深さdを有する。添加された水素種を含まない領域130は、第1の層深さと第2の層深さとの間に存在する。
【0054】
ガラス系物品の水素含有層は、5μmよりも大きい層深さ(DOL)を有し得る。いくつかの実施形態では、層深さは、10μm以上、例えば15μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、35μm以上、40μm以上、45μm以上、50μm以上、55μm以上、60μm以上、65μm以上、70μm以上、75μm以上、80μm以上、85μm以上、90μm以上、95μm以上、100μm以上、105μm以上、110μm以上、115μm以上、120μm以上、125μm以上、130μm以上、135μm以上、140μm以上、145μm以上、150μm以上、155μm以上、160μm以上、165μm以上、170μm以上、175μm以上、180μm以上、185μm以上、190μm以上、195μm以上、200μm以上、または200μmを超える深さであり得る。いくつかの実施形態では、層深さは、5μm超でかつ205μm以下、例えば10μm以上200μm以下、15μm以上200μm以下、20μm以上195μm以下、25μm以上190μm以下、30μm以上185μm以下、35μm以上180μm以下、40μm以上175μm以下、45μm以上170μm以下、50μm以上165μm以下、55μm以上160μm以下、60μm以上155μm以下、65μm以上150μm以下、70μm以上145μm以下、75μm以上140μm以下、80μm以上135μm以下、85μm以上130μm以下、90μm以上125μm以下、95μm以上120μm以下、100μm以上115μm以下、105μm以上110μm以下、またはこれらの端点のいずれかによって形成される任意の部分範囲であり得る。一般に、ガラス系物品が示す層深さは、周囲環境への曝露によって生成され得る層深さよりも大きい。
【0055】
ガラス系物品の水素含有層は、0.005tよりも大きい層深さ(DOL)を有し得、ここで、tはガラス系物品の厚さである。いくつかの実施形態では、層深さは、0.010t以上、例えば0.015t以上、0.020t以上、0.025t以上、0.030t以上、0.035t以上、0.040t以上、0.045t以上、0.050t以上、0.055t以上、0.060t以上、0.065t以上、0.070t以上、0.075t以上、0.080t以上、0.085t以上、0.090t以上、0.095t以上、0.10t以上、0.15t以上、0.20t以上、または0.20tを超える深さであり得る。いくつかの実施形態では、DOLは、0.005t超でかつ0.205t以下、例えば0.010t以上0.200t以下、0.015t以上0.195t以下、0.020t以上0.190t以下、0.025t以上0.185t以下、0.030t以上0.180t以下、0.035t以上0.175t以下、0.040t以上0.170t以下、0.045t以上0.165t以下、0.050t以上0.160t以下、0.055t以上0.155t以下、0.060t以上0.150t以下、0.065t以上0.145t以下、0.070t以上0.140t以下、0.075t以上0.135t以下、0.080t以上0.130t以下、0.085t以上0.125t以下、0.090t以上0.120t以下、0.095t以上0.115t以下、0.100t以上0.110t以下、またはこれらの端点のいずれかによって形成される任意の部分範囲であり得る。
【0056】
層深さおよび水素濃度は、当該技術分野で知られている二次イオン質量分析(SIMS)技術で測定される。SIMS技術は、所与の深さにおける水素濃度を測定することができるが、ガラス系物品に存在する水素種を区別することはできない。このため、すべての水素種は、SIMSで測定された水素濃度に影響する。本明細書で使用される場合、層深さ(DOL)は、ガラス系物品の表面の下の最初の深さを指し、ここで、水素濃度は、ガラス系物品の中心における水素濃度に等しい。この定義は、処理前のガラス系基材の水素濃度を考慮に入れているため、層深さは、処理プロセスによって添加された水素の深さを指す。実際問題として、ガラス系物品の中心における水素濃度は、水素濃度が実質的に一定になるガラス系物品の表面からの深さにおける水素濃度で近似することができるが、これは、そのような深さとガラス系物品の中心との間で水素濃度は変化しないと予想されるからである。この近似により、ガラス系物品の深さ全体にわたって水素濃度を測定せずに、DOLを求めることができる。
【0057】
いくつかの実施形態では、ガラス系物品の厚さ全体が水素含有層の部分であり得る。そのようなガラス系物品は、水素種が各曝露表面からガラス系物品の中心に拡散するのに十分な条件で十分な時間にわたってガラス系基材の処理が続く場合に生成され得る。ガラス系物品の表面が同じ処理条件に曝露されるいくつかの実施形態では、最小水素濃度は、ガラス系物品の厚さの半分に位置し得るため、水素含有層はガラス系物品の中心に接触する。そのような実施形態では、DOLは、ガラス系物品の厚さの半分に位置し得る。いくつかの実施形態では、ガラス系物品は、添加された水素種を含まない領域を含まなくてもよい。いくつかの実施形態では、ガラス系物品は、添加された水素種の濃度がガラス系物品全体で平衡し、かつ水素濃度がガラス系物品の表面より下の深さで変化しないように、湿潤環境で処理されてもよい。ガラス系物品の中心における水素濃度は、他のすべての深さにおける水素濃度と同等であるため、そのような実施形態によるガラス系物品は、本明細書で定義されるDOLを示さない。
【0058】
ガラス系物品は、ビッカース圧痕亀裂に対して非常に耐性がある。高いビッカース圧痕亀裂耐性は、ガラス系物品に高い耐損傷性を付与する。特定の理論に縛られることを望むものではないが、ガラス系物品の含水量は、水素含有層の局所粘度を低下させて、亀裂の代わりに局所流が生じるようにすることができる。ガラス系物品のビッカース圧痕亀裂しきい値は、従来の強化技術、例えばガラス中の大きいアルカリ金属イオンのより小さいアルカリ金属イオンへの交換、熱強化、または熱膨張係数の不一致を利用したガラス層の積層を使用せずに達成される。ガラス系物品は、1kgf(約9.8N)以上、例えば2kgf(約19.6N)以上、3kgf(約29.4N)以上、4kgf(約39.2N)以上、5kgf(約49N)以上、6kgf(約58.8N)以上、7kgf(約68.6N)以上、8kgf(約78.4N)以上、9kgf(約88.2N)以上、10kgf(約98N)以上、11kgf(約107.8N)以上、12kgf(約117.6N)以上、13kgf(約127.4N)以上、14kgf(約137.2N)以上、15kgf(約147N)以上、16kgf(約156.8N)以上、17kgf(約166.6N)以上、18kgf(約176.4N)以上、19kgf(約186.2N)以上、20kgf(約196N)以上、21kgf(約205.8N)以上、22kgf(約215.6N)以上、23kgf(約225.4N)以上、24kgf(約235.2N)以上、25kgf(約245N)以上、26kgf(約254.8N)以上、27kgf(約264.6N)以上、28kgf(約274.4N)以上、29kgf(約284.2N)以上、30kgf(約294N)以上、または30kgf(約294N)を超えるビッカース圧痕亀裂しきい値を示す。いくつかの実施形態では、ガラス系物品は、1kgf(約9.8N)以上30kgf(約294N)以下、例えば2kgf(約19.6N)以上29kgf(約284.2N)以下、3kgf(約29.4N)以上28kgf(約274.4N)以下、4kgf(約39.2N)以上27kgf(約264.6N)以下、5kgf(約49N)以上26kgf(約254.8N)以下、6kgf(約58.8N)以上25kgf(約245N)以下、7kgf(約68.6N)以上24kgf(約235.2N)以下、8kgf(約78.4N)以上23kgf(約225.4N)以下、9kgf(約88.2N)以上22kgf(約215.6N)以下、10kgf(約98N)以上21kgf(約205.8N)以下、11kgf(約107.8N)以上20kgf(約196N)以下、12kgf(約117.6N)以上19kgf(約186.2N)以下、13kgf(約127.4N)以上18kgf(約176.4N)以下、14kgf(約137.2N)以上17kgf(約166.6N)以下、15kgf(約147N)以上16kgf(約156.8N)以下、またはこれらの端点のいずれかによって形成される任意の部分範囲のビッカース圧痕亀裂しきい値を示す。
【0059】
ビッカース亀裂発生しきい値(または圧痕破損しきい値)は、ビッカース圧子で測定した。ビッカース亀裂発生しきい値は、ガラスの圧痕損傷耐性の尺度である。この試験では、ビッカース圧子と呼ばれる、面間の角度が136°の正方形ベースのピラミッド型ダイヤモンド圧子を使用した。ビッカース圧子は、標準の微小硬度試験で使用されるものと同じであった(ASTM-E384-11に記載)。対象となるガラスのタイプおよび/またはサンプルを表すために、最低でも5つの試験片を選択した。各試験片について、5つの圧痕の複数組を試験片表面に導入した。5つの圧痕の各組は、所定の荷重で導入し、各個々の圧痕は、最低5mmの間隔を空けており、試験片の端に5mm未満で近づけられていない。2kg以上の試験荷重では、50kg/分の圧子負荷/除荷速度を使用した。2kg未満の試験荷重では、5kg/分の速度を使用した。目標荷重での10秒の滞留(すなわち保持)時間を利用した。滞留期間中、マシンは荷重制御を維持した。少なくとも12時間後、複合顕微鏡を使用して500Xの倍率で反射光の下で圧痕を検査した。次いで、中央/放射状の亀裂(物品の主平面に垂直な平面に沿った圧痕から伸びる亀裂)の有無、または試験片の破損を、各圧痕について記録した。なお、この試験では中央/放射状の亀裂の形成、または試験片の破損に着目していたことから、横方向の亀裂(物品の主平面に平行な平面に沿って伸びる亀裂)の形成は、しきい値挙動を示す指標とは見なさなかった。試験片のしきい値は、しきい値を満たす個々の圧痕の50%超を一まとめにした連続する圧痕最低荷重の中点値として定義される。例えば、個々の試験片内で、5kgの荷重で誘発された5つのうちの2つ(40%)の圧痕がしきい値を超え、6kgの荷重で誘発された5つのうちの3つ(60%)の圧痕がしきい値を超えた場合、試験片のしきい値は5kgよりも大きいと定義される。すべての試験片の中点値の範囲(最低値から最高値まで)も、各サンプルについて報告され得る。試験前、試験中および試験後の環境は、試験片の疲労(応力腐食)挙動の変動を最小限に抑えるために、23±2℃および50±5%RHに制御した。
【0060】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、ガラス系物品の水素含有層は、ガラス系基材の組成物に含まれるイオンの水素種の相互拡散の結果であり得る。Hおよび/またはHなどの一価の水素含有種は、ガラス系基材組成物に含まれるアルカリ金属イオンを置き換えてガラス系物品を形成することができる。水素含有種が置き換えるアルカリ金属イオンのサイズは、ガラス系基材における水素含有種の拡散性に寄与するが、これは、より大きなアルカリ金属イオンが相互拡散メカニズムを促進するより大きな間隙空間を生成するからである。例えば、ヒドロニウムイオン(H)のイオン半径は、カリウムのイオン半径に近く、リチウムのイオン半径よりもはるかに大きい。ガラス系基材における水素含有種の拡散係数は、ガラス系基材がリチウムを含むときよりも、ガラス系基材がカリウムを含むときの方が、2桁も大幅に高いことが観察された。この観察された挙動は、ヒドロニウムイオンがガラス系基材内に拡散する主要な一価の水素含有種であることも示し得る。アルカリ金属イオンおよびヒドロニウムイオンのイオン半径を以下の表Iに報告する。表Iに示すように、ルビジウムとセシウムのイオン半径は、ヒドロニウムイオンよりも大幅に大きく、その結果、カリウムについて観察されるよりも高い水素拡散係数が生じ得る。
【0061】
【表1】
【0062】
いくつかの実施形態では、ガラス系基材のアルカリ金属イオンを水素含有イオンで置き換えると、ガラス系物品の表面からガラス系物品内に圧縮深さまで延在する圧縮応力層が生成され得る。本明細書で使用される場合、圧縮深さ(DOC)は、ガラス系物品の応力が圧縮から引張に変化する深さを意味する。したがって、ガラス系物品はまた、ガラス系物品内の力が均衡するように、最大中央張力(CT)を有する引張応力領域も含む。理論に縛られることを望むものではないが、圧縮応力領域は、置き換えの相手であるイオンよりも大きいイオン半径を有する水素含有イオンで交換された結果であり得る。
【0063】
いくつかの実施形態では、圧縮応力層は、100MPa以上、例えば105MPa以上、110MPa以上、115MPa以上、120MPa以上、125MPa以上、130MPa以上、135MPa以上、または135MPaを超える圧縮応力を含み得る。いくつかの実施形態では、圧縮応力層は、100MPa以上150MPa以下、例えば105MPa以上145MPa以下、110MPa以上140MPa以下、115MPa以上135MPa以下、120MPa以上130MPa以下、125MPa、またはこれらの端点のいずれかから形成される任意の部分範囲を含み得る。
【0064】
いくつかの実施形態では、圧縮応力層のDOCは、75μm以上、例えば80μm以上、85μm以上、90μm以上、95μm以上、100μm以上、または100μmを超え得る。いくつかの実施形態では、圧縮応力層のDOCは、75μm以上115μm以下、例えば80μm以上110μm以下、85μm以上105μm以下、90μm以上100μm以下、95μm、またはこれらの端点のいずれかから形成され得る任意の部分範囲であり得る。
【0065】
いくつかの実施形態では、ガラス系物品は、0.05t以上のDOCを有することができ、ここで、tはガラス系物品の厚さであり、例えば0.06t以上、0.07t以上、0.08t以上、0.09t以上、0.10t以上、0.11t以上、0.12t以上、または0.12tを超える。いくつかの実施形態では、ガラス系物品は、0.05t以上0.20t以下、例えば0.06t以上0.19t以下、0.07t以上0.18t以下、0.08t以上0.17t以下、0.09t以上0.16t以下、0.10t以上0.15t以下、0.11t以上0.14t以下、0.12t以上0.13t以下、またはこれらの端点のいずれかから形成される任意の部分範囲のDOCを有し得る。
【0066】
いくつかの実施形態では、ガラス系物品のCTは、10MPa以上、例えば11MPa以上、12MPa以上、13MPa以上、14MPa以上、15MPa以上、16MPa以上、17MPa以上、18MPa以上、19MPa以上、20MPa以上、22MPa以上、24MPa以上、26MPa以上、28MPa以上、30MPa以上、32MPa以上、または32MPaを超え得る。いくつかの実施形態では、ガラス系物品のCTは、10MPa以上35MPa以下、例えば11MPa以上34MPa以下、12MPa以上33MPa以下、13MPa以上32MPa以下、14MPa以上32MPa以下、15MPa以上31MPa以下、16MPa以上30MPa以下、17MPa以上28MPa以下、18MPa以上26MPa以下、19MPa以上24MPa以下、20MPa以上22MPa以下、またはこれらの端点のいずれかから形成される任意の部分範囲であり得る。
【0067】
圧縮応力(表面CSを含む)は、有限会社折原製作所(日本)製のFSM-6000(FSM)などの市販の機器を使用して表面応力計で測定される。表面応力測定は、ガラスの複屈折に関連する応力光学係数(SOC)の正確な測定に依拠している。SOCはまた、「ガラス応力-光学係数の測定のための標準試験法」と題するASTM規格C770-16に記載されている手順C(ガラスディスク法)に従って測定され、その内容はその全体を参照することにより本明細書に援用される。DOCはFSMで測定される。最大中央張力(CT)値は、当該技術分野で知られている散乱光偏光器(SCALP)技術を使用して測定される。
【0068】
ガラス系物品は、任意の適切な組成を有するガラス系基材から形成され得る。ガラス系基材の組成は、水素含有種の拡散を促進するように特に選択され得ることから、水素含有層を含むガラス系物品が効率的に形成され得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、SiO、AlおよびPを含む組成を有し得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、アルカリ金属酸化物、例えばLiO、NaO、KO、RbOおよびCsOのうちの少なくとも1つをさらに含み得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、リチウムおよびナトリウムのうちの少なくとも1つを実質的に含まないか、または含まなくてもよい。いくつかの実施形態では、水素含有種のガラス系基材内への拡散後、ガラス系物品は、ガラス系基材の組成とほぼ同じであるバルク組成を有し得る。いくつかの実施形態では、水素種はガラス系物品の中心に拡散しなくてもよい。換言すれば、ガラス系物品の中心は、水蒸気処理による影響が最も少ない領域である。このため、ガラス系物品の中心は、含水環境での処理前のガラス系基材の組成と実質的に同じか、または同じである組成を有し得る。
【0069】
ガラス系基材は、任意の適切な量のSiOを含み得る。SiOは最大の成分であり、したがって、SiOはガラス組成物から形成されるガラスネットワークの主要な成分である。ガラス組成物中のSiOの濃度が高すぎると、ガラス組成物の成形性が低下し得る。それというのも、SiOの濃度がより高いとガラスを溶融させることが一層困難となり、このことはまた、ガラスの成形性に悪影響を及ぼすからである。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、45モル%以上75モル%以下、例えば46モル%以上74モル%以下、47モル%以上73モル%以下、48モル%以上72モル%以下、49モル%以上71モル%以下、50モル%以上70モル%以下、51モル%以上69モル%以下、52モル%以上68モル%以下、53モル%以上67モル%以下、54モル%以上66モル%以下、55モル%以上65モル%以下、56モル%以上64モル%以下、57モル%以上63モル%以下、58モル%以上62モル%以下、59モル%以上61モル%以下、60モル%、またはこれらの端点のいずれかによって形成される任意の部分範囲の量でSiOを含み得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、55モル%以上69モル%以下、例えば58モル%以上63モル%以下、またはこれらの端点のいずれかによって形成される部分範囲の量でSiOを含み得る。
【0070】
ガラス系基材は、任意の適切な量のAlを含み得る。Alは、SiOと同様にガラスネットワーク形成剤として機能し得る。Alは、ガラス組成物から形成されるガラス溶融物におけるその四面体配位によりガラス組成物の粘度を増加させ、Alの量が多すぎる場合、ガラス組成物の成形性は低下する。しかしながら、Alの濃度がガラス組成物中のSiOの濃度およびアルカリ金属酸化物の濃度と釣り合っている場合、Alはガラス溶融物の液相線温度を下げることができ、それによって液相線粘度を高め、溶融成形プロセスなどの特定の成形プロセスによるガラス組成物の相溶性を向上させる。ガラス系基材にAlを含めることにより、相分離が妨げられ、ガラス中の非架橋酸素(NBO)の数が減少する。さらに、Alはイオン交換の効果を向上させることができる。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、3モル%以上20モル%以下、例えば4モル%以上19モル%以下、5モル%以上18モル%以下、6モル%以上17モル%以下、7モル%以上16モル%以下、8モル%以上15モル%以下、9モル%以上14モル%以下、10モル%以上13モル%以下、11モル%以上12モル%以下、またはこれらの端点のいずれかによって形成される任意の部分範囲の量でAlを含み得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、5モル%以上15モル%以下、例えば7モル%以上14モル%以下、またはこれらの端点のいずれかによって形成される任意の部分範囲の量でAlを含み得る。
【0071】
ガラス系基材は、所望の水素拡散係数をもたらすのに十分な任意の量のPを含み得る。ガラス系基材にリンを含めることにより、交換するイオンのペアに関係なく、より速い相互拡散が促進される。したがって、リン含有ガラス系基材は、水素含有層を含むガラス系物品の効率的な形成を可能にする。Pを含めることにより、比較的短い処理時間で、深い深度の層(例えば、約10μmを超える)を有するガラス系物品の製造も可能になる。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、4モル%以上15モル%以下、例えば5モル%以上14モル%以下、6モル%以上13モル%以下、7モル%以上12モル%以下、8モル%以上11モル%以下、9モル%以上10モル%以下、またはこれらの端点のいずれかによって形成される任意の部分範囲の量でPを含み得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、5モル%以上15モル%以下、例えば6モル%以上15モル%以下、5モル%以上10モル%以下、6モル%以上10モル%以下、7モル%以上10モル%以下、またはこれらの端点のいずれかによって形成される任意の部分範囲の量でPを含み得る。
【0072】
ガラス系基材は、任意の適切な量のアルカリ金属酸化物を含み得る。アルカリ金属酸化物はイオン交換を促進する。ガラス組成物中のアルカリ金属酸化物(例えば、LiO、NaOおよびKO、ならびにCsOおよびRbOを含む他のアルカリ金属酸化物)を合わせて「RO」と呼ぶこともあり、ROはモル%で表すことができる。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、リチウムおよびナトリウムのうちの少なくとも1つを実質的に含まないか、または含まなくてもよい。実施形態では、ガラス組成物は、6モル%以上、例えば7モル%以上、8モル%以上、9モル%以上、10モル%以上、11モル%以上、12モル%以上、13モル%以上、14モル%以上、15以上モル%、16モル%以上、17モル%以上、18モル%以上、19モル%以上、20モル%以上、21モル%以上、22モル%以上、23モル%以上、または24モル%以上の量でROを含む。1つ以上の実施形態では、ガラス組成物は、25モル%以下、例えば24モル%以下、23モル%以下、22モル%以下、21モル%以下、20モル%以下、19モル%以下、18モル%以下、17モル%以下、16モル%以下、15モル%以下、14モル%以下、13モル%以下、12モル%以下、11モル%以下、10モル%以下、9モル%以下、8モル%以下、または7モル%以下の量でROを含む。実施形態では、上記の範囲のいずれかを他のいずれかの範囲と組み合わせてもよいことを理解されたい。いくつかの実施形態では、ガラス組成物は、6.0モル%以上25.0モル%以下、例えば7.0モル%以上24.0モル%以下、8.0モル%以上23.0モル%以下、9.0モル%以上22.0モル%以下、10.0モル%以上21.0モル%以下、11.0モル%以上20.0モル%以下、12.0モル%以上19.0モル%以下、13.0モル%以上18.0モル%以下、14.0モル%以上17.0モル%以下、または15.0モル%以上16.0モル%以下、および前述の値の間のすべての範囲と部分範囲の量でROを含む。
【0073】
いくつかの実施形態では、アルカリ金属酸化物はKOであり得る。KOを含めることにより、含水環境に曝露されたときにガラス基材内への水素種の効率的な交換が可能になる。実施形態では、ガラス系基材は、6モル%以上25モル%以下、例えば7モル%以上24モル%以下、8モル%以上23モル%以下、9モル%以上22モル%以下、10モル%以上21モル%以下、11モル%以上20モル%以下、12モル%以上19モル%以下、13モル%以上18モル%以下、14モル%以上17モル%以下、15モル%以上16モル%以下、またはこれらの端点のいずれかから形成される任意の部分範囲の量でKOを含み得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、10モル%以上25モル%以下、例えば10モル%以上20モル%以下、11モル%以上25モル%以下、11モル%以上20モル%以下、15モル%以上20モル%以下、またはこれらの端点のいずれかから形成される任意の部分範囲の量でKOを含み得る。
【0074】
ガラス系基材は、任意の適切な量でRbOを含み得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、0モル%以上10モル%以下、例えば1モル%以上9モル%以下、2モル%以上8モル%以下、3モル%以上7モル%以下、4モル%以上6モル%以下、5モル%、またはこれらの端点のいずれかから形成される任意の部分範囲の量でRbOを含み得る。
【0075】
ガラス系基材は、任意の適切な量でCsOを含み得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、0モル%以上10モル%以下、例えば1モル%以上9モル%以下、2モル%以上8モル%以下、3モル%以上7モル%以下、4モル%以上6モル%以下、5モル%、またはこれらの端点のいずれかから形成される任意の部分範囲の量でCsOを含み得る。
【0076】
いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、45モル%以上75モル%以下のSiO、3モル%以上20モル%以下のAl、6モル%以上15モル%以下のP、および6モル%以上25モル%以下のKOを含む組成を有し得る。
【0077】
いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、45モル%以上75モル%以下のSiO、3モル%以上20モル%以下のAl、4モル%以上15モル%以下のP、および11モル%以上25モル%以下のKOを含む組成を有し得る。
【0078】
いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、55モル%以上69モル%以下のSiO、5モル%以上15モル%以下のAl、6モル%以上10モル%以下のP、および10モル%以上20モル%以下のKOを含む組成を有し得る。
【0079】
いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、55モル%以上69モル%以下のSiO、5モル%以上15モル%以下のAl、5モル%以上10モル%以下のP、および11モル%以上20モル%以下のKOを含む組成を有し得る。
【0080】
いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、58モル%以上63モル%以下のSiO、7モル%以上14モル%以下のAl、7モル%以上10モル%以下のP、および15モル%以上20モル%以下のKOを含む組成を有し得る。
【0081】
いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、5kgf(約49N)以上、例えば6kgf(約58.8N)以上、7kgf(約68.6N)以上、8kgf(約78.4N)以上、9kgf(約88.2N)以上、10kgf(約98N)以上、または10kgf(約98N)を超えるビッカース亀裂発生しきい値を示し得る。
【0082】
ガラス系基材は、任意の適切な形状を有し得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、2mm以下、例えば1mm以下、900μm以下、800μm以下、700μm以下、600μm以下、500μm以下、400μm以下、300μm以下、または300μmよりも小さい厚さを有し得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、プレートまたはシート形状であり得る。いくつかの他の実施形態では、ガラス系基材は、2.5Dまたは3D形状を有し得る。本明細書で使用される場合、「2.5D形状」とは、少なくとも1つの主面が少なくとも部分的に非平面であり、かつ第2の主面が実質的に平面であるシート形状の物品を指す。本明細書で使用される場合、「3D形状」とは、少なくとも部分的に非平面である第1および第2の対向する主面を有する物品を指す。
【0083】
ガラス系物品は、ガラス系基材から任意の適切な条件下で水蒸気に曝露することによって製造することができる。曝露は、相対湿度制御を備えた炉などの任意の適切な装置で行うことができる。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、75%以上、例えば80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、99%以上、または99%を超える相対湿度を有する環境に曝露され得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、100%の相対湿度を有する環境に曝露され得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、70℃以上、例えば75℃以上、80℃以上、85℃以上、90℃以上、95℃以上、100℃以上、105℃以上、110℃以上、115℃以上、120℃以上、125℃以上、130℃以上、135℃以上、140℃以上、145℃以上、150℃以上、155℃以上、160℃以上、160℃以上、165℃以上、170℃以上、175℃以上、180℃以上、185℃以上、190℃以上、195℃以上、200℃以上、または200℃を超える温度で環境に曝露され得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、70℃以上210℃以下、例えば75℃以上205℃以下、80℃以上200℃以下、85℃以上195℃以下、90℃以上190℃以下、95℃以上185℃以下、100℃以上180℃以下、105℃以上175℃以下、110℃以上170℃以下、115℃以上165℃以下、120℃以上160℃以下、125℃以上155℃以下、130℃以上150℃以下、135℃以上145℃以下、140℃、またはこれらの端点から形成される任意の部分範囲の温度で環境に曝露され得る。
【0085】
いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、所望の程度の水素含有種の拡散および所望の層深さをもたらすのに十分な時間、水蒸気含有環境に曝露され得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、1日以上、例えば2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、15日以上、20日以上、25日以上、30日以上、35日以上、40日以上、45日以上、50日以上、55日以上、60日以上、65日以上、または65日を超える日数で水蒸気含有環境に曝露され得る。いくつかの実施形態では、ガラス系基材は、1日以上70日以下、例えば2日以上65日以下、3日以上60日以下、4日以上55日以下、5日以上45日以下、6日以上40日以下、7日以上35日以下、8日以上30日以下、9日以上25日以下、10日以上20日以下、15日、またはこれらの端点のいずれかから形成される任意の部分範囲の期間で水蒸気含有環境に曝露され得る。曝露条件を一部変更して、ガラス系基材内への水素含有種の所望の量の拡散をもたらすのに必要な時間を短縮することができる。例えば、温度および/または相対湿度を高めて、ガラス系基材内への所望の程度の水素含有種の拡散および層深さを達成するために必要な時間を短縮することができる。
【0086】
本明細書に開示されるガラス系物品は、ディスプレイを備えた物品(またはディスプレイ物品)(例えば、携帯電話、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステム、ウェアラブルデバイス(例えば、時計)などを含む家庭用電子製品)、建築物品、輸送物品(例えば、自動車、列車、航空機、船舶など)、特定用途向けの器具物品、またはある程度の透明性、耐引掻性、耐摩耗性もしくはそれらの組合せを必要とする任意の物品などの別の物品に組み込まれ得る。本明細書に開示されるガラス系物品のいずれかを組み込んだ例示的な物品を、図2Aおよび図2Bに示している。具体的には、図2Aおよび図2Bは、前面204、背面206および側面208を有する筐体202;少なくとも部分的に筐体の内部または筐体内全体にあり、かつ少なくともコントローラ、メモリ、および筐体の前面に設けられたまたはその前面に隣接するディスプレイ210を含む電気部品(図示せず);ならびにディスプレイを覆うように筐体の前面に設けられたまたは前面を覆うカバー基材212を含む家庭用電子デバイス200を示す。いくつかの実施形態では、カバー基材212および筐体202のうちの1つの少なくとも一部は、本明細書に開示されるガラス系物品のいずれかを含み得る。
【0087】
例示的な実施形態
本明細書に記載されるガラス系物品の形成に特に適したガラス組成物をガラス系基材へと形成した。実施例1~6の組成物を以下の表IIに記載している。密度は、ASTM C693-93(2013)の浮力法を使用して求めた。25℃~300℃の温度範囲にわたる線熱膨張係数(CTE)は10-7/℃の単位で表し、ASTM E228-11に準拠したプッシュロッド膨張計を使用して求めた。ひずみ点および焼きなまし点は、ASTM C598-93(2013)のビーム曲げ粘度法を使用して求めた。軟化点は、ASTM C1351M-96(2012)の平行板粘度法を使用して求めた。ガラスの粘度が200P、35,000Pおよび200,000Pである温度は、生成された組成物について、「軟化点を上回るガラスの粘度を測定するための標準プラクティス」と題するASTM C965-96(2012)に準拠して測定した。
【0088】
【表2】
【0089】
実施例1の組成を含み、かつ1mmの厚さを有するガラス系基材を、相対湿度85%の環境に65日間曝露して、本明細書に記載されるタイプの水素含有層を含むガラス系物品を形成した。
【0090】
水素含有層深さは、曝露前後のSIMSで測定した。SIMS水素濃度測定の結果を図3に示し、ここで、未処理のガラス系基材の水素濃度曲線301は約5μmの層深さを有し、ガラス系物品の水素濃度曲線302は約30μmの層深さを有する。曝露後のガラス系物品は約25μmの深さまで測定し、曲線303を外挿して層深さを求めた。水素拡散係数(D)は、一般式DOL=√(D×時間)を使用して測定値に基づき計算した。
【0091】
ビッカース圧痕亀裂しきい値は、水蒸気含有環境への曝露前後に測定した。曝露前のガラス系基材のビッカース圧痕の結果を、図4および図5に、それぞれ5kgf(約49N)および10kgf(約98N)での圧痕後のものを示している。図4および図5に示すように、ガラス系基材は、5kgf(約49N)よりも高いが10kgf(約98N)よりも低いビッカース亀裂発生しきい値を有していた。曝露されたガラス系物品のビッカース圧痕の結果は、図6図7および図8に、それぞれ5kgf(約49N)、10kgf(約98N)および20kgf(約196N)での圧痕後のものを示している。図6図7および図8に示すように、ガラス系物品のビッカース圧痕亀裂しきい値は20kgf(約196N)を超えていた。
【0092】
比較例1~3の組成物を含み、かつ1mmの厚さを有するガラス系基材も調製し、相対湿度85%の環境に30日間曝露した。比較例1~3の組成物を以下の表IIIに報告する。ビッカース圧痕亀裂しきい値は、水蒸気含有環境への曝露前後に測定し、水素含有層深さは、曝露後のSIMSで測定した。水素拡散係数は測定値に基づき計算した。
【0093】
【表3】
【0094】
表IIIに示すように、実施例1のガラス組成物は、カリウムも含むがリンを含まない比較例3のガラス組成物よりも2桁高い水素拡散係数を示した。これらの結果は、ガラス組成物中のリンの存在が水素拡散係数を有意に増加させることを示している。同様に、比較例3のガラス組成物は、それぞれリチウムおよびナトリウムを含む比較例1および2よりも2桁高い水素拡散係数を示した。カリウム含有ガラス組成物とリチウムおよびナトリウム含有ガラス組成物との間の水素拡散係数の差は、より大きなイオン半径を有するアルカリ金属イオンがより速い水素拡散を可能にすることを示している。
【0095】
実施例6のガラス組成を含むガラス系基材を、0.5mmおよび1.0mmの厚さで製造した。ガラス系基材は、100%の相対湿度環境に200℃の温度で7日間曝露して、本明細書に記載されるタイプのガラス系物品を製造した。ガラス系物品は、表面から圧縮深さまで延在する圧縮応力領域を示した。0.5mmのガラス系物品の測定された最大圧縮応力は124MPaであり、1.0mmのガラス系物品の測定された最大圧縮応力は137MPaであった。0.5mmのガラス系物品の測定された最大中央張力は32MPaであり、1.0mmのガラス系物品の測定された最大中央張力は15MPaであった。0.5mmのガラス系物品の圧縮深さは101μmであり、1.0mmのガラス系物品の圧縮深さは99μmであった。
【0096】
100%の相対湿度環境に200℃で7日間曝露した後、実施例6のガラス組成を含むガラス系基材から形成された厚さ0.5mmおよび1.0mmのガラス系物品の中心からサンプルを切り取った。次いで、サンプルを幅0.5mmに研磨し、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)分析に供した。FTIR分析は、以下の条件:CaF/InSb、64回のスキャン、16cm-1の解像度、10μmのアパーチャおよび10μmのステップで実施した。スキャンはサンプルの表面を起点とし、厚さのほぼ中間点まで続けた。スペクトルは「乾燥」シリカに対して作成し、ヒドロキシル(βOH)濃度は3900cm-1(最大)および3550cm-1(最小)のパラメータを使用して計算した。ガラス系物品の多成分の性質ゆえに、結合ヒドロキシルと分子ヒドロキシルとを区別することができなかったため、プロットは合計ヒドロキシル含有量の濃度を報告する。厚さ0.5mmおよび1.0mmのサンプルの測定されたヒドロキシル濃度プロファイルを、それぞれ図9および図10に示している。図9および図10に示すように、測定されたヒドロキシル含有量が実質的に一定になり、かつ物品の中心におけるヒドロキシル含有量と同等になるサンプル内の深さは、前駆体ガラス系基材のバックグラウンドのヒドロキシル含有量を示すもので、FTIRにより測定して約200μmであった。図9および図10における埋め込まれたヒドロキシル濃度ピークの出現は、測定方法のアーチファクトである。
【0097】
実施例1の組成を有する正方形のサンプルを、1mmの厚さおよび50mmの側面で調製した。次いで、これらのサンプルのうち5つを100%の相対湿度環境において200℃で121時間処理した。次いで、処理されたサンプルの圧縮応力(CS)と圧縮深さ(DOC)とをFSMで測定したところ、CSは167MPaであり、DOCは73μmであった。次いで、5つの蒸気処理サンプルと、蒸気処理に曝露されなかった3つの対照サンプルとを、研磨リングオンリング(AROR)試験に供した。各試験済みサンプルの強度およびピーク荷重を表IVに示している。表IVに示すように、蒸気処理されたサンプルは、処理されていない対照サンプルと比較して、大幅に増加したピーク荷重および強度を示した。
【0098】
【表4】
【0099】
AROR試験は、板ガラス試験片を調べるための表面強度測定であり、「周囲温度でのアドバンストセラミックスの等二軸曲げ強度に関する標準試験方法」と題するASTM C1499-09(2013)が、本明細書で使用されるAROR試験方法の基礎となる。ASTM C1499-09の内容は、その全体を参照することにより本明細書に援用される。ガラス試験片をリングオンリング試験前に、「曲げによるガラスの強度に関する標準試験方法(破壊係数の測定)」と題するASTM C158-02(2012)において「研磨手順」と題する付録A2に記載されている方法および装置を使用してガラスサンプルに送られる90グリットの炭化ケイ素(SiC)粒子を用いて研磨する。ASTM C158-02および特に付録2の内容は、その全体を参照することにより本明細書に援用される。
【0100】
ASTM C158-02の図A2.1に示される装置を使用してサンプルの表面欠陥状態を正規化および/または制御するために、ASTM C158-02、付録2に記載されているように、リングオンリング試験の前に、ガラス系物品のサンプルの表面を研磨した。研磨材は、ガラス系物品の表面上に5psi(約34kPa)の気圧でサンドブラストする。空気の流れが確立された後、1cmの研磨材を漏斗に投入し、サンプルをサンドブラストする。
【0101】
AROR試験では、図11に示すように、少なくとも1つの摩耗表面を有するガラス系物品を、等二軸曲げ強度(すなわち、2つの同心円状リングの間で曲げを受けたときに材料が耐えることができる最大応力)を測定するために異なるサイズの2つの同心円状リングの間に配置する。AROR構成400では、研磨されたガラス系物品410は、直径D2を有する支持リング420によって支持される。力Fが、ロードセル(図示せず)によって、直径D1を有する荷重リング430によってガラス系物品の表面に加えられる。
【0102】
荷重リングと支持リングとの直径の比D1/D2は、0.2~0.5の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、D1/D2は0.5である。荷重リング430および支持リング420は、支持リング直径D2の0.5%以内に同心円状に並べられることが望ましい。試験に使用されるロードセルは、選択された範囲内の任意の荷重にて±1%以内の精度であることが望ましい。試験は、温度23±2℃および相対湿度40±10%で行われる。
【0103】
治具設計では、荷重リング430の突出面の半径rは、h/2≦r≦3h/2の範囲にあり、ここで、hはガラス系物品410の厚さである。荷重リング430および支持リング420は、硬度HRc>40の硬化鋼でできている。AROR治具は市販されている。
【0104】
AROR試験の意図された破壊メカニズムは、荷重リング430内の表面430aを起点とするガラス系物品410の破損を観察することである。この領域の外側、すなわち、荷重リング430と支持リング420との間で発生する破壊は、データ分析から除外される。しかしながら、ガラス系物品410の薄さおよび高強度のために、試験片の厚さhの1/2を超える大きなたわみが時々観察される。したがって、荷重リング430の下側を起点とする破壊の割合が高いことは珍しいわけではない。リングの内側およびリングの下の両方での応力発生(ひずみゲージ分析で収集)と各試験片の破壊の起点とを知らずには、応力を正確に計算することはできない。したがって、AROR試験は、測定される応答として破壊時のピーク荷重に焦点を当てている。
【0105】
典型的な実施形態を説明の目的で記載してきたが、前述の説明は、本開示または添付の請求項の範囲を制限するものとみなされるべきではない。したがって、本開示または添付の請求項の趣旨および範囲から逸脱せずに、様々な修正、適応および代替案を当業者は見出すことができる。
【0106】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0107】
実施形態1
ガラス系物品であって、
SiO、AlおよびP;ならびに
前記ガラス系物品の表面から層深さまで延在する水素含有層
を含み、
前記水素含有層の水素濃度が、最大水素濃度から前記層深さに向かって減少し、かつ
前記層深さは5μmよりも大きい、ガラス系物品。
【0108】
実施形態2
前記ガラス系物品が、少なくとも1kgf(約9.8N)のビッカース亀裂発生しきい値を有する、実施形態1記載のガラス系物品。
【0109】
実施形態3
前記層深さが少なくとも約10μmである、実施形態1または2記載のガラス系物品。
【0110】
実施形態4
前記最大水素濃度が、前記ガラス系物品の表面に位置する、実施形態1から3までのいずれか1つ記載のガラス系物品。
【0111】
実施形態5
LiO、NaO、KO、CsOおよびRbOのうちの少なくとも1つをさらに含む、実施形態1から4までのいずれか1つ記載のガラス系物品。
【0112】
実施形態6
Oをさらに含む、実施形態1から5までのいずれか1つ記載のガラス系物品。
【0113】
実施形態7
前記ガラス系物品の中心が、
45モル%以上75モル%以下のSiO
3モル%以上20モル%以下のAl
6モル%以上15モル%以下のP;および
6モル%以上25モル%以下のK
を含む、実施形態1から6までのいずれか1つ記載のガラス系物品。
【0114】
実施形態8
前記ガラス系物品の中心が、
45モル%以上75モル%以下のSiO
3モル%以上20モル%以下のAl
4モル%以上15モル%以下のP;および
11モル%以上25モル%以下のK
を含む、実施形態1から6までのいずれか1つ記載のガラス系物品。
【0115】
実施形態9
前記ガラス系物品の中心が、
55モル%以上69モル%以下のSiO
5モル%以上15モル%以下のAl
6モル%以上10モル%以下のP;および
10モル%以上20モル%以下のK
を含む、実施形態1から6までのいずれか1つ記載のガラス系物品。
【0116】
実施形態10
前記ガラス系物品の中心が、
0モル%以上10モル%以下のCsO;および
0モル%以上10モル%以下のRb
を含む、実施形態7から9までのいずれか1つ記載のガラス系物品。
【0117】
実施形態11
前記ガラス系物品が、リチウムおよびナトリウムのうちの少なくとも1つを実質的に含まない、実施形態1から10までのいずれか1つ記載のガラス系物品。
【0118】
実施形態12
前記ガラス系物品の表面から前記ガラス系物品内に圧縮深さまで延在する圧縮応力層をさらに含む、実施形態1から11までのいずれか1つ記載のガラス系物品。
【0119】
実施形態13
前記圧縮応力層が100MPa以上の圧縮応力を含み、かつ前記圧縮深さが75μm以上である、実施形態12記載のガラス系物品。
【0120】
実施形態14
家庭用電子製品であって、
前面、背面および側面を含む筐体;
少なくとも部分的に前記筐体内にある電気部品であって、少なくともコントローラ、メモリおよびディスプレイを含み、かつ前記ディスプレイは前記筐体の前面に設けられているまたはその前面に隣接している電気部品;ならびに
前記ディスプレイ上に配置されたカバー基材
を含み、前記筐体または前記カバー基材の少なくとも1つの少なくとも一部が、実施形態1から13までのいずれか1つ記載のガラス系物品を含む、家庭用電子製品。
【0121】
実施形態15
ガラスであって、
45モル%以上75モル%以下のSiO
3モル%以上20モル%以下のAl
6モル%以上15モル%以下のP;および
6モル%以上25モル%以下のK
を含む、ガラス。
【0122】
実施形態16
55モル%以上69モル%以下のSiO
5モル%以上15モル%以下のAl
6モル%以上10モル%以下のP;および
10モル%以上20モル%以下のK
を含む、実施形態15記載のガラス。
【0123】
実施形態17
0モル%以上10モル%以下のCsO;および
0モル%以上10モル%以下のRb
をさらに含む、実施形態15または16記載のガラス。
【0124】
実施形態18
前記ガラスがリチウムを実質的に含まない、実施形態15から17までのいずれか1つ記載のガラス。
【0125】
実施形態19
前記ガラスがナトリウムを実質的に含まない、実施形態15から18までのいずれか1つ記載のガラス。
【0126】
実施形態20
58モル%以上63モル%以下のSiO
7モル%以上14モル%以下のAl
7モル%以上10モル%以下のP;および
15モル%以上20モル%以下のK
を含む、実施形態15から19までのいずれか1つ記載のガラス。
【0127】
実施形態21
前記ガラスが、5kgf(約49N)以上のビッカース亀裂発生しきい値を有する、実施形態15から20までのいずれか1つ記載のガラス。
【0128】
実施形態22
LiO、NaO、CsOおよびRbOのうちの少なくとも1つをさらに含む、実施形態15から17、20および21のいずれか1つ記載のガラス。
【0129】
実施形態23
ガラスであって、
45モル%以上75モル%以下のSiO
3モル%以上20モル%以下のAl
4モル%以上15モル%以下のP;および
11モル%以上25モル%以下のK
を含む、ガラス。
【0130】
実施形態24
55モル%以上69モル%以下のSiO
5モル%以上15モル%以下のAl
5モル%以上10モル%以下のP;および
11モル%以上20モル%以下のK
を含む、実施形態23記載のガラス。
【0131】
実施形態25
0モル%以上10モル%以下のCsO;および
0モル%以上10モル%以下のRb
をさらに含む、実施形態23または24記載のガラス。
【0132】
実施形態26
前記ガラスがリチウムを実質的に含まない、実施形態23から25までのいずれか1つ記載のガラス。
【0133】
実施形態27
前記ガラスがナトリウムを実質的に含まない、実施形態23から26までのいずれか1つ記載のガラス。
【0134】
実施形態28
58モル%以上63モル%以下のSiO
7モル%以上14モル%以下のAl
7モル%以上10モル%以下のP;および
15モル%以上20モル%以下のK
を含む、実施形態23から27までのいずれか1つ記載のガラス。
【0135】
実施形態29
前記ガラスが5kgf(約49N)以上のビッカース亀裂発生しきい値を有する、実施形態23から28までのいずれか1つ記載のガラス。
【0136】
実施形態30
LiO、NaO、CsOおよびRbOのうちの少なくとも1つをさらに含む、実施形態23から25、28および29のいずれか1つ記載のガラス。
【0137】
実施形態31
方法であって、
ガラス系基材を、相対湿度が75%以上の環境に曝露して、前記ガラス系物品の表面から層深さまで延在する水素含有層を有するガラス系物品を形成するステップ
を含み、
前記ガラス系基材は、SiO、AlおよびPを含み、
前記水素含有層の水素濃度は、最大水素濃度から前記層深さに向かって減少し、かつ
前記層深さは5μm以上である、方法。
【0138】
実施形態32
前記ガラス系基材が、
55モル%以上69モル%以下のSiO
5モル%以上15モル%以下のAl
6モル%以上10モル%以下のP;および
10モル%以上20モル%以下のK
を含む組成を有する、実施形態31記載の方法。
【0139】
実施形態33
前記ガラス系基材が、
45モル%以上75モル%以下のSiO
3モル%以上20モル%以下のAl
4モル%以上15モル%以下のP;および
11モル%以上25モル%以下のK
を含む組成を有する、実施形態31記載の方法。
【0140】
実施形態34
前記ガラス系基材が、
45モル%以上75モル%以下のSiO
3モル%以上20モル%以下のAl
6モル%以上15モル%以下のP;および
6モル%以上25モル%以下のK
を含む組成を有する、実施形態31記載の方法。
【0141】
実施形態35
前記ガラス系基材が、
0モル%以上10モル%以下のCsO;および
0モル%以上10モル%以下のRb
をさらに含む、実施形態31から34までのいずれか1つ記載の方法。
【0142】
実施形態36
LiO、NaO、CsOおよびRbOのうちの少なくとも1つをさらに含む、実施形態31から35までのいずれか1つ記載の方法。
【0143】
実施形態37
前記ガラス系物品が、リチウムおよびナトリウムのうちの少なくとも1つを実質的に含まない、実施形態31から36までのいずれか1つ記載の方法。
【0144】
実施形態38
前記曝露を70℃以上の温度で行う、実施形態31から37までのいずれか1つ記載の方法。
【0145】
実施形態39
前記ガラス系物品が1kgf(約9.8N)以上のビッカース亀裂発生しきい値を有する、実施形態31から38までのいずれか1つ記載の方法。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11